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審決分類 審判 査定不服 1項3号刊行物記載 特許、登録しない。 G01T
審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 G01T
審判 査定不服 特17条の2、3項新規事項追加の補正 特許、登録しない。 G01T
管理番号 1334723
審判番号 不服2016-19438  
総通号数 217 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2018-01-26 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2016-12-26 
確定日 2017-11-16 
事件の表示 特願2012- 99058「PET-MRI装置」拒絶査定不服審判事件〔平成25年11月 7日出願公開、特開2013-228226〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、平成24年4月24日の出願であって、平成28年1月28日付けで拒絶理由が通知され、同年4月4日に意見書及び手続補正書が提出され、同年9月27日付けで拒絶査定されたところ、同年12月26日に拒絶査定不服審判の請求がなされ、同時に手続補正がなされたものである。

第2 平成28年12月26日にされた手続補正についての補正の却下の決定
[補正の却下の結論]
平成28年12月26日にされた手続補正(以下、「本件補正」という。)を却下する。

[理由]
1 補正の内容
(1)本件補正後の特許請求の範囲の記載
本件補正により、特許請求の範囲の請求項1の記載は、次のとおり補正された(下線は、請求人が付与したものであり、補正箇所を示す。以下、本件補正後の請求項1に係る発明を「本件補正発明」という。)。

「【請求項1】
略円筒状のボア内に静磁場を発生させる静磁場磁石と、
前記静磁場磁石の内周側に配置され、前記ボア内に配置された被検体に傾斜磁場を印加する傾斜磁場コイルと、
前記傾斜磁場コイルの内周側に配置され、前記被検体に高周波磁場を印加する高周波コイルと、
前記被検体に投与された陽電子放出核種から放出されるガンマ線を検出するリング状に配置されたPET検出器と、
架台に設けられ、被検体に対する前記PET検出器の有効撮像領域が磁場中心から離れた位置となるように前記PET検出器の少なくとも一部を前記ボアの軸方向に沿って移動させる移動機構と
を備えたことを特徴とするPET-MRI装置。」

(2)本件補正前の特許請求の範囲の記載
本件補正前の、平成28年4月4日付けの手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項1の記載は次のとおりである。

「【請求項1】
略円筒状のボア内に静磁場を発生させる静磁場磁石と、
前記静磁場磁石の内周側に配置され、前記ボア内に配置された被検体に傾斜磁場を印加する傾斜磁場コイルと、
前記傾斜磁場コイルの内周側に配置され、前記被検体に高周波磁場を印加する高周波コイルと、
前記被検体に投与された陽電子放出核種から放出されるガンマ線を検出するリング状に配置されたPET検出器と、
架台に設けられ、前記PET検出器の少なくとも一部を前記ボアの軸方向に沿って移動させる移動機構と
を備えたことを特徴とするPET-MRI装置。」

2 補正の適否
(1) 新規事項について
ア 本件補正の補正事項について
本件補正の補正事項は、以下のとおりである。

(補正事項)「移動機構」が「被検体に対する前記PET検出器の有効撮像領域が磁場中心から離れた位置となるように」移動させるものであることを限定する。

当該補正事項が、願書に最初に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面(以下「当初明細書等」という。)のすべての記載を総合することにより導かれる技術的事項との関係において、新たな技術的事項を導入しないものであるか否かを検討する。

イ 本願の当初明細書等に記載された事項
当初明細書等には、以下の記載がある。
(ア)「【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明が解決しようとする課題は、磁場中心で発生される高電力RF磁場や、発生する磁気共鳴信号を検出する高周波コイルとPET検出器とが干渉することよるデータ収集への影響を抑えることができるPET-MRI装置を提供することである。」

(イ)「【0024】
これに対し、第1の実施形態に係るPET-MRI装置100では、移動機構20によってPET検出器13をボアの軸方向に移動させることで、PET検出器13を磁場中心から離れた位置へ移動することができる。これにより、PET検出器と磁場との干渉によるデータ収集への影響を抑えることができる。また、MRIとPETとを組み合わせた撮像プロトコルを構築するうえでの自由度を増やすことができる。」

(ウ)「【0043】
(第8の実施形態)
図10は、第8の実施形態に係るPET検出器の移動機構の一例を示す図である。図10に示すように、第8の実施形態では、PET検出器13aと、PET検出器13bと、PET検出器13cとを備える。
【0044】
PET検出器13a及び13bは、リング状に形成され、リング内周に検出面を有する。PET検出器13aとPET検出器13bとは、ボアBの軸Zに沿って並べて配置される。PET検出器13aは、移動機構20aによってボアBの軸Z方向に移動され(図10に示す両矢印A1の方向)、PET検出器13bは、移動機構20bによってボアBの軸Z方向に移動される(図10に示す両矢印A2の方向)。これにより、PET検出器13aとPET検出器13bとの間隔が、任意に調整される。
【0045】
また、PET検出器13cは、ボアBの軸Z方向に略垂直な検出面を有する。PET検出器13cは、移動機構20cによって、ボアBの軸Z方向に沿って移動される(図10に示す両矢印A3の方向)。そして、移動機構20cは、ボアBの軸Z方向でPET検出器13aに隣接する位置に移動させる。
【0046】
図11及び12は、第8の実施形態におけるPET-MRI装置の有効撮像領域の一例を示す図である。なお、図11及び12では、PET検出器とボアカバー19とを示し、他の構成要素については図示を省略している。
【0047】
図11は、PET検出器13c(図示せず)をPET検出器13aから離した場合の有効撮像領域を示している。この場合には、PET検出器13aの内周面で囲まれた領域31と、PET検出器13bの内周面で囲まれた領域32と、PET検出器13aの内周面とPET検出器13bの内周面との間に形成される領域33とが、それぞれPET画像を撮像可能な有効撮像領域となる。なお、図11に示す直線34は、ボアBの軸方向における中央の位置を示しており、球状の領域35は、MR画像の有効撮像領域である。
【0048】
図12は、PET検出器13cをPET検出器13aに隣接させた場合の有効撮像領域を示している。この場合には、図11に示した領域31?33に加えて、PET検出器13cの検出面とPET検出器13aの内周面との間に形成される領域36と、PET検出器13cの検出面とPET検出器13bの内周面との間に形成される領域37とが、さらにPET画像を撮像可能な有効撮像領域となる。
【0049】
図11及び12からも明らかなように、PET検出器13cをPET検出器13aに隣接させることで、PET検出器13aの内側で被検体Pから放出されるガンマ線の検出確率を向上させることができる。これにより、PET検出器13aの内側におけるPET画像の空間分解能を向上させることが可能になる。なお、図11及び12では、PET検出器13aの内側に被検体Pの頭部を配置させた場合の例を示しているが、被検体Pの足部を配置させた場合も同様の効果が得られる。すなわち、PET検出器13cをPET検出器13aに隣接させた撮像は、被検体Pの端部を撮像する場合に好適である。」

(エ)図11は以下のようなものである。


図11から、「PET画像を撮像可能な有効撮像領域」のうちの「PET検出器13bの内周面で囲まれた領域32と、PET検出器13aの内周面とPET検出器13bの内周面との間に形成される領域33」は、「MR画像の有効撮像領域」である「球状の領域35」のほぼ中心、すなわち、「磁場中心」と重なっていることが、読み取れる。

(オ)図12は以下のようなものである。


図12からも、上記(エ)と同様の記載が読み取れる。

ウ 判断
(ア)本件補正発明に含まれる構成
本件補正後の請求項1には、PET検出器の数は限定されていないことから、本件補正発明には、PET検出器が1つのものである第1の実施形態(【0008】-【0025】、図1、2)から、3つのPET検出器を備える第8の実施形態(【0043】-【0049】、図11-12)まで、複数の実施形態のものが含まれている。
すなわち、本件補正発明には、第8の実施形態において、「被検体に対する前記PET検出器の有効撮像領域が磁場中心から離れた位置となるように」移動させる構成、例えば、図11-12の構成においてPET検出器13bをボアの軸方向中心位置を示す直線34よりも左側に移動させる(当然にPET検出器13a、13cはPET検出器13bよりもさらに左側に移動させる)こと、が含まれている。

(イ)当初明細書等には、「PET検出器の有効撮像領域」が「磁場中心から離れた位置」となるようにを移動させることの直接的な記載はない。

(ウ)当初明細書等で「PET検出器の有効撮像領域」に関する直接的な記載があるのは、【0046】-【0049】段落及び図11-12のみである。
この【0046】-【0049】段落及び図11-12は、第8の実施形態についての記載であって、PET検出器が3つのものを前提とする。この第8の実施形態のようにPET検出器が複数である場合には、「PET検出器の位置」と「PET検出器の有効撮像領域」の位置とは、例えば図11-12に開示されているように、一致しない。
そして、図11-12には、上記イ(エ)及び(オ)で説示したように、PET検出器の有効撮像領域が磁場中心と重なることが開示されており、また、【0044】段落には第8の実施形態において「PET検出器13aとPET検出器13bとの間隔が、任意に調整される」と記載されているが、PET検出器13aとPET検出器13bとの「間隔を調整」することと、「PET検出器の有効撮像領域」を「磁場中心から離れた位置」に移動させることとは、別の技術的事項である。
したがって、第8の実施形態において、「被検体に対する前記PET検出器の有効撮像領域が磁場中心から離れた位置となるように」移動させるものは、第8の実施形態に関する記載箇所である【0043】-【0049】段落及び図10-12の記載から導かれるものであるとはいえない。

(エ)当初明細書等で「磁場中心から離れた位置」に移動させることに関する直接的な記載があるのは、【0024】段落のみである。
この【0024】段落は、第1の実施形態についての記載であって、PET検出器が1つの構成を前提とする。この第1の実施形態のようにPET検出器が1つの場合には、PET検出器の位置とPET検出器の有効撮像領域とは一致する。
したがって、PET検出器が1つのものである第1の実施形態では、PET検出器の位置を磁場中心から離れた位置となるように移動することで、結果的に、「PET検出器の有効撮像領域が磁場中心から離れた位置となるように」移動している。

しかしながら、【0024】段落の「PET検出器を磁場中心から離れた位置へ移動する」との記載から、「PET検出器の有効撮像領域が磁場中心から離れた位置となるように移動させる」との技術的事項が導かれるのは、PET検出器が1つであることを前提とする場合であって、第8の実施形態のようなPET検出器の配置を前提にすると、【0024】段落の上記記載から「PET検出器の有効撮像領域が磁場中心から離れた位置となるように移動させる」との技術的事項は導かれない。

したがって、第8の実施形態において、「PET検出器の有効撮像領域を磁場中心から離れた位置となるように」移動させることは、【0024】段落の記載を考慮しても、第8の実施形態に関する記載箇所である【0043】-【0049】段落及び図10-12の記載から導かれるものであるとはいえない。

なお、第8の実施形態においても、図11-12に開示されているように、「PET検出器」自体は、「磁場中心から離れた位置となるように」移動されていると認められる。

(オ)してみると、本件補正発明に含まれる、第8の実施形態において、「被検体に対する前記PET検出器の有効撮像領域が磁場中心から離れた位置となるように」移動させることは、当初明細書等に記載されたものとは認められない。

(カ)小括
したがって、上記補正事項について、当該事項が、当初明細書等のすべての記載を総合することにより導かれる技術的事項との関係において、新たな技術的事項を導入しないものとはいえず、当該補正事項を含む平成28年12月26日付けの手続補正書でされた請求項1に関する手続補正は、当初明細書等に記載した事項の範囲内においてしたものでないから、特許法第17条の2第3項に規定する要件を満たしていない

(2) 補正の目的及び独立特許要件について
「被検体に対する前記PET検出器の有効撮像領域が磁場中心から離れた位置となるように」との限定が追加された本件補正発明が、第8の実施形態のようなPET検出器を複数個備えるものは除外されるものであると解する余地があるところ、このように解すると、本件補正は、上記(1)で示した新規事項の追加に該当せず、特許法第17条の2第3項に規定する要件を満たしているものとなる。
本件補正は、補正前に請求項1に記載した発明を特定するために必要な事項である「移動機構」について、「被検体に対する前記PET検出器の有効撮像領域が磁場中心から離れた位置となるように」移動させるものであるとの限定を付加するものであって、本件補正前の請求項1に記載された発明と本件補正後の請求項1に記載された発明との産業上の利用分野及び解決しようとする課題が同一であるから、特許法第17条の2第5項第2号の特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。
そこで、本件補正発明が特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか否か(特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項の規定に適合するか否か)について以下に検討する。

ア 本件補正発明
本件補正発明は、上記1(1)に記載したとおりのものである。
本件補正発明は、以下のとおり、当審にて分節しA)?F)の見出しを付けた。

「【請求項1】
A) 略円筒状のボア内に静磁場を発生させる静磁場磁石と、
B) 前記静磁場磁石の内周側に配置され、前記ボア内に配置された被検体に傾斜磁場を印加する傾斜磁場コイルと、
C) 前記傾斜磁場コイルの内周側に配置され、前記被検体に高周波磁場を印加する高周波コイルと、
D) 前記被検体に投与された陽電子放出核種から放出されるガンマ線を検出するリング状に配置されたPET検出器と、
E) 架台に設けられ、被検体に対する前記PET検出器の有効撮像領域が磁場中心から離れた位置となるように前記PET検出器の少なくとも一部を前記ボアの軸方向に沿って移動させる移動機構と
F) を備えたことを特徴とするPET-MRI装置。」

イ 引用例の記載事項
(ア) 引用文献1に記載された事項
原査定の拒絶の理由に引用され、本願出願前に頒布された刊行物である引用文献1(特開2011-185796号公報)には、以下の記載がある(下線は、当審で付した。以下同様。)。

(引1a)「【0001】
本発明は、PET/MRI装置及びPET装置に係り、特に、短時間でPET画像とMRI画像をほぼ同時に取得することが可能なPET/MRI装置、及び、測定対象とPET検出器を近接させて高感度化を図ることが可能なPET装置に関する。
・・・
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、前記従来の問題点を解決するべくなされたもので、短時間でPET画像とMRI画像をほぼ同時に取得できるようにすることを第1の課題とする。
【0008】
本発明は、又、PET検出器の高感度化を図ることを第2の課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、測定ポートを有するMRI装置と、前記測定ポートに挿入できるPET検出器から構成され、PET検出器をMRI測定ポート内外へスライドして移動できる機構を備え、PET測定中にMRI測定が可能とされていることを特徴とするPET/MRI装置により、前記第1の課題を解決したものである。」

(引1b)「【0047】
本発明の第1実施形態は、図2(概要を示す斜視図)、図3(a)(正面図)及び(b)(側面から見た断面図)に示す如く、測定ポート(ここでは患者ポート)302を有するMRI装置300と、前記患者ポート302の内径より小さな外径を有し、該患者ポート302内を測定対象(ここでは患者)10と共に移動可能な、MRI装置300の有効測定視野(MRI視野と称する)Mよりも広い有効測定視野(PET視野と称する)Pを有するPET検出器210とを備えることにより、PET測定中にMRI測定を可能としたものである。図において、24は、患者10を保護するためのクッション、304は、MRI装置300用のRFコイルである。RFコイル304の患者背中側の部分は、クッション24と一体化していても良い。
【0048】
前記MRI視野Mは、静磁場が安定する領域で決まり、一般的には30?40cm程度であるが、PET視野Pを拡張することによって、PET測定の感度を高めることができる。その結果、MRI測定時間と同程度のPET測定時間でも、十分な画質のPET画像を得ることができる。
【0049】
前記PET検出器210としては、MRIの磁場環境下でも安定に動作するもの、例えば、シンチレータブロックの底面にAPDを配置したものや、発明者らが特開2009-121929号公報やY. Yazaki、 H. Murayama、 N. Inadama、 A. Ohmura、 H. Osada、 F. Nishikido、 K. Shibuya、 T. Yamaya、 E. Yoshida、 T. Moriya、 T. Yamashita、 H. Kawai、 “Preliminary study on a new DOI PET detector with limited number of photo-detectors、 ”The 5th Korea-Japan Joint Meeting on Medical Physics、 Sept 10-12、 2008、 Jeju、 Korea、 YI-R2-3、 2008.で提案した、小さなシンチレータ素子の3次元配列の表面に3次元的に半導体受光素子を配置したDepth-of-Interaction(DOI)検出器を用いることができる。DOI検出器を使えば、近接化させても分解能の低下は抑えられる。近接化させると、角度揺動による分解能劣化も低減されるほか、立体角も増え、比較的少ない数の検出器でも感度を高めることができる。
【0050】
本実施形態において、前記PET検出器210は、ベッド20と一体化されている。即ち、PET検出器210の一部がベッドとしての機能も兼ねている。PET検出器を最も患者に近づけることができることにより、立体角を大として感度を向上し、測定を短時間に行なうことができる。
【0051】
前記RFコイル304は、PET視野Pと同様に、体軸視野をほぼカバーするように設置されている。このRFコイル304は、患者10に近付けた方が信号のS/N比が高まることに加え、PET検出器210からの電気的ノイズ等を避けるためにも、PET検出器210より内側(内径内)に設置する。なお、消滅放射線はRFコイルを透過し易いため、RFコイル304の存在がPET測定に与える影響は限られる。
【0052】
なお、ベッド移動装置22によるベッド20の移動速度は、一定でも良いし、ステップバイステップでも良い。
【0053】
MRI測定開始時の状態を図4(a)に、同じくMRI測定終了時の状態を図4(b)に示す。図4の場合、ベッド移動速度Vbは、一定速度の場合、Vb=(P-M)/Tmとなる。ここでTmはMRI測定時間である。
【0054】
できる限りPET測定時間Tpを長くしてデータ収集時間を長くすることで、PETの画質を高めたい場合の処理手順を図5(a)に示す。また、PET測定を、MRI測定の開始直前に開始しMRI測定の終了直後に終了することで、またはPETの画像再構成処理において、MRI測定の開始直前からMRI測定の終了直後までに収集したPETデータを使用することで、PET測定時間とMRI測定時間をほぼ等しくして、PET測定とMRI測定の同時性を確保したい場合の処理手順を図5(b)に示す。息止め撮影を行う場合は、図5(b)が望ましい。
【0055】
タイムチャートを図6に示す。ベッド位置は、ベッド前後の端位置をプロットしている。ここで、PET薬剤は、事前に患者に投与されているとする。FDG-PETであれば通常1時間前に投与する。
【0056】
図6において、PET測定時間の最大値Tpmaxは、PET検出器210の装着が終ってから、PET検出器210の取り外し又は移動を行なうまでの時間差を示す。
【0057】
実際のTpは、次式の間で決めることができる。
Tm≦Tp≦Tpmax …(1)
【0058】
図5(a)の手順では、TpがTpmaxに近くなり、図5(b)の手順では、TpがTmに近くなる。
【0059】
なお、MRI測定開始位置やMRI測定終了位置は、必ずしもMRI視野Mの両端である必要は無い。例えば図7に示す変形例の如く、良好な磁場が形成されているMRI視野の中央を、それぞれMRI測定開始位置やMRI測定終了位置としても良い。
【0060】
更に、MRI測定中のベッドのスライドは、一定速度で無く、ステップバイステップでも良い。
【0061】
更に、図6や図7では、MRI測定がベッドの片道移動中に行われていたが、図8に示す他の変形例の如く、往復移動の両方でMRI測定を行なっても良い。この場合、行きのMRI測定1と帰りのMRI測定2は同一シーケンスでも良いが、例えばMRI測定1はT1強調、MRI測定2はT2強調とするなど、異なるシーケンスを組合せても良い。
【0062】
なお、前記第1実施形態においては、PET検出器210が測定対象の長手方向、ここでは、患者10の体軸方向に一様な構成とされていたが、図9(a)に示す第2実施形態の如く、頭部用PET検出器212と体幹部である胴体用PET検出器214で分けても良い。第2実施形態の具体例の側面から見た断面図を図9(b)に、PET検出器の胴体部と頭部の横断面図を図10(a)(b)に示す。なお、胴体部のPET検出器の断面形状は円形でもよいが、ここでは楕円形としている。
【0063】
本実施形態においては、頭部用PET検出器212と胴体用PET検出器214がベッド20に固定されており、ベッド移動装置22により、患者10と一体的に水平方向に移動可能とされている。
【0064】
ここで、頭部用PET検出器212と胴体用PET検出器214の間でも同時計数測定を行うようにすれば、頭部用PET検出器212と胴体用PET検出器214の境界付近で再構成画像の精度が低下することは無い。
【0065】
頭部用検出器212と胴体用検出器214の間は、発明者らがWO2009/133628A1で提案した開放型PET装置の手法で空けても良いが、図9のように隙間を空けない場合、PET視野Pは、頭部視野H+胴体視野Bとなる。
【0066】
RFコイルは、送受信兼用、又は、送信専用、又は受信専用とすることができる。RFコイルとPET検出器は別体でも良いが、図10に示すようにPET検出器と一体化する場合、以下のような組み合わせが可能である。
・送受信兼用RFコイルをPET検出器内側に一体化する。
・送信用RFコイルのみをPET検出器内側に一体化し、受信用RFコイルは患者を覆うように別途設置する。
・送信用RFコイルをMRI装置本体に内蔵し、受信側RFコイルのみをPET検出器内側に一体化する。
【0067】
図10において、218はカバー、312は頭部用RFコイル、314は胴体用RFコイルである。
【0068】
第2実施形態を変形させた第3実施形態の具体例の正面図を図11(a)に、側面から見た断面図を図11(b)に示す。
【0069】
本実施形態においては、頭部用PET検出器212がベッド20に固定される一方、胴体用PET検出器214は、PET検出器移動装置220によりベッド20とは独立に水平方向に移動可能とされている。図において、320は患者ポート302内でPET検出器214を支持するローラである。
【0070】
なお、MRI装置300の患者ポート302内で頭部用PET検出器212と胴体用PET検出器214の中心位置がずれるので、ベッド移動装置22にベッド上下機構26を設けて、頭部用PET検出器212及び頭部用RFコイル312を、患者10と共に上下移動及びスライド移動可能とすることができる。一方、胴体用PET検出器214及び胴体用RFコイル314は、水平方向のスライド移動のみで上下移動は不要である。」

(引1c)図5は、以下のようなものである。


図5(a)から、患者のセッティングとRFコイル及びPET検出器の装着の後、PET測定を開始してから、MRI測定開始位置にベッドをスライド移動させて、MRI測定を行ない、MRI測定が終了したら、ベッドを初期位置にスライド移動させてから、PET測定を終了させ、PET検出器の取り外し又は移動を行なうことが読み取れる。

(引1d)図6は、以下のようなものである。


図6から、ベッド初期位置において、PET視野PがMRI視野Mから離れた位置にあることが読み取れる。

(引1e)図10は、以下のようなものである。


図10(b)から、頭部用PET検出器212の断面形状はほぼ円形であることが読み取れる。

(引1f)図11は、以下のようなものである。


図11(b)から、PET検出器移動装置220は、MRI装置300に隣接して設けられていることが読み取れる。


(イ) 引用文献1の記載から把握できる事項
a (引1b)の【0066】段落における「MRI装置本体」は、「MRI装置300」((引1b)の【0047】段落等)を指していることは明らかであるから、「MRI装置300」と読み替える。
b (引1d)の図6における「ベッド初期位置」は、(引1c)の図5における「初期位置」を指していることは明らかであるから、「初期位置」と読み替える。
c (引1a)の【0009】段落における「測定ポート」及び「MRI測定ポート」は、同一のものを指していることは明らかであるから、「MRI測定ポート」に統一して読み替える。
d (引1b)の【0062】段落における「胴体部のPET検出器」は、同段落の「胴体用PET検出器214」を指していることは明らかであるから、「胴体用PET検出器214」と読み替える。
e (引1f)の図11に示された第3実施形態のPET/MRI装置において、(引1c)の図5(a)及び(引1d)の図6に開示された処理フローでPET測定とMRI測定とを実行する場合には、図5(a)の「ベッドを初期位置にスライド移動」させるステップは、「ベッド及び胴体用PET検出器214を初期位置にスライド移動」させるステップと読み替えるべきであることは明らかであるから、そのように読み替える。

(ウ) 引用文献1に記載された発明
上記(引1a)-(引1f)の下線部の事項に、上記(イ)での検討を加えて整理すると、引用文献1には、以下の発明(以下、「引用発明」という)が記載されている。
なお、引用発明の認定の根拠となった対応する段落番号等を付記した。

「MRI測定ポートを有するMRI装置と、前記測定ポートに挿入できるPET検出器から構成され、PET検出器をMRI測定ポート内外へスライドして移動できる機構を備え、PET測定中にMRI測定が可能とされていることを特徴とするPET/MRI装置であって(【0009】、上記(イ)c)、
送信用RFコイルをMRI装置300に内蔵し(【0066】、上記(イ)a)、
PET検出器210は、頭部用PET検出器212と体幹部である胴体用PET検出器214で分けられており(【0062】)、
胴体用PET検出器214の断面形状は円形でも楕円形でもよく(【0062】、上記(イ)d)、
頭部用PET検出器212の断面形状はほぼ円形であり(図10)、
できる限りPET測定時間Tpを長くしてデータ収集時間を長くすることで、PETの画質を高めたい場合には、患者のセッティングとRFコイルの装着及びPET検出器の装着の後、PET測定を開始してから、MRI測定開始位置にベッドをスライド移動させて、MRI測定を行ない、MRI測定が終了したら、ベッド及び胴体用PET検出器214を初期位置にスライド移動させてから、PET測定を終了させ、PET検出器の取り外し又は移動を行い(【0054】、図5(a)、上記(イ)e)、
ここで、初期位置において、PET視野PがMRI視野Mから離れた位置にあり(図6、上記(イ)b)、
胴体用PET検出器214は、PET検出器移動装置220によりベッド20とは独立に水平方向に移動可能とされており(【0069】)、
PET検出器移動装置220は、MRI装置300に隣接して設けられている(図11)、
PET/MRI装置」

ウ 引用発明との対比
(ア) A)、B)、F)について
引用発明の「MRI測定ポート」は、本件補正発明の「略円筒状のボア」に相当する。
そして、引用発明の「MRI測定ポートを有するMRI装置」が、本件補正発明の「略円筒状のボア内に静磁場を発生させる静磁場磁石と、前記静磁場磁石の内周側に配置され、前記ボア内に配置された被検体に傾斜磁場を印加する傾斜磁場コイルと」に相当する構成をさらに備えていることは、当業者に明らかである。
また、引用発明の「MRI/PET装置」は、本件補正発明の「PET-MRI装置」に相当する。

(イ) C)について
引用発明の「MRI装置本体に内蔵」された「送信用RFコイル」は、通常、MRI装置における最も内周側に設けられる部材であるから、本件補正発明の「前記傾斜磁場コイルの内周側に配置され、前記被検体に高周波磁場を印加する高周波コイル」に相当する。

(ウ) D)について
引用発明の「PET検出器210」が、「被検体に投与された陽電子放出核種から放出されるガンマ線を検出する」ことは、当業者に明らかである。
そして、引用発明の「胴体用PET検出器214の断面形状は円形でも楕円形でもよく、頭部用PET検出器212の断面形状はほぼ円形であ」ることは、本件補正発明の「PET検出器」が「リング状に配置され」ていることに相当する。
したがって、引用発明の「断面形状は円形でも楕円形でもよ」い「胴体用PET検出器214」と、「断面形状はほぼ円形であ」る「頭部用PET検出器212」とからなる「PET検出器210」は、本件補正発明の「前記被検体に投与された陽電子放出核種から放出されるガンマ線を検出するリング状に配置されたPET検出器」に相当する。

(エ) E)について
a 「架台に設けられ」「PET検出器」を「移動させる移動機構」について
引用発明の「MRI装置300」が「MRI装置」における本件補正発明の「架台」に相当し、「MRI装置300に隣接して設けられ」ている「PET検出器移動装置220」が「PET装置」における本件補正発明の「架台」に相当する。
してみれば、引用発明の「PET/MRI装置」において、「MRI装置300」及び「MRI装置300に隣接して設けられ」ている「PET検出器移動装置220」が、本件補正発明の「PET-MRI装置」における「架台」に相当するといえる。
したがって、引用発明の「PET検出器移動機構220」が「MRI装置300に隣接して設けられ」ていることは、本件補正発明の「移動機構」が「架台に設けられ」ていることに相当する。

b 「被検体に対する前記PET検出器の有効撮像領域が磁場中心から離れた位置となるように前記PET検出器の少なくとも一部を前記ボアの軸方向に沿って移動させる移動機構」について
(a) 「被検体に対する前記PET検出器の有効撮像領域が磁場中心から離れた位置」について
引用発明の「PET視野P」が、本件補正発明の「被検体に対するPET検出器の有効撮像領域」に相当する。
そして、磁場中心がMRI視野内に含まれていることは明らかであるから、引用発明の「PET視野PがMRI視野Mから離れた位置にあ」る「初期位置」は、本件補正発明における「被検体に対する前記PET検出器の有効撮像領域が磁場中心から離れた位置」に相当する。

(b) 「前記PET検出器の少なくとも一部を前記ボアの軸方向に沿って移動させる移動機構」について
引用発明の「胴体用PET検出器214」は、本件補正発明の「前記PET検出器の少なくとも一部」に相当し、また、引用発明において、「水平方向に移動可能とされて」いる「胴体用PET検出器214」の移動方向が、「MRI測定ポート」の軸方向に沿っていることは、明らかである。
したがって、引用発明の「胴体用PET検出器214」を「水平方向に移動」させることは、本件補正発明の「前記PET検出器の少なくとも一部を前記ボアの軸方向に沿って移動させる」ことに相当する。

(c) 上記(a)、(b)から、引用発明の「PET視野PがMRI視野Mから離れた位置にあ」る「初期位置」に「胴体用PET検出器214」を「水平方向に移動」させる「PET検出器移動装置220」は、本件補正発明の「被検体に対する前記PET検出器の有効撮像領域が磁場中心から離れた位置となるように前記PET検出器の少なくとも一部を前記ボアの軸方向に沿って移動させる移動機構」に相当する。

c 構成E)について、まとめ
したがって、上記a、bから、引用発明の「MRI装置300に隣接して設けられ」、「PET視野PがMRI視野Mから離れた位置にあ」る「初期位置」となるように、「胴体用PET検出器214」を「水平方向に移動」する「PET検出器移動装置220」は、本件補正発明の「架台に設けられ、被検体に対する前記PET検出器の有効撮像領域が磁場中心から離れた位置となるように前記PET検出器の少なくとも一部を前記ボアの軸方向に沿って移動させる移動機構」に相当する。

(オ) 上記(ア)-(エ)から、本件補正発明と引用発明とは、以下の点で一致し、相違点はない。

「略円筒状のボア内に内に静磁場を発生させる静磁場磁石と、
前記静磁場磁石の内周側に配置され、前記ボア内に配置された被検体に傾斜磁場を印加する傾斜磁場コイルと、
前記傾斜磁場コイルの内周側に配置され、前記被検体に高周波磁場を印加する高周波コイルと、
前記被検体に投与された陽電子放出核種から放出されるガンマ線を検出するリング状に配置されたPET検出器と、
架台に設けられ、被検体に対する前記PET検出器の有効撮像領域が磁場中心から離れた位置となるように前記PET検出器の少なくとも一部を前記ボアの軸方向に沿って移動させる移動機構と
を備えたPET-MRI装置」

エ 小括
よって、本件補正発明は、引用発明である。
したがって、本件補正発明は、特許法第29条第1項第3号の規定により、特許出願の際に独立して特許を受けることができないものである。

なお、仮に、本件補正発明の構成E)の「前記PET検出器の有効撮像領域が磁場中心から離れた位置」について、【0024】段落の記載のとおり「前記PET検出器が磁場中心から離れた位置」の誤記であり、そのように解釈すべきものであったとしても、以下に検討するように、本件補正発明は、引用発明である。
すなわち、引用発明において、「PET視野P」の領域は、「頭部用PET検出器212」の頭側端から「胴体用PET検出器213」の足側端までの領域に一致することは、例えば、(引1f)の図11から明らかである。
したがって、上記ウ(エ)b(a)で検討したことと同様に、引用発明の「PET視野PがMRI視野Mから離れた位置にあ」る「初期位置」は、本件補正発明の「PET検出器が磁場中心から離れた位置」に相当する。

3 本件補正についてのむすび
以上のとおり、本件補正は、特許法第17条の2第3項又は特許法第17条の2第6項において準用する同法126条第7項の規定に違反してなされたものであるから、同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。
よって、上記補正の却下の決定の結論のとおり決定する。


第3 本願発明について
1 本願発明
平成28年12月26日付けの手続補正は、上記のとおり却下されたので、本願の請求項1-11に係る発明は、平成28年4月4日付けの手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項1-11に記載された事項により特定されるものであるところ、その請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)は、上記第2[理由]1(2)に記載のとおりのものである(再掲すれば、次のとおり。)。

「【請求項1】
略円筒状のボア内に静磁場を発生させる静磁場磁石と、
前記静磁場磁石の内周側に配置され、前記ボア内に配置された被検体に傾斜磁場を印加する傾斜磁場コイルと、
前記傾斜磁場コイルの内周側に配置され、前記被検体に高周波磁場を印加する高周波コイルと、
前記被検体に投与された陽電子放出核種から放出されるガンマ線を検出するリング状に配置されたPET検出器と、
架台に設けられ、前記PET検出器の少なくとも一部を前記ボアの軸方向に沿って移動させる移動機構と
を備えたことを特徴とするPET-MRI装置。」

2 引用刊行物
原査定の拒絶の理由で引用された引用文献1、その記載事項及び引用発明は、上記第2[理由]2(2)イに記載したとおりである。

3 判断
本願発明は、前記第2[理由]2(2)で検討した本件補正発明から、「移動機構」に係る限定事項である「被検体に対する前記PET検出器の有効撮像領域が磁場中心から離れた位置となるように」を削除したものである。
そうすると、本願発明の発明特定事項を全て含み、さらに他の事項を付加したものに相当する本件補正発明は、上記理由2[理由]2(2)ウ、エに記載したとおり、引用発明であるから、本願発明も、同様の理由により、引用発明である。

4 むすび
以上のとおり、本願発明は、特許法第29条第1項第3号の規定により特許を受けることができないから、他の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本願は拒絶されるべきである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2017-09-15 
結審通知日 2017-09-19 
審決日 2017-10-02 
出願番号 特願2012-99058(P2012-99058)
審決分類 P 1 8・ 575- Z (G01T)
P 1 8・ 113- Z (G01T)
P 1 8・ 561- Z (G01T)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 亀澤 智博  
特許庁審判長 伊藤 昌哉
特許庁審判官 松岡 智也
信田 昌男
発明の名称 PET-MRI装置  
代理人 特許業務法人虎ノ門知的財産事務所  

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