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審決分類 審判 全部申し立て 2項進歩性  B65D
審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  B65D
審判 全部申し立て 特36条4項詳細な説明の記載不備  B65D
管理番号 1334322
異議申立番号 異議2016-701063  
総通号数 216 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2017-12-28 
種別 異議の決定 
異議申立日 2016-11-18 
確定日 2017-09-22 
異議申立件数
訂正明細書 有 
事件の表示 特許第5917807号発明「包装材料」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第5917807号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1-6〕について訂正することを認める。 特許第5917807号の請求項1、3?6に係る特許を維持する。 特許第5917807号の請求項2に係る特許についての特許異議の申立てを却下する。 
理由 1.手続の経緯
特許第5917807号(以下、「本件特許」という。)の請求項1?6に係る特許についての出願は、平成23年2月2日に特許出願され、平成28年4月15日にその特許権の設定登録がされ、その後、その特許について、特許異議申立人徳田あけみ(以下、「申立人」という。)により特許異議の申立てがされ、平成29年2月10日付けで取消理由が通知され、その指定期間内である平成29年4月14日に本件特許の特許権者から意見書の提出及び訂正の請求があり、その訂正の請求に対して、申立人から平成29年5月31日に意見書が提出され、平成29年8月23日付けで訂正拒絶理由が通知され、その指定期間内である平成29年9月4日に本件特許の特許権者から意見書及び手続補正書の提出があったものである。

2.訂正の適否についての判断
(1)訂正請求書の補正について
平成29年4月14日付けの訂正請求書(以下、「訂正請求書」という。)は、平成29年9月4日付けの手続補正書により、平成29年8月23日付け訂正拒絶理由で指摘した訂正事項5(特許請求の範囲の請求項5に 「・・・包装材料が成形されている容器。」と記載されているのを、「・・・包装材料が成形加工されている容器。」 に訂正するもの)が削除され、添付の訂正特許特許の範囲が補正された。この補正は、訂正事項の削除であり、訂正請求書の要旨を変更しないものであるから、この補正を認める。

(2)訂正の内容
平成29年9月4日付けの手続補正により補正された訂正請求書による訂正の請求(以下、「本件訂正請求」という。訂正自体を「本件訂正」という。)は、「特許第5917807号の特許請求の範囲を、本件訂正請求書に添付した訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項1?6について訂正する」ことを求めるものであり、その内容は、本件特許に係る願書に添付した特許請求の範囲を、次のように訂正するものである(下線は、訂正箇所を示す)。
ア.訂正事項1
特許請求の範囲の請求項1に
「そのアルミ箔が、鉄を1.1質量%以上1.7質量%以下、含み、マンガンの含有量を0.01質量%以下とし、」
と記載されているのを、
「そのアルミ箔が、鉄を1.1質量%以上1.7質量%以下、含み、マンガンの含有量を0.01質量%以下とし、銅の含有量を0.007質量%以上0.009質量%以下とし、」
に訂正する。

イ.訂正事項2
特許請求の範囲の請求項1に
「そのアルミ箔が、・・・厚みが20μm以上150μm以下であり、」
と記載されているのを、
「そのアルミ箔が、・・・厚みが45μm以上150μm以下であり、」
に訂正する。

ウ.訂正事項3
特許請求の範囲の請求項2を削除する。

エ.訂正事項4
特許請求の範囲の請求項5に
「請求項1?4のいずれかに記載の包装材料が」
と記載されているのを、
「請求項1、3および4のいずれかに記載の包装材料が」
に訂正する。

(3)訂正の目的の適否、新規事項の有無、特許請求の範囲の拡張・変更の存否、及び、一群の請求項
ア.訂正事項1について
訂正事項1は、本件訂正前の特許請求の範囲の請求項1のアルミニウム箔について「銅の含有量を0.007質量%以上0.009質量%以下」と更に銅の含有量に係る限定を付加するものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。
訂正事項1は、願書に添付した明細書の段落【0015】の「・・・該アルミニウム箔3において銅(Cu)の含有量は、好ましくは0.05質量%以下、さらに好ましくは0.02質量%以下であればよい。・・・」との記載、【0029】の「・・・ 図4に示す合金A?Fを用いて、図5に示す製造工程A?Jに従って、図6に示す実施例用試料1?13と比較例用試料1?6のアルミニウム箔の試料を作製した。・・・」との記載、図4の合金A?Dの銅の含有量が0.007質量%以上0.009質量%以下である点、及び図6の実施例用試料1?13が合金A?Dの何れかを含む点に基づくものであって、本件特許明細書及び図面に記載された事項の範囲内においてするものであり、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでないことは明らかである。

イ.訂正事項2について
訂正事項2は、特許請求の範囲の請求項1のアルミニウム箔の厚みについて、本件訂正前の「20μm以上150μm以下」から「45μm以上150μm以下」と数値範囲を狭めるものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。
訂正事項2は、願書に添付した明細書の段落【0017】の「該アルミニウム箔3の厚みは10μm以上150μm以下であり、好ましくは20μm以上80μm以下であればよい。これらの範囲内で、成形性を損なうことなく、容器の耐湿性、遮光性、保形性を保つことができる。・・・」との記載、【0029】の「・・・ 図4に示す合金A?Fを用いて、図5に示す製造工程A?Jに従って、図6に示す実施例用試料1?13と比較例用試料1?6のアルミニウム箔の試料を作製した。・・・」との記載、及び図6の実施例用試料1?10、12、13の厚みが45μm以上150μm以下である点に基づくもので、本件特許明細書に記載された事項の範囲内においてするものであり、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでないことは明らかである。

ウ.訂正事項3、4について
訂正事項3は、特許請求の範囲の請求項2を削除するものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。また、訂正事項4は、上記訂正事項3に伴い、請求項の引用関係の整合を図るために、本件訂正前は、請求項2を引用するものであった請求項5を、訂正事項4は、削除された請求項2を引用しないものとする訂正であるから、特許法第120条の5第2項ただし書第3号に規定する明瞭でない記載の釈明を目的とするものに該当する。
そして、訂正事項3及び4は、本件特許明細書に記載された事項の範囲内においてするものであり、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでないことは明らかである。

(4)一群の請求項について
訂正前の請求項2?6は、訂正前の請求項1を引用する請求項であるから、請求項1?6は一群の請求項であるところ、本件訂正は、一群の請求項に対して請求されたものである。

(5)むすび
以上のとおりであるから、本件訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号及び第3号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同条第4項、及び同条第9項において準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合するので、訂正後の請求項〔1-6〕について訂正することを認める。

3.本件発明
上記のとおり本件訂正が認められるから、本件特許の請求項1?6に係る発明(以下、「本件訂正発明1?6」という。)は、本件訂正請求書に添付した訂正特許請求の範囲の請求項1?6に記載された次の事項により特定されるとおりのものであると認める。
「【請求項1】
少なくともポリアミド系樹脂フィルム、アルミニウム箔、および熱接着層を積層した包装材料であって、
そのアルミニウム箔が、
鉄を1.1質量%以上1.7質量%以下、含み、マンガンの含有量を0.01質量%以下とし、銅の含有量を0.007質量%以上0.009質量%以下とし、
厚みが45μm以上150μm以下であり、
X線回折において(111)面、(100)面、(110)面、および、(311)面のそれぞれを示す各回折強度の合計である合計回折強度に対する(100)面を示す回折強度の比率が30%以上50%以下であり、かつ前記合計回折強度に対する(110)面を示す回折強度の比率が15%以上40%以下であることを特徴とする包装材料。
【請求項2】
(削除)
【請求項3】
ポリアミド系樹脂フィルム、アルミニウム箔、熱接着層は、接着剤を介して積層されている請求項1に記載の包装材料。
【請求項4】
アルミニウム箔と熱接着層との間に中間樹脂フィルムを介在させた請求項1に記載の包装材料。
【請求項5】
請求項1、3および4のいずれかに記載の包装材料が成形されている容器。
【請求項6】
請求項5に記載の容器と、蓋材とからなるプレススルーパック。」

4.取消理由の概要
平成29年2月10日付け取消理由通知の要旨は、次のとおりである。なお、申立人により申立てされた取消理由は、全て通知された。
以下、甲各号証を「甲1」等という。また、甲各号証に記載された発明及び事項を、「甲1発明」及び「甲2事項」等という。

1)本件特許の下記の請求項に係る発明は、その出願前日本国内または外国において頒布された下記の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
2)本件特許は、明細書の記載が下記の点で不備のため、特許法第36第4項第1号に規定する要件を満たしていない。
3)本件特許は、特許請求の範囲の記載が下記の点で不備のため、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない。

甲1:特開2004-58515号公報
甲2:特開2005-343105号公報
甲3:特開昭62-250143号公報
甲4:特開昭62-149857号公報
甲5:特開昭62-149838号公報
甲6:特開昭63-161148号公報
甲7:特開2000-38633号公報
甲8:特開2009-81110号公報
甲9:特開平8-333644号公報
甲10:「アルミニウム材料の基礎と工業技術」編集委員会編集、「アルミニウム材料の基礎と工業技術」、社団法人軽金属協会、昭和60年5月1日第1版第1刷発行、286-289頁
甲11:B.D.CULLITY著、松村源太郎訳、「新版カリティX線回折要論」、株式会社アグネ承風社、2004年4月10日第16刷発行、43頁、111-114頁
甲12:佐藤峰夫、大学院講義 大型機器分析技術-粉末X線回折-、1頁、32-34頁、72頁、[平成28年11月14日検索]、インターネット
甲13:當麻肇、バックグランド処理の実際、Journal of Surface Analysis Vol.8 No.1(2001)、2001年、49-54頁、[平成28年11月14日検索]、インターネット
甲14:X線光電子分光装置(XPS)簡易マニュアル解析編、1-16頁、[平成28年11月14日検索]、インターネット
(甲12及び甲14の各URLは、甲各号証の上部のURLを参照)

[理由1](特許法第29条第2項)
(1)本件特許の請求項1、2に係る発明について
本件特許の請求項1、2に係る発明は、甲1発明、甲2事項及び周知技術(甲3?9事項)に基いて当業者が容易に発明をすることができたものである。

(2)本件特許の請求項3?6に係る発明について
本件特許の請求項3?6に係る発明は、甲1発明、甲1事項、甲2事項及び周知技術(甲3?9事項)に基いて当業者が容易に発明をすることができたものである。

[理由2](特許法第36条第4項第1号)
甲10に記載のように、アルミニウムは、面心立方格子であり、甲11に記載のように、面心立方格子では、h,k,lが奇数と偶数との混合であれば反射は起こらない。そして、(100)面と(110)面は、奇数と偶数との混合である。したがって、(100)面を示す回折強度は0であり、(110)面を示す回折強度は0である。
このため、当業者は、合計回折強度に対する(100)面を示す回折強度の比率と、合計回折強度に対する(110)面を示す回折強度の比率を測定することができず、請求項1に係る発明をどのように実施するのかを理解できない。
また、本件特許明細書の段落【0018】には、「実際の積分強度の測定は、使用したX線回折装置の解析ソフトウエアである積分強度計算プログラムを用いて読取ることによって行う。また、X線回折の強度のバックグラウンド除去は、上記の積分強度計算プログラム内にあるマニュアル法を用いて行う。」との記載がある。
しかしながら、甲12に記載のように、マニュアル法は、ピークでない点をユーザが選ぶ必要がある。このため、ピークでない点の選択の仕方によって、バックグランドの強度が変化する。更に、マニュアル法では解析関数をユーザが選ぶ必要がある。関数の選択に応じてバックグランドの強度が変化する。そして、バックグランドの強度が変化すれば、合計回折強度に対する(100)面を示す回折強度の比率と、合計回折強度に対する(110)面を示す回折強度の比率も変化する。すなわち、本件の特許明細書には、回折強度の具体的測定方法が記載されていない。
よって、本件特許の発明の詳細な説明は、請求項1に係る発明が、当業者が容易に実施できる程度に明確かつ十分に記載されていない。
また、請求項2?6に係る発明は、請求項1に係る発明の発明特定事項を全て含むものであるので、同様の理由により、本件特許の発明の詳細な説明は、請求項2?6に係る発明が、当業者が容易に実施できる程度に明確かつ十分に記載されていない。

[理由3](特許法第36条第6項第2号)
[理由2]で示したように、合計回折強度に対する(100)面を示す回折強度の比率と、合計回折強度に対する(110)面を示す回折強度の比率を測定することができないにも関わらず、請求項1には、上記の比率が0%でなく、30%以上50%以下、15%以上40%以下と記載されている。
また、[理由2]で示したように、本件の特許明細書には、回折強度の具体的測定方法が記載されていないので、請求項1の発明特定事項の技術的意義が理解できず、請求項1に係る発明が不明確である。
よって、本件特許の特許請求の範囲の請求項1の記載は、特許を受けようとする発明が明確ではない。
また、請求項2?6は、請求項1を直接あるいは間接的に引用しているので、同様な理由により、本件特許の特許請求の範囲の請求項2?6の記載は、特許を受けようとする発明が明確でない。

5.甲各号証の記載
(1)甲1(特開2004-58515号公報)
甲1には、以下の事項が記載されている。
「【特許請求の範囲】
【請求項1】
アルミニウム箔の一面に延伸されたポリアミド系樹脂層、他面に熱接着層をそれぞれ接着剤層を介して積層した成形用積層体。
・・・
【請求項5】
前記アルミニウム箔の鉄成分含有量が、0.5?2.0重量%である請求項1?4のいずれかに記載の成形用積層体。
【請求項6】
請求項1?5のいずれかに記載の積層体の少なくとも一部を成形して内容物の収納凹所を形成した容器。
【請求項7】
請求項6に記載の容器の成形部に収納物を充填した後、少なくともアルミニウム箔を含む蓋材をヒートシールした包装体。
【請求項8】
前記収納物が薬剤である請求項7に記載のプレス・スルー・パック包装体。」
「【0006】
【実施の形態】
以下、この発明の実施形態を添付図面に基づいて説明する。図1に示すように、成形用積層体1は、アルミニウム箔2の一面に、接着剤層5aを介して外装フィルム3、他面に、接着剤層5bを介して熱接着層4を積層したものである。
【0007】
前記アルミニウム箔2は、純アルミニウム箔またはアルミニウム合金箔のいずれであってもよく、純アルミニウム(JIS(AA) 1000系、例えば1N30、1N70など)、Al-Mn系(同3000系、例えば3003、3004など)、Al-Mg系(同5000系)、Al-Fe(同8000系、例えば8021、8079など)アルミニウム合金箔等の材質が使用できる。これらの中でも特に8021や8079等の鉄含有量が0.5重量%以上のアルミニウム箔が好ましく、さらには鉄含有量0.7?2.0重量%が望ましい。鉄含有量を0.5重量%以上とすることで、容器の耐湿性、遮光性、保形性を損なうことなく、成形性を改善することができる。なお、鉄以外の成分、例えばSi、Cu、Ni、Cr、Ti、Zr、Zn、Mn、Mg、Ga等については、JIS等で規定されている公知の含有量の範囲内であればいずれを含んでいても差し支えない。アルミニウム箔の厚みは20?80μm程度が好ましく、さらに好ましくは25?60μmである。これらの範囲内で、成形性を損なうことなく、容器の耐湿性、遮光性、保形性を保つことができる。また、アルミニウム箔は、半硬材あるいは軟質材であることが好ましく、圧延後に少なくとも1回以上の熱処理(通常200?500℃)を施したものが好ましい。硬質材の場合では、残留応力が大きくなる恐れや、柔軟性・油残りの点で望ましくない。以上のようなアルミニウム箔2を介在させることにより、容器の耐湿性、遮光性が改善され常温での長期間の保存も可能となる上、成形性、保形性をも改善することができる。
【0008】
前記外装フィルム3としては、延伸されたポリアミド系樹脂、特に二軸延伸ポリアミド系樹脂フィルムが適しており、MD、TDにおける熱水収縮率(100℃×30分)の比(MD/TD)が、0.9?1.1であるのが好ましく、さらには0.95?1.05であるのがさらに好ましい。・・・」
「【0011】
以上の外装フィルム3、アルミニウム箔2、熱接着層4以外に、必要に応じて中間樹脂フィルム等をさらに介在させてもよい。中間樹脂フィルムには、ポリエチレン系フィルム、ポリエステル系フィルム、塩化ビニル系フィルム、ポリプロピレン系フィルム等を必要に応じて使用することもできる。また、任意の層に必要に応じてアンカーコート層や印刷・着色層、プライマー層、オーバーコート層等を施しても差し支えない。
【0012】
上記積層体1を成形して、図2に示すような内容物Aの収納凹所となるポケット部6を有する容器1aを形成する。ポケット部6を成形する方法は、特に限定されないが例えばプレス機を使用して張り出し成形、深絞り成形、プレス機を用いない真空成形、圧空成形等により冷間または温間で成形すればよい。また、両者の併用方式としてもよい。
【0013】
蓋材10(図2)を使用する場合には、公知の蓋材を採用することができ、例えば、OPニス(1.5g/m^(2))/印刷層/アルミニウム箔(厚み20μm)/ポリプロピレン系コート(3.5g/m^(2))のようなアルミニウム箔を含む蓋材10が使用できる。一方、蓋材10を使用しない場合には、図3に示すように容器1aの開口面どうしを熱接着により貼り合せることにより、包装体として利用することができる。」

以上の記載によれば、甲1には以下の甲1発明が記載されていると認められる。
「少なくとも延伸されたポリアミド系樹脂からなる外層フィルム3、アルミニウム箔2、及び熱接着層4を積層した成形用積層体1であって、
そのアルミニウム箔2が、鉄を0.7質量%以上2.0%質量%以下、含み
厚みが20μm以上80μm以下である、成形用積層体1」

(2)甲2(特開2005-343105号公報)
甲2には、以下の事項が記載されている。
「【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリプロピレン製容器の外側面に一体成形により装着されるアルミニウムラミネート材であって、アルミニウム箔の両面に無水マイレン酸で変性したポリプロピレン樹脂層を設け、該樹脂層にさらにポリプロピレン樹脂層を設けてなることを特徴とするアルミニウムラミネート材。
【請求項2】
前記アルミニウム箔が、Si:0.1%(質量%、以下同じ)以下、Fe:0.5?1.7%、Mn:0.002?0.05%、Mg:0.1%以下、Cr:0.1%以下、Zn:0.1%以下、Ti:0.1%以下を含有し、残部アルミニウムおよび不純物からなる厚さが10?30μmのものであることを特徴とする請求項1記載のアルミニウムラミネート材。 」
「【0004】
本発明は、とくに二次電池のポリプロピレン製ケースの外側面に一体成形により装着されるポリプロピレンラミネートアルミニウム箔における上記の問題点を解消するために、ポリプロピレン樹脂とアルミニウム箔との接着性の向上などに関して試験、検討を行った結果としてなされたものであり、その目的は、とくに二次電池の容器として適用した場合、その使用温度において、長期間にわたって剥離することがなくガスバリア性が保持され、高寿命が達成されるアルミニウムラミネート材を提供することにある。」
「【0014】
アルミニウム箔としては、Si:0.1%以下、Fe:0.5?1.7%、Mn:0.002?0.05%、Mg:0.1%以下、Cr:0.1%以下、Zn:0.1%以下、Ti:0.1%以下を含有し、残部アルミニウムおよび不純物からなるアルミニウム合金箔が好ましく、とくに、Fe:0.5?1.7%、Mn:0.002?0.05%の含有により繰り返し応力を負荷してもひび割れが発生し難くなる。純アルミニウム系の箔では箔にひび割れが生じ、ガスバリア性が劣化し易くなる。」
「【0016】
表1に示す組成を有するアルミニウム箔を使用し、以下の方法によりアルミニウムラミネート材(試験材No.1?11)を作製した。アルミニウム箔の厚さ、樹脂層の合計厚さを表2に示す。」
「【0019】
【表1】



(3)甲3?甲9
甲3?甲9には、アルミニウム箔の製造において、均質化加熱温度を570℃以上とする点が記載されている(甲3の2頁右下欄19行?3頁左上欄7行、甲4の3頁左上欄16行?3頁右上欄6行及び第1表、甲5の2頁左下欄6?16行、甲6の3頁左上欄10?20行及び第1表、甲7の【0014】、甲8の【0024】、甲9の【0015】)。

6.判断
事案に鑑み、まず、理由2及び理由3を検討する。
(1)理由2(特許法第36条第4項第1号に係る理由)について
ア.本件訂正発明1のアルミニウム箔の(100)面と(110)面とでのX線回折の回折強度について
本件訂正発明1のアルミニウム箔は、「鉄を1.1質量%以上1.7質量%以下、含み、マンガンの含有量を0.01質量%以下とし、銅の含有量を0.007質量%以上0.009質量%以下とし」たアルミニウム合金である。合金は、一般的に含まれる微量成分が異なることで、結晶構造中大きく性質が異なる場合があることは、良く知られている技術常識である。そうすると、純アルミニウムの結晶の(100)面及び(110)面に対する回折強度が0であっても、本件訂正発明1に記載されたアルミニウム以外の成分を含むアルミニウムの回折強度までが(100)面及び(110)面に対する回折強度が0であることを示す証拠はない。

イ.X線回折におけるマニュアル法によるバックグランド除去について
X線回折におけるマニュアル法によるバックグランド除去について、甲12には、3頁の上部の左枠内に「ソフトウエアによるBG除去・・・2.マニュアル。ピークでない点をユーザが選び、ベースラインを解析関数で近似する方法」との記載がある。そして、右側に上下に3つ配されているグラフのうち、下側をみると、「○:ユーザが選択した点」との記載があり、グラフの谷間の部分に○印が記載されることが看取できる。そうすると、○印はピークの谷間のグラフの線に沿って選択する以上、その選び方により、本件発明1が実施できない程の大きな差が生じるとは認められない。
また、本件特許明細書の【0020】?【0021】、【0030】?【0031】に示される製造方法によって、本件訂正発明1に用いられているアルミニウム箔が製造できることが記載されているといえる。よって、理由2には、理由がない。
したがって、本件訂正発明1、3?6に係る特許は、特許法第113条第4号に該当せず、理由2によって、取り消されるべきものとすることはできない。

(2)理由3(特許法第36条第6項第2号に係る理由)について
上記(1)の理由2において述べたように、本件訂正発明1の他の成分を含有するアルミニウム合金の(100)面及び(110)面の回折強度が0であるとまでいえないから、合計回折強度に対する(100)面を示す回折強度の比率と、合計回折強度に対する(110)面を示す回折強度の比率を計算することができないとはいえず、請求項1の、上記の比率が0%でなく、30%以上50%以下、15%以上40%以下と記載されていることは、明確でないとはいえない。
また、上記(1)の理由2において述べたように、本件訂正発明1の他の成分を含有するアルミニウム合金の(100)面及び(110)面の回折強度が0であるとまでいえないから、本件の特許明細書には、これらの面の回折強度の測定方法が当業者が容易に実施できる程度に記載されていないとはいえない。
更に本件特許明細書の【0019】には、「本発明者らは、X線回折で検出される回折強度において、上記の合計回折強度に対して、(100)面を示す回折強度の比率が30%以上50%以下で、かつ、(110)面を示す回折強度の比率が15%以上40%以下の範囲内に入っていれば、そのアルミニウム箔およびそれを用いた包装材料の成形性は優れたものとなることを見出した。
これは、(100)面と(110)面を示す回折強度の各比率が上記の範囲を外れると、各結晶方位のバランスが悪くなり、結果として成形性が低下するからだと考えられる。」と記載されており、請求項1の発明特定事項の技術的意義を当業者は理解することができるから、請求項1に係る発明が不明確であるとはいえない。
よって、本件特許の特許請求の範囲の請求項1の記載は、特許を受けようとする発明が明確ではないとはいえない。
また、請求項3?6は、請求項1を直接あるいは間接的に引用しているので、同様な理由により、本件特許の特許請求の範囲の請求項3?6の記載は、特許を受けようとする発明が明確でないとはいえない。

したがって、本件訂正発明1、3?6に係る特許は、特許法第113条第4号に該当せず、理由3によって、取り消されるべきものとすることはできない。

(3)理由1(特許法第29条第2項に係る理由)について
ア.本件訂正発明1
本件訂正発明1と甲1発明とを対比すると、甲1発明の「成形用積層体1」、「延伸されたポリアミド系樹脂からなる外層フィルム3」、「アルミニウム箔2」、「熱接着層4」は、本件訂正発明1の「包装材料」、「ポリアミド系樹脂フィルム」、「アルミニウム箔」、「熱接着層」にそれぞれ、相当する。

よって、両者は、少なくとも以下の相違点1?4で相違する。
<相違点1>本件訂正発明1では、アルミニウム箔が、鉄を1.1質量%以上1.7質量%以下、含むのに対して、甲1発明では、アルミニウム箔2が、鉄を0.7質量%以上2.0%質量%以下、含む点。
<相違点2>本件訂正発明1では、アルミニウム箔が、銅の含有量を0.007質量%以上0.009質量%以下としているのに対して、甲1発明では、アルミニウム箔の銅の含有量が不明である点。
<相違点3>本件訂正発明1では、アルミニウム箔の厚みが45μm以上150μm以下であるのに対して、甲1発明では、アルミニウム箔の厚みが20μm以上80μm以下である点。
<相違点4>本件訂正発明1では、アルミニウム箔が、X線回折において(111)面、(100)面、(110)面、および、(311)面のそれぞれを示す各回折強度の合計である合計回折強度に対する(100)面を示す回折強度の比率が30%以上50%以下であり、かつ前記合計回折強度に対する(110)面を示す回折強度の比率が15%以上40%以下であるのに対して、甲1発明では、アルミニウム箔が、そのような関係を満たすか不明である点。

事案に鑑み、まず相違点4を検討する。
本件訂正発明1は、「成形加工性に優れたアルミニウム箔用いた包装材料を提供する」(本件特許明細書【0006】)を課題とするもので、「アルミニウム箔が、X線回折において(111)面、(100)面、(110)面、および、(311)面のそれぞれを示す各回折強度の合計である合計回折強度に対する(100)面を示す回折強度の比率が30%以上50%以下であり、かつ前記合計回折強度に対する(110)面を示す回折強度の比率が15%以上40%以下である」とすることでその課題が解決している。
一方、甲1?甲9には、アルミニウム箔のX線回折と成形性について、記載も示唆もされていない。
そうすると、アルミニウム箔のX線回折と成形性に関して何ら記載のない、甲1?甲9に接した当業者にとって、甲1発明において、「成形加工性に優れたアルミ箔用いた包装材料を提供する」ことを目的として、「アルミニウム箔が、X線回折において(111)面、(100)面、(110)面、および、(311)面のそれぞれを示す各回折強度の合計である合計回折強度に対する(100)面を示す回折強度の比率」及び「前記合計回折強度に対する(110)面を示す回折強度の比率」を特定の範囲に設定しようとする動機付けがあるとはいえない。
そして、本件訂正発明1は、相違点4に係る構成により、良好な成形性を有するという効果を奏するものである(本件特許明細書【0009】、【0019】及び【0033】?【0035】参照)。
なお、申立人は、特許異議申立書(18?19頁)において、甲3?甲9によれば、アルミニウム箔の製造において、「均質化加熱温度を570℃以上とする」ようにすることは、従来周知であるから、そのような周知技術を甲1発明に適用して、「X線回折において(111)面、(100)面、(110)面、および、(311)面のそれぞれを示す各回折強度の合計である合計回折強度に対する(100)面を示す回折強度の比率が30%以上50%以下であり、かつ前記合計回折強度に対する(110)面を示す回折強度の比率が15%以上40%以下である」ようにすることは、容易に想到し得ると主張しているが、そのような周知技術の甲1発明への適用によって、本件訂正発明1のような特定の回折強度の比率を得ることの動機が、甲1や他の証拠には何ら記載されていないし、示唆もされていないので、特許異議申立請人の主張は採用できない。
よって、他の相違点1?3を検討するまでもなく、本件訂正発明1は、甲1発明、甲2事項及び周知技術(甲3?9事項)に基いて当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。

イ.本件訂正発明3?6
本件訂正発明3?6は、本件訂正発明1の発明特定事項をすべてを含むものである。
よって、本件訂正発明3?6は、本件訂正発明1と同様の理由により、甲1発明、甲1事項、甲2事項及び周知技術(甲3?9事項)に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではない。

ウ.小括
したがって、本件訂正発明1、3?6に係る特許は、特許法第113条第2号に該当せず、理由1によって、取り消されるべきものとすることはできない。

7.むすび
以上のとおり、本件訂正発明1、3?6に係る特許は、特許異議申立理由を全て含む、上記取消理由通知に記載した取消理由によっては、取り消すことができない。
また、他に本件訂正発明1、3?6に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
また、請求項2に係る特許は、本件訂正により削除されたため、本件特許の請求項2に対して申立人がした特許異議の申立てについては、対象となる請求項が存在しない。よって、本件特許の請求項2に係る特許異議の申立ては、不適法であって、その補正をすることができないものであることから、特許法第120条の8で準用する同法第135条の規定により、却下すべきものである。
よって、結論のとおり決定する。
 
発明の名称 (57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくともポリアミド系樹脂フィルム、アルミニウム箔、および熱接着層を積層した包装材料であって、
そのアルミニウム箔が、
鉄を1.1質量%以上1.7質量%以下、含み、マンガンの含有量を0.01質量%以下とし、銅の含有量を0.007質量%以上0.009質量%以下とし、
厚みが45μm以上150μm以下であり、
X線回折において(111)面、(100)面、(110)面、および、(311)面のそれぞれを示す各回折強度の合計である合計回折強度に対する(100)面を示す回折強度の比率が30%以上50%以下であり、かつ前記合計回折強度に対する(110)面を示す回折強度の比率が15%以上40%以下であることを特徴とする包装材料。
【請求項2】
(削除)
【請求項3】
ポリアミド系樹脂フィルム、アルミニウム箔、熱接着層は、接着剤を介して積層されている請求項1に記載の包装材料。
【請求項4】
アルミニウム箔と熱接着層との間に中間樹脂フィルムを介在させた請求項1に記載の包装材料。
【請求項5】
請求項1、3および4のいずれかに記載の包装材料が成形されている容器。
【請求項6】
請求項5に記載の容器と、蓋材とからなるプレススルーパック。
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
異議決定日 2017-09-13 
出願番号 特願2011-20806(P2011-20806)
審決分類 P 1 651・ 536- YAA (B65D)
P 1 651・ 121- YAA (B65D)
P 1 651・ 537- YAA (B65D)
最終処分 維持  
前審関与審査官 種子島 貴裕  
特許庁審判長 久保 克彦
特許庁審判官 谿花 正由輝
蓮井 雅之
登録日 2016-04-15 
登録番号 特許第5917807号(P5917807)
権利者 東洋アルミニウム株式会社
発明の名称 包装材料  
代理人 鎌田 直也  
代理人 鎌田 直也  
代理人 鎌田 文二  
代理人 鎌田 文二  

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