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審決分類 審判 査定不服 1項3号刊行物記載 特許、登録しない。 C08L
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 C08L
管理番号 1334751
審判番号 不服2016-11442  
総通号数 217 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2018-01-26 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2016-07-29 
確定日 2017-11-13 
事件の表示 特願2014-556538「複合ポリマー」拒絶査定不服審判事件〔平成25年 8月22日国際公開、WO2013/122653、平成27年 3月 5日国内公表、特表2015-507059〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、平成24年11月29日(パリ条約による優先権主張外国庁受理2012年2月14日、アメリカ合衆国)を国際出願日とする特許出願であって、平成26年7月18日に特許法第184条の5第1項に規定する国内書面が提出され、同年9月9日に同法第184条の4第1項に規定する明細書、請求の範囲及び要約書の翻訳文が提出され、平成27年6月4日付けで拒絶理由が通知され、同年12月1日に意見書とともに手続補正書が提出されたが、平成28年4月1日付けで拒絶査定がされ、これに対して、同年7月29日に拒絶査定不服審判が請求されると同時に手続補正書が提出されたが、同年9月5日付けで前置報告がなされたものである。

第2 補正の却下の決定
[補正の却下の決定の結論]
平成28年7月29日付けの手続補正を却下する。
[理由]
1.手続補正の内容
平成28年7月29日付けの手続補正(以下、「本件手続補正」という。)の内容は、特許請求の範囲の記載を補正するものであって、本件手続補正前の平成27年12月1日付け手続補正書により補正された特許請求の範囲の請求項1である、
「【請求項1】
10?50重量%の木材パルプ繊維と45?85重量%の熱可塑性ポリマーとを含み、溶融加工されたペレットの形態の組成物であって、該組成物は、40℃においてバッグ中で検出される希釈レベルが、ASTM E679によって決定される場合、450に等しいかまたはそれ未満である、上記組成物。」を、
「【請求項1】
10?50重量%の漂白化学木材パルプ繊維と45?85重量%の熱可塑性ポリマーとを含む、溶融加工されたペレットの形態の組成物であって、
該組成物は、40℃においてバッグ中で検出される希釈レベルが、ASTM E679によって決定される場合、450に等しいかまたはそれ未満である、上記組成物。」とする補正を含むものである。(下線は補正部分を示す。)

2.補正の適否
(1)補正の目的・新規事項の有無について
本件手続補正は、特許請求の範囲の請求項1については、本件手続補正前の特許請求の範囲の請求項1に係る発明の発明特定事項である「木材パルプ繊維」を、「漂白化学木材パルプ繊維」に限定して、特許請求の範囲を限定的に減縮するものであり、しかも、本件手続補正前の特許請求の範囲の請求項1に記載された発明と本件手続補正後の特許請求の範囲の請求項1に記載される発明の産業上の利用分野及び解決しようとする課題は同一である。
したがって、本件手続補正は、特許請求の範囲の請求項1については、特許法第17条の2第5項第2号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。
また、上記本件手続補正は、願書に最初に添付した明細書(以下、「当初明細書」という。)の段落【0004】等の記載に基づくものであるから、当初明細書に記載した事項の範囲内でしたものであることが明らかである。
よって、本件手続補正は、特許法第17条の2第5項第2号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とするものであり、同法同条第3項に規定する要件を満たすものである。

(2)独立特許要件について
ア.はじめに
上記のとおり、本件手続補正は、特許請求の範囲の減縮を目的とするものを含むものであるので、次に、以下のとおりに特定される、本件手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項1に係る発明(以下、「補正発明」という。)が、特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項に規定する要件(いわゆる、独立特許要件)を満足するか否かについて、以下に検討する。
「【請求項1】
10?50重量%の漂白化学木材パルプ繊維と45?85重量%の熱可塑性ポリマーとを含む、溶融加工されたペレットの形態の組成物であって、
該組成物は、40℃においてバッグ中で検出される希釈レベルが、ASTM E679によって決定される場合、450に等しいかまたはそれ未満である、上記組成物。」

イ.刊行物1及びその記載事項
原査定の拒絶の理由で引用され、本願の優先日前に頒布された下記の刊行物(以下、「刊行物1」という(原審での引用文献1)。)には、以下の記載がされている(下線は当審による。)。
刊行物1:特開2011-116838号公報

(ア)「【請求項1】
熱可塑性樹脂とセルロースとを、回転羽根が配設されてなる回転軸が備えられた撹拌室を有するバッチ式密閉型混練装置で溶融混合するセルロース含有熱可塑性樹脂の製造方法において、セルロースが乾式解繊機により解繊された繊維状セルロースであり、溶融混合時の撹拌室内部の温度が150?370℃で、撹拌室内部の圧力が0.20MPa以上で飽和水蒸気圧までの間にあり、かつ、回転軸の回転トルクが最小値に達し上昇に転じた直後に、溶融混合を停止することを特徴とするセルロース含有熱可塑性樹脂の製造方法。
・・・
【請求項4】
セルロースと熱可塑性樹脂との質量比が10/90?70/30である請求項1記載のセルロース含有熱可塑性樹脂の製造方法。
【請求項5】
請求項1?4のいずれか1項に記載のセルロース含有熱可塑性樹脂の製造方法で作製されてなるセルロース含有熱可塑性樹脂。」(請求項1ないし5)

(イ)「【0007】
・・・
【特許文献5】国際公開第2004/076044号パンフレット
【特許文献6】特開2008-93831号公報
・・・
【0009】
一方、特許文献5には、高速混練装置を用いたセルロース含有熱可塑性樹脂の製造方法が開示されているが、そこで用いるセルロース系材料は含水率等の事前の調整をする必要がなく、単に小片化または細片化されていればよい旨記載されている。しかし、特許文献5に記載されているセルロース含有熱可塑性樹脂の製造方法では、熱可塑性樹脂中に分散しているセルロース材料の形状、大きさのばらつきの幅が大きく、そのセルロース含有熱可塑性樹脂を含有してなる成形体の、特に強度特性のばらつきが大きくなってしまう上、成形時にかかる熱によりセルロース系材料がダメージを受け、成形体が茶色く変色したり、焦げ臭い異臭を放つことがある。さらに、成形体を粉砕し、再度成形材料として使用すると、再び含有するセルロースに熱がかかるため、セルロースの劣化が起こるとともに、変色、異臭がさらに強くなってしまう。
【0010】
また、特許文献6に記載の射出成形用樹脂の製造方法では、繊維状セルロースとしては、リグニンを含有した植物片でなければならない。そのため、成形品の色が木質的なものとなってしまう上、成形時の加熱により、含有する植物片が焦げやすく、臭気が発生しやすい。さらに、特許文献7においては、セルロースナノファイバーにまで繊維状セルロースをミクロフィブリル化するには、摩擦機、グラインダー等で多くの時間をかけて処理する必要がある上、得られたセルロースナノファイバーは水分散体のため、溶融混合に非常に時間がかかってしまう。
・・・
【0012】
そこで、本発明の課題は、繊維状セルロースの取り扱いが容易で、成形時の加熱により成形体が変色したり、臭気を発生することがなく、さらに、繊維状セルロースと熱可塑性樹脂との界面における親和性が良好であるため、外観もよく、成形体の強度特性が良好であり、かつ、再成形可能な、すなわちリサイクル性のあるセルロース含有熱可塑性樹脂の製造方法、セルロース含有熱可塑性樹脂およびその成形体を提供することである。
・・・
【0015】
本発明のセルロース含有熱可塑性樹脂の製造方法で作製したセルロース含有熱可塑性樹脂は、セルロースが熱可塑性樹脂中に非常に均一に分散しており、さらに両者の親和性が良好であるため、成形体となしたときに、強度特性が良好で、歪が生じにくい上、変色、異臭の発生がない。さらに、得られた成形体を再度粉砕して、成形用材料として再成形処理をしても、本発明の製造方法で製造したセルロース含有熱可塑性樹脂では、含有するセルロースの熱劣化がほとんど起こらず、均一性も維持されるため、成形体強度の低下および成形体の変色を起こさない。」(段落【0007】ないし【0015】)

(ウ)「【0019】
本発明で用いるバッチ式密閉型混練装置とは、具体的には、(株)エムアンドエフ・テクノロジー製の国際公開2004/076044号パンフレット記載のバッチ式高速撹拌装置をいう。図1は本発明で用いるバッチ式密閉型混練装置の模式図である。本発明で用いるバッチ式密閉型混練装置1においては、機台ベース2上に横向に円筒形の撹拌室3と、材料投入部14およびらせん状羽根部材12が配設される材料供給室13が複数の脚部によって配置される。両端の脚部に配置された軸受4、4により回転軸5を水平に支持して、回転軸5が撹拌室3の中心と同軸的に貫挿配置されている。」(段落【0019】)

(エ)「【0029】
本発明で用いるセルロースは、化学パルプを乾式解繊機で解繊した繊維状セルロースであることが好ましい。化学パルプは、その色の均質性が高いため、成形体となしたときに色相が均一となる上、成形時、マスターバッチや顔料を混合して成形体を着色しても均一な色の外観をもった成形体を得ることができる。化学パルプとは、例えば、木材(針葉樹、広葉樹)、コットンリンター、ケナフ、マニラ麻(アバカ)、サイザル麻、ジュート、サバイグラス、エスパルト草、バガス、稲わら、麦わら、葦、竹等の天然セルロースを化学的に処理したパルプ(クラフトパルプ、亜硫酸パルプ等)である。地が白い方が成形体の色の調整がしやすいことより、化学的に漂白されて色が白いクラフトパルプ(N-BKP、L-BKP等)を用いることがより好ましい。」(段落【0029】)

(オ)「【0043】
(実施例1)
セルロース集合体として、広葉樹晒クラフトパルプ(L-BKP)のパルプシートを用意し、(株)ホーライ製粉砕機(商品名:BO-2572、30mmスクリーン装着)で粗粉砕した。次に、ターボ工業(株)製解繊機(商品名:ターボミルT-250)に粗粉砕物を投入し、該パルプシートを解繊し、本発明におけるセルロースを得た。なお、該セルロースの水分含有率は18質量%であった。該セルロース/熱可塑性樹脂((株)プライムポリマー製、商品名:プライムポリプロ(登録商標)F109V)/無水マレイン酸変性ポリプロピレン(三菱化学(株)、商品名:モディック(登録商標)P928)=50/45/5(質量比)となるように調製し、予備混合した後にバッチ式密閉型混練装置((株)エムアンドエフ・テクノロジー製)の撹拌室に投入した。その後、回転数2700rpmで回転羽根を回転させた。回転開始と同時に水蒸気の解放機構部より水蒸気が漏れだしたが、30秒後に漏れは停止し、水蒸気の解放機構部にて均衡が保たれた状態で溶融混合が進行した。水蒸気の漏れが停止してから30秒後、モーターの回転トルク値が最大値に達した後、減少しだし、最小値を示し上昇に転じてから3秒後に、モーターのスイッチを切り、回転羽根の回転を止めた。なお、水蒸気の漏れが停止してから回転羽根の回転停止までの間、撹拌室内部の温度は250℃、圧力は2.00MPaを示していた。
【0046】
(実施例4)
回転羽根の回転数を2000rpmに変更し、さらに、水蒸気の解放機構部を調節して、水蒸気の漏れが停止してから回転羽根の回転停止までの間の撹拌室内部の温度が150℃を示し、圧力が0.20MPaを示すようにした以外は実施例1と同様にして本発明のセルロース含有熱可塑性樹脂を得た。」(段落【0043】、【0046】)

(カ)「【0095】
(成形体の臭い)
成形体の色の評価で作製した試験片10枚を重ねたまま臭いをかいで評価した。焦げた臭いがないものを○、焦げた臭いがわずかでもあるものを×とした。」(段落【0095】)

(キ)「【0100】
【表1】

」(段落【0100】、表1)

ウ.刊行物2及びその記載事項
本願の優先日前に頒布された下記の刊行物(刊行物1中で特許文献5として提示されたものである。以下、「刊行物2」という。)には、以下の記載がされている(下線は当審による。)。
刊行物2:国際公開第2004/076044号

(ア)「本発明は、セルロース系材料、すなわち木質材料及び植物材料を高い比率で利用するためのあるいは木質廃材及び植物廃材を高い比率で再利用するための混合粉砕装置、混合溶融方法及びバインダ一が含浸されたセルロース系材料の成形方法に関するものである。」(1頁5?8行)

(イ)「また、17は、混合容器3の底壁部に設けられた造粒された材料を取り出すための排出口蓋で、該排出口蓋17は、軸18により回転可能に支持され該軸18はロータリーシリンダー19,19と連結され、開閉できるように構成されている。」(17頁3?6行)

(ウ)「出口蓋17を開き、脱水され、バインダーが含浸され造粒されたスギの高充填成形材料を排出する。」(20頁下から2行?1行)

(エ)「


」(図1)

エ.刊行物1に記載された発明
刊行物1の摘示イ(ア)及び(オ)の実施例4及び実施例4が引用する実施例1の記載より、刊行物1には、
「広葉樹晒クラフトパルプ(L-BKP)のパルプシートを、粉砕機で粗粉砕し、次に、解繊機で解繊してセルロースを得た後、該セルロース/熱可塑性樹脂/無水マレイン酸変性ポリプロピレン=50/45/5(質量比)となるように調製し、予備混合した後にバッチ式密閉型混練装置((株)エムアンドエフ・テクノロジー製)の撹拌室に投入し、回転数2000rpmで回転羽根を回転させて、回転開始と同時に水蒸気の解放機構部より水蒸気が漏れだしたが、30秒後に漏れは停止し、水蒸気の解放機構部にて均衡が保たれた状態で溶融混合が進行し、水蒸気の漏れが停止してから30秒後、モーターの回転トルク値が最大値に達した後、減少しだし、モーターの回転トルク値が最小値を示し上昇に転じてから3秒後に、モーターのスイッチを切り、回転羽根の回転を止めて得た、セルロース含有熱可塑性樹脂。(水蒸気の漏れが停止してから回転羽根の回転停止までの間、撹拌室内部の温度は150℃、圧力は0.20MPaを示す。)」についての発明(以下、「引用発明」という。)が記載されている。

オ.対比・判断
(ア)補正発明と引用発明との対比
引用発明における「セルロース」の原料は、「広葉樹晒クラフトパルプ()L-BKP)」であり、「晒」との用語を用いていることや、摘示イ(エ)の「化学的に漂白されて色が白いクラフトパルプ(N-BKP、L-BKP等)」との記載から、引用発明における「セルロース」は、補正発明における「漂白化学木材パルプ繊維」に相当する。
また、引用発明における「熱可塑性樹脂」及び「無水マレイン酸変性ポリプロピレン」、「セルロース含有熱可塑性樹脂」は、それぞれ、補正発明における「熱可塑性ポリマー」、「組成物」に相当する。
さらに、引用発明における「セルロース含有熱可塑性樹脂」も、バッチ式密閉型混練装置にて「溶融混合」操作を行っていることから、当該操作は、補正発明における「溶融加工」に相当する。
そして、補正発明における「10?50重量%」は、その文言自体や、本願明細書の記載(段落【0059】等)から、50重量%を含むものであるから、引用発明における「セルロース/熱可塑性樹脂/無水マレイン酸変性ポリプロピレン=50/45/5(質量比)」は、補正発明における「10?50重量%の漂白化学木材パルプ繊維と45?85重量%の熱可塑性ポリマー」と、「50重量%の漂白化学木材パルプ繊維と50重量%の熱可塑性ポリマー」の点で一致する。
そうすると、補正発明と引用発明とは、
「50重量%の漂白化学木材パルプ繊維と50重量%の熱可塑性ポリマーと
を含む、溶融加工された組成物。」
の点で一致し、次の相違点1及び2で一応相違する。

○相違点1:補正発明では、組成物は、ペレットの形態であるのに対し、引用発明では、そのような特定はない点。

○相違点2:補正発明では、組成物が、40℃においてバッグ中で検出される希釈レベルが、ASTM E679によって決定される場合、450に等しいかまたはそれ未満であるのに対し、引用発明では、そのような特定はない点。

(イ)相違点1についての検討
まず、相違点1について検討する。
引用発明において、溶融混合操作は、(株)エムアンドエフ・テクノロジー製のバッチ式密閉型混練装置を使用しており、ここで、摘示イ(ウ)の「本発明で用いるバッチ式密閉型混練装置とは、具体的には、(株)エムアンドエフ・テクノロジー製の国際公開2004/076044号パンフレット記載のバッチ式高速撹拌装置をいう。」との記載からみて、当該装置は、上記刊行物2に記載のバッチ式高速撹拌装置を使用しているものと解される。
そして、上記刊行物2には、バインダーが含浸されたセルロース系材料の成形に用いる(摘示ウ(ア))装置により、排出口蓋17から、最終的に造粒された材料が排出される旨が記載されている(摘示ウ(イ)(ウ)及び(エ))。
ここで、一般的に、「ペレット」は、「直径あるいは一辺が2?5mmぐらいの球形、円柱形または角柱形に造粒した成形材料」のことをいうから(牧廣他3名「図解 プラスチック用語辞典」第2版 日刊工業新聞社 平成10年6月15日発行 738頁「ペレット」の項)、上記刊行物2に記載の装置により、造粒されたペレットの形態の材料が得られているといえる。
したがって、刊行物1には、バッチ式密閉型混練装置で溶融混合された材料がどのような形態で排出されるのかについては明示の記載はないものの、上記摘示イ(ウ)の記載からみて、溶融加工により、ペレットの形態の材料が得られることが実質的に記載されているといえ、上記相違点1は、実質的な相違点とはいえない。
また、上記相違点1が実質的な相違点であるとしても、樹脂材料から成形体を製造するに際し、ペレットを用いることは、周知ないしは慣用の技術であり(例えば、刊行物2の摘示(ア)?(エ)、及び、原査定の拒絶の理由で引用され、本願の優先日前に頒布された特開2010-89483号公報の段落【0076】及び【0092】等)、上記周知ないしは慣用の技術及び上記摘示イ(ウ)の記載から、引用発明において、バッチ式密閉型混練装置で溶融混合された材料を、ペレットの形態で得ることは、当業者が適宜なし得ることである。
したがって、上記相違点1は、実質的な相違点ではないか、当業者が適宜なし得ることである。

(ウ)相違点2についての検討
次に、相違点2について検討する。
本願明細書の段落【0050】ないし【0051】には、「一実施態様において、化学木材パルプ繊維は、漂白化学木材パルプ繊維である。無漂白木材パルプ繊維の代わりに漂白化学木材パルプ繊維を使用するには理由がある。・・・他の理由は、臭いである。セルロースは臭いがないため、漂白木材パルプ繊維を含む複合材料は、セルロースに起因する臭いがほとんどない。無漂白繊維中のリグニンおよび他の成分は、溶融加工すると強い特徴的な臭いを発し、その結果得られた複合材料に強い臭いを付与し、例えば自動車内装などの囲まれた領域でのその使用を制限する。」との記載があり、また、本願明細書の段落【0089】ないし【0091】によると、漂白木材パルプ繊維を用いた場合には、ASTM E679による希釈係数が450以下である実験結果が得られているところ、サイザル繊維やカエデ木粉のような、無漂白繊維の場合には、同希釈係数が450を上回ることから、これらの記載を考慮すれば、リグニンが取り除かれた漂白化学木材パルプ繊維を用いることによって、補正発明で特定される、ASTM E679による希釈レベルが450以下の組成物を得ることができることが理解できる。
一方、引用発明においても、化学的に漂白されて色が白いクラフトパルプであるL-BKPをセルロースとして使用している点で、本願明細書の記載の実施例と同様である。
また、本願明細書の段落【0090】には、ASTM E679(強制選択昇順濃度法による臭気および味覚閾値決定のための標準プラクティス)に基づく試験方法が記載されており、この記載及びASTM E679に関する技術常識(すなわち、ASTM E679は、概略、試料とされる空気から、異なる複数の希釈倍率を有する希釈された試料空気(以下、「希釈試料空気」という。)を作製し、高希釈倍率(すなわち低濃度)の希釈試料空気から低希釈倍率(すなわち高濃度)の希釈試料空気の順に、評価者が当該希釈試料空気の臭いの検出の有無を判定してゆき、評価者が臭いを検出した際の希釈試料空気の希釈倍率に基づいて、臭いの検出の有無の閾値を決定するという手法である点)によれば、補正発明において特定される「40℃においてバッグ中で検出される希釈レベル」は、試験前に40℃で24時間、9Lのバッグ中にサンプルを置いた後に、サンプルの入ったバッグに存在する空気(以下、「試料空気」という。)を引き抜き、当該試料空気を無臭の空気の流れ(ストリーム)で8?66000倍の範囲の倍率で希釈することによって、異なる複数の希釈倍率を有する希釈された試料空気を作製し、高希釈倍率(低濃度)の希釈試料空気から低希釈倍率(高濃度)の希釈試料空気の順に、評価者が当該希釈試料空気の臭いの検出の有無を判定してゆき、評価者が臭いを検出した際の希釈試料空気の希釈倍率を、臭いの検出の有無の閾値として「希釈レベル」とするものと認められる。
したがって、補正発明における「組成物が、40℃においてバッグ中で検出される希釈レベルが、ASTM E679によって決定される場合、450に等しいかまたはそれ未満である」との特定は、所定条件下で試料空気を種々の濃度の異なる希釈倍率で空気によって希釈を行い、臭いが検出された際の閾値である希釈倍率が、450倍以下であることを意味するものである。すなわち、補正発明は、試料空気を450倍という高倍率で希釈した条件下でも、臭いを検出するような、サンプルの臭いのレベルが比較的強いものを包含するものである。
その一方で、引用発明によって得られた成形体の臭いは、試験片10枚を重ねたまま、成形体をそのまま(すなわち、希釈倍率が1倍)臭いをかいで評価し、わずかでも焦げた臭いがしないものである(摘示イ(カ)(キ))。
上記補正発明のASTM E679による方法では、40℃と、一般的な室温に比してわずかに高い温度下で測定を行ってはいるものの、引用発明は、サンプルを直接、すなわち希釈倍率が1倍の状態で臭いを嗅いでも、焦げた臭いがわずかでも検出されないのであるから、ASTM E679の上記試験条件下、すなわち、450倍という、高倍率で希釈した場合の条件下においては、臭いは検出されない蓋然性が極めて高い。
したがって、引用発明におけるセルロース含有熱可塑性樹脂は、補正発明で特定される希釈レベルが、450以下である蓋然性が高いものであるといえる。
また、引用発明において、溶融混合を行った温度は、150℃と比較的低い温度であり、摘示イ(カ)(キ)の記載もあわせると、溶融混合の際に、焦げ等は生じていない蓋然性が高い。
したがって、引用発明で使用しているセルロース材料が、化学的に漂白されて色が白いパルプである点や、上記摘示イ(カ)(キ)の臭いに関する試験結果の記載、さらには引用発明の溶融混合温度が比較的低い点も考慮すると、引用発明のセルロース含有熱可塑性樹脂も、40℃においてバッグ中で検出される希釈レベルが、ASTM E679によって決定される場合、450に等しいかまたはそれ未満である蓋然性が極めて高いから、上記相違点2は実質的な相違点であるとはいえない。

また、上記相違点2が実質的な相違点であるとしても、引用発明の解決しようとする課題は、「繊維状セルロースの取り扱いが容易で、成形時の加熱により成形体が変色したり、臭気を発生することがなく、さらに、繊維状セルロースと熱可塑性樹脂との界面における親和性が良好であるため、外観もよく、成形体の強度特性が良好であり、かつ、再成形可能な、すなわちリサイクル性のあるセルロース含有熱可塑性樹脂の製造方法、セルロース含有熱可塑性樹脂およびその成形体を提供すること」である(上記摘示イ(イ))から、引用発明において、臭気をより減らす目的で、例えば、リグニンのより含まない等の臭気の発生をより生じない材料を選択して使用したり、成形条件を工夫して焦げを生じないようにする等の材料や成形条件の最適化や、公知の臭気低減技術を適用することにより、40℃においてバッグ中で検出されるレベルをASTM E679によって決定される場合に、450以下とすることは、当業者が通常の創作能力を発揮することにより、適宜なし得ることである。

(エ)効果についての検討
補正発明の効果につき本願明細書及び図面の記載に基づいて検討すると、本願明細書の段落【0089】ないし【0099】に記載の実験例からみて、熱可塑性ポリマーに添加される繊維として、漂白化学木材パルプ繊維を用いると、無漂白の木材繊維やガラス繊維に比して臭いが低減され、ガラス繊維に比して、射出成形時の生産速度が向上するという効果を奏するものである。
一方、引用発明におけるセルロース含有熱可塑性樹脂も、本願明細書の実施例と同様に、セルロースとして漂白化学木材パルプ繊維を用いていることから、臭いが低減され、かつ、射出成形時の生産速度が向上し得る性質を有する材料であるといえる。
してみると、補正発明の効果は、引用発明のものに比して、特段の効果を奏するものとは認められない。

(オ)まとめ
よって、補正発明は、上記引用発明、すなわち、刊行物1に記載された発明と同一であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許出願の際独立して特許を受けることができるものではなく、また、刊行物1に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により、特許出願の際独立して特許を受けることができない。

カ.独立特許要件のまとめ
上記ア.?オ.に示したとおり、補正発明は、特許出願の際独立して特許を受けることができるものではないから、本件手続補正は、特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項に規定する要件を満たしていない。

(3)まとめ
以上のとおり、本件手続補正は、特許法第17条の2第6項において準用する同法126条第7項の規定に違反するから、同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。

よって、〔補正の却下の決定の結論〕のとおり決定する。

第3 本願発明
上記第2のとおり、平成28年7月29日付けの手続補正は却下されたため、本願の請求項1ないし18に係る発明は、平成27年12月1日付けの手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項1ないし18に記載された事項により特定されるものであるところ、その請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は、以下のとおりのものである。

「【請求項1】
10?50重量%の木材パルプ繊維と45?85重量%の熱可塑性ポリマーとを含み、溶融加工されたペレットの形態の組成物であって、該組成物は、40℃においてバッグ中で検出される希釈レベルが、ASTM E679によって決定される場合、450に等しいかまたはそれ未満である、上記組成物。」

第4 原査定の拒絶の理由の概要
これに対して、原審において拒絶査定の理由とされた平成27年6月4日付けで通知された拒絶理由の概要は、本願発明は、刊行物1(特開2011-116838号公報)に記載された発明であり、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができないというもの、及び、刊行物1に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により、特許を受けることができないというものを含むものである。

第5 当審の判断
刊行物1には、前記第2 2.(2)イ.で示した事項が記載されており、第2 2.(2)エ.で示した引用発明が記載されている。
そして、本件手続補正により補正された補正発明は、本願発明の「木材パルプ繊維」を、「漂白化学木材パルプ繊維」に限定したものであるから、本願発明と引用発明とは、前記第2 2.(2)オ.(ア)で挙げた点で一致し、前記第2 2.(2)オ.(ア)で挙げた相違点1及び2において一応相違する。
しかしながら、上記相違点1及び2については、前記第2 2.(2)オ.(イ)及び(ウ)で検討したとおり、いずれも実質的な相違点とはいえないか、または、当業者が適宜なし得るものであるから、本願発明も、本願発明と引用発明との間に、実質的な相違点は存在しないか、また、仮に相違するとしても、当業者が適宜なし得るものである。
また、前記第2 2.(2)オ.(エ)で説示した理由と同一の理由により、本願発明が、上記相違点1及び2により、引用発明に比して、格別顕著な効果を奏しているものともいえない。
したがって、本願発明は、上記引用発明、すなわち、刊行物1に記載された発明であり、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができるものではないし、また、刊行物1に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

第6 審判請求人の主張について
審判請求人は、審判請求書の「2.本願発明が特許されるべき理由」において、引用文献1は、処理の際に高温をかけており、引用発明で得られた溶融加工後の樹脂は本願発明に係る臭気レベルには達していないように考えられ、引用文献1の実施例では、成形体の臭いが評価されているものの、成形体を作製する際に焦げた臭いが発生するかを定性評価しているだけであり、この記載をもって、引用発明が本願発明に係る臭気レベルを満足していると判断することはできない旨を主張している。
しかしながら、前記第2 2.(2)オで検討したように、引用発明で使用しているセルロース材料が、リグニンを含まないとされる化学的に漂白されて色が白いパルプである点や、上記摘示イ(カ)(キ)の臭いに関する試験結果の記載、さらには引用発明の溶融混合温度の点も考慮すると、引用発明のセルロース含有熱可塑性樹脂も、40℃においてバッグ中で検出される希釈レベルが、ASTM E679によって決定される場合、450に等しいかまたはそれ未満である蓋然性が極めて高いので、上記審判請求人の主張は、採用できない。

第7 むすび
以上のとおり、本願の請求項1に係る発明は、特許法第29条第1項第3号に該当するか、特許法第29条第2項の規定により、いずれにしても特許を受けることができないから、他の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2017-06-20 
結審通知日 2017-06-21 
審決日 2017-07-04 
出願番号 特願2014-556538(P2014-556538)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (C08L)
P 1 8・ 113- Z (C08L)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 亀谷 のぞみ  
特許庁審判長 加藤 友也
特許庁審判官 堀 洋樹
橋本 栄和
発明の名称 複合ポリマー  
代理人 山本 修  
代理人 小野 新次郎  
代理人 竹内 茂雄  
代理人 小林 泰  
代理人 中村 充利  

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