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審決分類 審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  C08F
審判 全部申し立て 1項3号刊行物記載  C08F
審判 全部申し立て 特36条4項詳細な説明の記載不備  C08F
審判 全部申し立て 2項進歩性  C08F
管理番号 1334335
異議申立番号 異議2016-701129  
総通号数 216 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2017-12-28 
種別 異議の決定 
異議申立日 2016-12-08 
確定日 2017-09-25 
異議申立件数
訂正明細書 有 
事件の表示 特許第5931088号発明「冷水可溶性ポリビニルアルコール/アルキルアクリレートコポリマーおよびそれらのフィルム」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第5931088号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1-4〕について訂正することを認める。 特許第5931088号の請求項1ないし4に係る特許を維持する。 
理由 第1 主な手続の経緯等

特許第5931088号(設定登録時の請求項の数は4。以下、「本件特許」という。)は、2011年12月16日(パリ条約による優先権主張 2010年12月22日 アメリカ合衆国(US))を国際出願日とする特願2013-546257号に係るものであって、平成28年5月13日に設定登録された。
特許異議申立人 株式会社クラレ(以下、単に「異議申立人」という。)は、平成28年12月8日(受理日:同月12日)、本件特許の請求項1ないし4に係る発明についての特許に対して特許異議の申立てをした。
当審において、平成29年3月31日付けで取消理由を通知したところ、特許権者は、平成29年7月3日付けで、訂正請求書(以下、当該訂正請求書による訂正請求を「本件訂正請求」という。)及び意見書を提出したので、同年7月5日付けで異議申立人に対して特許法第120条の5第5項に基づく通知をしたところ、異議申立人から、同年8月9日付け(受理日:同月10日)に意見書が提出されたものである。

第2 訂正の適否についての判断

1 訂正の内容
本件訂正請求による訂正の内容は以下の訂正事項1である。なお、下線については訂正箇所に合議体が付したものである。

訂正事項1
訂正前の特許請求の範囲の請求項1において

「コア製品を取り囲む外側カプセル封入用フィルムを含んでなるカプセル封入製品であって、該カプセル封入用フィルムが、ビニルアセテートモノマー(“VAM”)とアルキルアクリレート(“AA”)とを共重合させることによって製造される、ビニルアルコール(“VOH”)とアルキルアクリレート(“AA”)との冷水可溶性で実質的にランダムなコポリマーを含み、該コポリマーが3分未満の特徴的冷水フィルム溶解時間を示し、勾配溶出クロマトグラフィー分析における本質的に1つのピークの存在によって明示されるように組成ドリフトを実質的に含まず、該アルキルアクリレートがメチルアクリレート(MA)またはエチルアクリレートから選ばれる、上記カプセル封入製品。」

と記載されているのを

「コア製品を取り囲む外側カプセル封入用フィルムを含んでなるカプセル封入製品であって、該カプセル封入用フィルムが、ビニルアセテートモノマー(“VAM”)とアルキルアクリレート(“AA”)とを共重合させることによって製造される、ビニルアルコール(“VOH”)とアルキルアクリレート(“AA”)との冷水可溶性で実質的にランダムなコポリマーを含み、該コポリマーが59秒以下の特徴的冷水フィルム溶解時間を示し、勾配溶出クロマトグラフィー分析における本質的に1つのピークの存在によって明示されるように組成ドリフトを実質的に含まず、該アルキルアクリレートがメチルアクリレート(MA)またはエチルアクリレートから選ばれる、上記カプセル封入製品。」

に訂正する。
請求項1を引用する請求項2ないし4についても同様の訂正を行う。

2 訂正の目的の適否、新規事項の有無、特許請求の範囲の拡張・変更の存否及び一群の請求項
(1) 訂正事項1は、訂正前の請求項1における、「特徴的冷水フィルム溶解時間」の数値範囲「3分未満」を、「59秒以下」に限定するものであるから、当該訂正事項1は、特許請求の範囲を減縮することを目的とするものであるといえる。そして、当該訂正事項は、新規事項の追加に該当せず、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。

よって、訂正事項1は、特許法第120条の5第2項ただし書き第1号を目的とし、同法第120条の5第9項で準用する同法第126条第5項及び第6項に適合するものである。

(2) 訂正事項1は、訂正前の独立請求項である請求項1を訂正するものであり、訂正前の請求項2ないし4は、訂正前の請求項1を直接に引用するものである。そうすると、訂正事項1は、訂正前の請求項1ないし4という一群の請求項ごとに請求されたものであるから、特許法第120条の5第4項に適合するものである。

3 むすび
以上のとおりであるから、本件訂正請求による訂正は特許法第120条の5第2項ただし書き第1号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同条第4項及び同条第9項において準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合するので、訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項[1?4]について訂正することを認める。

第3 本件発明

上記第2のとおり、本件訂正請求による訂正は認められるので、本件特許の請求項1ないし4に係る発明(以下、それぞれ「本件発明1」ないし「本件発明4」という。)は、平成29年7月3日付け訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲の請求項1ないし4に記載された事項により特定される以下に記載のとおりのものである。

「【請求項1】
コア製品を取り囲む外側カプセル封入用フィルムを含んでなるカプセル封入製品であって、該カプセル封入用フィルムが、ビニルアセテートモノマー(“VAM”)とアルキルアクリレート(“AA”)とを共重合させることによって製造される、ビニルアルコール(“VOH”)とアルキルアクリレート(“AA”)との冷水可溶性で実質的にランダムなコポリマーを含み、該コポリマーが59秒以下の特徴的冷水フィルム溶解時間を示し、勾配溶出クロマトグラフィー分析における本質的に1つのピークの存在によって明示されるように組成ドリフトを実質的に含まず、該アルキルアクリレートがメチルアクリレート(MA)またはエチルアクリレートから選ばれる、上記カプセル封入製品。
【請求項2】
カプセル封入用フィルムが0.05ミクロン?25ミクロンの厚さを有する、請求項1に記載の、コア製品を取り囲む外側カプセル封入用フィルムを含んでなるカプセル封入製品。
【請求項3】
コア製品が粒状固体である、請求項1に記載の、コア製品を取り囲む外側カプセル封入用フィルムを含んでなるカプセル封入製品。
【請求項4】
冷水可溶性で実質的にランダムなコポリマーが3?10モル%のAAを含む、請求項1に記載の、コア製品を取り囲む外側カプセル封入用フィルムを含んでなるカプセル封入製品。」

第4 取消理由の概要

平成29年3月31日付けで通知した取消理由は、概略、以下のとおりである。
「【理由1】 本件特許の下記の請求項に係る発明は、本件特許の出願前に頒布された下記の刊行物に記載された発明であって、特許法第29条第1項第3号に該当し特許を受けることができないから、その発明に係る特許は取り消すべきものである。
【理由2】 本件特許の下記の請求項に係る発明は、本件特許の出願前に頒布された下記の刊行物に記載された発明に基いて、その優先日前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであって、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないから、その発明に係る特許は取り消すべきものである。

・・・
(1)刊行物
刊行物1: 国際公開第2007/021641号(特許異議申立書の証拠方法である甲第1号証。以下、単に「甲1」という。)
刊行物2: Elvanol○R(当審注:Rを○で囲んだものを意味する。以下同じ)80-18製品データシート(特許異議申立書の証拠方法である甲第2号証。以下、単に「甲2」という。)
刊行物3:2016年12月2日 実験結果報告書 株式会社クラレ 倉敷事業所 ポバール研究開発部 主管 新居真輔(特許異議申立書の証拠方法である甲第3号証。以下、単に「甲3」という。)
刊行物4:宣誓に代わる宣言 2016年11月28日 Dr.Michael Collins(特許異議申立書の証拠方法である甲第4号証。以下、単に「甲4」という。)
・・・」

第5 合議体の判断

当合議体は、以下述べるように、上記取消理由の理由1ないし2には、理由はないと判断する。

1 甲1に記載された発明
本件特許の優先日前に頒布されたことが明らかな甲1の、第2頁12?23行、第4頁3?9行、同頁13?17行、同頁19?31行、第5頁1?2行、同頁の反応順序1の表記、同頁4?10行、第6頁4?11行、同頁13?17行、同頁22?26行、第8頁30?32行、第9頁6?8行、第10頁7?12行、第17頁1?7行の記載から、次の発明(以下、「甲1発明」という。)が記載されていると認める。

「ビニルアセテートとメチルアクリレートとを共重合させ、ケン化することによって製造される冷水溶解性のコポリマーから製造された水溶性パウチにより安定化ペルオキシ-硫酸水素カリウムを封止した酸化剤。」

2 甲2の記載及び甲4の記載
本件特許の優先日前に頒布されたことが明らかな甲2には、以下の記載がある。なお、和訳については異議申立人が提出したものを採用した。

ア 「

」(表題)

イ 「

」(第1頁左欄1?5行)

ウ 「

」(第1頁左欄表)

エ 「

」(第1頁左欄6?15行)

オ 「

」(第3頁下枠内第1行)

また、異議申立人が特許異議申立書に添付して提出した甲4には、以下の記載がある。なお、和訳については異議申立人が提出したものを採用した。

カ 「







3 甲2に記載された発明
上記、甲2の上記アないしオ及び甲4の記載から、甲2には、次の発明(以下、「甲2発明」という。)が記載されていると認める。

「適当な割合の苛性物質と反応させたElvanol○R80-18を用いたフィルムを利用した冷水溶液中で処理される洗剤又は他の製品を含有するサッシュ。」

4 本件発明1と甲1発明との対比・判断
本件発明1と甲1発明とを対比する。
甲1発明の「安定化ペルオキシ-硫酸水素カリウム」、「水溶性パウチ」、「封止した酸化剤」は、それぞれ、本件発明1の「コア製品」、「外側カプセル封入用フィルム」、「カプセル封入製品」に相当する。
甲1発明のコポリマーを製造するモノマー成分は、「ビニルアセテートとメチルアクリレート」であるから、本件発明1の「ビニルアセテートモノマー(“VAM”)とアルキルアクリレート(“AA”)」であって、「該アルキルアクリレートがメチルアクリレート(MA)またはエチルアクリレートから選ばれる」に相当しているが、製造時に利用されるモノマー成分が同じであっても、製造されたコモノマーについては、ポリビニルアルコールがケン化によって製造されるものであり、ケン化反応はアルキルアクリレートにも及ぶから、ケン化後のコポリマーとして、アルキルアクリレート単位が存在しているとはいえない。

そうすると、本件発明1と甲1発明とは、
「コア製品を取り囲む外側カプセル封入用フィルムを含んでなるカプセル封入製品であって、該封入用フィルムが、ビニルアセテートモノマー(“VAM”)とアルキルアクリレート(“AA”)とを共重合させることによって製造されるコポリマーのケン化物であり、該アルキルアクリレートがメチルアクリレート(MA)またはエチルアクリレートから選ばれる、上記カプセル封入製品。」で一致し、以下の点で相違する。

<相違点1>
コポリマーに関し、本件発明1は、「59秒以下の特徴的冷水フィルム溶解時間を示し」と特定するのに対して、甲1発明は、この点を特定しない点。
<相違点2>
コポリマーに関し、本件発明1は、「実質的にランダム」と特定するとともに、「勾配溶出クロマトグラフィー分析における本質的に1つのピークの存在によって明示されるように組成ドリフトを実質的に含まず」と特定するのに対し、甲1発明は、この点を特定しない点。
<相違点3>
コポリマーに関し、本件発明1は、「ビニルアルコール(“VOH”)とアルキルアクリレート(“AA”)との」「コポリマーを含み」、「該アルキルアクリレートがメチルアクリレート(MA)またはエチルアクリレートから選ばれる」と特定されており、すなわち、メチルアクリレート(MA)またはエチルアクリレートとビニルアルコールとのコポリマーを含むと特定されているのに対し、甲1発明は、「ビニルアセテートとメチルアクリレートとを共重合させ、ケン化することによって製造される冷水溶解性のコポリマー」である点。

以下、相違点について検討する。
相違点1について
甲1発明は、甲1の「レクリエーション用水域を処理するための単回量の酸化剤は貯蔵安定性を有することが望ましい。このような剤は、感湿性の酸性物質などを包装するために使用される安定なパウチ材料が、冷水溶解性の低下、酢酸形成、および、長期保管を低下させる他の要因を回避することを必要とする。本発明は、このような製品を提供する」(第2頁第12行?第17行)の記載から、冷水溶解性が求められている水溶性パウチといえるが、具体的な冷水フィルム溶解時間(特徴的冷水フィルム溶解時間)については一切記載されていないから、具体的な冷水溶解性の程度は不明である。
ここで、甲1のフィルムに類似する同じモノマー成分から製造されている甲2に記載のフィルムを冷水可溶性となるように苛性処理したフィルムにおける特徴的冷水フィルム溶解時間について、甲3(実験結果報告書)から確認すると、特定の苛性処理をしたフィルムの最も短いものであっても60秒であって、その他の苛性処理したフィルムは60秒を上回る特徴的冷水フィルム可溶時間をもつものとなっている。そして、現在のElvanol○R80-18の販売元は、異議申立人の平成29年8月9日付け意見書によれば、(株)クラレアメリカであって、異議申立人のグループ企業であることから、当該苛性処理条件は、最適な条件で行っているといえる。
確かに、異議申立人が、平成29年8月9日付けで提出した意見書に添付された参考資料4(特開平9-272773号公報)、参考資料5(特開2004-161823号公報)には、冷水可溶性ポリビニルアルコールフィルとして、59秒以下のフィルム溶解時間を持つフィルムが記載されている。
しかし、当該フィルムは、甲1発明のモノマー成分とは異なるフィルムであるから、甲1発明と同じモノマー成分から製造された冷水可溶性ポリビニルアルコールフィルムにおいて、59秒以下の特徴的冷水フィルム溶解時間を持つものは甲1には記載されていないというべきである。また、甲1において、フィルム溶解時間を59秒以下とする示唆もない。
よって、相違点1は、実質的な相違点であって、当業者といえども容易想到ということはできない。

相違点2について
甲1には、コポリマーの製造に関して「ビニルアセテートとメチル(メタ)アクリレートとのコポリマーは、例えば、連鎖移動剤及び溶媒の両方として作用するメタノール中、フリーラジカル開始剤の存在下で、該コポリマーを形成して、製造することができる。」(第4頁第19行?第21行)との記載はあるが、具体的な製造方法については明記がない。
異議申立人の平成29年7月3日付け意見書に添付された参考資料10によれば、参考資料8(特開昭49-36797号公報)の実施例1の変性ポリビニルアルコールは、勾配溶出クロマトグラフィー分析における本質的に1つのピークの存在するコポリマーと認められるが、甲1発明のモノマー成分とは異なるコポリマーであるし、甲1発明のコモノマーと製造方法が同じとはいえないから、当該証拠から、甲1発明のコポリマーが、勾配溶出クロマトグラフィー分析における本質的に1つのピークの存在するコポリマーとはいえない。
そして、本件特許明細書の段落【0042】ないし【0044】及び図1ないし図3からみて、本件発明1と同じモノマー成分から製造したコポリマーであっても、製造過程の違いにより、顕著な組成ドリフトを示す別個のピークを示す場合があるから、甲1発明のコポリマーが、勾配溶出クロマトグラフィー分析における本質的に1つのピークの存在するコポリマーということはできない。
そうすると、相違点2は、実質的な相違点である。
そして、甲1には、コポリマーに関し、勾配溶出クロマトグラフィー分析における本質的に1つのピークの存在するコポリマーとすることについて記載ないし示唆はなく、異議申立人が提示したいずれの証拠をみても、勾配溶出クロマトグラフィー分析における本質的に1つのピークの存在するコポリマーとすることを示唆するものはない。
よって、相違点2は、当業者といえども容易想到ということはできない。

以上のことから、相違点3について検討するまでもなく、本件発明1は、甲1発明、すなわち、甲1に記載された発明ではないし、当業者が甲1に記載された発明から容易に発明をすることができたものということはできない。

5 甲1に基づく本件発明2ないし4について
本件発明2ないし4は、請求項1を直接に引用する発明であるから、上記4と同様な理由で、甲1に記載された発明ではないし、甲1に記載された発明から想到容易ということはできない。

6 本件発明1と甲2発明との対比・判断
本件発明1と甲2発明とを対比する。
「サッシュ」とは、(シャンプーなど)1回分の分量を入れたプラスチックの袋を意味するから、甲2発明の「洗剤又は他の製品」、「フィルム」、「サッシュ」は、それぞれ、本件発明1の「コア製品」、「外側封入用フィルム」、「封入製品」に相当する。
甲2発明の「適当な割合の苛性物質と反応させたElvanol○R80-18」は、甲3(実験結果報告書)及び甲4から、ビニルアセテートとメチルアクリレートのコポリマーであり、かつ、単峰性のクロマトグラムを有するものであって、苛性処理により冷水可溶性のフィルムとなるといえるから、本件発明1の「該カプセル封入用フィルムが、ビニルアセテートモノマー(“VAM”)とアルキルアクリレート(“AA”)とを共重合させることによって製造される、ビニルアルコール(“VOH”)とアルキルアクリレート(“AA”)との冷水可溶性で実質的にランダムなコポリマー」「であって」、「勾配溶出クロマトグラフィー分析における本質的に1つのピークの存在によって明示されるように組成ドリフトを実質的に含まず、該アルキルアクリレートがメチルアクリレート(MA)またはエチルアクリレートから選ばれる」に相当する。
ただし、製造時に利用されるモノマー成分が同じであっても、製造されたコモノマーについては、ポリビニルアルコールがケン化によって製造されるものであり、ケン化反応はアルキルアクリレートにも及ぶから、ケン化後のコポリマーとして、アルキルアクリレート単位が存在しているとはいえない。

そうすると、本件発明1と甲2発明とは、
「コア製品を取り囲む外側封入用フィルムを含んでなる封入製品であって、該封入用フィルムが、ビニルアセテートモノマー(“VAM”)とアルキルアクリレート(“AA”)とを共重合させることによって製造される、冷水可溶性で実質的にランダムなコポリマーを含み、勾配溶出クロマトグラフィー分析における本質的に1つのピークの存在によって明示されるように組成ドリフトを実質的に含まず、該アルキルアクリレートがメチルアクリレート(MA)またはエチルアクリレートから選ばれる、上記封入製品。」で一致し、以下の点で一応相違する。

<相違点4>
封入製品に関し、本件発明1は、「カプセル封入製品」と特定するのに対し、甲2発明は、「サッシュ」である点。
<相違点5>
コポリマーに関し、本件発明1は、「59秒以下の特徴的冷水フィルム溶解時間を示し」と特定するのに対し、甲2発明は、この点を特定しない点。
<相違点6>
コポリマーに関し、本件発明1は、「ビニルアルコール(“VOH”)とアルキルアクリレート(“AA”)との」「コポリマーを含み」「該アルキルアクリレートがメチルアクリレート(MA)またはエチルアクリレートから選ばれる」と特定されるのに対し、甲2発明は、この点を特定しない点。

以下、相違点について検討する。
相違点4について
「サッシュ」とは、(シャンプーなど)1回分の分量を入れたプラスチックの袋を意味するのに対し、カプセルとは、広辞苑第6版によれば、「1○飲みにくい薬品を封入して飲みやすくする、ゼラチン製の小さな容器、2○宇宙飛行体などの気密容器を意味する」から、本件発明1における「カプセル」は、気密容器を意味すると理解でき、サッシュも通常気密にされているといえるから、相違点4は、実質上の相違点ではない。仮に、そうでないとしても、カプセル封入製品とすることは、当業者において容易想到である。

相違点5について
甲2には、冷水可溶性とするために、「Elvanol○R80-18」を「適当な割合の苛性物質と反応させ」るとしているから、冷水可溶性となっているとはいえるが、その程度については、甲3(実験結果報告書)によれば、特徴的冷水フィルム溶解時間は、60秒を超えるものであるから、相違点5は実質的な相違点である。
異議申立人が、平成29年8月9日付けで提出した意見書に添付された参考資料4(特開平9-272773号公報)、参考資料5(特開2004-161823号公報)には、冷水可溶性ポリビニルアルコールフィルとして、59秒以下のフィルム溶解時間をもつフィルムが記載されているが、甲2発明で利用されているElvanol○R80-18を利用したフィルムとは異なる樹脂を利用したフィルムである。
そして、甲2発明で利用したElvanol○R80-18を苛性物質と反応させて得られたフィルムにおいて、59秒以下の特徴的冷水フィルム溶解時間を持つものは提示されておらず、甲2において、フィルムの特徴的冷水フィルム溶解時間を59秒以下とする示唆もない。
そうすると、相違点5は、当業者といえども容易想到ということはできない。

以上のことから、本件発明1は、相違点6について検討するまでもなく、甲2発明、すなわち、甲2に記載された発明ではないし、当業者が、甲2に記載された発明から容易に発明をすることができたものということはできない。

7 甲2に基づく本件発明2ないし4について
本件発明2ないし4は、請求項1を直接に引用する発明であるから、上記6と同様な理由で、甲2に記載された発明ではないし、当業者が、甲2に記載された発明から容易に発明をすることができたものということはできない。

8 まとめ
以上のとおり、本件特許の請求項1ないし4に係る発明は、甲1又は甲2に記載された発明ではないし、甲1又は甲2に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものともいえないから、上記取消理由1及び2には理由がない。

第6 特許異議申立書に記載のその他の取消理由について

異議申立人は、特許異議申立書において、本件特許の請求項1ないし4に対して、特許法第36条第6項第2号および第36条第4項第1号に基づく取消理由を主張するが、請求項1の「共重合させることによって製造される」との記載は、単に状態を示すことにより構造又は特性を示しているにすぎないし、「実質的に」及び「本質的に」という記載は、明細書の記載を考慮し、また、出願時の技術常識を基礎として判断すれば、第三者の利益が不当に害されるほどに発明を不明確にするものであるとまではいえない。また、請求項1の「特徴的冷水フィルム溶解時間」という記載は、本件特許明細書の段落【0048】の記載を参酌することで明確といえる。よって、請求項1の記載は明確である。また、フィルムからカプセル封入製品を製造する手法は例示するまでもなく周知であるから、発明の詳細な説明の記載に基づいて当業者は本件発明1ないし4を実施できる。したがって、当該取消理由は、理由がない。(よって、先の取消理由通知において、通知しなかった。)

第7 むすび

以上のとおりであるから、当審において通知した取消理由及び特許異議申立書に記載した特許異議申立理由によっては、本件特許の請求項1ないし4に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に本件特許の請求項1ないし4に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。

よって、結論のとおり決定する。
 
発明の名称 (57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
コア製品を取り囲む外側カプセル封入用フィルムを含んでなるカプセル封入製品であって、該カプセル封入用フィルムが、ビニルアセテートモノマー(“VAM”)とアルキルアクリレート(“AA”)とを共重合させることによって製造される、ビニルアルコール(“VOH”)とアルキルアクリレート(“AA”)との冷水可溶性で実質的にランダムなコポリマーを含み、該コポリマーが59秒以下の特徴的冷水フィルム溶解時間を示し、勾配溶出クロマトグラフィー分析における本質的に1つのピークの存在によって明示されるように組成ドリフトを実質的に含まず、該アルキルアクリレートがメチルアクリレート(MA)またはエチルアクリレートから選ばれる、上記カプセル封入製品。
【請求項2】
カプセル封入用フィルムが0.05ミクロン?25ミクロンの厚さを有する、請求項1に記載の、コア製品を取り囲む外側カプセル封入用フィルムを含んでなるカプセル封入製品。
【請求項3】
コア製品が粒状固体である、請求項1に記載の、コア製品を取り囲む外側カプセル封入用フィルムを含んでなるカプセル封入製品。
【請求項4】
冷水可溶性で実質的にランダムなコポリマーが3?10モル%のAAを含む、請求項1に記載の、コア製品を取り囲む外側カプセル封入用フィルムを含んでなるカプセル封入製品。
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
異議決定日 2017-09-12 
出願番号 特願2013-546257(P2013-546257)
審決分類 P 1 651・ 536- YAA (C08F)
P 1 651・ 121- YAA (C08F)
P 1 651・ 537- YAA (C08F)
P 1 651・ 113- YAA (C08F)
最終処分 維持  
前審関与審査官 山村 周平  
特許庁審判長 加藤 友也
特許庁審判官 橋本 栄和
大島 祥吾
登録日 2016-05-13 
登録番号 特許第5931088号(P5931088)
権利者 セキスイ・スペシャルティ・ケミカルズ・アメリカ・エルエルシー
発明の名称 冷水可溶性ポリビニルアルコール/アルキルアクリレートコポリマーおよびそれらのフィルム  
代理人 田口 昌浩  
代理人 虎山 滋郎  
代理人 森住 憲一  
代理人 虎山 滋郎  
代理人 田口 昌浩  
代理人 岩木 郁子  

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