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審決分類 |
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) A23L |
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管理番号 | 1334873 |
審判番号 | 不服2016-8988 |
総通号数 | 217 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許審決公報 |
発行日 | 2018-01-26 |
種別 | 拒絶査定不服の審決 |
審判請求日 | 2016-06-16 |
確定日 | 2017-11-24 |
事件の表示 | 特願2014-130074号「ヒト血清コレステロール値低下作用を有する食品及びヒト高コレステロール血症予防又は治療剤」拒絶査定不服審判事件〔平成26年10月2日出願公開,特開2014-183849号〕について,次のとおり審決する。 |
結論 | 本件審判の請求は,成り立たない。 |
理由 |
第1 経緯の概略 本願は,平成12年8月29日に出願された特願2000-259621号の一部を,特許法44条1項の規定により平成20年6月6日に新たな特許出願とした特願2008-148813号の一部を,同項の規定により平成23年9月2日に新たな特許出願とした特願2011-191629号の一部を,さらに同項の規定により平成26年6月25日に新たな特許出願としたものであって,その経緯は,概ね次のとおりである。 平成27年 9月14日付け 拒絶理由通知書 平成27年11月27日付け 意見書及び手続補正書 平成28年 3月30日付け 拒絶査定 平成28年 6月16日付け 審判請求書 平成29年 4月17日付け 拒絶理由通知書 平成29年 5月26日付け 意見書及び手続補足書 第2 本願発明について 本願の請求項1?3に係る発明は,平成27年11月27日付けの手続補正書により補正された特許請求の範囲の請求項1?3に記載された事項により特定されるとおりのものであるが,そのうち請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)は,以下の事項により特定されるとおりのものである。 「【請求項1】 S-メチルシステインスルフォキシドの摂取量が成人1日当たり20?160mgとなるよう,1缶(160g)当たり10?80mgのアブラナ科植物由来のS-メチルシステインスルフォキシドを含有する野菜ジュースを,血清コレステロール値の高い人又は血清コレステロール値が高めの人に1日2缶ずつ3週間摂取させ,血清コレステロール値を低下させる方法。」 第3 拒絶理由の概要 当審において,平成29年4月17日付けの拒絶理由通知書において通知した拒絶理由の概要は,以下のとおりである。 この出願の請求項1?3に係る発明は,その出願前に日本国内又は外国において,頒布された下記の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて,その優先日前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法29条2項の規定により特許を受けることができない。 (引用例) 引用例1:矢ヶ崎一三,外2名,“システイン誘導体による担癌時高コレステロール血症の抑制とその機構”,必須アミノ酸研究,1998,No.151,p.45-47 引用例2:林,“リポ蛋白代謝関連酵素 1 Cholesterol7α-hydroxylase”,動脈硬化,1995,Vol.23,No.1・2,p.81-88 引用例3:Experientia, 1972, Vol.28, No.3, p.254-255 引用例4:Journal of Food Science, 1994, Vol.59, No.2, p.350-355 引用例5:園学雑.(Journal of the Japanese Society for Horticultural Science), 1999, Vol.68, No.3, p.694-696 引用例6:Phytochemistry of Fruit and Vegetables, CLARENDON PRESS・OXFORD, 1997, p339 引用例7:腸内細菌学雑誌,2000年1月,Vol.13,p.67-74 第4 引用例に記載された事項 1 引用例1について 引用例1には,以下の事項が記載されている(下線は当審で付与した。以下同じ。) ・「担癌ラットへのキャベツジュースの投与は,癌性悪液質としての高コレステロール血症を軽減化させることを見いだした。そこで本研究では,キャベツジュースによる担癌時高コレステロール血症低減化の確認,作用物質の同定および作用機構の解明を目的とした。」(45頁5?8行) ・「[実験方法] 市販のキャベツを水洗後よく水切りしてジューサーにかけ,出てきた野菜汁を遠心し,その上清を濾過したものをキャベツ抽出物とした。 動物として,4週齢で購入したドンリュウ系雄ラットを固型飼料(CE-2)で2週間予備飼育したものを用いた。モデル癌細胞として腹水肝癌AH109Aを使用した。本癌細胞をラット1頭当たり5×10^(5)個となるよう背部皮下へ移植後,全ラットに標準食の20%カゼイン食を2週間摂取させた。移植後はゾンデを用いて1ml/100g体重/日の用量で,(1)水(対照群,C群),(2)キャベツジュース(CJ群),(3)S-メチル-L-システインスルフォキシド(SMCS群)を1日1回計14回経口投与した。14日目の午前9時に最終投与後飼料を取り,午後1時から屠殺した。 血清と肝臓の脂質レベル,肝臓の脂質合成能,糞中へのステロイド排泄量,肝臓のコレステロール7α-ハイドロキシラーゼ(Ch7αH)活性等を測定した。」(45頁9?19行) ・「[結果と考察] SMCSは,キャベツ,カリフラワー,アブラナ等のアブラナ科植物に存在するS-アルキルシステインスルフォキシド類の一つで,高コレステロール食摂取時の外因性高コレステロール血症を抑制することが既に報告されている。そこで,担癌時の内因性高コレステロール血症に対し低下効果を示すキャベツ抽出物中の有効成分の一つがSMCSであると仮定し,キャベツ抽出物投与群とともにSMCS投与群も設けた。」(45頁20行?46頁1行) ・「 」(46頁表1) ・「 」(46頁表2) ・「表1に示したように,・・・血清総コレステロール(T-Ch)濃度は対照群に比べCJ群およびSMCS群で有意に低下し,それは超低密度+低密度リポ蛋白質(VLDL+LDL)-Ch濃度の低下に基づくことが確認できた。」(46頁2?4行) ・「表2に示したように,肝の脂肪酸(FA)およびChの合成能は3群間で差は認められなかった。・・・しかし,胆汁酸排泄量および胆汁酸合成の律速酵素である肝臓Ch7αH活性はともに対照群に比べCJおよびSMCS投与群で有意に上昇していた。」(47頁2?5行) ・「以上の成績から,キャベツジュースによる担癌時高コレステロール血症軽減化作用が確認され,キャベツ中の有効成分の一つがSMCSであること,その作用機構として胆汁酸合成の律速酵素であるCh7αHの活性化によるChの胆汁酸への異化排泄促進が考えられることが明らかとなった。」(47頁6?8行) 2 引用発明 引用例1の記載からすると,引用例1には次の発明(以下「引用発明」という。)が記載されているといえる。 (引用発明) 「S-メチル-L-システインスルフォキシド(SMCS)を含有するキャベツジュースを,担癌ラットに投与し,担癌ラットの血清コレステロール濃度を低下させる方法。」 3 引用例2?7に記載された事項 (1) 引用例2 ・「P-450Ch7α系のうちチトクロームP450酵素であるP-450Ch7αの精製は古くから試みられたが,・・・1987年に奥田らによってラット肝臓から・・・6段階の方法で単一蛋白までに精製された.」(81頁右欄下から4行?82頁左欄2行) ・「精製P-450Ch7αの抗体を用いてラット肝臓から,次いでヒト肝臓からcDNAがクローニングされ塩基配列が決定された.」(83頁左欄末行?右欄2行) ・「ヒトとラットのCYPの5’上流プロモーター領域の構造をFig.4cに示す.両者には共通したTATAA配列がみられる.」(85頁左欄下から2行?右欄1行) ・「1994年に,Chiangらによって,疎水性胆汁酸による転写レベルでのP-450Ch7αの負のフィードバック機序がラットCYP7を用いて詳細に調べられた.・・・そしてBile acid-responsive elementの中核はDirect repeat配列・・・と考えられる・・・.このDirect repeat配列はヒトのプロモーター領域にも認められる.」(86頁左欄末行?87頁左欄9行) (2) 引用例3 (訳文は当審による。以下同様。) ・「For example according to the study of TSUNO of our department, amounts of SMCS are 590 mg/100g in cabbage, 650mg/100g in cauliflower or 60mg/100g in radish.」(254頁左下欄3?6行) (例えば,我々の学部のTSUNOの研究によれば,SMCSの量はキャベツでは590mg/100g,カリフラワーでは650mg/100g,ラディッシュでは60mg/100gである。) (3) 引用例4 ・「S-Methyl-L-cystein sulfoxide (SMCSO) was present in several cultivars of cabbage (Brassica oleracea) at 690-1,120 ppm.」(350頁 ABSTRACT) (S-メチル-L-システインスルホキシド(SMCSO)(SMCSと同じ:当審注)はキャベツ(Brassica oleracea)のいくつかの栽培品種において,690-1,120ppm存在していた。) ・「Reported SMCSO contents of cabbage cvs. have been 185 to 2,218 ppm, fresh weight basis (Synge and Wood, 1956; Morris and Thompson, 1956; Bradshaw and Borzucki, 1982; Marks et al., 1992).」(352頁右欄17?21行) (訳:報告されたキャベツ栽培品種中のSMCSO(SMCS)の含有量は,新鮮野菜重量を基準として185から2,218ppmであった(以下,省略)。) (4) 引用例5 ・「 」(p.695 表1) (5) 引用例6 ・「 」(p.339 表17.2) (6) 引用例7 ・「近年,・・・高血圧症,糖尿病,高脂血症など生活習慣病が急増し・・・ている.・・・高脂血症などある種の生活習慣病は脂質の過剰摂取や食物繊維摂取の減少と深くかかわっていることが知られており,食物繊維の摂取を前提として緑黄色野菜,・・・など食物繊維の多い食品の摂取が推奨されてきた.」(68頁左欄1?12行) ・「1.供試飲料 本試験に使用した飲料はサンスター(株)製「おいしい青汁」で,緑色野菜(ブロッコリー,セロリ,レタス,キャベツ,ほうれん草,パセリ,大根葉,小松菜)および果物(リンゴ,レモン)の搾汁からなる野菜・果物混合飲料の缶詰である.その1缶(内容量160g)あたりの栄養表示をTable1に示す.」(68頁左欄下から6行?右欄1行) ・「4.摂取方法 摂取期間中7名の被験者全員に,供試飲料を1日2缶,朝・夕各1缶ずつ,3週間通常の食事に加えて飲用させた.」(68頁右欄15?18行) 第5 対比及び判断 1 対比 本願発明と引用発明とを,その機能に照らして対比すると,以下のことがわかる。 (1) 引用発明の「S-メチル-L-システインスルフォキシド(SMCS)」は,本願発明の「S-メチルシステインスルフォキシド」に相当する(以下,「S-メチルシステインスルフォキシド」を「SMCS」という。)。 (2) キャベツはアブラナ科植物であるから,引用発明のSMCSはアブラナ科植物由来であることは明らかである。 (3) 引用例1には,実験方法として「市販のキャベツを水洗後よく水切りしてジューサーにかけ,出てきた野菜汁を遠心し,その上清を濾過したものをキャベツ抽出物とした。」と調製方法が記載され,この「キャベツ抽出物」を「キャベツジュース(CJ群)」として用いたことは明らかである。 一方,本願明細書の発明の詳細な説明には,「野菜ジュースとしては,SMCSを含有する植物としてブロッコリー,キャベツ及びケールの少なくとも1種を配合したものが好ましい。・・・該野菜ジュースにおいて,ブロッコリー,キャベツ及びケールは搾汁及びピューレとして配合するのが好ましく,・・・」(【0018】)との記載があるから,引用発明の「キャベツジュース」は,本願発明の「野菜ジュース」に対応する。 (4) 引用発明の「担癌ラットの血清コレステロール濃度を低下させる」ことは,担癌ラットに摂取させた際の作用であり,「濃度」は「値」と表現できるから「血清コレステロール値を低下させる」ことに包含される。 (5) そうすると,本願発明と引用発明とは以下の点で一致し,相違することがわかる。 (一致点) 「アブラナ科植物由来のS-メチルシステインスルフォキシドを含有する野菜ジュースを,対象に摂取させ,血清コレステロール値を低下させる方法。」 (相違点1) 本願発明は,野菜ジュースが「S-メチルシステインスルフォキシドの摂取量が成人1日当たり20?160mgとなるよう,1缶(160g)当たり10?80mg」のSMCSを含有するのに対して,引用発明では,それが明らかでない点。 (相違点2) 本願発明は「血清コレステロール値の高い人又は血清コレステロール値が高めの人」を対象としているのに対して,引用発明では「担癌ラット」を対象としている点。 (相違点3) 本願発明は「1日2缶ずつ3週間」摂取させるのに対して,引用発明ではそれが明らかでない点。 2 判断 (1) 相違点2について 引用例1には,ラットにおいて,血清総コレステロール(T-Ch)濃度は,対照群に比べキャベツシュース(CJ)群及びSMCS群で有意に低下したこと,及び,胆汁酸排泄量及び胆汁酸合成の律速酵素である肝臓Ch7αH活性はともに対照群に比べCJ及びSMCS投与群で有意に上昇していたことを実験的に確認したことが記載されている(46頁2?4行,47頁2?5行)。 そして,SMCSを含有するキャベツジュース及びSMCSが血清コレステロールを低下させる作用機構として,胆汁酸合成の律速酵素であるコレステロール7α-ハイドロキシラーゼ(Ch7αH)の活性化によるCh(コレステロール:当審注)の胆汁酸への異化排泄促進が考えられることが記載されている(47頁6?8行)。 このコレステロール7α-ハイドロキシラーゼ(Ch7αH)は,ラットにもヒトにも共通に存在する酵素であることが周知であるから(例えば,引用例2参照。前記第4・3(1)),引用例1の記載に基づき,引用発明のキャベツジュースについて,人に摂取させた場合も,同様のCh7αHの活性化により血清コレステロール値が低下することは期待し得る。 そして,引用例1に記載された研究内容が,高コレステロール血症の人への適用を前提としたものであることは,当業者にとって明らかである。 よって,引用発明に係るキャベツジュースを,「血清コレステロール値の高い人又は血清コレステロール値が高めの人」に摂取させてみることは,当業者であれば容易に想到し得ることである。 (2) 相違点1について 有効成分の作用効果の程度を考慮して,1日当たりの有効成分の摂取量の好ましい範囲を適宜調整することは一般的に行われていることであるから,引用発明において,SMCSの血清コレステール低下作用が得られる必要最小限のSMCSの摂取量を種々実験検討し,成人1日当たりの摂取量として導き出すことは,通常の創作活動の範囲内のことである。 また,生のキャベツにおけるSMCSの含有量は,100g当たり18?590mg程度の量であるから(引用例3?6参照。前記第4・3(2)?(5)),本願発明の1日当たりのSMCSの摂取量は,生のキャベツならば100g程度の量で,キャベツジュースであっても成人が1日で十分摂取可能な量である。 ところで,野菜ジュースは,生のままの野菜は摂取しにくいところを野菜の栄養素を手軽に摂取したいとの要請に応じた商品として市販されているものであるが,このようなジュースの形態である引用発明のキャベツジュースであれば,なおさら,生のキャベツ100g程度に相当するキャベツジュースの量は1日で摂取可能であり,SMCSの摂取量が成人1日当たり20?160mgとなるように摂取すべきキャベツジュースの量は,成人が1日に野菜ジュースとして普通に摂取し得る量といえる。 この点に関し,請求人は,キャベツの一日摂取量は約20?28g/日程度,野菜ジュースの1日摂取量は約9?13g/日程度であり,1日100gの生キャベツを摂取するには通常の約4倍量を摂取しなければならず,さらにそれを3週間継続することは,到底容易ではない,と主張している(平成29年5月26日付け意見書(2))。 しかし,昨今,健康に対する意識が高まる中で,血清コレステロール値に気を配ることは特別のことではなく,血清コレステロール値の高い人,高めの人にとって,生のキャベツ100g程度,それに相当するキャベツジュースの量は,3週間継続することが困難となるほどの量ではなく,およそ採用し得ない量とは認められない。 よって,引用発明において,相違点1に係る摂取量とすることは,当業者にとって格別困難なことではない。 (3) 相違点3について 引用例7に記載のように(前記第4・3(6)),1缶の内容量が160gである野菜・果物混合飲料の缶詰を,被験者に1日2缶ずつ3週間にわたって飲用させることは,当技術分野では普通に行われていることである。 そして,所定の摂取量に関し,飲用スケジュールをどのように設定するかは,当業者が適宜に決定すべきことであり,特に,血清コレステロール値の高い人,高めの人にとって,抑制効果が期待できるとされた飲料であれば,1日2缶(例えば,朝夕)を3週間継続することが格別困難な飲用スケジュールとは認められない。 この点に関し,請求人は,1缶の内容量が160gである野菜・果物混合飲料の缶詰を,被験者に1日2缶ずつ3週間にわたって飲用させることは,当技術分野では普通に行われていることではない,引用発明において,血清コレステロール値の低下に言及のない引用例7の飲用スケジュールを採用する動機付けがない,と主張している(同意見書(3))。 しかし,例えば,1日2回食事に合わせて飲用するといったスケジュールはごく自然なものであり,継続期間を1か月程度に設定することも,健康食品であれば特別なこととは認められない。 また,引用例7に係る研究の背景,飲料の内容に照らせば(前記第4・3(6)),引用発明の飲用スケジュールを設定する上で,十分に参考になるものである。 よって,引用発明において,「1日2缶ずつ3週間」摂取することは,当業者が適宜決定し得ることである。 (4) 本願発明の効果をみても,当業者であれば,引用例1に記載された事項,周知の技術的事項から予測できたものである。 この点に関し,請求人は,本願明細書には,試験例1では,野菜ジュースを1日1缶ずつ1ヶ月飲用させたところ(【0035】),SMCS摂取量が30mg/dayの場合に総コレステロール値が252mg/dlから230mg/dl(変化率-8.7%)へ有意に減少したが(【表1】試験群2),1日2缶ずつ飲用させた場合には,SMCS摂取量20mg/dayを3週間飲用させただけで,総コレステロール値が250mg/dlから230mg/dl(変化率-8.0%)へ有意に減少したことが示されており(【表3】試験群4),1日2缶ずつ飲用させた場合には,1日1缶ずつ飲用させた場合に比べて,一日摂取量が少なく且つ飲用期間も短い段階で,同程度の総コレステロール低下効果が得られることが示されている,一日摂取量を一時に摂取するよりも「1日2缶ずつ」として2回に分けて摂取することにより,摂取すべき量を削減し且つ効果を得るための飲用期間も短くすることができる,と主張している(同意見書(3))。 しかし,試験例1,2とも,使用した野菜ジュース,飲用スケジュールの詳細等,前提の条件は定かではない上,同じ時期(3週間後)で比較したものでもないから,これらの単なる比較により,上記請求人が主張する本願発明の効果を認めることはできない(総コレステロール値が低下する様子は不明で,試験例1において3週間経過前に同程度にまで値が低下していた可能性も排除できない。なお,LDLコレステロール値に関しては,試験例2は試験例1と同程度まで低下していない。)。 また,試験例3の高脂血症患者に係る結果についても,引用例1の記載内容からすれば,当業者にとって予測の範囲内のものである。 試験例3の高脂血症患者ではない被験者に係る結果(コレステロール値低下の幅が小さく,低下した後の値も正常値の範囲内であったこと)についてみても,飲用した野菜ジュースは,生のキャベツ100g程度に相当する野菜ジュースであって,一般に食されている野菜からなる野菜ジュースを通常摂取し得る範囲内で摂取したに過ぎない。一般に食されている食品を通常の摂取量で摂取しても重篤な副作用を生じないと考えるのが自然であるし,一般に食されている野菜からなる野菜ジュースを通常摂取し得る範囲内で摂取しただけで悪影響が出るほどにコレステロール値が低下することはないことは,人体の恒常性(ホメオスタシス)等の技術常識からみて明らかであるから,高脂血症患者の結果に対し,高脂血症患者ではない人に対する血清コレステロール値低下作用が適度な範囲内であること(正常値の範囲内であること)は,当業者が予測し得る範囲内のものである。 そして,試験例4の結果(1日1缶ずつ12週間飲用させた後に,1日2缶ずつ3週間飲用させ,その後飲用中止した結果)から,当然に,単に「1日2缶ずつ3週間」で摂取させることで飲用中止後にコレステロール値の上昇が抑えられると評価できるものでもない。 (5) 以上のとおりであるから,本願発明は,引用発明及び周知の技術的事項に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものである。 第6 むすび 以上のとおり,本願発明(請求項1に係る発明)は,引用発明及び周知の技術的事項に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法29条2項の規定により特許を受けることができない。 そして,本願発明が特許を受けることができない以上,その余の請求項に係る発明について検討するまでもなく,本願は拒絶すべきものである。 よって,結論のとおり審決する。 |
審理終結日 | 2017-09-20 |
結審通知日 | 2017-09-26 |
審決日 | 2017-10-10 |
出願番号 | 特願2014-130074(P2014-130074) |
審決分類 |
P
1
8・
121-
WZ
(A23L)
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最終処分 | 不成立 |
前審関与審査官 | 小石 真弓 |
特許庁審判長 |
紀本 孝 |
特許庁審判官 |
窪田 治彦 莊司 英史 |
発明の名称 | ヒト血清コレステロール値低下作用を有する食品及びヒト高コレステロール血症予防又は治療剤 |
代理人 | 特許業務法人三枝国際特許事務所 |