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審決分類 |
審判 査定不服 2項進歩性 取り消して特許、登録 C12N |
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管理番号 | 1334166 |
審判番号 | 不服2017-319 |
総通号数 | 216 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許審決公報 |
発行日 | 2017-12-28 |
種別 | 拒絶査定不服の審決 |
審判請求日 | 2017-01-10 |
確定日 | 2017-11-28 |
事件の表示 | 特願2015-165287「機能性核酸の安定化法」拒絶査定不服審判事件〔平成27年12月10日出願公開、特開2015-221049、請求項の数(4)〕について、次のとおり審決する。 |
結論 | 原査定を取り消す。 本願の発明は、特許すべきものとする。 |
理由 |
第1 手続の経緯 本願は、平成23年4月19日(優先権主張 平成22年4月19日)を国際出願日とする特願2012-511666号の一部を平成27年8月24日に新たな特許出願としたものであって、平成28年7月7日付けで拒絶理由通知がされ、同年9月12日に意見書及び手続補正書が提出され、同年9月28日付けで拒絶査定(原査定)がされ、これに対し、平成29年1月10日に拒絶査定不服審判の請求がされたものである。 第2 原査定の概要 原査定の概要は次のとおりである。 本願の請求項1ないし4に係る発明は、以下の引用例5に記載された発明及び周知技術(引用例6?8)に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。 引用例一覧 5.蛋白質 核酸 酵素,1995,Vol.40,pp.1583-1591. 6.特表平6-508022号公報 7.国際公開第2006/080262号 8.特表2008-512097号公報 第3 本願発明 本願の請求項1ないし4に係る発明は、平成28年9月12日提出の手続補正書の特許請求の範囲の請求項1ないし4に記載された事項により特定される以下のとおりのものである。 「【請求項1】 核酸分解酵素耐性を有する核酸分子であって、 前記核酸分子は、DNAアプタマーを含む一本鎖核酸断片の5'末端又は3'末端のいずれかにヘアピン型DNAを連結してなり、 前記ヘアピン型DNAは、 5'末端側から3'末端側に向かって順番に連結された以下の(A)?(C)の核酸領域: (A)2?5個の任意のヌクレオチドからなる第1核酸領域、 (B)gna又はgnna(ここで、各nは、独立に、g、t、a若しくはc、塩基類似体又は修飾塩基のいずれかである)の塩基配列からなる第2核酸領域、及び (C)第1核酸領域に相補的な塩基配列からなる第3核酸領域 において、 (A)の第1核酸領域及び(C)の第3核酸領域が互いに塩基対合したステム部分と (B)の第2核酸領域からなるループ部分 によって構成される前記核酸分子。 【請求項2】 前記第1核酸領域がg又はcの塩基配列からなる、請求項1に記載の核酸分子。 【請求項3】 請求項1又は2に記載の核酸分子を有効成分として含む医薬組成物。 【請求項4】 製薬上許容可能な担体を含む、請求項3に記載の医薬組成物。」(以下、これらの発明を、それぞれ、「本願発明1」、「本願発明2」、「本願発明3」、「本願発明4」といい、これらの発明をまとめて「本願発明」という。) 第4 引用例 1 引用例5 引用例5には、次の事項が記載されている (1) 表題 「1本鎖DNAの特殊構造 異常に熱安定性が高いミニヘアピン構造」 (2) 「はじめに」の項 「筆者らは最近偶然に、異常に安定なヘアピン構造を形成する1本鎖DNAの配列を見つけた。ヘアピン構造とは、1本のDNA鎖上に相補的な配列が存在するとそこで塩基対が形成され、DNAが折れ曲がってしまう構造である。塩基対を形成する部分をステム、折れ曲がりの1本鎖の部分をループとよぶ。・・・1本鎖核酸のヘアピン構造の研究が近年盛んに行なわれているが、そのなかで筆者らは飛び抜けて高い熱安定性を示すヘアピン構造(ミニヘアピン)を発見した。本稿では、筆者らの研究をとおして、核酸の特殊構造のひとつであるこの異常に安定なミニヘアピンの構造と機能について紹介する。」(1583ページ右欄5行?1584ページ左欄3行) (3) 「I.異常に安定なミニヘアピンDNAの発見」の項 「・・・一つのDNA断片[図1の(+)鎖21mer]が変性剤として7M尿素を含むゲル電気泳動で、泳動度が異常に大きくなってしまい、その主バンドは19?21merの鎖長に相当する位置に現われることを見つけた^(1))。・・・最終的に21mer中のGCGAAAGC配列が、異常な泳動度を示す最小の長さであることがわかった^(1,2))。・・・このGCGAAAGC断片の性質を調べると、異常な泳動度はこの断片の特殊な高次構造によることがわかった。NMRスペクトルのNOEの情報からは、このGCGAAAGC断片が3番目のGと4番目のAの間で折れ曲がり、その両末端で2つのG-C塩基対が形成されていることがわかった(図3a)。すなわちGAAAのループ部分とGCのステム部分からなるコンパクトなヘアピン構造を形成することによって、電気泳動での泳動度が大きくなり、しかも、この断片の融解温度(Tm)が76℃にも達するので、電気泳動のゲルに変性剤として7M尿素を加えても、この構造は変化しないことがわかった^(3))。」(1584ページ左欄15行?1585ページ左欄7行) (4) 「IV.ミニヘアピン構造を形成するDNA配列」の項 「・・・熱安定性の高いミニヘアピン構造を形成する配列は、ループ部分とそれに隣接する塩基対の配列が重要であり、C(GNNA)G配列かC(GNA)G配列(カッコ内がループの配列を示す)に注意する必要があることがわかった。そして、そのなかでもGAAAループとGAAループが最も安定性の高いミニヘアピンを形成する。」(1588ページ右欄26?32行) (5) 「VI.ミニヘアピン構造の核酸分解酵素に対する抵抗性と細胞外蛋白質合成系への応用」の項 ア 「・・・GCGAAGC断片とGCGAAAGC断片、さらにヘアピン構造を形成しないCGACGAG断片のそれぞれを、核酸分解酵素を混在しているヒト血清、あるいは大腸菌の抽出液で処理し、核酸分解酵素に対する抵抗性を調べた(図8)。ヘアピン構造を形成しないCGACGAG断片は完全に加水分解されてしまうが、GCGAAGC断片とGCGAAAGC断片は未分解物の断片に相当するバンドが認められ、とくにGCGAAGC断片は強い抵抗性を示すことがわかった^(13))。」(1590ページ左欄12行?右欄5行) イ 「筆者らは、大腸菌由来の細胞外蛋白質合成系を用いて、mRNAから蛋白質を合成する効率のよい系の開発も行なっているが、大腸菌由来の核酸分解酵素が混在する系内でmRNAを安定に保つために、mRNAの3'末端に相補的なDNA断片をハイブリダイズする方法を開発している^(17))。このとき、図9(a)に示すように加えるDNA断片の末端にミニヘアピンを結合すると、DNA断片自身の核酸分解酵素に対する抵抗性も増し、蛋白質合成効率を向上させることができる。・・・ DNA断片の末端にヘアピン構造をとりうる配列を連結してDNAの分解を防ぐ方法は、アンチセンス核酸^(19,20))やDNA増幅に用いるプローブの安定化^(21))にも応用され、これらの手法にGCGAAGC配列とGCGAAAGC配列はよい結果を与えている^(20、21))。」(1590ページ右欄6行?1591ページ左欄3行) 第5 引用発明 前記第4で摘記した引用例5の記載より、引用例5には、「核酸分解酵素に対する抵抗性を有する、ヘアピン構造を形成するDNAであって、GC(GAA)GC又はGC(GAAA)GC(カッコ内がループの配列)の塩基配列からなるDNA」についての発明(以下、この発明を「引用発明」という。)が記載されているものと認められる。 第6 対比・判断 1 本願発明1について (1) 対比 本願発明1と引用発明とを対比する 本願の特許請求の範囲では、本願発明1の核酸分子について、「DNAアプタマーを含む一本鎖核酸断片・・・にヘアピン型DNAを連結してなり」と特定しているところ、本願明細書では、核酸断片の記述において、「・・・を含む」を「・・・からなる」と同じ意味で使用していると認められる(特に、【図面の簡単な説明】の記述を参照。)ことから、本願発明における「一本鎖核酸断片」とは、「DNAアプタマー」のことを指しているものと認められる。 そうしてみると、両者は、核酸分解酵素耐性を有する核酸分子であって、5'末端側から3'末端側に向かって順番に連結された以下の(A)?(C)の核酸領域:(A)gcの塩基配列からなる第1核酸領域、(B)gaa又はgaaaの塩基配列からなる第2核酸領域、及び、(C)第1核酸領域に相補的なgcの塩基配列からなる第3核酸領域、において、(A)の第1核酸領域及び(C)の第3核酸領域が互いに塩基対合したステム部分と、(B)の第2核酸領域からなるループ部分 によって構成されるヘアピン型DNA、で一致し、 本願発明は、前記ヘアピン型DNAがDNAアプタマーの5'末端又は3'末端のいずれかに連結しており、ヘアピン型DNAの連結によって、核酸分解酵素に対してDNAアプタマーを安定化しているのに対し、引用発明では、前記ヘアピン型DNAは他の核酸分子を連結していない点において相違する。 (2) 相違点についての判断 アプタマーは、本願の発明の詳細な説明に、「『核酸アプタマー』とは、それ自身の立体構造によって標的分子に結合し、その機能を阻害又は抑制することのできる核酸をいう。」(段落【0089】)と記載されているように、標的分子との結合には、その立体構造が重要な役割を果たす一本鎖核酸である(アプタマーによる他の物質の認識に立体構造が重要な役割を果たす点は、引用例7の2ページ13?17行も参照)。そして、この様なアプタマーの末端に他の核酸分子を連結した場合には、アプタマーを含む物質全体の立体的な構造が、アプタマー単独の場合から変化し、その結果、アプタマーが標的分子と結合するという、アプタマーの機能を妨げる可能性があると考えられる。 一方、引用例5には、mRNAの3'末端に、前記ヘアピン型DNA配列を5'末端に有する当該mRNAの3'末端側の配列に相補的なDNA断片をハイブリダイズさせることにより、核酸分解酵素に対する抵抗性が増加し、大腸菌での蛋白質合成効率が向上したこと、また、アンチセンス核酸やDNA増幅に用いるプローブの末端に前記ヘアピン型DNAを連結することにより、当該アンチセンス核酸やプローブの安定性が向上したことが記載されている(第4の1(5)イ)ものの、ここに示されたmRNA、アンチセンス核酸及びプローブは、いずれも、その機能の発揮にはそれら分子の塩基配列が役割を果たすものであって、それらの分子の末端にヘアピン型DNAが連結されても、それら分子が有する塩基配列自体は変化しないことから、その機能の発揮に末端に連結された分子が影響を与えることは少ないと考えられる。 この様に、引用例5には、機能の発揮に塩基配列が役割を果たす核酸分子については、ヘアピン型DNAによる核酸分解酵素に対する安定化の対象とすることが開示ないし示唆されているということはできるものの、機能の発揮に分子の立体構造が重要な役割を果たす核酸分子であるアプタマーについては、開示ないし示唆があるということはできない。 そして、本願発明1は、請求人が平成29年2月22日に提出した手続補正書(方式)に添付された参考資料1に示されているようにヒト血清中で安定であり、また、参考資料2に示されているように標的分子と結合するというアプタマーの機能は妨げられないものであって、本願発明1は所期の効果を奏するものである。 したがって、本願発明1は、引用発明及び周知技術に基いて当業者が容易に想到することができたものであるということはできない。 2 本願発明2について 本願発明2は、本願発明1において、「第1核酸領域がg又はcの塩基配列からなる」と特定するものであるが、この点は本願発明2と引用発明の相違点ではない。そうしてみると、本願発明2は、本願発明1と同じ理由により、当業者であっても、引用発明及び周知技術に基いて容易に発明をすることができたものとはいえない。 3 本願発明3及び4について 本願発明3は、本願発明1、2に記載の核酸分子を有効成分とする医薬についての発明であり、また、本願発明4は、本願発明3が製薬上許容可能な担体を含むことを特定するものであるが、上述のとおり、本願発明1及び2が進歩性を有することから、本願発明3及び4も、引用発明及び周知技術に基いて当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。 第7 むすび 以上のとおり、原査定の理由によっては本願を拒絶することはできない。 また、他に本願を拒絶すべき理由を発見しない。 よって、結論のとおり審決する。 |
審決日 | 2017-11-13 |
出願番号 | 特願2015-165287(P2015-165287) |
審決分類 |
P
1
8・
121-
WY
(C12N)
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最終処分 | 成立 |
前審関与審査官 | 飯室 里美 |
特許庁審判長 |
中島 庸子 |
特許庁審判官 |
松田 芳子 大宅 郁治 |
発明の名称 | 機能性核酸の安定化法 |
代理人 | 漆山 誠一 |
代理人 | 平木 祐輔 |
代理人 | 藤田 節 |
代理人 | 漆山 誠一 |
代理人 | 藤田 節 |
代理人 | 平木 祐輔 |