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審決分類 審判 一部申し立て 2項進歩性  B32B
管理番号 1335145
異議申立番号 異議2017-700233  
総通号数 217 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2018-01-26 
種別 異議の決定 
異議申立日 2017-03-07 
確定日 2017-10-31 
異議申立件数
訂正明細書 有 
事件の表示 特許第5988867号発明「透明導電性フィルム」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第5988867号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1-4、7、8〕、〔5、6〕について訂正することを認める。 特許第5988867号の請求項1?4、7、8に係る特許を維持する。 
理由 第1 手続の経緯
特許5988867号の請求項1?8に係る特許についての出願は、平成24年12月27日を出願日とする出願であって、平成28年8月19日にその特許権の設定登録がされ、その後、請求項1?4、7、8に係る特許について、特許異議申立人小松一枝及び前田知子(以下、「申立人」という。)により特許異議の申立てがされ、当審において平成29年4月18日付けで取消理由が通知され、その指定期間内である平成29年6月16日に意見書の提出及び訂正の請求がなされ、その訂正の請求に対して申立人から平成29年7月25日付けで意見書が提出されたものである。
さらに、平成29年10月2日付けで訂正拒絶理由が通知され、平成29年10月12日付け手続補正書により、本件訂正請求に係る訂正請求書及び添付された訂正特許請求の範囲が補正された。なお、当該手続補正書により補正された訂正請求書による訂正を、以下、「本件訂正請求」といい、訂正自体を「本件訂正」という。

第2 訂正の適否についての判断

1.訂正の内容
上記本件訂正の内容は、以下の訂正事項からなるものである。それぞれの訂正事項を訂正箇所に下線を付して示す。

(1)訂正事項1
本件特許の請求項1に
「下記関係式(1)および(2)を満足することを特徴とする透明導電性フィルム」とあるのを、
「下記関係式(1)および(2)を満足するとともに、
前記透明プラスチックフィルム基材の1辺の長さが30cm以下であり、
前記透明導電性膜がパターン状に形成されたものである静電容量式タッチパネル用の導電性フィルム」と訂正する。

(2)訂正事項2
本件特許の請求項5に
「前記光学調整層が、透明プラスチックフィルム基材側から中屈折率層と、高屈折率層と、低屈折率層と、を順次に積層されてなり、前記中屈折率層が、屈折率1.4以上1.7未満であるとともに、前記低屈折率層の屈折率よりも高く、かつ、前記高屈折率層の屈折率よりも低い層であり、前記高屈折率層が、屈折率1.6以上2未満であり、前記低屈折率層が、屈折率1.3以上1.6未満であることを特徴とする請求項1?4のいずれか一項に記載の透明導電性フィルム。」とあるのを、
「透明プラスチックフィルム基材の少なくとも一方の面に、光学調整層と、透明導電性膜と、を順次に積層してなる透明導電性フィルムであって、
前記透明プラスチックフィルムが、150℃で1時間加熱した場合の前記透明プラスチックフィルム基材の主配向軸と直交する方向における熱収縮率をT1(%)とし、前記透明プラスチックフィルム基材の主配向軸と平行な方向における熱収縮率をT2(%)とし、前記透明プラスチックフィルム基材の厚さをL(μm)としたときに、下記関係式(1)および(2)を満足するとともに、
前記光学調整層が、透明プラスチックフィルム基材側から中屈折率層と、高屈折率層と、低屈折率層と、を順次に積層されてなり、前記中屈折率層が、屈折率1.4以上1.7未満であるとともに、前記低屈折率層の屈折率よりも高く、かつ、前記高屈折率層の屈折率よりも低い層であり、前記高屈折率層が、屈折率1.6以上2未満であり、前記低屈折率層が、屈折率1.3以上1.6未満であることを特徴とする透明導電性フィルム。
T1/L<0.0045 (1)
T2/L<0.0035 (2)」と訂正する。

2.訂正の目的の適否、新規事項の有無、及び、特許請求の範囲の拡張・変更の存否、一群の請求項

(1)訂正事項1に係る訂正は、本件訂正前の請求項1に記載された透明導電性フィルムにおいて、寸法について、「前記透明プラスチックフィルム基材の1辺の長さが30cm以下」と限定し、透明導電性膜の形成の態様について、「パターン状に形成された」と限定し、用途について、「静電容量式タッチパネル用」と限定するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。
本件特許明細書には、「・・・なお、本発明に用いる透明プラスチックフィルム基材の表面における1辺の長さは、配向軸の直線性をより向上させる観点から、30cm以下であることが好ましく、・・・」(段落【0030】)との記載があり、「・・・なお、上述したライン状若しくは格子状における線幅は一定である場合に限られず、例えば、静電容量式のタッチパネルに要求される形状に連なるもの等を自由に選択することができる。・・・」(段落【0060】)との記載がある。また、本件特許の請求項7には、「前記透明導電性膜が、インジウム錫酸化物からなるとともに、パターン状に形成されてなることを特徴とする請求項1?6のいずれか一項に記載の透明導電性フィルム。」との記載がある。
したがって、訂正事項1に係る訂正は、新規事項を追加するものではなく、特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではないことは明らかである。

(2)訂正事項2に係る訂正は、本件訂正前の請求項1?4のいずれかを引用する記載であった請求項5のうち、請求項1を引用するものに限定し、かつ、請求項1の記載を引用しない記載とするものであるから、訂正事項2に係る訂正は、特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。
訂正事項2に係る訂正が、新規事項を追加するものではなく、特許請求の範囲を拡張し、又は変更をするものではないことは明らかである。

(3)一群の請求項
本件訂正前の本件特許請求項の範囲の請求項1?8は、請求項1と、直接間接に請求項1を引用する請求項2?8からなるものであって、本件訂正請求は、当該請求項1?8を対象とするものであるから、一群の請求項について訂正を請求するものである。

3.独立特許要件について
本件訂正前の請求項5及び6は、本件特許異議が申し立てられていない請求項である。上記2.(2)に示したように、請求項5及び6についての訂正事項2に係る訂正は、特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当するけれども、実質的に本件訂正前の請求項2?4を引用する請求項5を削除するものであるから、独立特許要件に係る判断を要するものではない。

4.小括
以上のとおりであるから、本件訂正請求による訂正は特許法第120条の5第2項ただし書き第1号に掲げる事項を目的とするものに該当し、かつ、同条第4項、及び同条第9項において準用する同法第126条第4項から第7項までの規定に適合するので、訂正後の請求項〔1-4、7、8〕、〔5、6〕について訂正を認める。

第3 特許異議の申立てについて

1.本件発明
本件訂正請求により訂正された訂正特許請求の範囲の請求項1?4、7、8に係る発明(以下、「本件発明1」などという。)は、その特許請求の範囲の請求項1?4、7、8に記載された次の事項により特定されるとおりのものである。

「【請求項1】
透明プラスチックフィルム基材の少なくとも一方の面に、光学調整層と、透明導電性膜と、を順次に積層してなる透明導電性フィルムであって、
前記透明プラスチックフィルムが、150℃で1時間加熱した場合の前記透明プラスチックフィルム基材の主配向軸と直交する方向における熱収縮率をT1(%)とし、前記透明プラスチックフィルム基材の主配向軸と平行な方向における熱収縮率をT2(%)とし、前記透明プラスチックフィルム基材の厚さをL(μm)としたときに、下記関係式(1)および(2)を満足するとともに、
前記透明プラスチックフィルム基材の1辺の長さが30cm以下であり、 前記透明導電性膜がパターン状に形成されたものである静電容量式タッチパネル用の導電性フィルム。
T1/L<0.0045 (1)
T2/L<0.0035 (2)
【請求項2】
前記透明プラスチックフィルム基材の前記主配向軸と直交する方向における熱収縮率(T1)が0?0.5%であることを特徴とする請求項1に記載の透明導電性フィルム。
【請求項3】
前記透明プラスチックフィルム基材の前記主配向軸と平行な方向における熱収縮率(T2)が0?0.4%であることを特徴とする請求項1または2に記載の透明導電性フィルム。
【請求項4】
前記透明プラスチックフィルム基材の厚さ(L)が25?200μmであることを特徴とする請求項1?3のいずれか一項に記載の透明導電性フィルム。
【請求項7】
前記透明導電性膜が、インジウム錫酸化物からなるとともに、パターン状に形成されてなることを特徴とする請求項1?6のいずれか一項に記載の透明導電性フィルム。
【請求項8】
前記透明導電性膜の厚さが5?500nmであることを特徴とする請求項1?7のいずれか一項に記載の透明導電性フィルム。」

2.取消理由の概要
本件発明1?4、7、8に係る特許に対して平成29年4月18日付けで特許権者に通知した取消理由の要旨は、以下のとおりである。

【理由1】
本件発明1?4、7、8は、その出願前日本国内または外国において頒布された下記の刊行物に記載された発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
以下、甲第1号証等を「甲1」等といい、甲1に記載された発明及び事項を、「甲1発明」及び「甲1事項」という。



本件発明1?4、7、8は、以下の甲1発明及び甲2に記載された従来周知の事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものである。

<刊 行 物 等 一 覧>
甲1:特開2007-133839号公報
甲2:特開2001-14952号公報

3.判断

(1)甲1の記載
甲1には、【請求項1】、【請求項6】、段落【0001】、【0005】、【0010】、【0022】、【0043】、【0054】、【0067】の【表1】、並びに、【図1A】?【図1F】の記載があり、これらの記載から、甲1には、以下の甲1発明が記載されていると認める。

「基体の少なくとも一方の面に、導電膜を積層してなるタッチパネル用導電性フィルム」

(2)本件発明1について

ア.対比
本件発明1と甲1発明とを対比すると、少なくとも以下の点で相違する。

<相違点>
本件発明1の透明導電性フィルムは、透明プラスチックフィルム基材の少なくとも一方の面に、光学調整層と、透明導電性膜と、を順次に積層したものであって、前記透明プラスチックフィルム基材の一辺の長さは30cm以下であり、前記透明導電性膜がパターン状に形成されたものである、静電容量式タッチパネル用の透明導電性フィルム、であるのに対し、甲1発明のタッチパネル用導電性フィルムは、光学調整層がなく、基体の一辺の長さが30cm以下であるか、そして導電膜がパターン状に形成されたものであるか、不明であり、さらに静電容量式のタッチパネル用の導電性フィルムであるかも不明である点。

イ.判断
本件特許明細書には、以下の記載がある。
「【背景技術】
【0002】
従来、画像表示部に直接触れることにより情報を入力できるタッチパネルは、光透過性の入力装置をディスプレイ上に配置してなるものである。
かかるタッチパネルの代表的な形式としては、2枚の透明電極基板をそれぞれの透明電極層が向かい合うように隙間を設けつつ配置してなる抵抗膜式タッチパネルや、透明電極膜と指との間に生じる静電容量の変化を利用する静電容量式タッチパネルが存在する。
【0003】
このうち、静電容量式タッチパネルでは、指のタッチ位置を検出するためのセンサーとして、大別して透明導電性膜がガラス基材上に積層されてなるガラスセンサーと、透明導電性膜が透明プラスチックフィルム基材上に積層されてなるフィルムセンサーとが存在する。
特にフィルムセンサーにおいては、ライン状にパターン化された透明導電性膜を備えた透明導電性フィルム2枚を、それぞれのパターンが互いにクロスするように配置することにより、格子状のパターンが形成されることが多い。
【0004】
しかしながら、このように透明導電性膜をパターン化した場合、パターン部と非パターン部との境界部分が視認されやすくなってしまい、静電容量式タッチパネルの見栄えが悪くなるという問題が見られた。」
「【0009】
すなわち、本発明の目的はフィルム構成が簡略である一方で、アニール処理を施した場合であっても、透明導電性膜のパターン形状が視認されにくい透明導電性フィルムを提供することにある。」
「【0010】
本発明者等は、鋭意検討を重ねた結果、以下の透明導電性フィルムにより上述した課題を解決できることを見出し、発明を完成させた。
すなわち、透明プラスチックフィルム基材の少なくとも一方の面に、光学調整層と、透明導電性膜と、を順次に積層してなる透明導電性フィルムであって、透明プラスチックフィルムが、150℃で1時間加熱した場合の透明プラスチックフィルム基材の主配向軸と直交する方向における熱収縮率をT1(%)とし、透明プラスチックフィルム基材の主配向軸と平行な方向における熱収縮率をT2(%)とし、透明プラスチックフィルム基材の厚さをL(μm)としたときに、下記関係式(1)および(2)を満足することを特徴とする透明導電性フィルムが提供され、上述した問題を解決することができる。
T1/L<0.0045 (1)
T2/L<0.0035 (2)
すなわち、本発明の透明導電性フィルムによれば、透明プラスチックフィルム基材として、その主配向軸を基準とした所定の熱収縮率、および厚さが所定の関係式を満足するものを用いている。
これにより、フィルム構成が簡略である一方で、アニール処理を施した場合であっても
、透明導電性膜のパターン形状を視認されにくくすることができる。
また、透明導電性膜と、透明プラスチックフィルム基材との間に、光学調整層を設けていることから、透明導電性膜の屈折率と、透明プラスチックフィルム基材の屈折率との差に起因した透明導電性膜のパターン形状を視認されにくくすることができる。」
「【0022】
・・・
まず、本発明の関係式(1)および(2)を説明する前に、透明導電性膜のパターンがアニール処理により視認されやすくなる現象について、推測を交えて説明する。
・・・
上述した推定より、熱収縮率の小さい透明プラスチックフィルム基材を使用することにより、光学調整層および透明プラスチックフィルム基材の熱収縮を抑えることができ、ひいては、アニール処理後における透明導電性膜のパターン形状を視認されにくくすることができると期待された。
【0023】
しかしながら、MD方向およびTD方向を基準とした熱収縮率が小さい透明プラスチックフィルム基材を使用した場合であっても、アニール処理後における透明導電性膜のパターン形状を安定して視認されにくくすることはできなかった。
この現象を鋭意検討した結果、MD方向およびTD方向ではなく、配向軸を基準としたて所定の熱収縮率を示す透明プラスチックフィルム基材を使用することにより、アニール処理後における透明導電性膜のパターン形状を視認されにくくすることができることが明らかとなった。
【0024】
具体的に説明すると、図2(a)に示すように、MD方向およびTD方向は、巾1000?1500mm程度の大きなフィルムを作製する際の条件により得られる情報である。
一方、モバイル等の小型電子機器に使用されるタッチパネル用の小さな透明導電性フィルムの基材は、当該大きなフィルムから複数のフィルムが切り出されることになる。
このため、図2(b)に示すように、フィルムの中央部分で切り出された透明プラスチックフィルム基材と、図2(c)に示すように、端の部分で切り出された透明プラスチックフィルム基材とでは、配向軸の方向が大きく異なることになり、熱収縮率はMD方向およびTD方向に対応した挙動を示さず、配向軸に対応した挙動を示すことになる。
したがって、透明プラスチックフィルム基材は、MD方向およびTD方向ではなく、配向軸方向およびその垂直方向の熱収縮率で所定値内のものを選択する必要があることが明らかとなった。」
「【0030】
・・・
なお、本発明に用いる透明プラスチックフィルム基材の表面における1辺の長さは、配向軸の直線性をより向上させる観点から、30cm以下であることが好ましく、20cm以下であることがより好ましく、15cm以下であることがさらに好ましい。」

以上の摘記事項から、本件発明1は、透明導電性膜が透明プラスチックフィルム基材上に積層されて、透明導電性膜がパターン状に形成された静電容量式タッチパネルにおいて、パターン部と非パターン部との境界部分が視認されやすく、静電容量式タッチパネルの見栄えが悪くなるという問題を解決しようとしてなされたものである。そして、小型電子機器に使用されるタッチパネル用の小さな透明導電性フィルム基材においては、MD方向およびTD方向ではなく、配向軸方向およびその垂直方向の熱収縮率で所定の条件を満たす必要がある、との知見、そして、配向軸の直線性をより向上させる観点から、本件発明1は、1辺の長さが30cm以下の透明プラスチックフィルム基材の主配向軸と直交する方向における熱収縮率をT1(%)、透明プラスチックフィルム基材の主配向軸と平行な方向における熱収縮率をT2(%)とし、それらとフィルム基材の厚さL(μm)との関係式を特定事項として包含するものである。
そして、本件発明1は、上記相違点に係る構成を備えることにより、小型電子機器に使用されるフィルムセンサーによる静電容量式タッチパネルにおいて、パターン部と非パターン部との境界部分が視認されやすくなる、との問題点が解決できる、との格別な作用効果を奏するものである。
一方、前記透明プラスチックフィルム基材の1辺の長さが30cm以下の、透明導電性膜がパターン上に形成された静電容量式タッチパネルの透明導電性フィルムにおいて、熱収縮率を、透明プラスチックフィルム基材の主配向軸と直交する方向における熱収縮率と、透明プラスチックフィルム基材の主配向軸と平行な方向における熱収縮率に着目する旨の記載は、甲1及び甲2には記載されていないし、示唆する記載もない。
よって、本件発明1は、甲1発明、及び、甲2に記載された従来周知の事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。

(3)本件発明2?4、7、8について
本件発明2?4、7、8の各々は、本件発明1を直接あるいは間接に引用するものである。そうすると、本件発明1は、上記イ.に示したように、甲1発明、及び、甲2に記載された従来周知の事項に基いて当業者が容易に発明することができたものであるとはいえないから、本件発明1の構成を全て包含し、さらに技術的に限定された、本件発明2?4,7、8の各々も、甲1発明、及び、甲2に記載された従来周知の事項に基いて当業者が容易に発明することができたものであるとはいえない。

(4)小活
以上のとおりであるから、本件発明1?4、7、8の各々は、甲1発明、及び、甲2に記載された従来周知の事項に基いて当業者が容易に発明することができたものであるとはいえないから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものではない。
したがって、本件発明1?4、7、8に係る特許は、特許法第113条第1項第2号に該当することを理由に取り消すことはできない。

(5)平成29年7月25日付け申立人意見書について
申立人は平成29年7月25日付け意見書において、静電容量式タッチパネル用との用途限定は、物を特定するための意味を有しておらず、タッチパネルについて抵抗膜式と、静電容量式の二つの方式が、本件特許の出願当時において、一般的な方式であって(甲3:「月間ディスプレイ第17巻第12号」(株)テクノタイムズ社、2011年12月1日発行、27?39ページ)、かつ、静電容量式タッチパネルとして使用する際に、透明プラスチックフィルム基材の一辺の長さが30cm以下とすることは、従来周知の技術(甲4:「2011年版 高機能フィルム市場の展望と戦略」(株)矢野経済研究所、2011年7月19日発行、86?97ページ)であるから、本件発明1?4、7、8は、甲1発明及び従来周知の事項に基いて、当業者が容易に発明することができたものである、と主張している。
しかしながら、上記(2)で示したように、本件発明1は、透明導電性膜が透明プラスチックフィルム基材上に積層されてなる透明導電性膜がパターン上に形成された静電容量式タッチパネルにおいて、パターン部と非パターン部との境界部分が視認されやすくなってしまい、静電容量式タッチパネルの見栄えが悪くなるという問題を解決しようとしてなされたものであり、静電容量式タッチパネル用との用途限定は、本件発明1に記載されたタッチパネルが当該問題を生じる得るための前提となる構成であるから、物を特定するための意味を有していない、ということはいえない。
静電容量式タッチパネルが、本件特許の出願当時において、一般的な方式であって、かつ、静電容量式タッチパネルとして使用する際に、透明プラスチックフィルム基材の一辺の長さが30cm以下とすることは、従来周知の技術であったとしても、上記(2)に示したように、透明プラスチックフィルム基材の一辺の長さが30cm以下である静電容量式タッチパネルにおいては、熱収縮率を、透明プラスチックフィルム基材の主配向軸と直交する方向における熱収縮率と、透明プラスチックフィルム基材の主配向軸と平行な方向における熱収縮率に着目すべきであることまでは、甲1?4には記載されていないし、示唆する記載もない。
よって、上記申立人の意見書における主張を検討しても、本件発明1?4、7、8は、甲1発明及び従来周知の事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。

第4 むすび
以上のとおり、本件発明1?4、7、8に係る特許については、取消理由通知に記載した取消理由によっては取り消すことはできない。さらに、他に本件発明1?4、7、8に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
 
発明の名称 (57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
透明プラスチックフィルム基材の少なくとも一方の面に、光学調整層と、透明導電性膜と、を順次に積層してなる透明導電性フィルムであって、
前記透明プラスチックフィルムが、150℃で1時間加熱した場合の前記透明プラスチックフィルム基材の主配向軸と直交する方向における熱収縮率をT1(%)とし、前記透明プラスチックフィルム基材の主配向軸と平行な方向における熱収縮率をT2(%)とし、前記透明プラスチックフィルム基材の厚さをL(μm)としたときに、下記関係式(1)および(2)を満足するとともに、
前記透明プラスチックフィルム基材の1辺の長さが30cm以下であり、
前記透明導電性膜がパターン状に形成されたものである静電容量式タッチパネル用の透明導電性フィルム。
T1/L<0.0045 (1)
T2/L<0.0035 (2)
【請求項2】
前記透明プラスチックフィルム基材の前記主配向軸と直交する方向における熱収縮率(T1)が0?0.5%であることを特徴とする請求項1に記載の透明導電性フィルム。
【請求項3】
前記透明プラスチックフィルム基材の前記主配向軸と平行な方向における熱収縮率(T2)が0?0.4%であることを特徴とする請求項1または2に記載の透明導電性フィルム。
【請求項4】
前記透明プラスチックフィルム基材の厚さ(L)が25?200μmであることを特徴とする請求項1?3のいずれか一項に記載の透明導電性フィルム。
【請求項5】
透明プラスチックフィルム基材の少なくとも一方の面に、光学調整層と、透明導電性膜と、を順次に積層してなる透明導電性フィルムであって、
前記透明プラスチックフィルムが、150℃で1時間加熱した場合の前記透明プラスチックフィルム基材の主配向軸と直交する方向における熱収縮率をT1(%)とし、前記透明プラスチックフィルム基材の主配向軸と平行な方向における熱収縮率をT2(%)とし、前記透明プラスチックフィルム基材の厚さをL(μm)としたときに、下記関係式(1)および(2)を満足するとともに、
前記光学調整層が、透明プラスチックフィルム基材側から中屈折率層と、高屈折率層と、低屈折率層と、を順次に積層されてなり、前記中屈折率層が、屈折率1.4以上1.7未満であるとともに、前記低屈折率層の屈折率よりも高く、かつ、前記高屈折率層の屈折率よりも低い層であり、前記高屈折率層が、屈折率1.6以上2未満であり、前記低屈折率層が、屈折率1.3以上1.6未満であることを特徴とする透明導電性フィルム。
T1/L<0.0045 (1)
T2/L<0.0035 (2)
【請求項6】
前記中屈折率層の厚さが50?5000nmであり、前記高屈折率層の厚さが20?130nmであり、かつ、前記低屈折率層の厚さが10?150nmであることを特徴とする請求項5に記載の透明導電性フィルム。
【請求項7】
前記透明導電性膜が、インジウム錫酸化物からなるとともに、パターン状に形成されてなることを特徴とする請求項1?6のいずれか一項に記載の透明導電性フィルム。
【請求項8】
前記透明導電性膜の厚さが5?500nmであることを特徴とする請求項1?7のいずれか一項に記載の透明導電性フィルム。
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
異議決定日 2017-10-20 
出願番号 特願2012-285430(P2012-285430)
審決分類 P 1 652・ 121- YAA (B32B)
最終処分 維持  
前審関与審査官 増田 亮子福井 弘子  
特許庁審判長 渡邊 豊英
特許庁審判官 久保 克彦
井上 茂夫
登録日 2016-08-19 
登録番号 特許第5988867号(P5988867)
権利者 リンテック株式会社
発明の名称 透明導電性フィルム  
代理人 吉田 雅一  
代理人 江森 健二  
代理人 吉田 雅一  
代理人 江森 健二  

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