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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 C07C
管理番号 1334198
審判番号 不服2016-14476  
総通号数 216 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2017-12-28 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2016-09-28 
確定日 2017-11-08 
事件の表示 特願2014-104022「結晶性ミノサイクリン塩基及びその製造方法」拒絶査定不服審判事件〔平成26年9月18日出願公開、特開2014-169319〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
この出願は、2008年2月22日(パリ条約による優先権主張外国庁受理2007年2月23日(PT)ポルトガル)を国際出願日とする特願2009-550320号の一部を平成26年5月20日に新たな特許出願としたものであって、平成26年5月20日に上申書が提出され、同年5月20日、同年7月9日及び同年7月31日に手続補正書が提出され、さらに平成27年4月3日に手続補正書が提出され、同年6月8日付けで拒絶理由が通知され、同年7月3日付けで応対記録が作成され、同年12月15日に意見書及び手続補足書が提出され、平成28年5月23日付けで拒絶査定がされ、同年9月28日に拒絶査定不服審判が請求されるとともに手続補正書が提出され、同年11月8日に審判請求書を補正する手続補正書及び手続補足書が提出されたものである。
なお、この出願の一部が平成28年9月28日に特願2016-189162号として分割出願されている。

第2 本願発明
この出願の発明は、平成28年9月28日付けの手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項1?17に記載された事項により特定されるとおりのものであるところ、その請求項9に係る発明(以下「本願発明」という。)は、以下のとおりのものである。
「6.5、10.0、13.2、15.1、16.5、17.9、19.6、20.2、21.1、22.3、23.7、24.8、26.4、28.1及び30.5±0.2°2θにピークを有するX線回折パターンを特徴とする、形態IIIの結晶性ミノサイクリン塩基。」
ミノサイクリン塩基の化学構造は、以下のとおりである。この出願の明細書(以下「本願明細書」という。)で提示された米国特許4,849,136号の優先権基礎出願である特願昭62-181640号の特許公報である特公平7-37433号公報から引用した。

また、4-エピミノサイクリンは、4位(上記式において右上のN(CH_(3))_(2) 基がある位置、表示されていないがHもある。)のN(CH_(3))_(2) 基とHの配置が反転した化合物である。

第3 原査定の理由
原査定の理由は、平成27年6月8日付けの拒絶理由通知における理由1であり、概略、この出願の請求項1?17に係る発明は、その出願前に頒布された引用文献1に記載された発明及び技術常識に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないというものであり、技術常識を示す文献として、請求項1?12に係る発明に対しては引用文献2?9を、請求項13?17に係る発明に対しては引用文献2?10を、示したものである。その引用文献1はIl Farmaco - Ed. Sc. - 1975,30(9),p.736-741(以下「刊行物1」という。)であり、その引用文献2は特開平6-192228号公報(以下「刊行物2」という。)であり、その引用文献3は特開平7-53581号公報(以下「刊行物3」という。)であり、その引用文献4は特公昭52-45716号公報(以下「刊行物4」という。)であり、その引用文献5は特開昭61-263985号公報(以下「刊行物5」という。)であり、その引用文献6は特開平4-235188号公報(以下「刊行物6」という。)であり、その引用文献7はPharmaceutical Research,12(7),1995,p.945-954(以下「刊行物7」という。)であり、その引用文献8は特開2003-73353号公報(以下「刊行物8」という。)であり、その引用文献9はChemistry & Industry,21,1989,p.527-529(以下「刊行物9」という。)である。その引用文献10はChem.Pharm.Bull.,38(7),1990,p.2003-2007(以下「刊行物10」という。)である。本願発明は、拒絶理由で言及された請求項9に係る発明である。

第4 当審の判断
当審は、原査定の理由のとおり、本願発明は、上記刊行物1に記載された発明及び技術常識に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないと判断する。
その理由は、以下のとおりである。

1 刊行物
刊行物1:Il Farmaco - Ed. Sc. - 1975,30(9),p.736-741(原審における引用文献1)
刊行物2:特開平6-192228号公報(同引用文献2)
刊行物3:特開平7-53581号公報(同引用文献3)
刊行物4;特公昭52-45716号公報(同引用文献4)
刊行物5:特開昭61-263985号公報(同引用文献5)
刊行物6:特開平4-235188号公報(同引用文献6)
刊行物7:Pharmaceutical Research,12(7),1995,p.945-954(同引用文献7)
刊行物8:特開2003-73353号公報(同引用文献8)
刊行物9:Chemistry & Industry,21,1989,p.527-529(同引用文献9)
刊行物2?9は、技術常識を示すために引用するものである。

2 刊行物の記載事項

ア 刊行物1
訳文で示す。
(1a)「テトラサイクリン誘導体 記録II - ミノサイクリンの実際的な合成」(736頁、標題)
(1b)「要約 - ミノサイクリンの、スキーム1に従う、新規で実際的で位置選択的な合成を報告する。」(736頁5?6行)
(1c)「天然及び合成のテトラサイクリン抗生物質の中で、ミノサイクリン(1)は、おそらく治療上最も有効である(2)。その合成(1,3)は、数年前、6-デメチル-6-デオキシテトラサイクリン(I)のニトロ化を基本とする一連の反応により達成された。2つの異性体である7-ニトロ及び9-ニトロ-6-デメチル-6-デオキシテトラサイクリンが、1:7の比で生成する。ここで困難な分離の問題が起こり、その後、7-ニトロ誘導体は還元されアルキル化されて7-ジメチルアミノ-6-デメチル-6-デオキシテトラサイクリン(ミノサイクリン)を与える。9-ニトロ誘導体は、ニトロ化段階で得られる主生成物であり、7-異性体に、一連の反応、例えば9-アミノへの還元、7-ニトロ-9-アミノへのニトロ化、ジアゾ化による脱アミノ及び還元による7-ニトロ-6-デメチル-6-デオキシテトラサイクリンの生成により、変換され、この化合物は最後にミノサイクリンへ変換される(3)。
上述のスキームでは、2つのニトロ異性体の生成が厄介なことは明らかである。なぜなら、9-ニトロ異性体を、まず分離し、次に、これからミノサイクリンが得られる7-異性体に、変換するする必要があるからである。一方、ニトロニウムイオンは、分子の特有の配座により7位のほうが立体障害があるため、9位に優先的に攻撃する(4)。したがって、もし、7-ニトロ誘導体のみが生成する位置選択的な求電子置換を望むなら、9位は何らかの方法で保護しなければならない。
テトラサイクリンのD環のアルキル化は、我々の研究所で研究していたが、tert-ブタノール、1-ヒドロキシアダマンタン及びイソブテンのような第三級アルコール又はオレフィンをアルキル化剤として用いて、第三級アルキル基を、9位のみに導入できることが見出された。
数時間で、最大の変換が達成され、反応混合物に氷水を用いて反応を止め、5N NaOHで中和し、クロロホルムで抽出すると、9-アルキル誘導体が良い収率で得られる。
そのように得られた9-アルキル誘導体は、無水フッ化水素酸、メタンスルホン酸又は沸騰トリフルオロ酢酸に溶解すると、ほとんど定量的に6-デメチル-6-デオキシテトラサイクリンを再生し、それゆえ、この反応は可逆反応で、9位の一時的な保護に利用できることを示唆している。
tert-ブチル基は、既に芳香族の位置の一時的保護に用いられていたが(5)、テトラサイクリンのような複雑な分子には用いられていなかった。
9-tert-ブチル-6-デメチル-6-デオキシテトラサイクリン(II)が得られると、スキーム1に従うミノサイクリンの位置選択的な合成が実際的なものとなる。

」(736頁9行?737頁末行)
(1d)「実験の部
全ての生成物の元素分析は、理論値の±0.4%の結果(C、H、N)を与えたが、ここには示していない。
9-tert-ブチル-6-デメチル-6-デオキシテトラサイクリン(II)
6-デメチル-6-デオキシテトラサイクリン(I)(20g)をtert-ブタノール(60ml)及びメタンスルホン酸(100ml)に溶解し、得られた溶液を一晩30°で攪拌した。反応混合物を次に500mlの氷水に注ぎ、pHを5N NaOHで5.5に調整し、生成物をクロロホルムで抽出した(3×300ml)。
有機層を減圧濃縮すると、13gの結晶(II)が得られた。濾液をさらに濃縮し、石油エーテルで希釈すると、さらに6.9gの9-tert-ブチル-6-デメチル-6-デオキシテトラサイクリン(II)が得られた(87.6%収率)。
・・・・・・・・・・・・・・・
9-tert-ブチル-7-ニトロ-6-デメチル-6-デオキシテトラサイクリン(III)
a)化合物(II)から
化合物(II)(1.0g)を、新たに調整したtert-ブチルアルコール(3ml)とメタンスルホン酸(5ml)の混合物に加え、硝酸カリウム(0.430g)で処理する。
1時間室温で攪拌後、反応混合物を氷水(100ml)に注ぎ、pHを5N NaOHで5.5に調整し、生成物を塩化メチレンで抽出した。
減圧濃縮し、石油エーテルで希釈すると、0.55g(50%収率)の9-tert-ブチル-7-ニトロ-6-デメチル-6-デオキシテトラサイクリン(III)が得られた。
・・・・・・・・・・・・・・・
b)化合物(I)から
6-デメチル-6-デオキシテトラサイクリン(I)(10g)をtert-ブタノール(30ml)及びメタンスルホン酸(50ml)に溶解し、得られた溶液を一晩30°で攪拌した。
硝酸カリウム(9.60g)を加え、溶液をさらに6時間30°で攪拌し、氷水(1,000ml)に注いだ。pHを5N NaOHで5.5に調整し、生成物をクロロホルムで抽出した(3×500ml)。有機溶液を減圧濃縮し、石油エーテルで希釈すると、9.50g(76%収率)の9-tert-ブチル-7-ニトロ-6-デメチル-6-デオキシテトラサイクリン(III)が得られた。
9-tert-ブチル-7-ジメチルアミノ-6-デメチル-6-デオキシテトラサイクリン(V)
9-tert-ブチル-7-ニトロ-6-デメチル-6-デオキシテトラサイクリン(III)(7.2g)の、2N HCl(16ml)を含むメタノール(250ml)中の溶液を、室温で大気圧下、PtO_(2)(2g)の存在下、水素化した。2時間後、触媒を濾去し、濾液に40%ホルマリン(25ml)を加えた:得られた溶液を、2時間、Pd/C(2g)を触媒として水素化した。濾過後、溶媒を留去して、残渣を水(300ml)に溶解した。pHを2N NaOHで6.5に調整し、生成物をクロロホルムで抽出した(4×250ml)。
減圧濃縮し、石油エーテルを加えると、5.8g(80.6%収率)の9-tert-ブチル-7-ジメチルアミノ-6-デメチル-6-デオキシテトラサイクリン(V)が得られた。
・・・・・・・・・・・・・・・
7-ジメチルアミノ-6-デメチル-6-デオキシテトラサイクリン(VI)
9-tert-ブチル-7-ジメチルアミノ-6-デメチル-6-デオキシテトラサイクリン(V)(5g)を、アニソール(2.5ml)を含むトリフルオロメタンスルホン酸(50ml)に溶解し、8時間60°で、次いで一晩室温で、攪拌した。トリフルオロメタンスルホン酸を減圧留去し70%収率で回収し、残渣は氷水(200ml)に溶解し、アニソールを除くためにジメチルエーテルで洗浄した。次いでpHを5N NaOHで6.5に調整し、生成物をクロロホルムで抽出した(5×100ml)。有機溶液を減圧濃縮し、石油エーテルで処理して、2.8g(63%収率)の7-ジメチルアミノ-6-デメチル-6-デオキシテトラサイクリン(VI)が得られ、これは標準試料と同一だった。」(739頁12行?740頁末行)

イ 刊行物2
(2a)「【請求項1】結晶状態の下記式

で表わされる(R)-(-)-2-シクロヘプチル-N-メチルスルフォニル-[4-(2-キノリニルメトキシ)-フェニル]-アセトアミド。
【請求項2】非結晶性(R)-(-)-2-シクロヘプチル-N-メチルスルフォニル-[4-(2-キノリニルメトキシ)-フェニル]-アセトアミドを、場合により水の存在下に、不活性有機溶媒中に懸濁させ、それが定量的に結晶性変態に転換されるまで高められた温度で処理し、得られる結晶性変態の結晶を慣用の方法で分離し、そして存在するかも知れない溶媒残渣を除去するために+20°?+70℃の温度で一定重量になる迄乾燥することを特徴とする請求項1記載の結晶性活性化合物の製造方法。」(2頁、特許請求の範囲の請求項1及び2)
(2b)「【0001】【産業上の利用分野】本発明は、(R)-(-)-2-シクロヘプチル-N-メチルスルフォニル-[4-(2-キノリニルメトキシ)-フェニル]-アセトアミドの結晶形、その製造方法及び薬品におけるその利用に関する。
【0002】【従来の技術】ロイコトリエン(leukotriene)合成の阻害剤である下記式(I)
【0003】

【0004】の(R)-(-)-2-シクロヘプチル-N-メチルスルフォニル-[4-(2-キノリニルメトキシ)-フェニル]-アセトアミド、その製造方法及び薬品におけるその利用は既にEP344,519に記載されている。
【0005】そこに記載された製造方法によると、式(I)の化合物は非結晶性粉末状態で得られる。溶媒和物を含まない結晶性変態(solvate-free crystalline modification)は今まで知られていない。
【0006】しかし、非結晶状態の式(I)の化合物は、特に固形薬品の製造において重大な欠点を有することが明らかとなった。このように非晶質状態の式(I)の化合物を含有する薬品は、例えば非常に不十分な貯蔵安定性しか示さない。調合剤を30℃を超える温度で比較的長期間貯蔵する場合におこりがちなこの物理的不安定性は、吸収効率及びこれら調合剤の安全性を損なう。」
(2c)「【0007】【発明が解決すべき課題】それ故薬品製造のために、上記欠点をもたない式(I)の化合物の安定な形態を入手可能とすることが非常に重要である。
【0008】【課題を解決するための手段】公知の非結晶形と比較して、増大した物理的安定性と低減した圧力感受性に特徴を有し、それ故種々の薬品の製造のために非結晶形より相当適している、新規な結晶形の化合物(R)-(-)-2-シクロヘプチル-N-メチルスルフォニル-[4-(2-キノリニルメトキシ)-フェニル]-アセトアミドが今回見出された。」

ウ 刊行物3
(3a)「【請求項1】L-アスコルビン酸-2-燐酸エステルマグネシウム塩を水溶媒下で結晶化させることを特徴とする結晶質L-アスコルビン酸-2-燐酸エステルマグネシウム塩の製造法。」(2頁、特許請求の範囲の請求項1)
(3b)「【0001】【産業上の利用分野】本発明は、医薬品、化粧品、食品および動物飼料などに有用なL-アスコルビン酸-2-燐酸エステルマグネシウム塩の結晶(以下、結晶質L-アスコルビン酸-2-燐酸エステルマグネシウム塩と称する。)の製造法に関する。
【0002】【従来技術および課題】現在市販されているL-アスコルビン酸-2-燐酸エステルマグネシウム塩は非晶質であるため、保存時吸湿しやすく粉末の団塊化を生じやすい。また、L-アスコルビン酸-2-燐酸エステルマグネシウム塩自身の化学的安定性が充分でなく、他の薬物との配合時に影響を与えることが多い。さらに、ケーキングを生じたり、流動性が不十分なため製剤化に際して支障をきたすことが多く、実用面で支障になる品質のバラツキが生じやすい。従って、安定な結晶質L-アスコルビン酸-2-燐酸エステルマグネシウム塩として提供されることが望まれている。 L-アスコルビン酸-2-燐酸エステルマグネシウム塩の結晶化の例としては、L-アスコルビン酸-2-燐酸エステルマグネシウム塩の水溶液にメタノールを加え、得られた沈澱物を水-メタノールから再結晶する方法[ケミカル・アンド・ファーマシューティカル・ブレティン(Chem. Pharm. Bull.)、17、381(1969)およびケミカル・アンド・ファーマシューティカル・ブレティン(Chem. Pharm. Bull.)、30、1024(1982)]、L-アスコルビン酸-2-燐酸エステルマグネシウム塩を含有する水溶液にアルコール類またはアセトンなどを添加して該結晶を得る方法(特開昭59-51293号)が知られているが、これらの方法は結晶の純度、安定性、結晶化の簡便性などの点で十分とは言えない。」
(3c)「【0023】・・・
実施例1
非晶質L-アスコルビン酸-2-燐酸エステルマグネシウム塩20gに1リットルの水を加え2W/V%とし、50?60℃に加温溶解した。得られた溶液をろ過し、ろ液を減圧下で濃縮し、80mlの溶液を得た。得られた溶液のL-アスコルビン酸-2-燐酸エステルマグネシウム塩の濃度[析出したAPMgと水に溶けているAPMgの合計重量(g)/水の体積(ml)]×100(%)は25W/V%であった。その後、室温まで冷却し、結晶を析出させて目的の結晶を得た。得られた結晶についてDSCチャートにより確認した結果、全て結晶質L-アスコルビン酸-2-燐酸エステルマグネシウム塩であることが判明した。
・・・・・・・・・・・・・・・
【0028】試験例1
実施例1で得られた結晶質L-アスコルビン酸-2-燐酸エステルマグネシウム塩について密閉容器中、60℃下での残存率を測定し、非晶質L-アスコルビン酸-2-燐酸エステルマグネシウム塩[ホスピタンC(商品名)、昭和電工(株)製]と比較することによりその安定性を評価した。結果を表1に示す。
【0029】
【表1】
60℃下の安定性(残存率%)
2週 1カ月 2カ月 3カ月 6カ月
本発明での結晶 99.9 99.1 98.4 97.6 95.3
非晶質 99.0 96.5 93.9 90.5 78.5
【0030】表1から明らかなように、本発明による結晶は優れた安定性を有する。」

エ 刊行物4
(4a)「1 親水性溶媒と水からなる含水溶媒中で、アンピシリンまたはその塩類、シリル誘導体に、水酸化ナトリウムまたはナトリウム塩を作用させてアンピシリンナトリウム塩を生成させ、含水溶媒系から晶出させることを特徴とするアンピシリンナトリウム塩I型結晶の製造法。」(4頁、特許請求の範囲)
(4b)「本発明は、アンピシリンナトリウム塩の製造法に関するものである。
半合成ペニシリンの1つであるアンピシリンは、グラム陽性およびグラム陰性菌によつて引き起される種々の感染症に対して有効であるため、広く繁用されている。現在アンピシリンは、一般に遊離型とナトリウム塩が用いられている。このうち遊離型のものには、結晶形の無水物(特公昭41-8349)およびトリハイドレート(米国特許3157640)があり、これらはその無晶形のものに比し,安定であることが知られているが、ナトリウム塩の結晶性と安定性については十分研究されていない。」(1頁1欄27行?2欄2行)
(4c)「本発明方法によればアンピシリンナトリウム塩は、安定な結晶形(I型と称する)として得ることができる。このI型結晶は、たとえばアンピシリンナトリウム塩の水溶液を凍結乾燥して得られる無晶形のものと比較すると、たとえば40℃、関係湿度52.4℃条件で保存した場合の残存率および吸湿平衡は、第4図および第5図に示すごとく、I型結晶が顕著にすぐれている・・・。」(2頁3欄31?40行)
(4d)「

」(7頁、第4図)
(4e)「

」(7頁、第5図)

オ 刊行物5
(5a)「1.(6R,7R)-7-〔(Z)-2-(2-アミノチアゾール-4-イル)-2-メトキシイミノアセトアミド]-3-(1-キヌクリジニウムメチル)-3-セフエム-4-カルボキシレートまたは(6R,7R)-7-〔(Z)-2-(5-アミノ-1-チア-2,4-ジアゾール-3-イル)-2-メトキシイミノアセトアミド〕-3-(1-キヌクリジニウムメチル)-3-セフエム-4-カルボキシレ-トであるセフアロスポリン誘導体の結晶性無水物、0.5水和物、1水相物または3水和物。
2.(6R,7R)-7-〔(Z)-2-(2-アミノチアゾール-4-イル)-2-メトキシイミノアセトアミド〕-3-(1-キヌクリジニウムメチル)-3-セフエム-4-カルボキシレートまたは(6R,7R)-7-〔(Z)-2-(5-アミノ-1-チア-2,4-ジアゾール-4-イル)-2-メトキシイミノアセトアミド〕-3-(1-キヌクリジニウムメチル)-3-セフエム-4-カルボキシレートであるセフアロスポリン誘導体の無定形物を、水性有機溶媒に溶解し、得られる溶液を有機溶媒に加え、もしくは冷却し、次いで必要に応じて乾燥することを特徴とするセフアロスポリン誘導体の結晶性無水物、0.5水和物、1水和物または3水和物の製造法。」(1頁、特許請求の範囲の請求項1及び2)
(5b)「〈背景技術〉
7-位に2-(2-アミノチアゾール-4-イル)-2-メトキシイミノアセトアミド基を有するセフアロスポリン誘導体が、強力な抗菌活性を有する抗生物質として知られている。
例えば、下記式

で表される(6R,7R)-7-〔(Z)-2-(2-アミノチアゾール-4-イル)-2-メトキシイミノアセトアミド]-3-(1-キヌクリジニウムメチル)-3-セフエム-4-カルボキシレートは、ベタイン構造を有し、各種のグラム陽性菌、グラム陰性菌に対して強力な抗菌活性を有するセフアロスポリン誘導体(特開昭59-239292号公報)である。
これらのセフアロスポリン誘導体は、分子中に有するβ-ラクタム環の加水分解が起り易く、通常化学的に不安定である。」(2頁左上欄14行?右上欄下から4行)
(5c)「したがつて、かかるセファロスポリン誘導体を医薬として用いる場合、安定な形態で使用することが非常に重要である。
〈発明の開示〉
本発明の目的は、(6R,7R)-7-〔(Z)-2-(2-アミノチアゾール-4-イル)-2-メトキシイミノアセトアミド)-3-(1-キヌクリジニウムメチル)-3-セフエム-4-カルボキシレートまたはその誘導体の安定化された結晶性化合物を提供することにある。」(2頁右上欄下から3行?左下欄8行)
(5d)「(2) 3水和物,1水和物,0.5水和物,無水物を褐色バイアルに熔封後85℃で保存し、高速液体クロマドグラフィーで分析した。結果を下表に示す。(残存率,%)

試料 \ 経時 10日後 24日後
無定形物 0 0
3水和物 97.0 86.8
1水和物 96.1 85.5
0.5水和物 98.3 86.3
無水物 97.5 86.0
」(8頁右上欄下から4行?左下欄)

カ 刊行物6
(6a)「【請求項1】粉末X線回折により、面間隔12.8、8.8、5.6、4.44、4.36、4.2Åに主ピークを示す回折パターンを有する(+)-(5R,6S)-6-[(R)-1-ヒドロキシエチル]-3-(3-ピリジル)-7-オキソ-4-チア-1-アザビシクロ[3.2.0]ヘプト-2-エン-2-カルボン酸ピバロイルオキシメチルエステルの結晶。
【請求項2】(+)-(5R,6S)-6-[(R)-1-ヒドロキシエチル]-3-(3-ピリジル)-7-オキソ-4-チア-1-アザビシクロ[3.2.0]ヘプト-2-エン-2-カルボン酸ピバロイルオキシメチルエステルの良溶媒溶液に、該良溶媒と混和性の貧溶媒を添加、撹拌し、30℃以下に冷却して、粉末X線回折により、面間隔12.8、8.8、5.6、4.44、4.36、4.2Åに主ピークを示す回折パターンを有する(+)-(5R,6S)-6-[(R)-1-ヒドロキシエチル]-3-(3-ピリジル)-7-オキソ-4-チア-1-アザビシクロ[3.2.0]ヘプト-2-エン-2-カルボン酸ピバロイルオキシメチルの結晶を得ることを特徴とする該結晶の製造方法。」(2頁、特許請求の範囲の請求項1及び2)
(6b)「【0001】【産業上の利用分野】本発明は医薬用の抗菌化合物として有用なペネム化合物の結晶およびその製造方法に関する。
【0002】【従来の技術および課題】特開昭62-263183号には、ある種の2-ピリジル-ペネム化合物が開示されており、そのうち、特に、式:


で表される(+)-(5R,6S)-6-[(R)-1-ヒドロキシエチル]-3-(3-ピリジル)-7-オキソ-4-チア-1-アザビシクロ[3.2.0]ヘプト-2-エン-2-カルボン酸ピバロイルオキシメチルエステルは、特に、経口投与によりグラム陰性菌のみならずグラム陽性菌にも優れた抗菌活性を有する有用なペネム化合物であり、その実用化が検討されている。しかし、該ペネム化合物は、優れた抗菌活性を示す一方、これまで無晶形でしか得られておらず、この無晶形の固体は安定性が不十分で、通常の条件下で長時間保存すると変色し、製剤化に際し、有効成分の含量低下を来す問題がある。また、無晶形の固体を実質的に純粋なものとするには、煩雑な精製工程を要する問題がある。そこで、本発明者らは、これらの問題点を解決するために、優れた抗菌活性を示す該ペネム化合物を保存安定性の良い形状として得るべく鋭意検討の結果、該ペネム化合物が安定な結晶として得られること、結晶化により容易に精製できること、さらに、結晶の残留溶媒の面から、医薬として有利な水-エタノール系より結晶が得られることを見出し、本発明を完成するに至った。」
(6c)「【0010】実施例1
前記参考例で得られた(+)-(5R,6S)-6-[(R)-1-ヒドロキシエチル]-3-(3-ピリジル)-7-オキソ-4-チア-1-アサビシクロ[3.2.0]ヘプト-2-エン-2-カルボン酸ピバロイルオキシメチルエステルの無晶形の粉末19.5gをエタノール98ミリリットルに溶解した。この溶液を31℃に加温し、32℃に加温した水146ミリリットルを加え、活性炭(白サギP、武田薬品工業(株)製)0.98gを加えて10分間撹拌した。ついで、活性炭を濾去し、エタノール20ミリリットルと水29ミリリットルの混液で洗浄した。濾液を25?30℃で1時間撹拌した後、10℃で冷却し、さらに1時間撹拌した。晶出した結晶を濾取し、エタノール20ミリリットルと水39ミリリットルの混液および水120ミリリットルで順次洗浄し、減圧下35℃で約5時間乾燥すると白色の粉末として該エステルの結晶16.6gが得られた。融点:95?96℃
・・・・・・・・・・・・・・・
【0014】実験例
本発明の方法で製造したエステルの結晶形粉末および参考例により製造した無晶形粉末のそれぞれを60℃の温度で密栓容器中暗所に保存し、残存率を調べた。
粉末の種類 保存条件 残存率
無晶形粉末 60℃ 14日間 37.7%
実施例1の結晶形粉末 60℃ 19日間 98.7%
実施例2の結晶形粉末 60℃ 14日間 98.9%


キ 刊行物7
訳文で示す。
(7a)「医薬品固体:法規制考慮への戦略的アプローチ」(945頁、標題)
(7b)「医薬品固体の対象における興味は、“適切な”分析手法を用いて原薬の多形、水和、又は無定形を検出すべきであるとする、食品医薬品局(FDA)の原薬ガイドラインに部分的に由来する。これらのガイドラインは、原薬の結晶形態を制御することの重要性を示す。ガイドラインはまた、原薬の結晶形態を制御すること、及びバイオアベイラビリティが影響されるならば、その制御方法の妥当性を実証することは、申請者の責任であるとしている。
したがって、新薬申請(NDA)は、特にバイオアベイラビリティが問題となる場合には、固体状態に関する情報が含まれていなければならないことが明らかである一方で、申請者は、情報収集への科学的アプローチやどのような情報が必要とされるのかについて、確信が持てないであろう。この総説は、一連のガイドラインや規則ではなく、フローチャートの形でコンセプトやアイディアを示すことにより、こうした不確かさの大部分を取り除くための戦略的なアプローチを提供することを目的とする。個別の化合物はそれぞれ、アプローチの柔軟性を必要とする特有の特性を有するため、このことは特に重要である。ここで提案されるこの研究は、臨床試験用新医薬品(IND)申請プロセスの一部分である。
固体の医薬物質は、広範囲であり且つ概して予測のできない、様々な固体状態特性を示す。それでもなお、多くの事例において、適切な分析的手法を用いて基本的な物理化学的性質を申請することは、固体状態での挙動に関する科学的及び規制上の決定のための戦略を提供する。医薬品開発の初期段階において、固体状態での挙動に関する基本的な疑問に取り組むことにより、申請者とFDAの両者は、医薬物質の固体状態特性の何らかの変動が与え得る効果を評価しやすくなる。この分野に関してはその結果としてもたらされる両者の初期段階での関わりは、臨床試験中に用いられる物質の均質性を保障しやすくするだけではなく、医薬品開発の臨床段階に入る前に固体状態での問題点を完全に解決することにもつながる。これらの科学的研究がもたらす更なる利益は、医薬物質の固体形態を充分に記述する、固体状態についての有意義な規格の確立である。これらの規格はしたがって、サプライヤー又は化学工程における一部変更承認を促進する。」(945頁左欄1行?右欄15行)
(7c)「既に述べたように、原薬の多形及び水和物の存在について調べることが得策である。というのは、これらは医薬品製造プロセスの何れかの段階で、又は原薬若しくは製剤の貯蔵に際して遭遇し得るからである。」(946頁左欄下から5?末行)
(7d)「A.多形の形成?多形は発見されているか?
多形決定ツリーの最初のステップは、多形は可能かという質問への回答を試みるために、その物質を多数の異なる溶媒から結晶化させることである。溶媒は、最終結晶化工程で用いられるもの、及び製剤化や加工工程で用いられるものを含み、水、メタノール、エタノール、プロパノール、イソプロパノール、アセトン、アセトニトリル、酢酸エチル、ヘキサン、及び適切であればこれらの混合物を使用できる。」(946頁右欄19?28行)
(7e)「フローチャート/多形決定ツリー」と題する図1(946頁)は、左上の「多形は発見されているか?」で始まり、左下には以下の記載がある。
「多形のための試験
-X線粉末回折
-示差走査熱量分析
-顕微鏡
-赤外吸収スペクトル
-固体NMR」
「溶媒和物又は水和物のためのフローチャート」と題する図6(949頁)にも試験の手段が挙げられている。

ク 刊行物8
(8a)「【請求項1】CuK_(α) 放射線を使用して測定した2θ値:11.9または22.0うちの少なくとも一つを含有するX線粉末回折を有する結晶性形態Iのアトルバスタチン水和物。
・・・・・・・・・・・・・・・
【請求項9】CuK_(α) 放射線を使用して測定した2θ値:9.0および20.5を含有するX線粉末回折を有する結晶性形態IIのアトルバスタチンまたはその水和物。」(特許請求の範囲の請求項1及び9)
(8b)「【0001】【発明の背景】本発明は、医薬として有用である新規な結晶性形態の化学名〔R-(R^(*),R^(*))〕-2-(4-フルオロフェニル)-β,δ-ジヒドロキシ-5-(1-メチルエチル)-3-フェニル-4-〔(フェニルアミノ)カルボニル〕-1H-ピロール-1-ヘプタン酸ヘミカルシウム塩によって知られているアトルバスタチン、この化合物を製造および単離する方法、この化合物および医薬的に許容し得る担体を含有する医薬組成物、および医薬的治療方法に関するものである。本発明の新規な結晶性化合物は・・・有用な血中脂質性低下剤および血中コレステロール低下剤である。
・・・・・・・・・・・・・・・
【0007】上記米国特許の方法は、大規模な生産に対して適当でない濾過および乾燥特性を有しそして熱、光、酸素および湿気から保護しなければならない無定形のアトルバスタチンを開示している。」
(8c)「【0008】驚くべきことにはそして意外にも、アトルバスタチンは結晶性の形態で製造することができるということが見出された。すなわち、本発明は、形態I、形態IIおよび形態IVと称される新規な結晶性形態のアトルバスタチンを提供する。形態Iのアトルバスタチンは、従来の無定形の生成物よりも小さい粒子およびより一様な大きさの分布からなり、そしてより有利な濾過および乾燥特性を示す。さらに、形態Iのアトルバスタチンは、無定形の生成物よりも純粋でありそしてより安定である。」
(8d)「【0038】本発明は、結晶性形態Iのアトルバスタチンを与える条件下で溶剤中の溶液からアトルバスタチンを結晶化させることからなる結晶性形態Iのアトルバスタチンの製法を提供する。結晶性形態Iのアトルバスタチンが形成される正確な条件は、経験的に決定することができそして実施に適当であることが見出される多数の方法を与えることができる。
【0039】すなわち、例えば、結晶性形態Iのアトルバスタチンは、調節された条件下における結晶化によって製造することができる。特に、それは、例えば酢酸カルシウムなどのようなカルシウム塩の添加によって、相当する塩基性塩、例えばアルカリ金属塩、例えばリチウム、カリウム、ナトリウム塩など;アンモニアまたはアミン塩;好ましくはナトリウム塩の水溶液から、または、無定形のアトルバスタチンを水に懸濁することによって製造することができる。一般に、ヒドロキシル性補助溶剤、例えば低級アルカノール、例えばメタノールなどの使用が好ましい。
【0040】所望の結晶性形態Iのアトルバスタチンを製造するための出発物質が相当するナトリウム塩の溶液である場合は、一つの好ましい製法は、約5v/v%以上のメタノール、好ましくは約5?33v/v%のメタノール、特に好ましくは約10?15v/v%のメタノールを含有する水中のナトリウム塩の溶液を、約70℃までの高い温度、例えば約45?60℃、特に好ましくは約47?52℃で、酢酸カルシウムの水溶液で処理することからなる。一般に、アトルバスタチンのナトリウム塩2モルに対して酢酸カルシウム1モルを使用することが好ましい。これらの条件下において、カルシウム塩形成ならびに結晶化は、好ましくは高い温度、例えば上述した温度範囲内で実施しなければならない。出発溶液に、例えば約7w/w%のような少量のメチル第3ブチルエーテル(MTBE)を含有させることが有利であるということが見出された。しばしば、結晶性形態Iのアトルバスタチンを一貫して製造するために、結晶性形態Iのアトルバスタチンの“種子(seeds)”を結晶化溶液に加えるのが望ましいということが見出されている。
【0041】出発物質が無定形のアトルバスタチンまたは無定形および結晶性形態Iのアトルバスタチンの組み合わせである場合は、所望の結晶性形態Iのアトルバスタチンは、必要な形態への変換が完了するまで、約40v/v%まで、例えば約0?20v/v%、特に好ましくは約5?15v/v%の補助溶剤、例えばメタノール、エタノール、2-プロパノール、アセトンなどを含有する水中に固体を懸濁し次いで濾過することによって得ることができる。しばしば、結晶性形態Iのアトルバスタチンへの完全な変換を確保するために、結晶性形態Iのアトルバスタチンの“種子”を懸濁液に添加することが望ましいということが見出されている。このようにする代わりに、主として無定形のアトルバスタチンからなる水湿潤ケーキを、有意な量の結晶性形態Iのアトルバスタチンが存在するまで、高い温度、例えば約75℃まで、特に好ましくは約65?70℃の温度で加熱し、それによって無定形/懸濁液形態Iの混合物を上述したようにスラリー化することができる。」
(8e)「【0042】結晶性形態Iのアトルバスタチンは、無定形のアトルバスタチンよりも著しく容易に単離し、そして冷却後結晶化媒質から濾過し、洗浄しそして乾燥することができる。例えば、結晶性形態Iのアトルバスタチンの50mlのスラリーの濾過は、10秒以内に完了した。無定形のアトルバスタチンの同様な量の試料は、濾過するのに1時間以上を必要とした。」
(8f)「【0043】本発明は、また結晶性形態IIのアトルバスタチンを与える条件下でアトルバスタチンを溶剤に懸濁することからなる結晶性懸濁IIのアトルバスタチンの製法を提供する。形態IIの結晶性アトルバスタチンが形成される正確な条件は、経験的に決定することができそして実施に適当であることが見出される方法を与えることができる。
【0044】すなわち、例えば、出発物質が無定形、無定形および形態Iの組み合わせまたは結晶性形態Iのアトルバスタチンである場合は、所望の形態IIの結晶性アトルバスタチンは、必要な形態への変換が完了するまで、固体を、約40?50%の水を含有するメタノールに懸濁し次いで濾過することによって得ることができる。」
(8g)「【0060】【実施例】実施例 1
〔R-(R^(*),R^(*))〕-2-(4-フルオロフェニル)-β,δ-ジヒドロキシ-5-(1-メチルエチル)-3-フェニル-4-〔(フェニルアミノ)カルボニル〕-1H-ピロール-1-ヘプタン酸ヘミカルシウム塩(形態Iのアトルバスタチン)
方法A
(2R-トランス)-5-(4-フルオロフェニル)-2-(1-メチルエチル)-N,4-ジフェニル-1-〔2-(テトラヒドロ-4-ヒドロキシ-6-オキソ-2H-ピラン-2-イル)エチル〕-1H-ピロール-3-カルボキサミド(アトルバスタチンラクトン)(米国特許第5,273,995号)(75kg)、メチル第3ブチルエーテル(MTBRE)(308kg)、メタノール(190L)の混合物を、48?58℃で水酸化ナトリウムの水溶液(950L中5.72kg)と40?60分反応させて開環したナトリウム塩を形成させる。25?35℃に冷却した後、有機層を捨てそして水性層を再びMTBE(230kg)で抽出する。有機層を捨て、そしてナトリウム塩のMTBE飽和水溶液を、47?52℃に加熱する。この溶液に、水(410L)に溶解した酢酸カルシウム半水和物(11.94kg)の溶液を、少なくとも30分にわたって加える。酢酸カルシウム溶液の添加後直ぐに、結晶性形態Iのアトルバスタチンのスラリー(水11Lおよびメタノール5L中の1.1kg)を、種子として混合物に加える。それから、混合物を少なくとも10分51?57℃に加熱し、そしてそれから15?40℃に冷却する。混合物を濾過し、水(300L)およびメタノール(150L)の溶液で洗浄し、次いで水(450L)で洗浄する。固体を、真空下60?70℃で3?4日間乾燥して結晶性形態Iのアトルバスタチン(72.2kg)を得た。
方法B
無定形のアトルバスタチン(9g)および結晶性形態Iのアトルバスタチン(1g)を、水(170ml)およびメタノール(30ml)の混合物中において約40℃で全体で17時間撹拌する。混合物を濾過し、水ですすぎ、そして減圧下70℃で乾燥して結晶性形態Iのアトルバスタチン(9.7g)を得た。」
(8h)「実施例 2
〔R-(R^(*),R^(*))〕-2-(4-フルオロフェニル)-β,δ-ジヒドロキシ-5-(1-メチルエチル)-3-フェニル-4-〔(フェニルアミノ)カルボニル〕-1H-ピロール-1-ヘプタン酸ヘミカルシウム塩(形態IIのアトルバスタチン)
無定形および結晶性形態Iのアトルバスタチンの混合物(100g)を、メタノール(1200ml)および水(800ml)の混合物に懸濁し、そして3日間撹拌する。この物質を濾過し、減圧下70℃で乾燥して結晶性形態IIのアトルバスタチンを得た。」

ケ 刊行物9
訳文で示す。
(9a)「プロセスの開発における多形」(527頁、標題)
(9b)「結晶性製品は、一般に、単離し、精製し、乾燥するのに、そしてバッチプロセスにおいては取扱い、製剤化するのに、最も容易である。」(527頁左欄1?3行)
(9c)「多形は、同一分子の単位セル内での結合方法が異なる結晶格子をもつ。その相違は、セル内の分子の詰め込み方の違いや立体配置の変化を反映しており、大きなものであり得る。水素結合は、医薬産業にとって興味のあるほとんどの分子に関係するであろう。」(527頁左欄15?20行)
(9d)「可能性のあるいかなる多形が得られるかは、結晶化が生じる温度、溶媒の性質(親水性か、疎水性か)、そして結晶化が始まる過飽和の程度、といった様々なファクターに依存するようである。種結晶の使用は、目的とする多形を得るために有用である。」(527頁右欄9?14行)
(9e)「少数の化合物しか開発に至らないうえ、市販されるものはさらに少ない。各開発候補品に進展のための最良の機会を与えるには、多形が現れるのを成行き任せにしてその結果混乱を来すよりも、多形について調査するほうが良いと思われる。多形を得ようとする試みにおいて用いられる手法には、急速に溶液を冷却するか、溶質の溶けにくい第二の溶媒を加えるか、過剰の固体を溶媒と共に激しく攪拌するか、過剰の固体を高沸点溶媒と共に加熱するか、昇華させるか、及び溶液のpHを急激に変化させて酸性又は塩基性の物質を沈殿させるかという方法により、異なる温度下で様々な溶媒(極性及び非極性、親水性及び疎水性)から結晶化させることが含まれる。」(528頁左欄2?14行)

3 刊行物に記載された発明
刊行物1は、ミノサイクリンを、実際に合成し、元素分析したこと、及び得られたミノサイクリンが標準試料と同一だったことが記載されている(摘示(1a)?(1d))。この生成物は、式(VI)で表される化合物であり、遊離塩基である。
したがって、刊行物1には、
「ミノサイクリン塩基」
の発明(以下「引用発明」という。)が記載されているということができる。

4 本願発明と引用発明との対比
本願発明と引用発明とを対比すると、両者は、
「ミノサイクリン塩基」
である点で一致し、以下の点で相違する。
(相違点)
本願発明は、ミノサイクリン塩基が、形態IIIの結晶性のものであり、X線回折パターンの2θの数値で特定されたものであるのに対し、引用発明においてはミノサイクリン塩基がそのように特定されたものではない点

5 相違点についての検討

ア 結晶を得ることの動機付けについて
刊行物2(特開平6-192228号公報)は、結晶性(R)-(-)-2-シクロヘプチル-N-メチルスルフォニル-[4-(2-キノリニルメトキシ)-フェニル]-アセトアミドに係る文献であるところ、同文献には、非結晶状態のアセトアミドは、固形薬品の製造において重大な欠点を有しており、結晶性のアセトアミドは、非結晶状態のアセトアミドと比較して、物理的安定性に優れている旨が記載されている(摘示(2a)?(2c))。
刊行物3(特開平7-53581号公報)は、結晶質L-アスコルビン酸-2-燐酸エステルマグネシウム塩の製造法に係る文献であるところ、同文献には、非晶質のL-アスコルビン酸-2-燐酸エステルマグネシウム塩は、保存時において吸湿しやすく、実用面で支障が生じやすいため、安定な結晶質のL-アスコルビン酸-2-燐酸エステルマグネシウム塩が望ましい旨が記載されている(摘示(3a)?(3c))。
刊行物4(特公昭52-45716号公報)は、アンピシリンナトリウムの製造法に係る文献であるところ、同文献には、アンピシリンナトリウムのI型結晶は、無晶型のものと比較すると、例えば40℃、関係湿度52.4℃条件で保存した場合の残存率及び吸湿平衡が顕著に優れている旨が記載されており(摘示(4a)(4c)?(4e))、アンピシリン遊離型も、結晶形の無水物及びトリハイドレートが無晶形のものに比し安定である旨が記載されている(摘示(4b))。
刊行物5(特開昭61-263985号公報)は、セフアロスポリン誘導体に係る文献であるところ、同文献には、セフアロスポリン誘導体は、加水分解が起こり易く化学的に不安定であり、無定形物は85℃10日後に残存率0であるのに対し、結晶性無水物、0.5水和物、1水和物及び3水和物は残存率96.1%以上と安定である旨が記載されている(摘示(5a)?(5d))。
刊行物6(特開平4-235188号公報)は、ペネム化合物の結晶、その製造方法及び抗菌剤に係る文献であるところ、同文献には、ペネム化合物の無晶形の固体は安定性が不十分で製剤化に際し有効成分の含量低下を来す問題があり、該化合物の結晶形粉末は保存安定性が良い旨が記載されている(摘示(6a)?(6c))。
刊行物8(特開2003-73353号公報)は、アトルバスタチンに係る文献であるところ、同文献には、結晶性形態Iのアトルバスタチンは、無定形のアトルバスタチンよりも、有利な濾過及び乾燥特性を示し、純粋であり、より安定である旨が記載されている(摘示(8a)?(8c)(8e))。
以上によると、本願優先日当時、一般に、医薬化合物については、安定性、純度、扱いやすさ等の観点において結晶性の物質が優れていることから、医薬化合物を結晶化することについては強い動機付けがあり、結晶化条件を検討したり、結晶多形を調べることは、当業者がごく普通に行うことであるものと認められる。
そして、ミノサイクリンは、治療上有効とされる抗生物質であって、医薬化合物なのであるから、刊行物1に開示されたミノサイクリン塩基について、当業者が、結晶を得ようとして結晶化条件を検討したり、得られた結晶について分析することには、十分な動機付けを認めることができる。

イ 特定の工程を採用する点及びX線粉末回折の2θの数値で特定されたものである点について

(ア)形態IIIの結晶を得るために本願明細書が開示した方法は、段落【0013】の「非晶質ミノサイクリン塩基を、アルコール類から選択される有機溶媒に溶解させること、及び/又は懸濁させること、続いて、該混合物から結晶化させることを含む。好ましくは、該方法は、非晶質ミノサイクリン塩基を、アルコール類から選択される有機溶媒に懸濁させること、該不均一混合物を0℃?30℃、好ましい範囲である10℃?15℃の温度まで冷却すること、及び該反応混合物から形態IIIを単離することを含む。任意の適当なアルコールを溶媒として使用してもよいが、エタノールを使用することが好ましい」というものである。
結晶多形を得るために、溶液から結晶化させる方法は、極めて一般的なものである。過剰の固体を溶媒とともに激しく攪拌する方法も、刊行物9(Chemistry & Industry,21,1989,p.527-529)(化学物質の結晶、特に結晶多形の研究の重要性を指摘する文献である。)にも記載されるように当業者が通常採用する方法であり(摘示(9e))、刊行物2及び刊行物8においても、懸濁液を養生する方法が採用されている(摘示(2a)、(8d)(8f)?(8h))。また、溶媒又は分散媒として、アルコール類は極めてありふれたものである。
そうすると、本願明細書が開示した方法は、当業者が通常採用しないような手法を用いているものではなく、特殊な条件設定が必要であるというものでもないから、形態IIIは、当業者が通常なし得る範囲の試行錯誤で得られた結果物である結晶に過ぎないものというべきである。

(イ)そして、結晶性が期待される医薬化合物の分析のために、X線粉末回折を行うことは、通常のことであるから(例えば、刊行物7(Pharmaceutical Research,12(7),1995,p.945-954)(医薬品固体を得るための手法に係る総説的な文献である。)の摘示(7e)参照)、相違点に係る、X線回折パターンの2θの数値で特定されたものである点は、当業者が、得られた結晶について、その分析において通常用いるX線粉末回折を行った場合に得られる結果を、提示しただけのことに過ぎない。

ウ 以上によれば、本願発明は、ミノサイクリン塩基の特定の結晶性形態(形態III)に係る発明であるところ、刊行物1により開示されたミノサイクリン塩基について、結晶を得ることを意図し、アルコール類に溶解及び/又は懸濁させて、結晶化させるという、当業者が通常採用する手法を採用して、諸条件を検討したり、得られた結晶について分析することにより得られた結果物である結晶に過ぎないものであるから、引用発明において、相違点に係る本願発明の構成を備えたものとすることは、当業者が容易に想到し得ることである。

6 効果について

ア 本願発明の効果は、本願明細書の段落【0001】?【0005】の記載からみて、「ミノサイクリン塩基を安定な結晶形態で提供できる」こと及び「全ての不純物、特に、不純物4-エピミノサイクリンは、非常に低いレベルまで制御される」ことであると認められる。
しかし、この効果は、以下に示すように、格別の効果であるとはいえない。

イ 安定性について
上記5アのとおり、結晶が無定形よりも安定性を有することは、当業者の技術常識であるということができる。
本願明細書には、結晶性形態IIIは、安定な結晶形態で提供できる旨が記載されているが、その記載から、結晶性形態IIIの安定性が、通常の結晶から予測し得る範囲を超える顕著なものであるとまで認めることはできない。

ウ 不純物が少ないことについて
刊行物9には、一般に、単離、精製、乾燥及びバッチプロセスにおいて、結晶性製品は、取扱いや製剤が最も容易であることが記載されている(摘示(9b))。
したがって、一般に、結晶は、無定形と比較して、容易に精製でき、その結果、優れた純度を有することは、本願優先日前から当業者に周知であったということができる。
また、安定性が高いことは、分解や変質による不純物の増加が少ないということである。
本願明細書には、不純物4-エピミノサイクリンの含有量が1.2%w/wより下である旨が記載され、HPLC分析の結果は、実施例5で0.12%面積であることが記載されているが、本願明細書の上記記載から、形態IIIの不純物の量の少なさが、結晶として通常予測し得る範囲を超えるほど顕著なものであるとまで認めることはできない。

エ 以上によれば、本願発明の結晶性形態の作用効果について、格別顕著なものとまでいうことはできない。

7 まとめ
したがって、本願発明は、刊行物1に記載された発明及び技術常識に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により、特許を受けることができない。

第5 むすび
以上のとおり、本願発明は、特許を受けることができないものであるから、この出願は、拒絶をすべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2017-06-06 
結審通知日 2017-06-13 
審決日 2017-06-26 
出願番号 特願2014-104022(P2014-104022)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (C07C)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 井上 典之杉江 渉  
特許庁審判長 井上 雅博
特許庁審判官 中田 とし子
木村 敏康
発明の名称 結晶性ミノサイクリン塩基及びその製造方法  
代理人 石川 徹  

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