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審決分類 審判 全部申し立て 2項進歩性  C09J
審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  C09J
審判 全部申し立て 1項3号刊行物記載  C09J
管理番号 1334326
異議申立番号 異議2016-700883  
総通号数 216 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2017-12-28 
種別 異議の決定 
異議申立日 2016-09-15 
確定日 2017-09-25 
異議申立件数
訂正明細書 有 
事件の表示 特許第5892282号発明「導電性接着剤、導電性接着シート、および配線デバイス」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第5892282号の特許請求の範囲を、訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1?8〕について訂正することを認める。 特許第5892282号の請求項1ないし3、5ないし8に係る特許を維持する。 特許第5892282号の請求項4に係る特許についての特許異議の申立てを却下する。 
理由 第1 手続の経緯

本件特許第5892282号(以下「本件特許」という。)の請求項1?8に係る特許についての出願は、平成28年3月4日付けでその特許権の設定登録がされ、その後、特許異議申立人田村良介(以下、「異議申立人」という。)より特許異議の申立てがされ、同年12月19日付けで取消理由が通知され、その指定期間内である平成29年2月15日に意見書の提出及び訂正の請求がされ、これに対し、特許異議申立人に、期間を指定して意見書を提出する機会を与えたが何らの応答もなかったものの、平成29年5月10日付けで取消理由(決定の予告)が通知され、その指定期間内である平成29年6月23日に意見書の提出及び再度の訂正の請求がされ、これに対し、特許異議申立人に、期間を指定して意見書を提出する機会を与えたが何らの応答もなかったものである。
なお、平成29年2月15日にした訂正の請求は、特許法第120条の5第7項の規定により、取り下げられたものとみなす。

第2 訂正の請求

1 訂正の内容

平成29年6月23日付け訂正請求書による訂正の請求は、「特許第5892282号の特許請求の範囲を本訂正請求書に添付した訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項1?8について訂正することを求める」ものであり、その訂正(以下「本件訂正」という。)の内容は、本件特許に係る願書に添付した特許請求の範囲を、次のように訂正するものである(下線は、訂正箇所を示す)。

(1) 訂正事項1(請求項1に係る訂正)

特許請求の範囲の請求項1に「前記核体100重量部に対し、前記被覆層が40重量部以下であることを特徴とする導電性接着剤。」とあるのを、「前記核体100重量部に対し、前記被覆層が40重量部以下であり、
前記カルボキシル基を有する熱硬化性樹脂(A)は、カルボキシル基を有するジオール化合物(a)と、カルボキシル基を有しないポリオール化合物(b)と、有機ジイソシアネート(c)とを反応させて得られる、酸価1mgKOH/g以上のポリウレタン系熱硬化性樹脂であり、
前記カルボキシル基を有するジオール化合物(a)は、ジメチロールアルカン酸、ジヒドロキシコハク酸、およびジヒドロキシ安息香酸の少なくともいずれかであり、
前記ポリウレタン系熱硬化性樹脂が、ポリカーボネート系ポリウレタン樹脂、ポリエステル系ポリウレタン樹脂、ポリエーテル系ポリウレタン樹脂、およびポリブタジエン系ポリウレタン樹脂からなる群より選ばれる少なくともいずれかであり、
以下の<I>及び<II>の少なくともいずれかを満たすことを特徴とする導電性接着剤。
<I>
前記導電性フィラー(B)の被覆率が90%以上であり、
シランカップリング剤が、ビニル系シランカップリング剤、エポキシ系シランカップリング剤、およびアミノ系シランカップリング剤からなる群より選ばれる少なくともいずれかであり、
前記熱硬化性樹脂(A)100質量部に対して、1?3質量部のシランカップリング剤が配合されており、
前記熱硬化性樹脂(A)、前記エポキシ樹脂、前記導電性フィラー(B)、前記硬化剤、及び前記シランカップリング剤の合計304.3重量部に対し、前記無機フィラーは30重量部を超えない。
<II>
前記エポキシ樹脂は3官能反応型エポキシであり、
前記熱硬化性樹脂(A)100質量部に対して、3?10質量部のシランカップリング剤が配合されており、
前記熱硬化性樹脂(A)、前記エポキシ樹脂、前記導電性フィラー(B)、前記硬化剤、及び前記シランカップリング剤の合計306.3重量部に対し、前記無機フィラーは30重量部を超えない。」に訂正する。

(2) 訂正事項2(請求項3に係る訂正)

特許請求の範囲の請求項3に「シランカップリング剤が、ビニル系シランカップリング剤、エポキシ系シランカップリング剤、およびアミノ系シランカップリング剤からなる群より選ばれる少なくともいずれかであることを特徴とする請求項1または2記載の導電性接着剤。」とあるのを、「シランカップリング剤が、エポキシ系シランカップリング剤であることを特徴とする請求項1または2記載の導電性接着剤。」に訂正する。

(3) 訂正事項3(請求項4に係る訂正)

特許請求の範囲の請求項4を削除する。

(4) 訂正事項4(請求項5に係る訂正)

特許請求の範囲の請求項5に「剥離性シート上に、請求項1?4いずれか1項記載の導電性接着剤より形成されてなる導電性接着剤層を備えることを特徴とする導電性接着シート。」とあるのを、「剥離性シート上に、請求項1?3いずれか1項記載の導電性接着剤より形成されてなる導電性接着剤層を備えることを特徴とする導電性接着シート。」に訂正する。

(5) 訂正事項5(請求項6に係る訂正)

特許請求の範囲の請求項6に「剥離性シートと、請求項1?4いずれか1項記載の導電性接着剤より形成されてなる導電性接着剤層と、補強板とを備えることを特徴とする積層体。」とあるのを、「剥離性シートと、請求項1?3いずれか1項記載の導電性接着剤より形成されてなる導電性接着剤層と、補強板とを備えることを特徴とする積層体。」に訂正する。

(6) 訂正事項6(請求項7に係る訂正)

特許請求の範囲の請求項7に「前記配線板と前記補強板とを接合する導電性接着剤層とからなる配線デバイスであって、該導電性接着剤層が、請求項1?4いずれか1項記載の導電性接着剤より形成されてなることを特徴とする配線デバイス。」とあるのを、「前記配線板と前記補強板とを接合する導電性接着剤層とからなる配線デバイスであって、該導電性接着剤層が、請求項1?3いずれか1項記載の導電性接着剤より形成されてなることを特徴とする配線デバイス。」に訂正する。

2 訂正の適否

(1) 訂正事項1、3

訂正事項1、3の請求項1、4に係る訂正は、請求項4を削除するとともに、請求項1の「カルボキシル基を有する熱硬化性樹脂(A)」を、「カルボキシル基を有するジオール化合物(a)と、カルボキシル基を有しないポリオール化合物(b)と、有機ジイソシアネート(c)とを反応させて得られる、酸価1mgKOH/g以上のポリウレタン系熱硬化性樹脂」に減縮するものであり、また、請求項1の導電性接着剤を、「<I>及び<II>の少なくともいずれかを満たす」ものであって、ここで、<I>の条件が、「前記導電性フィラー(B)の被覆率が90%以上であり、シランカップリング剤が、ビニル系シランカップリング剤、エポキシ系シランカップリング剤、およびアミノ系シランカップリング剤からなる群より選ばれる少なくともいずれかであり、前記熱硬化性樹脂(A)100質量部に対して、1?3質量部のシランカップリング剤が配合されている」ものであり、また、無機フィラーの含有量を、「前記熱硬化性樹脂(A)、前記エポキシ樹脂、前記導電性フィラー(B)、前記硬化剤、及び前記シランカップリング剤の合計304.3重量部に対し、前記無機フィラーは30重量部を超えない」ものに特定することで減縮するものであり、さらに、<II>の条件が、「前記エポキシ樹脂は3官能反応型エポキシであり、前記熱硬化性樹脂(A)100質量部に対して、3?10質量部のシランカップリング剤が配合されている」ものであり、また、無機フィラーの含有量を、「前記熱硬化性樹脂(A)、前記エポキシ樹脂、前記導電性フィラー(B)、前記硬化剤、及び前記シランカップリング剤の合計306.3重量部に対し、前記無機フィラーは30重量部を超えない」ものに特定することで減縮するものであり、また、上記<I>の条件については、本願の願書に添付した明細書(以下、「本件特許明細書」という。)の【0055】の「導電性接着剤中へのエポキシ樹脂の配合量は、熱硬化性樹脂(A)100重量部に対して、3?200重量部であることが好ましく、」との記載(下線は当審において付記したものである。以下同じ。)、同じく【0061】の「導電性接着剤中への導電性フィラー(B)の配合量は、熱硬化性樹脂(A)100重量部に対して、200?1,000重量部であることが好ましく、」との記載、同じく【0069】の「導電性接着剤中への硬化剤の配合量は、熱硬化性樹脂(A)100重量部に対して、0.3?20重量部であることが好ましく、」との記載、【0078】の「導電性接着剤中へのシランカップリング剤の配合量は、熱硬化性樹脂(A)100重量部に対して、0.1?25重量部であることが好ましく、」との記載、及び、同じく【0120】【表4】の実施例19(ただし、同じく【0111】において参考例として示されている。)には、導電性接着剤へのシランカップリング剤の配合量が、熱硬化性樹脂(A)100重量部に対して、1重量部であることの記載を根拠とするものであり、これらの記載から、熱硬化性樹脂(A)、エポキシ樹脂、導電性フィラー(B)、硬化剤、及びシランカップリング剤(以下、「熱硬化性樹脂(A)等」という。)の合計重量は一定の範囲があって、その範囲の境界値として(100+3+200+0.3+1=)304.3重量部をとり得ることが導かれ、さらに、同じく【0121】【表5】の実施例22及び23には、所定量の熱硬化性樹脂(A)等の合計重量に対して、無機フィラーは30重量部である組成が記載されており、また、同じく【0119】の表3の実施例2(ただし、同じく【0111】において参考例として示されている。)には、無機フィラーを含まないこと以外は実施例22及び23と同一である組成が記載されており、本件特許明細書の記載に基づき熱硬化性樹脂(A)等の合計304.3重量部に対し、無機フィラーは30重量部を超えない組成を導き出すことができ、さらに、上記<II>の条件については、本件特許明細書の【0055】の「導電性接着剤中へのエポキシ樹脂の配合量は、熱硬化性樹脂(A)100重量部に対して、3?200重量部であることが好ましく、」との記載、同じく【0061】の「導電性接着剤中への導電性フィラー(B)の配合量は、熱硬化性樹脂(A)100重量部に対して、200?1,000重量部であることが好ましく、」との記載、同じく【0069】の「導電性接着剤中への硬化剤の配合量は、熱硬化性樹脂(A)100重量部に対して、0.3?20重量部であることが好ましく、」との記載、【0078】の「導電性接着剤中へのシランカップリング剤の配合量は、熱硬化性樹脂(A)100重量部に対して、0.1?25重量部であることが好ましく、」との記載、及び、同じく【0121】【表5】の実施例22?24には、導電性接着剤へのシランカップリング剤の配合量が、熱硬化性樹脂(A)100重量部に対して、3重量部であることの記載を根拠とするものであり、これらの記載から、熱硬化性樹脂(A)、エポキシ樹脂、導電性フィラー(B)、硬化剤、及びシランカップリング剤(以下、「熱硬化性樹脂(A)等」という。)の合計重量は一定の範囲があって、その範囲の境界値として(100+3+200+0.3+3=)306.3重量部をとり得ることが導かれ、さらに、同じく【0121】【表5】の実施例22?24には、所定量の熱硬化性樹脂(A)等の合計重量に対して、無機フィラーは30重量部である組成が記載されており、また、同じく【0119】の表3の実施例2(ただし、同じく【0111】において参考例として示されている。)には、無機フィラーを含まないこと以外は実施例22?24と同一である組成が記載されており、本件特許明細書の記載に基づき熱硬化性樹脂(A)等の合計306.3重量部に対し、無機フィラーは30重量部を超えない組成を導き出すことができ、いずれも本件特許明細書に記載した事項の範囲内であるから、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とし、新規事項の追加に該当せず、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。

(2) 訂正事項2

訂正事項2の請求項3に係る訂正は、請求項3の「シランカップリング剤」の選択肢が「ビニル系シランカップリング剤、エポキシ系シランカップリング剤、およびアミノ系シランカップリング剤からなる群より選ばれる少なくともいずれか」であったところを、「エポキシ系シランカップリング剤」に減縮するものであり、また、本件特許明細書の【0070】の「シランカップリング剤としては、例えば、・・・(中略)・・・エポキシ系シランカップリング剤、・・・(中略)・・・等が好ましい。」との記載を根拠とするものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とし、新規事項の追加に該当せず、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。

(3) 訂正事項4?6について

訂正事項4?6の請求項5?7に係る訂正は、上記訂正事項3に係る請求項4の削除に伴い、各請求項5?7において引用する請求項から請求項4を除外するものであり、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とするものであるから、新規事項の追加に該当せず、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。

(4) 一群の請求項について

訂正事項1?6は、一群の請求項ごとに請求されたものである。

3 まとめ

したがって、本件訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる事項を目的とし、同法同条第4項、及び、同法同条第9項の規定によって準用する第126条第5項及び第6項に適合するので、訂正後の請求項1?8について訂正を認める。

第3 本件特許発明

上記のとおり訂正が認められるから、本件特許の請求項1?3、5?8に係る発明(以下、それぞれ、「本件発明1」?「本件発明3」、「本件発明5」?「本件発明8」という。)は、訂正特許請求の範囲の請求項1?3、5?8に記載された事項により特定される、次のとおりのものである。

「【請求項1】
カルボキシル基を有する熱硬化性樹脂(A)、エポキシ樹脂、銅を主成分とする導電性フィラー(B)、硬化剤、およびシランカップリング剤を含有し、
銅を主成分とする導電性フィラー(B)が、銅からなる核体と、銅とは異なる導電性物質からなる被覆層とを具備する導電性フィラーであって、
さらにシリカおよびタルクの少なくともいずれかである無機フィラーを含有し、
前記核体100重量部に対し、前記被覆層が40重量部以下であり、
前記カルボキシル基を有する熱硬化性樹脂(A)は、カルボキシル基を有するジオール化合物(a)と、カルボキシル基を有しないポリオール化合物(b)と、有機ジイソシアネート(c)とを反応させて得られる、酸価1mgKOH/g以上のポリウレタン系熱硬化性樹脂であり、
前記カルボキシル基を有するジオール化合物(a)は、ジメチロールアルカン酸、ジヒドロキシコハク酸、およびジヒドロキシ安息香酸の少なくともいずれかであり、
前記ポリウレタン系熱硬化性樹脂が、ポリカーボネート系ポリウレタン樹脂、ポリエステル系ポリウレタン樹脂、ポリエーテル系ポリウレタン樹脂、およびポリブタジエン系ポリウレタン樹脂からなる群より選ばれる少なくともいずれかであり、
以下の<I>及び<II>の少なくともいずれかを満たすことを特徴とする導電性接着剤。
<I>
前記導電性フィラー(B)の被覆率が90%以上であり、
シランカップリング剤が、ビニル系シランカップリング剤、エポキシ系シランカップリング剤、およびアミノ系シランカップリング剤からなる群より選ばれる少なくともいずれかであり、
前記熱硬化性樹脂(A)100質量部に対して、1?3質量部のシランカップリング剤が配合されており、
前記熱硬化性樹脂(A)、前記エポキシ樹脂、前記導電性フィラー(B)、前記硬化剤、及び前記シランカップリング剤の合計304.3重量部に対し、前記無機フィラーは30重量部を超えない。
<II>
前記エポキシ樹脂は3官能反応型エポキシであり、
前記熱硬化性樹脂(A)100質量部に対して、3?10質量部のシランカップリング剤が配合されており、
前記熱硬化性樹脂(A)、前記エポキシ樹脂、前記導電性フィラー(B)、前記硬化剤、及び前記シランカップリング剤の合計306.3重量部に対し、前記無機フィラーは30重量部を超えない。
【請求項2】
無機フィラーの平均粒子径が、0.01?10μmであることを特徴とする請求項1記載の導電性接着剤。
【請求項3】
シランカップリング剤が、エポキシ系シランカップリング剤であることを特徴とする請求項1または2記載の導電性接着剤。
【請求項5】
剥離性シート上に、請求項1?3いずれか1項記載の導電性接着剤より形成されてなる導電性接着剤層を備えることを特徴とする導電性接着シート。
【請求項6】
剥離性シートと、請求項1?3いずれか1項記載の導電性接着剤より形成されてなる導電性接着剤層と、補強板とを備えることを特徴とする積層体。
【請求項7】
信号配線を備える配線板と、
前記配線板の少なくとも一方の面側に設けられた補強板と、
前記配線板と前記補強板とを接合する導電性接着剤層とからなる配線デバイスであって、該導電性接着剤層が、請求項1?3いずれか1項記載の導電性接着剤より形成されてなることを特徴とする配線デバイス。
【請求項8】
前記補強板が、導電性を有しており、
前記配線板が、さらに、前記補強板に接続されたグランド配線を備える請求項7に記載の配線デバイス。」

第4 取消理由の概要

訂正前の請求項1?8に係る特許に対して平成28年12月19日付けで特許権者に通知した取消理由の要旨は、次のとおりである。

[理由1] (新規性)本件特許の請求項1、2、5に係る発明は、その出願前に日本国内又は外国において、頒布された下記の刊行物1に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができない。

[理由2] (進歩性)本件特許の請求項1?3、5?8に係る発明は、その出願前に日本国内又は外国において、頒布された下記の刊行物1?8に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

引用文献1:特開2015-53412号公報(甲第1号証)
引用文献2:特開2010-144058号公報
引用文献3:特開2005-225980号公報
引用文献4:特開平7-268303号公報
引用文献5:特開2003-206452号公報(甲第2号証)
引用文献6:特開2014-117794号公報
引用文献7:国際公開第2014/010524号(甲第3号証)
引用文献8:特開2009-218443号公報

[理由3] (サポート要件)本件特許の、特許請求の範囲の請求項1?3、5?8の記載は、熱硬化性樹脂(A)、導電性フィラー(B)、エポキシ樹脂、硬化剤、およびシランカップリング剤の合計重量と、無機フィラー(シリカまたはタルク)との重量比を何ら特定するものでないことから、接続安定性に劣り、打ち抜き加工性が向上しないものも含み、ここで、無機フィラーの含有量や樹脂との重量比が所定の範囲以外にあると、打ち加工性が向上しないことは、下記参考文献A?Cに記載されているように技術常識であることからして、熱硬化性樹脂(A)、導電性フィラー(B)、エポキシ樹脂、硬化剤、およびシランカップリング剤の合計重量と、無機フィラー(シリカまたはタルク)との重量比が特定されていない本件発明1?3、5?8の範囲まで、発明の詳細な説明において開示された内容を拡張ないし一般化できるとはいえず、発明の詳細な説明に記載した範囲を超えて特許を請求するものであるから、発明の詳細な説明に記載したものでなく、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない。

参考文献A:特開昭64-54792号公報(甲第4号証、第2頁左下欄第1?12行等)
参考文献B:特開2010-74050号公報(甲第5号証、【0020】等)
参考文献C:特開2003-62940号公報(【0019】等)

また、平成29年5月10日付けの取消理由通知(決定の予告)により特許権者に通知した取消理由の要旨は、[理由3]のもののみである。
ただし、当該[理由3]文中の「特許請求の範囲の請求項1?3、5?8の記載」は、上記「第1 手続の経緯」のなお書きにて取り下げられたとみなす平成29年2月15日の訂正請求に係る「特許請求の範囲の請求項1?3、5?8の記載」を指すため、当該[理由3]文中の「特許請求の範囲の請求項1?3、5?8の記載」は、上記「第3 本件特許発明」でいう「特許請求の範囲の請求項1?3、5?8の記載」とは内容を異にする。

第5 取消理由についての判断

1 理由1、2について

(1) 引用文献1の【請求項1】には、「絶縁層と、導電層とを備えた電磁波シールドシートであって、前記導電層は、導電性微粒子、熱硬化性樹脂およびシリカ粒子を含み、前記シリカ粒子を熱硬化性樹脂100重量部に対して3?95重量部含む電磁波シールドシート」が記載されているところ、上記「電磁波シールドシート」について、同じく【0053】【0054】に、その具体例である「実施例1」が記載されている。
そして、同じく【0056】には、実施例2?18、比較例1?2に関し、「原料を表3および表4に記載した種類および配合量に変更した以外は実施例1と同様に行うことで、電磁波シールドシートを得た。」と記載され、同じく【0057】【表3】の記載によれば、「実施例3」は、「ウレタン樹脂」100.0部、「導電性微粒子3」300.0部、「デカメチレンカルボン酸ジサリチロイルヒドラジド」5.0部、「シリカ1」10.0部の配合を行うものであるから、引用文献1には、「実施例3」の「電磁波シールドシート」に関し、「実施例1」の「電磁波シールドシート」で、「実施例3」の上記配合を行った、「ウレタン樹脂を100.0部、デカメチレンカルボン酸ジサリチロイルヒドラジドを5.0部、導電性微粒子3を300.0部、シリカ1を10.0部を容器に仕込み、不揮発分が40%になるようトルエン:イソプロピルアルコール(=2:1)の混合溶剤を加え、この混合物をディスパーで5分間攪拌を行い、得られた導電性樹脂組成物の100部に、エポキシ化合物(ビスフェノールA型エポキシ樹脂、エポキシ当量=189g/eq、「JER828」、ジャパンエポキシレジン社製)10部およびアジリジン系硬化剤(日本触媒製「ケミタイトPZ-33」)2.0部を加えディスパーで10分攪拌した後、剥離性シートに、乾燥厚みが5μmになるようにバーコーターを使用して塗工し、100℃の電気オーブンで2分間乾燥することで導電層を有する電磁波シールドシート」が記載されているといえる。
ここで、上記「電磁波シールドシート」は、例えば、同じく【0039】の記載によれば、電磁波シールドシートが接着機能を有するものであり、上記配合されている「ウレタン樹脂」、「エポキシ化合物(ビスフェノールA型エポキシ樹脂、エポキシ当量=189g/eq、「JER828」、ジャパンエポキシレジン社製)」、及び、「アジリジン系硬化剤(日本触媒製「ケミタイトPZ-33」)」の混合物を撹拌して得られたものが接着性を有することは当業者に自明であり、上記剥離性シートに塗工され、100℃の電気オーブンで2分間乾燥する前の導電層を有する導電性樹脂組成物は、「導電性接着剤」といえる。
また、上記配合されている「ウレタン樹脂」は、同じく【0050】によれば、熱硬化性樹脂として例示されるものの一つであり、また具体的には「ウレタン樹脂:トーヨーケム株式会社製、酸価=10mgKOH/g、アミン価=0.1mgKOH/g」を使用することが記載されている。
また、上記配合されている「導電性微粒子3」は、同じく【0045】【表1】の記載によれば、「20%Agコート2L3(福田金属箔粉工業社製)」のことであって、銅からなる核体と、銀からなる被覆層とを具備することが記載されているといえる。
また、上記配合されている「シリカ1」は、同じく【0052】【表2】の記載によれば、その平均一次粒子径は「20.0nm」であることが記載されている。

そうすると、引用文献1の「実施例3」には、

「ウレタン樹脂(トーヨーケム株式会社製、酸価=10mgKOH/g、アミン価=0.1mgKOH/g)を100.0部、デカメチレンカルボン酸ジサリチロイルヒドラジドを5.0部、銅からなる核体と、銀からなる被覆層とを具備する20%Agコート2L3(福田金属箔粉工業社製)を300.0部、平均一次粒子径が20.0nmであるシリカ1を10.0部、不揮発分が40%になるようトルエン:イソプロピルアルコール(=2:1)の混合溶剤を含む混合物である導電性樹脂組成物の100部に、エポキシ化合物(ビスフェノールA型エポキシ樹脂、エポキシ当量=189g/eq、『JER828』、ジャパンエポキシレジン社製)10部およびアジリジン系硬化剤(日本触媒製『ケミタイトPZ-33』)2.0部を含む導電層を形成する導電性接着剤。」

という発明(以下、「引用発明」という。)が記載されているといえる。

本件発明1と引用発明とを対比すると、本件発明1は、熱硬化性樹脂(A)に関し、「カルボキシル基を有する」ものであって、「カルボキシル基を有するジオール化合物(a)と、カルボキシル基を有しないポリオール化合物(b)と、有機ジイソシアネート(c)とを反応させて得られる、酸価1mgKOH/g以上のポリウレタン系熱硬化性樹脂であり、前記カルボキシル基を有するジオール化合物(a)は、ジメチロールアルカン酸、ジヒドロキシコハク酸、およびジヒドロキシ安息香酸の少なくともいずれかであり、前記ポリウレタン系熱硬化性樹脂が、ポリカーボネート系ポリウレタン樹脂、ポリエステル系ポリウレタン樹脂、ポリエーテル系ポリウレタン樹脂、およびポリブタジエン系ポリウレタン樹脂からなる群より選ばれる少なくともいずれかであ」るという発明特定事項、及び、本件発明1は、「<I>前記導電性フィラー(B)の被覆率が90%以上であり、シランカップリング剤が、ビニル系シランカップリング剤、エポキシ系シランカップリング剤、およびアミノ系シランカップリング剤からなる群より選ばれる少なくともいずれかであり、前記熱硬化性樹脂(A)100質量部に対して、1?3質量部のシランカップリング剤が配合されており、前記熱硬化性樹脂(A)、前記エポキシ樹脂、前記導電性フィラー(B)、前記硬化剤、及び前記シランカップリング剤の合計304.3重量部に対し、前記無機フィラーは30重量部を超えない。」及び「<II>前記エポキシ樹脂は3官能反応型エポキシであり、前記熱硬化性樹脂(A)100質量部に対して、3?10質量部のシランカップリング剤が配合されており、前記熱硬化性樹脂(A)、前記エポキシ樹脂、前記導電性フィラー(B)、前記硬化剤、及び前記シランカップリング剤の合計306.3重量部に対し、前記無機フィラーは30重量部を超えない。」の「少なくともいずれかを満たすこと」、という発明特定事項を有するところ、引用発明1においては、当該発明特定事項はなく、また、引用文献1の記載を参照しても、上記発明特定事項についての記載も示唆も見当たらない。
よって、本件発明1は引用発明であるとはいえない。
また、同じく上記取消理由で引用した引用文献2?8を含めて、上記発明特定事項についてを開示ないし示唆する証拠や技術常識も見当たらない。
そして、当該発明特定事項を有することにより、本件発明1は、コストダウンが可能でありながら、導電性接着剤の粘度が安定であり、長期にわたって湿熱環境に晒された後においても良好な接続信頼性と接着力を有し、グランド配線基板スルーホールの段差が高い回路でも接続信頼性が良好な導電性接着層、および配線デバイスを提供可能であることという顕著な効果を奏するものであり、本件発明1は、引用発明、並びに、引用文献1?8に記載された公知の技術事項、及び、周知事項に基づき、当業者が容易に発明をすることができたものではない。

(2) 小括

したがって、本件発明1は、引用発明であるとはいえず、また、本件発明1を直接的又は間接的に引用する本件発明2、5も同様である。
さらに、本件発明1は、引用発明、及び引用文献1?8に記載された公知の技術事項、及び、周知事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものともいえない。また、本件発明1を直接的又は間接的に引用する本件発明2、3、5?8も同様である。

2 理由3について

本件特許明細書の【0079】には、「無機フィラー」について、「本発明の導電性接着剤は、さらに無機フィラーを含むことが好ましい。無機フィラーを含むことで、導電性接着剤の耐湿熱信頼性及び打ち抜き加工性がより向上する。」と記載されていることから、導電性接着剤に無機フィラーが含まれていれば、耐湿熱信頼性及び打ち抜き加工性がより向上することが理解できる。
そして、無機フィラーが過大に含まれれば、打ち抜き加工性が向上しないことがあるとしても、本件発明1では、無機フィラーの含有量に関し、「<I>・・・(中略)・・・前記熱硬化性樹脂(A)、前記エポキシ樹脂、前記導電性フィラー(B)、前記硬化剤、及び前記シランカップリング剤の合計304.3重量部に対し、前記無機フィラーは30重量部を超えない。」及び「<II>・・・(中略)・・・前記熱硬化性樹脂(A)、前記エポキシ樹脂、前記導電性フィラー(B)、前記硬化剤、及び前記シランカップリング剤の合計306.3重量部に対し、前記無機フィラーは30重量部を超えない。」と特定し、無機フィラーの量の上限が定められていることから、本件発明1は、打ち抜き加工性が向上するものであることが技術的に明らかになり、本件発明1が、本願明細書に記載される発明の課題を解決することを当業者が認識できるように記載された範囲を超えるものとはいえなくなった。
よって、本件発明1は、発明の詳細な説明に記載したものでないとはいえないから、本件発明1は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていないとはいえない。
また、本件発明1を直接的又は間接的に引用する本件発明2、3、5?8も同様である。

3 訂正請求がなされたことに関する特許異議申立人への求意見等について

上記「第1 手続の経緯」に示したように、平成29年6月23日の訂正請求に対して特許異議申立人に意見を述べる機会を与えたが、意見書の提出はなかった。

4 取消理由通知において採用しなかった特許異議申立理由について

平成28年12月19日付けの取消理由通知は、特許異議申立の全理由に対して行ったため、採用しなかった申立理由はない。

第6 むすび

以上のとおりであるから、取消理由通知に記載した取消理由及び特許異議申立書に記載した特許異議申立理由によっては、本件請求項1?3、5?8に係る特許を取り消すことはできない。

さらに、他に本件請求項1?3、5?8に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。

なお、請求項4に係る特許は、訂正により削除されたため、本件特許の請求項4に対して異議申立人がした特許異議の申立てについては、対象となる請求項が存在しない。

よって、結論のとおり決定する。
 
発明の名称 (57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
カルボキシル基を有する熱硬化性樹脂(A)、エポキシ樹脂、銅を主成分とする導電性フィラー(B)、硬化剤、およびシランカップリング剤を含有し、
銅を主成分とする導電性フィラー(B)が、銅からなる核体と、銅とは異なる導電性物質からなる被覆層とを具備する導電性フィラーであって、
さらにシリカおよびタルクの少なくともいずれかである無機フィラーを含有し、
前記核体100重量部に対し、前記被覆層が40重量部以下であり、
前記カルボキシル基を有する熱硬化性樹脂(A)は、カルボキシル基を有するジオール化合物(a)と、カルボキシル基を有しないポリオール化合物(b)と、有機ジイソシアネート(c)とを反応させて得られる、酸価1mgKOH/g以上のポリウレタン系熱硬化性樹脂であり、
前記カルボキシル基を有するジオール化合物(a)は、ジメチロールアルカン酸、ジヒドロキシコハク酸、およびジヒドロキシ安息香酸の少なくともいずれかであり、
前記ポリウレタン系熱硬化性樹脂が、ポリカーボネート系ポリウレタン樹脂、ポリエステル系ポリウレタン樹脂、ポリエーテル系ポリウレタン樹脂、およびポリブタジエン系ポリウレタン樹脂からなる群より選ばれる少なくともいずれかであり、
以下の<I>及び<II>の少なくともいずれかを満たすことを特徴とする導電性接着剤。
<I>
前記導電性フィラー(B)の被覆率が90%以上であり、
シランカップリング剤が、ビニル系シランカップリング剤、エポキシ系シランカップリング剤、およびアミノ系シランカップリング剤からなる群より選ばれる少なくともいずれかであり、
前記熱硬化性樹脂(A)100質量部に対して、1?3質量部のシランカップリング剤が配合されており、
前記熱硬化性樹脂(A)、前記エポキシ樹脂、前記導電性フィラー(B)、前記硬化剤、及び前記シランカップリング剤の合計304.3重量部に対し、前記無機フィラーは30重量部を超えない。
<II>
前記エポキシ樹脂は3官能反応型エポキシであり、
前記熱硬化性樹脂(A)100質量部に対して、3?10質量部のシランカップリング剤が配合されており、
前記熱硬化性樹脂(A)、前記エポキシ樹脂、前記導電性フィラー(B)、前記硬化剤、及び前記シランカップリング剤の合計306.3重量部に対し、前記無機フィラーは30重量部を超えない。
【請求項2】
無機フィラーの平均粒子径が、0.01?10μmであることを特徴とする請求項1記載の導電性接着剤。
【請求項3】
シランカップリング剤が、エポキシ系シランカップリング剤であることを特徴とする請求項1または2記載の導電性接着剤。
【請求項4】
(削除)
【請求項5】
剥離性シート上に、請求項1?3いずれか1項記載の導電性接着剤より形成されてなる導電性接着剤層を備えることを特徴とする導電性接着シート。
【請求項6】
剥離性シートと、請求項1?3いずれか1項記載の導電性接着剤より形成されてなる導電性接着剤層と、補強板とを備えることを特徴とする積層体。
【請求項7】
信号配線を備える配線板と、
前記配線板の少なくとも一方の面側に設けられた補強板と、
前記配線板と前記補強板とを接合する導電性接着剤層とからなる配線デバイスであって、該導電性接着剤層が、請求項1?3いずれか1項記載の導電性接着剤より形成されてなることを特徴とする配線デバイス。
【請求項8】
前記補強板が、導電性を有しており、
前記配線板が、さらに、前記補強板に接続されたグランド配線を備える請求項7に記載の配線デバイス。
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
異議決定日 2017-09-15 
出願番号 特願2015-90211(P2015-90211)
審決分類 P 1 651・ 113- YAA (C09J)
P 1 651・ 537- YAA (C09J)
P 1 651・ 121- YAA (C09J)
最終処分 維持  
前審関与審査官 澤村 茂実  
特許庁審判長 川端 修
特許庁審判官 天野 宏樹
國島 明弘
登録日 2016-03-04 
登録番号 特許第5892282号(P5892282)
権利者 トーヨーケム株式会社 東洋インキSCホールディングス株式会社
発明の名称 導電性接着剤、導電性接着シート、および配線デバイス  
代理人 家入 健  
代理人 家入 健  
代理人 家入 健  

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