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審決分類 審判 全部無効 特36条4項詳細な説明の記載不備  C23C
審判 全部無効 2項進歩性  C23C
審判 全部無効 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  C23C
審判 全部無効 1項3号刊行物記載  C23C
管理番号 1334599
審判番号 無効2015-800155  
総通号数 217 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2018-01-26 
種別 無効の審決 
審判請求日 2015-07-23 
確定日 2017-07-10 
訂正明細書 有 
事件の表示 上記当事者間の特許第5020228号発明「金属被覆スチールストリップ」の特許無効審判事件について、次のとおり審決する。 
結論 特許第5020228号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1-10、19〕、〔11-18〕について訂正することを認める。 請求項1-9、11-17、19に記載された発明についての審判の請求は成り立たない。 請求項10、18についての本件審判の請求を却下する。 審判費用は、請求人の負担とする。 
理由 第1 手続の経緯

特許第5020228号(以下、「本件特許」という。)に係る特許出願(特願2008-504574号)は、2006年(平成18年) 4月 5日(パリ条約による優先権主張 2005年 4月 5日 (AU)オーストラリア国)を国際出願日とする出願であって、その請求項1?19に係る発明は、平成24年 6月22日にその特許の設定登録がなされたものである。
これに対し、JFE鋼板株式会社から平成27年 7月23日付けで請求項1?19に係る発明の特許について無効審判の請求がなされたところ、その後の手続の経緯は、おおむね次のとおりである。

平成27年11月 9日付け 答弁書(被請求人)
同年11月 9日付け 訂正請求書(被請求人)
同年11月24日付け 訂正請求書についての手続補正指令書(被請求人宛)
同年12月17日付け 訂正請求書についての手続補正書(被請求人)
同年12月25日付け 審尋(請求人)
平成28年 1月20日付け 審尋回答書(請求人)
同年 5月 9日付け 審尋(請求人)
同年 5月23日付け 上申書(被請求人)
同年 5月26日付け 審尋回答書(請求人)
同年10月27日付け 審理事項通知書(請求人宛、被請求人宛)
同年11月17日付け 口頭審理陳述要領書(請求人)
同年12月 9日付け 口頭審理陳述要領書(被請求人)
同年12月22日付け 新日鐵住金株式会社(以下、「参加人1」という。)からの参加申請書
同年12月22日付け 日鉄住金鋼板株式会社(以下、「参加人2」という。)からの参加申請書
同年12月22日付け 訂正請求書についての手続補正書(被請求人)
平成29年 1月19日付け 上申書(請求人)
同年 1月23日付け 参加人1及び参加人2からの参加申請書に対する意見書(請求人)
同年 1月24日付け 参加許否の決定(参加人1からの参加申請の許可)
同年 1月24日付け 参加許否の決定(参加人2からの参加申請の許可)
同年 1月27日 第1回口頭審理
同年 2月 1日付け 証拠説明書(請求人)
同年 2月28日付け 上申書(被請求人)

第2 訂正の適否
1 訂正の内容
平成27年12月17日付け手続補正書、及び、平成28年12月22日付け手続補正書により補正された平成27年11月 9日付けの訂正請求書による訂正(以下、「本件訂正」という。)は、請求項1?10、19からなる一群の請求項に係る訂正(以下、「本件訂正1」という。)及び請求項11?18に係る訂正(以下、「本件訂正2」という。)からなり、本件訂正1及び本件訂正2は、それぞれ以下の訂正事項からなる。
なお、以下1-1及び1-2において、下線部は訂正箇所を示す。

1-1 本件訂正1について
(1)訂正事項1-1
特許請求の範囲の請求項1において、
「少なくとも一つのストリップ表面上に金属コーティングを有するスチールストリップであって、該コーティングがマグネシウムを含むアルミニウム-亜鉛-ケイ素合金を含み、
該アルミニウム-亜鉛-ケイ素合金が、45?60重量%の元素アルミニウム、37?46重量%の元素亜鉛および1.2?2.3重量%の元素ケイ素を含有する合金であり、
該マグネシウムの濃度が1?5重量%であり、
豪州規格(Australian Standard)AS1733に記述されている平均インターセプト距離法(average intercept distance method)を使用して測定される0.5mm未満のスパングルを有することを特徴とする、スチールストリップ。」とあるのを
「少なくとも一つのストリップ表面上に金属コーティングを有するスチールストリップであって、該コーティングがマグネシウムを含むアルミニウム-亜鉛-ケイ素合金を含み、
該アルミニウム-亜鉛-ケイ素合金が、45?60重量%の元素アルミニウム、37?46重量%の元素亜鉛および1.2?2.3重量%の元素ケイ素を含有する合金であり、
該マグネシウムの濃度が1?5重量%であり、
豪州規格(Australian Standard)AS1733に記述されている平均インターセプト距離法(average intercept distance method)を使用して測定される0.5mm未満のスパングルを有し、
アルミニウム-亜鉛-ケイ素合金がホウ化チタン変性アルミニウム-亜鉛-ケイ素合金であることを特徴とする、スチールストリップ。」と訂正する。
(請求項1の記載を引用する請求項2?9、19も同様に訂正する。)

(2)訂正事項1-2
特許請求の範囲の請求項10を削除する。

1-2 本件訂正2について
(1)訂正事項2-1
特許請求の範囲の請求項11において、
「スチールストリップを熱処理炉およびマグネシウムを含む溶融アルミニウム-亜鉛-ケイ素合金槽を逐次通す工程、および:
(a)該スチールストリップを熱処理炉で熱処理する工程;および
(b)該ストリップを溶融槽中で溶融コーティングし、豪州規格(Australian Standard)AS1733に記述されている平均インターセプト距離法(average intercept distance method)を使用して測定される0.5mm未満のスパングルを有する合金のコーティングをスチールストリップ上に形成する工程
を含み、
該アルミニウム-亜鉛-ケイ素合金が、45?60重量%の元素アルミニウム、37?46重量%の元素亜鉛および1.2?2.3重量%の元素ケイ素を含有する合金であり、
該マグネシウムの濃度が1?5重量%である、
スチールストリップ上の金属コーティング製造方法。」とあるのを
「スチールストリップを熱処理炉およびマグネシウムを含む溶融アルミニウム-亜鉛-ケイ素合金槽を逐次通す工程、および:
(a)該スチールストリップを熱処理炉で熱処理する工程;および
(b)該ストリップを溶融槽中で溶融コーティングし、豪州規格(Australian Standard)AS1733に記述されている平均インターセプト距離法(average intercept distance method)を使用して測定される0.5mm未満のスパングルを有する合金のコーティングをスチールストリップ上に形成する工程
を含み、
該アルミニウム-亜鉛-ケイ素合金が、45?60重量%の元素アルミニウム、37?46重量%の元素亜鉛および1.2?2.3重量%の元素ケイ素を含有する合金であり、
該マグネシウムの濃度が1?5重量%であり、
ホウ化チタン粒子(これは「パウダー」という語を含む)を溶融槽に添加して溶融アルミニウム-亜鉛-ケイ素合金がホウ化チタンを含むようにすることによりスチールストリップ上に小さなスパングルを有するコーティングを形成する工程を含む、
スチールストリップ上の金属コーティング製造方法。」と訂正する。
(請求項11の記載を引用する請求項12?17も同様に訂正する。)

(2)訂正事項2-2
特許請求の範囲の請求項18を削除する。

2 訂正の適否についての判断
2-1 通常実施権者の承諾について
平成28年12月22日付けの手続補正書により補充された承諾書によれば、本件訂正の請求は、特許法第78条第1項に規定する通常実施権者である参加人1及び参加人2の承諾が得られている。してみると、本件訂正の請求は、特許法第134条の2第9項で準用する同法第127条の規定に適合する。

2-2 本件訂正1について
(1)訂正事項1-1について
訂正事項1-1は、訂正前の請求項1の「アルミニウム-亜鉛-ケイ素合金」について、訂正前の請求項10の記載に基づいて「アルミニウム-亜鉛-ケイ素合金がホウ化チタン変性アルミニウム-亜鉛-ケイ素合金である」との特定を加えるものであるから、訂正事項1-1は、「特許請求の範囲の減縮」を目的とするものである。
また、訂正事項1-1は、願書に添付した特許請求の範囲、明細書又は図面に記載した事項の範囲内においてしたものであり、また、事実上、特許請求の範囲を拡張し、または変更するものではない。

(2)訂正事項1-2について
訂正事項1-2は、請求項10を削除するものであるから、この訂正事項1-2は、「特許請求の範囲の減縮」を目的とするものである。
また、訂正事項1-2は、願書に添付した特許請求の範囲、明細書又は図面に記載した事項の範囲内においてしたものであり、実質上の特許請求の範囲の拡張又は変更するものでもないことは明らかである。

(3)一群の請求項について
訂正事項1-1及び1-2に係る本件訂正前の請求項1?10及び19は、本件訂正前の請求項2?10、19がそれぞれ本件訂正前の請求項1の記載を引用しているから、本件訂正前の請求項1?10、19に対応する訂正後の請求項1?10、19は一群の請求項である。
してみると、本件訂正1は、一群の請求項に対して訂正の請求がされたものである。

(4)小括
以上のとおり、本件訂正1は、特許法第134条の2第1項ただし書き第1号に掲げる事項を目的とするものに該当し、同法同条第2項の規定に適合し、同法同条第9項で準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合する。

2-3 本件訂正2について
(1)訂正事項2-1について
訂正事項2-1は、訂正前の請求項11の「スチールストリップ上の金属コーティング製造方法」について、訂正前の請求項18の記載に基づいて、「ホウ化チタン粒子(これは「パウダー」という語を含む)を溶融槽に添加して溶融アルミニウム-亜鉛-ケイ素合金がホウ化チタンを含むようにすることによりスチールストリップ上に小さなスパングルを有するコーティングを形成する工程を含む」との特定を加えるものであるから、訂正事項2-1は、「特許請求の範囲の減縮」を目的とするものである。
また、訂正事項2-1は、願書に添付した特許請求の範囲、明細書又は図面に記載した事項の範囲内においてしたものであり、また、事実上、特許請求の範囲を拡張し、または変更するものではない。

(2)訂正事項2-2について
訂正事項2-2は、請求項18を削除するものであるから、この訂正事項1-2は、「特許請求の範囲の減縮」を目的とするものである。
また、願書に添付した特許請求の範囲、明細書又は図面に記載した事項の範囲内においてしたものであり、実質上の特許請求の範囲の拡張又は変更するものでもないことは明らかである。

(3)一群の請求項について
訂正事項2-1及び2-2に係る本件訂正前の請求項11?18は、本件訂正前の請求項12?18がそれぞれ本件訂正前の請求項11の記載を引用しているから、本件訂正前の請求項11?18に対応する訂正後の請求項11?18は一群の請求項である。
してみると、本件訂正2は、一群の請求項に対して訂正の請求がされたものである。

(4)小括
以上のとおり、本件訂正2は、特許法第134条の2第1項ただし書き第1号に掲げる事項を目的とするものに該当し、同法同条第2項の規定に適合し、同法同条第9項で準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合する。

3 まとめ
以上のとおり、本件訂正1及び本件訂正2は、それぞれ、特許法第134条の2第1項ただし書き第1号に掲げる事項を目的とするものに該当し、同法同条第2項の規定に適合し、同法同条第9項で準用する同法第126条第5項及び第6項、並びに、同法第127条の規定に適合するので、本件特許の請求項[1?10、19]、[11?18]について訂正を認める。

第3 本件発明
前記「第2」のとおり、本件訂正は認められるので、本件特許の請求項1?19に係る発明(以下、それぞれ、「本件発明1」?「本件発明19」といい、これらを総称するときは「本件発明」という。)は、平成27年11月 9日付けの訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲の請求項1?19に記載された事項により特定される以下のとおりのものである。

【請求項1】
少なくとも一つのストリップ表面上に金属コーティングを有するスチールストリップであって、該コーティングがマグネシウムを含むアルミニウム-亜鉛-ケイ素合金を含み、
該アルミニウム-亜鉛-ケイ素合金が、45?60重量%の元素アルミニウム、37?46重量%の元素亜鉛および1.2?2.3重量%の元素ケイ素を含有する合金であり、
該マグネシウムの濃度が1?5重量%であり、
豪州規格(Australian Standard)AS1733に記述されている平均インターセプト距離法(average intercept distance method)を使用して測定される0.5mm未満のスパングルを有し、
該アルミニウム-亜鉛-ケイ素合金がホウ化チタン変性アルミニウム-亜鉛-ケイ素合金であることを特徴とする、スチールストリップ。

【請求項2】
マグネシウム濃度が1?2.5重量%である、請求項1に記載のストリップ。

【請求項3】
アルミニウム-亜鉛-ケイ素合金がストロンチウムおよび/またはカルシウムを含む、請求項1または請求項2に記載のストリップ。

【請求項4】
(i)ストロンチウムまたは(ii)カルシウムまたは(iii)ストロンチウムおよびカルシウムの濃度が少なくとも2ppmである、請求項3に記載のストリップ。

【請求項5】
(i)ストロンチウムまたは(ii)カルシウムまたは(iii)ストロンチウムおよびカルシウムの濃度が0.2重量%未満である、請求項3または請求項4に記載のストリップ。

【請求項6】
(i)ストロンチウムまたは(ii)カルシウムまたは(iii)ストロンチウムおよびカルシウムの濃度が50ppm以下である、請求項3?5のいずれかに記載のストリップ。

【請求項7】
アルミニウム-亜鉛-ケイ素合金が、ストロンチウムを含みカルシウムを含まない場合、ストロンチウムの濃度が2?4ppmの範囲内にある、請求項3?6のいずれかに記載のストリップ。

【請求項8】
アルミニウム-亜鉛-ケイ素合金が、カルシウムを含みストロンチウムを含まない場合、該合金がカルシウムを4?8ppmの範囲内で含む、請求項3?6のいずれかに記載のストリップ。

【請求項9】
アルミニウム-亜鉛-ケイ素合金がストロンチウムおよびカルシウムを含む場合、ストロンチウムおよびカルシウムの濃度が少なくとも4ppmである、請求項3?6のいずれかに記載のストリップ。

【請求項10】(削除)

【請求項11】
スチールストリップを熱処理炉およびマグネシウムを含む溶融アルミニウム-亜鉛-ケイ素合金槽を逐次通す工程、および:
(a)該スチールストリップを熱処理炉で熱処理する工程;および
(b)該ストリップを溶融槽中で溶融コーティングし、豪州規格(Australian Standard)AS1733に記述されている平均インターセプト距離法(average intercept distance method)を使用して測定される0.5mm未満のスパングルを有する合金のコーティングをスチールストリップ上に形成する工程
を含み、
該アルミニウム-亜鉛-ケイ素合金が、45?60重量%の元素アルミニウム、37?46重量%の元素亜鉛および1.2?2.3重量%の元素ケイ素を含有する合金であり、
該マグネシウムの濃度が1?5重量%であり、
ホウ化チタン粒子(これは「パウダー」という語を含む)を溶融槽に添加して溶融アルミニウム-亜鉛-ケイ素合金がホウ化チタンを含むようにすることによりスチールストリップ上に小さなスパングルを有するコーティングを形成する工程を含む、
スチールストリップ上の金属コーティング製造方法。

【請求項12】
溶融槽における(i)ストロンチウムまたは(ii)カルシウムまたは(iii)ストロンチウムおよびカルシウムの濃度を制御して少なくとも2ppmにする工程を含む、請求項11に記載の方法。

【請求項13】
(i)ストロンチウムまたは(ii)カルシウムまたは(iii)ストロンチウムおよびカルシウムの濃度を制御して0.2重量%未満にする工程を含む、請求項11または請求項12に記載の方法。

【請求項14】
(i)ストロンチウムまたは(ii)カルシウムまたは(iii)ストロンチウムおよびカルシウムの濃度を150ppm未満にすることを含む、請求項11?13のいずれかに記載の方法。

【請求項15】
(i)ストロンチウムまたは(ii)カルシウムまたは(iii)ストロンチウムおよびカルシウムの濃度を制御して50ppm以下にする工程を含む、請求項11?14のいずれかに記載の方法。

【請求項16】
溶融槽に供給されてアルミニウム-亜鉛-ケイ素合金を形成するアルミニウム中のストロンチウムおよび/またはカルシウムの最小濃度を指定する工程を含む、請求項11?15のいずれかに記載の方法。

【請求項17】
濃度を要求される濃度に維持するのに要求される量のストロンチウムおよび/またはカルシウムを溶融槽に定期的に供給する工程を含む、請求項11?15のいずれかに記載の方法。

【請求項18】(削除)

【請求項19】
請求項1?9のいずれかに記載の金属被覆スチールストリップからつくられる冷間成形製品。

第4 請求人の主張の概要
請求人は、「特許第5020228号についての特許を無効にする。審判費用は被請求人の負担とする」との審決を求め、証拠方法として審判請求書に添付して後記「2 証拠方法」のとおりの甲第1号証?甲第8号証を提出した。
請求人が審判請求書、平成28年 1月20日付け審尋回答書、平成28年 5月26日付け審尋回答書、口頭審理(口頭審理陳述要領書、第1回口頭審理調書を含む)、平成29年 1月19日付け上申書において主張したことを整理すると、請求人の主張の概要は、以下のとおりのものと認める。
なお、以下の請求人の主張の概要は、第1回口頭審理調書に記載のとおり、平成28年10月27日付け審理事項通知書に記載した無効理由1、無効理由2、無効理由4-i、無効理由4-ii、無効理由5-i及び無効理由5-iiであり、甲第8号証は、取り下げられた無効理由3の証拠方法である。
また、平成28年 1月20日付け審尋回答書に添付して提出された甲第9号証、甲第10号証は、参考資料として提出されたものである。(第1回口頭審理調書、平成29年 2月 1日付け証拠説明書。)

1 無効理由
(1)無効理由1
本件特許の請求項1?19に係る発明は、甲第1号証に記載された発明であり、あるいは甲第1号証に記載された発明に甲第2号証?甲第5号証に記載された発明を適用することによって、当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第1項第3号に該当し、あるいは同法第29条第2項の規定により特許を受けることができず、その特許は、同法第123条第1項第2号に該当し、無効にされるべきでものである。

(2)無効理由2
本件特許の請求項1?19に係る発明は、甲第6号証に記載された発明に、甲第3号証、甲第5号証、甲第7号証に記載された発明を適用することによって、当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができず、その特許は、同法第123条第1項第2号に該当し、無効にされるべきでものである。

(3)無効理由4
本件特許の請求項1?19に係る発明について、発明の詳細な説明は、以下の理由で、経済産業省令で定めるところにより、その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者がその実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載したものであることを規定する特許法第36条第4項第1号の要件(実施可能要件)を満たしていないので、特許を受けることができないものであり、その特許は、特許法第123条第1項第4号に該当し、無効にされるべきものである。

ア 無効理由4-i
本件特許の請求項1?19に係る発明は、請求項に形式的に記載されている元素の他にいかなる元素も含みうるものであるが、このようないかなる元素をも含んだ場合にどのようにして豪州規格AS1733の0.5mm未満のスパングルサイズを製造できるか、本件特許の発明の詳細な説明に記載されていないので、本件特許の発明の詳細な説明の記載は、当業者がその実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載したものでない。

イ 無効理由4-ii
本件特許の請求項3?9、請求項10(請求項1、2に係る部分を除く)、請求項12?17、請求項18(請求項11に係る部分を除く)及び請求項19(請求項1、2に係る部分を除く)に係る発明は、ストロンチウムおよび/またはカルシウムを添加し、かつスパングルサイズ0.5mm未満を有する金属コーティングを発明特定事項とするが、本件特許の発明の詳細な説明には、ストロンチウムおよび/またはカルシウムを添加して金属コーティングを製造し、製造された金属コーティングが測定されて豪州規格AS1733の0.5mm未満のスパングルを有する金属コーティングが記載されていないので、本件特許の発明の詳細な説明の記載は、当業者がその実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載したものでない。

(4)無効理由5
本件特許の請求項1?19に係る発明は、以下の理由で、特許を受けようとする発明が発明の詳細な説明に記載したものであることを規定する特許法第36条第6項第1号の要件(サポート要件)を満たしていないので、特許を受けることができないものであり、その特許は、特許法第123条第1項第4号に該当し、無効にされるべきものである。

ア 無効理由5-i
本件発明1?19は、「該コーティングがマグネシウムを含むアルミニウム-亜鉛-ケイ素合金を含み」という発明特定事項を有しているが、この「マグネシウムを含むアルミニウム-亜鉛-ケイ素合金」とは、発明の詳細な説明の【0013】の記載からみて「他の元素、例えば、鉄、バナジウム、およびクロムのいずれか一以上を含んでいても含んでいなくてもよい合金」であるから、「記載されている元素」であるマグネシウム、アルミニウム、亜鉛、ケイ素の他にいかなる元素をも含むものであるが、本件特許公報の発明の詳細な説明には、本件発明1?19に記載された以外の元素を含む金属コーティングが本件発明の解決すべき課題を解決できることが記載されていないから、本件発明1?19は、発明の詳細な説明に記載されていない。

イ 無効理由5-ii
本件発明3?9、本件発明10(請求項1、2に係る部分を除く)、本件発明12?17、本件発明18(請求項11に係る部分を除く)及び本件発明19(請求項1、2に係る部分を除く)は、「アルミニウム-亜鉛-ケイ素合金がストロンチウムおよび/またはカルシウムを含」み、「豪州規格(・・・)AS1733に記述されている平均インターセプト距離法(・・・)を使用して測定される0.5mm未満のスパングルを有する」という発明特定事項を有しているが、発明の詳細な説明には、ストロンチウムおよび/またはカルシウムを添加したアルミニウム-亜鉛-ケイ素めっき合金で、かつ豪州規格AS1733の0.5mm未満のスパングルが測定された金属コーティングの記載はないし、製造された記載もないから、本件発明3?9、本件発明10(請求項1、2に係る部分を除く)、本件発明12?17、本件発明18(請求項11に係る部分を除く)及び本件発明19(請求項1、2に係る部分を除く)まで、発明の詳細な説明において開示された内容を拡張ないし一般化できない。

2 証拠方法
甲第1号証 :国際公開第2004/083480号
甲第2号証 :特開2000-104153号公報
甲第3号証 :特開2002-129300号公報
甲第4号証 :特開2000-328214号公報
甲第5号証 :特表2003-511559号公報
甲第6号証 :特開2001-89838号公報
甲第7号証 :特開平10-140313号公報
甲第8号証 :特開2005-264188号公報

第5 被請求人の主張の概要
被請求人は、「本件審判請求は成り立たない、審判費用は請求人の負担とする」との審決を求めた。
平成27年11月 9日付け審判事件答弁書、平成28年 5月23日付け上申書、口頭審理(口頭審理陳述要領書、第1回口頭審理調書を含む)、平成29年 2月28日付け上申書において主張したことを整理すると、請求人の主張の概要は、請求人の主張する理由及び証拠によっては本件特許の請求項1?19に係る発明を無効とすることはできないというものと認める。

第6 当審の判断
1 本件明細書の記載事項、及び、本件図面からの視認事項
本件特許明細書には、以下の事項が記載され、また、本件図面からは、以下の事項が視認される。

(本-ア)「【技術分野】
【0001】
一般用語において、本発明は、コーティングの耐腐食性および延性の特性の組み合わせの観点から現在入手可能な製品と比較して改良された製品である金属被覆スチールストリップを提供することに関する。
【0002】
より固有の用語において、本発明は、コーティングの耐腐食性、延性、および表面欠陥の特性の組み合わせの観点から現在入手可能な製品と比較して改良された製品である金属被覆スチールストリップを提供することに関する。
【背景技術】
【0003】
用語「表面欠陥」は、本明細書中、本出願人により「粗いコーティング」および「ピンホール-非被覆」欠陥として記述されるコーティングの表面における欠陥を意味すると理解される。
【0004】
典型的には、「粗いコーティング」欠陥は、10ミクロン厚?40ミクロン厚の変化する厚さでコーティングにおけるストリップの1mm長を超える実質的な変化を有する範囲である。
【0005】
典型的には、「ピンホール-非被覆」欠陥は、被覆されていない非常に狭い領域(直径0.5mm未満)である。」

(本-イ)「【0023】
一般用語において、本発明は、コーティングがマグネシウムを含むアルミニウム-亜鉛-ケイ素合金を含み、小さいスパングルを有することを特徴とする、ストリップの少なくとも一つの表面上に金属コーティングを有するスチールストリップを提供する。
【0024】
アルミニウム-亜鉛-ケイ素合金へのマグネシウム添加はコーティングの耐腐食性を改良し、小さなスパングルサイズはコーティングの延性を改良し、コーティングの延性におけるマグネシウムの悪影響を相殺する。」

(本-ウ)「【0036】
好ましくは、(i)ストロンチウムまたは(ii)カルシウムまたは(iii)ストロンチウムおよびカルシウムの濃度は、少なくとも2ppmである。」

(本-エ)「【0058】
小さいスパングルを、いずれの好適な方法工程、例えばホウ化チタン粒子(この用語は「パウダー」を含む)を溶融槽に国際出願PCT/US00/23164(WO 01/27343)にBethlehem Steel Corporationの名の下に記述されているように添加する工程、によって形成してもよい。」

(本-オ)「【0061】
本発明は、本出願人によって行われた研究活動の過程でつくられ、更に一例として以下に示す添付の図面を参照して開示される:
図1a、1b、および2は、異なる条件下でテストされたアルミニウム-亜鉛-ケイ素合金中のエッジアンダーカット対マグネシウム濃度のプロットである;
図3は、異なる濃度のマグネシウムを含むアルミニウム-亜鉛-ケイ素合金のコーティングに関するコーティング延性(クラック率評定(crack sensitivity rating)によって測定)対コーティング厚のプロットである;
図4は、同じ濃度のマグネシウムおよび異なるスパングルサイズを含むアルミニウム-亜鉛-ケイ素合金のコーティングに関するコーティング延性(クラック率評定によって測定)対コーティング厚のプロットである;そして
図5は、本発明の方法に従ってアルミニウム-亜鉛-ケイ素合金で被覆されるスチールストリップ製造に関する連続製造ラインの一態様の模式図である。
【0062】
図1?4に示され、以下により詳細に記述される実験研究の結果は以下のことを示す:
(a)アルミニウム-亜鉛-ケイ素合金へのマグネシウムの添加は、スチールストリップ上の合金のコーティングの耐腐食性を改良し(図1および2);
(b)アルミニウム-亜鉛-ケイ素合金へのマグネシウムの添加は、スチールストリップ上の合金のコーティングの延性を減少させ(図3);かつ
(c)通常のスパングルサイズと対照的に小さなスパングルサイズを有するアルミニウム-亜鉛-ケイ素合金のコーティングの形成がコーティングの延性を改良する(図4)。
【0063】
(a)耐腐食性におけるマグネシウムの影響力
コーティング組成物中に異なるマグネシウム濃度を有するスチールストリップテストパネル上のコーティングの耐腐食性を(a)屋外曝露テストおよび(b)塩水噴霧テストにおいて評価した。
【0064】
Mgを0重量%、0.5重量%、1.0重量%、および2.0重量%含むZincalume(55重量%Al)でストリップの表面上を被覆された一連のスチールストリップのパネルにおいて屋外曝露テストを行った。各金属被覆パネルの上面にクロム酸塩前処理を行い、次にまず第一にプライマーでペイントし、次にポリエステルトップコートでペイントした。
【0065】
オーストラリアのニューサウスウェールズ州ベランビポイント(Bellambi Point)の本出願人のテスト場にパネルを配置することにより屋外曝露テストを行った。ベランビポイントの現場は厳しい海洋環境と評価されている。一揃いのパネルを配置してペイント面を雨などに曝した。従って、ペイント面を雨水で洗った。第二の揃いのパネルをこの現場の風雨にさらされない場所に配置してペイント表面を雨に直接曝さず、従って雨水で洗わなかった。一揃いの洗浄パネルに関する83ヶ月のおよび非洗浄パネルに関する52ヶ月のテスト期間の終わりに、パネルを視覚検査し、測定を行ってパネルの金属被覆エッジからの腐食クリープにより生じるペイント層のエッジアンダーカットを決定した。
【0066】
屋外曝露テストの結果を図1(a)および図1(b)にまとめる。これらの図は、ペイント面のエッジアンダーカットによって評価されるように、金属被覆スチールストリップの耐腐食性が金属コーティング組成物中のマグネシウム濃度が増加すると減少することを示す。
【0067】
塩水噴霧テストを、ストリップの表面上にMg0重量%、1.0重量%、および2.0重量%を含むZincalume(55重量%Al)で被覆した一連のスチールストリップのパネルに行った。各金属被覆パネルの上面にクロム前処理を行い、次に第一にプライマーでペイントし、次にポリエステルまたはフルオロカーボントップコートでペイントした。
【0068】
塩水噴霧テストを、ASTM B117による塩水噴霧を使用する標準の実験室加速腐食テストで行った。パネルを1250時間テストした。テスト期間の終わりにおいてパネルを視覚検査し、測定を行ってパネルの金属被覆エッジからの腐食クリープにより生じるペイント層のエッジアンダーカットを決定した。
【0069】
屋外曝露テストの結果を図2にまとめる。菱形のデータポイントにより画定されるプロットは、ポリエステルトップコートで被覆されるパネルに関連する。正方形のデータポイントにより画定されるプロットは、フルオロカーボントップコートで被覆されるパネルに関連する。この図は、ペイント表面のエッジアンダーカットによって評価されるように、金属被覆スチールストリップの耐腐食性が金属被覆組成物中のマグネシウム濃度の増加で減少することを示す。
【0070】
(b)コーティング延性におけるマグネシウムの影響力
一連の異なるコーティング組成物で被覆されるスチールストリップテスト片上の異なるコーティング厚におけるコーティングの延性を本出願人により開発された標準法を使用して評価した。
【0071】
この方法は、2T曲げテストを各テスト片に行う工程および次に光学顕微鏡下15倍拡大での一揃いの評定基準を使用する曲げへのコーティングクラック率評定(評定0(極小クラック)?評定10(最大クラック))工程を包含した。コーティングクラック率評定は、一例としてWillis,D.J.and Zhou,Z.F.,Factors Influencing the Ductility of 55%Al-Zn Coatings,Galvatech 1995,pp455-462に記述されている。
【0072】
コーティングのクラック率評定は、高い率が低いコーティング延性を示す、コーティングの延性の測定である。
【0073】
本明細書の次の段落において議論されるこの研究に関する試験コーティングの組成およびコーティング延性におけるスパングルサイズの影響力評価の研究を以下の表1にセットアウト(set out)する。


【0074】
上記のように、Zincalumeは、アルミニウム-亜鉛-ケイ素合金被覆スチールストリップ製品に関連して使用される本出願人の登録商標である。
【0075】
表1における「組成」と表題をつけた列における組成は、誘導結合プラズマ分光分析(ICP)技術を使用して湿式化学分析により決定された。この表のサンプルの種類の列中の詳細は、各それぞれの試験コーティングに関するターゲットポット組成である。
【0076】
Zincalume対照標準コーティング(0重量%Mg)およびMg0.5、1.0、1.5、および2.0重量%を有するZincalume合金に関する延性テストの結果を図3にまとめる。
【0077】
図3からコーティングの延性がZincalumeコーティング中のMg濃度増加で減少することが明らかである。
【0078】
(c)スパングルサイズの延性への影響力
延性におけるスパングルサイズの影響力を、一連の異なるコーティング組成物で被覆したテスト片を使用して異なるコーティング厚において評価した。
【0079】
特に、上記表1に関連して、テスト片を(a)「通常の」サイズのスパングルを有するZincalume対照標準、(b)「通常の」サイズのスパングルを有するMg2重量%を有するZincalume、および(c)「小さい」スパングルサイズを有するMgおよびTiB2重量%を有するZincalumeで被覆した。
【0080】
テスト片の延性を上記同じテスト方法を使用して評価した。
【0081】
延性テストの結果を図4にまとめる。
【0082】
図4から「小さい」スパングルサイズを有するMg2重量%を有するZincalumeのコーティングを形成することが、「通常の」スパングルサイズであること以外同じ組成のコーティングの延性と比較して、コーティングの延性を改良したことが明らかである。」

(本-カ)「【0095】
このコーティングはホウ化チタンに起因して小さいスパングルを有する。」

(本-キ)「



(本-ク)「



2 甲号証の記載事項
(1)甲第1号証:国際公開第2004/083480号
甲第1号証は、本件特許の優先日前に外国において頒布された刊行物であり、以下の事項が記載されている。

(1-ア)「CLAIMS
1. A method of controlling surface defects of the type described herein on a steel strip coated with a aluminium-zinc-silicon alloy which includes the steps of: successively passing the steel strip through a heat treatment furnace and a bath of molten aluminium-zinc-silicon alloy, and:

(a) heat treating the steel strip in the heat treatment furnace; and

(b) hot-dip coating the strip in the molten bath and thereby forming a coating of the alloy on the steel strip; and

which method is characterised by controlling the concentration of (i) strontium or (ii) calcium or (iii) strontium and calcium in the molten bath to be at least 2 ppm.
・・・
7. The method defined in any one of the preceding claims includes controlling the concentration of (i) strontium or (ii) calcium or (iii) strontium and calcium in the molten bath to be no more than 50 ppm.
・・・
9. The method defined in any one of the preceding claims wherein the aluminium-zinc-silicon alloy contains magnesium.

10. The method defined in claim 7 wherein the aluminium-zinc-silicon alloy has a magnesium concentration of less than 1 %.
・・・
16. A metal coated steel strip produced by the method defined in any one of the preceding claims.」(第12頁第1行?第15頁第12行)
(当審訳:請求の範囲
1.アルミニウム-亜鉛-ケイ素合金で被覆したスチールストリップ上の、本明細書で述べたタイプの表面欠陥を制御する方法であって、スチールストリップを熱処理炉及び溶融アルミニウム-亜鉛-ケイ素合金槽に順次通す工程、及び:
(a)スチールストリップを熱処理炉で熱処理する工程;
(b)スチールストリップを溶融槽で溶融コーティングし、合金のコーティングをスチールストリップ上に形成する工程;
を含み、前記溶融槽内の(i)ストロンチウム、(ii)カルシウム、又は、(iii)ストロンチウム及びカルシウムの濃度を、少なくとも2ppmに制御することを特徴とする前記方法。
・・・
7.(i)ストロンチウム、(ii)カルシウム、又は、(iii)ストロンチウム及びカルシウムの溶融浴中の濃度を50ppm以下に制御する前記請求項のいずれか一項に記載の方法。
・・・
9.前記アルミニウム-亜鉛-ケイ素合金がマグネシウムを含む前記請求項のいずれか一項に記載の方法。

10.前記アルミニウム-亜鉛-ケイ素合金のマグネシウム濃度が1%未満である請求項7に記載の方法。
・・・
16.前記請求項のいずれか一項に記載の方法により製造された金属被覆スチールストリップ。)

(1-イ)「 The present invention relates to controlling surface defects, as described hereinafter, in steel strip that has a corrosion-resistant metal coating that is formed on the strip by hot-dip coating the strip in a molten bath of coating metal.

The present invention relates particularly but not exclusively to metal coated steel strip that can be cold formed (e.g. by roll forming) into an end-use product, such as roofing products.

The present invention relates particularly but not exclusively to metal coated steel strip having an aluminium-zinc-silicon alloy coating that can be cold formed (e.g. by roll forming) into an end-use product, such as roofing products. The applicant is interested particularly in aluminium-zinc-silicon alloy coated steel strip that is sold in Australia under the Registered trade mark ZINCALUME and in other countries under the Registered trade mark GALVALUME.」(第1頁第4行?第23行)
(当審訳:本発明は、以下に述べるように、ストリップを被覆金属の溶融槽中で溶融コーティングすることによりストリップ上に形成された耐腐食性金属被覆を有するスチールストリップにおける表面欠陥の制御方法に関する。
本発明は、これに限定されるわけではないが、特に、最終製品(例えば屋根材)に(例えばロール形成により)冷間成形され得る金属被覆スチールストリップに関する。
本発明は、これに限定されるわけではないが、特に、アルミニウム-亜鉛-ケイ素合金被覆を有し、最終製品(例えば屋根材)に(例えばロール形成により)冷間成形されうる金属被覆スチールストリップに関する。出願人は、オーストラリアにおいては、登録商標のZINCALUMEのもとに、その他の国においては、登録商標のGALVALUMEのもとに販売されているアルミニウム-亜鉛-ケイ素合金被覆スチールストリップに特に関心がある。)

(1-ウ)「The present invention also relates particularly but not exclusively to metal coated steel strip having an aluminium-zinc-silicon alloy coating with small sponge(当審注:spangleの誤記)size, i.e. a coating with an average spangle size of the order of less than 0.5 mm.」(第1ページ第25行?第29行)
(当審訳:本発明は、これに限定されるわけではないが、特に、小さなスパングルサイズを有する金属被覆スチールストリップ、すなわち、平均スパングルサイズが、0.5mm未満のオーダーのコーティングを有する、アルミニウム-亜鉛-ケイ素合金被膜を有する金属被覆スチールストリップに関する。)

(1-エ)「The term "aluminium-zinc-silicon alloy" is understood herein to mean alloys comprising the following ranges in weight percent of the elements aluminium, zinc and silicon:
Aluminium: 50-60
Zinc: 37-46
Silicon: 1.2-2.3
The term "aluminium-zinc-silicon" alloy is also understood herein to mean alloys that may or may not contain other elements, such as, by way of example, any one or more of iron, vanadium, chromium, and magnesium.」(第1頁第34行?第2頁第9行)
(当審訳:用語「アルミニウム-亜鉛-ケイ素合金」は、本明細書中、以下の重量%範囲の元素アルミニウム、亜鉛及びケイ素を含有する合金を意味するものと解釈される:
アルミニウム:50?60
亜鉛:37?46
ケイ素:1.2?2.3
用語「アルミニウム-亜鉛-ケイ素」合金は、さらに、本明細書中、他の元素、例えば、鉄、バナジウム、クロム及びマグネシウムのいずれか一種又はそれ以上を含んでいても含んでいなくてもよい合金を意味するものと解釈される。)

(1-オ)「The particular surface defects are described by the applicant as "rough coating" and "pinhole - uncoated" defects. Typically, a "rough coating" defect is a region that has a substantial variation in coating over a 1 mm length of strip, with the thickness varying between 10 micron thick and 40 micron thick. Typically, a "pinhole-uncoated" defect is a very small region (<0.5 mm in diameter) that is uncoated.」(第3頁第6行?第13行)
(当審訳:特定の表面欠陥は、出願人により「粗いコーティング」及び「ピンホール-非被覆」欠陥として記述される。「粗いコーティング」欠陥は、典型的にはストリップの1mmにわたる長さに対してコーティングに10ミクロン厚?40ミクロン厚という相当にバラツキがある領域のことである。典型的には、「ピンホール-非被覆」欠陥は、被覆されていない非常に狭い領域(直径0.5mm未満)である。」

(1-カ)「The above-described method is characterised by the deliberate inclusion of the elements strontium and/or calcium in the coating aluminium-zinc-silicon alloy. In the context of the present invention, the elements are regarded as beneficial.」(第4頁第36行?第5頁第3行)
(当審訳:本発明の方法は、ストロンチウム及び/又はカルシウムという元素を意図的に被覆アルミニウム-亜鉛-ケイ素合金に含めたことに特徴がある。本発明の文脈では、元素は有益なものとみなされる。)

(1-キ)「In a situation in which the molten bath contains strontium and no calcium, preferably the method includes controlling the concentration of strontium in the molten bath to be in the range of 2-4 ppm.」(第5頁第14行?第17行)
(当審訳:溶融槽がストロンチウムを含み、カルシウムを含まない場合には、好ましくは、この方法は溶融槽中のストロンチウムの濃度を2?4ppmの範囲に制御することを含む。)

(1-ク)「In a situation in which the molten bath contains calcium and no strontium, preferably the method includes controlling the concentration of calcium in the molten bath to be in the range of 4-8 ppm.」(第5頁第22行?第25行)
(当審訳:溶融槽がカルシウムを含み、ストロンチウムを含まない場合には、好ましくは、この方法は溶融槽中のカルシウムの濃度を4?8ppmの範囲に制御することを含む。)

(1-ケ)「In a situation in which the molten bath contains strontium and calcium, preferably the method includes controlling the concentration of strontium and calcium in the molten bath to be at least 4ppm.」(第5頁第30行?第34行)
(当審訳:溶融槽がストロンチウム及びカルシウムを含む場合には、好ましくは、この方法は溶融槽中のストロンチウム及びカルシウムの濃度を少なくとも4ppmに制御することを含む。)

(1-コ)「Preferably the method includes controlling the concentration of (i) strontium or (ii) calcium or (iii) strontium and calcium in the molten bath to be at no more than 150 ppm.」(第6頁第3行?第6行)
(当審訳:好ましくは、この方法は、(i)ストロンチウム、(ii)カルシウム、又は、(iii)ストロンチウム及びカルシウムの溶融浴中の濃度を150ppm以下に制御することを含みます。)

(1-サ)「The applicant has found that the control of strontium and calcium concentrations in the molten bath has a particularly beneficial effect on aluminium-zinc-silicon alloys that contain magnesium.

Preferably aluminium-zinc-silicon alloys have a magnesium concentration of less than 1%.

More preferably aluminium-zinc-silicon alloys have a magnesium concentration of less than 50ppm.」(第6ページ第13行?第22行)
(当審訳:出願人は、溶融槽内のストロンチウム及びカルシウムの濃度の制御は、マグネシウムを含むアルミニウム-亜鉛-ケイ素合金に対して、特に有益な効果があることを見いだした。
好ましくは、アルミニウム-亜鉛-ケイ素合金は1%未満のマグネシウム濃度を有する。
より好ましくは、アルミニウム-亜鉛-ケイ素合金は、50ppm未満のマグネシウム濃度を有する。)

(1-シ)「The present invention is particularly advantageous for "minimum spangle" strip.

The term "minimum spangle" strip is understood herein to mean metal coated strip that has spangles that are less than 0.5 mm, preferably less than 0.2 mm, in the major dimension of the spangles substantially across the surface of the strip.

Standard spangled strip obscures the surface defects. Minimum spangle strip does not obscure the surface defects.

Minimum spangle strip may be formed by any suitable method steps, such as described in International application PCT/US00/23164 (WO 01/27343) in the name of Bethlehem Steel Corporation. The disclosure in the specification of the International application is incorporated herein by cross-reference.」(第7ページ第1行?第19行)
(当審訳:本発明は、「最小スパングル」ストリップに特に好適である。
「最小スパングル」ストリップという用語は、本明細書では、ストリップ表面の略全幅にわたるスパングルの主要寸法において、0.5mm未満、好ましくは、0.2mm未満のスパングルを有する金属被覆ストリップを意味するものと解釈される。
通常のスパングルストリップは、表面欠陥を目立たなくする。最小スパングルストリップは、表面欠陥を目立たなくすることがない。
最小スパングルストリップは、例えば、国際出願PCT/US00/23164(WO 01/27343)にBethlehem Steel Corporationの名で記載されているような、任意の好適な方法工程によって形成することができる。この国際出願の開示は、相互参照により本明細書に組み込まれる。)

(1-ス)「The above-described method is characterised by controlling the concentration of (i) strontium or (ii) calcium or (iii) strontium and calcium in the aluminium- zinc-silicon alloy in the bath to be at least 2ppm, more preferably at least 3ppm, and preferably less than 150 ppm and more preferably less than 50 ppm.」(第10ページ第6行?第11行)
(当審訳:上記の方法は、(i)ストロンチウム、(ii)カルシウム、又は、(iii)ストロンチウム及びカルシウムのアルミニウム-亜鉛-ケイ素合金浴中の濃度を少なくとも2ppm、より好ましくは少なくとも3ppm、及び、好ましくは150ppm以下、より好ましくは50ppm以下に制御することにより特徴付けられる。)

(2)甲第2号証:特開2000-104153号公報
甲第2号証は、本件特許の優先日前に日本国内において頒布された刊行物であり、以下の事項が記載されている。

(2-ア)「【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、亜鉛-アルミニウム合金めっき鋼板に関し、めっき鋼板並びに表面に塗装を施されためっき鋼板の折り曲げ加工部の耐食性が良好で、更に、表面に塗装を施されためっき鋼板の切断端縁部の耐食性が良好な亜鉛-アルミニウム合金めっき鋼板に関するものである。」

(2-イ)「【0006】
本発明は上記の点に鑑みてなされたものであり、折り曲げ加工を施した場合の折り曲げ部の耐食性が向上し、更に塗装されためっき鋼板切断加工を施した場合の切断端縁部の耐食性も向上した亜鉛-アルミニウム合金めっき鋼板を提供することを目的とするものである。」

(2-ウ)「【0015】
また合金めっき層中のマグネシウムの割合を、1.0?5.0重量%とすることにより、合金めっき層を鋼板表面に形成した際に、腐食性雰囲気下における合金めっき層からの亜鉛の溶出を抑制することができる。このように合金めっき層から亜鉛の溶出が抑制されるのは、合金めっき層中のマグネシウムの割合を1.0?5.0重量%とすると、合金めっき層の表層の亜鉛偏析部に還元性の強いマグネシウムが析出し、亜鉛偏析部が全体として不動態化の傾向を有するようになるためであると考えられる。そして上記のように、腐食性雰囲気下における合金めっき層からの亜鉛の溶出が抑制されると、合金めっき鋼板の耐食性を向上することができるものであり、合金めっき鋼板の平面部のみならず、切断加工を施した場合の切断端縁部や、折り曲げ加工を施した場合の折り曲げ部の耐食性が向上し、特に折り曲げ部の耐食性を著しく向上させることができるものである。また本発明の亜鉛-アルミニウム合金めっき鋼板の表面に、ポリエステル樹脂系、アクリル樹脂系、フッ素樹脂系、塩化ビニル樹脂系、ウレタン樹脂系、エポキシ樹脂系等の塗料を、ロール塗装、スプレー塗装、カーテンフロー塗装、ディップ塗装、あるいはアクリル樹脂フィルム等のプラスチックフィルムを積層する際のフィルムラミネート等の方法により塗工することにより塗膜を形成した場合の、腐食性雰囲気下における平面部、切断加工を施した場合の切断端縁部、及び折り曲げ加工を施した場合の折り曲げ部の耐食性が向上し、特に折り曲げ部の耐食性を著しく向上させることができるものである。」

(2-エ)「【特許請求の範囲】
【請求項1】 25?75重量%のアルミニウムと、1.0?5.0重量%のマグネシウムと、アルミニウムの含有量に対して0.5重量%以上のケイ素とを含有し、残部は本質的に亜鉛からなる合金めっき層が形成されて成ることを特徴とする亜鉛-アルミニウム合金めっき鋼板。」

(3)甲第3号証:特開2002-129300号公報
甲第3号証は、本件特許の優先日前に日本国内において頒布された刊行物であり、以下の事項が記載されている。

(3-ア)「【特許請求の範囲】
【請求項1】 めっき層成分が質量%で、Mg:0.5?2%、Si:0.2?5%、Al:40?65%、Zn:30?60%を含有し、かつ、めっき層中に、Mg全Mg量の99%以上が固溶していることを特徴とする耐食性と加工性に優れた表面処理鋼板。」

(3-イ)「【0002】
【従来の技術】Al-Zn中にSiおよびMgを適量含有させためっき浴に浸漬して得られるAl-Zn-Mg-Si系めっき鋼板は優れた耐食性を示すことが知られている。その例として次のものが挙げられる。特公平3-21627号公報には、質量%で3?20%のMg、3?15%のSi、残部AlおよびZnよりなり、かつ〔%Al〕/〔%Zn〕は1?1.5であるめっき鋼板が開示されている。しかし、この成分系で製造されためっき鋼板は耐食性試験等の加速腐食試験では優れた耐食性を示す。しかしながら、その優れた耐食性にもかかわらず、加工性に問題があり、未だ工業製品として商品化されていない。
【0003】
【発明が解決しようとする課題】従来のAl-Zn-Mg-Si系めっき鋼板は、めっき層中に脆く、腐食環境中での溶解速度が早いMg系金属間化合物(Mg_(2)Si)を含有するため加工性および大気環境等の穏やかな腐食環境中では上記金属間化合物が優先的に溶解していくため長期耐食性に劣る。」

(3-ウ)「【0004】
【課題を解決するための手段】本発明者らは鋭意検討した結果、Mgをめっき層中に固溶させることでMgの耐食性に及ぼす効果を長期間継続させるとともに脆い金属間化合物をめっき層中に晶出させないことにより、耐食性と加工性を両立できることを突き止めた。すなわち、本発明の要旨は、
(1)めっき層成分が質量%で、Mg:0.5?2%、Si:0.2?5%、Al:40?65%、Zn:30?60%を含有し、かつ、めっき層中に、Mg全Mg量の99%以上が固溶していることを特徴とする耐食性と加工性に優れた表面処理鋼板。」

(3-エ)「【0006】
次に、本発明の限定理由について詳細に説明する。まず、めっき層成分であるが、耐食性向上のためにMgは0.5%以上の添加が必要である。0.5%未満では、耐食性向上に寄与する塩基性塩化亜鉛や塩基性炭酸亜鉛の生成が不足するため十分な耐食性が得られない。2%を超えると、Mg_(2)Si等の溶解度が高く脆い金属間化合物が晶出するため、加工性が悪化するとともに長期的な防食効果が得られない。よって、Mgの下限を0.5%、上限を2%とする。」

(4)甲第4号証(特開2000-328214号公報)
甲第4号証は、本件特許の優先日前に日本国内において頒布された刊行物であり、以下の事項が記載されている。

(4-ア)「【請求項1】 質量%で、Al:25?70%,Mg:1.5?5.0%,Sr:0.01?1.0%を含有し、Siを下記(1)式の範囲で含有し、残部がZnおよび不可避的不純物からなるめっき層を鋼板表面に形成した表面外観の良好な高耐食性Mg含有溶融Zn-Al系合金めっき鋼板。
Al(質量%)×0.005≦Si(質量%)≦10・・・(1)」


(4-イ)「【発明の詳細な説明】
【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、表面外観の良好なMg含有溶融Zn-Al系合金めっき鋼板に関するものである。
【0002】
【従来の技術】・・・。
・・・
【0003】めっき面の耐食性に優れるというAlめっき鋼板の長所と、犠牲防食作用を呈するというZnめっき鋼板の長所をバランス良く取り入れた鋼板として、・・・25?70質量%のAlを含有する溶融Zn-Al系合金めっき鋼板が開示されており、この系統のめっき鋼板として例えばZn-55質量%Al-1.6質量%Si合金めっき鋼板が実用化されている。
【0004】一方、このような系統の溶融Zn-Al系合金めっき鋼板は、Alめっき鋼板とZnめっき鋼板の利点を有する反面、塗膜等との密着性が良くないという欠点や、α-Al相とβ-Zn相からなるデンドライト組織に起因した接触腐食が起こりやすく軽度の曲げ加工部でもめっき層が剥離するといった欠点も指摘されている。そこで、このような欠点を解消するため、溶融Zn-Al系合金めっき層中にMgを添加しためっき鋼板が開発されている。例えば、特公昭60-56420号公報には塗膜等との密着性改善の目的でMgを0.01?1.0重量%添加しためっき鋼板が開示されており、特公昭64-10593号公報にはMg添加が耐食性改善に有効であるとの見地からミッシュメタルとともに0.01?1.0重量%のMgを添加しためっき鋼板が開示されている。また特公平3-21627号公報にはやはり耐食性改善の目的で3?20%の広い範囲でMgを添加しためっき鋼板が示されている。」

(4-ウ)「【0005】
【発明が解決しようとする課題】しかし、溶融Zn-Al系合金めっきにMgを添加しためっき鋼板(以下、「Mg含有溶融Zn-Al系合金めっき鋼板」という)は上記のように優れた特性改善効果を示すにもかかわらず、まだ一般的に広く使用されるには至っていない。特に数%オーダー以上の多量のMgをめっき層中に含有する溶融Zn-Al系合金めっき鋼板についてはその非常に優れた耐食性にもかかわらず未だ工業製品として商品化されていない。
【0006】Mg含有溶融Zn-Al系合金めっき鋼板の工業的普及が遅れているのは、表面外観の良好なものを通常の溶融めっきラインで製造する技術が確立されていない点に大きな理由がある。
・・・
【0008】・・・溶融Zn-Al系合金めっき浴中にMgを添加した場合、めっき面には通常このようなしわ状の凹凸(以下「しわ状欠陥」、あるいは「しわ状凹凸欠陥」という)が発生してしまい、これが製品の表面外観を悪くし商品価値を損なっているのである。・・・。このように多量のMgを含有させるとエッジ部だけでなく板幅中央部付近にもしわ状欠陥が生じるようになり、表面外観は著しく劣化する。
【0009】本発明は、めっき浴表面が大気雰囲気であるような通常の溶融めっきラインを用いて製造可能な、しわ状欠陥が抑制された良好な表面外観を呈する高耐食性Mg含有溶融Zn-Al系合金めっき鋼板を提供することを目的とする。」

(4-エ)「【0015】
【発明の実施の形態】めっき層中のAl含有量は、めっき鋼板に付与する特性を考慮して、残部の大半を占めるZnとのバランスで決められる。本発明では、Alめっきの「めっき面の高耐食性」と、Znめっきの「犠牲防食作用」をバランス良く付与するために、Al含有量は25?70質量%の範囲とする。
【0016】Mgは、溶融Zn-Al系めっき鋼板が腐食環境に置かれたときめっき層表面および素地鋼露出部を腐食生成物で覆い、これによって溶融Zn-Al系めっき鋼板本来の耐食性を一段と向上させる機能を発揮する。すなわち、めっき層中においてMgはZn,Siと金属間化合物MgZn_(2),Mg_(2)Siを形成し、これらの金属間化合物は腐食環境において安定な保護性腐食生成物の形成を促すMg供給源として働く。このためめっき層表面は迅速に均一な腐食生成物に覆われ、この腐食生成物が安定に存在しその保護皮膜作用を発揮して、めっき面の耐食性は向上する。また切断端面等の素地鋼露出部もこの腐食生成物に覆われるので、めっき層中のZnとめっき原板のFeとのガルバニック作用に起因するめっき層の早期消失も抑制される。つまり、Mgはめっき面の耐食性を向上させるとともに、犠牲防食作用を長続きさせる効果をもたらす。
【0017】Zn-Al系合金めっき層中のMg含有量が1.5質量%未満では、この耐食性向上効果は十分に得られない。また、6質量%を超えると後述するSrの添加によってもめっき層表面のしわ状凹凸欠陥を十分に抑制することが困難になる。このため、本発明ではめっき層中のMg含有量が1.5?6.0質量%の範囲にあるMg含有溶融Zn-Al系合金めっき鋼板を対象とする。
【0018】Mgをこのように多量に含む溶融Zn-Al系合金めっき鋼板を製造しようとすると、前述のように、通常、その表面外観はしわ状凹凸欠陥が生じて非常に悪いものとなる。その原因は、めっき浴へのMgの添加により、溶融金属表面上の酸化皮膜の成長が著しく促進され、その酸化皮膜が溶融状態にある「めっき金属」の均一な「たれ」を阻害するためであると考えられる。
【0019】発明者らは、めっき層中にSrを適量含有させると、このしわ状欠陥の問題は解消することを見出した。これは、めっき浴から出た未凝固のめっき層表層においてSrはMgよりも優先的に酸化され、Mgの酸化が抑制されるためと考えられる。
【0020】めっき層中のSr含有量は、Mg含有量が1.5?5.0質量%においては0.01?1.0質量%が良い。0.01質量%未満ではしわ状欠陥の抑制効果がほとんどみられない。ただしSr含有量が1.0質量%を超えると、こんどはAl-Si-Sr系の金属間化合物に起因する点状の凹凸が発生し、これがめっき層表面の外観を損なうようになる。Mg含有量が5.0超え?6.0質量%と多い場合にはSr含有量の下限を引き上げ、0.07?1.0質量%とするのが良い。0.07質量%未満ではしわ状欠陥を十分に抑制できない場合が生じてくる。」

(4-オ)「【0025】
【実施例】〔実施例1〕連続溶融めっきシミュレータ(連続溶融めっき実験ライン)を用いて、MgおよびSrの含有量を種々変化させた溶融Zn-Al系合金めっき鋼板を作製した。めっき条件は以下のとおりである。
・素地鋼板:冷延Alキルド鋼(厚み:0.8mm,幅:60mm)
・還元炉最高到達板温:700℃,露点:-35℃
・通板速度:50m/分
・めっき浴組成(質量%):Al:55%,Si:1.6%,Mg:0?7%,Sr:0?1.5%,残部Znおよび不可避的不純物
・めっき浴温:605℃
・浸漬時間:3秒
・めっき後の冷却:エアー冷却(冷却速度20℃/s)
【0026】作製した溶融めっき鋼板の表面外観を目視観察し、しわ状欠陥の発生程度を4段階(◎,○,△,×)にランク付けした。その評価基準として図1の写真に示すサンプルを用い、以下のようにランク付けした。
・◎:図1の上段のサンプルと同等以上に良好な表面外観を呈する。
・○:図1の上段のサンプルより劣るが、中段のサンプルと同等以上に良好な表面外観を呈する。
・△:図1の中段のサンプルより劣るが、下段のサンプルより良好な表面外観を呈する。
・×:図1の下段のサンプルと同等あるいはそれより劣る表面外観を呈する。
【0027】上記評価が○のものにはしわ状欠陥の発生したものが含まれる。しかしこのようなものでも従来材と比較すると表面外観は大きく向上しており、用途によっては十分に商品価値を有すると考えられる。このため本発明では、上記評価が○以上のものを表面外観が良好であると判定する。ただし、Al-Si-Sr系の金属間化合物に起因すると考えられる点状の凹凸が発生したものは、しわ状欠陥の発生が十分抑制されていても従来材にはない新たな欠陥が生じたということになるため、「凹凸あり」と評価した。
【0028】また、各めっき鋼板について、2t曲げ加工部およびクロスカット部(めっき層表面に×字状の傷を付した部分)を形成するとともに切断端面で素地鋼が露出した状態にして、大阪府堺市の臨海工業地帯に3ヶ月間暴露し、赤錆の目立ちにくさを評価した。評価基準は目視観察で、Mgを含有しない市販のZn-55質量%Al-1.6質量%Siめっき鋼板を標準試料として、以下のように4段階(◎,○,△,×)にランク付けした。
・◎:赤錆の発生がほとんど認められない。
・○:赤錆が標準試料より目立ちにくい。
・△:赤錆が標準試料と同等に目立ちにくい。
・×:赤錆が標準試料より目立ちやすい。
【0029】さらに、各めっき鋼板について、複合サイクル腐食試験(CCT)を行った。CCT条件は社団法人自動車技術会で規格化されているJASO M609-91であり、「35℃での5%食塩水の塩水噴霧:2時間→60℃,相対湿度30%での乾燥:4時間→50℃,相対湿度95%での湿潤:2時間」を1サイクルとするものである。試験片の端面と裏面全体を絶縁性テープでシールして試験に供した。CCT200サイクル終了後に腐食生成物を液温60℃の10%塩化アンモニウム水溶液にて除去し、試験前との質量差から腐食減量(g/m^(2))を求め、めっき面の耐食性を評価した。これらの結果を表1に示す。
【0030】
【表1】


【0031】表1中、No.1が市販のZn-55質量%Al-1.6質量%Siめっき鋼板(標準試料)である。耐食性について見ると、Mg含有量が1.5質量%以上のものにおいて、素地鋼露出部での赤錆の目立ちにくさが良好になり、CCT腐食減量も標準試料の腐食減量値の70%以下と非常に良好になることがわかる。
【0032】表面外観について見ると、Mg含有量が1.5質量%以上のもののうち、Srを含有しないものは、しわ状欠陥に起因して表面外観が劣化している。これに対し、Mg含有量に応じてSrを適正量含有させた発明例のものは、いずれもしわ状欠陥が顕著に抑制された。ただし、Sr含有量が1.0質量%を超えるものでは、Al-Si-Sr系の金属間化合物に起因すると考えられる点状の凹凸欠陥が多発した。Sr含有量は素地鋼露出部での赤錆の目立ちにくさやCCT腐食減量にほとんど影響を与えないことも確かめられた。」

(5)甲第5号証:特表2003-511559号公報
甲第5号証は、本件特許の優先日前に日本国内において頒布された刊行物であり、以下の事項が記載されている。

(5-ア)「【特許請求の範囲】
【請求項1】 溶融アルミニウム-亜鉛合金浴を用いて鋼製品をコーティングする方法において、チタン及びアルミニウムのうちいずれかのホウ化化合物、チタン及び鉄のうちいずれかのアルミナイド化合物、並びにチタン、バナジウム、鉄及びタングステンのうちいずれかの炭化化合物からなるグループから選択された1又は複数の有効量の微粒子化合物成分を添加することにより前記アルミニウム-亜鉛合金の組成を改変することを特徴とする鋼製品のコーティング方法。
【請求項2】 前記微粒子化合物成分がTiC、TiB_(2)、AlB_(2)、AlB_(12)、及びTiAl_(3)のいずれかである請求項1に記載の方法。
【請求項3】 前記微粒子化合物成分の粒子サイズが約0.01ミクロン?約25ミクロンの範囲である請求項1に記載の方法。
【請求項4】 前記微粒子化合物成分の粒子サイズが約0.01ミクロン?約25ミクロンの範囲である請求項2に記載の方法。
【請求項5】 アルミニウムのマスター合金浴を作製し、該マスター合金浴に対して前記微粒子化合物成分の一定量を添加し、そして該微粒子化合物成分の前記有効量が得られる比率で該マスター合金浴をアルミニウム-亜鉛コーティング浴へ追加するステップをさらに有する請求項1に記載の方法。
・・・
【請求項7】 前記微粒子化合物成分がホウ化合物でありかつ前記合金浴中における該微粒子化合物成分の量がホウ素の重量で約0.001?約0.5%の範囲である請求項1に記載の方法。
【請求項8】 鋼基板と、該鋼基板上のアルミニウム-亜鉛コーティングを有するコーティング鋼製品において、前記アルミニウム-亜鉛コーティングが、チタン及びアルミニウムのうちいずれかのホウ化化合物、チタン及び鉄のうちいずれかのアルミナイド化合物、並びにチタン、バナジウム、鉄及びタングステンのうちいずれかの炭化化合物からなるグループから選択された1又は複数の有効量の微粒子化合物成分により改変されることを特徴とするコーティング鋼製品。
【請求項9】 前記微粒子化合物成分がTiC、TiB_(2)、AlB_(2)、AlB_(12)、及びTiAl_(3)のいずれかである請求項8に記載の製品。
【請求項10】 前記微粒子化合物成分の粒子サイズが約0.01ミクロン?約25ミクロンの範囲である請求項8に記載の製品。
【請求項11】 前記微粒子化合物成分が炭化化合物でありかつ前記合金浴中における該微粒子化合物成分の量が炭素の重量で約0.0005?約0.01%の範囲である請求項8に記載の製品。
【請求項12】 前記微粒子化合物成分がホウ化合物でありかつ前記合金浴中における該微粒子化合物成分の量がホウ素の重量で約0.001?約0.5%の範囲である請求項8に記載の製品。
【請求項13】 前記コーティングが約0.05?2.0mmのスパングル面サイズを有する請求項8に記載の製品。
【請求項14】 アルミニウム-亜鉛鋼製品コーティング組成物において、前記アルミニウム-亜鉛合金が、チタン及びアルミニウムのうちいずれかのホウ化化合物、チタン及び鉄のうちいずれかのアルミナイド化合物、並びにチタン、バナジウム、鉄及びタングステンのうちいずれかの炭化化合物からなるグループから選択された1又は複数の有効量の微粒子化合物成分を含むことを特徴とするコーティング組成物。
【請求項15】 前記微粒子化合物成分がTiC、TiB_(2)、AlB_(2)、AlB_(12)、及びTiAl_(3)のいずれかである請求項14に記載の組成物。
【請求項16】 前記微粒子化合物成分の粒子サイズが約0.01ミクロン?約25ミクロンの範囲である請求項14に記載の組成物。
【請求項17】 前記微粒子化合物成分が炭化化合物でありかつ前記合金浴中における該微粒子化合物成分の量が炭素の重量で約0.0005?約0.01%の範囲である請求項14に記載の組成物。
【請求項18】 前記微粒子化合物成分がホウ化合物でありかつ前記合金浴中における該微粒子化合物成分の量がホウ素の重量で約0.001?約0.5%の範囲である請求項14に記載の組成物。
【請求項19】 コーティング鋼製品をスキンパスすることなく該コーティング鋼製品を塗装するステップをさらに含む請求項1に記載の方法。
【請求項20】 前記コーティング鋼製品上に塗装表面をさらに有する請求項8に記載の製品。」

(5-イ)「【0001】
[発明の分野]
本発明は、コーティング組成物、コーティング鋼製品、及び製造方法に関し、特に、引っ張り曲げ錆汚れ特性及び塗装されたときのシート外観を向上させ且つスパングル面サイズを縮小するために有効量の微粒子化合物成分を用いるアルミニウム-亜鉛コーティング組成物に関する」

(5-ウ)「【0009】
従来技術の欠点に鑑み、曲げ特性を向上させ、スパングル面サイズを縮小し、かつ塗装表面の外観をよくしたアルミニウム-亜鉛コーティング鋼製品を提供することが必要である。本発明は、曲げる間に表面のクラックが生じてもなお耐食性がありかつ、コーティング鋼製品を塗装するとき焼き戻し圧延を不要とする鋼製品のコーティング方法、コーティング組成物及びコーティング鋼製品を提供することによりこの要請に応えるものである。このコーティング組成物は、ホウ化チタン、ホウ化アルミニウム等の1又は複数の微粒子化合物成分により改良されている。」

(5-エ)「【0039】
本発明に関する予期されなかった利点を明らかにするために、アルミニウム・チタン・マスター合金とホウ化アルミニウム・チタン・マスター合金とを用いたコーティング鋼製品を比較する実験が行われた。これらのマスター合金は、試験される鋼のための浴を形成するためにアルミニウム-亜鉛コーティング合金へ添加された。図1は、上記の2つのマスター合金に基づく2つの曲線を比較しており、これらの曲線は、スパングル面サイズと溶融物のチタン含有量(重量%)の関係を示す。図1から明らかな通り、ホウ化チタンを含むマスター合金を使用した場合、スパングル面サイズが格段に微細化され、特にチタンの添加レベルが非常に低いときに顕著であった。例えば、0.02重量%のチタン含有率では、報告されたスパングル面サイズは約0.3mmであり、チタンのみが用いられたときはスパングル面サイズは1.4mmであった。従って、ホウ化物の改変剤はスパングル面サイズを縮小するのみでなく、必要なチタン量を少なくすることによりコストを低減する。
【0040】
図2は、ホウ化チタンを含むマスター合金と、アルミニウム及びホウ素を含むマスター合金を同様に比較したものである。図2は、ホウ化チタン精製剤が、約0.03重量%までのホウ素レベルの場合、アルミニウムとホウ素のみのマスター合金と比較してより小さいスパングル面サイズを実現することを示している。しかしながら、図1及び図2を比較すると、スパングル面サイズを縮小するためにホウ化アルミニウムの微粒子化合物成分を用いることは、チタンのみの場合よりも有効である。
【0041】
図3は、図1のTiB2改変コーティングと同様に、炭化チタンにより改変したコーティング組成物における挙動を示すグラフである。
【0042】スパングル面サイズを最小化する以外に、本発明による微粒子化合物成分を用いることにより、更に厳しい曲げに対してクラックを生じることなく耐え得るコーティングされた鋼製品を実現することができる。図4は、チタンのみを用いたコーティング浴合金組成物と、ホウ化チタン0.05重量%を用いたコーティング浴合金組成物によりコーティングされた製品を比較したものを示す。ホウ化チタンを用いた場合、スパングル面サイズは1.5mmから0.1mmへと小さくなった。コーティング製品に対してコーン曲げ試験を行った場合の、製品のコーティング厚さをクラックが発生しない半径に対してプロットしている。コーン曲げ試験は、ASTM D522-92aにほぼ従って行われた。コーティング浴中の微粒子化合物成分としてホウ化チタンを用いる製品は、クラックを生じない半径が23%減少した。」

(5-オ)「



(6)甲第6号証:特開2001-89838号公報
甲第6号証は、本件特許の優先日前に日本国内において頒布された刊行物であり、以下の事項が記載されている。

(6-ア)「【特許請求の範囲】
【請求項1】 重量%で、Al:12?70%、Si:アルミニウムの含有量の0.5?10%を含有し、残部がZnと不可避不純物からなる合金めっき鋼板において、めっき表面のスパングル指標Nが8.6以上であることを特徴とする、表面外観に優れたアルミニウム-亜鉛めっき鋼板。ただし、N=logn/0.301+1(nは25mm四方中のスパングル個数)
【請求項2】 重量%で、Mg:0.1?10%を、さらに含有することを特徴とする、請求項1に記載の表面外観に優れたアルミニウム-亜鉛めっき鋼板。」

(6-イ)「【0002】
【従来の技術】従来より建材用途などを中心として、高耐食性および表面の結晶(スパングル)の美麗さの観点から、アルミニウム-亜鉛めっき鋼板が使用されている。代表的なめっき層組成としては、特公昭46-7161号公報において25?70重量%のアルミニウムと、アルミニウムの含有量の0.5?10%のケイ素と残部が亜鉛が開示されており、一般にめっき後の冷却過程においてめっき層にスパングル模様が形成されることが知られている。
【0003】
【発明が解決しようとする課題】最近、家電製品においては、めっきの外観品位(美観)をさらに高めるために、スパングルの大きさを細かくすることが好まれるようになってきており、スパングルの大きさを制御することが新しい課題として求められてきた。スパングルの大きさを均一にする方法として、原板の粗度を制御する方法などが公知である。これらの方法では、原板表面を制御する必要があり、プロセスが煩雑になったりコストアップにつながる等の欠点があった。本発明の目的は、上記従来技術における問題点を解消し、スパングルの大きさを微小かつ均一で、表面外観に優れたアルミニウム-亜鉛めっき鋼板を提供することにある。」

(6-ウ)「【0005】
【発明の実施の形態】本発明者らは、原板の板厚や板幅が変化しても細かい均一な大きさのスパングルを得られるめっき鋼板について検討した結果、めっき成分を最適化した上で、めっき直後の冷却速度を比較的速く制御することが有効であることを見出した。アルミニウム-亜鉛めっきの組成は、12?70重量%のAlとAlの含有量の0.5%以上のSiと、残部が亜鉛からなる組成で行う。また、Mgを0.1?10%含有してもよい。めっき層中のAl濃度を12?70%に限定したのは、この範囲以外ではスパングル模様が現れ難いためである。
【0006】
また、Siの含有量をアルミニウム含有量の0.5?10%としたのは、0.5%未満では、めっき時に生成するFe-Al合金層の成長を抑制できず、10%超では析出するSiが加工性に悪影響を及ぼすためである。Mgの含有量を0.1?10%と限定したのは、0.1%未満では耐食性向上の効果が現れず、10%超ではめっき層の加工性が劣化するためである。」

(6-エ)「【0007】
・・・。アルミニウム-亜鉛めっき鋼板のスパングル模様は、その用途に応じて変化させることになるが、家電などの用途で好まれる外観を得るためにはスパングルの細かさを表すスパングル指標としてN=logn/0.301+1(nは25mm四方中のスパングル個数)を用いる。
【0008】
この指標によれば、スパングルが均一微細であることを客観的に評価でき、発明者らの調査によれば、この指標を8.6以上とすることによって、家電など用途において好適な表面模様が得られることが判明した。なお、本発明はスパングル外観に優れたアルミニウム-亜鉛めっき鋼板の具体的製造方法を特に限定しないが、めっき終了後20℃/sec以上、好ましくは60℃/sec以上で冷却することにより上記指標の条件を満たすスパングル模様を有するめっき鋼板が得られる。」

(6-オ)「【0009】
【実施例】次に本発明を実施例によりさらに説明する。表1に示すようなめっき原板を準備し、板温780℃で60秒還元焼鈍し、温度600℃で表1に示すような組成のめっき浴に浸漬し、付着量を片面75g/m^(2)に制御した後冷却した。各試料に対してめっき表面のスパングル指標の測定を行った。スパングル指標の評価は、めっき表面の任意の位置における25mm平方中のスパングルの個数から算出した。なお、スパングル均一性の評価基準は、
◎:スパングル均一、外観優
○:スパングル均一、外観良
×:スパングル一部不均一、外観不良、である。
【0010】
【表1】

【0011】
【表2】

【0012】評価結果を表1および表2に示す。表1および表2より明らかなように、本発明で規定する試料は微細かつ均一なムラのないスパングルが形成され、良好な表面外観を示す。めっき後冷却速度が本発明の規定外であるNo.49、No.50、No.51、No.52は、スパングルが均一微細でなく、外観が不良である。」

(7)甲第7号証:特開平10-140313号公報
甲第7号証は、本件特許の優先日前に日本国内において頒布された刊行物であり、以下の事項が記載されている。

(7-ア)「【特許請求の範囲】
【請求項1】 結晶粒径1mm以下,表面粗さRa 0.1?1μm及びビッカース硬さ100以上に調整したZn-Al系の合金めっき層が形成されている加工性,耐かじり性に優れたZn-Al系合金めっき鋼板。」

(7-イ)「【0002】
【従来の技術】Zn-Al系合金めっきは、耐食性,耐候性,耐熱性に優れている。この特徴を活用し、暖房機器,炊飯器,ガス器具,建築外装用鋼板,家電製品用外板等の広範な分野で、プレス加工品にして使用されている。ところが、Zn-Al系合金めっき鋼板は、プレス加工するとめっき層が型かじりを起こし易い。そのため、プレス加工で得られる製品の外観を損なわないよう、金型に焼き付いためっき層を定期的に除去することが必要となっている。また、連続してプレス加工すると、型かじりを起こしためっき層が金型に凝着されていき、鋼板と金型との摺動抵抗を大きくさせるため、鋼板が破断に至ることがある。このことから、めっき層の金型への凝着を防止するため高潤滑のプレス油の使用が余儀なくされている。」

(7-ウ)「【0007】
【作用】Zn-Al系合金めっき鋼板は、めっき層に靭性がなく延性が乏しい。そのため、プレス加工の際に歪みが加わると鋼板の変形にめっき層が追従できず、めっき層に亀裂が発生し易い。この亀裂は、めっき層の結晶粒界に沿って発生し、結晶粒内にほとんど発生しないことから、結晶粒界に生じた亀裂の直下にある鋼板にのみ応力が集中し易い。その結果、歪みの増加に従ってめっき層の亀裂直下にある鋼板への応力集中が局部的に大きくなり、応力集中部を起点にして鋼板が破断に至ることがある。本発明においては、めっき層の亀裂に起因する鋼板への応力集中をめっき層の結晶粒径、換言すればスパングルを小さくすることにより緩和している。すなわち、めっき層の結晶粒径を1mm未満の微小粒に調整してプレス加工時の歪みでめっき層に発生する亀裂を緻密化させると、亀裂直下の鋼板に生じる応力集中の部位が高密度で且つ数多く生成される。そのため、亀裂直下にある鋼板への応力集中が分散され、加工割れが発生し難くなり、プレス加工性が改善される。」

3 無効理由1について
(1)甲第1号証に記載された発明
ア 前記(1-ア)には、請求項1及び9の記載を引用する請求項16として、
「アルミニウム-亜鉛-ケイ素合金で被覆したスチールストリップ上の、本明細書で述べたタイプの表面欠陥を制御する方法であって、前記アルミニウム-亜鉛-ケイ素合金がマグネシウムを含み、
スチールストリップを熱処理炉及び溶融アルミニウム-亜鉛-ケイ素合金槽に順次通す工程、及び:
(a)スチールストリップを熱処理炉で熱処理する工程;
(b)スチールストリップを溶融槽で溶融コーティングし、合金のコーティングをスチールストリップ上に形成する工程;
を含み、前記溶融槽内の(i)ストロンチウム、(ii)カルシウム、又は、(iii)ストロンチウム及びカルシウムの濃度を、少なくとも2ppmに制御する方法により製造された金属被覆スチールストリップ。」が記載されている。

イ 前記アの「金属被覆スチールストリップ」について、前記(1-イ)の「本発明は、以下に述べるように、ストリップを被覆金属の溶融槽中で溶融コーティングすることによりストリップ上に形成された耐腐食性金属被覆を有するスチールストリップにおける表面欠陥の制御方法に関する。」との記載によれば、前記アの「金属被覆スチールストリップ」は、「ストリップ上に形成された耐腐食性金属被覆を有するスチールストリップ」であるといえる。

ウ また、前記(1-イ)の「本発明は、これに限定されるわけではないが、特に、アルミニウム-亜鉛-ケイ素合金被覆を有し、最終製品(例えば屋根材)に(例えばロール形成により)冷間成形されうる金属被覆スチールストリップに関する。」との記載によれば、前記「耐腐食性金属被覆」は、「アルミニウム-亜鉛-ケイ素合金被覆」を有するものであって、更に、前記(1-エ)の「用語「アルミニウム-亜鉛-ケイ素合金」は、本明細書中、以下の重量%範囲の元素アルミニウム、亜鉛及びケイ素を含有する合金を意味するものと解釈される:
アルミニウム:50?60
亜鉛:37?46
ケイ素:1.2?2.3
用語「アルミニウム-亜鉛-ケイ素」合金は、更に、本明細書中、他の元素、例えば、鉄、バナジウム、クロム及びマグネシウムのいずれか一以上を含んでいても含んでいなくてもよい合金を意味するものと解釈される。」との記載、及び、(1-サ)の「好ましくは、アルミニウム-亜鉛-ケイ素合金は1%未満のマグネシウム濃度を有する。」との記載によれば、前記「アルミニウム-亜鉛-ケイ素合金」は、「重量%で、アルミニウム:50?60、亜鉛:37?46、ケイ素:1.2?2.3の範囲のアルミニウム、亜鉛及びケイ素を含有し、更に、例えば、鉄、バナジウム、クロム及びマグネシウムのいずれか一以上を含んでいても含んでいなくても良い合金」であって、「好ましくは、1%未満のマグネシウム濃度を有する」合金といえる。

エ さらに、前記(1-シ)には、「本発明は、「最小スパングル」ストリップに特に好適である。
「最小スパングル」ストリップという用語は、本明細書では、ストリップ表面の略全幅にわたるスパングルの主要寸法において、0.5mm未満、好ましくは、0.2mm未満のスパングルを有する金属被覆ストリップを意味するものと解釈される。
・・・
最小スパングルストリップは、例えば、国際出願PCT/US00/23164(WO 01/27343)にBethlehem Steel Corporationの名で記載されているような、任意の好適な方法工程によって形成することができる。」と記載されているから、前記「耐腐食性金属被覆」は、「国際出願PCT/US00/23164(WO 01/27343)にBethlehem Steel Corporationの名で記載されている方法により形成されたストリップ表面の略全幅にわたるスパングルの主要寸法において、0.2mm未満のスパングルを有する」ものといえる。

オ また、前記(1-ア)、(1-カ)、(1-キ)の記載からみれば、前記「耐腐食性金属被覆」は、「(i)ストロンチウム、(ii)カルシウム、又は、(iii)ストロンチウム及びカルシウムの濃度を、少なくとも2ppmに制御」するものである。

カ そして、前記ア?オによれば、甲第1号証には、以下の発明が記載されているといえる。

「ストリップ上に形成された耐腐食性金属被覆を有するスチールストリップであって、該耐腐食性金属被覆は、アルミニウム-亜鉛-ケイ素合金被覆を有し、重量%で、アルミニウム:50?60、亜鉛:37?46、ケイ素:1.2?2.3の範囲のアルミニウム、亜鉛及びケイ素を含有し、更に、例えば、鉄、バナジウム、クロム及びマグネシウムのいずれか一以上を含んでいても含んでいなくても良い合金であって、好ましくは、1%未満のマグネシウム濃度を有する合金であり、国際出願PCT/US00/23164(WO 01/27343)にBethlehem Steel Corporationの名で記載されている方法により形成されたストリップ表面の略全幅にわたるスパングルの主要寸法において、0.2mm未満のスパングルを有し、(i)ストロンチウム、(ii)カルシウム、又は、(iii)ストロンチウム及びカルシウムの濃度を、少なくとも2ppmに制御した、金属被覆スチールストリップ。」(以下、「甲1-1発明」という。)

キ 次に、前記(1-ア)によれば、請求項1の記載を引用する請求項9には、
「アルミニウム-亜鉛-ケイ素合金で被覆したスチールストリップ上の、本明細書で述べたタイプの表面欠陥を制御する方法であって、
スチールストリップを熱処理炉及び溶融アルミニウム-亜鉛-ケイ素合金槽に順次通す工程、及び:
(a)スチールストリップを熱処理炉で熱処理する工程;
(b)スチールストリップを溶融槽で溶融コーティングし、合金のコーティングをスチールストリップ上に形成する工程;
を含み、
前記アルミニウム-亜鉛-ケイ素合金がマグネシウムを含み、
前記溶融槽内の(i)ストロンチウム、(ii)カルシウム、又は、(iii)ストロンチウム及びカルシウムの濃度を、少なくとも2ppmに制御する方法。」が記載されている。

ク 前記アの「アルミニウム-亜鉛-ケイ素合金で被覆したスチールストリップ上の、本明細書で述べたタイプの表面欠陥を制御する方法」は、前記(1-イ)の記載事項によれば、「スチールストリップにおける表面欠陥の制御方法」といえ、「スチールストリップを熱処理炉及び溶融アルミニウム-亜鉛-ケイ素合金槽に順次通す工程、及び:
(a)スチールストリップを熱処理炉で熱処理する工程;
(b)スチールストリップを溶融槽で溶融コーティングし、合金のコーティングをスチールストリップ上に形成する工程」を含むものといえる。

ケ また、前記ウ及び前記エの検討と同様の理由により、前記カの「アルミニウム-亜鉛-ケイ素合金」は、「重量%で、アルミニウム:50?60、亜鉛:37?46、ケイ素:1.2?2.3の範囲のアルミニウム、亜鉛及びケイ素を含有し、更に、例えば、鉄、バナジウム、クロム及びマグネシウムのいずれか一以上を含んでいても含んでいなくても良い合金」であって、「好ましくは、1%未満のマグネシウム濃度を有する」合金といえ、また、前記カの「スチールストリップ」は、「国際出願PCT/US00/23164(WO 01/27343)にBethlehem Steel Corporationの名で記載されている方法により形成されたストリップ表面の略全幅にわたるスパングルの主要寸法において、0.2mm未満のスパングルを有する金属被覆ストリップ」といえる。

コ 更に、前記(1-ア)、(1-カ)、(1-キ)の記載からみれば、前記「アルミニウム-亜鉛-ケイ素合金」は、「(i)ストロンチウム、(ii)カルシウム、又は、(iii)ストロンチウム及びカルシウムの濃度を、少なくとも2ppmに制御」しているものである。

サ 前記キ、ク、ケ及びコによれば、甲第1号証には、以下の発明が記載されているといえる。

「スチールストリップを熱処理炉及び溶融アルミニウム-亜鉛-ケイ素合金槽に順次通す工程、及び:
(a)スチールストリップを熱処理炉で熱処理する工程;及び
(b)スチールストリップを溶融槽で溶融コーティングし、合金のコーティングをスチールストリップ上に形成する工程;
を含み、
前記アルミニウム-亜鉛-ケイ素合金は、重量%で、アルミニウム:50?60、亜鉛:37?46、ケイ素:1.2?2.3の範囲のアルミニウム、亜鉛及びケイ素を含有し、更に、例えば、鉄、バナジウム、クロム及びマグネシウムのいずれか一以上を含んでいても含んでいなくても良い合金であって、好ましくは、1%未満のマグネシウム濃度を有する合金であり、
前記スチールストリップが、国際出願PCT/US00/23164(WO 01/27343)にBethlehem Steel Corporationの名で記載されている方法により形成されたストリップ表面の略全幅にわたるスパングルの主要寸法において、0.2mm未満のスパングルを有する金属被覆ストリップであり、
前記溶融槽内の(i)ストロンチウム、(ii)カルシウム、又は、(iii)ストロンチウム及びカルシウムの濃度を、少なくとも2ppmに制御する、スチールストリップにおける表面欠陥の制御方法。」(以下、「甲1-2発明」という。)

(2)対比・判断
(2-1)本件発明1について
ア 本件発明1と甲1-1発明とを対比する。

イ 甲1-1発明の「金属被覆スチールストリップ」は、前記(1-ア)の「(b)スチールストリップを溶融槽で溶融コーティングし、合金のコーティングをスチールストリップ上に形成する工程」により、合金のコーティングを形成したものであって、溶融槽で溶融コーティングによって、少なくとも一つのストリップ表面上にコーティングされることは明らかであるから、本件発明1の「少なくとも一つのストリップ表面上に金属コーティングを有するスチールストリップ」に相当する。

ウ 甲1-1発明の「重量%で、アルミニウム:50?60、亜鉛:37?46、ケイ素:1.2?2.3の範囲のアルミニウム、亜鉛及びケイ素を含有し、更に、例えば、鉄、バナジウム、クロム及びマグネシウムのいずれか一以上を含んでいても含んでいなくても良い合金」は、マグネシウムを含んでいても良い合金であるから、本件発明1の「マグネシウムを含むアルミニウム-亜鉛-ケイ素合金」に相当し、さらに、アルミニウムの組成比、亜鉛の組成比、及び、ケイ素の組成比について、本件発明1と甲1-1発明とは、50?60重量%の元素アルミニウム、37?46重量%の元素亜鉛及び1.2?2.3重量%の元素ケイ素の範囲で重複する。

エ 甲1-1発明は、そのスチールストリップが「0.2mm未満のスパングルを有する」ことを特定するものであり、甲第1号証には、その測定方法について、具体的に記載されていないものの、甲第1号証と本件発明1に係る本件特許とは、共に出願人がブルースコープ・スティール・リミテッドで一致しており、同様の測定方法を用いていると推認されること、及び、「豪州規格(Australian Standard)AS1733に記述されている平均インターセプト距離法(average intercept distance method)」は、規格に基づく周知の測定方法である(要すれば、AS1733参照)ことから、この規格に基づいて測定するものと推認される。

オ さらに、甲1-1発明の「0.2mm未満のスパングルを有」する「耐腐食性金属被覆」は、「国際出願PCT/US00/23164(WO 01/27343)にBethlehem Steel Corporationの名で記載されている方法により形成される」ものであり、本件発明1の「0.5mm未満のスパングルを有」する「金属コーティング」は、本件特許明細書の【0047】の記載によれば、「例えば国際出願PCT/US00/23164(WO 01/27343)にBethlehem Steel Corporationの名の下に記述されているホウ化チタン変性アルミニウム-亜鉛-ケイ素合金」であるから、両者は共に、国際出願PCT/US00/23164号(国際公開 01/27343号)に記載された方法により形成されるものであり、両者のスパングルのサイズも一致するものと認められる。

カ 前記エ、オによれば、甲1-1発明の「0.2mm未満のスパングルを有する」ことは、本件発明1の「豪州規格(Australian Standard)AS1733に記述されている平均インターセプト距離法(average intercept distance method)を使用して測定される0.5mm未満のスパングルを有し、」に相当するといえる。

キ してみると、両者は、
「少なくとも一つのストリップ表面上に金属コーティングを有するスチールストリップであって、該コーティングがマグネシウムを含むアルミニウム-亜鉛-ケイ素合金を含み、
該アルミニウム-亜鉛-ケイ素合金が、45?50重量%の元素アルミニウム、37?46重量%の元素亜鉛および1.2?2.3重量%の元素ケイ素を含有する合金であり、
豪州規格(Australian Standard)AS1733に記述されている平均インターセプト距離法(average intercept distance method)を使用して測定される0.5mm未満のスパングルを有する、
スチールストリップ。」である点で一致し、次の点で相違している。

相違点1-1:アルミニウム-亜鉛-ケイ素合金に含まれるマグネシウムの濃度について、本件発明1が「1?5重量%」であるのに対して、甲1-1発明は「好ましくは1%未満」である点。

相違点1-2:アルミニウム-亜鉛-ケイ素合金について、本件発明1が、ストロンチウム及び/又はカルシウムを含むことを特定していないのに対して、甲1-1発明はストロンチウム及び/又はカルシウムを含むことを特定している点。

相違点1-3:アルミニウム-亜鉛-ケイ素合金について、本件発明1が「ホウ化チタン変性」アルミニウム-亜鉛-ケイ素合金であるのに対して、甲1-1発明は、国際出願PCT/US00/23164号(国際公開 01/27343号)に記載された方法により形成されることが記載されているのみである点。

ク そこで、これらの相違点1-1?1-3について、相違点1-1から順に検討する。

ケ 相違点1-1について

コ まず、この相違点1-1が実質的な相違点であるかについて検討する。

サ 前記(1-エ)の「用語「アルミニウム-亜鉛-ケイ素」合金は、更に、本明細書中、他の元素、例えば、鉄、バナジウム、クロム及びマグネシウムのいずれか一以上を含んでいても含んでいなくてもよい合金を意味するものと解釈される。」との記載によれば、甲1-1発明の「アルミニウム-亜鉛-ケイ素合金」が含む「マグネシウム」は、鉄、バナジウム、クロムと同様に含んでいてもいなくてもよい成分とされている。

シ また、前記(1-サ)の記載によれば、甲1-1発明におけるマグネシウムの濃度は、「溶融槽内のストロンチウム及びカルシウムの濃度の制御は、マグネシウムを含むアルミニウム-亜鉛-ケイ素合金に対して、特に有益な効果があることを見いだし」、そのマグネシウムの濃度について、「好ましくは、アルミニウム-亜鉛-ケイ素合金は1%未満のマグネシウム濃度を有」し、「より好ましくは、アルミニウム-亜鉛-ケイ素合金は、50ppm未満のマグネシウム濃度を有する」ものであって、マグネシウムの濃度の上限値を1%又は50ppmと特定するものの、下限値を特定していないことからみても、甲1-1発明におけるマグネシウムは、特定の効果を得るために故意に添加するものではなく、不純物として含有されるものと推認され、その濃度は、少なくとも1%未満、好ましくは50ppmに低減すべき成分といえる。

ス ここで、前記(1-ア)の請求項9が「マグネシウムを含む」ことのみを特定し、その濃度を特定しておらず、文言上、マグネシウムの濃度が1%以上であることを明示的に除外するものではないが、前記サ、シによれば、甲第1号証には、マグネシウムを、敢えて1%以上の濃度で添加することが、実質的に記載されているとも、示唆もされているともいうことはできない。

セ してみると、甲第1号証には、甲1-1発明のマグネシウムの濃度が「1?5重量%」であることについて記載されているとも、示唆されているともいえない。

ソ したがって、本件発明1は、甲第1号証に記載された発明とはいえない。

タ 次に、甲1-1発明において、甲第2号証?甲第5号証の記載事項に基づいて、相違点1-1に係る本件特許発明1の発明特定事項を、当業者が容易に想到することができたか否かについて、さらに検討する。

チ はじめに、相違点1に係る本件発明1の「該マグネシウムの濃度が1?5重量%」という発明特定事項の技術的意義について検討する。

ツ 前記(本-ア)の記載によれば、本件発明1の解決しようとする課題は、コーティングの耐腐食性及び延性の特性の組み合わせの観点から、現在入手可能な製品と比較して改良された製品である金属被覆スチールストリップを提供すること(【0001】)といえる。

テ そして、前記(本-イ)の記載によれば、前記チの課題の解決手段は、コーティングがマグネシウムを含むアルミニウム-亜鉛-ケイ素合金を含み、小さいスパングルを有すること(【0023】)であり、これは、アルミニウム-亜鉛-ケイ素合金へのマグネシウム添加は、コーティングの耐腐食性が改良し、小さなスパングルサイズは、コーティングの延性におけるマグネシウムの悪影響を相殺する(【0024】)ことによるものといえる。

ト さらに、前記(本-オ)の【0063】?【0069】の記載、及び、前記(本-キ)の【図1a】、【図1b】、【図2】によれば、金属被覆スチールストリップの耐腐食性が、マグネシウムの濃度の増加で改良されることが示されており、さらに、前記(本-オ)の【0070】?【0082】の記載、及び、前記(本-ク)の【図3】、【図4】によれば、「小さい」スパングルサイズを有するMg2重量%を有するZincalumeのコーティングを形成することが、「通常の」スパングルサイズであること以外同じ組成のコーティングの延性と比較して、コーティングの延性を改良したことが示されており、前記ツのことが裏付けられているといえる。

ナ してみると、本件発明1は、アルミニウム-亜鉛-ケイ素合金へのマグネシウム添加と小さなスパングルサイズとにより、耐腐食性と延性との両立を図ったものであるといえる。

ニ そこで、前記ナの本願発明1の技術的意義を踏まえて、相違点1に係る本件訂正発明1の発明特定事項である「該マグネシウムの濃度が1?5重量%」であることを、当業者が甲第2号証?甲第5号証の記載事項に基づいて導き出すことができるかどうかについて検討する。

ヌ 甲第2号証には、前記(2-ア)、(2-イ)、(2-ウ)によれば、亜鉛-アルミニウム合金めっき鋼板に関し、めっき鋼板並びに表面に塗装を施されためっき鋼板の折り曲げ加工部の耐食性が良好で、更に、表面に塗装を施されためっき鋼板の切断端縁部の耐食性が良好な亜鉛-アルミニウム合金めっき鋼板に関し(【0001】)、折り曲げ加工を施した場合の折り曲げ部の耐食性が向上し、更に塗装されためっき鋼板切断加工を施した場合の切断端縁部の耐食性も向上した亜鉛-アルミニウム合金めっき鋼板を提供することを目的として(【0006】)、合金めっき層中のマグネシウムの割合を、1.0?5.0重量%とすることにより、合金めっき層を鋼板表面に形成した際に、腐食性雰囲気下における合金めっき層からの亜鉛の溶出を抑制することができ、合金めっき鋼板の平面部のみならず、切断加工を施した場合の切断端縁部や、折り曲げ加工を施した場合の折り曲げ部の耐食性が向上し、特に折り曲げ部の耐食性を著しく向上させることができる(【0015】)ことが記載されているといえる。

ネ 甲第3号証には、前記(3-ア)、(3-イ)、(3-ウ)、(3-エ)によれば、Al-Zn中にSiおよびMgを適量含有させためっき浴に浸漬して得られるAl-Zn-Mg-Si系めっき鋼板は優れた耐食性を示すことが知られているが、質量%で3?20%のMg、3?15%のSi、残部AlおよびZnよりなり、かつ〔%Al〕/〔%Zn〕は1?1.5であるめっき鋼板は、加工性に問題があり(【0002】)、めっき層中に脆く、腐食環境中での溶解速度が早いMg系金属間化合物(Mg_(2)Si)を含有するため加工性および大気環境等の穏やかな腐食環境中では上記金属間化合物が優先的に溶解していくため長期耐食性に劣る(【0003】)という課題があり、耐食性向上のためにMgは0.5%以上の添加し、2%を超えると、Mg2Si等の溶解度が高く脆い金属間化合物が晶出するため、加工性が悪化するとともに長期的な防食効果が得られないことから、Mgの下限を0.5%、上限を2%とし(【0006】)、めっき層成分が質量%で、Mg:0.5?2%、Si:0.2?5%、Al:40?65%、Zn:30?60%を含有し、かつ、めっき層中に、Mg全Mg量の99%以上が固溶していることを特徴とする耐食性と加工性に優れた表面処理鋼板(【0004】)が記載されているといえる。

ノ 甲第4号証には、前記(4-ア)、(4-イ)、(4-ウ)、(4-エ)、(4-オ)によれば、溶融Zn-Al系合金めっき鋼板が、塗膜等との密着性が良くないという欠点や、α-Al相とβ-Zn相からなるデンドライト組織に起因した接触腐食が起こりやすく軽度の曲げ加工部でもめっき層が剥離するといった欠点があり、0.01?1.0又は3?20%の範囲でMgを添加する従来例が示され(【0003】)、Mgはめっき面の耐食性を向上させるとともに、犠牲防食作用を長続きさせる効果をもたらすことから、めっき層中のMg含有量が1.5?6.0質量%の範囲とすること(【0016】、【0017】)が記載され、Mg含有量が0.5,1.0,1.5,2.0,3.0,4.0,5.0の具体例(【0030】の【表1】)が記載されてているといえる。

ハ 前記ヌ?ノの甲第2号証?甲第4号証の記載によれば、アルミニウム-亜鉛-ケイ素合金被覆において、マグネシウムを添加することにより耐食性を向上すること、また、その際のマグネシウムの濃度を1%以上の範囲とすることが、当業者に広く知られた事項であるといえる。

ヒ しかしながら、甲1-1発明は、前記(1-イ)の「本発明は、・・・耐腐食性金属被覆を有するスチールストリップにおける表面欠陥の制御方法に関する。」との記載によれば、その被覆が既に「耐腐食性」を備えるものであり、甲第1号証の全体をみても、甲1-1発明の被覆において、さらに耐腐食性を向上すべく、その組成を調整することについて、記載も示唆もされていない。
更に、前記(3-イ)、(3-エ)の記載からみれば、Al-Zn-Mg-Si系めっき鋼板においてマグネシウムの添加量が2%を超えると、加工性が悪化するとともに長期的な防食効果が得られなくなるものである。

フ してみると、アルミニウム-亜鉛-ケイ素合金被覆において、マグネシウムを1%以上の濃度の範囲で添加することにより耐食性を向上することが周知であるとしても、甲1-1発明において、耐食性を向上することを目的として、マグネシウムを1%以上の濃度の範囲で添加しようとする動機付けがない。

ヘ さらに、前記コ?セによれば、そもそも甲1-1発明におけるマグネシウムは、特定の効果を得るために故意に添加するものではなく、その濃度を1%未満に、より好ましくは50ppm未満に低減することが好ましいとされ、いわば不純物として含有される成分であり、その濃度を1%以上とした場合、甲1-1発明の技術的意義を損なうことにもなりかねないから、そうすることには阻害要因があるともいえる。
加えて、前記甲第5号証には、アルミニウム-亜鉛-ケイ素合金に含まれるマグネシウムの濃度を「1?5重量%」とすることは記載されていない。

ホ してみると、甲1-1発明において、アルミニウム-亜鉛-ケイ素合金に含まれるマグネシウムの濃度を「1?5重量%」とすることを、甲第1号証ないし甲第5号証の記載に基づいて当業者が容易になし得るとはいえない。

マ したがって、本件発明1は、相違点1-2及び相違点1-3について検討するまでもなく、甲第1号証に記載された発明及び甲第2号証?甲第5号証の記載に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。

(2-2)本件発明2?9、19について
本件発明2?9、19は、本件発明1の全ての発明特定事項を有するものであるから、前記(2-1)の本件発明1についての理由と同様の理由により、甲第1号証に記載された発明であるとはいえず、また、甲第1号証に記載された発明及び甲第2号証?甲第5号証の記載に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。

(2-3)本件発明11について
ア 前記(2-1)の検討を踏まえて、本件発明11と甲1-2発明とを対比すると、両者は、以下の点で相違する。

相違点2-1:アルミニウム-亜鉛-ケイ素合金に含まれるマグネシウムの濃度について、本件発明11が「1?5重量%」であるのに対して、甲1-2発明は「好ましくは1%未満」である点。

相違点2-2:アルミニウム-亜鉛-ケイ素合金について、本件発明11がストロンチウム及び/又はカルシウムを含むことを特定していないのに対して、甲1-2発明はストロンチウム及び/又はカルシウムを含むことを特定している点。

相違点2-3:本件発明11が「ホウ化チタン粒子(これは「パウダー」という語を含む)を溶融槽に添加して溶融アルミニウム-亜鉛-ケイ素合金がホウ化チタンを含むようにすることによりスチールストリップ状に小さなスパングルを有するコーティングを形成する工程を含む、」アルミニウム-亜鉛-ケイ素合金であるのに対して、甲1-2発明は、「国際出願PCT/US00/23164(WO 01/27343)にBethlehem Steel Corporationの名で記載されている方法により形成」するものである点。

イ そして、前記(2-1)コ?セで検討したのと同様の理由により、相違点2-1は実質的な相違点であるから、本件発明11は、甲第1号証に記載された発明ではない。

ウ 次に、これらの相違点について検討すると、相違点2-1は、前記(2-1)の相違点2-1と同様の相違点であるから、前記(2-1)で検討した理由と同様の理由により、甲1-2発明において、アルミニウム-亜鉛-ケイ素合金に含まれるマグネシウムの濃度を「1?5重量%」とすることを、甲第2号証ないし甲第5号証の記載に基づいて当業者が容易になし得るとはいえない。

エ したがって、本件発明11は、相違点2-2及び相違点2-3について検討するまでもなく、甲第1号証に記載された発明及び甲第2号証?甲第5号証の記載に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。

(2-4)本件発明12?17について
本件発明12?17は、本件発明11の全ての発明特定事項を有するものであるから、前記(2-3)の本件発明11についての理由と同様の理由により、甲第1号証に記載された発明であるとはいえないし、また、甲第1号証に記載された発明及び甲第2号証?甲第5号証の記載に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。

(3)請求人の主張に対して
請求人は、無効理由1について、更に、概略以下の旨を主張している。
(3-1)請求人の無効理由1についての主張
甲第1号証には、アルミニウム-亜鉛-ケイ素合金が「ホウ化チタン変性」アルミニウム-亜鉛-ケイ素合金であることは記載されていないが、本件特許と同一出願人、発明者一部同一、同一技術範囲の甲第1号証に記載されるAl-Zn-Si合金が「ホウ化チタン変性」アルミニウム-亜鉛-ケイ素合金であるか、または「ホウ化チタン変性」アルミニウム-亜鉛-ケイ素合金として形成されるスパングルサイズにおいて同等である微粒子添加アルミニウム-亜鉛-ケイ素合金コーティング浴組成から形成されると理解するのが自然であり、本件特許の公開後である無効審判請求時に、甲第1号証に記載される製造方法が本件特許の製造方法と同一であろうと推定するのは当業者にとって当然であるが、被請求人は自社の出願である甲第1号証の記載事項について知っているはずであるのになんの反証もしていない旨(平成28年11月17日付け口頭審理陳述要領書第4ページ第14行?第5ページ第5行、平成29年 1月19日付け上申書第2ページ第15行?第22行。)。

(3-2)請求人の主張についての当審の判断
ア 甲1-1発明の「0.2mm未満のスパングルを有する」ことは、本件発明1の「豪州規格(Australian Standard)AS1733に記述されている平均インターセプト距離法(average intercept distance method)を使用して測定される0.5mm未満のスパングルを有し、」に相当するといえることは、前記「3 無効理由1について(2)対比・判断(2-1)本件発明1について カ」に記載のとおりである。

イ 一方、甲1-1発明及び甲1-2発明において、アルミニウム-亜鉛-ケイ素合金に含まれるマグネシウムの濃度を「1?5重量%」とすることを、甲第1号証ないし甲第5号証の記載に基づいて当業者が容易になし得るとはいえないから、本件発明1及び11は、相違点1-2、相違点1-3及び相違点2-2、相違点2-3について検討するまでもなく、甲第1号証に記載された発明及び甲第2号証?甲第5号証の記載に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものとはいえないことは、前記「3 無効理由1について(2)対比・判断(2-1)本件発明1について ホ?マ、(2-3)本件発明11について ウ」に記載のとおりであって、このことは、同一出願人、発明者一部同一、同一技術範囲の甲第1号証に記載される製造方法が本件特許の製造方法と同一であることに左右されるものではない。

ウ してみれば、本件発明1?9、11?17、19が、甲第1号証に記載された発明及び甲第2号証?甲第5号証の記載に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものとはいえないことに変わりはない。

(3-3) まとめ
以上のとおりであるので、請求人の前記主張は採用できない。

4 無効理由2について
(1)甲第6号証に記載された発明
ア 前記(6-ア)の記載からみて、甲第6号証には、次の発明が記載されている。
「重量%で、Al:12?70%、Si:アルミニウムの含有量の0.5?10%を含有し、Mg:0.1?10%をさらに含有し、残部がZnと不可避不純物からなる合金めっき鋼板において、めっき表面のスパングル指標Nが8.6以上であることを特徴とする、表面外観に優れたアルミニウム-亜鉛めっき鋼板。ただし、N=logn/0.301+1(nは25mm四方中のスパングル個数)」(以下、「甲6-1発明」という。)

イ また、前記(6-エ)の記載からみて、前記アのアルミニウム-亜鉛めっき鋼板を得る方法は、めっき終了後20℃/sec以上、好ましくは60℃/sec以上で冷却するものといえる。また、前記(6-オ)に記載されるように、メッキ原板を焼鈍し、めっき浴に浸漬し、付着量を制御し、冷却することは、溶融めっきによりめっき鋼板を得る方法として通常のものである。

ウ してみると、甲第6号証には、
「めっき原板を、焼鈍し、めっき浴に浸漬し、付着量を制御した後冷却し、
めっき終了後20℃/sec以上、好ましくは60℃/sec以上で冷却することにより、
重量%で、Al:12?70%、Si:アルミニウムの含有量の0.5?10%を含有し、Mg:0.1?10%をさらに含有し、残部がZnと不可避不純物からなる合金めっき鋼板において、めっき表面のスパングル指標Nが8.6以上であることを特徴とする、表面外観に優れたアルミニウム-亜鉛めっき鋼板を得る方法。ただし、N=logn/0.301+1(nは25mm四方中のスパングル個数)」(以下、「甲6-2発明」という。)

(2)対比・判断
(2-1)本件発明1について
ア 本件発明1と甲6-1発明とを対比する。

イ 甲6-1発明の「アルミニウム-亜鉛めっき鋼板」は、前記(6-オ)の記載からみれば、例えばめっき原板を準備し、板温780℃で60秒還元焼鈍し、温度600℃で表1の組成のマグネシウムを含むめっき浴に浸漬し、付着量を片面75g/m^(2)に制御した後冷却して得られるものであるから、「少なくとも一つのストリップ表面上に金属コーティングを有するスチールストリップ」であって、「該コーティングがマグネシウムを含むアルミニウム-亜鉛-ケイ素合金を含」むものといえる。

ウ また、アルミニウムの組成比、亜鉛の組成比、及び、ケイ素の組成比について、本件発明1と甲6-1発明とは、「45?60重量%の元素アルミニウム」、「37?46重量%の元素亜鉛」及び「1.2?2.3重量%の元素ケイ素」の範囲で重複する。

エ してみると、両者は、
「少なくとも一つのストリップ表面上に金属コーティングを有するスチールストリップであって、該コーティングがマグネシウムを含むアルミニウム-亜鉛-ケイ素合金を含み、
該アルミニウム-亜鉛-ケイ素合金が、45?60重量%の元素アルミニウム、37?46重量%の元素亜鉛および1.2?2.3重量%の元素ケイ素を含有する合金であるスチールストリップ。」である点で一致し、以下の点で相違する。

相違点6-1:金属コーティングについて、本件発明1が「豪州規格(Australian Standard)AS1733に記述されている平均インターセプト距離法(average intercept distance method)を使用して測定される0.5mm未満のスパングルを有し、該アルミニウム-亜鉛-ケイ素合金がホウ化チタン変成アルミニウム-亜鉛-ケイ素合金である」のに対し、甲6-1発明が「めっき表面のスパングル指標Nが8.6以上である。ただし、N=logn/0.301+1(nは25mm四方中のスパングル個数)」であり、アルミニウム-亜鉛-ケイ素合金がホウ化チタン変成アルミニウム-亜鉛-ケイ素合金であることは特定されていない点。

相違点6-2:アルミニウム-亜鉛-ケイ素合金に含まれるマグネシウムの濃度について、本件発明1が「1?5重量%」であるのに対して、甲6-1発明が「0.1?10重量%」である点。

オ まず、相違点6-1について検討する。

カ 甲6-1発明は、「スパングル指標Nが8.6以上である」ことを特定するものであり、このスパングル指標は、「N=logn/0.301+1(nは25mm四方中のスパングル個数)」であるから、技術常識に基づいて計算すると、スパングル指標Nが8.6以上であることは、AS1733に記述されている平均インターセプト距離法を使用して測定されるスパングルサイズが2mm程度であることに相当するといえる。(審判請求書第33ページ第2行?第18行、平成28年 1月20日付け審尋回答書第5頁)

キ そこで、甲6-1発明において、スパングルサイズを2mm程度から、本件発明1の「0.5mm未満」の範囲にさらに特定することについて検討する。

ク ここで、甲6-1発明は、前記(6-イ)によれば、家電製品において、めっきの外観品位(美観)をさらに高めるために、スパングルの大きさを細かくすることが好まれるようになってきており、スパングルの大きさを制御することが新しい課題として求められてきた一方、スパングルの大きさを均一にする方法として公知の原板の粗度を制御する方法などは、プロセスが煩雑になったりコストアップにつながる等の欠点があるという問題に対して、従来技術における問題点、すなわち、コストアップにつながる等の欠点を解消し、スパングルの大きさを微小かつ均一で、表面外観に優れたアルミニウム-亜鉛めっき鋼板を提供することを解決しようとする課題とするものである。

ケ そして、前記(6-ウ)によれば、甲6-1発明は、この課題を解決するために、「めっき成分を最適化した上で、めっき直後の冷却速度を比較的速く制御すること」、具体的には、「めっき終了後20℃/sec以上、好ましくは60℃/sec以上で冷却すること」により、「この指標を8.6以上とすることによって、家電など用途において好適な表面模様が得られる」というものである。

コ また、前記(6-オ)によれば、スパングルが均一で外観が優とされる実施例は、スパングル指標が9.6?10.2のものであり、甲6-1発明は、文言上「スパングル指標Nが8.6以上である」ことを特定するものの、家電製品において、めっきの外観品位(美観)をさらに高めるためには、スパングル指標が9.6?10.2程度とすればよいものであり、スパングル指標をそれ以上大きくすることが記載されているとはいえない。

サ 更に、スパングル指標が10.2である場合について、前記エと同様にして換算すると、AS1733に記述されている平均インターセプト距離法を使用して測定されるスパングルサイズは、円形近似で約1.2、正方形近似で約1.0(平成28年 1月20日付け審尋回答書第5頁)であるから、甲第6号証には、スパングルの大きさを「0.5mm未満」とする動機付けがない。

シ また、甲第3号証及び甲第7号証のいずれにも、甲6-1発明において、AS1733に記述されている平均インターセプト距離法を使用して測定されるスパングルサイズを0.5mm未満とすることについて記載も示唆もされていない。

ス してみると、甲6-1発明において、スパングルを、「豪州規格(Australian Standard)AS1733に記述されている平均インターセプト距離法(average intercept distance method)を使用して測定される0.5mm未満のスパングル」とすることを、甲第3号証、甲第5号証及び甲第7号証の記載事項に基づいて、当業者が容易になし得るとはいえない。

セ また、前記(5-ア)、(5-イ)、(5-ウ)によれば、甲第5号証には、曲げ特性を向上させ、スパングル面サイズを縮小し、かつ塗装表面の外観をよくしたアルミニウム-亜鉛コーティング鋼製品を提供する(【0009】)ことを目的として、溶融アルミニウム-亜鉛合金浴を用いて鋼製品をコーティングする方法において、チタン・・・のホウ化化合物、・・・の有効量の微粒子化合物成分を添加することにより前記アルミニウム-亜鉛合金の組成を改変することを特徴とする鋼製品のコーティング方法(【請求項1】)が記載されている。

ソ ところが、甲第5号証に記載されるアルミニウム-亜鉛鋼製品コーティング組成物はスパングル面サイズを縮小するものではあるが、マグネシウムを含むものではなく、したがってマグネシウムの添加による加工性の悪化を防ぐためにチタンのホウ化化合物を添加するものではないことと、甲第6号証には、スパングルの大きさを「0.5mm未満」とする動機付けがない(前記「サ」)ことからみれば、甲6-1発明に甲第5号証の記載事項を組み合わせる動機付けは存在しない。
しかも、前記(6-ウ)の記載からみれば、甲6-1発明はめっき直後の冷却速度を制御するものであるが、これに加えて新たな添加物を用いればコストアップも考えられるから、甲6-1発明に甲第5号証の記載事項を組み合わせることには阻害要因があるといえる。

タ また、甲第3号証及び甲第7号証のいずれにも、Al-Zn-Si合金をホウ化チタン変成アルミニウム-亜鉛-ケイ素合金とすることについて記載も示唆もされていない。

チ してみると、甲6-1発明において、金属コーティングを、「豪州規格(Australian Standard)AS1733に記述されている平均インターセプト距離法(average intercept distance method)を使用して測定される0.5mm未満のスパングルを有し、該アルミニウム-亜鉛-ケイ素合金がホウ化チタン変成アルミニウム-亜鉛-ケイ素合金である」ものとすることを、甲第3号証、甲第5号証及び甲第7号証の記載事項に基づいて当業者が容易になし得るとはいえない。

ツ したがって、本件発明1は、相違点6-2について検討するまでもなく、甲第6号証に記載された発明と甲第3号証、甲第5号証及び甲第7号証の記載事項とに基づいて当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。

(2-2)本件発明2?9、19について
本件発明2?9、19は、本件発明1の全ての発明特定事項を有するものであるから、前記(2-1)の本件発明1についての理由と同様の理由により、甲第6号証に記載された発明と甲第3号証、甲第5号証及び甲第7号証の記載事項とに基づいて当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。

(2-3)本件発明11について
ア 前記(2-1)の検討を踏まえて、本件発明11と甲6-2発明とを対比すると、両者は、少なくとも以下の点で相違する。

相違点6-3:合金のコーティングをスチールストリップ上に形成する工程において形成される合金のコーティングについて、本件発明11が「豪州規格(Australian Standard)AS1733に記述されている平均インターセプト距離法(average intercept distance method)を使用して測定される0.5mm未満のスパングルを有する合金」であって、「ホウ化チタン粒子(これは)「パウダー」という語を含む)を溶融槽に添加して溶融アルミニウム-亜鉛-ケイ素合金がホウ化チタンを含むようにすることによりスチールストリップ状に小さなスパングルを有するコーティングを形成」するものであるのに対し、甲6-2発明が「めっき表面のスパングル指標Nが8.6以上である。ただし、N=logn/0.301+1(nは25mm四方中のスパングル個数)」であり、ホウ化チタン粒子を添加することは記載されていない点。

相違点6-4:アルミニウム-亜鉛-ケイ素合金に含まれるマグネシウムの濃度について、本件発明11が「1?5重量%」であるのに対して、甲6-2発明が「0.1?10重量%」である点。

イ そこで、これらの相違点について検討すると、前記相違点6-3は、前記(2-1)の相違点6-1と同様の相違点であるから、前記(2-1)で検討した理由と同様の理由により、甲6-2発明において、当業者が相違点6-3に係る本件発明11の発明特定事項を容易に想到することができたとはいえない。

ウ したがって、本件発明11は、相違点6-4について検討するまでもなく、甲第6号証に記載された発明と甲第3号証、甲第5号証及び甲第7号証の記載事項とに基づいて当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。

(2-4)本件発明12?17について
本件発明12?17は、本件発明11の全ての発明特定事項を有するものであるから、前記(2-3)の本件発明11についての理由と同様の理由により、甲第6号証に記載された発明と甲第3号証、甲第5号証及び甲第7号証の記載事項とに基づいて当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。

(3)請求人の主張に対して
請求人は、無効理由2について、更に、概略以下の旨を主張している。
(3-1)請求人の無効理由2についての主張
主張(2-1)
本件発明の課題に関して、甲第3号証の従来技術の記載時期と甲第3号証の発明の記載時期との間に甲第7号証の発明が公開されているので、甲第3号証と甲第7号証の記載から「Al-Zn-Mg-Si系めっき鋼板は加工性に問題があることは自明な課題である」旨(前記口頭審理陳述要領書第5ページ第19行?第6ページ第8行、前記上申書第2ページ第31行?第3ページ第1行。)。

主張(2-2)
甲第6号証はより小さなスパングルを排除しているわけではないから阻害要因はなく、当業者は、甲第6号証、甲第7号証、甲第5号証及び甲第3号証の記載から、本件発明に容易に想到し、かつ、本件特許公報は本件発明の作用、効果の全般にわたってこれを裏付ける記載が十分に開示されていない旨(前記口頭審理陳述要領書第6ページ第9行?第8ページ第20行、前記上申書第3ページ第11行?第30行。)。

主張(2-3)
当業者は甲第7号証と甲第5号証の記載からMgを含有せずスパングル面サイズを小さくすれば加工性耐食性に優れたAl-Zn-Si系めっき鋼板が得られ、甲第6号証と甲第3号証の記載から更にMgを含有するAl-Zn-Si系めっき鋼板は耐食性により優れるがMg量が多すぎると加工性が劣化することを理解するから、耐食性と加工性を満足できるMg量を通常の設計事項の範囲で決定することができる旨(前記口頭審理陳述要領書第9ページ第24行?第12ページ第6行、前記上申書第4ページ第3行?第9行。)。

主張(2-4)
甲第5号証と甲第6号証の記載から当業者は甲第6号証の約2mm以下のスパングルサイズを甲第5号証の0.1mmのスパングル面サイズに変えれば、曲げ加工性に優れることを容易に想到できる旨(前記上申書第4ページ第10行?第19行。)。

(3-2)請求人の主張についての当審の判断
(3-2-1)主張(2-1)について
ア 甲第3号証の前記記載事項(3-イ)からみれば、甲第3号証にはAl-Zn-Mg-Si系めっき鋼板は加工性に問題があることが記載されているが、該加工性とスパングルの大きさの関係は記載されていない。

イ そして、甲第6号証においてスパングルの大きさを「0.5mm」未満とする動機付けはなく、甲第3号証及び甲第7号証のいずれにも、甲6-1発明において、スパングルサイズを0.5mm未満とすることについて記載も示唆もされていないことは、前記「4 無効理由2について(2)対比・判断(2-1)本件発明1について サ、シ」に記載のとおりである。

ウ そうすると、甲第3号証にAl-Zn-Mg-Si系めっき鋼板は加工性に問題があることが記載されているとしても、本件発明1?9、11?17、19が、甲第6号証に記載された発明に、甲第3号証、甲第5号証、甲第7号証に記載された発明を適用することによって、当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。

(3-2-2)主張(2-2)について
ア 甲第6号証においてスパングルの大きさを「0.5mm」未満とする動機付けがないことは、前記「4 無効理由2について(2)対比・判断(2-1)本件発明1について サ」に記載のとおりである。

イ また、前記主張(2-2)の「本件特許公報は本件発明の作用、効果の全般にわたってこれを裏付ける記載が十分に開示されていない旨」の主張は、事実上サポート要件(無効理由5)に関する主張と認められる。
ところが、後記「6 無効理由5について(1)無効理由5-i及び5-iiについて」のとおり、本件発明は、請求項で特定される構成により本件発明の課題を解決できると当業者において認識することができるものであるから、発明の詳細な説明に記載されていないとはいえないし、発明の詳細な説明において開示された内容を本件発明まで拡張ないし一般化できないともいえないので、本件発明の作用、効果の全般にわたってこれを裏付ける記載が十分に開示されていないとはいえない。

(3-2-3)主張(2-3)及び(2-4)について
ア 甲6-1発明において、甲第5号証に記載されるホウ化化合物を添加する方法を採用することには阻害要因があることは、「4 無効理由2について(2)対比・判断(2-1)本件発明1について ソ」に記載のとおりであり、甲第6号証においてスパングルの大きさを「0.5mm」未満とする動機付けはなく、甲第3号証及び甲第7号証のいずれにも、甲6-1発明において、AS1733に記述されている平均インターセプト距離法を使用して測定されるスパングルサイズを0.5mm未満とすることについて記載も示唆もされていないことは、前記「4 無効理由2について(2)対比・判断(2-1)本件発明1について サ、シ」に記載のとおりである。

イ そうすると、甲第3号証に、Mg:0.5?2%含む耐食性と加工性に優れた表面処理鋼板が記載されているとしても、甲第6号証に記載された発明において、耐食性と加工性を満足できるMg量を通常の設計事項の範囲で決定し、更に甲第6号証の約2mm以下のスパングルサイズを甲第5号証の0.1mmのスパングル面サイズに変えれば、曲げ加工性に優れることを、甲第3号証、甲第5号証及び甲第7号証の記載に基づいて当業者が容易に想到できるとはいえない。

(3-3) まとめ
以上のとおりであるので、請求人の前記主張(2-1)?(2-4)はいずれも採用できない。

5 無効理由4について
(1)無効理由4-iについて
ア 本件発明は、金属コーティングの合金組成について「該アルミニウム-亜鉛-ケイ素合金が、45?60重量%の元素アルミニウム、37?46重量%の元素亜鉛および1.2?2.3重量%の元素ケイ素を含有する合金であり、該マグネシウムの濃度が1?5重量%であり、」と特定するものであるから、この発明特定事項において特定されるアルミニウム、亜鉛、ケイ素、及びマグネシウム以外の元素を含み得るものものである。

イ しかしながら、本件発明は、さらに、「豪州規格(Australian Standard)AS1733に記述されている平均インターセプト距離法(average intercept distance method)を使用して測定される0.5mm未満のスパングルを有し」という発明特定事項を有するものである。

ウ そうすると、本件発明においては、金属コーティングが「0.5mm未満のスパングルを有」する、という発明特定事項を満たす範囲で、アルミニウム、亜鉛、ケイ素、及びマグネシウム以外の元素についてその含有量が決定されることは明らかであり、(本-オ)【0073】表1には、そのような元素としてFeの含有量が例示されている。

エ しかも、本件明細書の(本-エ)、(本-カ)の記載からみれば、本件発明は、金属コーティングがホウ化チタンに起因して小さいスパングルを形成するものであるから、本件明細書には、金属コーティングが「0.5mm未満のスパングルを有」するための一般的な解決手段が明記されているといえる。

オ してみれば、本件明細書に、請求項に記載される元素以外のいかなる元素をも含んだ場合にどのようにして0.5mm未満のスパングルを製造できるかが記載されていないとしても、当業者は、本件明細書の記載に基づいて本件発明を実施することができないとはいえない。

カ したがって、本件明細書が、当業者が本件発明の実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載したものでないとはいえない。

(2)無効理由4-iiについて
ア 本件発明においては、金属コーティングが「0.5mm未満のスパングルを有」する、という発明特定事項を満たす範囲で、アルミニウム、亜鉛、ケイ素、及びマグネシウム以外の元素についてその含有量が決定されることは明らかであること、及び、本件発明は、金属コーティングがホウ化チタンに起因して小さいスパングルを形成するものであるから、本件明細書には、金属コーティングが「0.5mm未満のスパングルを有」するための一般的な解決手段が明記されているといえることは、前記「(1)無効理由4-iについて ウ?エ」に記載のとおりである。

イ また、本件明細書の特許請求の範囲、(本-ウ)には、ストロンチウムおよび/またはカルシウムの添加量が少なくとも2ppmであることが記載されている。

ウ してみれば、ストロンチウムおよび/またはカルシウムを添加して金属コーティングを製造するものについて、当業者が、本件明細書の記載に基づいて本件発明を実施することができないとまではいえない。

エ したがって、本件明細書が、当業者が本件発明の実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載したものでないとはいえない。

(3)請求人の主張に対して
請求人は、無効理由4について、更に、概略以下の旨を主張している。
(3-1)請求人の無効理由4についての主張
主張(4-1)
本件発明はいわゆるオープンクレームであり、記載されている元素のほかにいかなる元素も含み得ると解釈されるが、本件明細書の記載からは、ほかのいかなる微量元素を含んでいる場合も、0.5mm未満のスパングルサイズを製造することが可能であると、当業者が理解することができない。
また、平成28年12月 9日付け口頭審理陳述要領書第9ページ第25行?第10ページ第15行の被請求人の主張は、達成すべき結果によってものを特定しようとする請求項であることを自ら認めるものであり、請求項が「0.5mm未満のスパングルを有」することを規定すればその結果が達成できる明細書に記載のない無数の成分の組合せを請求項の範囲に含むものだと主張するものであり、開示しない技術に対して権利を主張するものである旨(なお、この主張は前記上申書の「(2)無効理由2について」に記載されているが、その内容からみて無効理由4についての主張と認められる。)(前記口頭審理陳述要領書第12ページ第27行?第13ページ最終行、前記上申書第4ページ第24行?最終行。)。

主張(4-2)
本件明細書からは、ホウ化チタン変性アルミニウム-亜鉛-ケイ素合金において、さらにストロンチウムおよび/またはカルシウムを含む場合に、どのようにして0.5mm未満のスパングルサイズを製造することが可能であるかを当業者は理解することができない旨(前記口頭審理陳述要領書第14ページ第1行?第15ページ第9行。)。

主張(4-3)
本件発明において高融点の粒子が核生成サイトとして機能すると仮定しても、本件請求項に含まれるいかなる元素粒子も高融点ではないとの記載は特許公報に記載されておらず、更に特許公報の【0073】【表1】のTi含有量は0.016重量%であり、このような不純物量の他のいかなる元素を含んだ場合にどのようにして豪州規格AS1733の0.5mm未満のスパングルサイズを製造できるのか本件特許公報には記載されていないから、本件特許の発明の詳細な説明の記載実施可能要件に適合しない旨(前記上申書第5ページ第16行?第21行。)。

(3-2)請求人の主張についての当審の判断
(3-2-1)主張(4-1)について
ア 本件明細書の記載からみれば、当業者は、本件明細書の記載に基づいて本件発明を実施することができないとはいえないことは、前記「(1)無効理由4-iについて オ」に記載のとおりであるから、本件明細書が実施可能要件に適合しないとはいえない。

イ また、本件明細書には、金属コーティングが「0.5mm未満のスパングルを有」するための一般的な解決手段が明記されているといえることも、前記「(1)無効理由4-iについて エ」に記載のとおりであるから、本件発明は、達成すべき結果によってものを特定しようとするものとはいえない。

ウ そうすると、本件発明が、開示しない技術に対して権利を主張するものであるともいえない。

(3-2-2)主張(4-2)について
ア 本件明細書には、金属コーティングが「0.5mm未満のスパングルを有」するための一般的な解決手段が明記されているといえることは、前記「(1)無効理由4-iについて エ」に記載のとおりであり、かつ、本件明細書の特許請求の範囲、(本-ウ)には、ストロンチウムおよび/またはカルシウムの添加量が少なくとも2ppmであることが記載されていることからみれば、ストロンチウムおよび/またはカルシウムを添加して金属コーティングを製造するものについて、当業者が、本件明細書の記載に基づいて本件発明を実施することができないとまではいえないことは、前記「(2)無効理由4-iiについて ア?ウ」に記載のとおりであ。

イ したがって、本件明細書が、当業者が本件発明の実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載したものでないとはいえない。

(3-2-3)主張(4-3)について
ア 本件発明は、金属コーティングが「0.5mm未満のスパングルを有」する、という発明特定事項を満たす範囲で、アルミニウム、亜鉛、ケイ素、及びマグネシウム以外の元素についてその含有量が決定されることは明らかであることは、前記「(1)無効理由4-iについて ウ」に記載のとおりであり、かつ、本件発明は、金属コーティングがホウ化チタンに起因して小さいスパングルを形成するものであるから、本件明細書には、金属コーティングが「0.5mm未満のスパングルを有」するための一般的な解決手段が明記されているといえることは、前記「(1)無効理由4-iについて ウ?エ」に記載のとおりである。

イ そうであれば、本件請求項に含まれるいかなる元素粒子も高融点ではないとの記載が本件明細書に記載されていないとしても、当業者は、本件明細書の記載に基づいて本件発明を実施することができるから、そのことを理由に本件明細書が実施可能要件を満たしていないということはできない。

(3-3) まとめ
以上のとおりであるので、請求人の前記主張(4-1)?(4-3)はいずれも採用できない。

6 無効理由5について
(1)無効理由5-i及び5-iiについて
ア 本件発明の解決すべき課題は、本件明細書の(本-ア)の記載によれば、「コーティングの耐腐食性および延性の特性の組み合わせの観点から現在入手可能な製品と比較して改良された製品である金属被覆スチールストリップを提供すること」であって、金属コーティングの耐腐食性を良好にするMgの添加によりコーティング延性が減少するものであるが、スパングルサイズを0.5mm未満とすることによりコーティング延性を改良して、改良された製品とするものである。

イ これに対して、本件明細書の(本-エ)、(本-カ)の記載からみれば、本件発明は、金属コーティングがホウ化チタンに起因して小さいスパングルを形成するものであるが、請求項1には「該アルミニウム-亜鉛-ケイ素合金がホウ化チタン変性アルミニウム-亜鉛-ケイ素合金であること」と記載され、請求項11には「ホウ化チタン粒子(これは「パウダー」という語を含む)を溶融槽に添加して溶融アルミニウム-亜鉛-ケイ素合金がホウ化チタンを含むようにすることによりスチールストリップ状に小さなスパングルを有するコーティングを形成する工程を含む」と記載されているから、本件発明1?9、11?17、19には、金属コーティングが「0.5mm未満のスパングルを有」するための一般的な解決手段が特定されているといえる。

ウ 更に、本件発明は、金属コーティングが「0.5mm未満のスパングルを有」する、という発明特定事項を満たす範囲で、アルミニウム、亜鉛、ケイ素、及びマグネシウム以外の元素についてその含有量が決定されることが明らかであることは、前記「(1)無効理由4-iについて ウ」に記載のとおりである。

エ してみれば、本件明細書に、本件発明1?9、11?17、19に記載された以外のいかなる元素を含む金属コーティングが本件発明の解決すべき課題を解決できることが記載されていないとしても、また、ストロンチウムおよび/またはカルシウムを添加したアルミニウム-亜鉛-ケイ素めっき合金で、0.5mm未満のスパングルが測定された金属コーティングの記載がなく、製造された記載もないとしても、本件発明は、請求項で特定される構成により本件発明の課題を解決できるものであるから、発明の詳細な説明に記載されていないとはいえない。

(2)請求人の主張に対して
請求人は、無効理由5について、更に、概略以下の旨を主張している。
(2-1)請求人の無効理由5についての主張
主張(5-1)
本件請求項の記載はいわゆるオープンクレームで記載されているので、記載されている元素のほかにいかなる元素も含み得ると解釈されるが、発明の詳細な説明に具体的に記載されていないほかのどのような元素を含んでいても本件特許請求の範囲の課題(延性の改良)が解決できることが発明の詳細な説明に記載されていないので、本件請求項の範囲まで発明の詳細な説明の記載を拡張できない旨(前記口頭審理陳述要領書第16ページ第28行?第18ページ第2行。)。

主張(5-2)
明細書中には請求項1のホウ化チタン等の組成範囲をどのような範囲で変性すべきかの記載が全くなく、どのような比率でホウ化チタン粒子を添加するのかの記載がなく、実施例の具体的説明もないので、請求項1、11は発明の詳細な説明に記載されていない旨(前記口頭審理陳述要領書第18ページ第3行?第12行。)。

主張(5-3)
スパングルサイズは微量元素の種類等によって大きさが大きく異なることが理解されるが、本件明細書では、ホウ化チタン変性アルミニウム-亜鉛-ケイ素合金において、更にストロンチウムおよび/またはカルシウムを含む場合に、どのようにして0.5mm未満のスパングルサイズを製造することが可能であり、延性が改善されるかについて記載がないから、請求の範囲まで発明の詳細な説明の記載を拡張できない旨(前記口頭審理陳述要領書第18ページ第12行?第19ページ第2行。)。

主張(5-4)
被請求人は、平成28年12月 9日付け口頭審理陳述要領書において、一般に合金はその成分及び組成が変わることによりその特性も変化することを認めて、ほかの溶融元素を含む場合であっても、ホウ化チタン粒子が核生成サイトとして機能し、スパングルサイズを制御するというメカニズムは影響を受けることがないと説明するが、スパングルサイズを制御するメカニズムが解明され証明されているわけではなく、含み得るいかなる元素が溶融元素のみであると記載されているわけでもなく、また、本件明細書の【表1】での唯一の実施例ではスパングルサイズは測定されていない旨(前記上申書第5ページ第27行?第6ページ第1行。)。

(3-2)請求人の主張についての当審の判断
(3-2-1)主張(5-1)?(5-4)について
ア 前記主張(5-1)?(5-4)は、本件特許請求の範囲の記載が、含有する元素に関していわゆるオープンクレームである一方、発明の詳細な説明に、任意の元素を含んでいても本件発明の課題が解決できることが記載されていないので、本件発明はサポート要件に適合しない、また、ホウ化チタン、ストロンチウムおよび/またはカルシウムを添加する場合、どのようにして0.5mm未満のスパングルサイズを製造することが可能であり、延性が改善されるかについて記載がないから、本件発明はサポート要件に適合しない、というものと認められる。

イ ここで、本件発明の解決すべき課題は、前記(本-ア)、(本-オ)の記載によれば、「コーティングの耐腐食性および延性の特性の組み合わせの観点から現在入手可能な製品と比較して改良された製品である金属被覆スチールストリップを提供すること」であって、金属コーティングの耐腐食性を良好にするMgの添加によりコーティング延性が減少するものであるが、スパングルサイズを0.5mm未満とすることによりコーティング延性を改良して、改良された製品とするものであるところ、本件発明1?9、11?17、19には、金属コーティングが「0.5mm未満のスパングルを有」するための一般的な解決手段が特定されているといえることは、「(1)無効理由5-i及び5-iiについて ア、イ」に記載のとおりである。

ウ 更に、本件発明は、金属コーティングが「0.5mm未満のスパングルを有」する、という発明特定事項を満たす範囲で、アルミニウム、亜鉛、ケイ素、及びマグネシウム以外の元素についてその含有量が決定されることが明らかであり、(本-オ)【0073】表1には、そのような元素としてFeの含有量が例示されていることは、前記「(1)無効理由4-iについて ウ」に記載のとおりである。

エ 加えて、前記(本-オ)【0073】表1には、TiとBの含有量も例示されており、前記(本-ウ)には(i)ストロンチウムまたは(ii)カルシウムまたは(iii)ストロンチウムおよびカルシウムの濃度は、少なくとも2ppmであることが記載されているから、してみれば、本件発明は、請求項で特定される構成により本件発明の課題を解決できないとまではいえないので、本件発明が、発明の詳細な説明に記載されていないとはいえない。

(3-3) まとめ
以上のとおりであるので、請求人の前記主張はいずれも採用できない。

7 請求項10及び18に係る発明について
請求項10及び18に係る発明は、訂正により削除されたため、本件特許の請求項10及び18に対する本件審判の請求については、対象となる請求項が存在しない。
したがって、請求項10及び18に対する本件審判の請求は却下する。

第7 むすび
以上のとおりであるから、本件請求項1?9、11?17、19に係る特許は、請求人が主張する無効理由及び提出した証拠方法によっては、無効とすることはできない。
また、本件請求項10及び18に対する本件審判の請求は却下する。
審判に関する費用については、特許法第169条第2項の規定で準用する民事訴訟法第64条の規定によって、請求人が負担すべきものとする。
よって、結論のとおり審決する。
 
発明の名称 (57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも一つのストリップ表面上に金属コーティングを有するスチールストリップであって、該コーティングがマグネシウムを含むアルミニウム-亜鉛-ケイ素合金を含み、
該アルミニウム-亜鉛-ケイ素合金が、45?60重量%の元素アルミニウム、37?46重量%の元素亜鉛および1.2?2.3重量%の元素ケイ素を含有する合金であり、
該マグネシウムの濃度が1?5重量%であり、
豪州規格(Australian Standard)AS1733に記述されている平均インターセプト距離法(average intercept distance method)を使用して測定される0.5mm未満のスパングルを有し、
該アルミニウム-亜鉛-ケイ素合金がホウ化チタン変性アルミニウム-亜鉛-ケイ素合金であることを特徴とする、スチールストリップ。
【請求項2】
マグネシウム濃度が1?2.5重量%である、請求項1に記載のストリップ。
【請求項3】
アルミニウム-亜鉛-ケイ素合金がストロンチウムおよび/またはカルシウムを含む、請求項1または請求項2に記載のストリップ。
【請求項4】
(i)ストロンチウムまたは(ii)カルシウムまたは(iii)ストロンチウムおよびカルシウムの濃度が少なくとも2ppmである、請求項3に記載のストリップ。
【請求項5】
(i)ストロンチウムまたは(ii)カルシウムまたは(iii)ストロンチウムおよびカルシウムの濃度が0.2重量%未満である、請求項3または請求項4に記載のストリップ。
【請求項6】
(i)ストロンチウムまたは(ii)カルシウムまたは(iii)ストロンチウムおよびカルシウムの濃度が50ppm以下である、請求項3?5のいずれかに記載のストリップ。
【請求項7】
アルミニウム-亜鉛-ケイ素合金が、ストロンチウムを含みカルシウムを含まない場合、ストロンチウムの濃度が2?4ppmの範囲内にある、請求項3?6のいずれかに記載のストリップ。
【請求項8】
アルミニウム-亜鉛-ケイ素合金が、カルシウムを含みストロンチウムを含まない場合、該合金がカルシウムを4?8ppmの範囲内で含む、請求項3?6のいずれかに記載のストリップ。
【請求項9】
アルミニウム-亜鉛-ケイ素合金がストロンチウムおよびカルシウムを含む場合、ストロンチウムおよびカルシウムの濃度が少なくとも4ppmである、請求項3?6のいずれかに記載のストリップ。
【請求項10】(削除)
【請求項11】
スチールストリップを熱処理炉およびマグネシウムを含む溶融アルミニウム-亜鉛-ケイ素合金槽を逐次通す工程、および:
(a)該スチールストリップを熱処理炉で熱処理する工程;および
(b)該ストリップを溶融槽中で溶融コーティングし、豪州規格(Australian Standard)AS1733に記述されている平均インターセプト距離法(average intercept distance method)を使用して測定される0.5mm未満のスパングルを有する合金のコーティングをスチールストリップ上に形成する工程
を含み、
該アルミニウム-亜鉛-ケイ素合金が、45?60重量%の元素アルミニウム、37?46重量%の元素亜鉛および1.2?2.3重量%の元素ケイ素を含有する合金であり、
該マグネシウムの濃度が1?5重量%であり、
ホウ化チタン粒子(これは「パウダー」という語を含む)を溶融槽に添加して溶融アルミニウム-亜鉛-ケイ素合金がホウ化チタンを含むようにすることによりスチールストリップ上に小さなスパングルを有するコーティングを形成する工程を含む、
スチールストリップ上の金属コーティング製造方法。
【請求項12】
溶融槽における(i)ストロンチウムまたは(ii)カルシウムまたは(iii)ストロンチウムおよびカルシウムの濃度を制御して少なくとも2ppmにする工程を含む、請求項11に記載の方法。
【請求項13】
(i)ストロンチウムまたは(ii)カルシウムまたは(iii)ストロンチウムおよびカルシウムの濃度を制御して0.2重量%未満にする工程を含む、請求項11または請求項12に記載の方法。
【請求項14】
(i)ストロンチウムまたは(ii)カルシウムまたは(iii)ストロンチウムおよびカルシウムの濃度を150ppm未満にすることを含む、請求項11?13のいずれかに記載の方法。
【請求項15】
(i)ストロンチウムまたは(ii)カルシウムまたは(iii)ストロンチウムおよびカルシウムの濃度を制御して50ppm以下にする工程を含む、請求項11?14のいずれかに記載の方法。
【請求項16】
溶融槽に供給されてアルミニウム-亜鉛-ケイ素合金を形成するアルミニウム中のストロンチウムおよび/またはカルシウムの最小濃度を指定する工程を含む、請求項11?15のいずれかに記載の方法。
【請求項17】
濃度を要求される濃度に維持するのに要求される量のストロンチウムおよび/またはカルシウムを溶融槽に定期的に供給する工程を含む、請求項11?15のいずれかに記載の方法。
【請求項18】(削除)
【請求項19】
請求項1?9のいずれかに記載の金属被覆スチールストリップからつくられる冷間成形製品。
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
審理終結日 2017-05-10 
結審通知日 2017-05-15 
審決日 2017-06-01 
出願番号 特願2008-504574(P2008-504574)
審決分類 P 1 113・ 536- YAA (C23C)
P 1 113・ 121- YAA (C23C)
P 1 113・ 537- YAA (C23C)
P 1 113・ 113- YAA (C23C)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 國方 康伸  
特許庁審判長 板谷 一弘
特許庁審判官 宮澤 尚之
金 公彦
登録日 2012-06-22 
登録番号 特許第5020228号(P5020228)
発明の名称 金属被覆スチールストリップ  
代理人 三橋 史生  
代理人 山田 卓二  
代理人 中野 晴夫  
代理人 中野 晴夫  
代理人 伊東 秀明  
代理人 渡辺 望稔  
代理人 言上 惠一  
代理人 蜂谷 浩久  
代理人 言上 惠一  
代理人 山田 卓二  
代理人 三和 晴子  

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