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審決分類 審判 査定不服 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 取り消して特許、登録 F16H
審判 査定不服 2項進歩性 取り消して特許、登録 F16H
管理番号 1335029
審判番号 不服2016-14191  
総通号数 217 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2018-01-26 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2016-09-23 
確定日 2017-12-19 
事件の表示 特願2015-504774「ギヤボックスおよびギヤボックスのキャリヤの支持装置」拒絶査定不服審判事件〔2014年1月30日国際公開、WO2014/018131、平成27年4月30日国内公表、特表2015-513055、請求項の数(8)〕について、次のとおり審決する。 
結論 原査定を取り消す。 本願の発明は、特許すべきものとする。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、2013年4月10日(パリ条約による優先権主張外国庁受理2012年4月11日、米国、2012年6月29日、米国、2013年3月15日、米国)を国際出願日とする出願であって、平成27年8月11日付けで拒絶理由が通知され、その指定期間内の平成28年2月10日に手続補正されが、同年5月16日付けで拒絶査定(発送日:同年5月24日、以下「原査定」という。)され、これに対し、同年9月23日に拒絶査定不服審判が請求され、その審判の請求と同時に手続補正され、その後、当審において平成29年6月16日付けで拒絶理由(以下「当審拒絶理由」という。)が通知され、その指定期間内の同年9月15日に手続補正されたものである。

第2 原査定の概要
本願の平成28年2月10日の手続補正により補正された下記の請求項に係る発明は、その出願前に日本国内又は外国において、頒布された下記の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。


・請求項1ないし11
・刊行物AないしC
1 請求項1ないし9に係る発明は、刊行物Aに記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものである。

2 請求項10及び11に係る発明は、刊行物Aに記載された発明に刊行物Bに記載された発明及び刊行物Cに記載された発明を適用して、当業者が容易に発明をすることができたものである。

刊行物等一覧
刊行物A:特開2006-258290号公報
刊行物B:特開2010-181033号公報
刊行物C:特開平9-280253号公報

第3 当審拒絶理由の概要
1 本願の平成28年9月23日の手続補正により補正された請求項1の「可撓性の中央プレート構造体(58)」との事項に関して、発明の詳細な説明には、「中央プレート構造体は、複数の個々の中央プレート58に分割されている。」(段落【0022】)との記載、及び「動作時には、遊星ギヤ18が、キャリヤ16に大きな接線方向の力を伝達し、それによって、キャリヤ16は、支持リング60に対して回転しようとする(図5に矢印「R」で示された相対方向を参照)。その結果、トルクフィンガー68を接線方向(矢印「B」で示す)に弾性変形させる。中央プレート58は、歪み(矢印「D」)、トルクフィンガー68の屈曲に適応するようになる。これらの効果は、歪みエネルギとしてのトルクを吸収し、キャリヤ16からトルクフィンガー68の動きを分離することである。これにより、キャリヤ16の歪みや、それによって生じる軸受の位置ずれや、ギヤの動作中のクリアランスの変化を回避する。複数の中央プレート58の応力が、予想される運転負荷に対する弾性範囲内に維持されるように、これらの寸法および形状が決定される。」(段落【0024】)との記載がある。
これらの記載からみて、トルクフィンガー68の弾性変形と中央プレート58の歪みによって、キャリヤ16の歪みや、軸受の位置ずれ、ギヤの動作中のクリアランスの変化が回避されると解される。
そうすると、請求項1の中央プレート構造体(58)が中央プレート58のことであるとすれば、請求項1の「可撓性の中央プレート構造体(58)」との事項とは「中央プレート58の歪み」或いは「中央プレート58の弾性」を意味するのか、トルクフィンガー68を含んで、トルクフィンガー68の弾性変形と中央プレート58の歪み或いは弾性とを意味するのか、「可撓性」が何によって生じるものであるのか不明瞭であり、また、発明の詳細な説明とも整合していない。
よって、請求項1及び請求項1を引用する請求項2ないし9の記載は、特許法第36条第6項第1号及び同項第2号に規定する要件を満たしていない。

2 本願の平成28年9月23日の手続補正により補正された請求項1ないし5、7ないし9に係る発明は、その出願前に日本国内又は外国において頒布された下記の刊行物に基いて、その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により、特許を受けることができない。

刊行物等一覧
刊行物1:特開2004-308910号公報
刊行物2:特開平9-280253号公報(原査定の刊行物C)

第4 本願発明
本願の請求項1ないし8に係る発明(以下、それぞれ「本願発明1」ないし「本願発明8」という。)は、平成29年9月15日の手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項1ないし8に記載された次のとおりのものである。

「【請求項1】
中心軸を有し、内部に1以上の回転ギヤ(12、18、22)を取り付けるように構成されたギヤボックスのキャリヤ(16)であって、互いから離れている前方壁(26)および後方壁(28)と、該前方壁(26)及び前記後方壁(28)の間に配置されている中央プレート構造体(58)とを含むキャリヤ(16)と、
前記キャリヤ(16)に対し、軸線方向に隣接して配置された環状の支持リング(60)と、
前記支持リング(60)と前記中央プレート構造体(58)とを相互接続する、複数の軸線方向に延びるトルクフィンガー(68)と
を備え、
各トルクフィンガー(68)が、後方端部(70)において第1の断面積を有し、前方端部(72)における、第1の断面積よりも小さい第2の断面積までだんだん細くなり、該トルクフィンガー(68)の断面の、接線方向の幅が、該トルクフィンガー(68)の断面の、半径方向の厚さよりも大きく、
前記支持リング(60)、前記中央プレート構造体(58)、および前記トルクフィンガー(68)は、モノリシック部品の一部であり、
前記トルクフィンガー(68)の弾性変形および前記中央プレート構造体(58)の歪みによって、前記キャリヤ(16)の歪み並びにこれにより生じる前記回転ギヤ(12、18、22)の軸受の位置ずれ及び該回転ギヤ(12、18、22)動作中のクリアランスの変化を回避する
ギヤボックス支持装置。
【請求項2】
前記中央プレート構造体(58)が、前記前方壁(26)と前記後方壁(28)との間の、軸線方向のほぼ中間に配置されている、請求項1に記載のギヤボックス支持装置。
【請求項3】
前記キャリヤ(16)が、前記前方壁(26)と前記後方壁(28)とを相互接続する少なくとも1つの側壁(54)を備える、請求項1又は2に記載のギヤボックス支持装置。
【請求項4】
前記キャリヤ(16)の複数のローブ(56)を画成するために、複数の前記側壁(54)が、中心軸を中心に、互いから間隔を開けて配置された対の配列状に配置された、請求項3に記載のギヤボックス支持装置。
【請求項5】
前記キャリヤ(16)の複数の前記ローブ(56)同士の間に複数の空間が画成され、前記中央プレート構造体(58)が、複数の中央プレート(58)を備え、個々の前記中央プレート(58)が、前記複数の空間のうち一つに配置され、かつ複数の前記側壁(54)のうち、隣接するもの同士の間に延びる、請求項4に記載のギヤボックス支持装置。
【請求項6】
請求項1乃至5のいずれか1項に記載のギヤボックス支持装置と、
前記キャリヤ(16)内に支持されているギヤトレイン(12、18、22)と、を備えるギヤボックス。
【請求項7】
前記ギヤトレイン(12、18、22)が、セラミック材料からなる、複数の略円筒状のローラー(52)を含む軸受によって回転自在に支持された少なくとも1つのギヤ(18)を含む、請求項6に記載のギヤボックス。
【請求項8】
前記ローラー(52)が、最大直径の中央の冠部(53)と、該中央の冠部(53)からだんだん細くなり、より小さな径を有する端部(55)とを有する、樽形状を有する、
請求項7に記載のギヤボックス。」

第5 刊行物
1 刊行物1
当審拒絶理由に引用され、本願の優先日前に頒布された刊行物1(特開2004-308910号公報)には、「減速歯車列における遊星キャリアおよび固定支持の間のフレキシブル接続システム」に関して、段落【0021】ないし段落【0031】及び段落【0043】ないし段落【0046】並びに図面(特に、図2、図5、図10、図11参照)を総合し、本願発明1の記載ぶりに則って整理すると、図10及び図11の変形実施形態に関して、次の発明(以下「引用発明」という。)が記載されている。

「軸Xを有し、内部に太陽歯車2、環状歯車3及び複数の遊星歯車4を取り付けるように構成された減速歯車列1のケージ8であって、互いから離れているサイドプレート7aおよびサイドプレート7bと、該サイドプレート7a及び前記サイドプレート7bの間に配置されているケージ8の中間平面、開口部17及び開口部17の中に位置するスリーブ20とを含むケージ8と、
前記ケージ8に対し、軸線方向に隣接して配置された環状ケージキャリア12と、
前記環状ケージキャリア12と前記ケージ8の中間平面、開口部17及びスリーブ20とを相互接続する、複数の軸線方向に延びるアーム14と
を備えた、
減速歯車列における遊星キャリアおよび固定支持の間のフレキシブル接続システム。」

2 刊行物2
同じく当審拒絶理由に引用され、本願の優先日前に頒布された刊行物2(特開平9-280253号公報)には、「セラミックス製ベアリング用転動体,同表面加工方法及び同表面加工装置」に関して、図面(特に、図1、図2参照)とともに、以下の事項が記載されている。

「【0017】図2(a),(b)は本発明に係るセラミックス製ベアリング用転動体の説明図である。(a)は中加工後の転動体を示し、転動体の中加工品14は次の工程で製造されるものである。圧粉成形工程→脱脂工程→焼結工程→ダイヤモンド砥粒による粗加工→ダイヤモンド砥粒による中加工。この段階での転動体の中加工品14は単純円柱である。(b)は加工(含む超加工)済のセラミックス製ベアリング用転動体4を示し、本発明に係る装置及び方法にて、転動体4の円周面を全体的に研磨し、且つ中央部11に比べて左右の端部12,12にクラウニングを施したしたことを特徴とする。」

第6 対比・判断
1 本願発明1について
本願発明1と引用発明とを対比すると、後者の「軸X」は前者の「中心軸」に相当し、以下同様に、「太陽歯車2、環状歯車3及び複数の遊星歯車4」は「1以上の回転ギヤ(12、18、22)」に、「減速歯車列1」は「ギヤボックス」に、「ケージ8」は「キャリヤ(16)」に、「サイドプレート7a」は「前方壁(26)」に、「サイドプレート7b」は「後方壁(28)」に、「ケージ8の中間平面、開口部17及び開口部17の中に位置するスリーブ20」は「中央プレート構造体(58)」に、「環状ケージキャリア12」は「環状の支持リング(60)」に、「アーム14」は「トルクフィンガー(68)」に、「減速歯車列における遊星キャリアおよび固定支持の間のフレキシブル接続システム」は「ギヤボックス支持装置」にそれぞれ相当する。

したがって、両者は、
「中心軸を有し、内部に1以上の回転ギヤを取り付けるように構成されたギヤボックスのキャリヤであって、互いから離れている前方壁および後方壁と、該前方壁及び前記後方壁の間に配置されている中央プレート構造体とを含むキャリヤと、
前記キャリヤに対し、軸線方向に隣接して配置された環状の支持リングと、
前記支持リングと前記中央プレート構造体とを相互接続する、複数の軸線方向に延びるトルクフィンガーと
を備えた、
ギヤボックス支持装置。」

で一致し、次の点で相違する。

〔相違点1〕
本願発明1は、「各トルクフィンガー(68)が、後方端部(70)において第1の断面積を有し、前方端部(72)における、第1の断面積よりも小さい第2の断面積までだんだん細くなり、該トルクフィンガー(68)の断面の、接線方向の幅が、該トルクフィンガー(68)の断面の、半径方向の厚さよりも大き」いのに対し、
引用発明は、アーム14においてかかる構成を備えていない点。

〔相違点2〕
本願発明1は、「前記支持リング(60)、前記中央プレート構造体(58)、および前記トルクフィンガー(68)は、モノリシック部品の一部であり、前記トルクフィンガー(68)の弾性変形および前記中央プレート構造体(58)の歪みによって、前記キャリヤ(16)の歪み並びにこれにより生じる前記回転ギヤ(12、18、22)の軸受の位置ずれ及び該回転ギヤ(12、18、22)動作中のクリアランスの変化を回避する」のに対し、
引用発明は、かかる構成を備えていない点。

そこで、各相違点について検討する。
(1)相違点1について
刊行物1の図5には、アーム14が環状ケージキャリア12と接続する部分での断面積よりも、アーム14の前方端部での断面積までだんだん細くなり、アーム14の接線方向の幅が半径方向の厚さよりも大きいことが示されているから、引用発明において、相違点1に係る本願発明1の発明特定事項のようにすることは、当業者が容易に想到し得たことである。

(2)相違点2について
刊行物1の図10には、環状ケージキャリア12とアーム14とを単一品とすることが示されているが、刊行物1には、それらと「ケージ8の中間平面、開口部17及び開口部17の中に位置するスリーブ20」とを単一品とすることは記載も示唆もされていないから、引用発明において、刊行物1に記載された事項から、相違点2に係る本願発明1の「前記支持リング(60)、前記中央プレート構造体(58)、および前記トルクフィンガー(68)は、モノリシック部品の一部」とすることは、当業者が容易に想到し得たとはいえない。
また、刊行物2には、相違点2に係る本願発明1の「前記支持リング(60)、前記中央プレート構造体(58)、および前記トルクフィンガー(68)は、モノリシック部品の一部」とすることについて記載も示唆もされていない。
そして、本願発明1は、「前記支持リング(60)、前記中央プレート構造体(58)、および前記トルクフィンガー(68)は、モノリシック部品の一部」することにより「前記トルクフィンガー(68)の弾性変形および前記中央プレート構造体(58)の歪みによって、前記キャリヤ(16)の歪み並びにこれにより生じる前記回転ギヤ(12、18、22)の軸受の位置ずれ及び該回転ギヤ(12、18、22)動作中のクリアランスの変化を回避する」ものである。
そうすると、引用発明において、刊行物1及び2に記載された事項から、相違点2に係る本願発明1の発明特定事項を当業者が容易に想到し得たとはいえない。

(3)まとめ
したがって、本願発明1は、引用発明並びに刊行物1及び2に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。

2 本願発明2ないし8について
本願発明2ないし8は、本願発明1の発明特定事項を全て含むものであるから、本願発明1と同様の理由により、引用発明並びに刊行物1及び2に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。

3 まとめ
以上のとおり、本願発明1ないし8は、引用発明並びに刊行物1及び2に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。
また、当審では、特許請求の範囲の記載が不備であるため、特許法第36条第6項第1号及び同項第2号に規定する要件を満たしていないとの拒絶の理由を通知した。
しかしながら、平成29年9月15日の手続補正により請求項1の記載は、前記「第4」のとおり補正されたので、この拒絶の理由は解消した。

第7 原査定についての判断
本願発明1ないし8は、上記相違点2に係る発明特定事項を備えるものとなっており、上記のとおり、当該発明特定事項は、刊行物2(刊行物C)に記載されておらず、また、原査定において引用された前記刊行物A(図2,図3には、ボス28とキャリア12が別部材であることが示されている点参照)及び刊行物Bにも記載されていないから、刊行物AないしCから当業者が容易に想到し得たとはいえない。
したがって、本願発明1ないし8は、引用発明及び刊行物AないしCから当業者が容易に発明をすることができたものではないから、原査定を維持することはできない。

第8 むすび
以上のとおり、本願発明は、引用発明及び刊行物AないしCに記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。
したがって、原査定の理由によっては、本願を拒絶することはできない。
また、他に本願を拒絶すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり審決する。
 
審決日 2017-12-04 
出願番号 特願2015-504774(P2015-504774)
審決分類 P 1 8・ 121- WY (F16H)
P 1 8・ 537- WY (F16H)
最終処分 成立  
前審関与審査官 藤村 聖子稲葉 大紀  
特許庁審判長 中村 達之
特許庁審判官 小関 峰夫
冨岡 和人
発明の名称 ギヤボックスおよびギヤボックスのキャリヤの支持装置  
代理人 小倉 博  
代理人 田中 拓人  
代理人 黒川 俊久  
代理人 荒川 聡志  

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