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審決分類 審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  C08J
審判 全部申し立て 2項進歩性  C08J
審判 全部申し立て 1項3号刊行物記載  C08J
管理番号 1335123
異議申立番号 異議2017-700024  
総通号数 217 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2018-01-26 
種別 異議の決定 
異議申立日 2017-01-13 
確定日 2017-10-26 
異議申立件数
訂正明細書 有 
事件の表示 特許第5950149号発明「繊維強化樹脂製構造体の製造方法。」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第5950149号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項[1-6]について訂正することを認める。 特許第5950149号の請求項1ないし6に係る特許を維持する。 
理由 第1 主な手続の経緯等

特許第5950149号(設定登録時の請求項の数は6。以下、「本件特許」という。)は、平成23年9月29日に出願された特許出願に係るものであって、平成28年6月17日に設定登録された。
特許異議申立人 特許業務法人虎ノ門知的財産事務所(以下、単に「異議申立人」という。)は、平成29年1月13日、本件特許の請求項1ないし6に係る発明についての特許に対して特許異議の申立てをした。
当審において、平成29年3月2日付けで取消理由を通知したところ、特許権者から、同年5月25日付け(受理日:同月26日)で意見書が提出されたので、当審において、同年6月7日付けで取消理由<決定の予告>を通知したところ、特許権者から、同年8月4日付け(受理日:同月7日)で、訂正請求書(以下、当該訂正請求書による訂正請求を「本件訂正請求」という。)及び意見書が提出されたので、同年8月15日付けで異議申立人に対して特許法第120条の5第5項に基づく通知をしたところ、異議申立人から、同年9月15日付けで意見書が提出されたものである。

第2 訂正の適否についての判断

1 訂正の内容
本件訂正請求による訂正の内容は以下の訂正事項1である。なお、下線については訂正箇所に当審が付したものである。

訂正事項1
訂正前の特許請求の範囲の請求項1に、

「凸条を形成するSMC(B)を凸条を形成する部位に配置して、複合材料を一体成形する複合材料の製造方法において、」

と記載されているのを

「凸条を形成するSMC(B)を凸条を形成する部位に積層して、複合材料を予め圧縮成形時の温度まで加熱しておいた圧縮成形金型を用いて一体成形する複合材料の製造方法において、」

に訂正する。
請求項1を引用する請求項2ないし6についても同様の訂正を行う。

2 訂正の目的の適否、新規事項の有無、特許請求の範囲の拡張・変更の存否及び一群の請求項
(1) 訂正事項1は、訂正前の請求項1における、「凸条を形成するSMC(B)を凸条を形成する部位に配置して、複合材料を一体成形する複合材料の製造方法」とあるのを、「凸条を形成するSMC(B)を凸条を形成する部位に積層して、複合材料を予め圧縮成形時の温度まで加熱しておいた圧縮成形金型を用いて一体成形する複合材料の製造方法」に訂正することで製造方法をさらに限定するものであるから、当該訂正事項1は、特許請求の範囲を減縮することを目的とするものであるといえる。

(2) そして、当該訂正事項1は、願書に最初に添付した明細書の段落【0020】の記載から、新規事項の追加に該当せず、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。

よって、訂正事項1は、特許法第120条の5第2項ただし書き第1号を目的とし、同法第120条の5第9項で準用する同法第126条第5項及び第6項に適合するものである。

(3) 訂正事項1は、訂正前の独立請求項である請求項1を訂正するものであり、訂正前の請求項2ないし6は、訂正前の請求項1を直接又は間接的に引用するものである。そうすると、訂正事項1は、訂正前の請求項1ないし6という一群の請求項ごとに請求されたものであるから、特許法第120条の5第4項に適合するものである。

3 むすび
以上のとおりであるから、本件訂正請求による訂正は特許法第120条の5第2項ただし書き第1号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同条第4項及び同条第9項において準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合するので、訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項[1?6]について訂正することを認める。

第3 本件発明

上記第2のとおり、本件訂正請求による訂正は認められるので、本件特許の請求項1ないし6に係る発明(以下、それぞれ「本件発明1」ないし「本件発明6」という。)は、平成29年8月4日付け訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲の請求項1ないし6に記載された事項により特定される以下に記載のとおりのものである。

「【請求項1】
強化繊維と熱硬化性樹脂組成物とを含むプリプレグ(A)の表面の一部に、強化繊維と熱硬化性樹脂組成物とを含む、凸条を形成するSMC(B)を凸条を形成する部位に積層して、複合材料を予め圧縮成形時の温度まで加熱しておいた圧縮成形金型を用いて一体成形する複合材料の製造方法において、
CTaを、前記プリプレグ(A)のキュアタイム、CTbを、前記SMC(B)のキュアタイムとしたとき、
次の式(1)を満たすプリプレグ(A)、SMC(B)を用いる複合材料の製造方法。
ただし、前記プリプレグ(A)に含まれる熱硬化性樹脂組成物と前記SMC(B)に含まれる熱硬化性樹脂組成物が同一である場合を除く。
0.8≦(CTb/CTa)≦1.3・・・・・・(1)
【請求項2】
前記プリプレグ(A)に含まれる熱硬化性樹脂組成物(a)がエポキシ樹脂を含む熱硬化性樹脂組成物である請求項1に記載の複合材料の製造方法。
【請求項3】
前記SMC(B)に含まれる熱硬化性樹脂組成物(b)がビニルエステル樹脂を含む熱硬化性樹脂組成物である請求項1または2に記載の複合材料の製造方法。
【請求項4】
前記プリプレグ(A)を構成する強化繊維が長繊維である請求項1から3のいずれかに記載の複合材料の製造方法。
【請求項5】
前記SMC(B)が強化繊維短繊維と熱硬化性樹脂組成物(b)からなるシートモールディングコンパウンドである請求項1から4のいずれかに記載の複合材料の製造方法。
【請求項6】
前記プリプレグ(A)の表面の一部に、前記SMC(B)を配置して、金型を閉じ、加熱加圧して圧縮成形する工程を含む、請求項1から5のいずれかに記載の複合材料の製造方法。」

第4 取消理由の概要

平成29年6月7日付けで通知した取消理由<決定の予告>は、概略、以下のとおりである。

「本件特許の請求項1?6に係る発明は、本件特許の優先日前に頒布された下記の刊行物に記載された発明であって、特許法第29条第1項第3号に該当し特許を受けることができないから、その発明に係る特許は取り消すべきものである。

刊行物: 特開2004-339778号公報(異議申立書の証拠方法である甲第1号証の従来技術として記載の文献。以下、単に「引用例」という。)」

第5 合議体の判断

当合議体は、以下に述べるように、上記取消理由には、理由がないと判断する。

1 引用例の記載事項
引用例には、以下の記載がある。

(1) 「【請求項1】
両面に設けられた表面材と、これら表面材に挟まれた繊維強化複合材料からなる複数の凹条または凸条を有する板状の芯材とを具備するドア。
【請求項2】
前記表面材が、繊維強化複合材料からなるものであることを特徴とする請求項1記載のドア。
【請求項3】
前記繊維強化複合材料が、熱硬化性樹脂のマトリックスを、一方向に揃えられた長繊維および/または長繊維の織物で補強したものであることを特徴とする請求項1または請求項2記載のドア。
【請求項4】
ドアの側縁近傍に、片側の表面材と一体成形され、かつ両面の表面材を連結する補強リブが設けられていることを特徴とする請求項2記載のドア。
【請求項5】
前記補強リブが、繊維強化複合材料からなるものであることを特徴とする請求項4記載のドア。
【請求項6】
長繊維に熱硬化性樹脂を含浸したプリプレグを圧縮成形して、複数の凹条または凸条を有する板状の芯材を製造し、該芯材の両面に、表面材を接着することを特徴とするドアの製造方法。」(特許請求の範囲)

(2) 「また、表面材21の片側側部には、この表面材21と芯材22を挟んで対向するもう一方の表面材21と連結する、ドア20の上下方向に延びる補強リブ26が一体に設けられている。
ドア20の両側部には、例えば図5に示すように、ドア20同士が当接する側部に設けられるクッション用のゴム27を取り付けるための係止部材28を設けたり、ドア20の開閉装置に接続する部品(図示略)を設けたりするための内部空間29が必要である。このような内部空間29をドア20に設けた場合、この内部空間29におけるドア20のつぶし剛性が不足する傾向がある。そのため、この内部空間29と芯材22とを仕切るように、ドア20の側縁近傍に、片側の表面材21と一体成形され、かつ両面の表面材21,21を連結する補強リブ26が設けられている。
補強リブ26の材質としては、表面材21が繊維強化複合材料からなるものである場合、同様に繊維強化複合材料が用いられる。補強リブ26は、具体的には、短繊維と熱硬化性樹脂からなるシートモールディングコンパウンド(SMC)を硬化させたものである。短繊維および熱硬化性樹脂としては、例えば、上述の補強繊維および熱硬化性樹脂を用いることができる。
・・・
次に、このドア20の製造方法の一例について説明する。
まず、長繊維に熱硬化性樹脂を含浸したプリプレグを、上型と下型とからなる、芯材用の金型の下型表面に配置する。
次いで、金型を閉じ、下型および上型によってプリプレグを加熱しながらプレスする。圧縮成形後、金型を開き、図4に示すような、ドア20の上下方向に延びる複数の凹条25が形成された芯材22を得る。
同様にして、上型と下型とからなり、下型に補強リブに対応する溝が形成された、表面材用の金型の下型の溝にSMCを充填し、さらに、下型表面に、長繊維に熱硬化性樹脂を含浸したプリプレグを配置する。
次いで、金型を閉じ、下型および上型によってSMCおよびプリプレグを加熱しながらプレスする。圧縮成形後、金型を開き、片側側部にドア20の上下方向に延びる補強リブ26が一体に形成された表面材21を得る。」(段落【0016】?【0020】)

(3) 「【実施例】
以下、実施例により本発明をさらに詳しく説明する。なお、本発明は実施例によって制限されるものではない。
本実施例においては、一方向プリプレグとして、三菱レイヨン(株)製、TR390E250S(熱硬化性樹脂:エポキシ樹脂、長繊維:炭素繊維)を用いた。また、ファブリックプリプレグとして、三菱レイヨン(株)製、TR3110G390(熱硬化性樹脂:エポキシ樹脂、長繊維:炭素繊維)を用いた。また、SMCとして、カンタム社製、AMC8590(熱硬化性樹脂:ビニルエステル樹脂、短繊維:炭素繊維)を用いた。
まず、ファブリックプリプレグを芯材用下型の表面に8層積層した。次いで、金型を閉じ、下型および上型によってプリプレグを140℃で加熱しながら80kg/cm^(2)の圧力で5分間プレスして、プリプレグを一体硬化させた。圧縮成形後、金型を開き、図4に示す形状を有する、厚さ1.6mmの芯材を得た。
これとは別に、SMCを、表面材用下型の、補強リブに対応する溝にSMCを充填した後、表面材用下型の表面に一方向プリプレグを、長繊維の配向がドアの上下方向を0゜として[0゜/0゜/90゜/0゜/0゜/0゜/90゜/0゜/0゜]となるように9層積層し、その上にファブリックプリプレグを1枚配置した。次いで、金型を閉じ、下型および上型によってSMCおよびプリプレグを140℃で加熱しながら80kg/cm^(2)の圧力で5分間プレスして、SMCおよびプリプレグを一体硬化させた。圧縮成形後、金型を開き、片側側部に補強リブを有する、厚さ2.5mmの表面材を得た。」(段落【0027】?【0029】)

3 引用例に記載された発明
引用例の具体的な実施例で利用されている材料を用いて、ドアを構成するリブ付きの表面材を製造する方法として、引用例には次の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されていると認める。

「下型に補強リブに対応する溝が形成された、表面材用の金型の下型の溝に、SMCとしてカンタム社製、AMC8590(熱硬化性樹脂:ビニルエステル樹脂、短繊維:炭素繊維)を充填し、さらに、下型表面に、一方向プリプレグである三菱レイヨン(株)製、TR390E250S(熱硬化性樹脂:エポキシ樹脂、長繊維:炭素繊維)を、長繊維の配向がドアの上下方向を0゜として[0゜/0゜/90゜/0゜/0゜/0゜/90゜/0゜/0゜]となるように9層積層し、その上にファブリックプリプレグである三菱レイヨン(株)製、TR3110G390(熱硬化性樹脂:エポキシ樹脂、長繊維:炭素繊維)を1枚配置し、次いで、金型を閉じ、下型および上型によってSMCおよびプリプレグを140℃で加熱しながら80kg/cm^(2)の圧力で5分間プレスして、SMCおよびプリプレグを一体硬化させたドアを構成するリブ付きの表面材を製造する製造方法。」

4 本件発明1と引用発明との対比・判断
本件発明1と引用発明とを対比する。
引用発明の「補強リブ」は、本件発明1の「凸部」に相当する。
引用発明の「一方向プリプレグである三菱レイヨン(株)製、TR390E250S」を9層積層し、その上に「ファブリックプリプレグである三菱レイヨン(株)製、TR3110G390」を1枚配置したものは、本件発明1における「強化繊維と熱硬化性樹脂組成物とを含むプリプレグ(A)」に相当する。
引用発明の「SMCとしてカンタム社製、AMC8590(熱硬化性樹脂:ビニルエステル樹脂、短繊維:炭素繊維)」は、下型の溝部分(当審注:凸部に対応する部分)に充填されているから、本件発明1における「強化繊維と熱硬化性樹脂組成物とを含む、凸条を形成するSMC(B)」に相当し、引用発明においても、「凸条を形成する部位に」位置するように配されているといえ、本件発明1のプリプレグに積層される位置関係においては同じといえる。
引用発明の「リブ付きの表面材」は、本件発明1における「複合材料」に相当することは明らかである。
引用発明の一方向プリプレグとファブリックプリプレグに含浸されているのは「エポキシ樹脂」であり、引用発明の「SMC」に含浸されているのは「ビニルエステル樹脂」であるから、引用発明においても「前記プリプレグ(A)に含まれる熱硬化性樹脂組成物と前記SMC(B)に含まれる熱硬化性樹脂組成物が同一」ではない。

そうすると、本件発明1と引用発明とは
「強化繊維と熱硬化性樹脂組成物とを含むプリプレグ(A)の表面の一部に、強化繊維と熱硬化性樹脂組成物とを含む、凸条を形成するSMC(B)を凸条を形成する部位に配されていて、複合材料を一体成形する複合材料の製造方法において、
ただし、前記プリプレグ(A)に含まれる熱硬化性樹脂組成物と前記SMC(B)に含まれる熱硬化性樹脂組成物が同一である場合を除く。
複合材料の製造方法。」の点で一致し、以下の点で相違している。

<相違点1>
SMCが凸状を形成する部位に配される手段と一体成形における加熱方法に関し、本件発明1は、SMCは「プリプレグに積層して」配置され、「予め圧縮成形時の温度まで加熱しておいた圧縮成形金型を用いて一体成形する」のに対し、引用発明は、SMCは金型に「充填」され、「140℃で加熱しながら80kg/cm^(2)の圧力で5分間プレス」するものである点。
<相違点2>
本件発明1は、「CTaを、前記プリプレグ(A)のキュアタイム、CTbを、前記SMC(B)のキュアタイムとしたとき、
次の式(1)を満たす、
0.8≦(CTb/CTa)≦1.3・・・・・・(1)
」と特定するのに対して、引用発明は、プリプレグ及びSMCのキュアタイムについて特定はない点。

以下、相違点について検討する。
相違点1について
複合材料の製造方法である本件発明1と引用発明との対比において、SMCを先に金型に配置するか、プリプレグに積層してから複合材料を金型に配置するかは、製造方法として異なるものであり、また、複合材料を予め加熱した金型に配置するか、複合材料を金型に配置してから金型を加熱するかも、製造方法として異なるものであるから、相違点1は実質上の相違点である。
よって、相違点2について検討するまでもなく、本件発明1は、引用例に記載された発明ということはできない。

5 本件発明2ないし6と引用発明との対比・判断
本件発明2ないし6は、本件発明1を直接又は間接的に引用する発明であるから、少なくとも上記4で検討した相違点1の点で、引用発明と実質的に相違するから、本件発明2ないし6は、引用例に記載された発明ということはできない。

第6 特許異議申立書に記載の特許異議申立理由について

異議申立人は、特許異議申立書において、本件特許の請求項1ないし6に対して、甲第1号証を主たる引用文献とする特許法第29条第2項に基づく特許異議申立理由(以下、「申立理由1-1」という。)および甲第3号証を主たる引用文献とする特許法第29条第2項に基づく特許異議申立理由(以下、「申立理由1-2」という。)並びに特許法第36条第6項第1号に基づく特許異議申立理由(以下、「申立理由2」という。)を主張するので、それぞれについて以下に検討する。

<特許異議申立書に添付された証拠方法>
甲第1号証 : 特開2009-83441号公報(以下、「甲1」という。)
甲第2号証 : 特開2000-334757号公報(以下、「甲2」という。)
甲第3号証 : 特開2005-324340号公報(以下、「甲3」という。)
甲第4号証 : 特開2007-203781号公報(以下、「甲4」という。)
甲第5号証 : 特開平7-9469号公報(以下、「甲5」という。)
甲第6号証 : 出願人による平成28年1月25日提出の意見書(以下、「甲6」という。)

1 申立理由1-1について
甲1の特許請求の範囲、段落【0009】、【0010】、【0014】、【0036】の記載から、具体的な実施例で利用されている材料を用いて製造する繊維強化樹脂製構造体を製造する方法として、甲1には次の発明(以下、「甲1発明」という。)が記載されていると認める。

「基板と、該基板の同一面に形成された2つ以上の凸条とを有する繊維強化樹脂製構造体を、凸条を形成する凸条用キャビティが2つ以上設けられた圧縮成形用金型を用いて製造する方法において、前記凸条を形成するシートモールディングコンパウンドを、前記圧縮成形用金型内の、同一面の凸条を形成する凸条用キャビティと凸条用キャビティとの間に配置する工程と、
前記圧縮成形用金型内に、前記基板を形成するプリプレグを配置する工程と、
圧縮成形用金型内でシートモールディングコンパウンドとプリプレグを加熱、加圧して圧縮成形する工程とを含むものであり、プリプレグとして、TR390E250S(三菱レイヨン社製)を基板11(70mm×900mm)の投影形状に対して全周2.5mmずつ小さくなるように切り出し、これらを順次繊維方向が0°/90°/0°/90°/0°となるように5枚積層したプリプレグ積層体として利用し、シートモールディングコンパウンドとして、AMC8590(Quantum Composites社製)を利用してなる、繊維強化樹脂製構造体の製造方法。」

本件発明1と甲1発明とを対比すると、少なくとも以下の点で相違している。
<相違点甲1-1>
本件発明1においては、「SMCを凸状を形成する部位に」積層しているのに対して、甲1発明においては、「凸状用キャビティと凸状用キャビティとの間の下型内面上にSMCを配置し」積層している点。
以下、上記相違点甲1-1について検討する。
確かに、プリプレグに積層するSMCを凸状を形成する部位に配置することは、周知の技術といえる(上記第5の引用例や甲3)。
しかしながら、甲1発明は、「SMCをそれぞれの凸条用キャビティ23、24に充填する量ごとに細かく切断し、それらをそれぞれの凸条用キャビティ23、24の部分に必要に応じて積層して配置する。その後、そのSMC上に基板を形成するプリプレグをさらに配置し、圧縮成形用金型20内でSMCとプリプレグとを加熱、加圧して圧縮成形する(たとえば特許文献1)。
【特許文献1】特開2004-339778号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
しかし、このような方法では、細かく切断したSMCを各凸条用キャビティの部分にそれぞれ配置しなければならないため、生産効率が低くなってしまう。
また、細かく切断したSMCを各凸条用キャビティに配置する際、SMCの量や配置する位置に誤差が生じることがあり、良好な品質の繊維強化樹脂製構造体が安定して得られないことがあった。
また、SMCのみで製造するとプリプレグを使用するものに比べて強度が低くなり、用途が限られてしまうという問題もあった。
そこで、本発明では、高強度で品質の良好な、2つ以上の凸条を有する繊維強化樹脂製構造体を高い生産効率で安定して製造する方法を目的とする。」(段落【0003】?【0005】)ものであるから、甲1発明における「凸状用キャビティと凸状用キャビティとの間の下型内面上にSMCを配置し」たSMCを、凸状を形成する部位に振り分けた配置とすることには、阻害要因がある。
そうすると、相違点甲1-1は、当業者において容易想到とはいえない。
よって、他の相違点について検討するまでもなく、本件発明1は、甲1発明及び周知技術に基づいて容易に発明をすることができたものではない。
本件発明2ないし6は、いずれも本件発明1を直接又は間接的に引用する発明であるから、少なくとも上記相違点甲1-1の点で、甲1に記載された発明と相違しており、上記相違点甲1-1は、上記のとおり当業者においても容易想到といえないから、本件発明2ないし6も、甲1に記載された発明及び周知技術に基づいて容易に発明をすることができたものではない。

2 申立理由1-2について
甲3の特許請求の範囲の請求項5、段落【0010】、【0016】、【0017】、【0022】、【0023】、【0026】、図14の記載から、図14に示されている実施形態4の製造方法として、甲3には次の発明(以下、「甲3発明」という。)が記載されていると認める。

「連続繊維を補強材とする連続繊維強化樹脂シートを複数積層して一体化させる繊維強化プラスチックの製造方法であって、
前記連続繊維強化樹脂シートの一部に、不連続繊維を補強材とする不連続繊維強化樹脂を配置する配置工程と、
型のキャビティー内で前記連続繊維強化樹脂シートと前記不連続繊維強化樹脂とを加圧し、硬化または固化させて、前記キャビティーの形状に固定化する定形化工程とを有しており、
この際、金型34の上型には、不連続繊維強化樹脂が配置された位置に相応する部位に、丸みを帯びた凹部が形成されており、この凹部によって、不連続繊維強化樹脂が丸みを帯びた凸状に形成されるようになっている、繊維強化プラスチックの製造方法。」

本件発明1と甲3発明とを対比すると、少なくとも以下の点で相違している。
<相違点甲3-1>
本件発明1は、「CTaを、前記プリプレグ(A)のキュアタイム、CTbを、前記SMC(B)のキュアタイムとしたとき、
次の式(1)を満たす、
0.8≦(CTb/CTa)≦1.3・・・・・・(1)
」と特定するのに対して甲3発明は、プリプレグ及びSMCのキュアタイムについて特定はない点。
以下、上記相違点甲3-1について検討する。
異議申立人の提示したいずれの文献(甲1、2、4ないし6)にも、プリプレグとSMCの特定の条件下でのキュアタイムの比が相違点甲3-1の条件式を満たすものについては記載されていない。
そして、本件発明1は、予め圧縮成形時の温度まで加熱しておいた圧縮成形金型を用いるという特定の製造方法において、相違点甲3-1の条件を満足させることにより、SMCで形成されている凸条部分にプリプレグの樹脂が流入し、表面に薄膜を形成して外観が悪くなることが防止できるという格別の効果を奏するものであり、この点は、発明の詳細な説明における実施例比較例において確認されている。
そうすると、相違点甲3-1は、当業者において容易想到とはいえない。
よって、他の相違点について検討するまでもなく、本件発明1は、甲3に記載された発明及び周知技術に基づいて容易に発明をすることができたものではない。
本件発明2ないし6は、いずれも本件発明1を直接又は間接的に引用する発明であるから、少なくとも上記相違点甲3-1の点で、甲3に記載された発明と相違しており、上記のとおり、当業者においても容易想到といえないから、本件発明2ないし6も、甲3に記載された発明及び周知技術に基づいて容易に発明をすることができたものではない。

3 申立理由2について
異議申立人は、概略、本件発明1?6の解決すべき課題である「凸条部分の表面に(A)の樹脂に由来する薄膜が形成されてしまう」、すなわち、「SMCで形成されている凸条部分にプリ部レグの樹脂が流入し、表面に薄膜を形成して外観が悪くなってしまう」との課題については、凸条部に配置するSMCの量によって、(A)の樹脂の流入量が異なって薄膜形成の有無が決定するものであるにもかかわらず、本件発明1?6の記載においては、配置されるSMC(B)の量に関しては何ら規定されておらず、発明の詳細な説明に記載された、発明を解決するための手段が反映されていないから、本件特許は、特許請求の範囲の記載が薄膜形成の有無といった課題が解決できると当業者が認識できる範囲を超えている特許出願に対して特許されたものと主張する。
しかしながら、凸条部に見合う量のSMCを配置することは、当業者は当然に行っていることであり、特にその量を特定していなくとも、当業者は、技術常識から、本件特許の請求項1?6に記載の製造方法で、課題が解決できると認識できる。
したがって、取消理由2には、理由がない。

第7 むすび

以上のとおりであるから、当審において通知した取消理由及び特許異議申立書に記載した特許異議申立理由によっては、本件特許の請求項1ないし6に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に本件特許の請求項1ないし6に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。

よって、結論のとおり決定する。
 
発明の名称 (57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
強化繊維と熱硬化性樹脂組成物とを含むプリプレグ(A)の表面の一部に、強化繊維と熱硬化性樹脂組成物とを含む、凸条を形成するSMC(B)を凸条を形成する部位に積層して、複合材料を予め圧縮成形時の温度まで加熱しておいた圧縮成形用金型を用いて一体成形する複合材料の製造方法において、
CTaを、前記プリプレグ(A)のキュアタイム、CTbを、前記SMC(B)のキュアタイムとしたとき、
次の式(1)を満たすプリプレグ(A)、SMC(B)を用いる複合材料の製造方法。
ただし、前記プリプレグ(A)に含まれる熱硬化性樹脂組成物と前記SMC(B)に含まれる熱硬化性樹脂組成物が同一である場合を除く。
0.8≦(CTb/CTa)≦1.3・・・・・・(1)
【請求項2】
前記プリプレグ(A)に含まれる熱硬化性樹脂組成物(a)がエポキシ樹脂を含む熱硬化性樹脂組成物である請求項1に記載の複合材料の製造方法。
【請求項3】
前記SMC(B)に含まれる熱硬化性樹脂組成物(b)がビニルエステル樹脂を含む熱硬化性樹脂組成物である請求項1または2に記載の複合材料の製造方法。
【請求項4】
前記プリプレグ(A)を構成する強化繊維が長繊維である請求項1から3のいずれかに記載の複合材料の製造方法。
【請求項5】
前記SMC(B)が強化繊維短繊維と熱硬化性樹脂組成物(b)からなるシートモールディングコンパウンドである請求項1から4のいずれかに記載の複合材料の製造方法。
【請求項6】
前記プリプレグ(A)の表面の一部に、前記SMC(B)を配置して、金型を閉じ、加熱加圧して圧縮成形する工程を含む、請求項1から5のいずれかに記載の複合材料の製造方法。
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
異議決定日 2017-10-17 
出願番号 特願2011-213974(P2011-213974)
審決分類 P 1 651・ 537- YAA (C08J)
P 1 651・ 121- YAA (C08J)
P 1 651・ 113- YAA (C08J)
最終処分 維持  
前審関与審査官 深谷 陽子原田 隆興  
特許庁審判長 小野寺 務
特許庁審判官 大島 祥吾
小柳 健悟
登録日 2016-06-17 
登録番号 特許第5950149号(P5950149)
権利者 三菱ケミカル株式会社
発明の名称 繊維強化樹脂製構造体の製造方法。  
代理人 鈴木 三義  
代理人 志賀 正武  
代理人 高橋 詔男  
代理人 鈴木 三義  
代理人 高橋 詔男  
代理人 志賀 正武  

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