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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 H01L
審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 H01L
管理番号 1334720
審判番号 不服2016-15667  
総通号数 217 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2018-01-26 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2016-10-20 
確定日 2017-11-16 
事件の表示 特願2012-133982「半導体装置」拒絶査定不服審判事件〔平成25年12月26日出願公開、特開2013-258321〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、平成24年6月13日に出願したものであって、平成28年4月19日付け拒絶理由通知に対して同年6月23日付けで手続補正がなされたが、同年7月21日付けで拒絶査定がなされた。これに対し、同年10月20日付けで拒絶査定不服審判が請求されると共に手続補正がなされたものである。


第2 平成28年10月20日付けの手続補正についての補正却下の決定
[補正却下の決定の結論]
平成28年10月20日付けの手続補正を却下する。

[理由]
1.本件補正における特許請求の範囲の請求項1
平成28年10月20日付けの手続補正(以下、「本件補正」という。)は、特許請求の範囲及び明細書についてするもので、そのうち特許請求の範囲の請求項1については、
本件補正前に、
「【請求項1】
複数の半導体素子と、
複数の前記半導体素子のうち、他の前記半導体素子よりも大電流が流れる第1半導体素子が形成された第1半導体チップと、
複数の前記半導体素子のうち、前記第1半導体素子を制御する第2半導体素子が形成された第2半導体チップと、
前記第1半導体チップが接合された第1配線パターンを有する絶縁基板と、
前記第2半導体チップが搭載された第2配線パターンを有する絶縁部材と、
前記絶縁基板の主面に平行な方向に、前記絶縁基板と前記絶縁部材を組み込むケースを貫通して、一端が前記ケースの外部に露出する前記第1半導体チップおよび前記第2半導体チップの外部接続用のリード端子と、
を備えることを特徴とする半導体装置。」
とあったところを、

本件補正により、
「【請求項1】
複数の半導体素子と、
複数の前記半導体素子のうち、他の前記半導体素子よりも大電流が流れる第1半導体素子が形成された第1半導体チップと、
複数の前記半導体素子のうち、前記第1半導体素子を制御する第2半導体素子が形成された第2半導体チップと、
前記第1半導体チップが接合された第1配線パターンを第1主面上に有する絶縁基板と、
前記第1半導体素子が内側に配置されるように前記絶縁基板と接着され、且つ前記第2半導体チップが搭載された第2配線パターンを有するケースと、を備え、
前記ケースは、底面部と前記底面部に連結した側壁部を有し、
前記底面部は前記絶縁基板の前記第1主面に平行で、且つ前記第2配線パターンを備え、
前記ケースの内部から前記側壁部を貫通して一端が前記ケースの外部に露出する外部接続用のリード端子と、を備え、
前記外部接続用のリード端子は、前記ケースの前記側壁部の内部において、前記底面部に平行であることを特徴とする半導体装置。」
とするものである。
なお、下線部は、補正された箇所を示すものである。

2.補正の目的要件について
本件補正における請求項1の補正の目的は、以下のとおりのものと認められる。

(1)本件補正前の請求項1に記載された「絶縁基板」について、第1配線パターンを「第1主面上に」有するとの限定を付加したものである。よって、当該補正は、限定的限縮を目的としたものである。

(2)平成28年7月21日付け拒絶査定において<付記>として指摘された点を解消するために、本件補正前の請求項1に記載された「絶縁部材」を、「ケース」に補正した。よって、当該補正は、明りょうでない記載の釈明を目的にしたものである。
更に、「ケース」の構成として、「第1半導体素子が内側に配置されるように絶縁基板と接着され」との限定、「底面部と前記底面部に連結した側壁部を有し、前記底面部は前記絶縁基板の前記第1主面に平行(で、且つ前記第2配線パターンを備え)」との限定を付加したものである。よって、当該補正は、限定的限縮を目的としたものである。

(3)本件補正前の請求項1に記載された「前記絶縁基板の主面に平行な方向に、前記絶縁基板と前記絶縁部材を組み込むケースを貫通して、一端が前記ケースの外部に露出する前記第1半導体チップおよび前記第2半導体チップの外部接続用のリード端子」は、上記(2)の明りょうでない記載の釈明及び限定的減縮を目的とした補正と整合するために、「前記ケースの内部から前記側壁部を貫通して一端が前記ケースの外部に露出する外部接続用のリード端子と、を備え、前記外部接続用のリード端子は、前記ケースの前記側壁部の内部において、前記底面部に平行である」と補正したものと認められる。
しかしながら、本件補正前の請求項1において特定されていた「前記第1半導体チップおよび前記第2半導体チップの外部接続用リード端子」が、本件補正における請求項1において当該特定事項である「第1半導体チップ」および「第2半導体チップ」が削除されているから、特許法第17の2第5項第2号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当せず、また、第1号に掲げる請求項の削除、第3号に掲げる誤記の訂正、及び第4号に掲げる拒絶の理由に示す事項についてする明りょうでない記載の釈明のいずれを目的とするものにも該当しないことは明らかである。

(4)むすび
本件補正は、特許法第17の2第5項に掲げるいずれの事項を目的とするものにも該当しないから、同法第159条第1項で読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。

3.独立特許要件の予備的判断
仮に、上記「2.(3)」で判断した事項が、明りょうでない記載の釈明及び/又は限定的限縮を目的とした補正に該当すると認められるとすると、本件補正における請求項1に記載された発明(以下、「本願補正発明」という。)は限定的限縮を目的とした補正事項を含むから、特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか(特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項に規定する要件を満たすか)否かについて以下検討しておく。

(1)引用例
(1)-1.原査定の拒絶の理由に引用された特開2002-203940号公報(以下、「引用例1」という。)には、半導体パワーモジュールに関し、図面とともに以下の記載がある。なお、下線は当審で付与した。

ア. 「【0002】
【従来の技術】半導体パワーモジュールは、電力制御用の半導体素子であるパワー素子を含む主回路と、該主回路の動作を制御する半導体素子である制御素子を含む制御回路とを、一つの装置に組み込んだものである。主としてモータ等を制御するインバータ装置等に応用されている。」

イ. 「【0023】
【発明の実施の形態】実施の形態1
図1は、この発明の実施の形態1として半導体パワーモジュールの断面を示す模式図である。
【0024】図において、1は金属ベース絶縁基板、2は金属ベース絶縁基板1における主回路パターン18にハンダ付けにより接合されたIGBT、フライホイールダイオード等のパワー素子、3は後述の底部7aに設けた制御回路パターン19上にハンダ付けにより接合され、パワー素子2を制御する制御素子である。」

ウ.「【0025】そして、4は、後述する耐熱性に優れたPPS(ポリ・フェニレン・サルファイト)製の樹脂からなる外枠7にインサート成形された主回路端子、5も前記主回路端子と同様に、前記外枠7にインサート成形された制御回路端子である。またこの制御回路端子5は、制御回路パターン19を兼ねている。主回路端子4、制御回路端子5、夫々は金属ベース絶縁基板1の主回路パターン18やパワー素子2などからの接続として安価で電気伝導性に優れたアルミワイヤ6により接続されている。」

エ.「【0026】 外枠7は、パワー素子2および制御素子3を囲繞するように金属ベース絶縁基板1上に配設され、かつ金属ベース絶縁基板1と接着されており、前述のごとく、主回路端子4および制御回路端子5はこの外枠7にインサート成形されている。また、この外枠7の一方側には内側方向に突出するようにして底部7aが一体形成されており、その先端部が金属ベース絶縁基板1の一端に当接している。この底部7aと金属ベース絶縁基板1とが底板を形成しており、そしてこの底板と外枠7とにより、インサートケース8を形成している。9はパワー素子2および制御素子3を覆うようにインサートケース8内に充填されたエポキシ樹脂であり、金属ベース絶縁基板1からエポキシ樹脂9の各構成要素により、本実施の形態1としての半導体パワーモジュール10を構成している。」

上記アないしエの記載から、引用例1の半導体パワーモジュールには以下の事項が記載されている。

・上記アによれば、電力制御用の半導体素子であるパワー素子と、パワー素子を含む主回路の動作を制御する半導体素子である制御素子とを備えるものである。

・上記イによれば、パワー素子2は、金属ベース絶縁基板1における主回路パターン18に接合され、制御素子3は、底部7aに設けた制御回路パターン19上に接合されているものである。ここで、上記エによれば、底部7aと金属ベース絶縁基板1とでケース8の底板を形成しているから、底部7aは、底板ケース8の(底板の)一部である。

・上記ウによれば、主回路端子4および制御回路端子5は、外枠7にインサート成形されているものである。ここで、上記エによれば、外枠7とは、ケース8の一部(外枠)である。

・上記エによれば、パワー素子2および制御素子3を囲繞するように外枠7が配設されているものである。また、前記外枠7と一体形成された底部7aは、その先端部において金属ベース絶縁基板1に当接しているものである。そして、底板(底部7aと金属ベース絶縁基板1)と外枠7とでインサートケース8を形成しているものである。

したがって、上記摘示事項及び図面を総合勘案すると、引用例1には、次の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されている。

「電力制御用の半導体素子であるパワー素子と、
前記パワー素子を含む主回路の動作を制御する半導体素子である制御素子と、
前記パワー素子は、金属ベース絶縁基板における主回路パターンに接合され、
前記制御素子は、ケースの底板の一部である底部に設けた制御回路パターン上に接合され、
前記パワー素子および前記制御素子を囲繞するように配設された外枠と、前記外枠と一体形成された底部と前記金属ベース絶縁基板とで形成された底板とでインサートケースが形成され、
主回路端子および制御回路端子は、前記外枠にインサート成形されている
半導体パワーモジュール。」

(1)-2.原査定の拒絶の理由に引用された登録実用新案第3021070号公報(以下、「引用例2」という。)には、半導体装置に関し、図面とともに以下の記載がある。なお、下線は当審で付与した。

オ.「【0013】
また、前記金属ベース板1の上には図2と同様に、回路基板2aの上面に形成した回路パターン2cに主回路の相数に相応する複数個のパワー半導体素子2bを実装したパワー回路ブロック2が搭載して半田付けされ、さらにこのパワー回路ブロック2の側方に並べて制御回路用の外部導出端子6との間のスペースにはパワー半導体素子2bと個々に対応する複数個の制御IC8が樹脂ケース4の底壁上に直接実装されている。この制御IC8はパワー半導体素子2bの1個分の制御回路を1チップに集積化したものである。そして、パワー回路ブロック2と制御IC8との間,パワー回路ブロック2と主回路用外部導出端子5との間,および制御IC8と制御回路用外部導出端子6との間がそれぞれボンディングワイヤ7で相互接続されている。なお、9は樹脂ケース4の上蓋、10はケース内に充填した封止樹脂である。」

上記オによれば、引用例2には、「チップ化した制御ICをケースの底壁上に直接実装する」技術事項が記載されている。

(2)対比
そこで、本願補正発明と引用発明とを対比する。

a.引用発明の「パワー素子」と「制御素子」とは、共に半導体素子であるから、本願補正発明の「複数の半導体素子」に相当する。
そして、引用発明の「電力制御用の半導体素子であるパワー素子」は、パワー素子を含む主回路の動作を制御する半導体素子よりも大電流の半導体素子といえるから、本願補正発明の「複数の前記半導体素子のうち、他の前記半導体素子よりも大電流が流れる第1半導体素子が形成された第1半導体チップ」に相当する。
また、引用発明の「前記パワー素子を含む主回路の動作を制御する半導体素子である制御素子」は、本願補正発明の「複数の前記半導体素子のうち、前記第1半導体素子を制御する第2半導体素子が形成された第2半導体チップ」に相当する。

b.引用発明の「主回路パターン」は、パワー素子(本願補正発明の「第1半導体素子」に相当。)が接合されるものであるから、本願補正発明の「第1配線パターン」に相当する。また、引用発明の「金属ベース絶縁基板」は、本願補正発明の「絶縁基板」に相当する。
よって、引用発明の「前記パワー素子は、金属ベース絶縁基板における主回路パターンに接合され」は、本願補正発明の「前記第1半導体チップが接合された第1配線パターンを第1主面上に有する絶縁基板」に相当する。

c.引用発明の「制御回路パターン」は、制御素子(本願補正発明の「第2半導体素子」に相当。)が接合されるものであるから、本願補正発明の「第2配線パターン」に相当する。
また、本願補正発明の「ケース」は絶縁基板と接着されるものであることを考慮すると、引用発明の「インサートケース」のうち金属ベース絶縁基板を除いた部分、即ち、引用発明の「パワー素子および前記制御素子をを囲繞するように配設された外枠」および「前記制御回路パターンを設けた底部」が、本願補正発明の「ケース」に相当する。そして、引用発明の「底部」および「外枠」は、本願補正発明のケースの「底面部」および「側壁部」に相当する。
よって、引用発明の「前記制御素子は、ケースの底板の一部である底部に設けた制御回路パターン上に接合され、前記パワー素子および前記制御素子を囲繞するように配設された外枠と、前記外枠と一体形成された底部と前記金属ベース絶縁基板とで形成された底板とでインサートケースが形成され」ることは、本願補正発明の「前記第1半導体素子が内側に配置されるように前記絶縁基板と接着され、且つ第2配線パターンを有するケースと、を備え、底面部と前記底面部に連結した側壁部を有し」に相当する。
但し、本願補正発明は「第1半導体チップが接合された第1配線パターン」と「第2半導体チップが搭載された第2配線パターン」というように、「接合」と「搭載」とを使い分けているところ、本願補正発明の「前記第2半導体チップが搭載された第2配線パターン」を有するとは、本願の図2を参照すると、当該配線パターン上に「直接」当該半導体チップを接続しているものであり、これに対し、引用発明の「制御素子」は、引用例1の図1を参照すると、当該素子を直接搭載せずにリード端子によって制御パターンと接合された点で相違する。

d.更に、引用発明の「ケースの底板の一部である底部に設けた制御回路パターン」は、引用例1の図1を参照すると、底部は金属ベース絶縁基板面に平行といえるから、本願補正発明の「前記底面部は前記絶縁基板の前記第1主面に平行で、且つ前記第2配線パターンを備え」に相当する。

e.引用発明の「主回路端子および制御回路端子」は、本願補正発明の「外部接続用のリード端子」に相当する。
そうすると、引用発明の「主回路端子および制御回路端子は、前記外枠にインサート成形されている」構成は、引用例1の図1を参照すると、インサートケースの内部から外枠を貫通して外部に露出しているから、本願補正発明の「前記ケースの内部から前記側壁部を貫通して一端が前記ケースの外部に露出する外部接続用のリード端子」に相当する。
但し、本願補正発明は「前記外部接続用のリード端子は、前記ケースの前記側壁部の内部において、前記底面部に平行である」のに対し、引用発明にはその旨の特定がされていない点で相違する。

f.引用発明の「半導体パワーモジュール」は、複数の半導体素子、絶縁基板、ケース、外部接続用のリードを備えているから、本願補正発明の「半導体装置」に相当する。

よって、本願補正発明と引用発明とは、以下の点で一致ないし相違する。

<一致点>
「複数の半導体素子と、
複数の前記半導体素子のうち、他の前記半導体素子よりも大電流が流れる第1半導体素子が形成された第1半導体チップと、
複数の前記半導体素子のうち、前記第1半導体素子を制御する第2半導体素子が形成された第2半導体チップと、
前記第1半導体チップが接合された第1配線パターンを第1主面上に有する絶縁基板と、
前記第1半導体素子が内側に配置されるように前記絶縁基板と接着され、且つ前記第2半導体チップが接続された第2配線パターンを有するケースと、を備え、
前記ケースは、底面部と前記底面部に連結した側壁部を有し、
前記底面部は前記絶縁基板の前記第1主面に平行で、且つ前記第2配線パターンを備え、
前記ケースの内部から前記側壁部を貫通して一端が前記ケースの外部に露出する外部接続用のリード端子と、
を備えることを特徴とする半導体装置。」

<相違点1>
本願補正発明は、第2配線パターンに第2半導体チップが「搭載」されたものであり、ここでいう「搭載」が当該半導体チップか当該配線パターンに「直接」接続するものであると解すると、引用発明は、制御素子(本願補正発明の「第2半導体チップ」に相当。)がリード端子を介して制御回路パターン(本願補正発明の「第2配線パターン」に相当。)に接合されている点で相違する。

<相違点2>
外部接続用のリード端子について、 本願補正発明は「前記ケースの前記側壁部の内部において、前記底面部に平行である」のに対し、引用発明にはその旨の特定がされていない点で相違する。

(3)相違点についての判断
上記相違点について検討する。

<相違点1>について
相違点1における差異は、パターンと接続される半導体がリード端子を備えているか否かによるものであり、例えば引用例2(上記「(1)-2.」を参照。)に記載されているように、リード端子のないチップ化した制御IC(半導体チップ)をケースの底壁(パターン)に直接接続することは、普通に行われている技術である。
よって、引用発明に引用例2の技術事項を適用して、制御回路パターンに制御素子を(直接)搭載して相違点1の構成にすることは、当業者が容易に想到し得るものである。

<相違点2>について
半導体装置において、ケースの側壁部の内部に外部接続用のリード端子を底面部と平行に(直線的に)埋め込む構成とすることは、例えば特開2010-109158号公報(図2を参照。)や特開2008-187146号公報(図1(B)を参照。)に記載されているように周知の技術事項であるから、回路端子をケースの外枠にインサート成形した引用発明において、回路端子を相違点2の構成にすることは、当業者が容易に想到し得るものである。

(4)むすび
以上のとおり、本願補正発明は、引用例1に記載された発明、引用例2に記載された技術事項および周知技術に基づいて当業者が容易に想到できたものであるから、特許法第29条第2項の規定により、特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。
したがって、本件補正は、特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項の規定に違反するものであるから、同法第159条第1項で読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。


第3 本願発明について

1.本願発明
平成28年10月20日付けの手続補正は上記のとおり却下されたので、本願の請求項1ないし9に係る発明は、平成28年6月23日付けの手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項1ないし9に記載された事項により特定されたものであるところ、請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は、上記「第2 1.」に本件補正前の請求項1として記載した以下のとおりのものである。

「【請求項1】
複数の半導体素子と、
複数の前記半導体素子のうち、他の前記半導体素子よりも大電流が流れる第1半導体素子が形成された第1半導体チップと、
複数の前記半導体素子のうち、前記第1半導体素子を制御する第2半導体素子が形成された第2半導体チップと、
前記第1半導体チップが接合された第1配線パターンを有する絶縁基板と、
前記第2半導体チップが搭載された第2配線パターンを有する絶縁部材と、
前記絶縁基板の主面に平行な方向に、前記絶縁基板と前記絶縁部材を組み込むケースを貫通して、一端が前記ケースの外部に露出する前記第1半導体チップおよび前記第2半導体チップの外部接続用のリード端子と、
を備えることを特徴とする半導体装置。」

2.引用例
原査定の拒絶の理由で引用された引用例1に記載された発明(引用発明)は、上記「第2 3.(1)」に記載した以下のとおりである。

「電力制御用の半導体素子であるパワー素子と、
前記パワー素子を含む主回路の動作を制御する半導体素子である制御素子と、
前記パワー素子は、金属ベース絶縁基板における主回路パターンに接合され、
前記制御素子は、ケースの底板の一部である底部に設けた制御回路パターン上に接合され、
前記パワー素子および前記制御素子を囲繞するように配設された外枠と、前記外枠と一体形成された底部と前記金属ベース絶縁基板とで形成された底板とでインサートケースが形成され、
主回路端子および制御回路端子は、前記外枠にインサート成形されている
半導体パワーモジュール。」

3.対比
そこで、本願発明と引用発明とを対比する。

a.引用発明の「パワー素子」と「制御素子」とは、共に半導体素子であるから、本願発明の「複数の半導体素子」に相当する。
そして、引用発明の「電力制御用の半導体素子であるパワー素子」は、パワー素子を含む主回路の動作を制御する半導体素子よりも大電流の半導体素子といえるから、本願発明の「複数の前記半導体素子のうち、他の前記半導体素子よりも大電流が流れる第1半導体素子が形成された第1半導体チップ」に相当する。
また、引用発明の「前記パワー素子を含む主回路の動作を制御する半導体素子である制御素子」は、本願発明の「複数の前記半導体素子のうち、前記第1半導体素子を制御する第2半導体素子が形成された第2半導体チップ」に相当する。

b.引用発明の「主回路パターン」は、パワー素子(本願発明の「第1半導体素子」に相当。)が接合されるものであるから、本願発明の「第1配線パターン」に相当する。また、引用発明の「金属ベース絶縁基板」は、本願発明の「絶縁基板」に相当する。
よって、引用発明の「前記パワー素子は、金属ベース絶縁基板における主回路パターンに接合され」は、本願発明の「前記第1半導体チップが接合された第1配線パターンを有する絶縁基板」に相当する。

c.引用発明の「制御回路パターン」は、本願発明の「第2配線パターン」に相当する。
また、引用発明の「底部」は、上記「第2 3.(1)」のウの記載(「樹脂からなる外枠7」の記載)、エの記載(「外枠7の一報側には内側方向に突出する底部7aが一体形成されており」の記載)からして「樹脂」で形成されているものといえるから、本願発明の「絶縁部材」に相当する。
よって、引用発明の「前記制御素子は、ケースの底板の一部である底部に設けた制御回路パターン上に接合され」ることは、本願発明の「第2配線パターンを有する絶縁部材」に相当する構成を備えているものである。
但し、本願発明は「第1半導体チップが接合された第1配線パターン」と「第2半導体チップが搭載された第2配線パターン」というように、「接合」と「搭載」とを使い分けているところ、本願発明の「前記第2半導体チップが搭載された第2配線パターン」を有するとは、本願の図2を参照すると、当該配線パターン上に「直接」当該半導体チップを接続しているものであり、これに対し、引用発明の「制御素子」は、引用例1の図1を参照すると、当該素子を直接搭載せずにリード端子によって制御パターンと接合された点で相違する。

d.引用発明の「主回路端子および制御回路端子」は、本願発明の「第1半導体チップおよび前記第2半導体チップの外部接続用のリード端子」に相当する。
また、引用発明の「前記パワー素子および前記制御素子を囲繞するように配設された外枠と、前記外枠と一体形成された底部と前記金属ベース絶縁基板とで形成された底板とでインサートケースが形成され」との記載からすると、引用発明の「外枠」は、本願発明の「ケース」(の一部)に相当する。なお、上記cのとおり、引用発明の「底部」は、引用発明の「絶縁部材」に相当する。
そして、引用発明の「主回路端子および制御回路端子」は、引用例1の図1を参照すると、金属ベース絶縁基板面に平行な方向に外枠を貫通して外部に露出しているものである。
よって、引用発明の「前記パワー素子および前記制御素子を囲繞するように配設された外枠と、前記外枠と一体形成された底部と前記金属ベース絶縁基板とで形成された底板とでインサートケースが形成され、主回路端子および制御回路端子は、前記外枠にインサート成形されている」ことは、本願発明の「前記絶縁基板の主面に平行な方向に、前記絶縁基板と前記絶縁部材を組み込むケースを貫通して、一端が前記ケースの外部に露出する前記第1半導体チップおよび前記第2半導体チップの外部接続用のリード端子」に相当する構成を備えているものである。

e.引用発明の「半導体パワーモジュール」は、複数の半導体素子、絶縁基板、絶縁部材、外部接続用のリードを備えているから、本願発明の「半導体装置」に相当する。

よって、本願発明と引用発明とは、以下の点で一致ないし相違する。

<一致点>
「複数の半導体素子と、
複数の前記半導体素子のうち、他の前記半導体素子よりも大電流が流れる第1半導体素子が形成された第1半導体チップと、
複数の前記半導体素子のうち、前記第1半導体素子を制御する第2半導体素子が形成された第2半導体チップと、
前記第1半導体チップが接合された第1配線パターンを有する絶縁基板と、
前記第2半導体チップが接続された第2配線パターンを有する絶縁部材と、
前記絶縁基板の主面に平行な方向に、前記絶縁基板と前記絶縁部材を組み込むケースを貫通して、一端が前記ケースの外部に露出する前記第1半導体チップおよび前記第2半導体チップの外部接続用のリード端子と、
を備えることを特徴とする半導体装置。」

<相違点1>(上記「第2 3.(2)の<相違点1>に同じ。)
本願発明は、第2配線パターンに第2半導体チップが「搭載」されたものであり、ここでいう「搭載」が当該半導体チップか当該配線パターンに「直接」接続するものであると解すると、引用発明は、制御素子(本願発明の「第2半導体チップ」に相当。)がリード端子を介して制御回路パターン(本願発明の「第2配線パターン」に相当。)に接合されている点で相違する。

4.相違点1の判断
相違点1における差異は、パターンと接続される半導体がリード端子を備えているか否かによるものであり、例えば引用例2(上記「(1)-2.」を参照。)に記載されているように、リード端子のないチップ化した制御IC(半導体チップ)をケースの底壁(パターン)に直接接続することは、普通に行われている技術である。
よって、引用発明に引用例2の技術事項を適用して、制御回路パターンに制御素子を(直接)搭載して相違点1の構成にすることは、当業者が容易に想到し得るものである。

5.むすび
以上のとおり、本願の請求項1に係る発明は、引用例1に記載された発明、引用例2に記載された技術事項に基づいて当業者が容易に想到できたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
したがって、本願は、その余の請求項について言及するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。

よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2017-09-15 
結審通知日 2017-09-19 
審決日 2017-10-02 
出願番号 特願2012-133982(P2012-133982)
審決分類 P 1 8・ 575- Z (H01L)
P 1 8・ 121- Z (H01L)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 原田 貴志  
特許庁審判長 井上 信一
特許庁審判官 酒井 朋広
安藤 一道
発明の名称 半導体装置  
代理人 阪本 朗  

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