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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 C08G
管理番号 1334721
審判番号 不服2016-16409  
総通号数 217 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2018-01-26 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2016-11-02 
確定日 2017-11-16 
事件の表示 特願2012-58015「熱硬化性樹脂組成物、およびこれを用いたプリプレグ、積層板」拒絶査定不服審判事件〔平成25年9月26日出願公開、特開2013-189579〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、平成24年3月14日を出願日とする特許出願であって、平成28年1月18日付けで拒絶理由が通知され、同年3月28日に意見書とともに手続補正書が提出されたが、同年7月26日付けで拒絶査定がされ、それに対して、同年11月2日に拒絶査定不服審判請求がされ、同年12月13日付けで審判請求書の手続補正書(方式)が提出されたものである。



第2 本願発明
本願の請求項1ないし4に係る発明は、平成28年3月28日に提出された手続補正書により適法に補正された特許請求の範囲の請求項1ないし4に記載された事項により特定されるものであるところ、その請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は、以下のとおりのものである。

「(1)下記式(I)で示される末端に水酸基を有するシロキサン樹脂(a)と、1分子中に少なくとも2個のシアネート基を有する化合物(b)と、1分子中に少なくとも2個のエポキシ基を有する化合物(c)とを、反応触媒として有機金属塩(d)を用い、(a)と(b)と(c)の総和100重量部あたりの(a)の使用量を10?50重量部の範囲とし、(b)の使用量を40?80重量部の範囲とし、(c)の使用量を10?50重量部の範囲として、反応させ、(b)のシアネート基を有する化合物の反応率が30?70mol%である相容化樹脂と、
【化1】

(式中R_(1)は各々独立に炭素数1?5の飽和炭化水素基であり、Ar_(1)は各々独立に存在しないか、又は芳香族基であり、mは5から100までの数である)
(2)下記式(II)で示されるトリメトキシシラン化合物により表面処理された溶融シリカと、
【化2】

(3)分子構造中にイミダゾール構造を含有する化合物と、
を必須成分として含有する熱硬化性樹脂組成物であって、
(3)の分子構造中にイミダゾール構造を含有する化合物が、2-メチルイミダゾール、2-ウンデシルイミダゾール、2-ヘプタデシルイミダゾール、1,2-ジメチルイミダゾール、2-エチル-4-メチルイミダゾール、2-フェニルイミダゾール、2-フェニル-4-メチルイミダゾール、1-ベンジル-2-メチルイミダゾール、および1-ベンジル-2-フェニルイミダゾールから選ばれる1種又は2種以上である、熱硬化性樹脂組成物。」



第3 原査定の理由
原査定の拒絶理由の概要は、本願請求項1ないし3に係る発明は、本願出願前に頒布された刊行物に記載された発明に基いて当業者が容易に発明できたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないというものを含むものである。
なお、平成28年3月28日に提出された手続補正書により請求項数が3から4に1つ増加している。



第4 特許法第29条第2項(進歩性)
1.引用例の記載
本願出願前に頒布された下記の刊行物には、それぞれ次の事項が記載されている。なお、下線は当審で付加した。

(1)国際公開第2012/018126号(原査定で引用された引用文献1と同じ。以下、「引用例」という。)
(1ア)「[請求項1] 下記一般式(I)で示される末端に水酸基を有するシロキサン樹脂(a)、1分子中に少なくとも2個のシアネート基を有する化合物(b)及び1分子中に少なくとも2個のエポキシ基を有する化合物(c)を、(a)?(c)成分の合計量100質量部当たり、(a)成分10?50質量部、(b)成分40?80質量部、(c)成分10?50質量部として、有機金属塩(d)の存在下、トルエン、キシレン及びメシチレンから選ばれる溶媒中で80℃?120℃で反応させ、(b)成分の反応率が30?70モル%であることを特徴とするイミノカーボネート構造及びトリアジン構造を有する相容化樹脂の製造方法。
[化1]

(式中、R_(1)は各々独立に炭素数1?5のアルキレン基又はアルキレンオキシ基,Ar_(1)は各々独立に単結合、アリーレン基又は炭素数1?5のアルキレン基であり、mは5?100の整数である)
[請求項2] 請求項1に記載の方法により製造された相容化樹脂(A1)及び、下記式(II)で示されるトリメトキシシラン化合物により表面処理された溶融シリカ(B)を含有することを特徴とする熱硬化性樹脂組成物。
[化2]

[請求項3] 熱硬化性樹脂(A2)及び、式(II)で示されるトリメトキシシラン化合物により表面処理された溶融シリカ(B)を含有する熱硬化性樹脂組成物であって、
前記熱硬化性樹脂(A2)は、
一般式(I)で示される末端に水酸基を有するシロキサン樹脂(a)と、1分子中に少なくとも2個以上のシアネート基を有する化合物(b)とが有機溶媒中で反応して得られたものであり、
該シロキサン樹脂(a)と該化合物(b)との総和100質量部に対し、該シロキサン樹脂(a)10?70質量部及び該化合物(b)30?90質量部が含まれており、
該化合物(b)の反応率が40?70モル%である
ことを特徴とする熱硬化性樹脂組成物。
[請求項4] 請求項2又は請求項3に記載の熱硬化性樹脂組成物を基材中に含侵又は塗工した後、Bステージ化したプリプレグ。
[請求項5] 請求項4記載のプリプレグを用いて形成された積層板。」

(1イ)「[0042] 本発明の熱硬化性樹脂組成物には、耐熱性や難燃性、銅箔接着性等の向上化のため硬化促進剤を用いることが望ましく、硬化促進剤の例としては、ナフテン酸亜鉛、ナフテン酸コバルト、オクチル酸錫、オクチル酸コバルト等の有機金属塩、イミダゾール類及びその誘導体、第三級アミン類及び第四級アンモニウム塩等が挙げられる。硬化促進剤を使用することにより、耐熱性や難燃性、銅箔接着性等が不足することがない。」

(1ウ)「実施例
[0050] 次に、下記の実施例により本発明を更に詳しく説明するが、これらの実施例は本発明をいかなる意味においても制限するものではない。
なお、以下の実施例および比較例において得られた銅張積層板を以下の方法により測定し、評価を行った。
[0051] (1)銅箔接着性(銅箔ピール強度)
銅張積層板を銅エッチング液に浸漬することにより1cm幅の銅箔を形成して評価基板を作製し、引張り試験機を用いて銅箔の接着性(ピール強度)を測定した。
[0052] (2)ガラス転移温度(Tg)
銅張積層板を銅エッチング液に浸漬することにより銅箔を取り除いた5mm角の評価基板を作製し、TMA試験装置(デュポン社製、TMA2940)を用い、評価基板の面方向の熱膨張特性を観察することにより評価した。
[0053] (3)はんだ耐熱性
銅張積層板を銅エッチング液に浸漬することにより銅箔を取り除いた5cm角の評価基板を作製し、平山製作所(株)製プレッシャー・クッカー試験装置を用いて、121℃、2atmの条件で4時間までプレッシャー・クッカー処理を行った後、温度288℃のはんだ浴に、評価基板を20秒間浸漬した後、外観を観察することによりはんだ耐熱性を評価した。
[0054] (4)線熱膨張係数
銅張積層板を銅エッチング液に浸漬することにより銅箔を取り除いた5mm角の評価基板を作製し、TMA試験装置(デュポン社製、TMA2940)を用い、評価基板の面方向の30℃?100℃の線熱膨張率を測定した。
[0055] (5)難燃性
銅張積層板を銅エッチング液に浸漬することにより銅箔を取り除いた評価基板から、長さ127mm、幅12.7mmに切り出した試験片を作製し、UL94の試験法(V法)に準じて評価した。
[0056] (6)銅付き耐熱性(T-300)
銅張積層板から5mm角の評価基板を作製し、TMA試験装置(デュポン社製、TMA2940)を用い、300℃で評価基板の膨れが発生するまでの時間を測定することにより評価した。
[0057] (7)誘電特性(比誘電率及び誘電正接)
得られた銅張積層板を銅エッチング液に浸漬することにより銅箔を取り除いた評価基板を作製し、Hewllet・Packerd社製比誘電率測定装置(製品名:HP4291B)を用いて、周波数1GHzでの比誘電率及び誘電正接を測定した。
[0058] (8)ドリル加工性
ドリルに径0.105mm(ユニオンツールMV J676)を用い、回転数:160,000rpm、送り速度:0.8m/分、重ね枚数:1枚でドリル加工を行い、6000ヒットさせて評価基板を作製し、ドリル穴の内壁粗さを評価した。内壁粗さの評価は、無電解銅めっきを行い(めっき厚:15μm)、穴壁へのめっき染み込み長さの最大値を測定することにより評価した。
[0059] 製造例1:相容化樹脂(A1-1)の製造
温度計、攪拌装置、還流冷却管の付いた加熱及び冷却可能な容積3リットルの反応容器に、ビスフェノールA型シアネート樹脂(ロンザジャパン社製;商品名Primaset BADCy):600.0g、下記の式(V)に示すシロキサン樹脂(信越化学社製;商品名X-22-1821、水酸基当量;1,600):200.0g、ビフェニル型エポキシ樹脂(ジャパンエポキシレジン社製;商品名YX-4000、エポキシ当量;186):200.0g及びトルエン:1000.0gを投入した。次いで、攪拌しながら120℃に昇温し、樹脂固形分が溶解し均一な溶液になっていることを確認した後、ナフテン酸亜鉛の8質量%ミネラルスピリット溶液を0.01g添加し、約110℃で4時間反応を行った。その後、室温に冷却し相容化樹脂(A1-1)の溶液を得た。
この反応溶液を少量取り出し、GPC測定(ポリスチレン換算、溶離液:テトラヒドロフラン)を行ったところ、溶出時間が約12.4分付近に出現する合成原料のビスフェノールA型シアネート樹脂のピーク面積が、反応開始時のビスフェノールA型シアネート樹脂のピーク面積と比較し、ピーク面積の消失率〔(b)成分の反応率〕が68%であった。また、約10.9分付近、及び8.0?10.0付近に出現する熱硬化性樹脂の生成物のピークが確認された。さらに、少量取り出した反応溶液を、メタノールとベンゼンの混合溶媒(混合重量比1:1)に滴下して再沈殿させることにより、精製された固形分を取り出し、FT-IR測定を行ったところ、イミノカーボネート基に起因する1700cm^(-1)付近のピーク、また、トリアジン環に起因する1560cm^(-1)付近、及び1380cm^(-1)付近の強いピークが確認でき、相容化樹脂(A1-1)が製造されていることを確認した。
[0060] [化7]

(式中のpは平均値として35?40の数である。)
[0061]製造例2:相容化樹脂(A1-2)の製造
温度計、攪拌装置、還流冷却管の付いた加熱及び冷却可能な容積3リットルの反応容器に、ノボラック型シアネート樹脂(ロンザジャパン社製;商品名Primaset PT-15,質量平均分子量500?1,000):800.0gと、下記の式(VI)に示すシロキサン樹脂(信越化学社製;商品名KF-6003、水酸基当量;2800):100.0g、ナフトールアラルキル・クレゾール共重合型エポキシ樹脂(日本化薬社製;商品名NC-7000L、エポキシ当量;230):100.0g及びトルエン:1000.0gを投入した。次いで、攪拌しながら120℃に昇温し、樹脂固形分が溶解し均一な溶液になっていることを確認した後、ナフテン酸亜鉛の8質量%ミネラルスピリット溶液を0.01g添加し、約110℃で4時間反応を行った。その後、室温に冷却し相容化樹脂(A-2)の溶液を得た。
この反応溶液を少量取り出し、GPC測定(ポリスチレン換算、溶離液:テトラヒドロフラン)を行ったところ、溶出時間が約12.1分付近に出現する合成原料のノボラック型シアネート樹脂のピーク面積が、反応開始時のノボラック型シアネート樹脂のピーク面積と比較し、ピーク面積の消失率〔(b)成分の反応率〕が43%であった。また、約10.9分付近、及び8.0?10.0付近に出現する熱硬化性樹脂の生成物のピークが確認された。さらに、少量取り出した反応溶液を、メタノールとベンゼンの混合溶媒(混合重量比1:1)に滴下して再沈殿させることにより、精製された固形分を取り出し、FT-IR測定を行ったところ、イミノカーボネート基に起因する1700cm^(-1)付近のピーク、また、トリアジン環に起因する1560cm^(-1)付近、及び1380cm^(-1)付近の強いピークが確認でき、相容化樹脂(A1-2)が製造されていることを確認した。
[0062] [化8]

(式中のqは平均値として70?75の数である。)
[0063] 製造例3:相容化樹脂(A1-3)の製造
温度計、攪拌装置、還流冷却管の付いた加熱及び冷却可能な容積3リットルの反応容器に、ジシクロペンタジエン型シアネート樹脂(ロンザジャパン社製;商品名Primaset DT-4000,質量平均分子量500?1,000):400.0g、下記式(VII)に示すシロキサン樹脂(信越化学社製;商品名X-22-160AS、水酸基当量;500):100.0g、ビフェニルアラルキル型エポキシ樹脂(日本化薬社製;商品名NC-3000H、エポキシ当量;280):500.0g及びシチレン:1000.0gを投入した。
次いで、攪拌しながら120℃に昇温し、樹脂固形分が溶解し均一な溶液になっていることを確認した後、ナフテン酸亜鉛の8質量%ミネラルスピリット溶液を0.30g添加し、約110℃で4時間反応を行った。その後、室温に冷却し、相容化樹脂(A1-3)の溶液を得た。
この反応溶液を少量取り出し、GPC測定(ポリスチレン換算、溶離液:テトラヒドロフラン)を行ったところ、溶出時間が約12.0分付近に出現する合成原料のノボラック型シアネート樹脂のピーク面積が、反応開始時のノボラック型シアネート樹脂のピーク面積と比較し、ピーク面積の消失率〔(b)成分の反応率〕が43%であった。また、約10.9分付近、及び8.0?10.0付近に出現する熱硬化性樹脂の生成物のピークが確認された。さらに、少量取り出した反応溶液を、メタノールとベンゼンの混合溶媒(混合質量比1:1)に滴下して再沈殿させることにより、精製された固形分を取り出し、FT-IR測定を行ったところ、イミノカーボネート基に起因する1700cm^(-1)付近のピーク、また、トリアジン環に起因する1560cm^(-1)付近、及び1380cm^(-1)付近の強いピークが確認でき、相容化樹脂(A1-3)が製造されていることを確認した。
[0064] [化9]

(式中のrは平均値として10?15の数である。)
[0065] 製造例4:相容化樹脂(A1-4)の製造
温度計、攪拌装置、還流冷却管の付いた加熱及び冷却可能な容積3リットルの反応容器に、ビスフェノールA型シアネート樹脂(ロンザジャパン社製;商品名Primaset BADCy):400.0gと、前記の式(V)に示すシロキサン樹脂(信越化学社製;商品名X-22-1821、水酸基当量;1,600):500.0gと、ナフタレン型エポキシ樹脂(大日本インキ化学社製;商品名エピクロンHP-4032、エポキシ当量;150):100.0gと、トルエン:1000.0gを投入した。次いで、攪拌しながら120℃に昇温し、樹脂固形分が溶解し均一な溶液になっていることを確認した後、ナフテン酸亜鉛の8質量%ミネラルスピリット溶液を0.01g添加し、約110℃で4時間反応を行った。その後、室温に冷却し相容化樹脂(A1-4)の溶液を得た。
この反応溶液を少量取り出し、GPC測定(ポリスチレン換算、溶離液:テトラヒドロフラン)を行ったところ、溶出時間が約12.4分付近に出現する合成原料のビスフェノールA型シアネート樹脂のピーク面積が、反応開始時のビスフェノールA型シアネート樹脂のピーク面積と比較し、ピーク面積の消失率〔(b)成分の反応率〕が55%であった。また、約10.9分付近、及び8.0?10.0付近に出現する熱硬化性樹脂の生成物のピークが確認された。さらに、少量取り出した反応溶液を、メタノールとベンゼンの混合溶媒(混合重量比1:1)に滴下して再沈殿させることにより、精製された固形分を取り出し、FT-IR測定を行ったところ、イミノカーボネート基に起因する1700cm^(-1)付近のピーク、また、トリアジン環に起因する1560cm^(-1)付近、及び1380cm^(-1)付近の強いピークが確認でき、相容化樹脂(A1-4)が製造されていることを確認した。
[0066] 製造例5:トリメトキシシラン化合物により表面処理された溶融シリカ(B-1)の製造
温度計、攪拌装置、還流冷却管の付いた加熱及び冷却可能な容積3リットルの反応容器に、溶融シリカ(アドマテックス社製;商品名SO-25R):700.0gと、プロピレングリコールモノメチルエーテル:1000.0gを配合し、攪拌しながらN-フェニル-3-アミノプロピルトリメトキシシラン(信越化学社製;商品名KBM-573):7.0gを添加した。次いで80℃に昇温し、80℃で1時間反応を行い溶融シリカの表面処理(湿式処理)を行った後、室温に冷却し、N-フェニル-3-アミノプロピルトリメトキシシランにより表面処理(湿式処理)された溶融シリカ(B-1)の溶液を得た。」

(1エ)「[0084] 実施例1?10、比較例1?9
(A)成分として、製造例1?4により得られた相容化樹脂、比較製造例1?3で得られた樹脂、又は製造例6?8及び比較製造例4?7で得られた熱硬化性樹脂、製造例5又は商業的に入手した(B)成分、また必要により(C)成分、(D)成分、及び硬化促進剤に、希釈溶剤としてメチルエチルケトンを使用して、第1表及び第2表に示した配合割合(質量部)で混合して樹脂分60質量%の均一なワニスを得た。
次に、得られたワニスを厚さ0.2mmのSガラスクロスに含浸塗工し、160℃で10分加熱乾燥して樹脂含有量55質量%のプリプレグを得た。
このプリプレグを4枚重ね、18μmの電解銅箔を上下に配置し、圧力25kg/cm^(2)(2.45MPa)、温度185℃で90分間プレスを行って、銅張積層板を得た。
このようにして得られた銅張積層板を用いて、銅箔接着性(銅箔ピール強度)、ガラス転移温度、はんだ耐熱性、線膨張係数、難燃性、銅付き耐熱性(T-300)、比誘電率(1GHz)、誘電正接(1GHz)及びドリル加工性について前記の方法で測定・評価した。評価結果を第1表?第4表に示す。
[0085]
[表1]

・・・
[0089] 第1表?第4表において、商業的に入手した(B)成分、任意に用いた(C)成分、(D)成分、硬化促進剤、比較例で用いたエポキシ樹脂及び溶融シリカは次の通りである。
[0090] (B)成分
溶融シリカ(B-2):溶融シリカに対し1.0質量%のN-フェニル-3-アミノプロピルトリメトキシシランにより表面処理された溶融シリカ(アドマテック社製;商品名SC-2050KNK,希釈溶剤;メチルイソブチルケトン)
溶融シリカ(B-3):溶融シリカに対し1.0質量%のN-フェニル-3-アミノプロピルトリメトキシシランにより表面処理された溶融シリカ(アドマテック社製;商品名SC-2050HNK,希釈溶剤;シクロヘキサノン)
・・・
[0092] (C)無機充填剤(AlOOH):ベーマイト型水酸化アルミニウム(河合石灰社製;商品名BMT-3L、熱分解温度:400℃)
(D)無機難燃助剤(KG-1100):モリブデン酸亜鉛をタルクに担持した無機難燃助剤(シャーウィン・ウィリアムス社製;商品名ケムガード1100)
硬化促進剤:ナフテン酸亜鉛の8質量%ミネラルスピリット溶液
・・・
[0094] 第1表から明らかなように、本発明の実施例1?6は、銅箔ピール強度、カラス転移温度(Tg)、はんだ耐熱性、低熱膨張性、難燃性、銅付き耐熱性(T-300)、低誘電特性、低誘電正接性、ドリル加工性の全てに優れており、背景技術で述べた基準値を満たしている。
・・・
産業上の利用可能性
[0096] 本発明の熱硬化性樹脂組成物は、上記の実施例によれば、はんだ耐熱性や難燃性に優れるのみならず、背景技術で述べた銅箔接着性(銅箔ピール強度)、銅付き耐熱性(T-300)、ドリル加工性、比誘電率、誘電正接の全ての特性において近年の高密度化や高信頼性で要求されているレベルに達するものである。」

(2)特開2004-307761号(原査定で引用された引用文献2と同じ。以下、「周知例1」という。)
(2ア)「【請求項1】 成分A 一般式(I):
【化1】

(式中、R_(1)は、水素原子、ハロゲン原子、又はC_(1)?C_(5)の炭化水素基であり、R_(2)は、それぞれ、独立して、ハロゲン原子、C_(1)?C_(5)の脂肪族炭化水素基、芳香族炭化水素基又は水酸基であり、xは、0?3の整数である)で示されるモノマー単位(a)、及び
一般式(II):
【化2】

で示されるモノマー単位(b)を含む共重合樹脂(成分A)、並びに、
成分B 熱硬化性樹脂を含む熱硬化性樹脂組成物であって、前記成分Bが、成分
B1 一般式(III):
【化3】

(pは1以上の整数である)で示されるビフェニルアラルキル型エポキシ樹脂を含有することを特徴とする熱硬化性樹脂組成物。
【請求項2】 前記成分Bが、成分B2である1分子中に2個以上のシアナト基を含有するシアネート化合物を更に含む、請求項1記載の熱硬化性樹脂組成物。
【請求項16】 請求項1?15いずれか1項に記載の熱硬化性樹脂組成物をワニス化し、このワニスを基材に含浸した後、乾燥して得られるプリプレグ。
【請求項17】 請求項16記載のプリプレグを1枚又は複数枚重ね、その少なくとも一面に金属箔を積層し、加熱加圧して得られる金属張積層板。
【請求項18】 請求項17記載の金属積層板を用いた印刷配線板。」(特許請求の範囲請求項1、2、16?18)

(2イ)「なお、本発明の熱硬化性樹脂組成物においては、上記の各成分に加えて、硬化促進剤、充填剤、その他の熱可塑性樹脂、エラストマー、および難燃剤等の添加剤を必要に応じて配合することができる。
この硬化促進剤としては、成分B1のグリシジル基の硬化反応を促進させる触媒機能を有する化合物を用いることができる。
このような硬化促進剤としては、例えば、アルカリ金属化合物、アルカリ土類金属化合物、イミダゾール類化合物、有機リン化合物、第二級アミン、第三級アミン、第四級アンモニウム塩等が挙げられ、特に、イミダゾール化合物が好ましい。その配合量は、触媒機能、ワニスやプリプレグの保存安定性等を考慮すると、成分B1の100質量部に対して0.05?3質量部とすることが好ましい。」(【0102】?【0104】)

(2ウ)「実施例1
成分Aとして合成例2の共重合樹脂溶液(a-2)、成分Bとして、成分B1のビフェニルアラルキル型エポキシ樹脂(商品名NC-3000-H、日本化薬株式会社製、重量平均分子量72、以下同様)を表1に示す配合量で配合しメチルエチルケトンに溶解後、硬化促進剤として2-メチルイミダゾール(商品名2MZ、四国化成工業株式会社製)を表1に従って配合し、不揮発分70%のワニスを得た。」(【0123】)

(3)特開2003-268136号(原査定で引用された引用文献3と同じ。以下、「周知例2」という。)
(3ア)「【請求項1】 シアネート樹脂と、無機充填材とを含む樹脂組成物を基材に含浸して得られるプリプレグであって、
前記プリプレグを硬化して得られる硬化物の厚さ方向の膨張率(α_(1))が25ppm/℃以下となることを特徴とするプリプレグ。
【請求項2】 前記硬化物のガラス転移温度が210℃以上となる請求項1に記載のプリプレグ。
【請求項3】 更に、エポキシ樹脂を含むものである請求項1または2に記載のプリプレグ。
【請求項4】 更に、フェノール樹脂を含むものである請求項1ないし3のいずれかに記載のプリプレグ。
【請求項5】 前記無機充填材の含有量は、樹脂組成物中30?80重量%である請求項1ないし4のいずれかに記載のプリプレグ。
【請求項6】 請求項1ないし5のいずれかに記載のプリプレグを1枚以上有することを特徴とする積層板。」(特許請求の範囲請求項1?6)

(3イ)「前記樹脂組成物には、必要に応じて硬化促進剤を用いてもよい。硬化促進剤としては公知の物を用いることが出来る。たとえば、ナフテン酸亜鉛、ナフテン酸コバルト、オクチル酸スズ、オクチル酸コバルト、ビスアセチルアセトナートコバルト(II)、トリスアセチルアセトナートコバルト(III)等の有機金属塩、トリエチルアミン、トリブチルアミン、ジアザビシクロ[2,2,2]オクタン等の3級アミン類、2-フェニル-4-メチルイミダゾール、2-エチル-4-エチルイミダゾール、2-フェニル-4-メチルイミダゾール、2-フェニル-4-メチル-5-ヒドロキシイミダゾール、2-フェニル-4,5-ジヒドロキシイミダゾール等のイミダゾール類、フェノール、ビスフェノールA、ノニルフェノー等のフェノール化合物、酢酸、安息香酸、サリチル酸、パラトルエンスルホン酸等の有機酸等、またはこの混合物が挙げられる。」(【0024】)

(4)特開2005-235915号(当審で新たに引用するもの。以下、「周知例3」という。)
(4ア)「【請求項1】
半導体素子と、支持部材とを接合するために用いる半導体用接着フィルムであって、
前記半導体用接着フィルムは、樹脂および平均粒径100nm以下のコロイダルシリカを含む樹脂組成物で構成されていることを特徴とする半導体用接着フィルム。
【請求項2】
樹脂が熱可塑性樹脂を含むものである請求項1記載の半導体用接着フィルム。
【請求項3】
樹脂が熱硬化性樹脂を含むものである請求項1又は2記載の半導体用接着フィルム。
【請求項4】
請求項1?3のいずれか1項に記載の半導体用接着フィルムを用いて、半導体素子と半導体素子搭載用支持部材とを接合していることを特徴とする半導体装置。」(特許請求の範囲請求項1?4)

(4イ)「本発明の樹脂としては熱硬化性樹脂を含むものが好ましく、後述するような硬化剤としての機能を有するようなものを含んでも良い。
前記熱硬化性樹脂としては、例えばフェノールノボラック樹脂、クレゾールノボラック樹脂、ビスフェノールAノボラック樹脂等のノボラック型フェノール樹脂、レゾールフェノール樹脂等のフェノール樹脂、ビスフェノールAエポキシ樹脂、ビスフェノールFエポキシ樹脂等のビスフェノール型エポキシ樹脂、ノボラックエポキシ樹脂、クレゾールノボラックエポキシ樹脂等のノボラック型エポキシ樹脂、ビフェニル型エポキシ樹脂、スチルベン型エポキシ樹脂、トリフェノールメタン型エポキシ樹脂、アルキル変性トリフェノールメタン型エポキシ樹脂、トリアジン核含有エポキシ樹脂、ジシクロペンタジエン変性フェノール型エポキシ樹脂等のエポキシ樹脂、ユリア(尿素)樹脂、メラミン樹脂等のトリアジン環を有する樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、ビスマレイミド樹脂、ポリウレタン樹脂、ジアリルフタレート樹脂、シリコーン樹脂、ベンゾオキサジン環を有する樹脂、シアネートエステル樹脂等が挙げられ、これらは単独でも混合して用いても良い。これらの中でもエポキシ樹脂が好ましく、特にエポキシ樹脂とシアネート樹脂の併用が好ましい。これにより、耐熱性および密着性をより向上することができる。」(【0020】)

(4ウ)「前記熱硬化性樹脂がエポキシ樹脂である場合硬化促進剤としてイミダゾール類を含んでも良く1-ベンジル-2メチルイミダゾール、1-ベンジル-2フェニルイミダゾール、1-シアノエチル-2-エチル-4-メチルイミダゾールなどの化合物が挙げられる。」(【0029】)

(5)特開2010-31263号(当審で新たに引用するもの。以下、「周知例4」という。)
(5ア)「【請求項1】
(A)下記一般式(1)で表される構造を有するエポキシ樹脂、(B)水酸化アルミニウムおよび(C)シアネート樹脂を必須成分とすることを特徴とするエポキシ樹脂組成物。
【化1】

[式中 Xは水素、またはエポキシ基(グリシジルエーテル基)を、R1およびR2は、互いに独立し、水素、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、フェニル基、およびベンジル基の中から選択される1種を表す。nは1以上の整数であり、p、qは1以上の整数であり、またp、qの値は、繰り返し単位毎に同一でも、異なっていてもよい。]
【請求項11】
請求項1ないし10のいずれかに記載のエポキシ樹脂組成物を基材に含浸させてなるプリプレグ。
【請求項12】
請求項11に記載のプリプレグを少なくとも1枚以上重ね合わせた積層体の少なくとも片面に金属箔を有する積層板。
【請求項13】
請求項1ないし10のいずれかに記載のエポキシ絶縁樹脂組成物よりなる絶縁層をフィルム上、又は金属箔上に形成してなる樹脂シート。
【請求項14】
請求項11に記載のプリプレグ、請求項12に記載の積層板、および[請求項13に記載の樹脂シートからなる群より選ばれる少なくとも1つを用いて作製される多層プリント配線板。
【請求項15】
請求項14に記載の多層プリント配線板に半導体素子を搭載してなる半導体装置。」(特許請求の範囲請求項1、11?15)

(5イ)「前記硬化促進剤は、特に限定されないが、例えばナフテン酸亜鉛、ナフテン酸コバルト、オクチル酸スズ、オクチル酸コバルト、ビスアセチルアセトナートコバルト(II)、トリスアセチルアセトナートコバルト(III)等の有機金属塩、トリエチルアミン、トリブチルアミン、ジアザビシクロ[2,2,2]オクタン等の3級アミン類、2-メチルイミダゾール、2-フェニルイミダゾール、2-フェニル-4-メチルイミダゾール、2-エチル-4-エチルイミダゾール、1-ベンジルー2-メチルイミダゾール、1-ベンジルー2-フェニルイミダゾール、2-ウンデシルイミダゾール、1-シアノエチルー2-エチルー4-メチルイミダゾール、1-シアノエチルー2-ウンデシルイミダゾール、2-フェニル-4-メチル-5-ヒドロキシイミダゾール、2-フェニル-4,5-ジヒドロキシイミダゾール、2,3-ジヒドロー1H-ピロロ(1,2-a)ベンズイミダゾール等のイミダゾール化合物、フェノール、ビスフェノールA、ノニルフェノール等のフェノール化合物、酢酸、安息香酸、サリチル酸、パラトルエンスルホン酸等の有機酸等、またはこの混合物が挙げられる。これらの中の誘導体も含めて1種類を単独で用いることもできるし、これらの誘導体も含めて2種類以上を併用したりすることもできる。
これらの硬化促進剤のなかでも、特にイミダゾール化合物が好ましい。これにより、樹脂組成物をプリプレグとし、半導体装置に使用した場合の絶縁性、半田耐熱性を高めることができる。」(【0031】)

(6)特開平8-332696号(当審で新たに引用するもの。以下、「周知例5」という。)
(6ア)「【請求項1】 表面に絶縁接着層を形成した金属体において、絶縁接着層の金属体側を流動性小、表面側を流動性大としてなる絶縁接着材料付き金属体。」(特許請求の範囲請求項1)

(6イ)「流動性を大とすには、分子量500以下の、ビスフェノールA型又はビスフェノールF型エポキシ樹脂を含有させる。またエポキシ樹脂の硬化剤としては特に制限するものではないが、ワニスライフの長い潜在性の高いものが望ましい。この例としては、3級アミン、酸無水物、イミダゾール化合物、ポリフェノール樹脂、マスクイソシアネートなどの1種以上を使用することができる。
さらに、硬化促進剤としてイミダゾール類を配合するのが好ましい。このようなイミダゾール類としては、2-メチルイミダゾール、2-エチル-4-メチルイミダゾール、1-シアノエチル-2-フェニルイミダゾール、1-シアノエチル-2-フェニルイミダゾリウムトリメリテートなどが挙げられる。」(【0011】?【0012】)

(7)エポキシ樹脂技術協会編・発行「総説 エポキシ樹脂 基礎編I」、2003年11月19日初版発行、147?148頁(当審で新たに引用するもの。以下、「周知例6」という。)
(7ア)「3.3 塩基性硬化剤および促進剤
3.3.1 イミダゾール類
イミダゾールは、図1に示すようにイミノ基と3級窒素をあわせ持つ5員環化合物である。
1?5位に置換基を導入することによって、さまざまな性質のイミダゾールを得ることができるが、エポキシ樹脂硬化剤として工業的に生産され利用されているのは、おもに1,2,4位にアルキル基またはアリール基を導入した化合物である。

硬化剤としての特長は、触媒型の硬化剤でありエポキシ樹脂に対して少量の添加(おおよそ1?8phr)で硬化させることができる、配合物のゲルタイムやポットライフのコントロールが比較的容易である、中温(120?150℃)短時間の硬化で高いガラス転移温度を持つ硬化物が得られる、などの点が挙げられる。…

イミダゾール類は他の3級アミンと同様に、ジシアンジアミド(DICY)、有機酸無水物、ポリフェノールなどの硬化促進剤として使用することができ、現在ではむしろこちらの方が重要な用途となっている。硬化促進剤として使用した場合も比較的長いポットライフ、中温域での高い硬化性、硬化樹脂の高耐熱性など、3級アミンにはない特徴が得られる。…以下に代表的なイミダゾール類の特徴を挙げる。
a)2-エチル-4-メチルイミダゾール(2E4MZ)
最も広範囲、多用途で使用されているイミダゾールであり、…
b)2-フェニルイミダゾール(2PZ)
イミダゾール類の硬化剤の中では比較的安価。…」

(8)便覧編集室編「便覧 ゴム・プラスチック配合薬品」、株式会社ポリマーダイジェスト、2003年12月2日初版発行、378?380頁(当審で新たに引用するもの。以下、「周知例7」という。)
(8ア)「◆(10)イミダゾール(imdazole)
エポキシ樹脂の中温硬化剤で、単独ですぐれた特性を示すと同時に(添加量1?8phr)、酸無水物、芳香族アミン、ジシアン・ジアミドなどと併用して促進効果を発揮する(添加量0.3?3phr)。添加量が少なくてすむので経済的で、配合物のポットライフが長く、比較的低温/短時間の硬化条件で熱変形温度の高い、機械的・電気的性質のすぐれた硬化樹脂が得られる。低揮発性で毒性の低い特徴もある。
§ 四国化成工業
◇キュアゾール2MZ(2-メチルイミダゾール)…
◇キュアゾール2E4MZ(2-エチル-4-メチルイミダゾール)…
◇キュアゾールC_(11)Z(2-ウンデシルイミダゾール)…
◇キュアゾールC_(17)Z(2-ヘプタデシルイミダゾール)…
◇キュアゾール2PZ(2-フェニルイミダゾール)…
◇キュアゾール2P4MZ(2-フェニル-4-メチルイミダゾール)…
◇キュアゾール1B2MZ(1-ベンジル-2-メチルイミダゾール)…

§ ジャパンエポキシレジン
◇エピキュアBMI-12(1-ベンジル-2-メチルイミダゾール)…
◇エピキュアEMI-24(2-エチル-4(5)-メチルイミダゾール)…
◇エピキュアUIZ2(2-ウンデシルイミダゾール)…」

2.引用例に記載された発明
上記引用例の摘示(ア)において、請求項2の記載を請求項1を引用しないで表現することによれば、引用例には、
「下記一般式(I)で示される末端に水酸基を有するシロキサン樹脂(a)、1分子中に少なくとも2個のシアネート基を有する化合物(b)及び1分子中に少なくとも2個のエポキシ基を有する化合物(c)を、(a)?(c)成分の合計量100質量部当たり、(a)成分10?50質量部、(b)成分40?80質量部、(c)成分10?50質量部として、有機金属塩(d)の存在下、トルエン、キシレン及びメシチレンから選ばれる溶媒中で80℃?120℃で反応させることにより製造された、(b)成分の反応率が30?70モル%であるイミノカーボネート構造及びトリアジン構造を有する相容化樹脂(A1)
[化1]

(式中、R_(1)は各々独立に炭素数1?5のアルキレン基又はアルキレンオキシ基,Ar_(1)は各々独立に単結合、アリーレン基又は炭素数1?5のアルキレン基であり、mは5?100の整数である)
及び、下記式(II)で示されるトリメトキシシラン化合物により表面処理された溶融シリカ(B)
[化2]

を含有する熱硬化性樹脂組成物。」(以下、「引用発明」という。)が記載されているといえる。

3.周知例1?7の記載から導き出される事項
周知例1?7の上記摘示(特に下線部分)を総合すると、周知例1?7から、プリプレグ等に用いられる、エポキシ樹脂を含有する樹脂組成物において、硬化促進剤としてイミダゾール類を添加すること、そして、当該イミダゾール類として具体的に「2-メチルイミダゾール、2-ウンデシルイミダゾール、2-ヘプタデシルイミダゾール、2-エチル-4-メチルイミダゾール、2-フェニルイミダゾール、2-フェニル-4-メチルイミダゾール、1-ベンジル-2-メチルイミダゾール、1-ベンジルー2-フェニルイミダゾール」等が広く知られていたことを導くことができる(以下、当該事項を「周知事項」という。)。

4.対比
本願発明と引用発明とを対比する。
まず初めに、引用発明における「相容化樹脂(A1)」と本願発明における「相容化樹脂」とを対比すると、両者は、用いる原料(「一般式(I)で示される末端に水酸基を有するシロキサン樹脂(a)」、「1分子中に少なくとも2個のシアネート基を有する化合物(b)」及び「1分子中に少なくとも2個のエポキシ基を有する化合物(c)」)とそれらの使用量が一致しており、相溶化樹脂を製造する際の反応触媒として用いられる「有機金属塩(d)」も一致しており、得られた相容化樹脂における(b)成分の反応率についても重複一致している。そして、引用発明においては、相容化樹脂(A1)が「トルエン、キシレン及びメシチレンから選ばれる溶媒中で80℃?120℃で反応させることにより製造され」かつ「イミノカーボネート構造及びトリアジン構造を有する」と特定されているところ、本願発明における相容化樹脂について、本願の明細書では「反応に際しては、上記の成分(a)と(b)と(c)の総和100重量部あたりの(a)の使用量を10?50重量部の範囲とし、(b)の使用量を40?80重量部の範囲とし、(c)の使用量を10?50重量部の範囲として、これらを予めトルエン、キシレン、メシチレンから選ばれる溶媒中に均一に溶解し、80℃?120℃の反応温度でイミノカーボネ-ト化反応、及びトリアジン環化反応させ、(b)のシアネート基を有する化合物の反応率(消失率)を30?70mol%となるように反応を行う必要がある。ここで、反応溶媒にはトルエン、キシレン、メシチレンから選ばれる芳香族系溶媒が好ましい。」(段落【0016】)と記載されている。そうすると、引用発明における「相容化樹脂(A1)」と本願発明における「相容化樹脂」とは一致する。
そして、引用発明における「式(II)で示されるトリメトキシシラン化合物により表面処理された溶融シリカ(B)」は本願発明における「式(II)で示されるトリメトキシシラン化合物により表面処理された溶融シリカ」に相当する。
そうすると、両者は、
「(1)下記式(I)で示される末端に水酸基を有するシロキサン樹脂(a)と、1分子中に少なくとも2個のシアネート基を有する化合物(b)と、1分子中に少なくとも2個のエポキシ基を有する化合物(c)とを、反応触媒として有機金属塩(d)を用い、(a)と(b)と(c)の総和100重量部あたりの(a)の使用量を10?50重量部の範囲とし、(b)の使用量を40?80重量部の範囲とし、(c)の使用量を10?50重量部の範囲として、反応させ、(b)のシアネート基を有する化合物の反応率が30?70mol%である相容化樹脂と、
【化1】

(式中R_(1)は各々独立に炭素数1?5の飽和炭化水素基であり、Ar_(1)は各々独立に存在しないか、又は芳香族基であり、mは5から100までの数である)
(2)下記式(II)で示されるトリメトキシシラン化合物により表面処理された溶融シリカと、
【化2】

を必須成分として含有する熱硬化性樹脂組成物。」
である点で一致し、以下の相違点で相違する。

[相違点]
本願発明では「(3)分子構造中にイミダゾール構造を含有する化合物」を含有し、当該「(3)分子構造中にイミダゾール構造を含有する化合物」が「2-メチルイミダゾール、2-ウンデシルイミダゾール、2-ヘプタデシルイミダゾール、1,2-ジメチルイミダゾール、2-エチル-4-メチルイミダゾール、2-フェニルイミダゾール、2-フェニル-4-メチルイミダゾール、1-ベンジル-2-メチルイミダゾール、および1-ベンジル-2-フェニルイミダゾールから選ばれる1種又は2種以上である」と特定するものであるのに対して、引用発明では当該化合物を含有することに関し特に特定されていない点。

5.判断
引用例には、「[0042] 本発明の熱硬化性樹脂組成物には、耐熱性や難燃性、銅箔接着性等の向上化のため硬化促進剤を用いることが望ましく、硬化促進剤の例としては、ナフテン酸亜鉛、ナフテン酸コバルト、オクチル酸錫、オクチル酸コバルト等の有機金属塩、イミダゾール類及びその誘導体、第三級アミン類及び第四級アンモニウム塩等が挙げられる。硬化促進剤を使用することにより、耐熱性や難燃性、銅箔接着性等が不足することがない。」(摘示(1イ))と記載されているから、引用発明において、耐熱性や難燃性、銅箔接着性等の向上化のため、さらに硬化促進剤としてイミダゾール類を添加することが示唆されている。
そうすると、引用発明において、耐熱性や難燃性、銅箔接着性等の向上を目的として、さらに硬化促進剤としてイミダゾール類を所定量配合することは、当業者が容易になし得ることであるといえ、その際に、当該イミダゾール類の具体的なものとして、「2-メチルイミダゾール、2-ウンデシルイミダゾール、2-ヘプタデシルイミダゾール、2-エチル-4-メチルイミダゾール、2-フェニルイミダゾール、2-フェニル-4-メチルイミダゾール、1-ベンジル-2-メチルイミダゾール、1-ベンジルー2-フェニルイミダゾール」等を選択することは、上記周知事項から、当業者が適宜なし得ることにすぎないといえる。
そして、当該イミダゾール類を添加したことによる効果について以下に検討する。
引用例の実施例1?6の記載(摘示(1ウ)?(1エ))と本件明細書の実施例1?6の記載(段落【0035】?【0055】)とを対比すると、両者は2-メチルイミダゾールの有無のみで相違するものであると認められるところ、結果において、銅箔ピール強度、Tg、はんだ耐熱性、線膨張係数、難燃性、T-300、比誘電率及び誘電正接の全ての値が一致しており、2-メチルイミダゾールの有無によりこれらの値が変化するものではないことから、当該イミダゾール類を添加したことによる効果についても格別のものであるとはいえない。

6.小括
以上のとおり、本願の請求項1に係る発明は、その出願前に頒布された刊行物である引用例に記載された発明及び周知技術に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものである。



第5 むすび
以上のとおり、本願の請求項1に係る発明は、その出願前に頒布された刊行物である引用例に記載された発明及び周知技術に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により、特許を受けることができない。
したがって、その他の請求項について更に検討するまでもなく、本願は拒絶されるべきものである。

よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2017-09-08 
結審通知日 2017-09-12 
審決日 2017-10-03 
出願番号 特願2012-58015(P2012-58015)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (C08G)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 大▲わき▼ 弘子  
特許庁審判長 大島 祥吾
特許庁審判官 小野寺 務
堀 洋樹
発明の名称 熱硬化性樹脂組成物、およびこれを用いたプリプレグ、積層板  
代理人 大谷 保  

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