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審決分類 |
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 G02B 審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 G02B |
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管理番号 | 1335578 |
審判番号 | 不服2016-18343 |
総通号数 | 218 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許審決公報 |
発行日 | 2018-02-23 |
種別 | 拒絶査定不服の審決 |
審判請求日 | 2016-12-06 |
確定日 | 2017-12-07 |
事件の表示 | 特願2013-187612「偏光板、偏光板の製造方法、画像表示装置、画像表示装置の製造方法及び偏光板の光透過率改善方法」拒絶査定不服審判事件〔平成27年 3月23日出願公開、特開2015- 55679〕について、次のとおり審決する。 |
結論 | 本件審判の請求は、成り立たない。 |
理由 |
第1 手続の経緯 本件出願は、平成25年9月10日を出願日とする出願であって、その手続の経緯は、概略以下のとおりである。 平成28年 5月30日付け:拒絶理由通知書 平成28年 8月 5日提出:意見書 平成27年 8月 5日提出:手続補正書 平成28年 8月23日付け:拒絶査定 平成28年12月 6日請求:審判請求書 平成28年12月 6日提出:手続補正書(以下、この手続補正書による補正を「本件補正」という。) 第2 補正の却下の決定 [結論] 本件補正を却下する。 [理由] 1 本件補正の内容 本件補正は、平成28年8月5日提出の手続補正書による補正後(以下、「本件補正前」という。)の特許請求の範囲及び明細書についてするものであって、そのうち特許請求の範囲についての補正は、本件補正前の特許請求の範囲が次の(1)のとおりであったものを、次の(2)のとおりに補正するものであり(下線は、当合議体が付したものであり、本件補正による補正箇所を示す。)、特許請求の範囲及び明細書についての本件補正は次の(3)の補正事項からなる。 (1)本件補正前の特許請求の範囲 「 【請求項1】 少なくとも、面内に複屈折率を有する光透過性基材が偏光子上に設けられた偏光板であって、 前記面内に複屈折率を有する光透過性基材は、屈折率が大きい方向である遅相軸方向の屈折率(nx)と、前記遅相軸方向と直交する方向である進相軸方向の屈折率(ny)との差(nx-ny)が、0.05以上であり、 前記面内に複屈折率を有する光透過性基材と前記偏光子とは、前記面内に複屈折率を有する光透過性基材の屈折率が小さい方向である進相軸と、前記偏光子の透過軸とがなす角度が90°とならないように配置されている ことを特徴とする偏光板。 【請求項2】 光透過性基材の面内における屈折率が大きい方向である遅相軸方向の屈折率をnxとし、前記面内における屈折率が大きい方向である遅相軸方向と直交する方向である進相軸方向の屈折率をnyとし、前記光透過性基材の平均屈折率をNとしたとき、前記光透過性基材は、下記式の関係を満たす請求項1記載の偏光板。 nx>N>ny 【請求項3】 観察者側から、面内に複屈折率を有する光透過性基材、偏光子がこの順に積層された状態で、画像表示装置の表面に配置して用いられる請求項1又は2記載の偏光板。 【請求項4】 観察者側から、偏光子、面内に複屈折率を有する光透過性基材がこの順に積層された状態で、画像表示装置のバックライト光源側に配置して用いられる請求項1又は2記載の偏光板。 【請求項5】 少なくとも、面内に複屈折率を有する光透過性基材が偏光子上に設けられた偏光板の製造方法であって、 前記面内に複屈折率を有する光透過性基材と前記偏光子とを、前記面内に複屈折率を有する光透過性基材の屈折率が小さい方向である進相軸と、前記偏光子の透過軸とがなす角度が90°とならないように配置する工程を有する ことを特徴とする偏光板の製造方法。 【請求項6】 請求項1、2、3又は4記載の偏光板を備えることを特徴とする画像表示装置。 【請求項7】 少なくとも、面内に複屈折率を有する光透過性基材が偏光子上に設けられた偏光板を備えた画像表示装置の製造方法であって、 前記面内に複屈折率を有する光透過性基材と前記偏光子とを、前記面内に複屈折率を有する光透過性基材の屈折率が小さい方向である進相軸と、前記偏光子の透過軸とがなす角度が90°とならないように配置する工程を有する ことを特徴とする画像表示装置の製造方法。 【請求項8】 少なくとも、面内に複屈折率を有する光透過性基材が偏光子上に設けられた偏光板の光透過率改善方法であって、 前記面内に複屈折率を有する光透過性基材と前記偏光子とを、前記面内に複屈折率を有する光透過性基材の屈折率が小さい方向である進相軸と、前記偏光子の透過軸とがなす角度が90°とならないように配置する ことを特徴とする偏光板の光透過率改善方法。」 (2)本件補正後の特許請求の範囲 「 【請求項1】 少なくとも、面内に複屈折率を有する光透過性基材が偏光子上に設けられた偏光板であって、 前記面内に複屈折率を有する光透過性基材は、屈折率が大きい方向である遅相軸方向の屈折率(nx)と、前記遅相軸方向と直交する方向である進相軸方向の屈折率(ny)との差(nx-ny)が、0.05以上であり、 前記面内に複屈折率を有する光透過性基材と前記偏光子とは、前記面内に複屈折率を有する光透過性基材の屈折率が小さい方向である進相軸と、前記偏光子の透過軸とがなす角度が0°±20°の範囲となるように配置されている ことを特徴とする偏光板。 【請求項2】 光透過性基材の面内における屈折率が大きい方向である遅相軸方向の屈折率をnxとし、前記面内における屈折率が大きい方向である遅相軸方向と直交する方向である進相軸方向の屈折率をnyとし、前記光透過性基材の平均屈折率をNとしたとき、前記光透過性基材は、下記式の関係を満たす請求項1記載の偏光板。 nx>N>ny 【請求項3】 観察者側から、面内に複屈折率を有する光透過性基材、偏光子がこの順に積層された状態で、画像表示装置の表面に配置して用いられる請求項1又は2記載の偏光板。 【請求項4】 観察者側から、偏光子、面内に複屈折率を有する光透過性基材がこの順に積層された状態で、画像表示装置のバックライト光源側に配置して用いられる請求項1又は2記載の偏光板。 【請求項5】 少なくとも、面内に複屈折率を有する光透過性基材が偏光子上に設けられた偏光板の製造方法であって、 前記面内に複屈折率を有する光透過性基材と前記偏光子とを、前記面内に複屈折率を有する光透過性基材の屈折率が小さい方向である進相軸と、前記偏光子の透過軸とがなす角度が0°±20°の範囲となるように配置する工程を有する ことを特徴とする偏光板の製造方法。 【請求項6】 請求項1、2、3又は4記載の偏光板を備えることを特徴とする画像表示装置。 【請求項7】 少なくとも、面内に複屈折率を有する光透過性基材が偏光子上に設けられた偏光板を備えた画像表示装置の製造方法であって、 前記面内に複屈折率を有する光透過性基材と前記偏光子とを、前記面内に複屈折率を有する光透過性基材の屈折率が小さい方向である進相軸と、前記偏光子の透過軸とがなす角度が0°±20°の範囲となるように配置する工程を有する ことを特徴とする画像表示装置の製造方法。 【請求項8】 少なくとも、面内に複屈折率を有する光透過性基材が偏光子上に設けられた偏光板の光透過率改善方法であって、 前記面内に複屈折率を有する光透過性基材と前記偏光子とを、前記面内に複屈折率を有する光透過性基材の屈折率が小さい方向である進相軸と、前記偏光子の透過軸とがなす角度が0°±20°の範囲となるように配置する ことを特徴とする偏光板の光透過率改善方法。」 (3) 補正事項 補正事項1: 本件補正前の特許請求の範囲の請求項1に「前記面内に複屈折率を有する光透過性基材と前記偏光子とは、前記面内に複屈折率を有する光透過性基材の屈折率が小さい方向である進相軸と、前記偏光子の透過軸とがなす角度が90°とならないように配置されている」とあるのを、「前記面内に複屈折率を有する光透過性基材と前記偏光子とは、前記面内に複屈折率を有する光透過性基材の屈折率が小さい方向である進相軸と、前記偏光子の透過軸とがなす角度が0°±20°の範囲となるように配置されている」に補正する。 補正事項2 本件補正前の特許請求の範囲の請求項5に「前記面内に複屈折率を有する光透過性基材と前記偏光子とを、前記面内に複屈折率を有する光透過性基材の屈折率が小さい方向である進相軸と、前記偏光子の透過軸とがなす角度が90°とならないように配置する工程を有する」とあるのを、「前記面内に複屈折率を有する光透過性基材と前記偏光子とを、前記面内に複屈折率を有する光透過性基材の屈折率が小さい方向である進相軸と、前記偏光子の透過軸とがなす角度が0°±20°の範囲となるように配置する工程を有する」に補正する。 補正事項3 本件補正前の特許請求の範囲の請求項7に「前記面内に複屈折率を有する光透過性基材と前記偏光子とを、前記面内に複屈折率を有する光透過性基材の屈折率が小さい方向である進相軸と、前記偏光子の透過軸とがなす角度が90°とならないように配置する工程を有する」とあるのを、「前記面内に複屈折率を有する光透過性基材と前記偏光子とを、前記面内に複屈折率を有する光透過性基材の屈折率が小さい方向である進相軸と、前記偏光子の透過軸とがなす角度が0°±20°の範囲となるように配置する工程を有する」に補正する。 補正事項4 本件補正前の特許請求の範囲の請求項8に「前記面内に複屈折率を有する光透過性基材と前記偏光子とを、前記面内に複屈折率を有する光透過性基材の屈折率が小さい方向である進相軸と、前記偏光子の透過軸とがなす角度が90°とならないように配置する」とあるのを、「前記面内に複屈折率を有する光透過性基材と前記偏光子とを、前記面内に複屈折率を有する光透過性基材の屈折率が小さい方向である進相軸と、前記偏光子の透過軸とがなす角度が0°±20°の範囲となるように配置する」に補正する。 補正事項5 本件補正前の明細書の段落【0008】に「本発明は、少なくとも、面内に複屈折率を有する光透過性基材が偏光子上に設けられた偏光板であって、上記面内に複屈折率を有する光透過性基材は、屈折率が大きい方向である遅相軸方向の屈折率(nx)と、上記遅相軸方向と直交する方向である進相軸方向の屈折率(ny)との差(nx-ny)が、0.05以上であり、上記面内に複屈折率を有する光透過性基材と上記偏光子とは、上記面内に複屈折率を有する光透過性基材の屈折率が小さい方向である進相軸と、上記偏光子の透過軸とがなす角度が90°とならないように配置されていることを特徴とする偏光板である。」とあるのを、「本発明は、少なくとも、面内に複屈折率を有する光透過性基材が偏光子上に設けられた偏光板であって、上記面内に複屈折率を有する光透過性基材は、屈折率が大きい方向である遅相軸方向の屈折率(nx)と、上記遅相軸方向と直交する方向である進相軸方向の屈折率(ny)との差(nx-ny)が、0.05以上であり、上記面内に複屈折率を有する光透過性基材と上記偏光子とは、上記面内に複屈折率を有する光透過性基材の屈折率が小さい方向である進相軸と、上記偏光子の透過軸とがなす角度が0°±20°の範囲となるように配置されていることを特徴とする偏光板である。」に補正する。 補正事項6 本件補正前の明細書の段落【0010】に「また、本発明は、少なくとも、面内に複屈折率を有する光透過性基材が偏光子上に設けられた偏光板の製造方法であって、上記面内に複屈折率を有する光透過性基材と上記偏光子とを、上記面内に複屈折率を有する光透過性基材の屈折率が小さい方向である進相軸と、上記偏光子の透過軸とがなす角度が90°とならないように配置する工程を有することを特徴とする偏光板の製造方法でもある。」とあるのを、「また、本発明は、少なくとも、面内に複屈折率を有する光透過性基材が偏光子上に設けられた偏光板の製造方法であって、上記面内に複屈折率を有する光透過性基材と上記偏光子とを、上記面内に複屈折率を有する光透過性基材の屈折率が小さい方向である進相軸と、上記偏光子の透過軸とがなす角度が0°±20°の範囲となるように配置する工程を有することを特徴とする偏光板の製造方法でもある。」に補正する。 補正事項7 本件補正前の明細書の段落【0011】に「また、本発明は、上述した本発明の偏光板を備えることを特徴とする画像表示装置でもある。 また、本発明は、少なくとも、面内に複屈折率を有する光透過性基材が偏光子上に設けられた偏光板を備えた画像表示装置の製造方法であって、上記面内に複屈折率を有する光透過性基材と上記偏光子とを、上記面内に複屈折率を有する光透過性基材の屈折率が小さい方向である進相軸と、上記偏光子の透過軸とがなす角度が90°とならないように配置する工程を有することを特徴とする画像表示装置の製造方法でもある。」とあるのを、「また、本発明は、上述した本発明の偏光板を備えることを特徴とする画像表示装置でもある。 また、本発明は、少なくとも、面内に複屈折率を有する光透過性基材が偏光子上に設けられた偏光板を備えた画像表示装置の製造方法であって、上記面内に複屈折率を有する光透過性基材と上記偏光子とを、上記面内に複屈折率を有する光透過性基材の屈折率が小さい方向である進相軸と、上記偏光子の透過軸とがなす角度が0°±20°の範囲となるように配置する工程を有することを特徴とする画像表示装置の製造方法でもある。」に補正する。 補正事項8 本件補正前の明細書の段落【0012】に「また、本発明は、少なくとも、面内に複屈折率を有する光透過性基材が偏光子上に設けられた偏光板の光透過率改善方法であって、上記面内に複屈折率を有する光透過性基材と上記偏光子とを、上記面内に複屈折率を有する光透過性基材の屈折率が小さい方向である進相軸と、上記偏光子の透過軸とがなす角度が90°とならないように配置することを特徴とする偏光板の光透過率改善方法でもある。 以下に、本発明を詳細に説明する。 なお、本発明では、特別な記載がない限り、モノマー、オリゴマー、プレポリマー等の硬化性樹脂前駆体も“樹脂”と記載する。」とあるのを、「また、本発明は、少なくとも、面内に複屈折率を有する光透過性基材が偏光子上に設けられた偏光板の光透過率改善方法であって、上記面内に複屈折率を有する光透過性基材と上記偏光子とを、上記面内に複屈折率を有する光透過性基材の屈折率が小さい方向である進相軸と、上記偏光子の透過軸とがなす角度が0°±20°の範囲となるように配置することを特徴とする偏光板の光透過率改善方法でもある。 以下に、本発明を詳細に説明する。 なお、本発明では、特別な記載がない限り、モノマー、オリゴマー、プレポリマー等の硬化性樹脂前駆体も“樹脂”と記載する。」に補正する。 補正事項9 本件補正前の明細書の段落【0058】に「(実施例5) 光透過性基材c1の3次元屈折率波長分散を用いて、光透過性基材の進相軸と、偏光子の透過軸とのなす角度が22.5度となるように設置し、偏光板の透過率を計算した。」とあるのを、「(参考例9) 光透過性基材c1の3次元屈折率波長分散を用いて、光透過性基材の進相軸と、偏光子の透過軸とのなす角度が22.5度となるように設置し、偏光板の透過率を計算した。」に補正する。 補正事項10 本件補正前の明細書の段落【0059】に「(実施例6) 光透過性基材c1の3次元屈折率波長分散を用いて、光透過性基材の進相軸と、偏光子の透過軸とのなす角度が45度となるように設置し、偏光板の透過率を計算した。」とあるのを、「(参考例10) 光透過性基材c1の3次元屈折率波長分散を用いて、光透過性基材の進相軸と、偏光子の透過軸とのなす角度が45度となるように設置し、偏光板の透過率を計算した。」に補正する。 補正事項11 本件補正前の明細書の段落【0077】の【表1】を「 」から、 「 」に補正する。 補正事項12 本件補正前の明細書の段落【0078】に「表1に示したように、参考例6と比較例1との比較、参考例7と比較例2との比較、実施例3?6と比較例3との比較、実施例7と比較例4との比較、参考例8と比較例5との比較、実施例9と比較例6との比較、実施例10と比較例7との比較及び、実施例11と比較例8との比較より、光透過性基材の進相軸と偏光子の透過軸とが所定の角度範囲内にある実施例に係る偏光板は、当該角度範囲を外れる比較例に係る偏光板よりも光透過性に優れていた。 また、参考例6と参考例1との比較、参考例7と参考例2との比較、実施例3、7、参考例8と参考例3との比較、実施例10と参考例4との比較、及び、実施例11と参考例5との比較より、面内に複屈折率を有する光透過性基材を用いた実施例に係る偏光板は、面内に複屈折率を有さない光透過性基材を用いた参考例に係る偏光板よりも、光透過性に優れていた。 ここで、実施例3、7、9、参考例8と参考例3との比較より、実施例9は、光透過性基材の遅相軸方向の屈折率(nx)、進相軸方向の屈折率(ny)及び光透過性基材の平均屈折率(N)が下記式を満たすことができず、面内に複屈折を有さない光透過性基材を用いた参考例3に係る偏光板よりも劣っていた。 nx>N>ny」とあるのを、「表1に示したように、参考例6と比較例1との比較、参考例7と比較例2との比較、実施例3?4、参考例9及び10と比較例3との比較、実施例7と比較例4との比較、参考例8と比較例5との比較、実施例9と比較例6との比較、実施例10と比較例7との比較及び、実施例11と比較例8との比較より、光透過性基材の進相軸と偏光子の透過軸とが所定の角度範囲内にある実施例に係る偏光板は、当該角度範囲を外れる比較例に係る偏光板よりも光透過性に優れていた。 また、参考例6と参考例1との比較、参考例7と参考例2との比較、実施例3、7、参考例8と参考例3との比較、実施例10と参考例4との比較、及び、実施例11と参考例5との比較より、面内に複屈折率を有する光透過性基材を用いた実施例に係る偏光板は、面内に複屈折率を有さない光透過性基材を用いた参考例に係る偏光板よりも、光透過性に優れていた。 ここで、実施例3、7、9、参考例8と参考例3との比較より、実施例9は、光透過性基材の遅相軸方向の屈折率(nx)、進相軸方向の屈折率(ny)及び光透過性基材の平均屈折率(N)が下記式を満たすことができず、面内に複屈折を有さない光透過性基材を用いた参考例3に係る偏光板よりも劣っていた。 nx>N>ny」に補正する。 2 補正の目的について 補正事項1は、本件補正前の請求項1に記載した発明特定事項である、「前記面内に複屈折率を有する光透過性基材と前記偏光子」の「前記面内に複屈折率を有する光透過性基材の屈折率が小さい方向である進相軸と、前記偏光子の透過軸とがなす角度」が、「90°とならないように配置されている」という構成を、「0°±20°の範囲となるように配置されている」という構成に限定するものである。 補正事項2ないし4も、補正事項1と同様に、本件補正前の特許請求の範囲の請求項5、7及び8にそれぞれ記載した発明特定事項である「前記面内に複屈折率を有する光透過性基材と前記偏光子」の「前記面内に複屈折率を有する光透過性基材の屈折率が小さい方向である進相軸と、前記偏光子の透過軸とがなす角度」が、「90°とならないように配置する」という構成を、「0°±20°の範囲となるように配置する」という構成に限定するものである。 また、補正事項1ないし4による補正の前後において、請求項1ないし8に係る発明の産業上の利用分野及び解決しようとする課題は同一である。 したがって、補正事項1ないし4は、特許法第17条の2第5項第2号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とする補正に該当する。 補正事項5ないし8は、補正事項1ないし4により請求項1、5、7及び8の記載が補正されたことにともない、対応する明細書の段落【0008】、【0010】、【0011】及び【0012】の記載を整合させるものである。 補正事項9ないし12は、補正事項1ないし4により請求項1、5、7及び8の記載が補正されたことにともない、実施例でないものとなった実施例5及び実施例6を、参考例9及び参考例10とするものである。 したがって、補正事項5ないし12は、特許法第17条の2第5項第4号に掲げる明りょうでない記載の釈明を目的とする補正に該当する。 3 新規事項の追加の有無について 補正事項1ないし8による補正は、本願の願書に最初に添付した明細書(以下、「当初明細書」といい、願書に最初に添付した明細書、特許請求の範囲及び図面を総称して、「当初明細書等」という。)の段落【0027】に記載されているから、補正事項1ないし8は、当初明細書等に記載された事項の範囲内においてするものである。 補正事項9ないし12も、補正事項1ないし4による補正により実施例でないものとなった実施例5及び実施例6を参考例9及び参考例10とするものであるから、当初明細書等に記載された事項の範囲内においてするものである。 したがって、補正事項1ないし8は、特許法第17条の2第3項に規定する要件を満たしている。 4 独立特許要件について 前記2で述べたように、請求項1についての補正は、特許請求の範囲の減縮を目的とするものであるから、本件補正後の請求項1に係る発明(以下、「本件補正後発明1」という。)について、特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項の規定に適合するか(特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるかどうか)について以下に検討する。 (1) 本件補正後発明1 本件補正後発明1は、前記1(2)にて、本件補正後の請求項1として記載したとおりのものである。 (2) 引用例とその記載事項 ア 原査定の拒絶理由において引用文献1として引用された国際公開第2009/013917号(以下、「引用例1」という。)には、以下の記載がある。(下線は、当合議体が付したものである。) (ア) 「技術分野 [0001] 本発明は、液晶表示装置及び偏光板に関する。より詳しくは、パーソナルコンピュータ用のディスプレイ、液晶テレビ等に用いられる広視野角の液晶表示装置に好適な液晶表示装置及び偏光板に関するものである。」 (イ) 「背景技術 [0002] 液晶表示装置は、コンピュータ、テレビジョンをはじめとする様々な情報処理装置における表示装置として広く利用されており、特に近年、液晶テレビ等の分野で需要が急激に増加している。このような液晶表示装置に対しては、市場の拡大に伴い、表示画質のより一層の向上、製造コストの低減等が強く要望されるようになってきている。 ・・・(中略)・・・ [0005] 上述したような液晶表示モードの他に、表示画質の向上に有効な技術として、バックライトシステムに、反射・偏光シート(選択的反射機能付偏光性フィルム)を使用した液晶表示装置が開発されている(例えば、特許文献1参照。)。バックライトシステムは、光源、導光板、光学シート等を有し、液晶セルに対し光を出射することができるシステムであり、液晶セルに隣接して設けられる。反射・偏光シートは、バックライトシステムにおいて、光源から出射される無偏光光のうち、一方の直線偏光成分のみを透過し、他方の直線偏光成分を反射するフィルムである。このような反射・偏光シートを、バックライトシステムを構成する光学シートのうち、液晶表示パネルに最も近接する位置に配置することにより、本来、背面偏光子(液晶表示パネルのバックライト側に配置された偏光子)により吸収されていた直線偏光成分を、バックライトの光源がある方向に返し、再利用することができるため、光源の光量を上げることなく、液晶表示パネルの透過率(白輝度)を向上させることができるという利点がある。そのため現在では、反射・偏光シートは、液晶表示装置の低コスト化に不可欠な部材となっている。 [0006] ところで、液晶表示装置に用いられている偏光子としては、一般的に、一方向に分子配向させたポリビニルアルコール(PVA:Polyvinyl Alcohol)フィルムに、ヨウ素等の二色性物質を吸着配向させたものが挙げられる。しかしながら、このような偏光子は、機械的強度、耐熱性及び耐湿性の点で改善の余地がある。このため、一般的には、図10に示すように、偏光子9の両側に透明な保護フィルム7が接着層8等を介して貼り付けられ、偏光子9の耐久性の確保が図られている。 [0007] 従来、保護フィルムとしては、光学的に透明性が高い、低コストである、偏光子の材料であるPVAとの密着性に優れている等の理由から、トリアセチルセルロース(TAC:Tri Acetyl Cellulose)フィルムが広く用いられてきた。しかしながら、TACフィルムは、厚み方向に位相差(Rth)を持つフィルムであるため、正面方向の表示性能に対しては影響を与えないが、斜め方向の表示性能に対しては、その位相差の影響で表示品位の低下が生じていた。 [0008] これに対し、斜め方向の表示性能を良好にするためには、正面方向のレタデーション(Re)だけでなく、膜厚方向のレタデーション(Rth)を小さくする必要があると記載されている(例えば、特許文献2参照。)。例えば、表示品位の改善のために、偏光フィルムの両面に粘着される保護フィルムのうち液晶セルの面側の保護フィルムとして等方性フィルムを用いた液晶表示装置が開発されている(例えば、特許文献3及び4参照。)。 [0009] その一方、液晶表示装置には低コスト化も要求されている。その対応策として、例えば、偏光板の部材点数の削減及び高耐久性のために、偏光膜の両側に積層された保護フィルムに位相差フィルムとしての機能を兼ねさせた液晶表示装置が開発されている(例えば、特許文献5参照。)。このような液晶表示装置においては、保護フィルムは、面内方向や厚み方向に位相差を持つこととなる。 ・・・(中略)・・・ 発明の開示 発明が解決しようとする課題 [0010] 上述のように、通常、保護フィルムは、液晶セルを挟んで両側(前面側及び背面側)に位置する2つの偏光子に対し、それぞれの両側に貼り付けられるが、2つの偏光子の間に位置しない保護フィルム、すなわちそれぞれの偏光子に対して液晶セル側とは反対の側に位置する2つの保護フィルムは、表示性能に影響を与えないため、特に制限がないと考えられていた。そのため、これら2つの保護フィルムには、光学的に透明性が高いこと、安価であること、及び、PVAとの密着性に優れていることから、TACフィルムが依然として多く用いられていた。しかしながら、例えば、液晶表示パネルの透過率を向上させるべく、バックライトシステムに反射・偏光シートを用いた場合、反射・偏光シートによって得られた直線偏光が、TACフィルムの持つ厚み方向の位相差に起因して偏光変換されるため、反射・偏光シートによって得られる白輝度の向上の効果が充分に得られていないといった点で改善の余地があった。また、偏光板の部材点数の削減等のために、保護フィルムに位相差フィルムとしての機能を兼ねさせたときも、反射・偏光シートによって得られた直線偏光が、保護フィルムの持つ位相差に起因して偏光変換されるため、同様の点で改善の余地があった。 [0011] 本発明は、上記現状に鑑みてなされたものであり、反射・偏光シートを用いる場合において、高輝度の液晶表示装置及び偏光板を提供することを目的とするものである。」 課題を解決するための手段 [0012] ・・・(中略)・・・ [0015] 本発明者らは、斜め方向の白輝度が低下する直接の原因がTACからなる保護フィルム7の持つ厚み方向の位相差(Rth)にあることに着目した。そこで、背面偏光子の背面を保護する保護フィルムとして、厚み方向に位相差を持たない、光学的に等方性を示す光学フィルム(等方性フィルム)を用いることにより、どの方向から見た場合でも、反射・偏光シートの透過軸、及び、背面偏光子の透過軸の両方が保護フィルムの主屈折率の軸と平行となるため、反射・偏光シートにより得られた直線偏光が保護フィルムによって偏光変換されるのを抑制し、背面偏光子による直線偏光成分の吸収を抑制することができ、その結果、斜め方向の白輝度を向上させることができることを見いだした。また、斜め方向で向上した白輝度の一部は、液晶表示パネル内部の構成部材による散乱、並びに、液晶表示パネル表面のアンチグレア(AG)処理の表面凹凸及びその内部の粒子による散乱により、正面方向にも出射するため、正面方向の白輝度も同時に向上させることができることを見いだした。 [0016] また、本発明者らは、背面偏光子の背面を保護する保護フィルムとして、面内方向に位相差を持つ光学フィルムを用いた場合についても検討したところ、保護フィルムが厚み方向に位相差を持たないものであれば、平面視したときに、上記保護フィルムの面内方向の光学軸と背面偏光子の吸収軸とが平行となるように配置することにより、等方性フィルムを用いた場合と同様の作用効果を得ることができることを見いだした。以上により、反射・偏光シートを有するバックライトシステムを用いる液晶表示装置において、背面偏光子の背面を保護する保護フィルムを、厚み方向に位相差を持たないものとし、かつ、平面視したときに、その面内方向の光学軸(2つの法線速度の値が等しくなる方向)が背面偏光子の吸収軸と平行となるように配置することにより、当該保護フィルムが面内方向に位相差を持つ、持たないに関わらず、正面方向及び斜め方向の白輝度を向上させることができることを見いだし、上記課題をみごとに解決することができることに想到し、本発明に到達したものである。 [0016] すなわち、本発明は、反射・偏光シートを有するバックライトシステム、背面偏光子、液晶セル及び前面偏光子がこの順に積層された液晶表示装置であって、上記液晶表示装置は、背面偏光子の背面を保護する保護フィルムを有し、上記保護フィルムは、厚み方向に位相差を持たず、かつ、平面視したときに、その面内方向の光学軸が背面偏光子の吸収軸と平行である液晶表示装置(以下「第一の液晶表示装置」ともいう。)である。 以下に本発明を詳述する。」 (ウ) 「[0018] 本発明の第一の液晶表示装置は、反射・偏光シートを有するバックライトシステム、背面偏光子、液晶セル及び前面偏光子がこの順に積層されたものである。・・・(中略)・・・ [0019] 上記第一の液晶表示装置は、背面偏光子の背面を保護する保護フィルムを有し、上記保護フィルムは、厚み方向に位相差を持たず、かつ、平面視したときに、その面内方向の光学軸が背面偏光子の吸収軸と平行である。本明細書で「光学軸」とは、2つの法線速度の値が等しくなる方向(複屈折の起きない方向)のことである。したがって、背面偏光子の背面を保護する保護フィルムを、厚み方向に位相差を持たないものとし、かつ、平面視したときにその面内方向の光学軸が背面偏光子の吸収軸と平行となるように配置することにより、どの方向から見た場合でも、背面偏光子の透過軸を保護フィルムの主屈折率の軸と平行とすることができる。そのため、反射・偏光シート単独、又は、反射・偏光シートと4分の1波長板との組み合わせ等によって得られた直線偏光は、保護フィルムに対して斜め方向に入射した場合であっても、保護フィルムによって偏光変換されることなく、保護フィルムを通過することができるため、背面偏光子による直線偏光成分の吸収を抑制することができ、その結果、液晶表示装置の斜め方向の白輝度を向上させることができる。また、斜め方向で向上した白輝度の一部は、液晶表示パネル内部の構成部材による散乱、並びに、液晶表示パネル表面のアンチグレア(AG)処理の表面凹凸及びその凹凸内部の粒子による散乱により、正面方向にも出射する。そのため、液晶表示装置の正面方向の白輝度も同時に向上させることができる。 [0020] 本明細書で「厚み方向に位相差を持たない」とは、厳密に厚み方向に位相差を持たない状態だけでなく、実質的に厚み方向に位相差を持たないと同視し得る状態、すなわち表示品位に影響を及ぼさない程度において厚み方向に位相差を持つ状態をも含むものである。具体的には、保護フィルムの波長590nmで測定した厚み方向の位相差Rth[590]が、好ましくは10nm以下であり、より好ましくは8nm以下であり、更に好ましくは5nm以下である。 ・・・(中略)・・・ [0022] 上記保護フィルムの材質としては、背面偏光子の背面を保護する観点から、ポリカーボネート系樹脂、ポリエチレン系樹脂、セルロース系樹脂、ノルボルネン系樹脂、メタクリル系樹脂、スチレン系樹脂、N-フェニル置換マレイミド系樹脂等の単独樹脂、又は、これらの混合樹脂が挙げられる。同様の観点から、保護フィルムの膜厚は、10?100μmであることが好ましい。保護フィルムの吸水率は、10%以下であることが好ましい。保護フィルムは、通常、接着剤又は粘着剤を介して背面偏光子の背面に貼付される。 [0023] 本明細書で「平行」とは、厳密に平行である状態だけでなく、実質的に平行であると同視し得る状態、すなわち表示品位に影響を及ぼさない程度において軸ずれしている状態をも含むものである。具体的には、背面偏光子の吸収軸と、保護フィルムの光学軸とのなす角は、好ましくは1°以下であり、より好ましくは0.3°以下である。これにより、楕円偏光になる割合が減り、白輝度の低下を抑制することができる。 ・・・(中略)・・・ [0025] 本発明の第一の液晶表示装置における好ましい形態について以下に詳しく説明する。 上記保護フィルムは、光学的に等方性を示す光学フィルムすなわち等方性フィルムであることが好ましい。・・・(中略)・・・ [0026] 上記保護フィルムは、面内方向に位相差を持ち、光学的に正の一軸性を示す光学フィルムすなわちポジ型Aプレートであり、平面視したときに、その面内方向の遅相軸が背面偏光子の吸収軸と平行であることが好ましい。ポジ型Aプレートもまた、TACフィルム等と異なり、厚み方向に位相差を持たない。また、ポジ型Aプレートの場合、遅相軸が面内方向の光学軸である。そのため、保護フィルムとしてポジ型Aプレートを、平面視したときにその面内方向の遅相軸が背面偏光子の吸収軸と平行となるように配置することにより、どの方向から見た場合でも、背面偏光子の透過軸と保護フィルムの進相軸とを平行とすることができることから、本発明の作用効果を得ることができる。また、ポジ型Aプレートは、等方性フィルムと異なり、単一の材料で作製することが可能であるため製造が容易であり、低コストで作製することができる。更に、ポジ型Aプレートの材料は、ネガ型Aプレートの材料よりも種類が多く、入手が容易である。なお、本明細書で「光学的に正の一軸性を示す」とは、厳密に光学的に正の一軸性を示す状態だけでなく、実質的に光学的に正の一軸性を示すと同視し得る状態、すなわち表示品位に影響を及ぼさない程度において光学的に正の一軸性を示さない状態をも含むものである。具体的には、波長590nmで測定した位相差Ryz[590]が、好ましくは10nm以下であり、より好ましくは8nm以下であり、更に好ましくは5nm以下である。」 (エ) 「[0034] (実施形態1) 図1は、実施形態1に係る液晶表示装置の構成を示す断面模式図である。 本実施形態に係る液晶表示装置では、図1に示すように、バックライトシステム5と液晶表示パネル15とから構成される。バックライトシステム5は、冷陰極管(光源)1、拡散板(内部の散乱要因により光線を拡散することができる光学部材)2、拡散シート(表面凹凸により光線を拡散することができる光学部材)3及び反射・偏光シート4が背面側から前面側に向かってこの順に積層されたものである。液晶表示パネル15は、液晶セル12の両側に前面偏光板(観察面側偏光板)19及び背面偏光板(バックライト側偏光板)20が、それぞれ粘着剤10を介して貼り合わされている。前面偏光板19は、第四の保護フィルム18、接着剤8、前面偏光子9a、接着剤8及び第三の保護フィルム17が前面側から背面側に向かってこの順に積層されたものである。背面偏光板20は、第二の保護フィルム21、接着剤8、背面偏光子9b、接着剤8及び第一の保護フィルム(保護フィルム、背面偏光子の背面を保護する保護フィルム)16が前面側から背面側に向かってこの順に積層されたものである。 ・・・(中略)・・・ [0039] (第一の保護フィルム) 第一の保護フィルム16には、光学的に等方性を示す等方性フィルム、又は、面内に位相差を持ち光学的に正若しくは負の一軸性を示す光学フィルム(いわゆるAプレート)等を用いることができる。このとき、正のAプレートは、遅相軸が偏光子の吸収軸に対し平行となるように配置され、負のAプレートは、進相軸が偏光子の吸収軸に対して平行となるように配置される。この場合、「平行」とは、厳密に平行である状態だけでなく、実質的に平行であると同視し得る状態、すなわち表示品位に影響を及ぼさない程度において軸ずれしている状態をも含むものである。具体的には、背面偏光子9bの吸収軸と、正又は負のAプレートの光学軸とのなす角は、好ましくは1°以下であり、より好ましくは0.3°以下である。これにより、楕円偏光になる割合が減り、白輝度の低下を抑制することができる。 [0040] (等方性フィルムを用いた場合) ・・・(中略)・・・等方性フィルムの屈折率分布は、厳密には、nx=ny=nzに限定されるものではなく、液晶表示装置の表示特性に実用上悪影響を及ぼさない程度に屈折率差が小さいものであればよい。具体的には、波長590nmで測定した面内の位相差Re[590]、及び、厚み方向の位相差Rth[590]の両方が好ましくは10nm以下であり、より好ましくは8nm以下であり、更に好ましくは5nm以下である。 [0041] 上記Reは、nx、ny及びnzを上記と同様に定義し、フィルムの厚みをdと定義したとき、下記式(1)で表わされる。 Re=(nx-ny)×d (1) [0042] 上記Rthは、nx、ny、nz及びdを上記と同様に定義したとき、下記式(2)で表わされる。 Rth={(nx+ny)/2-nz}×d (2) ・・・(中略)・・・ [0045] (正のAプレートを用いた場合) 図4は、正のAプレートの屈折率分布を示す模式図である。 正のAプレートとは、図4に示すように、屈折率楕円体の3つの主屈折率のうち、面内の2つの主屈折率をnx、nyと規定し、法線方向の1つの主屈折率をnzと規定したとき、屈折率分布がnx>ny=nzの条件を満たすフィルムのことをいう。正のAプレートは、延伸により延伸方向の屈折率が大きくなり位相差の発現する材料(例えば、ポリカーボネート、ポリエチレンナフタレート、ポリエチレンテレフタレート、ノルボルネン系樹脂)を用いて、キャスティング法、溶融押し出し法等で作製することができる。この場合、延伸方向が遅相軸となる。 [0046] 正のAプレートの延伸の方法としては、縦一軸延伸、横一軸延伸等が好ましい。偏光子は一般に、PVAフィルムをヨウ素等の二色性物質を含んだ溶液に浸漬して染色し、ホウ素化合物等を含む溶液に浸漬しながら縦方向に延伸して製造する。偏光子は、延伸方向に対し、PVA分子が整列し、吸収軸となるため、製造ラインの縦方向(製造ラインの流れる方向)が吸収軸の方向となる。背面偏光子の耐久性の観点からは、ロールトゥロールで接着剤を介し、正のAプレートと背面偏光子とを貼り合せることが好ましいため、偏光子の吸収軸と正のAプレートの遅相軸とを平行にすることが可能である縦一軸延伸を用いることが最も好ましい。 [0047] 上記3つの主屈折率のうち、nyとnzとの関係は、厳密にny=nzに限定されるものではなく、液晶表示装置の表示特性に実用上悪影響を及ぼさない程度に屈折率差が小さいものであればよい。具体的には、波長590nmで測定した位相差Ryz[590]が、好ましくは10nm以下であり、より好ましくは8nm以下であり、更に好ましくは5nm以下である。 [0048] 上記Ryzは、ny、nzを上記と同様に定義したとき、下記式(3)で表わされる。 Ryz=(ny-nz)×d (3) [0049] 図5は、遅相軸sを背面偏光子9bの吸収軸aに対して平行に貼り合わせた正のAプレート16bを第一の保護フィルム(背面偏光子の背面を保護する保護フィルム)16に用いた実施形態1に係る構成において、光の伝播方向から見たときの、反射・偏光シート4の透過軸T及び反射軸R、正のAプレート16bの屈折率分布の軸角度、並びに、背面偏光子9bの吸収軸a及び透過軸tの配置関係を示す模式図である。(a)は、正面方向から光が入射した場合(正面視)を示す。(b)は、正面方向から見て背面偏光子9bの吸収軸aと透過軸tとがなす角の1/2の角度方向から光が斜めに入射した場合(斜視)を示す。 [0050] 光源1から反射・偏光シート4に入射した光は、反射・偏光シート4によって直線偏光に変換される。この場合、正のAプレート16bは、斜めから見ると、図5(b)に示すような屈折率分布を持つフィルムとなる。正のAプレート16bの遅相軸sを背面偏光子9bの吸収軸aと平行に配置すると、どの方向から見た場合でも、背面偏光子9bの透過軸tは正のAプレート16bの進相軸fと平行となるため、直線偏光は、偏光状態を変えることなく、そのまま正のAプレート16bを透過する。そのため、その直後の背面偏光子9bを透過する成分が減らない。その結果、斜め方向の透過率は低下せず、斜めの白輝度も低下しない。」 (オ) 「[0059] (実施例1) (等方性フィルムの作製) ・・・(中略)・・・ [0063] 市販の液晶TV(商品名:LC-32AD5、シャープ社製)の偏光板を剥離し、各層を分解し測定した結果、観察面側偏光板は、偏光子の両側の保護フィルムがともにTACフィルムであった。また、バックライト側偏光板は、偏光子の液晶セル側の保護フィルムがノルボルネン系樹脂の位相差フィルムであり、反対側の保護フィルムがTACフィルムであった。ノルボルネン系樹脂の位相差フィルムを自動複屈折計(商品名:KOBRA-21ADH、王子計測機器社製)で測定したところ、位相差は、Re=65nmであり、Rth=220nmであった。 [0063] 液晶表示パネルの表裏両側の偏光板をそれぞれ剥離し、剥離したバックライト側偏光板は、ノルボルネン系樹脂の位相差フィルムを液晶セル側とし、TACフィルムを観察面側として液晶セルの表側(観察面側)に貼り合せた。また、剥離した観察面側偏光板は、偏光子とTACフィルムとの間を刃を入れて分離し、片面のみにTACフィルムを有する偏光板(以下「片TAC偏光板」ともいう。)とした上で、TACフィルム側に粘着層を設け液晶セルの裏側(バックライト側)に貼り合せた。そして、本実施例では、上記で作製した等方性フィルムを第一の保護フィルムとして、背面偏光子の背面に粘着剤を介して貼り合せた。 [0064] (実施例2) (正のAプレートの作製) 非晶性熱可塑性樹脂であるノルボルネン系樹脂(商品名:ゼオノア、日本ゼオン社製)をTダイ付き押出機に供給し、溶融温度230℃、引取速度20m/分で冷却ロール上に溶融押出しを行い、ゼオノアフィルムを作製した。作製したフィルムを、ロール間縦一軸延伸装置を用いて、予熱温度100℃、延伸温度161℃、冷却温度100℃のゾーン構成で一軸延伸し、Aプレートを作製した。得られたフィルムの位相差は、Re=100nmであり、Rth=50nmであった。作製したAプレートを、実施例1と同様に作製した片TAC偏光板(背面偏光子の背面)に、フィルムの遅相軸が背面偏光子の吸収軸に対して平行になるように、第一の保護フィルムとして、粘着剤を介して貼り合せた。」 (カ) 「[0066] (評価結果) 実施例1、2及び比較例1で作製した液晶表示装置の白輝度を、視野角測定装置(商品名:EZContrast160R、ELDIM社製)を用いて測定した。測定方法は、液晶TV(商品名:LC-32AD5、シャープ社製)のバックライトシステムを用い、内蔵されていた反射・偏光シート(商品名:DBEF-D、住友スリーエム社製)を配置した場合と配置していない場合との白輝度の向上率の違いを、拡散シートが1枚の場合と2枚の場合とで比較した。拡散シートは、表面凹凸のレンズ効果で集光しているため、枚数を調整することで、正面方向に出射する光線を増やすことができる。白輝度の向上率は、下記式(3)で表わされる。下記表1に拡散シートが1枚の場合の結果を示し、下記表2に拡散シートが2枚の場合の結果を示す。表中のΘ及びΦはそれぞれ、極角及び方位角を表わす。なお、極角は、観察面と観察方向とのなす角であり、方位角は、液晶表示装置の表示面を正面視したときに、3時の方向を0°、12時の方向を90°、9時の方向を180°、6時の方向を270°として規定された方位である。 (白輝度の向上率)=(「DBEF-D」を配置した時の白輝度)/(「DBEF-D」を配置しなかった時の白輝度) (3) [0067] [表1] [0068] [表2] [0069] 実施例1及び2と比較例1とを比較すると、正面方向及び斜め方向の白輝度の向上率がともに向上していることが見てとれる。これは、「DBEF-D」を配置したバックライトシステムを用いたとき、背面偏光子の背面を保護する保護フィルム、すなわち等方性フィルム、又は、正若しくは負のAプレートを、その光学軸が背面偏光子の吸収軸に対して平行になるように配置したことにより、「DBEF-D」で得られた直線偏光が保護フィルムによって変換されることなく、背面偏光子の透過軸に平行に入射されることを示している。したがって、保護フィルムにTACフィルムを用いた比較例1に比べ、白輝度が向上したことになり、本発明の効果が得られていることになる。」 (キ) 「[0072] [図1] 実施形態1に係る液晶表示装置の構成を示す断面模式図である。 ・・・(中略)・・・ [図4] 正のAプレートの屈折率分布を示す模式図である。 [図5] 遅相軸を背面偏光子の吸収軸に対して平行に貼り合わせた正のAプレートを第一の保護フィルムに用いた実施形態1に係る構成において、光の伝播方向から見たときの、反射・偏光シートの透過軸及び反射軸、正のAプレートの屈折率分布の軸角度、並びに、背面偏光子の吸収軸及び透過軸の配置関係を示す模式図である。(a)は、正面方向から光が入射した場合(正面視)を示す。(b)は、正面方向から見て背面偏光子の吸収軸と透過軸とがなす角の1/2の角度方向から光が斜めに入射した場合(斜視)を示す。 ・・・(中略)・・・ 符号の説明 [0073] 1:冷陰極管(光源) ・・・(中略)・・・ 4、24a、24b:反射・偏光シート 5:バックライトシステム 6、15:液晶表示パネル ・・・(中略)・・・ 8:接着層 9:偏光子 9a:前面偏光子 9b:背面偏光子 10:粘着層 11、20:背面偏光板 12:液晶セル 13:位相差フィルム 14、19:前面偏光板 15:液晶表示パネル 16:第一の保護フィルム(保護フィルム、背面偏光子の背面を保護する保護フィルム) ・・・(中略)・・・ 16b:正のAプレート ・・・(中略)・・・ 21:第二の保護フィルム(背面偏光子の前面を保護する保護フィルム) ・・・(中略)・・・ a:背面偏光子の吸収軸 t:背面偏光子の透過軸 s:保護フィルムの遅相軸 f:保護フィルムの進相軸 p:保護フィルムの主屈折率の軸 T:反射・偏光シートの透過軸 R:反射・偏光シートの反射軸」 (ク) 「請求の範囲 [1] 反射・偏光シートを有するバックライトシステム、背面偏光子、液晶セル及び前面偏光子がこの順に積層された液晶表示装置であって、 該液晶表示装置は、背面偏光子の背面を保護する保護フィルムを有し、 該保護フィルムは、厚み方向に位相差を持たず、かつ、平面視したときに、その面内方向の光学軸が背面偏光子の吸収軸と平行であることを特徴とする液晶表示装置。 [2] 前記保護フィルムは、光学的に等方性を示す光学フィルムであることを特徴とする請求項1記載の液晶表示装置。 [3] 前記保護フィルムは、面内方向に位相差を持ち、光学的に正の一軸性を示す光学フィルムであり、平面視したときに、その面内方向の遅相軸が背面偏光子の吸収軸と平行であることを特徴とする請求項1記載の液晶表示装置。」 (ケ) 「[図1] 」 (コ) 「[図4] 」 (サ) 「[図5] 」 イ 引用例1に記載された発明 上記ア(ア)?(サ)からみて、引用例1には、実施形態1に係る液晶表示装置であって、図5に図示された「遅相軸sを背面偏光子9bの吸収軸aに対して平行に貼り合わせた正のAプレート16bを第一の保護フィルム(背面偏光子の背面を保護する保護フィルム)16に用いた実施形態1に係る構成」における「背面偏光板20」として、以下の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されている。 「第二の保護フィルム21、接着剤8、背面偏光子9b、接着剤8及び第一の保護フィルム(背面偏光子の背面を保護する保護フィルム)16が前面側から背面側に向かってこの順に積層された背面偏光板20であって、 遅相軸sを背面偏光子9bの吸収軸aに対して平行に貼り合わせた正のAプレート16bを第一の保護フィルム(背面偏光子の背面を保護する保護フィルム)16に用い、 正のAプレート16bは、 屈折率楕円体の3つの主屈折率のうち、面内の2つの主屈折率をnx、nyと規定し、法線方向の1つの主屈折率をnzと規定したとき、屈折率分布がnx>ny=nzの条件を満たすフィルムである、 背面偏光板。」 (3) 対比・判断 本件補正後発明1と引用発明とを対比すると、以下のとおりとなる。 ア 引用発明の「第一の保護フィルム(背面偏光子の背面を保護する保護フィルム)16に用い」られた「正のAプレート16b」は、「屈折率楕円体の3つの主屈折率のうち、面内の2つの主屈折率をnx、nyと規定し、法線方向の1つの主屈折率をnzと規定したとき、屈折率分布がnx>ny=nzの条件を満たすフィルムであ」る。 そうすると、「第一の保護フィルム」「16」である「正のAプレート16b」は、フィルム面内に複屈折率を有する。 また、「背面偏光子の背面を保護」し、「背面偏光子9b」と積層される、「第一の保護フィルム」「16」が、光透過性を有する基材であることは技術的に明らかである。 そうすると、引用発明の「第一の保護フィルム」「16」として用いた「正のAプレート16b」は、本件補正後発明1の「面内に複屈折率を有する光透過性基材」に相当する。 イ 引用発明の「背面偏光子9b」は、本件補正後発明1の「偏光子」に相当する。 ウ 引用発明の「正のAプレート16b」は、「遅相軸sを背面偏光子9bの吸収軸aに対して平行に貼り合わせた」ものである。 ここで、正のAプレートにおいて、「nx>ny」の場合、屈折率が大きい方向である「nx」方向を「遅相軸」といい、「nx」の方向と直交する、屈折率が小さい方向である「ny」方向を「進相軸」ということは技術常識である。 また、偏光子が、「吸収軸」と「透過軸」とを有することや、偏光子の「吸収軸」と「透過軸」とが直交することは技術常識である。 そうすると、引用発明においては、「正のAプレート16b」の進相軸と「背面偏光子9b」の偏光軸とが「平行」となるから、「正のAプレート16b」の進相軸と「背面偏光子9b」の偏光軸とのなす角度は「0°」ということになる。 してみると、上記イとウとから、引用発明は、本件補正後発明の「前記面内に複屈折率を有する光透過性基材と前記偏光子とは、前記面内に複屈折率を有する光透過性基材の屈折率が小さい方向である進相軸と、前記偏光子の透過軸とがなす角度が0°±20°の範囲となるように配置されている」構成を備えている。 エ 引用発明は、「第二の保護フィルム21」、「接着剤8」、「背面偏光子9b」、「接着剤8」及び「第一の保護フィルム(背面偏光子の背面を保護する保護フィルム)16」が「この順に積層された」ものであるから、「背面偏光子9b」上に「第一の保護フィルム」「16」が設けられたものである。 引用発明の「背面偏光板」は、本件補正後発明1の「偏光板」に相当する。 そうすると、上記アから、引用発明の「背面偏光板」と、本件補正後発明1の「偏光板」とは、「少なくとも、面内に複屈折率を有する光透過性基材が偏光子上に設けられ」ている点で共通する。 オ 一致点 上記ア?エより、本件補正後発明1と引用発明とは、以下の点において一致する。 「少なくとも、面内に複屈折率を有する光透過性基材が偏光子上に設けられた偏光板であって、 前記面内に複屈折率を有する光透過性基材と前記偏光子とは、前記面内に複屈折率を有する光透過性基材の屈折率が小さい方向である進相軸と、前記偏光子の透過軸とがなす角度が0°±20°の範囲となるように配置されている、 偏光板。」 キ 相違点 上記ア?エより、本件補正後発明1と引用発明とは、以下の点において相違する。 (相違点) 光透過性基材が、 本件補正後発明1においては、屈折率が大きい方向である遅相軸方向の屈折率(nx)と、前記屈折率が小さい方向である進相軸方向の屈折率(ny)との差(nx-ny)が、0.05以上であるのに対して、 引用発明においては、(nx-ny)が特定されていない点。 ク 当合議体の判断 上記(相違点)について検討する。 (ア) 引用発明は、正のAプレートが、「TACフィルム等と異なり、厚み方向に位相差を持たない」ことに着目して、「正のAプレート16bの遅相軸sを背面偏光子9bの吸収軸aと平行に配置する」構成とすることによって、「どの方向から見た場合でも、背面偏光子9bの透過軸tは正のAプレート16bの進相軸fと平行となるため、直線偏光は、偏光状態を変えることなく、そのまま正のAプレート16bを透過する。そのため、その直後の背面偏光子9bを透過する成分が減らない。その結果、斜め方向の透過率は低下せず、斜めの白輝度も低下しない。」という作用・効果が得られるようにしたことをその技術的特徴とするものである(引用例1の[0026]、[0050]を参照。)。 してみると、引用発明においては、正のAプレートを、その遅相軸を背面偏光子の吸収軸と平行に配置しさえすれば、その面内の複屈折率には関係なく、その作用・効果が奏されることが把握できる。すなわち、引用発明の正のAプレートにおいて、屈折率が大きい方向である遅相軸方向の屈折率(nx)と屈折率が小さい方向である進相軸方向の屈折率(ny)との差(nx-ny)の値を如何にするかは、引用発明の実施にあたり、当業者が適宜に設定し得る設計的事項にすぎない。 (イ) そして、引用例1には、「正のAプレート」に関し、「延伸により延伸方向の屈折率が大きくなり位相差の発現する材料(例えば、ポリカーボネート、ポリエチレンナフタレート、ポリエチレンテレフタレート、ノルボルネン系樹脂)を用いて、キャスティング法、溶融押し出し法等で作製することができる。この場合、延伸方向が遅相軸となる。」、「正のAプレートの延伸の方法としては、縦一軸延伸、横一軸延伸等が好ましい。」と記載されている(引用例1の[0045]、[0046]を参照。)。 ここで、ポリエチレンテレフタレートを延伸して作製した面内の複屈折の大きさΔn(=(nx-ny))が0.05以上のフィルムを偏光子の保護フィルムとして用いることは、以下a?cに例示されるように、本件出願前に普通に行われていることである。 a 特開昭59-77401号公報 (4頁左上欄13行?右上欄10行) b 特開昭58-143305号公報 (2頁左下欄20行?3頁左上欄2行、2頁右下欄表2、図3) c 国際公開第2011/162198号 ([0064]?[0066]、[0079][表1](実施例1等)) (ウ) そうしてみると、引用発明において、「第一の保護フィルム」として用いる「正のAプレート」を、上記(イ)の引用例1の記載に基づき、ポリエチレンテレフタレートを一軸延伸して作製するとともに、屈折率が大きい方向である遅相軸方向の屈折率(nx)と遅相軸方向と直交する方向である進相軸方向の屈折率(ny)との差(nx-ny)を0.05以上として、上記(相違点)に係る本件補正後発明1の構成とすることは、当業者であれば適宜になし得たことである。 (エ) 本件補正後発明1の作用・効果及び請求人の主張について 請求人は、審判請求書の「(3-2)補正後の本願発明について」において、 「(ロ)補正後の本願発明(請求項1)は、面内に特定の複屈折率を有する光透過性基材の屈折率の小さい方向である進相軸と上記偏光子の透過軸とが特定の角度範囲となるように積層することにより、上記面内に複屈折率を有する光透過性基材の屈折率と空気の屈折率との差によって起こる反射を小さくし、透過率(正面透過率)を向上させたものであります(出願当初明細書[0007]、[0013]、[0015]及び[0026])。 また、補正後の本願発明(請求項1)では、透過性基材の進相軸と偏光子の透過軸とのなす角度が、0°±20°の範囲となるように積層されており、光透過性基材の屈折率が大きい方向である遅相軸方向の屈折率(nx)と、遅相軸方向と直交する方向である進相軸方向の屈折率(ny)との差(nx-ny)が0.05以上であることと併せて充足することにより、偏光板の透過率に優れたものとすることができます。これは、実施例3及び4と、実施例5及び6(参考例9及び10)との比較から明らかであります(出願当初明細書[0077])。 また、補正後の本願発明(請求項1)の構成要件の全てを満たす実施例3、4及び7と、光透過性基材の屈折率が大きい方向である遅相軸方向の屈折率(nx)と、遅相軸方向と直交する方向である進相軸方向の屈折率(ny)との差(nx-ny)が特定の範囲から外れる実施例8(参考例8)とを比較しますと、実施例3、4及び7の方が透過率において明確に優れております(出願当初明細書[0077])。」、「上述しました様に、実施例8(参考例8)と、該実施例8(参考例8)と同様に光透過性基材の進相軸と偏光子の透過軸とのなす角度が0°である実施例3及び7とを比較しますと、屈折率の差(nx-ny)が0.05以上である実施例3及び7の方が透過率において明確に優れております(出願当初明細書[0077])。 すなわち、上記実施例から、屈折率の差(nx-ny)を0.05以上とすることに技術的意義があることは明らかであり、このような優れた効果は、面内方向の位相差の有無を一切問わない引用文献1に記載の発明からは予測することができません。 なお、実施例9は、nx>N>nyを満たさないので、好ましい態様である当該式を満たす他の実施例と比較して、偏光板の透過率に劣ったものであり、屈折率の差(nx-ny)を0.05以上とすることの意義が認められなかった例ではありません。」、「(ハ)以上より、補正後の本願発明(請求項1)における光透過性基材の遅相軸方向の屈折率(nx)と進相軸方向の屈折率(ny)との差(nx-ny)が0.05以上とすることに加えて、更に、光透過性基材の進相軸と偏光子の透過軸とのなす角度が0°±20°の範囲となるように配置されているといった構成は、引用文献には記載も示唆もされておりませんので、引用文献に記載の発明から、補正後の本願発明(請求項1)に想到するのは容易ではありません。 また、このような構成によって得られる偏光板の透過率に優れるといった効果は、引用文献に記載の発明からは予測することができません。」旨主張している。 しかしながら、光透過性基材進相軸と偏光子透過軸とがなす角度を「0°」、(nx-ny)を「0.0519」とした実施例9の透過率が、該角度を「0°」、(nx-ny)を「0.0499」とした参考例8、角度を「0°」、(nx-ny)を「0.001」とした参考例6、角度を「0°」、(nx-ny)を「0.0014」とした参考例7の各透過率よりも劣っていることから、光透過性基材進相軸と偏光子透過軸とがなす角度を「0°±20°」の範囲とするとともに、(nx-ny)を「0.05以上」とすることの技術的意義についての請求人の主張を採用することはできない。 そして、仮に、本件補正後発明1の構成とすることにより、請求人主張の作用・効果が奏されるとしても、上記(ウ)において示したように、引用発明において、屈折率の差(nx-ny)を0.05以上とすることは、当業者にとって適宜になし得ることであって、このような構成の採用に伴って、請求人が主張する作用・効果も引用発明のものにおいても当然に奏されるものであって、格別のものとは認められない。 してみると、上記請求人の主張を採用することはできない。 (オ) よって、本件補正後発明1は、引用発明に基づいて、その出願前にその発明が属する技術分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により、特許出願の際に特許を受けることができない。 (4) 補正却下のまとめ 上記(3)より、本件補正後発明1は、引用発明に基づいて、その出願前にその発明が属する技術分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により、特許出願の際に独立して特許を受けることができない。 したがって、本件補正は、特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項の規定に違反するので、同法第159条第1項の規定において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。 第3 本件発明について 1 本件発明 本件補正は、上記のとおり却下されたので、本件出願の請求項1?8のうち、請求項1に係る発明(以下、「本件発明」という。)は、上記「第2 補正却下の決定」の「1(1)」に記載のとおりのものである。 2 引用例、その記載事項及び引用発明 原査定の拒絶の理由に引用された引用文献1の記載事項及び引用発明は、上記「第2 補正却下の決定」の「4(2)」に記載されたとおりのものである。 3 対比・判断 (1) 本件発明と本件補正後発明1との相違について 本件発明は、本件補正後発明1における「前記面内に複屈折率を有する光透過性基材と前記偏光子」の「前記面内に複屈折率を有する光透過性基材の屈折率が小さい方向である進相軸と、前記偏光子の透過軸とがなす角度」に関する「0°±20°の範囲となるように配置されている」という発明特定事項を、「0°±20°の範囲」を含むより広い角度範囲の「90°とならないように配置されている」という発明特定事項としたものである。 (2) そうすると、本件発明の構成要件を全て含み、これをより限定したものである本件補正後発明1が、上記「第2 補正却下の決定」の「4(3)」において検討したとおり、引用発明に基づいて、その出願前にその発明が属する技術分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、本件発明も、同様の理由により、引用発明に基づいて、その出願前にその発明が属する技術分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものである。 4 まとめ 以上のとおり、本件発明は、引用例1に記載された発明に基づいて、その出願前にその発明が属する技術分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものである。 したがって、他の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。 よって、結論のとおり審決する。 |
審理終結日 | 2017-10-03 |
結審通知日 | 2017-10-10 |
審決日 | 2017-10-23 |
出願番号 | 特願2013-187612(P2013-187612) |
審決分類 |
P
1
8・
575-
Z
(G02B)
P 1 8・ 121- Z (G02B) |
最終処分 | 不成立 |
前審関与審査官 | 植野 孝郎 |
特許庁審判長 |
中田 誠 |
特許庁審判官 |
河原 正 宮澤 浩 |
発明の名称 | 偏光板、偏光板の製造方法、画像表示装置、画像表示装置の製造方法及び偏光板の光透過率改善方法 |
代理人 | 特許業務法人 安富国際特許事務所 |