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審決分類 審判 全部申し立て 2項進歩性  H01L
審判 全部申し立て 特36条4項詳細な説明の記載不備  H01L
管理番号 1335181
異議申立番号 異議2017-700896  
総通号数 217 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2018-01-26 
種別 異議の決定 
異議申立日 2017-09-22 
確定日 2017-12-18 
異議申立件数
事件の表示 特許第6100501号発明「セラミック回路基板および製造方法」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第6100501号の請求項1ないし3に係る特許を維持する。 
理由 第1 手続の経緯

特許第6100501号の請求項1ないし3に係る特許についての出願は、平成24年10月31日に特許出願され、平成29年3月3日に特許権の設定登録がされ、その後、その特許に対し、平成29年9月22日に特許異議申立人飯田進により特許異議の申立てがされたものである。


第2 本件特許発明

特許第6100501号の請求項1ないし3の特許に係る発明は、特許請求の範囲の請求項1ないし3に記載された事項により特定される次のとおりのものである。(以下、請求項1ないし3の特許に係る発明を、「本件特許発明1」ないし「本件特許発明3」という。)

「【請求項1】
セラミック基板の一方の面に銅回路、他方の面に銅放熱板が活性金属としてTiを含有するろう材により接合されてなるセラミック回路基板において、セラミック基板の鏡面光沢度が5.0以上、セラミック回路基板の接合ボイドが10%以下であって、セラミック回路基板のろう材層がAgを含有する合金中にCuを含有する合金が分散した構造を有し、その厚みが11?24μmであり、Ti化合物の厚みが0.4?0.6μmで、その占有面積が12?85%であることを特徴とするセラミック回路基板。
【請求項2】
セラミック基板が窒化アルミニウム基板または窒化けい素基板である請求項1記載のセラミック回路基板。
【請求項3】
基板表面の鏡面光沢度5.0以上のセラミック基板を用い、ろう材金属成分がAg及びCuを含有し、活性金属と成分としてTiH_(2)の含有量が1?4質量%で、ろう材金属に含まれる酸素量が0.15質量%以下(0を含まず)であるろう材を用いて、真空度10^(-3)Pa以下、接合温度780?810℃、保持時間10?30分で接合することを特徴とする請求項1または2記載のセラミック回路基板の製造方法。」


第3 申立理由の概要

特許異議申立人飯田進(以下、「異議申立人」という。)は、以下の2点の理由を申し立て、請求項1ないし3に係る特許を取り消すべきものである旨を主張している。

1.特許法第29条第2項(同法第113条第2号)について
請求項1ないし3に係る特許は、甲第1号証、甲第2号証、甲第3号証または甲第6号証に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。(以下、「理由1」という。)

2.特許法第36条第4項第1号(同法第113条第4号)について
請求項1ないし3に係る特許は、特許法第36条第4項第1項に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものである。(以下、理由2」という。)


第4 理由1についての判断

1.甲第1号証について
(1)甲第1号証の記載内容
異議申立人が証拠として提出した甲第1号証(特開平10-145039号公報)には、図面とともに以下の事項が記載されている。

ア.「【請求項3】金属成分のうち、Ag成分とCu成分を主成分、活性金属成分を副成分としてそれぞれ含み、しかもAg成分:Cu成分の重量比が80?95:20?5であるろう材を、銅板とセラミックス基板との間に介在させてから真空度1×10^(-5)?1×10^(-6)Torrの高真空中で加熱開始し、温度700℃以上からの昇温速度を10℃/分にして800?840℃まで高め、その温度で保持した後冷却することを特徴とする回路基板の製造方法。」

イ.「【0017】本発明の回路基板は、セラミックス基板、接合層及び銅回路から構成されていると考えた場合、Ag強度I_(A) が40をこえる領域は、活性金属成分や、In、Sn、Zn等の金属間化合物や合金等が多く含まれている接合層であるので、銅回路中に固体拡散しているAg層の厚みを評価する領域としては適切ではない。また、Ag強度I_(A)が20未満の領域である銅回路の表面部ないしはセラミックス基板の領域ではAgが固体拡散しておらず、これまたAg層の厚みを評価する領域としては適切ではない。本発明においては、Ag強度I_(A)が20≦I_(A)≦40を示す層の厚みを銅回路中に固体拡散しているAg層の厚みと定義した場合、その値の大きさによって回路基板の耐ヒートサイクル性の善し悪しを評価することができるものである。
【0018】本発明の回路基板においては、銅回路中に固体拡散しているAg層の厚みは5?40μmである。Ag層の厚みが5μm未満では、セラミックス基板と銅板との接合が不十分となり、また40μmをこえると、銅板の塑性変形特性が失われセラミックス基板に損傷を与え、いずれの場合においても回路基板の耐ヒートサイクル性を一段と高めることができなくなる。本発明においては、回路基板の任意の5箇所以上の箇所で測定されたAg層の厚みの平均値が5?40μmであることが好ましい。
【0019】次に、本発明の回路基板の製造方法について説明する。
【0020】本発明で使用されるセラミックス基板としては、アルミナ、窒化珪素、窒化アルミニウム等があげられるが、熱伝導率の高い窒化アルミニウムが望ましい。窒化アルミニウム基板を製造する際の焼結助剤としては、希土類酸化物(例えばイットリア)、アルカリ土類金属酸化物(例えばカルシア)等が好ましいが、特にイットリアが望ましい。焼結助剤の割合は、窒化アルミニウム粉末と焼結助剤の合計に対し2?5重量%含有していることが望ましい。また、セラミックス基板の厚みは、厚すぎると熱抵抗が大きくなり、薄すぎると耐久性がなくなるため、0.5?0.8mm程度であることが好ましい。
【0021】セラミックス基板の表面性状は重要であり、微少な欠陥や窪み等は、銅板との接合時の接触面積に大きな影響を与えるため、平滑であることが望ましい。したがって、ホーニング処理や機械加工等による研磨を行うことが望ましい。
・・・(中略)・・・
【0023】セラミックス基板の一方の面に銅回路、他方の面には放熱銅板を形成する方法としては、セラミックス基板と銅板との接合体をエッチングする方法、銅板から打ち抜かれた銅回路及び/又は放熱銅板のパターンをセラミックス基板に接合する方法等によって行うことができ、これらの際における銅板又は銅パターンとセラミックス基板との接合方法としては、活性金属ろう付け法が採用される。
【0024】活性金属ろう付け法におけるろう材の金属成分は、Ag成分とCu成分を主成分とし、溶融時のセラミックス基板との濡れ性を確保するために、活性金属を副成分とする。この活性金属成分は、セラミックス基板と反応して酸化物や窒化物を生成させ、それらの生成物がろう材とセラミックス基板との結合を強固なものにする。活性金属の具体例をあげれば、Ti、Zr、Hf、Nb、Ta、Vやこれらの化合物である。これらの比率としては、Ag80?95重量部とCu20?5重量部の合計量100重量部あたり活性金属1?7重量部である。」

ウ.「【0028】この押出成型体を遠赤外線で120℃、5分間乾燥を行った後、480℃で10時間空気中で脱脂を行い温度1850℃で焼成を行った。得られた窒化アルミニウム焼結体の表面をホーニング処理して十分に清浄化し、60mm×36mm×0.65mmの大きさに加工して窒化アルミニウム基板とした。
【0029】Ag粉末とCu粉末の割合を表1に示すように種々変化させたもの100重量部に、Zr粉末3重量部、Ti粉末3重量部、テルピネオール15重量部及び有機結合剤としてポリイソブチルメタアクリレートのトルエン溶液を固形分で5重量部を加えてよく混練し、ろう材ペーストを調整した。このろう材ペーストを窒化アルミニウム基板の表面(回路側)にスクリーン印刷によってパターン率0.20のL字型パターンに塗布すると共に、裏面(放熱側)には全面塗布した。その際の塗布量(乾燥後)は9mg/cm^(2)とした。
【0030】次いで、回路側には60mm×36mm×0.3mmの銅板を、また放熱側には60mm×36mm×0.15mmの銅板をそれぞれ接触配置してから、雰囲気の真空度及び温度700℃以上の昇温速度を表1の条件にして同表に示す接合温度まで昇温し、その温度で30分保持した後、2℃/分の降温速度で冷却して接合体を製造した。
・・・(中略)・・・
【0032】これら一連の処理を経て製作された回路基板について、放熱側から押した場合の3点曲げ強度をスパン30mm、クロスヘッドスピード0.5mm/分の条件で測定した。また、耐ヒートサイクイル性を評価するため、大気中、-40℃×30分保持後、25℃×10分間放置、更に125℃×30分保持後、25℃×10分間放置を1サイクルとした耐久性試験を行い、銅回路又は放熱銅板が剥離開始したサイクル数を測定した。また、銅回路中にAgが固体拡散したAg層の厚みを上記に従い任意の5箇所で測定しその値を平均した。それらの結果を表1に示す。」

上記アないしウによれば、甲第1号証には以下の発明(以下、「甲1発明」という。)が記載されている。
「セラミックス基板の一方の面に銅回路、他方の面に放熱銅板が活性金属としてTiを含有するろう材により接合されてなるセラミックス回路基板の製造方法であって、ホーニング処理や機械加工等による研磨が施された基板を用い、ろう材がAg80?95%重量部とCu20?5重量部の合計量100重量部あたり活性金属を1?7重量部含むろう材を用いて、真空度1×10^(-5)?1×10^(-6)Torr(1.3×10^(-3)?1.3×10^(-4)Pa)で、接合温度800?840℃、保持時間30分で接合するセラミックス回路基板の製造方法。」

(2)本件特許発明1と甲1発明との対比
本件特許発明1と甲1発明とは、以下の点で一致ないし相違する。
<一致点>
セラミック基板の一方の面に銅回路、他方の面に銅放熱板が活性金属としてTiを含有するろう材により接合されてなるセラミック回路基板において、セラミック回路基板のろう材層がAg、Cuを含有する合金であるセラミック回路基板。
<相違点1>
セラミック回路基板の鏡面光沢度について、本件特許発明1は「5.0以上」であるのに対し、甲1発明は研磨が施されたセラミック回路基板であるものの光沢度は特定されていない。
<相違点2>
セラミック回路基板の接合ボイドについて、本件特許発明1は「10%以下」であるのに対し、甲1発明はその旨の特定がされていない。
<相違点3>
ろう材層について、本件特許発明1は「Agを含有する合金中にCuを含有する合金が分散された構造」であるのに対し、甲1発明はAgとCuが含有されているものの分散構造かどうかは特定されていない。
<相違点4>
ろう材層の厚みについて、本件特許発明1は「11?24μm」であるのに対し、甲1発明はその旨の特定が直接されていない。
<相違点5>
Ti化合物の厚みについて、本件特許発明1は「0.4?0.6μm」であるのに対し、甲1発明はその旨の特定がされていない。
<相違点6>
ろう材層のセラミック回路基板に対する占有面積について、本件特許発明1は「12?85%」であるのに対し、甲1発明はその旨の特定がされていない。

2.甲第2号証について
(1)甲第2号証の記載内容
異議申立人が証拠として提出した甲第2号証(特開2005-252087号公報)には、図面とともに以下の事項が記載されている。

エ.「【請求項2】セラミックス基板の少なくとも一方の面にろう材層を介して金属板を接合するセラミックス回路基板であって、前記セラミックス基板と金属板との界面に発生するボイド率が0.5%以上、10%以下であり、且つろう付け処理後のろう材層は凹凸面を有しており、この凹凸面は最大径1.0mm以下のマイクロボイドが分散したものであることを特徴とするセラミックス回路基板。
・・・(中略)・・・
【請求項4】前記セラミックス基板と金属板とをろう付けする熱処理温度が730?800℃であることを特徴とする請求項1?3の何れかに記載のセラミックス回路基板。」

オ.「【0029】以下、実施例により本発明を説明するが、それら実施例により本発明が限定されるものではない。先ず、ろう材について説明する。本発明のセラミックス回路基板で用いるろう材は、母材合金がAg-Cu-In-Tiの4元系であって、質量%でAgを85?55質量%、Inを5?25質量%、Tiを0.2?2.0質量%、Cuを35?20質量%及び不可避不純物から組成されたものである。合金粉末の作製は、ガスアトマイズ法により平均粒径d50値が50μmとなる様に噴霧し、50μm以上の粉末は篩分けによりカットし、50μmアンダーの粉末を用いるもので、ここでは合金粉末の平均粒子径d50は28μmである。また、合金粉末の作製は、低コストの水アトマイズ法でも可能であるが、活性金属として作用するTiの酸化を防止するため、この場合、合金粉末中の酸素量を0.5質量%以下に制御することが肝要である。
【0030】上記の混合粉末中(合金粉末と添加したAg粉末)に占めるInおよびTiを除いた、AgとCuの組成比は、AgとCuの合計重量を100質量%(AgとCuで100%)としたとき、Agを95?75質量%、Cuを5?25質量%が好ましい。この組成比の範囲では、加熱冷却後のろう材表面部の凹凸形状の抑制に効果があり、更には、Ag-Cu状態図における共晶組成(72%Ag-28%Cu)よりもAg-rich側の固液共存組成域において、処理温度を任意に選択することで、接合処理時の融液量を調整することができ、これにより、ろう材の流れ出し現象を抑制することが可能となる。ここで用いられるAg-Cu-In-Tiからなる合金粉末は、スクリーン印刷を行う場合のパターン印刷精度や接合する銅板への流れ出しを抑制する上で平均粒径40μm以下が好ましく、10?30μm程度のものがより好適である。
【0031】活性金属としては、周期律表第IVa族に属する元素を用いることができ、一般にはチタン、ジルコニウム、ハフニウムが用いられる。この中でも特にチタンは窒化アルミニウム基板や窒化ケイ素基板との反応性が高く、接合強度を非常に高くすることができるため本発明ではチタン(Ti)を用いている。さらにチタンの水素化物、即ち水素化チタンを用いれば、接合工程中における酸素の影響による酸化が起こり難くなり、より好適な接合状態が得られる。これは水素化チタンは接合工程での加熱処理によって初めて水素を放出して活性な金属チタンとなり、これが窒化アルミニウム基板や窒化ケイ素基板と反応するためである。・・・(以下略)」

カ.「【0037】・・・(中略)・・・また、ろう材層の印刷膜厚は20?80μmであることが良好な接着強度を発現させるために好ましい。」

キ.「【0040】続いて、本発明をセラミックス回路基板の製造方法と共に説明する。平均粒子径が0.2?3.0mmの窒化ケイ素粉末:96質量%に対し、MgO:3質量%、および Y_(2)O_(3):1質量%の焼結助剤を添加した混合粉末を作製した。次に、アミン系の分散剤を2質量%添加したエタノール・ブタノール溶液を満たしたボールミルの樹脂製ポット中に、前記混合粉末および粉砕媒体の窒化ケイ素製ボールを投入し、48時間湿式混合した。次に、前記ポット中の混合粉末:83.3質量%に対しポリビニル系の有機バインダー:12.5質量%および可塑剤(ジメチルフタレ-ト):4.2質量%を添加し、次いで48時間湿式混合し、シート成形用スラリーを得た。この成形用スラリーを脱泡、溶媒除去により粘度を調整後、ドクターブレード法によりグリーンシートを成形した。次に、成形したグリーンシートを空気中400?600℃で2?5時間加熱することにより前記有機バインダー成分を十分に脱脂(除去)し、次いで脱脂体を0.9MPa(9気圧)の窒素雰囲気中で1900℃×5時間焼成し、50μm/inch以上の反りが生じた場合について、同窒素雰囲気中で1800℃×5時間の反り直し熱処理を行い、その後室温に冷却した。得られた窒化ケイ素焼結体シートをサンドブラスト処理により表面性状を調整し、縦50mm×横30mm×厚さ0.63mmの窒化ケイ素基板を得た。」

ク.「【0045】・・・(中略)・・・また、雰囲気については真空中で処理を行うことが活性金属粉末及び銅粉末、銅板が酸化されること無く良好な接合状態を得ることができ、特に10^(-2)Pa以下の真空度で接合することが望ましい。さらに接合時に適度な荷重をかけることで銅板とろう材および窒化ケイ素基板とろう材がより確実に接触でき、良好な接合状態が得られる。重さとしては20?150g/cm^(2)の荷重を採用できる。」

ケ.「【0047】一方、図6(A)の本発明のろう材層からは鱗状の凹凸は解消されている。図6における鱗状の凹凸部について、波長分散型X線分析装置(WDX)を用い成分分析を行った結果、凹部では主成分がCu-Ti相からなり、また、凸部はAg-In相およびCu-In相からなり、Ti添加量が多い程、凹部の生成頻度が大きくなることが判明した。つまりこれは冷却過程では、融点の高いCu-Ti相が最初に析出し、温度低下と共に収縮が起こる。続いてAg-In相およびCu-In相が析出するが、これらは低融点のInを含むため、Cu-Ti相よりも低温度領域まで液相を維持する。このため、Ag-In相およびCu-In相とCu-Ti相の間で収縮差が生じ、凹凸形状となってしまうのである。そこで、本発明ではAg-Cu-In-Ti合金粉末にAg粉末を添加することで、比較的融点の高いAg-In相を析出させ、先に析出するCu-Ti相との収縮差を抑制することに効果があると考えたものである。他方、Cu粉末を添加した場合では、Ag粉末添加とは逆に、比較的融点の高いCu-In相を多く析出させ、先に析出するCu-Ti相との収縮差を抑制することに効果があると考えたものである。また、Cu-Ti相の生成は、合金粉末中のTi量、ならびに、合金粉末とAg粉末を混合した場合のAg/Cu比に大きく関与し、Ti量が多い程、また、Ag/Cu比が低い程高くなり、このため鱗状の凹凸部の生成頻度が高くなる。従って、この鱗状の凹凸部を抑制するには、Ag粉末添加によりAg/Cu比を増大すること、また、Ti量を0.2?2.0質量%に制御することが肝要であることが分かった。一方、Cu粉末を添加する際には、Ag/Cu比が低くなり、Cu-Ti相の生成を助長することとなるが、Ti量を0.2?2.0質量%に規定することで、Cu-Ti相の生成を一定範囲に留め、代わり生成するCu-In相とCu-Ti相の生成比率を制御することで、鱗状の凹凸部の生成を抑制することが可能である。」

コ.「【0050】以下、実施例と比較例を挙げて本発明を具体的に説明する。
(実施例)Ag:58.8質量%、Cu:27.5質量%、In:12.5質量%、Ti:1.2質量%及び不可避不純物からなる合金粉末に、下表1に示すAg粒子粉末およびCu粉末粒子を添加し、全ペーストに占める割合でα-テネピネオール6質量%、ジエチレングリコール・モノブチルエーテル5質量%、ポリイソブチルメタクリレート5質量%、分散剤0.1質量%を配合したのちプラネタリーミキサーを用いて混合を行い、120Pa・sのペーストを作成した。使用した母材合金粉末の平均粒径は30μmであった。このペーストを縦50mm×横30mm×厚さ0.63mm寸法の窒化ケイ素質焼結体製の基板上にスクリーン印刷により図3のようなパターンで厚み25μmではみ出し部Lが0.3mmとなるように塗布した。ここで、ろう材はみ出し量を0.25mm以上を設計値としているが、これは、金属回路板端部付近のセラミックス基板への応力集中を緩和する効果が最大となる値であり、この場合、応力集中を約60%に低減できる。この後、120℃×30分大気中で乾燥し、続いて、回路用銅板-窒化ケイ素基板-放熱用銅板と重ねた後、70g/cm^(2)の荷重をかけながら真空中(10^(-2)Pa)、760℃×10分保持の熱処理を施して銅板と窒化ケイ素基板の接合を行った。用いた銅板の板厚は、エッチング後の回路基板の反り、ならびにはんだリフロー後のモジュール実装形状、さらには、回路基板と放熱基板(例えば、Cu、Cu-W、Mo、Cu-CuO、Al-SiC等)のはんだ不良欠陥の防止を考慮して、回路側が0.3mmt、放熱側を0.2mmtとした。その後、図4のパターンとするためにエッチング公差を考慮したレジストパターンの印刷、不要部分の銅部材の除去を行い各々のセラミックス回路基板を作製した。
【0051】・・・(中略)・・・また、回路基板の接合界面における耐冷熱サイクル性の評価は、-40℃での冷却を20分、室温での保持を10分および125℃における加熱を20分とする昇温/降温サイクルを1サイクルとし、これを繰り返し付与し、接合界面におけるボイド率について初期の値の1.5倍以上となるまでのサイクル数を測定した。」

上記エないしコによれば、甲第2号証には以下の発明(以下、「甲2発明」という。)が記載されている。
「セラミックス基板の一方の面に回路用銅板、他方の面に放熱用銅板をTiを含有するろう材に接合されてなるセラミックス回路基板において、サンドブラスト処理により表面性状を調整されたセラミックス基板を用い、Agを95?75質量%、Cuを5?25質量%含み、活性金属として水素化チタンを用い、かつ合金粉末中の酸素量が0.5質量%以下のろう材を用いて、真空度10^(-2)Pa以下で、接合温度730?800℃、保持時間10分で接合することにより、セラミックス基板と銅板との界面に発生するボイド率が0.5%以上、10%以下であり、セラミックス回路基板のろう材がAgを含有する合金及びCuを含有する合金を含み、かつ厚さが20?80μmである、セラミックス回路基板。」

(2)本件特許発明1と甲2発明との対比
本件特許発明1と甲2発明とは、以下の点で一致ないし相違する。なお、上記「1.(2)」と同じ相違点には、同じ相違点の番号にした(例えば、上記「1.(2)」の相違点1と同じ相違点があれば、ここでも相違点1とした)。
<一致点>
セラミック基板の一方の面に銅回路、他方の面に銅放熱板が活性金属としてTiを含有するろう材により接合されてなるセラミック回路基板において、セラミック回路基板の接合ボイドが10%以下であって、セラミック回路基板のろう材層がAgを含有する合金中にCuを含有する合金が分散した構造を有し、その厚みが20?24μmであるセラミック回路基板。
<相違点1>
セラミック回路基板の鏡面光沢度について、本件特許発明1は「5.0以上」であるのに対し、甲2発明はサンドブラスト処理が施されたセラミック回路基板であるものの光沢度は特定されていない。
<相違点5>
Ti化合物の厚みについて、本件特許発明1は「0.4?0.6μm」であるのに対し、甲2発明はその旨の特定がされていない。
<相違点6>
ろう材層のセラミック回路基板に対する占有面積について、本件特許発明1は「12?85%」であるのに対し、甲2発明はその旨の特定がされていない。

3.甲第3号証について
(1)甲第3号証の記載内容
異議申立人が証拠として提出した甲第3号証(特開2005-268821号公報)には、図面とともに以下の事項が記載されている。

サ.「【請求項4】前記はみ出し部におけるろう材層において、Ag-rich相がCu-rich相よりも多く占めることを特徴とする請求項3に記載のセラミックス回路基板。
【請求項5】前記セラミックス基板は窒化ケイ素質焼結体からなり、前記金属板が銅板であることを特徴とする請求項1?4の何れかに記載のセラミックス回路基板。
【請求項6】前記請求項1?5の何れかに記載のセラミックス回路基板の一方の面に接合した金属板に半導体チップを搭載し、前記セラミックス基板の他方の面に放熱板を接合したことを特徴とするパワー半導体モジュール。」

シ.「【0017】第3の発明は、セラミックス基板の少なくとも一方の面に複数の回路パターンに沿ったろう材層を形成し、当該ろう材層を介して金属板を接合し、当該金属板の不要部分をエッチング処理することにより前記金属板からなる回路パターンを形成すると共に、前記金属板の外縁からはみ出した前記ろう材層によるはみ出し部を形成したセラミックス回路基板において、前記はみ出し部におけるろう材層の残留率が80%以上であるセラミックス回路基板である。ここで、前記はみ出し部におけるろう材層においてAg-rich相がCu-rich相よりも多く占めることが望ましい。」

ス.「【0023】以下、実施例により本発明を説明するが、それら実施例により本発明が限定されるものではない。先ず、ろう材について説明する。本発明のろう材は、母材合金がAg-Cu-In-Tiの4元系であって、質量%でAgを85?55質量%、Inを5?25質量%、Tiを0.2?2.0質量%、Cuを35?20質量%及び不可避不純物から組成されたものである。合金粉末の作製は、ガスアトマイズ法により平均粒径d50値が50μmとなる様に噴霧し、50μm以上の粉末は篩分けによりカットし、50μmアンダーの粉末を用いるもので、ここでは合金粉末の平均粒子径d50は28μmである。また、合金粉末の作製は、低コストの水アトマイズ法でも可能であるが、活性金属として作用するTiの酸化を防止するため、この場合、合金粉末中の酸素量を0.5質量%以下に制御することが肝要である。
【0024】混合粉末中(合金粉末と添加したAg粉末)に占めるInおよびTiを除いた、AgとCuの組成比は、AgとCuの合計重量を100質量%(AgとCuで100%)としたとき、Agを95?75質量%、Cuを5?25質量%が好ましい。この組成比の範囲では、加熱冷却後のろう材表面部の凹凸形状の抑制に効果があり、更には、Ag-Cu状態図における共晶組成(72%Ag-28%Cu)よりもAg-rich側の固液共存組成域において、処理温度を任意に選択することで、接合処理時の融液量を調整することができ、これにより、ろう材の流れ出し現象を抑制することが可能となる。ここで用いられるAg-Cu-In-Tiからなる合金粉末は、スクリーン印刷を行う場合のパターン印刷精度や接合する銅板への流れ出しを抑制する上で平均粒径40μm以下が好ましく、10?30μm程度のものがより好適である。
【0025】活性金属としては、周期律表第IVa族に属する元素を用いることができ、一般にはチタン、ジルコニウム、ハフニウムが用いられる。この中でも特にチタンは窒化アルミニウム基板や窒化ケイ素基板との反応性が高く、接合強度を非常に高くすることができるため本発明ではチタン(Ti)を用いている。さらにチタンの水素化物、即ち水素化チタンを用いれば、接合工程中における酸素の影響による酸化が起こり難くなり、より好適な接合状態が得られる。これは水素化チタンが接合工程での加熱処理によって初めて水素を放出して活性な金属チタンとなり、これが窒化アルミニウム基板や窒化ケイ素基板と反応するためである。更に、これら活性金属成分を予め合金粉末中に含有させると、Ag-Cu?In-Tiの比が均一となり、加熱昇温時において、基板あるいは金属板に印刷されたろう材粉末の局所的な溶融むらが抑制でき、しいてはろう材融液中を拡散するTiを容易に制御することができるため、望ましい。AgとCuおよびInの合計量100質量部(重量部に相当)に対する活性金属粉末の添加量は、活性金属粉末による窒化アルミニウム基板/窒化ケイ素基板-ろう材-銅板の間の接合強度を十分に保つためには、0.2?2.0質量%が好ましい。より好ましくは0.6?1.5質量%である。」

セ.「【0030】・・・(中略)・・・また、ろう材層の印刷膜厚は20?80μmであることが良好な接着強度を発現させるために好ましい。
【0031】また、窒化アルミニウムや窒化ケイ素基板との接合に供される金属板としては、前記ろう材が接合でき且つ金属板の融点がろう材融点よりも高ければ特に制約はない。一般的には、銅、銅合金、アルミニウム、アルミニウム合金、銀、銀合金、ニッケル、ニッケル合金、ニッケルメッキを施したモリブデン、ニッケルメッキを施したタングステン、ニッケルメッキを施した鉄合金等を用いることが可能である。この中でも銅を金属部材として用いることが、電気的抵抗及び延伸性、高熱伝導性(低熱抵抗性)、マイグレーションが少ない等の点から最も好ましい。・・・(以下略)」

ソ.「【0033】続いて、本発明をセラミックス回路基板の製造方法と共に説明する。平均粒子径が0.2?3.0mmの窒化ケイ素粉末:96質量%に対し、MgO:3質量%、および Y_(2)O_(3):1質量%の焼結助剤を添加した混合粉末を作製した。次に、アミン系の分散剤を2質量%添加したエタノール・ブタノール溶液を満たしたボールミルの樹脂製ポット中に、前記混合粉末および粉砕媒体の窒化ケイ素製ボールを投入し、48時間湿式混合した。次に、前記ポット中の混合粉末:83.3質量%に対しポリビニル系の有機バインダー:12.5質量%および可塑剤(ジメチルフタレ-ト):4.2質量%を添加し、次いで48時間湿式混合し、シート成形用スラリーを得た。この成形用スラリーを脱泡、溶媒除去により粘度を調整後、ドクターブレード法によりグリーンシートを成形した。次に、成形したグリーンシートを空気中400?600℃で2?5時間加熱することにより前記有機バインダー成分を十分に脱脂(除去)し、次いで脱脂体を0.9MPa(9気圧)の窒素雰囲気中で1900℃×5時間焼成し、50μm/inch以上の反りが生じた場合について、同窒素雰囲気中で1800℃×5時間の反り直し熱処理を行い、その後室温に冷却した。得られた窒化ケイ素焼結体シートをサンドブラスト処理により表面性状を調整し、縦50mm×横30mm×厚さ0.63mmの窒化ケイ素基板を得た。」

タ.「【0037】次に、回路用銅板と放熱用銅板を載置した窒化ケイ素基板7を所定温度と時間に渡って熱処理した後、冷却することにより、図4のように窒化ケイ素基板7に回路用銅板と放熱用銅板を強固にろう材層を介して接合する。尚、ろう材が窒化ケイ素基板と銅板を十分に濡らし、また、回路パターン潰れがなく、回路端部に位置するろう材はみ出し部を形成するため、更に両者の熱膨張の違いからくる残留応力による耐熱衝撃性の低下を防止するためには、接合温度は700?800℃が好ましい。また、雰囲気については真空中で処理を行うことが活性金属粉末及び銅粉末、銅板が酸化されることが無く良好な接合状態を得ることができ、特に10^(-2)Pa以下の真空度で接合することが望ましい。さらに接合時に適度な荷重をかけることで銅板とろう材および窒化ケイ素基板とろう材がより確実に接触でき、良好な接合状態が得られる。重さとしては20?150g/cm^(2)の荷重を採用できる。」

チ.「【0045】以下、実施例と比較例を挙げて本発明を具体的に説明する。
(実施例)例えば、Ag:58.8質量%、Cu:27.5質量%、In:12.5質量%、Ti:1.2質量%及び不可避不純物からなる合金粉末、100重量部に対し、下表1に示すAg粒子粉末を添加し、全ペーストに占める割合でα-テネピネオール6質量%、ジエチレンングリコール・モノブチルエーテル5質量%、ポリイソブチルメタクリレート5質量%、分散剤0.1質量%を配合したのちプラネタリーミキサーを用いて混合を行い、120Pa・sのペーストを作成した。使用した母材合金粉末の平均粒径は30μmであった。このペーストを縦50mm×横30mm×厚さ0.63mm寸法の窒化ケイ素質焼結体製の基板上にスクリーン印刷により図3のようなパターンで厚み25μmではみ出し部Lが0.3mmとなるように塗布した。ここで、ろう材はみ出し量を0.25mm以上を設計値としているが、これは、金属回路板端部付近のセラミックス基板への応力集中を緩和する効果が最大となる値であり、この場合、応力集中を約60%に低減できる。この後、120℃×30分大気中で乾燥し、続いて、回路用銅板-窒化ケイ素基板-放熱用銅板と重ねた後、70g/cm2の荷重をかけながら真空中(10^(-2)Pa)、760℃×10分保持の熱処理を施して銅板と窒化ケイ素基板の接合を行った。用いた銅板の板厚は、エッチング後の回路基板の反り、ならびにはんだリフロー後のモジュール実装形状、さらには、回路基板と放熱基板(例えば、Cu、Cu-W、Mo、Cu-Cu0、Al-SiC等)のはんだ不良欠陥の防止を考慮して、回路側が1.0mmt、放熱側を0.8mmtとした。その後、図4のパターンとするためにエッチング公差を考慮したレジストパターンの印刷、不要部分の銅部材の除去を行い各々のセラミックス回路基板を作製した。それぞれのセラミックス回路基板の銅板間の間隙へのろう材の流れ出しを観察し、また超音波探傷機で接合状態を観察した。さらに、接合した銅板を窒化ケイ素基板に対して90°方向に引っ張り、ピール強度を測定して密着強度とした。また、はみ出し部の外縁部の最大面粗さRmax(表面凹凸)と、最外縁のうねり量H及びはみ出し部のろう材層の残留率をそれぞれ測定した。」

ツ.「【0054】本発明によれば、得られた接合部材は非印刷部へのろう材の流れ出しが無く、超音波探傷機による観察でも接合状態は良好であった。上記実施例の回路基板に対し、3点曲げ強度の評価および耐冷熱サイクル試験を行った。その結果、曲げ強度が600MPa以上と大きく、回路基板の実装工程における締め付け割れおよびはんだ付け工程時の熱応力に起因するクラックの発生する頻度がほぼ見られなくなり、回路基板を使用した半導体装置の製造歩留まりを大幅に改善できることが実証された。また、耐熱サイクル試験は、-40℃での冷却を20分、室温での保持を10分および125℃における加熱を20分とする昇温/降温サイクルを1サイクルとし、これを繰り返し付与し、基板部にクラック等が発生するまでのサイクル数を測定した。その結果、3000サイクル経過後においても窒化ケイ素質焼結体製基板の割れや銅製回路板の剥離はなく、優れた耐久性と信頼性を兼備することが確認された。また、3000サイクル経過後においても耐電圧特性の低下は発生しなかった。」

上記サないしツによれば、甲第3号証には以下の発明(以下、「甲3発明」という。)が記載されている。
「セラミックス基板の一方の面に回路用銅板、他方の面に放熱用銅板をTiを含有するろう材に接合されてなるセラミックス回路基板において、サンドブラスト処理により表面性状を調整されたセラミックス基板を用い、Agを95?75質量%、Cuを5?25質量%含み、活性金属として水素化チタンを用い、かつ合金粉末中の酸素量が0.5質量%以下のろう材を用いて、真空度10^(-2)Pa以下で、接合温度700?800℃、保持時間10分で接合し、ろう材層がAg-rich相とCu-rich相を有し、ろう材層の厚さが20?80μmである、セラミックス回路基板。」

(2)本件特許発明1と甲3発明との対比
本件特許発明1と甲3発明とは、以下の点で一致ないし相違する。なお、上記「1.(2)」と同じ相違点には、同じ相違点の番号にした(例えば、上記「1.(2)」の相違点1と同じ相違点があれば、ここでも相違点1とした)。
<一致点>
セラミック基板の一方の面に銅回路、他方の面に銅放熱板が活性金属としてTiを含有するろう材により接合されてなるセラミック回路基板において、セラミック回路基板のろう材層がAgを含有する合金中にCuを含有する合金が分散した構造を有し、その厚みが20?24μmであるセラミック回路基板。
<相違点1>
セラミック回路基板の鏡面光沢度について、本件特許発明1は「5.0以上」であるのに対し、甲3発明はサンドブラスト処理が施されたセラミック回路基板であるものの光沢度は特定されていない。
<相違点2>
セラミック回路基板の接合ボイドについて、本件特許発明1は「10%以下」であるのに対し、甲3発明はその旨の特定がされていない。
<相違点5>
Ti化合物の厚みについて、本件特許発明1は「0.4?0.6μm」であるのに対し、甲3発明はその旨の特定がされていない。
<相違点6>
ろう材層のセラミック回路基板に対する占有面積について、本件特許発明1は「12?85%」であるのに対し、甲3発明はその旨の特定がされていない。

4.甲第6号証について
(1)甲第6号証の記載内容
異議申立人が証拠として提出した甲第6号証(特開2002-137974号公報)には、図面とともに以下の事項が記載されている。

テ.「【請求項1】窒化アルミニウム又は窒化珪素を主体とするセラミック体と光沢度1.1以上かつ表面粗さRz1.0以下の無酸素銅板とを、金属成分として、銀75?89%、銅1?23%、錫1?5%、チタン、ジルコニウム及びハフニウムから選ばれた少なくとも1種の活性金属成分1?6%を含んでなる接合ろう材を用い、温度800?830℃で接合することを特徴とする接合方法。」

ト.「【0002】【従来の技術】近年、ロボット・モーター等の産業機器の高性能化にともない、大電力・高効率インバーター等大電力モジュールの変遷が進み、半導体素子から発生する熱も増加の一途をたどっている。この熱を効率よく放散させるため、大電力モジュール基板では従来より様々な方法がとられてきた。最近では、良好な熱伝導を有するセラミックス基板が利用できるようになり、その表裏両面に銅板等の金属板を接合し、エッチングによって一方の面に金属回路、他方の面に放熱金属板を形成させた後、そのままあるいはメッキ等の処理を施し、金属回路部分に半導体素子を実装し、反対面をベース銅板と半田付けし、ヒートシンクに取り付けて使用されている。」

ナ.「【0017】チタン、ジルコニウム及びハフニウムから選ばれた少なくとも1種の活性金属成分が1%未満であると、セラミック体と接合層との接合強度が弱く、また6%を超えると、接合層が脆弱なものとなり、機械的強度の信頼性が低下する。これらの活性金属成分は、それらを成分とする単体又は化合物が使用される。」

ニ.「【0023】つぎに、窒化アルミニウム基板の金属回路形成面には表1に示す無酸素銅板(56mm×32mm×0.3mm)を、また金属放熱板形成面には表1に示す種無酸素銅板(56mm×32mm×0.15mm)を接触配置してから、真空度0.1Torr以下の真空下、表1に示す温度で30分加熱した後、600℃まで急冷し、その後2℃/分の降温速度で冷却した。そして、金属回路形成面には回路パターン状に、金属放熱板形成面に放熱板状にレジストインクをスクリーン印刷してから銅板と接合層のエッチングを行い、回路及び放熱板を形成した。その後、無電解Ni-Pメッキ(厚み3μm)を施し回路基板とした。」

上記テないしニによれば、甲第6号証には以下の発明(以下、「甲6発明」という。)が記載されている。
「セラミック体の一方の面に金属回路、他方の面に金属放熱板を、Tiを含有するろう材により接合されてなるセラミック回路基板の製造方法であって、銀を75?89%、銅を1?23%を含み、活性金属成分として水素化チタンを1?6%含むろう材を用いて、真空度0.1Torr(1.3×10Pa)以下で、接合温度800?830℃、保持時間30分で接合するセラミック回路基板の製造方法。」

(2)本件特許発明1と甲6発明との対比
本件特許発明1と甲6発明とは、以下の点で一致ないし相違する。なお、上記「1.(2)」と同じ相違点には、同じ相違点の番号にした(例えば、上記「1.(2)」の相違点1と同じ相違点があれば、ここでも相違点1とした)。
<一致点>
セラミック基板の一方の面に銅回路、他方の面に銅放熱板が活性金属としてTiを含有するろう材により接合されてなるセラミック回路基板において、セラミック回路基板のろう材層がAg、Cuを含有する合金であるセラミック回路基板。
<相違点1>
セラミック回路基板の鏡面光沢度について、本件特許発明1は「5.0以上」であるのに対し、甲6発明はその旨の特定がされていない。
<相違点2>
セラミック回路基板の接合ボイドについて、本件特許発明1は「10%以下」であるのに対し、甲6発明はその旨の特定がされていない。
<相違点3>
ろう材層について、本件特許発明1は「Agを含有する合金中にCuを含有する合金が分散された構造」であるのに対し、甲6発明はAgとCuが含有されているものの分散構造かどうかは特定されていない。
<相違点4>
ろう材層の厚みについて、本件特許発明1は「11?24μm」であるのに対し、甲6発明はその旨の特定がされていない。
<相違点5>
Ti化合物の厚みについて、本件特許発明1は「0.4?0.6μm」であるのに対し、甲6発明はその旨の特定がされていない。
<相違点6>
ろう材層のセラミック回路基板に対する占有面積について、本件特許発明1は「12?85%」であるのに対し、甲6発明はその旨の特定がされていない。

5.当審の判断
上記相違点について検討する。

(1)相違点1について
相違点1は、上記「1.(2)」ないし「4.(2)」のとおり、甲1ないし3発明、及び甲6発明に記載されていない事項である。なお、他に証拠として提示された提示された甲第4号証(昭和60年3月5日発行の科学大事典1501頁)、甲第5号証(1985年2月15日第3版増補版第5刷発行の岩波理化学事典334頁、653頁、830頁、926頁)、甲第7号証(特開2001-102476号公報)、甲第8号証(特開2002-201072号公報)にも記載されていない事項である。
この点について、異議申立人は、「基板表面の鏡面光沢度5.0以上のセラミック基板は、本件特許公報の段落【0012】の記載によると、ホーニング処理や機械加工等による研磨処理により得られるものである。」から、「製造方法が同じであれば同じ物が得られる点から、甲1発明のホーニング処理で研磨を施されたセラミック基板、甲2発明及び甲3発明のサンドブラスト処理により表面性状を調整されたセラミック基板は、基板表面の鏡面光沢度5.0以上を満たす。」と主張している。
しかしながら、そもそも本件特許明細書の段落【0012】には、「鏡面光沢度5.0以上」にするための処理が記載されていない。そして、甲1発明ないし甲3発明が単に「ホーニング処理や機械加工等による研磨処理」をしているからといって所望の鏡面光沢度を得るための具体的な条件が記載されているわけではないので、「(本件特許と)製造方法が同じ」とも認定できないから、甲1発明ないし甲3発明の基板表面処理が「鏡面光沢度5.0以上」を満たすと認めることができない。更に、本件特許発明1は「ろう材の濡れ広がりの影響を小さくなることを見出した」(本件特許明細書の段落【0013】)から「鏡面光沢度が5.0以上」であることを発明特定事項としたものであるが、甲1発明ないし甲3発明(及び甲6発明)には一切そのような技術思想はなく、この点からも相違点1に係る構成を満たすものとはいえない。よって、異議申立人の主張を採用することはできない。
したがって、相違点1は、甲1発明、甲2発明、甲3発明、及び甲6発明に記載された事項ではなく、また、容易になし得た事項でもない。

(2)相違点5及び6について
相違点5及び6は、上記「1.(2)」ないし「4.(2)」のとおり、甲1ないし3発明、及び甲6発明に記載されていない事項である。なお、他に証拠として提示された提示された甲第4号証、甲第5号証、甲第7号証、甲第8号証にも記載されていない事項である。
この点について、異議申立人は、「Tiの酸化を防止するためにろう材金属に含まれる酸素量を制御することは当業者に周知である」、「活性金属に水酸化チタンを用いることは当業者に周知であるから、TiH_(2)の含有量を1?4質量%の範囲に設定することは設計事項に過ぎない」とした上で、「甲1発明、甲2発明、甲3発明、甲6発明に周知技術を付加した場合、本件特許発明3と同一のろう材、条件で接合されるので、Tiの厚みと占有面積は本件特許1と同程度になる蓋然性が高い。」と主張している。
しかしながら、異議申立人も自認している「蓋然性が高い」というだけでは、相違点5及び6に係る構成が存在するかどうかは立証できていない。そして、本件特許発明1は「Ti化合物が厚くなるとセラミック基板との熱特性の差(線膨張率)により基板表面に微小なクラックが発生し易くなり、セラミック回路基板の信頼性が損なわれるため、Ti化合物の厚みは極力薄くすることが好ましく、Ti化合物の占める面積がセラミック基板の85%を越えると部分的にTi化合物の厚みが厚くなるためであり、12%未満であると部分的に接合していない接合ボイドを生じる場合がある」(本件特許明細書の段落【0019】)から「Ti化合物の厚みが0.4?0.6μmで、その占有面積が12?85%である」であることを発明特定事項としたものであるが、甲1発明ないし甲3発明、及び甲6発明には一切そのような技術思想はなく、この点からも相違点5及び6に係る構成を満たすものとはいえない。よって、異議申立人の主張を採用することはできない。
したがって、相違点5及び6は、甲1発明、甲2発明、甲3発明、及び甲6発明に記載された事項ではなく、また、容易になし得た事項でもない。

(3)まとめ
以上のとおりであるから、他の相違点を検討するまでもなく、本件特許発明1は、甲第1号証、甲第2号証、甲第3号証、または甲第6号証に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。
そして、本件特許発明2及び3は、本件特許発明1をさらに限定したものであるから、本件特許発明1と同様に、甲第1号証、甲第2号証、甲第3号証、または甲第6号証に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。
よって、理由1を採用することはできない。


第5 理由2についての判断

異議申立人は、本件特許明細書の実施例1?10では「真空度5.0×10^(-3)Paで、接合温度が800℃、保持時間20分」の条件で接合されていると記載されており、本件特許発明3の「真空度10^(-3)Pa(1×10^(-3)Pa)以下、接合温度780?810℃、保持時間10?30分で接合する」を満たしていないから、当業者は本件特許発明1?3を発明の詳細な説明の記載に基づいて実施することができない旨を主張している。
しかしながら、本件特許発明3における真空度「10^(-3)Pa以下」とは、本件特許明細書全体を参照してみても異議申立人の主張するような「1×10^(-3)Pa以下」とする臨界的意義を示す記載はないから、単に真空度をその桁数(小数第3位)以下にすることを示しているに過ぎないものと認められる。
仮に、本件特許発明3における真空度「10^(-3)Pa」が「1×10^(-3)Pa」だとしても、そもそもセラミック回路基板の接合における真空度はより小さい(より真空)であれば良いところ、発明の詳細な説明に「5.0×10^(-3)Pa」の記載しかないから(それよりも小さい値の)「1×10^(-3)Pa」が技術的にできないというわけではないのであるから、発明の詳細な説明に「1×10^(-3)Pa」の記載がないからといって本件特許発明1ないし3が実施できないわけではない。
よって、異議申立人の主張を採用することはできないから、理由2を採用することはできない。


第6 むすび

以上のとおり、特許異議申立ての理由及び証拠によっては、請求項1ないし3に係る特許を取り消すことはできない。
よって、結論のとおり審決する。
 
異議決定日 2017-12-06 
出願番号 特願2012-240634(P2012-240634)
審決分類 P 1 651・ 121- Y (H01L)
P 1 651・ 536- Y (H01L)
最終処分 維持  
前審関与審査官 麻川 倫広  
特許庁審判長 國分 直樹
特許庁審判官 酒井 朋広
井上 信一
登録日 2017-03-03 
登録番号 特許第6100501号(P6100501)
権利者 デンカ株式会社
発明の名称 セラミック回路基板および製造方法  

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