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審決分類 審判 判定 同一 属さない(申立て不成立) A47G
管理番号 1334411
判定請求番号 判定2017-600024  
総通号数 216 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許判定公報 
発行日 2017-12-28 
種別 判定 
判定請求日 2017-06-05 
確定日 2017-10-27 
事件の表示 上記当事者間の特許第3293036号の判定請求事件について、次のとおり判定する。 
結論 イ号製品並びにイ号図面及びその説明書に示す「ティッシュペーパー箱ホルダー」は、特許第3293036号発明の技術的範囲に属しない。 
理由 第1 請求の趣旨
本件判定の請求の趣旨は、イ号製品並びにイ号図面及びその説明書に示す「ティッシュペーパーの箱ホルダー」(以下「イ号物件」という。)は、特許第3293036号の技術的範囲に属する、との判定を求めるものである。


第2 本件特許発明
本件特許第3293036号の請求項1に係る発明(以下「本件特許発明」という。)は、願書に添付した明細書の特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定されるとおりのものであって、符号を付して分説すれば、次のとおりとなる(以下、符号A?Fに係る事項を、それぞれ「構成要件A」?「構成要件F」という。)。
「【請求項1】
A 弾性矩形状基板の中央にティッシュペーパー箱(以下箱と称す)の底の長辺を交差する様に置き、その長辺を挟んで両側に対称に側壁を立設しコの字状を形成、このとき側壁の幅は箱の長辺の幅を超えないようにし、
B また側壁を内側に、後の(1)(2)(3)の作用が相互に作用しあうのに最適な角度に倒し、基板底部内面と側壁内面との内角を鋭角にする、
C 両側壁上端を箱の側辺を挟んで内側にほぼ直角に曲げる、このときほぼ直角に曲げられた上壁の長さは、箱をしっかり抱え込み、後に側壁を拡げて箱を上壁方向で脱着するのに支障無い程度にする、
D こうして作られたホルダーに箱を装着すると、基板底部と側壁との内角が元に戻ろうとする力が働き次の様な作用を生む、
(1)両側壁が箱の両側面を押圧し、静摩擦力が生まれる。
(2)基板底部が弧を描き箱の底部を押圧する、この場合箱上部は両上壁で押さえられているので、両上壁と基板底部とで静摩擦力が生まれる。
(3)基板底部が弧を描くことで側壁間の距離が短くなり、両側壁が箱の両側辺を押圧し、静摩擦力が生まれる。
E 上記の(1)(2)(3)の作用が同時に起こり、お互いに作用しあい相乗効果を生み、両上壁面、両側壁面、基板底部面の5箇所で全体に締めつける様にバランス良く箱を押圧する。そのため静摩擦力が一層強くなる、
F 以上の事を特徴としたティッシュペーパー、ペーパータオル等の箱ホルダー。」


第3 イ号物件
1.イ号図面及び説明書
請求人の提出したイ号製品のパッケージ裏面における「本体/ABS樹脂」なる記載及び物理的な技術常識も参酌しつつ、請求書に添付したイ号図面及び説明書をみると、次の事項が看取できる。
(1)イ号物件は、ティッシュペーパーの箱ホルダーであって、“矩形状の基板の中央にティッシュペーパーの箱の底の長辺を交差する様に置き、その長辺を挟んで両側に対称に側壁を立設しコの字状を形成、このとき側壁の幅は箱の長辺の幅を超えないようにする構成”を備えること。
(2)両側壁上端が外側に曲げられており、両側壁上端には、ティッシュペーパーの箱を上方から抱え込むような部材が存在しないこと。
(3)基板から立ち上がる側壁の内面と基板内面とが成す角は鋭角となっていること。
(4)両側壁の内面に2箇所ずつ突起が設けられていること。
(5)ホルダーにティッシュペーパーの箱を装着すると、基板底部と側壁との内角が元に戻ろうとする力が働くこと。
また、ティッシュペーパーの箱の底部に対しては、基板底部が弧を描き箱底部と当接して押圧し、また、ティッシュペーパーの箱の側面に対しては、両側壁の4個の突起のみが箱側面と当接して押圧し、さらに、ティッシュペーパーの箱の上面に対しては、何らの押圧力が作用しないこと(特に、「箱を装着した状態を示す写真」を参照。)。
さらに、その結果、ティッシュペーパーの箱を、両側壁面の4個の突起、基板底部面の5箇所で押圧するのであるから、箱の4面全体ではなく、箱の両側面、底面の3面で締めつける様にバランス良く押圧していること。
(6)上記(5)に示す各「押圧」作用の発生には、上記(3)で示した「側壁の内面と基板内面とが成す角は鋭角となっていること」が寄与すること、また、各「押圧」作用に伴って、適宜の静摩擦力が発生しうること。

2.イ号物件の認定
以上を踏まえつつ、イ号物件を、本件特許発明の構成要件に対応させて整理、分説すると、その構成は次のとおりのものである(以下、符号a?fに係る事項を、それぞれ「構成a」?「構成f」という。)。
a 矩形状のABS樹脂基板の中央にティッシュペーパーの箱(以下箱と称す)の底の長辺を交差する様に置き、その長辺を挟んで両側に対称に側壁を立設しコの字状を形成、このとき側壁の幅は箱の長辺の幅を超えないようにし、
b また側壁を内側に、後の(1)(2)(3)の作用が相互に作用しあうのに最適な角度に倒し、基板底部内面と側壁内面との内角を鋭角にする、
c 両側壁上端を外側に曲げる、
d こうして作られたホルダーに箱を装着すると、基板底部と側壁との内角が元に戻ろうとする力が働き次の様な作用を生む、
(1)両側壁の内面に2箇所ずつ設けられた突起が箱の両側面を押圧し、静摩擦力が生まれる。
(2)基板底部が弧を描き箱の底部を押圧する。
(3)基板底部が弧を描くことで側壁間の距離が短くなり、両側壁の内面に2箇所ずつ設けられた突起が箱の両側面を押圧し、静摩擦力が生まれる。
e 上記の(1)(2)(3)の作用が同時に起こり、お互いに作用しあい相乗効果を生み、両側壁面の4個の突起、基板底部面の5箇所で箱の両側面、底面を締めつける様にバランス良く箱を押圧する。そのため静摩擦力が一層強くなる、
f 以上の構成を備えたティッシュペーパーの箱ホルダー。


第4 当審の判断
上記「第3」の「2.イ号物件の認定」で認定したイ号物件の構成d、eに関し、請求人は、平成29年8月22日付け回答書において、イ号物件は、「こうして作られたホルダーに箱を装着すると、基板底部と側壁との内角が元に戻ろうとする力が働き次の様な作用を生む、(1)両側壁が箱の両側面を押圧し、静摩擦力が生まれる。(2)基板底部が弧を描き箱の底部を押圧する、この場合箱が上方向にずれない様に箱側面に食い込む様に作られている突起と基板底部とに静摩擦力が生まれる(3)基板底部が弧を描くことで側壁間の距離が短くなり、両側壁が箱の両側辺を押圧し、静摩擦力が生まれる。上記の(1)(2)(3)の作用が同時に起こり、お互いに作用しあい相乗効果を生み、両側壁面、箱側面に食い込む様に作られた4箇所の突起、基板底部面とで締めつける様にバランス良く箱を押圧する。そのため静摩擦力が一層強くなる、」という構成を備える旨の主張をしているので検討する。
請求人主張の当該構成のうち、「両側壁面、箱側面に食い込む様に作られた4箇所の突起、基板底部面とで締めつける様にバランス良く箱を押圧する」なる構成によれば、イ号物件は、両側壁面の少なくとも2箇所、箱側面に作られた4箇所の突起、基板底部面1箇所の、少なくとも合計7箇所で箱を押圧するものとなるが、イ号図面及び説明書における「箱を装着した状態を示す写真」、「突起が箱側面に食い込んでいる状態及び突起が食い込み箱が上方向にずれていないことを示す写真」をみれば、ティッシュペーパーの箱の側面と当接するホルダーの部位は、両側壁の4個の突起のみであることは明らかであって、しかも、これらの写真で示すような箱の装着形態は、イ号物件に対して箱を装着する場合における通常の装着形態といえるものであって不自然なところも見当たらない。
そうすると、請求人の上記主張は、イ号図面及び説明書における、箱の通常の装着状態を示す上記各写真の内容と矛盾するものであって、採用できない。

そこで、イ号物件を上記「第3」の「2.イ号物件の認定」で認定したとおりのものとして、先ず、イ号物件が本件特許発明の構成要件A?Fを文言上充足するものであるか否かにつき、構成要件毎に検討することとする。

1.構成要件毎の対比・判断
(1)構成要件Aについて
イ号物件の「矩形状のABS樹脂基板」、「ティッシュペーパーの箱」は、それぞれ本件特許発明の「弾性矩形状基板」、「ティッシュペーパー箱」にそれぞれ相当するので、イ号物件の構成aは、構成要件Aを充足する。

(2)構成要件Cについて
イ号物件は、構成cで特定したように、「両側壁上端を外側に曲げる」ものであるから、「両側壁上端を箱の側辺を挟んで内側にほぼ直角に曲げる」構成、「箱をしっかり抱え込み、後に側壁を拡げて箱を上壁方向で脱着するのに支障無い程度」の「長さ」の「上壁」のいずれをも具備しない。
よって、構成cは、構成要件Cを充足しない。

(3)構成要件Dについて
イ号物件は、「両側壁の内面に2箇所ずつ設けられた突起が箱の両側面を押圧」するものであるところ、当該「突起」は「側壁」の一部であるから、イ号物件の「両側壁」も、「箱の両側面を押圧」するものといえる。
また、イ号物件の構成dにおける「(3)」の「箱の両側面を押圧し」は、構成要件Dにおける「(3)」の「箱の両側辺を押圧し」に相当する。
してみると、イ号物件の構成dは、構成要件Dのうち「こうして作られたホルダーに箱を装着すると、基板底部と側壁との内角が元に戻ろうとする力が働き次の様な作用を生む、(1)両側壁が箱の両側面を押圧し、静摩擦力が生まれる。」、「(2)基板底部が弧を描き箱の底部を押圧する」、「(3)基板底部が弧を描くことで側壁間の距離が短くなり、両側壁が箱の両側辺を押圧し、静摩擦力が生まれる。」との各部分を充足する。
しかしながら上記(2)で検討したように、イ号物件は、「上壁」を具備しないのであるから、構成要件Dのうち、「(2)」の「この場合箱上部は両上壁で押さえられているので、両上壁と基板底部とで静摩擦力が生まれる。」との部分を充足しない。

(4)構成要件Bについて
イ号物件は、構成要件Bのうち、「また側壁を内側に、」「倒し、基板底部内面と側壁内面との内角を鋭角にする」との部分は充足するが、上記(3)で検討したとおり、イ号物件は、構成要件Dのうち、「(2)」の「この場合箱上部は両上壁で押さえられているので、両上壁と基板底部とで静摩擦力が生まれる。」との部分を充足しないのであるから、構成要件Bの「また側壁を内側に、後の(1)(2)(3)の作用が相互に作用しあうのに最適な角度に倒し」との部分を充足しない。

(5)構成要件Eについて
上記(3)で検討したとおり、イ号物件は、構成要件Dのうち、「(2)」の「この場合箱上部は両上壁で押さえられているので、両上壁と基板底部とで静摩擦力が生まれる。」との部分を充足しないのであるから、構成要件Eの「上記の(1)(2)(3)の作用が同時に起こり、お互いに作用しあい相乗効果を生み、」との部分を充足しない。
また、上記(2)で検討したように、イ号物件は、「上壁」を具備しないのであるから、構成要件Eのうち、「両上壁面、両側壁面、基板底部面の5箇所で全体に締めつける」との部分を充足しない。

(6)構成要件Fについて
イ号物件の「ティッシュペーパーの箱ホルダー」は、本件特許発明の「ティッシュペーパー、ペーパータオル等の箱ホルダー」に相当するが、上記(2)?(5)で検討したとおり、イ号物件は、構成要件B?Eを充足しないのであるから、構成要件Fのうち、「以上の事を特徴とした」との部分を充足しない。

(7)構成要件毎の対比・判断についてのまとめ
以上の(1)?(6)のとおり、イ号物件は、本件特許発明の構成要件Aを文言上充足するものの、構成要件B?Fを文言上充足するものとすることはできない。

2.均等について
本件特許発明とイ号物件とは、上記1.(2)?(6)で示したように、少なくとも次の点で異なっている。
本件特許発明は、「両側壁上端を箱の側辺を挟んで内側にほぼ直角に曲げる、このときほぼ直角に曲げられた上壁」を備え、「(2)基板底部が弧を描き箱の底部を押圧する、この場合箱上部は両上壁で押さえられているので、両上壁と基板底部とで静摩擦力が生まれる。」との作用を生み、さらに、「(1)(2)(3)の作用が同時に起こり、お互いに作用しあい相乗効果を生み、両上壁面、両側壁面、基板底部面の5箇所で全体に締めつける様にバランス良く箱を押圧する。」のに対し、イ号物件は、両側壁上端を外側に曲げるため、「上壁」を備えず、その結果、「(2)基板底部が弧を描き箱の底部を押圧する、この場合箱上部は両上壁で押さえられているので、両上壁と基板底部とで静摩擦力が生まれる。」との作用は生まれず、また、「(1)(2)(3)の作用が同時に起こり、お互いに作用しあい相乗効果を生み、両上壁面、両側壁面、基板底部面の5箇所で全体に締めつける様にバランス良く箱を押圧する。」ものでもない点。

ところで、特許請求の範囲に記載された構成中に対象製品等と異なる部分が存する場合であっても、(1)前記異なる部分が特許発明の本質的部分ではなく、(2)前記異なる部分を対象製品等におけるものと置き換えても、特許発明の目的を達することができ、同一の作用効果を奏するものであって、(3)前記のように置き換えることに、当該発明の属する技術分野における通常の知識を有する者(以下「当業者」という。)が、対象製品等の製造等の時点において容易に想到することができたものであり、(4)対象製品等が、特許発明の特許出願時における公知技術と同一又は当業者がこれから前記出願時に容易に推考できたものではなく、かつ、(5)対象製品等が特許発明の特許出願手続において特許請求の範囲から意識的に除外されたものに当たるなどの特段の事情もないときは、前記対象製品等は、特許請求の範囲に記載された構成と均等なものとして、特許発明の技術的範囲に属するものと解される(最高裁平成6年(オ)第1083号:以下、これら(1)ないし(5)の要件を、それぞれ「均等の第1要件」ないし「均等の第5要件」という。)。

そこで、本件特許発明における、イ号物件と異なる部分に係る構成、即ち、「両側壁上端を箱の側辺を挟んで内側にほぼ直角に曲げる、このときほぼ直角に曲げられた上壁」を備え、「(2)基板底部が弧を描き箱の底部を押圧する、この場合箱上部は両上壁で押さえられているので、両上壁と基板底部とで静摩擦力が生まれ」、「(1)(2)(3)の作用が同時に起こり、お互いに作用しあい相乗効果を生み、両上壁面、両側壁面、基板底部面の5箇所で全体に締めつける様にバランス良く箱を押圧する」構成(以下「本件相違部分」という。)について検討する。

(1)均等の第1要件(非本質的部分)について
本件特許の願書に添付した明細書には、以下の記載がある。
ア:「技術分野
本発明はティッシュペーパー、ペーパータオル等の箱ホルダーに関するものである。」
イ:「背景技術
従来様々なティッシュペーパー、ペーパータオル等の箱ホルダーが考案されている、それらを分類すると次の様になる、
(1)箱側壁狭持型
(2)箱側壁押圧型
(3)箱上面加圧型
(4)上記(2)(3)の複合型
(5)箱全体収容型
参考文献 公開実用 昭和55-27677
公開実用 昭和60-48792
公開実用 平成03-94169」
ウ:「発明の開示
弾性矩形状基板の中央にティッシュペーパー箱(以下箱と称す)の底の長辺を交差する様に置き、その長辺を挟んで両側に対称に側壁を立設しコの字状を形成、このとき側壁は幅は箱の長辺の幅を超えないようにし、また側壁を内側に、後の(1)(2)(3)の作用が相互に作用しあうのに最適な角度に倒し、基板底部内面と側壁内面との内角を鋭角にする、両側壁上端を箱の側辺を挟んで内側にほぼ直角に曲げる、このときほぼ直角に曲げられた上壁の長さは、箱をしっかり抱え込み、後に側壁を拡げて箱を上壁方向で脱着するのに支障無い程度にする、こうして作られたホルダーに箱を装着すると、基板底部と側壁との内角に元に戻ろうとする力が働き次の様な作用を生む、
(1)両側壁が箱の両側面を押圧し、静摩擦力が生まれる。
(2)基板底部が弧を描き箱の底部を押圧する、この場合箱上部は両上壁て押さえられているので、両上壁と基板底部とで静摩擦力が生まれる。
(3)基板底部が弧を描くことで側壁間の距離が短くなり、両側壁が箱の両側辺を押圧し、静摩擦力が生まれる。
上記の(1)(2)(3)の作用が同時に起こり、お互いに作用しあい相乗効果を生み、両上壁面、両側壁面、基板底部面の5箇所で全体に締めつける様にバランス良く箱を押圧する。そのため静摩擦力が一層強くなる。」
エ:「産業上の利用の可能性
近年、生活レベルの向上とともにティッシュペーの使用量が飛躍的に伸びており、生活空間の色々な場所に置いてある。これは不用な時は邪魔であり、美観も良くない、しかし使いたいとき、すぐに手元に無いと困る、またペーパーを引き出すとき箱が動いて引き出しにくかったり、箱の中のペーパーが少なくなると中に落ちて使いにくい、等々の問題点がある、本発明は弾性基板を単に曲げただけの単純な形状で出来ている、そのため可塑性樹脂を用いて射出一体成形で製作出来、また、固定力が強いのでホルダーの小型化が出来、安価で製作出来る、また側壁外面、基板底部外面を用いて様々な場所と向きに設置出来る、そのため、使用していない空間を有効に利用して様々な場所に設置する事が出来、上記の問題は解決される。」

上記摘記事項エの記載によれば、本件特許発明が解決しようとする課題として、
i)弾性基板を単に曲げただけの単純な形状として一体成形で製作すること
ii)固定力を強くしてホルダーの小型化をすること
iii)安価で製作すること
iv)側壁外面、基板底部外面を用いて様々な場所と向きに設置すること
が示されているが、摘記事項イに記載の各参考文献の開示内容によれば、上記i)、iii)、iv)の課題に関し、弾性基板を単に曲げただけの単純な形状として一体成形で安価に製作した箱ホルダー、側壁外面、基板底部外面を用いて様々な場所と向きに設置できる箱ホルダーは、いずれも本件特許発明の出願当時において公知の技術であったものといえる。
これに対し、上記ii)の課題であるホルダーの「固定」に関し、摘記事項イの記載によれば、従来、箱ホルダーによる箱の保持・固定タイプとして、「(2)箱側壁押圧型」、「(3)箱上面加圧型」、「(4)上記(2)(3)の複合型」はあったが、「両上壁面、両側壁面、基板底部面の5箇所で全体に締めつける様にバランス良く箱を押圧する」(摘記事項ウ)ようなホルダーは、従来なかったものといえる。
本件特許発明の出願当時におけるこのような技術水準に照らしつつ、摘記事項ウの「両上壁面、両側壁面、基板底部面の5箇所で全体に締めつける様にバランス良く箱を押圧する。そのため静摩擦力が一層強くなる。」の記載をみれば、従来技術では十分に解決できなかった本件特許発明の技術的課題は、ホルダーが箱を両上壁面、両側壁面、基板底部面の5箇所で全体に、即ち4面から締めつける様にバランス良く押圧すること、また、この押圧に当たり、静摩擦力を一層強くすること、即ち、箱を一層しっかりと固定することにあるものと解される。

本件特許発明では、このような技術的課題を解決するために、「側壁を内側に、後の(1)(2)(3)の作用が相互に作用しあうのに最適な角度に倒し、基板底部内面と側壁内面との内角を鋭角にする」という構成要件Bに係る構成、「両側壁上端を箱の側辺を挟んで内側にほぼ直角に曲げる、このときほぼ直角に曲げられた上壁の長さは、箱をしっかり抱え込み、後に側壁を拡げて箱を上壁方向で脱着するのに支障無い程度にする」という構成要件Cに係る構成を採用するとともに、「ホルダーに箱を装着すると、基板底部と側壁との内角に元に戻ろうとする力が働き次の様な作用を生む、(1)両側壁が箱の両側面を押圧し、静摩擦力が生まれる。(2)基板底部が弧を描き箱の底部を押圧する、この場合箱上部は両上壁て押さえられているので、両上壁と基板底部とで静摩擦力が生まれる。(3)基板底部が弧を描くことで側壁間の距離が短くなり、両側壁が箱の両側辺を押圧し、静摩擦力が生まれる。」という構成要件Dに係る構成、「上記の(1)(2)(3)の作用が同時に起こり、お互いに作用しあい相乗効果を生」むという構成要件Eに係る構成をも同時に採用したのであるから、これらの一連の構成は、従来技術に見られない本件特許発明特有の解決手段といえるものである。
そして、本件特許発明特有の解決手段のうち、「ホルダーに箱を装着すると、基板底部と側壁との内角に元に戻ろうとする力が働き次の様な作用を生む、(1)両側壁が箱の両側面を押圧し、静摩擦力が生まれる。(2)基板底部が弧を描き箱の底部を押圧する、この場合箱上部は両上壁て押さえられているので、両上壁と基板底部とで静摩擦力が生まれる。(3)基板底部が弧を描くことで側壁間の距離が短くなり、両側壁が箱の両側辺を押圧し、静摩擦力が生まれる。」という構成要件Dに係る構成及び「上記の(1)(2)(3)の作用が同時に起こり、お互いに作用しあい相乗効果を生」むという構成要件Eに係る構成は、本件特許発明特有の作用効果を生じさせる技術的思想の特徴的原理をなす部分であるから、本件特許発明特有の解決手段を基礎付ける技術的思想の中核をなす特徴的部分、即ち、本件特許発明の本質的部分である。
そうすると、本件相違部分は、本件特許発明の本質的部分に係るものといえるので、均等の第1要件を充足しない。

(2)均等の第2要件(置換可能性)について
本件相違部分である「両側壁上端を箱の側辺を挟んで内側にほぼ直角に曲げる、このときほぼ直角に曲げられた上壁」をイ号物件における「両側壁上端を外側に曲げる」構成と置き換えると、「上壁」を欠くこととなるが、本件特許発明において、本件相違部分である「上壁」を欠くと、「(2)基板底部が弧を描き箱の底部を押圧する、この場合箱上部は両上壁で押さえられているので、両上壁と基板底部とで静摩擦力が生まれ」る事項、「(1)(2)(3)の作用が同時に起こり、お互いに作用しあい相乗効果を生み、両上壁面、両側壁面、基板底部面の5箇所で全体に締めつける様にバランス良く箱を押圧する」事項のいずれをも欠くこととなり、その結果、本件特許発明における上記技術的課題の解決が達成できないことは明らかである。
よって、本件相違部分をイ号物件におけるものと置き換えても、本件特許発明の目的を達することができるものとも、同一の作用効果を奏するものともいえないので、均等の第2要件を充足しない。

(3)均等の第3要件(置換容易性)について
上記(2)で示したように、本件相違部分をイ号物件におけるものと置き換えると、本件特許発明の目的を達することができるものとはいえないし、また、本件相違部分をイ号物件におけるものと置き換えるべき動機付けも見当たらない。
よって、当業者といえども、本件相違部分をイ号物件におけるものと置き換えることを、イ号物件の製造等の時点において容易に想到することができたものとはいえないのであるから、均等の第3要件を充足しない。

(4)均等についてのまとめ
したがって、イ号物件は、均等の第1要件ないし第3要件を充足しないから、均等の第4要件ないし第5要件について検討するまでもなく、イ号物件が本件特許発明の均等なものとして、本件特許発明の技術的範囲に属するとはいえない。


第5 むすび
以上のとおり、イ号物件は、本件特許発明の技術的範囲に属しない。
よって、結論のとおり判定する。
 
別掲
 
判定日 2017-10-18 
出願番号 特願平10-535550
審決分類 P 1 2・ 1- ZB (A47G)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 大山 広人  
特許庁審判長 高木 彰
特許庁審判官 関谷 一夫
五閑 統一郎
登録日 2002-04-05 
登録番号 特許第3293036号(P3293036)
発明の名称 ティッシュペーパー箱ホルダー  
復代理人 内山 邦彦  
代理人 杉本 勝徳  

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