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審決分類 審判 査定不服 発明同一 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) G03F
管理番号 1335079
審判番号 不服2015-15570  
総通号数 217 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2018-01-26 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2015-08-21 
確定日 2017-11-28 
事件の表示 特願2013-125854「液浸リソグラフィーのための組成物および方法」拒絶査定不服審判事件〔平成25年11月 7日出願公開,特開2013-228750〕について,次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は,成り立たない。 
理由 1 手続の経緯
本件拒絶査定不服審判事件に係る出願(以下,「本件出願」という。)は,平成19年10月30日(パリ条約による優先権主張2006年10月30日,米国)に出願した特願2007-281909号(以下,「原出願」という。)の一部を平成25年6月14日に新たな特許出願としたものであって,平成26年8月27日付けで拒絶理由が通知され,同年12月25日に意見書及び手続補正書が提出されたが,平成27年4月17日付けで拒絶査定がなされたものである。
本件拒絶査定不服審判は,これを不服として同年8月21日に請求されたものであって,本件審判の請求と同時に手続補正書が提出され,当該手続補正書による補正が平成28年12月12日付けで却下されるとともに,同日付けで拒絶理由が通知され,平成29年6月14日に意見書及び手続補正書が提出された。


2 本件出願の請求項1に係る発明
本件出願の請求項1ないし3に係る発明は,平成29年6月14日提出の手続補正書によって補正された特許請求の範囲の請求項1ないし3に記載された事項によって特定されるとおりものと認められるところ,請求項1の記載は次のとおりである。

「(a)(i)1種以上の光酸不安定基を含む1種以上の樹脂,
(ii)光活性成分,および
(iii)光酸不安定基を含む1種以上の物質であって,該光酸不安定基がフッ素化されている1種以上の物質
を含むフォトレジスト組成物を基体上に適用し,
該適用する工程の間に該(iii)の1種以上の物質がフォトレジスト組成物層の上部領域へ向かって移動する工程;並びに,
(b)該適用したフォトレジスト組成物を,フォトレジスト組成物を活性化する放射線に液浸露光し,前記液浸露光および液浸露光後の処理の間にフッ素化開裂生成物が生成する工程;
を含み,
該(iii)光酸不安定基を含む1種以上の物質であって,該光酸不安定基がフッ素化されている1種以上の物質が,フォトレジスト組成物中に,フォトレジスト組成物の総固形分基準で最大で3重量%まで存在する,
フォトレジスト組成物の処理方法。」(以下,当該請求項1に係る発明を「本件発明」という。)


3 平成28年12月12日付けで通知された拒絶理由の概要
平成28年12月12日付けで通知された拒絶理由の一つは,概略,次のとおりである。

本件出願の請求項1ないし7(審決注:平成26年12月25日提出の手続補正書による補正後の請求項1ないし7である。)に係る発明は,引用先願1(特願2006-226950号(特開2008-51967号))の願書に最初に添付された明細書,特許請求の範囲又は図面(以下,「当初明細書等」という。)に記載された発明と同一であるから,特許法29条の2の規定により,特許を受けることができない。(以下,当該拒絶理由を「当審拒絶理由」という。)


4 引用先願1
(1)引用先願1の当初明細書等の記載
当審拒絶理由で引用された引用先願1は,本件出願の優先権主張の日(以下,「本願優先日」という。)より前の特許出願であって,本願優先日より後に出願公開がされたものであるところ,本件出願の発明者が当該引用先願1の当初明細書等に記載された発明の発明者と同一ではなく,また本件出願の出願時(特許法44条2項の規定により,本件出願は原出願の出願の時にしたものとみなされる。)において,本件出願の出願人が引用先願1の出願人と同一でもないので,特許法29条の2に規定する「他の特許出願」としての形式的要件を満たしている。
しかるに,当該引用先願1の当初明細書等には,次の記載がある。(下線は,後述する先願発明の認定に特に関係する箇所を示す。)
ア 「【書類名】特許請求の範囲
【請求項1】
酸の作用によりアルカリ溶解性が変化し,かつ下記一般式(c1-1)で表される構成単位(c1)を有さない基材成分(A)と,露光により酸を発生する酸発生剤成分(B)と,前記構成単位(c1)を有する含フッ素樹脂成分(C)とを含有することを特徴とする液浸露光用レジスト組成物。
【化1】

[式(c1-1)中,Rは水素原子,低級アルキル基,ハロゲン原子またはハロゲン化低級アルキル基であり,R^(21)およびR^(22)はそれぞれ独立して水素原子または低級アルキル基であり,aは0?3の整数であり,R^(23)は,下記一般式(I-1)で表される構造(I)を有する脂肪族環式基である。]
【化2】

[式(I-1)中,R^(24)およびR^(25)はそれぞれ独立してフッ素原子またはフッ素化アルキル基であり,X^(21)およびX^(22)はそれぞれ当該構造(I)を有する脂肪族環式基の環骨格を構成する炭素原子である。]
・・・(中略)・・・
【請求項9】
請求項1?8のいずれか一項に記載の液浸露光用レジスト組成物を用いて支持体上にレジスト膜を形成する工程,前記レジスト膜を浸漬露光する工程,および前記レジスト膜を現像してレジストパターンを形成する工程を含むレジストパターン形成方法。」

イ 「【書類名】明細書
【発明の名称】液浸露光用レジスト組成物およびレジストパターン形成方法
【技術分野】
【0001】
本発明は,液浸露光(Liquid Immersion Lithography)に用いられる液浸露光用レジスト組成物およびレジストパターン形成方法に関する。
【背景技術】
【0002】
・・・(中略)・・・半導体素子の微細化に伴い,露光光源の短波長化と投影レンズの高開口数(高NA)化が進み,現在では193nmの波長を有するArFエキシマレーザーを光源とするNA=0.84の露光機が開発されている。露光光源の短波長化に伴い,レジスト材料には,露光光源に対する感度,微細な寸法のパターンを再現できる解像性等のリソグラフィー特性の向上が求められる。このような要求を満たすレジスト材料として,酸の作用によりアルカリ可溶性が変化するベース樹脂と,露光により酸を発生する酸発生剤とを含有する化学増幅型レジストが用いられている。・・・(中略)・・・
【0003】
解像性の更なる向上のための手法の1つとして,露光機の対物レンズと試料との間に,空気よりも高屈折率の液体(液浸媒体)を介在させて露光(浸漬露光)を行うリソグラフィー法,所謂,液浸リソグラフィー(Liquid Immersion Lithography。以下,液浸露光ということがある。)が知られている・・・(中略)・・・現在,液浸露光技術としては,主に,ArFエキシマレーザーを光源とする技術が活発に研究されている。また,現在,液浸媒体としては,主に水が検討されている。
・・・(中略)・・・
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
液浸露光においては,通常のリソグラフィー特性(感度,解像性,エッチング耐性等)に加えて,液浸露光技術に対応した特性を有するレジスト材料が求められる。具体例を挙げると,液浸媒体が水である場合において,非特許文献1に記載されているようなスキャン式の液浸露光機を用いて浸漬露光を行う場合には,液浸媒体がレンズの移動に追随して移動する水追随性が求められる。水追随性が低いと,露光スピードが低下するため,生産性に影響を与えることが懸念される。この水追随性は,レジスト膜の疎水性を高める(疎水化する)ことによって向上すると考えられるが,その一方で,単にレジスト膜を疎水化しても,リソグラフィー特性に対する悪影響がみられ,たとえば解像性や感度の低下,スカム発生量の増大等が生じる傾向がある。
このように,液浸露光においては,適度な疎水性を有する材料開発が重要課題になる。しかしながら,現在,リソグラフィー特性と,液浸露光等に必要とされる特性とを両立した材料は,ほとんど知られていない。
本発明は,上記事情に鑑みてなされたものであって,良好なリソグラフィー特性を有し,かつ液浸露光用として好適な疎水性を有する液浸露光用レジスト組成物およびレジストパターン形成方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記の課題を解決する本発明の第一の態様は,酸の作用によりアルカリ溶解性が変化し,かつ下記一般式(c1-1)で表される構成単位(c1)を有さない基材成分(A)と,露光により酸を発生する酸発生剤成分(B)と,前記構成単位(c1)を有する含フッ素樹脂成分(C)とを含有することを特徴とする液浸露光用レジスト組成物である。
・・・(中略)・・・
【0009】
本発明の第二の態様は,前記第一の態様の液浸露光用レジスト組成物を用いて支持体上にレジスト膜を形成する工程,前記レジスト膜を浸漬露光する工程,および前記レジスト膜を現像してレジストパターンを形成する工程を含むレジストパターン形成方法である。
・・・(中略)・・・
【発明の効果】
【0011】
本発明により,良好なリソグラフィー特性を有し,かつ液浸露光用として好適な疎水性を有する液浸露光用レジスト組成物およびレジストパターン形成方法を提供できる。」

ウ 「【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
≪液浸露光用レジスト組成物≫
本発明の液浸露光用レジスト組成物は,酸の作用によりアルカリ溶解性が変化し,かつ上記一般式(c1-1)で表される構成単位(c1)を有さない基材成分(A)(以下,(A)成分という。)と,露光により酸を発生する酸発生剤成分(B)(以下,(B)成分という。)と,上記一般式(c1-1)で表される構成単位(c1)を有する含フッ素樹脂成分(C)(以下,(C)成分という。)とを含有する。
【0013】
<(A)成分>
(A)成分としては,構成単位(c1)を含まないものであれば特に限定されず,化学増幅型レジスト組成物用の基材成分,たとえばArFエキシマレーザー用レジスト組成物,KrFエキシマレーザー用(好ましくはArFエキシマレーザー用)レジスト組成物等の基材成分として多数提案されているもののなかから任意に選択して用いればよい。・・・(中略)・・・好ましい基材成分としては,分子量が500以上の有機化合物が挙げられる。該有機化合物の分子量が500以上であることにより,膜形成能が向上し,また,ナノレベルのパターンを形成しやすい。・・・(中略)・・・
【0016】
本発明の液浸露光用レジスト組成物において,(A)成分は,本発明の効果に優れることから,酸の作用によりアルカリ可溶性が増大する基材成分であることが好ましい。すなわち,本発明の液浸露光用レジスト組成物は,ポジ型レジスト組成物であることが好ましい。
該基材成分は,酸の作用によりアルカリ可溶性が増大する樹脂(A1)(以下,(A1)成分ということがある。)であってもよく,酸の作用によりアルカリ可溶性が増大する低分子化合物(A2)(以下,(A2)成分ということがある。)であってもよい。
(C)成分との混和性,入手の容易さ等を考慮すると,(A)成分は,(A1)成分であることが好ましい。
【0017】
[(A1)成分]
(A1)成分としては,特に限定されず,これまで,ポジ型の化学増幅型レジスト用のベース樹脂として提案されている任意のものを使用することができ,かかるベース樹脂としては,たとえばアルカリ可溶性基(水酸基,カルボキシ基等)を有する樹脂における前記アルカリ可溶性基の一部または全部が酸解離性溶解抑制基で保護された樹脂が挙げられる。・・・(中略)・・・
【0019】
「構成単位(a1)」
本発明において,(A1)成分は,酸解離性溶解抑制基を有するアクリル酸エステルから誘導される構成単位(a1)を有することが好ましい。
構成単位(a1)における酸解離性溶解抑制基は,解離前は樹脂(A1)全体をアルカリ不溶とするアルカリ溶解抑制性を有するとともに,解離後はこの樹脂(A1)全体をアルカリ可溶性へ変化させるものであれば,これまで,化学増幅型レジスト用のベース樹脂の酸解離性溶解抑制基として提案されているものを使用することができる。一般的には,(メタ)アクリル酸等におけるカルボキシ基と環状または鎖状の第3級アルキルエステルを形成する基;アルコキシアルキル基等のアセタール型酸解離性溶解抑制基などが広く知られている。
【0020】
ここで,「第3級アルキルエステル」とは,カルボキシ基の水素原子が,鎖状または環状のアルキル基で置換されることによりエステルを形成しており,そのカルボニルオキシ基(-C(O)-O-)の末端の酸素原子に,前記鎖状または環状のアルキル基の第3級炭素原子が結合している構造を示す。この第3級アルキルエステルにおいては,酸が作用すると,酸素原子と第3級炭素原子との間で結合が切断される。
なお,前記鎖状または環状のアルキル基は置換基を有していてもよい。
以下,カルボキシ基と第3級アルキルエステルを構成することにより,酸解離性となっている基を,便宜上,「第3級アルキルエステル型酸解離性溶解抑制基」という。
第3級アルキルエステル型酸解離性溶解抑制基としては,脂肪族分岐鎖状酸解離性溶解抑制基,脂肪族環式基を含有する酸解離性溶解抑制基が挙げられる。
・・・(中略)・・・
【0022】
「脂肪族環式基」は,芳香族性を持たない単環式基または多環式基であることを示す。・・・(中略)・・・脂肪族環式基を含有する酸解離性溶解抑制基としては,例えば環状のアルキル基の環骨格上に第3級炭素原子を有する基を挙げることができ,具体的には2-メチル-2-アダマンチル基・・(中略)・・・等が挙げられる。・・・(中略)・・・
【0025】
「アセタール型酸解離性溶解抑制基」は,一般的に,カルボキシ基,水酸基等のアルカリ可溶性基末端の水素原子と置換して酸素原子と結合している。そして,露光により酸が発生すると,この酸が作用して,アセタール型酸解離性溶解抑制基と,当該アセタール型酸解離性溶解抑制基が結合した酸素原子との間で結合が切断される。
アセタール型酸解離性溶解抑制基としては,たとえば,下記一般式(p1)で表される基が挙げられる。
【0026】
【化4】

[式中,R^(1’),R^(2’)はそれぞれ独立して水素原子または低級アルキル基を表し,nは0?3の整数を表し,Yは低級アルキル基または脂肪族環式基を表す。]
・・・(中略)・・・
【0038】
構成単位(a1)として,より具体的には,下記一般式(a1-1)?(a1-4)で表される構成単位が挙げられる。
【0039】
【化9】

[上記式中,X’は第3級アルキルエステル型酸解離性溶解抑制基を表し,Yは炭素数1?5の低級アルキル基,または脂肪族環式基を表し;nは0?3の整数を表し;mは0または1を表し;Rは前記と同じであり,R^(1’),R^(2’)はそれぞれ独立して水素原子または炭素数1?5の低級アルキル基を表す。]
・・・(中略)・・・
【0042】
以下に,上記一般式(a1-1)?(a1-4)で表される構成単位の具体例を示す。
【0043】
【化10】

・・・(中略)・・・
【0059】
(A1)成分中,構成単位(a1)の割合は,共重合体(A1)を構成する全構成単位に対し,・・・(中略)・・・25?50モル%がさらに好ましい。下限値以上とすることによって,レジスト組成物とした際に容易にパターンを得ることができ,上限値以下とすることにより他の構成単位とのバランスをとることができる。
【0060】
・構成単位(a2)
(A1)成分は,上記構成単位(a1)に加えて,さらに,ラクトン含有環式基を含むアクリル酸エステルから誘導される構成単位(a2)を有することが好ましい。・・・(中略)・・・構成単位(a2)のラクトン環式基は,(A1)成分をレジスト膜の形成に用いた場合に,レジスト膜の基板への密着性を高めたり,水を含有する現像液との親和性を高めたりするうえで有効なものである。
・・・(中略)・・・
【0062】
構成単位(a2)の例として,より具体的には,下記一般式(a2-1)?(a2-5)で表される構成単位が挙げられる。
【0063】
【化23】

[式中,Rは水素原子,ハロゲン原子,低級アルキル基またはハロゲン化低級アルキル基であり,R’は水素原子,低級アルキル基,または炭素数1?5のアルコキシ基であり,mは0または1の整数であり,Aは炭素数1?5のアルキレン基または酸素原子である。]
【0064】
・・・(中略)・・・以下に,前記一般式(a2-1)?(a2-5)の具体的な構成単位を例示する。
【0065】
【化24】

・・・(中略)・・・
【0071】
・・・(中略)・・・(A1)成分中の構成単位(a2)の割合は,(A1)成分を構成する全構成単位の合計に対して,・・・(中略)・・・20?55モル%がさらに好ましい。下限値以上とすることにより構成単位(a2)を含有させることによる効果が充分に得られ,上限値以下とすることにより他の構成単位とのバランスをとることができる。
【0072】
・構成単位(a3)
(A1)成分は,上記構成単位(a1)に加えて,または構成単位(a1)および構成単位(a2)に加えて,さらに,極性基含有脂肪族炭化水素基を含むアクリル酸エステルから誘導される構成単位(a3)を有することが好ましい。構成単位(a3)を有することにより,(A1)成分の親水性が高まり,現像液との親和性が高まって,露光部でのアルカリ溶解性が向上し,解像性の向上に寄与する。・・・(中略)・・・
【0073】
構成単位(a3)としては,極性基含有脂肪族炭化水素基における・・・(中略)・・・炭化水素基が多環式基のときは,下記式(a3-1)で表される構成単位,(a3-2)で表される構成単位,(a3-3)で表される構成単位が好ましいものとして挙げられる。
【0074】
【化29】

(式中,Rは前記に同じであり,jは1?3の整数であり,kは1?3の整数であり,t’は1?3の整数であり,lは1?5の整数であり,sは1?3の整数である。)
・・・(中略)・・・
【0078】
・・・(中略)・・・(A1)成分中,構成単位(a3)の割合は,当該(A1)成分を構成する全構成単位に対し,・・・(中略)・・・5?25モル%がさらに好ましい。
・・・(中略)・・・
【0087】
(A1)成分の質量平均分子量(Mw)(ゲルパーミエーションクロマトグラフィーによるポリスチレン換算基準)は,特に限定するものではないが,・・・(中略)・・・5000?20000が最も好ましい。この範囲の上限よりも小さいと,レジストとして用いるのに充分なレジスト溶剤への溶解性があり,この範囲の下限よりも大きいと,耐ドライエッチング性やレジストパターン断面形状が良好である。
また分散度(Mw/Mn)は,・・・(中略)・・・1.2?2.5がさらに好ましい。なお,Mnは数平均分子量を示す。
・・・(中略)・・・
【0089】
・・・(中略)・・・本発明において,(A)成分は,フッ素原子を有さないことが好ましい。(A)成分がフッ素原子を含有しないことにより,本発明の効果が向上し,特に,リソグラフィー特性が向上する。
本発明の液浸露光用レジスト組成物中,(A)成分の含有量は,形成しようとするレジスト膜厚等に応じて調整すればよい。
【0090】
<(B)成分>
(B)成分としては,特に限定されず,これまで化学増幅型レジスト用の酸発生剤として提案されているものを使用することができる。このような酸発生剤としては,これまで,ヨードニウム塩やスルホニウム塩などのオニウム塩系酸発生剤・・・(中略)・・・など多種のものが知られている。
・・・(中略)・・・
【0098】
・・・(中略)・・・オニウム塩系酸発生剤として,例えば下記一般式(b-1)または(b-2)で表される化合物が挙げられる。
【0099】
【化34】

[式中,R^(1”)?R^(3”),R^(5”)?R^(6”)は,それぞれ独立に,アリール基またはアルキル基を表し;R^(4”)は,直鎖,分岐または環状のアルキル基またはフッ素化アルキル基を表し;R^(1”)?R^(3”)のうち少なくとも1つはアリール基を表し,R^(5”)?R^(6”)のうち少なくとも1つはアリール基を表す。]
【0100】
・・・(中略)・・・R^(1”)?R^(3”)のすべてがアリール基であることが最も好ましい。
R^(1”)?R^(3”)のアリール基としては,特に制限はなく,例えば,炭素数6?20のアリール基であって,該アリール基は,その水素原子の一部または全部がアルキル基・・・(中略)・・・等で置換されていてもよく,されていなくてもよい。・・・(中略)・・・前記アリール基の水素原子が置換されていても良いアルキル基としては,・・・(中略)・・・メチル基,エチル基,プロピル基,n-ブチル基,tert-ブチル基であることが最も好ましい。・・・(中略)・・・これらの中で,R^(1”)?R^(3”)は,それぞれ,フェニル基またはナフチル基であることが最も好ましい。
・・・(中略)・・・
【0130】
(B)成分としては,これらの酸発生剤を1種単独で用いてもよいし,2種以上を組み合わせて用いてもよい。
本発明においては,(B)成分として,上記の中でも,フッ素化アルキルスルホン酸イオンをアニオンとするオニウム塩を用いることが好ましい。
(B)成分の含有量は,(A)成分100質量部に対し,・・・(中略)・・・好ましくは1?10質量部とされる。上記範囲とすることでパターン形成が充分に行われる。また,均一な溶液が得られ,保存安定性が良好となるため好ましい。
【0131】
<(C)成分>
(C)成分は,下記一般式(c1-1)で表される構成単位(c1)を有する。
【0132】
【化45】

[式(c1-1)中,Rは水素原子,低級アルキル基,ハロゲン原子またはハロゲン化低級アルキル基であり,R^(21)およびR^(22)はそれぞれ独立して水素原子または低級アルキル基であり,aは0?3の整数であり,R23は,下記一般式(I-1)で表される構造(I)を有する脂肪族環式基である。]
【0133】
【化46】

[式(I-1)中,R^(24)およびR^(25)はそれぞれ独立してフッ素原子またはフッ素化アルキル基であり,X^(21)およびX^(22)はそれぞれ当該構造(I)を有する脂肪族環式基の環骨格を構成する炭素原子である。]
・・・(中略)・・・
【0140】
本発明においては,前記R^(23)が,下記一般式(II-1)で表される基であることが好ましい。
【0141】
【化47】

[式(II-1)中,R^(24)およびR^(25)はそれぞれ独立してフッ素原子またはフッ素化アルキル基であり,R^(26)は炭素数1?5のアルキレン基であり,bは0?2の整数であり,cは0?2の整数であり,かつb+cは0?2の整数であり,dは0または1である。]
・・・(中略)・・・
【0144】
本発明において,構成単位(c1)としては,下記一般式(c1-1-1)または(c1-1-2)で表される基が好ましく,特に,式(c1-1-1)で表される基が好ましい。
【0145】
【化48】

【0146】
式(c1-1-1)および式(c1-1-2)中,R^(27)およびR^(28)は,それぞれ独立に,フッ素原子またはフッ素化低級アルキル基であり,上述したR^(24)およびR^(25)と同様のものが挙げられる。R^(27)およびR^(28)は,それぞれ,トリフルオロメチル基であることが最も好ましい。
R^(29)は,炭素数1?5のアルキル基である。・・・(中略)・・・fは0?2の整数であり,・・・(中略)・・・0が最も好ましい。
・・・(中略)・・・
【0151】
・・・(中略)・・・本発明の液浸露光用レジスト組成物における(C)成分の含有量は,(A)成分100質量部に対し,・・・(中略)・・・0.1?5質量部がより好ましい。上記範囲の下限値以上であると,レジスト組成物の疎水性向上効果に優れ,上限値以下であると,リソグラフィー特性が向上する。
【0152】
<任意成分>
本発明の液浸露光用レジスト組成物は,任意の成分として,さらに,含窒素有機化合物(D)(以下,(D)成分という)を含有することが好ましい。これにより,レジストパターン形状,引き置き経時安定性などが向上する。
この(D)成分は,既に多種多様なものが提案されているので,公知のものから任意に用いれば良く,なかでも脂肪族アミン,特に第2級脂肪族アミンや第3級脂肪族アミンが好ましい。・・・(中略)・・・トリエタノールアミンおよび/またはトリイソプロパノールアミンが最も好ましい。・・・(中略)・・・(D)成分をレジスト組成物に含有させる場合,(D)成分は,通常,(A)成分100質量部に対して,0.01?5.0質量部の範囲で用いられる。
・・・(中略)・・・
【0155】
本発明の液浸露光用レジスト組成物は,材料を有機溶剤(以下,(S)成分ということがある)に溶解させて製造することができる。
(S)成分としては,使用する各成分を溶解し,均一な溶液とすることができるものであればよく,従来,化学増幅型レジストの溶剤として公知のものの中から任意のものを1種または2種以上適宜選択して用いることができる。・・・(中略)・・・中でも,プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート(PGMEA),プロピレングリコールモノメチルエーテル(PGME),ELが好ましい。
また,PGMEAと極性溶剤とを混合した混合溶媒は好ましい。・・・(中略)・・・より具体的には,・・・(中略)・・・極性溶剤としてPGMEを配合する場合は,PGMEA:PGMEの質量比は,・・・(中略)・・・より好ましくは2:8?8:2,さらに好ましくは3:7?7:3である。・・・(中略)・・・(S)成分の使用量は特に限定しないが,基板等に塗布可能な濃度で,塗布膜厚に応じて適宜設定されるものであるが,一般的にはレジスト組成物の固形分濃度が2?20質量%,好ましくは5?15質量%の範囲内となる様に用いられる。
・・・(中略)・・・
【0157】
上記本発明の液浸露光用レジスト組成物は,液浸露光に用いられるレジスト組成物に求められる特性である,良好なリソグラフィー特性と,液浸露光用として好適な疎水性とを有することから,液浸露光用として好適に用いられる。
すなわち,液浸露光は,上述したように,露光時に,従来は空気や窒素等の不活性ガスで満たされているレンズとウェーハ上のレジスト膜との間の部分を,空気の屈折率よりも大きい屈折率を有する溶媒(液浸媒体)で満たした状態で露光(浸漬露光)を行う工程を有する方法である。液浸露光においては,レジスト膜と液浸溶媒とが接触すると,レジスト膜中の物質((B)成分,(D)成分等)の液浸溶媒中への溶出(物質溶出)が生じる。物質溶出は,レジスト層の変質,液浸溶媒の屈折率の変化等の現象を生じさせ,リソグラフィー特性を悪化させる。この物質溶出の量は,レジスト膜表面の特性(たとえば親水性・疎水性等)の影響を受ける。そのため,たとえばレジスト膜表面の疎水性が高まることによって,物質溶出が低減されると推測される。
本発明の液浸露光用レジスト組成物は,フッ素原子を含有する特定の構成単位(c1)を有する(C)成分を含有することから,(C)成分を含まない場合に比べて,当該レジスト組成物を用いて形成されるレジスト膜の疎水性が高い。したがって,本発明のポジ型レジスト組成物によれば,浸漬露光時の物質溶出を抑制できる。
また,本発明の液浸露光用レジスト組成物は,後述する実施例に示すように,種々のリソグラフィー特性も良好である。たとえば,本発明の液浸露光用レジスト組成物を用いることにより,ラインアンドスペース(L/S)パターンのライン幅が120nm以下の微細なレジストパターンを形成できる。また,(C)成分が脂肪族環式基を有することから,エッチング耐性にも優れており,該エッチング耐性は,特に,式(I-1)中のR^(23)における脂肪族環式基が多環式基である場合に特に良好である。
・・・(中略)・・・
【0161】
また,本発明においては,上述したように,浸漬露光時のレジスト膜中から液浸溶媒中への物質溶出が抑制される。そのため,液浸露光において,本発明の液浸露光用レジスト組成物を用いることにより,レジスト膜の変質や,液浸溶媒の屈折率の変化を抑制できる。したがって,液浸溶媒の屈折率の変動が抑制される等により,形成されるレジストパターンの形状等が良好となる。
また,露光装置のレンズの汚染を低減でき,そのため,これらに対する保護対策を行わなくてもよく,プロセスや露光装置の簡便化に貢献できる。
さらに,上述したように,非特許文献1に記載されているようなスキャン式の液浸露光機を用いて浸漬露光を行う場合には,液浸媒体がレンズの移動に追随して移動する水追随性が求められるが,本発明においては,レジスト膜の疎水性が高く,水追随性が高い。しかも,本発明の液浸露光用レジスト組成物は,リソグラフィー特性も良好で,液浸露光においてレジストとして使用した際に,実用上問題なくレジストパターンを形成できる。
このように,本発明の液浸露光用レジスト組成物は,リソグラフィー特性(感度,解像性,エッチング耐性等)が良好であることに加え,疎水性,物質溶出抑制能,水追随性等)にも優れており,液浸露光においてレジスト材料に求められる特性を充分に備えたものである。
【0162】
≪レジストパターン形成方法≫
次に,本発明のレジストパターンの形成方法について説明する。
本発明のレジストパターンの形成方法は,上記本発明の液浸露光用レジスト組成物を用いて支持体上にレジスト膜を形成する工程,前記レジスト膜を浸漬露光する工程,および前記レジスト膜を現像してレジストパターンを形成する工程を含む。
【0163】
本発明のレジストパターンの形成方法の好ましい一例を下記に示す。
まず,支持体上に,本発明の液浸露光用レジスト組成物をスピンナーなどで塗布した後,プレベーク(ポストアプライベーク(PAB)処理)を行うことにより,レジスト膜を形成する。
支持体としては,特に限定されず,従来公知のものを用いることができ,例えば,電子部品用の基板や,これに所定の配線パターンが形成されたもの等を例示することができる。・・・(中略)・・・
【0166】
次いで,上記で得られたレジスト膜に対して,所望のマスクパターンを介して選択的に液浸露光(Liquid Immersion Lithography)を行う。このとき,予めレジスト膜と露光装置の最下位置のレンズ間を,空気の屈折率よりも大きい屈折率を有する溶媒(液浸媒体)で満たし,その状態で露光(浸漬露光)を行う。
露光に用いる波長は,特に限定されず,ArFエキシマレーザー,KrFエキシマレーザー,F_(2)レーザーなどの放射線を用いて行うことができる。本発明にかかるレジスト組成物は,・・・(中略)・・・特にArFエキシマレーザーに対して有効である。
【0167】
液浸媒体としては,空気の屈折率よりも大きく,かつ液浸露光用レジスト組成物を用いて形成されるレジスト膜の有する屈折率よりも小さい屈折率を有する溶媒が好ましい。・・・(中略)・・・本発明の液浸露光用レジスト組成物は,特に水による悪影響を受けにくく,感度,レジストパターンプロファイル形状に優れることから,本発明においては,液浸媒体として,水が好ましく用いられる。また,水は,コスト,安全性,環境問題および汎用性の観点からも好ましい。
【0168】
次いで,浸漬露光工程を終えた後,露光後加熱(ポストエクスポージャーベーク(PEB))を行い,続いて,アルカリ性水溶液からなるアルカリ現像液を用いて現像処理する。そして,好ましくは純水を用いて水リンスを行う。水リンスは,例えば,基板を回転させながら基板表面に水を滴下または噴霧して,基板上の現像液および該現像液によって溶解した液浸露光用レジスト組成物を洗い流すことにより実施できる。そして,乾燥を行うことにより,レジスト膜(液浸露光用レジスト組成物の塗膜)がマスクパターンに応じた形状にパターニングされたレジストパターンが得られる。」

エ 「【実施例】
【0169】
以下,本発明を実施例により具体的に説明するが,本発明はこれらに限定されるものではない。
下記実施例1?4および比較例1で(A)成分として用いた樹脂(A)-1は,下記モノマー(1)?(3)を用いて,公知の滴下重合法を用いて共重合して得た。
【0170】
【化49】

【0171】
得られた樹脂についてGPC測定を行い,質量平均分子量(Mw)および分散度(Mw/Mn)を求めたところ,(A)-1のMwは10000,Mw/Mnは2.0であった。
(A)-1の構造を以下に示す。式中,( )の右下に付した数字は,当該樹脂を構成する全構成単位の合計に対する各構成単位の割合(モル%)を示す。
【0172】
【化50】

【0173】
また,下記実施例1?4においては,(C)成分として,下記式(C)-1で表される樹脂(C)-1(Mw=14300。Mw/Mn=1.7。)を用いた。
樹脂(C)-1は,下記化学式(C)-0で表されるモノマー(セントラル硝子社製)を用いて,特開2005-232095号公報,及び特開2005-316352号公報を参照して合成したホモポリマーである。
【0174】
【化51】

【0175】
実施例1?4,比較例1
表1に示す各成分を混合し,溶解してポジ型のレジスト組成物を調製した。
【0176】
【表1】

【0177】
表1中の各略号は以下の意味を有し,[]内の数値は配合量(質量部)である。
(B)-1:下記式(B)-1で表される化合物。
(B)-2:下記式(B)-2で表される化合物。
(D)-1:トリエタノールアミン。
(S)-1:PGMEA/PGME=60/40(質量比)の混合溶剤。
【0178】
【化52】

【0179】
得られたレジスト組成物を用いて以下の評価を行った。
<疎水性評価>
以下の手順で,露光前および露光後のレジスト膜表面の静的接触角,動的接触角(前進角および後退角)および転落角(以下,これらをまとめて接触角等という。)を測定することにより,レジスト膜の疎水性を評価した。・・・(中略)・・・
【0181】
露光前および露光後のレジスト膜の接触角等の測定結果を表2?3に示す。また,表2?3には,各レジスト組成物中の,(A)成分の配合量に対する(C)成分の配合量の割合(以下,単に「(C)成分比率」という。単位:質量%)を合わせて示す。・・・(中略)・・・
【0182】
【表2】



(2)引用先願1の当初明細書等に記載された発明
前記(1)アないしエを含む引用先願1の当初明細書等の全記載から,【0162】ないし【0168】記載のレジストパターンの形成方法において,「本発明の液浸露光用レジスト組成物」(【0162】,【0163】)として実施例1のポジ型レジスト組成物を用いたものについての発明を把握することができるところ,当該発明の構成は次のとおりである。

「基板上に,下記の液浸露光用レジスト組成物をスピンナーで塗布する工程と,
当該基板にプレベークを行うことにより,レジスト膜を形成する工程と,
前記レジスト膜に対し,所望のマスクパターンを介して,露光に用いる波長としてArFエキシマレーザーを用い液浸媒体として水を用いた液浸露光を行う工程と,
露光後加熱を行う工程と,
アルカリ性水溶液からなるアルカリ現像液を用いて現像処理する工程と,
基板を回転させながら基板表面に純水を滴下または噴霧して,基板上の現像液および該現像液によって溶解した液浸露光用レジスト組成物を洗い流す工程と,
乾燥する工程と,
を有するレジストパターンの形成方法。

【液浸露光用レジスト組成物】
酸の作用によりアルカリ可溶性が増大する基材成分である(A)成分と,露光により酸を発生する酸発生剤である(B)成分と,形成されるレジスト膜の疎水性を高め浸漬露光時の物質溶出を抑制するための含フッ素樹脂成分である(C)成分と,含窒素有機化合物である(D)成分と,有機溶剤である(S)成分と,を混合し溶解して得られるポジ型レジスト組成物であって,
前記(A)成分として,下記構造(式中,( )の右下に付した数字は,当該樹脂を構成する全構成単位の合計に対する各構成単位の割合(モル%)を示す。)を有する樹脂(A)-1(Mw=10000,Mw/Mn=2.0)を100質量部配合し,
前記(B)成分として,下記式(B)-1で表される化合物(B)-1を3.5質量部と,下記式(B)-2で表される化合物(B)-2を1.0質量部配合し,
前記(C)成分として,下記式(C)-1で表されるホモポリマーである樹脂(C)-1(Mw=14300,Mw/Mn=1.7)を0.5質量部配合し,
前記(D)成分として,トリエタノールアミンを0.30質量部配合し,
前記(S)成分として,PGMEA/PGME=60/40(質量比)の混合溶剤を2200質量部配合したもの。

【樹脂(A)-1の構造】


【式(B)-1及び式(B)-2】


【式(C)-1】

」(以下,「先願発明」という。)


5 当審拒絶理由についての判断
(1)対比
ア フォトレジスト組成物に係る発明特定事項について
(ア) 先願発明で用いている「液浸露光用レジスト組成物」が含有する(A)成分は,

なる構造を有する「樹脂(A)-1」であるところ,当該構造中左側の構成単位と右側の構成単位は,カルボキシ基末端の水素原子と置換されることで第3級アルキルエステルを形成している「第3級アルキルエステル型酸解離性溶解抑制基」を有しており(引用先願1の当初明細書等の【0019】,【0020】及び【0022】を参照。),露光により酸発生剤から生じた酸(一般に「光酸」と呼ばれる。)が作用すると,酸素原子と前記「第3級アルキルエステル型酸解離性溶解抑制基」との間で結合が切断されるものであるから,当該「第3級アルキルエステル型酸解離性溶解抑制基」は本件発明の「光酸不安定基」に相当し,「樹脂(A)-1」は本件発明の「1種以上の光酸不安定基を含む」「樹脂」に相当する。
(イ) 先願発明で用いている「液浸露光用レジスト組成物」が含有する(B)成分は,露光により酸を発生する酸発生剤であるから,本件発明の「光活性成分」に相当する。
(ウ) 先願発明で用いている「液浸露光用レジスト組成物」が含有する(C)成分は,

なる式(C)-1で表されるホモポリマー「樹脂(C)-1」であるところ,当該構造は,カルボキシ基末端の水素原子と置換されて酸素原子と結合している「アセタール型酸解離性溶解抑制基」を有しており(引用先願1の当初明細書等の【0025】,【0026】,【0038】及び【0039】を参照。これら記載は(A)成分の説明であって(C)成分の説明ではないが,「樹脂(C)-1」がこれら記載中で説明された「アセタール型酸解離性溶解抑制基」を有していることは,その構造から看て取れる。),露光により酸が発生すると,この酸が作用して,「アセタール型酸解離性溶解抑制基」と当該「アセタール型酸解離性溶解抑制基」が結合した酸素原子との間で結合が切断されるものであり(なお,カルボキシ基末端の水素原子と置換されて酸素原子と結合されたアセタール基が,酸不安定基として機能するものであって,酸が作用すると,前記酸素原子と前記アセタール基の間で切断されることは,技術常識でもある(例:特開2005-306812号公報の【0041】ないし【0045】,特開2000-275837号公報の【0011】,【0015】ないし【0017】,特開平7-92680号公報の【0018】,【0024】,【0026】,【0027】)。引用先願1の当初明細書等では,当該技術常識における酸不安定基として機能するアセタール基を「アセタール型酸解離性溶解抑制基」と称している。),かつ,当該「アセタール型酸解離性溶解抑制基」は2つのトリフルオロメチル基(-CF_(3))を有しているから,先願発明の「アセタール型酸解離性溶解抑制基」は本件発明の「光酸不安定基」に相当し,「樹脂(C)-1」は本件発明の「光酸不安定基を含」み「光酸不安定基がフッ素化されている」「物質」に相当する。
なお,平成29年6月14日提出の意見書において,請求人は,「引用文献1(審決注:引用先願1の当初明細書等のこと)に記載の樹脂(C)-1はホモポリマーであり,光酸不安定基を含みません(段落0174)。」などと主張するが,樹脂(C)-1が光酸不安定基を有していることは,前述したとおりであるから,当該請求人の主張は採用できない。
(エ) 前記(ア)ないし(ウ)によれば,先願発明で用いている「液浸露光用レジスト組成物」は,本件発明で用いる「フォトレジスト組成物」に相当するとともに,本件発明で用いる「フォトレジスト組成物」における「(i)1種以上の光酸不安定基を含む1種以上の樹脂,(ii)光活性成分,および(iii)光酸不安定基を含む1種以上の物質であって,該光酸不安定基がフッ素化されている1種以上の物質を含む」との発明特定事項に相当する構成を具備している。
さらに,先願発明で用いている「液浸露光用レジスト組成物」における(C)成分の固形分基準での含有比は約0.5質量%であるから,先願発明で用いている「液浸露光用レジスト組成物」は,本件発明の「フォトレジスト組成物」における「(iii)光酸不安定基を含む1種以上の物質であって,該光酸不安定基がフッ素化されている1種以上の物質が,フォトレジスト組成物中に,フォトレジスト組成物の総固形分基準で最大で3重量%まで存在する」との発明特定事項に相当する構成も具備している。

イ 「(a)」の工程に係る発明特定事項について
(ア) 先願発明の「レジストパターンの形成方法」は,基板上に,「液浸露光用レジスト組成物」をスピンナーで塗布する工程(以下,当該工程を便宜上「塗布工程」という。)を有しているところ,当該「塗布工程」中の「液浸露光用レジスト組成物をスピンナーで塗布」することは,本件発明の「(a)」の工程中の「フォトレジスト組成物を基体上に適用」することに相当する。
しかるに,前記ア(エ)で述べた事項に照らせば,先願発明の「レジストパターンの形成方法」で用いている「液浸露光用レジスト組成物」は,本件発明で用いる「(i)1種以上の光酸不安定基を含む1種以上の樹脂,(ii)光活性成分,および(iii)光酸不安定基を含む1種以上の物質であって,該光酸不安定基がフッ素化されている1種以上の物質を含むフォトレジスト組成物」に相当するから,先願発明の「塗布工程」は,本件発明の「(a)」の工程における「(i)1種以上の光酸不安定基を含む1種以上の樹脂,(ii)光活性成分,および(iii)光酸不安定基を含む1種以上の物質であって,該光酸不安定基がフッ素化されている1種以上の物質を含むフォトレジスト組成物を基体上に適用し,」との発明特定事項に相当する構成を具備している。
(イ) 先願発明の「塗布工程」は,「液浸露光用レジスト組成物」をスピンナーで塗布する工程であるところ,当該「塗布工程」により形成された「液浸露光用レジスト組成物」の塗膜が,プレベークを行う工程までの間は流動性を有していることは明らかである。
しかるに,前記塗膜中の「樹脂(A)-1」が極性基である水酸基を有するとともにフッ素原子を有していない樹脂であるのに対して,前記塗膜中の「樹脂(C)-1」がトリフルオロメチル基を2つ有する構成単位のみからなる含フッ素ホモポリマーであることから,両者が相溶性に乏しいこと,及び「樹脂(A)-1」に比べて「樹脂(C)-1」の表面エネルギーがきわめて小さいことが,技術常識に照らし明らかである。
そうすると,「樹脂(C)-1」は,流動性を有する塗膜中で上部領域へ向かって移動するものと推察される(本件出願の明細書の【0019】及び【0029】には,(i)の樹脂と(iii)の物質とが非混和性であること,及び(iii)の物質の表面エネルギーが小さいことによって,(iii)の物質がフォトレジストコーティング層の上部へ向かって移動することが説明されている。)。
このことは,引用先願1の当初明細書等の【0182】の表2に示された各実施例の後退角の値によれば,「樹脂(C)-1」を5質量%含有させると,「樹脂(C)-1」を含有しないものに比べて静的接触角や動的接触角が大きく増加するのに対して,「樹脂(C)-1」の含有率を10質量%に増加させても,「樹脂(C)-1」を5質量%含有するものに比べて静的接触角や動的接触角がほとんど増加しないことから,露光前のレジスト膜において「樹脂(C)-1」が表面側に偏在していることが窺われることによっても裏付けられる。(表面が「樹脂(C)-1」でほぼ覆われるまでは,「樹脂(C)-1」の含有量を増加させるにつれて,表面における「樹脂(C)-1」の割合が増加することから,静的接触角や動的接触角が増加するのに対して,表面が「樹脂(C)-1」でほぼ覆われる量以上に,「樹脂(C)-1」の割合を増加させても,表面における「樹脂(C)-1」の割合はほとんど増加しないことから,静的接触角や動的接触角がほとんど増加しないものと考えられる。)
なお,「(C)成分がレジスト組成物層の上部領域へ向かって移動することがないことを,例えば,実験成績証明書等を提出するなどして,請求人が具体的に立証しない限りは,合議体は,・・・(中略)・・・(C)成分がレジスト組成物層の上部領域へ向かって移動するものと認定して,以降の審理を進めるつもりであるから,請求人においては,本拒絶理由通知への対応に際して十分に注意されたい。」との平成28年12月12日付け拒絶理由通知書における留意事項の記載に対して,平成29年6月14日提出の意見書において,請求人は,(C)成分が上部領域へ向かって移動しない旨の主張をしておらず,当該事項に関する実験成績証明書等を提出することもしていない。
以上によれば,先願発明の「塗布工程」は,本件発明の「(a)」の工程における「適用する工程の間に該(iii)の1種以上の物質がフォトレジスト組成物層の上部領域へ向かって移動する」との発明特定事項に相当する構成を具備していると認められる。
(ウ) 前記(ア)及び(イ)によれば,先願発明の「塗布工程」は,本件発明の「(a)(i)1種以上の光酸不安定基を含む1種以上の樹脂,(ii)光活性成分,および(iii)光酸不安定基を含む1種以上の物質であって,該光酸不安定基がフッ素化されている1種以上の物質を含むフォトレジスト組成物を基体上に適用し,該適用する工程の間に該(iii)の1種以上の物質がフォトレジスト組成物層の上部領域へ向かって移動する工程」に相当する。

ウ 「(b)」の工程に係る発明特定事項について,
先願発明の「レジストパターンの形成方法」は,「レジスト膜に対し,所望のマスクパターンを介して,露光に用いる波長としてArFエキシマレーザーを用い液浸媒体として水を用いた液浸露光を行う工程」(以下,「液浸露光工程」という。)を有しているところ,「ArFエキシマレーザー」が本件発明の「フォトレジスト組成物を活性化する放射線」に相当するから,先願発明の「液浸露光工程」は,本件発明の「(b)」の工程における「適用したフォトレジスト組成物を,フォトレジスト組成物を活性化する放射線に液浸露光し,」との発明特定事項に相当する構成を具備している。
また,先願発明の「液浸露光工程」において,「ArFエキシマレーザー」の照射によって,レジスト膜中で(B)成分(化合物(B)-1及び化合物(B)-2)が酸を発生すること,及び当該酸が作用して「樹脂(C)-1」における「アセタール型酸解離性溶解抑制基」と当該「アセタール型酸解離性溶解抑制基」が結合した酸素原子との間で結合が切断され(前記ア(ウ)を参照。),「樹脂(C)-1」から前記「アセタール型酸解離性溶解抑制基」が分離することは明らかであるところ,当該分離した「アセタール型酸解離性溶解抑制基」が本件発明の「フッ素化開裂生成物」に相当するから,先願発明の「液浸露光工程」は,本件発明の「(b)」の工程における「液浸露光および液浸露光後の処理の間にフッ素化開裂生成物が生成する」との発明特定事項に相当する構成を具備している。
以上によれば,先願発明の「液浸露光工程」は,本件発明の「(b)該適用したフォトレジスト組成物を,フォトレジスト組成物を活性化する放射線に液浸露光し,前記液浸露光および液浸露光後の処理の間にフッ素化開裂生成物が生成する工程」に相当する。

エ 前記アないしウに照らせば,本件発明と引用発明は,
「(a)(i)1種以上の光酸不安定基を含む1種以上の樹脂,
(ii)光活性成分,および
(iii)光酸不安定基を含む1種以上の物質であって,該光酸不安定基がフッ素化されている1種以上の物質
を含むフォトレジスト組成物を基体上に適用し,
該適用する工程の間に該(iii)の1種以上の物質がフォトレジスト組成物層の上部領域へ向かって移動する工程;並びに,
(b)該適用したフォトレジスト組成物を,フォトレジスト組成物を活性化する放射線に液浸露光し,前記液浸露光および液浸露光後の処理の間にフッ素化開裂生成物が生成する工程;
を含み,
該(iii)光酸不安定基を含む1種以上の物質であって,該光酸不安定基がフッ素化されている1種以上の物質が,フォトレジスト組成物中に,フォトレジスト組成物の総固形分基準で最大で3重量%まで存在する,
フォトレジスト組成物の処理方法。」
である点で一致し,相違するところはない。

(2)小括
以上のとおりであるから,本件発明は,先願発明と同一である。


6 むすび
本件出願の請求項1に係る発明は,本願優先日より前に出願された特許出願であって,本願優先日より後に出願公開がされた引用先願1の当初明細書等に記載された先願発明と同一であり,しかも,本件出願の発明者が先願発明をした者と同一ではなく,また本件出願の時において,本件出願の出願人が引用先願1の出願人と同一でもないので,他の請求項に係る発明について検討するまでもなく,本件出願は,特許法29条の2の規定により特許を受けることができない。
よって,結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2017-07-04 
結審通知日 2017-07-06 
審決日 2017-07-19 
出願番号 特願2013-125854(P2013-125854)
審決分類 P 1 8・ 161- WZ (G03F)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 石附 直弥清水 裕勝  
特許庁審判長 中田 誠
特許庁審判官 清水 康司
鉄 豊郎
発明の名称 液浸リソグラフィーのための組成物および方法  
代理人 特許業務法人センダ国際特許事務所  

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