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審決分類 審判 全部申し立て 1項3号刊行物記載  B23K
審判 全部申し立て 2項進歩性  B23K
管理番号 1335164
異議申立番号 異議2017-700840  
総通号数 217 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2018-01-26 
種別 異議の決定 
異議申立日 2017-09-06 
確定日 2017-12-01 
異議申立件数
事件の表示 特許第6091971号発明「重ね溶接継手、燃料噴射弁およびレーザ溶接方法」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第6091971号の請求項1ないし5に係る特許を維持する。 
理由 第1 手続の経緯

特許第6091971号の請求項1?5に係る特許についての出願は、平成25年4月16日に特許出願され、平成29年2月17日にその特許権の設定登録がされ、その後、その特許について、特許異議申立人 金田 政毅(以下、「特許異議申立人」という。)により特許異議の申立てがされたものである。

第2 本件特許発明

特許第6091971号の請求項1?5の特許に係る発明は、それぞれ、その特許請求の範囲の請求項1?5に記載された事項により特定される次のとおりのものである。
「【請求項1】
2つの被溶接材を重ね合わせ、前記被溶接材の重ね面の一面側からレーザ光を照射してそれぞれの前記被溶接材を蒸発させることで深溶込み型溶接をし、溶接ビードの断面形状を、
(i)前記被溶接材の界面を形成する境界線と、前記溶接ビードと前記境界線との交点における前記溶接ビードの接線とが成す角度θを、90°<θ≦130°とし、かつ、
(ii)前記境界線での前記溶接ビードの溶込み幅Lと、前記境界線から前記溶接ビードの底部までの溶込み深さDとの比率D/Lを、0.1<D/L≦1.0となるように構成したことを特徴とする重ね溶接継手。
【請求項2】
前記溶接ビードは、シールドガスを使用することなく溶接、または前記被溶接材と酸化反応するガスを含むシールドガスを使用して溶接されていることを特徴とする請求項1に記載の重ね溶接継手。
【請求項3】
燃料を噴射させる噴射ノズルを備えた燃料噴射弁であって、
前記噴射ノズルは、
噴射孔が形成されたノズルプレートと、
前記ノズルプレートが重ねられ、前記噴射孔と連通する連通路を有するノズル本体と、を備え、
前記ノズルプレートと前記ノズル本体とは、前記ノズルプレート側からレーザ光を照射することで請求項1又は請求項2に記載の重ね溶接継手を周溶接によって構成したことを特徴とする燃料噴射弁。
【請求項4】
2つの被溶接材を重ね合わせ、前記被溶接材の重ね面の一面側からレーザ光を照射してそれぞれの前記被溶接材を蒸発させることで深溶込み型溶接をし、溶接ビードの断面形状を、
(i)前記被溶接材の界面を形成する境界線と、前記溶接ビードと前記境界線との交点における前記溶接ビードの接線とが成す角度θを、90°<θ≦130°とし、かつ、
(ii)前記境界線での前記溶接ビードの溶込み幅Lと、前記境界線から前記溶接ビードの底部までの溶込み深さDとの比率D/Lを、0.1<D/L≦1.0にすることを特徴とするレーザ溶接方法。
【請求項5】
シールドガスを使用することなく溶接、または前記被溶接材と酸化反応するガスを含むシールドガスを使用して溶接することを特徴とする請求項4に記載のレーザ溶接方法。」
(以下、「本件発明1」?「本件発明5」という。)

第3 特許異議申立の理由の概要

特許異議申立人は、証拠として以下の甲第1号証?甲第3号証を提出し、本件発明1は、甲第1号証に記載された発明、または、甲第2号証に記載された発明と同一であり、本件発明2は、甲第1号証に記載された発明と同一であり、本件発明3は、甲第1号証に記載された発明と同一であり、本件発明4は、甲第1号証に記載された発明、または、甲第2号証に記載された発明と同一であり、本件発明5は、甲第1号証に記載された発明と同一であるから、本件発明1?5に係る特許は、特許法第29条第1項第3号の規定に違反してされたものであり、同法第113条第2項の規定により取り消すべきものと主張している。

甲第1号証:白井 秀彰他2名、「227 自動車部品におけるレーザ溶接技術の適用及び最近の進歩について」、2000年春季大会 製造(レーザー) 学術講演会前刷集、社団法人 自動車技術会、2000年5月24日、No.52-00、P.1?2

甲第2号証:白井 秀彰他2名、「自動車部品におけるレーザ溶接技術適用による工程改善」、自動車技術、社団法人 自動車技術会、2003年6月1日、Vol.57、P.29?33

甲第3号証:特開2011-245546号公報

なお、特許異議申立書の4「申立ての理由」の(1)「申立ての理由の要約」や(3)「申立ての根拠」には挙げられていないものの、4「申立ての理由」の(4)「具体的理由」のウ「本件特許発明1と証拠に記載された発明との対比」の(ウ)や(キ)の記載からみて、特許異議申立人は、本件発明2及び5は、甲第1号証に記載された発明及び甲第3号証に記載の技術的事項から当業者が容易に発明することができたものであるから、本件発明2及び5に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであり、同法第113条第2号の規定により取り消すべきものである旨も主張しているとも解されるから、以下では併せて、検討した。

第4 当審の判断
1 各甲号証の記載事項
(1)甲第1号証
本件特許出願の出願日前に頒布された刊行物である甲第1号証には、レーザ溶接技術について、次の事項が記載されている。

ア 「エンジンの高効率燃焼をめざして、燃料噴射用の各種電磁弁が開発されている。」(第1ページ右欄第4行?第5行)

イ 「ところが近年開発される電磁弁は、より一層の信頼性向上、小型化および接合コスト低減が要求され、これらの要求仕様を満足する接合技術としてレーザ溶接を選定し、マルテンサイト系ステンレス鋼への適用検討を行った。(Fig2参照)」(第1ページ右欄第8行?第12行)

ウ 「そこで後者の熱応力を低減させる方法として溶け込み形状を適正化(タンブラー形状)すれば大幅な応力低減効果があると予想し、アシストガス成分として窒素中に酸素を混合すれば、Fig3に示すように溶接部断面形状をいわゆるタンブラ形状(従来はワインカップ型)にすることができ、割れ発生を防止することができた。」(第2ページ左欄第3行?第8行)

エ 図2の記載から、プレート(Plate)とバルブ(Valve)とを重ね合わせ、プレートとバルブとの重ね面の一面側からレーザビーム(Laser beam)を照射して溶接していることが見て取れる。

上記摘記事項ア?ウ、図示事項エからみて、甲第1号証には、以下の2つの発明(以下、「甲1発明1」及び「甲1発明2」という。)が記載されていると認められる。

<甲1発明1>
「マルテンサイト系ステンレス鋼であるプレートとバルブとを重ね合わせ、プレートとバルブとの重ね面の一面側からレーザビームを照射してプレートとバルブとを溶接し、溶接の溶け込みの断面形状を、タンブラ形状とした溶接部。」

<甲1発明2>
「マルテンサイト系ステンレス鋼であるプレートとバルブとを重ね合わせ、プレートとバルブとの重ね面の一面側からレーザビームを照射してプレートとバルブとを溶接し、溶接の溶け込みの断面形状を、タンブラ形状としたレーザ溶接方法。」

(2)甲第2号証
本件特許出願の出願日前に頒布された刊行物である甲第2号証には、レーザ溶接技術について、次の事項が記載されている。

ア「変形量低減のため,集光性向上と高速化による真円度変化量の特性を把握した.テストサンプル及び真円度測定方法を図7,図8に示す.レーザビームを適正化する上で重要となるパラメータとして,ビーム形状と集光性の二つがある.ビーム形状は,エネルギーの空間分布により表すことができる.加工表面にてキーホール生成力がなく熱溶融による広がりをもたらすエネルギー密度の低い領域(裾野が広がった部分)が少なく,シャープで広がりの少ないビームが理想形状である.また、集光性について考えてみてもビームの広がりが小さく,キーホールが安定し,ウォールフォーカス効果により深さ方向への熱伝導が効率良く行われ,ビード表面への熱の広がりが小さくできるビームを選択する必要がある.溶接加工速度に対する真円度変化量を図9に示す。従来は,深さ方向への入熱効率が悪いビームを用いているため,加工速度に限界があった.しかし近年のビームの品質向上により,集光性が大幅に向上し,入熱量を300Jから70Jへと約1/4に低減可能となった.さらに高速化(従来比10倍)により,図10に示す溶け込み形状は,表面ビード幅を約1/4に低減可能としている.」(第31ページ左欄下から第7行?同ページ右欄第13行)

イ 図10の右上の「低速溶接」の「断面写真」の図示によると、2つの被溶接材を重ね合わせ、一方の被溶接材から他方の被溶接材に向かってレーザ溶接した溶接部が見て取れる。

上記摘記事項ア、図示事項イからみて、甲第2号証には、以下の2つの発明(以下、「甲2発明1」及び「甲2発明2」という。)が記載されていると認められる。

<甲2発明1>
「2つの被溶接材を重ね合わせ、一方の被溶接材から他方の被溶接材に向かってレーザ溶接した溶接部。」

<甲2発明2>
「2つの被溶接材を重ね合わせ、一方の被溶接材から他方の被溶接材に向かってレーザ溶接したレーザ溶接方法。」

(3)甲第3号証
本件特許出願の出願日前に頒布された刊行物である甲第3号証には、レーザ溶接技術について、次の事項が記載されている。

ア「上述の実施形態では、溶接工程において、大気圧の空気中でレーザ溶接する例を示した。これに対し、本発明の他の実施形態では、例えば窒素、アルゴン、ヘリウム等の不活性ガス中、あるいは低圧の空気中でレーザ溶接することとしてもよい。あるいは、溶接箇所に不活性ガスを噴き付けつつレーザ溶接を行うこととしてもよい。」(段落【0068】)

上記摘記事項アからみて、甲第3号証には、以下の技術的事項(以下、「甲3技術」という。)が記載されていると認められる。

<甲3技術>
「空気中でレーザ溶接すること。」

2 対比・判断
(1)甲第1号証を主引例とした場合

ア 本件発明1について
本件発明1と甲1発明1を対比する。

(ア)甲1発明1における「レーザビーム」は、本件発明1における「レーザ光」に相当し、以下同様に、「溶接の溶け込みの断面形状」は、「溶接ビードの断面形状」に相当する。

(イ)甲1発明1における「マルテンサイト系ステンレス鋼であるプレートとバルブ」は溶接されるものだから、本件発明1における「2つの被溶接材」に相当する。

(ウ)甲1発明1の「溶接部」は「プレートとバルブとを重ね合わせ、プレートとバルブとの重ね面の一面側からレーザビームを照射してプレートとバルブとを溶接」して形成され、プレートとバルブとをつなぎ合わせるものだから、本件発明1の「重ね溶接継手」に相当する。

そうすると、両者は、
「2つの被溶接材を重ね合わせ、前記被溶接材の重ね面の一面側からレーザ光を照射してそれぞれの前記被溶接材を溶接した重ね溶接継手。」
である点で一致し、次の点で相違する。

<相違点1>
本件発明1では、「それぞれの前記被溶接材を蒸発させることで深溶込み型溶接をし、溶接ビードの断面形状を、(i)前記被溶接材の界面を形成する境界線と、前記溶接ビードと前記境界線との交点における前記溶接ビードの接線とが成す角度θを、90°<θ≦130°とし、かつ、(ii)前記境界線での前記溶接ビードの溶込み幅Lと、前記境界線から前記溶接ビードの底部までの溶込み深さDとの比率D/Lを、0.1<D/L≦1.0となるように構成した」のに対し、甲1発明1では、「プレートとバルブとを溶接」しているものの、「蒸発させることで深溶込み型溶接」しているか否かが明らかでなく、さらに、「溶接の溶け込みの断面形状」が、(i)や(ii)のような数値範囲内の値を取るのか否かも明らかでない点。

<相違点1についての判断>
少なくとも特許異議申立書の正本に証拠として添付された甲第1号証の図3は、写真であるか否かが判別可能である程には明瞭でないため、一見、写真であるような印象を受けるものの、図3が写真であると特定できず、また、甲第1号証中に、図3が写真であることを示す記載もない。
そのため、甲第1号証の図3の右図が示すものとしては、対象物の正確な寸法や角度が反映されたものとする確からしさがなく、プレートとバルブとの溶接の溶け込みの断面形状について、プレートとバルブとの界面を形成する境界線と、前記溶接の溶け込みと前記境界線との交点における前記溶接ビードの接線とが成す角度θが、約115°であり、かつ、前記境界線での前記溶接ビードの溶込み幅Lと、前記境界線から前記溶接ビードの底部までの溶込み深さDとの比率D/Lが、約0.2であるかどうかは不明である。
図3の表示は、アシストガス成分として窒素中に酸素を混合すれば、溶け込みの全体的な断面形状を、ワインカップ型からタンブラ形状にできることを、それぞれの形状を視覚的に対比して示すものに過ぎず、写真であると特定できない上に、断面形状の表示も鮮明でない以上、実際の溶け込みの断面形状の輪郭を正確に特定することはできない。
また、レーザ溶接は熱伝導型と蒸発を伴う深溶け込み型とに大別され、深溶け込み型の溶接の溶け込みの断面形状はレーザ照射方向に細長いキーホールとなることが技術常識であるところ、甲第1号証には、レーザ溶接が深溶け込み型であることは記載されておらず、図3の右図を参照しても、溶接の溶け込みの断面形状は、レーザ照射方向に見て、比較的偏平なものであり、深溶け込み型であることを示唆するものでもない。
よって、甲1発明1は、相違点に係る本件発明1の発明特定事項を有さないので、本件発明1は甲1発明1と同一ではない。

イ 本件発明2について
(ア)申立ての理由の特許法第29条第1項第3号に関して
請求項2は、請求項1を引用するものであって、請求項1にさらに発明特定事項を付加するものであるので、本件発明2は、本件発明1をさらに限定したものである。
そして、甲第1号証には、相違点1に係る本件発明1の発明特定事項が存在しないから、本件発明2は甲第1号証に記載された発明と同一ではない。

(イ)申立ての理由の特許法第29条第2項に関して
請求項2は、請求項1を引用するものであって、請求項1にさらに発明特定事項を付加するものであるので、本件発明2は、本件発明1をさらに限定したものである。
そして、上記アの<相違点1についての判断>において検討したように、甲1発明1は、相違点1に係る本件発明1の発明特定事項を有さない。
また、甲第3号証にも、相違点1に係る本件発明1の発明特定事項が存在しない。
よって、本件発明2は、甲1発明1及び甲第3号証に記載の技術的事項から、当業者が容易になし得るものではない。

ウ 本件発明3について
請求項3は、請求項1を引用するものであって、請求項1にさらに発明特定事項を付加するものであるので、本件発明3は、本件発明1をさらに限定したものである。
そして、甲第1号証には、相違点1に係る本件発明1の発明特定事項が存在しないから、本件発明3は甲第1号証に記載された発明と同一ではない。

エ 本件発明4について
本件発明4と甲1発明2を対比する。

(ア)甲1発明2における「レーザビーム」は、本件発明1における「レーザ光」に相当し、同様に、「溶接の溶け込みの断面形状」は、「溶接ビードの断面形状」に相当する。

(イ)甲1発明2における「マルテンサイト系ステンレス鋼であるプレートとバルブ」は溶接されるものだから、本件発明1における「2つの被溶接材」に相当する。

そうすると、両者は、
「2つの被溶接材を重ね合わせ、前記被溶接材の重ね面の一面側からレーザ光を照射してそれぞれの前記被溶接材を溶接したレーザ溶接方法。」
である点で一致し、次の点で相違する。

<相違点2>
本件発明4では、「それぞれの前記被溶接材を蒸発させることで深溶込み型溶接をし、溶接ビードの断面形状を、(i)前記被溶接材の界面を形成する境界線と、前記溶接ビードと前記境界線との交点における前記溶接ビードの接線とが成す角度θを、90°<θ≦130°とし、かつ、(ii)前記境界線での前記溶接ビードの溶込み幅Lと、前記境界線から前記溶接ビードの底部までの溶込み深さDとの比率D/Lを、0.1<D/L≦1.0とする」のに対し、甲1発明4では、「プレートとバルブとを溶接」させているものの、「蒸発させることで深溶込み型溶接」しているか否かが明らかでなく、さらに、「溶接の溶け込みの断面形状」が、(i)や(ii)のような数値範囲内の値を取るようにするか否かも明らかでない点。

<相違点2についての判断>
上記アの<相違点1についての判断>において検討したように、甲第1号証には、蒸発させることで深溶込み型溶接することは記載も示唆もされておらず、さらに、溶接の溶け込みの断面形状が、本件発明4の(i)や(ii)のような数値範囲内の値を取るようにすることも記載されていないから、甲第1号証には、相違点2に係る本件特許発明4の発明特定事項は記載されていない。
よって、甲1発明2は、相違点2に係る本件発明4の発明特定事項を有さないので、本件発明4は甲1発明2と同一ではない。

オ 本件発明5について
(ア)申立て理由の特許法第29条第1項第3号に関して
請求項5は、請求項4を引用するものであって、請求項4にさらに発明特定事項を付加するものであるので、本件発明5は、本件発明4をさらに限定したものである。
そして、甲第1号証には、相違点2に係る本件発明4の発明特定事項が存在しないので、本件発明5は甲第1号証に記載の発明と同一ではない。

(イ)申立ての理由の特許法第29条第2項に関して
請求項5は、請求項4を引用するものであって、請求項4にさらに発明特定事項を付加するものであるので、本件発明5は、本件発明4をさらに限定したものである。
そして、上記エの<相違点2についての判断>において検討したように、甲1発明2は、相違点2に係る本件発明4の発明特定事項を有さない。
また、甲第3号証にも、相違点2に係る本件発明4の発明特定事項が存在しない。
よって、本件発明5は、甲1発明2及び甲第3号証に記載の技術的事項から、当業者が容易になし得るものではない。

(2)甲第2号証を主引例とした場合
ア 本件発明1について
本件発明1と甲2発明1を対比する。

(ア)甲2発明1の「一方の被溶接材から他方の被溶接材に向かってレーザ溶接レーザ溶接した溶接部」は、2つの被溶接材をつなぎ合わせるものだから、本件発明1の「被溶接材の重ね面の一面側からレーザ光を照射して、それぞれの前記被溶接材を溶接した重ね溶接継手」に相当する。

そうすると、両者は、
「2つの被溶接材を重ね合わせ、前記被溶接材の重ね面の一面側からレーザ光を照射してそれぞれの前記被溶接材を溶接した重ね溶接継手。」
である点で一致し、次の点で相違する。

<相違点3>
本件発明1では、「それぞれの前記被溶接材を蒸発させることで深溶込み型溶接をし、溶接ビードの断面形状を、(i)前記被溶接材の界面を形成する境界線と、前記溶接ビードと前記境界線との交点における前記溶接ビードの接線とが成す角度θを、90°<θ≦130°とし、かつ、(ii)前記境界線での前記溶接ビードの溶込み幅Lと、前記境界線から前記溶接ビードの底部までの溶込み深さDとの比率D/Lを、0.1<D/L≦1.0となるように構成した」のに対し、甲1発明1では、「それぞれの前記被溶接材を溶接」させているものの、「蒸発させることで深溶込み型溶接」しているか否かが明らかでなく、さらに、溶接の溶け込みの断面形状が、(i)や(ii)のような数値範囲内の値を取るか否かも明らかでない点。

<相違点3についての判断>
少なくとも特許異議申立書の正本に証拠として添付された甲第2号証の図10の右上の「低速溶接」の「断面写真」において、特に、下側の被溶接材における溶け込みの断面形状についてその輪郭を判別可能な程には明瞭ではないため、前記被溶接材の界面を形成する境界線と、前記溶接の溶け込みと前記境界線との交点における前記溶接の溶け込みの接線とが成す角度θや、前記境界線での前記溶接の溶け込みの溶込み幅Lと、前記境界線から前記溶接の溶け込みの底部までの溶込み深さDとの比率D/Lを特定することができない。
また仮に、図10の「低速溶接」の「断面写真」から、溶接の溶け込みの断面形状に関して、特許異議申立書の第15ページで特許異議申立人が主張するような値、すなわち、角度θ=約110°、かつ、比率D/L=約0.531が読み取れたとしても、レーザ溶接は熱伝導型と蒸発を伴う深溶け込み型とに大別され、深溶け込み型の溶接の溶け込みの断面形状はレーザ照射方向に細長いキーホールとなることが技術常識であるところ、甲第2号証には、図10の「低速溶接」のレーザ溶接が深溶け込み型であることは記載されておらず、図10の「低速溶接」の「断面写真」を参照しても、溶接の溶け込みの断面形状は、レーザ照射方向に見て、上側の被溶接材において比較的偏平なものであるため、断面形状全体で見ると、レーザ照射方向に細長いキーホール型であるとは言い難く、そのため、この溶接の溶け込みの断面形状が、蒸発を伴う深溶け込み型を示しているとも言えない。
よって、甲2発明1は、相違点3に係る本件発明1の発明特定事項を有さないので、本件発明1は甲2発明1と同一ではない。

イ 本件発明4について
本件発明4と甲2発明2を対比する。

(ア)甲2発明1の「一方の被溶接材から他方の被溶接材に向かってレーザ溶接レーザ溶接した溶接部」は、2つの被溶接材をつなぎ合わせるものだから、本件発明1の「被溶接材の重ね面の一面側からレーザ光を照射して、それぞれの前記被溶接材を溶接した重ね溶接継手」に相当する。

そうすると、両者は、
「2つの被溶接材を重ね合わせ、前記被溶接材の重ね面の一面側からレーザ光を照射してそれぞれの前記被溶接材を溶接したレーザ溶接方法。」
である点で一致し、次の点で相違する。

<相違点4>
本件発明4では、「それぞれの前記被溶接材を蒸発させることで深溶込み型溶接をし、溶接ビードの断面形状を、(i)前記被溶接材の界面を形成する境界線と、前記溶接ビードと前記境界線との交点における前記溶接ビードの接線とが成す角度θを、90°<θ≦130°とし、かつ、(ii)前記境界線での前記溶接ビードの溶込み幅Lと、前記境界線から前記溶接ビードの底部までの溶込み深さDとの比率D/Lを、0.1<D/L≦1.0となるように構成した」のに対し、甲2発明2では、「それぞれの前記被溶接材を溶接」させているものの、「蒸発させることで深溶込み型溶接」しているか否かが明らかでなく、さらに、溶接の溶け込みの断面形状が、(i)や(ii)のような数値範囲内の値を取るようにするのか否かも明らかでない点。

<相違点4についての判断>
上記アの<相違点3についての判断>において検討したように、甲第2号証には、蒸発させることで深溶込み型溶接することは記載も示唆もされておらず、さらに、溶接の溶け込みの断面形状が、本件発明4の(i)や(ii)のような数値範囲内の値を取るようにすることも記載されていないから、甲第2号証には、相違点4に係る本件特許発明4の発明特定事項は記載されていない。
よって、甲2発明2は、相違点に係る本件発明4の発明特定事項を有さないので、本件発明4は甲2発明2と同一ではない。

第5 むすび

したがって、特許異議の申立ての理由及び証拠によっては、本件発明1?5に係る特許を取り消すことはできない。

また、他に本件発明1?5に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。

よって、結論のとおり決定する。
 
異議決定日 2017-11-21 
出願番号 特願2013-85496(P2013-85496)
審決分類 P 1 651・ 113- Y (B23K)
P 1 651・ 121- Y (B23K)
最終処分 維持  
前審関与審査官 青木 正博  
特許庁審判長 刈間 宏信
特許庁審判官 柏原 郁昭
西村 泰英
登録日 2017-02-17 
登録番号 特許第6091971号(P6091971)
権利者 日立オートモティブシステムズ株式会社
発明の名称 重ね溶接継手、燃料噴射弁およびレーザ溶接方法  
代理人 稲葉 良幸  
代理人 特許業務法人磯野国際特許商標事務所  
代理人 大貫 敏史  
代理人 江口 昭彦  
代理人 内藤 和彦  

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