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審決分類 審判 全部申し立て 1項3号刊行物記載  C22C
審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  C22C
審判 全部申し立て 特36条4項詳細な説明の記載不備  C22C
審判 全部申し立て 2項進歩性  C22C
管理番号 1335135
異議申立番号 異議2016-700498  
総通号数 217 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2018-01-26 
種別 異議の決定 
異議申立日 2016-05-31 
確定日 2017-10-27 
異議申立件数
訂正明細書 有 
事件の表示 特許第5826182号発明「改善された電極材料から製造されたスパークプラグ電極」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第5826182号の明細書及び特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正明細書及び特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1?13〕について訂正することを認める。 特許第5826182号の請求項1?13に係る特許を維持する。 
理由
第1 手続の経緯

特許第5826182号の特許請求の範囲の請求項1?13に係る特許(以下、「本件特許」という。)についての出願(特願2012-535701号)は、2010年 9月 6日(パリ条約による優先権主張 外国庁受理 2009年10月26日 (DE)ドイツ)を国際出願日として特許出願され、平成27年10月23日に特許権の設定登録がされ、同年12月 2日に特許掲載公報が発行され、その後、本件特許に対し、平成28年 5月31日付けで、特許異議申立人である西谷敬之(以下、「申立人」という。)により特許異議の申立てがされ、同年 8月 9日付けで当審から取消理由が通知され、同年11月11日付けで特許権者から意見書の提出及び訂正請求がされ、これに対し、平成29年 2月15日付けで申立人から意見書が提出され、同年 3月 7日付けで当審から取消理由が通知され、同年 6月 7日付けで特許権者から意見書の提出及び訂正請求(以下、「本件訂正請求」という。)がなされ、同年 6月19日付けで当審から特許権者に対し審尋がされ、同年 8月21日付けで特許権者から回答書が提出され、これに対し、同年 9月27日(差出日 同年 9月28日)付けで申立人から意見書が提出されたものである。
なお、本件訂正請求がされたため、平成28年11月11日付けの訂正請求は、特許法第120条の5第7項の規定により取り下げられたものとみなす。

第2 訂正の適否

1 訂正の内容

本件訂正請求による訂正の内容(以下、「本件訂正」という。)は、以下のとおりである。なお、下線は訂正箇所を示すために当審が付与した。

(1)訂正事項1

特許請求の範囲の請求項1に記載される等式



に訂正する(請求項1を引用する請求項2?13も同様に訂正する。)。

(2)訂正事項2

発明の詳細な説明の【0006】に記載される等式



に訂正する。

(3)訂正事項3

発明の詳細な説明の【0039】における「それによって等式logR=a+b*T/1000を定義できる。」という記載を「それによって等式logR=a+b*1000/Tを定義できる。」に訂正する。

(4)訂正事項4

発明の詳細な説明の【0039】における「曲線」という記載を「直線」に訂正する。

(5)訂正事項5

特許請求の範囲の請求項1に記載された「3.1≦b≦3.3であり、」という記載を「3.1≦b≦3.2であり、」に訂正する(請求項1を引用する請求項2?13も同様に訂正する。)。

2 訂正の目的の適否、特許請求の範囲の拡張・変更の存否、一群の請求項、新規事項追加の有無、独立特許要件

(1)訂正の目的の適否、特許請求の範囲の拡張・変更の存否、新規事項追加の有無

ア 訂正事項1について

願書に最初に添付された明細書の発明の詳細な説明の【0039】には「図5においては、温度T’にわたる電気抵抗Rを表すアレニウスプロットが表されており、その際、温度T’は商1000/T(K^(-1))によって表されている。」と記載され、願書に最初に添付された図面の図5には、横軸をT’、縦軸をRとする直線の片対数のグラフ「13」が記載されているから、本件訂正前の請求項1に記載される等式







の誤記であることは明らかである。
したがって、訂正事項1による訂正は、特許法第120条の5第2項第2号に掲げられた「誤記又は誤訳の訂正」を目的とするものであって、新規事項の追加に該当せず、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。

イ 訂正事項2、3について

訂正事項2、3による訂正は、訂正事項1による訂正と同様、願書に最初に添付された明細書の発明の詳細な説明の【0006】及び【0039】に記載された等式における「T/1000」の誤記を「1000/T」に訂正するものであるから、特許法第120条の5第2項第2号に掲げられた「誤記又は誤訳の訂正」を目的とするものであって、新規事項の追加に該当せず、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。

ウ 訂正事項4について

願書に最初に添付された明細書の発明の詳細な説明の【0039】には、「図5からはっきりと分かるように、本発明によるスパークプラグ電極(曲線(13))の酸化物層の電気抵抗は、貴金属を含まない電極(曲線(12))の従来の酸化物層の抵抗よりも明らかに低い。」と記載されている一方、願書に最初に添付された図面の図5を参照すると、符号12、13はいずれも直線として記載されているから、上記記載における「曲線」が「直線」の誤記であることは明らかである。
したがって、訂正事項4による訂正は、特許法第120条の5第2項第2号に掲げられた「誤記又は誤訳の訂正」を目的とするものであって、新規事項の追加に該当せず、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。

エ 訂正事項5について

訂正事項5による訂正は、特許請求の範囲の請求項1に記載された等式におけるbの範囲を「3.1≦b≦3.3」から「3.1≦b≦3.2」に限定するものであるから、特許法第120条の5第2項第1号に掲げられた「特許請求の範囲の減縮」を目的とするものであって、願書に最初に添付された明細書の発明の詳細な説明の【0039】には「bは、3.1?3.2であり」と記載されているから、上記訂正は、新規事項の追加に該当せず、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。

(2)一群の請求項

訂正前の請求項1?13について、請求項2?13は請求項1を引用しており、本件訂正による請求項1の訂正に伴って請求項2?13も訂正されることになるから、本件訂正は一群の請求項に対して請求されたものである。

(3)独立特許要件

本件訂正請求では、請求項1?13の全ての請求項に対して特許異議の申立てがされているので、特許法第120条の5第9項において読み替えて準用する同法第126条第7項の適用はない。

3 小括

以上のとおり、本件訂正は、特許法第120条の5第2項第1号及び第2号に掲げる事項を目的とするものであり、同条第4項及び同条第9項において準用する準用する同法126条第4項?第6項の規定に適合するから、訂正後の請求項〔1?13〕について訂正を認める。

第3 特許異議の申立てについて

1 本件訂正発明

前記「第2」のとおり、本件訂正は認められるから、本件訂正請求により訂正された請求項1?13に係る発明(以下、「本件訂正発明1?13」といい、これらをまとめて「本件訂正発明」という。)は、それぞれ、訂正後の特許請求の範囲の請求項1?13に記載された事項により特定される次のとおりのものである。

「【請求項1】
電極材料から製造されたスパークプラグ電極であって、前記電極材料の表面上に存在する酸化物層が、以下の等式:
【数1】

[式中、
0.6≦a≦0.8であり、
3.1≦b≦3.2であり、
Tは、ケルビンでの温度を表す]によって定義されるよりも低いか又はそれと同じである電気抵抗R(Ω)を有し、
前記電極材料が、
a)基礎材料としてのニッケルと、
b)Y、Hf、Ce、La、Zr、Ta及びYbからなる群から選択される少なくとも1種の他の元素と、
c)Si及びTiからなる群から選択される少なくとも1種の他の元素と
不可避不純物とから成り、前記元素b)の全体割合が、電極材料の全質量に対し0.1?0.2質量%であり、前記元素c)の全体割合が、電極材料の全質量に対して1.0?2.5質量%であり、かつ、電極材料の全質量に対して最大0.003質量%の酸素含有率を有することを特徴とする、前記スパークプラグ電極。
【請求項2】
aが0.7であることを特徴とする、請求項1に記載のスパークプラグ電極。
【請求項3】
bが3.2であることを特徴とする、請求項1又は2に記載のスパークプラグ電極。
【請求項4】
電極材料の表面上の酸化物層が、20℃で、6W/mKを上回る熱伝導性を有することを特徴とする、請求項1から3までのいずれか1項に記載のスパークプラグ電極。
【請求項5】
電極材料の表面上の酸化物層が、20℃で、8W/mKを上回る熱伝導性を有することを特徴とする、請求項4に記載のスパークプラグ電極。
【請求項6】
電極材料の表面上の酸化物層が、20℃で、10W/mKを上回る熱伝導性を有することを特徴とする、請求項5に記載のスパークプラグ電極。
【請求項7】
前記酸化物層が、10μm未満の厚さを有することを特徴とする、請求項1から6までのいずれか1項に記載のスパークプラグ電極。
【請求項8】
前記酸化物層が、5?8μmの範囲の厚さを有することを特徴とする、請求項7に記載のスパークプラグ電極。
【請求項9】
前記元素b)の全体割合が、電極材料の全質量に対して、0.13?0.17質量%であることを特徴とする、請求項1に記載のスパークプラグ電極。
【請求項10】
前記電極材料が、電極材料の全質量に対して、最大0.002質量%の酸素含有率を有することを特徴とする、請求項1から9までのいずれか1項に記載のスパークプラグ電極。
【請求項11】
前記電極材料中の金属間化合物の相の割合が、電極材料の全組成に対して、15モル%よりも低いことを特徴とする、請求項1から10までのいずれか1項に記載のスパークプラグ電極。
【請求項12】
前記電極材料中の金属間化合物の相の割合が、電極材料の全組成に対して、10モル%よりも低いことを特徴とする、請求項11に記載のスパークプラグ電極。
【請求項13】
請求項1から12までのいずれか1項に記載のスパークプラグ電極を少なくとも1つ含むスパークプラグ。」

2 当審から通知した取消理由の概要

(1)平成28年 8月 9日付け取消理由通知

平成28年 8月 9日付けで当審から通知した取消理由(実施可能要件違反、明確性要件違反)の概要は、以下のとおりである。
発明の詳細な説明の【0039】における「logR=a+b*T/1000」という等式の記載は、図5における符号13の直線と整合しないから、発明の詳細な説明の記載は、当業者が請求項1及びこれを引用する請求項2?13に係る発明を実施することができる程度に明確かつ十分に記載されたものとはいえず、また、請求項1は、上記の「logR=a+b*T/1000」という等式の記載を含むから、請求項1及びこれを引用する請求項2?13の記載は不明確である。

(2)平成29年 3月 7日付け取消理由通知

平成29年 3月 7日付けで当審から通知した取消理由(サポート要件違反)の概要は、以下のとおりである。

「本件発明1?13のそれぞれは、特許異議申立人 西谷 敬之 による特許異議申立書における、『3.申立ての理由』の『(5)特許法第36条第6項第1号違反』の『(2)』(当審注:『(2)』は、丸数字の2を表す。)(第9頁第1?11行目)、及び、同『(3)』(当審注:『(3)』は、丸数字の3を表す。)(第9頁第12?17行目)のそれぞれに記載の理由により、発明の詳細な説明に記載したものではない。

よって、請求項1?13に係る特許は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満足していない特許出願に対してなされたものである。」

3 当審の判断

(1)平成28年 8月 9日付けで当審から通知した取消理由(実施可能要件違反、明確性要件違反)について

前記「2」「(1)」の取消理由について検討すると、前記「第2」のとおり、訂正前の請求項1、並びに、発明の詳細な説明の【0006】及び【0039】に記載されていた「logR=a+b*T/1000」という等式は、訂正事項1?3による訂正によって、全て図5における符号13の直線と整合する「logR=a+b*1000/T」に訂正されたから、平成28年 8月 9日付け取消理由通知に記載した前記「2」「(1)」の取消理由(実施可能要件違反、明確性要件違反)は本件訂正によって解消した。

(2)平成29年 3月 7日付けで当審から通知した取消理由(サポート要件違反)について

ア 特許異議申立書の第9頁第1?11行に記載された申立理由について

(ア)特許異議申立書の第9頁第1?11行に記載された申立理由の概要は、以下のとおりである。
図5のアレニウスプロットから【数1】が導き出せるものであったとしても、1つの実施例(発明の詳細な説明の【0037】の表1における「B(本発明による)」の電極材料)からは【数1】における「a,bの値」を導き出すことができるだけで「a,bの範囲」までを導き出すことはできない。それにもかかわらず、発明の詳細な説明には「a,bの範囲」が導き出される根拠、理由が記載されていない。

(イ)この取消理由について検討すると、確かに、申立人の主張するように、発明の詳細な説明には【数1】をどのように導出したのかについて具体的な記載はない。しかし、申立人が異議申立書において認めるとおり「2つの物性値の一方が他方の指数関数に比例する関係にある場合、2つの特性の実測値からアレニウスプロットを作成し、回帰分析の手法を用いて両者の関係式を実験的に導き出せること」(第8頁下から第8?6行)は、当業者の技術常識である。

(ウ)そして、発明の詳細な説明の記載に接した当業者であれば、発明の詳細な説明の【0037】の表1における「B(本発明による)」の電極材料について、その酸化物層の抵抗値を測定する際に、一定程度の範囲で誤差が生じることは、当然のこととして理解することができ、このような誤差が生じれば、それに伴って【数1】のa,bの値が数値範囲として算出されることも、当業者であれば理解できることである。

(エ)その上で、平成29年 8月21日付けで特許権者が提出した回答書を参照すれば、前記「B(本発明による)」の電極材料について、その酸化物層の抵抗値を測定する際の誤差の範囲は10%に設定されており(第2頁下から第6?5行)、この設定値自体に何らの不合理も認められず、この設定に基づいて、前記イで説示した当業者の技術常識である回帰分析の手法を用いて(具体的には、プログラムのOrigin(Origin Lab(www.originlab.de))を用いて)算出した【数1】のa,bの値の範囲が、a=0.68253±0.09569,b=3.17384±0.06317(第3頁第1?2行、参考資料3?5)であり、この値を小数第1位までの値となるように四捨五入すると、a=0.7±0.1(0.6?0.8),b=3.2±0.1(3.1?3.3)となって、bの上限値である3.2を除き、発明の詳細な説明の【0039】に記載された値の範囲と一致するから、【数1】において、a,bそれぞれの値を単一の値ではなく数値範囲として算出することは、当業者の技術常識の範囲内のことである。

(オ)したがって、特許異議申立書の第9頁第1?11行に記載された申立理由には、理由がない。

イ 特許異議申立書の第9頁第12?17行目に記載された申立理由について

(ア)特許異議申立書の第9頁第12?17行目に記載された申立理由の概要は、以下のとおりである。
発明の詳細な説明の【0039】には、等式におけるbの範囲は「3.1≦b≦3.2」と記載されているにもかかわらず、請求項1では、bの範囲が「3.1≦b≦3.3」と記載されているから、請求項1に係る発明は、発明の詳細な説明に記載されたものではない。

(イ)この取消理由について検討すると、前記「第2」のとおり、訂正事項5による訂正によって、特許請求の範囲の請求項1に記載された「3.1≦b≦3.3であり、」という記載は「3.1≦b≦3.2であり、」に訂正され、これによって、請求項1におけるbの範囲は、発明の詳細な説明の【0039】の記載と一致することになった。

(ウ)したがって、特許異議申立書の第9頁第12?17行目に記載された申立理由は、本件訂正によって解消した。

ウ ここで、課題解決の観点から【数1】におけるa,bの値が数値範囲として特定されていることの適否について検討すると、発明の詳細な説明には「本発明によるスパークプラグ電極の表面上に形成する酸化物層は・・・従来の電極上に形成される酸化物層と比較して、均一かつ安定な結合を示し、それのみならず比較的薄く、かつ表面上で一様で・・・電極表面上の酸化物層の低い電気抵抗を可能にする。」(【0007】)、「従来の・・・スパークプラグの寿命は約60000kmまでであるに過ぎない一方で、本発明によるスパークプラグ電極の寿命は、より著しく長く、すなわち90000kmの範囲である。」(【0020】)と記載されるとおり、本件訂正発明は、従来と比較して、結合が均一かつ安定で、薄く一様な酸化物層を形成することで、従来よりも電極表面上の酸化物層の電気抵抗を低くし、スパークプラグの寿命を長くするものである。
そうすると、a,bが単一の値ではなく、0.6≦a≦0.8,3.1≦b≦3.2の数値範囲として特定されていても、図5では、スパークプラグの動作範囲(符号12,13の直線において実線で示された温度範囲)であるT’:0.9?2.2の温度範囲(T:455K(182℃)?1111K(838℃))にわたって、表1の「B(本発明による)」の電極材料を用いた13の直線の抵抗値は、比較の基準となる表1の「A(標準)」の電極材料を用いた12の直線で示されるより抵抗値よりも低くなっており、上記のスパークプラグの長寿命化という課題は解決されているといえるから、a,bが単一の値ではなく数値範囲として特定されていても、本件訂正発明に課題解決手段が反映されていないということはできない。

エ また、申立人は、平成29年 9月27日(差出日 同年 9月28日)付け意見書の第2頁下から第6行?第3頁第9行において、発明の詳細な説明の表1の「B(本発明による)」の電極材料の組成においては、a,bの値は示された範囲になるものの、特許権者は、請求項1で規定された他の組成のものにおいてまで、同じa,bの値の範囲になることを示す証拠を提出していないから、発明の詳細な説明に記載された事項及び本件特許の出願時の技術常識からは【数1】のa,bの範囲を画定できることを当業者は認識できないと主張する。
確かに【数1】は、本件訂正発明におけるb)の元素がHfで、c)の元素がSiである場合の電極材料(発明の詳細な説明の表1の「B(本発明による)」の電極材料)に基づいて算出されたものであって、b)c)の元素がHf,Si以外の元素である場合の電極材料について算出されたものではない。
しかし、後者の電極材料であっても、酸化物層の抵抗値が【数1】で特定される上限値を超えない限り課題が解決されることは前記ウで検討したとおりであるから、全てのb)c)の元素の組合せについて【数1】を算出しなければ、本件訂正発明に課題解決手段が反映されていないということはできない。
よって、申立人の上記主張は根拠を欠くものであって、これを採用することはできない。

(3)取消理由通知において採用しなかった特許異議申立理由(サポート要件違反、新規性欠如、進歩性欠如、実施可能要件違反)について

ア サポート要件違反

(ア)異議申立書の第8頁第15?27行に記載された申立理由(サポート要件違反)の概要は、以下のとおりである。
図5のアレニウスプロットから導き出せる関係式は、横軸がT’(=1000/T)であるから、logR=a+b*T’=a+b*1000/Tであるにもかかわらず、請求項1の【数1】は、logR=a+b*T/1000であるから、請求項1の【数1】がどのように導き出されたのか、その根拠、理由が不明である。
したがって、請求項1の記載は、特許法第36条第6項第1号の規定に違反する。

(イ)この申立理由について検討すると、前記「第2」のとおり、訂正前の請求項1、並びに、発明の詳細な説明の【0006】及び【0039】に記載されていた「logR=a+b*T/1000」という等式である【数1】は、訂正事項1?3による訂正によって、全て図5における符号13の直線と整合する「logR=a+b*1000/T」に訂正されたから、異議申立書の第8頁第15?27行に記載された前記(ア)の申立理由には理由がない。

新規性欠如、進歩性欠如

(ア)申立理由の概要

異議申立書の第10頁下から6行?第17頁第11行に記載された申立理由(新規性欠如、進歩性欠如)の概要は、以下のとおりである。
本件特許の請求項1?13に係る発明は、甲第1号証に記載された発明であるから、その特許は、特許法第29条第1項第3号の規定に違反してなされたものであり、そうでないとしても、本件特許の請求項1?13に係る発明は、甲第1号証及び甲第2号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、その特許は、特許法第29条第2号の規定に違反してなされたものである(以下、「甲第1号証」及び「甲第2号証」を、それぞれ「甲1」及び「甲2」という。)。

(イ)証拠方法

甲1:特開2007-92139号公報
甲2:特開2009-16278号公報

(ウ)本件訂正発明の新規性について

a 甲1には、以下の事項が記載されている(なお、「・・・」は記載の省略を表し、下線は当審で付与した。以下同様。)。

「【技術分野】
【0001】
本発明は内燃機関の点火プラグ用電極材料に関するものである。」

「【背景技術】
・・・
【0003】
・・・種々点火プラグの電極材料に用いられるNi基合金には、例えば、Crを3%程度以下として、耐酸化性と高温強度を高めるための添加元素を含有させるNi基合金の提案がある。
・・・」

「【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上述したCrをある程度低く抑えた材料は、加工性の点から有望な材料である。しかしながら、上述した合金はいずれも耐酸化性に有効なCrを低く抑える替わりに、耐酸化性を補う元素として、Si、Mn、Alを必須添加としているために、Ni中の合金元素の総量が増加する分、熱伝導率や融点が低下する傾向がある。
耐酸化性を補うための合金元素量が多くなると、熱伝導率が低いことによって電極温度が下がりにくくなり、結果的に高温にさらされることになって酸化しやすくなったり、融点低下による溶損が影響する火花損耗を起こし易くなる恐れがあった。
・・・
本発明の目的は、上記事情に鑑みて内燃機関の高負荷化、高性能化に対応して、耐酸化性、耐火花損耗性に優れ、さらに製造性も優れた特性を有する点火プラグ用電極材料を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者は・・・点火プラグ用合金の耐酸化性向上させるには熱伝導率を高くすることが必要であり、かつ耐火花損耗性を向上させるには融点を高くすることが有効であるが、これらの2つの必要特性を同時に解決するには、Siを少量添加すること、Mn、Alを低下させること、さらにHf及び/またはReを少量添加することを同時に満たすことが有効であることを新たに見出し本発明に到達した。
【0007】
すなわち本発明は、質量%でC:0.1%以下(0を含む)、Si:0.3?3.0%、Mn:0.5%未満(0を含む)、Cr:0.5%未満(0を含む)、Al:0.3%以下(0を含む)、HfとReの1種または2種を合計で0.005?1.0%、残部はNi及び不可避不純物からなる点火プラグ用電極材料である。
・・・」

「【発明を実施するための最良の形態】
・・・
【0010】
以下に本発明で規定した各元素の限定理由を説明する。
・・・
Siは、耐酸化性向上に非常に有効な元素である一方、熱伝導率、融点を低下させる元素であるため、良好な耐酸化性を得るために、熱伝導率、融点を大きく低下させない範囲で積極的に添加する。0.3%より少ないと耐酸化性の向上効果が少なく、一方、3.0%を超えて添加すると融点、熱伝導率の低下が大きくなることから、Siは0.3?3.0%とした。。好ましいSiの下限は0.5%であり、また、好ましいSiの上限は1.5%である。
・・・
【0011】
・・・
Alは、耐酸化性を高める元素である一方、熱伝導率を大きく低下させる元素であるため、Siをある程度含有する場合には、Alは低く抑える必要がある。Alは0.3%より多く添加すると熱伝導率が大きく低下することから、Alは0.3%以下とした。好ましくは、0.1%以下がよく、0%(無添加レベル以下)であっても差し支えない。
【0012】
Hf及びReは、ごく少量の添加で熱伝導率を高く保持したまま、耐酸化性及び高温強度を向上することができる重要な元素であり、本発明のNi基合金においては必須添加する。
・・・
本発明において、Hf及びReの含有量は、HfとReの1種または2種を・・・合計で0.005?1.0%とし・・・好ましい下限は、1種または2種の合計で0.01%であり、またHfおよびReの好ましい上限は、1種または2種の合計で0.5%である。
【0013】
本発明では、上述した元素以外はNi及び不可避的不純物として規定した。不可避的不純物として、残留する可能性のある主な元素は、P、S、N、O等である。これらはできるだけ低い方が望ましいが、P≦0.03%、S≦0.03%、N≦0.05%、O≦0.01%であれば点火プラグ電極用材料の基本特性に特に大きな影響を及ぼさないと考えられるので、この範囲であれば許容できる。
・・・」

「【実施例1】
【0016】
以下の実施例で本発明を更に詳しく説明する。
真空溶解で10kg鋼塊を作製し、均質化熱処理後、熱間加工を行い、熱間加工性を確認するとともに、30mm角の棒材を作製した。・・・化学組成を表1に示す。
試料No.1?8は本発明合金、試料No.21?23は比較合金である。・・・
【0017】
【表1】



b 前記aによれば、甲1には、内燃機関の点火プラグ用電極材料に関し(【0001】)、点火プラグ用合金の耐酸化性を向上させるためには熱伝導率を高くすることが必要であり、かつ耐火花損耗性を向上させるには融点を高くすることが有効であるが、これらの2つの必要特性を同時に解決するには、Siを少量添加すること、Mn、Alを低下させること、さらにHf及び/またはReを少量添加することを同時に満たすことが有効であることから(【0006】)、質量%でC:0.1%以下(0を含む)、Si:0.3?3.0%、Mn:0.5%未満(0を含む)、Cr:0.5%未満(0を含む)、Al:0.3%以下(0を含む)、HfとReの1種または2種を合計で0.005?1.0%、残部はNi及び不可避不純物からなる点火プラグ用電極材料(【0007】)が記載され、不可避不純物については、できるだけ低い方が望ましいが、P≦0.03%、S≦0.03%、N≦0.05%、O≦0.01%の範囲であれば許容できること(【0013】)が記載され、さらに、実施例(表1)として、No.2(C:0.004質量%,Si:1.09質量%,Mn:0.05質量%,Cr:0.04質量%,Al:0.013質量%,Hf:0.11質量%,残部:Ni及び不可避的不純物)、No.3(C:0.002質量%,Si:1.38質量%,Mn:0.07質量%,Cr:0.06質量%,Al:0.010質量%,Hf:0.13質量%,残部:Ni及び不可避的不純物)、No.5(C:0.004質量%,Si:1.03質量%,Mn:0.06質量%,Cr:0.08質量%,Al:0.017質量%,Hf:0.17質量%,残部:Ni及び不可避的不純物)が記載されている。

c 一方、本件訂正発明1のスパークプラグ電極における電極材料の成分元素とその含有量については「a)基礎材料としてのニッケルと、b)Y、Hf、Ce、La、Zr、Ta及びYbからなる群から選択される少なくとも1種の他の元素と、c)Si及びTiからなる群から選択される少なくとも1種の他の元素と不可避不純物とから成り、前記元素b)の全体割合が、電極材料の全質量に対し0.1?0.2質量%であり、前記元素c)の全体割合が、電極材料の全質量に対して1.0?2.5質量%であり、かつ、電極材料の全質量に対して最大0.003質量%の酸素含有率を有する」とされるところ、甲1の実施例におけるNo.2,No.3,No.5のSi及びHfは、いずれも、それぞれ、上記の「電極材料の全質量に対して1.0?2.5質量%」である「Si」「からなる」「元素c)」及び「電極材料の全質量に対し0.1?0.2質量%」である「Hf」「からなる」「元素b)」に相当する。
しかし、甲1の実施例におけるNo.2,No.3,No.5においては「不可避的不純物」とされる酸素の含有量について測定値の記載はなく、酸素の含有量については、前記bのとおり【0013】に「O≦0.01%」という記載があるのみであるから、甲1に、本件訂正発明1で特定される「電極材料の全質量に対して最大0.003質量%の酸素含有率」であることまでが記載されているとはいえない。
したがって、本件訂正発明1は、甲1に記載された発明とはいえず、同様の理由により、本件訂正発明1を引用する本件訂正発明2?13も、甲1に記載された発明とはいえない。

(エ)本件訂正発明の進歩性について

a 甲2には、以下の事項が記載されている。

「【技術分野】
【0001】
本発明は、火花放電を行う電極の材料にNi基合金を用いた内燃機関用のスパークプラグに関するものである。」

「【背景技術】
・・・
【0003】
・・・スパークプラグの使用の際には・・・電極材料が高温と火花放電による負荷の影響を受けると、電極材料を構成する結晶粒が粗大化(いわゆる粒成長)し・・・電極材料の内部へ酸素が進入しやすくなり、その結果、内部で酸化腐食が生じやすくなる虞がある。
【0004】
そこで粒成長を抑制するため、電極材料として、NiにYやZr等の金属元素・・・の酸化物や窒化物等・・・が均一に拡散した状態で析出した電極材料を形成している。・・・」

「【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら・・・電極材料のNiの母相に酸化物を析出させた場合、析出した酸化物が電極材料中に残ることとなるため、従来よりも高温となる環境において酸化物が分解してしまい、酸素によって内部腐食が進行する虞があった。
【0007】
本発明は上記問題点を解決するためになされたものであり、Niの母相に金属間化合物が析出した電極材料を電極に用いることで、十分な耐高温酸化性と耐火花消耗性を得ることができるスパークプラグを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するために、請求項1に係る発明のスパークプラグは、内燃機関の燃焼室内に露出され、中心電極との間に火花放電間隙を形成する接地電極を備えたスパークプラグにおいて、前記中心電極および前記接地電極の少なくとも一方は、Niを主成分とし、少なくとも粒界に金属間化合物が析出した電極材料からなることを特徴とする。
【0009】
また、請求項2に係る発明のスパークプラグは、請求項1に記載の発明の構成に加え、前記金属間化合物は、少なくともNiと希土類金属とを含む化合物であることを特徴とする。
【0010】
また、請求項3に係る発明のスパークプラグは、請求項1または2に記載の発明の構成に加え、前記金属間化合物は、少なくともNiとYとを含む化合物・・・であることを特徴とする。
【0011】
また、請求項4に係る発明のスパークプラグは、請求項3に記載の発明の構成に加え、前記電極材料は、Niを主成分とし、Y・・・を第1添加元素として含有し、その・・・含有量が、0.3重量%以上3重量%以下であることを特徴とする。
【0012】
また、請求項5に係る発明のスパークプラグは、請求項4に記載の発明の構成に加え、前記電極材料は、少なくともSi、Ti・・・のうちの1種の元素を第2添加元素として含有することを特徴とする。
【0013】
また、請求項6に係る発明のスパークプラグは、請求項5に記載の発明の構成に加え、前記電極材料は、前記第2添加元素の含有量が1重量%未満であることを特徴とする。
・・・
【0018】
また、請求項11に係る発明のスパークプラグは、請求項1乃至10のいずれかに記載の発明の構成に加え、前記電極材料中の溶存酸素量が、30ppm以下であることを特徴とする。
・・・
【0029】
・・・なお、電極材料の内部腐食を抑制し、機械的な強度を維持するには、請求項11に係る発明のように、電極材料中の溶存酸素量が30ppm以下であることが望ましい。」

「【発明を実施するための最良の形態】
・・・
【0042】
・・・高温のもとで行われる火花放電に伴う負荷がかかる過酷な環境において・・・粒界に析出した金属間化合物が、いわゆるピン止めとして、粒成長を抑制する。・・・これにより・・・粒界を伝って外部から電極材料の内部に酸素が進入しても、その進入深度が深くなることはなく、酸化抑制に対し十分な効果を得ることができる。
・・・
【0044】
こうした金属間化合物は・・・主成分として含有するNiと希土類元素との化合物により構成されることが好ましく、少なくともNiとYとを含む化合物・・・であれば、より好ましい。そして望ましくは、Niを主成分とし、Y・・・を第1添加元素として0.3重量%以上3重量%以下含有するとよい・・・。第1添加元素の含有量が0.3重量%未満であると十分な析出物が生成しないため、粒成長の抑制が難しい。・・・
【0045】
・・・さらに第2添加元素として、少なくともSi、Ti・・・のうちの1種の元素を電極材料に含有させれば電極材料の酸化抑制に効果がある・・・。・・・望ましくは、電極材料中の第2添加元素の含有量が1重量%未満であるとよく、特に、第2添加元素がSiであってその含有量が0.3重量%未満であると・・・さらに効果的である・・・。一方、第2添加元素の含有量が1重量%より多くなると、電極材料の比抵抗が高くなったり、熱伝導率が低くなったりするため十分な熱引きを行えず、耐火花消耗性が低下する虞がある。」

b 前記aによれば、甲2には、電極の材料にNi基合金を用いた内燃機関用のスパークプラグに関し(【0001】)、Niの母相に金属間化合物が析出した電極材料を電極に用いることで、十分な耐高温酸化性と耐火花消耗性を得ることができるスパークプラグを提供することを目的とし(【0007】)、その達成のために、内燃機関の燃焼室内に露出され、中心電極との間に火花放電間隙を形成する接地電極を備えたスパークプラグにおいて、前記中心電極および前記接地電極の少なくとも一方は、Niを主成分とし、少なくとも粒界に金属間化合物が析出した電極材料からなるスパークプラグが記載され(【0008】【0042】)、前記金属間化合物は、少なくともNiと希土類金属とを含む化合物、さらには、少なくともNiとYとを含む化合物からなり、Yの含有量が0.3重量%以上3重量%以下であること(【0009】?【0011】【0044】)、少なくともSi、Tiのうちの1種の元素を1重量%未満含有すること(【0012】【0013】【0045】)、電極材料中の溶存酸素量が30ppm以下であること(【0018】【0029】)も記載されている。

c ここで、前記「(ウ)」「b」「c」で検討したとおり、甲1には、実施例として、表1に、No.2(C:0.004質量%,Si:1.09質量%,Mn:0.05質量%,Cr:0.04質量%,Al:0.013質量%,Hf:0.11質量%,残部:Ni及び不可避的不純物)、No.3(C:0.002質量%,Si:1.38質量%,Mn:0.07質量%,Cr:0.06質量%,Al:0.010質量%,Hf:0.13質量%,残部:Ni及び不可避的不純物)、No.5(C:0.004質量%,Si:1.03質量%,Mn:0.06質量%,Cr:0.08質量%,Al:0.017質量%,Hf:0.17質量%,残部:Ni及び不可避的不純物)が記載されているものの、表1には「不可避的不純物」とされる酸素の含有量についての記載はなく、酸素の含有量については【0013】に「O≦0.01%」という記載があるのみである。
一方、甲2には、前記bのとおり、電極材料中の溶存酸素量が30ppm以下であることが記載されているものの、Niと金属間化合物を形成する元素として記載されているのは、Yを含む希土類金属であって、かかる元素として希土類金属に属さないHfを用いることは、実施例を含めて一切記載されていない。
また、甲1を参照しても、点火プラグ用電極材料における酸素は不可避的不純物として「O≦0.01」質量%であれば許容できると記載されており(【0013】)、これをさらに30ppm以下にまで低減することを動機付ける記載はない。
以上のとおり、甲2に記載された電極材料は、Hfを含まない点で甲1に記載された電極材料とは成分元素の組成が異なり、甲1には、電極材料における酸素含有量の上限値を30ppm以下に低減する動機付けの記載もないから、甲1、2に接した当業者にとって、甲1に記載された実施例の電極材料における酸素の含有量を、甲2の記載に基づいて30ppm以下にすることは、容易になし得たことではない。

(オ)以上のとおりであるから、異議申立書の第10頁下から6行?第17頁第11行に記載された前記(ア)の申立理由(新規性欠如、進歩性欠如)には、いずれも理由がない。

実施可能要件違反

(ア)申立人は、異議申立書の第17頁第13?16行において「構成要件(ロ)が、電極材料の組成(構成要件(ハ)?(リ))には関連しないものとして、本願と甲1(又は甲2)との相違点を主張した場合には、本願明細書の発明の詳細な説明の記載が、特許法第36条第4項第1号の規定に違反します。」と主張する。

(イ)しかし、前記「イ」で説示したとおり、本件訂正発明1のスパークプラグ電極は、甲1に記載された点火プラグ用電極材料と合金組成が異なっており、また、甲1、2の記載に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではないから、申立人の前記主張は、その前提において誤りがあり採用することはできない。本件訂正発明1を引用する本件訂正発明2?13についても同様である。
したがって、異議申立書の第17頁第13?16行に記載された前記(ア)の申立理由には、理由がない。

第4 結論

以上によれば、取消理由通知に記載した取消理由及び特許異議申立書に記載した特許異議申立理由によっては、本件訂正請求により訂正された請求項1?13に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に本件訂正請求により訂正された請求項1?13に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
 
発明の名称 (54)【発明の名称】
改善された電極材料から製造されたスパークプラグ電極
【技術分野】
【0001】
本発明は、合金ベースの電極材料から製造されるスパークプラグ電極に関する。
【0002】
自動車エンジンとその部品の効率とエンジン動力の向上のための絶え間ない進歩に基づき、エンジン部材の材料にも常により高い要求が課されている。特に、燃料混合物の点火に際して主要な役割を果たす部材、つまりスパークプラグ、特にスパークプラグ電極は、特にエンジンルーム内の酸素リッチな雰囲気と高い温度によって高い負荷にさらされる。そのため前記の高い要求を満たしたスパークプラグを提供する必要がある。
【0003】
スパークプラグ電極用の基礎材料としては、とりわけニッケル合金が使用される。それというのも、ニッケルは、合金の熱安定性に不可欠な高い融点温度と、腐蝕に対する高い安定性のいずれも有するからである。純粋な貴金属からなる材料又は白金もしくはイリジウムとの白金合金などの貴金属ベースの材料は、火花侵食消耗に対する耐消耗性に関して高められた安定性を示し、ひいては非常に高い電極の長い寿命を示すものの、白金製のスパークプラグ電極材料は、莫大な費用の点で経済的理由から、商慣習のニッケル合金との好適な代替ではない。その場合、火花侵食消耗もしくは侵食損失とは、電極表面へのアーク放電の作用によって引き起こされる電極の材料損耗を表す。
【0004】
例えばニッケル合金製の従来のスパークプラグ電極においては、車両のエンジンルーム内の駆動条件下で、ニッケル表面の大部分と同様に電極材料内部のニッケルの一部も、周囲の酸素との反応によって酸化する。それによって、厚く、断熱性であり導電性を阻止もしくは低下させもするニッケル酸化物層が形成され、その層は、数時間後ですでに、酸化されていないニッケル基礎材料との結合の不足に基づき腐蝕もしくは火花侵食する傾向にある。
【0005】
発明の概要
全ての以下の質量%の表記は、明確に他の特徴付けがなされない限り、常に、電極材料の組成物の全質量に対するものであるという更なる説明を前置きする。
【0006】
請求項1の特徴を有する本発明によるスパークプラグ電極は、極めて高い熱安定性と、明らかに低減された火花侵食消耗もしくは電極焼損という点で際だっており、かつ無類の耐酸化性及び耐蝕性を有する。従って、今までは貴金属製の電極材料と貴金属合金製の電極材料でしか達成されていなかった交換インターバルを可能にするスパークプラグ電極用の廉価な電極材料が提供される。本発明によれば、電極材料の表面上に形成された酸化物層が、以下の等式:
【数1】

[式中、aは、0.6?0.8の範囲、好ましくは0.65?0.75の範囲であるか、もしくはaは、殊に好ましくは0.7であり、かつbは、3.1?3.3の範囲、好ましくは3.14?3.26の範囲であるか、もしくはbは、殊に好ましくは3.2であり、かつTは、ケルビンでの温度を表す]によって定義されるよりも低いか又はそれと同じである電気抵抗Rを有することによって達成される。
【0007】
本発明によるスパークプラグ電極の表面上に形成する酸化物層は、最適な構造を有する。この場合、最適な構造とは、前記酸化物層が、従来の電極上に形成される酸化物層と比較して、均一かつ安定な結合を示し、それのみならず比較的薄く、かつ表面上で一様であることを表す。それは、電極表面上の酸化物層の低い電気抵抗を可能にする。本発明によれば、さらに、酸化物層と基礎材料、つまり酸化されていない電極材料との間の接触抵抗が低下し、その結果として導電性がさらに向上する。電極表面にある酸化物層の電気抵抗が低い、従って前記定義の等式によって決められるものと同じもしくはそれより低い場合に、火花放電に際して燃焼室内で電極表面の間に生ずる電圧は、迅速に電極の表面からその内部へと導かれるので、電極の表面上の局所的な負荷は明らかに減らされ、また極めて短時間であるにすぎない。電流を電極表面からスパークプラグ電極の内側へと迅速にかつ均一に導く能力は、電気抵抗が低いほどより大きくなる。本発明の更なる有利な効果は、電流が迅速に導かれることによって、火花にゆだねられる材料の局所的な加熱が抑えられるため、電極材料が酸化物をさらに形成する傾向が再び明らかに低くなり、従って極めて薄くかつ均質な酸化物層しか電極表面上に形成されないことによるものである。火花侵食及び腐蝕による電極材料の消耗は、本発明によるスパークプラグ電極の消耗速度が従来の電極材料製のスパークプラグ電極に対してかなり低下されることによって明らかに低減される。本発明による電極材料は、高温で燃焼室で主流な過酷な条件下にあっても安定かつ耐消耗性である。本発明によるスパークプラグ電極は貴金属不含であるが、従来のスパークプラグと比較して大きく改善された寿命を有する。特に好ましくは、該電極材料の抵抗は、既に先に定義した等式を満たすので、電極材料上に形成される酸化物層と電極材料の抵抗は、同様であり、特に好ましくは同じである。
【0008】
本発明の好ましい実施形態及び改良は、従属請求項に示されている。
【0009】
電極の表面上に形成される酸化物層が6W/mKより高い、好ましくは8W/mKより高い、特に好ましくは10W/mKより高い熱伝導性を有することが特に好ましい(前記熱伝導性は、20℃で測定される)。酸化物を含む電極表面の熱が非常に迅速に電極内部に導かれると、厚く非常にはっきりした不均一に形成された電極表面上の酸化物層の形成が食い止められる。本発明によるスパークプラグ電極は、極めて薄い一様な酸化物層の点で際だっているので、該スパークプラグ電極は、スパークプラグの連続運転においても突出した安定性を備える。形成される酸化物層の熱伝導性が6W/mK未満であるときに、火花プラズマ中に局所的に高い温度が生じ、それは十分に迅速には周囲へと放出されないので、まさにその位置で好ましくは酸化物層が堆積し、まさにその位置で特に迅速に酸化物層が形成される。これによって、材料の侵食と腐蝕の傾向、ひいてはその消耗が高まり、熱の停滞が強く引き起こされ、これは消耗をさらに助長する。更に好ましくは、前記電極材料はまた、6W/mKより高い熱伝導性を有し、特に好ましくは酸化物層の熱伝導性と電極材料の熱伝導性とは同じである。
【0010】
好ましい一実施形態において、電極材料の表面上に形成される酸化物層は、10μm未満の厚さを有し、もしくは特に好ましくは5?8μmの範囲の厚さを有する。本発明によれば、従って、かかる材料は、互いに組み合わされて、主流となる過酷な条件下での低い酸化物の形成傾向の点で際だった電極材料となる。形成する酸化物層が10μm又はそれより厚い場合、該酸化物層は、断熱性にも導電性の点で絶縁性にも作用する。それは、またしても他の酸化物の形成を促進し、それによって電極材料の消耗速度も促進する。従って酸化物層の厚さが薄いほど、該材料は、火花侵食と、特に酸化的腐蝕に関してより安定である。
【0011】
特に好ましくは、本発明によるスパークプラグ電極を形成する電極材料は、
a)基礎材料としてのニッケルと、
b)Y、Hf、Ce、La、Zr、Ta及びYbからなる群から選択される少なくとも1種の他の元素と、
c)Si、Na、K、Li、Ti、Ag及びCuからなる群から選択される少なくとも1種の他の元素と
を含有し、前記元素b)の全体割合は、電極材料の全質量に対して、0.1?0.3質量%、好ましくは0.1?0.2質量%、特に好ましくは0.13?0.17質量%である。これらの本発明によるスパークプラグ電極は、表面上にある酸化物層が、上述の等式によって定義されるものと同じか又はそれより低い電気抵抗Rを有する電極材料の点で際だっているので、この電極材料に関して全ての上述の利点が達成される。また、該酸化物の、ひいては合金全体の熱伝導特性も際だっているので、該材料は、さらにまた極めて高い熱安定性を示し、かつそれに付随して明らかに低減された火花侵食消耗もしくは電極焼損を示す。前記材料の耐酸化性と耐蝕性は、連続負荷においても非常に良好である。元素b)は、優れた電気的特性及び物理的特性の点で際だっており、該元素は、電極表面上に薄く一様な酸化物層の形成を支援する。元素b)の0.3質量%を上回る濃度は、この元素の析出をもたらすので、該材料の耐蝕性と耐侵食性はまたもや低下する。それに対し、元素b)の0.1質量%未満の濃度は、電極材料に対して十分に安定に作用しない。
また、前記元素c)の全体割合は、電極材料の全質量に対して、0.5?3質量%、好ましくは1.0?2.5質量%である。
【0012】
該電極材料がアルミニウムを含まないことが更に好ましい。それによって、該材料は、公知のアルミニウムを含む材料に対して加工がより簡単に可能である。これは、かかる電極材料の製造のための費用を削減しうる。従って、今までは貴金属製の電極材料と貴金属合金製の電極材料でしか達成されていなかった交換インターバルを可能にするスパークプラグ電極用の廉価な電極材料が提供される。
【0013】
好ましい一つの選択肢によれば、本発明によるスパークプラグ電極を形成する電極材料は、
a)基礎材料としてのニッケルと、
b)Y、Hf、Ce、La、Zr、Ta及びYbからなる群から選択される少なくとも1種の他の元素と、
d)V、Zn及びTiからなる群から選択される少なくとも1種の他の元素と
を含有し、前記元素b)の全体含有率は、電極材料の全質量に対して、0.5質量%以下、好ましくは0.3質量%以下であり、かつ前記元素d)の全体含有率は、電極材料の全質量に対して、1.5?18質量%、好ましくは2?15質量%である。また、これらの本発明によるスパークプラグ電極は、表面上にある酸化物層が、上述の等式によって定義されるものより低い電気抵抗Rを有する電極材料の点で際だっているので、この電極材料に関しても全ての上述の利点が達成される。元素d)、つまりV、Zn及びTiは、特に均質にニッケルマトリックス中に導入される。前記電極材料は、酸化物層と電極基礎材料との間の低い接触抵抗の点で際だっているので、その導電性は強く高められている。また、熱伝導特性も際だっているので、耐摩耗性の材料が形成される。元素V、Zn及びTiの酸化物の電気的特性も熱伝導性もその場合に非常に際だっているので、それどころか好ましくは反応性元素b)を省くことができる。しかし、Y、Hf、Ce、La、Zr、Ta及びYbからなる群からの少なくとも1種の他の元素を添加して合金化するかもしくは該元素を計量供給することが特に好ましい。この合金材料においても、元素b)は、優れた電気的特性及び物理的特性の点で際だっており、該元素は既に先に詳細に説明したのと同じ有利な構造を形成する。元素d)の割合が電極材料の全質量に対して1.5質量%未満である場合に、電極の基礎材料中の導電性はより低くなる。それというのも、元素d)の金属酸化物の形成が僅かすぎて、それが電極材料中の接触抵抗を下げるからである。元素d)の15質量%より高い、それどころか18質量%より高い割合は、電気的特性の改善及び電極材料の構造にもはや本質的な影響を及ぼさない。
【0014】
更なる好ましい一つの選択肢によれば、電極材料は、以下の元素:
a)基礎材料としての鉄と、
b)Y、Hf、Ce、La、Zr、Ta及びYbからなる群から選択される少なくとも1種の他の元素と、
e)Al、Cr、Ni及びMoからなる群から選択される少なくとも1種の他の元素と
を含有し、前記元素b)の全体含有率は、電極材料の全質量に対して、0.5質量%以下、好ましくは0.3質量%以下であり、かつ前記元素e)の全体含有率は、電極材料の全質量に対して、1.5?29質量%、好ましくは2?25質量%である。また、これらの本発明によるスパークプラグ電極は、表面上にある酸化物層が、上述の等式によって定義されるものより低い電気抵抗Rを有する電極材料の点で際だっているので、この電極材料に関しても全ての上述の利点が達成される。それに対して、ニッケルとアルミニウムとの組み合わせ又はニッケルとクロムとの組み合わせも、十分に低い電気抵抗をもたらさない一方で、この本発明による電極材料は、元素の鉄を、元素e)、つまりAl、Cr、Ni及びMoと組み合わせて有する。それによって、非常に安定でかつ均質な構造が形成される。また、酸化物の熱伝導特性、ひいては合金全体の熱伝導特性は、際だっている。元素Al、Cr、Ni及びMoの酸化物の電気的特性は、その場合とても際だって良好なので、それどころか、場合により好ましくは反応性元素b)を省くことができる。しかし、Y、Hf、Ce、La、Zr、Ta及びYbからなる群からの少なくとも1種の他の元素を添加して合金化するかもしくは該元素を計量供給することが特に好ましい。この合金材料においても、元素b)は、優れた電気的特性及び物理的特性の点で際だっており、該元素は既に先に詳細に説明したのと同じ有利な構造を形成する。元素e)の割合が電極材料の全質量に対して1.5質量%未満である場合に、電極の基礎材料中の導電性はより低くなる。それというのも、元素e)の金属酸化物の形成が僅かすぎて、それが電極材料中の接触抵抗を下げるからである。元素e)の25質量%より高い、それどころか29質量%より高い割合は、電気的特性の改善及び電極材料の構造にもはや本質的な影響を及ぼさない。
【0015】
電極材料中の酸素の割合が、該電極材料の全質量に対して0.003質量%未満であることが特に好ましい。電極材料中の酸素とは、本発明に関しては、ガス状で又は溶けて存在する各々の分子酸素のみならず、酸化物の形で結合された各々の酸素をも表す。言い換えると、本発明による電極材料、ひいては該材料から製造されるスパークプラグ電極も、スパークプラグ電極の始動前には、すなわち酸化物層がなければ、0.003質量%未満の酸素割合を有することを意味する。スパークプラグ電極の始動前の酸素割合が0.003質量%の上限を上回っている場合に、特にいわゆる反応性の金属元素であるY、Hf、Ce、La、Zr、Ta及びYb、つまり元素b)は、既に大部分がその酸化物の形で存在することが見出された。従って、前記の反応性元素の酸化物は、主に酸化物粒子として又は酸化物性の金属間化合物相として存在し、そのため合金マトリックスとは区別されている。従ってそれらは、スパークプラグの始動時にもはや酸素を結合できず、従って合金材料の耐酸化性の向上のためにもはや寄与しない。さらに、耐侵食性と材料の安定性もそれらに被害を受けるので、かかる電極材料の消耗速度は本発明による速度に対して明らかに高められている。スパークプラグ電極の始動前の初期酸素含有率が低いほど、不安定化する酸化物粒子の割合も、酸化物アグリゲートの割合も、又はそれどころか酸化物相の割合もより低くなり、前記材料は、スパークプラグの始動時に腐蝕及び火花侵食に対する保護がより良好となる。酸素割合についての0.003質量%の上限値は、この場合に限界値であると思われ、そうしてこの値を下回る酸素含有率は良好かつ持続的に安定な電極材料をもたらす。この低い酸素含有率は、少なくとも1種の元素c)を含有するニッケル基合金にとって特に重要であることが判明した。少なくとも1種の元素d)を含有するニッケル基合金の場合に、又はしかしながら上述の鉄基合金の場合には、該材料の酸化されやすさの成立はより低いと思われるので、合金材料中のより高い酸素含有率にも許容しうる。電極材料中の酸素含有率は、その場合に、合金材料の試料の高温抽出によって従来の方法に従って測定することができる。
【0016】
特に好ましくは、電極材料中の酸素の割合は、最大で0.002質量%である。前記の上限未満では、スパークプラグの始動前の電極材料における金属酸化物の形成は非常に僅かなので、該電極は高温でも酸化に対して最適に保護され、さらに腐蝕及び侵食による不安定化に対しても保護される。
【0017】
スパークプラグの始動前に、電極材料の全質量に対する電極材料中の酸化された元素b)の全体割合が、15モル%よりも低く、好ましくは10モル%よりも低いことが、さらに好ましいものと見なされる。電極の始動前の酸化物性元素b)の割合が10モル%を上回るか、又はそれどころか15モル%を上回るときに、その割合は既に非常に高いので、該反応性元素b)は、火花の衝撃に際して電極材料を安定化するためにもはや十分に寄与できない。それというのも、前記元素は、既に酸化された形態で存在し、従って更なる酸素を結合できないからである。従って、少なくとも1種の元素c)が添加され合金化された基礎材料、特にニッケルベース材料は、ここでより激しい酸化の影響下にあり、該電極材料はみるみるうちに消耗する。酸化された元素b)の割合が高いほど、電極材料に及ぼされうる安定化効果はより低くなる。その一方で、酸化された元素b)の割合が低いほど、結果的に、反応性元素がニッケル組織にもたらす安定化作用がより高くなる。
【0018】
金属間化合物の第二の相の形成は、電極材料の安定性、つまりその耐酸化性並びに耐蝕性及び耐侵食性に関して特に不利であると示された。金属間化合物の第二の相は、既に説明したように、高い割合の反応性元素b)が合金材料中に存在し、それが次いで基礎材料との不相容性に基づき固溶形で存在せずに金属間化合物の第二の相の形で存在する場合に特に形成する。これらの金属間化合物の第二の相は、電極材料の不安定化をもたらす。それというのも、該相は合金マトリックス中に均質に導入されずに、そこから分離して存在するので、合金元素間の結合が局所的にかつ更なる範囲にわたって低減されるからである。その合金組織は、金属間化合物の第二の相によって害される。従って、前記材料の電気抵抗は高められ、結果的に特に前記材料の熱伝導性と導電性は低減されるか、もしくは、これらは全範囲にわたって不均質になるので、局所的に高い温度変動が生ずることがあり、該材料はこの位置で広がり、そして該材料の剥離が引き起こされることがある。そのことは、電極材料の消耗を促進する。合金組織の撹乱は、電極材料中の金属間化合物の相の割合が15モル%もしくはそれより高い場合に特に大きくなる。組成物全体に対して、15モル%未満の割合、好ましくは10モル%未満の割合を有する金属間化合物の相はなおも許容できるので、その不安定化作用は必ずもたらされるわけではなく、合金マトリックスは十分に安定的に形成されていることが判明した。金属間化合物の相の割合が低くなるほど、合金組織はより安定的に現れる。従って、金属間化合物の相は電極材料中に本質的に存在しないことが特に好ましい。
【0019】
スパークプラグ電極用の本発明による電極材料は、中心電極の製造のためにも、外側電極のためにも、同時に両方の電極の製造のためにも使用することができる。前記材料から形成されたスパークプラグは、その寿命の点で、貴金属を含むことなく、貴金属材料製のスパークプラグで達成されるのとほぼ同じ範囲にある。
【0020】
それに対して、従来の貴金属を含まないスパークプラグの寿命は約60000kmまでであるに過ぎない一方で、本発明によるスパークプラグ電極の寿命は、より著しく長く、すなわち90000kmの範囲である。そのことは、本質的により良好な市場に対する許容性をもたらし、環境技術的な理由からも経済的な理由からも好ましい。
【0021】
本発明によれば、少なくとも1つのスパークプラグ電極を含み、従って改善された耐酸化性及び耐蝕性並びに火花侵食安定性及び熱伝導性を有するスパークプラグが提供される。
【0022】
さらに、本発明は、
a)基礎材料としてのニッケルと、
b)Y、Hf、Ce、La、Zr、Ta及びYbからなる群から選択される少なくとも1種の他の元素と、
c)Si、Na、K、Li、Ti、Ag及びCuからなる群から選択される少なくとも1種の他の元素と
を含有する電極材料を特徴とするスパークプラグ電極であって、前記元素b)の全体割合が、電極材料の全質量に対して、0.1?0.3質量%、好ましくは0.1?0.2質量%、特に好ましくは0.13?0.17質量%である前記スパークプラグ電極に関する。好ましくは、該電極材料は、電極材料の全質量に対して、0.003質量%未満の酸素含有率を有する。この実施形態において、前記電極材料は、構造的な観点でも、化学・物理的な観点でも最適に構成されている。該材料は小さい電気抵抗を有し、熱伝導性に優れ、さらに耐酸化性であり、特に例えば車両のエンジンルーム内でスパークプラグで存在しうるような高められた温度でも火花侵食及び腐蝕に対して抵抗性である。前記材料は、加工性に優れ、かつ自体均質である。電極の表面上に形成される酸化物層は、良好に適合された材料に基づいて安定性であるが、十分に薄く、こうして熱伝導性と導電性に本質的に悪影響が及ぼされない。該材料は、堅牢性であり、つまり長い寿命でも安定であり、極めて低い消耗速度の点で際だっている。
また、前記元素c)の全体割合は、電極材料の全質量に対して、0.5?3質量%、好ましくは1.0?2.5質量%である。
【0023】
さらに、本発明は、
a)基礎材料としてのニッケルと、
b)Y、Hf、Ce、La、Zr、Ta及びYbからなる群から選択される少なくとも1種の他の元素と、
d)V、Zn及びTiからなる群から選択される少なくとも1種の他の元素と
を含有する電極材料を特徴とするスパークプラグ電極であって、前記元素b)の全体含有率が、電極材料の全質量に対して、0.5質量%以下、好ましくは0.3質量%以下であり、かつ前記元素d)の全体含有率は、電極材料の全質量に対して、1.5?18質量%、好ましくは2?15質量%である前記スパークプラグ電極に関する。
【0024】
元素b)の全体含有率についての値はゼロであってもよいことが留意される。
【0025】
さらに、本発明は、
a)基礎材料としての鉄と、
b)Y、Hf、Ce、La、Zr、Ta及びYbからなる群から選択される少なくとも1種の他の元素と、
e)Al、Cr、Ni及びMoからなる群から選択される少なくとも1種の他の元素と
を含有する電極材料を特徴とするスパークプラグ電極であって、前記元素b)の全体含有率が、電極材料の全質量に対して、0.5質量%以下、好ましくは0.3質量%以下であり、かつ前記元素e)の全体含有率が、電極材料の全質量に対して、1.5?29質量%、好ましくは2?25質量%である前記スパークプラグ電極に関する。
【0026】
元素b)の全体含有率についての値はゼロであってもよいことが留意される。
【0027】
3種の挙げられた選択肢の本発明による電極材料は、その場合、特に好ましくは、電極材料の全質量に対して、最大0.003質量%の、特に0.002質量%の酸素含有率を有する。
【0028】
以下に、添付の図面を参照しながら本発明の好ましい実施形態を説明する。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【図1】図1は、本発明によるスパークプラグ電極の断面図を示している。
【図2】図2は、従来技術によるスパークプラグ電極の断面図を示している。
【図3】図3は、電極の電気抵抗を温度との関係で示した対数グラフである。
【図4】図4は、スパークプラグ電極の消耗減少を組成との関係で示している。
【図5】図5は、電極の電気抵抗を温度との関係で示したアレニウスプロットである。
【0030】
実施形態の説明
以下に、図1、3、4及び5を参照しながら本発明の実施例によるスパークプラグ電極を説明する。
【0031】
本発明による電極材料もしくは本発明によるスパークプラグの利点を、図1と図2とを比較することによって具体的に示す。図1及び図2は、電極の一部の走査型電子顕微鏡による500倍の倍率での顕微鏡写真である。図1及び図2において、符号(1)は、その都度の電極基礎材料を表す。符号(2)は、上に酸化物層(3)が形成された電極材料の表面を表す。その上には、該電極が導入されているガス空間(4)がある。
【0032】
図1は、本発明によるニッケル合金の顕微鏡写真である。前記ニッケル合金は、それぞれ電極材料の全質量に対して、0.2質量%のハフニウムを元素b)として含有し、かつ1質量%のケイ素を元素c)として含有し、さらに0.0015質量%未満の酸素含有率を有する。本発明による電極材料における酸化物層(3)は、非常に薄くかつ一様に構成されており、かつ平均して約5?8μmの厚さであることがはっきりと確認される。そのことは、本発明により薄くかつ安定的に現れている酸化物保護層の形成に対して反応性元素b)が及ぼす好ましい影響を明らかに示している。電極材料の内部の酸化された領域は、実質上存在しない。
【0033】
そのことは、本発明による電極材料の安定性と、さらには耐蝕性及び耐侵食性を示している。
【0034】
図2は、従来のニッケル合金の顕微鏡写真を示している。前記ニッケル合金は、1質量%のAlと、1質量%のSiと、0.2質量%のYと、さらに0.0033質量%の酸素含有率を有する。ここで、該電極の表面上にある酸化物層(3)は不均一で多孔質に形成されており、かつ酸化物領域が電極材料の内側の深くまで延びている遠くまで広がる大きな部分領域(6)を示す。該電極の表面上に形成された酸化物層は、より著しく厚く形成されており、かつ平均して12?20μmである。これらの不安定化効果は、電極材料の組成に直接起因している。ここでは、反応性の元素b)は最適な濃度にあるものの、固溶した状態にはなくて、孤立したアグリゲートの形態もしくは金属間化合物の第二の相(5)の形態で存在し、それらはニッケルマトリックスから区別されている。こうして、ニッケル組織は欠陥を伴い、周囲の酸素は、一方で電極表面上のニッケルをより著しく激しく酸化し、他方で酸素が電極内部へと侵入し、ここで更なるニッケルも反応性の元素b)からの金属間化合物の第二の相も酸化する。該電極材料は、結果として高い消耗速度の点で突出する。
【0035】
図3は、温度T(℃)との対数的な関係における、2つの電極の酸化物層の電気抵抗R(Ω)の測定結果を示している。測定点が正方形で表される上方の曲線推移(10)は、従来技術の電極(図2)について測定された。その下にある、測定値が×印で示されている曲線(11)は、本発明による電極(図1)の測定結果である。電極表面上での本発明によるより薄い酸化物性の保護層によって電気抵抗Rが、全温度範囲において、従来の電極材料におけるものよりも著しく低いことがはっきりと分かる。従って、本発明による電極材料は、その場合に電極材料中で貴金属を使用することなく、卓越した導電性を有する。
【0036】
図4は、以下の概要でまとめられている種々の組成の電極材料の種々の消耗速度を示している。図4では、その場合に、種々の電極材料について、1火花あたりの消耗V(μm^(3))が表されている。その場合に、菱形は、測定値の平均値を表し、かつ鉛直線はそのばらつきを表している。
【0037】
【表1】

【0038】
本発明による電極材料が、約25%の消耗の低減をもたらすことがよく分かる。
【0039】
図5においては、温度T′にわたる電気抵抗Rを表すアレニウスプロットが表されており、その際、温度T′は商1000/T(K^(-1))によって表されている。それによって等式logR=a+b*1000/Tを定義できる。その際、aは、0.6?0.8であり、bは、3.1?3.2であり、かつTは、相応の電極温度(ケルビン)である。図5からはっきりと分かるように、本発明によるスパークプラグ電極(直線(13))の酸化物層の電気抵抗は、貴金属を含まない電極(直線(12))の従来の酸化物層の抵抗よりも明らかに低い。
【符号の説明】
【0040】
1 電極基礎材料、 2 電極材料の表面、 3 酸化物層、 4 ガス空間、 5 金属間化合物の第二の相、 6 部分領域
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
電極材料から製造されたスパークプラグ電極であって、前記電極材料の表面上に存在する酸化物層が、以下の等式:
【数1】

[式中、
0.6≦a≦0.8であり、
3.1≦b≦3.2であり、
Tは、ケルビンでの温度を表す]によって定義されるよりも低いか又はそれと同じである電気抵抗R(Ω)を有し、
前記電極材料が、
a)基礎材料としてのニッケルと、
b)Y、Hf、Ce、La、Zr、Ta及びYbからなる群から選択される少なくとも1種の他の元素と、
c)Si及びTiからなる群から選択される少なくとも1種の他の元素と
不可避不純物とから成り、前記元素b)の全体割合が、電極材料の全質量に対し0.1?0.2質量%であり、前記元素c)の全体割合が、電極材料の全質量に対して1.0?2.5質量%であり、かつ、電極材料の全質量に対して最大0.003質量%の酸素含有率を有することを特徴とする、前記スパークプラグ電極。
【請求項2】
aが0.7であることを特徴とする、請求項1に記載のスパークプラグ電極。
【請求項3】
bが3.2であることを特徴とする、請求項1又は2に記載のスパークプラグ電極。
【請求項4】
電極材料の表面上の酸化物層が、20℃で、6W/mKを上回る熱伝導性を有することを特徴とする、請求項1から3までのいずれか1項に記載のスパークプラグ電極。
【請求項5】
電極材料の表面上の酸化物層が、20℃で、8W/mKを上回る熱伝導性を有することを特徴とする、請求項4に記載のスパークプラグ電極。
【請求項6】
電極材料の表面上の酸化物層が、20℃で、10W/mKを上回る熱伝導性を有することを特徴とする、請求項5に記載のスパークプラグ電極。
【請求項7】
前記酸化物層が、10μm未満の厚さを有することを特徴とする、請求項1から6までのいずれか1項に記載のスパークプラグ電極。
【請求項8】
前記酸化物層が、5?8μmの範囲の厚さを有することを特徴とする、請求項7に記載のスパークプラグ電極。
【請求項9】
前記元素b)の全体割合が、電極材料の全質量に対して、0.13?0.17質量%であることを特徴とする、請求項1に記載のスパークプラグ電極。
【請求項10】
前記電極材料が、電極材料の全質量に対して、最大0.002質量%の酸素含有率を有することを特徴とする、請求項1から9までのいずれか1項に記載のスパークプラグ電極。
【請求項11】
前記電極材料中の金属間化合物の相の割合が、電極材料の全組成に対して、15モル%よりも低いことを特徴とする、請求項1から10までのいずれか1項に記載のスパークプラグ電極。
【請求項12】
前記電極材料中の金属間化合物の相の割合が、電極材料の全組成に対して、10モル%よりも低いことを特徴とする、請求項11に記載のスパークプラグ電極。
【請求項13】
請求項1から12までのいずれか1項に記載のスパークプラグ電極を少なくとも1つ含むスパークプラグ。
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
異議決定日 2017-10-17 
出願番号 特願2012-535701(P2012-535701)
審決分類 P 1 651・ 536- YAA (C22C)
P 1 651・ 121- YAA (C22C)
P 1 651・ 537- YAA (C22C)
P 1 651・ 113- YAA (C22C)
最終処分 維持  
前審関与審査官 馳平 憲一市川 篤森井 隆信  
特許庁審判長 鈴木 正紀
特許庁審判官 長谷山 健
河本 充雄
登録日 2015-10-23 
登録番号 特許第5826182号(P5826182)
権利者 ローベルト ボツシユ ゲゼルシヤフト ミツト ベシユレンクテル ハフツング
発明の名称 改善された電極材料から製造されたスパークプラグ電極  
代理人 アインゼル・フェリックス=ラインハルト  
代理人 久野 琢也  
代理人 アインゼル・フェリックス=ラインハルト  
代理人 久野 琢也  

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