ポートフォリオを新規に作成して保存 |
|
|
既存のポートフォリオに追加保存 |
|
PDFをダウンロード |
審決分類 |
審判 査定不服 特174条1項 取り消して特許、登録 H01M 審判 査定不服 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 取り消して特許、登録 H01M |
---|---|
管理番号 | 1335535 |
審判番号 | 不服2016-18960 |
総通号数 | 218 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許審決公報 |
発行日 | 2018-02-23 |
種別 | 拒絶査定不服の審決 |
審判請求日 | 2016-12-16 |
確定日 | 2018-01-09 |
事件の表示 | 特願2012-256899「非水電解質二次電池用の負極、及び非水電解質二次電池」拒絶査定不服審判事件〔平成26年6月9日出願公開、特開2014-107029、請求項の数(4)〕について、次のとおり審決する。 |
結論 | 原査定を取り消す。 本願の発明は、特許すべきものとする。 |
理由 |
1 手続の経緯 本願は、平成24年11月22日を出願日とする出願であって、平成27年9月3日に拒絶の理由が通知され、これに対して、同年11月5日に意見書が提出されるとともに手続補正がなされ、その後、平成28年3月23日に拒絶の理由(最後)が通知され、これに対して、同年5月26日に意見書が提出されるとともに手続補正がなされたが、同年10月17日に拒絶査定がなされた。 本件は、これを不服として、同年12月16日に請求された拒絶査定不服審判であって、平成29年8月30日に拒絶の理由(以下、「当審拒絶理由」という。)が通知されるとともに審尋がなされ、これに対して、同年11月6日に意見書及び回答書が提出されるとともに手続補正(以下、「本件補正」という。)がなされたものである。 2 原査定の概要 原査定(平成28年10月17日付けの拒絶査定)の概要は、以下のとおりである。 平成28年5月26日付けでした手続補正は、願書に最初に添付された特許請求の範囲の請求項5に係る発明から、「負極活物質はTG-DTA測定を実施したとき、得られるDTA(Differential Thermal Analysis)曲線の微分曲線(DDTA曲線)の620?640℃の範囲のDDTA合算値が5.6?13.2μVであ」る事項を削除して、請求項1に係る発明としたものである。 したがって、平成28年5月26日付けでした手続補正は、願書に最初に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内においてしたものでないから、特許法第17条の2第3項に規定する要件を満たしていない。 3 当審拒絶理由の概要 当審拒絶理由(平成29年8月30日付け)の概要は、以下のとおりである。 請求項1には、DDTA合算値が5.6?13.2μVであることが特定されていないから、請求項1に係る発明は、上記課題を解決するための手段が反映されていないため、発明の詳細な説明に記載された範囲を超えて特許を請求するものである。 したがって、請求項1に係る発明、及び、請求項1と同様に「DDTA合算値」について特定されていない請求項2?4に係る発明は、発明の詳細な説明に記載されたものとはいえない。 よって、本願は、特許請求の範囲の記載が不備のため、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない。 4 本願発明 本願の請求項1?4に係る発明は、本件補正により補正された特許請求の範囲の請求項1?4に記載された事項により特定される、次のとおりのものである。 「【請求項1】 負極活物質に非晶質炭素被膜を有する黒鉛を用いた非水電解質二次電池の負極において、 前記負極活物質はTG-DTA測定を実施したとき、得られるDTA(Differential Thermal Analysis)曲線の微分曲線(DDTA曲線)の620?640℃の範囲のDDTA合算値が5.6?13.2μVであり、 前記負極活物質のタップ密度が0.85?1.17g/cm^(3)であり、 非晶質炭素被膜量は、負極活物質100質量部に対して4.0?8.0質量部であり、 前記負極活物質のKr吸着比表面積が3.43?4.45m^(2)/gであり、 前記黒鉛は天然黒鉛であり、 前記負極活物質を結着するバインダは、ガラス転移点が-40?-10℃のスチレンブタジエンゴムを含有する、 非水電解質二次電池の負極。 【請求項2】 前記タップ密度が0.89?1.01g/cm^(3)である、請求項1に記載の非水電解質二次電池の負極。 【請求項3】 正極と、請求項1又は2に記載の負極と、非水電解質とを備える非水電解質二次電池。 【請求項4】 リチウムイオン二次電池である請求項3に記載の非水電解質二次電池。」 5 当審の判断 (1)当審拒絶理由について 本願発明の解決しようとする課題は、「非水電解質二次電池の反応抵抗を低減し、容量維持率の向上を図ることで、高出力で、耐久性のある非水電解質二次電池用の負極を提供すること」(【0006】)であると認める。 一方、本願明細書【0052】?【0099】に記載された実施例において、【0076】の【表2】には、DDTA合算値と-30℃反応抵抗との関係が示されており、DDTA合算値が5.6?13.2μVのときに-30℃反応抵抗が450?459mΩと良好な結果が示されており、それ以外のDDTA合算値の時には、-30℃反応抵抗が483?500mΩと高くなっている。 そうすると、上記課題のうち、「非水電解質二次電池の反応抵抗を低減」することで、「高出力」な「非水電解質二次電池用の負極を提供する」ためには、DDTA合算値が5.6?13.2μVであることを特定することが必要であるといえる。 そうしたところ、本件補正により、請求項1に係る発明(以下、「本願発明1」という。)に、「負極活物質はTG-DTA測定を実施したとき、得られるDTA(Differential Thermal Analysis)曲線の微分曲線(DDTA曲線)の620?640℃の範囲のDDTA合算値が5.6?13.2μVであ」るという発明特定事項が含まれることとなった。 また、本願明細書の実施例における、【0082】の【表4】には、DDTA合算値が8.7μVであって非黒鉛炭素被膜の被覆量(コート量)が4?7.5%のときに、容量維持率は「目視できるLi析出がない」「98%」(【0080】)以上で良好な結果が示されているが、【0090】の【表6】には、負極活物質のタップ密度が0.85?1.17g/cm^(3)の範囲となる場合においては、非黒鉛炭素被膜の被覆量(コート量)が4?8%のときに、容量維持率は「目視できるLi析出がない」「98%」(【0080】)以上で良好な結果が示されており、【0094】?【0096】の【表7】?【表9】には、負極活物質のタップ密度が0.85?1.17g/cm^(3)の範囲であって、負極活物質のKr吸着比面積が3.43?4.45m^(2)/gの範囲となる場合においては、非黒鉛炭素被膜の被覆量(コート量)が4?8%のときに、容量維持率は「目視できるLi析出がない」「98%」(【0080】)以上で良好な結果が示されている。 さらに、【0086】の【表5】には、DDTA合算値が8.7μVであってSBRのガラス転移点が-10℃?-40℃のときに、容量維持率は「目視できるLi析出がない」「98%」(【0080】)以上となっており、良好な結果が示されているのに対し、DDTA合算値が4.4μV及び15.6μVの時には、容量維持率が98%未満となっており、良好な結果が得られていない。 そうすると、これらの結果から、DDTA合算値、SBRのガラス転移点、非黒鉛炭素被膜の被覆量(コート量)、負極活物質のタップ密度、及び、負極活物質のKr吸着比面積の数値によって、容量維持率が変化することが明らかであるから、上記課題のうち、「非水電解質二次電池の」「容量維持率の向上を図ることで、」「耐久性のある非水電解質二次電池用の負極を提供する」という課題を解決するためには、上記数値の特定が必要であるといえる。 そして、本願発明1には、「負極活物質を結着するバインダは、ガラス転移点が-40?-10℃のスチレンブタジエンゴムを含有する」という発明特定事項、「非晶質炭素被膜量は、負極活物質100質量部に対して4.0?8.0質量部であ」るという発明特定事項、「負極活物質のタップ密度が0.85?1.17g/cm^(3)であ」るという発明特定事項、及び、「負極活物質のKr吸着比表面積が3.43?4.45m^(2)/gであ」るという発明特定事項が含まれているし、本件補正により、「負極活物質はTG-DTA測定を実施したとき、得られるDTA(Differential Thermal Analysis)曲線の微分曲線(DDTA曲線)の620?640℃の範囲のDDTA合算値が5.6?13.2μVであ」るという発明特定事項が含まれることとなった。 したがって、請求項1に係る発明は、上記課題を解決するための手段が反映されており、発明の詳細な説明に記載された範囲のものといえる。 よって、請求項1に係る発明及びその引用請求項である請求項2?4に係る発明は、発明の詳細な説明に記載されたものといえるから、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たすものである。 (2)原査定について 原査定では、平成28年5月26日付けでした手続補正は、願書に最初に添付された特許請求の範囲の請求項5に係る発明から、「負極活物質はTG-DTA測定を実施したとき、得られるDTA(Differential Thermal Analysis)曲線の微分曲線(DDTA曲線)の620?640℃の範囲のDDTA合算値が5.6?13.2μVであ」る事項を削除して、補正後の請求項1とする補正であるから、新規事項を追加する補正であるとしている。 しかしながら、平成28年5月26日付けでした手続補正自体は、補正後の請求項1に、当該発明特定事項が含まれていなくても、願書に最初に添付された明細書等に記載された事項との関係において、新たな技術的事項を導入するものであるとまではいえないから、平成28年5月26日付けでした手続補正は、新規事項を追加する補正であるとはいえない。 また、仮に、平成28年5月26日付けでした手続補正が新規事項を追加する補正であったとしても、本件補正により、請求項1に、「負極活物質はTG-DTA測定を実施したとき、得られるDTA(Differential Thermal Analysis)曲線の微分曲線(DDTA曲線)の620?640℃の範囲のDDTA合算値が5.6?13.2μVであ」るという本願の課題を解決する手段を表す発明特定事項が含まれることとなったから、原査定の新規事項を追加する補正であるとの拒絶の理由は解消された。 したがって、平成28年5月26日付けでした手続補正は、願書に最初に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載された事項の範囲内においてしたものでないから、特許法第17条の2第3項に規定する要件を満たすものでないとの原査定の理由を維持することはできない。 6 むすび 以上のとおり、原査定及び当審拒絶理由によって、本願を拒絶することはできない。 他に本願を拒絶すべき理由を発見しない。 よって、結論のとおり審決する。 |
審決日 | 2017-12-18 |
出願番号 | 特願2012-256899(P2012-256899) |
審決分類 |
P
1
8・
55-
WY
(H01M)
P 1 8・ 537- WY (H01M) |
最終処分 | 成立 |
前審関与審査官 | 瀧 恭子 |
特許庁審判長 |
池渕 立 |
特許庁審判官 |
宮本 純 土屋 知久 |
発明の名称 | 非水電解質二次電池用の負極、及び非水電解質二次電池 |
代理人 | 家入 健 |