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審決分類 審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  H01M
審判 全部申し立て 2項進歩性  H01M
審判 全部申し立て 1項3号刊行物記載  H01M
管理番号 1335168
異議申立番号 異議2017-700834  
総通号数 217 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2018-01-26 
種別 異議の決定 
異議申立日 2017-09-01 
確定日 2017-11-28 
異議申立件数
事件の表示 特許第6097198号発明「電極材料及び電極並びにリチウムイオン電池」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第6097198号の請求項1?5に係る特許を維持する。 
理由 第1 手続の経緯

特許第6097198号の特許請求の範囲の請求項1?5に係る特許(以下、「本件特許」という。)についての出願は、平成25年10月30日に特許出願され、平成29年 2月24日に特許の設定登録がされ、同年 3月15日に特許掲載公報が発行され、その後、本件特許に対し、同年 9月 1日付けで特許異議申立人である中嶋美奈子(以下、「申立人」という。)により特許異議の申立てがされたものである。

第2 本件発明

本件特許の特許請求の範囲の請求項1?5に係る発明(以下、「本件発明1?5」といい、これらをまとめて「本件発明」という。)は、それぞれ、願書に添付された特許請求の範囲の請求項1?5に記載された事項により特定される次のとおりのものである。
「【請求項1】
電極活物質粒子の表面に炭素質が存在する炭素質電極活物質複合粒子を含有してなる電極材料であって、
前記炭素質中の酸素含有率は1.0質量%以上5.0質量%以下であり、
前記炭素質電極活物質複合粒子の表面における炭素質の被覆率は60%以上であり、
前記炭素質は、有機化合物が熱分解して生成した炭素質被膜であり、
前記炭素質電極活物質複合粒子の炭素の含有率は、0.5質量%以上かつ5.0質量%以下であることを特徴とする電極材料。
【請求項2】
前記炭素質電極活物質複合粒子の含水率は、5質量%以下であることを特徴とする請求項1記載の電極材料。
【請求項3】
前記電極活物質粒子は、コバルト酸リチウム、ニッケル酸リチウム、マンガン酸リチウム、チタン酸リチウム及びLi_(x)A_(y)D_(z)PO_(4)(但し、AはCo、Mn、Ni、Fe、Cu、Crの群から選択される1種または2種以上、DはMg、Ca、S、Sr、Ba、Ti、Zn、B、Al、Ga、In、Si、Ge、Sc、Y、希土類元素の群から選択される1種または2種以上、0<x<2、0<y<1.5、0≦z<1.5)の群から選択される1種を主成分とすることを特徴とする請求項1または2に記載の電極材料。
【請求項4】
請求項1ないし3のいずれか1項記載の電極材料を含有してなることを特徴とする電極。
【請求項5】
請求項4記載の電極からなる正極を備えてなることを特徴とするリチウムイオン電池。」

第3 申立理由の概要

1 甲第1号証?甲第3号証

申立人が証拠として提出した甲第1号証?甲第3号証は、以下のとおりである。

甲第1号証:特開2004-63386号公報
甲第2号証:国際公開第2012/039477号
甲第3号証:特開2009-187963号公報

2 申立理由の概要

(1)申立人は、本件発明1?5は、甲第1号証(以下、「甲1」という。他の甲号証についても同様。)に記載された発明であるから、請求項1?5に係る本件特許は、特許法第29条第1項第3号の規定に違反してされたものであり、同法113条第2項の規定により取り消されるべきものである(以下、「申立理由1」という。)旨主張する。

(2)また、申立人は、甲1を主たる証拠とし、甲2、3を従たる証拠とした上で、本件発明1?5は、甲1?3に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、請求項1?5に係る本件特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであり、同法113条第2項の規定により取り消されるべきものである(以下、「申立理由2」という。)旨主張する。

(3)さらに、申立人は、本件発明1?5は、発明の詳細な説明に記載されたものではないから、請求項1?5に係る本件特許は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであり、同法113条第4項の規定により取り消されるべきものである(以下、「申立理由3」という。)旨主張する。

第4 甲1?3の記載事項

1 甲1の記載事項

(1)甲1には、以下の記載がある。なお、「・・・」は記載の省略を表す(以下同様)。

ア 発明の属する技術分野

「【0001】
・・・
本発明は、2次電池正極材料の製造方法及びその正極材料を有する2次電池に関・・・する。」

イ 発明が解決しようとする課題

「【0010】
本発明の課題は・・・正極材料の1次粒子の結晶成長を抑制して細粒化するとともに優れた導電性を付与することが可能な2次電池用正極材料の新規な製造方法を提供することにあ・・・る。」

ウ 課題を解決するための手段

「【0011】
・・・
上記課題を解決するため、請求項1に記載の2次電池正極材料の製造方法の発明は、原料を焼成して正極材料を製造する2次電池正極材料の製造方法において、焼成過程は、常温から300℃ないし450℃に至る第一段階と、常温から焼成完了温度に至る第二段階と、を含み、加熱分解により導電性炭素を生じ得る物質を、第一段階の焼成後の原料に添加した後、第二段階の焼成を行うことを特徴とする。
【0012】
この2次電池正極材料の製造方法の発明によれば、加熱分解により導電性炭素を生じ得る物質を、第一段階の焼成後の原料に添加して第二段階の焼成を行うことにより、加熱分解により導電性炭素を生じ得る物質が、焼成中に原料の分解により生成するガスにより発泡することを防ぐことができる。その結果、融解状態にある該物質がより均一に正極材料の表面に溶融状態で広がり、より均一に熱分解炭素を析出させることができる。このため、得られる正極材料の表面導電性がさらに良好になり、また接触が強固に安定化される。」

エ 発明の実施の形態

「【0049】
・・・
<導電性炭素前駆物質(加熱分解により導電性炭素を生じ得る物質)>
・・・導電性炭素前駆物質としては、例えば、ビチューメン類(いわゆるアスファルト;石炭や石油スラッジから得られるピッチ類を含む)、糖類、スチレン-ジビニルベンゼン共重合体、ABS樹脂、フェノール樹脂、その他芳香族基を有する架橋高分子などが挙げられる。・・・」
「【0052】
<導電性炭素前駆物質等の添加と焼成>
・・・
【0053】
・・・導電性炭素前駆物質は、生じる正極材料中において、導電性炭素の重量濃度が・・・より好ましくは1%以上5%以下となるように添加することができる。」
「【0055】
本発明方法において、焼成は・・・第一段階のより低温域での焼成過程(通例常温?300ないし450℃の温度範囲;以下、「仮焼成」と記すことがある)、および第二段階のより高温域での焼成過程[通例常温?焼成完了温度(500℃ないし800℃程度);以下、「本焼成」と記すことがある]の2段階に分けて行われる。・・・」
「【0058】
導電性炭素前駆物質、特に加熱により融解する石炭ピッチや糖類を用いる場合は・・・仮焼成後の原料・・・に添加し、本焼成を行う・・・つまり、焼成過程における仮焼成と本焼成との間に、原料への導電性炭素前駆物質の添加工程を設けることになる。
【0059】
これにより、加熱により融解・熱分解する石炭ピッチや糖類等の物質が、原料から発生するガスにより発泡することを防ぎ、より均一に正極材料の表面に溶融状態で広がり、より均一に熱分解炭素を析出させることができる。」
「【0063】
<水素等の供給>
・・・」
「【0065】
本発明方法では、水素は、第二段階の焼成時の、少なくとも500℃以上の温度範囲において添加することができる。・・・
【0066】
上記温度範囲における雰囲気中の水素の体積濃度は、およそ0.1%以上20%以下とすることができ、1%以上10%以下とすることが好ましい。・・・
【0067】
本発明者らによる研究では、正極材料の原料を、酸素ガス不存在下で水素および/または水分を供給しながら焼成すると・・・生成する1次粒子がより細粒化されることが判明した。すなわち、水素および水分は有力な結晶成長抑制剤となることが実証された。・・・」
「【0071】
また、本焼成中において水素を添加して焼成する場合、添加された水素(水分から生じる水素を含む)が、加熱により融解・熱分解する石炭ピッチや糖類等の導電性炭素前駆物質に接触すると・・・その粘性が低下し、流動性が向上して得られる正極材料中で極めて均一かつ被覆厚みの薄い析出状態が実現できる。
【0072】
・・・さらに、仮焼成中においても水素を添加すると、その還元性により正極材料の酸化が防止できる等の効果も期待できる。」

オ 実施例

「【0084】
・・・
実施例1
(1)正極材料の調製:
正極材料LiFePO_(4)を、以下の手順で合成した。
5.0532gのFeC_(2)O_(4)・2H_(2)O(和光純薬工業株式会社製)、3.7094gの(NH_(4))2HPO_(4)(和光純薬工業株式会社製)、1.1784gのLiOH・H_(2)O(和光純薬工業株式会社製)に略1.5倍体積のエタノールを加え、2mm径ジルコニアビーズおよびジルコニアポットを有する遊星ボールミルを用いて粉砕・混合後、減圧下50℃にて乾燥した。乾燥後の粉砕・混合物をアルミナ製るつぼに入れ、5体積%水素(H_(2))/95体積%アルゴン(Ar)の混合ガスを200ml/分の流量で通気しながら、まず400℃にて5時間仮焼成した。取出した仮焼成後の原料2.1364gに、0.1097gの軟化温度200℃の精製石炭ピッチ[アドケムコ株式会社製MCP-200(商品名)]を加え、めのう乳鉢にて粉砕後、さらに同雰囲気で775℃にて10時間本焼成を行った(混合ガスは、昇温開始前から焼成中、さらに放冷後まで流通しつづけた)。これにより合成された正極材料は、粉末X線回折によりオリビン型結晶構造を有するLiFePO_(4)であると同定された。一方、酸化態不純物であるα-Fe_(2)O_(3)、FePO_(4)などや、それ以外の不純物の結晶回折ピークは全く認められなかった。
【0085】
また、元素分析から精製石炭ピッチの熱分解により生じた炭素が3.08重量%含有されていることが判ったものの、X線回折からは黒鉛結晶の回折ピークは認められなかったことから、非晶質炭素との複合体を形成していると推定された。また、結晶子サイズは、64nmであった。」

(2)前記(1)の記載によれば、甲1には、2次電池正極材料の製造方法及びその正極材料を有する2次電池に関し(【0001】)、正極材料の1次粒子の結晶成長を抑制して細粒化するとともに優れた導電性を付与することが可能な2次電池用正極材料の新規な製造方法を提供することを課題とする(【0010】)発明が記載されている。
上記課題を解決するため、甲1には、原料を焼成して正極材料を製造する2次電池正極材料の製造方法において、焼成過程は、常温から300℃ないし450℃に至る低温域での第一段階(仮焼成)と、常温から500?800℃程度の焼成完了温度に至る高温域での第二段階(本焼成)とを含み、石炭ピッチや糖類等の加熱分解により導電性炭素を生じ得る物質を、正極材料中における導電性炭素の重量濃度が1%以上5%以下となるように、第一段階の焼成後の原料に添加した後、第二段階の焼成を行うことを特徴とする2次電池正極材料の製造方法が記載されており(【0011】【0049】【0052】【0053】【0055】【0058】)、かかる製造方法によれば、石炭ピッチや糖類等の加熱分解により導電性炭素を生じ得る物質が、原料から発生するガスにより発泡することを防ぎ、より均一に正極材料の表面に溶融状態で広がり、より均一に熱分解炭素を析出させることができる(【0059】)。
実施例においては、LiFePO_(4)の原料を5体積%水素(H_(2))/95体積%アルゴン(Ar)の混合ガスの雰囲気で400℃にて5時間仮焼成し、仮焼成後の原料に軟化温度200℃の精製石炭ピッチを加え、粉砕後、同雰囲気で775℃にて10時間本焼成を行うことにより(【0084】)、オリビン型結晶構造を有するLiFePO_(4)と、精製石炭ピッチの熱分解によって生じた重量濃度が3.08重量%の非晶質炭素との複合体からなる正極材料が得られたことが記載されている(【0084】【0085】)。
上記実施例の記載には、精製石炭ピッチの熱分解によって生じた非晶質炭素がLiFePO_(4)の表面に膜状に形成されることは明記されていないが「融解状態にある該物質がより均一に正極材料の表面に溶融状態で広がり」(【0012】)、「加熱により融解・熱分解する石炭ピッチや糖類等の物質が・・・より均一に正極材料の表面に溶融状態で広がり」(【0059】)、「加熱により融解・熱分解する石炭ピッチや糖類等の導電性炭素前駆物質・・・の粘性が低下し、流動性が向上して・・・極めて均一かつ被覆厚みの薄い析出状態が実現できる。」(【0071】)等の記載によれば、上記実施例において、精製石炭ピッチの熱分解によって生じた非晶質炭素がLiFePO_(4)の表面に膜状に形成されることは明らかである。

(3)以上のとおりであるから、実施例の記載に基づけば、甲1には、以下の「甲1発明」が記載されている。

(甲1発明)
オリビン型結晶構造を有するLiFePO_(4)と、精製石炭ピッチの熱分解によって前記LiFePO_(4)の表面に膜状に形成された重量濃度が3.08重量%の非晶質炭素との複合体からなる2次電池正極材料。

2 甲2の記載事項

(1)甲2には、以下の記載がある。

ア 技術分野

「[0001] 本発明は、リチウムイオン電池・・・に関する。」

イ 発明が解決しようとする課題

「[0011] ・・・本発明は、負極に起因する自己放電を抑制し、リチウムイオン電池の長寿命化を図ることを目的としている。」

ウ 課題を解決するための手段

「[0013] 本発明の第1の形態によれば、リチウムを吸蔵且つ放出可能な負極活物質であって、前記負極活物質は低結晶性炭素の被覆層を黒鉛粒子(黒鉛核材)の表面に有する複合炭素粒子であり、前記被覆層にC=O、C-OH及びC-Oの官能基を有し、前記被覆層の炭素原子及び酸素原子の総量中の酸素原子の含有率が、2atom%?5atom%であ・・・る当該負極活物質を含む負極と、正極と、非水電解質及び非水溶媒と、を含むリチウムイオン電池が提供される。上記低結晶性炭素は非晶質又は結晶性の低い炭素である。」

エ 実施例

「[0055](実施例2)
・・・・」
「[0067]<被覆層の形成>
ここで、低結晶性炭素を被覆する処理としては、例えば、黒鉛核材を分散させた特定の有機溶媒に超音波を印加する処理が挙げられる。この処理では、先ず、進行波型超音波印加により有機溶媒を炭化して析出させる。・・・上記特定の有機溶媒として・・・本実施例では、o-ジクロロベンゼンを用いた。
[0068] 次いで、析出した炭素質層を熱分解により黒鉛核材の表面に固着させ、低結晶性炭素の被覆層を形成するために、加熱処理を行う。・・・」
「[0070] 本実施例では、等方性加圧処理により製造した人造黒鉛を黒鉛核材とし、o-ジクロロベンゼンを用いて被覆層の厚さを10nm?100nmとした。被覆層を形成するときの熱処理温度は550℃とし、窒素ガス雰囲気にて処理を行うことで複合炭素粒子を得た。
[0071] ・・・少なくとも被膜層の厚さが10nm以上であれば、被覆層の微小な間隙から電解液が通過することが抑制されると推測される。これによって、高活性な黒鉛核材のエッジ面に電解液が直接接触することが防止されるため、高温保存や充放電サイクルに伴う電解液の分解反応が減少し、電池特性が向上すると考えられる。また、被膜層の厚さが100nm以下であれば、充放電反応に伴うリチウムイオンの被覆層部分の移動抵抗が小さく望ましい。」
「[0072](実施例3)
・・・」
「[0084] 実施例3では、カルボキシメチルセルロース樹脂を用いて被覆層の厚さを10nm?100nmとし、被覆層を形成するときの熱処理温度は750℃とした。ガス雰囲気は窒素ガスとした。」
「[0086](実施例4)
・・・」
「[0089]<被覆層の形成>
実施例4で作製した黒鉛核材に低結晶性炭素の被覆層を以下の手順によって形成することができる。まず・・・黒鉛粒子(黒鉛核材)100質量部をノボラック型フェノール樹脂メタノール溶液(日立化成工業株式会社製)160質量部に浸漬、分散して黒鉛粒子・フェノール樹脂混合物溶液を作製した。この溶液をろ過、乾燥、800℃?1000℃の範囲で熱処理を行うことによって、黒鉛核材の表面に低結晶性炭素の被覆層を形成した複合炭素粒子を得た。ガス雰囲気は窒素ガスに0.5%?1%の酸素を添加した混合ガス雰囲気(非酸化性雰囲気)とした。・・・」
「[0095](実施例5)
上記した実施例3の負極活物質(複合炭素粒子)の表面をオゾンで処理し、酸素含有量を増加させた負極活物質を作製した。それ以外は、実施例3と同様である。
[0096](実施例6)
上述した実施例3の被覆層の形成において、黒鉛核材を被覆する低結晶性炭素の出発材料をカルボキシメチルセルロース樹脂から原油ピッチに変更し、負極活物質を作製した。それ以外は、実施例3と同様である。」
「[0107](5)実施例2?6で用いた負極活物質の表面分析
次に、実施例2、3、4、5、6で用いた負極活物質(複合炭素粒子)の表面分析をX線光電子分光法(XPS)により行った。その結果を表1に示す。・・・」
「[0118] ここで、被覆層と黒鉛核材表面との密着性が増し、被覆層が黒鉛核材表面を均一かつ緻密に被覆していることで、電解液が黒鉛核材表面に直接接触することを防止すると推定される。その結果、電解液が高活性の黒鉛核材のエッジ部(グラフェン構造の端部)に到達しにくくなるため、電解液の還元分解が抑制され電池特性の向上に寄与すると推定される。
[0119] 以上、実施例2?6の負極活物質(複合炭素粒子)について、低結晶性炭素の被覆層の表面の官能基の炭素及び酸素の原子比、C1s解析結果、及びO1s解析結果を表1に示す。・・・
[0120][表1]



(2)前記(1)の記載によれば、甲2には、リチウムイオン電池に関し([0001])、負極に起因する自己放電を抑制し、リチウムイオン電池の長寿命化を図ることを目的とする([0011])発明が記載されている。
上記目的を達成するため、甲2には、リチウムを吸蔵且つ放出可能な負極活物質であって、前記負極活物質は低結晶性炭素の被覆層を黒鉛粒子(黒鉛核材)の表面に有する複合炭素粒子であり、前記被覆層にC=O、C-OH及びC-Oの官能基を有し、前記被覆層の炭素原子及び酸素原子の総量中の酸素原子の含有率が、2atom%?5atom%である当該負極活物質を含む負極と、正極と、非水電解質及び非水溶媒と、を含むリチウムイオン電池が記載され([0013])、前記負極活物質における被覆層が黒鉛核材表面を均一かつ緻密に被覆していることで、電解液が黒鉛核材表面に直接接触することを防止する結果、電解液が高活性の黒鉛核材のエッジ部(グラフェン構造の端部)に到達しにくくなり、電解液の還元分解が抑制され電池特性の向上に寄与すると推定されている([0118])。
実施例については、(実施例2)o-ジクロロベンゼンからなる炭素質層を黒鉛核材の表面に析出させ、窒素ガス雰囲気で550℃の熱処理を行って、厚さ10?100nmの低結晶性炭素の被覆層を形成する負極活物質の作製方法([0055][0067][0068][0070])、(実施例3)カルボキシメチルセルロース樹脂からなる炭素質層を黒鉛核材の表面に形成し、窒素ガス雰囲気で750℃の熱処理を行って、厚さ10?100nmの低結晶性炭素の被覆層を形成する負極活物質の作製方法([0072][0084])、(実施例4)ノボラック型フェノール樹脂からなる炭素質層を黒鉛核材の表面に形成し、窒素ガスに0.5%?1%の酸素を添加した混合ガス雰囲気で800?1000℃の熱処理を行って、低結晶性炭素の被覆層を形成する負極活物質の作製方法([0086][0089])、(実施例5)実施例3の負極活物質(複合炭素粒子)の表面をオゾンで処理し、酸素含有量を増加させた負極活物質を作製する方法([0095])(実施例6)実施例3において、黒鉛核材を被覆する低結晶性炭素の出発材料をカルボキシメチルセルロース樹脂から原油ピッチに変更して負極活物質を作製する方法([0096])が、記載されており、上記実施例2?6で作製された負極活物質(複合炭素粒子)について、X線光電子分光法(XPS)により表面分析を行って測定した低結晶性炭素の被覆層の表面の官能基の炭素及び酸素の原子比([0107][0119])が表1([0120])に記載されている。

3 甲3の記載事項

(1)甲3には、以下の記載がある。

ア 技術分野

「【0001】
本発明は、電極用複合粒子及びその製造方法、並びに、電気化学デバイスに関する。」

イ 発明が解決しようとする課題

「【0006】
・・・リチウム含有リン酸塩であるLiVOPO_(4)(理論容量159mAh/g)は、構造が安定で、放電電圧が他の正極活物質材料と同程度(対リチウムで3.8?3.9V)であり、LiFePO_(4)のように合成時に還元雰囲気を特に必要としない。しかし、リチウム含有リン酸塩に特徴的である電子伝導性の低さが問題であり、従来のように導電助剤と単純に混合された電極構造では、その特性を十分に引き出すことが難しい。
【0007】
本発明は、上記従来技術の有する課題に鑑みてなされたものであり、活物質材料として用いることで、放電電圧及び放電容量に優れ、且つ、レート特性に優れた電気化学デバイスを形成可能な電極用複合粒子及びその製造方法、並びに、その電極用複合粒子を用いた電気化学デバイスを提供することを目的とする。」

ウ 課題を解決するための手段

「【0008】
上記目的を達成するために、本発明は、LiVOPO_(4)粒子と、炭素とを含み、上記炭素は、上記LiVOPO_(4)粒子の表面の少なくとも一部に担持されて炭素被覆層を形成している、電極用複合粒子を提供する。
【0009】
かかる電極用複合粒子は、LiVOPO_(4)粒子の表面が炭素被覆層により被覆されていることにより、優れた電子伝導性を得ることができる。特に炭素が粒子として担持されているのではなく、層状に形成されていることにより、炭素粒子が担持されている場合と比較して炭素の脱落を抑制できるとともに、粒子の場合よりも少量で効率良くLiVOPO_(4)粒子の表面を被覆できるため、複合粒子に占める炭素の含有量を抑えつつ効果的に導電性を付与することができる。そのため、かかる複合粒子を活物質材料として用いた電気化学デバイスは、優れた放電電圧及び優れた放電容量が得られるとともに、優れたレート特性を得ることができる。
【0010】
また、本発明の電極用複合粒子は、その断面において、上記LiVOPO_(4)粒子の外周の長さをL、上記LiVOPO_(4)粒子の外周のうち上記炭素被覆層が形成されている部分の長さをL’として、(L’/L)で表される被覆率が0.2以上であることが好ましい。この被覆率が0.2以上であることにより、複合粒子の電子伝導性を十分に高めることができ、より優れた放電容量及びレート特性を有する電気化学デバイスを形成することが可能となる。

エ 発明を実施するための形態

「【0031】
・・・図1は、本発明の電極用複合粒子の好適な一実施形態の基本構成を示す模式断面図である。図1に示すように、電極用複合粒子8は、電極活物質としてのLiVOPO_(4)粒子4と、該LiVOPO_(4)粒子4の表面の少なくとも一部に形成された炭素からなる炭素被覆層6とから構成されている。
【0032】
かかる複合粒子8は、図1に示したような断面において、LiVOPO_(4)粒子4の外周の長さをL、LiVOPO_(4)粒子4の外周のうち炭素被覆層6が形成されている部分の長さをL’(Lと同一単位)として、(L’/L)で表される被覆率が0.2以上であることが好ましい。・・・
【0033】
また、上記被覆率は0.2以上であることが好ましいが、0.4以上であることがより好ましく、0.5以上であることが更に好ましく、0.6?1.0であることが特に好ましい。この被覆率が0.2未満である場合、被覆率が0.2以上である場合と比較して、炭素被覆層によるLiVOPO_(4)粒子の被覆状態が不十分となり、複合粒子の電子伝導性が低下する傾向がある。また、被覆率が0.2未満である電極は、炭素と活物質とが単純に混合・分散している電極と大差なく、追加の炭素を加える必要が生じ、必要最小限の炭素量での特性向上が得られ難くなる傾向がある。」
「【0036】
また、複合粒子8は、当該複合粒子8全量を基準とした炭素含有量が1?6質量%であることが好ましく、2?5質量%であることがより好ましい。この炭素含有量が1質量%未満であると、複合粒子8の電子伝導性が不十分となる傾向があり、6質量%を超えると、複合粒子8に占める炭素量が不必要に多くなり、活物質割合減少による電極容量の低下につながる傾向がある。」
「【0038】
本発明の電極用複合粒子の第1の製造方法は・・・」
「【0045】
本発明の電極用複合粒子の第2の製造方法は・・・」
「【0052】
本発明の電極用複合粒子の第3の製造方法は、LiVOPO_(4)粒子の合成と同時にその表面に炭素被覆層を形成する方法である。すなわち、第3の製造方法は、Li源、V源、PO_(4)源及び炭素源を混合して原料混合液を得る混合工程と、原料混合液を酸素分圧50Pa以下の雰囲気で焼成する焼成工程と、を含む方法である。
【0053】
・・・第3の製造方法においても、炭素源としては、炭素源を効果的にLiVOPO_(4)粒子に被覆させる観点から、有機化合物を用いることが好ましく、グルコース又はグルコースを構成単位として含む多糖類を用いることがより好ましい。・・・
【0054】
上記原料混合液は、Li源、V源、PO_(4)源及び炭素源を溶媒中に溶解又は分散させることで得られる。溶媒としては、水、有機溶剤等を用いることができる。有機溶剤としては、エタノールが好ましい。
【0055】
焼成工程においては、こうして得られた原料混合液から溶媒を除去し、酸素分圧50Pa以下の雰囲気で焼成する。焼成雰囲気は、好ましくは、Ar、H_(2)、N_(2)雰囲気(常圧)、又は、還元性ガス雰囲気(減圧)である。また、原料混合液の焼成温度は400?600℃とすることが好ましく、450?600℃とすることがより好ましい。これにより、LiVOPO_(4)粒子の合成と同時にその表面に炭素被覆層が形成され、目的の複合粒子を得ることができる。」

オ 図面

「【図1】



(2)前記(1)の記載によれば、甲3には、電極用複合粒子及びその製造方法、並びに、電気化学デバイスに関し(【0001】)、活物質材料として用いることで、放電電圧及び放電容量に優れ、且つ、レート特性に優れた電気化学デバイスを形成可能な電極用複合粒子及びその製造方法、並びに、その電極用複合粒子を用いた電気化学デバイスを提供することを目的とする(【0007】)発明が記載されている。
上記目的を達成するために、甲3には、LiVOPO_(4)粒子と炭素とを含み、上記炭素は、上記LiVOPO_(4)粒子の表面の少なくとも一部に担持されて炭素被覆層を形成している電極用複合粒子が記載されており(【0008】、図1)、上記炭素被覆層の被覆率は、複合粒子の電子伝導性を十分に高めるために、0.2以上であることが好ましく、0.6?1.0であることが特に好ましいとされ(【0010】【0032】【0033】)、上記電極用複合粒子は、当該電極用複合粒子全量を基準とした炭素含有量が1?6質量%であることが好ましく、2?5質量%であることがより好ましいとされる(【0036】)。
また、甲3には、上記電極用複合粒子の製造方法として、LiVOPO_(4)粒子の合成と同時にその表面に炭素被覆層を形成する方法、すなわち、Li源、V源、PO_(4)源及び炭素源を溶媒中に溶解又は分散させて原料混合液を得る混合工程と、原料混合液を酸素分圧50Pa以下の雰囲気、好ましくは、Ar、H_(2)、N_(2)雰囲気(常圧)、又は、還元性ガス雰囲気(減圧)で、400?600℃の焼成温度で焼成する焼成工程と、を含む方法(【0052】?【0055】)が記載されている。

第5 当審の判断

1 申立理由1、2について

(1)本件発明1について

ア 本件発明1と甲1発明との対比

(ア)本件発明1と甲1発明とを対比すると、甲1発明の「オリビン型結晶構造を有するLiFePO_(4)」及び「前記LiFePO_(4)の表面に形成された」「非晶質炭素」は、それぞれ、本件発明1の「電極活物質粒子」及び「電極活物質粒子の表面に」「存在する」「炭素質」に相当するから、甲1発明の「オリビン型結晶構造を有するLiFePO_(4)と、」「前記LiFePO_(4)の表面に形成された」「非晶質炭素との複合体からなる2次電池正極材料」は、本件発明1の「電極活物質粒子の表面に炭素質が存在する炭素質電極活物質複合粒子を含有してなる電極材料」に相当する。

(イ)甲1発明の「精製石炭ピッチ」が有機化合物であることは明らかであるから、甲1発明の「精製石炭ピッチの熱分解によって」「膜状に形成された」「非晶質炭素」は、本件発明1の「有機化合物が熱分解して生成した炭素質被膜」に相当する。

(ウ)甲1発明において「非晶質炭素」の「重量濃度が3.08重量%」であることと、本件発明1において「炭素質電極活物質複合粒子の炭素の含有率は、0.5質量%以上かつ5.0質量%以下であること」とは、当該炭素の含有率が3.08質量%である点で一致する。

(エ)以上によれば、本件発明1と甲1発明との一致点及び相違点は以下のとおりである。

(一致点)
電極活物質粒子の表面に炭素質が存在する炭素質電極活物質複合粒子を含有してなる電極材料であって、
前記炭素質は、有機化合物が熱分解して生成した炭素質被膜であり、
前記炭素質電極活物質複合粒子の炭素の含有率は、3.08質量%である電極材料。

(相違点1)
本件発明1では「炭素質中の酸素含有率は1.0質量%以上5.0質量%以下であ」るのに対して、甲1発明では「非晶質炭素」中の酸素含有率は不明である点。

(相違点2)
本件発明1では「炭素質電極活物質複合粒子の表面における炭素質の被覆率は60%以上であ」るのに対して、甲1発明では「LiFePO4の表面に形成された」「非晶質炭素」の被覆率は不明である点。

イ 相違点1について

(ア)甲1には、甲1発明の「LiFePO_(4)の表面に形成された重量濃度が3.08重量%の非晶質炭素」の形成方法として、前記「第4」「1」「(2)」のとおり、仮焼成後の原料に軟化温度200℃の精製石炭ピッチを加え、粉砕後、5体積%水素(H_(2))/95体積%アルゴン(Ar)の混合ガスの雰囲気で775℃にて10時間本焼成を行う方法が記載されている。

(イ)一方、甲2には、[0013]等に、被覆層の炭素原子及び酸素原子の総量中の酸素原子の含有率が、2atom%?5atom%であると記載されているとともに、前記「第4」「2」「(2)」のとおり、低結晶性炭素の被覆層を黒鉛粒子(黒鉛核材)の表面に有する複合炭素粒子からなる負極活物質の形成方法として、実施例2?6が記載されており、それぞれの負極活物質(複合炭素粒子)について、X線光電子分光法(XPS)により表面分析を行って測定した低結晶性炭素の被覆層の表面の官能基の炭素及び酸素の原子比が記載された表1から、酸素の質量%を算出すると、特許異議申立書(第17頁・表1)に記載されたとおり、実施例2:2.8%、実施例3:2.9%、実施例4:3.8%、実施例5:5.6%、実施例6:3.3%となり、実施例5を除き「1.0質量%以上5.0質量%以下」となっている。

(ウ)してみると、甲2の実施例2?6における前記(イ)の酸素の質量%は、X線光電子分光法(XPS)により表面分析を行って測定した低結晶性炭素の被覆層の表面の官能基の炭素及び酸素の原子比に基づいて算出されたものであって、低結晶性炭素の被覆層全体の酸素の質量%ではないから、[0013]等に、被覆層の炭素原子及び酸素原子の総量中の酸素原子の含有率が、2atom%?5atom%であるとの記載があったとしても、甲2の記載からは、実施例2?6における低結晶性炭素の被覆層全体の酸素の質量%は不明である。
また、甲2の実施例2?6の形成方法は、いずれも熱処理時間が不明であり、熱処理の温度や雰囲気、被覆層の出発原料のそれぞれが、前記(ア)の甲1の本焼成の条件と全て一致するものはないから、甲1発明の「非晶質炭素」中の酸素含有率が、甲2の実施例2?6における低結晶性炭素の被覆層の酸素含有率と同一であるとはいえない。
したがって、甲2の記載を参酌しても、甲1発明における「非晶質炭素」中の酸素含有率が「炭素質中の酸素含有率は1.0質量%以上5.0質量%以下であ」るとはいえず、相違点1は実質的な相違点である。

(エ)また、前記(ウ)のとおり、甲2の実施例2?6における低結晶性炭素の被覆層全体の酸素の質量%は不明であって「1.0質量%以上5.0質量%以下」であるとはいえないから、甲2の記載に基づいて、甲1発明における「非晶質炭素」中の酸素含有率を「1.0質量%以上5.0質量%以下」とすることは、当業者であっても、容易になし得たこととはいえない。

ウ 相違点2について

(ア)甲3には、前記「第4」「3」「(2)」のとおり、LiVOPO4粒子と炭素とを含み、上記炭素は、上記LiVOPO4粒子の表面の少なくとも一部に担持されて炭素被覆層を形成している電極用複合粒子が記載されており、上記炭素被覆層の被覆率は0.2以上であることが好ましく、0.6?1.0であることが特に好ましいことが記載され、その製造方法として、LiVOPO4粒子の合成と同時にその表面に炭素被覆層を形成する方法、すなわち、Li源、V源、PO4源及び炭素源を溶媒中に溶解又は分散させて原料混合液を得る混合工程と、原料混合液を酸素分圧50Pa以下の雰囲気、好ましくは、Ar、H2、N2雰囲気(常圧)、又は、還元性ガス雰囲気(減圧)で、400?600℃の焼成温度で焼成する焼成工程と、を含む方法が記載されている。

(イ)しかし、甲3には、前記(ア)の混合工程と焼成工程からなる製造方法において、炭素被覆層の被覆率が特に好ましいとされる0.6?1.0である電極用複合粒子を形成するために必要な条件までは記載されていない。
また、前記「イ」「(ア)」にあるとおり、甲1発明の「非晶質炭素」の形成方法では、仮焼成後の原料に軟化温度200℃の精製石炭ピッチを加え、粉砕後、5体積%水素(H_(2))/95体積%アルゴン(Ar)の混合ガスの雰囲気で775℃にて10時間本焼成を行っているのに対して、甲3に記載の上記製造方法は、雰囲気ガスの種類や混合比が特定されていない点や焼成温度(400?600℃)が異なる点で条件を異にしているから、甲1発明の「非晶質炭素」の被覆率が、甲3の電極用複合粒子における炭素被覆層の被覆率と同一であるとはいえない。
したがって、甲3の記載を参酌しても、甲1発明における「非晶質炭素」の被覆率が「60%以上であ」るとはいえず、相違点2は実質的な相違点である。

(ウ)また、甲3では、前記「第4」「3」「(2)」のとおり、LiVOPO_(4)粒子の表面の少なくとも一部に担持されて炭素被覆層を形成している電極用複合粒子の被覆率は、複合粒子の電子伝導性を十分に高めるために、0.2以上であることが好ましく、0.6?1.0であることが特に好ましいとされているところ、甲1発明の2次電池正極材料においても、電子伝導性を十分に高めるために、非晶質炭素の被覆率を0.6?1.0とすること自体は、当業者が容易に想到できたことであるといえる余地がないわけではない。
しかし、本件特許の願書に添付された明細書の発明の詳細な説明には、本件発明1で「炭素質電極活物質複合粒子の表面における炭素質の被覆率は60%以上であ」るとした理由について「被覆率が60%未満では、電極活物質粒子の表面が露出して水分が吸着し易くなり、この吸着した水分により生成するフッ化水素酸により電池構成部材が劣化し、また、充放電による水の分解によりガス発生が発生して電池内の内圧が増大し、電池が破壊する虞があるので好ましくないからである。」(【0022】)と記載されており、かかる記載によれば、本件発明1は「炭素質電極活物質複合粒子の表面における炭素質の被覆率は60%以上」とすることによって、電極活物質粒子の表面が露出して水分が吸着し易くなることを抑制し、その結果、この吸着した水分により生成するフッ化水素酸による電池構成部材の劣化や、充放電による水の分解により発生するガスによって電池内の内圧が増大し、電池が破壊する虞をなくすことができるという効果を奏するものであり、かかる効果は、甲3に記載されていないもので、出願時の技術水準から当業者が予測できる範囲を超えた顕著なものである。
したがって、本件発明1が奏する上記の顕著な効果を踏まえれば、甲1発明において「LiFePO_(4)の表面に形成された」「非晶質炭素」の被覆率を「60%以上」とすることは、当業者であっても、容易になし得たこととはいえない。

エ 小括

以上のとおり、相違点1、2はいずれも実質的な相違点であるから、本件発明1は、甲1に記載された発明ではなく、甲1?3に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものでもない。

(2)本件発明2?5について

請求項2?5は、直接又は他の請求項を介して請求項1を引用しており、本件発明2?5は、いずれも本件発明1の発明特定事項を全て有している。
したがって、本件発明1と同様に、本件発明2?5についても、甲1に記載された発明ではなく、甲1?3に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものでもない。

(3)小括

以上のとおりであるから、申立理由1、2はいずれも理由がない。

2 申立理由3について

(1)特許請求の範囲の記載がサポート要件に適合するか否かは、特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載とを対比し、特許請求の範囲に記載された発明が、発明の詳細な説明に記載された発明で、発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認識し得る範囲のものであるか否か、また、発明の詳細な説明に記載や示唆がなくとも当業者が出願時の技術常識に照らし当該発明の課題を解決できると認識し得る範囲のものであるか否かを検討して判断すべきである。

(2)そこで、本件発明に係る請求項1?5の記載と発明の詳細な説明の記載とを対比すると、上記請求項1?5の記載は、前記「第2」のとおりであり、対応する発明の詳細な説明の記載は以下のとおりである。

ア 発明が解決しようとする課題

「【0006】
・・・リチウムリン酸塩化合物を含む電極活物質を高出力電源に用いられるリチウムイオン電池の電池材料として利用するためには、電極活物質の表面の炭素材料の電子伝導性を高めることが求められる。
しかしながら、この炭素材料は、酸素官能基が多く存在することから、充放電時に酸素官能基が酸化されてガスが発生し、このガスが電池内の内圧を上昇させ、場合によっては電池が破壊する虞があるという問題点があった。
この酸素官能基は親水性であるから、この酸素官能基が存在することにより吸着水分が増加し、この水分が原因となって、電池構成部材の劣化、水の分解によるガス発生等に起因する電池の劣化、あるいは破壊を起こす虞がある。」
「【0008】
本発明は、上記の課題を解決するためになされたものであって、充放電容量を低減させることなく、充放電中の電池内部のガス発生量のみならず電池構成部材の劣化をも改善することが可能な電極材料及び電極並びにリチウムイオン電池を提供することを目的とする。

イ 課題を解決するための手段

「【0009】
本発明者等は、上記課題を解決するために鋭意研究を行なった結果、電極活物質粒子の表面に炭素質が存在する炭素質電極活物質複合粒子について、炭素質中の酸素含有率を5.0質量%以下とし、さらに、炭素質電極活物質複合粒子の表面における炭素質の被覆率を60%以上とすれば、水分の吸着量が多い電極活物質粒子の表面に存在する炭素質の酸素官能基量を制御することができ、よって、充放電容量を低減させることなく、充放電中の電池内部のガス発生量のみならず電池構成部材の劣化をも改善することが可能であることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0010】
すなわち、本発明の電極材料は、電極活物質粒子の表面に炭素質が存在する炭素質電極活物質複合粒子を含有してなる電極材料であって、前記炭素質中の酸素含有率は5.0質量%以下であり、前記炭素質電極活物質複合粒子の表面における炭素質の被覆率は60%以上であり、前記炭素質は、炭素質被膜であり、前記炭素質電極活物質複合粒子の炭素の含有率は、0.5質量%以上かつ5.0質量%以下であることを特徴とする。」

ウ 発明を実施するための形態

「【0018】
[電極材料]
本実施形態の電極材料は、電極活物質粒子の表面に炭素質が存在する炭素質電極活物質複合粒子を含有してなる電極材料であって、この炭素質中の酸素含有率は5.0質量%以下であり、この炭素質電極活物質複合粒子の表面における炭素質の被覆率は60%以上である。」
「【0020】
この電極活物質粒子の成分としては、コバルト酸リチウム、ニッケル酸リチウム、マンガン酸リチウム、チタン酸リチウム及びLi_(x)A_(y)D_(z)PO_(4)(但し、AはCo、Mn、Ni、Fe、Cu、Crの群から選択される1種または2種以上、DはMg、Ca、S、Sr、Ba、Ti、Zn、B、Al、Ga、In、Si、Ge、Sc、Y、希土類元素の群から選択される1種または2種以上、0<x<2、0<y<1.5、0≦z<1.5)の群から選択される1種を主成分とすることが好ましい。」
「【0022】
・・・
ここで、電極活物質粒子の表面における炭素質の被覆率を60%以上とした理由は、被覆率が60%未満では、電極活物質粒子の表面が露出して水分が吸着し易くなり、この吸着した水分により生成するフッ化水素酸により電池構成部材が劣化し、また、充放電による水の分解によりガス発生が発生して電池内の内圧が増大し、電池が破壊する虞があるので好ましくないからである。
【0023】
この炭素質中の酸素量は、末端または末端近傍に水酸基(-OH)、カルボニル基(>C=O)、カルボキシル基(-COOH)、エーテル結合、エステル結合のいずれか1種を含む酸素含有官能基の量に依存する。
そこで、この炭素質中の酸素含有率は、5.0質量%以下が好ましく、より好ましくは3.0質量%以下である。
【0024】
ここで、炭素質中の酸素含有率を5.0質量%以下とした理由は、炭素質中の酸素含有率が5.0質量%を超えると、充電時に炭素質中に存在する酸素含有官能基が酸化されて発生するガスにより、リチウムイオン電池内の内圧が増大し、その結果、リチウムイオン電池の破壊を引き起こす虞が生じるので好ましくないからである。
また、炭素質中の酸素含有率が5.0質量%を超えると、炭素質中の酸素含有官能基に吸着する水分量が増大し、リチウムイオン電池とした際に残存する水分により電解質であるLiPF_(6)が分解し、この分解により生成するフッ化水素酸が電池構成部材を劣化させる虞が生じるので好ましくないからである。」
「【0027】
この炭素質電極活物質複合粒子の含水率は、5質量%以下であることが好ましく、より好ましくは2.5質量%以下である。
・・・
【0028】
この炭素質電極活物質複合粒子の炭素の含有率は、0.3質量%以上かつ8.0質量%以下であることが好ましく、より好ましくは0.5質量%以上かつ5.0質量%以下である。
ここで、炭素質電極活物質複合粒子の炭素の含有率を0.3質量%以上かつ8.0質量%以下とした理由は、含有率が0.3質量%未満では、電池を形成した場合に高速充放電レートにおける放電容量が低くなり、充分な充放電レート性能を実現することが困難となるので好ましくなく、含有率が8.0質量%を超えると、炭素中をリチウムイオンが移動する距離が増加し、リチウムイオンが炭素質被膜中を拡散する際にリチウムイオンの拡散速度の遅い炭素質被膜中を移動する距離が長くなり、よって、高速充放電レートにおける電圧低下が無視できなくなるので好ましくないからである。
【0029】
[電極材料の製造方法]
本実施形態の電極材料の製造方法は、電極活物質またはその前駆体と、有機化合物と、水とを含み・・・スラリーを乾燥し、次いで、得られた乾燥物を500℃以上かつ1000℃以下の非酸化性雰囲気下にて焼成する方法である。
得られた焼成物は、500℃以上かつ1000℃以下の還元性雰囲気下にて2次焼成することが好ましい」。
「【0049】
・・・乾燥物中の有機化合物が熱分解して生成した炭素質材料により電極活物質の1次粒子の表面が被覆され、よって、この電極活物質の1次粒子の間に炭素質材料が介在した2次粒子からなる凝集体が得られる。
この凝集体が、本実施形態における電極材料となる。
【0050】
[電極]
本実施形態の電極は、本実施形態の電極材料を含有してなる電極である。
・・・」
「【0053】
[リチウムイオン電池]
本実施形態のリチウムイオン電池は、本実施形態の電極からなる正極を備えている。
・・・」

エ 実施例

「【0075】
【表1】

【0076】
以上の結果によれば、実施例1?4の電極材料は、炭素質中の酸素含有率が5.0質量%以下、炭素質被覆率が81%以上、比表面積が1m^(2)/g以上かつ80m^(2)/g以下、充放電時のガス発生量が4.3Vで0.2cm^(3)/g以下、4.5Vで0.4cm^(3)/g以下、充電容量が1サイクルで158mAh/g以上、10サイクルで153mAh/g以上であり、充電容量を低減させることなく、充放電中のガス発生量が減少していることが確認された。
一方、比較例1?3の電極材料は、炭素質中の酸素含有率、比表面積、充放電時のガス発生量、充電容量のいずれかが実施例1?4の電極材料より劣っており、その結果、充電容量、充放電中のガス発生量のいずれか一方または双方が実施例1?4の電極材料より劣っていた。」

(3)前記(2)によれば、請求項1に記載された発明は、発明の詳細な説明の【0010】,【0018】,【0028】,【0049】(「炭素質は、有機化合物が熱分解して生成した炭素質被膜であ」る点),【0075】の表1(「炭素質中の酸素含有率は1.0質量%以上」である点)に記載されており、請求項2に記載された発明は、発明の詳細な説明の【0027】に記載されており、請求項3に記載された発明は、発明の詳細な説明の【0020】に記載されており、請求項4に記載された発明は、発明の詳細な説明の【0050】に記載されており、請求項5に記載された発明は、発明の詳細な説明の【0053】に記載されている。

(4)他方、前記(2)によれば、発明の詳細な説明には、リチウムリン酸塩化合物を含む電極活物質を高出力電源に用いられるリチウムイオン電池の電池材料として利用するためには、電極活物質の表面の炭素材料の電子伝導性を高めることが求められるところ、この炭素材料は、酸素官能基が多く存在することから、充放電時に酸素官能基が酸化されてガスが発生し、このガスが電池内の内圧を上昇させ、場合によっては電池が破壊する虞があるという問題点があり、また、この酸素官能基は親水性であるから、この酸素官能基が存在することにより吸着水分が増加し、この水分が原因となって、電池構成部材の劣化、水の分解によるガス発生等に起因する電池の劣化、あるいは破壊を起こす虞があるという問題があったため(【0006】)、本件発明は、充放電容量を低減させることなく、充放電中の電池内部のガス発生量のみならず電池構成部材の劣化をも改善することが可能な電極材料及び電極並びにリチウムイオン電池を提供することを目的とすること(【0008】)が記載されている。
そして、上記の課題を解決するための手段として、電極活物質粒子の表面に炭素質が存在する炭素質電極活物質複合粒子について、(i)炭素質中の酸素含有率を5.0質量%以下とし、さらに、(ii)炭素質電極活物質複合粒子の表面における炭素質の被覆率を60%以上とすれば、水分の吸着量が多い電極活物質粒子の表面に存在する炭素質の酸素官能基量を制御することができ、よって、充放電容量を低減させることなく、充放電中の電池内部のガス発生量のみならず電池構成部材の劣化をも改善することが可能となって上記の課題が解決されることが記載されており(【0009】【0018】【0022】【0024】)、以上のことは、上記(i)及び(ii)の課題解決手段が反映された実施例1?4で確認されている(【0075】【0076】)。

(5)以上によれば、当業者は、発明の詳細な説明の記載から、請求項1?5に記載された発明が、発明の詳細な説明に記載された発明であって、かかる発明が、前記(4)の(i)及び(ii)の課題解決手段を備えていることから、発明の課題を課題を解決できると認識し得る範囲のものであることを理解することができる。
よって、請求項1?5の記載はサポート要件に適合する。

(6)申立人は、申立理由3に関し、本件発明1?5における「炭素被覆中の酸素含有率」の下限値が「1.0質量%以上」とされていることについて、発明の詳細な説明には、実施例2によって所望の効果が得られることが示されているものの、かかる値に満たない場合にガス発生量の抑制効果や充電容量の維持効果が得られないことまでは示されておらず、当業者であっても、炭素被覆中の酸素含有率を下限値「1.0質量%以上」を含めた特定の範囲に限定すべき技術的な必然性を理解できないから、本件発明1?5は、特許を受けようとする発明が発明の詳細な説明に記載されたものではなく、特許法第36条第6項第1号の規定に適合しない旨主張する(特許異議申立書・第20頁第10行?第21頁第20行)。
しかし、前記(1)?(5)で検討したとおり、請求項1?5の記載はサポート要件に適合するものであり、サポート要件の判断は、本件発明1?5における「炭素被覆中の酸素含有率」の下限値である「1.0質量%」に臨界的意義があるか否かに左右されるものではなく、上記下限値は、申立人も認めるとおり、実施例2に記載されているから、申立人の上記主張は根拠を欠き、これを採用することはできない。

(7)よって、申立理由3には、理由がない。

第6 結び

以上のとおりであるから、特許異議の申立ての理由及び証拠によっては、請求項1?5に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に請求項1?5に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
 
異議決定日 2017-11-14 
出願番号 特願2013-225472(P2013-225472)
審決分類 P 1 651・ 113- Y (H01M)
P 1 651・ 121- Y (H01M)
P 1 651・ 537- Y (H01M)
最終処分 維持  
前審関与審査官 冨士 美香竹口 泰裕  
特許庁審判長 池渕 立
特許庁審判官 長谷山 健
河本 充雄
登録日 2017-02-24 
登録番号 特許第6097198号(P6097198)
権利者 住友大阪セメント株式会社
発明の名称 電極材料及び電極並びにリチウムイオン電池  
代理人 高橋 詔男  
代理人 志賀 正武  
代理人 鈴木 三義  
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