ポートフォリオを新規に作成して保存 |
|
|
既存のポートフォリオに追加保存 |
|
PDFをダウンロード |
審決分類 |
審判 査定不服 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 取り消して特許、登録 G01S 審判 査定不服 2項進歩性 取り消して特許、登録 G01S |
---|---|
管理番号 | 1335605 |
審判番号 | 不服2017-1184 |
総通号数 | 218 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許審決公報 |
発行日 | 2018-02-23 |
種別 | 拒絶査定不服の審決 |
審判請求日 | 2017-01-26 |
確定日 | 2018-01-09 |
事件の表示 | 特願2012- 90425「レーダ装置」拒絶査定不服審判事件〔平成25年10月24日出願公開、特開2013-217853、請求項の数(1)〕について、次のとおり審決する。 |
結論 | 原査定を取り消す。 本願の発明は、特許すべきものとする。 |
理由 |
第1 手続の経緯 本願は、平成24年4月11日の出願であって、平成27年10月21日付けで拒絶理由が通知され、平成27年12月25日に手続補正がなされ、平成28年3月28日に最後の拒絶理由が通知され、平成28年6月2日に手続補正がなされたが、平成28年11月17日付けで補正却下の決定がなされ同日付で拒絶査定がなされ、平成29年1月26日付けで審判請求がなされ、同時に手続補正がなされ、当審において、平成29年10月3日付けで拒絶理由が通知され、平成29年11月16日付けで手続補正がなされたものである。 第2 本願発明 本願の請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は、平成29年11月16日付けの手続補正で補正された特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定される発明であり、次のとおりの発明である。 「【請求項1】 FM-CW方式のレーダ装置であって、 送信波の周波数を直線的に増加させる第1の期間、送信波の周波数を直線的に減少させる第2の期間、送信波の周波数を一定に保つ第3の期間において送信波を発生し、前記第1の期間において生成された送信波による受信波を用いて閾値を超え極大となる周波数スペクトルから第1のビート周波数を得る第1の計測を行い、前記第2の期間において生成された送信波による受信波を用いて閾値を超え極大となる周波数スペクトルから第2のビート周波数を得る第2の計測を行い、前記第3の期間において生成された送信波による受信波を用いて閾値を超え極大となる周波数スペクトルから第3のビート周波数を得る第3の計測を行う計測部と、 前記第1の計測による第1のビート周波数と前記第2の計測による第2のビート周波数の和に基づく距離周波数及び周波数変化に応じて、目標物までの距離を算出する第1の算出部と、 前記第1のビート周波数と前記第2のビート周波数とに基づく相対速度を用いることなく、前記第3の計測による第3のビート周波数に応じて、前記目標物の相対速度を算出する第2の算出部と、 前記第1のビート周波数が前記第2のビート周波数より小さい場合に接近目標と判定し、前記第1のビート周波数が前記第2のビート周波数より大きい場合に離反目標と判定して前記目標物の相対速度の符号を判定する判定部と、 を備えたことを特徴とするレーダ装置。」 第2 引用文献、引用発明等 1 引用文献1について 原査定の拒絶の理由に引用された引用文献1(特開2010-122226号公報)には、図面とともに、次の事項が記載されている(下線は、当審で付与した。)。 ア 「【0001】 本発明は、たとえば、周波数変調された搬送波を用いるマイクロ波レーダを使用して、物体までの距離及び物体の速度のうちの少なくとも一方を求める方法に関し、限定はしないが、物体の速度に応答して変調波形を動的に適応させるか又は選択する自動車レーダに特に適用することができる。」 イ 「【0002】 自動車警報及び衝突回避のために用いられる数多くのシステムのうちの1つが、周波数変調持続波(FM-CW)レーダである。図1にブロック図で示される、そのようなシステムは、発振器3によって生成される搬送波の周波数が、周波数変調器5を用いて、持続時間T_(SW)及び所定の周波数範囲ΔFにわたって線形に掃引される電圧制御発振器1を有している。詳細には、制御モジュール(図1では図示せず)の制御下にある線形波形発生器7によって変調パターンが与えられる。周波数変調持続波(FM-CW)信号は結合器9によって電力増幅器11に結合され、アンテナ13に結合される増幅信号が生成される。 【0003】 送信信号TXが、対象とする静止障害物15に向けられる。反射信号RXは、物体距離Rに比例する時間τだけ遅れて、受信アンテナ17によって検出され、低雑音増幅器19に結合される。低雑音増幅器19の出力は、結合器9から受信される送信信号の一形態(version)によって形成される基準信号と、ダウンコンバータ21で混合される。受信されたパルス信号は送信された信号に対して遅れているので、いずれの時点においても、送信信号及び受信信号の瞬時周波数は異なる。それゆえ、ダウンコンバータ21の出力において、周波数F_(B)を有するビート信号BSが得られ、周波数F_(B)は静止障害物までの未知の距離Rに正比例する。ダウンコンバータ21の出力はシグナルプロセッサモジュール23に供給され、シグナルプロセッサモジュール23は、クロック29からのタイミングパルスによって駆動されるアナログ/デジタルコンバータ(ADC)25及びデジタルプロセッサ27を備える。ADC25は、ダウンコンバータ21からの信号を、ビート周波数F_(B)、それゆえ物体の距離Rを求めるためにデジタルプロセッサ27によって用いられるデジタル信号に変換する。 【0004】 線形波形発生器7によって与えられる周波数変調パターンは、たとえば、図2aに示されるような、勾配は一定であるが、その符号が入れ替わる周期的な三角波形に従うことができる。この特定の波形を用いることは、多くの場合に、他の線形変調方式(たとえば、鋸歯)よりも好ましい。なぜなら、三角波形によれば、変調波形S_(TX)及びその遅延したレプリカS_(RX)(図2bを参照)から導出され、三角波形の立ち上がり部分及び立ち下がり部分に対応する一対の周波数シフト差F_(U)及びF_(D)から、以下のように、動いている障害物の速度V_(O)も推定できるようになるためである。 R=(F_(D)+F_(U))T_(SW)c/4ΔF (1) V_(O)=(F_(D)-F_(U))λ_(O)/4 (2) ただし、λ_(O)は送信信号TXの波長であり、 cは光の速さであり(?3×10^(8)m/s)、 ΔFは周波数偏移であり、 T_(SW)は単一の勾配の持続時間である。 【0005】 代替的には、搬送波周波数を変調するために、図4に示される波形のような台形波形を用いることができる。そのように波形に平坦な部分がある結果として、一定周波数で送信されるようになり、図1に示されるようなFM-CWレーダ構成では、その結果として、ビート信号が、物体が動くことから生じる、いわゆるドップラ周波数シフトに等しい周波数F_(V)を有するようになる。F_(V)の大きさは、物体の速度V_(O)にのみ依存し、測定される距離Rには依存しない。」 したがって、引用文献1には、次の発明(以下、「引用発明1」という。)が記載されているものと認められる。 「周波数変調持続波(FM-CW)レーダであって(段落【0002】より)、 送信信号TXが、対象とする静止障害物15に向けられ、反射信号RXは、物体距離Rに比例する時間τだけ遅れて、受信アンテナ17によって検出され、受信されたパルス信号は送信された信号に対して遅れているので、いずれの時点においても、送信信号及び受信信号の瞬時周波数は異なり、それゆえ、ダウンコンバータ21の出力において、周波数F_(B)を有するビート信号BSが得られ、周波数F_(B)は静止障害物までの未知の距離Rに正比例し(段落【0003】より)、 周波数変調パターンは、勾配は一定であるが、その符号が入れ替わる周期的な三角波形に従うことができ、三角波形によれば、変調波形S_(TX)及びその遅延したレプリカS_(RX)から導出され、三角波形の立ち上がり部分及び立ち下がり部分に対応する一対の周波数シフト差F_(U)及びF_(D)から、以下のように、動いている障害物の速度V_(O)も推定でき、 R=(F_(D)+F_(U))T_(SW)c/4ΔF (1) V_(O)=(F_(D)-F_(U))λ_(O)/4 (2) ただし、λ_(O)は送信信号TXの波長であり、 cは光の速さであり(?3×10^(8)m/s)、 ΔFは周波数偏移であり、 T_(SW)は単一の勾配の持続時間であり(段落【0004】より)、 代替的には、搬送波周波数を変調するために、台形波形を用いることができ、そのように波形に平坦な部分がある結果として、一定周波数で送信されるようになり、FM-CWレーダ構成では、その結果として、ビート信号が、物体が動くことから生じる、いわゆるドップラ周波数シフトに等しい周波数F_(V)を有するようになり、F_(V)の大きさは、物体の速度V_(O)にのみ依存し、測定される距離Rには依存しない(段落【0005】より)、 FM-CWレーダ(段落【0002】より)。」 2 引用文献2 原査定の拒絶の理由において、周知技術を示す文献として引用された引用文献2(特開2010-112937号公報)には、次の事項が記載されている(下線は、当審で付与した。)。 ア 「【0027】 ここで、本実施形態におけるレーダ装置の基本的な動作について説明する。 イ 「【0028】 図3は、送信信号と受信信号の周波数変化と、目標物体の相対距離、相対速度の検出原理を説明する図である。図3(A)には、時間(横軸)に対する送受信信号の周波数(縦軸)変化を示す。図3(A)において実線で示すように、送信信号の周波数は、CW期間では周波数f0(例えば76.5GHz)であり、FMCW期間では周波数fm(例えば400Hz)の三角波の周波数変調信号に従って、中心周波数f0、周波数変調幅ΔF(例えば100MHz)で周波数が直線的に上昇及び下降する。これに対し、受信信号は、破線で示すように、これを反射した目標物体の相対距離による時間的遅延ΔTと、相対速度に応じたドップ周波数γ分の周波数偏移を受ける。その結果、送受信信号には、CW期間では周波数差γ、FMCW期間におけるアップ期間で周波数差α、ダウン期間で周波数差βが生じる。よって、ビート信号のビート周波数は、図3(B)に示すように、CW期間ではドップラ周波数に対応するビート周波数γ、アップ期間ではビート周波数α、ダウン期間ではビート周波数βとなる。そして、このビート周波数γ、α、βと目標物体の相対距離R、相対速度Vには次の式(1)?(3)で示す関係が成立する。ただし、ここでCは光速である。 【0029】 V=(γ・C)/[2・(f0-γ)] …式(1) R=C・(α+β)/(8・ΔF・fm) …式(2) V=C・(β-α)/(4・f0) …式(3) ここにおいて、上記式(2)、(3)により示されるように、FMCW期間で生成されるビート信号のビート周波数α、βは相対距離と相対速度を検出するための情報を含む。よって、FMCW期間で検出されるビート信号を用いて、移動体である目標物体の相対距離と相対速度を同時に検出できる。」 したがって、引用文献2には、次の技術的事項が記載されているものと認められる。 「レーダ装置であって、送信信号の周波数は、CW期間では周波数f0であり、FMCW期間では周波数fmの三角波の周波数変調信号に従って、中心周波数f0、周波数変調幅ΔFで周波数が直線的に上昇及び下降し、これに対し、受信信号は、これを反射した目標物体の相対距離による時間的遅延ΔTと、相対速度に応じたドップ周波数γ分の周波数偏移を受け、その結果、送受信信号のビート信号のビート周波数は、CW期間ではドップラ周波数に対応するビート周波数γ、アップ期間ではビート周波数α、ダウン期間ではビート周波数βとなり、そして、このビート周波数γ、α、βと目標物体の相対距離R、相対速度Vには次の式(1)?(3)で示す関係が成立し、 V=(γ・C)/[2・(f0-γ)] …式(1) R=C・(α+β)/(8・ΔF・fm) …式(2) V=C・(β-α)/(4・f0) …式(3) ただし、ここでCは光速である。 FMCW期間で生成されるビート信号のビート周波数α、βは相対距離と相対速度を検出するための情報を含み、よって、FMCW期間で検出されるビート信号を用いて、移動体である目標物体の相対距離と相対速度を同時に検出できる、 レーダ装置。」 3 引用文献3 原査定の拒絶の理由において、周知技術を示す文献として引用された引用文献3(特開2004-85452号公報)には、「第1実施形態」についての「送信波は、図12に示すように、周波数変化の傾きの小さい単調増加単調減少の第1モード、周波数変化の傾きの大きい単調増加・単調減少の第2モードを交互に繰り返すことになる。」(段落【0024】)との記載を承けて、段落【0041】に次の事項が記載されている。 「第2実施形態の構成は、実施例1と同一なので省略する。送信波形を図19に示す。このように、第2実施形態では、モード1、モード2の後に、一定の周波数(この例では、f_(c)-f_(m)/2)の連続波(CW)の期間T’を設けている。」 4 引用文献4 原査定の拒絶の理由において、周知技術を示す文献として引用された引用文献4(特開平8-262130号公報)には、次の事項が記載されている(下線は、当審で付与した。)。 「【0055】このように構成した本第2実施の形態において、マイクロコンピュータ10が、ステップ100におけるF=0とのセット後、ステップ110Aにおいて、同ステップにて示す波形データWを出力信号としてD-A変換器20に出力する。ここで、ステップ110Aにて示す波形データWは、一定部Wa、上昇部Wb及び下降部Wcにより構成されている。 【0056】従って、上記第1実施の形態とは異なり、D-A変換器20の変調信号が波形データWにより特定される。そして、このように特定されたD-A変換器20の変調信号によりVCO30の送信信号が周波数変調される。この送信信号が送信アンテナ40により電波として送信されて対象物により反射されると、この反射電波が受信アンテナ50により受信される。すると、ミキサ60が受信アンテナ50の受信信号とVCO30の送信信号とを混合してビート信号を発生する。ここで、このビート信号には、波形データWの一定部Wa、上昇部Wb及び下降部Wcにそれぞれ対応するCWドップラ周波数成分、FW-CW上昇部ドップラ周波数成分及びFM-CW下降部ドップラ周波数成分が含まれる。」 と記載されている。 5 引用文献2?4の記載より、「レーダ装置の送信信号として、周波数が一定の期間、周波数が直線的に上昇する期間及び直線的に下降する期間を有するものを用いる技術」は周知技術であると認められる。 6 引用文献5 原査定の拒絶の理由において引用された引用文献5(特開昭58-17388号公報)には、次の事項が記載されている(下線は、当審で付与した。)。 ア 「CWモ-ドとFMモードとを繰返し、FMモードに於いてはアツプスイープとダウンスイープとの周波数変化による周波数変調を繰返し送信し、送信信号と受信信号とによるビート信号を出力する送受信部、前記ビート信号を前記CWモード時にカウントして速度信号を出力する相対速度測定部、前記ビート信号を前記FMモ-ド時に加え、且つ前記相対速度測定部からの速度信号に応じてカツトオフ周波数を制御されるハイパスフィルタ、該ハイパスフィルタの出力レベルが前記アップスイープ時かダウンスイープ時かの何れかに検出されることにより前記速度信号の極性を判定する極性判定部とを備えたことを特徴とするFM-CWレーダ。」(第1頁左下欄第5?18行) イ 「本発明は、相対速度とその極性とを検出するFM-CWレーダに関するものである。」(第1頁左下欄第20行?第1頁右下欄第1行)」 ウ 「本発明は、障害物、前方車、後方車等のターゲツトとの相対距離が所定の大きさ以下になつたときに、相対速度の極性を簡単な構成により検出し得るようにすることを目的とするものである。」(第1頁右下欄第14?17行) エ 「18はレベル検出回路16,17の出力により相対適度の極性を判定して極性信号PMSを出力する極性判定回路」(第2頁左上欄第11?13行) オ 「変調駆動回路は、CWモ-ドとFMモードとの切換えを行なって発振器4を制御するものであり、例えばガンダイオードを用いた発振器の場合、一定のバイアス電流を供給することにより発振周波数が一定のCWモ-ドとなり、バイアス電流を変化させることにより発振周波数が変化してFMモードとなる。例えば三角波変調とすることにより、周波数が次第に大きくなるアツプスイープと、周波数が次第に小さくなるダウンスイープとが一定周期で繰返されることになる。」(第2頁右上欄第4?13行) カ 「第2図は動作説明図であり、同図(a)は変調波形を示し、FMモードに於いては、アップスイープUPとダウンスイープDNとが一定周期で繰返され、且つFMモードとCWモードとが一定周期で繰返されるものである。」(第2頁右上欄第14?18行) キ 「切換回路9は制御パルス1により切換動作するもので、CWモードBに於けるビート信号をバンドパスフィルタ10側へ出力し、FMモードに於けるビート信号をハイパスフイルタ14側へ出力するものである。例えば制御パルスaを第2図(a)に示すものとすると、制御パルスaが“1”のときビート信号はハイパスフイルタ14側へ出力され、“0”のときバンドパスフィルタ10側へ出力され、バンドパスフィルタ10には第2図(c)に示すビート信号が加えられることになる。 バンドパスフィルタ10の出力は波形整形回路11に加えられて矩形波のパルスに整形され、カウンタ12によりカウントされる。カウンタ12のカウント内容は相対速度に対応したものとなるから、CWモードBの終了毎にそのカウント内容をDA変換器13に加えてアナログの速度信号VSに変換する。制御パルスcは例えば第2図(g)に示すようにCWモードBの終了毎に出力され、カワント内容をDA変換器13に加えた後カウント内容をクリヤさせる。 又切換回路15は制御パルスbにより、FMモードのアツプスイープUP時のビート信号をレベル検出回路16に、又ダウンスイープDN時のビート信号をレベル検出回路17に切換えて加えるものである。制御パルスbは例えば第2図(f)に示すもので、ダウンスイープDN時に“1”となる。ターゲットに対して接近中はダウンスイープDN時のビート信号の周波数がアツプスイープUP時のビート信号の周波数より高くなるので、バイパスフィルタ14のカットオフ周波数を制御することにより、第2図(d)に示すようにダウンスイープDN時のビート信号のみが出力され、レベル検出回路17によりそのレベルが検出される。」(第2頁左下欄第1行?同頁右下欄第13行) ク 「またFup=Fdnとなる周波数をFcとすると、相対距離がRc以上で、Fup=Fdnとなる相対距離Rcは、 となる。そこで相対距離がRc以下のときの相対速度の極性を判定するようにするものであり、ハイパスフィルタ14のカットオフ周波数をFcとすると、相対距離が0?Rの範囲のとき、接近中ではダウンスイープ時のビート周波数Fdnのみ出力され、離間中ではFup>Fdnとなるので、アツプスイープ時のビート周波数Fupのみ出力されることになる。このハイパスフィルタ14のカットオフ周波数Fcは、CWモード時に測定された相対速度Vrに応じて制御されるものであり」(第3頁右上欄第1?13行) ケ 「前述の如く、相対距離が0?Rcの範囲では、ダウンスイープ時かアツプスイープ時かの何れか一方のビート信号のみハイパスフィルタ14から出力されるので、レベル検出回路16,17は、ビート信号の有無を検出し得る簡単な構成で良いことになる。」(第3頁左下欄第2?6行) コ 「前述の如く従来のCWレーダにFMモードとなる期間が存在するように周波数変調する手段と、カツトオフ周波数を制御できるハイパスフィルタ14と、ハイパスフィルタ14の出力レベルから速度の極性を判定する手段を付加した構成により、相対速度の極性を判定できることになり、各種の用途に適用することができるものとなる。」(第4頁左上欄第17行?同頁右上欄第3行) よって、引用文献5には、次の発明(以下、「引用発明5」という。)が記載されているものと認められる。 「CWモ-ドとFMモードとを繰返し、FMモードに於いてはアツプスイープとダウンスイープとの周波数変化による周波数変調を繰返し送信し、送信信号と受信信号とによるビート信号を出力する送受信部、前記ビート信号を前記CWモード時にカウントして速度信号を出力する相対速度測定部、前記ビート信号を前記FMモ-ド時に加え、且つ前記相対速度測定部からの速度信号に応じてカツトオフ周波数を制御されるハイパスフィルタ、該ハイパスフィルタの出力レベルが前記アップスイープ時かダウンスイープ時かの何れかに検出されることにより前記速度信号の極性を判定する極性判定部とを備えたことを特徴とするFM-CWレーダ(「ア」より)であって、 CWモ-ドは発振周波数が一定であり、FMモードを三角波変調とすることにより、周波数が次第に大きくなるアツプスイープと、周波数が次第に小さくなるダウンスイープとが一定周期で繰返され(「オ」より)、 CWモードBに於けるビート信号はバンドパスフィルタ10側へ出力され、FMモードに於けるビート信号はハイパスフイルタ14側へ出力され(「キ」より)、 バンドパスフィルタ10の出力はカウンタ12によりカウントされ、カウンタ12のカウント内容は相対速度に対応したものとなるから、CWモードBの終了毎にそのカウント内容をアナログの速度信号VSに変換(「キ」より)し、 ハイパスフィルタ14のカットオフ周波数をFcとすると、相対距離が0?Rの範囲のとき、接近中ではダウンスイープ時のビート周波数Fdnのみ出力され、離間中ではFup>Fdnとなるので、アツプスイープ時のビート周波数Fupのみ出力されることにな(「ク」より)り、相対距離が0?Rcの範囲では、ダウンスイープ時かアツプスイープ時かの何れか一方のビート信号のみハイパスフィルタ14から出力されるので、ビート信号の有無を検出(「ケ」より)し、相対距離がRc以下のときの相対速度の極性を判定する(「ク」より)、 FM-CWレーダ(「イ」より)。」 第4 対比・判断 1 引用文献1を主引用文献とした場合 (1)対比 本願発明と引用発明1とを対比する。 ア 引用発明1における「FM-CWレーダ」が、次の相違点は除いて、本願発明における「FM-CW方式のレーダ装置」に相当する。 イ 引用発明1における「周波数変調パターン」として、「三角波形」ではなく、「代替的に」「台形波形を用い」た場合、引用発明1における「三角波形」を「台形波形」と読み替えることにより、 (ア)引用発明1における「台形波形」において、「勾配は一定である」「立ち上がり部分」が、本願発明における「送信波の周波数を直線的に増加させる第1の期間」に相当する。 (イ)引用発明1における「台形波形」において、「勾配は一定である」「立ち下がり部分」が、本願発明における「送信波の周波数を直線的に減少させる第2の期間」に相当する。 (ウ)引用発明1における「台形波形」において、「平坦な部分」が、本願発明における「送信波の周波数を一定に保つ第3の期間」に相当する。 (エ)上記(ア)?(ウ)より、引用発明1における「台形波形を用い」て「搬送波周波数を変調」し、「信号」を「送信」することが、本願発明における「送信波の周波数を直線的に増加させる第1の期間、送信波の周波数を直線的に減少させる第2の期間、送信波の周波数を一定に保つ第3の期間において送信波を発生」することに相当する。 (オ)引用発明1において、「台形波形」の「立ち上がり部分及び立ち下がり部分に対応する一対の周波数シフト差F_(U)及びF_(D)」「を有するビート信号BS」を「得」ることと、本願発明における「前記第1の期間において生成された送信波による受信波を用いて閾値を超え極大となる周波数スペクトルから第1のビート周波数を得る第1の計測を行い、前記第2の期間において生成された送信波による受信波を用いて閾値を超え極大となる周波数スペクトルから第2のビート周波数を得る第2の計測を行」うこととは、「前記第1の期間において生成された送信波による受信波を用いて第1のビート周波数を得る第1の計測を行い、前記第2の期間において生成された送信波による受信波を用いて第2のビート周波数を得る第2の計測を行」う点で共通する。 (カ)引用発明1において、「台形波形」の「平坦な部分がある結果」として、「ビート信号」の「周波数F_(V)」を得ることと、本願発明における「前記第3の期間において生成された送信波による受信波を用いて閾値を超え極大となる周波数スペクトルから第3のビート周波数を得る第3の計測を行う」こととは、「前記第3の期間において生成された送信波による受信波を用いて第3のビート周波数を得る第3の計測を行う」点で共通する。 (キ)引用発明1において上記(オ)及び(カ)で述べた「ビート信号BS」が「ダウンコンバータ21の出力において」「得られ」、「ADC25は、ダウンコンバータ21からの信号を、ビート周波数F_(B)」、「を求めるためにデジタルプロセッサ27によって用いられるデジタル信号に変換」しているから、引用発明1における「ダウンコンバータ21」、「ADC25」及び「デジタルプロセッサ27」が、本願発明における「計測部」に相当する。 (ク)引用発明1における「デジタルプロセッサ27」において、「R=(F_(D)+F_(U))T_(SW)c/4ΔF」(ここで、「ΔFは周波数偏移であ」る)との式により、「静止障害物までの未知の距離R」を「推定」する部分が、本願発明における「前記第1の計測による第1のビート周波数と前記第2の計測による第2のビート周波数の和に基づく距離周波数及び周波数変化に応じて、目標物までの距離を算出する第1の算出部」に相当する(なお、引用発明1の上式における「周波数偏移」「ΔF」が、本願発明における「周波数変化」に相当する。)。 (ケ)引用発明1における「ビート信号が、物体が動くことから生じる、いわゆるドップラ周波数シフトに等しい周波数F_(V)を有するようになり、F_(V)の大きさは、物体の速度V_(O)にのみ依存し、測定される距離Rには依存しない」ことは、この原理により、「物体の速度V_(O)」を算出することを意味していることは明らかである。 よって、引用発明1における「デジタルプロセッサ27」が、該原理により「物体の速度V_(O)」を算出する部分と、本願発明における「前記第1のビート周波数と前記第2のビート周波数とに基づく相対速度を用いることなく、前記第3の計測による第3のビート周波数に応じて、前記目標物の相対速度を算出する第2の算出部」の点で一致する。 したがって、本願発明と引用発明1との間には、次の一致点、相違点があるといえる。 (一致点) 「FM-CW方式のレーダ装置であって、 送信波の周波数を直線的に増加させる第1の期間、送信波の周波数を直線的に減少させる第2の期間、送信波の周波数を一定に保つ第3の期間において送信波を発生し、前記第1の期間において生成された送信波による受信波を用いて第1のビート周波数を得る第1の計測を行い、前記第2の期間において生成された送信波による受信波を用いて第2のビート周波数を得る第2の計測を行い、前記第3の期間において生成された送信波による受信波を用いて第3のビート周波数を得る第3の計測を行う計測部と、 前記第1の計測による第1のビート周波数と前記第2の計測による第2のビート周波数の和に基づく距離周波数及び周波数変化に応じて、目標物までの距離を算出する第1の算出部と、 前記第1のビート周波数と前記第2のビート周波数とに基づく相対速度を用いることなく、前記第3の計測による第3のビート周波数に応じて、前記目標物の相対速度を算出する第2の算出部と、 を備えたことを特徴とするレーダ装置。」 (相違点1) 本願発明では、「前記第1のビート周波数が前記第2のビート周波数より小さい場合に接近目標と判定し、前記第1のビート周波数が前記第2のビート周波数より大きい場合に離反目標と判定して前記目標物の相対速度の符号を判定する判定部」を備えているのに対し、引用発明1では、かかる判定部を備えているか、明らかでない点。 (相違点2) 本願発明では、「閾値を超え極大となる周波数スペクトル」から第1?第3のビート周波数を得ているのに対し、引用発明1では、ビート周波数(F_(U)、F_(V)及びF_(D))を得るのに用いる周波数スペクトルについての特定がなされていない点。 (2)相違点についての判断 ア 相違点1について 本願発明では「第1のビート周波数を得る第1の計測を行い」、「第2のビート周波数を得る第2の計測を行」なった上で「前記第1のビート周波数が前記第2のビート周波数より小さい場合に接近目標と判定し、前記第1のビート周波数が前記第2のビート周波数より大きい場合に離反目標と判定して前記目標物の相対速度の符号を判定」しているのであるから、本願発明は、計測された第1のビート周波数と、計測された第2のビート周波数との大小関係を比較し、その大小関係から、目標物の相対速度の符号を判定するものである。 イ これに対し、例えば引用文献2?4に記載されているとおり、「レーダ装置の送信信号として、周波数が一定の期間、周波数が直線的に上昇する期間及び直線的に下降する期間を有するものを用いる技術」は、周知技術であるが、該周知技術は、周波数が直線的に上昇する期間及び直線的に下降する期間のビート周波数の大小関係から目標物の相対速度の符号を判定することを示唆するものではない。 また、引用文献2には、「周波数が直線的に上昇及び下降」する期間である「FMCW期間」で検出される、「アップ期間」の「ビート周波数α」と「ダウン期間」の「ビート周波数β」、及び「送信信号の周波数」が「周波数f0」の「CW期間」で検出される「ビート周波数γ」を用いて、「移動体である目標物体」の「相対速度V」が、 「 V=(γ・C)/[2・(f0-γ)] …式(1)」 「 V=C・(β-α)/(4・f0) …式(3) ただし、ここでCは光速である。」 として求められることが記載されているものの、引用文献2には、「CW期間」の「ビート周波数γ」から求められる「目標物体」の「相対速度V」の符号を、「周波数が直線的に上昇及び下降」する期間である「FMCW期間」で検出される「ビート周波数α」「ビート周波数β」の大小関係を用いて判定することは、記載も示唆もされていない。 ウ よって、上記相違点1に係る本願発明の構成は、当業者といえども、引用発明1及び周知技術(引用文献2?4)に基づいて容易になし得たことであるとはいえない。 (3)まとめ 以上のとおり、相違点2について判断するまでもなく、本願発明は、当業者が引用発明1及び周知技術(引用文献2?4)に基づいて容易に発明をすることができたものであるとはいえない。 2 引用文献5を主引用文献とした場合 (1)対比 本願発明と引用発明5とを対比する。 ア 引用発明5における「FM-CWレーダ」が、次の相違点は除いて、本願発明における「FM-CW方式のレーダ装置」に相当する。 イ 引用発明5における「FMモード」において「送信する」ことは、「アツプスイープとダウンスイープとの周波数変化による周波数変調を繰返し送信し」、「三角波変調とすることにより、周波数が次第に大きくなるアツプスイープと、周波数が次第に小さくなるダウンスイープとが一定周期で繰返され」るものであるから、本願発明における「送信波の周波数を直線的に増加させる第1の期間、送信波の周波数を直線的に減少させる第2の期間」に「おいて送信波を発生」することに相当する。 ウ 引用発明5における「CWモード」において「送信する」ことは、「CWモード」における「発振周波数が一定であ」るものであるから、本願発明における「送信波の周波数を一定に保つ第3の期間において送信波を発生」することに相当する。 エ 引用発明5における「送信信号と受信信号とによるビート信号を出力する送受信部」及び「前記ビート信号を前記CWモード時にカウントして速度信号を出力する相対速度測定部」は、具体的には、「CWモードBに於けるビート信号はバンドパスフィルタ10側へ出力され」、「バンドパスフィルタ10の出力はカウンタ12によりカウントされ、カウンタ12のカウント内容は相対速度に対応したものとなるから、CWモードBの終了毎にそのカウント内容をアナログの速度信号VSに変換」するものである。 よって、引用発明5における「CWモードBに於けるビート信号」の「カウント内容」が、ビート周波数に対応するものであることを踏まえると、引用発明5における「送信信号と受信信号とによるビート信号を出力する送受信部」及び「前記ビート信号を前記CWモード時にカウントして速度信号を出力する相対速度測定部」と、本願発明における「前記第3の期間において生成された送信波による受信波を用いて閾値を超え極大となる周波数スペクトルから第3のビート周波数を得る第3の計測を行う計測部」及び「前記第1のビート周波数と前記第2のビート周波数とに基づく相対速度を用いることなく、前記第3の計測による第3のビート周波数に応じて、前記目標物の相対速度を算出する第2の算出部」とは、「前記第3の期間において生成された送信波による受信波を用いて第3のビート周波数を得る第3の計測を行う計測部」及び「前記第1のビート周波数と前記第2のビート周波数とに基づく相対速度を用いることなく、前記第3の計測による第3のビート周波数に応じて、前記目標物の相対速度を算出する第2の算出部」の点で共通する。 オ 引用発明5における「送信信号と受信信号とによるビート信号」のうち、「アツプスイープ時のビート周波数Fup」と、本願発明における「前記第1の期間において生成された送信波による受信波を用いて閾値を超え極大となる周波数スペクトルから」得られた「第1のビート周波数」とは、「前記第1の期間において生成された送信波による受信波を用いて」得られた「第1のビート周波数」の点で共通する。 また、引用発明5における「送信信号と受信信号とによるビート信号」のうち、「ダウンスイープ時のビート周波数Fdn」と、本願発明における「前記第2の期間において生成された送信波による受信波を用いて閾値を超え極大となる周波数スペクトルから」得られた「第2のビート周波数」とは、「前記第2の期間において生成された送信波による受信波を用いて」得られた「第2のビート周波数」の点で共通する。 カ 引用発明5における「送信信号と受信信号とによるビート信号を出力する送受信部」及び「ハイパスフィルタの出力レベルが前記アップスイープ時かダウンスイープ時かの何れかに検出されることにより前記速度信号の極性を判定する極性判定部」は、「ハイパスフィルタ14のカットオフ周波数をFcとすると、相対距離が0?Rの範囲のとき、接近中ではダウンスイープ時のビート周波数Fdnのみ出力され、離間中ではFup>Fdnとなるので、アツプスイープ時のビート周波数Fupのみ出力されることにな」ることから、「何れか一方のビート信号のみハイパスフィルタ14から出力される」のは、「相対距離が0?Rcの範囲」に限られることになる。 ここで、Rcを表す式3 中のΔFは、周波数偏移(引用文献5第3頁左上欄第6行)であることから、引用発明5における上記「送受信部」及び「極性判定部」と、本願発明における「前記第1の計測による第1のビート周波数と前記第2の計測による第2のビート周波数の和に基づく距離周波数及び周波数変化に応じて、目標物までの距離を算出する第1の算出部」とは、「前記第1のビート周波数と前記第2のビート周波数の状況及び周波数変化に応じて、目標物までの距離に関する情報を出力する部分」である点で共通する。 キ 引用発明5における「ハイパスフィルタの出力レベルが前記アップスイープ時かダウンスイープ時かの何れかに検出されることにより前記速度信号の極性を判定する極性判定部」は、具体的には「ハイパスフィルタ14のカットオフ周波数をFcとすると、相対距離が0?Rの範囲のとき、接近中ではダウンスイープ時のビート周波数Fdnのみ出力され、離間中ではFup>Fdnとなるので、アツプスイープ時のビート周波数Fupのみ出力されることになり、相対距離が0?Rcの範囲では、ダウンスイープ時かアツプスイープ時かの何れか一方のビート信号のみハイパスフィルタ14から出力されるので、ビート信号の有無を検出し、相対距離がRc以下のときの相対速度の極性を判定する」ものである。 よって、引用発明5における「ハイパスフィルタの出力レベルが前記アップスイープ時かダウンスイープ時かの何れかに検出されることにより前記速度信号の極性を判定する極性判定部」と、本願発明における「前記第1のビート周波数が前記第2のビート周波数より小さい場合に接近目標と判定し、前記第1のビート周波数が前記第2のビート周波数より大きい場合に離反目標と判定して前記目標物の相対速度の符号を判定する判定部」とは、「前記第1のビート周波数と前記第2のビート周波数との状況に応じて、接近目標か離反目標かを判定して前記目標物の相対速度の符号を判定する判定部」の点で共通する。 したがって、本願発明と引用発明5との間には、次の一致点、相違点があるといえる。 (一致点) 「FM-CW方式のレーダ装置であって、 送信波の周波数を直線的に増加させる第1の期間、送信波の周波数を直線的に減少させる第2の期間、送信波の周波数を一定に保つ第3の期間において送信波を発生し、前記第3の期間において生成された送信波による受信波を用いて第3のビート周波数を得る第3の計測を行う計測部と、 前記第1の期間において生成された送信波による受信波を用いて得られた第1のビート周波数と前記第2の期間において生成された送信波による受信波を用いて得られた第2のビート周波数と、 前記第1のビート周波数と前記第2のビート周波数の状況及び周波数変化に応じて、目標物までの距離に関する情報を出力する部分と、 前記第1のビート周波数と前記第2のビート周波数とに基づく相対速度を用いることなく、前記第3の計測による第3のビート周波数に応じて、前記目標物の相対速度を算出する第2の算出部と、 前記第1のビート周波数と前記第2のビート周波数との状況に応じて、接近目標か離反目標かを判定して前記目標物の相対速度の符号を判定する判定部と、 を備えたことを特徴とするレーダ装置。」 (相違点1) 本願発明では、「前記第1の期間において生成された送信波による受信波を用いて閾値を超え極大となる周波数スペクトルから第1のビート周波数を得る第1の計測を行い、前記第2の期間において生成された送信波による受信波を用いて閾値を超え極大となる周波数スペクトルから第2のビート周波数を得る第2の計測を行」ているのに対し、引用発明5では、「ダウンスイープ時のビート周波数Fdn」と「アツプスイープ時のビート周波数Fup」のビート信号の有無を検出しているに過ぎず、ビート周波数の計測を行っていない点。 (相違点2) 本願発明では、「前記第1の計測による第1のビート周波数と前記第2の計測による第2のビート周波数の和に基づく距離周波数及び周波数変化に応じて、目標物までの距離を算出する第1の算出部」を有しているのに対し、引用発明1では、「ダウンスイープ時のビート周波数Fdn」と「アツプスイープ時のビート周波数Fup」のビート信号について「何れか一方のビート信号のみハイパスフィルタ14から出力される」のは、「相対距離が0?Rcの範囲」に限られることになる点(なお、Rcは、周波数偏移ΔFを含む式3 で表される。)。 (相違点3) 本願発明では、「閾値を超え極大となる周波数スペクトル」から第1?第3のビート周波数を得ているのに対し、引用発明1では、「アツプスイープ時のビート周波数Fup」、「ダウンスイープ時のビート周波数Fdn」及び「CWモードBに於けるビート信号」の「カウント内容」(つまり、ビート周波数)を得るのに用いる周波数スペクトルについての特定がなされていない点。 (相違点4) 本願発明では、「前記第1のビート周波数が前記第2のビート周波数より小さい場合に接近目標と判定し、前記第1のビート周波数が前記第2のビート周波数より大きい場合に離反目標と判定して前記目標物の相対速度の符号を判定する判定部」を備えているのに対し、引用発明5では、「ハイパフィルタの出力レベルが前記アップスイープ時かダウンスイープ時かの何れかに検出されることにより前記速度信号の極性を判定する極性判定部」であって、具体的には、「FMモードに於けるビート信号はハイパスフイルタ14側へ出力され」、「ハイパスフィルタ14のカットオフ周波数をFcとすると、相対距離が0?Rの範囲のとき、接近中ではダウンスイープ時のビート周波数Fdnのみ出力され、離間中ではFup>Fdnとなるので、アツプスイープ時のビート周波数Fupのみ出力されることになり、相対距離が0?Rcの範囲では、ダウンスイープ時かアツプスイープ時かの何れか一方のビート信号のみハイパスフィルタ14から出力されるので、ビート信号の有無を検出し、相対距離がRc以下のときの相対速度の極性を判定する」ものである点。 (2)相違点についての判断 ア 相違点4について 事案に鑑み、相違点4について判断する。 本願発明における「前記第1のビート周波数が前記第2のビート周波数より小さい場合」や「前記第1のビート周波数が前記第2のビート周波数より大きい場合」とは、本願発明が「第1のビート周波数を得る第1の計測を行い」、「第2のビート周波数を得る第2の計測を行」なっていることを併せ考えると、 「前記第1のビート周波数」と「前記第2のビート周波数」がそれぞれ計測されたことを前提として、両者の大小関係を判断した結果を意味していることは明らかである。 これに対し、引用発明5では、相対距離が0?Rの範囲のときに、「ダウンスイープ時のビート周波数Fdn」と「アツプスイープ時のビート周波数Fup」のどちらか一方のみが出力されることを前提として、「ダウンスイープ時のビート周波数Fdn」と「アツプスイープ時のビート周波数Fup」のビート信号の有無を検出し、何れが検出されたかよって、目標の接近、離反を判断し、相対距離がRc以下のときの相対速度の極性を判定しているのである。 よって、例えば引用文献2?4に記載されているとおり、「レーダ装置の送信信号として、周波数が一定の期間、周波数が直線的に上昇する期間及び直線的に下降する期間を有するものを用いる技術」が周知技術であって、特に、引用文献2には、「周波数が直線的に上昇及び下降」する期間である「FMCW期間」で検出される、「アップ期間」の「ビート周波数α」と「ダウン期間」の「ビート周波数β」、及び「送信信号の周波数」が「周波数f0」の「CW期間」で検出される「ビート周波数γ」を用いて、「移動体である目標物体」の「相対速度V」が、 「 V=(γ・C)/[2・(f0-γ)] …式(1)」 「 V=C・(β-α)/(4・f0) …式(3) ただし、ここでCは光速である。」 として求められることが記載されているとしても、上記周知技術(引用文献2?4)には、周波数が一定の期間のビートから相対速度の絶対値を求め、周波数が直線的に上昇する期間及び直線的に下降する期間のビート周波数の大小関係から相対速度の符号を求めることが何ら示されていない以上、上記相違点4に係る本願発明の構成は、当業者といえども、引用発明5及び周知技術(引用文献2?4)に基づいて容易になし得たことであるとはいえない。 (3)まとめ 以上のとおり、相違点1?3について判断するまでもなく、本願発明は、当業者が引用発明5及びに基づいて容易に発明をすることができたものであるとはいえない。 第5 原査定の概要及び原査定についての判断 (1)原査定の概要は、次のとおりである。 1.(進歩性)この出願の下記の請求項に係る発明は、その出願前日本国内又は外国において頒布された下記の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。 2.(明確性)この出願は、特許請求の範囲の記載が下記の点で、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない。 記 (引用文献等については引用文献等一覧参照) 理由1(進歩性)について ・請求項1 ・引用文献等1-5 理由2(明確性)について ・請求項1 「第1のビート周波数」と「第2のビート周波数」が、どのような条件を満たした場合に、符号を正または負と判定するのか、その判定条件が請求項1の記載上で明らかでないので、発明が不明確である。 (2)原査定についての判断 ア 理由1について 上記「第4 対比・判断」で述べたとおり、本願発明(平成29年11月16日付けの手続補正で補正された特許請求の範囲の請求項1に記載された発明)は、当業者が引用発明1及び周知技術(引用文献2?4)に基づいて容易に発明をすることができたものではなく、また、引用発明5及び周知技術(引用文献2?4)に基づいて容易に発明をすることができたものでもない。 よって、理由1は解消した。 イ 理由2について 平成29年11月16日付けの手続補正により、「前記第1のビート周波数が前記第2のビート周波数より小さい場合に接近目標と判定し、前記第1のビート周波数が前記第2のビート周波数より大きい場合に離反目標と判定して前記目標物の相対速度の符号を判定する」との事項が請求項1に追加された結果、理由2は解消した。 ウ まとめ 以上のとおり、原査定を維持することはできない。 第6 当審拒絶理由について 当審では、請求項1について、「第3の期間」において発生する送信波は、「周波数を一定に保つ」送信波であって、「周波数変調した送信波」ではないから、請求項1に係る発明は明確でないとの拒絶理由を通知しているが、平成29年11月16日付けの手続補正により、請求項1について「送信波の周波数を一定に保つ第3の期間において送信波を発生し」との補正がなされた結果、この拒絶理由は解消した。 第7 むすび 以上のとおり、本願発明は、当業者が引用発明1及び周知技術(引用文献2?4)に基づいて容易に発明をすることができたものではなく、また、引用発明5及び周知技術(引用文献2?4)に基づいて容易に発明をすることができたものでもない。 したがって、原査定の理由によっては、本願を拒絶することができない。 また、他に本願を拒絶すべき理由を発見しない。 よって、結論のとおり審決する。 |
審決日 | 2017-12-20 |
出願番号 | 特願2012-90425(P2012-90425) |
審決分類 |
P
1
8・
537-
WY
(G01S)
P 1 8・ 121- WY (G01S) |
最終処分 | 成立 |
前審関与審査官 | ▲高▼場 正光、中村 説志、田中 純、小川 亮 |
特許庁審判長 |
中塚 直樹 |
特許庁審判官 |
清水 稔 須原 宏光 |
発明の名称 | レーダ装置 |
代理人 | 高村 順 |