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審決分類 審判 査定不服 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 取り消して特許、登録 B01J
審判 査定不服 2項進歩性 取り消して特許、登録 B01J
審判 査定不服 特36条4項詳細な説明の記載不備 取り消して特許、登録 B01J
管理番号 1335543
審判番号 不服2015-16985  
総通号数 218 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2018-02-23 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2015-09-15 
確定日 2017-12-25 
事件の表示 特願2011-525947「活性炭成型体およびそれを用いた浄水器」拒絶査定不服審判事件〔平成23年 2月10日国際公開、WO2011/016548、請求項の数(9)〕について、次のとおり審決する。 
結論 原査定を取り消す。 本願の発明は、特許すべきものとする。 
理由 第1.手続の経緯

本願は、平成22年8月6日(優先権主張 平成21年8月6日 日本国)を国際出願日とする出願であって、原審にて、平成27年2月17日付けの拒絶理由が通知され、同年4月21日付けの手続補正がされたが、同年5月18日付けで拒絶査定がされ、これを不服として同年9月15日に本件審判が請求され、当審にて、平成29年1月5日及び同年6月28日付けの拒絶理由を通知したところ、同年8月29日付けの手続補正がされたものである。なお、原審にて3回、当審にて3回の刊行物等提出がなされている。

第2.本願発明の認定

本願の請求項1?9に係る発明は、平成29年8月29日付けの手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項1?9に記載された次の事項により特定されるとおりものと認められる。

【請求項1】
中心粒子径が80μm?120μmであり、粒径分布における標準偏差σgが1.6?1.9であり、そして該粒径分布における標準偏差σpが、0.33?0.5である粉末状活性炭(a)および繊維状バインダー(b)を含む混合物を成型してなる活性炭成型体であって、
該標準偏差σgが、該粉末状活性炭の体積平均粒径分布の大きい粒子から積分体積を求める場合の体積基準の積算分率における15.87%径の値をD_(15.87)、および該粉末状活性炭の体積平均粒径分布の大きい粒子から積分体積を求める場合の体積基準の積算分率における50%径の値をD_(50)とする場合に、D_(15.87)/D_(50)で示され、そして
該標準偏差σpが、該粉末状活性炭の体積平均粒径分布の大きい粒子から積分体積を求める場合の体積基準の積算分率における84.13%径の値をD_(84.13)、および該粉末状活性炭の体積平均粒径分布の大きい粒子から積分体積を求める場合の体積基準の積算分率における50%径の値をD_(50)とする場合に、D_(84.13)/D_(50)で示される、活性炭成型体。
【請求項2】
前記混合物が、非晶質チタノシリケート系無機化合物またはアルミノシリケート系無機化合物(c)を、さらに含む、請求項1に記載の活性炭成型体。
【請求項3】
前記粉末状活性炭(a)のベンゼン吸着量が、20?60質量%である、請求項1または2に記載の活性炭成型体。
【請求項4】
前記混合物が、前記粉末状活性炭(a)100質量部に対して、前記繊維状バインダー(b)を3?8質量部の割合で含む、請求項1から3のいずれかの項に記載の活性炭成型体。
【請求項5】
前記粉末状活性炭(a)が、ヤシ殻活性炭粉末またはフェノール樹脂系活性炭粉末である、請求項1から4のいずれかの項に記載の活性炭成型体。
【請求項6】
前記活性炭成型体に含まれる活性炭の全てが、前記粉末状活性炭(a)である、請求項1から5のいずれかの項に記載の活性炭成型体。
【請求項7】
請求項1から6のいずれかの項に記載の活性炭成型体からなる浄水フィルター。
【請求項8】
請求項1から6のいずれかの項に記載の活性炭成型体または請求項7に記載の浄水フィルターを、ハウジングに充填してなるカートリッジ。
【請求項9】
請求項8に記載のカートリッジを装填してなる浄水器。

第3.原査定及び当審の拒絶理由

原査定の拒絶理由1,2及び当審の拒絶理由3,4の概要は、次のとおりである。

1.請求項1?9に係る発明は,下記引用文献1?9に記載の発明に基いて,当業者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
2.発明の詳細な説明に,所定の標準偏差σg,σpを満たすために,活性炭の粒径分布をどのように調整すればよいか,その具体的手段について記載されていないから特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない。よって、請求項1?9に係る発明は、発明の詳細な説明に記載された発明でないから特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない。
3.特許第5513701号公報の比較例6,7の記載によれば、本願明細書記載の実施例1が、所望の濁り除去性能を有すると認められないから、発明の詳細な説明の記載が、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない。よって、請求項1?9に係る発明は、その課題を解決できる発明といえず、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない。
4.請求項1に記載されたD_(50),σg,σpの数値範囲が、いずれも下限値にある場合、当該活性炭成型体は本願明細書記載の比較例4より濁りろ過能力が劣るものと解されるから、請求項1に係る発明は、その課題を解決できる発明といえず、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない。

なお、請求項10に対する拒絶理由は、補正により対象となる請求項が存在しないものとなっている。

引用文献一覧
1.特開2003-010614号公報
2.登録実用新案第3042850号公報
3.特開2005-199219号公報
4.特開2003-144821号公報
5.特開2000-263040号公報
6.特開平06-312133号公報
7.Kuraray Chemical Co., LTD,Kuraray Carbon Product Selection
Recommendation,2009年 8月 1日,
<URL:http://web.archive.org/web/20090801071442/http://www.kuraraychemical.com/Products/Products.htm>
8.Kuraray Chemical Co., LTD,Powdered Carbon specially Suited for
Carbon Block Production: PGW & PGWH,2009年 8月 3日,
<URL:http://web.archive.org/web/20090803002851/http://www.kuraraychemical.com/Products/PGW/PGW.htm>
9.国際公開第2007/109774号

第4.拒絶理由1(進歩性要件違反)について

1.引用発明の認定

引用文献1の【請求項1】には、
「活性炭及び活性炭素繊維の一方又は両方からなる活性炭成分にバインダーを混合した混合材料から成形された浄水器フィルターであって、・・・」、
【請求項4】には、
「フィブリル化した繊維を少なくとも含むバインダーを、活性炭成分100重量部に対して3?20重量部用い、前記フィブリル化した繊維の絡み合いにより形状保持されていることを特徴とする請求項1から3のいずれか1項に記載された浄水器フィルター」、
【0012】には、
「・・・活性炭としては、・・・公知の粉状あるいは粒状のものが適宜使用される。本発明では、特に3?100μmの粉状あるいは粒状のものが好適である。・・・」ことがそれぞれ記載されている。
してみると、同文献には、粉状あるいは粒状の活性炭を用いた浄水器フィルター用の成形体として、次の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されていると認められる。

「3?100μmの粉状あるいは粒状の活性炭からなる活性炭成分にフィブリル化した繊維を少なくとも含むバインダーを混合して形状保持した成形体。」

2.発明の対比

請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)と引用発明とを対比すると、本願発明のうち、
「粉末状活性炭(a)および繊維状バインダー(b)を含む混合物を成型してなる活性炭成型体。」の点は、引用発明と一致し、次の点で両者は相違する。

相違点:本願発明の粉末状活性炭が、「中心粒子径が80μm?120μmであり、粒径分布における標準偏差σgが1.6?1.9であり、そして該粒径分布における標準偏差σpが、0.33?0.5であって、
該標準偏差σgが、該粉末状活性炭の体積平均粒径分布の大きい粒子から積分体積を求める場合の体積基準の積算分率における15.87%径の値をD_(15.87)、および該粉末状活性炭の体積平均粒径分布の大きい粒子から積分体積を求める場合の体積基準の積算分率における50%径の値をD_(50)とする場合に、D_(15.87)/D_(50)で示され、そして
該標準偏差σpが、該粉末状活性炭の体積平均粒径分布の大きい粒子から積分体積を求める場合の体積基準の積算分率における84.13%径の値をD_(84.13)、および該粉末状活性炭の体積平均粒径分布の大きい粒子から積分体積を求める場合の体積基準の積算分率における50%径の値をD_(50)とする場合に、D_(84.13)/D_(50)で示される」ものであるのに対し、引用発明の粉状あるいは粒状の活性炭の大きさは、「3?100μm」である点。

3.相違点の判断

本願発明で特定する活性炭の粒径分布について、引用文献1?7,9には記載も示唆もない。一方、引用文献8には、ヤシ殻活性炭「PGW-100MD」のD50が、80?115μmであることが記載されている。
そこで検討するに、引用文献8には、D50が16?17μmである「PGW-20MP」から、D50が50?100μmである「PGW-50MD」まで、D50が3?100μmの範囲内にある4種のPGW製品も記載されており、引用発明の活性炭として「PGW-100MD」を用いることが、当業者にとって容易になし得たこととはいえない。さらに、本願明細書には、「PGW-100MD」を用いた本願発明の実施例が、「PGW-50MD」を用いた比較例に対し、優れた濁りろ過能力を示すことが記載されており、このような作用効果について引用文献8には記載も示唆もない。

4.まとめ

してみると、本願発明が、引用文献1?9に記載の発明に基いて,当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。請求項1を引用し、本願発明に従属する請求項2?9に係る発明についても同様である。
したがって、拒絶理由1には理由がない。

第5.拒絶理由2?4(記載要件違反)について

1.拒絶理由2

本願明細書の【表1】には、市販の活性炭「PGW-100MD」「PGW-120MP」等を用いることにより、請求項1に記載の標準偏差σg,σpを満たす活性炭が得られることが記載されている。
したがって、拒絶理由2には理由がない。

2.拒絶理由3

本願明細書には、「実施例1」として、ヤシ殻活性炭「PGW-100MD」にチタノシリケート系鉛除去剤「ATS」を添加し繊維状バインダーを混合し成型した活性炭成型体を用いた浄水器において、「JIS S3201」により測定される濁り除去率破過点が30L以上であることが記載されているの対し、上記特許公報には、同様に製造された「比較例6,7」において、「JIS S3201」により測定される濁り除去性能が0Lであったことが記載されている。
これについて、請求人は平成29年8月29日付けの手続補正と共に、下記甲号証を提出して意見書にて、「JIS S3201」で用いるカオリンの濁度標準液は、産地によりカオリンの粒度分布が異なり、ロット間のバラツキがあって、濁度試験の再現性に問題あったことを明らかにし、上記試験結果の相異についてカオリンの粒度分布が異なるためであると釈明した。
してみると、本願明細書記載の実施例及び比較例の試験結果により、少なくとも同1条件、すなわちカオリンの粒度分布が同じ濁度標準液を用いた場合において、本願発明の濁り除去性能が相対的に優れていることは確認でき、これを濁度標準液のカオリンの粒度分布が同じとはいえない上記特許公報記載の試験結果によって否定することはできない。
したがって、拒絶理由3には理由がない。

甲第1号証:「JIS S3201:2010家庭用浄水器試験方法」
http://kikakurui.com/s/S3201-2010-01.html
甲第2号証:「Q&A:よくある質問-濁度計全般-横河電機」
https://www.yokogawa.co.jp/an/faq/tb_cz/tb_general.htm
甲第3号証:パンフレット「濁度試験用試薬」、関東化学株式会社、
2014年4月改訂
甲第4号証;「濁度の標準がカオリンからポリスチレン系粒子に」
理工化学研究所 http://www.rikohkagaku.co.jp/research004.html

3.拒絶理由4

本願明細書の【0023】?【0026】には、D_(50),σg,σpが下限値未満となると、いずれも空隙が少なくなり目詰まりしやすくなることが記載され、【表1】には、σg=1.2,σp=0.28の比較例4では、濁りろ過能力が10Lにとどまることが記載されている。
ここで、この比較例4の活性炭の粒径分布(μm)は、
D_(15.87)=120,D_(50)=100,D_(84.13)=28
であるところ、請求項1に記載されたD_(50),σg,σpの数値範囲が、いずれも下限値にある場合、本願発明の活性炭の粒径分布(μm)は、
D_(15.87)=128,D_(50)=80,D_(84.13)=26.4
となり、中心粒子径及び84.13%粒径が、いずれも比較例4より小さくなる。
しかしながら、【表1】には、実施例3として、σg=1.8,σp=0.33であって、粒径分布(μm)が、
D_(15.87)=144,D_(50)=80,D_(84.13)=26.4
となる活性炭が、濁りろ過能力が15Lあることが記載されている。
してみると、中心粒子径及び84.13%粒径が小さいというだけでは、濁りろ過能力が劣るとはいえない。
したがって、拒絶理由4には理由がない。

第6.むすび

以上のとおり、本願については、原査定及び当審の拒絶の理由を検討しても、その理由によって拒絶すべきものとすることはできない。
また、他に本願を拒絶すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり審決する。
 
審決日 2017-12-04 
出願番号 特願2011-525947(P2011-525947)
審決分類 P 1 8・ 121- WY (B01J)
P 1 8・ 536- WY (B01J)
P 1 8・ 537- WY (B01J)
最終処分 成立  
前審関与審査官 平塚 政宏  
特許庁審判長 新居田 知生
特許庁審判官 瀧口 博史
大橋 賢一
発明の名称 活性炭成型体およびそれを用いた浄水器  
代理人 中道 佳博  
代理人 進藤 卓也  

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