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審決分類 審判 査定不服 4号2号請求項の限定的減縮 特許、登録しない。 H01L
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 H01L
管理番号 1334259
審判番号 不服2016-6375  
総通号数 216 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2017-12-28 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2016-04-28 
確定日 2017-11-09 
事件の表示 特願2011-233970「耐久性が改良された熱アシスト磁気ランダムアクセスメモリ素子」拒絶査定不服審判事件〔平成24年 5月17日出願公開,特開2012- 94870〕について,次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は,成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は,平成23年10月25日(パリ条約による優先権主張2010年10月26日,欧州特許庁)の出願であって,平成23年12月22日付けで翻訳文の提出がなされ,平成26年5月1日付けで審査請求がなされ,平成27年2月16日付けで拒絶理由の通知がなされ,同年5月21日付けで意見書及び手続補正書の提出がなされ,同年7月1日付けで拒絶理由の通知がなされ,同年10月5日付けで意見書及び手続補正書の提出がなされ,同年12月28日付けで拒絶査定がなされた。
これに対して平成28年4月28日付けで拒絶査定不服審判の請求がなされるとともに手続補正書の提出がなされ,同年9月1日付けで上申書の提出がなされたものである。


第2 補正の却下の決定
[補正の却下の決定の結論]
平成28年4月28日付けの手続補正書による補正を却下する。
[理由]
1 補正の内容
平成28年4月28日付けの手続補正(以下「本件補正」という。)は,補正前の特許請求の範囲の請求項1乃至9を,補正後の特許請求の範囲の請求項1乃至9に補正するものであり,補正前後の請求項1は,各々次のとおりである。(注:補正箇所に当審で下線を付した。)

(1)補正前の請求項1
「磁気トンネル接合の一端と電気的に連絡した電流線を備える,熱アシストスイッチング書き込み操作に適した磁気メモリ素子であって,前記磁気トンネル接合が,固定磁化を有する第1の強磁性層と,所定の高温しきい値で自由に整列され得る磁化を有する第2の強磁性層と,前記第1の強磁性層と前記第2の強磁性層の間に提供されたトンネル障壁とを備え,
前記電流線が,前記書き込み操作中に前記磁気トンネル接合を通して加熱電流を流すように適合されている当該磁気メモリ素子において,
前記磁気トンネル接合は,前記加熱電流が前記磁気トンネル接合を通して流されるときに熱を発生するように適合された少なくとも1つの加熱要素(26,26)と,前記少なくとも1つの加熱要素と直列の1つの熱障壁(30)とをさらに備え,
前記熱障壁が,前記磁気トンネル接合内部で前記少なくとも1つの加熱要素によって発生した熱を閉じ込めるように適合されていること,及び
前記少なくとも1つの加熱要素が,前記トンネル障壁の抵抗面積積の0倍より大きく且つ0.95倍以下の抵抗面積積を有することを特徴とする磁気メモリ素子。」

(2)補正後の請求項1
「磁気トンネル接合の一端と電気的に連絡した電流線を備える,熱アシストスイッチング書き込み操作に適した磁気メモリ素子であって,前記磁気トンネル接合が,固定磁化を有する第1の強磁性層と,所定の高温しきい値で自由に整列され得る磁化を有する第2の強磁性層と,前記第1の強磁性層と前記第2の強磁性層の間に提供されたトンネル障壁とを備え,
前記電流線が,前記書き込み操作中に前記磁気トンネル接合を通して加熱電流を流すように適合されている当該磁気メモリ素子において,
前記磁気トンネル接合は,前記加熱電流が前記磁気トンネル接合を通して流されるときに熱を発生するように適合された2つの加熱要素(25,26)と,前記2つの加熱要素と直列の2つの熱障壁(30)とをさらに備え,
前記2つの熱障壁が,前記磁気トンネル接合内部で前記2つの加熱要素によって発生した熱を閉じ込めるように適合されていること,及び
前記加熱電流の通電時に前記磁気トンネル接合にわたる電圧が,0.63倍より大きく且つ0.95倍以下である係数だけ減少することを特徴とする磁気メモリ素子。」

(3)補正事項
本件補正では,本件補正前の請求項1は本件補正後の請求項1に対応し,本件補正前の請求項1と本件補正後の請求項1を比較すると,本件補正後の請求項1に係る本件補正には,以下の補正事項が含まれる。
ア 補正事項1
補正前の請求項1の「少なくとも1つの加熱要素(26,26)」を,「2つの加熱要素(25,26)」とする補正。
イ 補正事項2
補正前の請求項1の「少なくとも1つの加熱要素と直列の1つの熱障壁(30)」を,「前記2つの加熱要素と直列の2つの熱障壁(30)」とする補正。
ウ 補正事項3
補正前の請求項1の「前記熱障壁が,前記磁気トンネル接合内部で前記少なくとも1つの加熱要素によって発生した熱を閉じ込めるように適合されている」を,「前記2つの熱障壁が,前記磁気トンネル接合内部で前記2つの加熱要素によって発生した熱を閉じ込めるように適合されている」とする補正。
エ 補正事項4
補正前の請求項1の「前記少なくとも1つの加熱要素が,前記トンネル障壁の抵抗面積積の0倍より大きく且つ0.95倍以下の抵抗面積積を有する」を,「前記加熱電流の通電時に前記磁気トンネル接合にわたる電圧が,0.63倍より大きく且つ0.95倍以下である係数だけ減少する」とする補正。

2 補正の適否
(1)補正事項4について
補正事項4により補正された部分は,本願において,特許法第36条の2第6項の規定により明細書,特許請求の範囲及び図面とみなされた,平成23年12月22日に提出された外国語書面の翻訳文(以下「当初明細書等」という)に記載されているものと認められるから,補正事項4は当初明細書のすべての記載を総合することにより導かれる技術的事項との関係において新たな技術的事項を導入するものではない。したがって,補正事項4は,当初明細書等に記載された事項の範囲内においてなされたものであるから,特許法第17条の2第3項に規定する要件を満たす。
また,補正事項4が,特許法第17条の2第4項に規定する要件を満たすことは明らかである。
しかしながら,補正事項4は,「前記少なくとも1つの加熱要素が,前記トンネル障壁の抵抗面積積の0倍より大きく且つ0.95倍以下の抵抗面積積を有する」から,「前記加熱電流の通電時に前記磁気トンネル接合にわたる電圧が,0.63倍より大きく且つ0.95倍以下である係数だけ減少する」へ変えるものであるが,補正後の「電圧が,0.63倍より大きく且つ0.95倍以下である係数だけ減少する」は電圧について規定する事項であり,補正前の「加熱要素が,前記トンネル障壁の抵抗面積積の0倍より大きく且つ0.95倍以下の抵抗面積積を有する」は抵抗面積積について規定する事項であるため,両者はそもそも概念的に異なり,補正後に記載された事項が補正前に記載された事項より下位概念のものとは認められない。
そうすると,補正事項4は,特許法第17条の2第5項第2号に掲げる「特許請求の範囲の減縮(第36条第5項の規定により請求項に記載した発明を特定するために必要な事項を限定するものであつて,その補正前の当該請求項に記載された発明とその補正後の当該請求項に記載される発明の産業上の利用分野及び解決しようとする課題が同一であるものに限る。)」を目的とするものとは認められない。
さらに,当初明細書等の段落【0040】には,
「第1の加熱要素25は,その厚さ,その組成,及び生成条件に応じて,RA_(MTJ)の0?1.5倍の抵抗面積積RA_(HE)を有することができる。」
ことが記載されているので,補正前の「前記少なくとも1つの加熱要素が,前記トンネル障壁の抵抗面積積の0倍より大きく且つ0.95倍以下の抵抗面積積を有する」の記載自体が不明りょうであるとはいえないので,補正事項4において補正前の記載を補正後の記載に補正することは,明りょうでない記載の釈明に該当しない。
そして補正事項4は,特許法第17条の2第5項第1号に掲げる「第36条第5項に規定する請求項の削除」,及び特許法第17条の2第5項第3号に掲げる「誤記の訂正」を目的とするものでもない。
以上から,補正事項4は,特許法第17条の2第5項の第1号乃至第4号に掲げるいずれを目的としたものにも該当しない。

(2)むすび
したがって,補正事項4を含む本件補正は,特許法第17条の2第5項の各号に掲げるいずれの事項を目的とするものにも該当せず,同法第17条の2第5項の規定に違反するものであるから,他の補正事項について検討するまでもなく,同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下されるべきものである。


第3 補正却下の決定を踏まえた検討
1 本願発明
平成28年4月28日付けの手続補正は,上記のとおり却下されたので,本願に係る発明は,平成27年10月5日付け手続補正書の特許請求の範囲の請求項1乃至9に記載されている事項により特定されるとおりのものであり,そのうちの請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)は,上記第2の1(1)の「補正前の請求項1」の箇所に記載したとおりのものであり,再掲すると次のとおりである。

「磁気トンネル接合の一端と電気的に連絡した電流線を備える,熱アシストスイッチング書き込み操作に適した磁気メモリ素子であって,前記磁気トンネル接合が,固定磁化を有する第1の強磁性層と,所定の高温しきい値で自由に整列され得る磁化を有する第2の強磁性層と,前記第1の強磁性層と前記第2の強磁性層の間に提供されたトンネル障壁とを備え,
前記電流線が,前記書き込み操作中に前記磁気トンネル接合を通して加熱電流を流すように適合されている当該磁気メモリ素子において,
前記磁気トンネル接合は,前記加熱電流が前記磁気トンネル接合を通して流されるときに熱を発生するように適合された少なくとも1つの加熱要素(26,26)と,前記少なくとも1つの加熱要素と直列の1つの熱障壁(30)とをさらに備え,
前記熱障壁が,前記磁気トンネル接合内部で前記少なくとも1つの加熱要素によって発生した熱を閉じ込めるように適合されていること,及び
前記少なくとも1つの加熱要素が,前記トンネル障壁の抵抗面積積の0倍より大きく且つ0.95倍以下の抵抗面積積を有することを特徴とする磁気メモリ素子。」

2 引用文献と引用発明及び引用文献記載事項
(1)引用文献1
原査定の拒絶の理由に引用された,本願の優先権主張の日前に日本国内において頒布された刊行物である,特開2007-266301号公報(以下「引用文献1」という。)には,下記の事項が記載されている。
A 「【0018】
本発明では,スピン注入磁化反転方式MRAM(STS-MRAM)で大容量(Gbit超)MRAMを得る為,臨界電流密度J_(C) の低減,出力電圧の向上及び誤動作防止の両立を実現しようとする。
【課題を解決するための手段】
【0019】
本発明に依る磁気記憶装置及びその動作方法では,1層以上の強磁性層と非磁性層で構成された磁化自由層及び積層フェリピン構造の磁化固定層の間に絶縁層(TMR型)或いは非磁性層(GMR型)が介在し且つ磁化自由層近傍に発熱層が設けられてなる磁気抵抗効果素子を備えてなることが基本になっている。
・・・中略・・・
【0021】
(1)
本発明の磁気記憶装置及びその動作方法に於いては,磁気抵抗効果素子が1層以上の強磁性層と,非磁性層で構成される磁化自由層と,積層フェリピン構造(SAF:Synthetic anti ferro magnet)の磁化固定層とを備え,また,磁化固定層と磁化自由層の間には,TMR型では絶縁層を,そして,GMR型では非磁性層をそれぞれ介在させてあり,そして,磁化自由層近傍に発熱層を配設し,磁化自由層と発熱層は,非磁性の熱伝導率の高い金属層で接続し,印加電流によって生じた熱を効率良く磁化自由層に伝導する構成を採っている。
【0022】
また,発熱層とビット線とを低熱伝導率の金属層で接続することで,発熱を配線部に伝導しない構成にすることで,配線の耐久性を確保するようにしている。」
B 「【0026】
書き込み時(write-mode)には,発熱層に於ける発熱を促す為のストレス電流パルス印加後に,書込み電流パルスを印加する書き込み方式を行なう。すなわち,ストレス電流パルスによって磁化自由層近傍の温度を上昇させ,磁化自由層に於ける磁化反転磁界H_(C) ,及び書き込み電流I_(C) (=J_(C) *A)を低下させて書込みを容易にする(図3-b)。尚、書込み電流パルスで十分発熱が行われる設定では、ストレス電流パルスを使用しなくても良い(書き込みパルス単独)。」
C 「【実施例1】
【0030】
図1は本発明の磁気記憶装置に於けるGMR型磁気抵抗効果素子の一例を表す為の要部説明図であり,図に於いて,4Aは磁化固定層(ピンド層),4Bは非磁性金属層,4Cは磁化自由層(フリー層),4Dは高熱伝導層,4Eは発熱層,4Fは上部電極,10は下部電極,WLはワード線,BLはビット線をそれぞれ示している。
【0031】
ここで,下部電極10は厚さ50nmのCu膜で構成され,その上に形成された磁化固定層4AはPtMn15nm/CoFe4nm/Ru0.8nm/CoFe4nmを積層して成り,非磁性金属層4BはCu6nm,自由磁化層34はCoFeB2nm,高熱伝導層4Dは熱伝導良好なCu2nm,発熱層4EはNiCr10nm,上部電極4Fは低熱伝導金属であるTa10nmを積層した。
【0032】
図1に見られる下部電極10から上部電極13に至る各層は,全面に積層された段階で通常のリソグラフィ技術に於けるレジストプロセス及びドライエッチング法を適用することに依り,磁気抵抗効果素子パターンの寸法,即ち,100×200nmに加工し,その後,例えばCVD法を適用することに依り,例えばSiO_(2) からなる層間絶縁膜で埋め込み,通常のリソグラフィ技術に於けるレジストプロセス及びドライエッチング法を適用することに依り,前記層間絶縁膜に電極コンタクトホールを形成してから第2の配線BLを形成し,大容量メモリに対応する磁気抵抗効果素子が得られる。」
D 「【実施例2】
【0033】
図2は図1に見られるGMR型磁気抵抗効果素子とMOSトランジスタとを組み合わせた磁気記憶装置を表す要部切断側面図であり,図11及び図12に於いて用いた記号と同じ記号で指示した部分は同一或いは同効の部分を表すものとする。
【0034】
図に於いて,1はシリコン基板,3はビット線,4は磁気抵抗効果素子(GMR型),5はワード線(ゲート電極),6はソース/ドレイン領域,7A及び7Bは層間絶縁膜,8A及び8Bはコンタクトプラグ,9は接地線,10は下部電極,11は層間絶縁膜,12は素子分離領域,13はキャップ層,14は層間絶縁膜をそれぞれ示している。
・・・中略・・・
【0046】
図8参照
(9)
リソグラフィ技術に於けるレジストプロセス,スパッタリング法,リフトオフ法を適用することに依り,層間絶縁膜7B上にコンタクトプラグ8Bを介してソース領域或いはドレイン領域と導電接続された厚さ50nmのCuからなる下部電極10を形成する。
【0047】
(10)
スパッタリング法を適用することに依り,下部電極10上に厚さ15nmのPtMn層(反強磁性層),厚さ4nmのCoFe層(強磁性層),厚さ0.8nmのRu層(非磁性層),厚さ4nmのCoFe(強磁性層)を積層することで,積層フェリ構造をもつ固定磁化層4Aを形成する。尚,これ以後の説明で用いる記号4A乃至4Fについては図1を参照されると良い。
【0048】
(11)
スパッタリング法を適用することに依り,固定磁化層4A上に膜厚0.8nmのアルミ酸化(AlO_(X))膜を堆積してトンネル酸化膜4Bを形成する。尚,図1はGMR型を説明する図であった為,非磁性金属膜が存在し,それを指示する記号に4Bを用いた。然しながら,ここでは,TMR型について説明するので,非磁性金属膜はトンネル酸化膜に変更しているのであるが,便宜上,トンネル酸化膜も記号4Bで指示する。
【0049】
(12)
スパッタリング法を適用することに依り,トンネル酸化膜4B上に膜厚2nmのCoFeB膜を堆積して自由磁化層4Cとする。
【0050】
(13)
次いで,スパッタリング法を適用することに依り,自由磁化層4C上に膜厚2nmのCuからなる高熱伝導層4D,膜厚10nmのNiCrからなる発熱層4E,低熱伝導金属である膜厚10nmのTaからなる上部電極4Fを形成し,更に,膜厚10nmのRuからなるキャップ層13を形成する。
【0051】
(14)
フォトリソグラフィ法,及び,ドライエッチング法を適用することに依り,キャップ層13,上部電極4F,発熱層4E,高熱伝導層4D,磁化自由層4C,トンネル酸化膜4B,磁化固定層4Aを異方性エッチングする。これにより,例えば127nm×260nmのサイズをもつ磁気抵抗効果素子4及びキャップ層13が形成される。」

E 図1には,磁気抵抗効果素子として,下部電極10,磁化固定層4A,トンネル酸化膜4B,磁化自由層4C,高熱伝導層4D,発熱層4E,上部電極4Fの順に積層した構成が記載されている。

F 図2には,図1の磁気抵抗効果素子とMOSトランジスタとを組み合わせた磁気記憶装置として,磁気抵抗効果素子上に,キャップ層,ビット線の順に積層した構成が記載されている。

(2)引用発明
ここで,上記(1)の記載事項について下記の点を検討する。
ア 磁気抵抗効果素子のタイプについて
上記Aには,本発明がスピン注入磁化反転方式MRAM(STS-MRAM)に係るものであり,磁化自由層近傍に発熱層を設けた磁気抵抗効果素子を備えたものであることが記載されている。
また,上記Bには,ストレス電流パルスを印加して発熱層を発熱させて磁化自由層近傍の温度を上昇させ,磁化自由層に於ける磁化反転磁界H_(C) ,及び書き込み電流I_(C)(=J_(C)*A)を低下させて書込みを容易にするが,書込み電流パルスで十分発熱が行われる設定では,書込み電流パルスで発熱層を発熱して書き込みを容易にすることが記載されている。
よって,引用文献1には,「書込み電流パルスによって発熱層を発熱させて磁化自由層近傍の温度を上昇させ,磁化自由層に於ける磁化反転磁界H_(C),及び書き込み電流I_(C)を低下させて書込みを容易にする,スピン注入磁化反転方式MRAMの磁気抵抗効果素子」が記載されていると認められる。
イ 磁気抵抗効果素子の構成について
上記Eから,引用文献1の図1には,「磁気抵抗効果素子」が,「下部電極10,磁化固定層4A,トンネル酸化膜4B,磁化自由層4C,高熱伝導層4D,発熱層4E,上部電極4Fが順に積層」された構成が記載されている。
ウ 発熱層の熱を伝えない構成について
上記Aには,書込み時に発熱層を発熱させること,磁化自由層と発熱層は,非磁性の熱伝導率の高い金属層で接続し,印加電流によって生じた熱を効率よく磁化自由層に伝導する構成とし,発熱層とビット線とを低熱伝導率の金属層で接続するすることで,発熱を配線部に伝導しない構成とすることが記載され,上記Cには,上部電極4Fが低熱伝導金属であることが記載されている。
よって,引用文献1には,「発熱層で生じた熱は,磁化自由層に伝導するが,低熱伝導金属である上部電極4Fによりビット線には伝導しない」構成が記載されていると認められる。
エ 磁気抵抗効果素子とビット線の接続について
上記Fから,引用文献1の図2には,「キャップ層を介してビット線が接続された磁気抵抗効果素子」の構成が記載されている。
オ 上記ア乃至エの記載から,引用文献1には,下記の発明(以下「引用発明」という。)が記載されていると認められる。

「書込み電流パルスによって発熱層を発熱させて磁化自由層近傍の温度を上昇させ,磁化自由層に於ける磁化反転磁界H_(C),及び書き込み電流I_(C)を低下させて書込みを容易にする,スピン注入磁化反転方式MRAMの磁気抵抗効果素子であって,
磁気抵抗効果素子は,下部電極,磁化固定層,トンネル酸化膜,磁化自由層,高熱伝導層,発熱層,上部電極が順に積層された構成であり,
発熱層で生じた熱は,磁化自由層に伝導するが,低熱伝導金属である上部電極によりビット線には伝導しない,
キャップ層を介してビット線が接続された磁気抵抗効果素子。」

(3)引用文献2
原査定の拒絶の理由に引用された,本願の優先権主張日前に頒布又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった文献である国際公開第2009/115505号(以下「引用文献2」という。),下記の事項が記載されている。
なお,便宜的に原文(フランス語)の「accent aigu(アクサンテギュ)」は「e"」のように表記し,「accent grave(アクサングラーブ)」は「e`」のように表記し,「accent circonflexe(アクサンシルコンフレクス)」は「e^」のように表記し,oeの合字は「oe」のように表記した。日本語訳は引用例2に対応する特表2011-517502号公報を参照した。
ア 「[0049] Dans l'objectif vise" par la pre"sente invention, si l'on ne souhaite pas affecter la re"sistance propre de la barrie"re tunnel 42, en revanche, on vise a` augmenter la re"sistance de la couche de stockage et/ou de la couche de re"fe"rence.
[0050] Pour ce faire, et selon l'invention, on de"pose au sein et / ou a` la surface de la couche ferromagne"tique 43 constitutive de la couche de re"fe"rence, et/ou de la couche ferromagne"tique 40 constitutive de la couche de stockage, voire a` l'interface entre les couches 40 et 43 avec les couches antiferromagne"tiques 41 et 44 auxquelles elles sont respectivement couple"es, une tre`s fine couche 48 d'un oxyde ou de nitrure me"tallique, typiquement mais de manie`re non limitative constitue" d'oxyde (nitrure) de tantale, d'aluminium, de cobalt, de zirconium, de zinc ou de magne"sium.
[0051] Cette couche 48 pre"sente pre"fe"rentiellement une e"paisseur subnanome"trique, c'est-a`-dire au maximum e"gale a` 1 nanome`tre, de telle sorte a` ne pas affecter les proprie"te"s magne"tiques de la couche magne"tique a` laquelle elle est associe"e.
[0052] Ce de"po^t peut e^tre re"alise" par pulve"risation cathodique d'une couche subnanome"trique de me"tal qui est oxyde"e de manie`re subse"quente par oxydation naturelle ou par plasma. Alternativement, la couche me"tallique peut e^tre nitrure"e par de"po^t de la couche me"tallique dans une atmosphe`re partielle d'azote. Alternativement, l'oxyde peut e^tre de"pose" directement par pulve"risation dans un plasma re"actif.
[0053] Dans un mode de re"alisation de l'invention, au moins une couche mince 48 a` forte re"sistivite" e"lectrique est de"pose"e sur l'une des faces de la couche ferromagne"tique 43 constitutive de la couche de re"fe"rence, et/ou de la couche ferromagne"tique 40 constitutive de la couche de stockage. Par exemple, dans le cas de la jonction 31 comportant une couche antiferromagne"tique 41 pie"geant la couche de stockage 40 et une couche antiferromagne"tique 44 pie"geant la couche de re"fe"rence 43, la couche mince 48 est de"pose"e a` l'interface entre la couche de stockage 40 et antiferromagne"tique 41 et/ou a` l'interface entre la couche de re"fe"rence 43 et antiferromagne"tique 44.」
(日本語訳「[0049] しかしながら,本発明が求める目的において,トンネル障壁42の特有の抵抗が,影響され得ない場合には,記憶層および/または基準層の抵抗を増加させることを目的とする。
[0050] この目的のために,本発明によれば,限定するわけではないが,典型的には,タンタル,アルミニウム,コバルト,ジルコニウム,亜鉛,または酸化マグネシウム(窒化物)で構成された金属酸化物または窒化物の薄層48が,基準層を構成する強磁性層43および/もしくは記憶層を構成する記憶層40の中および/もしくは表面上に,またはさらには層40および43がそれぞれ結合された反強磁性層41および44と層40および43との間の界面に,堆積される。
[0051] 好ましくは,この層48は,それが結合される磁性層の磁気特性に影響しないように,サブナノメートルの厚さ,すなわちせいぜい1ナノメートルに等しい厚さを有する。
[0052] この堆積は,サブナノメートルの金属層の陰極スパッタリングによって達成できるが,この金属層は,続いて,自然酸化またはプラズマによって酸化される。代替として,金属層は,部分的な窒素雰囲気において金属層の堆積によって窒化することができる。代替として,酸化物は,反応性プラズマにおいてスパッタリングによって直接堆積することができる。
[0053] 本発明の一実施形態において,高電気抵抗率を備えた少なくとも1つの薄層48が,基準層を構成する強磁性層43および/または記憶層を構成する記憶層40の表面の一つの上に堆積される。例えば,記憶層40をピニングする反強磁性層41および基準層43をピニングする反強磁性層44を備える接合部31の場合には,薄層48は,記憶層40と反強磁性層41との間の界面,および/または基準層43と反強磁性層44との間の界面に堆積される。」)
イ 「[0056] Le placement de la ou des couches minces re"sistives 48 au sein de la couche ferromagne"tique 40, ou encore dans la couche antiferromagne"tique d'e"change 41, est avantageux puisqu'il favorise l'e"le"vation de tempe"rature a` proximite" de la couche ferromagne"tique 40 qui doit e^tre chauffe"e au-dela` de sa tempe"rature de blocage. 」
(日本語訳「[0056] 1つまたは複数の薄い抵抗層48を,強磁性層40または同様に反強磁性交換層41内に配置することは,有利である。なぜなら,それは,自身のブロッキング温度を超えて加熱される必要のある強磁性層40近くで温度上昇を促進するからである。」)
ウ 「[0061] Typiquement, la re"sistance des couches d'oxyde me"tallique a` base d'aluminium ou de tantale est comprise entre 0,5 et 5 Ω/μm^(2) de"pendant de l'e"paisseur et des conditions de re"alisation.
[0062] Si l'on conside`re un produit re"sistance fois la surface de la couche d'oxyde me"tallique de 5Ω/μm^(2), et de la jonction tunnel de 50 Ω/μm^(2), le gain en tension est d'environ 5 % pour chacune des couches d'oxyde me"tallique introduites dans la structure.
[0063] Si l'on met en oeuvre une structure a` empilement multiple au niveau de la couche de stockage dans laquelle plusieurs couches d'oxyde me"tallique sont introduites conforme"ment a` l'invention, l'importance de la diminution du stress e"lectrique peut atteindre 30 %.
[0064] Pour un produit RA voisin de 20 Ω/μm^(2), le gain en tension peut me^me e^tre supe"rieur, typiquement 10 % pour une seule couche d'oxyde me"tallique a` 50 % pour l'introduction d'une telle couche d'oxyde me"tallique dans une couche de stockage constitue"e de 10 bicouches (couche magne"tique + couche amorphe).
[0065] Les me"moires magne"tiques MRAM ainsi obtenues pre"sentent une endurance fortement ame"liore"e dans la mesure ou` le stress induit par la phase d'e"criture est fortement re"duit, et ou` la tension applique"e a` la jonction tunnel magne"tique lors de la phase de lecture est faible, typiquement infe"rieure a` 200 mV.
[0066] Dans le cas de la configuration des me"moires magne"tiques a` e"criture assiste"e thermiquement (TA-MRAM), et plus particulie`rement dans le cadre des me"moires magne"tiques a` e"criture par injection de courant polarise"e en spin assiste"e thermiquement TA-STT-MRAM, essentielles pour aboutir a` des caracte"ristiques dimensionnelles infe"rieures ou e"gales a` 90 nanome"tres, un courant important doit traverser ladite jonction tunnel magne"tique. La solution propose"e par l'invention mettant en oeuvre des couches d'oxyde ou de nitrure me"tallique a pour effet de diminuer la tension au niveau de la jonction tunnel, permettant ainsi la mise en oeuvre de cette configuration plus facilement. 」
(日本語訳「[0061] 典型的には,アルミニウムまたはタンタルに基づく1つまたは複数の金属酸化物層48の抵抗は,厚さおよび実行条件に依存して,0.5?5Ω/μm^(2)に含まれる。典型的には,1つまたは複数の金属酸化物層48の抵抗は,半導電性層42の抵抗のほぼ10分の1の低さである。
[0062] 5Ω/μm^(2)の金属酸化物層の,および50Ω/μm^(2)のトンネル接合部の抵抗×表面積の積を考えると,電圧利得は,構造に導入された金属酸化物層のそれぞれに対して約5%である。
[0063] 本発明に従っていくつかの金属酸化物層が導入された,記憶層用の多重スタック構造が用いられる場合には,電気的ストレスにおける減少幅は,30%達することができる。
[0064] 約20Ω/μm^(2)に近い積RA(抵抗×面積)に対して,電圧利得は,さらに大きくすることができ,典型的には,単一の金属酸化物層に対する10%から,10の二重層(磁性層+非晶質層)で構成された記憶層におけるかかる金属酸化物層の導入に対する50%である。
[0065] このようにして得られたMRAM磁気メモリは,書き込み段階によって誘発されるストレスがかなり低減され,読み出し段階中に磁気トンネル接合部に印加される電圧が低く,典型的には200mV未満であるので,非常に改善された耐久性を有する。
[0066] 特に90ナノメートル以下の寸法特性を達成するためには不可欠な,熱支援磁気ランダムアクセスメモリ(TA-MRAM)構成の場合,および特にスピン偏極電流の注入による熱支援磁気メモリ(スピン移動トルクMRAMまたはSTT-MRAM)の枠組において,かなりの電流が,前記磁気トンネル接合部を通過しなければならない。本発明が提案する解決法は,トンネル接合部における電圧を低減する効果があるものとして金属酸化物または窒化物層を用い,かくして,この構成をより容易に用いることを可能にする。」)
エ 上記ア乃至ウから,引用文献2には,次の事項が記載されていると認められる。

「スピン偏極電流の注入による熱支援磁気メモリにおいて,50Ω/μm^(2)のトンネル接合部の抵抗に対して,記憶層の表面上に堆積し記憶層の温度上昇を促進する金属酸化物層の抵抗を5Ω/μm^(2)とすることで,書き込み段階によって誘発されるストレスを低減すること。」

3 対比
(1)本願発明と引用発明との対応関係について
ア 引用発明の「磁化固定層」は,本願発明の「固定磁化を有する第1の強磁性層」に相当する。
イ 引用発明は,「磁化自由層近傍の温度を上昇させ,磁化自由層に於ける磁化反転磁界H_(C),及び書き込み電流I_(C)を低下させて書込みを容易にする」ので,引用発明の「磁化自由層」は,本願発明の「所定の高温しきい値で自由に整列され得る磁化を有する第2の強磁性層」に相当する。
ウ 引用発明の「トンネル酸化膜」は,磁化固定層と磁化自由層の間に積層されるものであり,上記ア及びイの記載事項から,本願発明の「前記第1の強磁性層と前記第2の強磁性層の間に提供されたトンネル障壁」に相当する。
エ 上記ア乃至ウの記載事項から,引用発明の「磁気抵抗効果素子」は,本願発明の「固定磁化を有する第1の強磁性層と,所定の高温しきい値で自由に整列され得る磁化を有する第2の強磁性層と,前記第1の強磁性層と前記第2の強磁性層の間に提供されたトンネル障壁とを備え」た「磁気トンネル接合」に相当する。
オ 引用発明では,磁気抵抗効果素子には「キャップ層を介してビット線が接続され」ているので,引用発明の「ビット線」は,本願発明の「磁気トンネル接合の一端と電気的に連絡した電流線」に相当する。
カ 引用発明の「発熱層を発熱させて磁化自由層近傍の温度を上昇させ,磁化自由層に於ける磁化反転磁界H_(C),及び書き込み電流I_(C)を低下させて書込みを容易にする」ことは,本願発明の「熱アシストスイッチング書き込み操作に適した」に相当している。
キ 引用発明の「キャップ層を介してビット線が接続された磁気抵抗効果素子」が,磁気メモリ素子を構成することは明らかである。
ク 上記オ乃至キの記載事項から,引用発明の「キャップ層を介してビット線が接続された磁気抵抗効果素子」は,本願発明の「磁気トンネル接合の一端と電気的に連絡した電流線を備える,熱アシストスイッチング書き込み操作に適した磁気メモリ素子」に相当している。
ケ スピン注入磁化反転方式MRAMの磁気抵抗効果素子では,書き込み時に磁化固定層,トンネル酸化膜,磁化自由層に書き込みのための電流(書込み電流パルス)を流す必要があり,そのための電流は磁気抵抗効果素子に接続されたビット線を経由して流れることは明らかである。そして,引用発明の「書込み電流パルス」は書き込みだけでなく発熱層の発熱も行うものである。
そうすると,引用発明の「ビット線」は,発熱層を発熱させる電流である「書込み電流パルス」を流すように構成されているから,本願発明の「電流線」と同様に「前記書き込み操作中に前記磁気トンネル接合を通して加熱電流を流すように適合されている」といえる。
コ 引用発明の「磁気抵抗効果素子」は,下部電極,磁化固定層,トンネル酸化膜,磁化自由層,高熱伝導層,発熱層,上部電極が順に積層されており,そのうち「発熱層」は書込み電流パルスによって発熱させられるものなので「加熱要素」と呼び得るものであり,また「上部電極」は低熱伝導金属で構成されてビット線に熱を伝導しないものなので「熱障壁」と呼び得るものである。
よって,引用発明の「磁気抵抗効果素子」も,本願発明の「前記加熱電流が前記磁気トンネル接合を通して流されるときに熱を発生するように適合された少なくとも1つの加熱要素(26,26)と,前記少なくとも1つの加熱要素と直列の1つの熱障壁(30)」とをさらに備えたものといえる。
サ 引用発明の「上部電極」は低熱伝導金属で構成されているので,磁気抵抗効果素子の内部の発熱層で生じた熱をビット線には伝導しないようにして熱を閉じ込める働きをしているものと認められる。
よって,引用発明の「上部電極」も,本願発明の「熱障壁」と同様に「前記磁気トンネル接合内部で前記少なくとも1つの加熱要素によって発生した熱を閉じ込めるように適合されている」といえる。

(2)本願発明と引用発明の一致点及び相違点について
上記の対応関係から,本願発明と引用発明は,下記アの点で一致し,下記イの点で相違する。
ア 一致点
「磁気トンネル接合の一端と電気的に連絡した電流線を備える,熱アシストスイッチング書き込み操作に適した磁気メモリ素子であって,前記磁気トンネル接合が,固定磁化を有する第1の強磁性層と,所定の高温しきい値で自由に整列され得る磁化を有する第2の強磁性層と,前記第1の強磁性層と前記第2の強磁性層の間に提供されたトンネル障壁とを備え,
前記電流線が,前記書き込み操作中に前記磁気トンネル接合を通して加熱電流を流すように適合されている当該磁気メモリ素子において,
前記磁気トンネル接合は,前記加熱電流が前記磁気トンネル接合を通して流されるときに熱を発生するように適合された少なくとも1つの加熱要素(26,26)と,前記少なくとも1つの加熱要素と直列の1つの熱障壁(30)とをさらに備え,
前記熱障壁が,前記磁気トンネル接合内部で前記少なくとも1つの加熱要素によって発生した熱を閉じ込めるように適合されていることを特徴とする磁気メモリ素子。」
イ 相違点
本願発明は,「加熱要素」について,「前記少なくとも1つの加熱要素が,前記トンネル障壁の抵抗面積積の0倍より大きく且つ0.95倍以下の抵抗面積積を有する」ことを限定しているのに対し,引用発明は,「発熱層」の抵抗面積積について限定していない点。

4 当審の判断
(1)相違点について
MRAMでは,大容量化の要求に対する磁気抵抗効果素子の縮小化により書込み電流の増加が問題となっており,これに対処するため,なんらかの発熱層を磁化自由層の近傍に配置することで書き込み時の磁化自由層の温度を上昇させて書き込み電流を減少させる熱アシスト法が,引用文献1及び引用文献2に記載されているように周知技術となっている。
また,上記2の(3)から,引用文献2には,
「スピン偏極電流の注入による熱支援磁気メモリにおいて,50Ω/μm^(2)のトンネル接合部の抵抗に対して,記憶層の表面上に堆積し記憶層の温度上昇を促進する金属酸化物層の抵抗を5Ω/μm^(2)とすることで,書き込み段階によって誘発されるストレスを低減すること。」
が記載されているので,引用文献2に接した当業者であれば,引用発明のトンネル酸化膜の抵抗を50Ω/μm^(2),発熱層の抵抗を5Ω/μm^(2)とすることは適宜成し得たものである。
そして,引用文献1の段落【0047】乃至【0051】には,スパッタリング法を適用して磁化固定層,トンネル酸化膜,磁化自由層,発熱層等を形成後,それらの層を異方性エッチングして,127nm×260nmのサイズをもつ磁気抵抗効果素子を形成することが記載されているので,引用発明では,トンネル酸化膜と発熱層とは面積が等しいものとなり,引用発明のトンネル酸化膜の抵抗を50Ω/μm^(2),発熱層の抵抗を5Ω/μm^(2)とした場合には,発熱層の抵抗面積積はトンネル酸化膜の抵抗面積積の0.1倍になる。
そうすると,引用発明に引用文献2に記載された事項を適用して発熱層及びトンネル酸化膜の抵抗値を設定して相違点に係る構成とすることは,当業者が容易に成し得たものといえる。
(2)作用効果について
そして,引用文献2には,「書き込み段階によって誘発されるストレスを低減すること」が記載されているので,本願発明の作用効果は,引用発明,引用文献1に記載された事項,引用文献2に記載された事項,及び周知技術から当業者が予測できる範囲のものである。

5 むすび
以上のとおり,本願発明は,当業者が引用発明,引用文献1に記載された事項,引用文献2に記載された事項,及び周知技術に基いて容易に発明をすることができたものであるから,特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
したがって,本願は,他の請求項について検討するまでもなく,拒絶されるべきものである。
 
審理終結日 2017-06-13 
結審通知日 2017-06-14 
審決日 2017-06-27 
出願番号 特願2011-233970(P2011-233970)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (H01L)
P 1 8・ 572- Z (H01L)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 加藤 俊哉  
特許庁審判長 深沢 正志
特許庁審判官 飯田 清司
小田 浩
発明の名称 耐久性が改良された熱アシスト磁気ランダムアクセスメモリ素子  
代理人 鍛冶澤 實  
代理人 篠原 淳司  
代理人 清田 栄章  
代理人 江崎 光史  

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