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審決分類 審判 査定不服 1項3号刊行物記載 取り消して特許、登録 H01L
審判 査定不服 2項進歩性 取り消して特許、登録 H01L
管理番号 1334960
審判番号 不服2016-18331  
総通号数 217 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2018-01-26 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2016-12-06 
確定日 2017-12-19 
事件の表示 特願2012-167063「光半導体装置」拒絶査定不服審判事件〔平成26年 2月 6日出願公開、特開2014- 27147、請求項の数(8)〕について、次のとおり審決する。 
結論 原査定を取り消す。 本願の発明は、特許すべきものとする。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、平成24年7月27日の出願であって、その手続の経緯は以下のとおりである。

平成28年 2月12日付け :拒絶理由の通知
同年 4月15日 :意見書、手続補正書の提出
同年 9月 5日付け :拒絶査定
同年12月 6日 :審判請求書、手続補正書の提出
平成29年 3月16日付け :前置報告書
同年 6月14日 :上申書の提出

第2 原査定の概要
原査定(平成28年9月5日付け拒絶査定)の概要は次のとおりである。

理由1 本願請求項1?13に係る発明は、以下の引用文献1に記載された発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができない。

理由2 本願請求項1?13に係る発明は、以下の引用文献1、または、引用文献2?5に基づいて、その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下、「当業者」という。)が容易に発明できたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

引用文献等一覧
1.特開2005-146191号公報
2.特開2012-124428号公報
3.特開2012-012556号公報
4.特開2011-127011号公報
5.特開2010-192624号公報

第3 審判請求時の補正について
1 補正事項について
(1) 審判請求時の補正によって、補正前の請求項1の「リフレクター樹脂」について、
「リフレクター樹脂が
(A)アルケニル基を少なくとも二個以上もつ化合物、
(B)SiH基をもつ化合物、
(C)ヒドロシリル化触媒、及び、
(D)無機充填材
からなり、
(A)成分が1分子中にアルケニル基を2個以上含有する有機化合物(A1)、及び、1分子中にアルケニル基を2個以上含有するシロキサン化合物(A2)を含」むという事項が追加された(以下、「補正事項1」という。また、下線は当審が付加した。以下、同様。)。

補正事項1は、請求項1の「光半導体装置」において、リフレクター樹脂の組成を限定するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものであり、補正前の請求項に記載された発明と産業上の利用分野及び解決しようとする課題が同一である。

また、補正事項1は、当初明細書の【0010】?【0016】、【0125】?【0134】に記載されているから、新規事項を追加するものではないといえる。

(2) 審判請求時の補正によって請求項2?3、6?7、13を削除し、請求項4?5、8?11を新たな請求項2?7とし、新たな請求項2?7が引用する請求項が整合された(以下、「補正事項2」という。)。

補正事項2は、請求項の削除を目的とするものである。

(3) 審判請求時の補正によって、補正前の請求項12の「リフレクター樹脂」について、
「(A)アルケニル基を少なくとも二個以上もつ化合物、(B)SiH基をもつ化合物、(C)ヒドロシリル化触媒、及び、(D)無機充填材からなり、(A)成分が1分子中にアルケニル基を2個以上含有する有機化合物(A1)、及び、1分子中にアルケニル基を2個以上含有するシロキサン化合物(A2)を含むことを特徴とする樹脂」という事項を追加して、補正後の請求項8とした(以下、「補正事項3」という。)。

補正事項3は、請求項12の「光半導体装置の製造方法」において、リフレクター樹脂の組成を限定するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものであり、補正前の請求項に記載された発明と産業上の利用分野及び解決しようとする課題が同一である。

また、補正事項3は、当初明細書の【0010】?【0016】、【0125】?【0134】に記載されているから、新規事項を追加するものではないといえる。

2 独立特許要件について
以下の「第4 本願補正発明」から「第6 対比・判断」までに示すように、補正後の請求項1?8に係る発明は、独立特許要件を満たすものである。

3 審判請求時の補正についてのまとめ
審判請求時の補正は、特許法第17条の2第3項から第6項までの要件に違反しているものとはいえない。

第4 本願補正発明
本願請求項1?8に係る発明(以下、それぞれ「本願補正発明1」?「本願補正発明8」という。)は、平成28年12月6日付けの手続補正で補正された特許請求の範囲の請求項1?8に記載された事項により特定されるものと認められるところ、本願補正発明1は、以下のとおりである。

「【請求項1】
発光層が半導体である発光素子と、該発光素子と電気的に接続されたリードフレーム、リフレクター樹脂および封止樹脂からなる光半導体装置であって、
リフレクター樹脂が
(A)アルケニル基を少なくとも二個以上もつ化合物、
(B)SiH基をもつ化合物、
(C)ヒドロシリル化触媒、及び、
(D)無機充填材
からなり、
(A)成分が1分子中にアルケニル基を2個以上含有する有機化合物(A1)、及び、1分子中にアルケニル基を2個以上含有するシロキサン化合物(A2)を含み、
式(1)で表されるリフレクター樹脂の吸湿率が0.5%以下であり、
式(2)で表されるリフレクター樹脂の水分放出率が30%以上であり、
さらに封止樹脂の温度40℃、相対湿度90%の環境下における透湿度が20g/m^(2)/day以下であることを特徴とする光半導体装置。
式(1):吸湿率=(W1-W0)/W0x100
(但し、W0は乾燥(温度125℃の環境下でリフレクター樹脂を3時間で養生後)のリフレクター樹脂重量、W1は、吸湿試験(温度85℃、相対湿度85%の環境下でリフレクター樹脂を168時間で養生)後のリフレクター樹脂重量を表す。)
式(2):水分放出率=(W1-W2)/(W1-W0)x100
(但し、W0は乾燥(温度125℃の環境下でリフレクター樹脂を3時間で養生後)後のリフレクター樹脂重量、W1は、吸湿試験(温度85℃、相対湿度85%の環境下でリフレクター樹脂を168時間で養生)後のリフレクター樹脂重量、W2は、室温養生(温度25℃、相対湿度55%の環境下でリフレクター樹脂を24時間で養生)後のリフレクター樹脂重量を表す。)」

第5 引用文献、引用発明等
1 引用文献1について
(1) 原査定の拒絶の理由に引用された引用文献1には、図面とともに次の事項が記載されている。

ア 「【0011】
すなわち、本発明は、
(A)SiH基と反応性を有する炭素-炭素二重結合を1分子中に少なくとも2個含有する有機化合物、(B)1分子中に少なくとも2個のSiH基を含有する化合物、(C)ヒドロシリル化触媒を必須成分として含有することを特徴とする硬化性樹脂組成物からなる半導体のパッケージ用硬化性樹脂組成物(請求項1)であり、
上記半導体が発光ダイオードであることを特徴とする請求項1に記載のパッケージ用硬化性樹脂組成物(請求項2)であり、
さらに(D)無機フィラーを含有することを特徴とする、請求項1あるいは2のいずれか一項に記載の半導体のパッケージ用硬化性樹脂組成物(請求項3)であり、
(D)成分の無機フィラーが酸化チタンあるいは/およびシリカであることを特徴とする請求項3に記載の半導体のパッケージ用硬化性樹脂組成物(請求項4)であり、
請求項1乃至4のいずれか一項に記載の半導体のパッケージ用硬化性樹脂組成物をBステージ化したことを特徴とする半導体のパッケージ用硬化性樹脂組成物(請求項5)であり、
請求項1乃至5のいずれか一項に記載の半導体のパッケージ用硬化性樹脂組成物を成形したことを特徴とする半導体のパッケージ(請求項6)であり、
請求項1乃至5のいずれか一項に記載の半導体のパッケージ用硬化性樹脂組成物であって、150℃以下の温度で流動性を有し、かつ150℃におけるゲル化時間が60秒以内である硬化性樹脂組成物を、トランスファー成形により成形したことを特徴とする半導体のパッケージ(請求項7)であり、
請求項2乃至5のいずれか一項に記載の半導体のパッケージ用硬化性樹脂組成物を成形したことを特徴とする半導体のパッケージであって、前記半導体が発光ダイオードであり、かつ前記パッケージに発光ダイオードから発した光が照射されるように設計された半導体のパッケージ(請求項8)であり、
請求項1乃至3のいずれか一項に記載の発光ダイオードのパッケージ用硬化性樹脂組成物を用いて製造された半導体(請求項9)である。」

イ 「【0056】
得られる硬化物の着色が少なく、耐光性が高いという観点からは、(A)成分としてはビニルシクロヘキセン、ジシクロペンタジエン、トリアリルイソシアヌレート、2,2-ビス(4-ヒドロキシシクロヘキシル)プロパンのジアリルエーテル、1,2,4-トリビニルシクロヘキサンが好ましく、トリアリルイソシアヌレート、2,2-ビス(4-ヒドロキシシクロヘキシル)プロパンのジアリルエーテル、1,2,4-トリビニルシクロヘキサンが特に好ましい。」

ウ 「【0075】
以上のような一般式(III)で表される有機化合物の好ましい具体例としては、トリアリルイソシアヌレート、
・・・(中略)・・・
等が挙げられる。
((A)成分の好ましい構造2)
また、(B)成分と良好な相溶性を有するという観点、および(A)成分の揮発性が低くなり、得られるパッケージからのアウトガスの問題が生じ難いという観点からは、(A)成分の例として上記したような、SiH基と反応性を有する炭素-炭素二重結合を1分子中に少なくとも2個含有する有機化合物から選ばれた1種以上の化合物と、SiH基を有する鎖状及び/又は環状オルガノポリシロキサン(β)との反応物も好ましい。」

エ 「【0243】
・・・(中略)・・・
(半導体のパッケージ)
本発明で言う半導体のパッケージとは、半導体素子あるいは/および外部取出し電極等を支持固定あるいは/および保護するために設けられた部材である。この場合の半導体素子としては各種のものが挙げられる。例えばIC、LSI等の集積回路、トランジスター、ダイオード、発光ダイオード等の素子の他、CCD等の受光素子等を挙げることができる。これらの内、半導体が発光ダイオードである場合により本発明の効果が顕著になり得る。
【0244】
半導体が発光ダイオード素子の場合において、好ましくは発光ダイオード素子から出た光が照射されるように設計されたものであり、さらに好ましくは発光ダイオード素子から出た光を反射させて外部に取出すように設計されたものである。その形状等には特に制約はない。例えば、図1に示すように、発光ダイオード素子を搭載するための凹部を有する形状のものでもよいし、単に平板状のものであってもよい。本発明の発光ダイオードのパッケージの表面は平滑であってもよいし、エンボス等のような平滑でない表面を有していてもよい。」

オ 「【0248】
用いる発光ダイオード素子は一種類で単色発光させても良いし、複数用いて単色或いは多色発光させても良い。
(リード)
本発明の半導体に用いられるリード端子としては、ボンディングワイヤー等の電気接続部材との密着性、電気伝導性等が良好なものが好ましく、リード端子の電気抵抗としては、300μΩ-cm以下が好ましく、より好ましくは3μΩ-cm以下である。これらのリード端子材料としては、例えば、鉄、銅、鉄入り銅、錫入り銅や、これらに金、銀、ニッケル、パラジウム等をメッキしたもの等が挙げられる。これらのリード端子は良好な光の広がりを得るために適宜光沢度を調整してもよい。
(封止剤)
本発明の半導体の封止剤としては各種のものを用いることができ、例えば従来用いられるエポキシ樹脂、シリコーン樹脂、アクリル樹脂、ユリア樹脂、イミド樹脂等の封止樹脂を用いることができる。また、特開2002-80733、特開2002-88244で提案されているような、SiH基と反応性を有する炭素-炭素二重結合を1分子中に少なくとも2個有する脂肪族系有機化合物、1分子中に少なくとも2個のSiH基を有する化合物、およびヒドロシリル化触媒を含有する硬化性組成物からなる封止剤を用いてもよく、この封止剤を用いる方が、パッケージ樹脂との接着性が高いという点、および透明性が高く本発明のパッケージの耐光性が高いという効果が顕著であるという点において、好ましい。」

(2) これらの記載によると、引用文献1には、以下の発明(以下、「引用文献1発明」という。)が記載されていると認められる。

「半導体が発光ダイオードであり、かつ前記パッケージに発光ダイオードから発した光が照射されるように設計された半導体のパッケージと、半導体に用いられるリード端子と、半導体の封止材としての封止樹脂からなる装置であって、
半導体のパッケージは、発光ダイオード素子から出た光を反射させて外部に取出すように設計されたものであり、
(A)SiH基と反応性を有する炭素-炭素二重結合を1分子中に少なくとも2個含有する有機化合物、(B)1分子中に少なくとも2個のSiH基を含有する化合物、
(C)ヒドロシリル化触媒、
(D)無機フィラーを含有する硬化性樹脂組成物からなる半導体のパッケージ用硬化性樹脂組成物を有する装置。」

2 引用文献2について
(1) 原査定の拒絶の理由に引用された引用文献2には、図面とともに次の事項が記載されている。

ア 「【0003】
従来、樹脂成形体に用いる絶縁性材料は、ポリアミド等の熱可塑性樹脂に白色顔料を配合したものやアルミナ等のセラミックが一般的に用いられてきた(例えば特許文献1参照)。発光に指向性が求められる半導体発光装置は、半導体発光素子より目的とする方向へ発せられた光だけでなく、それ以外の光を樹脂成形体やリードフレームなどの金属配線、及び反射材等で目的の方向に反射させ、発光効率を上げている。ポリアミドなどの熱可塑性樹脂は透光性であるために、樹脂成形体で反射させる際は樹脂に白色顔料を配合することで、樹脂と白色顔料の屈折率の差を利用し半導体発光素子からの光を反射し半導体発光装置としての発光効率を上げている。」

イ 「【0010】
また、半導体発光装置は一般的に、パッケージの上に半導体発光素子を搭載してワイヤボンディングした後、発光素子からの光が漏れないように封止材で封止して製造されるので、パッケージが備える樹脂成形体には封止材やリードフレームとの接着性が要求される。しかしながら、従来の樹脂成形体はその接着性が弱く、実装する際のリフロー工程等で高温(215?260℃)に曝されるため、製造過程で樹脂成形体と封止材やリードフレームとの接着界面の剥離が発生し、長期使用時の信頼性が低下するという問題がある。
【0011】
本発明は、シリコーン樹脂を用いて、変色しにくく高い反射率を保持して高い輝度を実現し、また封止材やリードフレームと剥離しにくく長期使用時の信頼性の高い、半導体発光装置用樹脂成形体を提供することを課題とする。」

ウ 「【0013】
そこで本発明者らは上記の課題を解決するため鋭意検討した結果、ポリオルガノシロキサン、白色顔料及び硬化触媒を含有する半導体発光装置用樹脂成形体において、その有機物質吸着を低く抑え、加熱や高専照射時の変色度合いを特定の値以下とすることにより上記課題を解決できることを見出し、本発明を完成させた。
すなわち、本発明は以下の通りである。
(1)(A)ポリオルガノシロキサン、(B)白色顔料、及び(C)硬化触媒を含有するシリコーン樹脂組成物から得られた半導体発光装置用樹脂成形体であって、
前記樹脂成形体は、アビエチン酸蒸気を発生している200℃に加熱されたアビエチン酸の上方3cmの距離で20分間アビエチン酸蒸気に曝した後、波長250nm以上500nm以下のUVまたは可視光(強度:1900mW/cm^(2)(365nm受光素子で測定))を15分間照射したときの、照射前後における樹脂成形体の白色度(WI(CIE))の減少率が40%以下であることを特徴とする、半導体発光装置用樹脂成形体。」

エ 「【0021】
<1-1-1.付加型ポリオルガノシロキサン>
付加型ポリオルガノシロキサンとは、付加反応によりポリオルガノシロキサン鎖が架橋結合を生成するものであり、このような架橋生成反応の代表的なものとしては、例えばビニルシラン等の(A1)アルケニル基を有するケイ素含有化合物と、例えばヒドロシラン等の(A2)ヒドロシリル基を含有するケイ素化合物とを混合し、(C1)Pt触媒などの付加縮合触媒の存在下反応させてSi-C-C-Si結合を架橋点に有する化合物等を得る反応を挙げることができる。
ここで、上記(A1)と(A2)の混合比率を、シリコーン樹脂中のSiHの存在量を特定の範囲に制御することで、付加型ポリオルガノシロキサンを用いた場合に、シリコーン樹脂に存在するアルケニル基に起因するパッケージの変色による反射率の低下を防止することができるので好ましい。具体的には、(A1)アルケニル基を有するケイ素含有化合物と(A2)ヒドロシリル基を含有するケイ素化合物を、SiHとSi(CHCH_(2))のモル比SiH/Si(CHCH_(2))が0.9以上2.5以下となる割合で、より好ましくはSiH/Si(CHCH_(2))が1.2以上2.0以下となる割合で混合することが好ましい。
【0022】
(A1)アルケニル基を有するケイ素含有化合物としては、下記一般式(2)
R_(n)SiO_([(4-n)/2]) ・・・(2)
で表わされる、1分子中にケイ素原子に結合したアルケニル基を少なくとも2個有するポリオルガノシロキサンが挙げられる。
式(2)中、Rは同一又は異種の置換又は非置換の1価炭化水素基、アルコキシ基、エポキシ基含有炭化水素基、又は水酸基で、nは1≦n<2を満たす正の数である。
上記(A1)アルケニル基を有するケイ素含有化合物においてアルケニル基としては、ビニル基、アリル基、ブテニル基、ペンテニル基などの炭素数2?8のアルケニル基であることが好ましい。また、Rは炭化水素基である場合、メチル基、エチル基などのアルキル基、ビニル基、フェニル基等の炭素数1?20の1価炭化水素基から選択される。好ましくは、メチル基、エチル基、フェニル基である。
Rは独立に選択されるが、耐紫外線(UV)性が要求される場合にはRの80%以上がメチル基であることが好ましい。Rは炭素数1?8のアルコキシ基、水酸基、エポキシ基含有炭化水素基であってもよいが、アルコキシ基、水酸基、エポキシ基の含有率は、(A1)アルケニル基を有するケイ素含有化合物の重量の3%以下であることが好ましい。また、nは1≦n<2を満たす正の数であるが、nの値が2以上であると樹脂成形体用材料とリードフレーム等の導電体との接着に十分な強度が得られなくなり、一方、nが1未満であるようなオルガノポリシロキサンの合成は通常困難である。」

オ 「【0049】
白色顔料として用いることができる無機粒子としては、アルミナ(以下、「アルミナ微粉」、または「酸化アルミニウム」と称する場合がある。)、酸化ケイ素、酸化チタン(チタニア)、酸化亜鉛、酸化マグネシウム等の金属酸化物;炭酸カルシウム、炭酸バリウム、炭酸マグネシウム、硫酸バリウム、水酸化アルミニウム、水酸化カルシウム、水酸化マグネシウム等の金属塩;窒化硼素、アルミナホワイト、コロイダルシリカ、ケイ酸アルミニウム、ケイ酸ジルコニウム、硼酸アルミニウム、クレー、タルク、カオリン、雲母、合成雲母などが挙げられる。」

カ 「【0054】
<1-3.(C)硬化触媒>
本発明における(C)硬化触媒とは、(A)のポリオルガノシロキサンを硬化させる触媒である。ポリオルガノシロキサンは触媒により重合反応が加速され、速やかに硬化する。この触媒はポリオルガノシロキサンの硬化機構により付加重合用触媒、縮合用触媒がある。
【0055】
付加重合用触媒としては、(A1)成分中のアルケニル基と(A2)成分中のヒドロシリル基とのヒドロシリル化付加反応を促進するための触媒であり、この付加縮合触媒の例としては、白金黒、塩化第2白金、塩化白金酸、塩化白金酸と一価アルコールとの反応物、塩化白金酸とオレフィン類との錯体、白金ビスアセトアセテート等の白金系触媒、パラジウム系触媒、ロジウム系触媒などの白金族金属触媒が挙げられる。なお、この(C1)付加縮合触媒の配合量は触媒量とすることができるが、通常、白金族金属として(A1)及び(A2)成分の合計重量に対して通常1ppm以上、好ましくは2ppm以上であり、通常500ppm以下、好ましくは100ppm以下である。これにより触媒活性を高いものとすることができる。」

キ 「【0077】
上記白色度の減少率は、半導体発光装置用樹脂成形体が含有する(A)ポリオルガノシロキサンの吸着性官能基を少なくすること、低フェニルシリコーンを用いること、あるいは(A)ポリオルガノシロキサンと(B)白色顔料などのフィラーとの量比、フィラーの粒径を制御することなどにより、上記範囲にすることができる。上記吸着官能基としては、水酸基、エポキシ基及び炭素数1?3のアルコキシ基等が挙げられる。
また、上記白色度の減少率は、半導体発光装置用樹脂成形体が含有する(B)白色顔料の表面活性を下げることによっても、低くすることができ、また、樹脂成形体に成形するシリコーン樹脂組成物に、疎水性化した粘度調節剤を配合することによっても、上記範囲に制御することができる。」

ク 「【0081】
<4.半導体発光装置>
本発明の半導体発光装置用パッケージは、通常半導体発光素子を搭載して半導体発光装置として用いられる。半導体発光装置の概要を、図1及び2を用いて説明するが、本発明は以下の実施形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲において任意に変形して実施することができる。
図1には、半導体発光装置の一例が示され、半導体発光素子1、樹脂成形体2および金属リードフレーム5からなるパッケージ、ボンディングワイヤ3、封止材4等から構成される。
【0082】
半導体発光素子1は、近紫外領域の波長を有する光を発する近紫外半導体発光素子、紫領域の波長の光を発する紫半導体発光素子、青領域の波長の光を発する青色半導体発光素子などを用いることが可能であり、通常350nm以上520nm以下の波長を有する光を発する。図1においては半導体発光素子が1つのみ記載されているが、複数個の半導体発光素子を線状、平面状に配置することも可能である。
パッケージを構成する樹脂成形体2は、封止材4及びリードフレーム5と接触する部分を含んでおり、本発明においては樹脂成形体2の白色度の減少率が低いため、封止材4又はリードフレーム5間との接着性が良好である。」

ケ 「【0084】
封止材4は、蛍光体及びバインダー樹脂の混合物であり、半導体発光素子1からの励起光を蛍光に変換する。封止材4に含まれる蛍光体は、半導体発光素子1の励起光の波長に応じて適宜選択される。」

(2) これらの記載によると、引用文献2には、以下の発明(以下、「引用文献2発明」という。)が記載されていると認められる。

「半導体発光素子1、樹脂成形体2および金属リードフレーム5からなるパッケージ、ボンディングワイヤ3、蛍光体及びバインダー樹脂の混合物である封止材4から構成される半導体発光装置であって、
半導体発光素子より目的とする方向へ発せられた光だけでなく、それ以外の光を樹脂成形体やリードフレームなどの金属配線、及び反射材等で目的の方向に反射させ、
(A)ポリオルガノシロキサン、(B)白色顔料、及び(C)硬化触媒を含有するシリコーン樹脂組成物から得られた半導体発光装置用樹脂成形体を有し、
ポリオルガノシロキサンとして、例えばビニルシラン等の(A1)アルケニル基を有するケイ素含有化合物と、例えばヒドロシラン等の(A2)ヒドロシリル基を含有するケイ素化合物とを混合し、(C1)Pt触媒などの付加縮合触媒の存在下反応させてSi-C-C-Si結合を架橋点に有する化合物等を得る反応によるものであり、
(A1)アルケニル基を有するケイ素含有化合物としては、下記一般式(2)
RnSiO[(4-n)/2] ・・・(2)
で表わされる、1分子中にケイ素原子に結合したアルケニル基を少なくとも2個有するポリオルガノシロキサンである、半導体発光装置。」

3 引用文献3について
(1) 原査定の拒絶の理由に引用された引用文献3には、図面とともに次の事項が記載されている。

ア 「【0005】
また、ポリシロキサン組成物は優れた特性を持つ一方で、一般にガスバリア性が低いといった問題点を有している。そのためガスバリア性が低いポリシロキサン組成物を封止材として用いた場合、リフレクターが硫化物によって黒色化する問題があり、この問題に対して、例えば、特許文献3では、予め金属部材をガスバリア性の高いアクリル系樹脂でコーティング処理を行い、そのうえで、シリコーン樹脂で封止を行ってる。しかしながら、該当技術で使用しているシリコーン樹脂自体のガスバリア性は低く、アクリル系樹脂でコーティング処理を行った後に、別途シリコーン樹脂で封止する等、手間がかかり、生産性に問題があった。」

(2) したがって、引用文献3には、「シリコーン樹脂自体のガスバリア性は低く、アクリル系樹脂でコーティング処理を行った後に、別途シリコーン樹脂で封止する等、手間がかかり、生産性に問題があった。」という技術的事項が記載されている。

4 引用文献4について
(1) 原査定の拒絶の理由に引用された引用文献4には、図面とともに次の事項が記載されている。

ア 「【0076】
熱硬化剤(C)の含有量は特に限定されない。シリコーン樹脂(A)100重量部に対して、熱硬化剤(C)の含有量の好ましい下限は1重量部、より好ましい下限は5重量部、好ましい上限は200重量部、より好ましい上限は120重量部である。熱硬化剤(C)の含有量が上記好ましい下限及び上限を満たすと、封止剤の架橋反応が充分に進行し、耐熱性及び耐光性が高くなるとともに、透湿度が充分に低くなる。」

(2) したがって、引用文献4には、「熱硬化剤(C)の含有量が上記好ましい下限及び上限を満たすと、封止剤の架橋反応が充分に進行し、耐熱性及び耐光性が高くなるとともに、透湿度が充分に低くなる。」という技術的事項が記載されている。

5 引用文献5について
(1) 原査定の拒絶の理由に引用された引用文献5には、図面とともに次の事項が記載されている。

ア 「【0007】
本発明は上記事情に鑑みてなされたもので、ガスや水分によるLEDチップまたはリードの劣化を防ぐことが可能な発光装置及び発光モジュールを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
かかる目的のもと、本発明は以下の発明を提供する。
[1] 凹部を有する樹脂容器と、前記樹脂容器の前記凹部の内側に露出した状態で配置される導体部と、前記凹部の内側に設けられ、前記導体部と電気的に接続される発光素子と、前記発光素子から出力される光に対する透光性を有し、前記凹部において当該発光素子を封止する封止樹脂と、少なくとも前記封止樹脂上に積層されたバリア層と、を含むことを特徴とする発光装置。
[2] 前記バリア層が、透湿度で5(g/m^(2)・24時間)以下の水蒸気透過性を有する樹脂材料であることを特徴とする[1]に記載の発光装置。
[3] 前記バリア層が、1?3000μmの範囲の膜厚を有することを特徴とする[1]または[2]に記載の発光装置。
・・・(中略)・・・
[9] 基板と、前記基板に取り付けられる複数の発光装置とを備え、前記発光装置は、凹部を有する樹脂容器と、前記樹脂容器の前記凹部の内側に露出した状態で配置される導体部と、前記凹部の内側に設けられ、前記導体部と電気的に接続される発光素子と、前記発光素子から出力される光に対する透光性を有し、前記凹部において当該発光素子を封止する封止樹脂と、少なくとも前記封止樹脂上に積層されたバリア層と、を含むことを特徴とする発光モジュール。」

(2) したがって、引用文献5には、「透湿度で5(g/m^(2)・24時間)以下の水蒸気透過性を有する樹脂材料である発光装置に用いられるバリア層」についての技術的事項が記載されている。

第6 対比・判断

1 本願補正発明1と引用文献1発明との対比判断について
(1) 対比
本願補正発明1と引用文献1発明とを対比すると、次のことがいえる。
ア 引用文献1発明における「発光ダイオード」は、発光ダイオードは、半導体の発光層を有することからみて、本願補正発明1の「発光層が半導体である発光素子」に相当する。

イ 引用文献1発明における「半導体に用いられるリード端子」は、半導体である発光ダイオードに用いられ、当然電気的な接続を有するため、本願補正発明1の「発光素子と電気的に接続されたリードフレーム」とは、「発光素子と電気的に接続されたリード端子」という点で一致する。

ウ 引用文献1発明における「半導体のパッケージ用硬化性樹脂組成物」は、「半導体のパッケージ」を形成するためのものであるから、当然、「樹脂」として形成されるための「組成物」である点、
「発光ダイオード素子から出た光を反射させて外部に取出すように設計されたもの」、即ち、パッケージには反射させる機能を有する点からみて、
本願補正発明1の「リフレクター樹脂」に相当する。

エ 引用文献1発明における「SiH基と反応性を有する炭素-炭素二重結合を1分子中に少なくとも2個含有する有機化合物」は、炭素-炭素二重結合は、アルケニル基の一種であるから、本願補正発明1の「アルケニル基を少なくも二個以上もつ化合物」、及び、「(A)成分が1分子中にアルケニル基を2個以上含有する有機化合物(A1)」に相当する。

オ 引用文献1発明における「無機フィラー」は、樹脂において充填剤として広く用いられるものであるため、本願補正発明1の「無機充填材」に相当する。

したがって、本願補正発明1と引用文献1発明との間には、次の一致点、相違点があるといえる。

(一致点)
「発光層が半導体である発光素子と、該発光素子と電気的に接続されたリード端子、リフレクター樹脂および封止樹脂からなる光半導体装置であって、
リフレクター樹脂が
(A)アルケニル基を少なくとも二個以上もつ化合物、
(B)SiH基をもつ化合物、
(C)ヒドロシリル化触媒、及び、
(D)無機充填材
からなり、
(A)成分が1分子中にアルケニル基を2個以上含有する有機化合物(A1)を含む、
光半導体装置。」
である点で一致し、次の点で相違する。

(相違点1)
リフレクター樹脂が、本願補正発明1は、
「式(1)で表されるリフレクター樹脂の吸湿率が0.5%以下であり、
式(2)で表されるリフレクター樹脂の水分放出率が30%以上であり、
式(1):吸湿率=(W1-W0)/W0x100
(但し、W0は乾燥(温度125℃の環境下でリフレクター樹脂を3時間で養生後)のリフレクター樹脂重量、W1は、吸湿試験(温度85℃、相対湿度85%の環境下でリフレクター樹脂を168時間で養生)後のリフレクター樹脂重量を表す。)
式(2):水分放出率=(W1-W2)/(W1-W0)x100
(但し、W0は乾燥(温度125℃の環境下でリフレクター樹脂を3時間で養生後)後のリフレクター樹脂重量、W1は、吸湿試験(温度85℃、相対湿度85%の環境下でリフレクター樹脂を168時間で養生)後のリフレクター樹脂重量、W2は、室温養生(温度25℃、相対湿度55%の環境下でリフレクター樹脂を24時間で養生)後のリフレクター樹脂重量を表す。)」であるのに対し、
引用文献1発明の「半導体のパッケージ用硬化性樹脂組成物」は、そのような限定がない点。

(相違点2)
封止樹脂が、本願補正発明1は、
「封止樹脂の温度40℃、相対湿度90%の環境下における透湿度が20g/m^(2)/day以下である」のに対し、
引用文献1発明の「半導体のパッケージ用硬化性樹脂組成物」は、そのような限定がない点。

(相違点3)
リフレクター樹脂が、本願補正発明1は、「1分子中にアルケニル基を2個以上含有するシロキサン化合物(A2)を含む」のに対し、引用文献1発明の「半導体のパッケージ用硬化性樹脂組成物」は、そのような限定がない点。

(相違点4)
本願補正発明1は「リードフレーム」であるのに対し、引用文献1発明は「リード端子」である点。

(2) 判断

上記(相違点1)、及び、(相違点2)について検討する。

本願の明細書には、
「【0004】
こうした中で、ガスバリア性の高い封止樹脂を用いた光半導体装置では、吸湿した状態でハンダリフローを行なうと、封止樹脂とパッケージ基板及びリフレクターとの間で剥離が生じることが問題となっていた。この現象の発生原因は、リフレクターに用いられる樹脂の吸湿率が高いためであり、このような半導体装置を吸湿した状態でハンダリフローを行なうと、リフレクター部が加熱されて水蒸気が発生し、その圧力で封止樹脂と、パッケージ基板及びパッケージの界面で剥離やクラックが生じる。この現象は封止樹脂のガスバリア性が高いほど、つまり透湿度が低いほど顕著に現れるため問題となっていた。そのため、ハンダリフローでの剥離やクラックを防ぐため、従来では、前処理としてパッケージを乾燥させる行程を行う必要があった。
・・・(中略)・・・
【0006】
本発明は、封止樹脂が高いガスバリア性を有しながら、吸湿させた状態でハンダリフローを行っても、剥離やクラックが発生しない光半導体装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
かかる課題を解決するために本発明者らは鋭意検討の結果、発光層が半導体である発光素子と、該発光素子と電気的に接続されたリードフレーム、リフレクター樹脂および封止樹脂からなる光半導体装置であって、リフレクター樹脂の吸湿率が0.5%以下であり、リフレクター樹脂の水分放出率が30%以上であり、さらに封止樹脂の温度40℃、相対湿度90%の環境下における透湿度が20g/m2/day以下であることを特徴とする光半導体装置により、上記課題を解決できることを見出し、本発明に至った。」、
「【0051】
本発明におけるシロキサン化合物(A2)のシロキサンのユニット数は、特に限定されないが、2つ以上が好ましく、さらに好ましくは、2?10個である。1分子中のシロキサンのユニット数が少ないと、組成物から揮発しやすくなり、硬化後に所望の物性が得られないことがある。また、シロキサンのユニット数が多いと、得られたリフレクター樹脂の吸湿率が高くなる場合がある。」と記載されている。

したがって、本願補正発明1に記載された「リフレクター樹脂」において「吸湿率」と「水分放出率」の数値範囲を限定することは、「このような(リフレクターに用いられる樹脂の吸湿率が高い)半導体装置を吸湿した状態でハンダリフローを行なうと、リフレクター部が加熱されて水蒸気が発生し、その圧力で封止樹脂と、パッケージ基板及びパッケージの界面で剥離やクラックが生じる。この現象は封止樹脂のガスバリア性が高いほど、つまり透湿度が低いほど顕著に現れるため問題となっていた。」ことを課題とし、それを解決するものといえる。

そして、上記課題を解決するために、「吸湿率」と「水分放出率」の各数値範囲に含まれ得る成分の組み合わせにより「リフレクター樹脂」を構成するものといえる。

よって、引用文献1発明には、上記課題が記載されていないことからみて、「吸湿率」と「水分放出率」を考慮した成分を有する「半導体のパッケージ用硬化性樹脂組成物」を構成することは記載も示唆もされていない。
加えて、同課題は、引用文献2?5に記載されておらず、また、他に、公知又は周知の技術であることを示す証拠もない。

また、本願の明細書の【0051】の記載からみて、(相違点1)及び(相違点2)の条件を満たすようにリフレクター樹脂の組成を設計することに格別の困難を有することが読み取れる。

よって、引用文献1発明に、本願補正発明1と同じ材料からなるリフレクター樹脂が記載されていることをもって、(相違点1)及び(相違点2)を満たす組成のリフレクター樹脂を直ちに設計し得るとはいえない。

さらに、本願補正発明1は、上記(相違点1)及び(相違点2)の「吸湿率」と「水分放出率」に関する構成を有することにより、「封止樹脂が高いガスバリア性を有しながら、吸湿させた状態でハンダリフローを行っても、剥離やクラックが発生しない」効果を有するものである。

したがって、上記(相違点3)及び(相違点4)について検討するまでもなく、本願補正発明1は、引用文献1発明であるとはいえない。
そして、引用文献1発明に基づいて当業者が容易に想到することができたともいえない。

2 本願補正発明1と引用文献2発明との対比判断について

(1) 対比
本願補正発明1と引用文献2発明とを対比すると、次のことがいえる。
ア 引用文献2発明における「半導体発光素子」は、当然発光層が半導体であるため、本願補正発明1の「発光層が半導体である発光素子」に相当する。

イ 引用文献2発明における「金属リードフレーム」、「蛍光体及びバインダー樹脂の混合物である封止材」は、本願補正発明1の「リードフレーム」、「封止樹脂」に各々相当する。

ウ 引用文献2発明における「シリコーン樹脂組成物から得られた半導体発光装置用樹脂成形体」は、「半導体発光素子より目的とする方向へ発せられた光だけでなく、それ以外の光を樹脂成形体やリードフレームなどの金属配線、及び反射材等で目的の方向に反射させる機能」を有するため、本願補正発明1の「リフレクター樹脂」に相当する。

エ 引用文献2発明における「(A)ポリオルガノシロキサン」と関連する構成である「例えばビニルシラン等の(A1)アルケニル基を有するケイ素含有化合物と、例えばヒドロシラン等の(A2)ヒドロシリル基を含有するケイ素化合物とを混合し、(C1)Pt触媒などの付加縮合触媒の存在下反応させてSi-C-C-Si結合を架橋点に有する化合物等を得る反応によるもの」、
(A1)アルケニル基を有するケイ素含有化合物としては、下記一般式(2)RnSiO[(4-n)/2] ・・・(2)
で表わされる、1分子中にケイ素原子に結合したアルケニル基を少なくとも2個有するポリオルガノシロキサン」は、
本願補正発明1の「(A)アルケニル基を少なくとも二個以上もつ化合物、(B)SiH基をもつ化合物、(C)ヒドロシリル化触媒」、及び、「1分子中にアルケニル基を2個以上含有するシロキサン化合物(A2)」に相当する。

オ 引用文献2発明における「白色顔料」は、上記第5の2(1)オ、キのフィラーであり、無機粒子からなる旨の記載からみて、本願補正発明1の「無機充填材」に相当する。

したがって、本願補正発明1と引用文献2発明との間には、次の一致点、相違点があるといえる。

(一致点)
「発光層が半導体である発光素子と、該発光素子と電気的に接続されたリードフレーム、リフレクター樹脂および封止樹脂からなる光半導体装置であって、
リフレクター樹脂が
(A)アルケニル基を少なくとも二個以上もつ化合物、
(B)SiH基をもつ化合物、
(C)ヒドロシリル化触媒、及び、
(D)無機充填材
からなり、
(A)成分が1分子中にアルケニル基を2個以上含有するシロキサン化合物(A2)を含む、
光半導体装置。」
である点で一致し、次の点で相違する。

(相違点1)
リフレクター樹脂が、本願補正発明1は、
「式(1)で表されるリフレクター樹脂の吸湿率が0.5%以下であり、
式(2)で表されるリフレクター樹脂の水分放出率が30%以上であり、
式(1):吸湿率=(W1-W0)/W0x100
(但し、W0は乾燥(温度125℃の環境下でリフレクター樹脂を3時間で養生後)のリフレクター樹脂重量、W1は、吸湿試験(温度85℃、相対湿度85%の環境下でリフレクター樹脂を168時間で養生)後のリフレクター樹脂重量を表す。)
式(2):水分放出率=(W1-W2)/(W1-W0)x100
(但し、W0は乾燥(温度125℃の環境下でリフレクター樹脂を3時間で養生後)後のリフレクター樹脂重量、W1は、吸湿試験(温度85℃、相対湿度85%の環境下でリフレクター樹脂を168時間で養生)後のリフレクター樹脂重量、W2は、室温養生(温度25℃、相対湿度55%の環境下でリフレクター樹脂を24時間で養生)後のリフレクター樹脂重量を表す。)」であるのに対し、
引用文献2発明の「シリコーン樹脂組成物から得られた半導体発光装置用樹脂成形体」は、そのような限定がない点。

(相違点2)
封止樹脂が、本願補正発明1は、
「封止樹脂の温度40℃、相対湿度90%の環境下における透湿度が20g/m^(2)/day以下である」のに対し、
引用文献2発明の「シリコーン樹脂組成物から得られた半導体発光装置用樹脂成形体」は、そのような限定がない点。

(相違点3)
リフレクター樹脂が、本願補正発明1は、「(A)成分が1分子中にアルケニル基を2個以上含有する有機化合物(A1)」を含むのに対し、引用文献2発明の「シリコーン樹脂組成物から得られた半導体発光装置用樹脂成形体」は、そのような限定がない点。

(2) 判断
上記(相違点1)、及び、(相違点2)について検討する。
上記1(2)で検討したように、本願補正発明1に記載された「リフレクター樹脂」において「吸湿率」と「水分放出率」の数値範囲を限定することは、「このような(リフレクターに用いられる樹脂の吸湿率が高い)半導体装置を吸湿した状態でハンダリフローを行なうと、リフレクター部が加熱されて水蒸気が発生し、その圧力で封止樹脂と、パッケージ基板及びパッケージの界面で剥離やクラックが生じる。この現象は封止樹脂のガスバリア性が高いほど、つまり透湿度が低いほど顕著に現れるため問題となっていた。」ことを課題とし、それを解決するものといえる。

そして、上記課題を解決するために、「吸湿率」と「水分放出率」の各数値範囲に含まれ得る成分の組み合わせにより「リフレクタ-樹脂」を構成するものといえる。

よって、引用文献2発明には、上記課題が記載されていないことからみて、「吸湿率」と「水分放出率」を考慮した成分を有する「半導体のパッケージ用硬化性樹脂組成物」を構成することは記載も示唆もされていない。
加えて、同課題は、引用文献1,3?5に記載されておらず、また、他に、公知又は周知の技術であることを示す証拠もない。

また、上記1(2)で判断したように、引用文献2に、本願補正発明1と同じ材料からなるリフレクター樹脂が記載されていることをもって、(相違点1)及び(相違点2)を満たす組成のリフレクター樹脂を直ちに設計し得るとはいえない。

さらに、本願補正発明1は、上記(相違点1)及び(相違点2)の「吸湿率」と「水分放出率」に関する構成を有することにより、「封止樹脂が高いガスバリア性を有しながら、吸湿させた状態でハンダリフローを行っても、剥離やクラックが発生しない」効果を有するものである。

したがって、上記(相違点3)について検討するまでもなく、引用文献2発明、及び、引用文献3?5に記載された事項に基づいて当業者が容易に想到することができたともいえない。

3 対比・判断のまとめ
本願補正発明1は、引用文献1発明とはいえない。
そして、本願補正発明1は、当業者であっても、引用文献1発明に基づいて容易に発明できたものであるとはいえず、引用文献2発明及び引用文献3?5に記載された事項に基づいて容易に発明できたものともいえない。

4 本願補正発明2?8について
本願補正発明2?8も、本願補正発明1の上記相違点1及び相違点2に係る構成と同一の構成を備えるものである。
したがって、本願補正発明1と同じ理由により、本願補正発明2?8は、引用文献1に記載された発明とはいえない。
そして、本願補正発明2?8は、当業者であっても、引用文献1発明に基づいて容易に発明できたものであるとはいえず、そして、引用文献2発明及び引用文献3?5に記載された事項に基づいて容易に発明できたものともいえない。

第7 原査定について
1.理由1(特許法第29条第1項第3号)及び理由2(特許法第29条第2項)について

審判請求時の補正により、本願請求項1?13に係る発明(以下、それぞれ「本願発明1」?「本願発明13」という。)は、
「リフレクター樹脂が
(A)アルケニル基を少なくとも二個以上もつ化合物、
(B)SiH基をもつ化合物、
(C)ヒドロシリル化触媒、及び、
(D)無機充填材
からなり、
(A)成分が1分子中にアルケニル基を2個以上含有する有機化合物(A1)、及び、1分子中にアルケニル基を2個以上含有するシロキサン化合物(A2)を含」むという事項を有するものとなっている。

したがって、本願補正発明1?8について判断したとおり、本願発明1?12は、引用文献1発明とはいえない。
そして、本願発明1?12は、当業者であっても、引用文献1発明に基づいて容易に発明できたものであるとはいえず、そして、引用文献2発明及び引用文献3?5に記載された事項に基づいて容易に発明できたものともいえない。

したがって、原査定の理由1及び理由2を維持することはできない。

第8 むすび
以上のとおり、原査定の理由によっては、本願を拒絶することはできない。
また、他に本願を拒絶すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり審決する。
 
審決日 2017-12-04 
出願番号 特願2012-167063(P2012-167063)
審決分類 P 1 8・ 121- WY (H01L)
P 1 8・ 113- WY (H01L)
最終処分 成立  
前審関与審査官 佐藤 俊彦  
特許庁審判長 森 竜介
特許庁審判官 近藤 幸浩
居島 一仁
発明の名称 光半導体装置  
代理人 特許業務法人 安富国際特許事務所  

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