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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 C07C
審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 C07C
管理番号 1335432
審判番号 不服2016-15074  
総通号数 218 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2018-02-23 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2016-10-06 
確定日 2017-12-12 
事件の表示 特願2013-545232「フッ素化有機化合物の製造方法」拒絶査定不服審判事件〔平成24年 6月28日国際公開、WO2012/084745、平成26年 4月17日国内公表、特表2014-509302〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
この出願は、2011年12月16日(パリ条約による優先権主張外国庁受理 2010年12月21日(EP)欧州特許庁)を国際出願日とする出願であって、平成27年6月1日付けで拒絶理由が通知され、同年12月8日に意見書および手続補正書が提出され、平成28年5月31日付けで拒絶査定がされ、同年10月6日に拒絶査定不服審判が請求されると同時に手続補正書が提出されたものである。

第2 平成28年10月6日付けの手続補正についての補正却下の決定
[補正却下の決定の結論]
平成28年10月6日付けの手続補正を却下する。
[理由]
1 補正の内容
平成28年10月6日付けの手続補正(以下、「本件補正」という。)は、特許請求の範囲について、平成27年12月8日付け手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項1である
「【請求項1】
化合物をフッ素化する方法であって、
A.化合物を提供する工程であって、前記化合物は、直鎖、分岐鎖および環状アルカン、直鎖、分岐鎖、および環状エーテルからなる群から選択され、少なくとも1つの炭素-水素結合を含み、Cl、Br、I、-SO_(2)F、-SO_(2)Clから選択される置換基Xを含むかまたは含まず、かつ-C(O)-官能基を含まない、工程と、
B.少なくとも1つの炭素-炭素二重結合を含み、前記二重結合の炭素原子のいずれか一方の上に少なくとも1個のフッ素または塩素原子を有する少なくとも1種の(パー)ハロオレフィンであって、前記化合物中に含まれる水素原子に対して0.1?30モル%の量で存在している(パー)ハロオレフィンの存在下で、前記化合物をフッ素と反応させて、少なくとも1つの炭素-水素結合が炭素-フッ素結合で置き換えられている化合物を得る工程と
を含み、
前記(パー)ハロオレフィンが、テトラフルオロエチレン(TFE)、ヘキサフルオロプロピレン(HFP)ならびにその二量体および三量体、オクタフルオロブテン、パーフルオロペンテン、パーフルオロヘキセン、パーフルオロヘプテン、パーフルオロオクテン、パーフルオロシクロブテン、パーフルオロシクロペンテン、パーフルオロシクロヘキセン、クロロトリフルオロエチレン、ジクロロジフルオロエチレン、クロロペンタフルオロプロペン、パーフルオロブタジエン、パーフルオロメチルビニルエーテル、パーフルオロエチルビニルエーテル、パーフルオロプロピルビニルエーテル;CF_(3)OCCl=CClF、トリクロロエチレン、テトラクロロエチレン、ジクロロエチレンの異性体;ならびに
式:
【化1】

(式中、X_(1)、X_(2)、X_(3)、およびX_(4)は、互いに等しいかまたは異なり、F、R_(f)およびOR_(f)から独立して選択され、ここで、R_(f)は、(パー)フルオロカーボン基であり、かつX_(3)、およびX_(4)の少なくとも1個はフッ素である)のフルオロジオキソールからなる群から選択される、方法。」

「【請求項1】
化合物をフッ素化する方法であって、
A.化合物を提供する工程であって、前記化合物は、
- 式(IA)C_(a)H_((2a+2-b-c))F_(b)X_(c)の直鎖もしくは分岐鎖のアルカンまたは式(IB)C_(a’)H_((2a’-b’-c’))F_(b’)X_(c’)の環状アルカン(ここで、Xは、Cl、Br、I、-SO_(2)F、-SO_(2)Clから選択され;aは、1?30の整数であり;bおよびcは、(b+c)≦(2a+1)である、0以上の整数であり;a’は、3?20の整数であり;b’およびc’は、(b’+c’)≦(2a’-1)である、0以上の整数である)から選択されるアルカンであるか、あるいは、
- 式(IIA)C_(g)H_((2g+2-j-1))F_(j)X_(l)O_(k)の直鎖もしくは分岐鎖のエーテルまたは式(IIB)C_(g’)H_((2g’-j’-I’))F_(j’)X_(l’)O_(k’)の環状エーテル(ここでXは、Cl、Br、I、-SO_(2)F、-SO_(2)Clから選択され;gは、1?8の整数であり;jおよびlは、(j+l)≦(2g+1)である、0以上の整数であり;kおよびk’は、1以上の整数であり;g’は、3?20の整数であり;j’およびl’は、(j’+l’)≦(2g’-1)である、0以上の整数である)から選択されるエーテルである、工程と、
B.少なくとも1つの炭素-炭素二重結合を含み、前記二重結合の炭素原子のいずれか一方の上に少なくとも1個のフッ素または塩素原子を有する少なくとも1種の(パー)ハロオレフィンであって、前記化合物中に含まれる水素原子に対して0.1?30モル%の量で存在している(パー)ハロオレフィンの存在下で、前記化合物をフッ素と反応させて、少なくとも1つの炭素-水素結合が炭素-フッ素結合で置き換えられている化合物を得る工程と
を含み、
前記(パー)ハロオレフィンが、テトラフルオロエチレン(TFE)、ヘキサフルオロプロピレン(HFP)ならびにその二量体および三量体、クロロトリフルオロエチレン、ならびにパーフルオロメチルビニルエーテルからなる群から選択される、方法。」
とする補正を含むものである。

2 補正の適否
(1)補正の目的の適否について
上記補正は、発明を特定する事項である本件補正前の請求項1の「直鎖、分岐鎖」「アルカン」を式(IA)で、「環状アルカン」を式(IB)で特定した上で、aは、1?30の整数であり;bおよびcは、(b+c)≦(2a+1)である、0以上の整数であり;a’は、3?20の整数であり;b’およびc’は、(b’+c’)≦(2a’-1)である、0以上の整数であることを限定し、発明を特定する事項である本件補正前の請求項1の「直鎖、分岐鎖」「エーテル」を式(IIA)で、「環状エーテル」を式(IIB)で特定した上で、gは、1?8の整数であり;jおよびlは、(j+l)≦(2g+1)である、0以上の整数であり;kおよびk’は、1以上の整数であり;g’は、3?20の整数であり;j’およびl’は、(j’+l’)≦(2g’-1)である、0以上の整数であることを限定し、発明を特定する事項である本件補正前の請求項1の「(パー)ハロオレフィン」の選択肢の群を「テトラフルオロエチレン(TFE)、ヘキサフルオロプロピレン(HFP)ならびにその二量体および三量体、クロロトリフルオロエチレン、ならびにパーフルオロメチルビニルエーテルからなる群」に選択肢を削除して限定するもので、補正前後で、発明の産業上の利用分野及び解決しようとする課題は同一であるので、特許法第17条の2第5項第2号に規定された特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
そこで、補正後の請求項1に係る発明(以下「本願補正発明」という。)が特許出願の際独立して特許を受けることができるか否か(特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項の規定に違反するか否か)について検討する。

(2)独立特許要件について
特許法第36条第6項第1号について
ア 特許請求の範囲の記載
請求項1には、「化合物をフッ素化する方法」であって、
「化合物を提供する工程」として、「化合物」が、「C_(a)H_((2a+2-b-c))F_(b)X_(c)の直鎖もしくは分岐鎖のアルカン」または「C_(a’)H_((2a’-b’-c’))F_(b’)X_(c’)の環状アルカン」から選択されるアルカン(ここで、Xは、Cl、Br、I、-SO_(2)F、-SO_(2)Clから選択され;aは、1?30の整数であり;bおよびcは、(b+c)≦(2a+1)である、0以上の整数であり;a’は、3?20の整数であり;b’およびc’は、(b’+c’)≦(2a’-1)である、0以上の整数である)であるか、「C_(g)H_((2g+2-j-1))F_(j)X_(l)O_(k)の直鎖もしくは分岐鎖のエーテル」または「C_(g’)H_((2g’-j’-I’))F_(j’)X_(l’)O_(k’)の環状エーテル」から選択されるエーテル(ここでXは、Cl、Br、I、-SO_(2)F、-SO_(2)Clから選択され;gは、1?8の整数であり;jおよびlは、(j+l)≦(2g+1)である、0以上の整数であり;kおよびk’は、1以上の整数であり;g’は、3?20の整数であり;j’およびl’は、(j’+l’)≦(2g’-1)である、0以上の整数である)である工程と、
「化合物中に含まれる水素原子に対して0.1?30モル%の量で存在して」おり、「少なくとも1つの炭素-炭素二重結合を含み、前記二重結合の炭素原子のいずれか一方の上に少なくとも1個のフッ素または塩素原子を有する少なくとも1種の(パー)ハロオレフィン」として、「テトラフルオロエチレン(TFE)、ヘキサフルオロプロピレン(HFP)ならびにその二量体および三量体、クロロトリフルオロエチレン、ならびにパーフルオロメチルビニルエーテルからなる群から選択される」ものの存在下で、「化合物をフッ素と反応させて、少なくとも1つの炭素-水素結合が炭素-フッ素結合で置き換えられている化合物を得る工程」を含むことを特定した方法の発明が記載されている(下線は当審にて追加。以下同様)。

イ 発明の詳細な説明の記載
化合物をフッ素化する方法について、本願明細書には、以下の一般的記載及び実施例がある。
(ア)「【背景技術】
【0003】
炭化水素化合物中のC-H結合の一部またはすべてを変換する様々な方法が、知られている。例としては、・・・三フッ化コバルトを用いる方法、フッ素源として電解槽中の電解で生じたフッ化水素を用いてフッ素化反応を行う方法(一般に電解フッ素化と称される)およびフッ素ガスを用いて液相中で直接フッ素化を行う方法(一般に直接フッ素化と称される)が挙げられる。
【0004】
三フッ化コバルトを用いるフッ素化法および電解フッ素化法は、異性化、主鎖の切断および/または再結合反応を引き起こし、したがって、所望の最終生成物の収率を減少させ得る。
【0005】
他方で、フッ素による直接フッ素化で直面する問題は、化合物中のフッ素含有量の増加とともに水素置換の困難性が増加することである。隣接するフッ素原子の数の増加とともに、C-H結合は、より電子不足になり、その結果として、求電子性フッ素原子による水素-引き抜きはより困難になる。フッ素化反応の間に炭素-炭素結合の切断を防止するために、反応中に発生した熱は、急速に放散させなければならない。したがって、フッ素は、一般に希釈条件下、典型的には不活性ガスで希釈されて供給される。したがって、フッ素化反応の初期段階で、希釈フッ素が用いられ、反応系は冷却される。しかし、フッ素化反応が進行し、フッ素化がますます困難になるにつれて、フッ素の濃度は、増加させなければならず、温度は一般に上昇させる。・・・
【0006】
フッ素分子による水素化エーテルおよびポリエーテルの完全フッ素化反応の最終段階を促進する、ベンゼン、ヘキサフルオロベンゼンまたはトルエンなどの芳香族化合物の添加は、例えば、(特許文献3)(EXFLUOR RESEARCH CORPORATION)1992年3月3日に開示されており、これは、完全ハロゲン化液体媒体中フッ素によるエーテルおよびポリエーテルの液相フッ素化の方法に関する。トリクロロエチレンの使用が、完全ハロゲン化液体媒体中の水素化出発物質の溶解度を向上させる共溶媒として述べられている。
【0007】
しかし、上記方法は、完全フッ素化生成物を得るために、化学量論的に必要な量を上回る大過剰のフッ素が必要とされるという欠点を有する。化学量論的に必要な量を上回る大過剰のフッ素を供給する必要があることにより、出発化合物の部分フッ素化のみが必要とされる場合、水素置換度を制御することが困難となる。」。

(イ)「【発明が解決しようとする課題】
【0010】
したがって、温和な条件下で行われ、高収率を提供し得るフッ素化工程を含む、炭化水素化合物、特にアルカンおよびエーテルの完全または部分フッ素化のための方法に対する当技術分野における必要性が依然として存在する。さらに、フッ素置換度が、反応系に供給されるフッ素の量を制御することによって制御され得るように、C-F結合によるC-H結合の置換が、化学量論的な仕方でおよびフッ素の完全変換とともに進行する方法を有することが非常に有利である。
【課題を解決するための手段】
【0011】
したがって、本発明の目的は、有利には高収率で進行する、官能性-C(O)-基を含まない炭化水素化合物の完全または部分フッ素化の方法を提供することである。また、本発明のさらなる目的は、出発物質の部分フッ素化反応に由来する生成物の明確な混合物が、系に供給されるフッ素の量を制御することによって得ることができるように、大過剰のフッ素で操作することを必要とせずに、出発化合物中の水素原子の化学量論的置換とともに進行するフッ素化方法を提供することである。」

(ウ)「【0013】
上記の、本方法の工程Bにおける(パー)ハロオレフィンの存在は、反応剤の望ましくない分解が起こらないように、本発明による方法を温和な条件下で行うことを可能にする。さらに、所望の部分または完全フッ素化生成物の形成における顕著な選択性のみならず、炭化水素化合物の非常に高い変換率が得られる。さらに、大過剰のフッ素はC-H結合の置換を達成するために必要とされず、C-H結合の変換率は、本方法において非常に高い。本発明を特定の理論に限定することなく、(パー)ハロオレフィンは、フッ素と炭化水素化合物との反応におけるラジカル開始剤として作用し、したがって、フッ素化工程において卓越した反応速度を達成することを可能にすると考えられる。
【0014】
「少なくとも1つの炭素-炭素二重結合を含み、かつ前記二重結合の炭素原子のいずれか一方の上に少なくとも1個のフッ素または塩素原子を有する(パー)ハロオレフィン」という表現は、フルオロオレフィン、クロロオレフィン、およびフルオロクロロオレフィンを包含することが意図され、これらの化合物は、場合によりClおよびFと異なる1個以上のヘテロ原子、特に酸素を含む。好ましくは、(パー)ハロオレフィンは、パーフルオロオレフィンである。
【0015】
本発明のフッ素化方法で用いられる好適な出発物質は、少なくとも1つの炭素-水素結合を含む、直鎖、分岐鎖および環状アルカン、直鎖、分岐鎖および環状エーテルからなる群から選択される炭化水素化合物であり、前記化合物は、-C(O)-官能基を含まない。「-C(O)-官能基」という表現は、炭素-酸素二重結合を含む任意の官能基を指すことが意図され、したがって、限定されるものではないが、カルボン酸官能基、ならびにハロゲン化アシル、アミド、エステル、ケトン、アルデヒド官能基を含むカルボン酸誘導体を包含することが意図される。-C(O)-官能基、特に-C(O)F官能基の存在は、オレフィンの炭素-炭素二重結合への-C(O)F基の付加に由来する生成物の形成をもたらし得ることがあることが認められた。
【0016】
出発炭化水素化合物は、炭素-フッ素結合をまったく含まなくてもよいか、またはそれは、部分的にフッ素化されていてもよく、すなわち、それは、炭素-フッ素結合を含んでもよい。炭化水素化合物が、炭素-フッ素結合をまったく含まない場合、本方法の最終生成物は、部分フッ素化化合物または完全フッ素化化合物のいずれであってもよい。
【0017】
炭化水素化合物が、炭素-フッ素結合を含む場合、本方法の最終生成物は、少なくとも完全フッ素化化合物、または少なくとも1つの炭素-水素結合が炭素-フッ素結合で置き換えられている部分フッ素化化合物のいずれであってもよい。」

(エ)「【0033】
本方法の工程Bにおいて、少なくとも1つの炭素-水素結合を含む炭化水素化合物は、上に定義されたとおりの(パー)ハロオレフィンの存在下でフッ素と反応させて、少なくとも1つの炭素-水素結合が、炭素-フッ素結合で置き換えられている炭化水素化合物を得る。
【0034】
本方法は、化学量論的な仕方で進行し、それにより、1つの炭素-フッ素結合による1つの炭素-水素結合の置き換え、およびフッ化水素の形成が、反応系に供給される正味のフッ素F_(2)のそれぞれの分子に対応することがわかった。
【0035】
本明細書において、反応系に供給されるフッ素の量に関連して使用される場合、「正味の」という用語は、(パー)ハロオレフィンとの反応で消費されなかった供給フッ素の量、すなわち、反応系に導入されたフッ素の合計量と、(パー)ハロオレフィンと反応させた化学量論的量との差を示すために使用される。
【0036】
一般に、フッ素は、炭化水素化合物中の炭素-水素結合を炭素-フッ素結合に変換するのに必要な化学量論的量よりわずかに高い量で反応に添加される。典型的には、正味のフッ素の量は、前記化学量論的量より30モル%、好ましくは20モル%、より好ましくは10モル%高い。したがって、本方法は、典型的には、炭化水素化合物中の置き換えられなければならない炭素-水素結合の数当たり1?1.3、好ましくは1?1.2、より好ましくは1?1.1当量のフッ素を反応系に供給することによって進行する。フッ素の変換率は、一般に90%を超える。」

(オ)「【0049】
代替として、本方法は、炭素-フッ素結合による炭素-水素結合の部分置換のみに達するように制御され得る。
【0050】
本発明の方法は、有利には、炭素-フッ素結合による炭素化合物中のそれぞれの炭素-水素結合の制御された段階的な置き換えを可能にする。置換度は、上で検討されたように正味フッ素の化学量的量のみを供給することによって正確に制御され得る。
【0051】
水素置換は、その置換反応を炭化水素化合物中の特定の炭素-水素結合上へ向かわせることが一般に可能でないという意味で、選択的でない。したがって、部分フッ素化反応の生成物は、典型的には同数の炭素、ならびに存在する場合、酸素原子および上に定義されたとおりのX置換基、ただし異なる平均フッ素置換度を有する炭化水素化合物の混合物である。前記炭化水素化合物の混合物は、出発炭化水素化合物に対して、より高い炭素-フッ素結合の平均数、およびより低い炭素-水素結合の平均数を特徴とする。出発炭化水素化合物と、最終の生成物の混合物との間の炭素-フッ素結合の数(または炭素-水素結合の数)間の差は、系に供給される正味フッ素の量に直接比例する。」

(カ)「【実施例】
【0072】
実施例1-原式(raw formula)C_(6)H_(4)F_(10)O_(2)を有する混合物の合成
250mlのステンレススチール製反応器中に、20.3g(0.077モル)のHCF_(2)CF_(2)OCH_(2)CH_(2)OCF_(2)CF_(2)H(C_(6)H_(6)F_(8)O_(2))および溶媒として114.2gのCF_(3)OCFClCF_(2)Clから構成される混合物を投入した。温度を-50℃に設定し、フッ素(3.0Nl/時間のヘリウム中1.65Nl/時間)およびヘキサフルオロプロピレン(1.5Nl/時間のヘリウム中0.15Nl/時間)を、2つの吸気管によって、激しい撹拌下に供給した。150分後、ガス状反応剤の供給(0.167モルの正味フッ素に相当する)を止め、残存ガスをヘリウム流によって一掃し;粗混合物を蒸留して、原式C_(6)H_(4)F_(10)O_(2)(NMR分析により決定して)および125℃の沸点を有するエーテルの混合物を得た。
【0073】
実施例2-原式C_(6)H_(2.2)F_(11.8)O_(2)を有する混合物の合成
フッ素およびヘキサフルオロプロピレンを4時間35分供給した(0.307モルの正味フッ素に相当する)以外は、実施例1(20.1g、0.077モルの出発エーテルおよび101.3gの溶媒)に記載した同じ手順を繰り返した。粗混合物を蒸留して、原式C_(6)H_(2.2)F_(11.8)O_(2)(NMF分析により決定して)および100℃の沸点を有するエーテルの混合物を得た。
【0074】
実施例3-原式C_(6)HF_(13)O_(2)を有する混合物の合成
フッ素およびヘキサフルオロプロピレンを6時間15分供給した(0.418モルの正味フッ素に相当する)以外は、実施例1(20.2g、0.077モルの出発エーテルおよび105.7gの溶媒)に記載した同じ手順を繰り返した。得られた混合物は、原式C_(6)HF_(13)O_(2)および80℃の沸点を有した。
【0075】
実施例4-式HCF_(2)O(CF_(2)O)_(m)(CF_(2)CF_(2)O)_(n)CF_(2)Hの完全フッ素化
一般式HCF_(2)O(CF_(2)O)_(m)(CF_(2)CF_(2)O)_(n)CF_(2)H(mおよびnの値は、472g/モルの分子量を与える)を有する59.8g(0.127モル)の化合物を、5℃に保持した250mlのステンレススチール製反応器中に激しい撹拌下で投入した。フッ素(3.0Nl/時間のヘリウム中1.60Nl/時間)およびヘキサフルオロプロピレン(1.5Nl/時間のヘリウム中0.10Nl/時間)を、2つの吸気管によって供給し;4時間後、ガス状反応剤の添加(0.268モルの正味フッ素に相当する)を止め、残存ガスを排気して除いた。粗混合物をNMR分析により分析した:10ppmの残存水素原子(出発化合物中4200ppmに対して)、その結果として99%を超える水素変換率。
【0076】
比較例5-比較
ヘキサフルオロプロピレンを添加することなしに、実施例4に記載した反応を繰り返した。水素変化率は、5%未満の結果となった。
【0077】
実施例6-原式C_(7)H_(7.2)F_(8.8)O_(2)を有する混合物の合成
57.9g(0.210モル)のHCF_(2)CF_(2)OCH_(2)CH_(2)CH_(2)OCF_(2)CF_(2)H(C_(7)H_(8)F_(8)O_(2))を、-30℃に冷却した250mlのステンレススチール製反応器に投入した。フッ素(3.0Nl/時間のヘリウム中1.65Nl/時間)およびヘキサフルオロプロピレン(1.5Nl/時間のヘリウム中0.15Nl/時間)を激しい撹拌下に供給した。2時間50分後、ガス状反応剤の流れを止め(0.190モルの正味フッ素に相当する)、残存ガスをヘリウムにより一掃した。粗混合物を飽和NaHCO_(3)水溶液で洗浄し、原式C_(7)H_(7.2)F_(8.8)O_(2)(NMR分析により決定して)を有するエーテルの混合物を得た。混合物の沸点は、162℃であった。
【0078】
実施例7-原式C_(7)H_(6)F_(10)O_(2)を有する混合物の合成
実施例6(49.9g、0.181モルの出発エーテル)に記載した同じ手順に従って、フッ素およびヘキサフルオロプロポイレンを6時間15分供給した(0.401モルの正味フッ素に相当する)。得られた混合物は、塩基洗浄後、原式C_(7)H_(6)F_(10)O_(2)および152℃の沸点を有した。
【0079】
実施例8-原式C_(8)H_(4.5)F_(13.5)O_(2)を有する混合物の合成
45.2g(0.125モル)のCF_(3)CFHCF_(2)OCH_(2)CH_(2)OCF_(2)CFHCF_(3)(C_(8)H_(6)F_(12)O_(2))を250mlのステンレススチール製反応器に0℃で投入した。フッ素(3.0Nl/時間のヘリウム中1.65Nl/時間)およびヘキサフルオロプロピレン(1.5Nl/時間のヘリウム中0.15Nl/時間)を激しい撹拌下に供給した。3時間10分後、ガス状反応剤の流れを止め(0.212モルの正味フッ素に相当する)、残存ガスを一掃した。粗混合物をNaHCO_(3)の飽和水溶液で洗浄し、原式C_(8)H_(4.5)F_(13.5)O_(2)(NMR分析により決定して)および146℃の沸点を有する混合物を得た。」

ウ 判断
(ア)本願補正発明に関する特許法第36条第6項第1号の判断の前提
特許請求の範囲の範囲の記載が明細書のサポート要件に適合するか否かは、特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載とを対比し、特許請求の範囲に記載された発明が、発明の詳細な説明に記載された発明で、発明の詳細な説明の記載又はその示唆により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否か、また、その記載や示唆がなくとも当業者が出願時の技術常識に照らし当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否かを検討して判断すべきものである。
また、明細書のサポート要件の存在は、特許出願人が証明責任を負うのが相当であるし、発明の詳細な説明に当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる程度に具体例を開示せず、本件出願時の当業者の技術常識を参酌しても、特許請求の範囲に記載された発明の範囲まで、発明の詳細な説明に開示された内容を拡張ないし一般化できるといえないのに、特許出願後に実験データを提出して発明の詳細な説明の記載内容を記載外で補足することによって、その内容を特許請求の範囲に記載された発明の範囲まで拡張ないし一般化し、明細書のサポート要件に適合させることは、発明の公開を前提に特許を付与するという特許制度の趣旨に反し許されないというべきである。
以下、上記の前提で検討する。

(イ)本願補正発明の課題
本願明細書の摘記イ(イ)の【発明が解決しようとする課題】の【0010】の「温和な条件下で行われ、高収率を提供し得るフッ素化工程を含む、炭化水素化合物、特にアルカンおよびエーテルの完全または部分フッ素化のための方法に対する当技術分野における必要性が依然として存在する」との記載、【0011】の「大過剰のフッ素で操作することを必要とせずに、出発化合物中の水素原子の化学量論的置換とともに進行するフッ素化方法を提供する」との記載及び明細書全体の記載を参酌して、本願補正発明の課題は、温和な条件下で行われ、高収率を提供でき、大過剰のフッ素で操作することを必要とせずに、出発化合物中の水素原子の化学量論的置換を達成できるアルカンおよびエーテルの完全または部分フッ素化のための方法の提供にあると認める。

(ウ)対比判断
a 前記1に記載したとおり、特許請求の範囲の請求項1には、
化合物をフッ素化する方法として、化合物を提供する工程として、
「式(IA)C_(a)H_((2a+2-b-c))F_(b)X_(c)の直鎖もしくは分岐鎖のアルカンまたは
式(IB)C_(a’)H_((2a’-b’-c’))F_(b’)X_(c’)の環状アルカン
(ここで、Xは、Cl、Br、I、-SO_(2)F、-SO_(2)Clから選択され;aは、1?30の整数であり;bおよびcは、(b+c)≦(2a+1)である、0以上の整数であり;a’は、3?20の整数であり;b’およびc’は、(b’+c’)≦(2a’-1)である、0以上の整数である)から選択されるアルカンであるか、
あるいは、
式(IIA)C_(g)H_((2g+2-j-1))F_(j)X_(l)O_(k)の直鎖もしくは分岐鎖のエーテルまたは
式(IIB)C_(g’)H_((2g’-j’-I’))F_(j’)X_(l’)O_(k’)の環状エーテル(ここでXは、Cl、Br、I、-SO_(2)F、-SO_(2)Clから選択され;gは、1?8の整数であり;jおよびlは、(j+l)≦(2g+1)である、0以上の整数であり;kおよびk’は、1以上の整数であり;g’は、3?20の整数であり;j’およびl’は、(j’+l’)≦(2g’-1)である、0以上の整数である)から選択されるエーテル」を提供することを特定し、炭素数として最大30までを含む 直鎖、分岐鎖、環状のアルカンや炭素数として最大16個までを含むエーテルを含めて種々の化合物が包含された特定がなされ、これらの化合物をフッ素化する工程として、
「少なくとも1つの炭素-炭素二重結合を含み、前記二重結合の炭素原子のいずれか一方の上に少なくとも1個のフッ素または塩素原子を有する少なくとも1種の(パー)ハロオレフィンとして、テトラフルオロエチレン(TFE)、ヘキサフルオロプロピレン(HFP)ならびにその二量体および三量体、クロロトリフルオロエチレン、ならびにパーフルオロメチルビニルエーテルからなる群から選択されるという特定をし、前記化合物中に含まれる水素原子に対して0.1?30モル%の量で存在している(パー)ハロオレフィンの存在下で、前記化合物をフッ素と反応させて、少なくとも1つの炭素-水素結合が炭素-フッ素結合で置き換えられている化合物を得る工程」という、炭素-水素結合が炭素-フッ素結合で置き換えられる限りすべてを包含する形で工程の存在がさらに特定された方法の発明が記載されているといえる。

b 一方、発明の詳細な説明には、「C_(a)H_((2a+2-b-c))F_(b)X_(c)の直鎖もしくは分岐鎖のアルカン」または「C_(a’)H_((2a’-b’-c’))Fb’Xc’の環状アルカン」から選択されるアルカン、「C_(g)H_((2g+2-j-1))F_(j)X_(l)O_(k)の直鎖もしくは分岐鎖のエーテル」または「C_(g’)H_((2g’-j’-I’))F_(j’)X_(l’)O_(k’)の環状エーテル」から選択されるエーテルである化合物を提供する工程と、「化合物中に含まれる水素原子に対して0.1?30モル%の量で存在して」おり、「少なくとも1つの炭素-炭素二重結合を含み、前記二重結合の炭素原子のいずれか一方の上に少なくとも1個のフッ素または塩素原子を有する少なくとも1種の(パー)ハロオレフィン」の存在下で、「化合物をフッ素と反応させて、少なくとも1つの炭素-水素結合が炭素-フッ素結合で置き換えられている化合物を得る工程」を含む化合物のフッ素化方法に関して、特許請求の範囲の繰り返し記載を除くと、前記イ(ア)には、炭化水素化合物中のC-H結合の一部またはすべてを変換する様々な方法として、三フッ化コバルトを用いる方法、電解槽中の電解で生じたフッ化水素を用いてフッ素化反応を行う方法、フッ素ガスを用いて液相中で直接フッ素化を行う方法が知られているが、三フッ化コバルトを用いるフッ素化法および電解フッ素化法は、異性化、主鎖の切断および/または再結合反応を引き起こすので、所望の最終生成物の収率を減少させ得るし、フッ素による直接フッ素化は化合物中のフッ素含有量の増加とともに水素置換の困難性が増加するとの問題があることが記載され、フッ素の濃度を増加させ、温度を一般に上昇させなければならず、完全フッ素化生成物を得るために、化学量論的に必要な量を上回る大過剰のフッ素が必要とされ、出発化合物の部分フッ素化のみが必要とされる場合、水素置換度を制御することが困難であるという問題点のあることが記載されている。

また、前記イ(ウ)には、工程Bにおける(パー)ハロオレフィンの存在が、反応剤の望ましくない分解が起こらないように、本発明による方法を温和な条件下で行うことを可能にすること及び「少なくとも1つの炭素-炭素二重結合を含み、かつ前記二重結合の炭素原子のいずれか一方の上に少なくとも1個のフッ素または塩素原子を有する(パー)ハロオレフィン」という表現は、フルオロオレフィン、クロロオレフィン、およびフルオロクロロオレフィンを包含することが意図され、これらの化合物は、場合によりClおよびFと異なる1個以上のヘテロ原子、特に酸素を含むことが一般的記載として存在する。

そして、前記イ(エ)には、反応が、化学量論に進行し、1つの炭素-フッ素結合による1つの炭素-水素結合の置き換え、およびフッ化水素の形成が、反応系に供給される正味のフッ素F_(2)のそれぞれの分子に対応することがわかったこと、本明細書において、反応系に供給されるフッ素の量に関連して使用される場合、「正味の」という用語は、反応系に導入されたフッ素の合計量と、(パー)ハロオレフィンと反応させた化学量論的量との差を示すために使用されること、本方法は、典型的には、炭化水素化合物中の置き換えられなければならない炭素-水素結合の数当たり1?1.3当量のフッ素を反応系に供給することによって進行し、フッ素の変換率は、一般に90%を超えることが一般的記載として説明され、前記イ(オ)には、正味フッ素の化学量的量のみを供給することによって置換度が正確に制御され、炭素-フッ素結合による炭素-水素結合の部分置換のみに達するように制御され得ることが一般的記載として存在する。

さらに、前記イ(カ)には、実施例として、実施例1として式(IIA)のgが8、jが8、lが0、kが2である直鎖のエーテルをフッ素とヘキサフルオロプロピレンの存在下で反応させ決定手法は不明であるが、NMR分析により決定し、原式C_(6)H_(4)F_(10)O_(2)のエーテル混合物を得たことが記載されている。
また、実施例2及び実施例3には、実施例1と同じ手順で、式(IIA)のgが8、jが8、lが0、kが2である直鎖のエーテルを正味フッ素量を変えて、フッ素とヘキサフルオロプロピレンの存在下で反応させ、それぞれ、原式C_(6)H_(2.2)F_(11.8)O_(2)のエーテル混合物、原式C_(6)HF_(13)O_(2)のエーテル混合物を得たことが記載されている。
さらに、実施例4では、構造式不明のCF_(2)HO(CF_(2)O)_(m)(CF_(2)CF_(2)O)_(n)CF_(2)Hの直鎖のエーテルをフッ素とヘキサフルオロプロピレンの存在下で反応させ、粗混合物をNMRにより分析し、生成物は不明であるが、99%を超える水素変換率となったとの記載があり、比較例5として、ヘキサフルオロプロピレンを存在させないで、実施例4のとおり、実施して5%未満の水素変換率となったことが記載されている。
そして、実施例6及び実施例7には、式(IIA)のgが7、jが8、lが0、kが2である直鎖のエーテルをフッ素とヘキサフルオロプロピレンの存在下で反応させ決定手法は不明であるが、NMR分析により決定し、原式C_(7)H_(7.2)F_(8.8)O_(2)のエーテル混合物、原式C_(7)H_(6)F_(10)O_(2)のエーテル混合物を得たことが記載されている。
さらに、実施例8には、式(IIA)のgが9、jが12、lが0、kが2である直鎖のエーテルをフッ素とヘキサフルオロプロピレンの存在下で反応させ決定手法は不明であるが、NMR分析により決定し、原式C_(7)H_(7.2)F_(8.8)O_(2)のエーテル混合物、原式C_(7)H_(6)F_(10)O_(2)のエーテル混合物を得たことが記載されているだけである。

c したがって、請求項1に係る特許を受けようとする発明の化合物をフッ素化する方法に関しては、一般的記載として、温和な条件で望ましくない分解なく、部分置換を含めて化学量論的にフッ素化が進行するとの記載があるものの(摘記イ(エ)、イ(オ))、具体例を伴って、裏付けをもって記載されているのは、炭素数であるgが7?9で、フッ素数であるjが8と12で、酸素数であるkが2の直鎖のエーテルに対して、パーハロオレフィンとして、ヘキサフルオロプロピレンを用いて、混合物の組成式として、つまり平均として水素数が6個から4個に、6個から2.2個に、6個から1個に、8個から7.2個に、8個から6個に、6個から4.5個に減少し、それぞれ、フッ素数が2個、3.8個、5個、0.8個、2個、1.5個増加したといえる結果があるだけである。
直鎖、分岐鎖、環状アルカンや分岐鎖、環状エーテルをフッ素化される化合物とした例は何ら裏付けをもって記載されていないし、Xは、Cl、Br、I、-SO_(2)F、-SO_(2)Clから選択されるとした基を化合物が有する例も全く存在しない。
さらに、aは、1?30の整数であり;bおよびcは、(b+c)≦(2a+1)である、0以上の整数であり;a’は、3?20の整数であり;b’およびc’は、(b’+c’)≦(2a’-1)である、0以上の整数であるであるとされたアルカンやgは、1?8の整数であり;jおよびlは、(j+l)≦(2g+1)である、0以上の整数であり;kおよびk’は、1以上の整数であり;g’は、3?20の整数であり;j’およびl’は、(j’+l’)≦(2g’-1)である、0以上の整数であるとされたエーテルに関して、特定の炭素数、フッ素数、酸素数の直鎖エーテルの具体例があるのみである。
また、反応時に存在させるパーハロオレフィンとして、ヘキサフルオロプロピレン以外の場合に関しては、何ら裏付けをもって記載されていない。

d パーハロオレフィンは、フッ素化反応において、結果として、一種の触媒的作用をしているのであるから、パーハロオレフィンの種類が、反応促進の働きをするか否かに、大きな影響を及ぼすことは明らかであり、ヘキサフルオロプロピレンの具体例のみでフッ素化が一応進行したからといって、特許請求の範囲に含まれる テトラフルオロエチレン(TFE)、ヘキサフルオロプロピレン(HFP)ならびにその二量体および三量体、クロロトリフルオロエチレン、ならびにパーフルオロメチルビニルエーテルの全ての場合において、全てのアルカン又はエーテルに対して、温和な条件下で行われ、高収率を提供でき、大過剰のフッ素で操作することを必要とせずに、出発化合物中の水素原子の化学量論的置換を達成できるアルカンおよびエーテルの完全または部分フッ素化のための方法が提供でき、本願補正発明の課題が解決できると当業者が認識できるとはいえない。

そして、明細書の記載からも明らかなとおり、フッ素化が困難であるとされるフッ素化が進んだ水素数が非常に少ない化合物のフッ素化の例が、フッ素化できる水素をより多く含んだ特定の具体例の化合物の場合と同様に、フッ素化反応が温和な条件で収率よく進行することに関して何ら裏付けをもって記載されていない。

さらに、実施例の結果自体も、分析手法が明確でないNMRによる混合物としての組成式上、水素数が減少し、フッ素数が増加したことが一応示されているだけで、化合物として、フッ素化が進んで残る水素が僅かな場合の化合物のフッ素化が、温和な条件下で、高収率に化学量論的に置換できたことを示すものともいえない。
また、実施例4については、出発化合物と生成化合物が何であったかも明確に示されているとはいえないものであり、この実施例から完全フッ素化が実現したのかも不明である。

また、そのような記載や示唆がなくとも、当業者が、温和な条件下で行われ、高収率を提供でき、大過剰のフッ素で操作することを必要とせずに、出発化合物中の水素原子の化学量論的置換を達成できるアルカンおよびエーテルの完全または部分フッ素化のための方法が提供でき、本願補正発明の課題が解決できると認識できる本願出願時点の技術常識もないので、請求項1に係る発明が発明の詳細な説明に記載したものであるとはいえない。

e 請求人のサポート要件に関する主張の検討
(a)請求人は、平成28年10月6日付け審判請求書において、サポート要件に関する主張として以下のとおり述べている。
当分野では、フッ素化反応はアルカン類よりもエーテル類についてより困難で、当業者には、エーテル酸素およびフッ素原子を多数含む化合物を出発物質とした実施例1?8においてフッ素化反応が成功していることから幅広いアルカン類およびエーテル類を用いうることを理解可能である旨主張している。

しかしながら、上述のとおり、明細書に裏付けをもって記載されているのは、特定の炭素数、フッ素数、酸素数の直鎖エーテルの場合だけで、反応に共存させるパーハロオレフィンとしても、ヘキサフルオロプロピレンの場合のみであり、特許請求の範囲に含まれる、広範な直鎖、分岐、環状アルカンや直鎖、分岐、環状エーテルをヘキサフルオロプロピレン以外のものを用いた場合に、技術常識を参酌しても、当業者が課題を解決できると認識できない。
また、仮にアルカン類よりもエーテル類において、フッ素化反応が困難である事例が存在したとしても、特許請求の範囲に含まれるフッ素化される化合物は多種多様な構造および元素の結合状態を含むものであるから、それら全ての場合において、一般化できるものともいえない。

(b)また、請求人は、追加の試験結果として、試験3?6を提出して、ヘキサフルオロプロピレンの存在下、メタンスルホニルフルオリドのフッ素化をした例、実施例4の化合物をテトラフルオロエチレン、クロロトリフルオロエチレン、パーフルオロビニルエーテル共存下で実施例4と同じ条件で行ったものを追加して請求項1に係る発明は発明の詳細な説明に記載されている旨主張している。

しかしながら、発明の詳細な説明には、実際には、特定の直鎖エーテルをヘキサフルオロプロピレンでフッ素化する場合のみ実質的に記載しているのに対して、出願後、多数の例を実験によって追加して、それらの追加実験の記載を前提にサポート要件を満たすことを主張することは、発明の詳細な説明の記載の範囲を超える記載に関するものであり、一応参照検討しても、発明の詳細な説明の記載の裏付けの根拠としては採用することはできない。
また、念のため、仮にそれらの追加実験を採用したとしても、炭素数が1個のメチルスルホニルフルオリドを化合物として用いた例と出発化合物と生成化合物が不明な実施例4の直鎖エーテルの場合をテトラフルオロエチレン、クロロトリフルオロエチレン、パーフルオロビニルエーテル共存下で行った例が示されるだけで、テトラフルオロエチレン、ヘキサフルオロプロピレンの二量体および三量体を用いた例や環状アルカンや環状エーテルやフッ素化が困難であるとされる水素数が非常に少なくなってからのフッ素化の例に裏付けがないことには変わりがないといえる。

(c)以上のとおり、審判請求人の主張を検討しても、本願の発明の詳細な説明の記載がサポート要件を満たしていることの主張としては採用することはできない。

f 小括
したがって、本願補正発明は、発明の詳細な説明に記載したものということはできないから、特許請求の範囲の記載は、特許法第36条第6項第1項に適合するものではない。

エ 独立特許要件についてのまとめ
したがって、その余の理由を検討するまでもなく、本願補正発明は、特許出願の際独立して特許を受けることができるものではないから、本件補正は、特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項の規定に適合しないものである。

3 補正却下の決定のむすび
以上のとおり、本件補正は、特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項の規定に違反するので、同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。

第3 本願発明
この出願の平成28年10月6日付けの手続補正は上記のとおり却下されたので、特許請求の範囲の記載は、平成27年12月8日付けの手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項1?16に記載されたとおりであるところ、その請求項1に記載された特許を受けようとする発明(以下「本願発明」という。)は以下のとおりである。

「【請求項1】
化合物をフッ素化する方法であって、
A.化合物を提供する工程であって、前記化合物は、直鎖、分岐鎖および環状アルカン、直鎖、分岐鎖、および環状エーテルからなる群から選択され、少なくとも1つの炭素-水素結合を含み、Cl、Br、I、-SO_(2)F、-SO_(2)Clから選択される置換基Xを含むかまたは含まず、かつ-C(O)-官能基を含まない、工程と、
B.少なくとも1つの炭素-炭素二重結合を含み、前記二重結合の炭素原子のいずれか一方の上に少なくとも1個のフッ素または塩素原子を有する少なくとも1種の(パー)ハロオレフィンであって、前記化合物中に含まれる水素原子に対して0.1?30モル%の量で存在している(パー)ハロオレフィンの存在下で、前記化合物をフッ素と反応させて、少なくとも1つの炭素-水素結合が炭素-フッ素結合で置き換えられている化合物を得る工程と
を含み、
前記(パー)ハロオレフィンが、テトラフルオロエチレン(TFE)、ヘキサフルオロプロピレン(HFP)ならびにその二量体および三量体、オクタフルオロブテン、パーフルオロペンテン、パーフルオロヘキセン、パーフルオロヘプテン、パーフルオロオクテン、パーフルオロシクロブテン、パーフルオロシクロペンテン、パーフルオロシクロヘキセン、クロロトリフルオロエチレン、ジクロロジフルオロエチレン、クロロペンタフルオロプロペン、パーフルオロブタジエン、パーフルオロメチルビニルエーテル、パーフルオロエチルビニルエーテル、パーフルオロプロピルビニルエーテル;CF_(3)OCCl=CClF、トリクロロエチレン、テトラクロロエチレン、ジクロロエチレンの異性体;ならびに
式:
【化1】

(式中、X_(1)、X_(2)、X_(3)、およびX_(4)は、互いに等しいかまたは異なり、F、R_(f)およびOR_(f)から独立して選択され、ここで、R_(f)は、(パー)フルオロカーボン基であり、かつX_(3)、およびX_(4)の少なくとも1個はフッ素である)のフルオロジオキソールからなる群から選択される、方法。」

なお、請求項1に記載された特許を受けようとする発明(本願発明)は、平成27年6月1日付け拒絶理由の対象となった、願書に最初に添付された特許請求の範囲の請求項1に記載された発明に対応するものである。

第4 原査定の拒絶の理由
平成27年6月1日付けで審査官が通知した拒絶の理由(以下「原審の拒絶理由」という)の一つは概略以下のとおりである。

理由2:この出願は、特許請求の範囲の記載が、特許法第36条第6項第1号に適合するものではないから、特許法第36条第6項に規定する要件を満たしていない。

第5 当審の判断
当審は、原審の拒絶理由のとおり、請求項1の特許を受けようとする発明については、発明の詳細な説明に記載されたものではなく、特許法第36条第6項第1号に適合するものではないから、特許法第36条第6項に規定する要件を満たしていないと判断する。
その理由は以下のとおりである。

1 本願発明の課題
前記 第2 2(2)ウ(イ)に検討したのと同様に、本願発明の課題も、温和な条件下で行われ、高収率を提供でき、大過剰のフッ素で操作することを必要とせずに、出発化合物中の水素原子の化学量論的置換を達成できるアルカンおよびエーテルの完全または部分フッ素化のための方法の提供にあると認められる。

2 特許請求の範囲の記載
請求項1には、「化合物をフッ素化する方法」として、
「直鎖、分岐鎖および環状アルカン、直鎖、分岐鎖、および環状エーテルからなる群から選択され、少なくとも1つの炭素-水素結合を含み、Cl、Br、I、-SO_(2)F、-SO_(2)Clから選択される置換基Xを含むかまたは含まず、かつ-C(O)-官能基を含まない」「化合物を提供する工程」と
「テトラフルオロエチレン(TFE)、ヘキサフルオロプロピレン(HFP)ならびにその二量体および三量体、オクタフルオロブテン、パーフルオロペンテン、パーフルオロヘキセン、パーフルオロヘプテン、パーフルオロオクテン、パーフルオロシクロブテン、パーフルオロシクロペンテン、パーフルオロシクロヘキセン、クロロトリフルオロエチレン、ジクロロジフルオロエチレン、クロロペンタフルオロプロペン、パーフルオロブタジエン、パーフルオロメチルビニルエーテル、パーフルオロエチルビニルエーテル、パーフルオロプロピルビニルエーテル;CF_(3)OCCl=CClF、トリクロロエチレン、テトラクロロエチレン、ジクロロエチレンの異性体;ならびに
式:
【化1】

(式中、X_(1)、X_(2)、X_(3)、およびX_(4)は、互いに等しいかまたは異なり、F、R_(f)およびOR_(f)から独立して選択され、ここで、R_(f)は、(パー)フルオロカーボン基であり、かつX_(3)、およびX_(4)の少なくとも1個はフッ素である)のフルオロジオキソールからなる群から選択される」「少なくとも1つの炭素-炭素二重結合を含み、前記二重結合の炭素原子のいずれか一方の上に少なくとも1個のフッ素または塩素原子を有する少なくとも1種の(パー)ハロオレフィン」が「前記化合物中に含まれる水素原子に対して0.1?30モル%の量で存在している」「存在下で、前記化合物をフッ素と反応させて、少なくとも1つの炭素-水素結合が炭素-フッ素結合で置き換えられている化合物を得る工程」と
を含むことを特定した方法が記載されている。

3 発明の詳細な説明の記載
発明の詳細な説明には、【0075】の実施例4の記載を除いて、第2 2(2)イに示したとおりの記載がある。
【0075】の実施例4の記載は、「実施例4-原式CF_(2)HO(CF_(2)O)_(m)(CF_(2)CF_(2)O)_(n)CF_(2)Hの完全フッ素化
一般式CF_(2)HO(CF_(2)O)_(m)(CF_(2)CF_(2)O)_(n)CF_(2)H(mおよびnの値は、472g/モルの分子量を与える)・・・」で、下線部の末端炭素に結合する1個の水素と2個のフッ素の表記順序および式を意味する用語として「原式」との表記が用いられている点で相違している。

4 判断
(1)本願発明に関する特許法第36条第6項第1号の判断の前提
前記第2 2(2)ウ(ア)の前提で検討する。

(2)対比判断
ア 前記2に記載したとおり、特許請求の範囲の請求項1には、化合物をフッ素化する方法として、直鎖、分岐鎖および環状アルカン、直鎖、分岐鎖、および環状エーテルからなる群から選択され、「少なくとも1つの炭素-水素結合を含み、かつ-C(O)-官能基を含まない」限り、該当するあらゆる化合物を提供し、少なくとも1つの炭素-炭素二重結合を含み、前記二重結合の炭素原子のいずれか一方の上に少なくとも1個のフッ素または塩素原子を有する少なくとも1種の(パー)ハロオレフィンの存在下で、前記化合物をフッ素と反応させて、少なくとも1つの炭素-水素結合が炭素-フッ素結合で置き換えられている化合物を得るものが記載されている。

イ 一方、発明の詳細な説明には、請求項1に係る特許を受けようとする発明の化合物をフッ素化する方法に関しては、一般的記載として、温和な条件で望ましくない分解なく、部分置換を含めて化学量論的にフッ素化が進行するとの記載があるものの(摘記イ(エ)、イ(オ))、具体例を伴って、裏付けをもって記載されているのは、炭素数が7?9で、フッ素数8と12で、酸素数が2の直鎖のエーテルに対して、パーハロオレフィンとして、ヘキサフルオロプロピレンを用いて、混合物の組成式として、水素数が6個から4個に、6個から2.2個に、6個から1個に、8個から7.2個に、8個から6個に、6個から4.5個に減少し、それぞれ、フッ素数が2個、3.8個、5個、0.8個、2個、1.5個増加したといえる結果があるだけである。
直鎖、分岐鎖、環状アルカンや分岐鎖、環状エーテルをフッ素化される化合物とした例は何ら裏付けをもって記載されていないし、Cl、Br、I、-SO_(2)F、-SO_(2)Clから選択されるとした置換基Xを化合物が含む例も全く存在しない。
さらに、直鎖、分岐鎖、環状アルカンや直鎖、分岐鎖、環状エーテルとして、広範な炭素数、フッ素数、酸素数を含み得る特許請求の範囲に記載の化合物に関して、特定の炭素数、フッ素数、酸素数の直鎖エーテルの具体例があるのみである。
また、反応時に存在させるパーハロオレフィンとして、ヘキサフルオロプロピレン以外の場合に関しては、何ら裏付けをもって記載されていない。

ウ パーハロオレフィンは、フッ素化反応において、結果として、一種の触媒的作用をしているのであるから、パーハロオレフィンの種類が、反応促進の働きをするか否かに、大きな影響を及ぼすことは明らかであり、ヘキサフルオロプロピレンの具体例のみでフッ素化が進行したからといって、特許請求の範囲に含まれる ヘキサフルオロプロピレン以外の膨大な全ての場合において、全てのアルカン又はエーテルに対して、温和な条件下で行われ、高収率を提供でき、大過剰のフッ素で操作することを必要とせずに、出発化合物中の水素原子の化学量論的置換を達成できるアルカンおよびエーテルの完全または部分フッ素化のための方法が提供でき、本願発明の課題が解決できると当業者が認識できるとはいえない。

そして、明細書の記載からも明らかなとおり、フッ素化が困難であるとされるフッ素化が進んだ水素数が非常に少ない化合物のフッ素化の例が、フッ素化できる水素をより多く含んだ特定の具体例の場合と同様にフッ素化反応が温和な条件で収率よく進行することに関して何ら裏付けをもって記載されていない。

さらに、実施例の結果自体も、分析手法が明確でないNMRによる混合物としての組成式上、水素数が減少し、フッ素数が増加したことが一応示されているだけで、化合物として、フッ素化が進んで残る水素が僅かな場合のフッ素化が、温和な条件下で、高収率に化学量論的に置換できたことを示すものともいえない。
また、実施例4については、出発化合物と生成化合物が何であったかも明確に示されているとはいえないものであり、この実施例から完全フッ素化が実現したのかも不明である。

また、そのような記載や示唆がなくとも、当業者が、温和な条件下で行われ、高収率を提供でき、大過剰のフッ素で操作することを必要とせずに、出発化合物中の水素原子の化学量論的置換を達成できるアルカンおよびエーテルの完全または部分フッ素化のための方法が提供でき、本願発明の課題が解決できると認識できる本願出願時点の技術常識もないので、請求項1に係る発明が発明の詳細な説明に記載したものであるとはいえない。

(3)請求人の主張の検討
審判請求人は、平成27年12月8日付け意見書において、請求人は、追加の試験結果として、試験1,2を提出して、ヘキサフルオロプロピレン(ヘキサフルオロプロペン)の存在下、n-ヘキサン、メタンスルホニルクロライドのフッ素化をした例を追加して請求項1に係る発明は発明の詳細な説明に記載されている旨主張している。

しかしながら、発明の詳細な説明には、実際には、特定の直鎖エーテルをヘキサフルオロプロピレンでフッ素化する場合のみ実質的に記載しているのに対して、出願後、実験例を追加して、それらの追加実験の記載を前提にサポート要件を満たすことを主張することは、発明の詳細な説明の記載の範囲を超える記載に関するものであり、一応参照検討しても、発明の詳細な説明の記載の裏付けの根拠としては採用することはできない。
また、念のため、仮にそれらの追加実験を採用したとしても、炭素数が1個のメチルスルホニルクロリドを化合物として用いた例と炭素数が6個の直鎖アルカンの例が示されるだけで、直鎖、分岐鎖、環状アルカンや直鎖、分岐鎖、環状エーテルとして、広範な炭素数、フッ素数、酸素数を含み得る特許請求の範囲に記載の化合物に関して、特許請求の範囲に含まれる多数のパーハロオレフィンの存在下で、全ての場合に裏付けがないことには変わりがないといえる。

以上のとおり、審判請求人の主張を検討しても、本願の発明の詳細な説明の記載がサポート要件を満たしていることの主張としては採用することはできない。

5 まとめ
以上のとおり、請求項1記載の特許を受けようとする発明は、発明の詳細な説明に記載されたものではなく、特許法第36条第6項第1号に適合するものではないから、特許法第36条第6項に規定する要件を満たしていない。

第6 むすび
以上のとおり、本願は、特許法第36条第6項に規定する要件を満たしておらず、拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2017-07-11 
結審通知日 2017-07-14 
審決日 2017-07-31 
出願番号 特願2013-545232(P2013-545232)
審決分類 P 1 8・ 575- Z (C07C)
P 1 8・ 121- Z (C07C)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 中西 聡福山 則明  
特許庁審判長 佐藤 健史
特許庁審判官 加藤 幹
瀬良 聡機
発明の名称 フッ素化有機化合物の製造方法  
代理人 村山 靖彦  
代理人 実広 信哉  
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