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審決分類 |
審判 査定不服 2項進歩性 取り消して特許、登録 H01B |
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管理番号 | 1335628 |
審判番号 | 不服2017-518 |
総通号数 | 218 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許審決公報 |
発行日 | 2018-02-23 |
種別 | 拒絶査定不服の審決 |
審判請求日 | 2017-01-13 |
確定日 | 2018-01-09 |
事件の表示 | 特願2013-136490「酸化物超電導導体及び酸化物超電導導体の製造方法」拒絶査定不服審判事件〔平成27年 1月19日出願公開、特開2015- 11867、請求項の数(4)〕について、次のとおり審決する。 |
結論 | 原査定を取り消す。 本願の発明は、特許すべきものとする。 |
理由 |
第1 手続の経緯 本願は、平成25年6月28日の出願であって、平成28年10月12日付けで拒絶査定(原査定)がされ、これに対し、平成29年1月13日に拒絶査定不服審判が請求され、同時に手続補正がされたものである。 第2 原査定の理由の概要 原査定(平成28年10月12日付け拒絶査定)の概要は次のとおりである。 本願請求項1-4に係る発明は、以下の引用文献1に基づいて、その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下、「当業者」という。)が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。 引用文献一覧 1.特開平3-141512号公報 第3 本願発明 本願の請求項1-4に係る発明(以下、それぞれ「本願発明1」-「本願発明4」という。)は、平成29年1月13日付けで手続補正された特許請求の範囲の請求項1-4に記載された事項により特定される発明であり、本願発明1-4は以下のとおりの発明である。 「【請求項1】 基材の上方に、中間層と、酸化物超電導層とを備えた酸化物超電導導体であって、 前記中間層は、拡散防止層と配向層とキャップ層とを備え、 前記酸化物超電導層は、前記中間層の結晶配向に沿い結晶成長した酸化物超電導体の内部に、特定の方向に結晶成長していない窒化物粒子が磁束ピンニング物質として分散されてなる蒸着膜であることを特徴とする酸化物超電導導体。 【請求項2】 前記窒化物粒子が、Fe_(4)N、Mn_(4)N、NbN、HfN、ZrN、TaN、TiN、REN(希土類元素の窒化物)、Zn_(3)N_(2)、Mg_(3)N_(2)、Cu_(3)N、Ba_(3)N_(2)、Sr_(3)N_(2)、W_(2)N、VN、Si_(3)N_(4)、AlN、BN、Ta_(2)N、Be_(3)N_(2)、GaN、Nb_(2)N、Ta_(2)N、Mo_(2)Nのいずれか1種又は2種以上であることを特徴とする請求項1に記載の酸化物超電導導体。 【請求項3】 前記窒化物粒子が前記酸化物超電導層に0.5モル%?30モル%含有されたことを特徴とする請求項1または2に記載の酸化物超電導導体。 【請求項4】 請求項1?3のいずれか一項に記載の酸化物超電導導体の製造方法であって、前記基材上に形成された前記中間層の上に、前記窒化物粒子の1種または2種以上を含有するターゲットを用いて、蒸着法により前記酸化物超電導層を成膜することを特徴とする酸化物超電導導体の製造方法。」 第3 引用文献・引用発明 原査定の拒絶理由に引用された上記引用文献1には、図面とともに次の事項が記載されている。(下線は、当審において付与した。) a.特許請求の範囲 「2.特許請求の範囲 (1) 貴金属、アルミナ、マグネシア、窒化ホウ素、窒化ケイ素及び炭化ケイ素よりなる群のうちの少なくとも1種以上の微細粒子を分散させてピン止め点として作用させてなることを特徴とする酸化物超伝導体。 (2) 分散させる微細粒子の粒径が1μm 以下であることを特徴とする請求項(1)記載の酸化物超伝導体。 (3)分散させる微細粒子の量が全量の0.01?5vol%であることを特徴とする請求項(1)又は(2)記載の酸化物超伝導体。 (4) 酸化物超伝導体がLn-Ba-Cu-O系(Ln:希土類元素)、Bi(Pb)-Sr-Ca-Cu-O系、Tl-Ba-Ca-Cu-O系よりなる群のうちいずれか1種であることを特徴とする請求項(1)?(3)項いずれかに記載の酸化物超伝導体。」 b.第1頁右下欄第2行-第5行 「〔産業上の利用分野〕 本発明は蓄電・送電システム、磁気浮上列車、磁気共鳴画像処理システム等に適用される酸化物超伝導体に関する。」 c.第1頁右下欄第15行-第2頁左下欄第2行 「〔発明が解決しようとする課題〕 従来の金属系材料では、4.2K近傍で使用する際に粒界等がピン止め点(ローレンツ力による磁束線の動きを抑制する)として作用するので、高磁場中でも高い臨界電流密度を有しNb_(5)Sn等では約20T(テスラ)の高磁場も発生可能である。 これに対して酸化物超伝導体は、例えば金属シースに充填し、延伸加工後熱処理を施せば超伝導性を示す線材にできるが、ウィークリンク、フラックスクリープ等の理由により、液体窒素温度では臨界電流密度が低く、実用化への壁となっている。そこで酸化物超伝導体にも新たに強いピン止め点を導入する必要がある。 本発明は上記技術水準に鑑み、人工のピン止め中心を有する酸化物超伝導体を提供しようとするものである。 〔課題を解決するための手段〕 以上の問題点を解決するために、本発明者らは鋭意研究の結果、酸化物超伝導体に微細な不純物粒子を分散させることによりピン止め効果が向上し、磁場中での臨界電流密度の改善されることを確認した。本発明はこの知見に基いて完成されたものであって、貴金属、アルミナ、マグネシア、窒化ホウ素、窒化ケイ素及び炭化ケイ素よりなる群のうちの少なくとも1種以上の微細粒子を分散させてピン止め点として作用させてなることを特徴とする酸化物超伝導体である。 本発明で対象とする酸化物超伝導体は、Ln-Ba-Cu-0系(Ln:Y,La,Ce,Nd,Sm,Bw,Gd,Tb,Dy,Ho,Br,Tmなどの希土類元素)、Bi(Pb)-Sr-Ca-Cu-0系、Tl-Ba-Ca-Cu-0系であり、不純物微細粒子としては、Au,Ag,Ptなどの貴金属、アルミナ、マグネシア、窒化ホウ素、窒化ケイ素及び炭化ケイ素などであり、その粒系は1μm 以下が好ましく、また、その添加量は0.01?5vol%が好ましい。 〔作用〕 微細な不純物微粒子がピン止め点として作用し、高磁場中においても高い臨界電流密度を有するようになる。微細な不純物微粒子の粒径を1μm 以下としたのは1μm を越えるとピン止めの効果が現われないためであり、・また添加量を0.01?5vol%としたのは、0.01wt%未満ではピン止め効果が現われず、5vol%を越えると超伝導粒子同志の接触を妨げ、臨界電流密度の低下を引き起こすためである。」 d.第2頁左下欄第3行-第3頁左上欄第20行 「以下、磁化特性(ピン止め効果が大きくなると磁化曲線のヒステリシスが大きくなる)及び磁場中での臨界電流密度の測定を行い、実施例、比較例により本発明の効果を立証する。 〔実施例〕 〔実施例1〕 平均粒径1μm のBi_(2)Sr_(2)Ca_(2)Cu_(3)O_(X)粉末に、平均粒径0.1μm の銀粉末を0.1vol%加えてボールミル混合を行った。混合後、粉末を直径20mmのペレットに加圧成形し、845℃で20時間焼結した。 得られた焼結体について、試料振動式磁力計を用いて77Kで磁化測定を行った。結果を第1図に示す。 〔比較例1〕 実施例1の比較として銀粉末を添加せずに、実施例1と同様に焼結体を作製し、磁化測定を行った。結果を第1図に併記する。 第1図から銀を添加したものでは磁化のヒステリシスが大きく、ピン止め力が向上したことは明らかである。 〔実施例2〕 添加する微細粒子を、金、白金、アルミナ,マグネシア,窒化ホウ素,窒化ケイ素,炭化ケイ素とした以外は実施例1と同じ条件で行った。その結果、実施例1と同様に第2図に示すようなヒステリシスの増加が確認された。 〔実施例3〕 酸化物超伝導体をLnBa_(2)Cu_(3)O_(X)(Ln:Y,La,Ce,Nd,Sm,Bw,Gd,Tb,Dy,Ho,Br,Tm,Tl_(2)Ba_(2)Ca_(2)-Cu_(3)O_(X)とし、実施例1と同様に銀粉末を添加して、それぞれ、920℃、900℃で20時間焼結した。得られた焼結体について磁化測定(77K)をを行った結果、いずれについても無添加と比べて磁化のヒステリシスの増加が確認された。 〔実施例4〕 実施例1において銀粉末の添加量を0.005,0.01,l ,5 ,10va1%として焼結体を作製し、77Kで磁化測定及び直流4端子法による臨界電流密度測定を行った。銀粉末添加量に対する磁化のヒステリシス、臨界電流密度の変化(いずれも0.5Tにふける)を第3図に示す。 第3図より、磁化のヒステリシスは添加量の増加に伴い増加するが、10vol%では粒同志の接触を妨げるためか臨界電流密度が低下しており、銀粉末添加量としては0.01?5vo1%が適正であると言える。 銀粉末以外の微細粒子の添加においても同様の傾向が認められる。 〔実施例5〕 実施例1において、銀粉末の平均粒径を1,3μm とした以外は実施例1と同様に焼結体を作製した。磁化特性を評価した結果、平均粒径1μm ではわずかに磁化のヒステリシスの増加が認められたものの、平均粒径3μm では無添加に比べて磁化曲線に変化は見られなかった。 銀粉末以外の微細粒子の粒径も同様の傾向が認められる。 〔発明の効果〕 以上のように、本発明によれば酸化物超伝導体に1μm 以下の微細な特定の添加物を分散させることによりピン止め効果が向上し、高磁場中でも高い臨界電流密度を有する超伝導体の作製が可能となる。」 上記記載(特に下線部)によれば、引用文献1には、以下の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されているといえる。 「蓄電・送電システム、磁気浮上列車、磁気共鳴画像処理システム等に適用される酸化物超伝導体であって、 貴金属、アルミナ、マグネシア、窒化ホウ素、窒化ケイ素及び炭化ケイ素よりなる群のうちの少なくとも1種以上の微細粒子を分散させてピン止め点として作用させてなり、 分散させる微細粒子の粒径が1μm 以下であり、 分散させる微細粒子の量が全量の0.01?5vol%であり、 酸化物超伝導体がLn-Ba-Cu-O系(Ln:希土類元素)、Bi(Pb)-Sr-Ca-Cu-O系、Tl-Ba-Ca-Cu-O系よりなる群のうちいずれか1種であることを特徴とする酸化物超伝導体。」 第4 対比・判断 1.本願発明1について (1)対比 本願発明1と引用発明とを対比する。 引用発明の「貴金属、アルミナ、マグネシア、窒化ホウ素、窒化ケイ素及び炭化ケイ素よりなる群のうちの少なくとも1種以上の微細粒子を分散させてピン止め点」として作用させる構成は、本願発明1の「前記酸化物超電導層は、前記中間層の結晶配向に沿い結晶成長した酸化物超電導体の内部に、特定の方向に結晶成長していない窒化物粒子が磁束ピンニング物質として分散されてなる蒸着膜である」構成と、「酸化物超電導体の内部に、窒化物粒子が磁束ピンニング物質として分散されてなる」構成である点では共通する。 引用発明の「酸化物超伝導体」は、後述する相違点を除き、本願発明1の「酸化物超伝導導体」に相当する。 したがって、本願発明1と引用発明との間には、以下の一致点及び相違点があるといえる。 (一致点) 「酸化物超電導導体であって、 酸化物超電導体の内部に、窒化物粒子が磁束ピンニング物質として分散されてなることを特徴とする酸化物超電導導体。」 (相違点1) 本願発明1は、「基材の上方に、中間層と、酸化物超電導層とを備えた酸化物超電導導体であって、前記中間層は、拡散防止層と配向層とキャップ層とを備」えているのに対し、引用発明の「酸化物超伝導体」は、そのような構成はない点。 (相違点2〉 本願発明1では、「前記酸化物超電導層は、前記中間層の結晶配向に沿い結晶成長した酸化物超電導体の内部に、特定の方向に結晶成長していない窒化物粒子が磁束ピンニング物質として分散されてなる蒸着膜である」のに対し、引用発明は、そのような構成はない点。 (2)判断 事案に鑑みて相違点2について先に検討する。 引用文献1には、上記相違点2に係る本願発明1の構成は、記載されておらず、示唆されてもいない。また、上記相違点2に係る本願発明1の構成が、本願出願日前に周知技術であったとはいえない。 したがって、上記相違点1を検討するまでもなく、本願発明1は、当業者であっても、引用発明及び引用文献1に記載された技術事項に基づいて容易に発明をすることができたとはいえない。 2.本願発明2、3について 本願発明2、3は、上記相違点2に係る本願発明1の構成と同一の構成を備えるものであるから、本願発明1と同様の理由により、当業者であっても、引用発明及び引用文献1に記載された技術事項に基づいて容易に発明できたものとはいえない。 3.本願発明4について 本願発明4は、本願発明1、2、3の酸化物超伝導体の製造方法の発明であり、上記相違点2に係る本願発明1の構成と同様の構成を備えるものであるから、本願発明1と同様の理由により、当業者であっても、引用発明1及び引用文献1に記載された技術事項に基づいて容易に発明をすることができたものとはいえない。 第5 むすび 以上のとおり、原査定の理由によっては、本願を拒絶することはできない。 また、他に本願を拒絶すべき理由を発見しない。 よって、結論のとおり審決する。 |
審決日 | 2017-12-18 |
出願番号 | 特願2013-136490(P2013-136490) |
審決分類 |
P
1
8・
121-
WY
(H01B)
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最終処分 | 成立 |
前審関与審査官 | 和田 財太 |
特許庁審判長 |
千葉 輝久 |
特許庁審判官 |
山澤 宏 和田 志郎 |
発明の名称 | 酸化物超電導導体及び酸化物超電導導体の製造方法 |
代理人 | 小室 敏雄 |
代理人 | 清水 雄一郎 |
代理人 | 五十嵐 光永 |
代理人 | 棚井 澄雄 |
代理人 | 志賀 正武 |