• ポートフォリオ機能


ポートフォリオを新規に作成して保存
既存のポートフォリオに追加保存

  • この表をプリントする
PDF PDFをダウンロード
審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 取り消して特許、登録 G02B
管理番号 1334946
審判番号 不服2017-474  
総通号数 217 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2018-01-26 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2017-01-12 
確定日 2017-12-19 
事件の表示 特願2011- 88690「偏光サングラス」拒絶査定不服審判事件〔平成24年11月12日出願公開,特開2012-220852,請求項の数(2)〕について,次のとおり審決する。 
結論 原査定を取り消す。 本願の発明は,特許すべきものとする。 
理由 第1 手続の経緯
本件拒絶査定不服審判事件に係る出願(以下,「本願」という。)は,平成23年4月12日の出願であって,平成27年2月6日付けで拒絶理由が通知され,同年4月6日に意見書及び手続補正書が提出され,同年9月29日付けで拒絶理由が通知され,同年12月7日に意見書及び手続補正書が提出され,平成28年5月27日付けで拒絶理由が通知され,同年7月25日に意見書及び手続補正書が提出されたが,同年9月5日付けで平成28年7月25日提出の手続補正書による補正が却下されるとともに拒絶査定(以下,「原査定」という。)がなされたものである。
本件拒絶査定不服審判は,これを不服として,平成29年1月12日に請求されたものであって,本件審判の請求と同時に手続補正書が提出された。

第2 本願の請求項1及び2に係る発明
本願の請求項1及び2に係る発明は,平成29年1月12日提出の手続補正書によって補正された請求項1及び2に記載された事項によって特定される次のとおりのものと認められる。

「【請求項1】
ヨウ素化合物が吸着配向されたポリビニルアルコール層,及びこのポリビニルアルコール層の両面に設けられたトリアセチルセルロース層を有する多層構造の偏光フィルムと,この多層構造の偏光フィルムの片面に積層される基材フィルムとからなり,三次元曲面形状に形成されたレンズを備える偏光サングラスであって,
上記基材フィルムが,
厚みが100μm以上500μm以下であり,
可視光線透過率が87%以上であり,
ヘイズ値が1%以下であり,
面方向リタデーション値(Ro値)が200nm以下で,厚さ方向リタデーション値(Rth値)が400nm以下であり,
主ポリマーとしてシクロオレフィンコポリマーが用いられている偏光サングラス。
【請求項2】
上記基材フィルムの厚みが200μm以上である請求項1に記載の偏光サングラス。」(以下,請求項1及び2に係る発明をそれぞれ「本願発明1」及び「本願発明2」という。)


第3 原査定の拒絶の理由の概要
原査定の拒絶の理由は,概略次のとおりである。

本願の請求項1ないし3(審決注:平成27年12月7日提出の手続補正書による補正後の請求項1ないし3であり,当該請求項のうち請求項3に係る発明が本願発明1及び2に対応する。)に係る発明は,引用文献1に記載された発明及び引用文献2ないし5に記載された事項に基いて,その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法29条2項の規定により特許を受けることができない。

引用文献1:特開2008-276150号公報
引用文献2:特開2010-134424号公報
引用文献3:特開2006-168126号公報
引用文献4:特開2006-145581号公報
引用文献5:国際公開第2010/055261号

引用文献1に記載された発明において,ヘイズ値を低くすることは,引用文献2(【0038】)に記載された事項に基づいて,当業者が容易に想到し得たことであり,リタデーションの値を小さくすることは,引用文献3(【0021】),引用文献4(【0009】)に記載された事項に基づいて,当業者が容易に想到し得たことであり,レンズの基材としてシクロオレフィンコポリマーを用いることは,引用文献5(5ページ13ないし21行)等に示されるように周知技術である。


第4 原査定の拒絶の理由についての判断
1 引用例
(1)引用文献1
ア 引用文献1の記載
引用文献1は,本願の出願前に頒布された刊行物であるところ,当該引用文献1には次の記載がある。(下線は,後述する引用発明の認定に特に関係する箇所を示す。)
(ア) 「【特許請求の範囲】
【請求項1】
偏光フィルムの両面に接着剤を介してセルローストリアセテートフィルムを貼着して得た偏光シートの一方のセルローストリアセテートフィルム面に透明着色剤よりなる透明インクにてカラー印刷を施し,この印刷面に全光線透過率80%以上,厚さ0.1?0.3mmのプラスチックフィルムを接着剤を用いて積層して積層シートを得,次いでこの積層シートを成型目的物の外側形態に近い形状に該シートのセルローストリアセテートフィルムが外面になるように熱曲げ加工にて成形し,これを成型型内に挿入し,上記内側のプラスチックフィルム側に,該フィルムと融着するレンズ成型用樹脂材料を射出成型して得ることを特徴とする偏光性能を有する光学用積層成型品。
【請求項2】
偏光フィルムの両面に接着剤を介してセルローストリアセテートフィルムを貼着して得た偏光シートの一方のセルローストリアセテートフィルム面に透明着色剤よりなる透明インクにてカラー印刷を施し,また,他方のセルローストリアセテートフィルム面に全光線透過率80%以上,厚さ0.1?0.3mmのプラスチックフィルムを接着剤を用いて積層して積層シートを得,次いでこの積層シートを成型目的物の外側形態に近い形状に該シートのカラー印刷面が外面になるように熱曲げ加工にて成形し,これを成型型内に挿入し,上記内側のプラスチックフィルム側に,該フィルムと融着するレンズ成型用樹脂材料を射出成型して得ることを特徴とする偏光性能を有する光学積層成形品。
【請求項3】
偏光フィルムの両面に接着剤を介してセルローストリアセテートフィルムを貼着して得た偏光シートの一方のセルローストリアセテートフィルム面に全光線透過率80%以上,厚さ0.1?0.3mmのプラスチックフィルムを接着剤を用いて積層し,また他方のセルローストリアセテートフィルム面に透明着色剤よりなる透明インクにてカラー印刷を施して積層カラーシートを得,次いでこの積層カラーシートを成型目的物の外側形態に近い形状に該シートのカラー印刷面が外側になるように熱曲げ加工にて成形し,これを成型型内に挿入し,上記内側のプラスチックフィルム側に,該フィルムと融着するレンズ成型用樹脂材料を射出成型して得ることを特徴とする偏光性能を有する光学積層成型品。
【請求項4】
全光線透過率80%以上,厚さ0.1?0.3mmのプラスチックフィルムの片面に透明着色剤よりなる透明インクにてカラー印刷を施し,このプラスチックフィルムのカラー印刷面と,偏光フィルムの両面に接着剤を介してセルローストリアセテートフィルムを貼着して得た偏光シートとを接着剤を用いて積層して積層シートを得,次いでこの積層シートを成型目的物の外側形態に近い形状に該シートの一方のセルローストリアセテートフィルム面が外面になるように熱曲げ加工にて成形し,これを成型型内に挿入し,上記内側のプラスチックフィルム側に,該フィルムと融着するレンズ成型用樹脂材料を射出成型して得ることを特徴とする偏光性能を有する光学積層成型品。
【請求項5】
上記偏光シートは,偏光度が95%以上,全光線透過率が30%以上である偏光フィルムの両面にセルローストリアセテートフィルムを貼着して得た,厚さが1mm以下であることを特徴とする。」

(イ) 「【技術分野】
【0001】
本発明は 矯正用眼鏡,サングラス,ゴーグルなどのレンズとして用いる偏光光学レンズを経済的に色々な色に着色することにより多様な要望に対応することが出来る光学積層成型品に関するものである。更に詳しくは,積層成型する前に使用する偏光フィルムの表面に透明着色剤よりなる透明インクを用いて目的とする色,濃度に印刷を行い,その着色偏光フィルムを使用することにより光学積層成型品を得ることを特徴とするものである。
【背景技術】
【0002】
近年,眼鏡レンズ市場において,目を保護すると共に目に優しいレンズが要求されている。特に,従来はガラス製レンズが主流であったが,レンズの破損による事故から目を保護するためにプラスチック製レンズが主流となり,またプラスチック材料も破損しにくい材質のものへと変化してきている。
・・・(中略)・・・
【0004】
然るに,近年は更にその機能の上にレンズの色の多様化とレンズの色に様々な濃淡を付与することにより付加価値を高めるといったことが要望されている。
・・・(中略)・・・
【0007】
しかしながら,本発明が目的とする偏光光学レンズの場合,従来はそのカラー着色のほとんどが偏光性能を有するフィルムに着色することで対応されており,小ロットでの対応が非常に難しい。
・・・(中略)・・・
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
射出成型方法により偏光性能を有しながら,同時に小ロット対応で色々な色調,更には多様な模様を有する均一な品質を有する光学レンズを経済的に作り出すことが最も重要な課題である。
【0011】
従来の技術では,偏光性能は目的の色調にあった偏光性能を有する染料を使用して偏光シートを製造し,そのシートを使用して成型することで対応しているが,多様な色に対応するためには大量の色揃えをしたシートを用意せねばならず,経済的にも多くの問題があると共に,色調によっては偏光度の高いレンズが得られないといった欠点もある。また,レンズを成型後に染料による染色法で対応しても,染色による色調のばらつきや染色ムラによる不良が多く発生し,これも歩留まりを低下させるため経済性に問題がある。
【0012】
この発明は,上記の問題を解決するために鋭意検討の結果得られたものであるが,偏光性を有する積層成型品としては,本発明者が既に取得した日本特許第3681325号を基礎とするものである。つまり,近年生産及び用途が拡大されている液晶表示用に用いられる,光線透過率が高く,なおかつ高偏光度の偏光フィルムをベースとし,この片面のセルローストリアセテートフィルム面に透明着色剤よりなる透明インクにてカラー印刷を施し,印刷面もしくはもう一方の面にレンズ成型に使用する成型樹脂と融着するプラスチックフィルムを接着剤を介して貼合して得られた積層シート,または偏光シートの一方のセルローストリアセテート面とプラスチックフィルムを接着剤を介して貼合した後,もう一方のセルローストリアセテートフイルム面に印刷を施すことにより得られた積層シート,もしくは偏光シートと貼合するプラスチックフイルムの貼合する面に透明着色剤よりなる透明インクを印刷し,この面を接着剤を介して偏光シートのセルローストリアセテートフイルム面と積層し,この積層シートを成型目的物の外側形態に近い形状に成形し,これを成形型内に挿入し,上記プラスチックフィルム側に,該プラスチックフイルムと融着するレンズ成型用樹脂材料を射出成型することによってこの発明を完成させたものである。
・・・(中略)・・・
【発明の効果】
【0017】
この発明の上記請求項にて得られる光学積層成型品によれば,偏光フィルムの持つ高偏光性を特徴とし,さらにその表面に透明着色剤よりなる透明インクを用いて印刷することにより,均一な濃淡,色調,模様に小ロットで対応できる積層成型シートを経済的に得ることが出来るのである。この積層成型シートを目的の形状に熱成形し,これを射出成型型内に挿入し,光学レンズ用樹脂を射出成型することにより,偏光性能を有する度付レンズ,サングラスレンズ,スポーツゴーグルなどに使用できる積層成型品を得るに至ったものである。」

(ウ) 「【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
この発明において使用できる偏光シートは,ベースフィルムとして一般的に使用されているポリビニルアルコール系フィルムを耐湿熱性を有する二色性染料を用いて染色,延伸して製造した偏光フィルムと,この偏光フィルムの両面に光学的に優れた透明性を有するセルローストリアセテートフィルムを接着剤を用いて貼り合わせて構成された偏光シートであり,厚さが1mm以下,偏光度が95%以上,全光線透過率が30%以上のものが使用できる。この場合,偏光シートの厚さが1mm以上であれば,厚さが2mmのサングラスレンズの成型には成型樹脂の成型型内での流れが悪く,大きな歪が生じる。また,偏光度が95%以下のものは偏光レンズとしての認可対象外となるので使用できない。
【0019】
また,上記で偏光シートの一方のセルローストリアセテートフィルム面に接着剤を用いて積層する全光線透過率80%以上,厚さ0.1?0.3mmのプラスチックフィルムとしてはポリエステル系樹脂フィルム,ポリカーボネート系樹脂フィルム,ポリアリレート系樹脂フィルム,ポリアミド系樹脂フィルム,ポリオレフィン系樹脂フィルム,セルロース系樹脂フィルム,ポリウレタン系樹脂フィルム等が使用できる。この場合のフィルムの厚さが0.3mm以上であれば,このフィルムと偏光シートを貼りあわせた後熱曲げ成型を施すが,この時フィルム内に分子歪が生じやすくなり,その結果光学的な性能を損ない,また,さらにその歪を解消しようとすれば,熱曲げに要する時間が長くなり,製造時の経済性を損なうことになる。また,この厚さが0.1mm以下の場合はレンズ成型樹脂の成型時の熱と圧力と型内での樹脂流れによるせん断力でこのフィルムを通して外部にある偏光シートを破壊するために好ましくない。
【0020】
この発明で,フィルムとシートあるいはフィルム同士を接着,接合するのに用いる接着剤としては,湿気硬化型ポリウレタン系,熱硬化型のポリイソシアネートーポリエステルウレタン系,ポリイソシアネートーポリエーテルウレタン系,ポリイソシアネートーポリアクリル系,光硬化型のポリウレタン系,ポリウレタンーアクリレート系等の接着剤が使用できる。
【0021】
この発明で使用する透明着色剤よりなる透明インクとして使用できるインクとしては一般的にプラスチックフィルムに使用されている染料,有機顔料,通常の顔料を微粒子化した着色剤をポリウレタン系,ロジンエポキシ系,ロジンウレタン系,アクリレート系,エポキシアクリレート系,ウレタンアクリレート系等のインクビヒクルに配合した透明インク等が使用できる。
【0022】
また,透明インクにてカラー印刷を施すための印刷方法は,一般的に行われている印刷方法が使用できる。例えば,グラビア印刷,オフセット印刷,スクリーン印刷,凸版印刷,パッド印刷,インクジェット印刷等が使用できる。
【0023】
また,レンズ成型用樹脂材料としては,ポリカーボネート系樹脂,ポリアクリル系樹脂,ポリアミド系樹脂,ポリエステル系樹脂,ポリアリレート系樹脂,セルロース系樹脂,ポリウレタン系樹脂,ポリオレフィン系樹脂等の中から選択して用いればよい。
【0024】
かくして得られる,この発明の光学積層成型品は,偏光レンズ,サングラスレンズ,スポーツ用ゴーグル,矯正用眼鏡レンズとして使用できる。」

(エ) 「【実施例1】
【0026】
ヨウ素系染料を用いて偏光度99.9%,光線透過率45%のポリビニルアルコールでできた厚さ0.03mmの偏光フィルムの両面に0.08mmの厚さのセルローストリアセテートフィルムを接着することにより得られた厚さ0.19mmの偏光シート(住友化学工業社製,商品名スミカラン)を用い,この偏光シートの一方のセルローストリアセテートフィルム面に,全光線透過率が18%になるよう濃度調整したグレー色に着色した透明インクをグラビア印刷機にて印刷を施し,この印刷面に全光線透過率89%,厚さ0.18mmのポリカーボネート樹脂フィルムを,ポリイソシアネートーポリエステルポリウレタンの二液硬化型接着剤を用いて接着積層した。
【0027】
この積層シートのセルローストリアセテートフィルム側が凸面に,またポリカーボネート樹脂フィルム側が凹面になるように熱曲げ加工し,これを射出成型型内に装着し,ポリカーボネート樹脂フィルム側に光学用ポリカーボネート樹脂を射出成型することで,厚さ2.0mmの偏光レンズを得た。このようにして構成された偏光レンズを眼鏡として使用する場合,セルローストリアセテートフィルムが最外側にあり,ポリカーボネート樹脂フィルムが最内側の眼球側となる。
【0028】
この得られたレンズの全光線透過率は15%であった。」

イ 引用文献1に記載された発明
前記アで摘記した引用文献1の記載から,実施例1の偏光レンズをレンズとして用いたサングラスについての発明を把握できるところ,当該発明の構成は次のとおりである。
「ヨウ素系染料を用いて偏光度99.9%,光線透過率45%のポリビニルアルコールでできた厚さ0.03mmの偏光フィルムの両面に0.08mmの厚さのセルローストリアセテートフィルムを接着することにより得られた厚さ0.19mmの偏光シートである住友化学工業社製の商品名スミカランの一方のセルローストリアセテートフィルム面に,全光線透過率が18%になるよう濃度調整したグレー色に着色した透明インクをグラビア印刷機にて印刷を施し,当該印刷面に全光線透過率89%,厚さ0.18mmのポリカーボネート樹脂フィルムを,ポリイソシアネートーポリエステルポリウレタンの二液硬化型接着剤を用いて接着積層して,積層シートとし,
当該積層シートのセルローストリアセテートフィルム側が凸面に,ポリカーボネート樹脂フィルム側が凹面になるように熱曲げ加工し,
これを射出成型型内に装着し,ポリカーボネート樹脂フィルム側に光学用ポリカーボネート樹脂を射出成型することで得られた厚さ2.0mmの偏光レンズを,
レンズとして用いたサングラス。」(以下,「引用発明」という。)

(2)引用文献2の記載
引用文献2は,本願の出願前に頒布された刊行物であるところ,当該引用文献2には次の記載がある。
「【0038】
(2)透明性(ヘイズ値)
株式会社村上色彩技術研究所製ヘイズメーターMH-150にて,作製した偏光レンズのヘイズ値を測定し,曇りの有無を判断した。
(評価基準)
○:ヘイズ値<2.0%
×:ヘイズ値≧2.0%
・・・(中略)・・・
【0048】
【表1】



(3)引用文献3の記載
引用文献3は,本願の出願前に頒布された刊行物であるところ,当該引用文献3には次の記載がある。
「【0021】
一般的にポリカーボネート系樹脂は,複屈折の大きくなりやすいことが欠点として挙げられる。即ち,成形体の内部へ,成形歪みや局所的配向に起因する光学的異方性を生じやすい。そのため,本発明でポリカーボネート系樹脂を用いる場合は,極力,光学的異方性の形成を防ぐことが重要であり,その対策として,流動性が高く,成形時に過度な剪断力を受けにくい,つまり残留歪みや局所的配向が起こりにくい,比較的重合度の低い樹脂を使用することが好ましい。本発明では,特に重合度120以下,より好ましくは重合度100以下のポリカーボネート系樹脂の使用が推奨される。」

(4)引用文献4の記載
引用文献4は,本願の出願前に頒布された刊行物であるところ,当該引用文献4には次の記載がある。
「【0009】
偏光性薄膜に保護層を貼着した偏光板で,熱成形してレンズ状に加工される防眩レンズ用偏光板において,保護層として環状オレフィン樹脂よりなり,リタデーション値が200nm以下のものを用いることにより,熱成形した後でも偏光性能の低下がなく,また虹模様の発生もなく,そのためにサングラス等として利用した際に,防眩性の低下や目の疲れもないという効果を奏する。」

(5)引用文献5の記載
引用文献5は,本願の出願前に電気通信回線を通じて公衆に利用可能となったものであるところ,当該引用文献5には次の記載がある。


」(5ページ13ないし21行)
(日本語訳)
「本発明において基材に適した材料としては,(メタ)アクリル(コ)ポリマー,特にポリ(メチルメタクリレート)(PMMA),チオ(メタ)アクリル(コ)ポリマー,ポリビニルブチラール(PVD),ポリカーボネート(PC),ポリウレタン(PU),ポリ(チオウレタン),ポリオールアリルカーボネート(コ)ポリマー,エチレン/酢酸ビニル熱可塑性コポリマー,例えばポリ(エチレンテレフタラート)(PET)やポリ(ブチレンテレフタラート)(PBT)などのポリエステル,ポリエピスルフィド,ポリエポキシド,ポリカーボネートとポリエステルとのコポリマー,例えばエチレンとノルボルネンとのコポリマーやエチレンとシクロペンタジエンとのコポリマーなどのシクロオレフィンコポリマー,およびこれらの組み合わせが挙げられる。」

2 本願発明1について
(1)対比
ア 引用発明の「ヨウ素系染料」,「ポリビニルアルコールでできた厚さ0.03mmの偏光フィルム」,「セルローストリアセテートフィルム」,「偏光シートである住友化学工業社製の商品名スミカラン」,「偏光レンズ」及び「偏光レンズを,レンズとして用いたサングラス」は,本願発明1の「ヨウ素化合物」,「ポリビニルアルコール層」,「トリアセチルセルロース層」,「偏光フィルム」,「レンズ」及び「偏光サングラス」にそれぞれ対応する。

イ 引用発明の「住友化学工業社製の商品名スミカラン」(本願発明1の「偏光フィルム」に対応する。以下,「(1)対比」欄において,「」で囲まれた引用発明の構成に付した()中の文言は,当該引用発明の構成に対応する本願発明1の発明特定事項を表す。)は,「ヨウ素系染料」(ヨウ素化合物)を用いて偏光度99.9%,光線透過率45%の「ポリビニルアルコールでできた厚さ0.03mmの偏光フィルム」(ポリビニルアルコール層)の両面に0.08mmの厚さの「セルローストリアセテートフィルム」(トリアセチルセルロース層)を接着することにより得られた厚さ0.19mmの偏光シートであるところ,前記「ヨウ素系染料」(ヨウ素化合物)が「ポリビニルアルコールでできた厚さ0.03mmの偏光フィルム」(ポリビニルアルコール層)中のポリビニルアルコール分子に吸着配向していることは,引用文献1の【0018】の記載や技術常識に照らし,当業者に自明であるから,引用発明の「住友化学工業社製の商品名スミカラン」は,本願発明1の「偏光フィルム」における「ヨウ素化合物が吸着配向されたポリビニルアルコール層,及びこのポリビニルアルコール層の両面に設けられたトリアセチルセルロース層を有する多層構造」との発明特定事項に相当する構成を具備している。

ウ 引用発明の「ポリカーボネート樹脂フィルム」は,「住友化学工業社製の商品名スミカラン」(偏光フィルム)の一方の面である印刷面上に接着積層されており,その厚さが0.18mmであるところ,本願発明1の「基材フィルム」と,「偏光フィルムの片面に積層される樹脂フィルム」である点で共通し,その厚みが「100μm以上500μm以下である」点で一致する。
また,引用発明の「偏光レンズ」(レンズ)は,「ポリビニルアルコールでできた厚さ0.03mmの偏光フィルム」(ポリビニルアルコール層)とその両面に接着された「セルローストリアセテートフィルム」(トリアセチルセルロース層)とからなる「住友化学工業社製の商品名スミカラン」(偏光フィルム)と,当該「住友化学工業社製の商品名スミカラン」(偏光フィルム)の一方の面に接着積層された「ポリカーボネート樹脂フィルム」と,当該「ポリカーボネート樹脂フィルム」の一方の面に射出成型により形成された光学用ポリカーボネート樹脂の層とから構成されているから,本願発明1の「レンズ」と,「ヨウ素化合物が吸着配向されたポリビニルアルコール層,及びこのポリビニルアルコール層の両面に設けられたトリアセチルセルロース層を有する多層構造の偏光フィルムと,この多層構造の偏光フィルムの片面に積層される基材フィルムとを有」する点で共通する。

エ 引用発明の「偏光レンズ」(レンズ)は,セルローストリアセテートフィルム側が凸面に,ポリカーボネート樹脂フィルム側が凹面になるように熱曲げ加工された積層シートのポリカーボネート樹脂フィルム側に光学用ポリカーボネート樹脂を射出成型することで得られたものであるから,その形状は「三次元曲面形状」である。したがって,引用発明の「偏光レンズ」は,本願発明1の「レンズ」と,「三次元曲面形状に形成されたレンズ」である点で一致する。

オ 前記アないしエに照らせば,本願発明1と引用発明は,
「ヨウ素化合物が吸着配向されたポリビニルアルコール層,及びこのポリビニルアルコール層の両面に設けられたトリアセチルセルロース層を有する多層構造の偏光フィルムと,この多層構造の偏光フィルムの片面に積層される樹脂フィルムとを有し,三次元曲面形状に形成されたレンズを備える偏光サングラスであって,
上記樹脂フィルムの厚みが100μm以上500μm以下である偏光サングラス。」
である点で一致し,次の点で相違する。

相違点1:
本願発明1では,偏光フィルムの片面に積層される「樹脂フィルム」が,可視光線透過率が87%以上であり,ヘイズ値が1%以下であり,面方向リタデーション値(Ro値)が200nm以下で,厚さ方向リタデーション値(Rth値)が400nm以下であり,主ポリマーとしてシクロオレフィンコポリマーが用いられている「基材フィルム」であるのに対して,
引用発明では,偏光フィルムの片面に積層される「樹脂フィルム」が,「ポリカーボネート樹脂フィルム」であって,主ポリマーとしてシクロオレフィンコポリマーが用いられてはおらず,また,その全光線透過率の値が89%であるものの可視光線透過率の値は定かでなく,ヘイズ値や面方向リタデーション値(Ro値)や厚さ方向リタデーション値(Rth値)については不明である点。

相違点2:
本願発明1の「レンズ」は,「ポリビニルアルコール層」と「トリアセチルセルロース層」と「基材フィルム」とからなるのに対して,
引用発明の「偏光レンズ」は,「ポリビニルアルコールでできた偏光フィルム」と「セルローストリアセテートフィルム」と「ポリカーボネート樹脂フィルム」のほかに射出成型により形成された光学用ポリカーボネート樹脂の層を有している点。

(2)判断
事案に鑑み,まず相違点2について判断する。
引用文献1の各請求項(前記1(1)ア(ア)を参照。)に記載された発明は,いずれも,「内側のプラスチックフィルム側に,該フィルムと融着するレンズ成型用樹脂材料を射出成型」することを発明特定事項としており,また,引用文献1の【0012】に「印刷面もしくはもう一方の面にレンズ成型に使用する成型樹脂と融着するプラスチックフィルムを接着剤を介して貼合して得られた積層シート・・・(中略)・・・を成型目的物の外側形態に近い形状に成形し,これを成形型内に挿入し,上記プラスチックフィルム側に,該プラスチックフイルムと融着するレンズ成型用樹脂材料を射出成型することによってこの発明を完成させた」と記載されていることから理解されるように,引用発明の「ポリカーボネート樹脂フィルム」は,自身が「住友化学工業社製の商品名スミカラン」に接着固定されるとともに,射出成型する光学用ポリカーボネート樹脂と融着することによって,射出成型により形成される部位を「住友化学工業社製の商品名スミカラン」に固定する役割を担っている構成である。
したがって,引用発明の「ポリカーボネート樹脂フィルム」は,レンズの基体となる部位を射出成型により形成することを前提とした構成というほかないのであって,引用発明において,射出成型により形成される部位を省略し,「ポリビニルアルコールでできた偏光フィルム」と「セルローストリアセテートフィルム」と「ポリカーボネート樹脂フィルム」のみによって「偏光レンズ」を構成するような変更を行うことは,引用発明の趣旨に反するというべきである。
よって,たとえ前記1(2)ないし(5)で摘記した引用文献2ないし5の記載を考慮しても,引用発明を,相違点2に係る本願発明1の発明特定事項に相当する構成を具備したものとすることは,当業者が容易に想到し得たこととはいえない。
以上のとおりであるから,相違点1について検討するまでもなく,本願発明1は,引用発明及び引用文献2ないし5に記載された事項に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものではない。

3 本願発明2について
本願の請求項2は,請求項1の記載を引用する形式で記載されており,本願発明2は,本願発明1の発明特定事項を全て有し,これに限定を加えたものに該当するところ,本願発明1が,引用発明及び引用文献2ないし5に記載された事項に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものでない以上,本願発明2も,同様の理由で,引用発明及び引用文献2ないし5に記載された事項に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものではない。


第5 むすび
以上のとおり,原査定の理由によっては,本願を拒絶することはできない。
また,他に本願を拒絶すべき理由を発見しない。
よって,結論のとおり審決する。
 
審決日 2017-12-04 
出願番号 特願2011-88690(P2011-88690)
審決分類 P 1 8・ 121- WY (G02B)
最終処分 成立  
前審関与審査官 南 宏輔後藤 亮治早川 貴之渡▲辺▼ 純也  
特許庁審判長 中田 誠
特許庁審判官 清水 康司
佐藤 秀樹
発明の名称 偏光サングラス  
代理人 天野 一規  

プライバシーポリシー   セキュリティーポリシー   運営会社概要   サービスに関しての問い合わせ