ポートフォリオを新規に作成して保存 |
|
|
既存のポートフォリオに追加保存 |
|
PDFをダウンロード |
審決分類 |
審判 全部申し立て 2項進歩性 A47L 審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 A47L |
---|---|
管理番号 | 1334364 |
異議申立番号 | 異議2017-700353 |
総通号数 | 216 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許決定公報 |
発行日 | 2017-12-28 |
種別 | 異議の決定 |
異議申立日 | 2017-04-11 |
確定日 | 2017-10-05 |
異議申立件数 | 1 |
訂正明細書 | 有 |
事件の表示 | 特許第6008583号発明「可撓性ホース、及び電気掃除機」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 |
結論 | 特許第6008583号の明細書及び特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正明細書及び訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1、2〕、3について訂正することを認める。 特許第6008583号の請求項1?3に係る特許を維持する。 |
理由 |
第1 手続の経緯 本件特許第6008583号(以下「本件特許」という。)の請求項1?3に係る特許についての出願は、平成28年9月23日にその特許権の設定登録がされ、その後、特許異議申立人清水隆男より特許異議の申立てがされ、平成29年6月19日付けで取消理由が通知され、その指定期間内である平成29年7月21日に意見書の提出及び訂正の請求がされたものである。 第2 訂正の請求 1 訂正の内容 平成29年7月21日付け訂正請求書による訂正の請求は、「特許第6008583号の明細書及び特許請求の範囲を、本訂正請求書に添付した訂正明細書及び訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項1?3について訂正する」ことを求めるものであり、その訂正(以下「本件訂正」という。)の内容は、本件特許に係る願書に添付した明細書及び特許請求の範囲を、次のように訂正するものである(下線は、訂正箇所を示す)。 (1) 訂正事項1 特許請求の範囲の請求項1に「該潤滑剤は、炭酸カルシウム又はシリコーンであり、」と記載されているのを、「該潤滑剤はシリコーンであり、」に訂正する。 (請求項1の記載を引用する請求項2も同様に訂正する)。 (2) 訂正事項2 特許請求の範囲の請求項3に「該潤滑剤は、炭酸カルシウム又はシリコーンであり、」と記載されているのを、「該潤滑剤はシリコーンであり、」に訂正する。 (3) 訂正事項3 明細書の段落【0007】及び【0008】において、それぞれ、「該潤滑剤は、炭酸カルシウム又はシリコーンであり、」と記載されているのを、いずれも「該潤滑剤はシリコーンであり、」に訂正する。 2 訂正の適否 (1) 一群の請求項について 訂正事項1に係る訂正前の請求項1及び2について、請求項2は請求項1を引用しているものであって、訂正事項1によって記載が訂正される請求項1に連動して訂正されるものである。 したがって、訂正前の請求項1及び2に対応する訂正後の請求項1及び2は、特許法第120条の5第4項に規定する一群の請求項である。 (2) 訂正事項1について ア 訂正の目的について 訂正事項1は、潤滑剤の種類について、訂正前の請求項1に「炭酸カルシウム又はシリコーン」としていたものを、訂正後の請求項1の「シリコーン」に減縮するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものであり、訂正後の請求項1を引用する請求項2についても同様に減縮しようとするものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。 イ 実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更する訂正ではないこと 上記アの理由から明らかなように、訂正事項1は、潤滑剤の種類を減縮するものであり、発明のカテゴリーや対象、目的を変更するものではなく、また、訂正後の請求項1を引用する訂正後の請求項2に記載された発明についてもカテゴリーや対象、目的を変更するものでもない。 よって、訂正事項1は、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではなく、特許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第6項に適合する。 ウ 願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内であること 訂正事項1は、願書に添付した明細書の「又、本実施形態において、凸部2の頂部3を構成する合成樹脂に混合可能な潤滑剤としては、例えば、炭酸カルシウムやシリコーンが挙げられる。」(【0020】)との記載に基づくものであるから、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であり、特許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第5項に適合する。 (3) 訂正事項2について ア 訂正の目的について 訂正事項2は、潤滑剤の種類について、訂正前の請求項3に「炭酸カルシウム又はシリコーン」としていたものを、訂正後の請求項3の「シリコーン」に減縮するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。 イ 実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更する訂正ではないこと 上記アの理由から明らかなように、訂正事項2は、潤滑剤の種類を減縮するものであり、発明のカテゴリーや対象、目的を変更するものではない。 よって、訂正事項2は、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではなく、特許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第6項に適合する。 ウ 願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内であること 訂正事項2は、願書に添付した明細書の「又、本実施形態において、凸部2の頂部3を構成する合成樹脂に混合可能な潤滑剤としては、例えば、炭酸カルシウムやシリコーンが挙げられる。」(【0020】)との記載に基づくものであるから、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であり、特許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第5項に適合する。 (4) 訂正事項3について ア 訂正の目的について 訂正事項3は、上記訂正事項1及び2に係る訂正に伴い、特許請求の範囲の記載と明細書の記載との整合性を図るための訂正事項であり、特許法第120条の5第2項ただし書第3号に規定する明瞭でない記載の釈明を目的とするものである。 イ 実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更する訂正ではないこと 訂正事項3は、特許請求の範囲の記載と明細書の記載との整合性を図るための訂正事項であるところ、訂正前の請求項〔1、2〕、3に記載された発明のカテゴリーや対象、目的を変更するものではないから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではなく、特許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第6項に適合する。 ウ 願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内であること 訂正事項3は、特許請求の範囲の記載と明細書の記載との整合性を図るための訂正であり、上記訂正事項1及び2において示したとおり、明細書の記載に基づくものであるから、願書に添付した明細書及び特許請求の範囲に記載した事項の範囲内の訂正であり、特許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第5項に適合する。 3 まとめ したがって、本件訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号又は第3号に掲げる事項を目的とし、同条第4項並びに同条第9項の規定によって準用する第126条第5項及び第6項に適合するので、訂正後の請求項〔1、2〕、3について訂正を認める。 第3 本件特許発明 上記のとおり本件訂正が認められるから、本件特許の請求項1?3に係る発明(以下「本件発明1?3」という。また、これらをまとめて「本件発明」ということもある。)は、訂正特許請求の範囲の請求項1?3に記載された事項により特定される、次のとおりのものである。 【請求項1】 環状又は螺旋状の凹部及び凸部を外表面上に備え、前記凸部の内周側に金属又は硬質合成樹脂の線材を内包して有し、前記凹部は成形後のショア硬度が50?70度の軟質塩化ビニル樹脂であって、前記凸部は成形後のショア硬度が80?100度の軟質塩化ビニル樹脂又は高摺動ポリエチレン樹脂であって、該凸部の頂部表面に潤滑剤を有し、 該潤滑剤はシリコーンであり、 前記凸部の頂部は、前記凸部の最大幅の20?80%の範囲であることを特徴とする可撓性ホース。 【請求項2】 前記凹部の表面の摩擦係数は0.9?0.4であって、前記凸部の頂部の摩擦係数は0.3?0.1であることを特徴とする請求項1に記載の可撓性ホース。 【請求項3】 掃除機本体と、ホース体と、を備え、 前記ホース体は、一端に吸口体又は延長管と接続される操作部と、他端に前記掃除機本体に接続される接続部と、前記操作部と前記接続部とを連結する可撓性ホースと、を備え、 前記可撓性ホースは、環状又は螺旋状の凹部及び凸部を外表面に備え、前記凸部の内周側に金属又は硬質合成樹脂の線材を内包して有し、前記凹部は成形後のショア硬度が50?70度の軟質塩化ビニル樹脂であって、前記凸部は成形後のショア硬度が80?100度の軟質塩化ビニル樹脂又は高摺動ポリエチレン樹脂であって、該凸部の頂部表面に潤滑剤を有し、 該潤滑剤はシリコーンであり、 前記凸部の頂部は、前記凸部の最大幅の20?80%の範囲であることを特徴とする電気掃除機。 第4 当審の判断 1 平成29年6月19日付け取消理由通知に記載した取消理由の概要 [理由1] 本件発明1?3は、本件特許の出願前に日本国内又は外国において頒布された下記の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。 記 (刊行物) 甲第1号証:特開平10-153279号公報 甲第2号証:特開2002-5347号公報 甲第3号証:特開2001-235070号公報 甲第4号証:特開2001-82641号公報 甲第5号証:特開平7-323489号公報 甲第6号証:特開2002-523号公報 甲第7号証:特開2010-60012号公報 甲第8号証:特開2011-131415号公報 甲第9号証:特開平11-294643号公報 甲第13号証:実公平3-32874号公報 (以下「甲第1号証」等を「甲1」等という。また、「甲第1号証に記載された発明」、「甲第2号証に記載された事項」等を、それぞれ「甲1発明」、「甲2記載事項」等という。) 理由1-1 本件発明1?3は、甲1発明及び甲2?9、13記載事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものである。 理由1-2 本件発明1?3は、甲2発明及び甲1、3?9、13記載事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものである。 [理由2] 本件特許は、特許請求の範囲の記載が以下の点で不備のため、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない。 請求項1?3における、「該潤滑剤は、炭酸カルシウム」「であり、」という記載については、どのような炭酸カルシウムを用いれば、表面が粗面化されて、すべり性が向上するかについての特定がされておらず、出願時の技術常識に照らしても、本件発明の範囲まで、発明の詳細な説明に開示された内容を拡張ないし一般化できるとはいえず、いわゆるサポート要件の規定を満たしていない。 (参考文献) 甲10:特公平1-46538号公報 甲11:特公昭63-63596号公報 甲12:白石カルシウム株式会社,「1白石工業(株)製品」,商品案内カタログ,白石カルシウム株式会社,1983年3月,p.1-4 なお、上記取消理由通知は、本件特許異議の申立てにおいて申立てられたすべての申立理由を含んでいる。 2 上記取消理由についての判断 (1) 理由1について (1-1) 理由1-1(甲1発明に基く進歩性)について ア 甲1記載事項 甲1(特開平10-153279号公報)には、以下の記載がある。 ア-1 「【請求項1】 導線が付設された幅広の条帯を螺旋状に捲回し、その隣接する側縁部同士を重合して接合することにより形成した可撓性ホースであって、上記条帯はその基部から立ち上がり横断面が中空の略逆三角形状をした突条部を幅方向に沿って複数形成されるとともに、隣接する突条部同士で形成する空間に基部から突設した導線保持壁により導線が保持される導線付設部が形成され、上記条帯を螺旋状に捲回してホース状体に形成した際の導線付設部の外径を突条部の外径よりも小さく構成し、かつ、上記突条部の頂壁部の剛性を他の部分より大きくしたことを特徴とする導線付き可撓性ホース。 【請求項2】 突条部の頂壁部の少なくとも外表面部分を硬質合成樹脂、その他の部分を軟質合成樹脂により一体成形した条帯により形成した請求項1に記載の導線付き可撓性ホース。」 ア-2 「【0001】 【発明の属する技術分野】本発明は、パワーブラシ用やリモコンスイッチ用などの電気回路を構成する電気掃除機用ホース等に使用される導線付き可撓性ホースに関するものである。」 ア-3 「【0003】 【発明が解決しようとする課題】しかしながら、上記のホースにおいては、隣接する突条42,43,44間に導線挿入部47,48のスペースを設ける必要があり、ホースの長さ方向における単位長さ当たりの突条の数を多くすることはできず、ホースの可撓性の向上を図るのに限界があった。また、隣接する突条42,43,44同士が接着剤で接着されているため、中央の突条43における接着剤52,53より下方側と、外側の各突条42,44の内側壁における接着剤52,53より下方側の自由な変形が阻害されて、可撓性が制限される問題があった。本発明は、上記ホースの問題点を解消し、可撓性をより向上させることのできる導線付きホースを提供することを目的とする。」 ア-4 「【0007】以下、本発明の第1実施例を図1乃至図4の図面に基づき説明すると、導線付き可撓性ホースAは、一対の被覆導線2,3が付設された幅広の条帯1が螺旋状に捲回されその隣接する側縁部同士が接合されて形成されている。 【0008】すなわち、条帯1は、基部4から立ち上がり横断面が中空の略逆三角形状をした複数(本例では3条)の突条部5,6,7と突条部5,6,7相互の隣接する空間に基部4から突設した左右一対の導線保持壁9,9により被覆導線2,3を保持する導線付設部8を有し、突条部5,6,7の頂壁部10,10,10を硬質合成樹脂、その他の部分を軟質合成樹脂により一体に形成されている。 【0009】突条部5,6,7は、ホースの径方向外方に突出するとともに、条帯1の幅方向に併設され、それらの横断面は、ホースの径方向内方に開口する中空の略逆三角形状とされ、頂壁部10と左右一対の側壁部11,12を有し、上端部の幅Xが下端部の幅Yよりも大とされている。 【0010】条帯1のうち突条部5,6,7の頂壁部10,10,10を形成する硬質合成樹脂とそれ以外の部分を形成する軟質合成樹脂とは、互いに融着する材料が選択され、例えば硬質合成樹脂として高密度ポリエチレン、軟質合成樹脂としてエチレン酢酸ビニル共重合体(EVA)使用される。」 ア-5 「【0017】そして、条帯1の上向き側縁部15を隣接する下向き側縁部14内に挿入し、接着剤18と同一の接着剤である接合用接着剤16により接合する。上記のように、隣接する突条部5,6,7はどの部分も接着剤で接合されず、自由な変形が可能でありホースの可撓性は良好である。 【0018】すなわち、ホースを曲げた際には、屈曲部の外周側では、図3に示すように、突条部5,6,7は幅方向に引っ張られその両側壁部11,12が拡開して、頂壁部10が湾曲凹状となる四角形(台形)状に変形するとともに、基部4,4はそれとは逆に湾曲凸状に変形する。 【0019】また、屈曲部の内周側では、図4に示すように、突条部5,6,7は軸方向に圧縮されてその両側壁部11,12が閉じるとともに、その頂壁部10および基部4,4はそれとは逆の湾曲形態で変形する。 【0020】上記のように、ホースを曲げた際に、外周側が伸長し内周側は縮小するが、突条部5,6,7の両側壁部11,12の開閉や基部4の湾曲により、伸縮に容易に対応して、ホースが座屈するように変形するので、ホースの可撓性は大きいものである。 【0021】また、突条部5,6,7の横断面が略逆三角形とされて、隣接する突条部5,6,7間の略台形状の空間内に被覆導線2,3を内有する導線付設部8が配設されたので、突条部5,6,7の横断面が門型である場合などに比べて、ホースの単位長さ当りの突条部の数を多く設定でき、この点からもホースの可撓性を大きくすることができる。」 ア-6 「【0023】更に、ホースが床面やカーペットなどと直接接触する部分である突条部5,6,7の頂壁部10,10,10を硬質合成樹脂で形成してあるので、その摩擦抵抗が少なく、ホースの移動が滑らかで掃除機の使い勝手が良くなるほか、この硬質合成樹脂が螺旋補強体の役目を果たし、ホースを屈曲させた際に、キンクしにくくなりホースの曲率半径をより小さくできる。 【0024】なお、本実施例のように、頂壁部10全体を硬質合成樹脂で形成する必要はなく、少なくとも床面などと直接接触するその外表面のみを硬質合成樹脂で形成するようにしてもよい。」 ア-7 「【0031】 【発明の効果】本発明によれば、導線付きホースでありながら、その可撓性を従来より大幅に向上させることができ、かつ、誤ってホースを踏んでも永久変形せず容易に元の形状に復元でき、導線がホース内部にうまく保護収納され外部に露出したりする虞がないとともに、耐キンク性が向上され曲率半径をより小さくできる。また、ホースを床などに引きずった際の摩擦抵抗が少なく、操作性に優れるほか、外観体裁や手触りのよいホースも得ることができる。」 イ 甲1発明 甲1記載事項ア-1?ア-7を踏まえると、甲1には、次の甲1発明が記載されている。 「 導線が付設された幅広の条帯1を螺旋状に捲回し、その隣接する側縁部同士を重合して接合することにより形成した電気掃除機用ホース等に使用される可撓性ホースであって、 上記条帯1には、その基部4から立ち上がり、横断面が頂壁部10と左右一対の側壁部11,12を有する中空の略逆三角形状をした突条部5,6,7が複数設けられるとともに、隣接する突条部同士で形成する空間には導線が保持される導線付設部8を有し、 上記条帯1を螺旋状に捲回してホース状体に形成した際の導線付設部8の外径は、突条部5,6,7の外径よりも小さく構成され、かつ、 上記突条部5,6,7の頂壁部10の少なくとも外表面部分を硬質合成樹脂である高密度ポリエチレン、その他の部分を軟質合成樹脂であるエチレン酢酸ビニル共重合体(EVA)により一体成形して、上記突条部5,6,7の頂壁部10の剛性を他の部分より大きくした、 電気掃除機用ホース等に使用される導線付き可撓性ホース。」 ウ 本件発明1と甲1発明との対比、判断 (ア) 本件発明1と甲1発明との対比 甲1発明の「幅広の条帯1を螺旋状に捲回し、その隣接する側縁部同士を重合して接合することにより形成した」「可撓性ホース」は、その形状、構造からみて、本件発明1の「環状又は螺旋状の」「可撓性ホース」に相当する。 また、甲1発明の「上記条帯1」の「基部4から立ち上がり、横断面が頂壁部10と左右一対の側壁部11,12を有する中空の略逆三角形状をした突条部5,6,7」は、本件発明1の「可撓性ホース」の「外表面上に備え」られた「凸部」に相当し、甲1発明の「突条部5,6,7の頂壁部10」は、本件発明の「凸部の頂部表面」に相当する。 また、甲1発明の「隣接する突条部同士で形成する空間」は、本件発明1の「可撓性ホース」の「外表面上に備え」られた「凹部」に相当する。 そうすると、甲1発明の「上記条帯1には、その基部4から立ち上がり、横断面が頂壁部10と左右一対の側壁部11,12を有する中空の略逆三角形状をした突条部5,6,7が複数設けられるとともに、隣接する突条部同士で形成する空間」を有し、「上記条帯1を螺旋状に捲回してホース状体に形成した」「可撓性ホース」は、本件発明1の「環状又は螺旋状の凹部及び凸部を外表面上に備え」た「可撓性ホース」に相当する。 また、甲1発明の「導線」は、技術常識からみて、金属であることは明らかであるから、本件発明1の「金属又は硬質合成樹脂の線材」に相当する。 そうすると、両者は以下の点で相違し、その余の点で一致する。 [相違点1-1] 金属又は硬質合成樹脂の線材の配置について、本件発明1においては、凸部の内周側に内包して有するようにしているのに対して、甲1発明においては、隣接する突条部同士で形成する空間に設けられた導線付設部8に保持されるようにしている点。 [相違点1-2] 凹部と凸部の素材や硬さについて、本件発明1においては、凹部は成形後のショア硬度が50?70度の軟質塩化ビニル樹脂であり、凸部は成形後のショア硬度が80?100度の軟質塩化ビニル樹脂又は高摺動ポリエチレン樹脂であるのに対して、甲1発明においては、突条部5,6,7の頂壁部10の少なくとも外表面部分を硬質合成樹脂である高密度ポリエチレン、その他の部分を軟質合成樹脂であるエチレン酢酸ビニル共重合体(EVA)により一体成形して、突条部5,6,7の頂壁部10の剛性を他の部分より大きくしたものである点。 [相違点1-3] 本件発明1においては、凸部の最大幅の20?80%の範囲である凸部の頂部表面に潤滑剤を有し、該潤滑剤はシリコーンであるのに対して、甲1発明においては、突条部5,6,7の頂壁部10の少なくとも外表面部分は硬質合成樹脂である高密度ポリエチレンとされるものの、その頂壁部10が突条部5,6,7の最大幅のどの程度の範囲であるかは明らかでなく、また、シリコーンの潤滑剤は有していない点。 (イ) 上記相違点についての検討 a まず、上記相違点1-1について検討する。 甲1発明は、「可撓性をより向上させることのできる導線付きホースを提供する」(上記記載事項ア-3参照)ことを課題とするところ、甲1発明において、突条部5,6,7は、条帯1の基部4から立ち上がり、横断面が頂壁部10と左右一対の側壁部11,12を有する中空の略逆三角形であるという事項、及び、導線は、隣接する突条部同士で形成する空間に設けられた導線付設部8に保持されるとともに、条帯1を螺旋状に捲回してホース状体に形成した際の導線付設部8の外径は、突条部5,6,7の外径よりも小さく構成されているという事項を有するものである。 そして、当該事項を有することにより、「ホースを曲げた際には、屈曲部の外周側では、図3に示すように、突条部5,6,7は幅方向に引っ張られその両側壁部11,12が拡開して、頂壁部10が湾曲凹状となる四角形(台形)状に変形するとともに、基部4,4はそれとは逆に湾曲凸状に変形する」、「屈曲部の内周側では、図4に示すように、突条部5,6,7は軸方向に圧縮されてその両側壁部11,12が閉じるとともに、その頂壁部10および基部4,4はそれとは逆の湾曲形態で変形する」、「ホースを曲げた際に、外周側が伸長し内周側は縮小するが、突条部5,6,7の両側壁部11,12の開閉や基部4の湾曲により、伸縮に容易に対応して、ホースが座屈するように変形するので、ホースの可撓性は大きいものである」及び「突条部5,6,7の横断面が略逆三角形とされて、隣接する突条部5,6,7間の略台形状の空間内に被覆導線2,3を内有する導線付設部8が配設されたので、突条部5,6,7の横断面が門型である場合などに比べて、ホースの単位長さ当りの突条部の数を多く設定でき、この点からもホースの可撓性を大きくすることができる」(いずれも上記記載事項ア-5)という作用により、「導線付きホースでありながら、その可撓性を従来より大幅に向上させることができ」(上記記載事項ア-7)るという効果を奏するものとなっている。 そうすると、甲1発明においては、導線の配置は、突条部の横断面中空の略逆三角形の内部に配置するのではなく、隣接する突条部同士で形成する空間に設けられた導線付設部8に保持されるとともに、条帯1を螺旋状に捲回してホース状体に形成した際の導線付設部8の外径は、突条部5,6,7の外径よりも小さく構成されることが、甲1発明の課題解決のために必要であるから、たとえ電気掃除機用ホースや空調用ダクトホースにおいて、甲2、6及び7にみられるような「凹凸のあるホースの凸部の内周側に金属又は合成樹脂の線材を内包して有する」ようにしている可撓性ホースの形状・構造が周知技術であったとしても、当該周知技術を甲1発明に適用しようとする動機づけはない。 また、当該周知技術の適用は、それにより突条部の両側壁部の拡開や頂壁部の湾曲などによる突条部の変形し易さを損ない、却って甲1発明が奏する効果を発揮し得ないものとすることになるから、上記周知技術の適用には阻害要因があるといえる。 よって、甲1発明において、上記相違点1-1に係る本件発明1の構成を得るようにすることは、当業者が容易になし得ることとはいえない。 b 次に、上記相違点1-2について検討する。 甲1発明は、可撓性をより向上させることのできる導線付きホースを提供するという課題のもと、突条部の頂壁部の剛性をその他の部分より大きくしたものであり、突条部の両側壁部や基部とは同じ素材(軟質合成樹脂であるエチレン酢酸ビニル共重合体(EVA))で構成されるものであるところ、凹部と凸部とで硬度を異ならせている本件発明1のようにすることの動機づけを見出すことはできない。 また、本件発明1と甲1発明とは、凹部及び凸部の素材がいずれも異なるところ、凹部と凸部の素材や硬さについて、本件発明1と同様の組合せとすることについては、甲2?9、13をみても記載や示唆は見当たらない。 よって、甲1発明において、上記相違点1-2に係る本件発明1の構成を得るようにすることは、当業者が容易になし得ることとはいえない。 c 次に、上記相違点1-3について検討する。 甲1発明においては、突条部5,6,7の頂壁部10の少なくとも外表面部分は硬質合成樹脂である高密度ポリエチレンとされることにより、その少ない摩擦抵抗で、すでにホースの移動が滑らかで掃除機の使い勝手が良くされているところ、さらに、当該箇所の一部表面にシリコーンの潤滑剤を有するようにする動機づけを見出すことはできない。 そして、甲5及び6には、ホースの滑りを良くするためにシリコン系樹脂を用いたり、シリコン系などの滑剤を用いたりすることが示されているものの、凹凸のあるホースの凸部の頂部表面の一部についてのみシリコーンの潤滑剤を有するようにすることまでの記載や示唆があるとはいえない。 よって、甲1発明において、上記相違点1-3に係る本件発明1の構成を得るようにすることは、当業者が容易になし得ることとはいえない。 d そして、本件発明1は、上記相違点1-1?1-3に係る本件発明1の構成を備えることにより、「可撓性ホースは、可撓性ホースと床面等との摩擦が軽減される。このため、可撓性ホースの滑り性が向上する」(【0009】)という効果を奏するものである。 (ウ) 小括 よって、本件発明1は、甲1発明並びに甲2?9、13記載事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではない。 エ 本件発明2及び3と甲1発明との対比、判断 上記第3に示したとおり、本件発明2及び3は、本件発明1の発明特定事項をすべて含むものであるから、 本件発明2及び3は、甲1発明とは、少なくとも本件発明1と甲1発明との上記相違点1-1?1-3と同じ点において相違するといえる。 そして、上記相違点1-1?1-3については、上記ウ(イ)に示したとおりであるから、本件発明2及び3についても、甲1発明並びに甲2?9、13記載事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものということはできない。 オ 小括 よって、本件発明1?3は、甲1発明並びに甲2?9、13記載事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではないから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないとはいえない。 (1-2) 理由1-2(甲2発明に基く進歩性)について ア 甲2記載事項 甲2(特開2002-5347号公報)には、以下の記載がある。 ア-1 「【請求項1】 所定の間隔を隔てて螺旋状に巻回されたウレタン系樹脂被覆鋼線(3)…と、その外周面上において薄膜状のウレタン系樹脂帯材(5a)が螺旋状に巻回され、その重合面間が融着または接着されて形成された管壁(5)とを備え、これらウレタン系樹脂被覆鋼線(3)とウレタン系樹脂管壁(5)とがウレタン系接着剤(6)によって接着され、該管壁形成ウレタン系樹脂帯材(5a)よりも硬度の高いウレタン系樹脂製の小幅帯(4a)が、管壁(5)における前記被覆鋼線(3)の外周面上を二重に覆うように螺旋巻きされ、該小幅帯(4a)が前記管壁(5)と融着一体化またはウレタン系接着剤(6)を介して接着一体化されている可撓性ホース。 【請求項2】 管壁(5)を形成するウレタン系樹脂帯材(5a)がJIS A形硬さ試験による硬度60?90度の範囲内の樹脂、小幅帯(4a)がJIS A形硬さ試験による硬度70?99度の範囲内の樹脂から選択された樹脂で形成されている請求項1に記載の可撓性ホース。」 ア-2 「【0001】 【発明の属する技術分野】本発明は、合成樹脂製の可撓性ホースに関するものである。殊に、一般家庭用の電気掃除機用ホース(クリーナーホース)として使用するのに適した可撓性ホースに関するものである。 【0002】 【従来の技術】従来のこの種の可撓性ホース、例えばクリーナーホースについてみると、硬鋼線をポリ塩化ビニール(PVC)樹脂で被覆させた被覆鋼線と撚り合わせ銅電線を同じくPVC樹脂によって絶縁被覆させた被覆電線とを引き揃えて所定の間隔を隔てて螺旋状に巻回させ、その外周面上に同じくPVC樹脂製の帯素材を螺旋状に巻回させて帯状素材相互の重合面を融着または接着させて管壁を形成するとともに、該管壁と前記被覆鋼線及び被覆電線との相互も融着または接着させてある構造のものであった。このように、補強線材を使用した従来のクリーナーホースにあっては、前記被覆線の被覆樹脂、被覆電線の被覆樹脂並びに管壁を形成する樹脂素材が何れもPVC樹脂で形成されているのが一般的であった。 【0003】 【発明が解決しようとする課題】このようなPVC樹脂を使用したホースにあっては、廃棄後の処分に当たって、通常ゴミのように焼却すると人体に有害なダイオキシンなどを発生し、この除去が大きな社会問題となっている。また、樹脂素材がPVCの場合は比重が大きく、ホースの保形のための硬鋼線と通電のための銅電線とを併用しているホースにあっては、ホース全体の重量が大きく、長時間使用すると疲労が大きく、コスト的にも最適のものとは言いえないという課題を有するものであった。」 ア-3 「【0006】そこで、本発明は、このような課題を解決することを目的とし、前記のようにPVC樹脂素材の使用を全面的に排し、非PVC樹脂素材を使用し、焼却してもダイオキシンの発生源にはならないホースでありながら、保形性に優れ、ホース全体の重量が軽量で、取り扱いが容易で長時間の使用にも疲労感を最小限にとどめることができる利点を有し、なおかつ、ベタツキ感が少なく耐摩耗性をも備えているホースを提供しようとするものである。」 ア-4 「【0009】また、管壁5を形成するウレタン系樹脂帯材5aは、硬度がJIS規格によるA形硬さ試験の硬度60?90度(以下JIS A硬度と表示する)の範囲内の樹脂を用い、小幅帯4aは硬度がJIS A硬度70?99度の範囲内のものであって、前記樹脂帯材5aよりも硬度の高いものを選択して使用する。」 ア-5 「【0012】これら4本の被覆鋼線3a,3b,3c,3dと先行巻回した隣接する被覆鋼線3dとで形成される一定間隔wの4幅分余りの幅、即ち被覆鋼線3…5本分余りの幅をもつ薄膜状で長尺の、JIS A硬度70度のウレタン系樹脂帯材5a(図3には、被覆鋼線3…の凹凸に合致する波形凹凸状に予め形付けしてある帯材として示してあるが平帯状のものでもよい)を、その側縁部が任意の特定した被覆鋼線3の外周面上において重なるように螺旋巻きし、その重なり合った側縁部どうしを融着させて管壁5を形成し、このとき、被覆鋼線3…の外周面上に例えばホットメルトとして一般に知られているウレタン系接着剤6を塗布し、ウレタン樹脂帯材5aを各被覆鋼線3…とも接着させる。 【0013】該実施例に示したウレタン樹脂帯材5aは、図3に示したように、管壁5の形成時に各被覆鋼線3…の外周面に位置する部分の外周面側に、該ウレタン系樹脂帯材5aの硬度よりも硬度が高いJIS A硬度90度のウレタン系樹脂製の4本の小幅帯4a…が、ウレタン系樹脂帯材5aと同じ樹脂押出しダイスから同時的一体的に押し出したものとしてある。したがって、ウレタン系樹脂帯材5aによる管壁5の形成と同時に、該管壁5における前記各被覆鋼線3…の外周面側に耐摩性線状部4…を備えた管壁5が得られる。」 ア-6 「【0026】 【発明の効果】以上の説明から明らかなように、本発明にいう可撓性ホースは、硬鋼線を被覆する被覆樹脂素材、管壁を構成する樹脂素材、耐摩性強化のための線状部の樹脂素材、更には接着剤の何れをも、燃焼時にダイオキシンのような人体に有毒なガスを発生することのない非塩素系の特定の樹脂素材を使用するものであるから、廃棄後における焼却処分時に公害を発生することのない可撓性ホースを得ることができる。 【0027】本発明にいう可撓性ホースは、管壁における被覆鋼線を覆う外表面部分に、管壁を形成する樹脂素材よりも硬度の高い樹脂素材で形成した耐摩性線状部を備えているので、引きづり摩擦や接触引っ掻き抵抗を硬度の高い耐摩性線状部が引き受けるので、耐摩性に優れ、濫りに傷つくことなく、長期間の使用に耐え得る利点を有するのみならず、握り持った時に感ずる硬度の低いウレタン系樹脂素材が有するベタツキ感を減少させ得る利点をも併せもつ効果がある。 【0028】また、本発明にいう可撓性ホースは、従来から一般にホース素材として使用されているPVC樹脂の場合は、比重が1.2?1.3であるのに比し、本発明において使用するウレタン系樹脂の場合は、比重が平均1.1?1.2であるから、使用する管壁形成素材の体積を同じとした場合には、PVC樹脂ホースに比して、単純計算で管壁の重量が、10%以上軽量化できることとなり、ウレタン系樹脂の場合は、滑り摩耗や引掻き耐性が優れ、引張りや引裂き力に対する機械的強度に優れ、耐候性にも優れた特性を備えているので、PVC樹脂ホースに比し管壁の平均肉厚の薄肉化を図り得るので、更なるホース重量の軽量化が可能となり、使用時の疲れを軽減させることができる利点がある。」 イ 甲2発明 甲2記載事項ア-1?ア-6を踏まえると、甲2には、次の甲2発明が記載されている。 「 所定の間隔を隔てて螺旋状に巻回されたウレタン系樹脂被覆鋼線(3)と、その外周面上において薄膜状のウレタン系樹脂帯材(5a)が螺旋状に巻回され、その重合面間が融着または接着されて形成された管壁(5)とを備え、これらウレタン系樹脂被覆鋼線(3)とウレタン系樹脂管壁(5)とがウレタン系接着剤(6)によって接着され、該管壁形成ウレタン系樹脂帯材(5a)よりも硬度の高いウレタン系樹脂製の小幅帯(4a)が、管壁(5)における前記被覆鋼線(3)の外周面上を二重に覆うように螺旋巻きされ、該小幅帯(4a)が前記管壁(5)と融着一体化またはウレタン系接着剤(6)を介して接着一体化されている可撓性ホースであって、 管壁(5)を形成するウレタン系樹脂帯材(5a)がJIS A形硬さ試験による硬度70度の樹脂、小幅帯(4a)がJIS A形硬さ試験による硬度90度の樹脂で形成されている、 可撓性ホース。」 ウ 本件発明1と甲2発明との対比、判断 (ア) 本件発明1と甲2発明との対比 本件発明1と甲2発明とを対比すると、両者は少なくとも次の点において相違する。 [相違点2-1] 可撓性ホースの素材について、本件発明1は、可撓性ホースの凹部は軟質塩化ビニル樹脂であって、可撓性ホースの凸部は軟質塩化ビニル樹脂又は高摺動ポリエチレン樹脂であるのに対して、甲2発明は、可撓性ホースの管壁(5)を形成する帯材(5a)及び小幅帯(4a)はウレタン系樹脂である点。 (イ) 上記相違点2-1についての検討 甲2発明が解決しようとする課題は、「PVC樹脂素材の使用を全面的に排し、非PVC樹脂素材を使用し、焼却してもダイオキシンの発生源にはならないホースでありながら、保形性に優れ、ホース全体の重量が軽量で、取り扱いが容易で長時間の使用にも疲労感を最小限にとどめることができる利点を有し、なおかつ、ベタツキ感が少なく耐摩耗性をも備えているホースを提供しようとするものである」(上記記載事項ア-3)。 一方、本件発明1は、少なくとも、「可撓性ホース」の「凹部」に「軟質塩化ビニル樹脂」を用いることを発明特定事項とするものである。 そうすると、甲2発明において、可撓性ホースの一部に軟質塩化ビニル樹脂を用いることは、甲2発明の上記課題解決に反することであるから、甲2に接した当業者にとってそのようにする動機づけはないし、発明の課題を解決しないものとなる軟質塩化ビニル樹脂を用いることには、阻害要因があるといえる。 よって、甲2発明において上記相違点2-1に係る本件発明1の構成を得ることは、当業者が容易に想到し得ることではない。 そして、本件発明1は、その構成により、「可撓性ホースは、可撓性ホースと床面等との摩擦が軽減される。このため、可撓性ホースの滑り性が向上する」(【0009】)という効果を奏するものである。 よって、本件発明1は、甲2発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではない。 エ 本件発明2及び3と甲2発明との対比、判断 上記第3に示したとおり、本件発明2及び3は、本件発明1の発明特定事項をすべて含むものであるから、 本件発明2及び3は、甲2発明とは、少なくとも本件発明1と甲2発明との上記相違点2-1と同じ点において相違するといえる。 そして、上記相違点2-1については、上記ウ(イ)に示したとおりであるから、本件発明2及び3についても、甲2発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものということはできない。 オ 小括 よって、本件発明1?3は、甲2発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではないから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないとはいえない。 (1-3) 理由1のまとめ 以上のとおり、本件発明1?3に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものではないから、同法第113条第2号に該当せず、取り消されるべきものとすることはできない。 (2) 理由2について 上記第2に示したとおり本件訂正が認められることにより、本件発明1?3は、「潤滑剤」が「炭酸カルシウム」であることを含まないものとされた。 そして、上記理由2は、本件発明1?3の「潤滑剤」が「炭酸カルシウム」であることを前提とした理由であるところ、本件訂正によりその前提がなくなったため、理由のないものとなった。 よって、理由2によって、本件特許の請求項1?3の記載は、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていないとすることはできず、その特許は、特許法第113条第4号に該当せず、取り消されるべきものとすることはできない。 第5 むすび 以上のとおりであるから、取消理由通知に記載した取消理由によっては、本件発明1?3に係る特許を取り消すことはできない。 また、他に本件発明1?3に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。 よって、結論のとおり決定する。 |
発明の名称 |
(54)【発明の名称】 可撓性ホース、及び電気掃除機 【技術分野】 【0001】 本発明は、合成樹脂製の可撓性ホース、及び電気掃除機に関する。 【背景技術】 【0002】 可撓性ホースは、それ自体単独で直接使用されたり、様々な物品に組み込まれて使用されたりしている。可撓性ホースが組み込まれた物品の例としては、電気掃除機が挙げられる。 電気掃除機は、一般に、(1)電動送風部と集塵部と移動用の車輪を有する本体と、(2)吸口体と、(3)本体及び吸口体を連結する可撓性ホースを含むホース体と、から構成される。このような本体と吸口体とが分離した電気掃除機においては、電気掃除機の扱いやすさや性能向上という観点から可撓性ホースの構造、材料及び材質も重要な要素となっている。 【0003】 なかでも、電気掃除機の性能のひとつに挙げられる吸引力の向上に重要な役割を果たすホース体に組み込まれるホースとして、特許文献1に示される、長さ方向の圧縮力や曲げ圧力に抗して、管内方向に均等に折れ曲がり、歪み変形を生じることのないホースが知られている。 【先行技術文献】 【特許文献】 【0004】 【特許文献1】特許第4022808号公報 【発明の概要】 【発明が解決しようとする課題】 【0005】 ところで、本体と吸口体とが分離した可撓性ホースで接続された電気掃除機の使用の際は、本体を床面上に置くと共に、吸口体を装着した延長管や可撓性ホース体等を動かして床面上の塵や埃等を吸引することが多い。 しかし、特許文献1に示されるホースは、吸引力の増加により電気掃除機の性能の向上を可能とするものの、表面形状や構造等についてなんら考慮されていない。このため、特許文献1に示されるホースを電気掃除機に使用した場合には、吸口体と本体との距離が離れるに従い、ホースと床面、家具や柱との接触部位及び接触面積が増加して、電気掃除機の操作に必要な力が増加していた。このため、電気掃除機及び吸口体を掃除者の意図に沿って自由に扱うことが難しかった。 【0006】 本発明は、このような点に鑑みて、すべり性に優れた可撓性ホース及び電気掃除機等の操作性に優れた可撓性ホース、並びに、この電気掃除機を提供することを課題とする。 【課題を解決するための手段】 【0007】 即ち、本発明に係る可撓性ホースは環状又は螺旋状の凹部及び凸部を外表面上に備え、前記凸部の内周側に金属又は硬質合成樹脂の線材を内包して有し、前記凹部は成形後のショア硬度が50?70度の軟質塩化ビニル樹脂であって、前記凸部は成形後のショア硬度が80?100度の軟質塩化ビニル樹脂又は高揺動ポリエチレン樹脂であって、該凸部の頂部表面に潤滑剤を有し、該潤滑剤はシリコーンであり、前記凸部の頂部は、前記凸部の最大幅の20?80%の範囲であることを特徴とする。 又、本発明に係る可撓性ホースは前記凹部の表面の摩擦係数は0.9?0.4であって、前記凸部の頂部の摩擦係数は0.3?0.1であることが好ましい。 【0008】 そして、本発明に係る電気掃除機は掃除機本体と、ホース体と、を備え、前記ホース体は、一端に吸口体又は延長管と接続される操作部と、他端に前記掃除機本体に接続される接続部と、前記操作部と前記接続部とを連結する可撓性ホースと、を備え、前記可撓性ホースは、環状又は螺旋状の凹部及び凸部を外表面に備え、前記凸部の内周側に金属又は硬質合成樹脂の線材を内包して有し、前記凹部は成形後のショア硬度が50?70度の軟質塩化ビニル樹脂であって、前記凸部は成形後のショア硬度が80?100度の軟質塩化ビニル樹脂又は高摺動ポリエチレン樹脂であって、該凸部の頂部表面に潤滑剤を有し、該潤滑剤はシリコーンであり、前記凸部の頂部は、前記凸部の最大幅の20?80%の範囲であることを特徴とする。 【0009】 これら構成によれば、可撓性ホースは、可撓性ホースと床面等との摩擦が軽減される。このため、可撓性ホースのすべり性が向上する。 又、本発明に係る電気掃除機は、すべり性が向上した可撓性ホースを備えることを特徴とする。このため、操作者が電気掃除機を操作しやすくなる。 【発明の効果】 【0010】 本発明は、すべり性に優れた可撓性ホース及び電気掃除機等の操作性に優れた可撓性ホース、並びに、この可撓性ホースを有する電気掃除機を提供する。 【図面の簡単な説明】 【0011】 【図1】本発明に係る可撓性ホースの模式図である。 【図2】本発明に係る可撓性ホースの拡大断面図である。 【図3】本発明に係る可撓性ホースの(a)側面図、及び、(b)断面図である。 【図4】本発明に係る可撓性ホースの変形例の(a)側面図、及び、(b)断面図である。 【図5A】本発明に係る可撓性ホースを使用した電気掃除機の斜視図である。 【図5B】本発明に係る可撓性ホースを使用した電気掃除機のホース体の側面図である。 【図6】本発明に係る可撓性ホースを使用した電気掃除機の使用状態の模式図(その1)である。 【図7】本発明に係る可撓性ホースを使用した電気掃除機の使用状態の模式図(その2)である。 【図8】本発明に係る可撓性ホースを使用した電気掃除機の使用状態の模式図(その3)である。 【図9】本発明に係る可撓性ホースを使用した電気掃除機の使用状態の模式図(その4)である。 【図10】本発明に係る可撓性ホースを使用した電気掃除機の使用状態の模式図(その5)である。 【発明を実施するための形態】 【0012】 次に、本発明に係る可撓性ホースHについて、図面を適宜参照して詳細に説明する。 【0013】 [第1実施形態] 図1において、本実施形態に係る可撓性ホースHの模式図を示す。図1に示す様に、本実施形態に係る可撓性ホースHは、凹部1と凸部2が一体成形された管状の合成樹脂製ホースである。この可撓性ホースHは、凹部1と凸部2とを交互に連続して備えると共に、折り曲げ自在である。そして、この可撓性ホースHは、所定の合成樹脂を押出成形することにより作製される。更に、凹部1及び凸部2は互いに異なる材料若しくは材質の合成樹脂により作製されてもよい。 以下、各構成要素について説明する。 【0014】 (合成樹脂) 本実施形態において、凹部1に用いられる合成樹脂としては、例えば、オレフィン系樹脂(ポリプロピレン樹脂、ポリエチレン樹脂等)、ウレタン系樹脂、軟質塩化ビニル樹脂、熱可塑性エラストマ(オレフィン系熱可塑性エラストマ、スチレン系熱可塑性エラストマ、変性スチレン系熱可塑性エラストマ、熱可塑性ウレタン系エラストマ(TPU)、水素添加スチレンブタジエンラバー(HSBR)等)、及び、これらの混合物などの軟質系樹脂が挙げられる。又、前記混合物の例としては、ポリエチレン樹脂とエチレン酢酸ビニル樹脂(EVA樹脂)とからなるコポリマー樹脂が挙げられる。 【0015】 その中でも、成形後のショア硬度(HS硬度)(JIS K 6253)は50?70度の合成樹脂が好ましい。これにより、可撓性ホースHの可撓性を適度に保持することが可能となる。 なお、本実施形態において、凹部1に用いられる合成樹脂は、前記合成樹脂に限らず、押出成形が可能である合成樹脂であれば任意のものが使用可能である。 【0016】 本実施形態において、凸部2を構成するのに用いられる合成樹脂としては、例えば、オレフィン系樹脂(ポリプロピレン樹脂、ポリエチレン樹脂等)、ウレタン系樹脂、軟質塩化ビニル樹脂、熱可塑性エラストマ(オレフィン系熱可塑性エラストマ、スチレン系熱可塑性エラストマ、変性スチレン系熱可塑性エラストマ、ウレタン系熱可塑性エラストマ(TPU)、水素添加スチレンブタジエンラバー(HSBR)等)、及び、これらの混合物などの軟質系樹脂が挙げられる。又、前記混合物の例としては、ポリエチレン樹脂とエチレン酢酸ビニル樹脂(EVA樹脂)とからなるコポリマー樹脂が挙げられる。 【0017】 その中でも、本実施形態において凸部2を構成する合成樹脂は、凹部1を構成する合成樹脂と融着可能な合成樹脂が好ましい。これにより、凹部1及び凸部2を構成する合成樹脂を融着することが可能となり、製造工程を簡略化できる。融着可能な合成樹脂の好ましい組み合わせとしては、例えば、軟質塩化ビニル樹脂同士が挙げられる。 【0018】 又、これら合成樹脂の中でも可撓性ホースHに成形後の合成樹脂のショア硬度(HS硬度)(JIS K 6253)が80?100度の合成樹脂を使用して凸部2を構成することがより好ましい。これにより、可撓性ホースHの接触面積を減少できるため、可撓性ホースHのすべり性が向上する。 【0019】 (潤滑剤) 本実施形態において用いられる潤滑剤は、前記合成樹脂に混合可能である限り任意のものが使用可能である。例えば、炭酸カルシウムやシリコーンが挙げられる。 【0020】 又、本実施形態において、凸部2の頂部3を構成する合成樹脂に混合可能な潤滑剤としては、例えば、炭酸カルシウムやシリコーンが挙げられる。 【0021】 凹部1及び凸部2の原材料である合成樹脂に潤滑剤を含有させることにより、成形された可撓性ホースHの表面に潤滑剤が浸出する。この結果、可撓性ホースHのすべり性が向上する。同時に、前記合成樹脂に潤滑剤を含有させることにより、成形された可撓性ホースHの表面が粗くなり接触面積が減少する。接触面積が減少した結果、接触抵抗が減少して可撓性ホースHのすべり性を向上させることが可能となる。 【0022】 又、本実施形態において、可撓性ホースHの使用時に床面、壁面、家具の表面等との接触可能性が高い凸部2の頂部3に潤滑剤を含有させることが好ましい。これにより、頂部3に効率的に潤滑剤を浸出させること、及び、頂部3の表面を粗くすることが可能となる。 【0023】 そして、本実施形態において、凸部2の頂部3を構成する合成樹脂の硬度を凹部1を構成する軟質性合成樹脂の硬度よりも大きくすると共に、凹部1と凸部2とを交互に配置することが好ましい。これにより、可撓性ホースHに要求される可撓性と可撓性ホースHを使用する際に要求されるすべり性の両方を効率的に備えることが可能となる。 【0024】 この例として、凹部1を構成する合成樹脂は、ショア硬度(HS硬度)(JIS K 6253)が50?70度の軟質塩化ビニル樹脂とし、凸部2の頂部3を構成する合成樹脂は、ショア硬度(HS硬度)が80?100度の軟質塩化ビニル樹脂とした組み合わせが挙げられる。 【0025】 特に、本実施形態において、凸部2の頂部3を構成する合成樹脂の硬度を凹部1を構成する合成樹脂の硬度よりも大きくすると共に、凸部2の頂部3を構成する合成樹脂に潤滑剤を含有させて、凹部1と凸部2とを交互に配置することが好ましい。これにより、可撓性ホースHに要求される可撓性と可撓性ホースHを使用する際に要求されるすべり性の両方を容易に兼ね備えることが可能となる。更に、凸部2の頂部3の硬度を大きくすることで、可撓性ホースHの耐摩耗性も向上する。そして、これら合成樹脂の使用部位を限定して使用量を抑えることにより製造コストの削減が可能となる。 【0026】 この例として、凹部1を構成する合成樹脂は、ショア硬度(HS硬度)(JIS K 6253)が50?70度の軟質塩化ビニル樹脂とし、凸部2の頂部3を構成する合成樹脂は、潤滑剤として炭酸カルシウムやシリコーンを含有させたショア硬度(HS硬度)が80?100度の高摺動ポリエチレン樹脂とした組み合わせが挙げられる。 この組み合わせは、撓み性を有しかつ安価である軟質塩化ビニル樹脂の特徴、並びに、すべり性を有するが高価である高摺動ポリエチレン樹脂の特徴の双方の長所を生かしつつ、更に製造コストの削減を図ったものである。 【0027】 (製造方法) 次に、本実施形態に係る可撓性ホースHの製造方法について説明する。可撓性ホースHは公知の押出成形法、例えば、いわゆるスパイラル成形法により製造することができる。 即ち、ホース(管状体)壁の凹部1を構成する帯状体等の所定形状に形成された合成樹脂を、断面形状が略板状形状で押出機から半溶融状態で押し出して帯状体とする。又、ホース(管状体)壁の外周面の凸部2を構成する小帯状体等の所定形状に形成された合成樹脂を、断面形状が略板状形状で押出機から半溶融状態で押し出して小帯状体とする。 【0028】 そして、押し出された帯状体と小帯状体を公知の成形軸に捲回してホース(管状体)壁とする。即ち、捲回された状態において互いに隣接する側縁部が互いに重ね合わせられる様に、小帯状体が添着した帯状体を同心軸上に捲回、若しくは、螺旋状に捲回する。更に、重ね合わせた部分を融着して、若しくは、接着材(好ましくは熱可塑性接着材)で接着して一体化する。最後に、ホース(管状体)を冷却することにより、帯状体の断面形状を固定すると共に帯状体側縁部の接着処理を完了させて、凹部及び凸部が連続する形状に形成されたホース(管状体)壁として、ホースが不定長に製造される。 合成樹脂は螺旋状に捲回することで、製造速度(生産性)が向上して、製造コストの低下が可能となる。このため、合成樹脂は螺旋状に捲回することが好ましい。又、前記帯状体の幅、前記小帯状体の幅、及び、前記帯状体に添着させる前記小帯状体の数は適宜選択可能である。更に、前記小帯状体の一部分である幅方向の略中央部等の樹脂の材料若しくは材質のいずれか一方若しくは両方を変更してもよい。 【0029】 本実施形態に係る可撓性ホースHの内周面に電線11や硬鋼線12等を備える場合は、電線11や硬鋼線12等を公知の成形軸に捲回した後所定の間隔を保持しつつ、電線11や硬鋼線12等の上に凸部2が配置されるように合成樹脂を前記公知の成形軸に捲回してホース(管状体)壁を構成するのが好ましい。又、合成樹脂は前記公知の成形軸に螺旋状に捲回することが好ましい。この際、電線11等の上面に接着剤を塗布して前記合成樹脂に接着してもよい。 これにより、可撓性ホースHの内周面を平滑にすることが可能となる。又、凸部2、電線11及び硬鋼線12等の配置を柔軟に調整することが可能となる。 【0030】 なお、本実施形態に係る可撓性ホースH(凹部及び凸部のあるホース、ベローズホース)の製造方法について、帯状の合成樹脂部材を螺旋状に捲回する方法を例示したが、この方法の他、凹部及び凸部のないホースに対して、押し型を押し付けることで、事後的にホースに環状又は螺旋状の凹部及び凸部を形成することも可能である。 【0031】 (構造) 更に、本実施形態に係る可撓性ホースHの構造として、図2において、図1の一点鎖線に囲まれた部分の可撓性ホースHの拡大断面図を示す。又、図3において、本実施形態に係る可撓性ホースHの(a)側面図、及び、(b)断面図を示す。図4において、本実施形態に係る可撓性ホースHの変形例の(a)側面図、及び、(b)断面図を示す。 【0032】 前記合成樹脂を用いて前記製造方法により製造される、本実施形態に係る可撓性ホースHは、図1ないし図4に示す様に、帯状体等の所定形状の合成樹脂を成形した凹部1とこの帯状体等の所定形状の合成樹脂に添着する小帯状体等の所定形状の合成樹脂を成形した凸部2からなる。 凸部2は、潤滑剤を含有した合成樹脂からなることが好ましい。これにより、可撓性ホースHのすべり性を向上させることが可能となる。又、図2に示す様に、凸部2の頂部3は潤滑剤を含有した合成樹脂からなることがより好ましい。ここで凸部2の頂部3とは、本実施形態では例えば、可撓性ホースHの最外径部を中心とした凸部2の最大幅の20?80%の範囲を指す。これにより、潤滑剤を含有した合成樹脂の使用量を減少させつつ、可撓性ホースHのすべり性を向上させることが可能となる。 凸部2の配置は図3に示す様に螺旋状でもよく、又、図4に示す様に可撓性ホースHの中心軸(不図示)と略同心の環状であってもよい。 【0033】 凸部2の幅及び凸部2相互の間隔は可撓性ホースHに必要とされる可撓性、強度、及び、内包する電線の本数等に合わせて適宜選択することが可能である。凸部2の可撓性ホースHの中心軸に対する角度も必要とされる可撓性及び強度に合わせて適宜選択することが可能である。更に、可撓性ホースHの単位長さあたりの凸部2の本数も可撓性ホースHの成形速度及び内包する電線の本数に合わせて適宜選択することが可能である。 【0034】 更に、可撓性ホースHの内周面には硬鋼線12、硬鋼線12を被覆材13で被覆した電線11、銅撚り線、若しくは、線状の硬質合成樹脂を1つ以上存在していてもよく、その位置は図2に示す様に螺旋状の凸部2の内周面側が好ましい。電線11等を凸部2の内周面側に内包することによって、可撓性ホースHの内周面を平滑にすることが可能となる。その結果、例えば、可撓性ホースHを電気掃除機の吸引ホースに使用した場合は吸気抵抗が小さくなり、真空掃除機の吸引ホースに使用した場合は、吸気抵抗及び吸水抵抗が小さくなる。この様に、可撓性ホースHはその使用された物品の性能向上に寄与する。 【0035】 可撓性ホースHの内周面に硬鋼線12等を備えることで、可撓性ホースHがつぶれ難くなる。硬鋼線12に替えてステンレス鋼線等その他の鋼硬質の金属線材を使用してもよい。又、硬鋼線12の表面に銅鍍金或いは青銅鍍金を施してもよい。これにより、硬鋼線12の通電性能の向上を図ることができると共に、端子等の半田付けが容易になる。 【0036】 そして、硬鋼線12の替わりに電線11を備えてもよい。図5Aに示すように、電線11を備える可撓性ホースHが電気掃除機Cのホース体22に使用されることにより、可撓性ホースHがつぶれ難くなる。同時に、電気掃除機本体21と操作部23の間に制御用電気回路及び駆動用電気回路を構成することが可能となる。これにより、電気掃除機Cの電源操作等の制御が使用者の手元の操作部23に備えるスイッチにより可能となる。 【0037】 電線11の本数は、例えば、制御用回路のみの場合は5Vとグランドの2本、制御用回路及び駆動用回路両方の場合は100Vないし240V、5Vとグランド1本若しくは2本の合計3本若しくは4本とすることが考えられる。更に、別の駆動用回路を追加して合計4本ないし6本とすることも考えられるが、これら本数に限られるものではない。又、電線11は、これら電圧に限られること無く適宜必要な電圧及び電流に耐えられる電線を使用することが可能である。 【0038】 (効果) 本実施形態に係る可撓性ホースHの効果を発揮する使用例として、図5Aに本実施形態に係る可撓性ホースHを備えた電気掃除機Cを、図5Bに本実施形態に係る可撓性ホースHを備えたホース体22を示す。又、本実施形態に係る可撓性ホースHを使用した電気掃除機Cの使用状態の模式図を図6ないし図10に示す。なお、電気掃除機Cの全体は図5Aを参照する。 【0039】 本実施形態に係る可撓性ホースHは、図5Aに示す様に電気掃除機Cの吸引ホースに使用することができる。具体的には、可撓性ホースHは、図5Bに示す様に、操作部23を一端に備え、接続部24を他端に備えるホース体22の主要部分である吸引ホースに使用可能である。接続部24及び操作部23には制御用回路及び駆動用回路を構成する電線11に繋がる接続端子を備えていてもよい。なお、操作部23は吸口体31若しくは延長管25に接続される。接続部24は電気掃除機本体21に接続される。 【0040】 この電気掃除機Cは、すべり性を向上させて接触や摩擦による抵抗を軽減した本実施形態に係る可撓性ホースHを備えている。このため、図6に示す様に、家具若しくは柱Pの周囲を電気掃除機C(図5A参照、以下同様)で掃除してホース体22(図5A参照、以下同様)がこれらと接触する場合であっても、可撓性ホースHが備えるすべり性により従来よりも接触抵抗は少ない。このため、電気掃除機Cを軽快に扱うことが可能となる。 【0041】 併せて、図3に示す様に、可撓性ホースHの凸部2が螺旋状に形成されている場合は、図6に示す様に、電気掃除機Cが家具や柱Pの角部C1により引っかかり難くなる。 【0042】 又、図7に示す様に、複数の屈曲部及び管体から構成される吸口と接続部を略同一方向に向けることが可能な吸口体33を操作部23の先に接続して家具の天板を掃除する場合には、ホース体22の可撓性ホースHが天板の角部C2に接触しても、可撓性ホースHが備えるすべり性により可撓性ホースHの接触抵抗は少ない。このため、吸口体33及び電気掃除機Cを軽快に扱うことが可能となる。 【0043】 更に、図8に示す様に、回転軸に沿って回転するブラシBを有する吸口体34を操作部23の先に接続して机の上等を掃除する場合には、ホース体22の可撓性ホースHが天板の角部C3に接触しても、可撓性ホースHが備えるすべり性により可撓性ホースHの接触抵抗は少ない。このため、吸口体34及び電気掃除機Cを軽快に扱うことが可能となる。 【0044】 同様に、図9に示す様に、吸口の形状が細長い長方形等の隙間用吸口体35を操作部23の先に接続して机の天板等を掃除する場合には、ホース体22の可撓性ホースHが天板の角部C3に接触しても、可撓性ホースHが備えるすべり性により可撓性ホースHの接触抵抗は少ない。このため、吸口体35及び電気掃除機Cを軽快に扱うことが可能となる。 【0045】 そして、図10に示す様に、部屋の四隅や、床若しくは絨毯Fと家具の境目などの床面等を掃除する場合は、ホース体22を床面や絨毯上に這わせる事になる。この様な電気掃除機Cのホース体22が床面、絨毯F、及び、壁面等と接触する場合であっても、可撓性ホースHは従来のホースよりも接触面積が小さくすべり性が向上している。このため、ホース体22に接続された吸口体等を含めた電気掃除機Cの取り扱いに必要な力が軽減して、軽快かつ快適な電気掃除機Cの操作が可能となる。 【0046】 なお、本実施形態に係る可撓性ホースHは、電気掃除機のホース体22としての使用に限られず、洗濯機の排水用ホース、庭等の散水用ホース、各種容器のノズル、配管及びダクトの折れ曲がり部等可撓性を必要とするものに使用が可能である。更に、本実施形態に係る可撓性ホースHは、同心円状に二重三重等に重ね合わせた構成として、可撓性を必要とするものに使用することも可能である。 【0047】 [第2実施形態] 第2実施形態に係る可撓性ホースHは第1実施形態に係る可撓性ホースHに使用する合成樹脂の種類を変更したものである。以下、この点を中心に説明する。 なお、前記した第1実施形態と同一の要素には同一の符号を付して重複する説明は省略する。 【0048】 (合成樹脂) 本実施形態において、凹部1に用いられる合成樹脂としては、例えば、オレフィン系樹脂(ポリプロピレン樹脂、ポリエチレン樹脂等)、ウレタン系樹脂、軟質塩化ビニル樹脂、熱可塑性エラストマ(オレフィン系熱可塑性エラストマ、スチレン系熱可塑性エラストマ、変性スチレン系熱可塑性エラストマ、ウレタン系熱可塑性エラストマ(TPU)、水素添加スチレンブタジエンラバー(HSBR)等)、及び、これらの混合物などの軟質系樹脂が挙げられる。又、前記混合物の例としては、ポリエチレン樹脂とエチレン酢酸ビニル樹脂(EVA樹脂)とからなるコポリマー樹脂が挙げられる。 【0049】 これらの中でも、可撓性ホースHを単一種類の合成樹脂で製造する場合には、凹部1に用いられる合成樹脂は、成形後の摩擦係数(JIS K 7125)は小さい合成樹脂が好ましい。例えば、摩擦係数μがμ=0.3?0.1の合成樹脂が好ましい。これにより、可撓性ホースHのすべり性を向上させることが可能となる。 なお、本実施形態において、凹部1に用いられる合成樹脂は、前記合成樹脂に限らず、押出成形が可能である合成樹脂であれば任意のものが使用可能である。 【0050】 本実施形態において、凸部2を構成するのに用いられる合成樹脂としては、例えば、オレフィン系樹脂(ポリプロピレン樹脂、ポリエチレン樹脂等)、ウレタン系樹脂、軟質塩化ビニル樹脂、熱可塑性エラストマ(オレフィン系熱可塑性エラストマ、スチレン系熱可塑性エラストマ、変性スチレン系熱可塑性エラストマ、ウレタン系熱可塑性エラストマ(TPU)、水素添加スチレンブタジエンラバー(HSBR)等)、及び、これらの混合物などの軟質系樹脂が挙げられる。又、前記混合物の例としては、ポリエチレン樹脂とエチレン酢酸ビニル樹脂(EVA樹脂)とからなるコポリマー樹脂が挙げられる。 【0051】 これらの中でも、凸部2を構成する合成樹脂は、凹部1を構成する合成樹脂と融着可能な合成樹脂が好ましい。これにより、凹部1及び凸部2を構成する合成樹脂を融着することが可能となり、製造工程を簡略化できる。好ましい合成樹脂の組み合わせとしては、例えば、軟質塩化ビニル樹脂同士が挙げられる。 【0052】 又、この凸部2を構成するために用いられる合成樹脂の摩擦係数は、凹部1を構成する合成樹脂の摩擦係数と略同一でもよいが、凹部1を構成する合成樹脂の摩擦係数と異なるものであって、凹部1を構成する合成樹脂の成形後の表面よりもその成形後の摩擦係数が小さい(表面が粗い)ものが好ましい。これにより、可撓性ホースHの可撓性を維持しつつ、適切な合成樹脂を用いて可撓性ホースHのすべり性をより向上させることが可能となる。 【0053】 更に、本実施形態において、成形後の凸部2の頂部3の表面が、その他の表面部分と比較して、より粗いことがより好ましい。これにより、可撓性ホースHの可撓性及びすべり性を維持しつつ、表面が粗くなる合成樹脂の使用範囲を限定して、この合成樹脂の使用量を削減することにより、製造コストを減少させることが可能となる。本実施形態において、凸部2の頂部3とは、本実施形態では例えば、可撓性ホースHの最外径部を中心とした凸部2の最大幅の20?80%の範囲を指す。 【0054】 凹部1を構成する合成樹脂と凸部2の頂部3を構成する合成樹脂とのより好ましい合成樹脂の組み合わせの例として、次の組み合わせが挙げられる。 例えば、凹部1を構成する合成樹脂は、ショア硬度(HS硬度)(JIS K 6253)が50?70度の軟質塩化ビニル樹脂とし、凸部2の頂部3を構成する合成樹脂は、ショア硬度(HS硬度)が80?100度の軟質塩化ビニル樹脂とした組み合わせである。この場合の摩擦係数は、例えば、凹部1の摩擦係数μはμ=0.9?0.4であり、凸部2の頂部3の摩擦係数μはμ=0.3?0.1である。 【0055】 本実施形態において、凹部1を構成する軟質性合成樹脂と凸部2を構成する合成樹脂の材料若しくは材質のいずれか一方又は両方が同一であっても、凹部1と凸部2とを交互に配置することにより、可撓性ホースHに要求される可撓性を備えることが可能である。しかし、凹部1を軟質性合成樹脂で構成すると共に、凸部2を成形後の表面が粗い合成樹脂で構成して、凹部1と凸部2とを交互に配置することが好ましい。これにより、可撓性ホースHに要求される可撓性と可撓性ホースHを使用する際に要求されるすべり性の両方を備えることが可能となる。 【0056】 特に、凹部1を軟質性合成樹脂で構成すると共に、凸部2の頂部3を凹部1とは材料及び材質の異なる成形後の表面が粗い合成樹脂で構成して、凹部1と凸部2とを交互に配置することが好ましい。これにより、可撓性ホースHに要求される可撓性と可撓性ホースHを使用する際に要求されるすべり性の両方を適切かつ容易に兼ね備えることが可能となる。 【0057】 この例として、凹部1を構成する合成樹脂は、ショア硬度(HS硬度)(JIS K 6253)が50?70度の軟質塩化ビニル樹脂とし、凸部2の頂部3を構成する合成樹脂は、ショア硬度(HS硬度)が80?100度の高摺動ポリエチレン樹脂とした組み合わせが挙げられる。この場合の摩擦係数は、例えば、凹部1の摩擦係数μはμ=0.9?0.4であり、凸部2の摩擦係数μはμ=0.3?0.1である。 この組み合わせは、軟質塩化ビニル樹脂の特徴である撓み性を有しかつ安価である点、並びに、高摺動ポリエチレン樹脂の特徴であるすべり性を有するが高価である点の双方を生かしつつ、更に製造コストの削減を図ったものである。 【0058】 なお、本実施形態の凸部2を構成するのに用いられる合成樹脂は、押出成形が可能である合成樹脂であれば、前記合成樹脂に限られず任意のものが使用できる。 【0059】 (効果) 本実施形態に係る可撓性ホースHは、摩擦抵抗を軽減してすべり性を向上させている。このため、例えば図5A及び図5Bに示すように、本実施形態に係る可撓性ホースHが電気掃除機Cのホース体22に利用された場合に電気掃除機Cが操作しやすくなる、という効果が得られる。即ち、図6ないし図10に示すように、本実施形態に係る可撓性ホースHからなる電気掃除機Cのホース体22が床面、絨毯F、柱Pの角部C1、及び、壁面等と接触する場合であっても、ホース体22に接続された吸口体等を含めた電気掃除機Cの取り扱いに必要な力が軽減して電気掃除機Cを操作しやすくなる。 【符号の説明】 【0060】 1 凹部 2 凸部 3 頂部 11 電線 12 硬鋼線 13 被覆 21 電気掃除機本体 22 ホース体 23 操作部 24 接続部 25 延長管 31 吸口体 32 吸口体 33 吸口体 34 吸口体 35 吸口体 C 電気掃除機 H 可撓性ホース P 柱 C1 角部 C2 角部 C3 角部 (57)【特許請求の範囲】 【請求項1】 環状又は螺旋状の凹部及び凸部を外表面上に備え、前記凸部の内周側に金属又は硬質合成樹脂の線材を内包して有し、前記凹部は成形後のショア硬度が50?70度の軟質塩化ビニル樹脂であって、前記凸部は成形後のショア硬度が80?100度の軟質塩化ビニル樹脂又は高摺動ポリエチレン樹脂であって、該凸部の頂部表面に潤滑剤を有し、 該潤滑剤はシリコーンであり、 前記凸部の頂部は、前記凸部の最大幅の20?80%の範囲であることを特徴とする可撓性ホース。 【請求項2】 前記凹部の表面の摩擦係数は0.9?0.4であって、前記凸部の頂部の摩擦係数は0.3?0.1であることを特徴とする請求項1に記載の可撓性ホース。 【請求項3】 掃除機本体と、ホース体と、を備え、 前記ホース体は、一端に吸口体又は延長管と接続される操作部と、他端に前記掃除機本体に接続される接続部と、前記操作部と前記接続部とを連結する可撓性ホースと、を備え、 前記可撓性ホースは、環状又は螺旋状の凹部及び凸部を外表面に備え、前記凸部の内周側に金属又は硬質合成樹脂の線材を内包して有し、前記凹部は成形後のショア硬度が50?70度の軟質塩化ビニル樹脂であって、前記凸部は成形後のショア硬度が80?100度の軟質塩化ビニル樹脂又は高摺動ポリエチレン樹脂であって、該凸部の頂部表面に潤滑剤を有し、 該潤滑剤はシリコーンであり、 前記凸部の頂部は、前記凸部の最大幅の20?80%の範囲であることを特徴とする電気掃除機。 |
訂正の要旨 |
審決(決定)の【理由】欄参照。 |
異議決定日 | 2017-09-25 |
出願番号 | 特願2012-121712(P2012-121712) |
審決分類 |
P
1
651・
121-
YAA
(A47L)
P 1 651・ 537- YAA (A47L) |
最終処分 | 維持 |
前審関与審査官 | 青木 良憲 |
特許庁審判長 |
田村 嘉章 |
特許庁審判官 |
井上 哲男 千壽 哲郎 |
登録日 | 2016-09-23 |
登録番号 | 特許第6008583号(P6008583) |
権利者 | 日立アプライアンス株式会社 東拓工業株式会社 |
発明の名称 | 可撓性ホース、及び電気掃除機 |
代理人 | 特許業務法人磯野国際特許商標事務所 |
代理人 | 特許業務法人磯野国際特許商標事務所 |
代理人 | 森本 敏明 |
代理人 | 特許業務法人磯野国際特許商標事務所 |