• ポートフォリオ機能


ポートフォリオを新規に作成して保存
既存のポートフォリオに追加保存

  • この表をプリントする
PDF PDFをダウンロード
審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 B60C
管理番号 1334889
審判番号 不服2017-431  
総通号数 217 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2018-01-26 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2017-01-12 
確定日 2017-11-24 
事件の表示 特願2015-101263号「タイヤ」拒絶査定不服審判事件〔平成27年 8月27日出願公開、特開2015-155304号〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、平成22年8月25日に出願された特願2010-188919号(以下「原出願」という。)の一部を、平成27年5月18日に新たな特許出願としたものであって、平成28年3月31日付けで拒絶理由が通知され、同年5月13日に意見書及び手続補正書が提出され、同年10月24日付けで拒絶査定がされ、平成29年1月12日に拒絶査定不服審判が請求されたものである。

第2 当審の判断
1 本願発明
本願の請求項1?4に係る発明は、平成28年5月13日付け手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項1?4に記載された事項により特定されるものと認められるところ、請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)は、次のとおりである。
「少なくとも、熱可塑性樹脂材料で形成され且つ環状のタイヤ骨格体を有するタイヤであって、
前記タイヤ骨格体の外周部に周方向に巻回されて補強コード層を形成する金属製の補強コード部材を有し、
前記熱可塑性樹脂材料が、少なくともポリアミド系熱可塑性エラストマーを含み、
前記補強コード部材は、少なくとも一部が前記タイヤ骨格体の外周部に埋設されているタイヤ。」

2 刊行物の記載事項及び刊行物に記載された発明
(1)刊行物1の記載事項
原査定の拒絶の理由に引用文献1として示され、原出願の出願日前に頒布された特開昭54-162307号公報(以下「刊行物1」という。)には、図面と共に次の事項が記載されている。なお、下線は当審で付与した。以下同様。また、促音、拗音は小文字で表記した。
ア 「2.特許請求の範囲
(1) 環状の接地用トレッドと、このトレッドの側縁を環状のビード部に連結するサイドウォールと、一方のビード部から他方のビード部まで連続的に延在して前記トレッドの半径方向内方にサイドウォール、クラウン部を構成しているキャストボデーと、このキャストボデーの前記クラウン部に接触するガードル部材と、前記キャストボデーの前記クラウン部と前記トレッドの境界面に設けた接着剤層とを包含し、前記トレッドがカーボンブラック補強のゴムコンパウンドから成り、前記キャストボデーおよびビード部がヤング率5,000乃至15,000Psi(350乃至1050kg/cm^(2))の粘弾性材料から成り、前記ビード部が環状の無伸長ビード部材を含み、前記ガードル部材がほぼ周方向に平行に延びた補強コードの層を包含し、前記ガードル部材および前記キャストボデーのクラウン部がほぼ等しいポアソン比を有し、前記ガードル部材が前記クラウン部のモジュラスよりも大きいモジュラスを有することを特徴とする空気入りタイヤ。
(2) 特許請求の範囲第1項記載のタイヤにおいて、ガードル部材がキャストボデーのクラウン部に完全に埋め込んであることを特徴とするタイヤ。」(第1ページ左下欄第4行?同ページ右下欄第9行)

イ 「このタイヤのキャストボデーに用いる材料は、下記の物理的限界に合致する限り、コード補強部材のないキャストボデ一式タイヤに用いることをすすめられている公知の高モジュラス粘弾性材のいかなるものでもよい。」(第5ページ左上欄第5?9行)

ウ 「ガードル部材の補強コードに用いる材料は空気入りタイヤで用いる公知の補強材料の任意のものでよい。たとえば、アラミド(aramid)、ポリエステル、鋼、ガラス、レーヨン、ポリビニルアルコール、ナイロンがある。最後の材料はその固有の伸び特性により最も望ましくないものであるが、比較的伸長のない好しい材料はアラミド、鋼、ガラスである。」(第6ページ左下欄第3?10行)

エ 「第1図は全体的に10でタイヤを示しており、このタイヤは接地用トレッド11、ボデー12および環状のビード15、16を有する。ボデー12はビード15からビード16まで連続的に延びており、サイドウォール13および連結クラウン部14を包含し、このクラウン部はトレッド11の半径方向下方にある。
この実施例において、補強コード18から成るガードル部材17はボデー12の連結クラウン部14に埋め込まれている。ゴムトレッド11とクラウン部14の境界面20には接着剤が塗布してある。
第2図において、このタイヤの構成部分は第1図と同じ符号で示してある。第2図は本発明のタイヤを中間組立段階の後にモールド29内に置いた状態で示してある。この方法において、芯30の外周面21は平らであって、ガードル部材の直径に一致する。ガードル部材17は、予め組立てた平行コード層を当てがうか、あるいは芯の外周面21に1本のコードをらせん状に巻き付けるかすることによって芯の平らな外周面21上に設置する。」(第7ページ右下欄第1行?第8ページ左上欄第3行)

(2)刊行物1に記載された発明
上記(1)より、刊行物1には、次の発明(以下「引用発明」という。)が記載されているものと認める。なお、上記(1)エの「ボデー12」は、上記(1)アの「キャストボデー」に対応することは明らかであるから、同じ符号を用いた。
「環状の接地用トレッド11と、このトレッド11の側縁を環状のビード部に連結するサイドウォール13と、一方のビード部から他方のビード部まで連続的に延在して前記トレッド11の半径方向内方にサイドウォール13、クラウン部14を構成しているキャストボデー12と、このキャストボデー12の前記クラウン部14に接触するガードル部材17と、前記キャストボデー12の前記クラウン部14と前記トレッド11の境界面20に設けた接着剤層とを包含し、前記トレッド11がカーボンブラック補強のゴムコンパウンドから成り、前記キャストボデー12およびビード部がヤング率5,000乃至15,000Psi(350乃至1050kg/cm^(2))の粘弾性材料から成り、前記ビード部が、環状の無伸長ビード部材を含み、前記ガードル部材17がほぼ周方向に平行に延びた鋼の補強コード18の層を包含し、前記ガードル部材17がキャストボデー12のクラウン部14に完全に埋め込んであり、前記ガードル部材17および前記キャストボデー12のクラウン部14がほぼ等しいポアソン比を有し、前記ガードル部材17が前記クラウン部14のモジュラスよりも大きいモジュラスを有する空気入りタイヤ。」

(3)刊行物2の記載事項
原査定の拒絶の理由に引用文献2として示され、原出願の出願日前に頒布された特開2003-104005号公報(以下「刊行物2」という。)には、図面と共に次の事項が記載されている。
ア 「【0013】図1及び図2は本発明の実施形態からなる空気入りタイヤを示し、1はトレッド部、2はサイドウォール部、3はビード部である。左右一対のビード部3,3間に跨がるタイヤ骨格部材4は、撚りコードを用いることなく、即ち、抗張材としての撚りコードを排除しつつ、トレッド部1からビード部3にかけて複数種類の高分子材料から構成されている。つまり、タイヤ骨格部材4は、タイヤ子午線断面において、ヤング率が異なる複数の高分子材料層4A,4B,4C,4D,4E,4F,4Gを備えている。これら高分子材料層4A?4Gはそれぞれタイヤ周方向に連続的に延在している。ビード部3において、タイヤ骨格部材4には環状のビードコア5が埋設されている。このビードコア5は金属ワイヤのようにタイヤ骨格部材4を構成する高分子材料よりも引張り強度が高い材料から構成すると良い。
【0014】また、トレッド部1におけるタイヤ骨格部材4の外周上にはトレッド層6が積層されている。このトレッド層6は従来から使用されているキャップトレッド用のゴム組成物から構成すると良い。ショルダー部7はトレッド部1とサイドウォール部2との間に位置する部位である。なお、タイヤ内面にはインナーライナー層を適宜設けても良い。」

イ 「【0026】タイヤ骨格部材4を構成する高分子材料のヤング率は、好ましくは10?500MPa、より好ましくは15?450MPa、更に好ましくは20?400MPaとする。・・・
【0027】タイヤ材料として使用可能であって、かつ上記ヤング率を呈する高分子材料としては、下記のものを挙げることができる。・・・
(1)ゴム及び/またはゴム組成物
・・・
【0028】ゴム組成物としては、・・・
(2)熱可塑性樹脂及び/または熱可塑性樹脂組成物
熱可塑性樹脂及び/または熱可塑性樹脂組成物は、以下例に挙げた熱可塑性樹脂または任意に選ばれた2種以上の熱可塑性樹脂の混合物、またはそれら樹脂および配合剤から成る組成物である。
【0029】熱可塑性樹脂としては、例えば、・・・熱可塑性エラストマー(例えばスチレン系エラストマー、オレフィン系エラストマー、ポリエステル系エラストマー、ウレタン系エラストマー、ポリアミド系エラストマー)等を使用することができる。」

(4)刊行物3の記載事項
原査定の拒絶の理由に引用文献3として示され、原出願の出願日前に頒布された特開2003-104008号公報(以下「刊行物3」という。)には、図面と共に次の事項が記載されている。
ア 「【0012】図1及び図2は本発明の実施形態からなる空気入りタイヤを示し、1はトレッド部、2はサイドウォール部、3はビード部である。左右一対のビード部3,3間に跨がるタイヤ骨格部材4は、撚りコードを用いることなく、即ち、抗張材としての撚りコードを排除しつつ、トレッド部1からビード部3にかけて単一の高分子材料から構成されている。ビード部3において、タイヤ骨格部材4には環状のビードコア5が埋設されている。このビードコア5は金属ワイヤのようにタイヤ骨格部材4を構成する高分子材料よりも引張り強度が高い材料から構成すると良い。また、トレッド部1におけるタイヤ骨格部材4の外周上にはトレッド層6が積層されている。このトレッド層6は従来から使用されているキャップトレッド用のゴム組成物から構成すると良い。ショルダー部7はトレッド部1とサイドウォール部2との間に位置する部位である。」

イ 「【0023】タイヤ骨格部材4を構成する高分子材料のヤング率は、好ましくは10?500MPa、より好ましくは30?300MPa、更に好ましくは50?250MPaとする。・・・
【0024】タイヤ材料として使用可能であって、かつ上記ヤング率を呈する高分子材料としては、下記のものを挙げることができる。
(1)ゴム及び/またはゴム組成物
・・・
【0025】ゴム組成物としては、・・・
(2)熱可塑性樹脂及び/または熱可塑性樹脂組成物
熱可塑性樹脂及び/または熱可塑性樹脂組成物は、以下例に挙げた熱可塑性樹脂または任意に選ばれた2種以上の熱可塑性樹脂の混合物、またはそれら樹脂および配合剤から成る組成物である。
【0026】熱可塑性樹脂としては、例えば、・・・熱可塑性エラストマー(例えばスチレン系エラストマー、オレフィン系エラストマー、ポリエステル系エラストマー、ウレタン系エラストマー、ポリアミド系エラストマー)等を使用することができる。」

3 対比
(1)本願発明と引用発明とを対比すると、引用発明の「キャストボデー2」は本願発明の「タイヤ骨格体」に相当し、以下同様に、「クラウン部14」は「外周部」に、「補強コード18」は「補強コード部材」に、「空気入りタイヤ」は「タイヤ」にそれぞれ相当する。

(2)後者の「キャストボデー2」は環状をなすことは明らかである。また、後者の「ガードル部材17」は層状をなすことは明らかであり、前者の「補強コード層」に相当するといえる。さらに、上記2(1)エの記載からみて、後者の「補強コード18」は、「クラウン部14」の周方向に巻回されていることも明らかである。加えて、後者の「鋼」は金属であることも明らかである。そして、前者の「前記補強コード部材は、少なくとも一部が前記タイヤ骨格体の外周部に埋設されている」ということは、全部を埋設することも含むものである。

(3)以上のことから、後者の「環状の接地用トレッド11と、このトレッド11の側縁を環状のビード部に連結するサイドウォール13と、一方のビード部から他方のビード部まで連続的に延在して前記トレッド11の半径方向内方にサイドウォール13、クラウン部14を構成しているキャストボデー12と、このキャストボデー12の前記クラウン部14に接触するガードル部材17と、前記キャストボデー12の前記クラウン部14と前記トレッド11の境界面20に設けた接着剤層とを包含し、前記トレッド11がカーボンブラック補強のゴムコンパウンドから成り、前記キャストボデー12およびビード部がヤング率5,000乃至15,000Psi(350乃至1050kg/cm^(2))の粘弾性材料から成り、前記ビード部が、環状の無伸長ビード部材を含み、前記ガードル部材17がほぼ周方向に平行に延びた鋼の補強コード18の層を包含し、前記ガードル部材17がキャストボデー12のクラウン部14に完全に埋め込んであり、前記ガードル部材17および前記キャストボデー12のクラウン部14がほぼ等しいポアソン比を有し、前記ガードル部材17が前記クラウン部14のモジュラスよりも大きいモジュラスを有する」と、前者の「少なくとも、熱可塑性樹脂材料で形成され且つ環状のタイヤ骨格体を有するタイヤであって、前記タイヤ骨格体の外周部に周方向に巻回されて補強コード層を形成する金属製の補強コード部材を有し、前記熱可塑性樹脂材料が、少なくともポリアミド系熱可塑性エラストマーを含み、前記補強コード部材は、少なくとも一部が前記タイヤ骨格体の外周部に埋設されている」とは、「少なくとも、環状のタイヤ骨格体を有するタイヤであって、前記タイヤ骨格体の外周部に周方向に巻回されて補強コード層を形成する金属製の補強コード部材を有し、前記補強コード部材は、少なくとも一部が前記タイヤ骨格体の外周部に埋設されている」の限度で一致するといえる。

(4)そうすると、本願発明と引用発明との一致点、相違点は以下のとおりである。
[一致点]
「少なくとも、環状のタイヤ骨格体を有するタイヤであって、前記タイヤ骨格体の外周部に周方向に巻回されて補強コード層を形成する金属製の補強コード部材を有し、前記補強コード部材は、少なくとも一部が前記タイヤ骨格体の外周部に埋設されているタイヤ。」

[相違点]
「タイヤ骨格体」の材料に関し、本願発明が、「熱可塑性材料で形成され」たものであって、「前記熱可塑性材料が少なくともポリアミド系熱可塑性エラストマーを含み」というものであるのに対し、引用発明は、そのように特定されていない点。

4 判断
上記相違点について検討する。
上記2(3)、(4)より、刊行物2または3には、「撚りコードを用いないタイヤ骨格部材を熱可塑性エラストマーのポリアミド系エラストマーで形成する」技術的事項が記載されているといえ、そのようなポリアミド系エラストマーは粘弾性材料といえるものである。
一方、刊行物1には、「コード補強部材のないキャストボデ一式タイヤに用いることをすすめられている公知の高モジュラス粘弾性材のいかなるものでもよい」(2(1)イ)と記載されており、公知の材料を広く採用可能であることが示唆されているといえる。
そして、一般に同一ないし近似する技術分野の技術の適用を試みることは当業者の通常の創作能力の発揮にすぎないことから、キャストにより製造されたものではないものの上記示唆と同様撚りコード(刊行物1でいうコード補強部材)を用いないタイヤ骨格部材(刊行物1でいうボデー)に関するものである上記刊行物2または3に記載された技術的事項の材料を採用する動機付けは充分にあるといえる。
また、引用発明は、キャストボデー12の粘弾性材料が「ヤング率5,000乃至15,000Psi」のものであるところ、刊行物2には、「タイヤ骨格部材4を構成する高分子材料のヤング率は、好ましくは10?500MPa、より好ましくは15?450MPa、更に好ましくは20?400MPa」(2(3)イ)との記載があり、刊行物3には「タイヤ骨格部材4を構成する高分子材料のヤング率は、好ましくは10?500MPa、より好ましくは30?300MPa、更に好ましくは50?250MPa」(2(4)イ)との記載がある。そして、1MPa=145.03Psiで換算すると、引用発明のヤング率は約34.5MPa?103.4MPaになり、刊行物2または3で好ましいとされるヤング率の数値範囲は、引用発明のヤング率を含むものであって、引用発明のヤング率及び刊行物2または3のヤング率に関する記載を検討しても上記採用を阻害するような要因となるとはいえず、また、他にも上記採用を阻害するような要因は見当たらない。
したがって、引用発明に刊行物2または3に記載された技術的事項の材料を採用して、上記相違点に係る本願発明の事項を有するものとすることは、当業者であれば容易に想到し得たことである。

そして、本願の請求項1に対応する本願明細書の段落【0008】?【0010】に記載される作用効果(補強コード部材を有機繊維とした場合を除く。)を検討しても、一般的に知られるポリアミド系熱可塑性エラストマー自体が有する融点や溶融粘度等の物性や、刊行物2または3に記載された「熱可塑性エラストマーのポリアミド系エラストマー」(ポリアミド系熱可塑性エラストマー)が「タイヤ骨格部材」(タイヤ骨格体)に用いられるものであることを考慮すれば、引用発明に刊行物2または3に記載された技術的事項の材料を採用した際の当業者にとって予測不可能な作用効果とまではいえない。

よって、本願発明は、引用発明及び刊行物2または3に記載の技術的事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものである。

5 むすび
以上のとおり、本願発明は、引用発明及び刊行物2または3に記載の技術的事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
したがって、その余の請求項について検討するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2017-09-20 
結審通知日 2017-09-26 
審決日 2017-10-12 
出願番号 特願2015-101263(P2015-101263)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (B60C)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 倉田 和博  
特許庁審判長 和田 雄二
特許庁審判官 尾崎 和寛
一ノ瀬 覚
発明の名称 タイヤ  
代理人 加藤 和詳  
代理人 福田 浩志  
代理人 中島 淳  

プライバシーポリシー   セキュリティーポリシー   運営会社概要   サービスに関しての問い合わせ