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審決分類 審判 査定不服 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 取り消して特許、登録 H01S
審判 査定不服 2項進歩性 取り消して特許、登録 H01S
管理番号 1334845
審判番号 不服2017-3676  
総通号数 217 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2018-01-26 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2017-03-13 
確定日 2017-12-12 
事件の表示 特願2013-123688「発光装置」拒絶査定不服審判事件〔平成26年12月25日出願公開、特開2014-241361、請求項の数(5)〕について、次のとおり審決する。 
結論 原査定を取り消す。 本願の発明は、特許すべきものとする。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、平成25年6月12日の出願であって、平成28年7月26日付けで拒絶理由通知がされ、同年9月26日付けで意見書の提出とともに、手続補正がされ、同年12月21日付けで拒絶査定(原査定)がされ、これに対し、平成29年3月13日に拒絶査定不服審判の請求がされた。その後、当審において、同年8月25日付けで拒絶理由(以下「当審拒絶理由」という。)が通知され、同年10月20日付けで意見書の提出とともに、手続補正がされたものである。

第2 本願発明
本願請求項1-5に係る発明(以下、それぞれ「本願発明1」-「本願発明5」という。)は、平成29年10月20日付けの手続補正で補正された特許請求の範囲の請求項1-5に記載された事項により特定される発明であり、そのうちの本願発明1は、請求項1に記載された事項により特定される以下のとおりのものである。

「【請求項1】
レーザー光を励起光として発光する励起光源と、上記励起光源により励起され、励起光の波長を変換して発光する蛍光体とを備える発光装置であって、
上記蛍光体が、複数の一次粒子で構成された多結晶体二次粒子であり、上記一次粒子の平均粒径が0.1?5μmであり、上記二次粒子の平均粒径が5?50μmであり、かつ該二次粒子内部に、径が0.2μm以上で上記二次粒子の径の1/2以下の空孔を有することを特徴とする発光装置。」

なお、本願発明2-5は、本願発明1を減縮した発明である。

第3 引用文献、引用発明等
1 引用文献1について
(1)原査定の拒絶の理由に引用された引用文献1(特開2012-162600号公報)には、図面とともに次の記載がある(審決注:下線は合議体が付与した。以下、同じ。)。

「【技術分野】
【0001】
本発明は、励起光を蛍光体粒子に照射することで蛍光を発する発光素子及びその製造方法、当該発光素子を備えた発光装置、車両用前照灯及び照明装置に関するものである。」

「【発明が解決しようとする課題】
【0006】
…(略)…
【0009】
しかし、これらの文献の技術では、励起光源として、電子銃、蛍光ランプ、LEDが使用されているが、レーザ光源の使用については開示されていない。このため、当該技術において、励起光として、コヒーレント性が高い光、例えばレーザ光を使用し、当該レーザ光を蛍光体粒子を含む蛍光体層に照射した場合、蛍光体層表面にてレーザ光が反射され、そのレーザ光のコヒーレント性が高いまま外部に放出されてしまう可能性がある。この場合、コヒーレント性の高いレーザ光を見てしまい、目に損傷を与えるなど、人体に被害を与える可能性が高く、危険である。なお、コヒーレント性の高い光とは、換言すれば、指向性が強く、干渉性が高い光のことである。
【0010】
換言すれば、これらの文献の技術においては、励起光のコヒーレント性低減の必要性については一切開示されていない。
【0011】
本発明は、上記の問題を解決するためになされたもので、その目的は、励起光のコヒーレント性を低減させることが可能な発光素子、発光装置、車両用前照灯、照明装置及び発光素子の製造方法を提供することにある。」

「【0027】
本発明の実施の一形態について図1?図10に基づいて説明すれば、以下のとおりである。
【0028】
<ヘッドランプ1の構成>
図2は、本発明の一実施形態に係るヘッドランプ1の概略構成を示す断面図である。図2に示すように、ヘッドランプ1は、レーザ素子(励起光源、半導体レーザ)2、レンズ3、発光部4(発光素子)、パラボラミラー(反射鏡)5、金属ベース7、フィン8を備えている。
【0029】
(レーザ素子2)
レーザ素子2は、励起光を出射する励起光源として機能する発光素子である。このレーザ素子2は、複数設けられていてもよい。この場合、複数のレーザ素子2のそれぞれから励起光としてのレーザ光が発振される。レーザ素子2を1つのみ用いてもよいが、高出力のレーザ光を得るためには、複数のレーザ素子2を用いる方が容易である。
…(略)…
【0032】
(発光部4)
発光部4は、レーザ素子2から出射されたレーザ光を受けて蛍光を発するものであり、レーザ光を受けて発光する蛍光体(蛍光物質)を含んでいる。発光部4は、レーザ光を蛍光に変換するため、波長変換素子であると言える。
【0033】
具体的には、発光部4は、図1(b)又は図5に示すように、基板(金属基板45)上に複数の蛍光体粒子40を層状に堆積させたものである。また、個々の蛍光体粒子40の表面には、TEOS(テトラエトキシシラン、珪酸エチル)等を含むバインダー41を介して、TiO2等の無機物からなるコーティング層42が設けられており、当該コーティング層42が、発光部4の表面において凹凸形状43をなしている。なお、発光部4の具体的構成及び製造方法については後述する。」

「【0050】
<発光部4の具体的構成及び製造方法>
(発光部4の具体的構造)
次に、図1及び図5?8に基づいて、発光部4の具体的構成及び製造方法について説明する。まず、図1を用いて、発光部4の具体的構成を説明する。図1は、発光部4の断面図の一例であり、(a)は蛍光体粒子40が金属基板45に堆積している様子を示す図であり、(b)はその蛍光体粒子40の表面にコーティング層が設けられた発光部4と、発光部4における入射光及び出射光の様子を示す図である。
【0051】
図1(b)に示すように、発光部4は、バインダー41及びコーティング層42が設けられた蛍光体粒子40と金属基板45とを備える。なお、発光部4の機能及び蛍光体粒子40については上述したので、ここではその説明を省略する。
…(略)…
【0054】
バインダー41は、電気泳動法を用いて金属基板45上に堆積させるときに必要となるものであるが、その密着性はそれほど高くない。なぜなら、例えば図1(a)に示すように、蛍光体粒子40間には空隙44aが形成されてしまうためである。本実施形態では、蛍光体粒子40の表面上に設けられたバインダー41の層上に、さらにコーティング層42が設けられる。すなわち、バインダー41を介して、蛍光体粒子40の表面にコーティ
ング層42が設けられる。これにより、図1(b)に示すように、空隙44aの大きさが空隙44bまで小さくなるので、蛍光体粒子40どうしの密着性、及び蛍光体粒子40と金属基板45との密着性を高めることができる。なお、バインダー41は、電気泳動法を用いずに、例えば沈降法により蛍光体粒子40を堆積させる場合には必ずしも必要ではなく、この場合、蛍光体粒子40の表面に直接コーティング層42が設けられることになる。
【0055】
ここで、コーティング層42の膜厚が大きくすると、それだけ空隙44bを小さくすることができるが、あまりに大きくすると空隙44bが消失してしまう。また、空隙44bが消失する程度に膜厚を大きくすると、層状となっている蛍光体粒子40の表面(金属基板45側ではない発光部4の表面)の凹凸も消失し、その表面は平坦化される可能性が高い。この場合、上記の密着性や熱伝導性等を高くすることはできるが、例えば図1(b)の場合には、その平坦化された表面にレーザ光L0が照射され、そのレーザ光L0がそのまま反射してしまうことになる。つまり、蛍光体粒子の表面を無機材料等でコーティングし、蛍光体粒子どうしの空隙を完全に埋めてしまうと、発光部の表面を完全に覆ってしまうことにもなり、その結果、その表面に照射されたレーザ光L0が高いコヒーレント性を含んだまま反射されてしまう可能性がある。
【0056】
レーザ光L0はコヒーレント性が高いため、そのコヒーレント性が失われないままレーザ光L0が照明光としてヘッドランプ1の外部に出射されると、その照明光を見た人間の目に損傷を与える可能性が非常に高い。このため、レーザ光L0を励起光として用いる発光装置においては、レーザ光L0を発光部4に照射することにより、レーザ光L0を蛍光に変換、あるいは散乱させることにより、人間の目に損傷を与える可能性が低いインコヒーレントな照明光として出射する必要がある。
【0057】
本実施形態では、空隙44bが存在する程度(空隙44bが消失しない程度)に、蛍光体粒子40の表面にコーティング層42を設けることにより、蛍光体粒子40どうし、及び蛍光体粒子40と金属基板45との密着性を高めることができる。それとともに、空隙44bが存在する程度のコーティング層42の膜厚により、発光部4の表面において蛍光体粒子40及びコーティング層42が凹凸形状43を形成しているので、レーザ光L0を散乱させることができ、レーザ光L0のコヒーレント性を低減させることができる。
【0058】
つまり、発光部の表面が十分に平坦である場合には、レーザ光が鏡面反射となるため、その発光パターンは強い角度依存性を有することとなる。これに対し、本実施形態のように、発光部4の表面に凹凸形状43が形成されている場合には、入射されるレーザ光は様々な方向に反射されるため、その発散角が大きくなり、発光パターンの角度依存性が低くなる。その結果、本実施形態では、発光部4の表面において、コヒーレント性の高い入射光(レーザ光)からコヒーレント性の低い散乱光(インコヒーレントな照明光)を得ることができる。」

「【0066】
以上のように、本実施形態では、コーティング層42が、発光部4の表面において凹凸形状43をなすことにより、上記の密着性を高めて耐久性を向上させるとともに、レーザ光のコヒーレント性を低減させて安全性を向上させることが可能な発光部4を実現することができる。
【0067】
また、発光部4の表面において凹凸形状43の算術平均粗さが0.5μm以上であり、最大高さが1μm以上であれば、発光部4の表面に入射するコヒーレント性の高い励起光から、十分にインコヒーレントな散乱光を得ることができ、上記のような安全性の高い発光部4を実現することができる。」
【0068】
一般に、蛍光体粒子の粒径(メジアン径)は5?40μmであり、その粒径分布には幅がある。このため、蛍光体粒子40の粒径に対してコーティング層42の膜厚が30%以下に設定されていれば、発光部4の表面の凹凸形状43は、算術平均粗さ(Ra)が0.5μm以上、最大高さ(Ry)が1μmであることを満たすことになり、発光部4においてコヒーレント性の高い入射光から十分にインコヒーレントな散乱光を得ることができる。」

(2)引用文献1に記載の発明
以上をまとめると、引用文献1には、
「励起光としてのレーザ光L0を出射するレーザ素子2と、
レーザ素子から出射されたレーザ光を受けて蛍光を発する発光部4と、を備える発光装置であって、
発光部4は、金属基板45上に複数の蛍光体粒子40を層状に堆積させたものであり、
個々の蛍光体粒子40の表面には、バインダー41を介して、コーティング層42が設けられており、当該コーティング層42が、発光部4の表面において凹凸形状43をなしており、
蛍光体粒子40間には空隙44bが形成されており、
発光部4の表面において蛍光体粒子40及びコーティング層42が凹凸形状43を形成しているので、レーザ光L0を散乱させることができ、レーザ光L0のコヒーレント性を低減させることができ、
発光部の表面において上記凹凸形状43の算術平均粗さ(Ra)が0.5μm以上、最大高さ(Ry)が1μm以上であれば、発光部4の表面に入射するコヒーレント性の高い励起光から、十分にインコヒーレントな散乱光を得ることができる発光装置。」の発明(以下、「引用発明1」という。)が記載されている。

2 引用文献2について
(1)また、原査定の拒絶の理由に引用された引用文献2(特開2004-356635号公報)には、図面とともに次の記載がある。

「【技術分野】
【0001】
本発明は、変換型LEDとして構築されている、高い効率のLEDに関する。」

「【0005】
本発明の課題は、一次放射線の変換のために蛍光体粉末を利用する高効率変換型LEDを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
前記の課題は、蛍光体粒子が0.1μ?1.5μmの範囲から選択される蛍光体平均粒径を有する蛍光体粉末により解決される。この蛍光体粉末は特に、蛍光体粒子が0.1μm?1.0μmの範囲から選択される平均一次粒径を有する一次粒子を有することを特徴とする。特に、蛍光体平均粒径において、有利な値は下限値が0.2μm、特に有利に0.5μmである。」

「【0020】
一次粒子の製造のため及び/又は蛍光体粒子の作成のために、特にか焼が実施される。か焼の間に、一次粒子間の凝集体形成を強化することができる。このか焼は、1200℃?1700℃の範囲から選択されるか焼温度で実施するのが有利である。特に、1500℃までのか焼温度が有利である。
【0021】
このか焼に引き続き、他の加工工程を行うこともできる。例えば、得られた(粗製)蛍光体粒子を付加的に粉砕する。
【0022】
実施例及びこの実施例に所属する図面を用いて、本発明を次に詳細に説明する。図面は図式的であり、寸法通りの図ではない。
【実施例】
【0023】
蛍光体粉末1は多数の蛍光体粒子2からなる(図1及び2)。この蛍光体粒子2は、球状の又は少なくともほぼ球状の形状11を有する。特に、任意の方向の直径は最大の直径から30%より大きく変動しない、図1参照。この蛍光体粒子の蛍光体平均粒子直径3はほぼ1.3μmである。個々の蛍光体粒子2は、それぞれ多数の一次粒子4の凝集体又はアグロメレートからなる。この一次粒子は、この場合に約0.5μmの平均一次粒子直径5を示す。この蛍光体粒子2は主に一次粒子4だけからなる。更に、蛍光体粒子2は、約0.5μmの平均孔径7を有する気孔6を有する。この気孔6は連続気孔である。」

「【0027】
この蛍光体粉末1は蛍光体ボディ10中で使用される(図式的な図の図3a)この蛍光体ボディ10は特に蛍光体含有デバイス、例えば変換型LEDを意図する。この種のLEDはLUKOLEDの概念でも公知である。蛍光体粉末1を用いて励起光8、つまりチップから一次的に放射される光(又は短波長の放射線)を部分的に又は完全に放射光(ルミネッセンス)9に変換する。このルミネッセンスは二次発光と言われることも多い。
【0028】
蛍光体ボディの具体的な実施例は、白色又は有色のLED中にInGaN-チップと一緒に蛍光体粉末を使用することである。この種の光源の例示的な構造は図3bに図示されている。この光源は、第1の及び第2の電気的端子12,13を備えた、ピーク発光波長460nm(青色)のInGaNタイプの半導体デバイス(チップ1)であり、前記の半導体デバイスは光透過性の基体ケーシング18中の凹設部19の範囲内に埋め込まれている。端子の一方13は、ボンディングワイヤ14を介してチップ15と接続している。この凹設部は壁部17を有し、この壁部17はチップ15の青色の一次放射線のためのリフレクタとして利用される。この凹設部19は注型材料25で充填されていて、この注型材料は主成分としてシリコーン注型樹脂(又はエポキシ注型樹脂)(80?90質量%)と蛍光体顔料16(15質量%未満)を含有する。他のわずかな割合は、特にメチルエーテル及びアエロジル(Aerosil)である。この蛍光体顔料は、本発明による黄色発光するYAG:Ceであるか又は緑色及び赤色に発光する2種(又はそれ以上)の顔料からなる混合物である。例えば、適当な緑色発光する蛍光体はCeドープしたイットリウムガーネットであり、これはAlの他に、アルミニウム格子位置にGa及び/又はScの成分も含有する。赤色発光する蛍光体の例はEu含有の窒化物である。両方の場合に、蛍光体の二次発光はチップの一次発光と混色して白色になる。有色LEDは、例えばUV発光するチップにより励起するための蛍光体としてYAG:Euを使用することにより達成される。
【0029】
意外にも、蛍光体の粒径d50の特に綿密な選択により、変換型LEDの特別な利点を達成できることが明らかとなった。高い効率は、特に平均粒径d50を0.2?1.0μmの範囲内で選択する場合に観察される。この場合に、今までの想定に反して、吸収:散乱の比も同時に高まるために、意図的に高い散乱は受け入れられる。d50を、入射する一次発光放射線に対して最大散乱を示す粒径付近に選択することが理想的である。実際に、20%までの変動はなお良好であることが実証された。50%までの変動はなお満足できる結果を提供することが多い。原則的に、従って一次放射源の前方に配置された蛍光体の高い吸収を示すLEDが達成される。
【0030】
図6aでは散乱係数(任意単位(w.E..)、体積濃度に対して)が粒径(μm)に対してプロットされ、この図6aは3種の蛍光体について示されている。多くの蛍光体において粒径Dが1μmを下回って小さくなると散乱は増大する。この散乱は一般に5倍まで高めることができる。これは、全体に放射される放射線の均一性を著しく改善することができ、このことは特に混合光-LEDの場合に特に重要である。従って、LEDの一次放射線は完全には変換されず、その残った一定の一次放射線自体が実際に利用される放射線に直接寄与することを意味する。具体的な例は青色の一次発光するチップであり、この放射線は黄色発光する蛍光体によって混色される。2種の放射線はもちろん異なる空間領域から来る。これに伴うカラーフリンジをぼやけさせるために、今まではさらに散乱性の充填粒子を注型材料に別個に混合しなければならず、これは一方でコストがかかり、他方で効率をむしろ低減させる。特にこの構造は、蛍光体を部分的な変換に利用する場合に、つまり例えば青色一次放射線を有する系において、この青色一次放射線を部分的に緑色及び部分的に赤色の蛍光体により変換する場合に、RGB-混色原理に基づき白色LEDの意味で利用する場合に重要である。一般的な最大散乱は、D=0.2?0.5μmで生じる。この場合に、散乱強度は、D=1.5μmでの値と比較して、一般的に2倍?5倍に高まる。この散乱強度は、高い粒径(D=2?5μm)ではほとんど変化しない。
【0031】
図6bには吸収係数(任意単位(w.E.)及び体積濃度に対して)が粒径(μm)に対してプロットされていて、この図6bは、小さい粒径Dでは吸収が増大し、程度に差はあるがほぼD=0.06?0.3μmで最大値となることが示される。この吸収はこの場合に、ほぼD=2μmの場合よりも部分的に5倍より大きく、少なくともD=1μmの場合の二倍である。
【0032】
全体として、吸収:散乱の比は、粒径Dが2μmから0.2μmまで小さくなるにつれて連続的に増大する。これは、全体として、散乱損失の減少及び効率の向上を意味する。場合により、高い散乱を受け入れるが、均一な放射挙動を有する高効率のLEDが得られる。高い散乱は、青色放射線と黄色放射線との挙動において良好でかつ均一な調和を生じさせる。高い吸収は効率を高める。
【0033】
従って、0.1?1.5μmの範囲の最適な直径Dの付近の平均直径d50の選択に対して良好な結果が得られる。」

(2)引用文献2に記載の技術
以上をまとめると、引用文献2には、以下の技術が記載されていると認められる。
「蛍光体粉末1を利用する高効率変換型LEDであって、
上記蛍光体粒子2は、0.1μm?1.0μmの範囲から選択される平均一次粒径を有する一次粒子4を有し、
上記蛍光体粉末1は多数の蛍光体粒子2からなり、個々の蛍光体粒子2は、それぞれ多数の一次粒子4の凝集体又はアレグロメレートからなり、1200℃?1700℃の範囲から選択されるか焼温度でか焼が実施されることで、一次粒子間の凝集体形成が強化されたものであり、
更に、上記蛍光体粒子2は、約0.5μmの平均孔径7を有する気孔6を有しており、
0.1μm?1.5μmの範囲の最適な平均直径d50の選択に対して散乱損失の減少及び効率の向上という良好な結果が得られる蛍光体粒子2からなる高効率変換型LED。」

第4 当審の判断
1 本願発明1について
(1)対比
ア 本願発明1と引用発明1とを対比する。

引用発明1の「レーザ素子2」、及び、「蛍光体粒子40」は、それぞれ本願発明1の「励起光源」、及び、「蛍光体」に相当する。
また、引用発明1は、「レーザ素子から出射されたレーザ光を受けて蛍光を発する発光部4」を備え、「発光部4は、金属基板45上に複数の蛍光体粒子40を層状に堆積させたものであ」るから、引用発明1の「蛍光体粒子40」は、励起光の波長を変換して発光するものであるといえる。

イ したがって、本願発明1と引用発明1とは、以下の点で一致する。
<一致点>
「レーザー光を励起光として発光する励起光源と、上記励起光により励起され、励起光の波長を変換して発光する蛍光体とを備える発光装置。」

ウ 一方、本願発明1と引用発明1とは、以下の点で相違する。
<相違点>
本願発明1の蛍光体が、「複数の一次粒子で構成された多結晶体二次粒子であり、上記一次粒子の平均粒径が0.1?5μmであり、上記二次粒子の平均粒径が5?50μmであり、かつ該二次粒子内部に、径が0.2μm以上で上記二次粒子の径の1/2以下の空孔を有する」のに対し、引用発明1では、蛍光体粒子40にそのような特定はなされていない点。

(2)相違点についての判断
ア 上記相違点について、先ず、本願発明1の蛍光体が、「複数の一次粒子で構成された多結晶体二次粒子であり」、「上記二次粒子の平均粒径が5?50μmであり」、「かつ該二次粒子内部に、径が0.2μm以上」の「空孔を有する」点について検討する。

(ア)引用文献2に記載された技術において、「一次粒子4」、及び、「約0.5μmの平均孔径を有する気孔6」は、それぞれ本願発明1の「一次粒子」、及び、「径が0.2μm以上の空孔」に相当する。
また、引用文献2に記載された技術は、「1200℃?1700℃の範囲から選択されるか焼温度でか焼が実施されることで、一次粒子間の凝集体形成が強化された」ものであり、ここにおいて、一次粒子が前駆体から形成されると同時に、蛍光体粉末の蛍光体粒子が、一次粒子のアグロメレーションにより形成されることは明らかであるから、引用文献2に記載された技術において、「蛍光体粒子2」は、本願発明1の「多結晶体二次粒子」に相当する。
そうすると、引用文献2には、蛍光体粒子2が、上記相違点に係る本願発明1の構成のうち、「複数の一次粒子で構成された多結晶体二次粒子であり」、「かつ該二次粒子内部に、径が0.2μm以上」の「空孔を有する」点は開示されているといえる。

(イ)さらに、引用文献2に記載された技術の蛍光体粒子2は、段落【0030】-【0033】及び図6を参照すると、蛍光体粒子2の平均直径d50が、0.1μm?1.5μmの選択に対して散乱損失の減少及び効率の向上という良好な結果が得られるものである。
一方、引用発明1は、「発光部の表面において上記凹凸形状43の算術平均粗さ(Ra)が0.5μm以上、最大高さ(Ry)が1μm以上であれば、発光部4の表面に入射するコヒーレント性の高い励起光から、十分にインコヒーレントな散乱光を得ることができる」ものであるところ、上記「第3」の「1」に摘記の引用文献1の段落【0068】には、一般に、蛍光体粒子の粒径(メジアン径)は5?40μmであり、コーティング層42の膜厚の設定により、発光部4の表面の凹凸形状43は、算術平均粗さ(Ra)が0.5μm以上、最大高さ(Ry)が1μm以上を満たすことになり、発光部4においてコヒーレント性の高い入射光から十分にインコヒーレントな散乱光を得ることができる旨が記載されている。
すなわち、引用発明1では、蛍光体粒子40として、この程度の径(5?40μm)のものの採用を想定しているといえる。
そうすると、引用文献2に記載された技術において、良好な結果が得られる蛍光体粒子2の径(0.1μm?1.5μm)では、引用発明1で採用される蛍光体粒子の径(5?40μm)よりも大幅に小さいので、引用発明1において、「凹凸形状43」について満たすべき条件が満足できなくなることが明らかである。
したがって、引用発明1において引用文献2に記載された技術を適用することには阻害要因があるといえる。

(ウ)しかも、引用文献2に記載の技術は、LED中にチップと一緒に使用する蛍光体ボディ10(変換型LED)に係るもの、すなわち、「励起光8、つまりチップから一次的に放射される光(又は短波長の放射線)」はLEDチップからの放射光であり、インコヒーレント光を使用するものである。
一方、引用発明1は、「励起光としてのレーザ光L0を出射するレーザ素子2」を備え、「発光部4の表面において蛍光体粒子40及びコーティング層42が凹凸形状43を形成しているので、レーザ光L0を散乱させることができ、レーザ光L0のコヒーレント性を低減させることができ」るものである。
すなわち、引用発明1は、レーザ素子の使用を前提とし、蛍光体粒子40は、レーザ光L0(コヒーレント性が高い光)を散乱させることができ、レーザ光L0のコヒーレント性を低減させることができるものである。
したがって、引用発明1のレーザ素子の使用を前提とする蛍光体粒子40を、引用文献2に記載された技術の蛍光体粒子2に替える動機付けがあるということはできない。

(エ)以上から、引用発明1において、引用文献2を参照したとしても、上記相違点に係る本願発明1の構成を採用することが、当業者であれば容易になし得たということはできない。

イ よって、本願発明1は、引用発明1及び引用文献2に記載された技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。

2 本願発明2-5について
本願発明2-5は、本願発明1を減縮したものであり、本願発明1の「上記蛍光体が、複数の一次粒子で構成された多結晶体二次粒子であり、上記一次粒子の平均粒径が0.1?5μmであり、上記二次粒子の平均粒径が5?50μmであり、かつ該二次粒子内部に、径が0.2μm以上で上記二次粒子の径の1/2以下の空孔を有する」という構成を備えるものであるから、本願発明1と同様の理由により、引用発明1及び引用文献2に記載された技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。

第5 原査定の概要及び原査定についての判断
原査定(平成28年12月21日付け拒絶査定)は、請求項1-7は、上記引用文献1、2に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないというものである。しかしながら、平成28年9月26日付け手続補正書により補正された請求項1は、「複数の一次粒子で構成された多結晶体二次粒子であり、かつ該二次粒子内に、径が0.2μm以上の空孔を有する」という構成を備えるものとなっており、上記のとおり、本願発明1-5は、上記引用文献1に記載された発明及び上記引用文献2に記載された技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。したがって、原査定を維持することはできない。

第6 当審拒絶理由について
当審では、請求項1には、「蛍光体が、複数の一次粒子で構成された多結晶体二次粒子であり、かつ該二次粒子内に、径が0.2μm以上の空孔を有する」と記載されているが、出願時の技術常識に照らしても、請求項1に係る発明の範囲まで、発明の詳細な説明に開示された内容を拡張ないし一般化できるとはいえず、請求項1-7に係る発明は、発明の詳細な説明に記載されたものではないとの拒絶の理由を通知している。しかしながら、平成29年10月20日付けの補正において、「蛍光体が、複数の一次粒子で構成された多結晶体二次粒子であり、上記一次粒子の平均粒径が0.1?5μmであり、上記二次粒子の平均粒径が5?50μmであり、かつ該二次粒子内部に、径が0.2μm以上で上記二次粒子の径の1/2以下の空孔を有する」と補正された結果、この拒絶の理由は解消した。

第7 むすび
以上のとおり、本願発明1-5は、引用発明1及び引用文献2に記載された技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。
したがって、原査定の理由によっては、本願を拒絶することはできない。
また、他に拒絶すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり審決する。
 
審決日 2017-11-27 
出願番号 特願2013-123688(P2013-123688)
審決分類 P 1 8・ 537- WY (H01S)
P 1 8・ 121- WY (H01S)
最終処分 成立  
前審関与審査官 百瀬 正之  
特許庁審判長 森 竜介
特許庁審判官 近藤 幸浩
恩田 春香
発明の名称 発光装置  
代理人 小林 克成  
代理人 石川 武史  
代理人 正木 克彦  
代理人 重松 沙織  
代理人 小島 隆司  

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