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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 取り消して特許、登録 G21C
審判 査定不服 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 取り消して特許、登録 G21C
管理番号 1335527
審判番号 不服2016-15579  
総通号数 218 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2018-02-23 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2016-10-19 
確定日 2018-01-09 
事件の表示 特願2013-253734「軽水型炉(LWR)の重大事故封じ込め用の放射性捕獲システムおよびその方法」拒絶査定不服審判事件〔平成26年 6月26日出願公開、特開2014-115289、請求項の数(37)〕について、次のとおり審決する。 
結論 原査定を取り消す。 本願の発明は、特許すべきものとする。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、平成25年(2013年)12月9日(パリ条約による優先権主張 2012年12月11日 米国)を国際出願日とする出願であって、平成27年10月27日付けで拒絶理由が通知され、平成28年1月26日付けで意見書が提出されるとともに手続補正がなされたが、同年6月14日付けで拒絶査定がなされ(以下「原査定」という。)、これに対し、同年10月19日に拒絶査定不服審判請求がなされるとともに、これと同時に手続補正がなされた後、当審において、平成29年8月25日付けで拒絶理由が通知され(以下「当審拒絶理由」という。)、同年11月24日付けで意見書が提出されるとともに手続補正がなされたものである。

第2 本願発明
本願請求項1?37に係る発明(以下、それぞれ「本願発明1」?「本願発明37」という。)は、平成29年11月24日付けの手続補正で補正された特許請求の範囲の請求項1?37に記載された事項により特定される発明であり、本願発明1ないし37は以下のとおりである。
「【請求項1】
地下に位置するとともに、原子炉の1次格納容器構造の近くに位置する媒体領域と、
前記媒体領域内部に配置された媒体であって、前記媒体を通る流体から放射性物質を吸着または吸収するための媒体と、
前記媒体領域の壁に接続され、蛇行性流路を形成するバッフルであって、前記蛇行性流路は、前記蛇行性流路内に配置された前記媒体を有する、バッフルと、
前記媒体領域を前記1次格納容器構造に流体接続する排出配管と、
前記媒体領域の頂部部分に流体結合されたガス出口管であって、地上に延びるガス出口管と、
を備える捕獲システムであって、
前記蛇行性流路内の前記媒体の粒体寸法が、前記流路に沿って漸進的に小さくなる、
捕獲システム。
【請求項2】
前記媒体は、岩、砂、樹脂、シリカ、ビーズ、石および活性化アルミナの内の少なくとも1種を含む、請求項1に記載の捕獲システム。
【請求項3】
前記媒体領域の壁が、天然地質媒体、ゴムライナー、プラスチック、コンクリート、鉄筋強化コンクリート、および鋼の内の少なくとも1種を含む、請求項1または2に記載の捕獲システム。
【請求項4】
前記バッフルが、横方向バッフルおよび縦方向バッフルの内の少なくとも一方を含む、請求項1から3のいずれかに記載の捕獲システム。
【請求項5】
前記縦方向バッフルが、重力方向にほぼ垂直な面に対して勾配が付けられている、請求項4に記載の捕獲システム。
【請求項6】
前記媒体領域の底部表面が、重力方向にほぼ垂直な面に対して勾配が付けられている、請求項1から5のいずれかに記載の捕獲システム。
【請求項7】
前記排出配管内にバルブをさらに備える、請求項1から6のいずれかに記載の捕獲システム。
【請求項8】
前記媒体領域の底部分に流体結合された液体出口管であって、前記媒体領域の下方を延びる液体出口管をさらに備える、請求項1から7のいずれかに記載の捕獲システム。
【請求項9】
複数のバッフルが、少なくとも1つの横方向バッフルと、少なくとも1つの縦方向バッフルをと含む、請求項1から8のいずれかに記載の捕獲システム。
【請求項10】
地上に位置し、前記ガス出口管の先端部に接続された、ベントシステムをさらに備える、請求項1から9のいずれかに記載の捕獲システム。
【請求項11】
前記ベントシステムが、安全開放バルブ、ラプチャーディスクおよび破裂ディスクの内の少なくとも1種を含む、請求項10に記載の捕獲システム。
【請求項12】
前記ベントシステムが、ベントバルブをさらに含む、請求項11に記載の捕獲システム。
【請求項13】
前記媒体領域内に位置するガススペース領域であって、前記ガス出口管が流体的に接続されている、ガススペース領域をさらに備える、請求項1から12のいずれかに記載の捕獲システム。
【請求項14】
前記媒体領域内にあって、前記排出配管の先端部に接続されている下部排出管と、
前記媒体領域内にあって、前記ガス出口管に接続されている上部ガス出口管であって、前記媒体領域の頂部部分に沿って位置する上部ガス出口管と、
前記媒体領域によって画定された流路であって、前記下部排出管と前記上部ガス出口管の間に位置し、前記下部排出管と前記上部ガス出口管の間で放射性物質を移送するように構成された流路と、
をさらに備える、請求項1から13のいずれかに記載の捕獲システム。
【請求項15】
前記放射性物質が、ガス、液体および粒子材料の内の少なくとも1種を含む、請求項14に記載の捕獲システム。
【請求項16】
前記媒体の粒体寸法が、前記下部排出管から前記上部ガス出口管への前記流路に沿って減少する、請求項14または15に記載の捕獲システム。
【請求項17】
前記上部ガス出口管の下部表面と、前記下部排出管の下部表面および上部表面とに画定された穴をさらに備え、
前記上部ガス出口管は、前記媒体領域の前記頂部部分に沿って水平に延びており、
前記下部排出管は、前記媒体領域の底部分に沿って水平に延びている、
請求項14から16のいずれかに記載の捕獲システム。
【請求項18】
前記バッフルがバッフルセルを画定する捕獲システムであって、前記媒体領域の下部高さに位置するバッフルセルの底部表面に沿った排液接続部をさらに備える、請求項1から17のいずれかに記載の捕獲システム。
【請求項19】
前記媒体領域の下方に位置し、前記液体出口管に流体結合されている勾配付き排液路と、
前記勾配付き排液路の下方に位置し、前記勾配付き排液路に流体結合されているドラムと
をさらに備える、請求項8に記載の捕獲システム。
【請求項20】
前記金属タンクのそれぞれの頂部部分の近くに位置する水素再結合器をさらに備える、請求項1から19のいずれかに記載の捕獲システム。
【請求項21】
前記排出配管内にあって、地上に位置する水素緩和装置であって、点火器および受動式自己融解再結合器の内の少なくとも一方を含む、水素緩和装置をさらに備える、請求項1から20のいずれかに記載の捕獲システム。
【請求項22】
地上に位置し、媒体領域の上方に配置された処理システムであって、ポンプ/処理システムである処理システムをさらに備える、請求項1から21のいずれかに記載の捕獲システム。
【請求項23】
前記処理システム内部の処理媒体であって、活性化アルミナとフミン酸塩の内の少なくとも一方を含む処理媒体をさらに備える、請求項22に記載の捕獲システム。
【請求項24】
原子炉の1次格納容器構造の近くの地下に媒体領域を掘削するステップと、
前記媒体領域の壁に、蛇行性流路を形成するバッフルを接続するステップと、
前記媒体領域に、媒体を通る流体から放射性物質を吸着または吸収するための前記媒体を、前記蛇行性流路内の前記媒体の粒体寸法が前記流路に沿って漸進的に小さくなるように充填するステップと、
前記1次格納容器構造を前記媒体領域に流体接続するステップと、
地上に延びているガス出口管を前記媒体領域の頂部部分に接続するステップと、
ベントシステムを前記ガス出口管の先端部に接続するステップと、
前記媒体領域の下方に延びている液体出口管を前記媒体領域の底部分に接続するステップと、
を含む、捕獲システムを製作する方法。
【請求項25】
前記媒体が、岩、砂、樹脂、シリカ、ビーズ、石および活性化アルミナの内の少なくとも1種を含む、請求項24に記載の方法。
【請求項26】
前記媒体領域の壁が、天然地質媒体、ゴムライナー、プラスチック、コンクリート、鉄筋強化コンクリート、および鋼の内の少なくとも1種を含む、請求項24または25に記載の方法。
【請求項27】
前記バッフルが、横方向バッフルおよび縦方向バッフルの少なくとも一方を含む、請求項24から26のいずれかに記載の方法。
【請求項28】
複数のバッフルが、少なくとも1つの横方向バッフルと、少なくとも1つの縦方向バッフルとを含む、請求項24から27のいずれかに記載の方法。
【請求項29】
前記媒体領域内にガススペース領域を設けるステップであって、前記ガス出口管が前記ガススペース領域に流体接続されているステップをさらに含む、請求項28に記載の方法。
【請求項30】
前記媒体領域内に位置している下部排出管を前記液体出口管の先端部に接続するステップと、
前記媒体領域の頂部部分に沿って位置している上部ガス出口管を前記ガス出口管に接続するステップと、
をさらに含む、請求項28または29に記載の方法。
【請求項31】
前記媒体の粒体寸法を変化させるステップであって、前記媒体の粒体寸法が、前記下部排出管と前記上部ガス出口管の間の流路に沿って減少するステップをさらに含む、請求項30に記載の方法。
【請求項32】
前記上部ガス出口管の下部表面と、前記下部排出管の下部表面および上部表面とに穴を設置するステップと、
前記上部ガス出口管を、前記媒体領域の前記頂部部分に沿って水平に延ばすステップと、
前記下部排出管を前記媒体領域の底部分に沿って水平に延ばすステップと、
をさらに含む、請求項30または31に記載の方法。
【請求項33】
前記バッフルがバッフルセルを画定する方法であって
前記媒体領域の下部高さに位置するバッフルセルの底部表面に沿って、排液接続部を設けるステップを
さらに含む、請求項24から32のいずれかに記載の方法。
【請求項34】
前記媒体領域の下方に勾配付き排液路を設けるステップと、
前記勾配付き排液路を前記液体出口管に流体結合するステップと、
前記勾配付き排液路の下方にドラムを設けるステップと、
前記ドラムを前記勾配付き排液路に流体結合するステップと、
をさらに含む、請求項28から32のいずれかに記載の方法。
【請求項35】
前記媒体領域が2つ以上の金属タンクを含む方法であって、
第1のマニホールド管を使用して前記金属タンクの入口接続部を流体接続するステップと、
第2のマニホールド管を使用して前記金属タンクの出口接続部を流体接続するステップと、
をさらに含む、請求項28から32のいずれかに記載の方法。
【請求項36】
前記媒体領域の上方で、かつ地上に処理システムを設けるステップであって、前記処理システムがポンプ/処理システムであるステップと、
前記処理システム内に処理媒体を設置するステップであって、前記処理媒体が活性化アルミナおよびフミン酸塩の少なくとも一方を含むステップと
をさらに含む、請求項24から35のいずれかに記載の方法。
【請求項37】
放射性物質を、前記1次格納容器構造から前記媒体領域まで転送するステップをさらに含む、請求項24から36のいずれかに記載の方法。」

上記のとおり、本願発明24は、本願発明1に対応する方法の発明であり、本願発明1の「捕獲システム」を製作する方法の発明である。また、本願発明2ないし23は、本願発明1を減縮した発明であり、また、本願発明25ないし37は、本願発明24を減縮した発明である。

第3 引用文献、引用発明等
1 引用文献1について
(1)原査定の拒絶の理由に引用された本願の優先日前に公開された引用文献1(特開平1-159016号公報)には、図面とともに次の事項が記載されている(下線は、当審が付した。以下同じ。)。
ア 「本発明は原子炉格納容器からの排気を濾渦し、崩壊熱を除去する装置及びシステムとその使用方法、特に、深刻な事故シーケンスに際して原子炉格納容器から放出されるガス、粒子及びエーロゾルの混合物を濾過、冷却すると共にその崩壊熱を除去することにより後発の格納容器超過圧力破損及これに続く制御不能な核分裂生成物放出を防止する上記装置、システム及び方法に係わる。」(6頁右上欄18行?左下欄5行)

イ 「第3図は本発明の排気濾過/崩壊熱除去システム30を一部断面で略示する立面図である。一部を断面で略示する原子炉を格納するための格納構造32は公知態様のものでよい。排気サブシステム34は格納構造32を貫通する排気管36、直列に接続した2つの圧力作動弁38、40、及び第2弁40を濾過/崩壊熱除去サブシステム50に接続する管42を含む。排気サブシステム34は以上に述べた基本構成要素を支持する(図示しない)支持部材をも含む。典型例では、格納構造32を貫通する排気管36及び弁38、40の内径が8インチであり、弁40の下流における管42の直径はもっと大きく設定するのが好ましい。
弁38、40は常態で閉成状態にあって格納構造32を分離する。この弁は1個だけで充分であるが、ゆとりを持たせて安全性を高めるため2個の弁38、40を採用するのが普通である。それぞれの弁は公知のゲート形弁でよく、常態における閉成位置と解放位置との間で手動操作することを可能にする手動制御手段39、41を含む。
事故シナリオに呼応して、弁38、40は上流圧、即ち、格納構造32からの排気管36と連通する圧力が格納構造32の設計に採用されている圧力設定点に応じた所定値まで増大するのを検出する弁制御装置43により自動的に作動させられる。具体的には、弁制御装置43は専用の圧搾空気供給源44及び圧力センサー46を含む。圧力センサー46は排気管36内の、従って、格納構造32内の圧力を感知し、格納構造32の設計に採用された圧力設定点に達するのを検出すると圧搾空気供給源44を作動させることによって分離弁38、40を開放位置へ駆動し、格納構造32内から気体を排出して排気管36及び管42を通過させ、排気濾過/崩壊熱除去サブシステム50に供給する。センサー46はまた、格納構造32内の圧力が所定レベル、例えば、設定点圧力の約75%以下のレベルまで降下するのに応答して、圧搾空気供給源44の作動を停止させ、これと同時に分離弁38、40が自動的に常閉位置に戻る。
濾過/崩壊熱除去サブシステム50は所定の除染係数(DF)条件及び崩壊熱除去条件に応じて格納構造32から受けた気体及び粒状物質を処理する。後述するような安全温度の水蒸気が専用の煙突51から大気中へ放出される。既に述べたように、適当な段階を踏んでサブシステム50及びこれと連携の煙突51内で水素燃焼が起こる危険を軽減する。専用の煙突51に代わるものとして、原子力発電所と連携する任意適当な煙突を使用してもよく、その場合、専用煙突51を(図示しない)既存の煙突と接続する適当な管で置き換えることになる。
本発明の濾過/崩壊熱除去サブシステム50を第4図の簡略化した縦断面図に詳細に示した。耐震設計も施された公知設計のセメント・タンク52を、その高さの約半分が地下に、即ち、地面56よりも下に位置し、上方に突出する部分が横方向支持手段としての突固め状態の埋戻し57によって囲まれるように構成する。タンク52の垂直側壁54は底壁53と一体的に接合しており、煙突51と接続する頂壁55によって塞いでもよい。タンク52の形状は任意であるが、円筒形とするのが普通であり、特許請求の範囲において、側壁54が連続的な円筒形側壁としても表現されている理由もそこにある。
管42は管継手60に接合され、継手60はダウンフロー管62に接合される。ダウンフロー管62の下端は砂礫などのような多孔材床及びタンク52の低壁53に載置される礫床支持構造68から成る多孔床フィルター64と接続する。フィルター64は多くの場合タンク52の同じ断面形状を有するが、例えば、ほぼ円形の断面形状の、従って、典型的な円筒形のタンク52内に水平断面形状が方形のフィルター64を使用することも可能である。一般的にはフィルター64をタンク52内の中央に配置するが、後述するように、これは必ずしも必須条件ではない。
ガス・ディストリビューター70を支持構造68内に設け、そのほぼ垂直に上向きの面に図面に略示する開口部71を形成する。ガス・ディストリビューター70をダウンフロー管62の下端に接続することにより、管62を通過する排気を受け、これと開口部71から放出し、均等に分配された流れとしてほぼ垂直方向上方へ多孔床フィルター64を通過させ、次いで、垂直方向上方へタンク52内の水90の中を通過させる。第1及び2図に示すPostmaフィルターとは著しく異なり、本発明の多孔床フィルター64は礫床66の高さの数倍の高さにまで達する水90に深く浸漬する。この点に関しては、具体的な設計パラメータを後述する。
本発明の濾過/崩壊熱除去サブシステム50は第4図に示したタンク52の一部と、多孔床フィルター64及び支持構造68の細部をさらに詳細に示す、第4図図示構造の部分拡大図である第5図からさらに明らかになるであろう。第4図に示したヘッドスペース92は部分図である第5図では省略されている。本発明のサブシステム50は順次異なる態様で互いに協働的に作用して従来よりもはるかに高い除去効率を達成すると共に排気から崩壊熱を除去する機能をも果たす2つの段(第5図のステージ(段)1及びステージ(段)2)から成る。詳しくは後述するように、ステージ1はPostmaフィルターの3相濾過作用を行なうと共にステージ2と協働して極めて効率の高いプール型スクラッバーとして作用する。これをさらに具体的に説明すると、多孔床フィルター64は上向きの流れを均等に分配し、これを極めて小さい気泡に分割してステージ2の高効率プール型スクラビング作用を可能にする。
本願発明者が得た予想外の所見として、Postma特許の開示内容とは異なり、本発明の2段サブシステムの流体力学はステージ1の完全に浸漬した多孔床フィルター64の頂部よりも上方の水が極めて高いにも拘らず礫床66に関連するポンピング作用を、従って、ステージ1の有効な作用を維持するように協働的に作用する。この予想外の成果を裏づけるメカニズムには不明の点が残っているが、2段サブシステム50の力学的作用原理を後述する。しかし、重要な要因は2段濾過/崩壊熱除去サブシステム50を利用する本発明の排気濾過/崩壊熱除去システム30が常時待機状態にある完全受動作用システムの必須条件を満たし、仮定の事故条件下で原子炉格納構造から排出されるガスからの所要の除去効率及び崩壊熱吸収を双方共に達成するということである。
第5図に示すように、多孔床フィルター64は孔のない、即ち、中実の垂直側壁80、開口部83を有する下方支持板82及び開口部85を有する頂板84を含み、これらの構造が礫床66を囲み、収容する。支持構造68は下方支持板82の周縁からタンク52の底壁53にまで達し、一連の貫通孔69を有する連続壁から成る。従って、多孔床フィルター64の構造は公知構造と考えることができ、添付図面の第1及び2図に示すPostma米国特許第4,432,777号の、孔のない側壁17及び貫通孔27を有する底板18を含む容器16の構造とほぼ同じでよい。ただし、容器16の導入ダクト23を中心に配置することが設計上の条件でないことが判明し、本発明では、フィルター64からずれた位置にダウンフロー管62を配置し、これを側方からディストリビューター70に接続した。」(12頁左下欄18行?14頁右上欄20行)

ウ 第3図ないし第5図は次のものである。


エ 上記イを踏まえて上記ウの第4図を見ると、煙突51が濾過/崩壊熱除去サブシステム50の頂部部分に流体結合されている点、及び、フィルタ64及び水90はセメント・タンク52内部に配置されている点が見てとれる。

オ 上記アないしエによれば、引用文献1には次の発明(以下「引用発明」という。)が記載されていると認められる。
「排気サブシステム34が原子炉を格納するための格納構造32を貫通する排気管36、直列に接続した2つの圧力作動弁38、40、及び第2弁40を濾過/崩壊熱除去サブシステム50に接続する管42を含み
弁38、40が常態で閉成状態にあって格納構造32を分離し、
弁制御装置43が専用の圧搾空気供給源44及び圧力センサー46を含み、
セメント・タンク52を、その高さの約半分が地下に、位置し、上方に突出する部分が横方向支持手段としての突固め状態の埋戻し57によって囲まれるように構成し、
管42が管継手60に接合され、継手60はダウンフロー管62に接合され、ダウンフロー管62の下端は砂礫などのような多孔材床及びタンク52の低壁53に載置される礫床支持構造68から成る多孔床フィルター64と接続され、
ガス・ディストリビューター70をダウンフロー管62の下端に接続することにより、管62を通過する排気を受け、これと開口部71から放出し、均等に分配された流れとしてほぼ垂直方向上方へ多孔床フィルター64を通過させ、次いで、垂直方向上方へタンク52内の水90の中を通過させ、
多孔床フィルター64が孔のない、中実の垂直側壁80、開口部83を有する下方支持板82及び開口部85を有する頂板84を含み、これらの構造が礫床66を囲み、収容し、支持構造68は下方支持板82の周縁からタンク52の底壁53にまで達し、一連の貫通孔69を有する連続壁から成り、
煙突51が濾過/崩壊熱除去サブシステム50の頂部部分に流体結合され、
フィルタ64及び水90はセメント・タンク52内部に配置されている、
排気濾過/崩壊熱除去システム30。」

(2)原査定の拒絶の理由に引用された本願の優先日前に公開された引用文献2(特開平4-344495号公報)には、図面とともに次の事項が記載されている。
ア 「【0020】本実施例のインパクト型ノズルはこれらの問題点を改善するために考案したものであり、その放射性物質除去原理はノズル出口部放射性物質慣性衝突効果を利用している。即ち、図5において、ノズル小孔36から水34中にジェット状にガスを噴出させ、その噴流29が急減速する際に、ガス中に含まれる粒子状の放射性物質に慣性力が付加される。この慣性力により粒子状の放射性物質は水中へ飛び込み、捕集される。また、ノズル噴流29を下向きにすることにより、ノズル噴流の減速効果が増大し、かつ気液接触時間を増大させることができる。なお、本願発明者等の検討によれば、ノズル小孔36の直径dは小さいほど性能は向上するが、ノズル製作及びノズル目づまりの点から3mm以上が好ましく、30mmを越えるとその除去性能は期待できないことから、30mm以下とすることが好ましい。」

イ 「【0030】本発明の更に他の実施例を図19及び図20により説明する。本実施例は凝縮水捕集装置を採用した実施例である。即ち、ベントライン61の高性能放射性物質除去装置48の上流側には放射性物質を含んだ凝縮水を捕集する凝縮水捕集装置63が設置されている。ここで、除去装置48としては、好ましくは、前述したインパクト型ノズルを用いた湿式洗浄器15が用いられる。凝縮水捕集装置63は、ベントラインに設置された凝縮水受け55と、廃液タンク58と、凝縮水受け55と廃液タンク58とを連絡するドレン配管57及び弁56とからなっており、凝縮水受け55はベントライン61の一部を構成する配管部材53の下部に設けられ、凝縮水受け55の上方には多数の邪魔板53が設置されている。配管部材55aはフランジ55bで主配管52に連結されている。」

ウ 図1、17、19及び20は次のものである。


(3)原査定の拒絶の理由に引用された本願の優先日前に公開された引用文献3(特開平9-61577号公報)には、図面とともに次の事項が記載されている。
ア 「【0023】さらに、前記ベント配管9は隔離弁11、及びベント配管10は隔離弁14の先で、ベント配管15に一括した後に分岐し、一方はバイパス配管16としてバイパス隔離弁17を介して排気筒4に接続され、他方は復水貯蔵容器18に接続している。この復水貯蔵容器18には、前記分岐したベント配管15の先端が、内部の保有水19の中に水没し、開放して設置されている。また、復水貯蔵容器18の上部には、気相部と連通したエア抜き配管20と隔離弁21が接続されていると共に、ハッチ22が設けてあり、底部には復水配管18aが接続されている。
【0024】さらに、前記復水貯蔵容器18の気相部より排気筒4に接続されたベント配管23には、ラプチャーディスク24とバイパス弁25が並列で、これに隔離弁26が直列に介挿されて構成している。なお、上記ベント配管15と排気筒4の間に接続したバイパス配管16は、前記復水貯蔵容器18を迂回させるためのものである。また、復水貯蔵容器18内において、保有水19中に開放して設置するベント配管15の先端位置は、保有水19の水面27よりの深さ28を5m以上に設定する。」

イ 図1は次のものである。


(4)原査定の拒絶の理由に引用された本願の優先日前に公開された引用文献4(特開昭58-184597号公報)には、次の事項が記載されている。
「したがつて、粒度を順次細かくした上記石英斑岩により、多段階の処理システムをも構成することができる。」(1頁右下欄8?10行)

(5)原査定の拒絶の理由に引用された本願の優先日前に公開された引用文献5(特開昭59-112295号公報)には、図面とともに次の事項が記載されている。
ア 「原子炉冷却材喪失事故時は、空気抽出器出口弁8は閉となり、弁3,5が開となる。ブロワ4を駆動することにより、原子炉格納容器内の気体は排ガス処理設備へ導かれる。排ガス処理設備へ導かれた気体は、排ガス予熱器10で約130℃?約150℃まで加熱された後、排ガス再結合器11で酸素・水素は再結合される。排ガス復水器で水蒸気を除去された気体は活性炭吸着塔を経て排気筒より大気に放出される。」(2頁右上欄6?14行)

イ 第1図は次のものである。


(6)原査定の拒絶の理由に引用された本願の優先日前に公開された引用文献6(特開2012-230078号公報)には、図面とともに次の事項が記載されている。
ア 「【0020】
給水系統35は、スクラビング用水の水源49、水源49とスクラビング容器32とを接続する給水管路50、給水管路50に設けた遮断弁51及びポンプ52を有している。水源49としては、海や河川、湖沼、或いは予め建設しておいたプール等を用いることができるが、排水タンク38の使用済みのスクラビング用水を浄化処理する浄化処理設備を設けた場合には、排水タンク38を水源49として用いることも考えられる。ポンプ52は、固定式のものでも良いが、ポンプ車に車載された移動式又は可搬式のものでも良い。また、遮断弁51がポンプ52の下流側に位置している場合を例示しているが、位置関係は逆であっても良い。」

イ 図1は次のものである。


(7)原査定の拒絶の理由に引用された本願の優先日前に公開された引用文献7(特開平5-34495号公報)には、次の事項が記載されている。
「気体捕集フィルタ3には粒径1?2mmの銀アルミナ等のヨウ素吸着剤が充填されており、粒子には直径600Å程度の細孔が空いている。」(2欄21?24行)

(8)原査定の拒絶の理由に引用された本願の優先日前に公開された引用文献8(特開昭53-16191号公報)には、図面とともに次の事項が記載されている。
ア 「格納容器5とコンクリート容器6との間の環状室7には、放出配管75に通じる弁装置74が配置されている。この弁装置74は、事故の際蒸気が格納容器5から流出してコンクリート容器6の耐圧強度を超過するおそれがある場合、コンクリート容器6が破裂しないように作用する。」(6頁右上欄4?9行)

イ 「放出配管75は区域28内における大きな砂利堆積体76に通じている。蒸気はそこから丘陵1の砂利容積部19に分散される。これにより蒸気の濾過および凝縮が行われるので、放射能汚染物が直接大気に到達することはない。その場合互いにほぼ平行に走る2枚の気密性合成樹脂膜77,78によって、放射能がたとえば凝縮液として生ずる水を媒介として自由な地下水に侵入しないようにされている。即ち合成樹脂膜77,78は若干円錐状に配置されることによって排水案内面を形成しており、この排水案内面で前述の水は通常の状態において壁16の内側領域18に導かれる。」(6頁左下欄10行?右下欄2行)

ウ 「粘土層23および破壊保護層25を通って外に通じる配管81はそこから始まっている。この配管81はスピンドル83を介して手動で操作される遮断弁82を有している。配管81の出口は雨水保護体として作用する屋根84で覆われている。この屋根は同時に配管81の機械的保護体となっている。領域29には同様に、その最も高い個所に配置されかつ弁87と屋根88をもつ放出配管86の集合室を形成している砂利堆積体85が設けられている。(第2図)。
個々に設けることもできる放出配管81,86は、粘土層23の破裂を防止するために、事故の際に排除される空気による丘陵1に対する圧力の放出を可能にする。その場合弁82,87はたとえば圧力に応じて制御され、これらの弁82,87は0.5バール以上の過圧および0.2バール以下の負圧で開かれる。」(6頁右下欄13行?7頁左上欄10行)

エ 図1ないし5は次のものである。


第4 対比・判断
1 本願発明1について
(1)対比
本願発明1と引用発明とを対比する。
ア 引用発明における、「原子炉を格納するための格納構造32」は、本願発明1における「原子炉の1次格納容器構造」に相当する。

イ 引用発明における、「セメント・タンク52」は、本願発明1における「媒体領域」に相当する。また、「セメント・タンク52」が「原子炉を格納するための格納構造32」の近くに配置されることは当然であるから、引用発明の「セメント・タンク52」は、本願発明1の「原子炉の1次格納容器構造の近くに位置する媒体領域」に相当する。

ウ 引用発明における、「格納構造32を貫通する排気管36、直列に接続した2つの圧力作動弁38、40、及び第2弁40を濾過/崩壊熱除去サブシステム50に接続する管42を含む」「排気サブシステム34」、は、本願発明1における「前記媒体領域を前記1次格納容器構造に流体接続する」「排出配管」に相当する。

エ 引用発明における、「セメント・タンク52内部に配置されている」「フィルタ64及び水90」であって、「砂礫などのような多孔材床及びタンク52の低壁53に載置される礫床支持構造68から成る多孔床フィルター64」の「礫床66」、及び、「タンク52内の水90」は、本願発明1における「前記媒体領域内部に配置された媒体であって、前記媒体を通る流体から放射性物質を吸着または吸収するための媒体」に相当する。

オ 引用発明における、「濾過/崩壊熱除去サブシステム50の頂部部分に流体結合され」る「煙突51」は、本願発明1における「前記媒体領域の頂部部分に流体結合された」「ガス出口管」に相当する。

カ 引用発明における、「排気濾過/崩壊熱除去システム30」は、本願発明1における「捕獲システム」に相当する。

キ したがって、本願発明1と引用発明との間には、次の一致点、相違点があるといえる。
(ア)(一致点)
「原子炉の1次格納容器構造の近くに位置する媒体領域と、
前記媒体領域内部に配置された媒体であって、前記媒体を通る流体から放射性物質を吸着または吸収するための媒体と、
前記媒体領域を前記1次格納容器構造に流体接続する排出配管と、
前記媒体領域の頂部部分に流体結合されたガス出口管と、
を備える捕獲システム。」

(イ)(相違点)
(相違点1)「捕獲システム」の「流路」が、「前記媒体領域の壁に接続され、蛇行性流路を形成するバッフルであって、前記蛇行性流路は、前記蛇行性流路内に配置された前記媒体を有する、バッフル」を備え、「前記蛇行性流路内の前記媒体の粒体寸法が、前記流路に沿って漸進的に小さくなる」という構成を備えるのに対し、引用発明はそのような構成を備えていない点。

(相違点2)「媒体領域」が、本願発明1は「地下に位置する」ものであって、「ガス出口管」が「地上に延びる」ものであるのに対して引用発明はそのような構成を備えていない点。

(2)相違点についての判断
上記相違点1について検討すると、引用発明は、「前記媒体領域の壁に接続され、蛇行性流路を形成するバッフルであって、前記蛇行性流路は、前記蛇行性流路内に配置された前記媒体を有する、バッフル」を備えるものではなく、さらに、「前記蛇行性流路内の前記媒体の粒体寸法が、前記流路に沿って漸進的に小さくなる」ものではない。
引用文献2には邪魔板を備える点が記載されているが「蛇行性流路を形成する」ためのものではなく、また、引用文献4には粒度を順次細かくする鉱物により放射性物質の捕集を行う点が記載されているが、引用文献2ないし8に記載された事項を踏まえても、これらを組み合わせて、「前記媒体領域の壁に接続され、蛇行性流路を形成するバッフルであって、前記蛇行性流路は、前記蛇行性流路内に配置された前記媒体を有する、バッフル」「を備える捕獲システムであって、前記蛇行性流路内の前記媒体の粒体寸法が、前記流路に沿って漸進的に小さくなる、捕獲システム」となす動機はなく、当該構成を容易に想到し得たことであるとするには無理がある。
そうすると、相違点2を検討するまでもなく、本願発明1は、当業者であっても、引用発明、引用文献2ないし8に記載された技術的事項に基づいて容易に発明できたものとはいえない。

2 本願発明2ないし37について
本願発明2ないし37も、本願発明1の「前記媒体領域の壁に接続され、蛇行性流路を形成するバッフルであって、前記蛇行性流路は、前記蛇行性流路内に配置された前記媒体を有する、バッフル」「を備える捕獲システムであって、前記蛇行性流路内の前記媒体の粒体寸法が、前記流路に沿って漸進的に小さくなる、捕獲システム」と同一、または、対応する構成を備えるから、本願発明1と同じ理由により、当業者であっても、引用発明、引用文献2ないし8に記載された技術的事項に基づいて容易に発明できたものとはいえない。

第5 原査定の概要及び原査定についての判断
原査定は、(平成28年1月26日になされた補正による)請求項1?7、9、25?28、38について上記引用文献1、2及び4に基づいて、同請求項10?17について上記引用文献1?4に基づいて、同請求項22について上記引用文献1?5に基づいて、同請求項23について上記引用文献1?6に基づいて、同請求項24について上記引用文献1?7に基づいて、また、同請求項1?19、25?35について上記引用文献2、4及び8に基づいて、同請求項22について上記引用文献2、4、5及び8に基づいて、同請求項23について上記引用文献2、4?6及び8に基づいて、同請求項24、37、38について上記引用文献2、4?8に基づいて、当業者が容易に発明できたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないというものである。しかしながら、平成29年11月24日になされた手続補正により補正された請求項1ないし37はそれぞれ「前記媒体領域の壁に接続され、蛇行性流路を形成するバッフルであって、前記蛇行性流路は、前記蛇行性流路内に配置された前記媒体を有する、バッフル」「を備える捕獲システムであって、前記蛇行性流路内の前記媒体の粒体寸法が、前記流路に沿って漸進的に小さくなる、捕獲システム」との構成を有するものとなっており、上記のとおり、本願発明1ないし37は、上記引用発明及び上記引用文献2ないし8に記載された技術的事項に基づいて、当業者が容易に発明できたものではない。したがって、原査定を維持することはできない。

第6 当審拒絶理由について
特許法第36条第6項第2号について
当審では、本願請求項1及び25の「流体寸法」との記載が不明確である、本願請求項1及び25の「曲がりくねった流路」との記載が不明確である、本願請求項1の「曲がりくねった流路内に配置された前記媒体を有する前記曲がりくねった流路を形成するバッフル」との記載はの3つの構成要素が1文で記載されているため、文章の修飾関係が不明確である、本願請求項11の「破断ディスク」との記載は不明確である、本願請求項20の「第1のマニホールド配管」及び「第2のマニホールド配管」との記載は対応関係が不明確である、及び、本願請求項3、27の「媒体領域の壁」が、「砂」「を含む」との記載は不明確であるとの拒絶の理由を通知しているが、平成29年11月24日になされた手続補正において、上記「第2」「1」のとおり補正された結果、この拒絶の理由は解消した。

第7 むすび
以上のとおり、本願発明1ないし37は、当業者が引用発明及び引用文献2ないし8に記載された技術的事項に基づいて容易に発明をすることができたものではない。
したがって、原査定の理由によっては、本願を拒絶することはできない。
また、他に本願を拒絶すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり審決する。
 
審決日 2017-12-18 
出願番号 特願2013-253734(P2013-253734)
審決分類 P 1 8・ 121- WY (G21C)
P 1 8・ 537- WY (G21C)
最終処分 成立  
前審関与審査官 長谷川 聡一郎後藤 孝平  
特許庁審判長 森林 克郎
特許庁審判官 松川 直樹
野村 伸雄
発明の名称 軽水型炉(LWR)の重大事故封じ込め用の放射性捕獲システムおよびその方法  
代理人 黒川 俊久  
代理人 田中 拓人  
代理人 荒川 聡志  
代理人 小倉 博  

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