• ポートフォリオ機能


ポートフォリオを新規に作成して保存
既存のポートフォリオに追加保存

  • この表をプリントする
PDF PDFをダウンロード
審決分類 審判 査定不服 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 取り消して特許、登録 G09G
審判 査定不服 2項進歩性 取り消して特許、登録 G09G
管理番号 1334665
審判番号 不服2017-191  
総通号数 217 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2018-01-26 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2017-01-06 
確定日 2017-12-05 
事件の表示 特願2012- 1893「アクティブマトリクス表示装置およびその駆動方法」拒絶査定不服審判事件〔平成24年10月11日出願公開、特開2012-194531、請求項の数(7)〕について、次のとおり審決する。 
結論 原査定を取り消す。 本願の発明は、特許すべきものとする。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、平成24年1月10日(パリ条約に基づく優先権主張 2011年3月14日 韓国)の出願であって、平成27年11月27日付けで拒絶理由が通知され、平成28年3月1日付けで手続補正がなされたが、平成28年8月31日付けで拒絶査定がなされ、これに対し、平成29年1月6日に拒絶査定不服審判が請求されると同時に手続補正がなされ、当審において、平成29年8月3日付けで拒絶理由が通知され、平成29年10月24日付けで手続補正がなされたものである。

第2 本願発明
本願の請求項1-7に係る発明(以下、「本願発明1」-「本願発明7」という。)は、平成29年10月24日付け手続補正(以下、「本件補正」という。)により補正された特許請求の範囲の請求項1-7に記載された事項により特定される、次のとおりのものである。
「 【請求項1】
スキャン信号を伝達するための複数のスキャンライン、前記スキャンラインからのスキャン信号に応答してデータ信号を伝達する複数のデータライン、前記複数のデータラインと前記複数のスキャンラインによって定義される複数のピクセルによって定義され、表示素子と前記表示素子を駆動するための駆動トランジスタを含むピクセル回路、および前記駆動トランジスタに駆動電流を供給する電源ラインを含むパネルと、
前記スキャンラインに選択的に前記スキャン信号を印加するスキャン駆動部と、
RGB映像データを受信し、前記パネルに流れる総駆動電流の変化から生じる前記電源ラインの電圧降下を補償する補償信号を生成する補償回路部と、
前記RGB映像データと前記補償信号を受信し、前記補償信号を前記RGB映像データに適用して前記RGB映像データを補償し、前記データラインに前記補償されたRGB映像データを印加するデータ駆動部とを含み、
前記補償回路部はフルホワイト状態での電圧降下及び前記フルホワイト状態での総駆動電流に基づいて前記補償信号を生成するアクティブマトリクス表示装置。
【請求項2】
前記補償回路部は、
前記パネルに表示される映像に関する映像データを分析して前記パネル全体に流れる総駆動電流を計算し、前記計算された総駆動電流に基づいて前記パネル全体に流れる総駆動電流の増減による前記電源ラインの電圧降下を補償する補償信号を利用して前記データ信号を補償する請求項1に記載のアクティブマトリクス表示装置。
【請求項3】
前記補償回路部は、
前記映像データの一画面分の映像データの各RGBピクセル別に映像データを合計する映像データ合計部と、
前記各RGBピクセルごとに合計された映像データに基づいて前記パネル全体に流れる総駆動電流を計算する駆動電流計算部と、
前記計算された総駆動電流に基づいて前記パネル全体に流れる総駆動電流の増減による前記電源ラインの電圧降下を補償する補償信号を生成する補償信号生成部とを含む請求項2に記載のアクティブマトリクス表示装置。
【請求項4】
前記補償信号は、電源ラインの電圧降下=(フルホワイト状態の電圧降下)*(計算された総駆動電流)/(フルホワイト状態の総駆動電流)の関係式により求められた前記電源ラインの電圧降下に対応して生成され、前記フルホワイト状態は前記ピクセル回路のそれぞれの表示素子が最大発光する状態である請求項3に記載のアクティブマトリクス表示装置。
【請求項5】
スキャン信号を伝達するための複数のスキャンライン、前記スキャンラインからのスキャン信号に応答してデータ信号を伝達する複数のデータライン、前記複数のデータラインと前記複数のスキャンラインによって定義される複数のピクセルによって定義され、表示素子と前記表示素子を駆動するための駆動トランジスタを含むピクセル回路、および前記駆動トランジスタに駆動電流を供給する電源ラインを含むパネルを備えるアクティブマトリクス表示装置の駆動方法において、
RGB映像データを補償回路部とデータ駆動部とに供給するステップと、
(a)前記パネル全体に流れる総駆動電流の変化から生じる前記電源ラインの電圧降下を補償する補償信号を生成するステップと、
(b)前記生成された補償信号を前記RGB映像データに適用して前記RGB映像データを補償するステップと、
(c)前記補償されたRGB映像データを前記データラインに印加するステップとを含み、
前記補償信号はフルホワイト状態での電圧降下及び前記フルホワイト状態での総駆動電流に基づいて生成されるアクティブマトリクス表示装置の駆動方法。
【請求項6】
前記ステップ(a)は前記パネルに表示される映像に関する映像データを分析して、前記パネル全体に流れる総駆動電流を計算し、前記計算された総駆動電流に基づいて前記パネル全体に流れる総駆動電流の増減による前記電源ラインの電圧降下を補償する補償信号を生成する請求項5に記載のアクティブマトリクス表示装置の駆動方法。
【請求項7】
前記補償信号は、電源ラインの電圧降下=(フルホワイト状態の電圧降下)*(計算された総駆動電流)/(フルホワイト状態の総駆動電流)の関係式により求められた前記電源ラインの電圧降下に対応して生成され、前記フルホワイト状態は前記ピクセル回路のそれぞれの表示素子が最大発光する状態である請求項5に記載のアクティブマトリクス表示装置の駆動方法。」

第3 引用文献、引用発明等
1 引用文献1について
原査定の拒絶の理由に引用された、特開2009-31451号公報(以下、「引用文献1」という。)には、図面とともに次の事項が記載されている(下線は当審で付与した。)。
ア「【0001】
マトリクス状に配置した各画素に電流駆動型の発光素子を有し、画素毎の入力画像データに応じて各発光素子への供給電流を制御して表示を行う表示装置に関する。
【背景技術】
【0002】
図1に基本的なアクティブ型の有機EL表示装置における1画素分の回路(画素回路)の構成を、図2に表示パネルの構成と入力信号を示す。画像データ(画像データ信号)は画素クロックに同期してソースドライバ10内のシフトレジスタ12に送り込まれ、1水平ライン分がシフトレジスタ12に取り込まれたタイミングで画素の各列に対応して設けられたデータラッチ14に転送される。そして、データラッチ14内の画像データがD/A変換器16でA/D変換されて各データライン18に供給される。すなわち、1水平期間分の画素データが同時にD/A変換され、表示輝度に対応したアナログ電圧としてデータライン18に供給される。画素部20の各行毎に水平方向に伸びるゲートライン(Gate)22がハイレベルになるとnチャネルの選択TFT2がオンし、垂直方向に伸びるデータライン(Data)18上のデータ電圧が保持容量Cに蓄積される。これによって、pチャネルの駆動TFT1がデータ信号に応じた駆動電流を有機EL素子3に供給して、有機EL素子3が発光する。すなわち、正電源PVddからの電流が、駆動TFT1、有機EL素子3を介し、負電源CVに流れる。なお、ゲートライン22は、ゲートドライバ24によって駆動される。
【0003】
ここで、有機EL素子3の発光量と駆動電流はほぼ比例関係にある。通常、駆動TFT1のゲート-PVdd間には画像の黒レベル付近でドレイン電流が流れ始めるような電圧(Vth)を与える。また、データ電圧の振幅としては、白レベル付近で所定の輝度となるような振幅を与える。
【0004】
図3は、駆動TFT1のデータ電圧(Vdata)に対する有機EL素子に流れる電流(icvまたは輝度)の関係を示している。そして、黒レベル電圧として、Vbを与え、白レベル電圧として、Vwを与えるように、データ電圧を決定することで、有機EL素子における適切な階調制御を行うことができる。」

イ「【0008】
本発明は、表示素子に発生する輝度不均一性の補正をより正確に行うことを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、マトリクス状に配置した各画素に電流駆動型の発光素子を有し、画素毎の入力画像データに応じて各発光素子への供給電流を制御して表示を行う表示装置において、入力画像データと補正データとで演算を行い、画素毎の表示特性のばらつきに起因する輝度ムラの補正を行う補正手段と、各画素へ供給される電流の合計であるパネル電流を検出するパネル電流検出手段と、電源ラインにおける抵抗成分にパネル電流が流れることによる電圧降下を考慮し、補正誤差が低減するように補正データを修正する修正手段と、を有することを特徴とする。
【0010】
また、前記修正手段は、検出されたパネル電流に応じて、対応する電圧降下値を発生し、それによって生じた画素電流降下値に基づいて補正データを算出することが好適である。
【0011】
また、前記パネル電流検出手段は、前記入力画像データから演算により求めることが好適である。
【0012】
また、前記パネル電流検出手段は、前記入力画像データから推定されるパネル電流を算出し、抵抗における電圧降下の影響による電流減少を考慮して、パネル電流を求めることが好適である。
【0013】
また、前記パネル電流検出手段は、実際のパネル電流を検出することが好適である。
【0014】
また、前記発光素子は、有機EL素子であることが好適である。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、電源ラインにおける抵抗成分による電圧降下を考慮するため、表示素子に発生する輝度不均一性の補正をより正確に行うことができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
以下、本発明の実施形態について、図面に基づいて説明する。
【0017】
まず、TFTのV-I特性は、図4のように表される。D/A変換器に入力される画像データ(入力データ)に応じて対応画素に流れる電流は、図の上部に示されるように、画素の駆動TFTの特性によって異なる。平均的な画素であれば、入力データaが黒レベルであり、白レベルの入力データに対応する画素電流iが所定値になるように、基準となる画素データに対するD/A入力データの関係を決定する。この基準となる直線についてのオフセットCvth=0、ゲインCμ=1とする。これに対し、画素pにおける黒レベルはbとなる。また、ゲインおよびオフセット補正前の入力データ(乗算器入力データ)dに対し、平均的な画素と同様の画素電流を得るためには、D/A入力データはcとなるべきである。そこで、画素p用のオフセットおよびゲインは、オフセットCvth=b-a、ゲインCμ=(b-c)/dとなる。
【0018】
図5には、図4の特性に従って、画素毎の入力データの補正を行う構成が示されている。画素毎の画像データ信号(R信号、G信号、B信号)はRGB毎に別々にγLUT30に入力され、γ補正が行われる。補正用ゲイン発生回路32はメモリ34に記憶されている上述の図4の画素毎のゲインを3つの乗算器36にそれぞれ供給し、補正用オフセット発生回路38は、メモリ40に記憶されている上述の図4の画素毎のオフセットを3つの加算器42にそれぞれ供給し、これによって3つのγLUT30の出力について、オフセットおよびゲインによる補正が施され、補正後の画像データ(入力データ)がシフトレジスタ12に入力される。
【0019】
ここで、図6に示すように、パネルの電源PVddと、実際の電源PVdd0との間に抵抗rを挿入した場合を考える。抵抗rに流れるパネルの総電流(パネル電流)IがI_(0)の時、PVdd電圧はIがほぼ0の時に比べてI_(0)×rだけ低下する。従って、画素に電流が流れ始める信号電圧(Vdata)もI_(0)×rだけ低下する。
【0020】
また、図7に示すように、パネルの電源PVddから各画素に電圧を供給する電源ラインに抵抗成分rが存在する場合も同様である。
【0021】
そして、このような抵抗rが存在すると、パネルの総電流は、画素データの総和(流れるべきパネル総電流)が大きくなるに従って、直線的に上昇することができず、ピーク電流が小さくなってしまう。
【0022】
このような抵抗成分による電圧降下は、全ての画素に対して同じ電圧のシフトとして現れるので、Vthの補正値(Cvth)はそのままでもムラとなって現れることは無い。ところが、TFTの電圧-電流(V-I)特性μに対する補正値(Cμ)は元々の黒レベルがVbであることを前提にしているので、補正にずれが生じてしまう。正確な補正をするには“-(Cμ-1)×I×r×k”の項を付加して、次式のような演算をする必要がある。
【0023】
従って、補正後の画像データD’は、
[式1]
D’=Cμ×D+Cvth-(Cμ-1)×I×r×k
【0024】
ここで、DはγLUTの信号出力データ、D’は補正後の信号データでソースドライバの入力、kはD/A変換器の変換ゲインであり、k=(D/A最大入力データ振幅)/(D/A出力の最大電圧振幅)で表せる。
【0025】
図9に、この演算を実現する回路構成の例を示す。このように、RGBの画像データであるR,G,B信号は、電流(I)演算部50に供給され、ここでパネル電流が計算される。この例では、電流値は実際のパネル電流ではなく、画像データからパネル電流を予測演算する形式となっている。」

ウ「【0032】
補正用ゲイン発生回路32の出力である各RGB信号用のCμは3つの加算器56において、それぞれ-1が加算され、3つのCμ-1が計算され、これが3つの乗算器58にそれぞれ供給され、ここでILUT54から供給されるI×r×kが乗算され、各RGB信号用の(Cμ-1)×I×r×kが計算される。そして、得られた3つの(Cμ-1)I×r×kが3つの加算器60に-(Cμ-1)I×r×kとしてそれぞれ供給される。そして、これら加算器60でγLUTからの出力Dに補正用ゲイン発生回路からのCμが乗算され、補正用オフセット発生回路からのCvthが加算された信号Cμ×D+Cvthに加算され、RGB信号に対する3つのD’=Cμ×D+Cvth-(Cμ-1)×I×r×kが得られる。
【0033】
従って、これが、シフトレジスタ12、データラッチ14を介し、D/A変換器16でアナログデータに変換されて各データラインに供給されることで、各画素において、電源ラインに存在する抵抗rによる電圧降下を補償したデータ電圧を得ることができ、表示のばらつきを低減することができる。」

引用文献1の段落【0002】及び図1に記載された「基本的なアクティブ型の有機EL表示装置」の構成は、引用文献1に記載された発明の前提となる構成であるから、引用文献1には、次の発明(以下、「引用発明1」という。)が記載されていると認められる。
「画素回路を有するアクティブ型の有機EL表示装置であって(引用文献1の段落【0002】より。以下同様。)、
画像データ(画像データ信号)は画素クロックに同期してソースドライバ10内のシフトレジスタ12に送り込まれ、1水平ライン分がシフトレジスタ12に取り込まれたタイミングで画素の各列に対応して設けられたデータラッチ14に転送され、そして、データラッチ14内の画像データがD/A変換器16でA/D変換されて各データライン18に供給され、1水平期間分の画素データが同時にD/A変換され、表示輝度に対応したアナログ電圧としてデータライン18に供給され、画素部20の各行毎に水平方向に伸びるゲートライン(Gate)22がハイレベルになるとnチャネルの選択TFT2がオンし、垂直方向に伸びるデータライン(Data)18上のデータ電圧が保持容量Cに蓄積され、これによって、pチャネルの駆動TFT1がデータ信号に応じた駆動電流を有機EL素子3に供給して、有機EL素子3が発光し、正電源PVddからの電流が、駆動TFT1、有機EL素子3を介し、負電源CVに流れ、ゲートライン22は、ゲートドライバ24によって駆動され(【0002】)、
入力画像データと補正データとで演算を行い、画素毎の表示特性のばらつきに起因する輝度ムラの補正を行う補正手段と、各画素へ供給される電流の合計であるパネル電流を検出するパネル電流検出手段と(【0009】)、電源ラインにおける抵抗成分にパネル電流が流れることによる電圧降下を考慮し、補正誤差が低減するように補正データを修正する修正手段と、を有し(【0009】)、
前記パネル電流検出手段は、前記入力画像データから演算により求められるものであり(【0011】)、
RGB信号に対する3つの(【0032】)補正後の画像データD’には、“-(Cμ-1)×I×r×k”の項が付加され、
ここで、
D’は補正後の信号データでソースドライバの入力、kはD/A変換器の変換ゲインであり、k=(D/A最大入力データ振幅)/(D/A出力の最大電圧振幅)(【0022】-【0024】)、
Iは、パネルの総電流(パネル電流)(【0019】)
で表され、
電流値は、画像データからパネル電流を予測演算する形式となっており、(【0025】)、
電源ラインにおける抵抗成分による電圧降下を考慮するため、表示素子に発生する輝度不均一性の補正をより正確に行うことができ(【0015】)、
補正後の画像データD’が、シフトレジスタ12、データラッチ14を介し、D/A変換器16でアナログデータに変換されて各データラインに供給されることで、各画素において、電源ラインに存在する抵抗rによる電圧降下を補償したデータ電圧を得ることができ、表示のばらつきを低減することができる(【0033】)、
アクティブ型の有機EL表示装置(【0002】)。」

2 引用文献2について
原査定の拒絶の理由で引用された、特開2006-65148号公報(以下、「引用文献2」という。)には、次の技術事項が記載されている(下線は、当審で付与した。)。
「【0055】
[第2の実施の形態]
続いて、本発明の第2の実施の形態について説明する。
【0056】
図17は、本発明の第2の実施の形態による有機ELアクティブマトリクス型表示装置21の概略構成図である。なお、図において上述の第1の実施の形態と対応する部分については同一の符号を付し、その詳細な説明は省略するものとする。
【0057】
本実施の形態の有機ELアクティブマトリクス型表示装置21は、有機EL表示部2、水平駆動回路3、書込走査駆動回路4、制御回路5、信号処理回路7、可変電圧源8、バイアス抵抗22、電流検出回路23及び信号増幅回路24で構成されている。
【0058】
映像データは信号処理回路7に入力され、ここで有機EL表示部2の各画素回路10AのVsigに相当するデータ電位に変換され、水平駆動回路3において各データ線Y毎に入力される。
【0059】
バイアス抵抗22は、可変電圧源8とカソード線9との間に接続されている。カソード線9に流れる電流は、このバイアス抵抗22で電流-電圧変換され、抵抗両端電圧V1,V2が電流検出回路23に入力される。電流検出回路23ではカソード線9を流れるカソード電流、即ち、全画素分の有機EL素子11の総駆動電流量を検出し、検出したカソード電流に基づいて電圧制御信号及びデータ制御信号を生成する。電圧制御信号は可変電圧源8へ出力され、データ制御信号は信号増幅回路24へ出力されるようになっている。」

よって、引用文献2には、次の技術が記載されているものと認められる。
「有機ELアクティブマトリクス型表示装置21は、有機EL表示部2、水平駆動回路3、書込走査駆動回路4、制御回路5、信号処理回路7、可変電圧源8、バイアス抵抗22、電流検出回路23及び信号増幅回路24で構成され(【0057】)、バイアス抵抗22は、可変電圧源8とカソード線9との間に接続されており、カソード線9に流れる電流は、このバイアス抵抗22で電流-電圧変換され、抵抗両端電圧V1,V2が電流検出回路23に入力され、電流検出回路23ではカソード線9を流れるカソード電流、即ち、全画素分の有機EL素子11の総駆動電流量を検出する(【0059】)。」技術。

第4 対比・判断
1 本願発明1について
(1)対比
本願発明1と引用発明1とを対比する。
ア 引用発明1における「画素部20の各行毎に水平方向に伸びるゲートライン(Gate)22」及び「ゲートライン(Gate)22」上の「ハイレベル」信号が、それぞれ、本願発明1における「スキャン信号を伝達するための複数のスキャンライン」及び「スキャン信号」に相当する。

イ 引用発明1では「1水平期間分の画素データが同時にD/A変換され、表示輝度に対応したアナログ電圧としてデータライン18に供給され、画素部20の各行毎に水平方向に伸びるゲートライン(Gate)22がハイレベルになるとnチャネルの選択TFT2がオンし、垂直方向に伸びるデータライン(Data)18上のデータ電圧が保持容量Cに蓄積され」るから、引用発明1における「データライン(Data)18」が、本願発明1における「前記スキャンラインからのスキャン信号に応答してデータ信号を伝達する複数のデータライン」に相当する。

ウ 引用発明1における「画素部20」における「各画素」が、「各行毎に水平方向に伸びるゲートライン(Gate)22」と、「画素の各列に対応して設けられた」「各データライン18」によって定義されていることは、引用文献1の図1、図2より明らかである。よって、引用発明1における「画素部20」における「各画素」が、本願発明1における「前記複数のデータラインと前記複数のスキャンラインによって定義される複数のピクセル」に相当するといえる。

エ 引用発明1における「pチャネルの駆動TFT1」は、「データ信号に応じた駆動電流を有機EL素子3に供給して、有機EL素子3」を発光させるから、本願発明1における「表示素子と前記表示素子を駆動するための駆動トランジスタ」に相当する。


オ 引用発明1における、「有機EL素子3」と「pチャネルの駆動TFT1」を含む回路が、本願発明1における「表示素子と前記表示素子を駆動するための駆動トランジスタを含むピクセル回路」に相当する。

カ 引用文献1の図7には、有機ELパネルが、複数のGateライン、複数のDataライン、及び画素部を含むことが記載され、引用文献1の図1(引用文献1の段落【0002】に記載されているとおり、画素回路の構成を示す。)には、該画素部の駆動TFT1にPVdd(パネルの電源)を接続することが示されているから、引用発明1における「パネル」が、複数の「ゲートライン22」、複数の「スキャンライン」、「画素部」及び「駆動TFT1」に駆動電流を供給する「電源ライン」を含むことは明らかである。
よって、引用発明1における「パネル」が、本願発明1における、「複数のスキャンライン」、「複数のデータライン」、「ピクセル回路」及び「駆動トランジスタに駆動電流を供給する電源ライン」を含む、「パネル」に相当するといえる。

キ 引用発明1における「ゲートライン22は、ゲートドライバ24によって駆動され」、「ハイレベル」とされるから、引用発明1における「ゲートドライバ24」が、本願発明1における「前記スキャンラインに選択的に前記スキャン信号を印加するスキャン駆動部」に相当する。

ク 引用発明1は、「入力画像データと補正データとで演算を行い、画素毎の表示特性のばらつきに起因する輝度ムラの補正を行う補正手段」には、該「補正データを修正する修正手段」が含まれており、該「補正データを修正する修正手段」は、「電源ラインにおける抵抗成分にパネル電流が流れることによる電圧降下を考慮し、補正誤差が低減するように補正データを修正する修正手段」であって、具体的には、「RGB信号に対する3つの補正後の画像データD’」に「“-(Cμ-1)×I×r×k”の項」(Iは、パネルの総電流(パネル電流))を付加するものである。
よって、引用発明1における、「入力画像データと補正データとで演算を行い、画素毎の表示特性のばらつきに起因する輝度ムラの補正を行う補正手段補正手段」を構成する回路部は、「パネルの総電流(パネル電流)」に基づいて「補正データを修正する修正手段」を含んでいるから、本願発明1における「RGB映像データを受信し、前記パネルに流れる総駆動電流の変化から生じる前記電源ラインの電圧降下を補償する補償信号を生成する補償回路部」に相当するといえる。

ケ 引用発明1における「補正後の画像データD’が、シフトレジスタ12、データラッチ14を介し、D/A変換器16でアナログデータに変換されて各データラインに供給されることで、各画素において、電源ラインに存在する抵抗rによる電圧降下を補償したデータ電圧を得る」回路と、本願発明1における「前記RGB映像データと前記補償信号を受信し、前記補償信号を前記RGB映像データに適用して前記RGB映像データを補償し、前記データラインに前記補償されたRGB映像データを印加するデータ駆動部」とは、「前記データラインに、前記補償信号を前記RGB映像データに適用して補償されたRGB映像データを印加するデータ駆動部」の点で共通する。

コ 引用発明1における「アクティブ型の有機EL表示装置」が、次の相違点は除いて、本願発明1における「アクティブマトリクス表示装置」に相当する。

よって、本願発明1と引用発明1における、一致点、相違点は次のとおりである。
(一致点)
「 スキャン信号を伝達するための複数のスキャンライン、前記スキャンラインからのスキャン信号に応答してデータ信号を伝達する複数のデータライン、前記複数のデータラインと前記複数のスキャンラインによって定義される複数のピクセルによって定義され、表示素子と前記表示素子を駆動するための駆動トランジスタを含むピクセル回路、および前記駆動トランジスタに駆動電流を供給する電源ラインを含むパネルと、
前記スキャンラインに選択的に前記スキャン信号を印加するスキャン駆動部と、
RGB映像データを受信し、前記パネルに流れる総駆動電流の変化から生じる前記電源ラインの電圧降下を補償する補償信号を生成する補償回路部と、
前記データラインに、前記補償信号を前記RGB映像データに適用して補償されたRGB映像データを印加するデータ駆動部を含む、
アクティブマトリクス表示装置。」

(相違点1)
本願発明では、「データ駆動部」が「前記RGB映像データと前記補償信号を受信し、前記補償信号を前記RGB映像データに適用して前記RGB映像データを補償し」ているのに対し、引用発明1では、(当審注:「補正手段」と「修正手段」とで既に)「修正」された後の「補正データ」が、「シフトレジスタ12、データラッチ14を介し、D/A変換器16でアナログデータに変換されて各データラインに供給され」ている点。

(相違点2)
本願発明では「補償回路部」が「フルホワイト状態での電圧降下及び前記フルホワイト状態での総駆動電流に基づいて前記補償信号を生成する」のに対し、引用発明1では、「入力画像データと補正データとで演算を行い、画素毎の表示特性のばらつきに起因する輝度ムラの補正を行う補正手段」に「補正データを修正する修正手段」が含まれ、該「補正データを修正する修正手段」は、補正後の画像データD’に“-(Cμ-1)×I×r×k”の項(Iは、パネルの総電流(パネル電流))を付加しているが、該項における「k」は、「k=(D/A最大入力データ振幅)/(D/A出力の最大電圧振幅)」であるから、結局、引用発明1では、「補正手段」における「補正データを修正する修正手段」に、「D/A出力の最大電圧振幅」に基づいて生成される項が含まれている点。

(2)相違点についての判断
事案に鑑み、上記相違点1及び相違点2について併せて検討すると、引用文献2には、「可変電圧源8とカソード線9との間に接続され」た「バイアス抵抗22」により、「カソード線9に流れる電流」を「即ち、全画素分の有機EL素子11の総駆動電流量を検出する」ことが記載されているに過ぎず、上記相違点1、2に係る本願発明1の構成は、記載も示唆もされていない。
また、上記相違点1、2に係る本願発明1の構成が周知技術であるともいえない。
よって、仮に、相違点2について、引用発明1における、補正後の画像データD’に付加する項を構成する「(D/A出力の最大電圧振幅)」が「白レベル電圧」(引用文献1段落【0004】参照。)に相当する電圧であって、断片的には、本願発明1でいう「ホワイト状態」での電圧振幅に相当するとしても、引用発明1における補正後の画像データD’に付加する項が「フルホワイト状態での電圧降下及び前記フルホワイト状態での総駆動電流」に基づくものとはいえない以上、本願発明1は、当業者といえども、引用発明1及び周知技術(引用文献2)に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。

2 本願発明2-4について
本願発明2-4は、本願発明1における「データ駆動部」が「前記RGB映像データと前記補償信号を受信し、前記補償信号を前記RGB映像データに適用して前記RGB映像データを補償」する構成、及び「補償回路部」が「フルホワイト状態での電圧降下及び前記フルホワイト状態での総駆動電流に基づいて前記補償信号を生成する」構成と、同一の構成を備えるものであるから、本願発明1と同様な理由により、当業者であっても、引用発明1及び周知技術(引用文献2)に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。

3 本願発明5-7について
本願発明5-7は、それぞれ本願発明1、2、4に対する方法の発明であって、上記「2」「(1)」の相違点1、2に対応する構成を備えるものであるから、本願発明1と同様な理由により、当業者であっても、引用発明1及び周知技術(引用文献2)に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。

第5 原査定の概要及び原査定についての判断
原査定は、平成28年3月1日付けの手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項1-10に係る発明は、上記引用文献1に記載された発明及び周知技術(引用文献2)に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により、特許を受けることができない、というものである。
しかしながら、本件補正により補正された特許請求の範囲の請求項1-4には、「データ駆動部」が「前記RGB映像データと前記補償信号を受信し、前記補償信号を前記RGB映像データに適用して前記RGB映像データを補償」する構成、及び「補償回路部」が「フルホワイト状態での電圧降下及び前記フルホワイト状態での総駆動電流に基づいて前記補償信号を生成する」構成を備えるものとなっており、請求項5-7も、これと同様な構成を備えるものとなっているから、上記のとおり、本願発明1-7は、引用文献1に記載された発明及び周知技術(引用文献2)に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。したがって、原査定を維持することはできない。

第6 当審拒絶理由について
当審では、本件補正前の、平成29年1月6付けの手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項5-7の記載が不明確であるから、この出願は特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない、との拒絶理由を通知しているが、本件補正により、これらの請求項が削除された結果、この拒絶理由は解消した。

第7 むすび
以上のとおり、本願の請求項1-7に係る発明は、当業者が、引用発明1及び周知技術(引用文献2)に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。
したがって、原査定の理由によっては、本願を拒絶することはできない。
また、他に本願を拒絶すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり審決する。
 
審決日 2017-11-22 
出願番号 特願2012-1893(P2012-1893)
審決分類 P 1 8・ 537- WY (G09G)
P 1 8・ 121- WY (G09G)
最終処分 成立  
前審関与審査官 橋本 直明  
特許庁審判長 中塚 直樹
特許庁審判官 須原 宏光
清水 稔
発明の名称 アクティブマトリクス表示装置およびその駆動方法  
代理人 阿部 達彦  
代理人 崔 允辰  
代理人 佐伯 義文  
代理人 特許業務法人共生国際特許事務所  

プライバシーポリシー   セキュリティーポリシー   運営会社概要   サービスに関しての問い合わせ