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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 取り消して特許、登録 H01L
審判 査定不服 特36条4項詳細な説明の記載不備 取り消して特許、登録 H01L
審判 査定不服 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 取り消して特許、登録 H01L
管理番号 1335073
審判番号 不服2015-20054  
総通号数 217 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2018-01-26 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2015-11-07 
確定日 2017-12-19 
事件の表示 特願2011-535670「プラズマチャンバ部品用耐プラズマコーティング」拒絶査定不服審判事件〔平成22年 5月14日国際公開、WO2010/054112、平成24年 4月 5日国内公表、特表2012-508467、請求項の数(11)〕について、次のとおり審決する。 
結論 原査定を取り消す。 本願の発明は、特許すべきものとする。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、平成21年(2009年)11月5日(パリ条約による優先権主張 外国庁受理 2008年11月10日 米国)を国際出願日とする出願であって、平成24年11月5日付で審査請求がなされ、平成26年1月16日付で拒絶理由通知が通知され、同年7月27日付で意見書が提出されるとともに、同日付で手続補正がなされ、同年11月26日付で最後の拒絶理由通知が通知され、平成27年5月29日付で意見書が提出されるとともに、同日付で手続補正がなされたが、同年6月30日付で補正の却下の決定がなされるとともに、同日付で拒絶査定(以下、「原査定」という。)がなされたものである。
これに対して、平成27年11月7日付で審判請求がなされるとともに、同時に手続補正がなされ、平成28年10月28日付で補正の却下の決定がなされるとともに、同日付で拒絶理由通知(以下、「当審拒絶理由通知1」という。)が通知され、平成29年4月21日付で意見書が提出されるとともに、同日付で手続補正がなされ、同年7月26日付で拒絶理由通知(以下、「当審拒絶理由通知2」という。)が通知され、同年11月5日付で意見書が提出されるとともに、同日付で手続補正(以下、「本手続補正」という。)がなされたものである。

第2 原査定の概要
1 原査定の理由の概要
原査定の理由の概要は、次のとおりである。
「1)この出願の下記の請求項に係る発明は、その出願前に日本国内又は外国において、頒布された下記1の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができない。
2)この出願の下記の請求項に係る発明は、その出願前に日本国内又は外国において、頒布された下記1?4の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

記(引用文献等については引用文献等一覧参照)
請求項1,7,8,9
理由1)2)
引用文献1
引用文献1の【0045】?【0157】には、(222)面に結晶配向した耐食膜の割合を多くし、内部応力や外部応力に対して優れた耐久力を有しているY_(2)O_(3)耐腐食膜をプラズマ耐食が必要な面に設けることが記載されている。

請求項2,3,4,5,11,12,13
理由2)
引用文献1,2
引用文献2の【0012】?【0030】には、気孔率が0.5%以下、表面粗さが0.8μm以下のイットリアを含む溶射膜を形成することが記載されている。

請求項6
理由2)
引用文献1?3
引用文献3の【0025】?【0073】には、イットリア膜の下にSiO_(2)層を介在させる点が記載されている。

請求項10
理由2)
引用文献1?4
引用文献4の【0006】?【0037】には、イオンビームアシスト法でイットリアを含んだセラミックスを堆積させることが記載されている。

引 用 文 献 等 一 覧
1.特開2005-240171号公報
2.特開2007-326744号公報
3.特開2008-21963号公報
4.特開平11-61404号公報」

第3 当審拒絶理由の概要
1 当審拒絶理由通知1の概要、次のとおりである。
「平成27年11月7日付け手続補正書でした補正は、本件拒絶理由と同日付け補正の却下の決定により却下された(下記「付記」参照。)ので、本願の特許請求の範囲に記載された発明は、平成26年7月27日付け手続補正書により補正された特許請求の範囲に記載された次のとおりのものと認める。
「【請求項1】
基板と、
前記基板の少なくとも一部の上に配置される耐プラズマコーティングを含み、
前記耐プラズマコーティングは、前記基板に固有でないセラミックスを含み、1%未満の空孔率を有し、前記耐プラズマコーティングの主要構成要素はY_(2)O_(3)であり、前記耐プラズマコーティングは、前記耐プラズマコーティングの外面上にY_(2)O_(3)の(111)面を表す好適な面外成長方位をもつ結晶構造を有する多結晶であるプラズマ処理チャンバ部品。
【請求項2】
前記耐プラズマコーティングの空孔率は0%であり、前記耐プラズマコーティングはアモルファスである請求項1記載のプラズマ処理チャンバ部品。
【請求項3】
前記耐プラズマコーティングの表面は、1μm未満の算術平均粗さ(Ra)を有する請求項1記載のプラズマ処理チャンバ部品。
【請求項4】
前記部品は静電チャック部品であり、前記耐プラズマコーティングは少なくとも1000V/milの降伏電圧を有する請求項3記載のプラズマ処理チャンバ部品。
【請求項5】
前記セラミックスは、Y、Ir、Rh、及びランタノイドから成る群から選択される元素の酸化物、窒化物、ホウ化物、炭化物、又はハロゲン化物の少なくとも1つを含む請求項4記載のプラズマ処理チャンバ部品。
【請求項6】
前記基板と前記耐プラズマコーティングの間に配置される中間層を更に含み、前記中間層は、前記耐プラズマコーティング内の主要な構成要素の元素以外の元素の酸化物、窒化物、又は炭化物を含む請求項5記載のプラズマ処理チャンバ部品。
【請求項7】
前記基板はセラミックス又はアルミニウム合金であり、前記耐プラズマコーティングは実質的にアルミニウムを含まない、又は、前記基板は石英であり、前記耐プラズマコーティングは実質的にシリコンを含まない請求項1記載のプラズマ処理チャンバ部品。
【請求項8】
プラズマチャンバ部品用耐プラズマコーティングを形成する方法であって、
基板を提供するステップと、
前記コーティングが形成されるとき、約1μm未満の直径を有する高エネルギー粒子に前記耐プラズマコーティングを曝露する条件の下で前記基板上に前記耐プラズマコーティングを形成するステップを含み、前記耐プラズマコーティングの主要構成要素はY_(2)O_(3)であり、前記耐プラズマコーティングは、前記耐プラズマコーティングの外面上にY_(2)O_(3)の(111)面を表す好適な面外成長方位をもつ結晶構造を有する多結晶である方法。
【請求項9】
前記耐プラズマコーティングを形成するステップは、Y、Ir、Rh、及びランタノイドから成る群から選択される元素の酸化物、窒化物、ホウ化物、炭化物、又はハロゲン化物の少なくとも1つを堆積するステップを更に含む請求項8記載の方法。
【請求項10】
前記耐プラズマコーティングは、イオンアシスト蒸着(IAD)又はプラズマ反応性蒸着(PRD)によって堆積される請求項8記載の方法。
【請求項11】
前記耐プラズマコーティングが前記部品基板上に堆積される間、前記基板は電気的にバイアスを掛けられる請求項8記載の方法。
【請求項12】
前記耐プラズマコーティングは、1%未満の空孔率をもって形成される請求項8記載の方法。
【請求項13】
前記部品は静電チャックであり、前記方法は、
前記耐プラズマコーティングを堆積する前に、前記静電チャック基板上に中間層を堆積するステップを更に含み、前記中間層は前記耐プラズマコーティング内に無い元素の酸化物を含む請求項8記載の方法。」

a.この出願は、特許請求の範囲の記載が下記の点で、特許法第36条第4項に規定する要件を満たしていない。



1.請求項1には「1%未満の空孔率を有し」と記載し、また、請求項2には、「空孔率は0%であり」と記載し、請求項12には「1%未満の空孔率をもって形成される」と記載しているが、該「空孔率」がどのようにして測られるのか記載されていないために、請求項に記載された発明を、その技術分野における通常の知識を有する者がその発明を実施することができる程度に明確かつ十分に記載しているとは言えない。
つまり、「空孔率」について、発明の詳細な説明【0019】に「一実施形態では、耐プラズマコーティング315は、約1%未満の空孔率を有する。空孔率は、コーティングの全体積における空間のパーセンテージで表され、より低い空孔率は、コーティングがより密であることを表す。更なる実施形態では、特定の膜組成に対して最大密度の条件では、空孔率は本来0%である。そのような低いコーティング空孔率は、従来のコーティング堆積法(プラズマ溶射等)によって以前は達成不可能であり、圧縮的に加圧されたコーティングでさえ1%をかなり超える空孔率をしていた。」と記載され、「空孔率は、コーティングの全体積における空間のパーセンテージで表され」るとしているが、その空間のパーセンテージをどのようにして計測するのか記載されていないために、その計測を行うことができない。
したがって、請求項1、2および12に記載された発明は、その技術分野における通常の知識を有する者がその発明を実施することができる程度に明確かつ十分に記載しているとは言えない。また、前記請求項を引用する、請求項3-7に記載された発明についても、同様の理由により、その技術分野における通常の知識を有する者がその発明を実施することができる程度に明確かつ十分に記載しているとは言えない。

2.請求項4では「前記耐プラズマコーティングは少なくとも1000V/milの降伏電圧を有する」と記載しているが、該「降伏電圧」がどのようにして測られるのか記載されていないために、請求項に記載された発明を、その技術分野における通常の知識を有する者がその発明を実施することができる程度に明確かつ十分に記載しているとは言えない。
つまり、「降伏電圧」について、発明の詳細な説明【0026】に「更なる実施形態では、耐プラズマコーティング315は、少なくとも1000V/mil(thou)の降伏電圧を有する。特定の実施形態では、降伏電圧は3500V/mil(thou)よりも大きい。対照的に、従来のプラズマ溶射Y2O3コーティングは、一般に約750V/mil(thou)のVBDを有する。本明細書内で開示される実施形態のより高い降伏電圧は、ESC部品に対しても有利であるかもしれない。」と記載されているのみで、「降伏電圧」をどのようにして計測するのか記載されていないために、その計測を行うことができない。したがって、請求項4に記載された発明は、その技術分野における通常の知識を有する者がその発明を実施することができる程度に明確かつ十分に記載しているとは言えない。また、前記請求項を引用する、請求項5および6に記載された発明についても、同様の理由により、その技術分野における通常の知識を有する者がその発明を実施することができる程度に明確かつ十分に記載しているとは言えない。


b.この出願は、特許請求の範囲の記載が下記の点で、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない。



1.請求項1では「前記耐プラズマコーティングの主要構成要素はY_(2)O_(3)であ」るとしており、請求項1に記載された発明を引用する請求項4を引用する請求項5では「前記セラミックスは、Y、Ir、Rh、及びランタノイドから成る群から選択される元素の酸化物、窒化物、ホウ化物、炭化物、又はハロゲン化物の少なくとも1つを含む」としているが、請求項5に記載された発明の「セラミックス」が、発明の詳細な説明の如何なる記載に対応するのかわからない。
つまり、発明の詳細な説明では、
「【0021】
本発明の一実施形態では、耐プラズマコーティング315は、次の主要構成要素を含むセラミックスである: スカンジウム(Sc)、イットリウム(Y)、イリジウム(Ir)、ロジウム(Rh)、ランタノイド(例えば、ランタン(La)、セリウム(Ce)、ユーロピウム(Eu)、ジスプロシウム(Dy)、又はエルビウム(Er))、又はハフニウム(Hf)の、酸化物、窒化物、ホウ化物、炭化物、又はフッ化物。一例示的コーティング組成は、主要構成要素としてY_(2)O_(3)を含む(即ち「Y_(2)O_(3)ベースである」)。別の一例示的コーティング組成は、主要構成要素としてYF_(3)を含む(即ち「YF_(3)ベースである」)。別の一例示的コーティング組成は、主要構成要素としてEr_(2)O_(3)を含む(即ち「Er_(2)O_(3)ベースである」)。主要構成要素に加えて、耐プラズマコーティング315は、より少ない量の他のセラミックス(炭化珪素(SiC)及び酸化ジルコニウム(ZrO_(2))等)を更に含み、これによって例えば、マトリックス/溶質又は超格子を形成するかもしれない。1つの例示的なY_(2)O_(3)ベースの組成は、0.5?1.1at%(原子百分率)のC、58?60at%のO、0?0.5at%のF、及び39?40at%のYを含む。」と記載されており、
「耐プラズマコーティング315」は、「スカンジウム(Sc)、イットリウム(Y)、イリジウム(Ir)、ロジウム(Rh)、ランタノイド(例えば、ランタン(La)、セリウム(Ce)、ユーロピウム(Eu)、ジスプロシウム(Dy)、又はエルビウム(Er))、又はハフニウム(Hf)の、酸化物、窒化物、ホウ化物、炭化物、又はフッ化物」を主要構成要素とし、主要構成要素以外の構成は、「炭化珪素(SiC)及び酸化ジルコニウム(ZrO_(2))」や「0.5?1.1at%(原子百分率)のC、58?60at%のO、0?0.5at%のF、及び39?40at%のYを含む」ものしか記載されていない。
それに対して、請求項1を引用する請求項4を引用する請求項5に記載された発明は、請求項1で「前記耐プラズマコーティングの主要構成要素はY_(2)O_(3)であり」との記載から、主要構成要素は、イットリウム(Y)の酸化物であると認められるが、上記の通り、該「Y_(2)O_(3)」を主要構成要素とする耐プラズマコーティングは、他の要素として、SiC,ZrO_(2),C,FおよびYを含むことは記載されているものの、請求項5に記載された「Ir、Rh、及びランタノイドから成る群から選択される元素の酸化物、窒化物、ホウ化物、炭化物、又はハロゲン化物の少なくとも1つを含む」ものについては記載されていない。また、上記【0021】の記載では、該「Y_(2)O_(3)」を主要構成要素とする耐プラズマコーティングは、他の要素として、例えば、Yを含むことは記載されているものの、Yを酸化物、窒化物、ホウ化物、炭化物、又はハロゲン化物として含むとの記載は認められない。
従って、請求項5に記載された発明は、発明の詳細な説明に記載されたものではない。


c.この出願は、特許請求の範囲の記載が下記の点で、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない。



1.請求項1では「前記耐プラズマコーティングは、前記耐プラズマコーティングの外面上にY_(2)O_(3)の(111)面を表す好適な面外成長方位をもつ結晶構造を有する多結晶である」としているのに対して、請求項1を引用する請求項2では「前記耐プラズマコーティングはアモルファスである」としており、請求項1を引用する請求項2に記載された発明は、明確でない。
すなわち、請求項2に記載された発明は、(111)面を表す好適な面外成長方位をもつ結晶構造を有する多結晶が、アモルファスであるとなり、両者は矛盾する。



d.この出願の下記の請求項に係る発明は、その出願前日本国内又は外国において頒布された下記の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。



引 用 文 献 等 一 覧
引用文献1 特開2005-240171号公報
引用文献2 特開2008-266724号公報
引用文献3 特開平11-61404号公報


・請求項 1
・引用文献等 1,2
・備考
引用例1に記載された発明の「基材」「Y_(2)O_(3)からなるPVD耐食膜」「半導体・液晶製造装置を形成する真空チャンバーの内壁材、マイクロ波導入窓、フォーカスリング、サセプタ等の如きフッ素系や塩素系などのハロゲン系腐食性ガス雰囲気下でプラズマに曝される半導体・液晶製造装置用部材」は、請求項1に記載された発明の「基板」「プラズマコーディング」「プラズマチャンバ部品」に相当する。

そうすると、引用例1に記載された発明と請求項1に記載された発明とは、以下の点で相違し、その余の点で一致する。

[相違点1]
請求項1に記載された発明の「耐プラズマコーティング」は、「1%未満の空孔率を有し」ているのに対して、引用例1に記載された発明は、「気孔率が10%以下」としている点。
[相違点2]
請求項1に記載された発明の「前記耐プラズマコーティングの外面上にY_(2)O_(3)の(111)面を表す好適な面外成長方位をもつ結晶構造を有する多結晶である」のに対して、引用例1に記載された発明は、Y_(2)O_(3)の(111)面について記載が無い点。

以下、各相違点について検討する。

[相違点1]について
引用例2には、耐プラズマ用溶射被膜について、【0014】に「更に、本発明の方法によって表面処理された溶射被膜は、表面気孔率が2%未満であることを特徴とする。2%以上であるとエッチングプロセスでプラズマに曝された際に微細な粒子が脱離し易く、半導体ウエハーへのコンタミネーションを起こし易くなる。気孔率が小さいほど緻密であるが、特に0.1?1.0%が好ましい。」と記載されているように、耐プラズマ用被膜は、微細な粒子の脱離を防ぐ為に、表面気孔率(請求項1に記載された発明の「空孔率」に相当する。)が0.1?1.0%であることが好ましいことは、公知の事項である。
そして、引用例1記載の発明の「Y_(2)O_(3)からなるPVD耐食膜」も、微細な粒子の離脱は好ましくないから、該公知技術と同様の構成を採用し、「1%未満の空孔率を有」するようにすることは、当業者が適宜為し得た事項である。

[相違点2]について
本願の発明の詳細な説明に
「【0023】
代替の一実施形態では、耐プラズマコーティング315は、細粒結晶性の微細構造を有する。例示的な一実施形態では、粒径は0.5μmしかない。更なる一実施形態では、耐プラズマコーティング315は、結晶方位がランダムでないテクスチャリングされた結晶性の微細構造を有する。ランダムでない結晶方位は、所望の面外成長方位を有するかもしれない。図3に示される実施形態では、面外成長方位はy軸に沿っている。そのような一実施形態では、好適な面外成長は、プラズマに対向するように、外側コーティング面316において最も高い密度の結晶面を向く。そのような実施形態では、耐プラズマコーティング315は、コーティングの形成の間、稠密な結晶面の方位に沿って配置された原子をもつ最密構造を有する。例えば、典型的な面心立方(FCC)結晶構造に対して、(111)面が面外(y軸)へ向き、これによって(111)面は、外側コーティング面316を形成する。このように、コーティング材料の最密面が、プラズマチャンバを使用する間にプラズマに曝露される。例示的なテクスチャリングされたY_(2)O_(3)ベースの耐プラズマコーティングに対するXRDデータが、図3Dに示される。図示されるように、最密原子配置面(111)が使用中にプラズマに面しているであろうことを示す(222)ピークが突出している。プラズマ浸食レートへのテクスチャリングの効果が、図3Eに示される。図示されるように、プラズマ溶射Y_(2)O_(3)処理(「PS Y_(2)O_(3)」)は、テクスチャリングされた処理(「IAD Y_(2)O_(3)」)の3倍を超える浸食レートを有しており、ここで「IAD」は、本明細書内の他の場所で更に詳しく議論されるように、薄膜がイオンアシスト蒸着によって形成されたことを示す。」
と記載されているように、請求項1に記載された発明は、図3Dに示されているようにY_(2)O_(3)ベースの耐プラズマコーティングに対するXRDデータにおいて、最密原子配置面(111)が使用中にプラズマに面しているであろうことを示す(222)ピークが突出していることをもって、「前記耐プラズマコーティングの外面上にY_(2)O_(3)の(111)面を表す好適な面外成長方位をもつ結晶構造を有する」としている。
引用例1発明は、【0085】に「図2に酸化アルミニウムからなる基材1に所定厚さのPVD耐食膜を形成した耐食性部材において、PVD耐食膜表面をX線回折装置により解析したX線回折チャートを示す。」とし、図2(a)として示されるX線解析チャートでは、(222)ピークが突出している。
してみれば、引用例1に記載された発明も、X線解析チャートにおいて(222)ピークが突出しているから、「前記耐プラズマコーティングの外面上にY_(2)O_(3)の(111)面を表す好適な面外成長方位をもつ結晶構造を有する」と言える。

したがって、請求項1に記載された発明は、引用例1および2に記載された発明に基づいて、当業者が適宜為し得たものである。


・請求項 2
・引用文献等 1,2
・備考
請求項1「[相違点1]について」で述べたように、引用例2に記載されているように、エッチングプロセスでプラズマに曝された際に微細な粒子が脱離し難い方が好ましく、また、そのために、空孔率が小さいことが好ましいことは明らかである。
そして、引用例1に記載された発明の「Y_(2)O_(3)からなるPVD耐食膜」は、イオンプレーティング法を用いて形成されているから、引用例1に記載された発明において、空孔率を0%とすることは、適宜為し得る事項である。

・請求項 3
・引用文献等 1,2
・備考
引用例1【0115】に記載されているように、引用例1に記載された発明の「Y_(2)O_(3)からなるPVD耐食膜」の表面粗さ(Ra)は1μm未満である。

・請求項 4
・引用文献等 1,2
・備考
静電チャック部品等は、降伏電圧が高い方がより好ましいことは明らかであり、また、引用例1に記載された発明はサセプタに適用する旨記載されているから、引用例1に記載された発明においても、降伏電圧を1000V/milとすることは、当業者が適宜為し得たものである。

・請求項 5
・引用文献等 1,2
・備考
引用例1に記載された発明の「Y_(2)O_(3)からなるPVD耐食膜」もYの酸化物を含んでいる。

・請求項 6
・引用文献等 1,2
・備考
引用例1には、「第3の実施形態」図3(a)として、請求項6に記載された発明の「中間層」に相当する構成である「溶射耐食膜5」を備えることが記載されている。また、【0153】に記載されているように、引用例1の「溶射耐食膜5」は、添加物としてSiO_(2)が添加しており、このSiO_(2)は、請求項6に記載された発明の「前記中間層は、前記耐プラズマコーティング内の主要な構成要素の元素以外の元素の酸化物、窒化物、又は炭化物を含む」ことに相当する。

・請求項 7
・引用文献等 1,2
・備考
引用例1に記載された発明の「基材」は、【0046】に記載されているように、「セラミックス」である。
また、「基材」として、「アルミ合金」や「石英」を用いることも良く行われている。


・請求項 8
・引用文献等 1,2
・備考
引用例1【0147】に記載されているように、引用例1に記載された発明の「Y_(2)O_(3)からなるPVD耐食膜」は、酸化イットリウム焼結耐を蒸発させ、イオン化し、基材にバイアス電圧を印可することによって、基材に酸化イットリウムを付着させているから、引用例1に記載された発明は、請求項8に記載された発明と同様に、「約1μm未満の直径を有する高エネルギー粒子に前記耐プラズマコーティングを曝露する条件の下で前記基板上に前記耐プラズマコーティングを形成するステップ」を有していると認められる。
その他の点については、請求項1に係る備考を参照されたい。

・請求項 9
・引用文献等 1,2
・備考
引用例1には「第3の実施形態」図3(c)として、複数の耐食膜を用いることが記載されているから、引用例1に記載された発明も、請求項8と同様の堆積するステップを更に含んでいると認められる。

・請求項 10
・引用文献等 1-3
・備考
請求項10に記載され発明の「イオンアシスト蒸着(IAD)」は、引用例1に記載された発明の「イオンプレーティング法」に相当する。
また、引用例3【0023】-【0026】に記載されているように「イオンアシスト蒸着(IAD)」も、公知の技術であるから、引用例1に記載された発明において、該「イオンアシスト蒸着(IAD)」を採用することも、適宜為し得る事項である。

・請求項 11
・引用文献等 1,2
・備考
引用例1に記載された発明も、「前記耐プラズマコーティングが前記部品基板上に堆積される間、前記基板は電気的にバイアスを掛けられ」ている(引用例1【0147】参照。)。

・請求項 12
・引用文献等 1,2
・備考
「1%未満の空孔率」とすることは、請求項1に係る備考の「【相違点1】について」を参照されたい。

・請求項 13
・引用文献等 1,2
・備考
「中間層」については、請求項6に係る備考を参照されたい。」

2 当審拒絶理由通知2の概要、次のとおりである。
「この出願は、特許請求の範囲の記載が下記の点で、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない。



1.請求項1では「前記耐プラズマコーティングは、前記耐プラズマコーティングの外面上にY_(2)O_(3)の(111)面を表す好適な面外成長方位をもつ結晶構造を有する多結晶である」としているのに対して、請求項1を引用する請求項2では「前記耐プラズマコーティングはアモルファスである」としており、請求項1を引用する請求項2に記載された発明は、明確でない。
すなわち、請求項2に記載された発明は、(111)面を表す好適な面外成長方位をもつ結晶構造を有する多結晶が、アモルファスであるとなり、両者は矛盾する。」

第4 本願発明
本願請求項1-11に係る発明(以下、それぞれ「本願発明1」-「本願発明11」という。)は、本手続補正で補正された特許請求の範囲の請求項1-11に記載された事項により特定される発明であり、本願発明1-11は以下のとおりの発明である。
「【請求項1】
基板と、
前記基板の少なくとも一部の上に配置される耐プラズマコーティングを含み、
前記耐プラズマコーティングは、前記基板に固有でないセラミックスを含み、1%未満の空孔率を有し、前記耐プラズマコーティングの主要構成要素はY_(2)O_(3)であり、前記耐プラズマコーティングは、前記耐プラズマコーティングの外面上にY_(2)O_(3)の(111)面を表す好適な面外成長方位をもつ結晶構造を有する多結晶であり、前記セラミックスは、SiC及びZrO_(2)のうちの少なくとも1つを含むプラズマ処理チャンバ部品。
【請求項2】
前記耐プラズマコーティングの空孔率は0%である請求項1記載のプラズマ処理チャンバ部品。
【請求項3】
前記耐プラズマコーティングの表面は、1μm未満の算術平均粗さ(Ra)を有する請求項1記載のプラズマ処理チャンバ部品。
【請求項4】
前記部品は静電チャック部品であり、前記耐プラズマコーティングは少なくとも1000V/milの降伏電圧を有する請求項3記載のプラズマ処理チャンバ部品。
【請求項5】
前記基板と前記耐プラズマコーティングの間に配置される中間層を更に含み、前記中間層は、前記耐プラズマコーティング内の主要な構成要素の元素以外の元素の酸化物、窒化物、又は炭化物を含む請求項4記載のプラズマ処理チャンバ部品。
【請求項6】
前記基板はセラミックス又はアルミニウム合金であり、前記耐プラズマコーティングは実質的にアルミニウムを含まない、又は、前記基板は石英であり、前記耐プラズマコーティングは実質的にシリコンを含まない請求項1記載のプラズマ処理チャンバ部品。
【請求項7】
プラズマチャンバ部品用耐プラズマコーティングを形成する方法であって、
基板を提供するステップと、
前記コーティングが形成されるとき、約1μm未満の直径を有する高エネルギー粒子に前記耐プラズマコーティングを曝露する条件の下で前記基板上に前記耐プラズマコーティングを形成するステップを含み、前記耐プラズマコーティングの主要構成要素はY_(2)O_(3)であり、前記耐プラズマコーティングは、前記耐プラズマコーティングの外面上にY_(2)O_(3)の(111)面を表す好適な面外成長方位をもつ結晶構造を有する多結晶であり、前記耐プラズマコーティングは、前記基板に固有でないセラミックスを含み、前記セラミックスは、SiC及びZrO_(2)のうちの少なくとも1つを含む方法。
【請求項8】
前記耐プラズマコーティングは、イオンアシスト蒸着(IAD)又はプラズマ反応性蒸着(PRD)によって堆積される請求項7記載の方法。
【請求項9】
前記耐プラズマコーティングが前記部品基板上に堆積される間、前記基板は電気的にバイアスを掛けられる請求項7記載の方法。
【請求項10】
前記耐プラズマコーティングは、1%未満の空孔率をもって形成される請求項7記載の方法。
【請求項11】
前記部品は静電チャックであり、前記方法は、
前記耐プラズマコーティングを堆積する前に、前記静電チャック基板上に中間層を堆積するステップを更に含み、前記中間層は前記耐プラズマコーティング内に無い元素の酸化物を含む請求項7記載の方法。」

第5 引用例、引用発明等
1 引用例1について
原査定の拒絶の理由および当審拒絶理由1の拒絶の理由に引用された特開2005-240171号公報(以下、「引用例1」という。)には、図面とともに次の事項が記載されている。
(1)「【0001】
本発明は、半導体・液晶製造装置において、内壁材(チャンバー)、マイクロ波導入窓、シャワーヘッド、フォーカスリング、シールドリング等をはじめとする半導体・液晶製造装置(エッチャーやCVD等)の構成部品、これらの装置で高真空を得るために使用されるクライオポンプやターボ分子ポンプ等の構成部品、その中でも特に腐食性ガス又はそのプラズマに対して高い耐食性を求められる部材に適用できるものである。」
(2)「【0080】
ここで、第2の実施形態として、基材の表面に少なくとも一層のPVD耐食膜を形成してなる耐食性部材について説明する。
【0081】
この耐食性部材は、基材の表面に形成した耐食膜のうち少なくとも一層が3族元素を主成分とし、X線回折による(222)面帰属ピーク強度をI_(222)、(400)面帰属ピーク強度をI_(400)としたとき、I_(400)/I_(222)が0.5以下に特定するものである。
【0082】
I_(400)/I_(222)を0.5以下とすることにより、膜形成時や膜形成後に表面や内部に加わる応力に対して耐久性を有した膜構造とするためである。このPVD耐食膜は、膜形成後にその結晶がX線回折による(222)面か(400)面に結晶配向するものに特定するものである。
【0083】
ここで、図1(a)に本発明の耐食性部材に用いるPVD耐食膜の膜結晶構造のうち、(222)面に結晶配向した場合の断面概略図を、同図(b)に(400)面に結晶配向した場合の断面概略図を示す。図1に示すように、(222)面に結晶配向した場合は、2次元的に見ると基材1に対してほぼ45°の角度に結晶2が配列されている。また(400)面に配向した場合は、基材1に対して垂直方向に結晶2が配列されることとなる。従って、図1(a)では、例えば基材1に対して垂直方向に応力が加わった場合、特に亀裂や破損が生じやすい結晶粒界3では応力が垂直方向と斜め45°方向に分散されるため、膜に亀裂や破損が生じにくい。これに対して図1(b)は同様に耐食膜表面に応力が加わった場合、結晶粒界3に応力が集中するため耐食膜2により亀裂や破損が生じやすい。さらに、耐食膜2形成時に膜内部に残留する応力に対しても同様であり、(222)面に結晶配向した方が、耐食膜2に亀裂や破損が生じにくい。
【0084】
このように(222)面に結晶配向させた方が耐食膜に残留した応力、ならびに外部から加えられる応力に対してより耐久力を有しており、X線回折による(222)面帰属ピーク強度をI_(222)、(400)面帰属ピーク強度をI_(400)としたとき、I_(400)/I_(222)を0.5以下とし、(222)面に結晶配向した耐食膜の割合を多くした耐食膜は内部応力や外部応力に対して優れた耐久力を有しているといえる。前記I_(400)/I_(222)を0.3以下とすればより好適であり、さらに0.1以下とすれば、耐食膜結晶のほとんどが(222)面に結晶配向した膜とできるために最適である。
【0085】
図2に酸化アルミニウムからなる基材1に所定厚さのPVD耐食膜を形成した耐食性部材において、PVD耐食膜表面をX線回折装置により解析したX線回折チャートを示す。図中、○が立方晶酸化イットリウムの回折ピークであり、□が基材である酸化アルミニウムの回折ピークである。X線回折結果から分かるように、図2(a)は耐食膜表面のX線回折による(400)面帰属ピーク強度I_(400)と(222)面帰属ピーク強度I_(222)との比、すなわちI_(400)/I_(222)が1以下のより最適な0.1以下の値を示している。これと比較して、図2(b)はI_(400)/I_(222)が1以上の値を示しており、(400)面帰属ピーク強度の値が大きく、PVD耐食膜を形成時に膜中に生じた残留応力によってその表面から内部にかけて亀裂を生じた。
【0086】
また、耐食膜の材質としては3族元素化合物の中でも、特にY_(2)O_(3)を用いることが好ましい。Y_(2)O_(3)は、3族元素化合物の中でも一般的であり安価で材料を入手でき、しかもフッ素系や塩素系等のハロゲン系腐食性ガスやそれらのプラズマに対する耐食性に優れているからである。
【0087】
さらに、前記PVD耐食膜は、平均結晶粒子径を50nm以上、1000nm以下の範囲内とすることが好ましい。これにより、前記のように(222)面に多く結晶配向させた耐食膜を形成可能である。このメカニズムについては明らかにはなっていないが、この範囲外では耐食膜形成後に耐食膜が(400)面に多く結晶配向し、膜表面に亀裂を生じてしまうためである。
【0088】
また、PVD耐食膜の厚みは、100μm前後が均質で緻密な膜を得ることが可能であり、100μm以下の厚さがより安価で耐食膜を形成できるため好適である。
【0089】
さらに、前記PVD耐食膜はその相対密度を70%以上とすることが好ましい。70%より低い場合には耐食性が著しく低下するためである。なお、膜密度はX線反射率法を用い測定した値を用い、その値から相対密度を算出すれば良い。
【0090】
また、前記PVD耐食膜の基材への密着強度としては、一般的に膜の密着性を確認するために用いられるスクラッチ試験機にて耐久荷重10gf以上の特性を有している。
【0091】
なお、前記スクラッチ試験機は、本体の振動に応じて発生する試験機先端部の摩擦力と復元力を元に、動きの差を電圧として引き出し膜剥離を検知するものであり、市販されている試験機であれば、膜剥がれが生じる際の耐久荷重を測定することが可能である。
【0092】
ここで、このようなPVD耐食膜を形成する方法について説明する。
【0093】
PVD耐食膜は、イオンプレーティング法、スパッタ法、イオンビームスパッタ法等のPVD(物理的蒸着)法により形成されたものであり、この中でも特に成膜レートを向上させ、より緻密なPVD耐食膜を形成することが可能で、密着強度を高くすることが可能な、イオンプレーティング法を用いることが好適である。以下イオンプレーティング法を用いたPVD耐食膜の形成方法について一例を示す。
【0094】
まず、基材を300?1000℃で熱処理する。これは、基材表面に存在する有機物を除去し、耐食膜と基材の間に存在する有機物が工程途中にガス化することにより耐食膜が剥がれるのを防止できるためであり、さらには基板表面のUV(紫外線)洗浄等も有機物除去のためには効果的である。
【0095】
図4に示すようなイオンプレーティング装置11を用いてPVD耐食膜の形成方法について具体的に説明する。
【0096】
PVD耐食膜を蒸着する前に、予め、真空容器12内の雰囲気を整える。例えば、真空度4×10^(-2)Paになるまでアルゴンガスを真空容器12内に導入した後、グロー放電を生じさせ、さらに真空度約1.2×10^(-1)Paになるまで酸化促進用O_(2)ガスを真空容器12内に導入した後、イオンプレーティング装置11で、前記の溶射法により形成した溶射耐食膜表面に対し、速度約0.5nm/secで所定の膜厚となるまで、蒸発用電源18によりフィラメント16を有する蒸発源15を加熱させ、蒸発物質14としてイオン化させたY_(2)O_(3)をぶつけて付着させる。
【0097】
ここで、前記蒸発物質14として用いるY_(2)O_(3)は粉末を用いることも可能であるが、本発明ではY_(2)O_(3)焼結体を用いるのが良い。Y_(2)O_(3)焼結体を用いることにより形成された耐食膜は、(222)面に多く結晶配向するため、膜内部および表面にかかる応力に対してより強い耐食膜とできる。このように、Y_(2)O_(3)焼結体を蒸発物質14として用いることで、耐食膜が(222)面に多く結晶配向するのは、蒸発物質を蒸発させるために、より強いエネルギーを与えなければならず、自然と蒸発物質(イオン)も高い活性エネルギーを持って、基材表面に膜を形成する。膜の結晶を配向させるためには、エネルギーが必要であり、高い活性エネルギーを有していれば(222)面へ結晶配向できると考えられるが、詳細は明らかにはなっていない。また、このようにY_(2)O_(3)焼結体を用いてイオンプレーティング法により耐食膜を形成することで、膜の基材への密着強度を向上させることが可能となる。
【0098】
さらに、Y_(2)O_(3)焼結体を蒸発物質14に用いることで、(222)面への結晶配向性を高めることができるとともに、形成されたPVD耐食膜の平均結晶粒径を50?1000nmの範囲とすることができる。なぜこの範囲の結晶粒径が得られるかは明らかにはなっていないが、Y_(2)O_(3)粉末を用いた場合50nmより小さな結晶粒径となるが、これと比較して結晶成長が著しく、結晶粒径が50?1000nmの範囲であれば、亀裂等のない良好な耐食膜を得ることが可能である。
【0099】
また、前記イオンプレーティング法では、アルゴンガスを放電させるプラズマソースを使用して真空容器12内にプラズマ発生用電源17を用いて300Wのグロー放電を生じさせ、これにより生じたプラズマのうちのAr^(+)を蒸発材料Y_(2)O_(3)とその分解したY_(2)O_(3)とO_(2)ガスに衝突させて、これらをイオン化させたり活性化させたりしている。このような条件下で、約10Vの負のバイアスを耐食性部材に印可して、その表面にY_(2)O_(3)を付着させている。なお、前記のプラズマ発生に使用するガスとしては、アルゴンの他に窒素、酸素等も利用可能である。
【0100】
このようなイオンプレーティング法により、形成されたPVD耐食膜は、300?500℃の低温で形成されるために、先に基材表面に形成した溶射耐食膜が再溶融することがなく、また両者の熱膨張差の影響を小さくでき、耐食膜表面のほとんど好ましくは全てを高密度に結晶化させることができるために耐食性をより高めることが可能である。また、PVD耐食膜は真空チャンバー中で蒸発粒子をイオン化させ、これを負に帯電させた耐食性部材に対して運動エネルギーをもって加速衝突させる物理的衝突にて形成しており、形成される基材表面に強固に付着させることができるばかりか、緻密な耐食膜とでき、さらには耐食膜中の不純物量を少なくすることが可能である。」
(3)酸化アルミニウムからなる基材1に所定厚さのPVD耐食膜を形成した耐食性部材において、PVD耐食膜表面をX線回折装置により解析したX線回折チャートである図2(a)を参照すると、(222)面帰属ピーク強度I_(222)が突出していることがわかる。
(4)したがって、上記引用例1には次の発明(以下、「引用例1発明」という。)が記載されていると認められる。
「酸化アルミニウムからなる基材1に所定厚さのPVD耐食膜を形成する方法において、
アルゴンガスを放電させるプラズマソースを使用して真空容器12内にプラズマ発生用電源17を用いて300Wのグロー放電を生じさせ、これにより生じたプラズマのうちのAr^(+)を蒸発材料Y_(2)O_(3)とその分解したY_(2)O_(3)とO_(2)ガスに衝突させ、これらをイオン化させたり活性化させたりし、約10Vの負のバイアスを耐食性部材に印可して、その表面にY_(2)O_(3)を付着させることにより形成され、
PVD耐食膜表面をX線回折装置により解析したX線回折チャートにおいて(222)面帰属ピーク強度I_(222)が突出している、
腐食性ガス又はそのプラズマに対して高い耐食性を求められる部材に適用する方法。」
2 引用例2について
原査定の拒絶の理由に引用された特開2007-326744号公報(以下、「引用例2」という。)には、図面とともに次の事項が記載されている。
(1)「【0001】
本発明は、ハロゲン系腐食性ガスやそのプラズマに対する耐食性に優れ、半導体・液晶製造用等のプラズマ処理装置、特に、静電チャックに好適に用いることができる耐プラズマ性セラミックス部材に関する。」
(2)「【0009】
本発明に係る耐プラズマ性セラミックス部材は、イットリアに対して2.5体積%以上25体積%以下のタングステンが分散し、開気孔率が0.1%以下であるイットリアセラミックス焼結体の最表面に、気孔率が5%以下であり、純度99.9%以上のイットリア溶射膜が形成されていることを特徴とする。
このような構成からなるセラミックス部材は、部材の体積抵抗率を容易に制御することができ、しかも、ハロゲンプラズマプロセスにおいても、該部材の帯電やエッチング等によるパーティクルの発生、また、タングステンのダストを抑制することができる。」
(3)「【0022】
上記のようにして最表面に形成されたイットリア溶射膜は、溶融が十分である場合には、表面粗さRaが2?8μmとなるが、該セラミックス部材を静電チャック等に適用する場合には、発現した吸着力の効果を十分に発揮させるため、表面粗さRaが0.8μm以下となるように研磨加工を施すことが好ましい。」
(4)したがって、上記引用例2には次の発明(以下、「引用例2記載事項」という。)が記載されていると認められる。
「ハロゲン系腐食性ガスやそのプラズマに対する耐食性に優れた、耐プラズマ性セラミックス部材において、
イットリアに対して2.5体積%以上25体積%以下のタングステンが分散し、開気孔率が0.1%以下であるイットリアセラミックス焼結体の最表面に、気孔率が5%以下であり、純度99.9%以上のイットリア溶射膜を形成し、
表面粗さRaが0.8μm以下となるように研磨加工を施すこと。」
3 引用例3について
原査定の拒絶の理由に引用された特開2008-21963号公報(以下、「引用例3」という。)には、図面とともに次の事項が記載されている。
(1)「【0062】
すなわち、ここでは上記導電性部材88をセラミック材よりなる蓋部78中に一体焼成するのではなく、上記蓋部78と下方に位置する発熱板40との間に設けるようにしている。具体的には、図6中においては、焼成されたセラミック材や石英ガラスよりなる蓋部78の下面(裏面)に上記導電性部材88を直接的に接合している。この場合、好ましくは、金属汚染を防止するために上記導電性部材88の表面全体(図6中の下面全体)を覆うようにして、耐熱絶縁性材料よりなる保護層130を設けるのがよい。
【0063】
この場合も、上記導電性部材88から延びる給電ライン90は上記支柱30内を通すように配線すればよい。また、発熱板40には貫通孔132が形成されており、この貫通孔132に上記給電ライン90を挿通して下方へ延ばしている。上記導電性部材88としては、W(タングステン)やMo(モリブデン)等の高融点金属は勿論のこと、MoSi_(2) 、Ti_(2) AlC、Ti_(3) SiC_(2) 等の導電性を有する金属間化合物等も用いることができる。
ここで上記導電性部材88は、上記蓋部78の下面を平坦状に研磨した後に、この下面に接合する。この導電性部材88の接合に際しては、これを貼り付けてもよいし、スクリーン印刷等により形成してもよい。
【0064】
また上記保護層130としては、耐熱絶縁性材料であるアルミナ(Al_(2 )O_(3 ))やイットリア(Y_(2 )O_(3 ))等を溶射により塗布してもよいし、液状の材料、或いは固相の材料を拡散接合させてもよいし、又は図7に示す蓋部の部分拡大図に示すように、上記アルミナやイットリアよりなる薄板134を接着剤136で貼り付けるように構成してもよい。この場合の接着剤136としては、例えばカーボン、SiO_(2 )等を用いることができる。
尚、ここで用いられる蓋部78の厚さは、第1実施例の場合と同じで、1?20mm程度の範囲内であり、その理由は、この厚さが1mmよりも薄いと、この強度が発熱板収容容器42内とその外側のプロセス空間との間の差圧に耐えられなくなってしまい、また20mmよりも厚いと、この部分のインピーダンスが過度に大きくなってプラズマ電位が高くなる等の不都合が生じてしまう。」
(2)したがって、上記引用例3には次の発明(以下、「引用例3記載事項」という。)が記載されていると認められる。
「金属汚染を防止するために導電性部材88の表面全体を覆うようにして、耐熱絶縁性材料よりなる保護層130を設ける際に、
上記保護層130として、耐熱絶縁性材料であるアルミナ(Al_(2 )O_(3 ))やイットリア(Y_(2 )O_(3 ))よりなる薄板134をカーボン、SiO_(2 )等よりなる接着剤136で貼り付けること。」
4 引用例4について
原査定の拒絶の理由および当審拒絶理由1の拒絶の理由に引用され特開平11-61404号公報(以下、「引用例4」という。)には、図面とともに次の事項が記載されている。
(1)「【0022】まず、真空蒸着によって、Al電極4の表面上にNiを蒸着させることにより、膜厚5μm程度の応力緩和層5を形成しておく。但し、図1に示したように応力緩和層5を設けない場合には、この処理は不要である。
【0023】次に、蒸着源とイオンビーム源とを備えた成膜装置を使用し、応力緩和層5の表面にイオンビーム(通常、加速電圧10keV程度の酸素イオンビーム)を照射しながらZrO_(2)-6%Y_(2)O_(3)を蒸着させることによって、応力緩和層5の表面に膜厚0.5μm程度の薄膜を形成する。この薄膜を分析した結果、応力緩和層5の表面に、応力緩和層5の成分元素(Ni)と誘電材料(ZrO_(2)-6%Y_(2)O_(3))とを含む膜厚0.1μm程度の混合層3が形成され、その上に膜厚0.4μm程度のZrO_(2)-6%Y_(2)O_(3)被覆層が形成されていることが判った。」
(2)したがって、上記引用例4には次の発明(以下、「引用例4記載事項」という。)が記載されていると認められる。
「Niからなる応力緩和層5の表面に、応力緩和層5の成分元素(Ni)と誘電材料(ZrO_(2)-6%Y_(2)O_(3))とを含む膜厚0.1μm程度の混合層3と、その上に膜厚0.4μm程度のZrO_(2)-6%Y_(2)O_(3)被覆層を形成する際に、
蒸着源とイオンビーム源とを備えた成膜装置を使用し、応力緩和層5の表面にイオンビーム(通常、加速電圧10keV程度の酸素イオンビーム)を照射しながらZrO_(2)-6%Y_(2)O_(3)を蒸着させること。」
5 引用例5について
当審拒絶理由1の拒絶の理由に引用され特開2008-266724号公報(以下、「引用例5」という。)には、図面とともに次の事項が記載されている。
(1)「【0001】
本発明は、半導体のハロゲンプラズマ処理装置等で使用される耐プラズマ用溶射被膜を得るための溶射被膜の表面処理方法及びこれにより得られた溶射被膜に関する。」
(2)「【0014】
更に、本発明の方法によって表面処理された溶射被膜は、表面気孔率が2%未満であることを特徴とする。2%以上であるとエッチングプロセスでプラズマに曝された際に微細な粒子が脱離し易く、半導体ウエハーへのコンタミネーションを起こし易くなる。気孔率が小さいほど緻密であるが、特に0.1?1.0%が好ましい。また、表面の表色(CIE1976(L*a*b*))によると、L:80%以上、a:-0.3?3.0,b:-3.0?3.0であることが好ましい。
【0015】
なお、本発明における気孔率は表面層深さ10μmの断面部分のSEM写真を画像処理することにより算出される。
【実施例】
【0016】
以下、本発明の実施例と比較例を説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0017】
[実施例1]
表面処理のテストピースは100mm×100mm×5mm(t)のアルミ板に酸化イットリウムを200μmの厚みに溶射したものを使用した。この溶射被膜表面に、CO_(2)レーザーを以下のような条件で照射した。
波長10μm、レーザーフルエンス7J/cm^(2)、スキャン速度1000mm/s
表面処理前後の膜質は以下の通りであった。
また、色差計(JIS Z 8729準拠)による測定は、L:92%、a:0.25、b:-0.30であった。
表面粗さ(Ra) 表面層の気孔率 表面状態(外観)
表面処理前: 10.5μm 12% クラック有り
表面処理後: 0.9μm 0.8% クラック無し」
(3)したがって、上記引用例5には次の発明(以下、「引用例5記載事項」という。)が記載されていると認められる。
「半導体のハロゲンプラズマ処理装置等で使用される耐プラズマ用溶射被膜を得るための溶射被膜の表面処理方法であって、
酸化イットリウムを溶射し、この溶射被膜表面に、CO_(2)レーザを照射し表面処理し、
表面気孔率を0.1?1.0%とすることにより、エッチングプロセスでプラズマに曝された際に微細な粒子が脱離し難くすること。」

第6 対比・判断
1 本願発明1について
(1)対比
本願発明1と引用例1発明とを対比すると、次のことがいえる。
ア 引用例1発明は、「酸化アルミニウムからなる基材1に所定厚さのPVD耐食膜を形成した耐食性部材」「に適用する方法」であるから、引用例1発明の方法が適用される「耐食性部材」は、「酸化アルミニウムからなる基材1」を有しており、この「基材1」は、本願発明1の「基板」に相当する。
イ 引用例1発明は、「アルゴンガスを放電させるプラズマソースを使用して真空容器12内にプラズマ発生用電源17を用いて300Wのグロー放電を生じさせ、これにより生じたプラズマのうちのAr^(+)を蒸発材料Y_(2)O_(3)とその分解したY_(2)O_(3)とO_(2)ガスに衝突させ、これらをイオン化させたり活性化させたりし、約10Vの負のバイアスを耐食性部材に印可して、その表面にY_(2)O_(3)を付着させ」、「耐食性部材」に「腐食性ガス又はそのプラズマに対して高い耐食性」を与えているから、この「耐食性部材」の表面に付着した「Y_(2)O_(3)」は、本願発明1の「前記基板の少なくとも一部の上に配置される耐プラズマコーティング」に相当する。
また、引用例1発明の「耐プラズマコーティング」は、本願発明1と同様に、「前記耐プラズマコーティングの主要構成要素はY_(2)O_(3)」であると認められる。
ウ 引用例1発明の「腐食性ガス又はそのプラズマに対して高い耐食性を求められる部材」に適用された「耐食性部材」は、本願発明1の「プラズマ処理チャンバ部品」に相当する。
エ したがって、本願発明1と引用例1発明とは、以下の点で一致し、また相違する。
[一致点]
「基板と、
前記基板の少なくとも一部の上に配置される耐プラズマコーティングを含み、
前記耐プラズマコーティングの主要構成要素はY_(2)O_(3)である
プラズマ処理チャンバ部品。」
[相違点1]
本願発明1は「前記耐プラズマコーティングは、前記基板に固有でないセラミックスを含み、」「前記セラミックスは、SiC及びZrO_(2)のうちの少なくとも1つを含む」のに対して、引用例1発明はそうでない点。
[相違点2]
本願発明1は「1%未満の空孔率を有し」ているのに対して、引用例1発明はそうでない点。
[相違点3]
本願発明1は「前記耐プラズマコーティングは、前記耐プラズマコーティングの外面上にY_(2)O_(3)の(111)面を表す好適な面外成長方位をもつ結晶構造を有する多結晶であ」るのに対して、引用例1発明は、Y_(2)O_(3)の結晶構造について明記されていない点。
(2)相違点についての判断
[相違点1]について以下に検討する。
引用例1には、「基材1」に付着した「Y_(2)O_(3)」について、「SiC及びZrO_(2)のうちの少なくとも1つ」を含ませるとの記載は無いから、引用例1発明の「基材1」に付着した「Y_(2)O_(3)」に、「SiC及びZrO_(2)のうちの少なくとも1つ」を含ませることが容易であるとは言えない。
また、引用例2ないし5には、「アルゴンガスを放電させるプラズマソースを使用して真空容器12内にプラズマ発生用電源17を用いて300Wのグロー放電を生じさせ、これにより生じたプラズマのうちのAr^(+)を蒸発材料Y_(2)O_(3)とその分解したY_(2)O_(3)とO_(2)ガスに衝突させ、これらをイオン化させたり活性化させたりし、約10Vの負のバイアスを耐食性部材に印可して、その表面にY_(2)O_(3)を付着させる」際に、「SiC及びZrO_(2)のうちの少なくとも1つ」を含ませることは記載されていないから、引用例1発明に、引用例2ないし5の記載を適用し、[相違点1]に係る構成を想起することはできない。
そして、本願発明1は、[相違点1]に係る構成を有することにより、
「【0021】
本発明の一実施形態では、耐プラズマコーティング315は、次の主要構成要素を含むセラミックスである: スカンジウム(Sc)、イットリウム(Y)、イリジウム(Ir)、ロジウム(Rh)、ランタノイド(例えば、ランタン(La)、セリウム(Ce)、ユーロピウム(Eu)、ジスプロシウム(Dy)、又はエルビウム(Er))、又はハフニウム(Hf)の、酸化物、窒化物、ホウ化物、炭化物、又はフッ化物。一例示的コーティング組成は、主要構成要素としてY_(2)O_(3)を含む(即ち「Y_(2)O_(3)ベースである」)。別の一例示的コーティング組成は、主要構成要素としてYF_(3)を含む(即ち「YF_(3)ベースである」)。別の一例示的コーティング組成は、主要構成要素としてEr_(2)O_(3)を含む(即ち「Er_(2)O_(3)ベースである」)。主要構成要素に加えて、耐プラズマコーティング315は、より少ない量の他のセラミックス(炭化珪素(SiC)及び酸化ジルコニウム(ZrO_(2))等)を更に含み、これによって例えば、マトリックス/溶質又は超格子を形成するかもしれない。1つの例示的なY_(2)O_(3)ベースの組成は、0.5?1.1at%(原子百分率)のC、58?60at%のO、0?0.5at%のF、及び39?40at%のYを含む。」
という格別の効果を有するものである。
そうすると、[相違点1]に係る構成は、引用例1ないし5に記載された発明に基づいて当業者が容易に想到したものであるとは言えない。
2 本願発明7について
(1)対比
本願発明7と引用例1発明とを対比すると、次のことがいえる。
ア 引用例1発明の「腐食性ガス又はそのプラズマに対して高い耐食性を求められる部材に適用する方法」は、本願発明7の「プラズマチャンバ部品用耐プラズマコーティングを形成する方法」に相当する。
イ 引用例1発明は「酸化アルミニウムからなる基材1に所定厚さのPVD耐食膜を形成」するから、本願発明7の「基板」に相当する「基材1」を提供しており、本願発明7の「基板を提供するステップ」と同様のステップを有していると認められる。
ウ 引用例1発明の「アルゴンガスを放電させるプラズマソースを使用して真空容器12内にプラズマ発生用電源17を用いて300Wのグロー放電を生じさせ、これにより生じたプラズマのうちのAr^(+)を蒸発材料Y_(2)O_(3)とその分解したY_(2)O_(3)とO_(2)ガスに衝突させ、これらをイオン化させたり活性化させたりし、約10Vの負のバイアスを耐食性部材に印可して、その表面にY_(2)O_(3)を付着させること」の「アルゴンガスを放電させるプラズマソースを使用して真空容器12内にプラズマ発生用電源17を用いて300Wのグロー放電を生じさせ、これにより生じたプラズマのうちのAr^(+)」は、本願発明7の「約1μm未満の直径を有する高エネルギー粒子」に相当する。
また、引用例1発明は、「真空容器12内」で「Ar^(+)を蒸発材料Y_(2)O_(3)とその分解したY_(2)O_(3)とO_(2)ガスに衝突させ、これらをイオン化させたり活性化させたりし、約10Vの負のバイアスを耐食性部材に印可して、その表面にY_(2)O_(3)を付着させ」ているから、このことは、本願発明7の「約1μm未満の直径を有する高エネルギー粒子に前記耐プラズマコーティングを曝露する条件の下で前記基板上に前記耐プラズマコーティングを形成する」ことに相当する。
そうすると、引用例1発明は、本願発明7の「前記コーティングが形成されるとき、約1μm未満の直径を有する高エネルギー粒子に前記耐プラズマコーティングを曝露する条件の下で前記基板上に前記耐プラズマコーティングを形成するステップ」と同様のステップを有していると認められる。
また、引用例1発明は「Y_(2)O_(3)を付着させ」ているから、本願発明7の「前記耐プラズマコーティングの主要構成要素はY_(2)O_(3)であ」ることと、同様の構成要素を有していると認められる。
エ したがって、本願発明7と引用例1発明とは、以下の点で一致し、また相違する。
[一致点]
プラズマチャンバ部品用耐プラズマコーティングを形成する方法であって、
基板を提供するステップと、
前記コーティングが形成されるとき、約1μm未満の直径を有する高エネルギー粒子に前記耐プラズマコーティングを曝露する条件の下で前記基板上に前記耐プラズマコーティングを形成するステップを含み、前記耐プラズマコーティングの主要構成要素はY_(2)O_(3)である方法。
[相違点4]
本願発明7は「前記耐プラズマコーティングは、前記耐プラズマコーティングの外面上にY_(2)O_(3)の(111)面を表す好適な面外成長方位をもつ結晶構造を有する多結晶であ」るのに対して、引用例1発明は、Y_(2)O_(3)の結晶構造について明記されていない点。
[相違点5]
本願発明7は「前記耐プラズマコーティングは、前記基板に固有でないセラミックスを含み、前記セラミックスは、SiC及びZrO_(2)のうちの少なくとも1つを含む」のに対して、引用例1発明はそうでない点。
(2)相違点についての判断
[相違点5]について以下に検討する。
[相違点5]は、上記「1(2)相違点についての判断」で検討した[相違点1]と同じ相違点であるから、上記「1(2)相違点についての判断」で検討したとおり、[相違点5]に係る構成は、引用例1ないし5に記載された発明に基づいて当業者が容易に想到したものであるとは言えない。
4 本願発明2ないし6および8ないし11について
本願発明2ないし6は、本願発明1の発明特定事項を全て有する発明である。
また、本願発明8ないし11は、本願発明7の発明特定事項を全て有する発明である。
してみれば、本願発明1および7が引用例1ないし5に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない以上、本願発明2ないし6および8ないし11も、引用例1ないし5に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。

第7 原査定についての判断
本願発明1ないし6は、「前記耐プラズマコーティングは、前記基板に固有でないセラミックスを含み、」「前記セラミックスは、SiC及びZrO_(2)のうちの少なくとも1つを含む」という技術的事項を含む「プラズマ処理チャンバ部品」であり、また、本願発明7ないし11は、「前記耐プラズマコーティングは、前記基板に固有でないセラミックスを含み、前記セラミックスは、SiC及びZrO_(2)のうちの少なくとも1つを含む」という技術的事項を含む「プラズマチャンバ部品用耐プラズマコーティングを形成する方法」である。
そして、前記「第6」で検討したとおり、本願発明1ないし11における「前記耐プラズマコーティングは、前記基板に固有でないセラミックスを含み、前記セラミックスは、SiC及びZrO_(2)のうちの少なくとも1つを含む」ことは、原査定における引用例1には記載されておらず、また、周知の技術であるとは認められないから、引用例1発明に、「前記耐プラズマコーティングは、前記基板に固有でないセラミックスを含み、前記セラミックスは、SiC及びZrO_(2)のうちの少なくとも1つを含む」ことが容易であったとは言えない。
また、原査定における引用例2ないし4には、「アルゴンガスを放電させるプラズマソースを使用して真空容器12内にプラズマ発生用電源17を用いて300Wのグロー放電を生じさせ、これにより生じたプラズマのうちのAr^(+)を蒸発材料Y_(2)O_(3)とその分解したY_(2)O_(3)とO_(2)ガスに衝突させ、これらをイオン化させたり活性化させたりし、約10Vの負のバイアスを耐食性部材に印可して、その表面にY_(2)O_(3)を付着させる」際に、「SiC及びZrO_(2)のうちの少なくとも1つ」を含ませることは記載されていないから、引用例1発明に、引用例2ないし4の記載を適用し、「前記耐プラズマコーティングは、前記基板に固有でないセラミックスを含み、前記セラミックスは、SiC及びZrO_(2)のうちの少なくとも1つを含む」ようにすることを想起することはできない。
そうすると、本願発明1ないし11の、「前記耐プラズマコーティングは、前記基板に固有でないセラミックスを含み、前記セラミックスは、SiC及びZrO_(2)のうちの少なくとも1つを含む」ようにすることは、原査定における引用例1ないし4には記載されておらず、本願の優先権の主張日前における周知技術でもないので、本願発明1ないし11は、当業者であっても、原査定における引用文献1ないし4に基づいて容易に発明できたものではない。したがって、原査定を維持することはできない。

第8 当審拒絶理由について
1 当審拒絶理由通知1について
(1)特許法第36条第4項について
請求人は、平成29年4月21日付の意見書において、
「6.特許法第36条第4項に関する主張
「空孔率」とは、「ポロシティ」または「空隙率」とも言われ(日本語版ウィキベディア「ポロシティ」(https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%9D%E3%83%AD%E3%82%B7%E3%83%86%E3%82%A3#.E7.A9.BA.E9.9A.99.E7.8E.87.E3.81.AE.E6.B8.AC.E5.AE.9A)の「概要」の項参照)、本願明細書段落0019に記載されるように、「空孔率は、コーティングの全体積における空間のパーセンテージで表され、より低い空孔率は、コーティングがより密であることを表す」ものであり、その計測方法は、例えば、光学的方法、計算機トモグラフィー法、液浸法、水蒸発法、懸吊法、水銀圧入法、気体膨脹による方法、熱多孔度測定、サーモポロシメトリー、またはクライオポロシメトリー等の方法が知られている。(日本語版ウィキベディア「ポロシティ」の「空隙率の測定」の項参照。)
また、「降伏電圧」とは、「絶縁破壊電圧」とも言われ(日本語版ウィキペディア「絶縁耐力」(https://ja.wikipedia.org/wiki/%E7%B5%B6%E7%B8%81%E8%80%90%E5%8A%9B)の「関連項目」参照)、絶縁体の一部が電気伝導性を引き起こす最小電圧のことである。(英語版WIKIPEDIA ”Breakdown voltage”(https://en.wikipedia.org/wiki/Breakdown_voltage)の1行目参照。)換言すると、「降伏電圧」とは、絶縁体が崩壊して導電性を示す前に材料間に印加することができる最大電位差で定義される絶縁体の特性である(英語版WIKIPEDIA ”Breakdown voltage”の”Solids”の1行目参照)から、その測定方法は、試験される材料間に電圧を印加し、その電圧を徐々に上げていき、絶縁体が導電性を示すようになったときの電圧を測定することにより実施できる。
「空孔率」及び「降伏電圧」は共に、当業者にはよく知られた用語であるので、本願特許請求の範囲の記載は、その技術分野における通常の知識を有する者がその発明を実施することができる程度に明確かつ十分に記載されている。」
旨主張している。
該主張を参酌すると、発明の詳細な説明の記載は、発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者がその実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載したものであると認められるので、特許法第36条第4項に規定する要件を満たさないとの、当審拒絶理由1で示した理由は解消した。
(2)特許法第36条第6項第1号について
当審拒絶理由1で拒絶の理由を示した、補正前の請求項5は、補正により削除されたから、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たさないとの、当審拒絶理由1で示した理由は解消した。
(3)特許法第36条第6項第2号について
当審拒絶理由1で拒絶の理由を示した、補正前の請求項2の「前記耐プラズマコーティングの空孔率は0%であり、前記耐プラズマコーティングはアモルファスである請求項1記載のプラズマ処理チャンバ部品。」は、本手続補正により「前記耐プラズマコーティングの空孔率は0%である請求項1記載のプラズマ処理チャンバ部品。」となり「前記耐プラズマコーティングはアモルファスである」との記載は削除されたから、本手続補正により、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たさないとの、当審拒絶理由1で示した理由は解消した。
(4)特許法第29条第2項について
本願発明1ないし6は、「前記耐プラズマコーティングは、前記基板に固有でないセラミックスを含み、」「前記セラミックスは、SiC及びZrO_(2)のうちの少なくとも1つを含む」という技術的事項を含む「プラズマ処理チャンバ部品」であり、また、本願発明7ないし11は、「前記耐プラズマコーティングは、前記基板に固有でないセラミックスを含み、前記セラミックスは、SiC及びZrO_(2)のうちの少なくとも1つを含む」という技術的事項を含む「プラズマチャンバ部品用耐プラズマコーティングを形成する方法」である。
そして、前記「第6」で検討したとおり、本願発明1ないし11における「前記耐プラズマコーティングは、前記基板に固有でないセラミックスを含み、前記セラミックスは、SiC及びZrO_(2)のうちの少なくとも1つを含む」ことは、当審拒絶理由1における引用例1には記載されておらず、また、周知の技術であるとは認められないから、引用例1発明に、「前記耐プラズマコーティングは、前記基板に固有でないセラミックスを含み、前記セラミックスは、SiC及びZrO_(2)のうちの少なくとも1つを含む」ことが容易であったとは言えない。
また、当審拒絶理由1における引用例4および5には、「アルゴンガスを放電させるプラズマソースを使用して真空容器12内にプラズマ発生用電源17を用いて300Wのグロー放電を生じさせ、これにより生じたプラズマのうちのAr^(+)を蒸発材料Y_(2)O_(3)とその分解したY_(2)O_(3)とO_(2)ガスに衝突させ、これらをイオン化させたり活性化させたりし、約10Vの負のバイアスを耐食性部材に印可して、その表面にY_(2)O_(3)を付着させる」際に、「SiC及びZrO_(2)のうちの少なくとも1つ」を含ませることは記載されていないから、引用例1発明に、引用例4および5の記載を適用し、「前記耐プラズマコーティングは、前記基板に固有でないセラミックスを含み、前記セラミックスは、SiC及びZrO_(2)のうちの少なくとも1つを含む」ようにすることを想起することはできない。
そうすると、本願発明1ないし11の、「前記耐プラズマコーティングは、前記基板に固有でないセラミックスを含み、前記セラミックスは、SiC及びZrO_(2)のうちの少なくとも1つを含む」ようにすることは、当審拒絶理由1における引用例1,4および5には記載されておらず、本願の優先権の主張日前における周知技術でもないので、本願発明1ないし11は、当業者であっても、当審拒絶理由1における引用文献1,4および5に基づいて容易に発明できたものではない。
2 当審拒絶理由通知2について
(1)特許法第36条第6項第2号について
当審拒絶理由2で拒絶の理由を示した、補正前の請求項2の「前記耐プラズマコーティングの空孔率は0%であり、前記耐プラズマコーティングはアモルファスである請求項1記載のプラズマ処理チャンバ部品。」は、本手続補正により「前記耐プラズマコーティングの空孔率は0%である請求項1記載のプラズマ処理チャンバ部品。」となり「前記耐プラズマコーティングはアモルファスである」との記載は削除されたから、本手続補正により、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たさないとの、当審拒絶理由2で示した理由は解消した。
3 当審拒絶理由についてのまとめ
以上のとおり、当審拒絶理由1および2によって、本願を拒絶することはできない。

第9 むすび
以上のとおり、原査定の理由によって、本願を拒絶することはできない。
他に本願を拒絶すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり審決する。
 
審決日 2017-12-04 
出願番号 特願2011-535670(P2011-535670)
審決分類 P 1 8・ 121- WY (H01L)
P 1 8・ 536- WY (H01L)
P 1 8・ 537- WY (H01L)
最終処分 成立  
前審関与審査官 今井 淳一  
特許庁審判長 鈴木 匡明
特許庁審判官 小田 浩
加藤 浩一
発明の名称 プラズマチャンバ部品用耐プラズマコーティング  
代理人 安齋 嘉章  

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