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審決分類 審判 全部申し立て 2項進歩性  C04B
審判 全部申し立て ただし書き3号明りょうでない記載の釈明  C04B
審判 全部申し立て ただし書き1号特許請求の範囲の減縮  C04B
管理番号 1335115
異議申立番号 異議2016-700971  
総通号数 217 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2018-01-26 
種別 異議の決定 
異議申立日 2016-10-06 
確定日 2017-10-02 
異議申立件数
訂正明細書 有 
事件の表示 特許第5907439号発明「セメントクリンカ及びセメント組成物」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第5907439号の特許請求の範囲を、平成29年3月21日付け訂正請求書に添付された特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1?7〕について訂正することを認める。 特許第5907439号の請求項1?7に係る特許を取り消す。 
理由 第1 手続の経緯
特許第5907439号の請求項1?7に係る特許についての出願は、平成26年11月13日の出願で、平成28年4月1日にその特許権の設定登録がされたものであって、登録後の経緯は以下のとおりである。

平成28年10月 6日付け:特許異議申立人 中嶋 美奈子(特許異議申立人1)による特許異議の申立て
同年10月26日付け:特許異議申立人 関 和郎(特許異議申立人2)による特許異議の申立て
平成29年 1月12日付け:取消理由の通知
同年 3月21日付け:訂正の請求、意見書の提出
同年 5月 9日付け:特許異議申立人1、2による意見書の提出
同年 5月22日付け:取消理由の通知

なお、平成29年5月22日付けの取消理由において、期間を指定して意見書を提出する機会を与えたが、特許権者からの応答はなかった。

第2 平成29年3月21日付け訂正請求
1.訂正の内容
平成29年3月21日付け訂正請求(以下、「本件訂正請求」という。)による訂正の内容は以下の(1)?(4)のとおりである。

(1)訂正事項1
特許請求の範囲の請求項1における、「Al_(2)O_(3)を6.0質量%以上8.0質量%以下」を、「Al_(2)O_(3)を6.5質量%以上8.0質量%以下」に、「P_(2)O_(5)を0.2質量%以上0.5質量%以下」を、「P_(2)O_(5)を0.3質量%以上0.5質量%以下」にそれぞれ訂正する。

(2)訂正事項2
特許請求の範囲の請求項3に、
「原料原単位は、石灰石が1000kg/トン以上1200kg/トン以下、廃棄物が200kg/トン以上500kg/トン以下である請求項1又は2に記載のセメントクリンカ。」と記載されているのを、
「請求項1又は2に記載のセメントクリンカの製造方法であって、
前記セメントクリンカの原料原単位は、石灰石が1000kg/トン以上1200kg/トン以下、廃棄物が200kg/トン以上500kg/トン以下であるセメントクリンカの製造方法。」に訂正する。

(3)訂正事項3
特許請求の範囲の請求項4に、
「前記廃棄物は、石炭灰、建設発生土、鉱滓、焼却灰及び汚泥からなる群より選ばれる少なくとも1種以上である請求項3に記載のセメントクリンカ。」と記載されているのを、
「前記廃棄物は、石炭灰、建設発生土、鉱滓、焼却灰及び汚泥からなる群より選ばれる少なくとも1種以上である請求項3に記載のセメントクリンカの製造方法。」に訂正する。

(4)訂正事項4
特許請求の範囲の請求項5に、
「請求項1乃至4のいずれか一項に記載のセメントクリンカと石膏とを含むセメント組成物。」と記載されているのを、
「請求項1又は2に記載のセメントクリンカと石膏とを含むセメント組成物。」に訂正する。

2.訂正の目的の適否、新規事項の有無、特許請求の範囲の拡張・変更の存否、及び一群の請求項
(1)訂正事項1について
訂正事項1は、訂正前の請求項1の発明特定事項である、セメントクリンカのAl_(2)O_(3)の含有量及びP_(2)O_(5)の含有量の数値範囲を更に限定するものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書き第1号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
そして、上記訂正後のAl_(2)O_(3)の含有量は、明細書【0025】に、また、訂正後のP_(2)O_(5)の含有量は、同【0029】にそれぞれ記載されていた事項であるから、訂正事項1は、新たな技術的事項を導入するものではなく、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。
したがって、訂正事項1は、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第5項、第6項に適合するものである。

(2)訂正事項2について
ア 訂正の目的について
訂正前の請求項3に係る発明は、「原料原単位は、石灰石が1000kg/トン以上1200kg/トン以下、廃棄物が200kg/トン以上500kg/トン以下である請求項1又は2に記載のセメントクリンカ。」である。
そして、訂正前の請求項1に係る発明の「セメントクリンカ」は、「Al_(2)O_(3)を6.0質量%以上8.0質量%以下、SO_(3)を0.7質量%以上2.2質量%以下、TiO_(2)を0.1質量%以上0.8質量%以下、P_(2)O_(5)を0.2質量%以上0.5質量%以下、Srを0.01質量%以上0.5質量%以下含み、C_(3)Sを40質量%以上70質量%以下、C_(2)Sを5質量%以上35質量%以下、C_(3)Aを11質量%以上16質量%以下、C_(4)AFを7質量%以上11質量%以下含むセメントクリンカであって、
前記Al_(2)O_(3)の含有量(質量%)と、前記SO_(3)の含有量(質量%)と、前記TiO_(2)の含有量(質量%)と、P_(2)O_(5)の含有量(質量%)とが下記式1を満たす関係であるセメントクリンカ。
Al_(2)O_(3)の含有量≦αSO_(3)の含有量+γTiO_(2)の含有量+εP_(2)O_(5)+η・・・(1)
(但し、α=1.4、γ=-2.8、ε=3.5、η=5.3)」であって、セメントクリンカを化学成分及び鉱物組成で特定しようとするものである。
また、訂正前の請求項2に記載の「セメントクリンカ」も、「前記SO_(3)の含有量(質量%)と、前記P_(2)O_(5)の含有量(質量%)とが下記式2を満たす関係である請求項1に記載のセメントクリンカ。
SO_(3)≦βP_(2)O_(5)+δ・・・(2)
(但し、β=4.4、δ=0.3)」であるから、同じくセメントクリンカを化学成分及び鉱物組成で特定しようとするものである。

よって、訂正前の請求項3に係る発明は、原料原単位を特定することにより、セメントクリンカの化学成分ないし鉱物組成を更に限定しようとするものと認められるが、請求項1又は2に係るセメントクリンカの化学成分ないし鉱物組成がどのように限定されるのか明確でない。
してみれば、訂正前の請求項3に係る発明における原料原単位の特定は、製造に関して技術的な特徴や条件を付し、それにより物を限定するものであるということができ、訂正前の請求項3は、実質的にその物の製造方法が記載されたものといえる。
したがって、訂正前の請求項3に係る発明は、「発明が明確であること」という要件を欠くおそれがあるものである。

ここで、訂正事項2は、上記「発明が明確であること」という要件を欠くおそれがある訂正前の請求項3に係る発明を、「請求項1又は2に記載のセメントクリンカの製造方法」としたうえで、「セメントクリンカの原料原単位は、石灰石が1000kg/トン以上1200kg/トン以下、廃棄物が200kg/トン以上500kg/トン以下である」ことを特定事項とする、訂正後の請求項3に係る発明に訂正しようとするものであって、かかる発明は、「発明が明確であること」という要件を満たすものである。
したがって、訂正事項2は、特許法第120条の5第2項ただし書き第3号に規定する明瞭でない記載の釈明を目的とするものである。

イ 新規事項の有無について
明細書【0048】には、「セメントクリンカ1トンを製造する原料全体における各原料の量(原料原単位)は、石灰石が1000kg/トン以上1200kg/トン以下・・・廃棄物が200kg/トン以上500kg/トン以下・・・であることが挙げられる」ことが記載されていた。
したがって、訂正事項2は、新たな技術的事項を導入するものではなく、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第5項に適合するものである。

ウ 特許請求の範囲の拡張・変更の存否について
明細書【0007】の記載から、訂正前の請求項3に係る発明が解決しようとする課題は、「セメントクリンカ中のAl_(2)O_(3)が比較的多い場合にも、該セメントクリンカを含むセメント組成物の流動性及び強度の低下を十分に抑制すること」であり、訂正後の請求項3に係る発明においても前記課題が変更されるものではない。
また、訂正事項2により、上記課題の解決手段が変更されるものでもない。
そして、訂正後の請求項3に係る発明の「実施」に該当する行為は、訂正前の請求項3に係る発明の「実施」に該当する行為に全て含まれるので、第三者にとって不測の不利益が生じるおそれもない。
したがって、訂正事項2は、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではなく、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第6項に適合するものである。

(3)訂正事項3について
ア 訂正の目的について
訂正前の請求項4は、「前記廃棄物は、石炭灰、建設発生土、鉱滓、焼却灰及び汚泥からなる群より選ばれる少なくとも1種以上である請求項3に記載のセメントクリンカ。」である。
よって、訂正前の請求項4に係る発明は、廃棄物を特定することにより、請求項3に記載のセメントクリンカの化学成分ないし鉱物組成を更に限定しようとするものと認められるが、請求項3が引用する請求項1又は2に係るセメントクリンカの化学成分ないし鉱物組成がどのように限定されるのか明確でない。
してみれば、訂正前の請求項4に係る発明における廃棄物の特定は、訂正前の請求項3と同様に、製造に関して技術的な特徴や条件を付し、それにより物を限定するものであるということができ、訂正前の請求項4は、実質的にその物の製造方法が記載されたものといえる。
したがって、訂正前の請求項4に係る発明は、「発明が明確であること」という要件を欠くおそれがあるものである。

ここで、訂正事項3は、上記「発明が明確であること」という要件を欠くおそれがある訂正前の請求項4に係る発明を、「請求項3に記載のセメントクリンカの製造方法」としたうえで、「前記廃棄物は、石炭灰、建設発生土、鉱滓、焼却灰及び汚泥からなる群より選ばれる少なくとも1種以上である」ことを特定事項とする、訂正後の請求項4に係る発明に訂正しようとするものであって、かかる発明は、「発明が明確であること」という要件を満たすものである。
したがって、訂正事項3は、特許法第120条の5第2項ただし書き第3号に規定する明瞭でない記載の釈明を目的とするものである。

イ 新規事項の有無について
明細書【0046】には、「粘土代替原料として使用されうる廃棄物としては、石炭灰、建設発生土、鉱滓、下水汚泥焼却灰等の焼却灰、下水汚泥等の汚泥等が挙げられる」ことが記載されていた。
したがって、訂正事項3は、新たな技術的事項を導入するものではなく、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第5項に適合するものである。

ウ 特許請求の範囲の拡張・変更の存否について
明細書【0007】の記載から、訂正前の請求項4に係る発明が解決しようとする課題は、訂正前の請求項3と同様に、「セメントクリンカ中のAl_(2)O_(3)が比較的多い場合にも、該セメントクリンカを含むセメント組成物の流動性及び強度の低下を十分に抑制すること」であり、訂正後の請求項4に係る発明においても前記課題が変更されるものではない。
また、訂正事項3により、上記課題の解決手段が変更されるものでもない。
そして、訂正後の請求項4に係る発明の「実施」に該当する行為は、訂正前の請求項4に係る発明の「実施」に該当する行為に全て含まれるので、第三者にとって不測の不利益が生じるおそれもない。
したがって、訂正事項3は、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではなく、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第6項に適合するものである。

(4)訂正事項4について
訂正事項4は、「請求項1乃至4のいずれか一項」を引用していた訂正前の請求項5の引用請求項数を減少させ、「請求項1又は2」とするものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書き第1号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とするものであり、また、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第5項、第6項に適合するものである。

(5)一群の請求項について
訂正事項1に係る訂正前の請求項1を、訂正前の請求項2?7は直接又は間接的に引用していたから、訂正前の請求項1?7は、特許法120条の5第4項に規定する一群の請求項であり、訂正事項1?4に係る訂正は、当該一群の請求項ごとに請求をしたものと認められる。

3.訂正の適否についてのむすび
以上のとおり、本件訂正請求による訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書き第1号及び第3号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同条第4項、及び同条第9項において準用する同法第126条第5項、第6項の規定に適合するので、訂正後の請求項〔1?7〕について訂正を認める。

第3 取消理由
1.本件特許発明
上記のとおり訂正が認められるので、本件訂正請求により訂正された訂正請求項1?7に係る発明(以下「本件特許発明1?7」という。)は、訂正特許請求の範囲の請求項1?7に記載された次の事項により特定されるとおりのものと認める。(下線部は訂正箇所である。)

【請求項1】
Al_(2)O_(3)を6.5質量%以上8.0質量%以下、SO_(3)を0.7質量%以上2.2質量%以下、TiO_(2)を0.1質量%以上0.8質量%以下、P_(2)O_(5)を0.3質量%以上0.5質量%以下、Srを0.01質量%以上0.5質量%以下含み、C_(3)Sを40質量%以上70質量%以下、C_(2)Sを5質量%以上35質量%以下、C_(3)Aを11質量%以上16質量%以下、C_(4)AFを7質量%以上11質量%以下含むセメントクリンカであって、
前記Al_(2)O_(3)の含有量(質量%)と、前記SO_(3)の含有量(質量%)と、前記TiO_(2)の含有量(質量%)と、P_(2)O_(5)の含有量(質量%)とが下記式1を満たす関係であるセメントクリンカ。
Al_(2)O_(3)の含有量≦αSO_(3)の含有量+γTiO_(2)の含有量+εP_(2)O_(5)+η・・・(1)
(但し、α=1.4、γ=-2.8、ε=3.5、η=5.3)
【請求項2】
前記SO_(3)の含有量(質量%)と、前記P_(2)O_(5)の含有量(質量%)とが下記式2を満たす関係である請求項1に記載のセメントクリンカ。
SO_(3)≦βP_(2)O_(5)+δ・・・(2)
(但し、β=4.4、δ=0.3)
【請求項3】
請求項1又は2に記載のセメントクリンカの製造方法であって、
前記セメントクリンカの原料原単位は、石灰石が1000kg/トン以上1200kg/トン以下、廃棄物が200kg/トン以上500kg/トン以下であるセメントクリンカの製造方法。
【請求項4】
前記廃棄物は、石炭灰、建設発生土、鉱滓、焼却灰及び汚泥からなる群より選ばれる少なくとも1種以上である請求項3に記載のセメントクリンカの製造方法。
【請求項5】
請求項1又は2に記載のセメントクリンカと石膏とを含むセメント組成物。
【請求項6】
さらに、混合材を含む請求項5に記載のセメント組成物。
【請求項7】
前記混合材は、高炉スラグ、シリカ質混合材、フライアッシュ及び石灰石微粉末からなる群より選ばれる少なくとも1種以上である請求項6に記載のセメント組成物。

2.当審が平成29年5月22日付けで通知した取消理由
本件特許発明1?7に対し、当審が平成29年5月22日付けで通知した取消理由は、以下のとおりである。

本件特許の請求項1?7に係る発明は、本件特許の出願前日本国内または外国において頒布された下記の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであって、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないから、その発明に係る特許は取り消すべきものである。

引用例1:中西陽一郎ほか3名、高SO_(3)高C_(3)Aクリンカーから作製したセメントの基礎的物性、セメント・コンクリート論文集、社団法人セメント協会、2008年2月20日、第61号、第79?85ページ
(特許異議申立人2から提出された特許異議申立書(以下、「特許異議申立書2」という。)の甲第1号証)
引用例2:セメント化学専門委員会報告 C-7 蛍光X線分析によるセメント中の微量成分分析の検討、社団法人セメント協会、2004年1月30日、第1?4ページ
(特許異議申立人1から提出された特許異議申立書(以下、「特許異議申立書1」という。)の甲第5号証)
引用例3:平井昭司ほか2名、含有元素による各種セメントの特質、セメント・コンクリート論文集、社団法人セメント協会、1991年12月、第45号、第80?85ページ
(特許異議申立書1の甲第6号証)
引用例4:特開2012-12285号公報
(特許異議申立書1の甲第4号証、特許異議申立書2の甲第2号証)
引用例5:『セメントの常識』、社団法人セメント協会、2009年12月、第1?4、19?20、61?62ページ
(特許異議申立書1の甲第7号証)
引用例6:下坂建一、クリンカーへの添加成分とセメントの諸物性に関する研究、埼玉大学博士論文、2005年9月、論文要旨、第27?29ページ
(特許異議申立書1の甲第8号証)
引用例7:特開2007-91506号公報
(特許異議申立人1から提出された意見書の甲第9号証、特許異議申立人2から提出された意見書の甲第3号証)

(1)引用例1の記載事項
引用例1には、下記の事項が記載されている。

a「1.序論
セメント工場は、産業廃棄物・副産物を原燃料代替物として有用活用している。一般に、原料代替物として使用される産業廃棄物・副産物はAl_(2)O_(3)成分に富む場合が多く、これらの使用量を増やすとクリンカーのC_(3)A量が増加する。」(第79ページ左欄第1?6行)

b「2.2 クリンカーの作製
クリンカーの作製には、原料ミル精粉(三菱マテリアル社)および市販の純薬(炭酸カルシウム、酸化けい素、酸化アルミニウム、酸化第二鉄、II型無水せっこう)を用いた。・・・そこで本研究では、クリンカーベースでの原料ミル精粉の使用量を一定とした。
十分に混合した原料調合物を成形・乾燥後、1000℃で60min仮焼成、1450℃で60min本焼成し、空冷してクリンカーを得た。Table 2およびTable 3に作製したクリンカーの化学成分、モジュラスおよびBogue式による鉱物組成を示す。」(第80ページ左欄第7?21行)

c「

」(第80ページ)

d「2.3 セメントの作製
呼び寸法3.4mmのふるいを全通するまで粗砕したクリンカーをボールミル(・・・)に投入し、60mmφのボール30kgで1000回転し粗粉砕した。60mmφのボールを取り除いた後、せっこう(二水せっこうと半水せっこうを3対7の質量比で混合したもの;半水化率70%)を所定量投入し、25mmφのボール30kgを用いてブレーン比表面積が3200±50cm^(2)/gとなるまで微粉砕して、セメントを得た。」(第80ページ左欄第26?34行)

e「3.3 強さ
・・・
クリンカー中のSO_(3)量およびC_(3)A量の増加とともに、強さは材齢3dおよび材齢7dで増加し、材齢28dでは減少した。」(第82ページ左欄第2?6行)

(2)引用例4の記載事項
引用例4には、下記の事項が記載されている。

f「【請求項1】
Sr含有量が0.065?1.0質量%、且つMgO含有量が1.0質量%を超え3.0質量%以下であることを特徴とするセメント組成物。」

g「【0009】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであり、石炭灰や建設発生土等の廃棄物を比較的多く使用し、セメントクリンカー中のAl、C_(3)A含有量が増加した場合であっても、セメントペーストやモルタル、コンクリートの流動性を向上することができるセメント組成物、及びセメント組成物の製造方法を提供することを目的とする。」

h「【0013】
本発明によれば、セメント組成物のSr含有量、MgO含有量を適正範囲となるようにすることにより、凝結水量やコンクリートの単位水量が低減され、セメントペースト、モルタル及びコンクリートの流動性を向上することができる。」

i「【0019】
セメント組成物のSr含有量は、0.065?1.0質量%であり、好ましくは0.067?0.5質量%、より好ましくは0.068?0.3質量%であり、更に好ましくは0.070?0.20質量%であり、特に好ましくは0.070?0.15質量%である。」

(3)引用例7の記載事項
引用例7には、下記の事項が記載されている。

j「【請求項2】
(1)式により求められたアルミン酸三カルシウムが10?14質量%、リンがP_(2)O_(5)換算で0.2?2.0質量%それぞれ含有された高アルミネートセメントクリンカ。
[アルミン酸三カルシウム含有量]=
2.65×[Al_(2)O_(3)含有量]-1.69×[Fe_(2)O_(3)含有量] (1)
ここで、
(1)式中の[Al_(2)O_(3)含有量]は、セメントクリンカ中のAl_(2)O_(3)換算のアルミニウム含有量(単位:質量%)、
(1)式中の[Fe_(2)O_(3)含有量]は、セメントクリンカ中のFe_(2)O_(3)換算の鉄含有量(単位:質量%)である。」

k「【0002】
セメントの製造工程では、かねてより廃棄物問題の解決を目指して、セメント原料に都市ごみ焼却灰や下水汚泥を投入したり、セメントクリンカの焼成用の燃料の一部として廃タイヤなどを利用することが行われてきた。近年、資源循環型社会を構築するという国家的プロジェクトの実現の気運が高まっており、産業廃棄物・副産物の使用量のさらなる増加が望まれている。セメント原料として使用可能な廃棄物の大半は、アルミニウムの含有量が多い。そのため、廃棄物は粘土原料の代替物として利用されている。したがって、廃棄物原料の使用量を増加させるほど、セメントクリンカの化学組成はアルミニウムに富んだものとなる。
【0003】
こうしてセメントクリンカが高アルミネート化すると、セメントクリンカの化合物組成も変化して行く。すなわち、アルミン酸三カルシウム(3CaO・Al_(2)O_(3))およびカルシウムアルミノフェライト(4CaO・Al_(2)O_(3)・Fe_(2)O_(3))の含有量が増加する。アルミン酸三カルシウムは水和活性が著しく高い。そのため、得られたセメントに水などを加えて練り混ぜてコンクリートとしたとき、その流動性が低下する。」

l「【表1】



m「【0036】
比較例1に対して実施例1?4、比較例2に対して実施例4?8、および、比較例3に対して実施例9?11ではP_(2)O_(5)の増加によって流動性が改善されるとともに、強さも同程度以上となった。」

(4)引用発明
上記摘示箇所bから、引用例1には、Table 2に記載の化学成分及びTable 3に記載の鉱物組成を有するクリンカーが記載されている。
そして、摘示箇所cの「1.2-14」に注目して整理すると、引用例1には、「Al_(2)O_(3)を7.11%、SO_(3)を1.20%、TiO_(2)を0.31%、P_(2)O_(5)を0.23%含み、C_(3)Sを57.3%、C_(2)Sを15.5%、C_(3)Aを13.8%、C_(4)AFを9.1%含むクリンカー」の発明(以下、「引用発明1」という。)が記載されている。
また、摘示箇所aから、引用例1には、産業廃棄物・副産物を原燃料代替物とする、引用発明1のクリンカーの製造方法の発明(以下、「引用発明2」という。)が記載されているといえる。
更に、摘示箇所dから、引用例1には、引用発明1のクリンカーとせっこうとを混合し、微粉砕したセメントが記載されている。
したがって、引用例1には、「引用発明1とせっこうとを混合し、微粉砕したセメント」の発明(以下、「引用発明3」という。)が記載されているといえる。

(5)対比・判断
ア 本件特許発明1について
本件特許発明1と引用発明1とを対比すると、下記の点で相違する。

相違点1:本件特許発明1は、Srを0.01質量%以上0.5質量%以下含むのに対し、引用発明1はSrの含有量が不明である。
相違点2:本件特許発明1は、P_(2)O_(5)を0.3質量%以上0.5質量%以下含むのに対し、引用発明1のP_(2)O_(5)含有量は0.23%である。
相違点3:本件特許発明1は、Al_(2)O_(3)、SO_(3)、TiO_(2)、及びP_(2)O_(5)の含有量の関係が、下記式(1)を満たすのに対し、引用発明1は下記式(1)を満たさない。
Al_(2)O_(3)の含有量≦αSO_(3)の含有量+γTiO_(2)の含有量+εP_(2)O_(5)+η・・・(1)
(但し、α=1.4、γ=-2.8、ε=3.5、η=5.3)

まず、相違点1について、引用例2の第2ページ表2.2や、引用例3の第84ページTable 4に記載のとおり、一般的なセメントが数百ppm程度のSrを含有することは当業者の技術常識である。
また、セメントは、セメントクリンカに少量のせっこうを混合し、粉砕して製造されるものであり、その化学成分は、大部分がセメントクリンカ由来のものであることも当業者の技術常識である。
してみれば、一般的なセメントクリンカが数百ppm程度のSrを含有することも、当業者の技術常識である。
よって、相違点1は、実質的な相違点ではない。

また、相違点1が実質的な相違点であるとしても、引用例4には、廃棄物を比較的多く使用し、セメントクリンカー中のAl、C_(3)A含有量が増加したセメントの流動性を向上させるため、Sr含有量を0.065?0.5質量%とすることが記載されている。(摘示箇所f?i)
してみれば、産業廃棄物・副産物を用い、C_(3)A量が増加したセメントクリンカである引用発明(摘示箇所a)から製造されるセメントの流動性を向上させる観点から、上記引用例4の記載に基づいて、引用発明1におけるSr含有量を所定の範囲とすることは、当業者が容易に想到し得ることである。
そして、その範囲を0.01質量%以上0.5質量%以下とすることは、当業者が適宜なし得る設計事項にすぎない。

次に、相違点2について、摘示箇所j?mから、引用例7には、廃棄物原料の使用量が増加し、アルミン酸三カルシウムの含有量が10?14質量%となった高アルミネートセメントクリンカに、P_(2)O_(5)換算で0.2?2.0質量%となるようにリンを添加することにより、流動性が改善されるとともに、強さも同程度以上となることが記載されている。
また、摘示箇所lから、P_(2)O_(5)換算でのリンの含有量が0.5質量%のとき、材齢28日圧縮強さが極大値を示すことが理解できる。
してみれば、原料代替物として産業廃棄物・副産物を用いたセメントクリンカであり、C_(3)A量の増加により材齢28dの強度が減少している引用発明において(摘示箇所a、e)、該セメントクリンカから製造されるセメントの流動性及び強度を向上させる観点から、上記引用例7の記載に基づいて、リンの含有量を0.5質量%とすることは、当業者が容易に想到し得ることである。
そしてその結果、式(1)の右辺は7.86(≒1.4×1.20-2.8×0.31+3.5×0.5+5.3)になるから、相違点3も同時に解消するものである。

上記のとおりであるから、本件特許発明1は、引用例1に記載された発明と、引用例4、7に記載された技術事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであり、訂正後の請求項1に係る本件特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してなされたものである。

イ 本件特許発明2について
上記「ア」に記載のとおり、引用発明から、リンの含有量を0.5質量%に変更したものは、式(2)の関係も満たす。

したがって、本件特許発明2も、引用例1に記載された発明と、引用例4、7に記載された技術事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであり、訂正後の請求項2に係る本件特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してなされたものである。

ウ 本件特許発明3、4について
本件特許発明3、4と引用発明2とを対比すると、「請求項1又は2に記載のセメントクリンカ」と、「引用発明1のクリンカー」について、上記「ア」で指摘した相違点1?3を有するのに加え、下記の点で相違する。

相違点4:本件特許発明3、4は、セメントクリンカの原料原単位について、石灰石を1000kg/トン以上1200kg/トン以下、廃棄物を200kg/トン以上500kg/トン以下とするのに対し、引用発明2はクリンカーの原料原単位が不明である。
相違点5:本件特許発明4は、廃棄物が、石炭灰、建設発生土、鉱滓、焼却灰及び汚泥からなる群より選ばれる少なくとも1種以上であるのに対し、引用発明2は、産業廃棄物・副産物を原燃料代替物とするものであるが、その種類が不明である。

上記相違点について検討するに、相違点1?3については、上記「ア」で検討したとおりである。
そして、相違点4、5について、例えば引用例5の第3ページ表1-4や、第62ページ表3-8に記載のとおり、セメントの原料原単位として、石灰石を1000kg/トン以上1200kg/トン以下で用いることや、石炭灰、建設発生土、鉱滓(スラグ)、焼却灰(燃えがら、ばいじん、ダスト)、汚泥といった廃棄物を200kg/トン以上500kg/トン以下で用いることは、本件特許の出願時において既に当業者により慣用される技術事項である。
してみれば、相違点4、5は実質的な相違点ではないか、少なくとも当業者であれば適宜設定し得る設計事項にすぎない。

したがって、本件特許発明3、4は、引用例1に記載された発明と、引用例4、7に記載された技術事項及び当業者の技術常識に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであり、訂正後の請求項3、4に係る本件特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してなされたものである。

エ 本件特許発明5について
本件特許発明5と引用発明3とを対比すると、「請求項1又は2に記載のセメントクリンカ」と、「引用発明3のクリンカー」について、上記「ア」で指摘した相違点1?3を有するが、上記「ア」で検討したのとおりの理由により、該相違点1?3は実質的な相違点ではないか、引用例4、7に記載された技術事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである。

したがって、本件特許発明5は、引用例1に記載された発明と、引用例4、7に記載された技術事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであり、訂正後の請求項5に係る本件特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してなされたものである。

オ 本件特許発明6、7について
本件特許発明6、7は、更に(特定の)混合材を含むことを特定事項とするものである。
この点について、引用例5の第62ページ表3-8や、引用例6の第28ページ第1?3行には、高炉スラグや石炭灰を混合材として用い得ることが記載されている。
また、高炉スラグ、シリカ質混和材及びフライアッシュは、JISにも混合セメントとして規定される混合材である。
更に、石灰石微粉末を混合材として用い得ることも、当業者の技術常識である。

したがって、本件特許発明6、7は、引用例1に記載された発明と、引用例4、7に記載された技術事項及び当業者の技術常識に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであり、訂正後の請求項6、7に係る本件特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してなされたものである。

第4 むすび
当審は、平成29年5月22日付けで上記取消理由を通知し、期間を指定して意見書を提出する機会を与えたが、特許権者からは応答がなかった。
そして、上記取消理由は妥当なものと認められる。
したがって、本件特許発明1?7に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してなされたものであり、その特許は、特許法第113条第2項に該当するから、取り消されるべきものである。
よって、結論のとおり決定する。
 
発明の名称 (57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
Al_(2)O_(3)を6.5質量%以上8.0質量%以下、SO_(3)を0.7質量%以上2.2質量%以下、TiO_(2)を0.1質量%以上0.8質量%以下、P_(2)O_(5)を0.3質量%以上0.5質量%以下、Srを0.01質量%以上0.5質量%以下含み、C_(3)Sを40質量%以上70質量%以下、C_(2)Sを5質量%以上35質量%以下、C_(3)Aを11質量%以上16質量%以下、C_(4)AFを7質量%以上11質量%以下含むセメントクリンカであって、
前記Al_(2)O_(3)の含有量(質量%)と、前記SO_(3)の含有量(質量%)と、前記TiO_(2)の含有量(質量%)と、P_(2)O_(5)の含有量(質量%)とが下記式1を満たす関係であるセメントクリンカ。
Al_(2)O_(3)の含有量≦αSO_(3)の含有量+γTiO_(2)の含有量+εP_(2)O_(5)+η・・・(1)
(但し、α=1.4、γ=-2.8、ε=3.5、η=5.3)
【請求項2】
前記SO_(3)の含有量(質量%)と、前記P_(2)O_(5)の含有量(質量%)とが下記式2を満たす関係である請求項1に記載のセメントクリンカ。
SO_(3)≦βP_(2)O_(5)+δ・・・(2)
(但し、β=4.4、δ=0.3)
【請求項3】
請求項1又は2に記載のセメントクリンカの製造方法であって、
前記セメントクリンカの原料原単位は、石灰石が1000kg/トン以上1200kg/トン以下、廃棄物が200kg/トン以上500kg/トン以下であるセメントクリンカの製造方法。
【請求項4】
前記廃棄物は、石炭灰、建設発生土、鉱滓、焼却灰及び汚泥からなる群より選ばれる少なくとも1種以上である請求項3に記載のセメントクリンカの製造方法。
【請求項5】
請求項1又は2に記載のセメントクリンカと石膏とを含むセメント組成物。
【請求項6】
さらに、混合材を含む請求項5に記載のセメント組成物。
【請求項7】
前記混合材は、高炉スラグ、シリカ質混合材、フライアッシュ及び石灰石微粉末からなる群より選ばれる少なくとも1種以上である請求項6に記載のセメント組成物。
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
異議決定日 2017-08-21 
出願番号 特願2014-230660(P2014-230660)
審決分類 P 1 651・ 851- ZAA (C04B)
P 1 651・ 121- ZAA (C04B)
P 1 651・ 853- ZAA (C04B)
最終処分 取消  
前審関与審査官 立木 林阪野 誠司佐溝 茂良  
特許庁審判長 新居田 知生
特許庁審判官 永田 史泰
宮澤 尚之
登録日 2016-04-01 
登録番号 特許第5907439号(P5907439)
権利者 住友大阪セメント株式会社
発明の名称 セメントクリンカ及びセメント組成物  
代理人 中谷 寛昭  
代理人 藤本 昇  
代理人 藤本 昇  
代理人 日東 伸二  
代理人 山本 裕  
代理人 山本 裕  
代理人 日東 伸二  
代理人 中谷 寛昭  

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