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審決分類 審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 F02D
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 F02D
管理番号 1335577
審判番号 不服2016-17384  
総通号数 218 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2018-02-23 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2016-11-21 
確定日 2017-12-07 
事件の表示 特願2013-108426「船舶の運航方法及び船舶の運航システム」拒絶査定不服審判事件〔平成26年12月 8日出願公開、特開2014-227918〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯

本願は、平成25年5月22日の出願であって、平成28年2月12日付けで拒絶理由が通知され、平成28年4月12日に意見書が提出されるとともに、特許請求の範囲について補正する手続補正書が提出されたが、平成28年8月18日付けで拒絶査定がされ、これに対して平成28年11月21日に拒絶査定不服審判が請求され、その審判の請求と同時に特許請求の範囲について補正する手続補正書が提出されたものである。

第2 平成28年11月21日付けの手続補正についての補正却下の決定

[補正却下の決定の結論]

平成28年11月21日付けの手続補正を却下する。

[理由]

[1]補正の内容

平成28年11月21日付けの手続補正(以下、「本件補正」という。)は、特許請求の範囲に関して、本件補正により補正される前の(すなわち、平成28年4月12日に提出された手続補正書により補正された)下記の(a)に示す請求項1ないし4を下記の(b)に示す請求項1ないし4と補正するものである。

(a)本件補正前の特許請求の範囲の請求項1ないし4

「【請求項1】
主機関の常用出力が最適燃費に設定されると共に前記最適燃費に対応した出力位置でNOx排出量がNOx規制値以下に設定される常用運航モードと、前記常用出力より低い低出力が最適燃費に設定されると共に前記最適燃費に対応した出力位置でNOx排出量が前記NOx規制値以下に設定される低出力運航モードとを設定し、
船舶の運航状況に応じて前記常用運航モードと前記低出力運航モードとを操作員判断により切替えて運航する、
ことを特徴とする船舶の運航方法。
【請求項2】
前記常用運航モードは、前記主機関の常用出力が最大出力の80%?90%の出力領域で最適燃費に設定され、前記低出力運航モードは、前記主機関の常用出力が最大出力の50%?70%の出力領域で最適燃費に設定されることを特徴とする請求項1に記載の船舶の運航方法。
【請求項3】
主機関としてのディーゼルエンジンと、
前記ディーゼルエンジンの常用出力が最適燃費に設定されると共に前記最適燃費に対応した出力位置でNOx排出量がNOx規制値以下に設定される常用運航モードと前記常用出力より低い低出力が最適燃費に設定されると共に前記最適燃費に対応した出力位置でNOx排出量が前記NOx規制値以下に設定される低出力運航モードとの一方に切替えるモード切替部と、
前記モード切替部を操作する操作部と、
を有することを特徴とする船舶の運航システム。
【請求項4】
前記ディーゼルエンジンの燃料噴射タイミングと排気弁開閉タイミングを変更可能な調整機構が設けられ、前記調整機構は、前記常用運航モードと前記低出力運航モードに応じて少なくとも燃料噴射タイミングと排気弁開閉タイミングのいずれか一方を変更することを特徴とする請求項3に記載の船舶の運航システム。」

(b)本件補正後の特許請求の範囲の請求項1ないし4

「【請求項1】
主機関の常用出力が最適燃費に設定されると共に前記最適燃費に対応した出力位置でNOx排出量がNOx規制値以下に設定される常用運航モードと、前記常用出力より低い低出力が最適燃費に設定されると共に前記最適燃費に対応した出力位置でNOx排出量が前記NOx規制値以下に設定される低出力運航モードとを設定し、
船舶の運航状況に応じて前記常用運航モードと前記低出力運航モードとを操作員判断により切替えて運航し、
高速で運航するとき、航行負荷が高いときまたは積載量が多いときには、前記常用運航モードを選択し、低速で運航するとき、航行負荷が低いときまたは積載量が少ないときには、前記低出力運航モードを選択する、
ことを特徴とする船舶の運航方法。
【請求項2】
前記常用運航モードは、前記主機関の常用出力が最大出力の80%?90%の出力領域で最適燃費に設定され、前記低出力運航モードは、前記主機関の常用出力が最大出力の50%?70%の出力領域で最適燃費に設定されることを特徴とする請求項1に記載の船舶の運航方法。
【請求項3】
主機関としてのディーゼルエンジンと、
機関制御室に配置されて前記ディーゼルエンジンの常用出力が最適燃費に設定されると共に前記最適燃費に対応した出力位置でNOx排出量がNOx規制値以下に設定される常用運航モードと前記常用出力より低い低出力が最適燃費に設定されると共に前記最適燃費に対応した出力位置でNOx排出量が前記NOx規制値以下に設定される低出力運航モードとの一方に切替えるモード切替部と、
操舵室に配置されて前記モード切替部を操作する操作部と、
を有し、
前記モード切替部は、高速で運航するとき、航行負荷が高いときまたは積載量が多いときには、前記常用運航モードを選択し、低速で運航するとき、航行負荷が低いときまたは積載量が少ないときには、前記低出力運航モードを選択する、
ことを特徴とする船舶の運航システム。
【請求項4】
前記ディーゼルエンジンの燃料噴射タイミングと排気弁開閉タイミングを変更可能な調整機構が設けられ、前記調整機構は、前記常用運航モードと前記低出力運航モードに応じて少なくとも燃料噴射タイミングと排気弁開閉タイミングのいずれか一方を変更することを特徴とする請求項3に記載の船舶の運航システム。」
(なお、下線は補正箇所を示すために請求人が付したものである。)

[2]本件補正の目的

本件補正は、特許請求の範囲の請求項1に関して、本件補正前の特許請求の範囲の請求項1における発明特定事項である「船舶の運航状況に応じて前記常用運航モードと前記低出力運航モードとを操作員判断により切替えて運航する」ことについて、「高速で運航するとき、航行負荷が高いときまたは積載量が多いときには、前記常用運航モードを選択し、低速で運航するとき、航行負荷が低いときまたは積載量が少ないときには、前記低出力運航モードを選択する」ことを限定するものであり、かつ、本件補正前の請求項1に記載された発明と本件補正後の請求項1に記載される発明の産業上の利用分野及び解決しようとする課題は同一である。
そして、本件補正は、本件補正前の特許請求の範囲の請求項1に係る発明の発明特定事項を限定するものを含んでいるから、本件補正は、特許法第17条の2第5項第2号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。

そこで、本件補正後の請求項1に記載される発明(以下、「本件補正発明」という。)が特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか否かについて、以下に検討する。

[3]独立特許要件の判断

1.刊行物

(1)刊行物1

ア 刊行物1の記載事項

原査定の拒絶の理由に引用された、本願の出願前に頒布された刊行物である特開昭56-2459号公報(以下、「刊行物1」という。)には、図面とともに、次の事項が記載されている。

a)「前記舶用2ストローク型デイーゼル機関の燃料噴射装置では、第1図の燃料弁(d)も第2図の燃料弁(d_(1))?(d_(3))も、100%定格負荷、90%定格負荷、85%定格負荷、或は特定負荷のうち、いづれか1つの機関負荷時に燃料消費率(単位時間当りの燃料消費量/機関の出馬力)(以下燃費という)が最小となるように構成されている。従つて機関負荷に対する燃費特性を示した第3図から明らかなように、機関としては(A)(B)(C)(D)のうち、いづれか1つの燃費特性しか得られない。ところが船舶では、運航状況に応じて運航速度を変える必要があり、機関負荷が屡(当審注:公報では「屡」の異体字、以下同様。)々変る。また船舶新造時の運航計画は、就航後屡々変更されるので、機関負荷はこの点からも変る。そのため機関を燃費の高い所で使用する事態を生じて、運航経費をかさませるという問題があつた。
本発明は前記の問題点に対処するもので、機関のシリンダごとに複数種類の燃料弁を装着し、同各燃料弁と燃料ポンプとの間の燃料噴射管中に同燃料ポンプの燃料噴射圧力に応じて燃料を同各燃料弁に選択的に供給する圧力制御弁を設けたことを特徴とする内燃機関の燃料噴射装置に係り、その目的とする処は、船舶の運航状況が変つても機関の燃費特性を常に低い所に抑えることができて、船舶の運航経費を大巾に節減できる改良された内燃機関の燃料噴射装置を供する点にある。」(第2ページ左上欄第2行ないし右上欄第12行)

b)「次に本発明の内燃機関の燃料噴射装置を第4図に示す一実施例により説明すると、(1)が燃料タンク(図示せず)から延びた燃料供給管、(2)が吸入チエツク弁と機関のクランク軸により駆動されるカム軸と同カム軸により駆動されるプランジヤと吐出チエツク弁と逃し弁とを有して機関の回転速度に相当する圧力の燃料を吐出する燃料ポンプで、第5図に示すように機関の60%定格負荷時には噴射圧力(P_(1))の燃料を吐出するように、また機関の80%定格負荷時には噴射圧力(P_(2))の燃料を、機関の100%定格負荷時には噴射圧力(P_(0))の燃料を、機関の許容限度負荷時には噴射圧力(P_(3))の燃料を、それぞれ吐出するようになつている。また(3a)(3b)(3c)が燃料噴射管、(4a)(4b)(4c)が圧力制御弁で、これらのうち、圧力制御弁(4a)は、機関の負荷が80%定格負荷以上で、燃料ポンプ(2)の噴射圧力が(P_(2))以上のとき開になるように構成されている、また圧力制御弁(4b)は、機関の負荷が80%?60%定格負荷で、燃料ポンプ(2)の噴射圧力が(P_(2))?(P_(1))のとき開になるように、圧力制御弁(4c)は、機関の負荷が60%定格負荷以下で、燃料ポンプ(2)の噴射圧力が(P_(1))以下のときに開になるように、それぞれ構成されている。また(6a)(6b)(6b)(6c)(6c)が機関の各シリンダ(7)にそれぞれ装着した3種類5個の燃料弁で、これらのうち、燃料弁(6a)は、機関の90%定格負荷時に燃費が最小となるように(第6図の(Q_(1))参照)構成されている。また燃料弁(6b)(6b)は、機関の70%定格負荷時に燃費が最小となるように(第6図の(Q_(2))参照)、燃料弁(6c)(6c)は、機関の50%定格負荷時に燃費が最小となるように(第6図の(Q_(3))参照)、それぞれ構成されている。また(5a)が前記圧力制御弁(4a)と前記燃料弁(6a)とを連通した燃料噴射管、(5b)が前記圧力制御弁(4b)と前記燃料弁(6b)(6b)とを連通した燃料噴射管、(5c)が前記圧力制御弁(4c)と前記燃料弁(6c)(6c)とを連通した燃料噴射管である。
次に前記内燃機関の燃料噴射装置の作用を説明する。燃料タンクから燃料供給管(1)を経て燃料ポンプ(2)に吸入された燃料がプランジヤにより昇圧されて、燃料噴射管(3a)(3b)(3c)から圧力制御弁(4a)(4b)(4c)に吐出される。このとき、機関の負荷が80%定格負荷以上で、燃料ポンプ(2)の噴射圧力が(P_(2))以上であれば、圧力制御弁(4a)が開、圧力制御弁(4b)(4c)が閉となり、燃料ポンプ(2)からの燃料が圧力制御弁(4a)→燃料噴射管(5a)→燃料弁(6a)を経てシリンダ(7)内に噴射されて、機関としては第6図の曲線(I)中、実線部分の燃費特性を得られる。また機関の負荷が80%?60%定格負荷で、燃料ポンプ(2)の噴射圧力が(P_(2))?(P_(1))であれば、圧力制御弁(4b)が開、圧力制御弁(4a)(4c)が閉となり、燃料ポンプ(2)からの燃料が圧力制御弁(4b)→燃料噴射管(5b)→燃料弁(6b)(6b)を経てシリンダ(7)内に噴射されて、機関としては第6図の曲線(II)中、実線部分の燃費特性が得られる。また機関の負荷が60%定格負荷以下で、燃料ポンプ(2)の噴射圧力が(P_(1))以下であれば、圧力制御弁(4c)が開、圧力制御弁(4a)(4b)が閉となり、燃料ポンプ(2)からの燃料が圧力制御弁(4c)→燃料噴射管(5c)→燃料弁(6c)(6c)を経てシリンダ(7)内に噴射されて、機関としては第6図の曲線(III)中、実線部分の燃費特性を得られる。」(第2ページ左下欄第7行ないし第3ページ左下欄第10行)

イ 刊行物1に記載された発明

上記アを総合すると、刊行物1には次の発明(以下、「刊行物1に記載された発明」という。)が記載されていると認められる。

<刊行物1に記載された発明>

「内燃機関の90%定格負荷が燃費が最小となるように構成される90%定格負荷制御と、前記90%定格負荷より低い50%定格負荷が燃費が最小になるように構成される50%定格負荷制御とを設定し、
船舶の運航状況に応じて前記90%定格負荷制御と前記50%定格負荷制御とを切替えて運航する、
船舶の運航方法。」

(2)刊行物2の記載事項

ア 原査定の拒絶の理由に引用された、本願の出願前に頒布された刊行物である特開2002-161798号公報(以下、「刊行物2」という。)には、図面とともに、次の事項が記載されている。

a)「【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、内燃機関制御装置に関し、特に内燃機関を最適状態で運転させる技術に関する。
【0002】
【従来の技術】内燃機関の運転においては、あらゆる負荷に対して最も効率のよい状態で運転するのが理想である。また、高効率運転モード、低公害運転モード、協調運転モードといった各種運転モードに応じた運転状態を実現することが理想である。これらに対し、現状は以下の問題がある。
【0003】通常、内燃機関は、運転頻度の最も多い100%負荷を対象として設計されている。従って、75%負荷や50%負荷といった部分負荷での運転効率は、一般的に、100%負荷での運転効率よりも低下する。従って、部分負荷であっても内燃機関を高効率で運転させることのできる内燃機関制御装置が望まれている。
【0004】また、従来の内燃機関では、その運転中に運転モードを変更することは非常に困難である。従って、内燃機関の運転中であっても運転モードを容易に変更できる内燃機関制御装置が望まれている。
【0005】なお、関連する技術として、特開平5-1608号公報に、デイーゼルエンジンの燃料噴射弁に供給される燃料圧力をその運転状況に応じて変化させるデイーゼルエンジンの燃料噴射装置が開示されている。
【0006】
【発明が解決しようとする課題】本発明は、上述した要請に応えるためになされたものであり、その目的は、負荷の軽重に拘わらず高効率で内燃機関を運転させることができ、また、内燃機関の運転中に運転モードを変更できる内燃機関制御装置を提供することにある。」(段落【0001】ないし【0006】)

b)「【0042】(実施の形態3)本発明の実施の形態3に係る内燃機関制御装置は、内燃機関の運転モードをオペレータの希望通りに切り換える機能を備えている。
【0043】図5は、この実施の形態3に係る内燃機関制御装置の構成を示すブロック図である。この内燃機関制御装置は、実施の形態1に係る内燃機関制御装置に、選択装置40が追加されることにより構成されている。
【0044】選択装置40は、高効率運転モード、低公害運転モード及び協調運転モードといった運転モードの中の1つを選択するために使用される。この選択装置40で選択された運転モードを表す運転モード選択信号は、機関性能計算モデル20に送られる。
【0045】機関性能計算モデル20のフェーズ2では、運転モード選択信号に応じて機関運転マップS20を切換えることにより、機関運転の最適化処理が行われる。従って、高効率運転モード、低公害運転モード及び協調運転モードの各々において、内燃機関を最適状態で運転できる。
【0046】この実施の形態3に係る内燃機関制御装置によれば、内燃機関の運転中において希望の運転モードに対する運転状態の連続的な切換が可能になる。」(段落【0042】ないし【0046】)

イ 刊行物2記載技術

上記アの記載によれば、刊行物2には次の技術(以下、「刊行物2記載技術」という。)が記載されていると認められる。

「内燃機関を最適状態で運転させる技術であって、高効率運転モード、低公害運転モード及び協調運転モードの中の1つをオペレータの希望通りに切り換えることができる内燃機関制御技術。」

(3)刊行物3の記載事項

原査定の拒絶の理由に引用された、本願の出願前に頒布された刊行物である特開2013-79581号公報(以下、「刊行物3」という。)には、図面とともに、次の事項が記載されている。

a)「【0004】
ところで、大気汚染物質の放出規制に関する73/78MARPOL条約の1997年議定書(附属書VI)が2005年5月19日に発効されたことに伴い、外航船に搭載される130kWを越えるディーゼルエンジンに対してNOx(窒素酸化物)の放出量が制限されることになった。また我が国の内航船に対しても国内法が改正されたことにより、同様の規制が適用されるようになった。この規制にクリアしたディーゼルエンジンに対しては、NOx規制に適合していることを証明するEIAPP証書(国際大気汚染防止原動機証書)が発給される。上記規制の対象船舶は、原則として、EIAPP証書が発給されたディーゼルエンジンを搭載しなければならないことになっている。」(段落【0004】)

(4)刊行物4の記載事項

原査定の拒絶の理由に引用された、本願の出願前に頒布された刊行物である特開2013-36462号公報(以下、「刊行物4」という。)には、図面とともに、次の事項が記載されている。

a)「【0037】
以下、本発明の実施の形態を、図面に従って説明する。図1は、内燃機関、特に船舶用ディーゼル機関10の概略の断面図である。ディーゼル機関10は多気筒機関であり、図1の紙面を貫く方向に複数の気筒が直列に配置されている。ピストン12は、シリンダライナ14の円筒内周面に沿って摺動しつつ往復運動し、この往復運動が連接棒16を介してクランク軸18の回転運動に変換される。シリンダライナ14はエンジンフレーム20に支持され、シリンダライナ14とエンジンフレーム20の間には、冷却水の流れる水ジャケットが形成される。このエンジンフレーム20の、シリンダライナを囲みこれを支持する部分と、シリンダライナ14とでシリンダが構成される。エンジンフレーム20には、クランク軸18を支持する軸受が設けられているが、図1においては省略されている。」(段落【0037】)

b)「【0066】
一方、ディーゼル機関10の運転条件は、運転操作盤120に入力された条件に基づき定められ、これに基づき前述のエンジン状態推定部110および各センサによる検出値をフィードバックしてシステム制御部114によりディーゼル機関10が制御される。
【0067】
運転操作盤120には、ディーゼル機関10の始動・停止を行う運転スイッチ122、出力レベルを制御するスロットルレバー124が備えられ、また燃料の種類や搭載量、排気ガス等に関する規制値、運転モードを入力する条件設定部126を備える。燃料の種類としては、重油、軽油、廃食油、LCO(分解軽質軽油)、バイオ燃料としての菜種油、パーム油やバイオディーゼル油、又はこれらの混合燃料やGTL(Gas To Liquid)、DME(ジメチルエーテル)等が想定されており、それぞれの代表的な性状が予め記憶されている。また、主燃料と副燃料にそれぞれにどの種類の燃料を使用するか、設定することができる。また、排気ガス規制値(NOx規制、CO規制、スモーク規制、SOx規制、CO_(2)排出量規制)等の設定をすることができる。さらに、環境を重視する設定(環境モード)とするか、燃費を重視する設定(エコモード)とするかの運転モードの選択も行うことができる。
【0068】
操作者によりこれらの操作、入力がなされ、運航条件算出部128にて、これらの条件に適した、運航条件が算出される。具体的には、主燃料及び副燃料の比率、燃料の性状(セタン価、発熱量)、排気温度目標値、効率の目標値、負荷条件等の算出を行う。」(段落【0066】ないし【0068】)

c)「【0104】
ステップS40では、ディーゼル機関10の筒内圧の目標波形が設定される。目標波形は、ディーゼル機関10のクランク角度に対する筒内圧の変化として設定される。本変形例において、目標波形は、ディーゼル機関10の排気ガス中の窒化酸化物(NOx)を基準値以下にしつつ、燃費(燃料の噴射量/エンジンの出力値)を最良とする運転モード(エコモード)に応じて設定されるものとする。目標波形は、ディーゼル機関10が搭載される船舶等の運転状況(船舶の種類、負荷、運転地域等)に応じて予め定められ、運転条件算出部128のメモリ等に登録しておけばよい。システム制御部114は、運転状況に応じた目標波形を読み出して設定する。」(段落【0104】)

d)「【0113】
なお、本実施の形態では、燃費を重視する設定(エコモード)における主燃料及び副燃料の噴射の制御について説明したが、環境を重視する設定(環境モード)においても同様に制御を行うことができる。環境を重視する設定(環境モード)では、燃費を所定値以下になるような条件で、排ガス中の窒素酸化物(NOx)を最小となるように主燃料(又は副燃料の第2の噴射)を制御すればよい。また、環境を重視する設定(環境モード)に適した筒内圧の目標波形を設定し、その目標波形に近づけるように主燃料(又は副燃料の第2の噴射)を制御すればよい。」(段落【0113】)

2.対比・判断

刊行物1に記載された発明における「内燃機関」は、その機能、構成及び技術的意義からみて、本件補正発明における「主機関」に相当し、以下同様に、「90%定格負荷」は「常用出力」に、「燃費が最小となるように構成される」は「最適燃費に設定される」に、「90%定格負荷制御」は「常用運行モード」に、「90%定格負荷より低い50%定格負荷」は「常用出力より低い低出力」に、「50%定格負荷制御」は「低出力運行モード」にそれぞれ相当する。

してみると、本件補正発明と刊行物1に記載された発明とは、
「主機関の常用出力が最適燃費に設定される常用運行モードと、前記常用出力より低い低出力が最適燃費に設定される低出力運行モードとを設定し、
船舶の運航状況に応じて前記常用運行モードと前記低出力運行モードとを切替えて運航する、
船舶の運航方法。」
の点で一致し、次の点で相違する。

<相違点1>

本件補正発明においては、常用運行モード及び低出力運行モードのそれぞれが、「最適燃費に対応した出力位置でNOx排出量がNOx規制値以下に設定される」ものであるのに対し、
刊行物1に記載された発明においては、90%定格負荷制御及び50%定格負荷制御のそれぞれが、最適燃費に設定されるものであるが、最適燃費に対応した出力位置でNOx排出量がNOx規制値以下に設定されるか不明である点(以下、「相違点1」という。)。

<相違点2>

本件補正発明においては、常用運航モードと低出力運航モードとを「操作員判断により切替え」るのに対し、
刊行物1に記載された発明においては、90%定格負荷制御と50%定格負荷制御とを「操作員判断により切替え」るか不明である点(以下、「相違点2」という。)。

<相違点3>

本件補正発明においては、「高速で運航するとき、航行負荷が高いときまたは積載量が多いときには、前記常用運航モードを選択し、低速で運航するとき、航行負荷が低いときまたは積載量が少ないときには、前記低出力運航モードを選択する」のに対し、
刊行物1に記載された発明においては、「高速で運航するとき、航行負荷が高いときまたは積載量が多いときには、90%定格負荷制御を選択し、低速で運航するとき、航行負荷が低いときまたは積載量が少ないときには、50%定格負荷制御を選択する」か不明である点(以下、「相違点3」という。)。

上記各相違点について検討する。

<相違点1>について
船舶のディーゼルエンジンにおいて、NOxの排出量に規制値が設けられていることは、例えば、刊行物3や刊行物4に記載されるように周知であり(以下、「周知技術」という。)、刊行物1に記載された発明においても、NOxの排出量が規制値以下に設定するようにすることは、当業者が当然考慮すべき事項であるところ、特に、刊行物4の段落【0104】には、ディーゼル機関10の排気ガス中の窒化酸化物(NOx)を基準値以下にしつつ、燃費(燃料の噴射量/エンジンの出力値)を最良とする運転モード(エコモード)に応じて設定されることが記載されており、刊行物1に記載された発明において、90%定格負荷制御及び50%定格負荷制御のそれぞれが、最適燃費に対応した出力位置でNOx排出量がNOx規制値以下に設定されるものとすることも、当業者が適宜なし得ることである。

<相違点2>について

刊行物2記載技術は、内燃機関を最適状態で運転させる技術であって、高効率運転モード、低公害運転モード及び協調運転モードの中の1つをオペレータの希望通りに切り換えるものであるものであるから、内燃機関を最適状態で運転させるモードをオペレータが選択可能とするものである。
一方、刊行物1に記載された発明は、船舶の運航状況が変わっても機関の燃費特性を常に低い所に抑えるため(第2ページ右上欄第9ないし12行)、すなわち、内燃機関を最適状態で運転させるために、90%定格負荷制御と50%定格負荷制御とを切替えるものであるといえる。
そうすると、刊行物1に記載された発明と刊行物2記載技術とは、内燃機関を最適状態で運転させるという共通の課題を有しており、刊行物1に記載された発明において、刊行物2記載技術のように、内燃機関を最適状態で運転させるモードを操作員が選択可能とすべく、最適90%定格負荷時と50%定格負荷時を、操作員の判断により切替えるようにすることは、当業者が容易に想到し得ることである。

<相違点3について>

刊行物1に記載された発明において、90%定格負荷時のときの方が、50%定格負荷時のときよりも出力が大きいことは明らかであるから、高速で運航するとき、航行負荷が高いときまたは積載量が多いときには、90%定格負荷を選択し、低速で運航するとき、航行負荷が低いときまたは積載量が少ないときには、50%定格負荷を選択することは、当業者が通常行うことにすぎない。

そして、本件補正発明は、全体としてみても、刊行物1に記載された発明、刊行物2技術及び周知技術から予測される以上の格別な効果を奏するものではない。

したがって、本件補正発明は、刊行物1に記載された発明、刊行物2記載技術及び周知技術に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により、特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。

3.むすび

以上のとおり、本件補正は、特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項の規定に違反するので、同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。

よって、[補正却下の決定の結論]のとおり決定する。

第3 本件発明について

1.本件発明

平成28年11月21日付けの手続補正は上記のとおり却下されたので、本願の特許請求の範囲の請求項1ないし4に係る発明は、平成28年4月12日付け手続補正書により補正された特許請求の範囲並びに出願当初の明細書及び図面の記載からみて、その特許請求の範囲の請求項1ないし4に記載された事項により特定されるとおりのものと認められ、そのうち、請求項1に係る発明(以下、「本件発明」という。)は、上記第2[理由][1](a)に示した請求項1に記載されたとおりのものである。

2.刊行物

原査定の拒絶の理由に引用された、刊行物1ないし4には、上記第2[理由][3]1.のとおりのものが記載されて
いる。

3.対比・判断

本件発明は、上記第2[理由][2]で検討した本件補正発明の発明特定事項のうち、「高速で運航するとき、航行負荷が高いときまたは積載量が多いときには、前記常用運航モードを選択し、低速で運航するとき、航行負荷が低いときまたは積載量が少ないときには、前記低出力運航モードを選択する」という発明特定事項を削除したものに相当する。
そうすると、本件発明の発明特定事項を全て含む本件補正発明が、上記第2[理由][3]に記載したとおり、刊行物1に記載された発明、刊行物2記載技術及び周知技術に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本件発明も、実質的に同様の理由により、刊行物1に記載された発明、刊行物2記載技術及び周知技術に基いて当業者が容易に発明をすることができたものである。

そして、本件発明は、全体としてみても、刊行物1に記載された発明、刊行物2記載技術及び周知技術から予測される以上の格別な効果を奏するものではない。

4.まとめ
以上のとおり、本件発明は、刊行物1に記載された発明、刊行物2記載技術及び周知技術に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

第4 むすび
上記第3のとおり、本件発明は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないので、本願の他の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。

よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2017-10-06 
結審通知日 2017-10-10 
審決日 2017-10-24 
出願番号 特願2013-108426(P2013-108426)
審決分類 P 1 8・ 575- Z (F02D)
P 1 8・ 121- Z (F02D)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 山村 和人  
特許庁審判長 金澤 俊郎
特許庁審判官 冨岡 和人
佐々木 芳枝
発明の名称 船舶の運航方法及び船舶の運航システム  
代理人 特許業務法人酒井国際特許事務所  

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