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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 A61K
管理番号 1335080
審判番号 不服2015-22250  
総通号数 217 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2018-01-26 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2015-12-17 
確定日 2017-11-28 
事件の表示 特願2011-541256「UV照射によって誘発される皮膚の褐変化を制御するための化粧方法、組成物」拒絶査定不服審判事件〔平成22年7月15日国際公開、WO2010/078985、平成24年5月31日国内公表、特表2012-512215〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 主な手続の経緯
本願は、平成21年11月10日(パリ条約による優先権主張 2008年12月17日 フランス(FR)、2008年12月29日 アメリカ合衆国(US))を国際出願日とする特許出願であって、平成26年4月21日付けで拒絶理由が通知され、同年7月2日に意見書及び手続補正書が提出され、平成27年2月2日付けで拒絶理由が通知され、同年7月7日に意見書及び手続補正書が提出されたが、同年8月13日付けで拒絶査定がなされ、これに対し、同年12月17日に拒絶査定不服審判の請求がなされ、平成28年2月3日付けで審判請求書の請求の理由の手続補正書(方式)が提出されたものである。

第2 本願発明
本願の請求項1?14に係る発明は、平成27年7月7日提出の手続補正書の特許請求の範囲の請求項1?14に記載された事項により特定されるとおりのものと認められるところ、その請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は次のとおりのものである。

「【請求項1】
UV照射によって誘発される皮膚の褐変化を制御するための化粧方法であって、化粧上許容される担体中に、
a)次式(I)
【化1】

に相当するヒドロキシル化ジフェニルメタン誘導体
[式中、
R_(1)は、水素原子、メチル基、2?4個の炭素原子を含有する飽和または不飽和の直鎖または分岐アルキル鎖、-OH基、およびハロゲンから選択され、
R_(2)は、水素原子、メチル基、および2?5個の炭素原子を含有する飽和または不飽和の直鎖または分岐アルキル鎖から選択され、
R_(3)は、メチル基、または2?5個の炭素原子を含有する飽和もしくは不飽和の直鎖もしくは分岐アルキル鎖から選択され、
R_(4)およびR_(5)は、互いに独立に、水素原子、メチル基、2?5個の炭素原子を含有する飽和もしくは不飽和の直鎖もしくは分岐アルキル鎖、-OH基、またはハロゲンから選択される]
およびそのS-立体配置の鏡像異性体、そのR-立体配置の鏡像異性体またはそのラセミ混合物から選択される、少なくとも1つの脱色素剤と、
b)以下:
(i)微粒子状のドロメトリゾールトリシロキサン、ビス(エチルヘキシルオキシフェノール)メトキシフェニルトリアジン、メチレンビス(ベンゾトリアゾリル)テトラメチルブチルフェノールまたはその混合物から選択される疎水性のUVAおよびUVB遮蔽剤を含む遮蔽系;
(ii)以下:
a)少なくとも、UVA遮蔽剤として、テレフタリリデンジカンファースルホン酸と組み合わせたブチルメトキシジベンゾイルメタンと、
b)少なくとも、UVB遮蔽剤として、サリチル酸エチルヘキシルと組み合わせたオクトクリレンと
から構成される遮蔽系
から選択される、波長320?400nmのUVA照射および波長280?320nmのUVB照射の両方を遮蔽するための少なくとも1つの系と、
c)任意選択により少なくとも1つの落屑剤と
を含む、370nm超の臨界波長λcを有する少なくとも1つの組成物を皮膚表面に塗布する方法。」

第3 原査定の拒絶の理由
原査定の拒絶の理由は、「この出願については、平成27年2月2日付け拒絶理由通知書に記載した理由2によって、拒絶をすべきものです。」というものであり、その理由2は次の理由を含むものである。

「2.この出願の下記の請求項に係る発明は、その出願前に日本国内又は外国において、頒布された下記の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

記(引用文献等については引用文献等一覧参照)

(1)理由2:請求項1?15:引用文献1
・・・
(備考)
・・・
引用文献等一覧
1.国際公開第2007/077258号」

第4 当審の判断
1 引用例及びその記載事項
本出願の優先日前である平成19(2007)年7月12日に頒布された刊行物である「国際公開第2007/077258号」(原査定の引用文献1。以下、「引用例」という。)には、次の事項が記載されているものと認められる。
なお、引用例は英文で記載された刊行物であるので、その記載事項は当審による翻訳文のみを示し、その英文の記載は省略する。翻訳文は、特表2009-522336号公報を参考にしたので、対応箇所も併記する。
また、以下、下線は当審で付したものである。

(a)「化粧品業界の分野では、皮膚及び毛髪を明るくするための組成物及びシミと戦うための組成物に対する要望が増している。皮膚や毛髪を明るくするため及びシミに効果を奏する化粧品は、大部分、特に暗色皮膚及び暗色毛髪集団のアジア諸国で大きな役割を果たすが、中央ヨーロッパや米国でも同様にこの種の美容処理用組成物がますます重要になってきている。」(2頁20行?3頁3行;【0006】)

(b)「フェノール化合物、特に2個以上のOH基を有するフェノール化合物は、例えば、光の影響下、一定のpH条件下、及び触媒量の、例えば二価金属イオンの存在下で不安定であり、かつ転位反応又は分解反応を受ける傾向があり、そのほとんどが物質の損失を伴い、同様に多くの場合、物質自体又はフェノール化合物を含む化粧及び/又は医薬製剤の黄色若しくは褐色でさえの変色を伴うことは周知である。
そこで、本発明の目的は、化粧及び/又は医薬製剤における分解と変色について長期安定性を伴って式(I)のフェノール化合物を処方できることである。この目的は、本発明により請求項1に記載の化粧及び/又は医薬製剤を通じて達成される。」(5頁5?17行;【0012】?【0013】)

(c)「特に、式(II)の化合物は、日光又は他の光によって引き起こされる式(I)のフェノール化合物の変色を防止又は減速できる。変色の防止と減速は共に特に化粧製剤で重要である。従って、本発明によれば、式(I)のフェノール化合物を安定化するためのUVフィルターとして式(II)の化合物を使用し、本発明の化粧及び/又は医薬製剤中の式(I)のフェノール化合物を安定化するために十分な量で1種以上の式(II)のUVフィルターを利用する。」(7頁4?11行;【0018】)

(d)「非常に特に好ましくは式(I)の以下のフェノール化合物:
4-ブチルレゾルシノール(CARN:18979-61-8)
及び
特に以下にさらに詳述するスチリルレゾルシノール(式(IA)、CARN:85-27-8;4-(1-フェニルエチル)-1,3-ジヒドロキシベンゼン)が挙げられる。

」(9頁5?12行;【0022】?【0023】)

(e)「これらの好ましい化合物は、特に本発明の式(II)の化合物の使用の助けをかりて、分解することなく、かつ色安定性を伴って、化粧及び医薬製剤で処方され、かつ長期間にわたってでさえ、顕著な皮膚及び毛髪ライトニング効果を示し、かつ顕著なシミ軽減効果をも示す。」(11頁7?11行;【0031】)

(f)「化粧及び/又は医薬用途では、本発明の特に皮膚科学的に活性な製剤を化粧品及び皮膚用製品で典型的な方法で皮膚及び/又は毛髪に十分な量で適用した。これに関連して、特に有利には、主に分解及び変色についての安定化のために使用される化粧用及び皮膚用製剤が、式(II)の光防護フィルターのみならず、1種以上のさらなる日焼け止めフィルター(UV吸収剤、UVフィルター)を含む当該製剤は、結果として、一方で該製剤に含まれる式(I)のフェノール化合物が分解及び変色についてさらに効率的に保護され、かつ他方で製剤が毛髪又は皮膚ライトニング製品として同様に作用し、及び/又はシミ軽減剤や日焼け止めとしても作用する。」(30頁7?18行;【0071】)

(g)「さらなる好ましい実施形態では、本発明の化粧及び/又は医薬製剤、特に皮膚科学用の活性製剤は、さらに1種以上の日焼け止めフィルター(UV吸収剤)を含み、この日焼け止めフィルターは、例えば、日焼け止め製剤で典型的に使用される種類のいずれの形態でも存在することができる。従って、日焼け止めフィルターは、例えば、水中油(O/W)型のエマルション、ゲル、水分散系、又はエアロゾルの形態でよい。
ここで、式(II)の光防護フィルター、特に好ましくは式(IIA)、(IIB)及び(IIC)の1種以上の光防護フィルターを含む本発明の化粧及び/又は医薬製剤が好ましい。
有利には、該製剤は、式(II)の化合物の群から選択される1種以上の光防護フィルターを含むが、UV-Aフィルター又はUV-Bフィルター
及び/又は少なくとも1種のさらに広帯域のフィルター
及び/又は
少なくとも1種の無機顔料をも含むことができる。」(31頁4?19行;【0071】)

(h)「例えば、以下の広帯域フィルターが好ましい:
・・・
・2,2’-メチレンビス(6-(2H-ベンゾトリアゾール-2-イル)-4-1,1,3,3-テトラメチルブチル)-フェノール)(Tinosorb(登録商標)M)
・2,4-ビス[4-(2-エチルヘキシルオキシ)-2-ヒドロキシフェニル]-1,3,5-トリアジン
・2,4-ビス[{(4-(2-エチルヘキシルオキシ)-2-ヒドロキシ}フェニル]-6-(4-メトキシフェニル)-1,3,5-トリアジン(Tinosorb(登録商標)S)」(33頁17行?34頁9行;【0073】)

(i)「ここで併用に特に好適なUV吸収剤は以下の通りである:
・p-アミノ安息香酸
・・・
・2,2’-メチレンビス(6-(2H-ベンゾトリアゾール-2-イル)-4-1,1,3,3-テトラメチルブチル)-フェノール)(Tinosorb(登録商標)M)
・フェニレンビスベンゾイミダジル四スルホン酸二ナトリウム塩(Neo Heliopan(登録商標)AP)
・2,4-ビス[{(4-(2-エチルヘキシルオキシ)-2-ヒドロキシ}フェニル]-6-(4-メトキシフェニル)-1,3,5-トリアジン(Tinosorb(登録商標)S)
・・・
・DE10055940(=WO02/38537)に従うインダニリデン化合物。」(35頁13行?37頁3行;【0075】)

(j)「請求の範囲
1. 以下の化合物:
a)チロシナーゼ阻害量の下記式(I)の1種以上の化合物:

(式(I)中、
R^(1)、R^(2)、R^(3)、R^(4)及びR^(5)は、相互に独立に水素、ハロゲン、OH基、メチル又は2、3、4若しくは5個のC原子を有する直鎖若しくは分岐アルキルであり、基R^(1)、R^(2)、R^(3)、R^(4)及びR^(5)の1、2又は3つの異なる基が同時にOH基を表し、
R^(6)及びR^(7)は、相互に独立に水素、メチル又は2、3、4若しくは5個のC原子を有する直鎖若しくは分岐アルキルであり、
nは0?20の整数であり、かつ
R^(8)は、メチル又は2若しくは3個のC原子を有する直鎖若しくは分岐アルキル、3、4、5、6若しくは7個のC原子を有するシクロアルキル又はフェニルである)
及び
b)下記式(II)の1種以上の化合物:

(式(II)中、
R^(9)、R^(10)、R^(11)及びR^(12)は、相互に独立に水素、メチル、OH基又は基-O-R^(13)であり、かつ
R^(13)は、メチル又は2、3、4、5、6、7、8、9若しくは10個のC原子を有する直鎖若しくは分岐アルキルである)
を含むか又は前記化合物から成る化粧及び/又は医薬製剤。
・・・
4. 式(I)の化合物として又は式(I)の化合物の1つとして、スチリルレゾルシノール及び/又は4-ブチルレゾルシノールを含む、請求項1?3のいずれか1項に記載の製剤。
・・・
10. 前記製剤の総量に対して、0.05質量%?12質量%の量の油相を有する、請求項1?9のいずれか1項に記載の製剤。
11. O/Wエマルションの形態の、請求項10に記載の製剤。
12. 1種以上のさらなるUVフィルター及び/又は1種以上のさらなるチロシナーゼ阻害剤を含む、請求項1?11のいずれか1項に記載の製剤。
13. 前記製剤が2以上、好ましくは5以上のSPFを有するような総量のUVフィルター及び/又は無機顔料を含む、請求項1?12のいずれか1項に記載の製剤。
・・・
22. 皮膚及び/又は毛髪を明るくする及び/又はシミを軽減する方法であって、
請求項1?17のいずれか1項に記載の製剤を皮膚及び/又は毛髪に適用する工程を含むか又は前記工程から成る方法。」

2 引用例に記載の発明
引用例には、上記1(j)の請求項22において、請求項1、4及び10?12を引用する請求項13で特定される製剤を適用する方法である、次の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されていると認められる。
なお、引用例の上記1(j)の請求項1における式(II)の化合物は、ベンゾフェノン誘導体であるといえるから、以下では、式(II)で示される化合物を総称して、「式(II)のベンゾフェノン誘導体」ともいう。また、以降、本願及び引用例のいずれについても化学構造式及び式中の説明は省略する。

「皮膚を明るくする方法であって、
チロシナーゼ阻害量の式(I)の化合物として又は式(I)の化合物の1つとして、スチリルレゾルシノール、
及び
式(II)のベンゾフェノン誘導体
を含み、
1種以上のさらなるUVフィルターを含み、
2以上、好ましくは5以上のSPFを有するような総量のUVフィルターを含む、
O/Wエマルションの形態の化粧製剤を皮膚に適用する工程を含む方法。」

3 対比
本願発明と引用発明とを対比する。

(1)本願発明の「UV照射によって誘発される皮膚の褐変化を制御する」方法における「制御」について、本願明細書には特段の定義はされていないが、本願明細書【0333】の「皮膚の褐変化の予防の比較評価」との記載からみて、UV照射によって誘発される皮膚の褐変化を予防することも、本願発明の「制御」に包含されると理解される。
一方、引用発明は、2以上、好ましくは5以上のSPFを有するような総量のUVフィルターを含む化粧製剤を、皮膚を明るくするために適用する工程を含む方法であるから、UV照射によって誘発される皮膚の褐変化を予防するための化粧方法であるといえる。
また、O/Wエマルション形態の化粧製剤を皮膚に適用する工程は、皮膚表面に塗布する方法であるといえる。
よって、引用発明の「皮膚を明るくする方法であって」、「O/Wエマルションの形態の化粧製剤を皮膚に適用する工程を含む方法」は、本願発明の「UV照射によって誘発される皮膚の褐変化を制御するための化粧方法であって」、「少なくとも1つの組成物を皮膚表面に塗布する方法」に相当する。

(2)引用発明の「スチリルレゾルシノール」は、引用例の上記1(d)に示される化合物であり、本願発明の「式(I)に相当するヒドロキシル化ジフェニルメタン誘導体」の具体的な化合物として、本願請求項4などで特定される式(II)のスチリルレゾルシノールと同じものである。
引用発明の「スチリルレゾルシノール」について、引用例には脱色素剤とは明記されていないが、「チロシナーゼ阻害量の」と特定されていることから、脱色素剤といえる。
よって、引用発明の「チロシナーゼ阻害量の式(I)の化合物として又は式(I)の化合物の1つとして、スチリルレゾルシノール」は、本願発明の「a)次式(I)に相当するヒドロキシル化ジフェニルメタン誘導体およびそのS-立体配置の鏡像異性体、そのR-立体配置の鏡像異性体またはそのラセミ混合物から選択される、少なくとも1つの脱色素剤」に相当する。

(3)引用発明の「式(II)のベンゾフェノン誘導体」は、引用例の上記1(c)に「UVフィルター」と記載されているとおり、UV遮蔽剤として周知の物質であり、また、引用発明では、1種以上のさらなるUVフィルターを含むことも特定されている。
よって、引用発明の「式(II)のベンゾフェノン誘導体を含み、1種以上のさらなるUVフィルターを含み、2以上、好ましくは5以上のSPFを有するような総量のUVフィルターを含む」系は、本願発明の「b)以下:(i)微粒子状のドロメトリゾールトリシロキサン、ビス(エチルヘキシルオキシフェノール)メトキシフェニルトリアジン、メチレンビス(ベンゾトリアゾリル)テトラメチルブチルフェノールまたはその混合物から選択される疎水性のUVAおよびUVB遮蔽剤を含む遮蔽系;(ii)以下:a)少なくとも、UVA遮蔽剤として、テレフタリリデンジカンファースルホン酸と組み合わせたブチルメトキシジベンゾイルメタンと、b)少なくとも、UVB遮蔽剤として、サリチル酸エチルヘキシルと組み合わせたオクトクリレンとから構成される遮蔽系から選択される、波長320?400nmのUVA照射および波長280?320nmのUVB照射の両方を遮蔽するための少なくとも1つの系」と、「UV遮蔽系」である点で共通する。
ここで、引用発明は「式(II)のベンゾフェノン誘導体」を必須成分としているが、本願明細書【0041】に、本願発明の組成物に含まれてよいものとして例示されているものであるから、この点は実質的な相違点とはならない。

(4)引用発明の「O/Wエマルションの形態の化粧製剤」は、スチリルレゾルシノール及び式(II)のベンゾフェノン誘導体と1種以上のさらなるUVフィルターを化粧上許容される担体中に含むものといえる。
よって、引用発明のスチリルレゾルシノール及び式(II)のベンゾフェノン誘導体と1種以上のさらなるUVフィルターを含む「O/Wエマルションの形態の化粧製剤」は、本願発明の「化粧上許容される担体中に」a)及びb)とを含む、「組成物」に相当する。
なお、本願発明では、「c)任意選択により少なくとも1つの落屑剤とを含む」と特定されているが、「任意選択により」とあるように、「落屑剤」は「組成物」中に含まれていなくてもよいものであるから、引用発明がこれを含まないことは相違点とはならない。

(5)引用発明における、「2以上、好ましくは5以上のSPFを有するような総量のUVフィルターを含む」との特定は、複数のUVフィルターによる皮膚の褐変化の予防の程度をSPFで特定したものといえる。
一方、本願発明の「臨界波長」とは、本願明細書【0028】?【0030】の記載から理解できるとおり、特にUVA照射スペクトルの広がりを独立に特徴付けるものであるから、本願発明の「370nm超の臨界波長λcを有する少なくとも1つの組成物」との特定も、UV遮蔽系の皮膚の褐変化の予防の程度を臨界波長λcで特定したものといえる。
よって、両発明は、「所定の皮膚の褐変化の予防の程度を有する組成物」である点で共通する。

(6)以上のことから、本願発明と引用発明とは、次の一致点及び相違点1?2を有する。

一致点:
「UV照射によって誘発される皮膚の褐変化を制御するための化粧方法であって、化粧上許容される担体中に、
a)次式(I)に相当するヒドロキシル化ジフェニルメタン誘導体およびそのS-立体配置の鏡像異性体、そのR-立体配置の鏡像異性体またはそのラセミ混合物から選択される、少なくとも1つの脱色素剤と、
b)UV遮蔽系と、
を含む、所定の皮膚の褐変化の予防の程度を有する組成物を皮膚表面に塗布する方法。」である点。

相違点1:
「UV遮蔽系」について、
本願発明は、
「b)以下:
(i)微粒子状のドロメトリゾールトリシロキサン、ビス(エチルヘキシルオキシフェノール)メトキシフェニルトリアジン、メチレンビス(ベンゾトリアゾリル)テトラメチルブチルフェノールまたはその混合物から選択される疎水性のUVAおよびUVB遮蔽剤を含む遮蔽系;
(ii)以下:
a)少なくとも、UVA遮蔽剤として、テレフタリリデンジカンファースルホン酸と組み合わせたブチルメトキシジベンゾイルメタンと、
b)少なくとも、UVB遮蔽剤として、サリチル酸エチルヘキシルと組み合わせたオクトクリレンと
から構成される遮蔽系
から選択される、波長320?400nmのUVA照射および波長280?320nmのUVB照射の両方を遮蔽するための少なくとも1つの系」
としているのに対し、
引用発明は、
「式(II)のベンゾフェノン誘導体を含み、
1種以上のさらなるUVフィルターを含み、
2以上、好ましくは5以上のSPFを有するような総量のUVフィルターを含む」
としている点。

相違点2:
「所定の皮膚の褐変化の予防の程度を有する組成物」について、本願発明は、「370nm超の臨界波長λcを有する」組成物としているのに対し、引用発明は、「2以上、好ましくは5以上のSPFを有するような総量のUVフィルターを含む」化粧製剤としている点。

4 判断
上記相違点1?2は関連するのでまとめて検討する。

(1)引用発明は、化粧製剤を皮膚に適用することで皮膚を明るくする方法を提供することを前提とし(上記1(a)参照)、そのための化粧製剤に配合されるチロシナーゼ阻害活性が知られているスチリルレゾルシノールなどの2個以上のOH基を有するフェノール化合物の安定性を、それ自体がUVフィルターとして公知のベンゾフェノン誘導体と併用することで改善し、長期間にわたって皮膚を明るくする効果を示す化粧製剤を適用するものとしたものである(上記1(b)、(c)、(e)参照)。
また、1種以上のさらなるUVフィルターも併用して、適用する化粧製剤の皮膚を明るくする効果を期待するものといえ(上記1(f)参照)、化粧製剤に配合する1種以上のさらなるUVフィルターは、UVAフィルター、UVBフィルターや広帯域フィルターを含むことができるとし(上記1(g)参照)、併用に特に好適なUV吸収剤として、広帯域フィルターである2,4-ビス[{(4-(2-エチルヘキシルオキシ)-2-ヒドロキシ}フェニル]-6-(4-メトキシフェニル)-1,3,5-トリアジン(Tinosorb(登録商標)S)や2,2’-メチレンビス(6-(2H-ベンゾトリアゾール-2-イル)-4-1,1,3,3-テトラメチルブチル)-フェノール)(Tinosorb(登録商標)M)を例示している(上記1(h)、(i)参照)。
そして、上記例示の2つのUV吸収剤(UVフィルター)は、本願発明のb)の選択肢のうちの「(i)微粒子状のドロメトリゾールトリシロキサン、ビス(エチルヘキシルオキシフェノール)メトキシフェニルトリアジン、メチレンビス(ベンゾトリアゾリル)テトラメチルブチルフェノールまたはその混合物から選択される疎水性のUVAおよびUVB遮蔽剤を含む遮蔽系」の後者の2つのものであり、広帯域フィルターであるから、これらのいずれかを含有する「UV遮蔽系」は、「波長320?400nmのUVA照射および波長280?320nmのUVB照射の両方を遮蔽するための少なくとも1つの系」といえるものである。
(なお、本願明細書【0041】にも、これら2つのUVフィルターが、それぞれTinosorb S及びTinosorb Mという商標名で販売されているものであることが記載されている。)

(2)引用発明は、化粧製剤を皮膚に適用することで皮膚を明るくする方法を提供することを前提とし、そのための化粧製剤としてスチリルレゾルシノール及び式(II)のベンゾフェノン誘導体と1種以上のさらなるUVフィルターを併用したものといえるところ、本願優先日には、下記文献Aに記載されているとおり、UVA領域とUVB領域の紫外線の両方を防御することが望ましいことは周知の事項であった。
また、下記文献A?Dに記載されているとおり、SPFは、UVB領域の紫外線の防御効果の指標であり、臨界波長は、UVA領域の紫外線の防御効果の指標に用いられ、特にUVA領域の紫外線の防御効果が得られる程度として、臨界波長が370nm又はそれ以上のものと特定することも既に知られていたことである。
そうしてみると、引用発明において、皮膚を明るくするための方法に適用する化粧製剤として、特に、UVA領域とUVB領域の紫外線の両方を防御することを考慮して、一種以上のさらなるUVフィルターとして、併用に特に好適なUV吸収剤として例示されている、広帯域フィルターであるTinosorb(登録商標)SやTinosorb(登録商標)Mを配合してみることは、周知の事項に基づき当業者が容易になし得たことである。
そして、その際に、化粧製剤に配合する式(II)のベンゾフェノン誘導体と1種以上のUVフィルターによる皮膚の褐変化の予防の程度を、主にUVB領域の紫外線の防御効果の指標であるSPFにかえて、UVA領域の紫外線の防御効果の指標である臨界波長で特定し、その値を370nm以上とすることも、格別困難を要することではない。

文献A:特開2003-171251号公報(拒絶査定の引用文献2)
「【0002】
【従来の技術及び発明が解決しようとする課題】280nmと400nmの間の波長の光線によりヒトの表皮は褐色化し、UV-B線の名称で知られている280と320nmの間の波長の光線により、皮膚は自然なサンタン状態の形成に有害なサンバーン状態となったり紅斑が形成される;よって、このUV-B線は遮蔽しなければならない。また、320nmと400nmの間の波長を持ち、皮膚を褐色化するUV-A線も皮膚に悪い変化を引き起こすおそれがあることが知られており、敏感肌又は頻繁に太陽光線にさらされている皮膚の場合は特にしかりである。UV-A線は、特に、皮膚の弾性を喪失させ、しわを出現せしめ、時期尚早の老化に導く原因となるものである。UV-A線は紅斑反応の惹起を誘発したり、ある個人においてはこの反応を悪化させ、光毒性又は光アレルギー反応の原因にもなりうる。よって、UV-A線もまた遮蔽することが望ましい。
【0003】皮膚の光(UV-A及び/又はUV-B)保護を意図した多数の化粧品用組成物が、現在までに提供されている。抗日光組成物の効力は、UV遮蔽剤を用いない場合の紅斑形成閾値に達するまでに必要なUV線の線量に対する、UV遮蔽剤を用いた場合の紅斑形成閾値に達するまでに必要なUV線の線量の比率を数学的に表したものである日光保護ファクター(SPF)により、一般的に表される。よってこのファクターは、その生物学的作用の範囲がUV-B領域を中心としている紅斑に対する保護効果に関連しており、従ってこのUV-B線に対する保護性を記載するものである。」

文献B:特表2003-534260号公報(拒絶査定の引用文献3)
「【請求項13】太陽光線保護指数が10より大きい、好ましくは15より大きく、臨界吸収波長が370nmより大きい請求項1?12のいずれか1項に記載の組成物。」
「【0014】
有機日焼け止め剤
本発明の組成物は有機日焼け止め剤を含んでいる。好適な日焼け止め剤は、UVA吸収特性、UVB吸収特性、またはこれらの混合を有することができる。日焼け止め活性物質の正確な量は、UVA防止作用の所望のレベルと同様に、所望の太陽光線保護指数、すなわち組成物の「SPF」によって変化する。本発明の組成物は、好ましくは、少なくとも10、好ましくは少なくとも15のSPFを含む。(SPFは通常、紅斑に対する日焼け止め剤の光防護性の尺度として使用される。SPFは、保護していない皮膚に最小の紅斑を生じるのに必要な紫外線エネルギーに対する、同一人物の保護している皮膚に同一の最小の紅斑を生じるのに必要な紫外線エネルギーの比率として定義される。・・・)」

文献C:特表2004-513162号公報
「【請求項16】
それから臨界波長λcrt.>380nmを有するUV広域遮蔽能がもたらされるように、それらが更なるUV吸収剤および更に微粉砕顔料を含んで成ることを特徴とする、請求項4記載の化粧品組成物。」

文献D:特表2007-518689号公報
「【0040】
これらの製剤を、5回の凍結融解サイクル後、それから、45℃で1ヶ月の貯蔵後に、オプトメトリックスSPF290分析機を使って臨界波長について調査、つまりUVA保護の計測を行った。臨界波長が長くなればなるほど、UVA保護はより大きくなる。
【0041】
〔表4〕
臨界波長データ
製剤 凍結融解後の臨界波長(nm) 貯蔵後の臨界波長(nm)
1 376.15 375.10
2 374.75 373.30
3 374.35 374.15
4 373.95 373.80
5 373.75 372.55」

(3)本願発明の効果について
本願明細書【0333】?【0348】及び【図1】?【図3】に、臨界波長λcが370nm未満(349nm)である本発明の一部ではない実施例6と、臨界波長λcが370nm以上(377nm)である本発明の実施例7とについて、皮膚の褐変化の予防の比較評価を行ったこと、比較実施例6に比べて実施例7が褐変化防止に対して高い有効性を示したことが記載されている。
しかしながら、比較実施例6は、本願発明のa)のフェニルエチルレゾルシノール(スチリルレゾルシノールと同じ)を0.1重量%、疎水性UVB遮蔽剤であるメトキシケイ皮酸エチルヘキシルを7.5重量%配合しているが、本願発明のb)にあたるUV遮蔽系に相当するものは配合されていない。
一方、実施例7には、本願発明のa)のフェニルエチルレゾルシノールを0.1重量%配合するとともに、本願発明のb)(i)のドロメトリゾールトリシロキサンを1.3重量%、(ii)のブチルメトキシジベンゾイルメタンを3重量%、テレフタリリデンジカンファースルホン酸を2重量%、オクトクリレンを5重量%配合するものである。
そうすると、両者の皮膚の褐変化の予防における差は、脱色素剤とともに、比較例ではUVBフィルター1種のみを配合しているのに対し、実施例では、UVBフィルター(オクトクリレン)に加えて、UVAフィルター(ブチルメトキシジベンゾイルメタン及びテレフタリリデンジカンファースルホン酸)と、広帯域フィルター(ドロメトリゾールトリシロキサン)という、広範な紫外線領域を防御する複数のUVフィルターを組み合わせて配合するものであるから、これによって、比較例に比べて皮膚の褐変化の予防の程度が向上することは、当業者が予測するところであって、格別な効果ということはできない。

(4)まとめ
よって、本願発明は、引用例の記載に基づき当業者が容易になし得たものである。

第5 むすび
以上のとおり、本願発明は、引用例に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
したがって、その他の請求項に係る発明についての判断を示すまでもなく、本願は拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2017-06-30 
結審通知日 2017-07-03 
審決日 2017-07-18 
出願番号 特願2011-541256(P2011-541256)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (A61K)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 松本 直子  
特許庁審判長 大熊 幸治
特許庁審判官 関 美祝
安川 聡
発明の名称 UV照射によって誘発される皮膚の褐変化を制御するための化粧方法、組成物  
代理人 村山 靖彦  
代理人 実広 信哉  
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