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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 B66D
審判 査定不服 4号2号請求項の限定的減縮 特許、登録しない。 B66D
審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 B66D
管理番号 1334113
審判番号 不服2016-18958  
総通号数 216 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2017-12-28 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2016-12-16 
確定日 2017-11-02 
事件の表示 特願2012-262615「チェーンブロックおよびロードチェーン」拒絶査定不服審判事件〔平成26年 6月12日出願公開、特開2014-108839〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本件出願は、平成24年11月30日の出願であって、平成28年1月12日付けで拒絶理由が通知され、これに対して平成28年4月27日に意見書及び手続補正書が提出されたが、平成28年9月7日付けで拒絶査定がされ、これに対して平成28年12月16日に拒絶査定不服審判が請求され、その審判の請求と同時に明細書及び特許請求の範囲について補正する手続補正書が提出されたものである。


第2 平成28年12月16日付けの手続補正についての補正の却下の決定
[補正の却下の決定の結論]
平成28年12月16日付けの手続補正(以下、「本件補正」という。)を却下する。

[理由]
1 本件補正の内容
本件補正は、特許請求の範囲の請求項1に関して、本件補正により補正される前の(すなわち、平成28年4月27日に提出された手続補正書により補正された)下記の(1)に示す請求項1を、下記の(2)に示す請求項1とする補正を含むものである。
(1)本件補正前の特許請求の範囲の請求項1
「 【請求項1】
荷を吊り下げるためのロードチェーンと、
第1フレームと第2フレームの間で回転自在に支持されると共に、前記ロードチェーンが掛け回されて当該ロードチェーンが入り込むチェーンポケットを有するロードシーブ部材と、を備えるチェーンブロックであって、
前記ロードチェーンは、ロックウェル硬さCスケール(HRC)が、47?51となる鋼材から形成されていて、
前記ロードシーブ部材は、少なくとも前記チェーンポケットのロックウェル硬さCスケール(HRC)が、40?45となる鋼材から形成されていて、
前記ロードチェーンは、その線材の断面の全体において、同程度の硬さとなるように形成されていると共に調質処理が施された調質チェーンである、
ことを特徴とするチェーンブロック。」

(2)本件補正後の特許請求の範囲の請求項1
「 【請求項1】
荷を吊り下げるためのロードチェーンと、
第1フレームと第2フレームの間で回転自在に支持されると共に、前記ロードチェーンが掛け回されて当該ロードチェーンが入り込むチェーンポケットを有するロードシーブ部材と、を備えるチェーンブロックであって、
前記ロードチェーンは、ロックウェル硬さCスケール(HRC)が、48となる鋼材から形成されていて、
前記ロードシーブ部材は、少なくとも前記チェーンポケットのロックウェル硬さCスケール(HRC)が、40?45となる鋼材から形成されていて、
前記ロードチェーンは、その線材の断面の全体において、同程度の硬さとなるように形成されていると共に調質処理が施された調質チェーンである、
ことを特徴とするチェーンブロック。」
(なお、下線は、請求人が補正箇所を明示するために付したものである。)

2 本件補正の目的要件について
本件補正は、本件補正前の請求項1における「前記ロードチェーンは、ロックウェル硬さCスケール(HRC)が、47?51となる鋼材から形成されていて」という記載を、「前記ロードチェーンは、ロックウェル硬さCスケール(HRC)が、48となる鋼材から形成されていて」と補正するものであるから、本件補正前の請求項1に係る発明における発明特定事項である「ロードチェーン」の「ロックウェル硬さCスケール(HRC)」の範囲を限定するものといえる。
よって、特許請求の範囲の請求項1についての本件補正は、本件補正前の特許請求の範囲の請求項1に係る発明の発明特定事項を限定したものであって、本件補正前の請求項1に記載された発明と本件補正後の請求項1に記載される発明の産業上の利用分野及び解決しようとする課題が同一であるから、本件補正は、特許法第17条の2第5項第2号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。
そこで、本件補正によって補正された特許請求の範囲の請求項1に係る発明(以下、「本願補正発明」という。)が特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか(特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項の規定に適合するか)について、以下に検討する。

3 本願補正発明の独立特許要件について
(1)本願補正発明
本願補正発明は、平成28年12月16日に提出された手続補正書により補正された特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定されるものであるところ、上記1(2)の【請求項1】に示したとおりのものである。

(2)引用刊行物
ア 刊行物1
(ア)刊行物1の記載事項
原査定の拒絶の理由に引用された、本件出願前に頒布された刊行物である「佐野 京亮著、『チェーンブロックの設計』、日本、株式会社パワー社、昭和60年4月10日、表紙、P.23,P.26-27、奥付」(以下、「刊行物1」という。)には、図面とともに次の事項が記載されている。
a 「2.3 荷鎖・手鎖
2.3.1 荷鎖(load chain)
荷鎖は,線材より専用機により切断され,曲げられ,溶接(フラッシバット)し,ばり取り後,高周波による自動連続焼入れ,焼もどし(H_(R)C 40?50)により製作されてる。材料は錨鎖と異なりMn,Cr,N,Moを含有した特殊鋼・・・」(23ページ4ないし8行)

b 「2.4 鎖 歯 車
2.4.1 荷 鎖 歯 車
鎖を荷鎖歯車のみぞにかけ,荷鎖歯車の回転にともない荷鎖を巻込み,また繰り出す操作をするもので,荷鎖の一端は荷重をつるし,他端は自由に下げておく。荷鎖歯車は歯数をきわめて少なくできるので半径を小さくできる。したがって荷重のかかる腕の長さを短縮でき,巻上げ装置全体が小形となり使いやすくなる。普通歯数は4?5枚とする。
材料はクロムモリブデン鋼(SCM21、SCM22)を鍛造して素材とし,焼ならしをして,必要部分を切削加工し,ガス浸炭(浸炭層0.8?1.0 mm)後,焼入れ,焼もどし(H_(R)C 58?64)をし,歯部のみ高周波焼なまし(H_(R)C 40?50)とする。その後,軸部の内外径を研削仕上げ〔外径(ボス部)はh6,内径はH8ぐらいとする。〕をするか,クロムモリブデン鋼(SCM4)を鍛造後,焼ならしをし,切削加工し,油焼入れし,調質(H_(R)C 35?40)後,軸部の内外径を研削したりしている。
荷鎖は荷鎖歯車のみぞの中に平らに全体をのせるので,二次的な曲げ応力は発生しない。
図2-23 に荷鎖歯車の各部寸法を示す。荷鎖が荷鎖歯車にかかる角度は最小180°とし,これ以下の場合は案内車を設けて最小180°になるようにする。また,荷鎖が荷鎖歯車を通過する場合,みぞから飛びだすのを防ぐために荷鎖歯車の上半分に保護おおい,またはピンを取付ける。」(26ページ5行ないし27ページ8行)

c 「チェーンブロックの設計」(表紙及び奥付)

(イ)引用発明
上記(ア)aないしcの記載事項並びに表2-4及び図2-23の図示内容を総合し、本願補正発明の表現に倣って整理すると、刊行物1には、次の事項からなる発明(以下、「引用発明」という。)が記載されていると認める。
「荷を吊り下げるための荷鎖と、
前記荷鎖が掛け回されて当該荷鎖が入り込むみぞを有する荷鎖歯車と、を備えるチェーンブロックであって、
前記荷鎖は、H_(R)Cが、40ないし50となる鋼材から形成されているチェーンブロック。」

(ウ)刊行物1記載の技術
上記(ア)b及びcの記載事項並びに図2-23の図示内容を総合すると、刊行物1には、次の事項からなる技術(以下、「刊行物1記載の技術」という。)が記載されていると認める。
「チェーンブロックにおいて、荷鎖が掛け回されて当該荷鎖が入り込むみぞを有する荷鎖歯車は、少なくとも前記みぞのH_(R)Cが、40ないし50又は35ないし40となる鋼材から形成する技術。」

イ 刊行物2
(ア)刊行物2の記載事項
原査定の拒絶の理由に引用された、本件出願前に頒布された刊行物である実願昭63-1122号(実開平1-106494号)のマイクロフィルム(以下、「刊行物2」という。)には、図面とともに次の事項が記載されている。なお、下線は理解の一助のために当審において付したものである。
「従来の海洋構造物用アンカーウインドラスの代表的なものは、第3図(A)平面図,(B)側面図に示すように、係留用のチェーン5を駆動源3により減速機4を介して、アンカーウインドラス1内のチェーンドラム2にて巻上げ係留力を得るものであり、チェーンドラム2は第4図(A),(B)縦断面図に示すように、一般的に鋳鋼製で、5枚の歯2a,ボス2b,ブレーキタイヤ2c及びフランジ2dを1体として作られており、チェーン5の巻上げ,巻下げ作動は第5図,第6図説明図に示すように、竪リンク5bと横リンク5aと構成されるチェーン5の横リンク5aをチェーンドラム2の5枚の歯2aにて引っ掛けて巻上げ又は巻下げが行われる。
しかして、横リンク5aは5枚の歯2aに引っ掛けられ巻上げ又は巻下げられるとき、常に歯2aの負荷側(斜線部)に接触しチェーンドラム2の回転に伴い歯の上を滑りながらチェーンドラム2のポケット2eに収まる。
しかしながら重荷重が作用したチェーン5が歯形の上で滑ると、2ケ所の接触部で摩耗が起こるが、チェーン5の摩耗を少なくするためにチェーン硬度より低い硬度でチェーンドラム2を作っているため、チェーンドラム2の摩耗が進行し、チェーンドラム2の歯2aがチェーン5との接触部のみ局部的に摩耗し歯の形状が変化すると、チェーン5との噛合に不具合が生じ機能を満足しなくなる。
そこで摩耗がある程度進行した時、摩耗部を電気溶接で肉盛補修している。」(明細書1ページ16行ないし3ページ7行)

(イ)刊行物2記載の技術
上記(ア)の記載事項並びに第3ないし6図の図示内容によれば、刊行物2には、次の事項からなる技術(以下、「刊行物2記載の技術」という。)が記載されていると認める。
「荷重が作用するチェーン5と、前記チェーン5が掛け回されるチェーンドラム2と、を備えるアンカーウインドラス1において、チェーン5の摩耗を少なくするためにチェーン5の硬度よりチェーンドラム2の硬度を低くする技術。」

ウ 刊行物3
(ア)刊行物3の記載事項
原査定の拒絶の理由に引用された、本件出願前に頒布された刊行物である特開昭50-131632号公報(以下、「刊行物3」という。)には、図面とともに次の事項が記載されている。なお、拗音、促音は小文字で表記し、下線は理解の一助のために当審において付したものである。
a 「本発明は高強度、高靭性(安全性)を有するリンクチェンに関し、特にチェーンブロック等に使用されて効果を発揮する。
最初にチェーンブロックおよびリンクチェンの構造と機構を説明しなげればならないが、これについては特公昭46-3002号に詳しく記しているので詳細は省略するが、簡単に述べると次のようである。チェーンブロックは揚重機としての使命上、これに使用されるリンクチェンには大きな荷重が負荷されるが、本機器の稼動状態において最大荷重が負荷されている場合、リンクチェンには通常の使用状態では地離れ時に最大荷重より大きい衝撃負荷応力が加わる。従って機器の最大容量の衝撃応力がリンクチェンに繰返し作用しても疲れ破断しないことが必要である。一方吊り上げ用フックを誤って構造物に引っかけ吊り上げようとした場合、即ち、大地吊り時の衝撃負荷荷重より引張り破断強度が大きいこと、これについては、クレーン構造規格により引張強度は定格荷重の5倍以上と定められている。従って1本吊りチェーンブロックでは定格荷重1tonの場合リンクチェンは5ton以上の引張強度を有することが必要である。次にリンクチェンの長寿命化のためにも耐摩耗性に優れていることが必要であるが、この場合のクレーン構造規格の摩耗限界はリンクチェン内長ピッチの5%が限界である。しかるにリンクチェンに要求される諸条件は大別すると、(1)地離れ時の繰返し衝撃荷重、即ち、衝撃疲れ強さの大なること、(2)引張破断強度が定格容量の5倍以上であること、(3)耐摩耗性に優れていることが望まれる。従来、このような諸条件を満足させるために低Mn鋼調質および浸炭焼入れ、または本願依頼者の1人が先に開発したNi-Gr-Mo低合金鋼に浸炭焼入れしたものがリンクチェンとして用いられている。然るにこれらのリンクチェンの諸特性は後述する実施例1から明らかなようにリンクチェン径7.1φとした場合、引張破断強度は、低Mn鋼調質は7.5?8ton以上、低Mn鋼浸炭焼入れのものは4.4?5ton以上(表面硬きHv70、心部硬さHo500、有効浸炭層深さリンク径の1/60)およびNi-Cr-Mo鋼浸炭焼入れしたものは、6.4?7.3ton(表面硬さHo700、心部硬さHo480、有効浸炭深さリンクチェン径の1/60)また引張破断時の3リンクの伸びは、それぞれ16mm以上3?4mmおよび7?9mmである。またTo^(6)回における衝撃疲れ強さは0.9ton、1.4tonおよび1.6tonである。このような諸特性から見ると、引張破断強度および伸びは低Mn鋼が最も良いことがわかる。しかし、疲れ強さはNi-Cr-Mo鋼浸炭焼入れが良いことがわかる。また低Mn鋼浸炭焼入れは、引張破断強度がクレーン構造規格(定格容量1tonとした場合)より下廻り、伸び即ち、靭性も非常に乏しい。これらの引張破断強度および靭性も回復させるためには浸炭処理における表面硬さを低くさせることによって可能であることが特公、昭46-38002号によってわかっている。しかしながら、耐摩耗性の点から見るとリンクチェンの場合、硬さの高い方が良い。またリンクチェンの引張破断時の伸び、即ち靭性は低Mn鋼調質のものが最も良く、浸炭焼入れすると、Ni-Cr-Mo鋼、低Mn鋼の順に低下していることがわかる。靭性低下による損失はリンクチェンの引張破断強度の低下をきたすものであり、例えば、吊り上げ用フックを誤って構造物に引掛けた場合、即ち、大地吊り時の衝撃負荷応力エネルギーを吸収することなく破断するので、安全上から見ると好ましい状態ではない。したがって、耐摩耗性および耐衝撃疲れ性を賦与するならば浸炭焼入れを施せばよいが、反面引張破断強度および靭性は低下し引張破断強度および靭性を賦与しようとするならば、調質が良い。しかし、この場合は耐摩耗性および耐疲れ性が低下し、調質および浸炭製リンクチェンには、その特性に一長一短があった。」(1ページ左下欄10行ないし2ページ左下欄2行)

b 「実施例1
表1に本開発による浸炭製リンクチェンおよび比較のために他の浸炭製リンクチェンならびに調質低Mn鋼製リンクチェンの化学組成を示す。第1図は、これらの化学組成のリンクチェンを用いて引張試験を行った結果である。これらのリンクチェンは溶解、線引き後曲げ加工溶接により7.1φの素子リンクを製作し、浸炭リンクチェン850℃で30分間浸炭してから50?60℃の油中に冷却して浸炭層のC濃度0.70%、有効浸炭層深さ0.15?0.2mmを得た後、170℃で1時間油中で焼戻しを行った。また調質低Mn鋼リンクチェンは850℃で30分保持後油焼入し、その後170℃で1時間焼戻しを行ったものである。」(3ページ左下欄2行ないし同欄15行)

(イ)第1図の図示内容から分かること
第1図には、調質低Mn鋼チェンについて、表面硬さがHV500で、心部硬さがHV500のものが示されており、調質低Mn鋼チェンの線材の断面の全体において、同程度の表面硬さとなるように形成されていることが分かる。

(ウ)刊行物3記載の技術
上記(ア)a及びbの記載事項並びに上記(イ)を総合すると、刊行物3には、次の事項からなる技術(以下、「刊行物3記載の技術」という。)が記載されていると認める。
「チェーンブロックに使用されるリンクチェンを、その線材の断面の全体において、同程度の表面硬さとなるように形成されていると共に調質が施された調質低Mn鋼チェンとする技術。」

エ 刊行物4
(ア)刊行物4の記載事項
原査定の拒絶の理由に引用された、本件出願前に頒布された刊行物である特開平10-310377号公報(以下、「刊行物4」という。)には、図面とともに次の事項が記載されている。
a 「【0012】
【発明の実施の形態】図1は、本発明の一実施形態を示す手動式チェンブロックの縦断面図である。この手動式チェンブロックは、相対向する1対のサイドプレート1および2の間に、ロードチェン9(図2、図3および図5にのみ現れている。)を巻装するロードシーブ3を1対の軸受4および5を介して回転自由に支持し、このロードシーブ3の軸孔に駆動軸6を相対回転自由に挿嵌して支持している。駆動軸6の軸方向一端側であって、右サイドプレート2の外側には、ハンドチェン(図示せず。)を巻装するハンドホイール11を螺着して、駆動軸6の軸端に抜止めピン37を差し込むとともに、このハンドホイール11と、ロードシーブ3との間には、メカニカルブレーキ12を備えた伝動機構13を設けている。」(段落【0012】)

b 「【0016】そして、ハンドチェン9を引張操作してハンドホイール11を正転駆動させると、伝動機構13を介して駆動軸6が駆動され、この駆動が歯車減速機構14を介してロードシーブ3に伝達され、該ロードシーブ3を回転駆動させ、このロードシーブ3に巻装するロードチェン9の負荷側、つまり、先端にフックをもち、荷物を吊り下げる負荷側を巻上げ、荷物の荷揚げを行うようにしている。・・・」(段落【0016】)

(イ)刊行物4記載の技術
上記(ア)a及びbの記載事項並びに図1ないし5の図示内容によれば、刊行物4には、次の事項からなる技術(以下、「刊行物4記載の技術」という。)が記載されていると認める。
「荷を吊り下げるためのロードチェン9と、前記ロードチェン9が掛け回されるロードシーブ3と、を備えるチェンブロックにおいて、前記ロードシーブ3をサイドプレート1とサイドプレート2の間で回転自由に支持する技術。」

(3)対比
本願補正発明と引用発明とを、その機能、構造又は技術的意義を考慮して対比する。
・後者における「荷鎖」は、前者における「ロードチェーン」に相当し、以下同様に、「みぞ」は「チェーンポケット」に、「荷鎖歯車」は「ロードシーブ部材」に、「チェーンブロック」は「チェーンブロック」に、「H_(R)C」は「ロックウェル硬さCスケール(HRC)」に、それぞれ相当する。

・後者における「前記荷鎖は、H_(R)Cが、40ないし50となる鋼材から形成されてい」ることは、前者における「前記ロードチェーンは、ロックウェル硬さCスケール(HRC)が、48となる鋼材から形成されてい」ることに、「前記ロードチェーンは、ロックウェル硬さCスケール(HRC)が、所定の値となる鋼材から形成されてい」るという限りにおいて一致する。

したがって、両者は、
「荷を吊り下げるためのロードチェーンと、
前記ロードチェーンが掛け回されて当該ロードチェーンが入り込むチェーンポケットを有するロードシーブ部材と、を備えるチェーンブロックであって、
前記ロードチェーンは、ロックウェル硬さCスケール(HRC)が、所定の値となる鋼材から形成されているチェーンブロック。」の点で一致し、以下の点で相違している。

a 相違点1
ロードシーブ部に関し、本願補正発明においては、「第1フレームと第2フレームの間で回転自在に支持される」のに対して、引用発明においては、「ロードシーブ部」の支持構造は不明である点(以下、「相違点1」という。)。

b 相違点2
「ロードチェーンは、ロックウェル硬さCスケール(HRC)が、所定の値となる鋼材から形成されてい」ることに関し、本願補正発明においては、「ロードチェーンは、ロックウェル硬さCスケール(HRC)が、48となる鋼材から形成されてい」るのに対して、引用発明においては、「荷鎖は、H_(R)Cが、40ないし50となる鋼材から形成されてい」る点。(以下、「相違点2」という。)。

c 相違点3
本願補正発明においては、「ロードシーブ部材は、少なくともチェーンポケットのロックウェル硬さCスケール(HRC)が、40?45となる鋼材から形成されてい」るのに対して、引用発明においては、荷鎖歯車がどのような材料から形成されているのか不明である点(以下、「相違点3」という。)。

d 相違点4
本願補正発明においては、「ロードチェーンは、その線材の断面の全体において、同程度の硬さとなるように形成されていると共に調質処理が施された調質チェーンである」のに対して、引用発明においては、荷鎖がその線材の断面の全体において、同程度の硬さとなるように形成されていると共に調質処理が施された調質の荷鎖であるか不明である点(以下、「相違点4」という。)。

(4)判断
a 相違点1について
刊行物4記載の技術にみられるように、荷を吊り下げるためのロードチェーンと、前記ロードチェーンが掛け回されるロードシーブ部材と、を備えるチェーンブロックにおいて、ロードシーブ部材を第1フレームと第2フレームの間で回転自在に支持されるようにすることは本件出願前にごく普通に行われていること(以下、「慣用技術」という。)であり、引用発明において、慣用技術を適用して荷鎖歯車(ロードシーブ部材)を第1フレームと第2フレームの間で回転自在に支持するようにし、上記相違点1に係る本願補正発明の発明特定事項とすることは当業者が容易に想到できたことである。

b 相違点2について
引用発明は、荷鎖(ロードチェーン)が、H_(R)C(ロックウェル硬さCスケール(HRC))が、40ないし50となる鋼材から形成されているところ、荷鎖(ロードチェーン)のH_(R)C(ロックウェル硬さCスケール(HRC))は、荷鎖(ロードチェーン)に求められる性能に応じて当業者が適宜設定する設計事項である。
また、本願補正発明が、ロードチェーンは、ロックウェル硬さCスケール(HRC)が、48となる鋼材から形成されていて、ロードシーブ部材は、少なくともチェーンポケットのロックウェル硬さCスケール(HRC)が、40?45となる鋼材から形成されているとした点について、本件出願の明細書及び図面をみても、臨界的意義を有することは確認できない。
そうすると、引用発明において、ロックウェル硬さCスケール(HRC)を40ないし50の範囲内である48とすることは、当業者が適宜なし得たことである。

c 相違点3について
刊行物1記載の技術における「チェーンブロック」は本願補正発明における「チェーンブロック」に相当し、同様に、「荷鎖」は「ロードチェーン」に、「みぞ」は「チェーンポケット」に、「荷鎖歯車」は「ロードシーブ部材」に、「H_(R)C」は「ロックウェル硬さCスケール(HRC)」に、それぞれ相当するから、刊行物1記載の技術は「チェーンブロックにおいて、ロードチェーンが掛け回されて当該ロードチェーンが入り込むチェーンポケットを有するロードシーブ部材は、少なくとも前記チェーンポケットのロックウェル硬さCスケール(HRC)が、40ないし50又は35ないし40となる鋼材から形成する技術。」といえる。
次に、刊行物2記載の技術において、「チェーン5」は本願補正発明の「ロードチェーン」に相当し、同様に、「チェーンドラム2」は「ロードシーブ部材」に、それぞれ相当する。
また、刊行物2記載の技術における「荷重が作用するチェーン5」は、本願補正発明における「荷を吊り下げるためのロードチェーン」に、「荷重が作用するロードチェーン」という限りにおいて一致する。
また、刊行物2記載の技術における「アンカーウインドラス1」は、本願補正発明における「チェーンブロック」に、「巻上装置」という限りにおいて一致する。
さらに、刊行物2記載の技術における「硬度」は、本願補正発明における「ロックウェル硬さCスケール(HRC)」に、「硬度」という限りにおいて一致する。
そうすると、刊行物2記載の技術は、「荷重が作用するロードチェーンと、前記ロードチェーンが掛け回されるロードシーブ部材と、を備える巻上装置において、ロードチェーンの摩耗を少なくするためにロードチェーンの硬度よりロードシーブ部材の硬度を低くする技術。」といえる。
ところで、引用発明は、「荷鎖は、H_(R)Cが、40ないし50となる鋼材から形成されている」ものであるところ、刊行物2記載の技術に照らせば、引用発明において、荷鎖(ロードチェーン)の摩耗を少なくすることは内在する課題であることが理解できるから、刊行物2記載の技術を参酌し、荷鎖歯車(ロードシーブ部材)のH_(R)C(ロックウェル硬さCスケール(HRC))を荷鎖(ロードチェーン)のH_(R)C(ロックウェル硬さCスケール(HRC))より低い値とすることは当業者が容易に想到し得たことである。
そして、刊行物1には、刊行物1記載の技術として、ロードシーブ部材は、少なくともチェーンポケットのロックウェル硬さCスケール(HRC)が、40ないし50又は35ないし40となる鋼材から形成されていることが示されているのであるから、刊行物1記載の技術で示された鋼材の中から、ロックウェル硬さCスケール(HRC)が48より低い鋼材を選択することに格別の困難性はない。
また、本願補正発明が、ロードチェーンは、ロックウェル硬さCスケール(HRC)が、48となる鋼材から形成されていて、ロードシーブ部材は、少なくともチェーンポケットのロックウェル硬さCスケール(HRC)が、40?45となる鋼材から形成されているとした点について、本件出願の明細書及び図面をみても、臨界的意義を有することは確認できない。
そうすると、引用発明において、刊行物1記載の技術及び刊行物2記載の技術を参酌することにより、荷鎖歯車(ロードシーブ部材)は、少なくともみぞ(チェーンポケット)のH_(R)C(ロックウェル硬さCスケール(HRC))が、40?45となる鋼材から形成されているものとすることは、当業者が容易になし得たことである。

d 相違点4について
刊行物3記載の技術における「チェーンブロック」は本願補正発明における「チェーンブロック」に相当し、同様に、「リンクチェン」は「ロードチェーン」に、「調質」は「調質処理」に、「調質低Mn鋼チェン」は「調質チェーン」にそれぞれ相当するから、刊行物3記載の技術は、「チェーンブロックに使用されるロードチェーンを、その線材の断面の全体において、同程度の硬さとなるように形成されていると共に調質処理が施された調質チェーンとする技術。」といえる。
ところで、刊行物3記載の技術は、調質処理が施されることにより引張破断強度および靭性が高くなり安全性が向上することを可能としたものであるところ、引用発明において安全性の向上のために荷鎖(ロードチェーン)の引張破断強度および靭性を高くすることは当然に考慮することであって、内在する課題である。
そうすると、引用発明において、刊行物3記載の技術を適用することにより、上記相違点4に係る本願補正発明の発明特定事項とすることは当業者が容易に想到できたことである。

e そして、本願補正発明は、全体としてみても、引用発明、刊行物1ないし3記載の技術及び慣用技術から予測される以上の格別な効果を奏するものではない。

f したがって、本願補正発明は、引用発明、刊行物1ないし3記載の技術及び慣用技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。

4 むすび
以上のとおり、本件補正は、特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項の規定に違反するので、同法第159条第1項の規定において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。
よって、[補正の却下の決定の結論]のとおり決定する。


第3 本願発明について
1 本願発明
本件補正は上記のとおり却下されたので、本件出願の請求項1ないし3に係る発明は、平成28年4月27日に提出された手続補正書により補正された特許請求の範囲の請求項1ないし3に記載された事項により特定されるものであるところ、請求項1に係る発明(以下、同項記載の発明を「本願発明」という。)は、前記第2[理由]1(1)の【請求項1】に示したとおりのものである。

2 刊行物
原査定の拒絶の理由に引用された刊行物1ないし4及びその記載事項、並びに、引用発明、刊行物1ないし4記載の技術は、前記第2[理由]3(2)に記載したとおりであり、慣用技術は前記第2[理由]3(4)aに記載したとおりである。

3 対比・判断
本願発明は、前記第2[理由]3で検討した本願補正発明において、発明特定事項である「ロードチェーン」の「ロックウェル硬さCスケール(HRC)」について「48」を「47?51」に拡張したものに相当する。
そうすると、本願発明において「ロードチェーン」の「ロックウェル硬さCスケール(HRC)」について範囲を限定したものに相当する本願補正発明が、前記第2[理由]3に記載したとおり、引用発明、刊行物1ないし3記載の技術及び慣用技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本願発明も、同様の理由により、引用発明、刊行物1ないし3記載の技術及び慣用技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

4 むすび
以上のとおり、本願発明は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないから、本件出願の他の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本件出願は拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2017-09-04 
結審通知日 2017-09-05 
審決日 2017-09-19 
出願番号 特願2012-262615(P2012-262615)
審決分類 P 1 8・ 572- Z (B66D)
P 1 8・ 121- Z (B66D)
P 1 8・ 575- Z (B66D)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 葛原 怜士郎今野 聖一  
特許庁審判長 冨岡 和人
特許庁審判官 西山 智宏
槙原 進
発明の名称 チェーンブロックおよびロードチェーン  
代理人 アイアット国際特許業務法人  

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