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審決分類 審判 全部申し立て 特36条4項詳細な説明の記載不備  A61K
審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  A61K
審判 全部申し立て 1項3号刊行物記載  A61K
審判 全部申し立て 2項進歩性  A61K
管理番号 1334319
異議申立番号 異議2016-700756  
総通号数 216 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2017-12-28 
種別 異議の決定 
異議申立日 2016-08-19 
確定日 2017-09-20 
異議申立件数
訂正明細書 有 
事件の表示 特許第5877980号発明「ケラチン発現促進剤及びそれを用いた美爪用組成物」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第5877980号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり訂正することを認める。 特許第5877980号の請求項1に係る特許を維持する。 
理由 第1 手続の経緯
特許第5877980号の請求項1に係る特許についての出願は、平成23年9月21日(優先権主張 平成23年8月19日)に出願された特願2011-205825号であって、平成28年2月5日にその特許権の設定登録がなされ、その後、特許異議申立人 岩崎勇から特許異議の申立てがなされたものである。そして、その後の経緯は以下のとおりである。

平成28年11月15日付け:取消理由の通知
平成29年 1月15日 :意見書の提出(特許権者)
同年 3月 3日付け:取消理由の通知(決定の予告)
同年 5月 2日 :訂正の請求及び意見書の提出(特許権者)
同年 7月25日 :意見書の提出(申立人)

第2 訂正の可否
1 訂正の内容
平成29年5月2日提出の訂正請求書による訂正(以下、「本件訂正」という。)の内容は次のとおりである。
(1)特許請求の範囲の請求項1の
「植物及び/又は植物抽出物由来のポリアミン組成物を有効成分とする爪角化促進剤。」を、
「植物及び/又は植物抽出物由来のスペルミン、スペルミジン、及びプトレスシンを含有するポリアミン組成物を有効成分とする爪角化促進剤。」
に訂正する(以下、「訂正事項」という。)。

2 訂正の目的の適否、新規事項の有無、及び特許請求の範囲の拡張・変更の存否
訂正事項は、本件特許の請求項1に係る「植物及び/又は植物抽出物由来のポリアミン組成物」を「植物及び/又は植物抽出物由来のスペルミン、スペルミジン、及びプトレスシンを含有するポリアミン組成物」に限定するものである。
これは、【0044】の「(2)評価
マウス(ICR,雄,5週齢)に上述した方法により製造されたポリアミン組成物[50および500mg/kg(ポリアミンとして0.1および1mg/kg)、スペルミジン0.07及び0.7mg/kg スペルミン0.02及び0.2mg/kgプトレスシン0.01及び0.1mg/kg] を1日1回12日間経口投与した。…
(3)結果
爪根部の比較(図5の1および3段目)において,ポリアミンの投与により,表皮層から角質移行層(核のない赤紫色の層。即ち。破線で囲んだ部分)への移行促進が認められた。更に、ケラチン1染色の比較(図5の2段目及び4段目)においてポリアミンの投与でケラチン1の発現部位(実線で囲んだ部分)の拡大が認められた。
以上の結果より,ポリアミンはケラチン1発現や、の爪への角化を促進することが判明した。」との記載に基づくものである。
また、上記訂正事項は、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。

3 むすび
以上のとおりであるから、本件訂正は特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同条第9項において準用する同法第126条第5項ないし第6項の規定に適合するので、本件訂正を認める。

第3 本件発明
上記第2で述べたように、本件訂正は認められるので、本件の請求項1に係る発明(以下、「本件発明」という。)は、平成29年5月2日提出の訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲の請求項1に記載された以下の事項によって特定されるとおりのものである。
【請求項1】
「植物及び/又は植物抽出物由来のスペルミン、スペルミジン、及びプトレスシンを含有するポリアミン組成物を有効成分とする爪角化促進剤。」

第4 取消理由についての判断
1 取消理由通知の概要
当審は平成29年3月3日付け取消理由の通知(決定の予告)において、概要以下のとおりの取消理由を通知した。

本件発明は、本件特許の優先日前日本国内において頒布された下記の刊行物に記載された発明に基づいて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであって、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないから、その発明に係る特許は取り消すべきものである。

刊行物1:特表2007-500678号公報(甲第1号証)

3 取消理由について
(1)刊行物1(甲第1号証)に記載された事項
ア 「【請求項1】
老化を防止するように、皮膚及び皮膚付随物の健康及び美容のためヒトにおいて食事用、医薬用又は美容用に使用する組成物の調製への、活性本体としてのスペルミン及び/又はスペルミジン並びにこれらの塩の使用。
【請求項2】
水分含量、弾力性及び細胞再生のうち少なくとも1つのヒトの皮膚における特性を向上させる、ヒトにおいて食事用、医薬用又は美容用に使用する組成物の調製への、活性本体としてのスペルミン及び/又はスペルミジン並びにこれらの塩の使用。
【請求項3】
皮膚及び皮膚付随物の健康及び美容のため、ヒトに投与する医薬用、食事用又は美容用組成物であって、当該組成物は、活性本体として、スペルミン若しくはスペルミジン又はこれらの塩のいずれかを有することを特徴とする組成物。
【請求項4】
水分含量、弾力性及び細胞再生のうち少なくとも1つのヒトの皮膚における特性を向上させるように、皮膚及び皮膚付随物の健康及び美容のため、ヒトに投与する医薬用、食事用又は美容用組成物であって、当該組成物は、活性本体として、スペルミン若しくはスペルミジン又はこれらの塩のいずれかを有することを特徴とする組成物。

【請求項7】
経口投与に適することを特徴とする請求項3又は4に記載の組成物。
【請求項8】
ローション又はクリームなどの局所投与に適することを特徴とする請求項3又は4に記載の組成物。」

イ 「【0001】
本発明は、ポリアミン類であるいわゆるスペルミン(N,N’-ビス(3-アミノプロピル)テトラメチレンジアミン)及びスペルミジン(N-(3-アミノプロピル)テトラメチレンジアミン)に係る新規の使用に関する。」

ウ 「【0002】
脂肪族ポリアミン類に属する化合物が細胞の成長、分裂及び分化並びに動物組織の増殖の生物学的な機構の調節において決定的な役割を実行することは、文献的に知られている。これらのポリアミン類としては、プトレシン、スペルミン及びスペルミジン等が本質的に挙げられる。特に、後2者は、ヒト精子において最初に発見されたことから、そのように名付けられている。実際、スペルミジンは、事実上、全ての体液(血液、唾液、涙、乳)中に存在する。続いて、スペルミジンは、動物由来(肉、魚、卵、牛乳、チーズ)や植物由来(果実、野菜)の両方で多くの食品にも見出されている。…
【0003】
スペルミンは、スペルミジンに生合成的に由来しており、特定のアミノプロピルラジカル供与酵素の作用を介して共通の前駆体であるプトレシンを最初にN-モノアミノプロピル誘導体(スペルミジン)に変換し続いてN,N-ジアミノプロピル対称誘導体(スペルミン)へと変換する。
【0004】
スペルミジン及びスペルミンは、従って、細胞の成長及び増殖因子として重要である。
【0005】
本発明によると、経口的か、皮膚に適用するかによりスペルミン又はスペルミジンを有する調製物が細胞の成長及び再生を伴って皮膚や、毛髪、爪などの皮膚付随物の細胞を刺激することが、驚くべきことに見出された。この結果は、皮膚及び皮膚の付随物に係る外観及び機能性の両方を向上させ老化に対抗する効果である。」

エ 「【0020】
(細胞再生に関する評価)
各被検者の前腕に3つの領域を選択し、ワセリンの5%ダンシルクロライド懸濁液をそれぞれに適用した(20±4時間の間、密封包帯した)。後日、パッチを除去し、3つの皮膚の領域に石英製UVランプを照射して、ダンシルクロライドで誘導された蛍光強度を測定した。参照数値スケールを用いて、各スポットにおける強度にスコアを割り当てた。
【0021】
その後、以下の要領で、被検者に本発明による組成物及びプラセボを適用した。
【0022】
スペルミジンを有する製品を適用する第1の領域;
スペルミジンを有さない製品を適用する第2の領域;及び
製品を適用しないコントロール領域としての第3の領域。
【0023】
被検者には、一日当たり2回の割合でサンプルを適用し、上述の蛍光のスポットが完全に消失するまで、被検者を定期的に呼び出した。この試験の開始及び終期において、対応する2つの領域を選択し、D-Squame(透明の接着ディスク)を用いて、皮膚表面の角質細胞の量を測定した。
【0024】
細胞再生の効果は、コントロール領域に対して、(製品又はプラセボで)処理した領域における蛍光強度を消失させるのに必要な日数として、示す。その結果、統計分析により、20%のオーダー(p<0.01)で、細胞再生の期間が短縮されたことが判明した。
【0025】
(例)
以下、本発明による組成物として、限定されない例を示す。
【0026】
(例1)
皮膚及び爪の健康及び美容のために経口的に使用する食事用組成物
(錠剤)
各錠剤には、
メチルスルフォニルメタン 200mg
スペルミジン・三塩酸 0.25mg
ビタミンC 61.86mg
ビタミンE(dl-αトコフェロール) 32.89mg
ビタミンB6(ピリドキシン) 3.65mg
d-パントテン酸カルシウム 4mg
d-ビオチン 0.23mg
亜鉛-アミノ酸キレート 37.5mg
銅-アミノ酸キレート 12mg
マンガン-アミノ酸キレート 22.5mg
セレニウムイースト(2000μg/g) 13.75mg
(selenium yeast)
微結晶セルロース 120mg
第二リン酸カルシウム・二水和物 98.89mg
ヒドロキシプロピルメチルセルロース 52.5mg
ステアリン酸マグネシウム 8mg
二酸化珪素 3.5mg
を有する。」

(2)対比・判断
ア 刊行物1に記載された発明(刊行物1発明)
刊行物1には、「水分含量、弾力性及び細胞再生のうち少なくとも1つのヒトの皮膚における特性を向上させる」組成物が、「活性本体として、スペルミン若しくはスペルミジン又はこれらの塩のいずれかを有する」こと(上記(1)ア)、スペルミン又はスペルミジンを有する調製物が「細胞の成長及び再生を伴って皮膚や、毛髪、爪などの皮膚付随物の細胞を刺激すること」、「皮膚及び皮膚の付随物に係る外観及び機能性の両方を向上させ老化に対抗する効果」を有すること(上記(1)ウ)、スペルミジンを有する製品を用いて「皮膚表面の角質細胞の量を測定し」、「細胞再生の期間が短縮されたこと」(上記(1)エ)が記載されている。
そうすると、刊行物1には以下の刊行物1発明が記載されていると認められる。
「スペルミン若しくはスペルミジン又はこれらの塩のいずれかを活性本体として含有する、皮膚や、毛髪、爪などの皮膚付随物の水分含量、弾力性及び細胞再生のうち少なくとも1つのヒトの皮膚における特性を向上させる組成物。」

イ 対比
刊行物1発明の「活性本体」は本件発明の「有効成分」に相当する。
そうすると、本件発明と刊行物1発明とは、以下の点で相違する。
相違点1:本件発明の有効成分は「植物及び/又は植物抽出物由来のスペルミン、スペルミジン、及びプトレスシンを含有するポリアミン組成物」であるのに対し、刊行物1発明のそれは「スペルミン若しくはスペルミジン又はこれらの塩のいずれか」である点。
相違点2:本件発明は「爪角化促進剤」であるのに対し、刊行物1発明は「皮膚や、毛髪、爪などの皮膚付随物の水分含量、弾力性及び細胞再生のうち少なくとも1つのヒトの皮膚における特性を向上させる組成物」である点。

ウ 判断
相違点1について検討する。
刊行物1に、「ポリアミン類であるいわゆるスペルミン(N,N’-ビス(3-アミノプロピル)テトラメチレンジアミン)及びスペルミジン(N-(3-アミノプロピル)テトラメチレンジアミン)」(上記(1)イ)と記載されているように、刊行物1発明のスペルミンやスペルミジンはポリアミン類である。
また、スペルミン、スペルミジン、及びプトレスシンについて、刊行物1には、「脂肪族ポリアミン類に属する化合物が細胞の成長、分裂及び分化並びに動物組織の増殖の生物学的な機構の調節において決定的な役割を実行することは、文献的に知られている。これらのポリアミン類としては、プトレシン、スペルミン及びスペルミジン等が本質的に挙げられる。」(上記(1)ウ)と、また、申立人が平成29年7月25日に提出した意見書に添付した参考資料1(森口卓也,果樹研究所研究報告,2004年,第3号,p.1-20)には「ポリアミンは…,全ての生物に普遍的に存在している….最も一般的なポリアミンは,ジアミンであるプトレシン,カダベリン…,トリアミンであるスペルミジン,テトラアミンのスペルミンである.」(1頁左欄2-7行)、「スペルミジンやスペルミンはプトレシンから合成」(2頁右欄11行)と、それぞれ記載されている。
しかし、刊行物1ないし参考資料1の如何なる記載を参酌しても、「スペルミン、スペルミジン、及びプトレスシン」の三成分を含有するポリアミン組成物を「爪角化促進剤」の有効成分とすることの開示はないし、また示唆もない。
そして、特許権者が平成29年5月2日に提出した意見書に添付した乙第1号証(実験説明書)からみて、本件発明は「植物及び/又は植物抽出物由来の」「ポリアミン組成物」として、「スペルミン、スペルミジン、及びプトレスシンを含有する」ことにより、スペルミン及びスペルミジンの二成分を含有するものよりも、爪の角化促進に格別の作用効果を奏するものと認められる。
このため、相違点2について検討するまでもなく、相違点1において、本件発明は、参考資料1の記載を参酌しても、刊行物1に記載された発明から当業者が容易になし得たものとはいえず、本件発明に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものとはいえないから、取り消すことはできない。

(3)小括
以上のとおり、本件発明に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであるとはいえない。

第5 異議申立ての理由についての検討
申立人の異議申立ての理由は、概要以下のとおりである。
・申立ての理由1
本件発明は、甲第1号証又は甲第2号証に記載された発明であるから、本件発明に係る特許は、特許法第29条第1項第3号の規定に違反してされたものである。
・申立ての理由2
本件発明は、甲第3号証に記載された発明、及び甲第4号証、甲第5号証又は甲第6号証に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本件発明に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである。
・申立ての理由3
本件明細書の発明の詳細な説明の記載には不備があり、本件発明に係る特許は、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものである。
・申立ての理由4
本件発明に係る特許請求の範囲の記載は、特許を受けようとする発明が発明の詳細な説明に記載されたものとはいえないから、本件発明に係る特許は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものである。

甲第1号証:特表2007-500678号公報(刊行物1)
甲第2号証:国際公開第98/06376号
甲第3号証:Y.Ramot, et al., PLoS ONE, 2011年,第6巻第7号,e22564
甲第4号証:片方陽太郎,蛋白質核酸酵素,1993年,第38巻第16号,
p.2711-2722
甲第5号証:今堀和友他監,生化学辞典第2版第2刷,1991年2月5日,
p.256,438,「角化」、「角化細胞」、「ケラチン」の項
甲第6号証:藤井敏弘他,高分子論文集,2005年,第62巻第5号,
p.201-207

1 申立ての理由1
(1)甲第1号証に記載された発明について
上記3で検討したとおり、甲第1号証に記載された発明は刊行物1発明であり、本件発明とは、少なくとも相違点1において相違するものである。このため、本件発明は甲第1号証に記載された発明とはいえない。

(2)甲第2号証に記載された発明について
ア 甲第2号証に記載された事項
甲第2号証は英文で記載されているところ、以下はその訳文である。

(ア)「本発明は、手及び足の爪の強化を目的として当該爪に適用する組成物の分野に関する。」(1頁6-8行)

(イ)「アミン類
皮相調整効果を有すると信じられているアミン化合物の添加は好都合である。…好適なアミン類は、第1級、第2級、第3級、又はポリアミン類である。…
好ましいものはポリアミン類であり、特に下記の一般式で表されるものである…。最も好ましいものは下記の構造式のポリアミンであり:
H_(2)N(CH_(2))_(3)NH(CH_(2))_(4)NH(CH_(2))_(3)NH_(2)
このポリアミンはスペルミンと称される。」(10頁1-29行)

(ウ)「本発明の組成物は、単独か又はマニキュアする前に爪に適用する油中水又は水中油エマルジョンの形態であるのが好ましい。
このような組成物は以下の構成から成る。
a)浸透/結合剤0.1-60重量%
b)チオ架橋剤0.001-20%
c)キレート剤0.001-20%
d)水5-80%
e)オイル1-60%
更に、好ましくは、該組成物は、アミン調整剤、好ましくはポリアミンを0.001-5重量%含有する。」(11頁26-37行)

(エ)「11.以下の構成から成る爪強化用組成物。
浸透/結合剤0.1-60%
チオ架橋剤0.001-20%
キレート剤0.001-20%
水5-80%
オイル1-60%
12.アミン調整剤を更に0.001-5%含有する請求項11記載の組成物。

18.アミン調整剤がスペルミンである請求項12記載の組成物。
19.以下の構成から成る爪強化用組成物。
浸透/結合剤0.5-15%
チオ架橋剤0.01-15%
キレート剤0.01-10%
水5-80%
オイル1-50%
ポリアミン調整剤0.001-5%
保湿剤0.01-20%
乳化剤0.01-8%」(請求の範囲)

イ 対比・判断
(ア)甲第2号証に記載された発明(甲2発明)
特に上記ア(エ)の記載からみて、甲第2号証には以下の甲2発明が記載されていると認められる。
「ポリアミンを含有する、爪強化用組成物。」

(イ)対比
本件発明と甲2発明とは、以下の点で相違する。
相違点1:本件発明は「植物及び/又は植物抽出物由来のスペルミン、スペルミジン、及びプトレスシンを含有するポリアミン組成物を有効成分とする」のに対し、甲2発明は「ポリアミンを含有する」ものであり、これが「有効成分」であるのか明らかでない点。
相違点2:本件発明は「爪角化促進剤」であるのに対し、甲2発明は「爪強化用組成物」である点。

(ウ)判断
相違点1について検討する。
甲第2号証には、使用されるポリアミンに関し、「好ましいものは下記の構造式のポリアミンであり…スペルミンと称される。」(上記ア(イ))と記載されており、ポリアミンとしてスペルミンを選択することが記載されている。
しかし、甲第2号証には、係るポリアミンとして、スペルミジンやプトレスシンを使用することや、スペルミン、スペルミジン、及びプトレスシンの三成分を含有するポリアミン組成物を「爪角化促進剤」の有効成分とすることは記載がなく、また示唆もない。
このため、本件発明は、少なくとも相違点1において、甲第2号証に記載された発明と相違するから、本件発明は甲第2号証に記載された発明とはいえない。

(3)まとめ
以上のことから、本件発明は、刊行物1発明や甲2発明によっては特許法第29条第1項第3号に該当するものとはいえず、本件発明に係る特許は、申立ての理由1によって取り消すことはできない。

2 申立ての理由2
(1)甲第3号証に記載された事項
甲第3号証は英文で記載されているところ、以下はその訳文である。

ア 「これらの条件下で、スペルミジンは髪の毛幹の伸長促進と、髪の成長(成長期)の延長を促進した。スペルミジンは、また、上皮幹細胞に関連したケラチンK15及びK19の発現を上方制御し、そのままの状態のK15プロモーター活性を調整し、インビトロで単離されたヒト由来のK15-GFP+細胞のコロニー形成効率、増殖及びK15の発現を、投与量に依存して調節された。」(1頁抄録6-9行)

イ 「我々のマイクロアレイ解析では、スペルミジンに制御された遺伝子として(方法論的な、あるいは閾値以下であることの理由からの可能性として)、HF(毛嚢)の関連するケラチンは確認されなかったにもかかわらず、K15本来の発現の定量的免疫組織形態計測により、スペルミジンにより、6日後の基底層における基部のORSのK15の免疫活性を有為に増大させることが明確に示された(図4A)。
HF間充組織、HFメラノサイト及び濾胞内造血細胞による影響を受けない、ヒト由来のHFケラチノサイトにおける効果を確認するために、我々は、0.5μMのスペルミジンにより処理された培養ヒトORSケラチノサイトにおける、定常状態のK15のmRNAのレベルを測定した。実際に、K15のmRNAは48時間の処理により上方制御された(図4B)。」(5頁左欄1-13行)

ウ 「図4 スペルミジンは上皮幹細胞に関連したケラチンK15及びK19の発現を上方制御した。
A.6日間のスペルミジン処理により、定量的免疫活性による評価のとおり、0.5μM及び1μMの投与においてK15のような免疫活性を増大させた。n=10-15個(HF)/群;二つの異なる実験を累積した結果。
B.スペルミジンは、48時間の処理後に培養したORSケラチノサイトにおけるK15のmRNAを有意に上方制御した。試料を3回測定した結果を示す。全RNAは、20のHFからプールされた。」(7頁上欄1-4行)

(2)対比・判断
ア 甲第3号証に記載された発明(甲3発明)
特に上記(1)アの記載からみて、甲第3号証には以下の甲3発明が記載されていると認められる。
「スペルミジンを用いる、髪の伸長促進剤。」

イ 対比
本件発明と甲3発明とは、少なくとも以下の点で相違する。
相違点1:本件発明は「植物及び/又は植物抽出物由来のスペルミン、スペルミジン、及びプトレスシンを含有するポリアミン組成物を有効成分とする」のに対し、甲3発明は「スペルミジン」を用いるものである点。
相違点2:本件発明は「爪角化促進剤」であるのに対し、甲3発明は「髪の伸長促進剤」である点。

ウ 判断
上記相違点について検討する。
甲第4号証から甲第6号証のいずれにも、「スペルミン、スペルミジン、及びプトレスシンを含有するポリアミン組成物」を用いることは記載されておらず、また示唆もない。
また、甲第4号証から甲第6号証の記載から、髪の伸長促進剤が爪角化促進剤となりうるといえるとしても、「スペルミン、スペルミジン、及びプトレスシン」の三成分を含有する剤が、爪の角化促進に格別の作用効果を奏するものであることの認識は、いずれの甲各号証からも見いだすことはできない。
このため、本件発明は、甲第3号証から甲第6号証に記載された発明から当業者が容易になし得たものとはいえない。

(3)まとめ
以上のことから、本件発明は、甲第3号証から甲第6号証に記載された発明によっては特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものとはいえず、本件発明に係る特許は、申立ての理由2によって取り消すことはできない。

3 申立ての理由3及び4
(1)申立人の主張
申立人は、本件発明の詳細な説明には、本件発明に係る爪角化組成物(当審注:「爪角化促進剤」と解した。)につき、経口投与並びに非経口投与に関する配合やその調製方法について開示されていないので、本件発明の詳細な説明は本件発明を実施することができる程度に明確かつ十分に記載したものとはいえず、また、本件特許請求の範囲の記載は特許を受けようとする発明が本件発明の詳細な説明に記載したものであるものとはいえない旨、主張する。

(2)本件発明の詳細な説明の記載事項
本件発明の詳細な説明には、以下の記載がある。
「【0041】
実施例2
3種類のポリアミン(スペルミジン,スペルミンおよびプトレスシン)混合物のケラチン発現に及ぼす作用評価
方法
(1)ケラチノサイトにおける作用
ヒト乳房由来のケラチノサイトに,ポリアミン混合物(スペルミジン:スペルミン:プトレスシン=7:2:1いずれも和光純薬工業株式会社製)0.1mg/mLを添加し,3日間培養した。細胞回収後RNAを抽出し,ケラチン1の発現を調べた。…
(2)マウスにおける作用
マウス(ICR,雄,5週齢)にポリアミン混合物(スペルミジン:スペルミン:プトレスシン=7:2:1)10mg/kgを1日1回9日間経口投与した。左後肢第三指を第1関節から採取し,RNA抽出後,ケラチン1の発現を調べた。…
【0042】
結果
(1)ケラチノサイトのケラチン発現に及ぼす作用
図2に示すように,ポリアミン混合物の添加により,ケラチン1mRNAの有意な発現促進が認められた。
2)マウス後肢薬指付近のケラチン発現に及ぼす作用
図3(A)に示すように,ポリアミン混合物の投与により,ケラチン1mRNAの有意な発現促進が認められた。更にケラチン1のタンパク発現では,図3(B)に示すように、ポリアミン混合物の投与により,発現量の増大が認められた。また、図4に示すように、表皮層[青色の顆粒を含む層(周囲を黒の実線で囲んだ部分)]から角質移行層[赤紫色の層(周囲を破線で囲んだ部分)]への移行促進が認められた。
【0043】
小麦由来のポリアミン組成物のマウス爪組織に及ぼす作用評価
方法
(1)小麦由来のポリアミン組成物の製造
含水エタノール(45wt%)で抽出した脱脂小麦胚芽(560kg)に840kgの水を添加し、更にクエン酸を添加してpH4.0±0.2に調整して、室温にて抽出した。その後、遠心分離や濾過分離によって液体画分を残査や沈殿と分離し、回収された液体画分を「ポリアミン組成物」として得た。本実施例のポリアミン組成物はポリアミンとして20mg/kg含有していた。
【0044】
(2)評価
マウス(ICR,雄,5週齢)に上述した方法により製造されたポリアミン組成物[50および500mg/kg(ポリアミンとして0.1および1mg/kg)、スペルミジン0.07及び0.7mg/kg スペルミン0.02及び0.2mg/kgプトレスシン0.01及び0.1mg/kg]を1日1回12日間経口投与した。左後肢第三指を第1関節から採取し,HE染色標本及びケラチン1染色標本を作製し、検鏡による写真撮影を行った。…
(3)結果
爪根部の比較(図5の1および3段目)において,ポリアミンの投与により,表皮層から角質移行層(核のない赤紫色の層。即ち。破線で囲んだ部分)への移行促進が認められた。更に、ケラチン1染色の比較(図5の2段目及び4段目)においてポリアミンの投与でケラチン1の発現部位(実線で囲んだ部分)の拡大が認められた。
以上の結果より,ポリアミンはケラチン1発現や、の爪への角化を促進することが判明した。」

(3)判断
上記【0041】-【0042】において、スペルミン、スペルミジン、およびプトレスシンを含有するポリアミン混合物はケラチンの発現促進作用を有することが確認され、上記【0043】-【0044】において、スペルミン、スペルミジン、およびプトレスシンを含有するポリアミン組成物は爪の角化促進作用を有することが確認されている。そして、【0045】-【0059】において、ケラチン発現促進剤を用いた各種処方が開示されていることに鑑みると、爪角化促進剤である「スペルミン、スペルミジン、およびプトレスシンを含有するポリアミン組成物」を、例えば【0045】-【0059】に開示されるような各種処方に適用すること、すなわち本件発明に係る爪角化促進剤の経口投与並びに非経口投与に関する配合やその調製方法は、当業者が容易に類推しうることである。
このため、本件発明の詳細な説明は本件発明を実施することができる程度に明確かつ十分に記載したものでないとはいえず、また、本件特許請求の範囲の記載は特許を受けようとする発明が本件発明の詳細な説明に記載したものでないとはいえない。

(4)まとめ
以上のことから、本件発明の詳細な説明の記載は特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていないとも、本件特許請求の範囲の記載は特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていないともいえず、本件発明に係る特許は、申立ての理由3及び4のいずれによっても取り消すことはできない。

第6 むすび
以上のとおりであるから、異議申立ての理由及び当審からの取消理由によっては、本件発明に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に本件発明に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
 
発明の名称 (57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
植物及び/又は植物抽出物由来のスペルミン、スペルミジン、及びプトレスシンを含有するポリアミン組成物を有効成分とする爪角化促進剤。
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
異議決定日 2017-09-06 
出願番号 特願2011-205825(P2011-205825)
審決分類 P 1 651・ 113- YAA (A61K)
P 1 651・ 121- YAA (A61K)
P 1 651・ 536- YAA (A61K)
P 1 651・ 537- YAA (A61K)
最終処分 維持  
前審関与審査官 長谷川 真一松本 直子松村 真里  
特許庁審判長 須藤 康洋
特許庁審判官 小川 慶子
大熊 幸治
登録日 2016-02-05 
登録番号 特許第5877980号(P5877980)
権利者 オリザ油化株式会社
発明の名称 ケラチン発現促進剤及びそれを用いた美爪用組成物  

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