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審決分類 |
審判 一部申し立て 2項進歩性 B32B |
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管理番号 | 1334325 |
異議申立番号 | 異議2017-700048 |
総通号数 | 216 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許決定公報 |
発行日 | 2017-12-28 |
種別 | 異議の決定 |
異議申立日 | 2017-01-19 |
確定日 | 2017-09-22 |
異議申立件数 | 1 |
訂正明細書 | 有 |
事件の表示 | 特許第5956044号発明「光学積層体及び液晶表示装置」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 |
結論 | 特許第5956044号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1、2〕、〔3?18〕、19、〔20?25〕について、訂正することを認める。 特許第5956044号の請求項3?8、10、12、15?19に係る特許を維持する。 特許第5956044号の請求項1及び2に係る特許についての申立てを却下する。 |
理由 |
第1 手続の経緯 特許第5956044号の請求項1?19に係る特許についての出願は、平成27年3月31日を出願日とする特願2015-72448号の一部を平成27年10月7日に新たな特許出願としたものであって、平成28年6月24日にその特許権の設定登録がされ、その後、そのうちの請求項1?8、10、12、15?19に係る特許について、特許異議申立人岡本敏夫(以下、「申立人」という。)により特許異議の申立てがされ、平成29年3月6日付けで取消理由が通知され、その指定期間内である平成29年5月2日に意見書の提出及び訂正の請求(以下、「本件訂正請求」といい、訂正自体を、「本件訂正」という。)があり、本件訂正請求に対して申立人から平成29年6月16日に意見書が提出されたものである。 第2 訂正の適否についての判断 1.訂正の内容 本件訂正の内容は、以下の訂正事項から構成され、それらを訂正箇所に下線を引いて示すと、以下のとおりである。 (1)訂正事項ア-1 特許請求の範囲の請求項1を削除する。 (2)訂正事項ア-2 特許請求の範囲の請求項2を削除する。 (3)訂正事項ア-3 特許請求の範囲の請求項3に「前記金属層は、厚みが3μm以下である、請求項1又は2に記載の光学積層体。」とあるのを、請求項2を引用するものについて、 「 光学フィルムと、粘着剤層と、金属層とをこの順に含み、 前記粘着剤層は、(メタ)アクリル系樹脂(A)、架橋剤、シラン化合物(C)、及び下記式(I): M^(+)X^(-) (I) (式(I)中、M^(+)は無機カチオンを表し、X^(-)はフッ素原子含有アニオンを表す。) で表されるイオン性化合物(D)を含む粘着剤組成物から構成され、 前記フッ素原子含有アニオンは、下記式(II): [Y(SO_(2)C_(m)F_(2m+1))_(n)]^(-) (II) (式(II)中、Yは炭素原子又は窒素原子を表し、Yが炭素原子であるときnは3であり、Yが窒素原子であるときnは2であり、mは0?10の整数を表す。) で表されるフッ素原子含有アニオンであり、 前記金属層は、アルミニウム元素を含むとともに、厚みが3μm以下であり、 前記金属層は金属配線層であり、 前記金属配線層が有する金属配線の線幅は10μm以下である、光学積層体。」に訂正する。 (4)訂正事項ア-4 特許請求の範囲の請求項4に、「請求項1?3のいずれか1項に記載の光学積層体。」とあるのを、「請求項3に記載の光学積層体。」に訂正する。 (5)訂正事項ア-5 特許請求の範囲の請求項5に、「請求項1?4のいずれか1項に記載の光学積層体。」とあるのを、「請求項3又は4に記載の光学積層体。」に訂正する。 (6)訂正事項ア-6 特許請求の範囲の請求項6に、「請求項1?5のいずれか1項に記載の光学積層体。」とあるのを、「請求項3?5のいずれか1項に記載の光学積層体。」と訂正する。 (7)訂正事項ア-7 特許請求の範囲の請求項7に、「請求項1?6のいずれか1項に記載の光学積層体。」とあるのを、「請求項3?6のいずれか1項に記載の光学積層体。」と訂正する。 (8)訂正事項ア-8 特許請求の範囲の請求項10に、「請求項1?9のいずれか1項に記載の光学積層体。」とあるのを、「請求項3?9のいずれか1項に記載の光学積層体。」と訂正する。 (9)訂正事項ア-9 特許請求の範囲の請求項11に、「請求項1?9のいずれか1項に記載の光学積層体。」とあるのを、「請求項3?9のいずれか1項に記載の光学積層体。」と訂正する。 (10)訂正事項ア-10 特許請求の範囲の請求項12に、「請求項1?11のいずれか1項に記載の光学積層体。」とあるのを、「請求項3?11のいずれか1項に記載の光学積層体。」と訂正する。 (11)訂正事項ア-11 特許請求の範囲の請求項15に、「請求項1?14のいずれか1項に記載の光学積層体。」とあるのを、「請求項3?14のいずれか1項に記載の光学積層体。」と訂正する。 (12)訂正事項ア-12 特許請求の範囲の請求項16に、「請求項1?15のいずれか1項に記載の光学積層体。」とあるのを、「請求項3?15のいずれか1項に記載の光学積層体。」と訂正する。 (13)訂正事項ア-13 特許請求の範囲の請求項17に、「請求項1?16のいずれか1項に記載の光学積層体。」とあるのを、「請求項3?16のいずれか1項に記載の光学積層体。」と訂正する。 (14)訂正事項ア-14 特許請求の範囲の請求項18に、「請求項1?17のいずれか1項に記載の光学積層体を含む」とあるのを、「請求項3?17のいずれか1項に記載の光学積層体を含む」と訂正する。 (15)訂正事項ア-15 特許請求の範囲の請求項9に、「前記アルカリ金属イオンは、カリウムカチオンである、請求項7に記載の光学積層体。」とあるのを、請求項7のうち請求項1を引用するものについて、 「光学フィルムと、粘着剤層と、金属層とをこの順に含み、 前記粘着剤層は、(メタ)アクリル系樹脂(A)、架橋剤、シラン化合物(C)、及び下記式(I): M^(+)X^(-) (I) (式(I)中、M^(+)は無機カチオンを表し、X^(-)はフッ素原子含有アニオンを表す。) で表されるイオン性化合物(D)を含む粘着剤組成物から構成され、 前記フッ素原子含有アニオンは、下記式(II): [Y(SO_(2)C_(m)F_(2m+1))_(n)]^(-) (II) (式(II)中、Yは炭素原子又は窒素原子を表し、Yが炭素原子であるときnは3であり、Yが窒素原子であるときnは2であり、mは0?10の整数を表す。) で表されるフッ素原子含有アニオンであり、 前記金属層は、アルミニウム元素を含み、 前記金属層は金属配線層であり、 前記無機カチオンは、カリウムカチオンである、光学積層体。」と訂正し、新たに請求項20とする。 (16)訂正事項ア-16 特許請求の範囲の請求項11に、「前記フッ素原子含有アニオンは、ビス(フルオロスルホニル)イミドアニオンである、請求項1?9のいずれか1項に記載の光学積層体。」とあるのを、請求項1を引用するものについて、 「光学フィルムと、粘着剤層と、金属層とをこの順に含み、 前記粘着剤層は、(メタ)アクリル系樹脂(A)、架橋剤、シラン化合物(C)、及び下記式(I): M^(+)X^(-) (I) (式(I)中、M^(+)は無機カチオンを表し、X^(-)はフッ素原子含有アニオンを表す。) で表されるイオン性化合物(D)を含む粘着剤組成物から構成され、 前記フッ素原子含有アニオンは、下記式(II): [Y(SO_(2)C_(m)F_(2m+1))_(n)]^(-) (II) (式(II)中、Yは炭素原子又は窒素原子を表し、Yが炭素原子であるときnは3であり、Yが窒素原子であるときnは2であり、mは0?10の整数を表す。) で表されるフッ素原子含有アニオンであり、 前記金属層は、アルミニウム元素を含み、 前記金属層は金属配線層であり、 前記フッ素原子含有アニオンは、ビス(フルオロスルホニル)イミドアニオンである、光学積層体。」と訂正し、新たに請求項21とする。 (17)訂正事項ア-17 特許請求の範囲の請求項13に、「前記(メタ)アクリル系樹脂(A)は、前記アルキルアクリレート(a2)由来の構成単位の含有量が、(メタ)アクリル系樹脂(A)を構成する全構成単位100重量部中、10重量部以上である、請求項12に記載の光学積層体。」とあるのを、請求項12のうち、請求項1を引用するものについて、 「光学フィルムと、粘着剤層と、金属層とをこの順に含み、 前記粘着剤層は、(メタ)アクリル系樹脂(A)、架橋剤、シラン化合物(C)、及び下記式(I): M^(+)X^(-) (I) (式(I)中、M^(+)は無機カチオンを表し、X^(-)はフッ素原子含有アニオンを表す。) で表されるイオン性化合物(D)を含む粘着剤組成物から構成され、 前記フッ素原子含有アニオンは、下記式(II): [Y(SO_(2)C_(m)F_(2m+1))_(n)]^(-) (II) (式(II)中、Yは炭素原子又は窒素原子を表し、Yが炭素原子であるときnは3であり、Yが窒素原子であるときnは2であり、mは0?10の整数を表す。) で表されるフッ素原子含有アニオンであり、 前記金属層は、アルミニウム元素を含み、 前記金属層は金属配線層であり、 前記(メタ)アクリル系樹脂(A)は、ホモポリマーのガラス転移温度が0℃未満であるアルキルアクリレート(a1)由来の構成単位、及びホモポリマーのガラス転移温度が0℃以上であるアルキルアクリレート(a2)由来の構成単位を含有し、 前記(メタ)アクリル系樹脂(A)は、前記アルキルアクリレート(a2)由来の構成単位の含有量が、(メタ)アクリル系樹脂(A)を構成する全構成単位100重量部中、10重量部以上である光学積層体。」と訂正し、新たに請求項22とする。 (18)訂正事項ア-18 特許請求の範囲の請求項14に、「前記アルキルアクリレート(a2)は、メチルアクリレートを含む、請求項12又は13に記載の光学積層体。」とあるのを、請求項12のうち請求項1を引用するものについて、 「光学フィルムと、粘着剤層と、金属層とをこの順に含み、 前記粘着剤層は、(メタ)アクリル系樹脂(A)、架橋剤、シラン化合物(C)、及び下記式(I): M^(+)X^(-) (I) (式(I)中、M^(+)は無機カチオンを表し、X^(-)はフッ素原子含有アニオンを表す。) で表されるイオン性化合物(D)を含む粘着剤組成物から構成され、 前記フッ素原子含有アニオンは、下記式(II): [Y(SO_(2)C_(m)F_(2m+1))_(n)]^(-) (II) (式(II)中、Yは炭素原子又は窒素原子を表し、Yが炭素原子であるときnは3であり、Yが窒素原子であるときnは2であり、mは0?10の整数を表す。) で表されるフッ素原子含有アニオンであり、 前記金属層は、アルミニウム元素を含み、 前記金属層は金属配線層であり、 前記(メタ)アクリル系樹脂(A)は、ホモポリマーのガラス転移温度が0℃未満であるアルキルアクリレート(a1)由来の構成単位、及びホモポリマーのガラス転移温度が0℃以上であるアルキルアクリレート(a2)由来の構成単位を含有し、 前記アルキルアクリレート(a2)は、メチルアクリレートを含む、請求項22に記載の光学積層体。」と訂正し、新たに請求項23とする。 (19)訂正事項ア-19 特許請求の範囲の請求項17に、「前記粘着剤組成物は、トリアゾール系化合物、チアゾール系化合物、イミダゾール系化合物、イミダゾリン系化合物、キノリン系化合物、ピリジン系化合物、ピリミジン系化合物、インドール系化合物、アミン系化合物、ウレア系化合物、ナトリウムベンゾエート、ベンジルメルカプト系化合物、ジ-sec-ブチルスルフィド、及びジフェニルスルホキサイドからなる群より選択される防錆剤を実質的に含まない、請求項1?16のいずれか1項に記載の光学積層体。」とあるのを、請求項1を引用するものについて、 「光学フィルムと、粘着剤層と、金属層とをこの順に含み、 前記粘着剤層は、(メタ)アクリル系樹脂(A)、架橋剤、シラン化合物(C)、及び下記式(I): M^(+)X^(-) (I) (式(I)中、M^(+)は無機カチオンを表し、X^(-)はフッ素原子含有アニオンを表す。) で表されるイオン性化合物(D)を含む粘着剤組成物から構成され、 前記フッ素原子含有アニオンは、下記式(II): [Y(SO_(2)C_(m)F_(2m+1))_(n)]^(-) (II) (式(II)中、Yは炭素原子又は窒素原子を表し、Yが炭素原子であるときnは3であり、Yが窒素原子であるときnは2であり、mは0?10の整数を表す。) で表されるフッ素原子含有アニオンであり、 前記金属層は、アルミニウム元素を含み、 前記金属層は金属配線層であり、 前記粘着剤組成物は、トリアゾール系化合物、チアゾール系化合物、イミダゾール系化合物、イミダゾリン系化合物、キノリン系化合物、ピリジン系化合物、ピリミジン系化合物、インドール系化合物、アミン系化合物、ウレア系化合物、ナトリウムベンゾエート、ベンジルメルカプト系化合物、ジ-sec-ブチルスルフィド、及びジフェニルスルホキサイドからなる群より選択される防錆剤を実質的に含まない、光学積層体。」と訂正し、新たに請求項24とする。 (20)訂正事項ア-20 特許請求の範囲の請求項18に、「請求項1?17のいずれか1項に記載の光学積層体を含む、液晶表示装置。」とあるのを、請求項7のうち請求項1を引用するものをさらに引用する請求項9、請求項1を引用する請求項11及び17、並びに、請求項12のうち請求項1を引用するものをさらに引用する請求項13及び14について、「請求項20?24のいずれか1項に記載の光学積層体を含む、液晶表示装置」と訂正し、新たに請求項25とする。 (21)訂正事項イ 特許請求の範囲の請求項19に、「前記金属層は金属配線層である」とあるのを、 「前記金属層は金属配線層であるとともに、厚みが3μm以下であり、 前記金属配線層が有する線幅は10μm以下である」と訂正する。 2.訂正の目的の適否、新規事項追加の有無、特許請求の範囲の拡張・変更の存否、一群の請求項、独立特許要件 (1)訂正事項ア-1及びア-2の訂正は、それぞれ本件訂正前の請求項1及び2を削除するものであるから、いずれも、特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。 これらの訂正は、新規事項の追加に該当せず、また、実質的に特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではないことは明らかである。 (2)訂正事項ア-3の訂正は、請求項1を引用する請求項2をさらに引用する請求項3の記載を、請求項2を引用する請求項1について書き下すものであるから、他の請求項の記載を引用する請求項の記載を当該他の請求項の記載を引用しないものとすることを目的とするものに該当する。 この訂正は、新規事項の追加に該当せず、また、実質的に特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではないことは明らかである。 (3)訂正事項ア-4?ア-14の訂正は、訂正事項ア-1及びア-2の訂正による請求項1及び2の削除と整合させるために、本件訂正前において請求項1あるいは2を引用していた請求項について、引用先の請求項から、請求項1及び請求項2を除くものであるから、明瞭でない記載の釈明を目的とするものに該当する。 これらの訂正は、新規事項の追加に該当せず、また、実質的に特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではないことは明らかである。 (4)訂正事項ア-15の訂正は、実質的に、請求項1を引用する請求項7をさらに引用する請求項9の記載を、請求項1を引用する請求項7について書き下すものであるから、他の請求項の記載を引用する請求項の記載を当該他の請求項の記載を引用しないものとすることを目的とするものに該当する。 この訂正は、新規事項の追加に該当せず、また、実質的に特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではないことは明らかである。 (5)訂正事項ア-16の訂正は、実質的に、請求項1の記載を引用する請求項11の記載を、請求項1について書き下すものであるから、他の請求項の記載を引用する請求項の記載を当該他の請求項の記載を引用しないものとすることを目的とするものに該当する。 この訂正は、新規事項の追加に該当せず、また、実質的に特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではないことは明らかである。 (6)訂正事項ア-17の訂正は、実質的に、請求項1を引用する請求項12の記載をさらに引用する請求項13の記載を、請求項1を引用する請求項12について書き下すものであるから、他の請求項の記載を引用する請求項の記載を当該他の請求項の記載を引用しないものとすることを目的とするものに該当する。 この訂正は、新規事項の追加に該当せず、また、実質的に特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではないことは明らかである。 (7)訂正事項ア-18の訂正は、請求項1を引用する請求項12の記載をさらに引用する請求項14の記載を、請求項1を引用する請求項12について書き下すものであるから、他の請求項の記載を引用する請求項の記載を当該他の請求項の記載を引用しないものとすることを目的とするものに該当する。 この訂正は、新規事項の追加に該当せず、また、実質的に特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではないことは明らかである。 (8)訂正事項ア-19の訂正は、請求項1を引用する請求項17の記載を、請求項1について書き下すものであるから、他の請求項の記載を引用する請求項の記載を当該他の請求項の記載を引用しないものとすることを目的とするものに該当する。 この訂正は、新規事項の追加に該当せず、また、実質的に特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではないことは明らかである。 (9)訂正事項ア-20の訂正は、実質的に、請求項18のうち、請求項1を引用する請求項7をさらに引用する請求項9、請求項1を引用する請求項11、請求項1を引用する請求項17、請求項12のうち請求項1を引用するものをさらに引用する請求項13、請求項12のうち請求項1を引用するものをさらに引用する請求項14のそれぞれを引用するものを、訂正事項ア-15、ア-16、ア-17、ア-18、ア-19のそれぞれの訂正による新しい請求項である、請求項20、請求項21、請求項22、請求項23、請求項24を引用するように訂正するものである。したがって、訂正事項ア-20の訂正は、請求項1の削除する訂正事項ア-1の訂正へ整合させるために、請求項18のうち、請求項1を引用するいくつかの請求項を請求項25とするものであるから、明瞭でない記載の釈明を目的とするものに該当する。 この訂正は、新規事項の追加に該当せず、また、実質的に特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。 (10)訂正事項イは、本件訂正前の請求項19に記載された「金属配線層」である「金属層」について、「金属層」の「厚み」を「3μm以下」とし、「金属配線層」が有する「線幅」は「10μm以下」である、との数値限定を付加するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。 また、訂正事項イは、本件特許明細書の段落【0130】の「・・・金属層30の厚みは、通常3μm以下であり、好ましくは1μm以下であり、より好ましくは0.8μm以下である。また金属層30の厚みは、通常0.01μm以上である。さらに、金属層30が金属配線層の場合、その金属配線の線幅は通常10μm以下であり、好ましくは5μm以下であり、さらに好ましくは3μm以下である。・・・」との記載に基づくものであり、この訂正は、新規事項の追加に該当しない。また、実質的に特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。 (11)一群の請求項について 本件訂正前の請求項1?18について、請求項2?18はそれぞれ請求項1を引用しているものであって、訂正事項1によって記載が訂正される請求項1に連動して訂正されるものである。 また、被請求人は、訂正後の請求項3?18、20?25についての訂正が認められる場合には、請求項3?18、20?25は、請求項1及び2とは別途訂正することを求めている(訂正請求書31ページ、(ウ))から、認める。 したがって、訂正前の請求項1?18に対応する訂正後の請求項〔1、2〕、〔3?18〕、〔20?25〕は、特許法第120条の5第4項に規定する一群の請求項である。 (12)独立特許要件 本件特許異議の申立てがされていない請求項は、本件訂正前の請求項9、11、13及び14である。そして、実質的にみると、本件訂正後の請求項20は本件訂正前の請求項1を引用する請求項7を引用する請求項9であり、本件訂正後の請求項21は本件訂正前の請求項1を引用する請求項11であり、本件訂正後請求項22は本件訂正前の請求項1を引用する請求項12をさらに引用する請求項13であり、本件訂正後の請求項23は本件訂正前の請求項1を引用する請求項12をさらに引用する請求項14であるから、本件訂正後の請求項20?23も本件特許異議の申立てがされていない請求項である。そしてこれら請求項9、11、13、14、20?23に係る訂正事項ア-9、ア-15?ア-18の訂正は、特許請求の範囲の減縮を目的とするものではないし、誤記又は誤訳の訂正を目的とするものでもないから、いわゆる独立特許要件は課されない。 3.小括 上記2.(1)?(12)に示したとおり、本件訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書き第1号、第3号及び第4号に掲げるいずれかの事項を目的とするものであり、かつ、同条第4項及び同条第9項において準用する同法第126条第4項から第7項までの規定に適合するので、本件訂正後の請求項〔1、2〕、〔3?18〕、19、〔20?25〕について訂正を認める。 第3 特許異議の申立てについて 1.本件発明 本件訂正が認められることにより、本件特許の請求項3?25に係る発明(以下、「本件発明3」等という。)は、本件訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲の請求項3?25に記載された事項により特定されるとおりのものである。 そして、本件発明24は、本件訂正前の請求項1を引用する請求項17に係る発明であること、本件発明25は、本件訂正前の請求項1を引用する請求項17をさらに引用する請求項18に係る発明であることを踏まえると、本件特許異議の申立ての対象とするものは、以下に示す、本件発明3?8、10、12、15?19、24及び25である。 「【請求項3】 光学フィルムと、粘着剤層と、金属層とをこの順に含み、 前記粘着剤層は、(メタ)アクリル系樹脂(A)、架橋剤、シラン化合物(C)、及び下記式(I): M^(+)X^(-) (I) (式(I)中、M^(+)は無機カチオンを表し、X^(-)はフッ素原子含有アニオンを表す。) で表されるイオン性化合物(D)を含む粘着剤組成物から構成され、 前記フッ素原子含有アニオンは、下記式(II): [Y(SO_(2)C_(m)F_(2m+1))_(n)]^(-) (II) (式(II)中、Yは炭素原子又は窒素原子を表し、Yが炭素原子であるときnは3であり、Yが窒素原子であるときnは2であり、mは0?10の整数を表す。) で表されるフッ素原子含有アニオンであり、 前記金属層は、アルミニウム元素を含むとともに、厚みが3μm以下であり、 前記金属層は金属配線層であり、 前記金属配線層が有する金属配線の線幅は10μm以下である、光学積層体。 【請求項4】 前記金属層がタッチ入力素子の金属配線層である、請求項3に記載の光学積層体。 【請求項5】 前記金属層は、スパッタリングにより形成された層である、請求項3又は4に記載の光学積層体。 【請求項6】 前記粘着剤組成物は、前記(メタ)アクリル系樹脂(A)100重量部に対して、前記架橋剤を0.01?2.5重量部、前記シラン化合物(C)を0.01?10重量部、及び前記イオン性化合物(D)を0.2?8重量部含有する、請求項3?5のいずれか1項に記載の光学積層体。 【請求項7】 前記無機カチオン、アルカリ金属イオン又はアルカリ土類金属イオンである、請求項3?6のいずれか1項に記載の光学積層体。 【請求項8】 前記アルカリ金属イオンは、リチウムカチオン、カリウムカチオン又はナトリウムカチオンである、請求項7に記載の光学積層体。」 「【請求項10】 前記フッ素原子含有アニオンは、ビス(フルオロスルホニル)イミドアニオン又はビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミドアニオンである、請求項3?9のいずれか1項に記載の光学積層体。」 「【請求項12】 前記(メタ)アクリル系樹脂(A)は、ホモポリマーのガラス転移温度が0℃未満であるアルキルアクリレート(a1)由来の構成単位、及びホモポリマーのガラス転移温度が0℃以上であるアルキルアクリレート(a2)由来の構成単位を含有する、請求項3?11のいずれか1項に記載の光学積層体。」 「【請求項15】 前記(メタ)アクリル系樹脂(A)は、ヒドロキシル基を有する単量体由来の構成単位を含有する、請求項3?14のいずれか1項に記載の光学積層体。 【請求項16】 前記(メタ)アクリル系樹脂(A)は、カルボキシル基を有する単量体由来の構成単位を実質的に含まない、請求項3?15のいずれか1項に記載の光学積層体。 【請求項17】 前記粘着剤組成物は、トリアゾール系化合物、チアゾール系化合物、イミダゾール系化合物、イミダゾリン系化合物、キノリン系化合物、ピリジン系化合物、ピリミジン系化合物、インドール系化合物、アミン系化合物、ウレア系化合物、ナトリウムベンゾエート、ベンジルメルカプト系化合物、ジ-sec-ブチルスルフィド、及びジフェニルスルホキサイドからなる群より選択される防錆剤を実質的に含まない、請求項3?16のいずれか 1項に記載の光学積層体。 【請求項18】 請求項3?17のいずれか1項に記載の光学積層体を含む、液晶表示装置。 【請求項19】 (メタ)アクリル系樹脂(A)、架橋剤、シラン化合物(C)、及び下記式(I): M^(+)X^(-) (I) (式(I)中、M^(+)は無機カチオンを表し、X^(-)はフッ素原子含有アニオンを表す。) で表されるイオン性化合物(D)を含有し、 前記フッ素原子含有アニオンは、下記式(II): [Y(SO_(2)C_(m)F_(2m+1))_(n)]^(-) (II) (式(II)中、Yは炭素原子又は窒素原子を表し、Yが炭素原子であるときnは3であり、Yが窒素原子であるときnは2であり、mは0?10の整数を表す。) で表されるフッ素原子含有アニオンであり、 アルミニウム元素を含む金属層上に光学フィルムを積層するための粘着剤層の形成に用いられ、 前記金属層は金属配線層であるとともに、厚みが3μm以下であり、 前記金属配線層が有する線幅は10μm以下である、粘着剤組成物。」 「【請求項24】 光学フィルムと、粘着剤層と、金属層とをこの順に含み、 前記粘着剤層は、(メタ)アクリル系樹脂(A)、架橋剤、シラン化合物(C)、及び下記式(I): M^(+)X^(-) (I) (式(I)中、M^(+)は無機カチオンを表し、X^(-)はフッ素原子含有アニオンを表す。) で表されるイオン性化合物(D)を含む粘着剤組成物から構成され、 前記フッ素原子含有アニオンは、下記式(II): [Y(SO_(2)C_(m)F_(2m+1))_(n)]^(-) (II) (式(II)中、Yは炭素原子又は窒素原子を表し、Yが炭素原子であるときnは3であり、Yが窒素原子であるときnは2であり、mは0?10の整数を表す。) で表されるフッ素原子含有アニオンであり、 前記金属層は、アルミニウム元素を含み、 前記金属層は金属配線層であり、 前記粘着剤組成物は、トリアゾール系化合物、チアゾール系化合物、イミダゾール系化合物、イミダゾリン系化合物、キノリン系化合物、ピリジン系化合物、ピリミジン系化合物、インドール系化合物、アミン系化合物、ウレア系化合物、ナトリウムベンゾエート、ベンジルメルカプト系化合物、ジ-sec-ブチルスルフィド、及びジフェニルスルホキサイドからなる群より選択される防錆剤を実質的に含まない、光学積層体。 【請求項25】 請求項20?24のいずれか1項に記載の光学積層体を含む、液晶表示装置」 2.取消理由の概要 平成29年3月6日付けで特許権者に通知した取消理由の概要は、以下のとおりである。 [理由1] 本件発明1?8、10、12、15、16、18、19にそれぞれ係る発明は、以下の刊行物に記載された発明及び事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものである。よって、本件発明1?8、10、12、15、16、18、19に係る特許は、特許法第113条第2号の規定に該当し、取り消されるべきものである。 [刊行物] 1.特表2010-525098号公報(甲第2号証) 2.特開2013-84026号公報(甲第3号証) 3.特開2013-129183号公報(甲第4号証) 4.特開2014-109904号公報(甲第5号証) (以下、甲第2号証を、「甲2」といい、甲2に記載された発明及び事項を、それぞれ「甲2発明」及び「甲2記載事項」等という。 ) (1)本件発明1について 本件発明1は、甲2発明及び従来周知の事項(甲3?甲5に例示)に基いて当業者が容易に発明をすることができたものである。 (2)本件発明2及び3について 本件発明2及び3に係る発明は、甲2発明及び甲3記載事項あるいは甲4記載事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである。 (3)本件発明4?8、10、12、15、16、18、19について 本件発明4?8、10、12、15、16、18、19に係る発明は、甲2発明及び従来周知の事項(甲3?甲5に例示)に基いて当業者が容易に発明をすることができたものである。 3.甲2発明 甲第2号証(特表2010-525098号公報)の、【請求項1】、【請求項18】?【請求項20】、【0001】、【0019】?【0020】、【0075】、【0095】、【0097】?【0104】、及び、【0105】【表1】(特に実施例1)の記載から、甲2には、以下の甲2発明が記載されていると認められる。 「偏光板と、粘着剤層と、液晶セルとをこの順に含み、 前記粘着剤層は、n-ブチルアクリレート、架橋剤、シラン系カップリング剤、及び、リチウムビストリフルオロメタンスルホニルイミドを含む、 液晶パネル」 4.上記取消理由についての判断 (1)本件特許異議の申立ての対象である本件発明3?8、10、12、15?19、24及び25について、以下のとおり判断する。 (1-1)本件発明3について ア.対比 本件発明3と甲2発明とを対比すると、少なくとも以下の点で相違する。 <相違点> 本件発明3の「光学積層体」は、「光学フィルムと、粘着剤層と、金属層とをこの順に含み、」「前記金属層は、アルミニウム元素を含むとともに、厚みが3μm以下であり、前記金属層は金属配線層であり、前記金属配線層が有する金属配線の線幅は10μm以下である」のに対し、甲2発明の「液晶パネル」は、「粘着剤層」を含むものではあるものの、金属層を、「粘着剤層」の次の順として含むものであるかが明らかではない点。 イ.相違点についての検討 本件特許明細書には、以下の記載がある。 「【発明が解決しようとする課題】 【0004】 近年、液晶表示装置は、スマートフォンやタブレット型端末、車載用カーナビゲーションシステムに代表されるタッチパネル機能を有するモバイル機器用途に展開されている。このようなタッチ入力式液晶表示装置において粘着剤層付光学フィルムは、その粘着剤層が例えば金属配線から構成される金属層に、例えば樹脂層を介して、又は直接接触するように配置されることもある。しかしながら、金属材料からなる金属層とイオン性化合物を含有する粘着剤層とを組み合わせた構成においては、高温高湿環境下において金属層が腐食することがあった。 【0005】 本発明は、金属配線層のような金属層上に粘着剤層付光学フィルムが積層されている光学積層体であって、金属層の腐食を抑制することができる光学積層体、及びこれを含む液晶表示装置の提供を目的とする。」 「【0163】 (5)粘着剤層付光学フィルムの耐金属腐食性評価 ・・・得られた光学積層体を、温度60℃、相対湿度90%のオーブン中で500時間保管した後、粘着剤層付光学フィルムが貼着された部分の金属層の状態を観察し、以下の基準で評価した。結果を表3に示す。 【0164】 4:金属層表面に発生した孔食の数が2個以下である、 3:金属層表面に発生した孔食の数が3個?5個である、 2:金属層表面に発生した孔食の数が6個以上である、 1:金属層表面の全面に多数の孔食が発生し、かつ白濁も発生している。」 そうすると、本件発明が抑制しようとする「腐食」とは、光学積層体において、金属層の上に積層される粘着剤層によって、金属層において生じるものであって、その態様として、金属層表面に孔食が発生することが、本件特許明細書には記載されている。そして、それ以外の発生箇所や態様の腐食について、本件特許明細書には記載されていない。 したがって、本件発明が課題とする「腐食」とは、粘着剤層に接する金属層において生じるものであって、その態様は、金属層の「孔食」であると解するのが相当である。 一方、甲2には、以下の記載がある。 「【0006】 粘着剤に帯電防止性能を付与するために、粘着剤内部にイオン性帯電防止剤を添加する場合、静電気防止性能には優れるが、金属面に接触するとき腐食する問題点を有していた。もちろん、帯電防止性が求められる粘着剤は、静電気が発生し易い絶縁製剤品に主に使用されているが、部分的に金属面に接触する可能性を排除することができないため、帯電防止性と同時に耐腐食性を要求する用途において有用である。例えば、偏光板用保護フィルム応用の場合、保護フィルムの粘着剤が接触した偏光板外面をベゼルと呼ばれる金属製で固定するが、使用中に腐食によりベゼルが変質する問題があった。」 「【発明が解決しようとする課題】 【0013】 本発明は、上記のような従来技術の問題点を解決するためのものであり、本発明の目的は、光学的に透明であり、耐久信頼性を変化させることなく、金属面に接触しても腐食の発生がないと同時に、帯電防止性能に優れたアクリル系粘着剤組成物を提供することにある。」 「【発明を実施するための形態】 【0019】 以下、本発明を詳細に説明する。 本発明者は、粘着剤に帯電防止剤を添加することによって、静電気防止性能には優れるが、金属面に接触したとき腐食する問題を腐食防止剤を添加することによって、これを改善しうることを確認した。 【0020】 さらに、腐食防止剤を添加することによって帯電防止性能が低下することなく、相乗効果によって帯電防止性能がさらに向上すると同時に腐食を防止することができることが分かった。即ち、腐食防止剤は構造的特性の双極子モーメントが大きな構造を有する。従って、腐食防止剤はイオン性帯電防止剤の解離力を増大させるために、帯電防止剤の効果を極大化しうることを見出し、本発明を完成した。 【0021】 従って、本発明はアクリル系粘着剤組成物に帯電防止剤及び腐食防止剤を同時に含むことを特徴とする」 「【0075】 添加剤 上記のような成分からなる本発明のアクリル系粘着剤組成物は必要に応じてシラン系カップリング剤又は粘着性付与樹脂をさらに使用することができる。 【0076】 上記シラン系カップリング剤は、アクリル系粘着剤がガラス板と接着する場合、接着安定性を向上させ、耐熱、耐湿特性をさらに向上させる作用をする。特に、上記シラン系カップリング剤は高温高湿下で長時間放置された場合、接着信頼性の向上を促進する作用をする。」 「【0104】 (C)腐食防止性 上記実施例1?4及び比較例1?4で製造した偏光板を50×50mmで切断し、金属(銅、アルミニウムなど)面に付着する。その後、測定サンプルを60℃の温度と90%の相対湿度下で1000時間放置した後、腐食程度を観察した。 評価基準は, ○:腐食未発生により金属面の変色無し △:若干の腐食発生により金属面の部分変色 ×:腐食発生により金属面の変色」 そうすると、甲2には、「腐食」が、アクリル系粘着剤が接触する金属面に発生する旨の記載はあるものの、具体的な発生箇所としては、ベゼルが記載されているのみであり、当該金属面が、光学積層体を構成する粘着剤層の次の順番で積層される金属層であるとの記載もないし、示唆する記載もない。また、「腐食」の態様について、甲2には、金属面の変色について記載されているだけで、金属層に「孔食」が発生することについての記載はないし、示唆する記載もない。 また、甲3?甲5にも、光学積層体を構成する粘着剤層に金属層が積層されたものにおいて、当該金属層に孔食を含めて腐食が発生するとの記載はないし、示唆する記載もない。また、この点が従来周知であったことを示す証拠もない。 そうすると、甲2発明が課題とする「腐食」は、本件発明3のものと発生箇所や態様が大きく相違するから、光学積層体を構成する粘着剤層に金属層を積層することが甲3?甲5記載事項、あるいは、従来周知の事項であったとしても、甲2発明の「液晶パネル」を構成する粘着剤層の次に上記相違点に係る本件発明3の構成を備えた金属層を積層することが、当業者が容易になし得た事項であるとはいえない。 さらに、甲2には、アクリル系粘着剤の層の次に、金属層を設ける点は記載されていないし、示唆する記載もない。さらに、本件発明3の粘着剤層は、シラン化合物を含み、甲2発明の粘着剤層も、シラン化合物であるシラン系カップリング剤を含むものであるところ、甲2発明のシラン系カップリング剤は、アクリル系粘着剤がガラス板と接着する場合、接着安定性等を向上させるためである(甲2の段落【0075】、【0076】)から、甲2発明の粘着剤層の次には、ガラス板を設けることが、甲2に示唆されているといえ、むしろ、甲2発明においては、粘着剤層の次の順番として金属層を積層することに阻害事由があるといえる。 よって、本件発明3は、甲2発明、甲3記載事項?甲5記載事項、及び、従来周知の事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。 ウ.申立人の意見について 申立人は、平成29年6月16日に提出された意見書において、以下のとおり主張している。 「すなわち、『孔食』とは、金属薄層の腐食により穴が開く現象であり、単なる腐食の一形態であるということが容易に理解される。したがって、仮にベゼルと金属配線層とが異なる部材であり、それによりサイズが異なっていたとしても、ベゼルの変色を発生させるような腐食が起これば当然腐食により孔食が発生し得ること、及び、ベゼルの変色を発生させるような腐食が起これば当該腐食により金属配線の機能を悪化させることは当業者に自明である。」(5ページ16?20行) しかし、ベゼルは、通常偏光板の外側に位置し、偏光板外面を固定するものであるのに対し、本件発明3が課題とする腐食は、光学積層体を構成する粘着剤層の次の金属層に生じるものであって、それぞれの腐食の発生部位の環境は大きく相違すると考えられるし、「腐食」の態様も異なるから、「ベゼルの変色を発生させるような腐食が起これば当然腐食により孔食が発生し得ること、及び、ベゼルの変色を発生させるような腐食が起これば当該腐食により金属配線の機能を悪化させる」ことが、直ちにいえるとは認められず、また、そのことを示す証拠もないから、申立人の意見は採用できない。 (1-2)本件発明4?8、10、12、15、16、18について 本件発明4?8、10、12、15、16、18は、直接あるいは間接に本件発明3を引用する発明であるから、本件発明3の特定事項の全てを含んだものである。 そして、上記(1-1)に示したように、本件発明3は、甲2発明、甲3記載事項?甲5記載事項、及び、従来周知の事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。 そうすると、本件発明3の発明特定事項の全てを含み、さらに限定された発明である、本件発明4?8、10、12、15、16、18も、甲2発明、甲3記載事項?甲5記載事項、及び、従来周知の事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。 (1-3)本件発明19について 本件発明19の、「アルミニウム元素を含む金属層上に光学フィルムを積層するための粘着剤層」との記載から、「粘着剤層」は、「金属層」と「光学フィルム」との間で両者を粘着させるものであるから、本件発明19は、「光学フィルムと、粘着剤層と、金属層とをこの順に含」むものであることは明らかである。 そうすると、本件発明19も、実質的に上記(1-1)ア.に示した相違点に係る本件発明3の構成と同じ構成を備えるものであるから、本件発明19は、甲2発明と、少なくとも本件発明3と甲2発明との相違点と同じ相違点において相違する。 そして、(1-1)イ.に示したのと同様に、甲2発明の「液晶パネル」を構成する粘着剤層の次に、上記相違点に係る本件発明19の構成を備えた金属層を積層することは、当業者が容易になし得た事項であるとはいえないから、本件発明19も、甲2発明、甲3記載事項?5記載事項及び従来周知の事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。 (2)取消理由通知において採用しなかった特許異議申立理由について ア.取消理由通知において採用しなかった特許異議申立理由の概要 [理由2] 甲1(特開2015-146013号公報)を主引用例とする特許法第29条第2項違反 イ.上記理由2についての判断 甲1の公知日は平成27年8月13日であり、本件特許の原出願の出願(平成27年3月31日)前公知の刊行物ではない。 そして、本件特許の特許出願が特許法第44条の規定に違反してされたものではなく、原出願の特許出願のときにしたものとみなすことができる。 よって、本件発明3?8、10、12、15?19、24?25に対する上記理由2は、理由がない。 第4 むすび 以上のとおりであるから、取消理由通知に記載した取消理由及び特許異議申立書に記載された特許異議申立理由によっては、本件発明3?8、10、12、15?19、24及び25に係る特許を取り消すことはできない。 また、本件特許の請求項1及び2は、本件訂正により削除されたため、本件特許の請求項1及び2に対して申立人がした特許異議の申立てについては、対象となる請求項が存在しない。よって、本件特許の請求項1及び2に係る特許異議の申立ては不適法であって、その補正をすることができないものであるから、特許法第120条の8で準用する同法第135条の規定により、却下すべきものである。 そして、他に本件請求項3?8、10、12、15?19、24及び25に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。 よって、結論のとおり決定する。 |
発明の名称 |
(57)【特許請求の範囲】 【請求項1】 (削除) 【請求項2】 (削除) 【請求項3】 光学フィルムと、粘着剤層と、金属層とをこの順に含み、 前記粘着剤層は、(メタ)アクリル系樹脂(A)、架橋剤、シラン化合物(C)、及び下記式(I): M^(+)X^(-) (I) (式(I)中、M^(+)は無機カチオンを表し、X^(-)はフッ素原子含有アニオンを表す。) で表されるイオン性化合物(D)を含む粘着剤組成物から構成され、 前記フッ素原子含有アニオンは、下記式(II): [Y(SO_(2)C_(m)F_(2m+1))_(n)]^(-) (II) (式(II)中、Yは炭素原子又は窒素原子を表し、Yが炭素原子であるときnは3であり、Yが窒素原子であるときnは2であり、mは0?10の整数を表す。) で表されるフッ素原子含有アニオンであり、 前記金属層は、アルミニウム元素を含むとともに、厚みが3μm以下であり、 前記金属層は金属配線層であり、 前記金属配線層が有する金属配線の線幅は10μm以下である、光学積層体。 【請求項4】 前記金属層がタッチ入力素子の金属配線層である、請求項3に記載の光学積層体。 【請求項5】 前記金属層は、スパッタリングにより形成された層である、請求項3又は4に記載の光学積層体。 【請求項6】 前記粘着剤組成物は、前記(メタ)アクリル系樹脂(A)100重量部に対して、前記架橋剤を0.01?2.5重量部、前記シラン化合物(C)を0.01?10重量部、及び前記イオン性化合物(D)を0.2?8重量部含有する、請求項3?5のいずれか1項に記載の光学積層体。 【請求項7】 前記無機カチオンは、アルカリ金属イオン又はアルカリ土類金属イオンである、請求項3?6のいずれか1項に記載の光学積層体。 【請求項8】 前記アルカリ金属イオンは、リチウムカチオン、カリウムカチオン又はナトリウムカチオンである、請求項7に記載の光学積層体。 【請求項9】 前記アルカリ金属イオンは、カリウムカチオンである、請求項7に記載の光学積層体。 【請求項10】 前記フッ素原子含有アニオンは、ビス(フルオロスルホニル)イミドアニオン又はビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミドアニオンである、請求項3?9のいずれか1項に記載の光学積層体。 【請求項11】 前記フッ素原子含有アニオンは、ビス(フルオロスルホニル)イミドアニオンである、請求項3?9のいずれか1項に記載の光学積層体。 【請求項12】 前記(メタ)アクリル系樹脂(A)は、ホモポリマーのガラス転移温度が0℃未満であるアルキルアクリレート(a1)由来の構成単位、及びホモポリマーのガラス転移温度が0℃以上であるアルキルアクリレート(a2)由来の構成単位を含有する、請求項3?11のいずれか1項に記載の光学積層体。 【請求項13】 前記(メタ)アクリル系樹脂(A)は、前記アルキルアクリレート(a2)由来の構成単位の含有量が、(メタ)アクリル系樹脂(A)を構成する全構成単位100重量部中、10重量部以上である、請求項12に記載の光学積層体。 【請求項14】 前記アルキルアクリレート(a2)は、メチルアクリレートを含む、請求項12又は13に記載の光学積層体。 【請求項15】 前記(メタ)アクリル系樹脂(A)は、ヒドロキシル基を有する単量体由来の構成単位を含有する、請求項3?14のいずれか1項に記載の光学積層体。 【請求項16】 前記(メタ)アクリル系樹脂(A)は、カルボキシル基を有する単量体由来の構成単位を実質的に含まない、請求項3?15のいずれか1項に記載の光学積層体。 【請求項17】 前記粘着剤組成物は、トリアゾール系化合物、チアゾール系化合物、イミダゾール系化合物、イミダゾリン系化合物、キノリン系化合物、ピリジン系化合物、ピリミジン系化合物、インドール系化合物、アミン系化合物、ウレア系化合物、ナトリウムベンゾエート、ベンジルメルカプト系化合物、ジ-sec-ブチルスルフィド、及びジフェニルスルホキサイドからなる群より選択される防錆剤を実質的に含まない、請求項3?16のいずれか1項に記載の光学積層体。 【請求項18】 請求項3?17のいずれか1項に記載の光学積層体を含む、液晶表示装置。 【請求項19】 (メタ)アクリル系樹脂(A)、架橋剤、シラン化合物(C)、及び下記式(I): M^(+)X^(-) (I) (式(I)中、M^(+)は無機カチオンを表し、X^(-)はフッ素原子含有アニオンを表す。) で表されるイオン性化合物(D)を含有し、 前記フッ素原子含有アニオンは、下記式(II): [Y(SO_(2)C_(m)F_(2m+1))_(n)]^(-) (II) (式(II)中、Yは炭素原子又は窒素原子を表し、Yが炭素原子であるときnは3であり、Yが窒素原子であるときnは2であり、mは0?10の整数を表す。) で表されるフッ素原子含有アニオンであり、 アルミニウム元素を含む金属層上に光学フィルムを積層するための粘着剤層の形成に用いられ、 前記金属層は金属配線層であるとともに、厚みが3μm以下であり、 前記金属配線層が有する金属配線の線幅は10μm以下である、粘着剤組成物。 【請求項20】 光学フィルムと、粘着剤層と、金属層とをこの順に含み、 前記粘着剤層は、(メタ)アクリル系樹脂(A)、架橋剤、シラン化合物(C)、及び下記式(I): M^(+)X^(-) (I) (式(I)中、M^(+)は無機カチオンを表し、X^(-)はフッ素原子含有アニオンを表す。) で表されるイオン性化合物(D)を含む粘着剤組成物から構成され、 前記フッ素原子含有アニオンは、下記式(II): [Y(SO_(2)C_(m)F_(2m+1))_(n)]^(-) (II) (式(II)中、Yは炭素原子又は窒素原子を表し、Yが炭素原子であるときnは3であり、Yが窒素原子であるときnは2であり、mは0?10の整数を表す。) で表されるフッ素原子含有アニオンであり、 前記金属層は、アルミニウム元素を含み、 前記金属層は金属配線層であり、 前記無機カチオンは、カリウムカチオンである、光学積層体。 【請求項21】 光学フィルムと、粘着剤層と、金属層とをこの順に含み、 前記粘着剤層は、(メタ)アクリル系樹脂(A)、架橋剤、シラン化合物(C)、及び下記式(I): M^(+)X^(-) (I) (式(I)中、M^(+)は無機カチオンを表し、X^(-)はフッ素原子含有アニオンを表す。) で表されるイオン性化合物(D)を含む粘着剤組成物から構成され、 前記フッ素原子含有アニオンは、下記式(II): [Y(SO_(2)C_(m)F_(2m+1))_(n)]^(-) (II) (式(II)中、Yは炭素原子又は窒素原子を表し、Yが炭素原子であるときnは3であり、Yが窒素原子であるときnは2であり、mは0?10の整数を表す。) で表されるフッ素原子含有アニオンであり、 前記金属層は、アルミニウム元素を含み、 前記金属層は金属配線層であり、 前記フッ素原子含有アニオンは、ビス(フルオロスルホニル)イミドアニオンである、光学積層体。 【請求項22】 光学フィルムと、粘着剤層と、金属層とをこの順に含み、 前記粘着剤層は、(メタ)アクリル系樹脂(A)、架橋剤、シラン化合物(C)、及び下記式(I): M^(+)X^(-) (I) (式(I)中、M^(+)は無機カチオンを表し、X^(-)はフッ素原子含有アニオンを表す。) で表されるイオン性化合物(D)を含む粘着剤組成物から構成され、 前記フッ素原子含有アニオンは、下記式(II): [Y(SO_(2)C_(m)F_(2m+1))_(n)]^(-) (II) (式(II)中、Yは炭素原子又は窒素原子を表し、Yが炭素原子であるときnは3であり、Yが窒素原子であるときnは2であり、mは0?10の整数を表す。) で表されるフッ素原子含有アニオンであり、 前記金属層は、アルミニウム元素を含み、 前記金属層は金属配線層であり、 前記(メタ)アクリル系樹脂(A)は、ホモポリマーのガラス転移温度が0℃未満であるアルキルアクリレート(a1)由来の構成単位、及びホモポリマーのガラス転移温度が0℃以上であるアルキルアクリレート(a2)由来の構成単位を含有し、 前記(メタ)アクリル系樹脂(A)は、前記アルキルアクリレート(a2)由来の構成単位の含有量が、(メタ)アクリル系樹脂(A)を構成する全構成単位100重量部中、10重量部以上である、光学積層体。 【請求項23】 光学フィルムと、粘着剤層と、金属層とをこの順に含み、 前記粘着剤層は、(メタ)アクリル系樹脂(A)、架橋剤、シラン化合物(C)、及び下記式(I): M^(+)X^(-) (I) (式(I)中、M^(+)は無機カチオンを表し、X^(-)はフッ素原子含有アニオンを表す。) で表されるイオン性化合物(D)を含む粘着剤組成物から構成され、 前記フッ素原子含有アニオンは、下記式(II): [Y(SO_(2)C_(m)F_(2m+1))_(n)]^(-) (II) (式(II)中、Yは炭素原子又は窒素原子を表し、Yが炭素原子であるときnは3であり、Yが窒素原子であるときnは2であり、mは0?10の整数を表す。) で表されるフッ素原子含有アニオンであり、 前記金属層は、アルミニウム元素を含み、 前記金属層は金属配線層であり、 前記(メタ)アクリル系樹脂(A)は、ホモポリマーのガラス転移温度が0℃未満であるアルキルアクリレート(a1)由来の構成単位、及びホモポリマーのガラス転移温度が0℃以上であるアルキルアクリレート(a2)由来の構成単位を含有し、 前記アルキルアクリレート(a2)は、メチルアクリレートを含む、請求項22に記載の光学積層体。 【請求項24】 光学フィルムと、粘着剤層と、金属層とをこの順に含み、 前記粘着剤層は、(メタ)アクリル系樹脂(A)、架橋剤、シラン化合物(C)、及び下記式(I): M^(+)X^(-) (I) (式(I)中、M^(+)は無機カチオンを表し、X^(-)はフッ素原子含有アニオンを表す。) で表されるイオン性化合物(D)を含む粘着剤組成物から構成され、 前記フッ素原子含有アニオンは、下記式(II): [Y(SO_(2)C_(m)F_(2m+1))_(n)]^(-) (II) (式(II)中、Yは炭素原子又は窒素原子を表し、Yが炭素原子であるときnは3であり、Yが窒素原子であるときnは2であり、mは0?10の整数を表す。) で表されるフッ素原子含有アニオンであり、 前記金属層は、アルミニウム元素を含み、 前記金属層は金属配線層であり、 前記粘着剤組成物は、トリアゾール系化合物、チアゾール系化合物、イミダゾール系化合物、イミダゾリン系化合物、キノリン系化合物、ピリジン系化合物、ピリミジン系化合物、インドール系化合物、アミン系化合物、ウレア系化合物、ナトリウムベンゾエート、ベンジルメルカプト系化合物、ジ-sec-ブチルスルフィド、及びジフェニルスルホキサイドからなる群より選択される防錆剤を実質的に含まない、光学積層体。 【請求項25】 請求項20?24のいずれか1項に記載の光学積層体を含む、液晶表示装置。 |
訂正の要旨 |
審決(決定)の【理由】欄参照。 |
異議決定日 | 2017-09-12 |
出願番号 | 特願2015-199278(P2015-199278) |
審決分類 |
P
1
652・
121-
YAA
(B32B)
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最終処分 | 維持 |
前審関与審査官 | 大村 博一 |
特許庁審判長 |
千壽 哲郎 |
特許庁審判官 |
久保 克彦 蓮井 雅之 |
登録日 | 2016-06-24 |
登録番号 | 特許第5956044号(P5956044) |
権利者 | 住友化学株式会社 |
発明の名称 | 光学積層体及び液晶表示装置 |
代理人 | 特許業務法人深見特許事務所 |
代理人 | 特許業務法人深見特許事務所 |