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審決分類 審判 全部申し立て 特36条4項詳細な説明の記載不備  A23L
審判 全部申し立て 1項3号刊行物記載  A23L
審判 全部申し立て 2項進歩性  A23L
審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  A23L
管理番号 1334351
異議申立番号 異議2017-700403  
総通号数 216 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2017-12-28 
種別 異議の決定 
異議申立日 2017-04-21 
確定日 2017-09-28 
異議申立件数
訂正明細書 有 
事件の表示 特許第6012092号発明「離水防止効果に優れた液状調味料」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第6012092号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1-6〕について訂正することを認める。 特許第6012092号の請求項2-6に係る特許を維持する。 特許第6012092号の請求項1に係る特許についての特許異議の申立てを却下する。 
理由 1.手続の経緯
特許第6012092号の請求項1-6に係る特許についての出願は、平成22年9月15日(優先権主張:平成21年9月29日)に特許出願され、平成28年9月30日にその特許権の設定登録がされ、その後、その特許について、特許異議申立人杉本里佳(以下、「申立人」という。)により特許異議の申立てがなされ、平成29年6月21日付けで取消理由が通知され、その指定期間内である平成29年8月23日に意見書の提出及び訂正の請求(以下、「本件訂正請求」という。)がなされたものである。
なお、本件訂正は、一部の請求項の削除のみであるから、「特許異議申立人に意見書を提出する機会を与える必要がないと認められる特別の事情があるとき」(特許法第120条の5第5項ただし書)に該当し、申立人に意見書を提出する機会を与えていない(審判便覧67-05.4参照)。

2.訂正の適否についての判断
(1)訂正の内容
本件訂正請求による訂正の内容は、以下のとおりである。
ア 訂正事項1
特許請求の範囲の請求項1を削除する。

イ 訂正事項2
特許請求の範囲の請求項2の「キサンタンガム0.1?1重量%を含む、請求項1に記載の液状調味料。」を、独立形式に改め、「キサンタンガム0.1?1重量%とグアガム0.02?0.66重量%を含み、測定法Aによる粘度が20Pa・s以上かつ110Pa・s以下である、食品からの離水防止効果を有する液状調味料。」に訂正する。

ウ 訂正事項3
特許請求の範囲の請求項3に「タマリンドシードガム、タラガム、ローカストビーンガムの中から選ばれた1種以上を含む、請求項1または2に記載の液状調味料。」とあるうち、請求項1を引用するものを削除し、「タマリンドシードガム、タラガム、ローカストビーンガムの中から選ばれた1種以上を含む、請求項2に記載の液状調味料。」に訂正する。

エ 訂正事項4
特許請求の範囲の請求項4に「調味料がドレッシングまたはソースであることを特徴とする、請求項1?3の何れか一つに記載の液状調味料。」とあるうち、請求項1を引用するものを削除し、「調味料がドレッシングまたはソースであることを特徴とする、請求項2または3に記載の液状調味料。」に訂正する。

オ 訂正事項5
特許請求の範囲の請求項5に「請求項1?4の何れか一つに記載の液状調味料を使用した食品。」とあるうち、請求項1を引用するものを削除し、「請求項2?4の何れか一つに記載の液状調味料を使用した食品。」に訂正する。

カ 訂正事項6
特許請求の範囲の請求項6に「請求項1?4の何れか一つに記載の液状調味料を使用したサラダ。」とあるうち、請求項1を引用するものを削除し、「請求項2?4の何れか一つに記載の液状調味料を使用したサラダ。」に訂正する。

(2)訂正の目的の適否、新規事項の有無、特許請求の範囲の拡張・変更の存否、一群の請求項

ア 訂正事項1
訂正事項1は、請求項1を削除するものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
そして、訂正事項1が、新規事項を付加するものではなく、特許請求の範囲を拡張・変更するものでもないことは明らかである。

イ 訂正事項2
訂正事項2は、請求項1を引用する訂正前の請求項2の請求項間の引用関係を解消し、独立形式の請求項へ改めるものであるから、特許第120条の5第2項ただし書第4号に規定する、他の請求項の記載を引用する請求項の記載を当該他の請求項の記載を引用しないものとすることを目的とする訂正である。
そして、 訂正事項2が、新規事項を付加するものではなく、特許請求の範囲を拡張・変更するものでもないことは明らかである。

ウ 訂正事項3
訂正事項3は、訂正前の請求項3が訂正前の請求項1または2を引用するものであったところ、訂正事項1により削除された請求項1との引用関係を解消するための訂正であるから、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
そして、訂正事項3が、新規事項を付加するものではなく、特許請求の範囲を拡張・変更するものでもないことは明らかである。

エ 訂正事項4
訂正事項4は、訂正前の請求項4が訂正前の請求項1?3を引用するものであったところ、訂正事項1により削除された請求項1との引用関係を解消するための訂正であるから、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
そして、訂正事項4が、新規事項を付加するものではなく、特許請求の範囲を拡張・変更するものでもないことは明らかである。

オ 訂正事項5
訂正事項5は、訂正前の請求項5が訂正前の請求項1?4を引用するものであったところ、訂正事項1により削除された請求項1との引用関係を解消するための訂正であるから、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
そして、訂正事項5が、新規事項を付加するものではなく、特許請求の範囲を拡張・変更するものでもないことは明らかである。

カ 訂正事項6
訂正事項6は、訂正前の請求項6が訂正前の請求項1?4を引用するものであったところ、訂正事項1により削除された請求項1との引用関係を解消するための訂正であるから、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
そして、訂正事項6が、新規事項を付加するものではなく、特許請求の範囲を拡張・変更するものでもないことは明らかである。

キ 一群の請求項に係る訂正か否かについて
訂正前の請求項1?6は、請求項2?6が請求項1を引用する関係にあり、訂正事項1?6に係る訂正は、訂正事項1に係る請求項1の削除に基づいて連動してなされるものであるから、本件訂正請求は一群の請求項に対してされたものといえる。

(3)小括
以上のとおりであるから、本件訂正請求による訂正は特許法第120条の5第2項第1号及び第4号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同条第4項及び同条第9項において準用する同法第126条第4項から第6項までの規定に適合するので、訂正後の請求項〔1?6〕についての訂正を認める。

3.特許異議の申立てについて
(1)本件発明
本件特許の請求項1ないし6に係る発明は、本件訂正請求により訂正された請求項1ないし6に記載されたとおりのものと認められ、そのうち請求項2ないし6に係る発明(以下、請求項2及び3を、それぞれ「本件発明1」及び「本件発明2」という)は、以下のとおりである。

【請求項1】
(削除)
【請求項2】
キサンタンガム0.1?1重量%とグアガム0.02?0.66重量%を含み、測定法Aによる粘度が20Pa・s以上かつ110Pa.s以下である、食品からの離水防止効果を有する液状調味料。
【請求項3】
タマリンドシードガム、タラガム、ローカストビーンガムの中から選ばれた1種以上を含む、請求項2に記載の液状調味料。
【請求項4】
調味料がドレッシングまたはソースであることを特徴とする、請求項2または3の何れか一つに記載の液状調味料。
【請求項5】
請求項2?4の何れか一つに記載の液状調味料を使用した食品。
【請求項6】
請求項2?4の何れか一つに記載の液状調味料を使用したサラダ。

(2)取消理由の概要
訂正前の請求項1ないし6に係る発明に対して平成29年6月21日付けで特許権者に通知した取消理由の概要は、次のとおりである。
なお、訂正前の請求項1は上記2.で検討したとおり訂正により削除されたので、訂正前の請求項1及びこれを直接引用する請求項4ないし6に対する取消理由(取消理由通知書の理由1,理由2の請求項1に係る部分,理由3,理由4)については除外する。

ア 請求項2ないし6に係る発明は、甲第1号証ないし甲第3号証に記載された発明に基づき、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであり、請求項2ないし6に係る特許は、取り消されるべきものである。

甲第1号証:特開2001-252041号公報
甲第2号証:特開平11-196764号公報
甲第3号証:特開平11-318384号公報

イ 請求項2ないし6に係る発明は、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていないので、請求項2ないし6に係る特許は、取り消されるべきものである。

(3)甲号証の記載
ア 甲第1号証の記載
甲第1号証には、以下の事項が記載されている。
「【請求項1】 10%以上40%以下の食用油脂、固形分換算で0.3%以上3%以下の卵白を含有しpHが3以上4.5未満のマヨネーズ様食品において、0.5%以上1%未満のガム質を含有していることを特徴とするマヨネーズ様食品。」

「【0009】
【発明の実施の形態】以下本発明を説明する。なお、本発明において「%」は「質量%」を意味する。本発明において「マヨネーズ様食品」とは、水相中に食用油脂が均一に分散して乳化状態が維持され、粘度が5万以上30万以下mPa・s、pHが3以上4.5未満であって、外観及び食味がマヨネーズに類似した水中油型酸性調味料をいい、本発明では、全質量に対し10%以上40%以下の食用油脂、固形分換算で0.3%以上3%以下の卵白及び0.5%以上1%未満のガム質を含有した調味料である。」

「【0012】本発明に用いるガム質は、例えば、キサンタンガム、タマリンド種子ガム、ローカストビーンガム、ジェランガム、グアーガム等増粘効果を有するガム質であれば何れのものでも良いが、後述の試験例に示すように他のガム質に比べキサンタンガムを単独あるいは併用した、つまり少なくともキサンタンガムを使用したほうが低温で長期間保存しても亀裂が発生し難く好ましい。本発明は、ガム質の1種又は2種以上を全質量に対し0.5%以上1%未満含有している。」

「【0017】
【実施例】[実施例1]生卵黄をホスホリパーゼA2で処理してリゾ化率30%のホスホリパーゼA処理卵黄(固形分50%)を得た。前記ホスホリパーゼA処理卵黄6kg、生卵白15kg(固形分12%)、食酢(酸度4%)15kg、清水30kg、食塩2.5kg、キサンタンガム0.5kg、からし粉0.5kg及びグルタミン酸ナトリウム0.5kgをミキサーで均一とし水相を調製した後、菜種油30kgを注加して粗乳化させた。得られた粗乳化物をコロイドミルで仕上げ乳化を行なった後、300ml容量のチューブに充填・密封した。得られたマヨネーズ様食品は、粘度が60,000mPa・s[B型粘度計((株)東京計器製)でローターNo.6、品温20℃、回転数2rpmで測定開始1分後の粘度]であり、pHは約4.3であった。
【0018】[実施例2]実施例1の水相にタマリンド種子ガム0.1kgを加配し、全重量を清水で調整した以外は実施例1に準じマヨネーズ様食品を調製した。得られたマヨネーズ様食品は、粘度が64,000mPa・sであり、pHが約4.3であった。」

「【0021】[比較例2]実施例1のキサンタンガム0.5kgに代えグアーガム0.2kgを用い、また菜種油30kgを40kgに変え、全重量を清水で調整した以外は実施例1に準じマヨネーズ様食品を調製した。得られたマヨネーズ様食品は、粘度が53,000mPa・sであり、pHが約4.3であった。」

以上の記載によれば、甲第1号証には以下の発明が記載されているものと認められる。

(ア)キサンタンガム0.5質量%を含み、粘度が60Pa・sである、水中油型酸性調味料(以下、「引用発明1」という。)

(イ)0.5質量%以上1質量%未満のガム質を含み、粘度が50Pa・s以上300Pa・s以下である、水中油型酸性調味料(以下、「引用発明2」という。)

(ウ)キサンタンガム0.5質量%およびタマリンド種子ガム0.1質量%を含み、粘度が64Pa・sである、水中油型酸性調味料(以下、「引用発明3」という。)

イ 甲2号証の記載
甲第2号証には、以下の事項が記載されている。
「【請求項1】 下記の成分:
a)酢酸ナトリウム、
b)グリシン、
c)キサンタンガム、並びに
d)グアーガム、ローカストビーンガム、タマリンドガム、トラガントガム、アラビアガム、及びカラギーナンからなる群より選ばれた一種以上の物質、を含有することを特徴とする、茹で野菜からなる和え物用組成物。」

「【請求項3】 茹で野菜からなる和え物中に、酢酸ナトリウムが0.2?2.2重量%、グリシンが0.1?1.1重量%、キサンタンガムが0.02?0.3重量%、かつグアーガム、ローカストビーンガム、タマリンドガム、トラガントガム、アラビアガム、及びカラギーナンからなる群より選ばれた一種以上の物質が0.01?0.15重量%含有されるように、請求項1記載の組成物を添加することを特徴とする、請求項2記載の茹で野菜からなる和え物の製造方法」

「【0006】
【課題を解決するための手段】本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意研究した結果、酢酸ナトリウム、グリシン、キサンタンガム、並びにグアーガム、ローカストビーンガム、タマリンドガム、トラガントガム、アラビアガム及びカラギーナンからなる群より選ばれた1種以上の物質を含有する組成物を添加して茹で野菜からなる和え物を製造することにより、茹で野菜からなる和え物の食味を維持しつつ、自然なつやを出すことができるとともに、茹で野菜からなる和え物の離水及び腐敗を防止することができることを見出し、本発明を完成させるに至った。」

「【0015】また、本発明の組成物の茹で野菜からなる和え物の離水を防止する効果は、本発明の組成物の成分のうち、キサンタンガム、並びにグアーガム、ローカストビーンガム、タマリンドガム、トラガントガム、アラビアガム、及びカラギーナンからなる群より選ばれた一種以上の物質の二成分によって奏される効果である。本発明の組成物を添加して茹で野菜からなる和え物を製造する際、茹で野菜と調味料と本発明の組成物とを和える順序は、限定されるものではないが、たとえば、茹で野菜と調味料とを和えた後、本発明の組成物を混和してもよいし、茹で野菜と本発明の組成物とを和えた後、調味料を混和してもよい。また、調味料と本発明の組成物とを混合した後、この混合物を茹で野菜と和えてもよい。
【0016】本発明の組成物の形状は、粉末や粒状に成形してもよい。また、調味料と本発明の組成物との混合物の実際に使用する形態としては、茹で野菜からなる和え物の形態に応じて、粉末、ペースト、液体等の形態から適宜選択することができる。本発明の組成物を添加して茹で野菜からなる和え物を製造する際、製造される茹で野菜からなる和え物中に、酢酸ナトリウムが0.2?2.2重量%、グリシンが0.1?1.1重量%、キサンタンガムが0.02?0.3重量%、かつグアーガム、ローカストビーンガム、タマリンドガム、トラガントガム、アラビアガム、及びカラギーナンからなる群より選ばれた一種以上の物質が0.01?0.15重量%含有されるように、本発明の組成物を添加することが好ましい。」

「【0020】〔実施例1〕ほうれん草を水洗いし水切りした後、軸を取り除き、沸騰水中で1分間茹で、急冷した。茹でほうれん草を茹でる前の重量の75重量%まで脱水した。そして、脱水した茹でほうれん草90部と以下のガム類とを和えた後、これに市販の粉末ごま和えの素(粒ごま、砂糖、食塩、粉末醤油、及びアミノ酸からなる粉末和え物用調味料、中埜酢店製)10部を和えて、茹で野菜からなる和え物を製造した。
【0021】ガム類は、キサンタンガムと、グアーガム、ローカストビーンガム、タマリンドガム、トラガントガム、アラビアガム又はカラギーナンのいずれか1つとを組み合わせて混和した。各ガム類の混和量は、茹で野菜からなる和え物の重量に対して、キサンタンガムが0、0.02、0.15、0.30又は0.45重量%、グアーガムが0、0.01、0.10、0.15又は0.20重量%、ローカストビーンガム、タマリンドガム、トラガントガム、アラビアガム及びカラギーナンが0.10重量%とした。各ガム類の組み合わせごとに、茹で野菜からなる和え物のつや及び離水を調べた。つやは、目視による官能検査によって調べた。その結果を以下の表1に示す。

【0022】
【表1】



以上の記載によれば、甲第2号証には「キサンタンガムと、グアーガム、ローカストビーンガム、タマリンドガム、トラガントガム、アラビアガム、及びカラギーナンからなる群より選ばれた一種以上を含有し、茹で野菜からなる和え物における離水の抑制に有効な組成物」、ならびに「グアーガムとキサンタンガムを含有し、茹で野菜からなる和え物における離水の抑制に有効な組成物」が記載されている。

ウ 甲3号証の記載
甲第3号証には、以下の事項が記載されている。
「【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、水中油型エマルション食品用組成物に関し、詳しくは、適正な粘度を保持しつつ、優れた保水性を有しており、フィリング材、サラダ、惣菜等に用いる乳化食品(マヨネーズ類、スプレッド類等)として有用な水中油型エマルション食品用組成物に関する。」

「【0006】一般に、食品の保水性を向上させるための手段としては、増粘多糖類や澱粉類等の増粘剤を食品へ添加することが行われている。
【0007】ところが、乳化食品の場合、これらの増粘剤を多量に添加すると、保水性は改善されるものの、高粘度となってしまい、乳化の際に転相しやすくなる傾向にある。この傾向は、乳化食品の油分濃度が高くなるに連れて強くなるが、各油分域において、添加可能な最大添加量が存在する。そこで乳化食品の保水性を向上させるためには、各油分域において、増粘剤を許容し得る最大添加量含有させればよい。
【0008】しかしながら、増粘剤を最大添加量含有させることになると、食品の粘度が必要以上に上昇し過ぎて、具材と和えにくくなったり、或いは具材と和えた後の食感や風味が悪くなったりする、といった欠点が生じてくる。この為、ハンドリング、食感及び風味上のバランス等の点からは、増粘剤の添加量には自ずから制限が加えられており、フィリング材、サラダ、惣菜等に用いられる乳化食品の粘度は、通常、50万CP(センチポイズ)以下であることが望ましいとされている。
【0009】このように、フィリング材、サラダ、惣菜等の乳化食品への増粘剤の添加量は、ハンドリング、食感及び風味上のバランス等の見地から制限されており、増粘剤の添加量を適正な範囲に抑えつつ、すなわち粘度の上昇を抑えつつ、保水性の向上を図ることは困難であった」

「【0015】増粘多糖類としては、例えばキサンタンガム、トラガントガム、ローカストビーンガム、グアガム、タマリンドシードガム、プルラン等が挙げられ、これらの1種を単独で、又は2種以上を混合して用いることができる。これらの中でも、キサンタンガム、トラガントガム、グアガム或いはタマリンドシードガムを用いることが好ましい。
【0016】本発明において、これら増粘多糖類の配合量は、組成物全体の0.1?2.0重量%、好ましくは0.2?1.5重量%である。増粘多糖類の配合量が0.1重量%未満であると、期待される保水効果が発揮されず、好ましくない。一方、増粘多糖類の配合量が2.0重量%を超えると、油相の割合にもよるが、上記した油相50?80重量%の範囲内では、高粘度となり過ぎ、乳化時に転相が起こる為、好ましくない。特に、増粘多糖類の配合量が、組成物全体の0.2?1.5重量%の範囲のときに、最も良好な結果が得られる。なお、一般に、油相の割合が高い場合には、増粘多糖類の配合量は少なくてすみ、油相の割合が下がるに連れて、増粘多糖類の配合量を増加させる必要がある。」

「【0028】実施例1?9及び比較例1?6〔マヨネーズ様ドレッシングの製造〕
第1表に示す配合組成の原料を水中油型に乳化し、水中油型エマルション食品用組成物(マヨネーズ様ドレッシング)2kgを調製した。」

「【0030】得られたマヨネーズ様ドレッシングについて、保水性を評価した。結果を第1表に示す。なお、保水性の評価は、キャベツサラダからの液だれ量によった。すなわち、キャベツ375gと、得られたマヨネーズ様ドレッシングとを和えてキャベツサラダを調製し、縦30cm×横23cm×深さ5cmのバットの右半分に充填し、20°の傾斜角度をつけて室温放置した。

【0031】
【表1】


【0032】
【表2】



以上の記載によれば、甲第3号証には「増粘多糖類の1種または2種以上を0.1重量%?2.0重量%含有する、保水性の向上した水中油型エマルジョン食品用組成物。」が記載され、当該増粘多糖類には、キサンタンガム及びグアガムが含まれている。さらに、前記組成物がマヨネーズ様ドレッシングとして製造されること、および、前記組成物がサラダ、惣菜等の食品に用いられることが記載されている。

(4)判断
ア 取消理由通知に記載した取消理由について
(ア)特許法第29条第2項について
A 本件発明1について
(A)引用発明1を主引用発明とする場合について
本件発明1と引用発明1を対比すると、引用発明1には、グアガム0.02?0.66重量%を含むこと及び食品からの離水防止効果を有することについて明示がない点で相違する。
ここで、甲第1号証の段落【0012】には、キサンタンガムに他のガム質を併用することが記載され、当該他のガム質としてグアーガムも例示されている。そして、ガム質の全質量は0.5%以上1%未満とされており、この値は、ガム質の総量の値としては本件発明1の値と一部重複する。
しかし、引用発明1は長期間保存に際して亀裂が発生し難い低温安定性に優れたマヨネーズ様食品を意図したものであり、離水防止効果を意図したものではなく、甲第1号証には、キサンタンガムとグアーガムを併用することが具体的に記載されているわけでもない。
そして、本件発明1は、当該離水防止効果を生じさせるために、キサンタンガムの含有量、グアガムの含有量及び粘度を個別に規定したものであるから、上記段落【0012】の記載を考慮したとしても、引用発明1は離水防止効果を課題としていない以上、引用発明1から本件発明1のキサンタンガムの含有量、グアガムの含有量及び粘度についての値を採用することを当業者が容易に想到できるとはいえない。
もっとも、甲第2号証及び甲第3号証には、離水防止効果を期待してキサンタンガムと共にグアガムを用いる点について記載されている。
しかし、上記のとおり引用発明1はマヨネーズ様食品の低温安定性を意図した発明であり、離水防止効果を課題とするものではないから、甲第2号証及び甲第3号証記載の離水防止効果に係る技術事項を引用発明1に適用する動機付けはなく、甲第2号証及び甲第3号証に基づき本件発明1の構成を採用することを当業者が容易に想到できるとはいえない。
よって、本件発明1が引用発明1並びに甲第1号証ないし甲第3号証の記載事項から当業者が容易に発明できたとはいえない。

(B) 引用発明2を主引用発明とする場合について
本件発明1と引用発明2を対比すると、引用発明2にはガム質として何を採用しているのか特定されていない点及び食品からの離水防止効果を有することについて明示がない点で相違する。
ここで、甲第1号証の段落【0012】には、ガム質としてキサンタンガム及びグアーガムを用いる点についての記載があるが、キサンタンガム及びグアーガムを併用することや、その場合の個別の含有量については特定されていない。
また、甲第3号証には、従来技術として増粘剤を食品に添加することにより食品の保水性を向上できることが記載されている(段落【0006】参照)が、当該記載のみからキサンタンガム及びグアーガムを併用し、その個別の含有量を特定することまで当業者が容易に到達できるとはいえない。
むしろ、甲第3号証では保水性向上物質の添加を必須の要件としており(段落【0017】及び第1表参照)、増粘剤のみでの保水性の確保については否定的な見解を示されている(段落【0007】?【0009】参照)から、甲第3号証の記載から、保水性向上物質を添加することなくキサンタンガム及びグアーガムを併用して、その個別の含有量を特定することにより離水性を防止するという技術思想が導き出せるとは考えられない。
よって、本件発明1が引用発明2及び甲第3号証の記載事項から当業者が容易に発明できたとはいえない。

B 本件発明2について
(A) 引用発明3を主引用発明とする場合について
本件発明2と引用発明3を対比すると、引用発明3には、グアガム0.02?0.66重量%を含むこと及び食品からの離水防止効果を有することについて明示がない点で相違する。
そして、上記相違点は上記「3.(4)ア(ア)A(A)」で検討した本件発明1と引用発明1の相違点と同じであり、当該相違点は上記「3.(4)ア(ア)A(A)」で検討したように、甲第1号証ないし甲第3号証の記載から当業者が容易に想到できたと言うことはできない。
よって、本件発明2を引用発明3並びに甲第1号証ないし甲第3号証の記載事項から当業者が容易に発明できたとはいえない。

(B) 引用発明2を主引用発明とする場合について
本件発明2は、本件発明1の特定事項を全て含み、更に限定を加えたものであるから、上記「3.(4)ア(ア)A(B)」で検討したのと同様の理由で、本件発明2は、引用発明2及び甲第3号証の記載事項から当業者が容易に発明できたものではない。

C 請求項4ないし6に係る発明について
請求項4ないし6に係る発明は、本件発明1または本件発明2の特定事項を全て含み、更に限定されたものであるから、本件発明1または本件発明2と同様の理由で、請求項4ないし6に係る発明は、甲第1号証ないし甲第3号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない。

(イ)特許法第36条第6項第2号について
本件明細書の段落【0014】には「本発明における離水量は3日後で0.5cm以下、好ましくは0.2cm以下、更に好ましくは0.1cm未満であることが好ましい。」の記載があり、請求項2記載の「食品からの離水防止効果」とは、離水量が3日後で0.5cm以下のものということができる。そして、そのように解すれば、実施例1,3,13,14,21も離水効果が認められるものとなるから、請求項2記載の「食品からの離水防止効果」が不明確と言うことはできない。

イ 取消理由通知において採用しなかった特許異議申立理由について
特許異議申立人は、特許異議申立書において、「本件特許の請求項1(訂正後の請求項2においても同様、以下同じ)には、粘度の測定方法について「測定法A」とのみ記載され、どのような測定方法であるかを一義的かつ具体的に把握することができない。それゆえ、本件特許の請求項1において、粘度が明確に規定されているとはいえないから、本件特許発明1は不明確である。」と主張している。
しかし、本件明細書の段落【0013】には、「測定法A」についての詳細な記載があり、当該記載を参酌すれば、請求項2記載の「測定法A」は明確である。
よって、請求項2に係る発明及びこれを引用する請求項3?6に係る発明が不明確であり、特許法第36条第6項第2号の要件を満たしていないとはいえない。

4.むすび
以上のとおりであるから、取消理由通知及び特許異議申立書に記載した取消理由によっては、請求項2ないし6に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に請求項2ないし6に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
更に、請求項1に係る特許は、本件訂正請求により削除されたため、本件特許の請求項1に対して申立人がした特許異議の申立てについては対象となる請求項が存在しない。

よって、結論のとおり決定する。
 
発明の名称 (57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
(削除)
【請求項2】
キサンタンガム0.1?1重量%とグアガム0.02?0.66重量%を含み、測定法Aによる粘度が20Pa・s以上かつ110Pa・s以下である、食品からの離水防止効果を有する液状調味料。
【請求項3】
タマリンドシードガム、タラガム、ローカストビーンガムの中から選ばれた1種以上を含む、請求項2に記載の液状調味料。
【請求項4】
調味料がドレッシングまたはソースであることを特徴とする、請求項2または3に記載の液状調味料。
【請求項5】
請求項2?4の何れか一つに記載の液状調味料を使用した食品。
【請求項6】
請求項2?4の何れか一つに記載の液状調味料を使用したサラダ。
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
異議決定日 2017-09-20 
出願番号 特願2010-206868(P2010-206868)
審決分類 P 1 651・ 121- YAA (A23L)
P 1 651・ 536- YAA (A23L)
P 1 651・ 113- YAA (A23L)
P 1 651・ 537- YAA (A23L)
最終処分 維持  
前審関与審査官 高山 敏充  
特許庁審判長 中村 則夫
特許庁審判官 井上 哲男
紀本 孝
登録日 2016-09-30 
登録番号 特許第6012092号(P6012092)
権利者 三菱商事フードテック株式会社
発明の名称 離水防止効果に優れた液状調味料  
代理人 太田 恵一  
代理人 慶田 晴彦  
代理人 慶田 晴彦  
代理人 太田 恵一  

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