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審決分類 |
審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 A61K 審判 全部申し立て 2項進歩性 A61K 審判 全部申し立て ただし書き3号明りょうでない記載の釈明 A61K 審判 全部申し立て ただし書き1号特許請求の範囲の減縮 A61K |
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管理番号 | 1334320 |
異議申立番号 | 異議2017-700062 |
総通号数 | 216 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許決定公報 |
発行日 | 2017-12-28 |
種別 | 異議の決定 |
異議申立日 | 2017-01-25 |
確定日 | 2017-09-20 |
異議申立件数 | 1 |
訂正明細書 | 有 |
事件の表示 | 特許第5956138号発明「水中油型乳化組成物」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 |
結論 | 特許第5956138号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔3、4〕について訂正することを認める。 特許第5956138号の請求項1ないし4に係る特許を維持する。 |
理由 |
第1 手続の経緯 特許第5956138号(以下、「本件特許」という。)の請求項1ないし4に係る特許についての出願は、平成23年11月11日に出願され、平成28年6月24日にその特許権の設定登録がなされ、同年7月27日に特許掲載公報が発行されたものである。 その後、その特許の全請求項について、平成29年1月25日に特許異議申立人 吉久 悦子(以下、「申立人」という。)により特許異議の申立てがされ、同年4月18日付けで取消理由が通知され、同年5月12日に意見書の提出及び訂正の請求がなされたものである。 その後、同年5月30日付けで、訂正請求があった旨の通知(特許法第120条の5第5項)がされ、申立人に対し相当の期間を指定して意見書を提出する機会を与えたが、意見書の提出はなかった。 第2 訂正の適否 1 訂正の趣旨 特許権者は、本件特許の特許請求の範囲を平成29年5月12日付けの訂正請求書に添付した訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項3及び4について訂正(以下、「本件訂正」という。)することを求める。 2 訂正の内容 本件訂正は、以下の訂正事項1?2のとおりである。 (1)訂正事項1 特許請求の範囲の請求項3に「並びにアクリルアミド及び/又はアクリロイルジメチルタウリンを構成単位として含むコポリマー」とあるのを、「アクリル酸ヒドロキシエチルとアクリロイルジメチルタウリン塩との共重合体、アクリル酸塩とアクリロイルジメチルタウリン塩との共重合体、アクリルアミドとアクリル酸塩との共重合体、及びアクリル酸とアクリル酸アミドとアクリル酸塩とアクリロイルジメチルタウリン塩との共重合体」と訂正する。 (2)訂正事項2 特許請求の範囲の請求項4に「(A)成分を20?60質量%、(B)成分を10?40質量%、(C)成分を10?50質量%」とあるのを、「(A)成分を35?55質量%、(B)成分を15?35質量%、(C)成分を20?45質量%」と訂正する。 3 訂正の目的の適否、新規事項の追加の有無、特許請求の範囲の拡張・変更の存否、一群の請求項ごとか否か (1)訂正事項1について 訂正事項1は、訂正前の請求項3には、「アクリルアミド及び/又はアクリロイルジメチルタウリンを構成単位として含むコポリマー」と記載されているが、「又は」の場合は「アクリルアミド」か「アクリロイルジメチルタウリン」のいずれか一方のみを構成単位として含むこととなり、そのようなものは「コポリマー」ではないため不明瞭であったところ、本件特許明細書【0032】に基づき、前記コポリマーについて、4種類の共重合体(コポリマー)に特定して、明確にするとともに限定するものである。 よって、訂正事項1は、特許請求の範囲の減縮及び明瞭でない記載の釈明を目的とするものであって、新規事項の追加に該当せず、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。 (2)訂正事項2について 訂正事項2は、訂正前の請求項4が、請求項1?3を引用して水中油型乳化組成物に含まれる(A)、(B)、(C)の各含有量を特定しているのに、先行する請求項で特定される各成分の含有量より広い範囲を特定しているため不明瞭であったところ、本件特許明細書【0018】、【0028】及び【0030】に基づき、先行する請求項で特定される範囲より狭い範囲か同じ範囲とすることで、明確にするとともに減縮するものである。 よって、訂正事項2は、特許請求の範囲の減縮及び明瞭でない記載の釈明を目的とするものであって、新規事項の追加に該当せず、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。 (3)一群の請求項ごとか否か 本件訂正に係る訂正前の請求項3?4は、請求項4が訂正の請求の対象である請求項3を直接引用する関係にあるから、訂正前において一群の請求項に該当するものである。したがって、訂正の請求は一群の請求項ごとにされたものである。 4 小括 以上のとおりであるから、本件訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号又は第3号に掲げる事項を目的とするものであり、同条第9項において準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合する。 よって、訂正後の請求項〔3?4〕についての訂正を認める。 第3 特許異議の申立てについて 1 本件発明 上記第2で述べたように、本件訂正は認められるので、本件特許の請求項1?4に係る発明(以下、「本件発明1」などともいう。)は、訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲の請求項1?4に記載された事項により特定される次のとおりのものである。 【請求項1】 下記(A)?(C)を含有することを特徴とする水中油型乳化組成物。 (A)(i)?(iii)を含有する油剤 30?55質量% (i)式ROH(Rは炭素数12以上の直鎖又は分岐のアルキル又はアルケニル基)で表されるアルコール (A)成分の総量の2?8質量% (ii)ジメチルポリシロキサン、メチルフェニルポリシロキサン、ジエチルポリシロキサン、エチルメチルポリシロキサン、エチルフェニルポリシロキサン、ドデカメチルシクロヘキサシロキサン、デカメチルシクロペンタシロキサン、ヘキサメチルジシロキサン、オクタメチルトリシロキサン、ヘキサメチルシクロトリシロキサン、オクタメチルシクロテトラシロキサン及びトリス(トリメチルシロキシ)メチルシランから選ばれるシリコーン油 (A)成分の総量の40?60質量% (iii)脂肪酸トリグリセリド (A)成分の総量の15?35質量% (B)炭素数2?10の二価以上のアルコール(糖アルコールを除く)及び/又は糖アルコール 15?35質量% (C)水 20?45質量% 【請求項2】 (B)成分中の炭素数2?10の二価以上のアルコール(糖アルコールを除く)と糖アルコールの含有質量比が、1:1?10:1である請求項1に記載の水中油型乳化組成物。 【請求項3】 さらに(D)ポリアクリルアミド、アクリル酸ヒドロキシエチルとアクリロイルジメチルタウリン塩との共重合体、アクリル酸塩とアクリロイルジメチルタウリン塩との共重合体、アクリルアミドとアクリル酸塩との共重合体、及びアクリル酸とアクリル酸アミドとアクリル酸塩とアクリロイルジメチルタウリン塩との共重合体から選ばれる1種又は2種以上を含有する請求項1又は2に記載の水中油型乳化組成物。 【請求項4】 (A)成分を35?55質量%、(B)成分を15?35質量%、(C)成分を20?45質量%含有する請求項1?3のいずれか1項記載の水中油型乳化組成物。 2 申立人の取消理由の概要 申立人は、証拠方法として以下の甲第1?6号証を提示し、概略、次の取消理由1?3を主張する。 <取消理由1> 本件特許の請求項1?4に係る発明は、本件特許の出願前に日本国内において頒布された甲第1?6号証に記載された発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、これら請求項に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであり、同法第113条第2号に該当し、取り消すべきものである。 <取消理由2> 本件特許は、特許請求の範囲の請求項1の記載が、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してなされたものであり、この請求項に係る特許は、同法第113条第4号に該当し、取り消すべきものである。 <取消理由3> 本件特許は、特許請求の範囲の請求項3の記載が、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してなされたものであり、この請求項に係る特許は、同法第113条第4号に該当し、取り消すべきものである。 <証拠方法> 甲第1号証:国際公開第97/44001号 甲第2号証:特開平7-206629号公報 甲第3号証:特許第4048342号公報 甲第4号証:特許第4698765号公報 甲第5号証:特開2011-32265号公報 甲第6号証:特開2011-195460号公報 (なお、以下、甲第1号証などを単に「甲1」などという。) 3 合議体が通知した取消理由の概要 当合議体が、平成29年4月18日付けで通知した取消理由は、概略、上記申立人の取消理由3と、次の取消理由(以下、「取消理由4」という。)である。 <取消理由4> 本件特許は、特許請求の範囲の請求項4の記載が、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してなされたものであり、この請求項に係る特許は、同法第113条第4号に該当し、取り消すべきものである。 4 取消理由1?4の当否についての判断 (1)取消理由3、4について(36条6項2号) ア 取消理由3(本件発明3) 申立人及び当合議体による取消理由3は、訂正前の請求項3には、「アクリルアミド及び/又はアクリロイルジメチルタウリンを構成単位として含むコポリマー」と記載されているため、「又は」の場合には「アクリルアミド」か「アクリロイルジメチルタウリン」のいずれか一方のみを構成単位として含むこととなり、そのようなものは「コポリマー」ではないため不明瞭であるというものである。 これに対し、上記第2で検討した本件訂正の訂正事項1により、この不備は解消したので、本件発明3は明確である。 イ 取消理由4(本件発明4) 当合議体による取消理由4は、訂正前の請求項4が、請求項1?3を引用して水中油型乳化組成物に含まれる(A)、(B)、(C)の各含有量を特定しているのに、引用する請求項1で特定される各成分の含有量より広い範囲を特定しているため不明瞭であるというものである。 これに対し、上記第2で検討した本件訂正の訂正事項2により、この不備は解消したので、本件発明4は明確である。 ウ 小括 以上のとおりであるから、本件発明3及び本件発明4は、特許法第36条第6項第2号の要件を満たさないとはいえない。 (2)取消理由2について(36条6項1号、本件発明1) ア 申立人の主張する取消理由2は、要するに、請求項1の(A)(i)のアルコール、及び(B)のアルコールについて、本件特許明細書の実施例の記載から、請求項1に係る発明の範囲まで、発明の詳細な説明に開示された内容を一般化できるとはいえないというものである(申立書18頁12行?19頁下から6行参照)。 イ そこで、順に検討する。 (ア)(A)(i)式ROH(Rは炭素数12以上の直鎖又は分岐のアルキル又はアルケニル基)で表されるアルコールについて 本件特許明細書【0011】には、上記アルコールについて、「本発明に用いられる(i)高級アルコールは、式ROH(Rは炭素数12以上の直鎖又は分岐のアルキル又はアルケニル基)で表される炭素数12以上の飽和又は不飽和の直鎖又は分岐のアルコールである。高級アルコールは、乳化製剤の安定性の向上、乳化製剤の外観、粘度ならびに塗布する際の延展性、肌おさまり、保湿効果の点から、炭素数12?24の飽和又は不飽和の直鎖又は分岐アルコールがより好ましく、炭素数14?24の飽和直鎖アルコールがさらに好ましく、炭素数16?22の飽和直鎖アルコールがさらに好ましい。具体的には、ミリスチルアルコール、セチルアルコール、ステアリルアルコール、アラキルアルコール、ベヘニルアルコール、カルナービルアルコール等が挙げられ、1種又は2種以上を適宜組み合わせて用いることができる」のように、その配合理由とともに具体例が挙げられている。 また、実施例では、ベヘニルアルコール(炭素数22)、セトステアリルアルコール(炭素数16と炭素数18)、ステアリルアルコール(炭素数18)を使用した水中油型乳化組成物が、保湿効果に優れ、かつ経時安定性が良好であるとともに、使用感が極めて良好であることが示されている。 そして、化粧品に配合される高級アルコールとして、本件特許明細書に例示される炭素数12?24を超えるはるかに大きい炭素数の高級アルコールを水中油型乳化組成物に配合することもあることが技術常識であったともいえない。 よって、請求項1に、上記高級アルコールの炭素数の上限値が記載されていなくても、発明の詳細な説明に開示された内容及び出願時の技術常識に照らして、その上限値について炭素数24程度と当業者は理解するものである。 (イ)(B)炭素数2?10の二価以上のアルコール(糖アルコールを除く)について 本件特許明細書【0022】?【0023】には、上記アルコールについて、「本発明で用いる(B)炭素数2?10の二価以上のアルコールとしては、炭素数2?10の飽和又は不飽和の直鎖又は分岐の二価以上のアルコールである(以下、多価アルコールともいう)。これらのアルコールとして、具体的には、グリコール類、グリセリン類などが挙げられる。グリコール類の具体例としては、3-メチル-1,3-ブタンジオール、1,3-ブチレングリコール、イソプレングリコール、1,2-ペンタンジオール、1,2-ヘキサンジオール、プロピレングリコール、ジプロピレングリコール、エチレングリコール、ジエチレングリコール、ネオペンチルグリコール等が挙げられる。グリセリン類の具体例としては、グリセリン、ジグリセリン、トリグリセリン等が挙げられる。これらを、単独又は複数種の混合物の形態で用いることができる。これらの多価アルコールのうち、その1分子中における水酸基の数が、3個以上であるものを用いるのが好ましい。特に、グリセリンを用いると、保湿効果が向上するため、好ましい。また炭素数が10を超える二価以上のアルコールを用いると、十分な低温安定性が確保できない、長期保存において乳化製剤の外観、指取れ及び塗布した際の感触が調製当初の感触と大きく異なる場合がある」のように、その配合理由とともに、二価?五価の多価アルコールが例示されている。 また、実施例では、グリセリン、ジプロピレングリコール、1,3-ブチレングリコールである、二価又は三価の多価アルコールを使用した水中油型乳化組成物が、保湿効果に優れ、かつ経時安定性が良好であるとともに、使用感が極めて良好であることが示されている。 そして、化粧品に配合される多価アルコールとして、本件特許明細書に例示される二価?五価を超えるはるかに大きい価数の多価アルコールを水中油型乳化組成物に配合することもあることが技術常識であったともいえない。 よって、請求項1に、上記多価アルコールの価数の上限値が記載されていなくても、発明の詳細な説明に開示された内容及び出願時の技術常識に照らして、その上限値について五価程度と当業者は理解するものである。 ウ 小括 したがって、本件発明1は、発明の詳細な説明に記載したものであり、本件発明1は、特許法第36条第6項第1号の要件を満たさないとはいえない。 (3)取消理由1について(29条2項、本件発明1?4) ア 甲1記載の発明 甲1は、「α-モノアルキルグリセリルエーテルと、ワックス類と、シリコーン油とを含有し、シリコーン油がα-モノアルキルグリセリルエーテルと、ワックス類を除く油相中の10重量%以上である水中油型乳化組成物」(請求項1参照)に関する技術を開示するものであるところ、その水中油型乳化組成物の具体例を示した配合例1-2(16頁下から7行?17頁下から5行参照)には、次の組成のファンデーション(水中油型乳化組成物)の発明(以下、「甲1発明」という。)が記載されていると認める。 「以下の組成からなるファンデーション(水中油型乳化組成物)。 A.水相 イオン交換水 37.4重量% エリスリトール 3.0 ポリエチレングリコール400 2.0 1,3-ブチレングリコール 5.0 キサンタンガム 0.1 フェノキシエタノール 0.2 メタリン酸ナトリウム 0.1 西洋鋸草抽出液 5.0 ヒアルロン酸ナトリウム 0.1 タルク 14.93 二酸化チタン 5.0 酸化鉄(赤) 0.02 酸化鉄(黄) 0.04 酸化鉄(黒) 0.01 B.油相 デカメチルシクロペンタシロキサン 10.0 2-エチルヘキサン酸トリグリセリル 5.0 流動パラフィン 3.0 パーフルオロポリメチルイソプロピルエーテル 2.0 セタノール 1.0 キミルアルコール 3.0 硬質ラノリン 1.0 シンクロワックスERL-C 1.0 硬化大豆油 1.0 酢酸トコフェロール 0.1 合計:100.0重量%」 イ 本件発明1と甲1発明との対比 (ア)甲1発明の「セタノール」は、本件発明1の「(i)式ROH(Rは炭素数12以上の直鎖又は分岐のアルキル又はアルケニル基)で表されるアルコール」に相当する。 甲1発明の「デカメチルシクロペンタシロキサン」は、本件発明1の「(ii)・・・デカメチルシクロペンタシロキサン・・・から選ばれるシリコーン油」に相当する。 甲1発明の「2-エチルヘキサン酸トリグリセリル」及び「硬化大豆油」は、本件発明1の「(iii)脂肪酸トリグリセリド」に相当する。 そうすると、甲1発明の「B.油相」は、本件発明1の「(A)(i)?(iii)を含有する油剤」に相当し、その合計は、ファンデーション(水中油型乳化組成物)の「27.1重量%」である。 また、「セタノール」、「デカメチルシクロペンタシロキサン」、及び「2-エチルヘキサン酸トリグリセリル」と「硬化大豆油」は、それぞれ計算すると「B.油相」の総量の「約3.7重量%」、「約36.9重量%」、及び「約22.1重量%」である。 (イ)甲1発明の「エリスリトール」及び「1,3-ブチレングリコール」は、本件発明1の「炭素数2?10の二価以上のアルコール(糖アルコールを除く)及び/又は糖アルコール」に相当し、その量は、ファンデーション(水中油型乳化組成物)の「8.0重量%」である。 (ウ)甲1発明の「イオン交換水」は、本件発明1の「(C)水」に相当し、その量は、ファンデーション(水中油型乳化組成物)の「37.4重量%」である。 (エ)甲1発明の「A.水相」及び「B.油相」には、上記(ア)?(ウ)で示した成分以外の成分を含むが、本件特許明細書【0016】?【0017】及び【0036】に、他の成分を含有することができると記載されているから、これらが含まれることは、本件発明1との対比において相違点とはならない。 (オ)よって、両発明は、次の相違点1?3の点で相違し、その余の点で一致する。 <相違点1> 本件発明1は、「(A)(i)?(iii)を含有する油剤」を「30?55質量%」含有するのに対し、甲1発明は、「B.油相」を「27.1重量%」含有する点。 <相違点2> 本件発明1は、「(B)炭素数2?10の二価以上のアルコール(糖アルコールを除く)及び/又は糖アルコール」を「15?35質量%」含有するのに対し、甲1発明は、「エリスリトール」及び「1,3-ブチレングリコール」を合計で「8.0重量%」含有する点。 <相違点3> 本件発明1は、「(ii)・・・シリコーン油」を「(A)成分の総量の40?60質量%」含有するのに対し、甲1発明は、「デカメチルシクロペンタシロキサン」を「B.油相」の「約36.9重量%」含有する点。 ウ 相違点1?3についての検討 (ア)甲1発明に基づく容易想到性ついて a 甲1発明は、水中油型乳化組成物には乳化剤として界面活性剤が使用されるが、十分な乳化力、安定性を得ようとすると、その使用量が増大し、べたつきなどの使用感の悪化をきたすことや、使用性改善のためシリコーン油の配合なども考えられるが、その配合はむしろ乳化安定性を阻害する傾向にあり、使用感の改善を行うことはきわめて困難であったという背景技術に基づき、α-モノアルキルグリセリルエーテルとワックス類とシリコーン油という三成分を配合することにより、長期安定性及び使用感触に優れた水中油型乳化組成物を得たというものである(1頁6行?2頁4行参照)。 さらに、本来水中油型での乳化が困難なワックス類及びシリコーン油を用いて、α-モノアルキルグリセリルエーテルにより水中油型乳化を行っていることが記載され(3頁14?16行参照)、試験により、デカメチルシクロペンタシロキサン(シリコーン油)、ミツロウ(ワックス類)及びバチルアルコール(α-モノアルキルグリセリルエーテル)という、それぞれではほとんど界面活性作用を有しない組み合わせを用いると、乳化の長期安定性が著しく良好となり、しかもクリームとした場合などの使用感触が良好となることが示され(3頁17行?5頁13行参照)、α-モノアルキルグリセリルエーテルと共に、ワックス類と、シリコーン油を含む条件下で初めて良好な水中油型の乳化を図ることが可能となったとも記載されている(6頁21?23行参照)。 そして、シリコーン油、α-モノアルキルグリセリルエーテル、ワックス類それぞれの配合量や、高級アルコール及び水溶性高分子の配合についても検討して、長期安定性と使用感触に優れた水中油型乳化組成物が得られるために好ましい組成についても検討している(8頁下から4行?14頁7行参照)。 以上のことから、甲1発明のファンデーション(水中油型乳化組成物)は、「B.油相」に配合されている「デカメチルシクロペンタシロキサン」(シリコーン油)、「キミルアルコール」(α-モノアルキルグリセリルエーテル)、及び「硬質ラノリン」と「シンクロワックスERL-C」(ワックス類)を、長期安定性と使用感触に優れた水中油型乳化組成物となるようにその他の配合成分も含めて全体として好適な割合で配合して得られたものと理解することができる。 b ところで、甲1は、α-モノアルキルグリセリルエーテルと、ワックス類と、シリコーン油とを含有し、シリコーン油がα-モノアルキルグリセリルエーテルと、ワックス類を除く油相中の10重量%以上であることを特徴とする水中油型乳化組成物に関するものであり(請求項1参照)、シリコーン油の割合について検討した試験例によれば、水相のイオン交換水の量を減らすことで組成物全体の量を調整しながら、シリコーン油であるデカメチルシクロペンタシロキサンの量を組成物全体の量に対して10.0重量%から15.0重量%に変化させた結果、乳化、長期安定性及び使用感触について変化がなかったことが示されている(8頁下から4行?10頁7行、特に試験例1-26と1-27参照)。 そうすると、甲1発明について、ファンデーション(水中油型乳化組成物)の性状が大きく変化しない程度の変更として、「A.水相」中の「イオン交換水」の量を減らすことで全体の量を調整しながら、「B.油相」に配合されている「デカメチルシクロペンタシロキサン」(シリコーン油)の量を10.0重量%から5.0重量%増やした15.0重量%とし、「B.油相」の全体の量を27.1重量%から32.1重量%として、「B.油相」の総量に対する「デカメチルシクロペンタシロキサン」(シリコーン油)の量を約47重量%として、相違点1、3に係る構成を満たすようにすることは、当業者が適宜なし得ることともいえる。 c そこで、次に相違点2について検討するに、甲1には、甲1発明に配合される「A.水相」中の「エリスリトール」については、甲1発明として認定した配合例1-2に配合されている以外に何ら記載はない。 一方、「1,3-ブチレングリコール」については、保湿剤として配合することができることや(25頁12行?26頁10行参照)、これを配合することで保存料を実質的に含まない水中油型乳化組成物の提供が可能となることが記載されている(38頁下から4行?39頁2行)。 しかしながら、甲1で必須とされる三成分や、その他の成分との配合量との関係を踏まえて、どのような配合量とすれば、長期安定性と使用感触に優れた水中油型乳化組成物となるかについては記載されていない。 そして、甲1発明において、「エリスリトール」及び「1,3-ブチレングリコール」の量を、例えばイオン交換水などの他の成分を減らすことで変更した場合に、どの程度の変更であれば、ファンデーション(水中油型乳化組成物)の性状が変化しないかは、当業者といえども予測することはできない。 d そうすると、上記bで検討したように、甲1発明において、「デカメチルシクロペンタシロキサン」の量を増やし「B.油相」の量も増やすとともに、「A.水相」のイオン交換水の量を減らすことで、相違点1、3に係る構成を満たすようにしつつ、かつ、「A.水相」の「エリスリトール」及び「1,3-ブチレングリコール」の量を、相違点2に係る両者を合計した8.0重量%から、その倍近い15.0重量%を超える量まで増やしたものとし、所望の特性を有するファンデーション(水中油型乳化組成物)とするためには、他のどの成分を減らせばよいのかなど、組成をどのように変更すれば良いのかは、当業者といえども容易に想到し得ることとはいえない。 そして、甲1には、甲1発明において、上記相違点1?3に係る成分について特に着目してその量を変更する動機付けも見当たらない。 よって、本件発明1は、甲1発明に基づいて当業者が容易になし得たものということはできない。 (イ)申立人の主張する容易想到性について a 申立人は、概略、上記本件発明1と甲1発明との相違点1、3は、甲1発明と甲2とを組み合わせることにより、同相違点2は、甲1発明と甲3及び甲4とを組み合わせることにより、当業者が容易になし得たものであると主張するので、これについても検討する(申立書11頁4行?14頁5行参照)。 b 相違点1、3について 甲2は、皮膚水分蒸散抑制作用に優れた乳化化粧料に関するところ(【0001】参照)、シリコーン(本件発明1の(A)(ii)に相当)と固体脂及び/又は半固体脂(本件発明1の(A)(iii)に相当する成分を包含する)を配合した乳化化粧料を開示し(【請求項1】参照)、シリコーンや固体脂及び/又は半固体脂の配合量について、経時安定性を考慮した量が記載されている(【0023】?【0024】参照)。 しかしながら、甲2における上記シリコーン及び固体脂及び/又は半固体脂の配合量に関する記載は、甲2の請求項1で特定される他の成分及び各成分の配合比なども含めた乳化化粧料における好ましい範囲であって、水中油型乳化組成物一般に関することではない。 しかも、甲2には、シリコーン及び固体脂及び/又は半固体脂と、上記(3)ウ(ア)で検討した、甲1発明の特定の三成分と長期安定性及び使用感触との関係に関する記載もない。 そうすると、経時安定性が乳化化粧料に共通する課題であるとしても、甲2の記載に基づき、甲1発明の目的とする長期安定性及び使用感触を損なうことなく、甲1発明において、相違点3に係る「デカメチルシクロペンタシロキサン」の量を増やすことや、さらに固体脂及び/又は半固体脂に相当する成分を増やすことで相違点1に係る油相の全体量を増やすことが動機付けられるとはいえない。 c 相違点2について 甲3には、W/O型(油中水型)エマルジョン組成物において、保湿・安定性向上剤として、グリセリンなどの多価アルコールを配合できること(【0024】?【0025】参照)が記載されているが、油中水型エマルジョンに関するものであり、単に配合できる成分として例示されているに過ぎないものである。 また、甲4は、ポリグリセリン脂肪酸エステルなどの特定の成分を配合したクリーム状O/W型(水中油型)組成物において(【請求項1】参照)、多価アルコールを配合すると、ポリグリセリン脂肪酸エステルなどの乳化力の発現の一層の向上を図ることができ、0.5?20重量%の割合が好ましいというものである(【0030】?【0031】参照)。 そして、甲3及び甲4には、多価アルコールと、上記(3)ウ(ア)で検討した、甲1発明の特定の三成分と長期安定性及び使用感触との関係に関する記載もない。 したがって、甲3及び甲4の記載に基づき、甲1発明の目的とする長期安定性及び使用感触を損なうことなく、甲1発明において、相違点2に係る「エリスリトール」及び「1,3-ブチレングリコール」の量を増やすことが動機付けられるとはいえない。 エ 小括 以上のとおりであるから、本件発明1は、甲1発明及び甲2?甲4に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものということはできない。 オ 本件発明2?4について (ア)本件発明2?4は、本件発明1を引用して更に限定を付すものであるから、本件発明1と同様に、甲1発明及び甲2?甲4に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものということはできない。 (イ)ここで、申立人は、本件発明2については、さらに甲5を提示し、甲1?5に基づく容易想到性を主張し、また、本件発明3については、さらに甲6を提示し、甲1?4及び甲6に基づく容易想到性を主張する(申立書14頁6行?16頁2行参照)。 (なお、本件発明4は、上記第2のとおり、本件訂正前は、各成分の含有量について本件発明1より広い数値範囲を特定していたため、本件発明4についての容易想到性の主張は、本件発明1についてと同旨である(16頁3行?18頁11行参照)。) そこで、甲5及び甲6についても補足して検討する。 (ウ)甲5には、高級アルコール(本件発明1(A)(i)に該当)とエリスリトールなどの糖アルコール(本件発明1(B)に該当)を併用した乳化組成物が記載され(【請求項1】、【請求項3】参照)、糖アルコールを0.003?10質量%配合すると高い水分保持能が得られることが記載されているが(【0078】参照)、糖アルコールはα-ゲルの水分保持能を増加させるためのものである(【0006】?【0007】参照)。なお、甲5の実施例28?31には、本件発明2に係る、炭素数2?10の二価以上のアルコール(糖アルコールを除く)と糖アルコールとを1:1?10:1の質量比の範囲内で配合した乳化組成物が記載されているが、甲5には、両者を特定の比率で配合することに関する説明はない。 甲6には、皮膚外用剤の乳化安定性の点から、ジメチルアクリルアミドと2-アクリルアミド2-メチルプロパンスルホン酸との共重合体からなるミクロゲル増粘剤を配合することが好ましいと記載されているが(【0021】参照)、本件発明3の(D)成分とは異なるものである。 (エ)甲5には、本件発明1(A)(ii)及び(iii)に該当するシリコーン油、植物油を配合できることも記載されているが、これらは任意に配合し得る成分として記載されるに留まる(【0082】参照)。 甲6には、乳化組成物からなる皮膚外用剤に配合し得る油分として、本件発明1の(A)(i)?(iii)のいずれかに該当するものが例示されており(【0014】参照)、実施例では、保湿剤として本件発明1の(B)に該当するグリセリンやエリスリトールが配合されているが、これらの例示された成分について、そのうちの特定の組合せを選択して配合することについては記載されていない。 その他に、甲5又は甲6に、これまで検討した本件発明1と甲1発明との相違点1?3に関する判断に影響を及ぼす記載はない。 (オ)したがって、甲5及び甲6を考慮しても、本件発明1を引用して更に限定を付した本件発明2?4が、甲1発明及び甲2?6に基づいて、当業者が容易になし得たものということはできない。 カ 取消理由1についてのまとめ 以上のとおり、本件発明1?4は、甲1発明及び甲2?6に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものということはできない。 第4 むすび 以上のとおり、取消理由通知に記載した取消理由及び申立人の主張する取消理由によっては、請求項1?4に係る特許を取り消すことはできない。 また、他に請求項1?4に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。 よって、結論のとおり決定する。 |
発明の名称 |
(57)【特許請求の範囲】 【請求項1】 下記(A)?(C)を含有することを特徴とする水中油型乳化組成物。 (A)(i)?(iii)を含有する油剤 30?55質量% (i)式ROH(Rは炭素数12以上の直鎖又は分岐のアルキル又はアルケニル基)で表されるアルコール (A)成分の総量の2?8質量% (ii)ジメチルポリシロキサン、メチルフェニルポリシロキサン、ジエチルポリシロキサン、エチルメチルポリシロキサン、エチルフェニルポリシロキサン、ドデカメチルシクロヘキサシロキサン、デカメチルシクロペンタシロキサン、ヘキサメチルジシロキサン、オクタメチルトリシロキサン、ヘキサメチルシクロトリシロキサン、オクタメチルシクロテトラシロキサン及びトリス(トリメチルシロキシ)メチルシランから選ばれるシリコーン油 (A)成分の総量の40?60質量% (iii)脂肪酸トリグリセリド (A)成分の総量の15?35質量% (B)炭素数2?10の二価以上のアルコール(糖アルコールを除く)及び/又は糖アルコール 15?35質量% (C)水 20?45質量% 【請求項2】 (B)成分中の炭素数2?10の二価以上のアルコール(糖アルコールを除く)と糖アルコールの含有質量比が、1:1?10:1である請求項1に記載の水中油型乳化組成物。 【請求項3】 さらに(D)ポリアクリルアミド、アクリル酸ヒドロキシエチルとアクリロイルジメチルタウリン塩との共重合体、アクリル酸塩とアクリロイルジメチルタウリン塩との共重合体、アクリルアミドとアクリル酸塩との共重合体、及びアクリル酸とアクリル酸アミドとアクリル酸塩とアクリロイルジメチルタウリン塩との共重合体から選ばれる1種又は2種以上を含有する請求項1又は2に記載の水中油型乳化組成物。 【請求項4】 (A)成分を35?55質量%、(B)成分を15?35質量%、(C)成分を20?45質量%含有する請求項1?3のいずれか1項記載の水中油型乳化組成物。 |
訂正の要旨 |
審決(決定)の【理由】欄参照。 |
異議決定日 | 2017-09-05 |
出願番号 | 特願2011-248081(P2011-248081) |
審決分類 |
P
1
651・
537-
YAA
(A61K)
P 1 651・ 851- YAA (A61K) P 1 651・ 853- YAA (A61K) P 1 651・ 121- YAA (A61K) |
最終処分 | 維持 |
前審関与審査官 | 松本 直子 |
特許庁審判長 |
大熊 幸治 |
特許庁審判官 |
関 美祝 渡戸 正義 |
登録日 | 2016-06-24 |
登録番号 | 特許第5956138号(P5956138) |
権利者 | 花王株式会社 |
発明の名称 | 水中油型乳化組成物 |
代理人 | 村田 正樹 |
代理人 | 山本 博人 |
代理人 | 村田 正樹 |
代理人 | 高野 登志雄 |
代理人 | 中嶋 俊夫 |
代理人 | 特許業務法人アルガ特許事務所 |
代理人 | 中嶋 俊夫 |
代理人 | 高野 登志雄 |
代理人 | 山本 博人 |
代理人 | 特許業務法人アルガ特許事務所 |