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審決分類 |
審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 G01N 審判 全部申し立て 特36条4項詳細な説明の記載不備 G01N |
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管理番号 | 1334391 |
異議申立番号 | 異議2017-700239 |
総通号数 | 216 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許決定公報 |
発行日 | 2017-12-28 |
種別 | 異議の決定 |
異議申立日 | 2017-03-07 |
確定日 | 2017-10-23 |
異議申立件数 | 1 |
事件の表示 | 特許第5988362号発明「ガスセンサのエージング方法」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 |
結論 | 特許第5988362号の請求項1、2に係る特許を維持する。 |
理由 |
第1 手続の経緯 特許第5988362号(以下「本件特許」という。)の請求項1?2に係る特許についての出願は、平成24年7月30日を出願日として出願したものであって、平成28年8月19日付けでその特許権の設定登録がされ、その後、特許異議申立人 高田 真利(以下、「申立人」という。)より請求項1?2に対して特許異議の申立てがされ、平成29年4月28日付けで取消理由が通知され、同年6月30日に意見書の提出がされ、再度、同年7月21日付けで取消理由が通知され、同年9月14日に意見書及び実験成績報告書が提出されたものである。 第2 特許異議の申立てについて 1 本件特許発明 本件特許の請求項1?2に係る発明(以下、それぞれの発明を「本件特許発明1」、「本件特許発明2」という。)は、次の事項により特定される発明であると認める。 「【請求項1】 Si基板の空洞に設けた絶縁膜のブリッジまたは絶縁膜のダイアフラムに、金属酸化物半導体膜とヒータ膜とを設けたガスセンサのエージング方法において、 前記ヒータ膜に間欠的にヒータ電力を加えながら、室温の高湿雰囲気中でエージングすることにより、空気中での、ガスセンサのメタンあるいはLPGへの感度を向上させることを特徴とする、ガスセンサのエージング方法。 【請求項2】 前記室温は0℃以上40℃以下の温度であることを特徴とする、請求項1のガスセンサのエージング方法。」 第3 特許異議申立の理由について 1 申立の概要 申立人は、本件特許発明1、2に対して、以下の取消理由を申し立てている(申立書2?4頁「(4)具体的理由」)。 (1)申立理由1(特許法第36条第6項第1号違反) 本件特許発明1、2の「・・・前記ヒータ膜に間欠的にヒータ電力を加えながら、室温の高湿雰囲気中でエージングすることにより、空気中での、ガスセンサの・・・LPGへの感度を向上させる」という要件は、明細書に記載した発明の範囲を超えている。 (2)申立理由2(特許法第36条第4項第1号違反) 本件の特許明細書の発明の詳細な説明は、ガスセンサのLPGへの感度を向上させる室温の高湿中でのエージングについて、当業者がその実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載したものとはいえない。 第4 取消理由の概要 平成29年4月28日付けおよび同年7月21日付けで通知した当審の取消理由の概要は以下のとおりである。 取消理由1(特許法第36条第6項第1号違反について) 本件特許は、特許請求の範囲の記載が下記の点で不備のため、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない。 記 請求項1には、「空気中での、ガスセンサの」「LPGへの感度を向上させる」ことが記載されている。 しかし、発明の詳細な説明には、「空気中での、ガスセンサの」「メタンへの感度を向上させる」ことが記載されているのみであり、出願時の技術常識に照らしても、請求項1の「空気中での、ガスセンサの」「LPGへの感度を向上させる」ことまで、発明の詳細な説明に記載された内容を拡張できるとはいえない。 したがって、請求項1に係る発明は、発明の詳細な説明に記載されたものではない。 請求項1を引用する請求項2に係る発明も同様である。 なお、「金属酸化物半導体式ガスセンサをエージングすることにより、空気中での、ガスセンサのメタンへの感度が向上すると、ガスセンサのLPGへの感度も向上する」ことが出願時の技術常識といえる場合は、その点、意見書で釈明して下さい。 なお、平成29年6月30日付け意見書の主張より、本件の発明の詳細な説明の記載及び乙第1?21号証の証拠から、ガスセンサのメタンの感度が向上すると、LPGの感度も向上するという技術常識は理解でき、この技術常識よりエージングすることによりメタンの感度が向上するのであれば、エージングすることによりLPGの感度も向上することが推認できることは理解できる。 ついては、エージングすることによりLPGの感度が向上するとの主張を裏付けられたい。 第5 特許法第36条第6項第1号に関する取消理由1についての当審の判断 1 平成29年6月30日付に意見書で証拠として提出された文献 (1)乙第1号証:「2 ガスセンサー」化学センサー その基礎と応用、講談社、1982年3月1日発行、66?70頁、 (2)乙第2号証:「第3章 民生用機器における触媒利用技術」触媒利用技術集成、信山社出版(株)、1991年12月20日発行、255?259頁、 (3)乙第3号証:M.C.Carotta et al.,Sensing of volatile alkanes by metal-oxide semiconductors,Sensors and Actuators B 130,(2008)p.497?501 (4)乙第4号証:N.Yamazoe et.al.,Effects of Additives on Semiconductor Gas Sensors,Sensors and Actuators, 4(1983)p.283?289、 (5)乙第5号証:山添昇、「半導体ガスセンサー」、Vol.50,No.1,1982、29?37頁、 (6)乙第6号証:特許3087972号公報 (7)乙第7号証:特許2702272号公報 (8)乙第8号証:特許3171720号公報 (9)乙第9号証:特許3380310号公報 (10)乙第10号証:特許3380311号公報 (11)乙第11号証:特公平7-3399号公報 (12)乙第12号証:特公平7-72726号公報 (13)乙第13号証:特許3146111号公報 (14)乙第14号証:特許3522257号公報 (15)乙第15号証:特開平7-140102号公報 (16)乙第16号証:特開2006-46970号公報 (17)乙第17号証:特公平6-43978号公報 (18)乙第18号証:特公昭58-47663号公報 (19)乙第19号証:特公昭61-37577号公報 (20)乙第20号証:特許2980290号公報 (21)乙第21号証:特許2791475号公報 上記乙第6?21号証は、「メタン感度とLPG感度は類似の挙動を示すので、メタンの感度を示してLPG感度を省略し、逆にイソブタン等への感度を示してメタン感度を省略することが行われていた。またメタンとLPGへの感度は、可燃性ガス感度、難燃性ガス感度、燃料ガス感度などとして、一括して扱われることがあった。」との技術常識を示すための証拠として提出されており、「ガスセンサのメタンの感度が向上すると、LPGの感度も向上する。」という技術常識を示す証拠ではないので、以下、「ガスセンサのメタンの感度が向上すると、LPGの感度も向上する。」という技術常識を示す証拠として提出されている乙第1?5号証のみを検討する。 2 上記乙第1?5号証に記載されている技術事項と、読み取れる技術常識 (1) 乙第1号証には、「一般にガスの相対感度はガスの分子の炭素数、構造、置換基の種類などに顕著に依存する。炭素数は、一般に大きいものほど相対感度が大きい。飽和炭化水素については直鎖分子か環状分子かの差はあまりないが、芳香族のもの(C_(6)H_(6)など)では、一般に小さい。直鎖分子でも不飽和結合をもつものは、たとえばアセチレン>エチレン>エタンのように不飽和性が高いほど大きくなる。・・・前述のようにガスの相対感度は、ガス分子の接触酸化のされやすさと関連すると考えられる。不飽和結合をもつものは一般に相対感度が大きい。・・・また飽和炭化水素ではメタンの相対感度が最小であるが、これはメタンの酸化が炭化水素中、もっとも起こりにくいことと対応する。炭化水素の酸化は・・・酸化的脱水素によって開始されると考えられる。結合乖離エネルギーは・・・メタンで最大であり、炭素数2以上で減少し、プロピレンでは非常に小さいこれれからメタンの反応性が小さい理由がうかがわれる。・・・これらのガスの場合、半導体表面との接触によって表面に存在する吸着酸素などと反応し、これによって半導体の電気伝導度を増大させると考えられ、接触酸化の受けやすさがガス相対感度に影響するものと理解される。」(66頁下から8行?68頁3行)と記載されている。 (2) 乙第2号には、「可燃性ガスのガス感度は、・・・半導体式は、 ○1(当審注:「○1」は、○の中に数字1が入っているものを表す。以下「○2」?「○4」も同様。) 炭素数が多い炭化水素ほど感度が高い。 ○2 同一炭素数では、不飽和結合が多いほど感度が高い。 ○3 アルコール、アルデヒド、ケトン、アミンなどの官能基をもつものは感度が高い。 ○4 H_(2),COのように反応性の高いものは、比較的低い温度で最大感度が得られる。 の一般的傾向を持つ。」(255頁第15行?第22行)と記載されている。 (3) 乙第3号証は金属酸化物ガスセンサに関し、「当審訳:我々は最初にアルカンに対するセンサの感度を調べた。・・・一般的な傾向として、センサ感度は分子中の炭素数(C1-C4)と共に増加し、従って、n-及びi-ブタンは同等の感度を示した。・・・アルカンとセンサとの相互作用を説明する試みがなされている。・・・いずれの場合も、反応の最初のステップはC-H結合の解離で、これが律速である考えられ、次に水素原子は表面に吸着される。」(498頁左欄13行?右欄下から7行)と記載されている。 (4) 乙第4号証は、「当審訳:センサ材料が触媒酸化を充分促進できるほど活性であれば、ガス感度が高いことを意味する。」(287頁4?6行)と記載されている。 (5) 乙第5号証は、各種ガスヘの感度を「図6 半導体ガスセンサーの検出感度比較」として記載している。 また、「(2)可燃性ガスの相対ガス感度は・・・その序列は、接触酸化(燃焼)のされやすさの序列と合致することが多い。」(33頁左欄11行?13行)と記載されている。 (6)上記乙第1?第5号証をまとめる 乙第3号証には、炭化水素の検出での最初のステップはC-H結合の解離である。 乙第5号証には、可燃性ガスの相対ガス感度の序列は、ガスの接触酸化(燃焼)のされやすさの序列と合致することが多い。 乙第1号証には、ガスの相対感度は、ガス分子の接触酸化のされやすさと関連すると考えられ、半導体表面との接触によって表面に存在する吸着酸素などと反応し、これによって半導体の電気伝導度を増大させる。 乙第4号証には、センサ材料が触媒酸化を充分促進できるほど活性であれば、ガス感度が高いことを意味する。 乙第2号証には、可燃性ガスのガス感度は炭素数が多い炭化水素ほど感度が高く、同一炭素数では、不飽和結合が多いほど感度が高い。 との技術事項が記載されている。 以上より、センサの炭化水素ガスの検出メカニズムが、炭化水素ガスのC-H結合が解離し、センサ材料に接触し、センサ材料の触媒作用により、乖離したC-H結合がセンサ材料の表面に存在する吸着酸素などと反応し、接触酸化(燃焼)されることにより、半導体の電気伝導度を増大させることにより行うことは技術常識である。 このことは、可燃性ガスのガス感度が炭素数が多い炭化水素ほど感度が高く、同一炭素数では、不飽和結合が多いほど感度が高い現象と合致している。 そうすると、乖離したC-H結合がセンサ材料の表面に存在する吸着酸素などと反応し易いほど感度が良いといえるので、センサ材料の表面が、乖離したC-H結合がセンサ材料の表面に存在する吸着酸素などと反応し易いように改質される効果は、同じC-H結合を有するメタンとLPGには同様に奏するものといえる。 3 上記の技術常識より、ガスセンサのメタンの感度が向上すると、LPGの感度も向上するという技術事項は理解でき、この技術事項よりエージングすることによりメタンの感度が向上するのであれば、エージングすることによりLPGの感度も向上することも理解できる。 このことは、平成29年9月14日に提出された、本願の実施例にLPGも加えた実験成績報告書において、裏付けられている。 4 したがって、メタンについてのエージングすることにより感度が向上することについては,特許明細書に実施例が記載されており、LPGについては、段落19に記載されているのみであるが、当業者には、上記技術常識より、メタンについてのエージングすることにより感度が向上する記載から、LPGについてもエージングすることにより感度が向上することが十分に理解できる。 5 してみると、出願時の技術常識に照らして、本件特許発明1、2の範囲まで、発明の詳細な説明に開示された内容を拡張ないし一般化できないとまではいえないから、請求項1、2の記載は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしている。 第6 取消理由通知において採用しなかった特許異議申立理由2(特許法第36条第4項第1号違反))について 本件特許の発明の詳細な説明には、「ガスセンサのメタンへの感度を向上させるエージングの温度や湿度、加熱周期」が開示されている。そして、上記「第5」で検討したように、「エージングすることによりメタンの感度が向上するのであれば、エージングすることによりLPGの感度も向上する」ことが技術常識であるから、本件特許の発明の詳細な説明に開示されている「ガスセンサのメタンへの感度を向上させるエージングの温度や湿度、加熱周期」は、そのまま「ガスセンサのLPGへの感度を向上させるエージングの温度や湿度、加熱周期」であるといえるから、発明の詳細な説明は、当業者が請求項1、2に係る発明を実施できる程度に明確かつ十分に記載されていないものということはできない。 第7 むすび 以上のとおりであるから、平成29年4月28日付け、同年7月21日付けの取消理由通知に記載した取消理由及び特許異議申立書に記載された特許異議申立理由によっては、請求項1?2に係る特許を取り消すことはできない。 また、他に請求項1?2に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。 よって、結論の通り決定する。 |
異議決定日 | 2017-10-10 |
出願番号 | 特願2012-168072(P2012-168072) |
審決分類 |
P
1
651・
536-
Y
(G01N)
P 1 651・ 537- Y (G01N) |
最終処分 | 維持 |
前審関与審査官 | 櫃本 研太郎 |
特許庁審判長 |
福島 浩司 |
特許庁審判官 |
▲高▼見 重雄 信田 昌男 |
登録日 | 2016-08-19 |
登録番号 | 特許第5988362号(P5988362) |
権利者 | フィガロ技研株式会社 |
発明の名称 | ガスセンサのエージング方法 |
代理人 | 塩入 みか |
代理人 | 塩入 明 |