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審決分類 審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 A61B
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 A61B
管理番号 1335498
審判番号 不服2016-8898  
総通号数 218 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2018-02-23 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2016-06-15 
確定日 2017-12-06 
事件の表示 特願2013-537837号「充電デバイスを備える手術器具」拒絶査定不服審判事件〔平成24年 5月10日国際公開、WO2012/061649、平成25年12月26日国内公表、特表2013-545537号〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本件出願は、2011年(平成23年)11月3日(パリ条約による優先権主張2011年(平成23年)10月18日、アメリカ合衆国、2011年(平成23年)5月19日、アメリカ合衆国、2010年(平成22年)11月5日、アメリカ合衆国)を国際出願日とする特許出願であって、平成27年8月26日付けで拒絶の理由が通知され、同年11月27日に意見書とともに手続補正書が提出され特許請求の範囲について補正がなされたが、平成28年2月5日付けで拒絶をすべき旨の査定がなされた。
これに対し、平成28年6月15日に該査定の取消を求めて本件審判の請求がされると同時に手続補正書が提出され、特許請求の範囲についてさらに補正がなされ、その後同年11月28日に上申書が提出されたものである。

第2 平成28年6月15日付けの手続補正についての補正却下の決定
[補正却下の決定の結論]
平成28年6月15日付けの手続補正を却下する。

[理由]
1 補正の内容の概要
平成28年6月15日付けの手続補正(以下「本件補正」という。)は、平成27年11月27日付けで補正された特許請求の範囲をさらに補正するものであって、特許請求の範囲の請求項1を以下のように補正するものである。なお、下線部は補正箇所を示す。

(1)<補正前>
「【請求項1】
(a)手術器具と、
(b)前記手術器具と通じた第1の電源であって、該第1の電源は前記手術器具に電力を伝送するように構成され、前記第1の電源は、該第1の電源の少なくとも一部が前記手術器具に内蔵されるように、該手術器具内に配置されるように動作可能であり、前記第1の電源は第1の放電率を有する、第1の電源と、
(c)前記第1の電源と通じた第2の電源であって、該第2の電源は前記第1の電源に電力を伝送するように構成され、前記第2の電源は第2の放電率を有する、第2の電源と、
(d)制御モジュールであって、前記第1の電源及び前記第2の電源は前記制御モジュールと連絡するように動作可能であり、該制御モジュールは、前記第1の電源を充電するために前記第2の電源を使用するように動作可能である、制御モジュールと、
(e)前記制御モジュールと通じたユーザ動作可能なスイッチであって、前記スイッチの動作時において、前記制御モジュールは、前記第2の電源から前記第1の電源へ電荷を流すようにし、それにより、前記手術器具の作動のために前記第1の電源を十分に充電する、スイッチと、
を備える、装置。」

(2)<補正後>
「【請求項1】
(a)手術器具と、
(b)前記手術器具と通じた第1の電源であって、該第1の電源は前記手術器具に電力を伝送するように構成され、前記第1の電源は、該第1の電源の少なくとも一部が前記手術器具に内蔵されるように、該手術器具内に配置されるように動作可能であり、前記第1の電源は第1の放電率を有する、第1の電源と、
(c)前記第1の電源と通じた第2の電源であって、該第2の電源は前記第1の電源に電力を伝送するように構成され、前記第2の電源は第2の放電率を有する、第2の電源と、
(d)制御モジュールであって、前記第1の電源及び前記第2の電源は前記制御モジュールと連絡するように動作可能であり、該制御モジュールは、前記第1の電源を充電するために前記第2の電源を使用するように動作可能である、制御モジュールと、
(e)前記制御モジュールと通じたユーザ動作可能なスイッチであって、前記スイッチの動作時において、前記制御モジュールは、前記第2の電源から前記第1の電源へ電荷を流すようにし、それにより、前記手術器具の作動のために前記第1の電源を十分に充電する、スイッチと、
を備え、
前記第1の電源、前記第2の電源、前記制御モジュール、前記スイッチは、前記手術器具に設けられ、
前記スイッチは、前記手術器具の把持部に近接して配されている、装置。」

2 補正の適否
本件補正は、補正前の請求項1の「装置」について、「第1の電源、第2の電源、制御モジュール、スイッチは手術器具に設けられ、スイッチは、手術器具の把持部に近接して配されている」点を付加するものであるから、特許請求の範囲の限定的減縮(特許法第17条の2第5項第2号)を目的とするものに該当する。そして、本件補正は、同法同条第3項及び第4項の規定に違反するものではない。
そこで、本件補正後の特許請求の範囲の請求項1に係る発明(以下「補正発明」という。)が特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか否か、すなわち特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項に規定される独立特許要件に適合するか否かについて検討する。

(1)補正発明
補正発明は、特許請求の範囲、明細書及び図面の記載からみて、上記1(2)に示す特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定されるとおりの「装置」であると認める。

(2)刊行物
これに対して、原審において示された、本件の優先日前に頒布された刊行物である特開2009-189836号公報(以下「刊行物1」という。)及び特開2002-336265号公報(以下「刊行物2」という。)には、以下の発明が記載されていると認められる。

(2-1)刊行物1
ア 刊行物1に記載された事項
刊行物1には、「モーター付き外科用切断・固定器具」に関して、図面とともに以下の事項が記載されている。なお、下線部は当審で付したものである。

(ア)特許請求の範囲
「【請求項13】
外科用切断・固定器具において、
エンドエフェクタと、
前記エンドエフェクタに接続されたシャフトであって、前記シャフトは、前記エンドエフェクタに動力供給するための動力伝達系路を含む、シャフトと、
前記シャフトに接続されたハンドルと、
前記動力伝達系路に電力供給するために前記動力伝達系路に接続された、電動式DCモーターと、
前記モーターに電力を供給するために前記モーターに接続された、充電可能なDC電源と、
前記DC電源の充電状態を表示する手段と、
を含む、外科用切断・固定器具。」

(イ)「【0016】図1および図2に描かれる外科用器具10は、ハンドル6、シャフト8、および関節運動ピボット14においてシャフト8に旋回可能に接続された、関節運動するエンドエフェクタ12を含む。関節運動制御装置16が、ハンドル6に隣接して設けられて、関節運動ピボット14の周りでのエンドエフェクタ12の回転をもたらすことができる。例示された実施形態では、エンドエフェクタ12は、組織をクランプし、切断し、またステープル留めするためのエンドカッターとして作用するように構成されるが、他の実施形態では、異なるタイプのエンドエフェクタ、例えば他のタイプの外科装置用のエンドエフェクタ、例えば把持器、カッター、ステープラ、クリップアプライヤ、アクセス装置、薬剤/遺伝子治療装置、超音波、RFもしくはレーザー装置など、が用いられてよい。RF装置に関するさらなる詳細は、‘312号特許において見ることができる。」

(ウ)「【0027】ハンドル6は、発射トリガー20と連絡している運行モーターセンサー(run motor sensor)110も含んで、発射トリガー20がいつオペレーターによってハンドル6のピストルグリップ部分26に向かって引き込まれた(または「閉じられた」)のかを検知し、それによってエンドエフェクタ12による切断/ステープル留め作業を始動させることができる。センサー110は、例えば加減抵抗器もしくは可変抵抗器などの、比例センサーであってよい。発射トリガー20が引き込まれると、センサー110は動きを検知し、モーター65に供給されるべき電圧(もしくは電力)を示す電気信号を送信する。センサー110が可変抵抗器などの場合、モーター65の回転は、一般的には、発射トリガー20の動きの量に比例することができる。すなわち、オペレーターが発射トリガー20をわずかに引っ張るか、もしくは閉じただけであれば、モーター65の回転は比較的少ない。発射トリガー20が十分に引き込まれる(もしくは完全に閉じた位置にくる)と、モーター65の回転は最大となる。言い換えれば、使用者が発射トリガー20を激しく引っ張るほど、より多くの電圧がモーター65に加えられ、より大きな回転速度を生じさせる。」

(エ)「【0045】他の実施形態では、図13に示されるように、一次的電源340、例えば、CR2もしくはCR123A電池などの電池が、いくつかの二次的蓄電池装置342を充電するのに用いられうる。一次的電源340は、直列接続した1つまたはいくつかの電池を含むことができ、この直列接続した電池は、好ましくは、例示された実施形態では取替可能である。二次的蓄電池装置342は、例えば、再充電可能な電池および/またはスーパーキャパシタ(「ウルトラキャパシタ」もしくは「電気化学二重層キャパシタ」(EDLC)としても知られる)を含むことができる。スーパーキャパシタは、一般的な電解キャパシタと比べて異常に高いエネルギー密度、典型的には大容量電解キャパシタよりおよそ何千倍も大きなエネルギー密度を有する、電気化学キャパシタである。」

(オ)「【0046】一次的電源340は、二次的蓄電池装置342を充電することができる。いったん十分に充電されたら、一次的電源340は取り外されてよく、二次的蓄電池装置342は、処置中または手術中にモーター65に電力供給するために用いられることができる。蓄積装置342は、様々な状況では、充電するのに約15?30分かかるであろう。スーパーキャパシタは、従来のバッテリと比べて極端に迅速に充電および放電することができる特性を有する。加えて、バッテリが、ほんの限られた数の充電/放電サイクルには便利であるのに対して、スーパーキャパシタはしばしば、繰り返し、時には数千万サイクルにわたって、充電/放電されることができる。二次的蓄電池装置342としてスーパーキャパシタを用いる実施形態について、スーパーキャパシタは、カーボンナノチューブ、導電性ポリマー(例えば、ポリアセン)、もしくはカーボンエアロゲルを含みうる。」

(カ)「【0047】図14に示されるように、充電管理回路344は、二次的蓄電池装置342が十分に充電されたときを判断するのに用いられうる。充電管理回路344は、二次的蓄電池装置342が十分に充電されると器具10の使用者に警告するように作動される表示器、例えば1つ以上のLED、LCDディスプレイなどを含むことができる。」

(キ)「【0048】一次的電源340、二次的蓄電池装置342、および充電管理回路344は、器具10のハンドル6のピストルグリップ部分26内のパワーパックの一部であるか、または器具10の別の部分にあることができる。パワーパックは、ピストルグリップ部分26から取り外し可能であってよく、その場合、器具10が手術に用いられるときは、パワーパックは、例えば手術を助ける間接介助看護師によって、ピストルグリップ部分26(もしくは他の実施形態による器具の他の位置)の中に無菌で挿入されることができる。パワーパックの挿入後、看護師は、取替可能な一次的電源340をパワーパックに入れて、器具10の使用前のある時間、例えば30分、二次的蓄電池装置342を充電することができる。二次的蓄電池装置342が充電されると、充電管理回路344は、パワーパックが使用される準備ができたことを示すことができる。この時点で、取替可能な一次的電源340は取り外されてよい。手術中、器具10の使用者は次に、スイッチ314を作動させることなどによって、モーター65を作動させることができ、それによって、二次的蓄電池装置342がモーター65に電力供給する。ゆえに、モーター65に電力供給するためにいくつかの使い捨てバッテリを有する代わりに、1つの使い捨てバッテリ(一次的電源340として)がそのような実施形態で用いられてよく、二次的蓄電池装置342は、再利用可能であってよい。しかしながら、代替的実施形態では、二次的蓄電池装置342は、再充電不可能かつ/もしくは再利用不可能であってよいことに注意すべきである。二次的蓄電池342は、図12に関連して前述した電池選択スイッチ312と共に用いられうる。」

(ク)「【0049】充電管理回路344は、どれだけ充電が二次的蓄電池装置342に残っているかを示す表示器(例えばLED、もしくはLCDディスプレイ)も含むことができる。そのようにして、外科医(または器具10の他の使用者)は、器具10を伴う処置の進行の間中、充電がどれだけ残っているかを知ることができる。」


イ 刊行物1発明
(ケ)上記記載事項(オ)に「二次的蓄電池装置342は、処置中または手術中にモーター65に電力供給するために用いられることができる」とあり、かつ、上記記載事項(ウ)に「発射トリガー20がいつオペレーターによってハンドル6のピストルグリップ部分26に向かって引き込まれた(または「閉じられた」)のかを検知し、それによってエンドエフェクタ12による切断/ステープル留め作業を始動させることができる。・・・発射トリガー20が引き込まれると、センサー110は動きを検知し、モーター65に供給されるべき電圧(もしくは電力)を示す電気信号を送信する。」とあり、また、上記記載事項(イ)に「外科用器具10は、ハンドル6、シャフト8、および関節運動ピボット14においてシャフト8に旋回可能に接続された、関節運動するエンドエフェクタ12を含む。」とあることより、二次的蓄電池装置342は、モータ65と通じており、モータ65に電力供給し、それにより、外科用器具10のエンドエフェクタ12を動作させているから、二次的蓄電装置342が外科的器具10に通じており、かつ、二次的蓄電装置342が外科用器具10に電力を伝送するように構成されていると認められる。

(コ)上記記載事項(エ)に「二次的蓄電池装置342は、例えば、再充電可能な電池および/またはスーパーキャパシタ(「ウルトラキャパシタ」もしくは「電気化学二重層キャパシタ」(EDLC)としても知られる)を含むことができる。」とあり、かつ、上記記載事項(オ)に「スーパーキャパシタは、従来のバッテリと比べて極端に迅速に充電および放電することができる特性を有する。」とある。そして、“極端に迅速に・・・放電することができる特性”とは、“放電率が高い”特性を意味するに他ならない。
そして、上記記載事項(エ)に「一次的電源340、例えば、CR2もしくはCR123A電池などの電池が、いくつかの二次的蓄電池装置342を充電するのに用いられうる。」とあり、当該記載における”CR2もしくはCR123A電池”は”従来のバッテリ”と言えるものであるところ、当該記載における「一次的電源340」は「従来のバッテリ」に相当するものであると認められる。ゆえに、二次的蓄電装置342は、従来のバッテリである一次的電池340の放電率(第2の放電率)よりも高い所定の放電率(第1の放電率)を有することは明らかである。

(サ)上記記載事項(カ)に「図14に示されるように、充電管理回路344は、二次的蓄電池装置342が十分に充電されたときを判断するのに用いられうる。」とあり、かつ、刊行物1の図14には、充電管理回路344が、二次的蓄電池装置342及び一次電池340と連絡していることが示されている。よって、「二次的蓄電池装置342及び一次的電源340が充電管理回路344と連絡するように動作可能であ」ることは明らかである。
そして、上記記載事項(オ)に「一次的電源340は、二次的蓄電池装置342を充電することができる。」とあり、かつ、刊行物1の図14には、一次的電源340と二次的蓄電装置342の間に、充電管理管理344が設けられていることより、一次的電池340は、充電管理回路344を通して、二次的蓄電池装置342を充電することは明らかであり、「充電管理回路344は二次的蓄電池装置342を充電するために前記一次的電源340を使用するように動作可能である」と認められる。

(シ)上記記載事項(キ)に「一次的電源340、二次的蓄電池装置342、および充電管理回路344は、器具10のハンドル6のピストルグリップ部分26内のパワーパックの一部であるか、または器具10の別の部分にあることができる。」とあることより、二次的蓄電池装置342は、外科用器具10に内蔵され、かつ、外科用器具10内に配置されていることは明らかである。

そこで、上記記載事項(ア)ないし(ク)及び上記認定事項(ケ)ないし(シ)を、図面を参照しつつ技術常識を踏まえ補正発明に照らして整理すると、刊行物1には以下の発明が記載されていると認める。(以下「刊行物1発明」という。)
「外科用器具10と、
前記外科用器具10と通じた二次的蓄電池装置342であって、該二次的蓄電池装置342は前記外科的器具10に電力を伝送するように構成され、前記二次的蓄電池装置342は、前記外科用器具10内に配置され、前記二次的蓄電池装置342は第1の放電率を有する、二次的蓄電池装置342と、
前記二次的蓄電池装置342と通じた一次的電源340であって、該一次的電源340は前記二次的蓄電池装置342に電力を伝送するように構成され、前記一次的電源340は第2の放電率を有する、一次的電源340と、
充電管理回路344であって、前記二次的蓄電池装置342及び前記一次的電源340は前記充電管理回路344と連絡するように動作可能であり、該充電管理回路344は、前記二次的蓄電池装置342を充電するために前記一次的電源340を使用するように動作可能である、充電管理回路344と、を備え、
前記二次的蓄電池装置342、前記一次的電源340、前記充電管理回路344は、前記外科用器具10に設けられる、外科用切断・固定器具。」


(2-2)刊行物2
ア 刊行物2に記載された事項
刊行物2には、「体腔用施術装置」に関して、図面とともに以下の事項が記載されている。なお、下線部は当審で付したものである。

(ア)「【0027】図6は、気液相アクチュエータ10を適用した結石等破砕装置60の構造図である。」

(イ)「【0028】この結石等破砕装置60は、気液相アクチュエータ10が内蔵された装置本体62、及び結石に向けて人体に挿入される挿入部64から構成される。なお、装置本体62は、操作者が把持しやすい形状に形成されている。」

(ウ)「【0037】一方、揺動スイッチ118の下端側118Bを反時計周り方向に回動させると、無負荷状態では離間しているメインスイッチSW2の接点が閉じ、メインスイッチSW2がオンされる。メインスイッチSW2がオンされると、装置本体62内の駆動ユニット124により後述のようにベローズ12内のヒータ18に電圧が印加され、打撃力が発生する。」

(エ)「【0039】これらの動作に必要な電源、即ち、駆動ユニット124内の回路部品やベローズ12内のヒータ18等に供給する電源には、本体ケース76に収納される電池122が用いられる。尚、AC/DCコンバータ等を経由した外部電源を用いることもできる。電池122等からの電源供給を有効にする場合には、電源スイッチSW1をオンにする。」

(オ)「【0041】図10は、気液相アクチュエータ10を駆動する上記駆動ユニット124の構成を示したブロック図である。」

(カ)「【0042】同図に示すように駆動ユニット124は、上記電池122により充電される複数の2次電源部206、208、210を備えており、これらの2次電源部206、208、210により気液相アクチュエータ10のヒータ18にパルス電圧(電流)を供給する構成となっている。尚、上述のように商用交流電源等の外部電源をAC/DCコンバータにより直流電源に変換し、その直流電源を電池122の代わりとしてもよい。また、各2次電源部206、208、210を区別していう場合には、それぞれ初段2次電源部206、2段2次電源部208、3段2次電源部210という。」

(キ)「【0043】同図の電源スイッチSW1は、電池122からの電源供給を有効/無効に切り替える図6に図示したスイッチであり、電源スイッチSW1をオンにすると、電池122から出力された電圧がDC/DCコンバータ回路216により昇圧され、その昇圧された電圧が各2次電源部206?210に供給され、また、その他の各回路部品に供給される。」


イ 刊行物2事項
(ク)上記記載事項(キ)には、「電源スイッチSW1をオンにすると」とあり、当該スイッチSW1が、ユーザ動作可能なものであることは明らかである。

(ケ)刊行物2の図6によれば、スイッチSW1が、結石破砕装置60の装置本体62に設けられていることが明らかである。
また、上記記載事項(イ)に「装置本体62は、操作者が把持しやすい形状に形成されている。」とあり、かつ、刊行物2の図6における装置本体62の形状を見れば、装置本体62の下部が、「把持部」としての機能を有するものと言える。しかるに、刊行物2の図6におけるスイッチSW1の配置箇所は、結石破砕装置60の把持部に近接して配されていると認められる。

(コ)上記記載事項(カ)に「駆動ユニット124は、上記電池122により充電される複数の2次電源部206、208、210を備えており、これらの2次電源部206、208、210により気液相アクチュエータ10のヒータ18にパルス電圧(電流)を供給する構成となっている。」とあり、2次電源部206、208,210は、気液相アクチュエータ10を作動させるのに十分に充電されるものであることは明らかであるから、結石等破砕装置60の作動のために2次電源部206、208、210を十分に充電するものであると認められる。

そこで、上記記載事項(ア)ないし(キ)及び上記認定事項(ク)ないし(コ)を、図面を参照しつつ技術常識を踏まえて整理すると、刊行物2には以下の事項が記載されていると認める。(以下「刊行物2事項」という。)

「結石等破砕装置60と、
前記結石等破砕装置60に電力を伝送するように構成された2次電源部206,208,210と、
前記2次電源部206,208,210に電力を伝送するように構成された電池122と、
ユーザ動作可能なスイッチSW1であって、前記スイッチSW1の動作時において、前記電池122から前記二次電源部206,208,210へ電荷を流すようにし、それにより、前記結石等破砕装置60の作動のために前記二次電源部206,208,210を十分に充電する、スイッチSW1と、
を備え、
前記スイッチSW1は、前記結石破砕装置60に設けられ、
前記スイッチSW1は、前記結石破砕装置60の把持部に近接して配されている、装置。」


(3)対比
補正発明と刊行物1発明とを対比すると以下のとおりである。
刊行物1発明の「外科用器具10」は、補正発明の「手術器具」に相当し、「二次的蓄電池装置342」は「第1の電源」に、「一次的電源340」は「第2の電源」に、「充電管理回路344」は「制御モジュール」に、「外科用切断・固定器具」は「装置」に、各々相当する。
また、刊行物1発明の「外科用器具10内に配置され」は、補正発明の「少なくとも一部が手術器具に内蔵されるように、該手術器具内に配置されるように動作可能であり」に相当する。

したがって、補正発明と刊行物1発明とは、以下の点で一致しているということができる。


<一致点>
「手術器具と、
前記手術器具と通じた第1の電源であって、該第1の電源は前記手術器具に電力を伝送するように構成され、前記第1の電源は、該第1の電源の少なくとも一部が前記手術器具に内蔵されるように、該手術器具内に配置されるように動作可能であり、前記第1の電源は第1の放電率を有する、第1の電源と、
前記第1の電源と通じた第2の電源であって、該第2の電源は前記第1の電源に電力を伝送するように構成され、前記第2の電源は第2の放電率を有する、第2の電源と、
制御モジュールであって、前記第1の電源及び前記第2の電源は前記制御モジュールと連絡するように動作可能であり、該制御モジュールは、前記第1の電源を充電するために前記第2の電源を使用するように動作可能である、制御モジュールと、
を備え、
前記第1の電源、前記第2の電源、前記制御モジュールは、前記手術器具に設けられている、装置。」

そして、補正発明と刊行物1発明とは、以下の点で相違している。

<相違点>
補正発明は、制御モジュールと通じたユーザ動作可能なスイッチであって、当該スイッチの動作時において、制御モジュールが、第2の電源から第1の電源へ電荷を流すようにし、それにより、手術器具の作動のために第1の電源を十分に充電する、スイッチを備え、当該スイッチは、手術器具に設けられ、手術器具の把持部に近接して配されているのに対して、
刊行物1発明は、スイッチの動作時において、充電管理回路344が一次的電源340から二次電源部206,208,210へ電荷を流すようにする、ユーザ動作可能なスイッチを有していない点。

(4)相違点の検討
ア 相違点について
(ア)上記(2-2)イにて述べたように、刊行物2事項は、「結石等破砕装置60と、前記結石等破砕装置60に電力を伝送するように構成された2次電源部206,208,210と、前記2次電源部206,208,210に電力を伝送するように構成された電池122と、ユーザ動作可能なスイッチSW1であって、前記スイッチSW1の動作時において、前記電池122から前記二次電源部206,208,210へ電荷を流すようにし、それにより、前記結石等破砕装置60の作動のために前記二次電源部206,208,210を十分に充電する、スイッチSW1と、を備え、前記スイッチSW1は、前記結石破砕装置60に設けられ、前記スイッチSW1は、前記結石破砕装置60の把持部に近接して配されている、装置。」というものであるところ、これを補正発明の用語で表現すれば、「結石等破砕装置60」は「手術器具」と表現でき、「2次電源部206,208,210」は「第1の電源」と、「電池122」は「第2の電源」と、「スイッチSW1」は「スイッチ」と、各々表現できる。
したがって、刊行物2事項は「手術器具と、前記手術器具に電力を伝送するように構成された第1の電源と、第1の電源に電力を伝送するように構成された第2の電源と、ユーザ動作可能なスイッチであって、前記スイッチの動作時において、第2の電源から第1の電源へ電荷を流すようにし、それにより、手術器具の作動のために第1の電源を十分に充電する、スイッチと、を備え、前記スイッチは、手術器具に設けられ、スイッチは、前記手術器具の把持部に近接して配されている、装置。」と言い改めることができる。

ここで、刊行物1発明と刊行物2事項は、いずれも、2つの電源を組み合わせて手術器具に電力を供給するという点で技術分野が共通しているところ、一般に、電源を用いた機器において、電源を着脱させる代わりに、スイッチによる接続の切換を可能とすることにより電源の取扱いを容易化することは、取扱いの容易性という一般的課題の解決を求める中で、ごく自然に当業者が行うことであることに鑑みれば、刊行物2に接した当業者が、これを刊行物1発明に適用することを試みることに格別困難性はない。

そして、そうした場合、当該スイッチは、電気的に、第1の電源と第2の電源の間に設けられることとなり、かつ、刊行物1発明においては、「制御モジュール」が、第1の電源と第2の電源の間に存在するから、当該スイッチは、当然に、制御モジュールと通じたものとなり、かつ、当該スイッチの動作時において、制御モジュールが、第2の電源から第1の電源へ電荷を流すものとなる。

(イ)よって、刊行物1発明に、刊行物2事項を適用して、相違点に係る補正発明の構成とすることは当業者が容易に想到し得たということが相当である。


イ 請求人の補正案について
請求人は、上記平成28年11月28日提出の上申書にて補正案を示している。しかしながら、そもそも「補正案」を検討する法的根拠はない。
また、仮に補正案のように補正したとしても、更なる従来周知技術の技術事項(例えば、特開2004-208344号公報の【0038】?【0041】、【図2】、【図3】を参照されたい)の付加の域を出るものではなく、進歩性が認められるとは考え難いから、結論に変わりはない。


ウ 小括
したがって、補正発明は、刊行物1発明及び刊行物2事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。


3 むすび
以上のとおりであるから、本件補正は、特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項の規定に違反するので、同法第159条第1項の規定において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。
よって、上記[補正却下の決定の結論]のとおり、決定する。


第3 本件出願の発明について
1 本件出願の発明
本件補正は、上記のとおり却下されたところ、本件出願の特許請求の範囲の請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)は、特許請求の範囲、明細書及び図面の記載からみて、平成27年11月27日付けの手続補正書により補正された上記第2の1(1)に示す特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定されるとおりの「装置」であると認める。

2 刊行物
これに対して、原審において引用又は例示された刊行物は、上記第2の2(2)に示した刊行物1、刊行物2であり、その記載事項は上記第2の2(2)のとおりである。

3 対比・検討
本願発明は、実質的に、上記第2の2で検討した補正発明の「装置」から「第1の電源、第2の電源、制御モジュール、スイッチが手術器具に設けられ、スイッチが、手術器具の把持部に近接して配されている」点を削除したものである。
そうすると、本願発明より狭い範囲を特定事項とする補正発明が、上記第2の2で検討したとおり想到容易である以上、それよりも広い範囲を特定事項とする本願発明も、刊行物1発明、刊行物2事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものということになる。

4 むすび
以上のとおり、本願発明は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないから、本件出願は拒絶されるべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2017-07-05 
結審通知日 2017-07-11 
審決日 2017-07-24 
出願番号 特願2013-537837(P2013-537837)
審決分類 P 1 8・ 575- Z (A61B)
P 1 8・ 121- Z (A61B)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 中村 一雄森林 宏和吉川 直也  
特許庁審判長 長屋 陽二郎
特許庁審判官 平瀬 知明
五閑 統一郎
発明の名称 充電デバイスを備える手術器具  
代理人 大島 孝文  
代理人 加藤 公延  

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