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審決分類 審判 全部申し立て 特36条4項詳細な説明の記載不備  A61K
審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  A61K
審判 全部申し立て 2項進歩性  A61K
管理番号 1335169
異議申立番号 異議2017-700720  
総通号数 217 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2018-01-26 
種別 異議の決定 
異議申立日 2017-07-25 
確定日 2017-12-08 
異議申立件数
事件の表示 特許第6065289号発明「抽出方法、美白化粧品を生産する方法及びヘアケア製品を生産する方法」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第6065289号の請求項1ないし6に係る特許を維持する。 
理由 第1 手続の経緯
特許第6065289号の請求項1?6に係る特許についての出願は、平成26年5月9日(優先権主張 2013年5月9日)を出願日とするものであり、平成29年1月6日にその特許権の設定登録がされ、その後、その特許について、特許異議申立人五十嵐優恵により特許異議の申立てがされたものである。

第2 本件特許発明
特許第6065289号の請求項1?6に係る発明(以下、それぞれ、「本件特許発明1」?「本件特許発明6」といい、まとめて、「本件特許発明」ともいう。)は、それぞれ、本件特許の特許請求の範囲の請求項1?6に記載された事項により特定される、以下のとおりのものである。

【請求項1】
イヌトウキからメラニン生合成に関する生理活性効果を発揮するための抽出物を抽出する抽出方法であって、
イヌトウキの部位を選択する選択ステップと、
前記選択ステップにおいて選択された前記イヌトウキの部位から、生理活性効果を促進する抽出物又は抑制する抽出物を抽出する抽出ステップを含み、
前記抽出ステップにおいて、
第1抽出溶媒を用いてイヌトウキからメラニン生合成を促進するための第1抽出物を抽出し、
前記第1抽出溶媒よりも極性が低い第2抽出溶媒を用いてイヌトウキからメラニン生合成を抑制するための第2抽出物を抽出する、抽出方法。
【請求項2】
前記第1抽出溶媒は、水であり、
前記第2抽出溶媒は、エタノールである、請求項1記載の抽出方法。
【請求項3】
イヌトウキから抽出された抽出物を用いた美白化粧品を生産する方法であって、
前記抽出物は、メラニン生合成を抑制する生理活性効果を発揮するためのものであり、
エタノールを抽出溶媒として前記抽出物をイヌトウキから抽出する抽出ステップを含む、美白化粧品を生産する方法。
【請求項4】
イヌトウキから抽出された抽出物を用いたヘアケア製品を生産する方法であって、
前記抽出物は、メラニン生合成を促進する生理活性効果を発揮するためのものであり、
前記ヘアケア製品は、β-アミリン及び/又はグルチノールを有効成分としてさらに含有するものであり、
水を抽出溶媒として前記抽出物をイヌトウキから抽出する抽出ステップを含む、
ヘアケア製品を生産する方法。
【請求項5】
髪の毛根部のメラノサイトに作用する請求項4記載のヘアケア製品を生産する方法。
【請求項6】
前記抽出ステップにおいて、前記抽出物をイヌトウキの茎から抽出する、請求項3記載の美白化粧品を生産する方法、又は、請求項4若しくは5記載のヘアケア製品を生産する方法。

第3 特許異議の申立てについて
1. 申立理由の概要
特許異議申立の理由の概要は、以下のとおりである。
(1) 特許法第36条第6項第1号、同条同項第2号、及び、同条第4項第1号
理由1-ア (特許異議申立書6?7頁 「(ア)本件特許発明1、2」の項参照。)
本件特許発明1の効果は、本件特許明細書の段落【0024】に記載されているとおりのものであり、イヌトウキの各部位からの抽出物が、溶媒に依存して、特定の生理活性効果を促進したり抑制したりする、あるいは、同じイヌトウキの部位であっても、溶媒によって、特定の生理活性効果を促進又は抑制した抽出物を利用することが可能というもの(以下、「段落【0024】に記載されている効果」という。)である。
これに対し、甲第1号証は、本件特許の出願日前に頒布されたものであり、その著者に本件特許の発明者らを含み、イヌトウキの種のエタノール抽出物によるメラニン生合成の阻害などについて記載されているから、本件特許発明1と同一研究内容の実験事実が記載されている論文である。

そして、その表1には、イヌトウキの種のエタノール抽出物について、当該抽出物の濃度が10、20、40μg/mlにおいては、メラニン生合成を阻害する一方、2.5、5μg/mlにおいては、100%を超えているためメラニン生合成を促進していることが記載されている。
この結果は、段落【0024】の記載に反し、溶媒のみならず、濃度によっては全く逆の生理活性を有すること、種の部位は、他の部位と異なる生理活性を有することを示している。すなわち、本件特許明細書の段落【0024】に記載されている効果は、同一研究内容の実験事実に忠実でない。
また、本件特許発明1の「第1抽出溶媒を用いてイヌトウキからメラニン生合成を促進するための第1抽出物を抽出し、前記第1抽出溶媒よりも極性が低い第2抽出溶媒を用いてイヌトウキからメラニン生合成を抑制するための第2抽出物を抽出する」という事項は、本件特許明細書の図2のデータに依拠していると思われるが、図2には、濃度が10、20、40μg/mlである場合のデータしか記載されていない。そして、甲第1号証には、濃度が2.5、5μg/mlの場合には、溶媒の極性に依存してイヌトウキから特定の生理活性効果を促進させたり抑制させたりする抽出物を抽出することができないことが記載されているのであるから、発見的な事実を根拠に特有の効果を奏するというためには、少なくとも、「濃度依存」または「部位依存」という条件を加えるべきであるが、特許発明1は、当該記載を欠くものである。

したがって、本件特許発明1は、発明の詳細な説明に記載されたものではないか、あるいは、本件特許発明1は明確ではない。
また、本件特許発明2は、本件特許発明1を引用するものであるから、本件特許発明1と同様の理由により、本件特許発明2は、発明の詳細な説明に記載されたものではないか、あるいは、本件特許発明2は明確ではない。


理由1-イ (特許異議申立書7?8頁 「(イ)本件特許発明3、4、5、6」の項参照。)
本件特許明細書には、美白化粧品を生産する具体的な方法は記載されておらず、細胞レベルの実験結果しか記載されていないので、人体について適用した際に実際にどのような効果があるか不明である。
したがって、本件特許発明3は、発明の詳細な説明に記載されたものではないか、あるいは、本件特許発明3は明確ではない。
また、本件特許発明4?6は、本件特許発明3を引用するものであるから、本件特許発明3と同様の理由により、本件特許発明4?6は、発明の詳細な説明に記載されたものではないか、あるいは、本件特許発明4?6は明確ではない。

理由1-ウ (特許異議申立書8?9頁 「(ウ)本件特許発明4、5、6」の項参照。)
本件特許明細書には、ヘアケア製品を生産する方法の具体的な記載や、白髪を黒くするという実験結果が示されていないので、どのような製品がヘアケア製品なるものに属するのか不明である。また、本件特許明細書には、細胞レベルの実験結果しか記載されていないので、ヘアケア製品として使用出来るという願望が記載されているにとどまる。
したがって、本件特許発明4は、発明の詳細な説明に記載されたものではないか、あるいは、本件特許発明4は明確ではない。
また、本件特許発明5、6は、本件特許発明4を引用するものであるから、本件特許発明4と同様の理由により、本件特許発明5、6は、発明の詳細な説明に記載されたものではないか、あるいは、本件特許発明5、6は明確ではない。

理由1-エ (特許異議申立書9頁 「(エ)本件特許発明5」の項参照。)
本件特許明細書には、髪の毛根部のメラノサイトに作用するヘアケア製品を生産する方法の具体的な記載や、白髪を黒くするという実験結果が示されていないので、どのような製品がヘアケア製品なるものに属するのか不明である。
また、本件特許明細書に記載されているのは、イヌトウキの抽出物の細胞レベルの実験結果であって、「毛根部のメラノサイトに作用するヘアケア製品」については、「期待される」という願望を述べたにとどまっている。
したがって、本件特許発明5は、発明の詳細な説明に記載されたものではないか、あるいは、本件特許発明5は明確ではない。

理由1-オ (特許異議申立書9?10頁 「(オ)本件特許出願(本件特許発明1-6)」の項参照。)

理由1-ア?理由1-エで説示したとおり、本件特許明細書の段落【0024】に記載されている効果は、同一研究内容の実験事実に忠実でないから発明の詳細な説明は、本件特許発明1を、当業者が実施できる程度に明確かつ十分に記載されたものではない。

また、本件特許発明2?6も、本件特許発明1と同様の理由により、本件特許発明2?6を、当業者が実施できる程度に明確かつ十分に記載されたものではない。

(2) 特許法第29条第2項
理由2-ア (特許異議申立書10?11頁 「(ア)本件特許発明1」の項参照。)
甲第2号証には、ヒュウガトウキの地上部(茎および葉)を用いる旨が記載されている。さらに、甲第2号証には、ヒュウガトウキには、メラニン産生を促進することが記載されている。そうすると、イヌトウキとヒュウガトウキは同じ日本山人参と言われていることから、同じシシウド属でトウキ類である同種の植物ということができ、「一般に同種の植物体に含まれる成分は類似する」という技術常識からすれば、抽出物がメラニン産生を促進する点でヒュウガトウキの抽出物と同様の目的で用いられるイヌトウキは、ヒュウガトウキと同様の作用を有すると想起することは、当業者は容易に考えるであろう。
そうすると、イヌトウキの抽出物を抽出するにあたり、茎と葉の抽出物にメラニン生合成に関する生理活性効果が存在する点については、これを試すのに十分な動機付けがあるということになるから、「B イヌトウキの部位を選択する選択ステップと、 C 前記選択ステップにおいて選択された前記イヌトウキの部位から、生理活性効果を促進する抽出物又は抑制する抽出物を抽出するステップ」を含み、抽出方法を考えることは、容易である。
したがって、本件特許発明1は、甲第2号証に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものである。

理由2-イ (特許異議申立書11?12頁 「(イ)本件特許発明2」の項参照。)
甲第2号証には、水と1,3ブチレングリコールによる抽出液がメラニン生合成を促進することが確認されているから、水を第1抽出溶媒とすることは当業者が容易に想到し得ることである。
また、甲第3号証には、当帰にエタノールを抽出溶媒とした抽出物に美白作用があることが記載され、甲第4号証には、そのような抽出物が商品化されていることが記載されていることから、そのような抽出物が知られていることが窺われる。
そして、「同種の植物は植物体に含まれる成分も類似する」という技術常識からすれば、当帰と同類の植物である、イヌトウキにも同様の作用があることは、当業者が容易に想到し得ることである。
したがって、本件特許発明2は、甲第2?4号証に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものである。

理由2-ウ (特許異議申立書12頁 「(ウ)本件特許発明3」の項参照。)
甲第3号証には、当帰にエタノールを抽出溶媒とした抽出物に美白作用があることが記載され、甲第4号証には、そのような抽出物が商品化されていることが記載されていることから、そのような抽出物が広く知られていることが窺われる。
そして、「同種の植物は植物体に含まれる成分も類似する」という技術常識からすれば、当帰と同類の植物である、イヌトウキにも同様の作用があることは、当業者が容易に想到し得ることである。
したがって、美白化粧品を生産する方法においてエタノールを抽出溶媒としてイヌトウキから抽出された抽出物を用いることは当業者が容易に想到し得ることであるから、本件特許発明3は、甲第3、4号証に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものである。

理由2-エ (特許異議申立書12?13頁 「(エ)本件特許発明4」の項、および、15頁8?9行を参照。)
甲第2号証には、水と1,3ブチレングリコールによる抽出液がメラニン生合成を促進することが確認されているから、ヘアケア製品を生産する方法において水を抽出溶媒としてイヌトウキから抽出された抽出物を用いることは当業者が容易に想到し得ることである。(12?13頁)
なお、本件特許発明4は、甲第2、5号証に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものである旨の記載もあるが(15頁)、上述のとおり、特許異議申立書に具体的に記載されているものは甲第2号証に基づくもののみであって、甲第5号証に関する具体的な言及が一切ないことから、「甲第2、5号証」は、「甲第2号証」の誤記であると認める。

理由2-オ (特許異議申立書13?14頁 「(オ)本件特許発明5」の項参照。)
甲第2号証には、水と1,3ブチレングリコールによる抽出液がメラニン生合成を促進すること、及び、マウス背部への塗布実験の結果が記載されており、甲第5号証には、甘草に関するものであるが、グリチルリチンが肝機能補強機能、抗炎症作用など様々な薬理活性を有することから、医薬品及び化粧品材料として多用されていることが記載されている。
また、βアミリンは、多くの植物に共通して存在するのであるから、それを抽出することは容易である。
よって、髪の毛根部のメラノサイトに作用するヘアケア製品を製造する方法は、当業者が容易に想到し得ることである。
したがって、本件特許発明5は、甲第2、5号証に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものである。

理由2-カ (特許異議申立書14頁 「(カ)本件特許発明6」の項参照。)
甲第2号証には、「ヒュウガトウキの地上部(茎および葉)を用いる旨」、「ヒュウガトウキには、メラニン産生を促進する」ことが記載されており、イヌトウキとヒュウガトウキは同じシシウド属でトウキ類である同種の植物ということができ、同種の植物体に含まれる成分は類似するという技術常識からすれば、イヌトウキは、ヒュウガトウキと同様の作用を有すると想起することは、当業者は容易に考える。
そうすると、イヌトウキの抽出物を抽出するにあたり、茎と葉の抽出物にメラニン生合成に関する生理活性効果が存在する点について、十分な動機付けがあるということになるから、当業者が茎を活用することは、当業者が容易に想到することである。
したがって、本件特許発明6は、甲第2号証に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものである。


2. 証拠及び証拠の記載事項
(1) 証拠
甲第1号証: Journal fo Ethnopharmacology p980-987 vol.148 (2013)
甲第2号証: ヒュウガトウキ(Angelica furcijuga)のメラニン色素産生能への影響 藤原博士外 Jpn Pharmacol Ther (薬理と治療) p1117-1123 Vol.38 no.12 2010
甲第3号証:特開2011-20965号公報
甲第4号証:「化粧品・原料データベース トウキ抽出液-LA」、online、2011年9月5日、岩瀬コスファ株式会社、2017年7月25日検索、インターネット、
URL:http:www.iwasedatabase.jp/presc_detail.php?id=PS03386t=1309309149
甲第5号証:斎藤ら、「レアプラント 生薬「甘草」の医薬成分を合成する酵素遺伝子を発見」、online、2011年11月25日、千葉大学、2017年7月24日検索、インターネット、
URL:http:www.chiba-u.ac.jp/others/topics/files/idenshi.pdf


(2) 証拠の記載事項
ア 甲第1号証の記載事項
甲第1号証は、英語で記載されているので、当審による訳で示す。
ア-1
「3.結果
3.1 B16メラノーマ細胞株評価(表1)
RE(当審注:根エタノール抽出物)、STE(当審注:茎エタノール抽出物)とSE(当審注:種エタノール抽出物)はメラニン合成の用量依存的な阻害を示した。抽出物中最大の阻害率(阻害率74%)を示したのは、40μg/mlの根エタノール抽出物であったが、高い細胞毒性(41%)を伴った。より低濃度である20μg/mlは、比較的強い阻害率(阻害率63%)を示しつつ、より低い細胞毒性(15%)を示した。反対に、全ての部分の水抽出物が、全試験濃度で、陰性対照に比べ、顕著なメラニン生成刺激活性(15?40%)を示した。表1参照。」(983頁、左欄)
ア-2
「表1
イヌトウキ(Angelica shikokiana)の根、茎、葉、種のエタノールまたは水抽出物のメラニン生合成またはB16メラノーマ細胞の増殖に対する効果

データは平均±SDで表記している。nは3である。MCは、メラニン含有量(%)であり、CVは、細胞生存率(%)であり、Typeについて、Aは、CV-MC≧10%を表し、Bは、MCとCVがともに75%以上を表し、Cは、MC-CV≧15%を表し、Dは、その他を表す。500,250,100,50,25μg/mlの用量で使用したアルブチン(陽性対照)は、CVがそれぞれ、69±2.1、82±2.3、85±1.3、92±3.2、93±4.1、101±2.2%であり、MCが、それぞれ、29±2、39±1、50±2、52±2、53±4、75±2であった。全ての数値は、陰性対照に対する%で表示している。」(984頁、表1)

イ 甲第2号証の記載事項
イ-1


」(1118頁左欄)
イ-2


」(1118頁右欄)
イ-3


」(1119頁右欄)
イ-4


」(1120頁)
イ-5


」(1121頁右欄)

ウ 甲第3号証の記載事項
ウ-1
「 トウキ(Angelica acutiloba Kitagawa)は、日本原産の植物であるセリ科シシウド属に属する多年草であり、これらの地域から容易に入手することができる。抽出原料として使用し得るトウキの構成部位としては、例えば、葉部、茎部、花部、果実部、根部、根茎部、地上部又はこれらの混合物が挙げられ、好ましくは根部である。」(段落【0033】)
ウ-2
「上記抽出物は、抽出原料を乾燥した後、そのまま又は粗砕機を用いて粉砕し、抽出溶媒による抽出に供することにより得ることができる。乾燥は天日で行ってもよいし、通常使用される乾燥機を用いて行ってもよい。また、ヘキサン等の非極性溶媒によって脱脂等の前処理を施してから抽出原料として使用してもよい。脱脂等の前処理を行うことにより、植物の極性溶媒による抽出処理を効率よく行うことができる。」(段落【0035】)
ウ-3
「 抽出溶媒として使用し得る親水性有機溶媒としては、メタノール、エタノール、プロピルアルコール、イソプロピルアルコール等の炭素数1?5の低級脂肪族アルコール;アセトン、メチルエチルケトン等の低級脂肪族ケトン;1,3-ブチレングリコール、プロピレングリコール、グリセリン等の炭素数2?5の多価アルコール等が挙げられる。」(段落【0038】)

ウ-4
「 エイジツ、キョウニン、サイシン及びトウキからなる群より選択される1種又は2種以上の植物からの抽出物を有効成分として含有するメラニン産生抑制剤と、
化学発光体とからなることを特徴とする化粧料キット。」(【請求項5】)
ウ-5
「本発明は、化粧料キット及び化粧方法に関し、特に老化防止作用又は美白作用に優れた化粧料キット及び化粧方法に関する。」(段落【0001】)
ウ-6
「〔試験例3〕メラニン産生抑制作用試験
エイジツ抽出物、キョウニン抽出物、サイシン抽出物、トウキ抽出物、クジン抽出物、ソウハクヒ抽出物、ムクロジ抽出物、アスパラガス抽出物、アルニカ抽出物及びユキノシタ抽出物の各試料について、以下のようにしてメラニン産生抑制作用を試験した。なお、上記各抽出物として、エイジツ抽出液-R、キョウニン抽出液、サイシン抽出液W-LA、トウキ抽出液、クジン抽出液AL、ソウハクヒ抽出液、ムクロジエキスパウダー、アスパラガス抽出液、アルニカ抽出液及びユキノシタ抽出液(すべて丸善製薬社製)を使用した。
B16メラノーマ細胞を、10%FBS含有ダルベッコMEMを用いて培養した後、トリプシン処理により細胞を回収した。回収した細胞を10%FBS含有ダルベッコMEMで4.0×10^(4)cells/mLの細胞密度に希釈した後、24ウェルプレートに1ウェルあたり0.4mLずつ播種し、一晩培養した。
培養終了後、培養液を除去し、10%FBS及び1mmol/Lテオフィリン含有ダルベッコMEMで溶解した試料溶液(試料濃度は下記表3を参照)を各ウェルに0.8mL添加し、化学発光体(製品名:ライトシェープブルー・ライトシェープグリーン・ライトシェープオレンジ,日本オムニグロー社製)による青色、緑色又はオレンジ色の光をインキュベータ内で30分間照射し、4日間培養した。培養終了後、各ウェルから培地を取り除き、0.1%SDS生理食塩水0.2mLを添加してハンディーソニケーターを用いて細胞を破壊し、このうち10μLずつを別のプレートに取り、BCA Protein Assay Kit(PIERCE社製)を用いてタンパクの定量(562nm)を行った。また、残存した細胞は細液の波長475nmにおける吸光度を測定した。得られた結果から、下記式により単位細胞あたりのメラニン合成率(%)を算出した。なお、化学発光体からの光を照射しなかった場合についても上記と同様にしてメラニン合成率(%)を算出した。
メラニン合成率(%)={(A/B)/(C/D)}×100
式中、Aは「試料添加時の475nmにおける吸光度」を表し、Bは「試料添加時の562nmにおける吸光度」を表し、Cは「試料無添加時の475nmにおける吸光度」を表し、Dは「試料無添加時の562nmにおける吸光度」を表す。
結果を表3に示す。」(段落【0085】?【0088】)

エ 甲第4号証の記載事項
エ-1



オ 甲第5号証の記載事項
オ-1


」(1頁)

第4 判断
1. 理由1-アについて

(a)理由1-アのうち、本件特許発明1に対する特許法第36条第6項第1号に規定する要件に関するものについて

特許請求の範囲の記載が、特許法第36条第6項第1号に規定する要件(いわゆるサポート要件)に適合するか否かは、特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載とを対比し、特許請求の範囲に記載された発明が、発明の詳細な説明に記載された発明で、発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否か、また、その記載や示唆がなくとも当業者が出願時の技術常識に照らして当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否かを検討して判断すべきものである。
したがって、サポート要件違反であるといえるためには、(1)まず、本件特許発明1が解決しようとする課題を認定し、(2)特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載とを対比して、(3)特許請求の範囲に記載された発明が、発明の詳細な説明に記載された発明で、発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否か、また、その記載や示唆がなくとも当業者が出願時の技術常識に照らして当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否かを検討して判断することを要する。

しかしながら、異議申立人が主張する理由1-アは、本件特許明細書の段落【0024】に記載されている効果は、同一研究内容の実験事実に忠実ではなく、また、本件特許発明1は、「濃度依存」または「部位依存」という条件に関する記載を欠くものであるので、濃度が2.5、5μg/mlの場合には、溶媒の極性に依存してイヌトウキから特定の生理活性効果を促進させたり抑制させたりする抽出物を抽出するという特有の効果を奏することができないから、本件特許発明1は、発明の詳細な説明に記載されたものではないというものであると認められる。
そうすると、異議申立人の主張は、本件特許発明1が解決しようとする課題の認定を欠くものである。また、特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載との対比も欠き、当業者が当該発明の課題を解決することができるものであるか否かの検討も欠くものである。

したがって、異議申立人の主張する理由1-アのうち、本件特許発明1に対する特許法第36条第6項第1号に規定する要件に関するものは、理由がないことが明らかであるが、一応、当審において、本件特許発明1が解決しようとする課題を以下のとおりに認定するとともに、当該認定に基づく判断も示す。

<本件特許発明1が解決しようとする課題>
本件特許発明1が解決しようとする課題に関し、本件特許明細書の段落【0006】?【0007】に【発明が解決しようとする課題】と題し「イヌトウキから抽出される抽出物を有効に活用するための抽出方法等を提案すること」(段落【0007】)と記載されている。また、本件特許発明1は、以下のとおりのものである(第2 本件特許発明参照。)。

「 イヌトウキからメラニン生合成に関する生理活性効果を発揮するための抽出物を抽出する抽出方法であって、
イヌトウキの部位を選択する選択ステップと、
前記選択ステップにおいて選択された前記イヌトウキの部位から、生理活性効果を促進する抽出物又は抑制する抽出物を抽出する抽出ステップを含み、
前記抽出ステップにおいて、
第1抽出溶媒を用いてイヌトウキからメラニン生合成を促進するための第1抽出物を抽出し、
前記第1抽出溶媒よりも極性が低い第2抽出溶媒を用いてイヌトウキからメラニン生合成を抑制するための第2抽出物を抽出する、抽出方法。」

したがって、本件特許発明1が解決しようとする課題は、本件特許発明1に係る、第1抽出溶媒を用いてイヌトウキからメラニン生合成を促進するための第1抽出物を抽出し、前記第1抽出溶媒よりも極性が低い第2抽出溶媒を用いてイヌトウキからメラニン生合成を抑制するための第2抽出物を抽出する、抽出方法の発明を提供することであると認められる。

<判断>
これに対し、本件特許明細書の発明の詳細な説明の【課題を解決する手段】や【発明を実施するための形態】には、イヌトウキから抽出される抽出物を有効に活用するための抽出方法等について一般的な説明とともに、具体例として、水(第1抽出溶媒)を用いてイヌトウキからメラニン生合成を促進するための第1抽出物を抽出し、エタノール(第1抽出溶媒よりも極性が低い第2抽出溶媒)を用いてイヌトウキからメラニン生合成を抑制するための第2抽出物を抽出したことが記載されている。
そうすると、本件特許発明1は、発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるといえる。
また、本件特許発明1に、段落【0024】に記載の効果を奏さない場合が、仮に、含まれているとしても、本件特許発明1が、「第1抽出溶媒を用いてイヌトウキからメラニン生合成を促進するための第1抽出物を抽出し、前記第1抽出溶媒よりも極性が低い第2抽出溶媒を用いてイヌトウキからメラニン生合成を抑制するための第2抽出物を抽出する、抽出方法の発明を提供すること」という課題を解決することができるものである以上、特許請求の範囲の請求項1の記載が、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていないとはいえない。

なお、異議申立人の主張についても、一応、当審において検討すると、本件特許明細書の発明の詳細な説明には、「イヌトウキの部位」として「種」を選択し、「第2抽出溶媒」として「エタノール」を選択した場合に抽出される「メラニン生合成を抑制するための第2抽出物」は、「40μg/mLにおいて強いメラニン生合成阻害活性(53.6%)」、「20、10μg/mLにおいては、弱いメラニン生合成阻害活性」を示したことが記載されている(段落【0044】)。
したがって、本件特許発明1のうち、「イヌトウキの部位」として「種」を選択し、「第2抽出溶媒」として「エタノール」を選択した場合に抽出される「メラニン生合成を抑制するための第2抽出物」に係る場合においても、発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるといえる。

したがって、異議申立人の主張する理由1-アのうち、本件特許発明1に対する特許法第36条第6項第1号に規定する要件に関するものは、理由がない。


(b)理由1-アのうち、本件特許発明1に対する特許法第36条第6項第2号に規定する要件に関するものについて

特許請求の範囲の記載が、特許法第36条第6項第2号に規定する要件(いわゆる明確性要件)に適合するか否かは、特許請求の範囲の記載を検討し、特許請求の範囲に記載された発明が明確であるといえるか、また、明確であるといえなくとも発明の詳細な説明の記載及び出願時の技術常識に照らして明確であると認識できるものであるか否かを検討して判断すべきものである。
これに対し、異議申立人の主張は、要するに、本件特許発明1において、種をエタノールで抽出する場合には、本件特許発明1は、本件特許明細書の段落【0024】に記載の効果を奏さず、当該場合にも当該効果を奏するといえるためには、少なくとも「濃度依存」または「部位が種である場合を除く」という条件を加える必要があるところ、請求項1には「濃度依存」または「部位が種である場合を除く」という条件に対応する事項が記載されていないので、請求項1の記載は明確ではない、というものである。
そうすると、この主張は、本件特許発明1が明確であるといえるかに関する、特許請求の範囲の記載の検討を欠くものである。

また、異議申立人の主張は、本件特許発明1に、種をエタノールで抽出する場合が含まれていることを前提として、当該場合について、「本件明細書の段落【0024】に記載の効果を奏さないので・・」と主張するものである。
したがって、例えば、本件特許発明1に、種をエタノールで抽出する場合が含まれているか否かが明確ではない旨主張しているわけではない。
また、段落【0024】に記載されている効果は、請求項1に記載された事項ではないから、当該効果を奏するか否かと、本件特許発明1が明確であるか否かは、関係がない。

なお、当審において特許請求の範囲の記載を検討したが、本件特許発明1は、請求項1に記載された事項により特定されるとおりのものであり、請求項1に記載された事項は、その意味するところがいずれも明確であるから、本件特許発明1は、明確である。

したがって、異議申立人の主張する理由1-アのうち、本件特許発明1に対する特許法第36条第6項第2号に規定する要件に関するものは、理由がない。

(c)理由1-アのうち、本件特許発明2に対する、特許法第36条第6項第1号、及び、同条同項第2号に規定する要件に関するものについて

異議申立人は、本件特許発明2は、本件特許発明1を引用するものであるから、本件特許発明1と同様の理由により、発明の詳細な説明に記載されたものではなく(特許法第36条第6項第1号)、また、特許請求の範囲の記載には不備がある(特許法第36条第6項第2号)と主張するが、上記(a)、(b)に説示したとおり、本件特許発明1に対する特許法第36条第6項第1号、及び、同条同項第2号に規定する要件に関するものは、いずれも理由がない。
したがって、当該主張がいずれも理由があるものであることを前提とする、上記主張も理由がない。

したがって、異議申立人の主張する理由1-アのうち、本件特許発明2に対する、特許法第36条第6項第1号、及び、同条同項第2号に規定する要件に関するものは、理由がない。

2. 理由1-イについて

(a)理由1-イのうち、本件特許発明3に対する、特許法第36条第6項第1号に規定する要件に関するものについて

異議申立人は、細胞レベルの実験結果しか記載されていないので、人体について適用した際に実際にどのような効果があるか不明であると主張する。
しかしながら、上記1.(a)に説示したとおり、サポート要件違反であるといえるためには、(1)まず、本件特許発明3が解決しようとする課題を認定し、(2)特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載とを対比して、(3)特許請求の範囲に記載された発明が、発明の詳細な説明に記載された発明で、発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否か、また、その記載や示唆がなくとも当業者が出願時の技術常識に照らして当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否かを検討して判断することを要する。
しかしながら、異議申立人が主張する理由1-イは、本件特許発明3が解決しようとする課題の認定を欠くものである。また、特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載との対比も欠き、当業者が当該発明の課題を解決することができるものであるか否かの検討も欠くものである。

したがって、異議申立人の主張する理由1-イのうち、本件特許発明3に対する特許法第36条第6項第1号に規定する要件に関するものは、理由がないことが明らかであるが、一応、当審において、本件特許発明3が解決しようとする課題を以下のとおりに認定するとともに、当該認定に基づく判断も示す。

<本件特許発明3が解決しようとする課題>
本件特許発明3が解決しようとする課題について、本件特許明細書には、【発明が解決しようとする課題】と題し「イヌトウキから抽出される抽出物を有効に活用するための抽出方法等を提案すること」(段落【0007】)と記載されている。また、本件特許発明3は、イヌトウキから抽出された抽出物を用いた美白化粧品を生産する方法の発明である。したがって、本件特許発明3が解決しようとする課題は、本件特許発明3に係る美白化粧品を生産する方法の発明を提供することであると認められる。

<判断>
これに対し、本件特許明細書の発明の詳細な説明には、本件特許発明3に係る抽出物について細胞レベルの実験により、メラニン生合成を抑制する生理活性効果を評価したことが記載されている。
また、当該細胞レベルの実験は、概略、本件特許発明3に係る抽出物を加えた培養液でB16メラノーマ細胞を培養し、そのメラニン生合成量を測定することにより、メラニン生合成を抑制する生理活性効果を評価するものである(段落【0036】?【0039】)が、この評価方法は、本件特許発明3が属する技術分野(以下、本<判断>の中で、「当業界」という。)において、メラニン生合成に対する抑制・促進効果を評価する方法として広く採用されている代表的なものであると認められる。
なお、この評価手法が当業界で広く採用されている点については、甲第2号証(第3 2. (2) イ 甲第2号証の記載事項 イ-3?イ-5参照。)、及び、甲第3号証(第3 2. (2) ウ 甲第3号証の記載事項 ウ-6参照。)にも、メラニン生合成に対する生理活性効果を評価する手法として採用されていることが記載されていることからも支持される。

そうすると、当業者は、本件特許発明3に係る抽出物を含む美白化粧品が、メラニン生合成を抑制する生理活性効果を発揮するものであると理解するので、本件特許発明3は、発明の詳細な説明に記載された発明で、発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるといえる。

なお、異議申立人は、細胞レベルの実験結果しか記載されていないので、人体について適用した際に実際にどのような効果があるか不明であると主張するが、上述のとおり本件特許発明3に係る細胞レベルの実験は、メラニン生合成を抑制する生理活性効果を評価する方法として広く採用されている代表的な評価手法であって、さらに実際に人体に適用して確認するまでもないといえるものであるから、異議申立人のこの主張は、採用できない。

したがって、異議申立人の主張する理由1-イのうち、本件特許発明3に対する、特許法第36条第6項第1号に規定する要件に関するものは、理由がない。

(b)理由1-イのうち、本件特許発明4?6に対する、特許法第36条第6項第1号に規定する要件に関するものについて

異議申立人は、本件特許発明4?6は、本件特許発明3を引用するものであるから、本件特許発明3と同様の理由により、発明の詳細な説明に記載されたものではないと主張するが、本件特許発明4?5は、本件特許発明3を引用するものではないから、異議申立人の主張は、その前提において誤っている。
本件特許発明6のうち、本件特許発明3を引用しない部分についても同様である。
また、本件特許発明6のうち、本件特許発明3を引用する部分については、上記(a)に説示したとおり、本件特許発明3に対する理由1-イのうち、本件特許発明3に対する、特許法第36条第6項第1号に規定する要件に関するものは理由がないから、当該主張が理由があるものであることを前提とする、上記主張も理由がない。

結局、異議申立人の主張する理由1-イのうち、本件特許発明4?6に対する、特許法第36条第6項第1号に規定する要件に関するものは、理由がない。

(c)理由1-イのうち、本件特許発明3に対する特許法第36条第6項第2号に規定する要件に関するものについて

異議申立人の主張は、要するに、本件特許発明3において、本件特許明細書には、細胞レベルの実験結果しか記載されていないので、美白化粧品として使用出来るという願望が記載されているにとどまり、人体について適用した際に実際にどのような効果があるか不明であるので、請求項3の記載は明確ではない、というものである。
しかしながら、上記1.(b)に説示したとおり、明確性要件違反であるといえるためには、特許請求の範囲の記載を検討し、特許請求の範囲に記載された発明が明確であるといえるか、また、明確であるといえなくとも発明の詳細な説明の記載及び出願時の技術常識に照らして明確であると認識できるものであるか否かを検討して判断すべきものである。
これに対し、異議申立人の主張は、本件特許発明3の美白化粧品を人体について適用した際に実際にどのような効果があるか不明であることを主張するものであって、例えば、本件特許発明3に関し、人体について適用した際に実際にどのような効果があるか不明な場合が想定でき、かつ、そのような場合が本件特許発明3に含まれているか否かが明確ではないから、本件特許発明3が明確ではない旨主張しているわけではない。
また、人体について適用した際の効果は、請求項3に記載された事項ではないから、当該効果を奏するか否かが不明であることと、本件特許発明3が明確であるか否かも、関係がない。
したがって、異議申立人の主張は、本件特許発明3が明確であるといえるかに関する、特許請求の範囲の記載の検討を欠くものである。

なお、当審において特許請求の範囲の記載を検討しても、本件特許発明3は、請求項3に記載された事項により特定されるとおりのものであり、請求項3に記載された事項は、その意味するところがいずれも明確であるから、本件特許発明3は、明確である。

したがって、異議申立人の主張する理由1-イのうち、本件特許発明3に対する特許法第36条第6項第2号に規定する要件に関するものは、理由がない。

(d)理由1-イのうち、本件特許発明4?6に対する、特許法第36条第6項第2号に規定する要件に関するものについて

異議申立人は、本件特許発明4?6は、本件特許発明3を引用するものであるから、本件特許発明3と同様の理由により、明確ではないと主張するが、本件特許発明4?5は、本件特許発明3を引用するものではないから、異議申立人の主張は、その前提において誤っている。
本件特許発明6のうち、本件特許発明3を引用しない部分についても同様である。
また、本件特許発明6のうち、本件特許発明3を引用する部分については、上記(c)に説示したとおり、本件特許発明3に対する理由1-イのうち、本件特許発明3に対する特許法第36条第6項第2号に規定する要件に関するものは理由がないから、当該主張が理由があるものであることを前提とする、上記主張も理由がない。

結局、異議申立人の主張する理由1-イのうち、本件特許発明4?6に対する、特許法第36条第6項第2号に規定する要件に関するものは、理由がない。

3. 理由1-ウについて

(a)理由1-ウのうち、本件特許発明4に対する、特許法第36条第6項第1号に規定する要件に関するものについて

異議申立人は、本件特許明細書には、ヘアケア製品を生産する方法の具体的な記載や、白髪を黒くするという実験結果が示されていないので、どのような製品がヘアケア製品になるものに属するのか不明であり、また、本件明細書には、細胞レベルの実験結果しか記載されていないので、ヘアケア製品として使用出来るという願望が記載されているにとどまると主張する。
しかしながら、上記1. (a)に説示したとおり、サポート要件違反であるといえるためには、(1)まず、本件特許発明4が解決しようとする課題を認定し、(2)特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載とを対比して、(3)特許請求の範囲に記載された発明が、発明の詳細な説明に記載された発明で、発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否か、また、その記載や示唆がなくとも当業者が出願時の技術常識に照らして当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否かを検討して判断することを要する。
しかしながら、異議申立人が主張する理由1-ウは、本件特許発明4が解決しようとする課題の認定を欠くものである。また、特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載との対比も欠き、当業者が当該発明の課題を解決することができるものであるか否かの検討も欠くものである。

したがって、異議申立人の主張する理由1-ウのうち、本件特許発明4に対する特許法第36条第6項第1号に規定する要件に関するものは、理由がないことが明らかであるが、一応、当審において、本件特許発明4が解決しようとする課題を以下のとおりに認定するとともに、当該認定に基づく判断も示す。

<本件特許発明4が解決しようとする課題>
本件特許発明4が解決しようとする課題について、本件特許明細書には、【発明が解決しようとする課題】と題し「イヌトウキから抽出される抽出物を有効に活用するための抽出方法等を提案すること」(段落【0007】)と記載されている。また、本件特許発明4は、イヌトウキから抽出された抽出物を用いたヘアケア製品を生産する方法の発明である。したがって、本件特許発明4が解決しようとする課題は、本件特許発明4に係るヘアケア製品を生産する方法の発明を提供することであると認められる。

<判断>
これに対し、本件特許明細書の発明の詳細な説明には、本件特許発明4に係る抽出物について細胞レベルの実験により、メラニン生合成を促進する生理活性効果を評価したことが記載されている。
また、当該細胞レベルの実験は、概略、本件特許発明4に係る抽出物を加えた培養液でB16メラノーマ細胞を培養し、そのメラニン生合成量を測定することにより、メラニン生合成を促進する生理活性効果を評価するものである(段落【0036】?【0039】)が、この評価方法は、本件特許発明4が属する技術分野(以下、本<判断>の中で、「当業界」という。)において、メラニン生合成に対する抑制・促進効果を評価する方法として広く採用されている代表的なものであると認められる。
なお、この評価手法が当業界で広く採用されている点については、甲第2号証(第3 2. (2) イ 甲第2号証の記載事項 イ-3?イ-5参照。)、及び、甲第3号証(第3 2. (2) ウ 甲第3号証の記載事項 ウ-6参照。)にも、メラニン生合成に対する生理活性効果を評価する手法として採用されていることが記載されていることからも支持される。

そうすると、当業者は、本件特許発明4に係る抽出物を含むヘアケア製品が、メラニン生合成を促進する生理活性効果を発揮するものであると理解するので、本件特許発明4は、発明の詳細な説明に記載された発明で、発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるといえる。

なお、異議申立人は、細胞レベルの実験結果しか記載されていないので、人体について適用した際に実際にどのような効果があるか不明であると主張するが、上述のとおり本件特許発明4に係る細胞レベルの実験は、メラニン生合成を促進する生理活性効果を評価する方法として広く採用されている代表的な評価手法であって、さらに実際に人体に適用して確認するまでもないといえるものであるから、異議申立人のこの主張は、採用できない。

したがって、異議申立人の主張する理由1-ウのうち、本件特許発明4に対する、特許法第36条第6項第1号に規定する要件に関するものは、理由がない。

(b)理由1-ウのうち、本件特許発明5、6に対する、特許法第36条第6項第1号に規定する要件に関するものについて

異議申立人は、本件特許発明5及び6は、本件特許発明4を引用するものであるから、本件特許発明4と同様の理由により、発明の詳細な説明に記載されたものではないと主張するが、上記(a)に説示したとおり、本件特許発明4に対する理由1-ウのうち、本件特許発明4に対する、特許法第36条第6項第1号に規定する要件に関するものは理由がないから、当該主張が理由があるものであることを前提とする、上記主張も理由がない。

(c)理由1-ウのうち、本件特許発明4に対する特許法第36条第6項第2号に規定する要件に関するものについて

異議申立人の主張は、要するに、どのような製品がヘアケア製品なるものに属するのか不明であるから、請求項4の記載は明確ではない、というものであり、その理由として、本件特許明細書には、(ア)ヘアケア製品を生産する方法の具体的な記載がない、(イ)細胞レベルの実験結果しか記載されておらず、白髪を黒くするという実験結果が示されていない、(ウ)ヘアケア製品として使用出来るという願望が記載されているにとどまる、と主張するものである。
しかしながら、上記1.(b)に説示したとおり、明確性要件違反であるといえるためには、特許請求の範囲の記載を検討し、特許請求の範囲に記載された発明が明確であるといえるか、また、明確であるといえなくとも発明の詳細な説明の記載及び出願時の技術常識に照らして明確であると認識できるものであるか否かを検討して判断すべきものである。
これに対し、異議申立人の上記(ア)?(ウ)の主張は、いずれも、発明の詳細な説明の記載に関するものであって、本件特許発明4が明確であるといえるかに関する、特許請求の範囲の記載の検討を欠くものである。

なお、当審において特許請求の範囲の記載を検討しても、本件特許発明4は、請求項4に記載された事項により特定されるとおりのものであり、請求項4に記載された事項は、その意味するところがいずれも明確であるから、本件特許発明4は、明確である。

したがって、異議申立人の主張する理由1-ウのうち、本件特許発明4に対する特許法第36条第6項第2号に規定する要件に関するものは、理由がない。

(d)理由1-ウのうち、本件特許発明5、6に対する、特許法第36条第6項第2号に規定する要件に関するものについて

異議申立人は、本件特許発明5、6は、本件特許発明4を引用するものであるから、本件特許発明4と同様の理由により、明確ではないと主張するが、上記(c)に説示したとおり、本件特許発明4に対する理由1-ウのうち、本件特許発明4に対する特許法第36条第6項第2号に規定する要件に関するものは理由がないから、当該主張が理由があるものであることを前提とする、上記主張も理由がない。

したがって、異議申立人の主張する理由1-ウのうち、本件特許発明5、6に対する、特許法第36条第6項第2号に規定する要件に関するものは、理由がない。

4. 理由1-エについて

(a)理由1-エのうち、本件特許発明5に対する、特許法第36条第6項第1号に規定する要件に関するものについて

異議申立人は、髪の毛根部のメラノサイトに作用するヘアケア製品を生産する方法の具体的な記載や、白髪を黒くするという実験結果が示されていないので、どのような製品がヘアケア製品になるものに属するのか不明である、また、本件特許明細書には、細胞レベルの実験結果しか記載されていないので、髪の毛根部のメラノサイトに作用するヘアケア製品として使用出来るという願望が記載されているにとどまる、と主張する。
しかしながら、上記1.(a)に説示したとおり、サポート要件違反であるといえるためには、(1)まず、本件特許発明5が解決しようとする課題を認定し、(2)特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載とを対比して、(3)特許請求の範囲に記載された発明が、発明の詳細な説明に記載された発明で、発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否か、また、その記載や示唆がなくとも当業者が出願時の技術常識に照らして当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否かを検討して判断することを要する。
しかしながら、異議申立人が主張する理由1-エは、本件特許発明5が解決しようとする課題の認定を欠くものである。また、特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載との対比も欠き、当業者が当該発明の課題を解決することができるものであるか否かの検討も欠くものである。

したがって、異議申立人の主張する理由1-エのうち、本件特許発明5に対する特許法第36条第6項第1号に規定する要件に関するものは、理由がないことが明らかであるが、一応、当審において、本件特許発明5が解決しようとする課題を以下のとおりに認定するとともに、当該認定に基づく判断も示す。

<本件特許発明5が解決しようとする課題>
本件特許発明5が解決しようとする課題について、本件特許明細書には、【発明が解決しようとする課題】と題し「イヌトウキから抽出される抽出物を有効に活用するための抽出方法等を提案すること」(段落【0007】)と記載されている。また、本件特許発明5は、髪の毛根部のメラノサイトに作用する請求項4記載のヘアケア製品を生産する方法の発明である。したがって、本件特許発明5が解決しようとする課題は、本件特許発明5に係るヘアケア製品を生産する方法の発明を提供することであると認められる。

<判断>
これに対し、本件特許明細書の発明の詳細な説明には、本件特許発明5に係る抽出物について細胞レベルの実験により、メラニン生合成を促進する生理活性効果を評価したことが記載されている。
また、当該細胞レベルの実験は、概略、本件特許発明5に係る抽出物を加えた培養液でB16メラノーマ細胞を培養し、そのメラニン生合成量を測定することにより、メラニン生合成を促進する生理活性効果を評価するものである(段落【0036】?【0039】)が、この評価方法は、本件特許発明5が属する技術分野(以下、本<判断>の中で、「当業界」という。)において、メラニン生合成に対する抑制・促進効果を評価する方法として広く採用されている代表的なものであると認められる。
なお、この評価手法が当業界で広く採用されている点については、甲第2号証(第3 2. (2) イ 甲第2号証の記載事項 イ-3?イ-5参照。)、及び、甲第3号証(第3 2. (2) ウ 甲第3号証の記載事項 ウ-6参照。)にも、メラニン生合成に対する生理活性効果を評価する手法として採用されていることが記載されていることからも支持される。

そうすると、当業者は、本件特許発明5に係る抽出物を含むヘアケア製品が、メラニン生合成を促進する生理活性効果を発揮するものであると理解するので、本件特許発明5は、発明の詳細な説明に記載された発明で、発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるといえる。

なお、異議申立人は、細胞レベルの実験結果しか記載されていないので、人体について適用した際に実際にどのような効果があるか不明であると主張するが、上述のとおり本件特許発明5に係る細胞レベルの実験は、メラニン生合成を促進する生理活性効果を評価する方法として広く採用されている代表的な評価手法であって、さらに実際に人体に適用して確認するまでもないといえるものであるから、異議申立人のこの主張は、採用できない。

したがって、異議申立人の主張する理由1-エのうち、本件特許発明5に対する、特許法第36条第6項第1号に規定する要件に関するものは、理由がない。

(b)理由1-エのうち、本件特許発明5に対する、特許法第36条第6項第2号に規定する要件に関するものについて

異議申立人の主張は、本件特許発明5において、本件特許明細書には、髪の毛根部のメラノサイトに作用するヘアケア製品を生産する方法の具体的な記載や、白髪を黒くするという実験結果が示されていないので、どのような製品がヘアケア製品になるものに属するのか不明である、また、本件特許明細書には、細胞レベルの実験結果しか記載されていないので、髪の毛根部のメラノサイトに作用するヘアケア製品として使用出来るという願望が記載されているにとどまるので、請求項5の記載は明確ではない、というものであり、どのような製品がヘアケア製品なるものに属するのか不明であることの根拠として、(ア)髪の毛根部のメラノサイトに作用するヘアケア製品を生産する方法の具体的な記載が示されていない、(イ)白髪を黒くするという実験結果が示されていない、細胞レベルの実験結果しか記載されていない、(ウ)髪の毛根部のメラノサイトに作用するヘアケア製品として使用出来るという願望が記載されているにとどまる、と指摘するものである。
しかしながら、上記1.(b)に説示したとおり、明確性要件違反であるといえるためには、特許請求の範囲の記載を検討し、特許請求の範囲に記載された発明が明確であるといえるか、また、明確であるといえなくとも発明の詳細な説明の記載及び出願時の技術常識に照らして明確であると認識できるものであるか否かを検討して判断すべきものである。
そして、上記指摘(ア)?(ウ)は、いずれも、本件特許発明5が明確であるといえるかに関する、特許請求の範囲の記載の検討を欠くものである。

なお、当審において特許請求の範囲の記載を検討しても、本件特許発明5は、請求項5、及び、請求項5が引用する請求項4に記載された事項により特定されるとおりのものであり、請求項4、5に記載された事項は、その意味するところがいずれも明確であるから、本件特許発明5は、明確である。

したがって、異議申立人の主張する理由1-エのうち、本件特許発明5に対する特許法第36条第6項第2号に規定する要件に関するものは、理由がない。

5. 理由1-オについて

本件特許発明1に係る抽出物は、メラニン生合成に関する生理活性効果を発揮するための抽出物であり、医薬の用途に係るものである。
そして、医薬の用途に係る物においては、一般に、物質名、化学構造等が示されることのみによっては、その用途の有用性及びそのためのその物の有効量を予測することは困難であり、その物をその用途に使用することができないから、その物をその用途に使用することができるといえるためには、明細書の発明の詳細な説明は、その物を製造することができることに加え、その用途に使用することができることを当業者が理解できるように記載する必要がある。
したがって、本件特許明細書の発明の詳細な説明の記載が実施可能要件を満たすといえるためには、本件特許明細書の発明の詳細な説明の記載は、本件特許発明1に係る抽出物が、メラニン生合成に関する生理活性効果を発揮するためのという用途に使用することができることを当業者が理解できるように記載されている必要がある。

これに対し、異議申立人の主張は、「理由1-ア?理由1-エで説示したとおり、本件特許明細書の段落【0024】に記載されている効果は、同一研究内容の実験事実に忠実でないから発明の詳細な説明は、本件特許発明1を、当業者が実施できる程度に明確かつ十分に記載されたものではない。」というものであり、「忠実ではない」とは、具体的には、理由1-ア?理由1-エを参照すると、甲第1号証の表1には、イヌトウキの種のエタノール抽出物について、溶媒のみならず、濃度によっては全く逆の生理活性を有すること、種の部位は、他の部位と異なる生理活性を有することが記載されており、この結果が段落【0024】の効果に関する記載に反している旨の主張等を指していると認められる。

しかしながら、発明の詳細な説明には、当該第2抽出物について、「40μg/mLにおいて強いメラニン生合成阻害活性(53.6%)」、「20、10μg/mLにおいては、弱いメラニン生合成阻害活性」を示したことが記載されている(段落【0044】)。
そうすると、発明の詳細な説明には、当該第2抽出物について、メラニン生合成に関する生理活性効果を発揮するためのという用途に使用することができることを当業者が理解できるように記載されているといえる。

したがって、異議申立人の主張する理由1-オのうち、本件特許発明1について発明の詳細な説明が、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない点に関するものは、理由がない。

異議申立人は、本件特許発明2?6も、本件特許発明1と同様の理由により、本件特許発明2?6を、当業者が実施出来る程度に明確かつ十分に記載されたものではないと主張するが、上述のとおり、本件特許発明1に対する理由1-オの主張は、理由がない。
したがって、当該主張に理由があることを前提とする、上記主張も理由がない。
したがって、異議申立人の主張する理由1-オのうち、本件特許発明2?6について発明の詳細な説明が、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない点に関するものは、理由がない。

6. 理由2-アについて

請求項に係る発明が、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるか否かは、(1)引用発明を認定し、(2)請求項に係る発明と引用発明を対比して、請求項に係る発明と引用発明の間の相違点を認定し、(3)相違点について、他の引用発明を適用したり技術常識を考慮したりして、論理付けができるか否かを検討して判断すべきものである。

異議申立人は、甲第2号証に、「ヒュウガトウキの地上部(茎および葉)を用いる旨」、及び、「ヒュウガトウキには、メラニン産生を促進すること」が記載されている(異議申立書10頁21?22行、及び、28?29行)と指摘するが、これらの記載に基づいてどのような発明(甲第2号証に記載された発明)を認定したのか何も説明していないし、本件特許発明1と異議申立人が認定した甲第2号証に記載された発明の相違点を何も説明していない。
したがって、異議申立人の主張は、引用発明の認定(上記(1)に対応する事項)、及び、本件特許発明1と引用発明の対比による両者の相違点の認定(上記(2)に対応する事項)を欠くものである。
また、異議申立人は、本件特許発明1が容易想到である旨一応主張している(上記(3)に対応する事項)が、その前提となる引用発明の認定、及び、本件特許発明1と引用発明の対比による両者の相違点の認定を欠くため、この主張の趣旨が不明である。
したがって、異議申立人の主張する理由2-ア(本件特許発明1は、甲第2号証に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものである旨の主張)は、理由がない。

上述のとおり、異議申立人が認定した甲第2号証に記載された発明は不明であるが、異議申立人が指摘した記載事項に基づき、一応、当審において、下記の発明(以下、「当審による甲2発明」という。)を認定するとともに、当該認定に基づく判断も示す。

<当審による甲2発明>
「ヒュウガトウキの地上部(茎および葉)を用い、ヒュウガトウキからメラニン産生を促進する抽出物を抽出する方法。」

本件特許発明1と当審による甲2発明を対比すると、一致点、相違点は、以下のとおりである。

一致点
メラニン生合成に関する生理活性効果を発揮するための抽出物を抽出する抽出方法であって、
生理活性効果を促進する抽出物又は抑制する抽出物を抽出する抽出ステップを含む、抽出方法。

相違点1
本件特許発明1は、「イヌトウキ」から抽出するものであるのに対し、当審による甲2発明は、「ヒュウガトウキ」から抽出するものである点。

相違点2
本件特許発明1は、「イヌトウキの部位を選択する選択ステップ」を備えるものであるのに対し、当審による甲2発明は、「地上部(茎および葉)を用い」るものである点。

相違点3
本件特許発明1は、「第1抽出溶媒を用いて」抽出するものであるのに対し、当審による甲2発明は、抽出溶媒に関する特定を有していない点。

相違点1について
異議申立人は、「そうすると、イヌトウキとヒュウガトウキは同じ日本山人参と言われていることから、同じシシウド属でトウキ類である同種の植物ということができ、「一般に同種の植物体に含まれる成分は類似する」という技術常識からすれば、抽出物がメラニン産生を促進する点でヒュウガトウキの抽出物と同様の目的で用いられるイヌトウキは、ヒュウガトウキと同様の作用を有すると想起することは、当業者は容易に考えるであろう。」と主張する。
そうすると、異議申立人の主張は、イヌトウキとヒュウガトウキが同種の植物であることを前提とするものであるが、イヌトウキとヒュウガトウキは、いずれもシシウド属(学名が、「Angelica」で始まる。)に属する植物であるが、種が異なる植物である。
したがって、異議申立人の主張は、その前提において誤っており、理由がない。

また、シシウド属に属する植物は、いずれもその葉や花の形態などに共通性が認められる(このため、イヌトウキとヒュウガトウキは同じ日本山人参と言われているものと推察される。)が、その抽出物がメラニン産生を促進する点でも共通しているという技術常識はないし、シシウド属に属する植物が、イヌトウキとヒュウガトウキ以外にも多数知られているが、全てのシシウド属に属する植物の抽出物がメラニン産生を促進することが知られているわけでもない。
そうすると、その抽出物がメラニン産生を促進する点は、シシウド属に属する植物の共通の性質であるとはいえないから、シシウド属に属するもののヒュウガトウキとは種が異なる植物が、ヒュウガトウキと同様にその抽出物がメラニン産生を促進すると当業者は予測しない。
また、仮に予測するとして、シシウド属には多数の植物が属することから、その中から、イヌトウキを選んで、ヒュウガトウキに代えてイヌトウキを使用することを着想する動機付けがあるとはいえない。
なお、「一般に同種の植物体に含まれる成分は類似する」との主張が、「一般に同属の植物体に含まれる成分は類似する」を意図したものであったとしても、同様である。

異議申立人は、「そうすると、イヌトウキの抽出物を抽出するにあたり、茎と葉の抽出物にメラニン生合成に関する生理活性効果が存在する点については、これを試すのに十分な動機付けがあるということになるから、「B イヌトウキの部位を選択する選択ステップと、 C 前記選択ステップにおいて選択された前記イヌトウキの部位から、生理活性効果を促進する抽出物又は抑制する抽出物を抽出するステップ」を含み、抽出方法を考えることは、容易である。」とも主張している。
「イヌトウキの抽出物を抽出するにあたり」と主張していることから、この主張は、「イヌトウキの抽出物を抽出する」ことを発明特定事項として含む発明に関するものであると解されるが、当審による甲2発明は、この点を発明特定事項として含んでいないから、当審による甲2発明とは関係のない主張であると認められるし、そもそも、甲第2号証には、イヌトウキに関する記載はないから、「イヌトウキの抽出物を抽出する」ことを発明特定事項として含む発明が、甲第2号証に記載されていることはありえないから、甲第2号証とも関係のない主張であると認められる。
なお、仮に、この主張が、当審による甲2発明においてヒュウガトウキに代えてイヌトウキを使用することが容易想到であることを前提に、当審による甲2発明においてヒュウガトウキに代えてイヌトウキを使用することとした発明に対するものであるとすると、この主張は、いわゆる容易の容易を主張するものであって、採用することができない。

そうすると、さらに相違点2、3について検討するまでもなく、異議申立人の主張する理由2-ア(本件特許発明1に対する、甲第2号証に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものである旨の主張)は、理由がない。

7. 理由2-イについて

上記6. 理由2-アについてで説示したとおり、請求項に係る発明が、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるか否かは、(1)引用発明を認定し、(2)請求項に係る発明と引用発明を対比して、請求項に係る発明と引用発明の間の相違点を認定し、(3)相違点について、他の引用発明を適用したり技術常識を考慮したりして、論理付けができるか否かを検討して判断すべきものであるが、上記(1)に関し、異議申立人は、甲第2号証のどの記載に基づいてどのような発明(甲第2号証に記載された発明)を認定したのか何も説明していないし、上記(2)についても、本件特許発明2と異議申立人が認定した甲第2号証に記載された発明の相違点を何も説明していない。
したがって、異議申立人の主張は、引用発明の認定(上記(1)に対応する事項)、及び、本件特許発明2と引用発明の対比による両者の相違点の認定(上記(2)に対応する事項)を欠くものである。
また、異議申立人は、本件特許発明2が容易想到である旨一応主張している(上記(3)に対応する事項)が、その前提となる引用発明の認定、及び、本件特許発明2と引用発明の対比による両者の相違点の認定を欠くため、この主張の趣旨が不明である。
したがって、異議申立人の主張する理由2-イ(本件特許発明2に対する、甲第2?4号証に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものである旨の主張)は、理由がない。

加えて、本件特許発明2は、本件特許発明1を引用し、さらに、「前記第1抽出溶媒は、水であり、 前記第2抽出溶媒は、エタノールである」点で限定したものに相当するところ、理由2-イは、要するに、この限定について、甲第2?4号証に記載された事項に基づき当業者が容易に想到し得ることを主張するものである。
したがって、本件特許発明1が、異議申立人が主張する理由2-アにより、当業者が容易に想到し得るものであることを前提とするものであると解されるところ、上記6. 理由2-アについてに説示したとおり、本件特許発明1は、甲第2号証に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえないから、理由2-イは、その前提において誤っており、理由がない。

8. 理由2-ウについて

異議申立人は、本件特許発明3は、甲第3、4号証に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであると主張しているところ、上記6. 理由2-アについてで説示したとおり、請求項に係る発明が、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるか否かは、(1)引用発明を認定し、(2)請求項に係る発明と引用発明を対比して、請求項に係る発明と引用発明の間の相違点を認定し、(3)相違点について、他の引用発明を適用したり技術常識を考慮したりして、論理付けができるか否かを検討して判断すべきものである。
しかしながら、異議申立人は、上記(1)に関し、どのような発明(甲第3号証に記載された発明)を認定したのか何も説明していないし、上記(2)についても、本件特許発明3と異議申立人が認定した甲第3号証に記載された発明の相違点を何も説明していない。
したがって、異議申立人の主張は、引用発明の認定(上記(1)に対応する事項)、及び、本件特許発明3と引用発明の対比による両者の相違点の認定(上記(2)に対応する事項)を欠くものである。
また、異議申立人は、本件特許発明3が容易想到である旨一応主張している(上記(3)に対応する事項)が、その前提となる引用発明の認定、及び、本件特許発明3と引用発明の対比による両者の相違点の認定を欠くため、この主張の趣旨が不明である。
したがって、異議申立人の主張する理由2-ウ(本件特許発明3は、甲第3、4号証に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものである旨の主張)は、理由がない。

上述のとおり、異議申立人が認定した甲第3号証に記載された発明は不明である。また、異議申立人は、「甲第3号証には、当帰にエタノールを抽出溶媒とした抽出物に美白作用があることが記載され(甲第3号証 段落0033、段落0035)」(異議申立書12頁15?16行)と主張しているが、該当箇所には「美白作用」という用語が記載されていないなど、段落0033、段落0035には、当該主張の根拠となる記載もない。
しかしながら、異議申立人が指摘した記載事項に加え、甲第3号証の他の箇所の記載(上記2. (2) ウ-4、ウ-5参照。)も勘案し、一応、下記の発明(以下、「当審による甲3発明」という。)が記載されていると認定するとともに、当該認定に基づく判断も示す。

<当審による甲3発明>
「エイジツ、キョウニン、サイシン及びトウキからなる群より選択される1種又は2種以上の植物からの抽出物を有効成分として含有するメラニン産生抑制剤と、
化学発光体とからなることを特徴とする、特に老化防止作用又は美白作用に優れた化粧料キットを生産する方法であって、
植物としてトウキを選択する場合には、トウキ(Angelica acutiloba Kitagawa)の葉部、茎部、花部、果実部、根部、根茎部、地上部又はこれらの混合物から抽出物を抽出するものであり、
抽出溶媒として、メタノール、エタノール、プロピルアルコール、イソプロピルアルコール等の炭素数1?5の低級脂肪族アルコール;アセトン、メチルエチルケトン等の低級脂肪族ケトン;1,3-ブチレングリコール、プロピレングリコール、グリセリン等の炭素数2?5の多価アルコール等を使用して得るステップを含む、
化粧料キットを生産する方法。」

本件特許発明3と当審による甲3発明を対比すると、当審による甲3発明の老化防止作用又は美白作用に優れた化粧料キットは、メラニン産生抑制剤を含有することから、美白作用を有すると認められるので、本件特許発明3の美白化粧品に相当する。
したがって、本件特許発明3と当審による甲3発明の一致点、相違点は、一応、以下のとおりである。

一致点
「植物からの抽出物を含む美白化粧品を生産する方法。」

相違点4
「植物」について、本件特許発明3は、「イヌトウキ」に限定されているのに対し、当審による甲3発明は、「エイジツ、キョウニン、サイシン及びトウキからなる群より選択される1種又は2種以上」である点。

相違点5
「抽出物」について、本件特許発明3は、「メラニン生合成を抑制する生理活性効果を発揮するためのもの」に限定されているのに対し、当審による甲3発明は、「メラニン産生抑制剤の有効成分」である点。

相違点6
抽出に使用する溶媒について、本件特許発明3は、「エタノール」に限定されているのに対し、当審による甲3発明は、「エタノール」に限定されていない点。

相違点4について検討するに、甲第3、4号証のいずれにも、「イヌトウキ」に関する記載がない。
また、仮に、当審による甲3発明において、植物としてトウキを選択した場合について検討するとしても、異議申立人は、トウキをイヌトウキに代えることを甲第3、4号証に記載された事項に基づき当業者が容易に想到し得ることについて何も説明をしていない。
なお、仮に「一般に同種の植物体に含まれる成分は類似する」との技術常識があるとしても、ヒュウガトウキに代えてイヌトウキを使用することを着想する動機付けがあるとはいえないことは、上記6. 理由2-アについてで説示したとおりである。
そうすると、相違点4について、植物をイヌトウキに変更することを甲第3、4号証に記載された事項に基づき当業者が容易に想到し得たとはいえない。
したがって、さらに相違点5?6について検討するまでもなく、異議申立人の主張する理由2-ウ(本件特許発明3に対する、甲第3、4号証に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものである旨の主張)は、理由がない。

9. 理由2-エについて

異議申立人は、本件特許発明4は、甲第2号証に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであると主張しているところ、上記6. 理由2-アについてで説示したとおり、請求項に係る発明が、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるか否かは、(1)引用発明を認定し、(2)請求項に係る発明と引用発明を対比して、請求項に係る発明と引用発明の間の相違点を認定し、(3)相違点について、他の引用発明を適用したり技術常識を考慮したりして、論理付けができるか否かを検討して判断すべきものである。
しかしながら、異議申立人は、上記(1)に関し、どのような発明(甲第2号証に記載された発明)を認定したのか何も説明していないし、上記(2)についても、本件特許発明4と異議申立人が認定した甲第2号証に記載された発明の相違点を何も説明していない。
したがって、異議申立人の主張は、引用発明の認定(上記(1)に対応する事項)、及び、本件特許発明4と引用発明の対比による両者の相違点の認定(上記(2)に対応する事項)を欠くものである。
また、異議申立人は、本件特許発明4が容易想到である旨一応主張している(上記(3)に対応する事項)が、その前提となる引用発明の認定、及び、本件特許発明4と引用発明の対比による両者の相違点の認定を欠くため、この主張の趣旨が不明である。
したがって、異議申立人の主張する理由2-エ(本件特許発明4は、甲第2号証に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものである旨の主張)は、理由がない。

上述のとおり、異議申立人が認定した甲第2号証に記載された発明は不明であるが、異議申立人の「甲第2号証には、水と1,3ブチレングリコールによる抽出液がメラニン生合成を促進することが確認されているから、ヘアケア製品を生産する方法において水を抽出溶媒としてイヌトウキから抽出された抽出物を用いることは当業者が容易に想到し得ることである。」との主張(異議申立人が指摘した記載事項)、および、甲第2号証が「ヒュウガトウキ(Angelica furcijuga)のメラニン色素産生能への影響」と題する論文であることを勘案し、一応、当審において、下記の発明(以下、「当審による甲2発明’」という。)を認定するとともに、当該認定に基づく判断も示す。

「抽出物を用いたヘアケア製品を生産する方法において、
前記抽出物として、
水と1,3ブチレングリコールにより、ヒュウガトウキから、メラニン生合成を促進する抽出液を抽出して使用する、
方法。」

本件特許発明4と当審による甲2発明’を対比すると、一致点、相違点は、以下のとおりである。

一致点
「抽出物を用いたヘアケア製品を生産する方法であって、前記抽出物は、メラニン生合成を促進する生理活性効果を発揮するためのものである、ヘアケア製品を生産する方法」の発明である点。

相違点7
抽出物について、本件特許発明4は、「イヌトウキ」から抽出したものであるのに対し、当審による甲2発明’は、「ヒュウガトウキ」から抽出したものである点。

相違点8
本件特許発明4は、「ヘアケア製品は、β-アミリン及び/又はグルチノールを有効成分としてさらに含有する」との限定を備えるのに対し、当審による甲2発明’は、そのような限定を備えていない点。

相違点9
抽出に使用する溶媒について、本件特許発明4は、「水」を抽出溶媒とするのに対し、当審による甲2発明’は、「水と1,3ブチレングリコール」である点。

相違点7について検討するに、甲第2号証には、「イヌトウキ」に関する記載がない。
また、異議申立人は、相違点7について、ヒュウガトウキをイヌトウキに代えることを甲第2号証に記載された事項に基づき当業者が容易に想到し得ることについて何も説明をしていない。
なお、仮に「一般に同種の植物体に含まれる成分は類似する」との技術常識があるとしても、ヒュウガトウキに代えてイヌトウキを使用することを着想する動機付けがあるとはいえないことは、上記6. 理由2-アについてで説示したとおりである。
そうすると、相違点7について、ヒュウガトウキをイヌトウキに代えることを甲第2号証に記載された事項に基づき当業者が容易に想到し得たとはいえない。
したがって、さらに相違点8?9について検討するまでもなく、異議申立人の主張する理由2-エ(本件特許発明4に対する、甲第2号証に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものである旨の主張)は、理由がない。

10. 理由2-オについて

上記6. 理由2-アについてで説示したとおり、請求項に係る発明が、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるか否かは、(1)引用発明を認定し、(2)請求項に係る発明と引用発明を対比して、請求項に係る発明と引用発明の間の相違点を認定し、(3)相違点について、他の引用発明を適用したり技術常識を考慮したりして、論理付けができるか否かを検討して判断すべきものであるが、上記(1)に関し、異議申立人は、甲第2号証のどの記載に基づいてどのような発明(甲第2号証に記載された発明)を認定したのか何も説明していないし、上記(2)についても、本件特許発明2と異議申立人が認定した甲第2号証に記載された発明の相違点を何も説明していない。
したがって、異議申立人の主張は、引用発明の認定(上記(1)に対応する事項)、及び、本件特許発明5と引用発明の対比による両者の相違点の認定(上記(2)に対応する事項)を欠くものである。
また、異議申立人は、本件特許発明5が容易想到である旨一応主張している(上記(3)に対応する事項)が、その前提となる引用発明の認定、及び、本件特許発明5と引用発明の対比による両者の相違点の認定を欠くため、この主張の趣旨が不明である。
したがって、異議申立人の主張する理由2-オ(本件特許発明5は、甲第2、5号証に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものである旨の主張)は、理由がない。

加えて、本件特許発明5は、本件特許発明4を引用し、さらに、ヘアケア製品が「髪の毛根部のメラノサイトに作用する」ものである点で限定したものであるところ、理由2-オは、要するに、本件特許発明5についても、甲第2、5号証に記載された事項に基づき当業者が容易に想到し得ることを主張するものである。
したがって、本件特許発明4が、異議申立人が主張する理由2-エにより、当業者が容易に想到し得るものであることを前提とするものであると解されるところ、上記9. 理由2-エについてに説示したとおり、異議申立人の主張する理由2-エは、理由がないから、当該主張が理由があるものであることを前提とする、上記主張も理由がない。

したがって、異議申立人の主張する理由2-オ(本件特許発明5は、甲第2、5号証に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものである旨の主張)は、理由がない。

11. 理由2-カについて

上記6. 理由2-アについてで説示したとおり、請求項に係る発明が、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるか否かは、(1)引用発明を認定し、(2)請求項に係る発明と引用発明を対比して、請求項に係る発明と引用発明の間の相違点を認定し、(3)相違点について、他の引用発明を適用したり技術常識を考慮したりして、論理付けができるか否かを検討して判断すべきものであるが、上記(1)に関し、異議申立人は、甲第2号証のどの記載に基づいてどのような発明(甲第2号証に記載された発明)を認定したのか何も説明していないし、上記(2)についても、本件特許発明2と異議申立人が認定した甲第2号証に記載された発明の相違点を何も説明していない。
したがって、異議申立人の主張は、引用発明の認定(上記(1)に対応する事項)、及び、本件特許発明6と引用発明の対比による両者の相違点の認定(上記(2)に対応する事項)を欠くものである。
また、異議申立人は、本件特許発明6が容易想到である旨一応主張している(上記(3)に対応する事項)が、その前提となる引用発明の認定、及び、本件特許発明6と引用発明の対比による両者の相違点の認定を欠くため、この主張の趣旨が不明である。
したがって、異議申立人の主張する理由2-カ(本件特許発明6は、甲第2号証に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものである旨の主張)は、理由がない。

加えて、本件特許発明6は、本件特許発明4を引用し、さらに、「前記抽出ステップにおいて、前記抽出物をイヌトウキの茎から抽出する」ものである点で限定したものを含むところ、理由2-カは、要するに、甲第2号証に記載された事項に基づき当業者が容易に想到し得ることを主張するものである。
したがって、本件特許発明4が、異議申立人が主張する理由2-エにより、当業者が容易に想到し得るものであることを前提とするものであると解されるところ、上記9. 理由2-エについてに説示したとおり、本件特許発明4は、甲第2号証に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえないから、当該主張が理由があるものであることを前提とする、上記主張も理由がない。

したがって、異議申立人の主張する理由2-カ(本件特許発明6は、甲第2号証に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものである。)は、理由がない。


第5 むすび
以上のとおりであるから、特許異議申立の理由によっては、本件請求項1?6に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に本件請求項1?6に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
 
異議決定日 2017-11-28 
出願番号 特願2014-97760(P2014-97760)
審決分類 P 1 651・ 537- Y (A61K)
P 1 651・ 536- Y (A61K)
P 1 651・ 121- Y (A61K)
最終処分 維持  
前審関与審査官 鶴見 秀紀  
特許庁審判長 村上 騎見高
特許庁審判官 淺野 美奈
蔵野 雅昭
登録日 2017-01-06 
登録番号 特許第6065289号(P6065289)
権利者 国立大学法人九州大学 株式会社JOY・プラス
発明の名称 抽出方法、美白化粧品を生産する方法及びヘアケア製品を生産する方法  
代理人 峰 雅紀  
代理人 羽立 幸司  
代理人 峰 雅紀  
代理人 羽立 幸司  

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