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審決分類 |
審判 全部申し立て 特36条4項詳細な説明の記載不備 C02F 審判 全部申し立て ただし書き1号特許請求の範囲の減縮 C02F 審判 全部申し立て 1項3号刊行物記載 C02F 審判 全部申し立て ただし書き3号明りょうでない記載の釈明 C02F 審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 C02F 審判 全部申し立て 2項進歩性 C02F |
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管理番号 | 1334373 |
異議申立番号 | 異議2016-700931 |
総通号数 | 216 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許決定公報 |
発行日 | 2017-12-28 |
種別 | 異議の決定 |
異議申立日 | 2016-09-29 |
確定日 | 2017-10-06 |
異議申立件数 | 2 |
訂正明細書 | 有 |
事件の表示 | 特許第5895663号発明「有機性排水の生物処理方法」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 |
結論 | 特許第5895663号の明細書及び特許請求の範囲を、平成29年7月14日付け訂正請求書に添付された訂正明細書及び特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1?6〕について訂正することを認める。 特許第5895663号の請求項1?5に係る特許を維持する。 特許第5895663号の請求項6に係る特許についての申立てを却下する。 |
理由 |
第1 手続の経緯 特許第5895663号の請求項1?6に係る特許についての出願は、平成24年3月30日の出願であって、平成28年3月11日にその特許権の設定登録がされたものであり、その後の経緯は以下のとおりである。 平成28年 9月29日付け:特許異議申立人 矢部 和夫(申立人1)による、請求項1?6(全請求項)に対する特許異議の申立て 同日付け:特許異議申立人 西山 智裕(申立人2)による、請求項1?5に対する特許異議の申立て 同年12月16日付け:取消理由の通知 平成29年 2月16日付け:訂正の請求、意見書の提出 同年 4月 7日付け:申立人1からの意見書の提出 同年 5月11日付け:取消理由の通知(決定の予告) 同年 7月14日付け:訂正の請求、意見書の提出 なお、平成29年7月14日付けの訂正の請求に対し、申立人1、2からの意見書の提出はなかった。 第2 訂正請求について 1.訂正の内容 平成29年7月14日に訂正請求書が提出されたので、特許法第120条の5第7項の規定により、同年2月16日にされた訂正請求は取り下げたものとみなされる。 そして、平成29年7月14日付け訂正請求(以下、「本件訂正請求」という。)による訂正の内容は、下記(1)?(3)のとおりである。 なお、下線部は訂正箇所である。 (1)訂正事項1 特許請求の範囲の請求項1に、「とすることを特徴とする有機性排水の生物処理方法。」と記載されているのを、「とする有機性排水の生物処理方法であって、第一生物処理水のSSの内、有孔板である目開き8μmのポリカーボネートフィルターを通過する微細SSを分散菌由来SSとして測定し、この測定結果に基づいて、第二生物処理槽の分散菌担体負荷が8kg-SS/m^(3)-担体/dを超えないように運転条件を調整することを特徴とする有機性排水の生物処理方法。」に訂正する。 (2)訂正事項2 特許請求の範囲の請求項6を削除する。 (3)訂正事項3 明細書の【0013】に、「とすることを特徴とするものである。」と記載されているのを、「とする有機性排水の生物処理方法であって、第一生物処理水のSSの内、有孔板である目開き8μmのポリカーボネートフィルターを通過する微細SSを分散菌由来SSとして測定し、この測定結果に基づいて、第二生物処理槽の分散菌担体負荷が8kg-SS/m^(3)-担体/dを超えないように運転条件を調整することを特徴とするものである。」に訂正する。 2.訂正の目的の適否、新規事項の有無、特許請求の範囲の拡張・変更の存否、一群の請求項、及び明細書の訂正に関係する請求項について (1)訂正事項1、3について 訂正事項1は、訂正前の本件特許発明における、「有機性排水の生物処理方法」に、「第一生物処理水のSSの内、有孔板である目開き8μmのポリカーボネートフィルターを通過する微細SSを分散菌由来SSとして測定し、この測定結果に基づいて、第二生物処理槽の分散菌担体負荷が8kg-SS/m^(3)-担体/dを超えないように運転条件を調整すること」という工程を直列的に付加するものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書き第1号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。 また、訂正事項3は、上記訂正事項1による訂正に伴い、発明の詳細な説明の記載を整合させるものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書き第3号に規定する明瞭でない記載の釈明を目的とするものである。 そして、上記付加された事項は、本件特許明細書【0024】に記載されていた事項であるから、訂正事項1、3は、新たな技術的事項を導入するものではなく、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。 したがって、訂正事項1、3は、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第5項、第6項に適合するものである。 (2)訂正事項2について 訂正事項2は、訂正前の請求項6を削除するものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書き第1号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とするものであり、また、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第5項、第6項に適合するものである。 (3)一群の請求項について 訂正事項1に係る訂正前の請求項1を、訂正前の請求項2?6は直接又は間接的に引用していたから、訂正前の請求項1?6は、特許法120条の5第4項に規定する一群の請求項であり、訂正事項1、2に係る訂正は、当該一群の請求項ごとに請求をしたものと認められる。 (4)明細書の訂正に関係する請求項について 訂正事項3は、訂正前の請求項1に対応する明細書の記載を訂正するものであり、訂正前の請求項2?6は、訂正前の請求項1を直接又は間接的に引用していたから、訂正事項3と関係する請求項は、訂正前の請求項1?6である。 そして、本件訂正請求は、上記訂正事項3と関係する請求項の全てを請求の対象としているから、特許法第120条の5第9項において準用する同法第126条第4項の規定に適合するものである。 3.訂正の適否についてのむすび 以上のとおり、本件訂正請求による訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書き第1号及び第3号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同条第4項、及び同条第9項において準用する同法第126条第4項から第6項の規定に適合するので、訂正後の請求項〔1?6〕について訂正を認める。 第3 特許異議の申立てについて 1.本件特許発明 上記のとおり訂正が認められるので、本件訂正請求により訂正された訂正請求項1?5に係る発明(以下「本件特許発明1?5」という。)は、訂正特許請求の範囲の請求項1?5に記載された次の事項により特定されるとおりのものと認める。 【請求項1】 好気性の第一生物処理槽に有機性排水を通水して細菌により分散菌を生成し、該第一生物処理槽からの分散菌を含む第一生物処理水を、流動床担体を添加した好気性の第二生物処理槽に導入して微小動物に捕食させる有機性排水の生物処理方法において、 全体のBOD容積負荷を2.0?5kg/m^(3)/dとし、 第一生物処理槽のBOD容積負荷を1kg/m^(3)/d以上として、第一生物処理槽において、有機性排水中の有機成分の70?90%を除去し、 第一生物処理水中の分散菌由来SSの、第二生物処理槽内の担体に対する負荷(以下、分散菌担体負荷という)を8kg-SS/m^(3)-担体/d以下とする有機性排水の生物処理方法であって、第一生物処理水のSSの内、有孔板である目開き8μmのポリカーボネートフィルターを通過する微細SSを分散菌由来SSとして測定し、この測定結果に基づいて、第二生物処理槽の分散菌担体負荷が8kg-SS/m^(3)-担体/dを超えないように運転条件を調整することを特徴とする有機性排水の生物処理方法。 【請求項2】 請求項1において、第一生物処理槽を担体充填率20%以下の流動床とし、第二生物処理槽を担体充填率10%以上の流動床とすることを特徴とする有機性排水の生物処理方法。 【請求項3】 請求項1又は2において、第二生物処理槽処理水を凝集沈殿、凝集加圧浮上分離、及び膜分離の少なくとも1種よりなる固液分離手段により汚泥と処理水とに固液分離することを特徴とする有機性排水の生物処理方法。 【請求項4】 請求項1ないし3のいずれか1項において、第二生物処理槽のpHを6?7とすることを特徴とする有機性排水の生物処理方法。 【請求項5】 請求項1ないし4のいずれか1項において、第二生物処理槽に原水の一部を添加することを特徴とする有機性排水の生物処理方法。 【請求項6】(削除) 2.申立理由の概要 本件特許に対しては、特許異議申立人 矢部 和夫(申立人1)と、特許異議申立人 西山 智裕(申立人2)の両名から特許異議の申立てがなされているので、申立人1の特許異議申立書における甲各号証を「甲第1-○号証」、申立人2の特許異議申立書における甲各号証を「甲第2-○号証」と表記する。 そして、申立人1は、下記(1)?(6)の理由を申し立てた。 (1)訂正前の請求項1?5に係る本件発明は、甲第1-1号証に記載された発明であるから、訂正前の請求項1?5に係る本件特許は、特許法第29条第1項第3号の規定により特許を受けることができないものである。 (2)訂正前の請求項1?5に係る本件発明は、甲第1-1号証に記載された発明と、甲第1-1号証?甲第1-5号証に記載された技術事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、訂正前の請求項1?5に係る本件特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してなされたものである。 (3)訂正前の請求項6に係る本件発明は、甲第1-1号証に記載された発明と、甲第1-1号証に記載された技術事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、訂正前の請求項6に係る本件特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してなされたものである。 (4)本件特許の発明の詳細な説明は、訂正前の請求項1に係る本件発明を当業者が実施できるように記載されていないから、特許法第36条第4項第1号の規定を満足しないものである。 (5)訂正前の請求項1に係る本件発明における、「第一生物処理槽のBOD容積負荷を1kg/m^(3)/d以上」とすることは、本件特許の発明の詳細な説明によりサポートされているとはいえないから、特許法第36条第6項第1号の規定を満足しないものである。 (6)訂正前の請求項1に係る本件発明の、「全体のBOD容積負荷」、「有機成分の70?90%」、及び「第一生物処理水中の分散菌由来のSSの、第二生物処理槽内の担体に対する負荷(・・・)を8kg-SS/m^(3)-担体/d以下」、並びに訂正前の請求項2に係る本件発明の「担体充填率」は、その意味を当業者が理解できないから、特許法第36条第6項第2号の規定を満足しないものである。 また、申立人2は、下記(1)、(2)の理由を申し立てた。 (1)訂正前の請求項1、2に係る本件発明は、甲第2-1号証に記載された発明であるから、訂正前の請求項1、2に係る本件特許は、特許法第29条第1項第3号の規定により特許を受けることができないものである。 (2)訂正前の請求項3?5に係る本件発明は、甲第2-1号証に記載された発明と、甲第2-2号証に記載された技術事項、及び甲第2-3号証、甲第2-4号証に記載の周知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、訂正前の請求項3?5に係る本件特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してなされたものである。 甲第1-1号証:特開2008-36580号公報(甲第2-3号証と同じ) 甲第1-2号証:Natuscka M. LEE et. al, "USE OF PROTOZOA AND METAZOA FOR DECREASING SLUDGE PRODUCTION IN AEROBIC WASTEWATER TREATMENT", BIOTECHNOLOGY LETTERS, 1996.4, Vol.18, No.4, pp.429-434 甲第1-3号証:特開2011-98317号公報 甲第1-4号証:特開2006-192391号公報 甲第1-5号証:特開2000-312894号公報 甲第1-6号証:「ソフトロンキューブ」に関する文書 甲第1-7号証:特開2010-110718号公報 甲第1-8号証:特開2006-305448号公報 甲第1-9号証:『広辞苑 第五版』、株式会社岩波書店、1998年11月11日、第1525ページ 甲第1-10号証:特開2004-216207号公報 甲第1-11号証:特開平10-263580号公報 甲第1-12号証:「環境技術実証モデル事業 小規模事業場向け有機性排水処理技術(厨房・食堂、食品工場関係) 実証試験結果報告書」、平成16年3月31日、表紙、第20ページ 甲第1-13号証:特開2000-42584号公報 甲第1-14号証:特開2009-220075号公報 甲第1-15号証:特開2009-28720号公報 甲第1-16号証:特開2012-35197号公報 甲第2-1号証:特開2008-246420号公報 甲第2-2号証:井出哲夫、『水処理工学-理論と応用-』、第二版、技報堂出版株式会社、2001年6月30日、第222ページ 甲第2-3号証:甲第1-1号証と同じ 甲第2-4号証:特開2009-202115号公報 3.当審において通知した取消理由の概要 訂正前の請求項1?6に係る特許に対して、平成28年12月16日付け、及び平成29年5月11日付けで特許権者に通知した取消理由の要旨は、次のとおりである。 ア 訂正前の請求項1?5に係る本件発明は、甲第1-1号証に記載された発明であるか、甲第1-1号証に記載された発明と、甲第1-1号証に記載された技術事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、訂正前の請求項1?5に係る本件特許は、特許法第29条第1項第3号の規定により特許を受けることができないものであるか、特許法第29条第2項の規定に違反してなされたものである。 イ 訂正前の請求項6に係る本件発明は、甲第1-1号証に記載された発明と、甲第1-1号証に記載された技術事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、訂正前の請求項6に係る本件特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してなされたものである。 ウ 甲第2-2号証の記載を参酌すると、訂正前の請求項1に係る本件発明は、甲第2-1号証に記載された発明であるか、甲第2-1号証に記載された発明と、甲第2-1号証に記載された技術事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、訂正前の請求項1に係る本件特許は、特許法第29条第1項第3号の規定により特許を受けることができないものであるか、特許法第29条第2項の規定に違反してなされたものである。 エ 訂正前の請求項2?5に係る本件発明は、甲第2-1号証に記載された発明と、甲第1-1号証及び甲第2-4号証に記載された技術事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、訂正前の請求項2?5に係る本件特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してなされたものである。 オ 訂正前の請求項1に係る本件発明の、「第一の生物処理槽のBOD容積負荷を1kg/m^(3)/d以上」という特定事項は、本件特許明細書の発明の詳細な説明によりサポートされているとはいえず、訂正前の請求項1に係る本件特許は、特許法第36条第6項第1号の要件を満たしていない発明に対してなされたものである。 4.取消理由に対する当審の判断 (1)甲第1-1号証を主たる引用例とする取消理由について ア 甲第1-1号証の記載事項 上記取消理由で引用された、本件特許の出願日(平成24年3月30日)前に頒布された刊行物である甲第1-1号証には、以下の記載がある。(下線部は当審において付した。) a 「【特許請求の範囲】 【請求項1】 生物処理槽を2槽以上とし、第1生物処理槽に有機性排水を通水し、細菌により生物処理し、第1生物処理槽からの分散状態の細菌を含む第一処理水を第2生物処理槽に導入し、生物処理すると共にこの第2生物処理槽に微小動物を存在させる生物処理方法において、 第1生物処理槽の溶存酸素濃度を0.5mg/L以下に制御し、 該第2生物処理槽を担体を有した流動床とし、第2生物処理槽の処理水を固液分離処理することを特徴とする有機性排水の生物処理方法。 【請求項2】 請求項1において、第1および第2生物処理槽にそれぞれ担体を存在させるようにした方法であって、第1生物処理槽の担体充填率を10%以下とし、第2生物処理槽を担体充填率が10%以上の流動床とすることを特徴とする有機性排水の生物処理方法。 【請求項3】 請求項1又は2において、固液分離処理を凝集沈殿または加圧浮上分離により行うことを特徴とする有機性排水の生物処理方法。 ・・・ 【請求項5】 請求項1ないし4のいずれか1項において、該第2生物処理槽と第3生物処理槽の少なくとも一方のpHを5.0?7.0とすることを特徴とする有機性排水の生物処理方法。 ・・・ 【請求項7】 請求項1ないし6のいずれか1項において、該第2生物処理槽に原水の一部を添加することを特徴とする有機性排水の生物処理方法。」 b 「【0008】 上記の原生動物や後生動物などの微小動物の補食作用を利用した多段活性汚泥法は実際に有機性廃水処理に用いられており、対象とする排水によっては処理効率の向上、50%程度の発生汚泥量の減量化は可能である。しかしながら、この汚泥減量効果は安定しないのが現状である。これは、微小動物の安定した維持方法が確立していないためである。 【0009】 本発明は、微小動物の補食作用を利用した多段活性汚泥法における汚泥減量効果を安定したものとすることを目的とする。」 c 「【0013】 また、本発明では、第2生物処理槽を担体を有した流動床としたので、微小動物の槽内保持量を高めることができる。即ち、この担体は、分散菌を捕食する固着性の濾過捕食型微小動物の足場として機能するので、この微小動物を安定して槽内に維持することができる。」 d 「【0015】 ・・・有機性排水は曝気手段を備えた第1生物処理槽1に導入され、例えば、アルカリゲネス属菌、シュウドモナス属菌、バチルス属菌、アエロバクター属菌、フラボバクテリウム属菌などの、通常の廃水中に生存する細菌により、有機成分(溶解性BOD)の70%以上、望ましくは80%以上さらに望ましくは90%以上が酸化分解される。」 e 「【0017】 本発明では、第1生物処理槽1の溶存酸素(DO)濃度を0.5mg/L以下、望ましくは0.1mg/L以下、さらに望ましくは0.05mg/L以下に制御することで1?5μmの分散菌が優占化し、これらは第2生物処理槽で速やかに捕食される。」 f 「【0021】 また、滞留時間(HRT)が最適値に比べて長くなると、糸状性細菌の優占化やフロックの形成につながり、第2生物処理槽2で微小動物によって捕食しされにくい細菌が生成されてしまう。そこで、第1生物処理槽1のHRTを一定に制御するのが好ましい。最適HRTは排水により異なるため、机上試験などから、有機成分の70-90%を除去できるHRTを求めるのが好ましい。」 g 「【0024】 そこで、本発明では、第1処理槽1で有機物の大部分、すなわち排水BODの70%以上、望ましくは80%以上を分解し、菌体へと安定して変換しておくのが好ましい。そのため、第2図に示すように、第1生物処理槽1も担体を有した流動床とすることが望ましい。なお、第1生物処理槽1内の担体の充填率が過度に高い場合、分散菌は生成せず、細菌は担体に付着するか、糸状性細菌が増殖するので、第1生物処理槽の担体の充填率を10%以下、望ましくは2?10%特に2?5%とすることにより、濃度変動に影響されず、捕食しやすい分散菌の生成を可能にするのが好ましい。」 h 「【0026】 次に、第1生物処理槽1の処理水を曝気手段を備えた好気性の第2生物処理槽2に導入し、ここで、残存している有機成分の酸化分解、分散性細菌の自己分解および微小動物による補食による余剰汚泥の減量化を行う。」 i 「【0029】 第2生物処理槽2では、微小動物を維持するため、多量の足場が必要となるため、添加する担体の充填率を10%以上、望ましくは10?50%特に20?40%とすることが望ましい。」 j 「【0037】 微小動物による捕食を促進させるため、第2生物処理槽2または第3生物処理槽6のpHを7.0以下、例えば5.0?7.0としても良い。」 k 「【0040】 実施例1 第3図に示すフローに従って、原水(魚肉エキス、野菜エキス、液糖を重量比で2:2:1で混合し、BODを650mg/Lに調整したもの)を処理した。第1生物処理槽1の容量は2.5L、第2生物処理槽2の容量は4.4L原水供給量を21L/dayとし、第1生物処理槽1のDOのみ0.01mg/Lとし、第2生物処理槽2のDOは2?3mg/Lとなるように曝気して運転した。 【0041】 また、第1生物処理槽1には充填率5%で、第2生物処理槽には充填率40%で担体として平均粒径3mm角のスポンジを添加した。 【0042】 第1生物処理槽に対するBOD容積負荷は5.5kg-BOD/m^(3)/d、HRT3.5h、全体でのBOD容積負荷2.0kg-BOD/m^(3)/d、HRT9.6hの条件で運転した。その結果を表1に示す。汚泥転換率は平均して0.30kg-MLSS/kg-BODとなった。処理水のBODは10mg/L以下であった。」 l 「【0050】 比較例3 実施例1において、第1生物処理槽1のDOを1mg/Lとしたこと以外は同1条件にて運転を行った。その結果を表1に示す。表1の通り、DOが0.5mg/Lよりも高いと、分散菌が10μm以上の長さになり、微小動物が捕食できず、汚泥転換率が上昇することが認められる。」 イ 甲1-1発明の認定 (ア)摘示箇所aより、甲第1-1号証には、「第1生物処理槽に有機性排水を通水し、細菌により生物処理し、第1生物処理槽からの分散状態の細菌を含む第一処理水を第2生物処理槽に導入し、」「この第2生物処理槽に微小動物を存在させる」「有機性排水の生物処理方法」が記載されている。 そして、摘示箇所a、c、d、h、iより、上記「第1生物処理槽」は、「曝気手段を備えた」ものであり、上記「第2生物処理槽」は、「曝気手段を備えた好気性の第2生物処理槽」であり、「担体を有した流動床」である。 (イ)摘示箇所kより、甲第1-1号証には、第1生物処理槽に対するBOD容積負荷を5.5kg-BOD/m^(3)/d、全体でのBOD容積負荷を2.0kg-BOD/m^(3)/dとした実施例1が記載されている。 また、摘示箇所a、c、gには、上記「第1生物処理槽」、「第2生物処理槽」をいずれも流動床とすることが記載されている。 (ウ)摘示箇所d、e、f、gより、甲第1-1号証には、第1生物処理槽で、有機成分の70?90%が除去され、1?5μmの分散菌(分散状態の細菌)が優占化することが記載されている。 そして、摘示箇所eより、上記「1?5μmの分散菌」は、第2生物処理槽で微小動物により捕食されるものである。 (エ)上記を総合し、本件特許発明の記載に即して整理すると、甲第1-1号証には、以下の発明(以下、「甲1-1発明」という。)が記載されていると認められる。 「曝気手段を備えた第1生物処理槽に有機性排水を通水し、細菌により生物処理し、第1生物処理槽からの1?5μmの分散菌を含む第一処理水を、曝気手段を備え、担体を有した流動床である好気性の第2生物処理槽に導入し、この第2生物処理槽に微小動物を存在させ、該微小動物により分散菌が捕食される生物処理方法において、 全体でのBOD容積負荷を2.0kg-BOD/m^(3)/dとし、 第1生物処理槽に対するBOD容積負荷を5.5kg-BOD/m^(3)/dとして、第1生物処理槽で、有機成分の70?90%を除去する有機性排水の生物処理方法。」 ウ 対比 本件特許発明1と甲1-1発明とを対比する。 (ア)甲1-1発明の「曝気手段を備えた第1生物処理槽」について、曝気手段は生物処理槽に空気(酸素)を供給するものであるから、本件特許発明1の「好気性の第一生物処理槽」に相当し、甲1-1発明の「曝気手段を備え、担体を有した流動床である好気性の第2生物処理槽」は、本件特許発明1の「流動床担体を添加した好気性の第二生物処理槽」に相当する。 (イ)甲1-1発明の「第1生物処理槽からの1?5μmの分散菌を含む第一処理水」は、本件特許発明1の「第一生物処理槽からの分散菌を含む第一生物処理水」に相当する。 そして、甲1-1発明の「第1生物処理槽に有機性排水を通水し、細菌により生物処理」することにより、前記「1?5μmの分散菌を含む第一処理水」が得られるものであるから、これは、本件特許発明1の「第一生物処理槽に有機性排水を通水して細菌により分散菌を生成」することに相当する。 (ウ)甲1-1発明の「この第2生物処理槽に微小動物を存在させ、該微小動物により分散菌が捕食される」ことは、本件特許発明1の「微小動物に捕食させる」ことに相当する。 (エ)甲1-1発明の「全体でのBOD容積負荷を2.0kg-BOD/m^(3)/dとし、」は、本件特許発明1の「全体のBOD容積負荷を2.0?5kg/m^(3)/dとし、」に相当し、甲1-1発明の「第1生物処理槽に対するBOD容積負荷を5.5kg-BOD/m^(3)/dとして、第1生物処理槽で、有機成分の70?90%を除去」することは、本件特許発明1の「第一生物処理槽のBOD容積負荷を1kg/m^(3)/d以上として、第一生物処理槽において、有機性排水中の有機成分の70?90%を除去」することに相当する。 (オ)したがって、本件特許発明1と甲1-1発明とは、下記の点で一致し、下記の点で相違する。 ・一致点 「好気性の第一生物処理槽に有機性排水を通水して細菌により分散菌を生成し、該第一生物処理槽からの分散菌を含む第一生物処理水を、流動床担体を添加した好気性の第二生物処理槽に導入して微小動物に捕食させる有機性排水の生物処理方法において、 全体のBOD容積負荷を2.0?5kg/m^(3)/dとし、 第一生物処理槽のBOD容積負荷を1kg/m^(3)/d以上として、第一生物処理槽において、有機性排水中の有機成分の70?90%を除去することを特徴とする有機性排水の生物処理方法。」 ・相違点1 本件特許発明1は、「第一生物処理水中の分散菌由来のSSの、第二生物処理槽内の担体に対する負荷(以下、分散菌担体負荷という)を8kg-SS/m^(3)-担体/d以下とする」ものであるのに対し、甲1-1発明は、該「分散菌担体負荷」が不明である点。 ・相違点2 本件特許発明1は、「第一生物処理水のSSの内、有孔板である目開き8μmのポリカーボネートフィルターを通過する微細SSを分散菌由来SSとして測定し、この測定結果に基づいて、第二生物処理槽の分散菌担体負荷が8kg-SS/m^(3)-担体/dを超えないように運転条件を調整する」ものであるのに対し、甲1-1発明は、分散菌由来SSの測定手段が不明であり、また、該測定結果に基づいて運転条件を調整するものでもない点。 エ 判断 以下、上記相違点2について検討する。 甲1-1発明は、第1生物処理槽からの第一処理水に含まれる「1?5μmの分散菌」を、第2生物処理槽の微小動物に捕食させるものであり、甲第1-1号証の摘示箇所lには、分散菌が10μm以上の長さになると、微小動物が捕食できなくなることが記載されている。 しかしながら、甲第1-1号証には、「有孔板である目開き8μmのポリカーボネートフィルターを通過する微細SSを分散菌由来SSとして測定」することや、「この測定結果に基づいて、第二生物処理槽の分散菌担体負荷が8kg-SS/m^(3)-担体/dを超えないように運転条件を調整する」ことについて、記載も示唆もされていない。 そして、本件特許発明1は、上記構成により、本件特許明細書【0014】に記載された、「第一生物処理槽で生成する分散菌と第二生物処理槽における微小動物による分散菌捕食のバランスが取れるため、第二生物処理槽において分散菌の取り残し(捕食し切れないこと)を防止することができる」という効果を奏するものである。 したがって、相違点1について検討するまでもなく、本件特許発明1は甲1-1発明ではなく、また、甲1-1発明及び甲第1-1号証に記載された技術事項から当業者が容易に発明をすることができたものではない。 そして、本件特許発明2?5は、本件特許発明1を更に限定したものであるから、上記本件特許発明1についての判断と同様の理由により、甲1-1発明ではなく、また、甲1-1発明及び甲第1-1号証に記載された技術事項から当業者が容易に発明をすることができたものではない。 (2)甲第2-1号証を主たる引用例とする取消理由について ア 甲第2-1号証の記載事項 上記取消理由で引用された、本件特許の出願日前に頒布された刊行物である甲第2-1号証には、以下の記載がある。(下線部は当審において付した。) m 「【請求項3】 有機物含有水を、第1の生物処理槽で処理した後、前記第1の生物処理槽の後段に設けた第2の生物処理槽で処理する多段式生物処理方法であって、 前記第2の生物処理槽に、550μm?2mmの大きさの空隙が形成された担体を添加して生物処理する多段式生物処理方法。」 n 「【0008】 第1の生物処理槽は、活性汚泥による生物処理を行う処理槽であって、有機物含有水に含まれる生物化学的酸素消費量で表される溶解性有機物(BOD)の大部分(例えば70%以上、特に80%以上)が分解されるように負荷を設定する。」 o 「【0018】 第1の生物処理槽11には原水管31が接続され、原水管31を介して有機物含有水が第1の生物処理槽11に導入される。第1の生物処理槽11は、活性汚泥を担持する第1の担体15を保持しており、高負荷で運転して分散性の細菌を増殖させる。第1の生物処理槽11の好ましい運転条件は上述したとおりである。第1の担体15の添加量は、上述した範囲であればよく、一般的には、全有機物濃度(TOC)10?2,000mg/L程度の有機物含有水を、2?10kg/m^(3)/日程度の負荷で処理して80%程度のBOD分解率を得られるよう、10?50%程度とすればよい。第1の生物処理槽11には、高負荷条件下でも溶存酸素(DO)濃度が1?2mg/L程度を維持できるように、酸素供給手段としてエジェクタ16を設置している。 【0019】 第1の生物処理槽11は、第1の処理液管32により第2の生物処理槽12と接続されている。第2の生物処理槽12は、第2の担体17が添加量30?50%程度で添加された流動床式で、酸素供給手段として散気管18が設置されている。第2の生物処理槽12の好ましい運転条件は上述したとおりである。第2の生物処理槽12は、第2の処理液管33を介して沈殿池21と接続されている。」 p 「【0024】 ・・・よって、第2の担体17、17Bは、ワムシやツリガネムシ等の原生動物または/および後生動物を保持する。生物処理装置1、生物処理装置2は、このように、後段側に空隙の大きな担体を保持するため、第1の担体15、15Bから剥がれて第1の生物処理槽11から流出する第1の処理液に含まれる活性汚泥は、第2の担体17、17Bに保持された原生動物等に捕食され、余剰汚泥として排出される微生物量が低減される。」 q 「【0027】 〈第1の生物処理槽〉 容積 ;5L BOD負荷 ;4.2kg/m^(3)/日 〈第2の生物処理槽〉 容積 ;5L」 イ 甲2-1発明の認定 摘示箇所m?qより、甲第2-1号証には、「原水管を介して、有機物含有水を、容積が5Lであり、酸素供給手段が設置され、活性汚泥を担持する第1の担体を保持しており、BOD負荷が4.2kg/m^(3)/日であり、BOD分解率が80%程度であり、分散性の細菌を増殖させる第1の生物処理槽に導入し、該第1生物処理槽で処理した後、前記第1処理槽の後段に設けられ、容積が5Lであり、酸素供給手段が設置され、ワムシやツリガネムシなどの原生動物及び/又は後生動物を保持する第2の担体が添加された、流動床式の第2の生物処理槽で処理する、多段式生物処理方法」(甲2-1発明)が記載されている。 ウ 対比 (ア)本件特許発明1と甲2-1発明とを対比すると、甲2-1発明の「有機物含有水」は、本件特許発明1の「有機性排水」に相当する。 (イ)甲2-1発明の「第1生物処理槽」は、「有機物含有水」が「原水管を介して」「導入」されるものであり、「酸素供給手段」が設置され、「活性汚泥」により「分散性の細菌を増殖させる」ものであるから、本件特許発明1の、「好気性の」「第一生物処理槽」に「有機性排水」を「通水して」「細菌により分散菌を生成」するものに相当する。 (ウ)甲2-1発明の「第2生物処理槽」は、「酸素供給手段」が設置され、「第2の担体が添加された、流動床式」のものであって、「ワムシやツリガネムシなどの原生動物及び/又は後生動物」により、「第1の生物処理槽」から流出する「第1の処理液」に含まれる活性汚泥を「捕食」するものであるから、本件特許発明1の、「第一生物処理槽」からの「分散菌を含む第一生物処理水」を「流動床担体を添加した」「好気性の」「第二生物処理槽」に導入して「微小動物」に「捕食させる」ものに相当する。 (エ)甲2-1発明は、第1生物処理槽のBOD負荷が4.2kg/m^(3)/日であり、第1、第2生物処理槽の容積がいずれも5Lであるから、全体のBOD負荷は2.1kg/m^(3)/日となり、本件特許発明1の「全体のBOD容積負荷を2.0?5kg/m^(3)/d」に相当する。 (オ)甲2-1発明は、第1生物処理槽のBOD分解率が80%程度であるから、上記(エ)とあわせて、本件特許発明1の「第一生物処理槽のBOD容積負荷を1kg/m^(3)/d以上として、第一生物処理槽において、有機性排水中の有機成分の70?90%を除去」することに相当する。 (カ)したがって、本件特許発明1と甲2-1発明とは、下記の点で一致し、下記の点で相違する。 ・一致点 「好気性の第一生物処理槽に有機性排水を通水して細菌により分散菌を生成し、該第一生物処理槽からの分散菌を含む第一生物処理水を、流動床担体を添加した好気性の第二生物処理槽に導入して微小動物に捕食させる有機性排水の生物処理方法において、 全体のBOD容積負荷を2.0?5kg/m^(3)/dとし、 第一生物処理槽のBOD容積負荷を1kg/m^(3)/d以上として、第一生物処理槽において、有機性排水中の有機成分の70?90%を除去することを特徴とする有機性排水の生物処理方法。」 ・相違点1 本件特許発明1は、「第一生物処理水中の分散菌由来のSSの、第二生物処理槽内の担体に対する負荷(以下、分散菌担体負荷という)を8kg-SS/m^(3)-担体/d以下とする」ものであるのに対し、甲2-1発明は、該「分散菌担体負荷」が不明である点。 ・相違点2 本件特許発明1は、「第一生物処理水のSSの内、有孔板である目開き8μmのポリカーボネートフィルターを通過する微細SSを分散菌由来SSとして測定し、この測定結果に基づいて、第二生物処理槽の分散菌担体負荷が8kg-SS/m^(3)-担体/dを超えないように運転条件を調整する」ものであるのに対し、甲2-1発明は、分散菌由来SSの測定手段が不明であり、また、該測定結果に基づいて運転条件を調整するものでもない点。 エ 判断 以下、上記相違点2について検討する。 甲第2-1号証には、甲2-1発明の、第1の生物処理槽で増殖する分散性の細菌について、その大きさが記載されるものではないし、「有孔板である目開き8μmのポリカーボネートフィルターを通過する微細SSを分散菌由来SSとして測定」することや、「この測定結果に基づいて、第二生物処理槽の分散菌担体負荷が8kg-SS/m^(3)-担体/dを超えないように運転条件を調整する」ことについて、記載も示唆もされていない。 また、甲第2-2号証は、活性汚泥処理プロセスにおける余剰汚泥の発生量の計算式や、一般的なBOD汚泥転換率について記載されるにすぎない。 したがって、相違点1について検討するまでもなく、本件特許発明1は甲2-1発明ではなく、また、甲2-1発明及び甲第2-1号証に記載された技術事項から当業者が容易に発明をすることができたものではない。 そして、本件特許発明2?5は、本件特許発明1を更に限定したものであり、甲第1-1号証及び甲第2-4号証にも、上記相違点2に係る本件特許発明の特定事項について記載されるものではない。 よって、上記本件特許発明1についての判断と同様の理由により、甲2-1発明及び甲第2-1号証、甲第1-1号証及び甲第2-4号証に記載された技術事項から当業者が容易に発明をすることができたものではない。 (3)記載不備について 申立人1は、甲第1-7号証、甲第1-8号証の記載から、第一生物処理槽で分散菌を優占種として増殖させるためには、第一生物処理槽にはある程度、例えば5.0kg/m^(3)/日(甲第1-7号証)以上のBOD容積負荷が必要であり、本件特許発明の第一生物処理槽におけるBOD容積負荷の下限値である1kg/m^(3)/dでは、分散菌を優占種としていかにして確実に増殖させるかを当業者が認識できたとはいえないと主張する。 そして、そのような低いBOD容積負荷の場合に、「第一生物処理槽で生成する分散菌と第二生物処理槽における微小動物による分散菌捕食のバランスが取れることで、分散菌の取り残しを防止し、安定した生物処理を提供する」(【0012】?【0014】)という本件特許発明の課題を解決し得るものではないから、本件特許発明は、特許法第36条第6項第1号の要件を満たしていないと主張している。 しかしながら、甲第1-7号証、甲第1-8号証の記載は、好ましいBOD容積負荷の範囲や、従来技術におけるBOD容積負荷の範囲を示すにとどまり、本件特許発明の下限値であるBOD容積負荷1kg/m^(3)/dにおいて、分散菌が優占種として増殖することを当業者が認識できないとまではいえない。 また、申立人1は、本件特許発明の第一生物処理槽におけるBOD容積負荷は、上限値が特定されていないから、1kg/m^(3)/dを大きく超えるような値も含み得るものであると主張するが、第一生物処理槽のBOD容積負荷が著しく過大となり、有機排水中の有機成分の70?90%を除去できない場合は、そもそも本件特許発明に含まれないものであるから、申立人1の上記主張は当を得たものではない。 上記のとおりであるから、申立人1の上記主張はいずれも採用できず、この点は、本件特許明細書によりサポートされている。 5.取消理由通知において採用しなかった特許異議申立理由について (1)特許法第29条第2項について、甲第1-2号証?甲第1-5号証をみても、上記4.(1)ウにて示した「相違点2」について記載も示唆もないから、上記4.(1)エにて示した判断と同様の理由により、本件特許発明1?5は、甲1-1発明及び甲第1-1号証?甲第1-5号証に記載された技術事項から当業者が容易に発明をすることができたものではない。 (2)申立人1は、本件特許発明1が特定事項とする、「第一生物処理槽のBOD容積負荷を1kg/m^(3)/d以上」とすることについて、第一生物処理槽のBOD容積負荷の上限値は実質無制限であるから、1kg/m^(3)/dを大きく超えるような無制限な値のBOD容積負荷に対し、有機排水中の有機成分を70?90%の高い割合で除去しようとした場合、当業者がどのように実施するかを理解できたとはいえず、本件特許の発明の詳細な説明は、特許法第36条第4項第1号の要件を満たしていないと主張している。 しかしながら、上記4.(3)にも記載のとおり、第一生物処理槽のBOD容積負荷が著しく過大となり、有機排水中の有機成分の70?90%を除去できない場合は、そもそも本件特許発明に含まれないものであるから、申立人1の上記主張は当を得たものではない。 また、この点について申立人1は、甲第1-6号証に記載された「ソフトロンキューブ導入例1」において、有機排水中の有機成分が除去される割合は52.3%にすぎなかったとも主張している。 しかしながら、上記「ソフトロンキューブ導入例1」は、本件特許明細書に開示された実施例とは具体的な態様が異なり、該実施例の追試であるとはいえないから、該「ソフトロンキューブ導入例1」の記載をもって、本件特許明細書に開示された実施例が、有機排水中の有機成分の70?90%を除去することができなかったとはいえない。 したがって、申立人1の上記主張はいずれも採用できない。 (3)申立人1は、本件特許発明1が特定事項とする、「全体のBOD容積負荷を2.0?5kg/m^(3)/d」とする点について、「全体」がどのようなひとまとまりを指すのか定義されていないから、本件特許発明1は不明確であり、特許法第36条第6項第2号の要件を満たしていないと主張している。 しかしながら、本件特許発明が、有機性排水の生物処理に関するものであること、そして、「第一生物処理槽のBOD容積負荷」が特定事項とされていることに照らせば、上記「全体のBOD容積負荷」の「全体」とは、「第一生物処理槽」と「第二生物処理槽」とを合わせた「生物処理槽全体」を意味するものと理解することが合理的である。 したがって、申立人1の上記主張は採用できず、この点について、本件特許発明は明確である。 また、申立人1は、第二生物処理槽の容積を大きくすれば、第一生物処理槽のBOD容積負荷を実質無制限に増大させることができるとも主張しているが、上記4.(3)に記載のとおり、第一生物処理槽のBOD容積負荷が著しく過大となり、有機排水中の有機成分の70?90%を除去できない場合は、そもそも本件特許発明に含まれないものであるから、申立人1の上記主張は当を得たものではない。 したがって、申立人1の上記主張は採用できない。 (4)申立人1は、本件特許発明1が特定事項とする、「有機性排水中の有機成分の70?90%を除去」する点について、「有機成分」が定義されておらず、単位も記載されていないと主張している。 しかしながら、本件特許明細書【0018】には、「有機成分(溶解性BOD)」と記載されている。 そして、BODが単位容積当たりの酸素質量で表されることは、当業者の技術常識である。 また、申立人1は、平成20年(ネ)10013号判決を引用し、甲第1-10号証?甲第1-12号証に記載されるように、溶解性BODの測定方法には多様な測定方法が存在し、その測定方法が一義的に特定されるとはいえないし、測定方法が異なる測定値で測定した場合であっても同一の値が測定されると認めるに足りる証拠はないから、本件特許発明1及びそれを引用する本件特許発明2?5は不明確であり、特許法第36条第6項第2号の要件を満たしていないと主張している。 上記主張について検討するに、平成20年(ネ)10013号判決が原判決として引用する平成18年(ワ)11880?11882号判決は、「平均粒子径とは,粒子群を代表する平均的な粒子径(代表径)を意味するものであるが,個数平均径,長さ平均径,面積平均径等といった種々の平均粒子径及びその定義式(算出方法)があり,同じ粒子であってもその代表径の算出方法によって異なるものである。したがって,本件発明の構成要件Cの「共に10μm以下の平均粒子径としてなる混合物」のように,抽象的に平均粒子径として特定の数値範囲を示すだけでは,それがいかなる算出方法によるものであるかが明らかにならないから,その範囲が具体的に特定できないことになる。」と説示するとおり(下線部は当審において付した。)、算出方法によって測定結果が有意に異なる場合には、測定値の数値範囲を示すだけでは、その範囲が具体的に特定できないことになる、というものである。 これを本件特許発明についてみると、「溶解性BOD」が、懸濁物質を除いて測定されるBODを意味することは当業者の技術常識であるところ、甲第1-10号証の「孔径0.45μmの膜フィルタでろ過」(【0023】)、甲第1-11号証の「凝集処理により排水中のコロイド以上のBOD成分を除去」(【0019】)、甲第1-12号証の「遠心分離(3000rpm,20分)後の上澄み液」という記載は、いずれも上記当業者の技術常識に沿って測定されたものであり、甲第1-10号証?甲第1-12号証のその他の記載をみても、本件特許発明の範囲を不明確にするような測定結果の差異が生じると認めるに足る証拠はない。 したがって、申立人1の上記主張は採用できず、この点について、本件特許発明は明確である。 (5)申立人1は、本件特許発明1が特定事項とする、「分散菌担体処理負荷を8kg-SS/m^(3)-担体/d以下」とする点について、「kg-SS」が乾重か湿重かの記載すら存在しないと主張している。 しかしながら、例えば申立人が引用する「環境省 水質汚濁に係る環境基準」の付表9にも、浮遊物質(SS)をろ過した後、ろ過材を乾燥器中で乾燥することが記載されているように、「kg-SS」が乾燥重量であることは当業者の技術常識である。 また、申立人1は、上記「環境省 水質汚濁に係る環境基準」の付表9に記載された、ガラス繊維ろ紙のろ過物を測定する方法のほか、「JIS K 0102」に記載された、有機性ろ過膜や金属製ろ過膜のろ過物を測定する方法などのように、浮遊物質(SS)の測定方法には多数の測定方法が存在し、その測定方法が一義的に特定されるとはいえないし、測定方法が異なる測定値で測定した場合であっても同一の値が測定されると認めるに足りる証拠はないから、本件特許発明1及びそれを引用する本件特許発明2?5は不明確であり、特許法第36条第6項第2号の要件を満たしていないと主張している。 しかしながら、申立人が主張する「JIS K 0102」には、ろ過材としてガラス繊維ろ紙と並列に、有機性ろ過膜又は金属性ろ過膜を用いうることが記載されているにすぎず、本件特許発明の範囲を不明確にするような測定結果の差異が生じると認めるに足る証拠はない。 したがって、申立人1の上記主張は採用できず、この点について、本件特許発明は明確である。 (6)申立人1は、本件特許発明2が特定事項とする「担体充填率」について、その単位「%」が「容積%」を示すのか「質量%」を示すのか記載されていないと主張している。 しかしながら、担体は生物処理槽に充填するものであるから、その単位「%」を「容積%」と理解することは当業者に明らかである。 また、申立人1は、甲第1-13号証?甲第1-16号証に記載されるように、担体充填率の測定方法には多様な測定方法が存在し、その測定方法が一義的に特定されるとはいえないし、測定方法が異なる測定値で測定した場合であっても同一の値が測定されると認めるに足りる証拠はないから、本件特許発明2及びそれを引用する本件特許発明3?5は不明確であり、特許法第36条第6項第2号の要件を満たしていないと主張している。 しかしながら、本件特許発明2が、流動床の担体充填率を特定していることに照らせば、反応槽において排水が流動する容積に対し、担体が占める容積%を意味するものと理解することが相当であり、甲第1-13号証、甲第1-15号証の記載はこれと整合するものである。 また、甲第1-14号証の記載は、フレームにより多孔体を保持した微生物固定化担体の「充填率(空隙率)」に関するものであり、甲第1-16号証は、汚泥や、浮遊固形物(SS)を大量に含んだ有機性排水をメタン発酵させる消化装置に関するものであって、いずれも、本件特許発明の「担体充填率」の明確性を判断するにあたり、参考になるものではない。 したがって、申立人1の上記主張は採用できず、この点について、本件特許発明は明確である。 第4 むすび 以上のとおりであるから、取消理由通知に記載した取消理由及び特許異議申立書に記載した特許異議申立理由によっては、本件請求項1?5に係る特許を取り消すことはできない。 また、他に本件請求項1?5に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。 そして、請求項6に係る特許は、訂正により削除されたため、本件特許の請求項6に対して、特許異議申立人 矢部 和夫がした特許異議の申立てについては、対象となる請求項が存在しない。 よって、結論のとおり決定する。 |
発明の名称 |
(54)【発明の名称】 有機性排水の生物処理方法 【技術分野】 【0001】 本発明は、生活排水、下水、食品工場やパルプ工場などからの有機性排水を生物処理する方法に係り、特に好気性の第一生物処理槽に有機性排水を通水して細菌により分散菌を生成し、該第一生物処理槽からの分散菌を含む第一生物処理水を、流動床担体を添加した好気性の第二生物処理槽に導入して微小動物に捕食させる有機性排水の生物処理方法に関する。 【背景技術】 【0002】 有機性排水を生物処理する場合に用いられる活性汚泥法は、処理水質が良好で、メンテナンスが容易であるなどの利点から、下水処理や産業廃水処理等に広く用いられている。しかしながら、運転に用いられるBOD容積負荷は0.5-0.8kg/m^(3)/d程度であるため、広い敷地面積が必要となる。また、分解したBODの20%が菌体すなわち汚泥へと変換されるため、大量の余剰汚泥処理も問題となる。 【0003】 有機性排水の高負荷処理に関しては、担体を添加した流動床法が知られている。この方法を用いた場合、3kg/m^(3)/d以上のBOD容積負荷で運転することが可能となる。しかしながら、発生汚泥量は分解したBODの30%程度で、通常の活性汚泥法より高くなることが欠点となっている。 【0004】 特公昭55-20649では有機性排水をまず、第一処理槽で細菌処理して、排水に含まれる有機物を酸化分解し、非凝集性の細菌の菌体に変換した後、第二処理槽で固着性原生動物に補食除去させることで余剰汚泥の減量化が可能になるとしている。さらに、上記の方法では高負荷運転が可能となり、活性汚泥法の処理効率も向上する。このように細菌の高位に位置する原生動物や後生動物の補食を利用した廃水処理方法は、多数考案されている。 【0005】 特開2000-210692では、特公昭55-20649の処理方法で問題となる原水の水質変動による処理性能悪化の対策を提案している。具体的な方法としては、「被処理水のBOD変動を平均濃度の中央値から50%以内に調整する」、「第一処理槽内および第一処理水の水質を経時的に測定する」、「第一処理水の水質悪化時には微生物製剤または種汚泥を第一処理槽に添加する」等の方法をあげている。 【0006】 特公昭60-23832では、細菌、酵母、放線菌、藻類、カビ類や廃水処理の初沈汚泥や余剰汚泥を原生動物や後生動物に補食させる際に超音波処理または機械攪拌により、上記の餌のフロックサイズを動物の口より小さくさせる方法を提案している。 【0007】 流動床と活性汚泥法の多段処理による有機性排水の生物処理方法として、特許3410699には、後段の活性汚泥法をBOD汚泥負荷0.1kg-BOD/kg-MLSS/d以下の低負荷で運転することにより、汚泥を自己酸化させ、汚泥引き抜き量を大幅に低減できるようにした方法が記載されている。 【0008】 上記の微小動物の補食作用を利用した多段活性汚泥法は実際に有機性廃水処理に用いられており、対象とする排水によっては処理効率の向上、50%程度の発生汚泥量の減量化は可能である。しかしながら、この汚泥減量効果は安定しないのが現状である。これは、微小動物の安定した維持方法が確立していないこととエサとなる細菌と微小動物の比率を特定できていないためである。 【0009】 WO2007/088860には、微小動物を保持する第二生物処理槽に対する溶解性BOD汚泥負荷を低くすることにより、汚泥減量に寄与する微小生物保持槽の微小生物の量を安定させることが記載されている。 【0010】 ところが、第二生物処理槽へ投入する第一生物槽処理水中の分散菌が多すぎた場合、第二処理槽の微小動物が捕食しきれず、発生汚泥量低減には繋がらない。また、分散菌は固液分離が困難なため、どの種類の固液分離手段を用いたときも固液分離の条件に余裕を持たせる必要がある。また、第一生物処理水中の分散菌は対数増殖期の細菌であるため、微小動物に捕食されず自己消化すると溶解性の有機物成分が増加し、水の再利用(排水回収)が困難になる。 【先行技術文献】 【特許文献】 【0011】 【特許文献1】特公昭55-20649 【特許文献2】特開2000-210692 【特許文献3】特公昭60-23832 【特許文献4】特許3410699 【特許文献5】WO2007/088860 【発明の概要】 【発明が解決しようとする課題】 【0012】 本発明は、好気性の第一生物処理槽に有機性排水を通水して細菌により分散菌を生成し、該第一生物処理槽からの分散菌を含む第一生物処理水を、流動床担体を添加した好気性の第二生物処理槽に導入して微小動物に捕食させる有機性排水の生物処理方法であって、第二生物処理槽において分散菌が適切に捕食され、安定した生物処理を行うことができる有機性排水の生物処理方法を提供することを目的とする。 【課題を解決するための手段】 【0013】 本発明の有機性排水の生物処理方法は、好気性の第一生物処理槽に有機性排水を通水して細菌により分散菌を生成し、該第一生物処理槽からの分散菌を含む第一生物処理水を、流動床担体を添加した好気性の第二生物処理槽に導入して微小動物に捕食させる有機性排水の生物処理方法において、全体のBOD容積負荷を2.0?5kg/m^(3)/dとし、第一生物処理槽のBOD容積負荷を1kg/m^(3)/d以上として、第一生物処理槽において、有機性排水中の有機成分の70?90%を除去し、第一生物処理水中の分散菌由来SSの、第二生物処理槽内の担体に対する負荷(以下、分散菌担体負荷という)を8kg-SS/m^(3)-担体/d以下とする有機性排水の生物処理方法であって、第一生物処理水のSSの内、有孔板である目開き8μmのポリカーボネートフィルターを通過する微細SSを分散菌由来SSとして測定し、この測定結果に基づいて、第二生物処理槽の分散菌担体負荷が8kg-SS/m^(3)-担体/dを超えないように運転条件を調整することを特徴とするものである。 【発明の効果】 【0014】 本発明方法では、第一生物処理槽で生成する分散菌と第二生物処理槽における微小動物による分散菌捕食のバランスが取れるため、第二生物処理槽において分散菌の取り残し(捕食し切れないこと)を防止することができる。 【図面の簡単な説明】 【0015】 【図1】実施の形態に係る有機性排水の生物処理方法のフロー図である。 【図2】実施の形態に係る有機性排水の生物処理方法のフロー図である。 【図3】実施の形態に係る有機性排水の生物処理方法のフロー図である。 【発明を実施するための形態】 【0016】 以下、本発明についてさらに詳細に説明する。 【0017】 図1は本発明の実施の形態に係る有機性排水の生物処理方法を示すものであり、第一生物処理槽1と第二生物処理槽2とにより有機性排水が処理される。この実施の形態では、第一生物処理槽1の底部に曝気手段1bを設け、第一生物処理槽1を、担体を添加しない曝気槽としている。第二生物処理槽2は曝気手段2bを底部に備え、担体2aを有した曝気槽としている。 【0018】 有機性排水は第一生物処理槽1に導入され、細菌により、有機成分(溶解性BOD)の70%以上、望ましくは80%以上さらに望ましくは85?90%が酸化分解される。第一生物処理槽1のpHは6以上、望ましくは8以下とする。しかしながら、原水中に油分や有機溶媒、界面活性剤を多く含む場合はpHは8.0以上としても良い。第一生物処理槽1へのBOD容積負荷は1kg/m^(3)/d以上、HRT24h以下、DOは1mg/L以下、望ましくは0.05?0.5mg/Lとすることで、分散菌が優占化した処理水を得ることが出来る。また、HRTを短くすることにより、BOD濃度の低い排水を高負荷で処理することができる。 【0019】 なお、後段の生物処理槽からの汚泥を含む処理水の一部を第一生物処理槽1に返送したり、第一生物処理槽1を多段にしても良い。ただし、滞留時間(HRT)が最適値に比べて長くなると、糸状性細菌の優占化やフロックの形成につながり、第二生物処理槽2で捕食されにくい細菌が生成されてしまう。そこで、第一生物処理槽1のHRTを一定に制御するのが好ましい。最適HRTは排水により異なるため、予備試験やシミュレーションなどから、有機成分の70?90%を除去できるHRTを求める必要がある。HRTを最適値に維持する方法としては、排水量減少時に、処理水の一部を返送し、第一生物処理槽1に流入する水量を一定にし、第一生物処理槽1のHRTを安定させる方法や、排水量の変動に合わせ第一生物処理槽1の水位を変動させる方法がある。安定させる幅は、予備試験やシミュレーションなどで求めた最適HRTの0.75?1.5倍以内に納めることが望ましい。 【0020】 第一生物処理槽1の処理水を、底部に曝気手段2bを備えた第二生物処理槽2に導入し、ここで、残存している有機成分の酸化分解、分散菌の自己分解および微小動物による捕食による余剰汚泥の減量化を行う。第二生物処理槽2では、細菌に比べ増殖速度の遅い微小動物の働きと細菌の自己分解を利用するため、微小動物と細菌が系内に留まるような運転条件および処理装置を採用するのが好ましい。第二生物処理槽2の排水部に担体分離スクリーン2cを設け、流動床担体2aを添加して流動床を形成することにより、微小動物の槽内保持量を高めている。 【0021】 添加する流動床担体2aとしては、球状、ペレット状、中空筒状、糸状など各種形状のものを用いることができる。担体2aの径は0.1?10mm程度であることが好ましい。担体2aの材料は天然素材、無機素材、高分子素材等任意であり、ゲル状物質を用いても良い。ただし、担体2aとしては、発泡プラスチック製の角型担体が望ましい。なお、流動床担体に加え、糸状担体やシート状担体を添加して槽内に一部固定して揺動床を形成してもよく、このようにすれば総合的に担体の充填率を下げることができる。 【0022】 本発明では、全体のBOD容積負荷を5kg/m^(3)/d以下(原水変動しても負荷が所定以下)とし、かつ、分散菌担体負荷を8kg-SS/m^(3)-担体/d以下となるように第一生物処理槽1のDOや第二生物処理槽2の担体充填率などを設定することにより、分散菌を取りこぼしなく確実に微小動物に捕食させることができる。なお、第二生物処理にさらに揺動床担体を用いた場合は、流動床担体と揺動床担体とを合わせた担体に対する分散菌の負荷とする。 【0023】 この分散菌由来のSSとしては第一生物処理水SSの内、8μmポリカーボネートフィルターを通過する微細SSとすることが好ましい。 【0024】 第一生物処理水SSは、原水に含まれる分散菌由来SSと、菌体以外のSSと、第1生物処理槽1で生成した分散菌に由来するSSからなる。分散菌由来SSは菌体粒径が8μm未満、例えば1?5μm程度であり、菌体以外で濾過捕食型微小動物が捕食困難な主なSSは粒径が8μm超、例えば10?50μm程度である。従って、目開き8μmのフィルター通過SSを分散菌由来SSとすることが好ましい。なお、濾紙のような繊維では微細SSも捕捉してしまうので、フィルターとしては有孔板であるポリカーボネートフィルターを用いるのが好ましい。このSS測定結果に基づいて第二生物処理槽2の担体添加量などの運転条件を調整して、第二生物処理槽2の分散菌の負荷が限界を超えないようにする。 【0025】 前述の通り、第一生物処理槽1では有機物の大部分、すなわち排水BODの70%以上、望ましくは80%以上を分解し、菌体へと安定して変換しておくのが好ましい。そのため、第一生物処理槽1においても、図2のように、排水部に担体分離スクリーン1cを設け、担体1aを添加して流動床を形成することが望ましい。ただし、第一生物処理槽1における担体の充填率が過度に高い場合、分散菌は生成せず、細菌は担体に付着するか、糸状性細菌が増殖する。そのため、第一生物処理槽1に添加する担体の充填率を20%以下、特に10%以下とすることにより、濃度変動に影響されず、捕食しやすい分散菌の生成を可能にすることが好ましい。第一生物処理槽1の担体1aとしては第二生物処理槽2の担体2aと同様のものを用いることができる。 【0026】 第二生物処理槽2では、微小動物を維持するため、多量の足場が必要となるため、添加する担体の充填率を流動床の場合は10%以上、特に20%以上、例えば20?40%とすることが望ましい。 【0027】 微小動物による捕食を促進させるため、第二生物処理槽のpHを7.0以下例えば6.0?7.0とするのが好ましい。 【0028】 運転初期や原水変動により負荷が低いときなど、第一生物処理槽1で溶解性有機物をほぼ完全に分解した場合、第二生物処理槽では担体への生物膜の形成がされにくくなり、また、微小動物増殖のための栄養も不足する。そこで、このような場合には、原水の一部を分流させて第二生物処理槽2に導入し、第二生物処理槽2の溶解性BOD汚泥負荷が0.001kg-BOD/kg-MLSS/d以上望ましくは0.025?0.1kg-BOD/kg-MLSS/dとなるように運転することが望ましい。 【0029】 第二生物処理槽2からの処理水を固液分離して水質の良好な処理水を得るようにしてもよい。固液分離手段としては沈殿池、凝集沈殿、凝集加圧浮上、膜分離のいずれか1又は2以上を用いることができる。図3はその一例を示すものであり、第二生物処理槽2からの処理水に対し反応槽3にて無機凝集剤を添加し、次いで凝集槽4にて高分子凝集剤を添加した後、沈殿槽5にて沈降分離処理し、処理水と沈降汚泥とに分離する。 【実施例】 【0030】 [実施例1] 図2のフローに従って、BOD800mg/L、COD_(cr)1300mg/Lの原水(食品工場排水の模擬排水)を処理した。第一生物処理槽1の容量は2.5L、第二生物処理槽2の容量は4.4Lである。第一生物処理槽1のDOを0.5mg/Lとし、第二生物処理槽2はDO2?3mg/Lで運転した。第一生物処理槽1には担体を充填率5%で添加し、第二生物処理槽2には担体を充填率40%で添加した。担体としては共に粒径3mmのポリウレタン製の角型スポンジ担体を用いた。 【0031】 第一生物処理槽1に対するBOD容積負荷は5.5kg-BOD/m^(3)/d、HRT3.5h、全体でのBOD容積負荷2.0kg-BOD/m^(3)/d、HRT9.6hの条件で運転した。第一生物処理水中のSS濃度は600mg/Lで分散菌担体負荷が5.9kg-SS/m^(3)-担体/dとなっていた。その結果、第二生物処理水中のSS濃度は250mg/Lとなり、汚泥転換率は0.19kg-SS/kg-COD_(cr)となった。 【0032】 [実施例2] 実施例1において、第二生物処理槽2の後段に反応槽3、凝集槽4及び沈殿槽5を設けて図3のフローとしたこと以外は同じ条件で原水を処理した。なお、無機凝集剤としてPAC300mg/L、アニオン系高分子凝集剤として栗田工業社製クリフロックPA331を1mg/L添加した。その結果、汚泥転換率は0.19kg-SS/kg-COD_(cr)(PAC汚泥は除く)で、処理水COD_(cr)、SS濃度は20mg/L以下と良好な処理水質を維持した。 【0033】 [比較例1] 実施例1において、第二生物処理槽2の担体充填率を25%とし、第二生物処理槽2の担体2aへの分散菌担体負荷が9.4kg-SS/m^(3)-担体/dとなったこと以外は同じ条件で運転を実施した。その結果、捕食しきれない分散菌の流出により、汚泥転換率は0.29kg-SS/kg-COD_(cr)となった。 【0034】 [比較例2] 実施例2において、第二生物処理槽2の担体充填率を25%とし、第二生物処理槽2の担体2aへの分散菌担体負荷が9kg-SS/m^(3)-担体/dとなったこと以外は同じ条件で運転を実施した。その結果、捕食しきれない分散菌の流出により、汚泥転換率は0.29kg-SS/kg-COD_(cr)(PAC汚泥は除く)となった。また、処理水SSを20mg/L以下にするのに必要な凝集条件はPAC800mg/L、アニオンポリマーを2mg/Lまで増加した。また、この条件でも処理水COD_(cr)30mg/Lと実施例2に比べ処理水質は悪化した。 【符号の説明】 【0035】 1 第一生物処理槽 2 第二生物処理槽 1a,2a 担体 (57)【特許請求の範囲】 【請求項1】 好気性の第一生物処理槽に有機性排水を通水して細菌により分散菌を生成し、該第一生物処理槽からの分散菌を含む第一生物処理水を、流動床担体を添加した好気性の第二生物処理槽に導入して微小動物に捕食させる有機性排水の生物処理方法において、 全体のBOD容積負荷を2.0?5kg/m^(3)/dとし、 第一生物処理槽のBOD容積負荷を1kg/m^(3)/d以上として、第一生物処理槽において、有機性排水中の有機成分の70?90%を除去し、 第一生物処理水中の分散菌由来SSの、第二生物処理槽内の担体に対する負荷(以下、分散菌担体負荷という)を8kg-SS/m^(3)-担体/d以下とする有機性排水の生物処理方法であって、 第一生物処理水のSSの内、有孔板である目開き8μmのポリカーボネートフィルターを通過する微細SSを分散菌由来SSとして測定し、この測定結果に基づいて、第二生物処理槽の分散菌担体負荷が8kg-SS/m^(3)-担体/dを超えないように運転条件を調整することを特徴とする有機性排水の生物処理方法。 【請求項2】 請求項1において、第一生物処理槽を担体充填率20%以下の流動床とし、第二生物処理槽を担体充填率10%以上の流動床とすることを特徴とする有機性排水の生物処理方法。 【請求項3】 請求項1又は2において、第二生物処理槽処理水を凝集沈殿、凝集加圧浮上分離,及び膜分離の少なくとも1種よりなる固液分離手段により汚泥と処理水とに固液分離することを特徴とする有機性排水の生物処理方法。 【請求項4】 請求項1ないし3のいずれか1項において、第二生物処理槽のpHを6?7とすることを特徴とする有機性排水の生物処理方法。 【請求項5】 請求項1ないし4のいずれか1項において、第二生物処理槽に原水の一部を添加することを特徴とする有機性排水の生物処理方法。 【請求項6】(削除) |
訂正の要旨 |
審決(決定)の【理由】欄参照。 |
異議決定日 | 2017-09-27 |
出願番号 | 特願2012-80521(P2012-80521) |
審決分類 |
P
1
651・
853-
YAA
(C02F)
P 1 651・ 113- YAA (C02F) P 1 651・ 536- YAA (C02F) P 1 651・ 851- YAA (C02F) P 1 651・ 121- YAA (C02F) P 1 651・ 537- YAA (C02F) |
最終処分 | 維持 |
前審関与審査官 | 池田 周士郎、松井 一泰、金 公彦 |
特許庁審判長 |
新居田 知生 |
特許庁審判官 |
中澤 登 永田 史泰 |
登録日 | 2016-03-11 |
登録番号 | 特許第5895663号(P5895663) |
権利者 | 栗田工業株式会社 |
発明の名称 | 有機性排水の生物処理方法 |
代理人 | 重野 剛 |
代理人 | 重野 剛 |