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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 取り消して特許、登録 B41J
管理番号 1335636
審判番号 不服2017-2217  
総通号数 218 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2018-02-23 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2017-02-15 
確定日 2018-01-09 
事件の表示 特願2012-209886「液体噴射ヘッドおよび液体噴射装置」拒絶査定不服審判事件〔平成26年 4月17日出願公開、特開2014- 65150、請求項の数(9)〕について、次のとおり審決する。 
結論 原査定を取り消す。 本願の発明は、特許すべきものとする。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、平成24年9月24日付けの特許出願であって、原審において、平成28年6月14日付けで手続補正書が提出され、同年11月11日付けで拒絶査定(以下「原査定」という。原査定の謄本の送達(発送)日 同月22日。)がされ、これに対して、平成29年2月15日に拒絶査定不服審判が請求されると同時に手続補正書が提出されて特許請求の範囲を補正する手続補正がなされ、その後、当審において同年8月23日付けで拒絶理由が通知され、指定期間内の同年10月26日付けで手続補正がされたものである。

第2 原査定の概要について
原査定に係る拒絶理由の概要は、次のとおりである
この出願の下記の請求項に係る発明は、その出願前に日本国内又は外国において頒布された、下記の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

記(引用文献等については引用文献等一覧参照)
<引用文献等一覧>
A.特開2000-309096号公報(引用文献A)
B.特開平4-241949号公報(引用文献B)
C.特開2008-143167号公報(引用文献C)
D.特開2011-104791号公報(引用文献D)
E.特開2010-143171号公報(引用文献E)

原査定時における本願の請求項1ないし10に係る発明は、引用文献AないしEに記載された発明あるいは周知の技術事項をもとに、当業者が容易になし得たものである。

第3 当審で通知した拒絶理由の概要
当審において、平成29年8月23日付けで通知した拒絶理由の概要は、次のとおりである。
本願の下記の請求項に係る発明は、その出願前に日本国内又は外国において、頒布された下記の刊行物に記載された発明に基づいて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

記(引用文献については引用文献一覧参照)
(引用文献一覧)
1.特開2000-309096号公報(拒絶査定時の引用文献Aであって、以下「引用例1」という。)
2.特開2011-104791号公報(拒絶査定時の引用文献Dであって、以下「引用例2」という。)
3.特開2010-143171号公報(拒絶査定時の引用文献Eであって、以下「引用例3」という。)

・請求項1?8
・引用文献等 引用例1、2
・備考
引用例1(特に、段落【0026】?【0029】、【0049】?【0051】、【0052】?【0053】、及び図1、2、4、5を参照。)
引用例2(特に、段落【0016】、【0037】?【0046】、【0056】?【0061】、【0062】?【0069】、【0070】?【0073】、及び図1?7を参照。)

・本願請求項1に係る発明(以下「本願発明1」という。)について
本願発明1と、引用例1に記載されている発明(以下「引用発明1」という。)とを対比すると、後者の「第1基板31」は前者の「圧電プレート」に相当しており、同様に、「(第1基板31の長手方向中央に位置する)仕切壁37」は「隔壁」に相当し、「仕切壁37により仕切られている(仕切壁37を挟むように両側に並んで形成された)溝35」は「第一吐出溝と第二吐出溝」に相当するものといえる。そして、「溝35(インク加圧室A)と対応してノズル孔41が穿設されているノズル板43」は、「複数のノズルからなる第一ノズル列と第二ノズル列を有するノズルプレート」に相当し、「(2つの)インク加圧室Aからインクを導出する(2つの)インク導出路49(図2参照。)」は「第一吐出溝および第二吐出溝の排出経路」に相当するものといえる。

したがって、本願発明1と引用発明1とは、次の点で相違する。
(相違点1)
本願発明1は、「第一ノズル列の配列方向において第一吐出溝と交互に形成された複数の第一非吐出溝と、第二ノズル列の配列方向において第二吐出溝と交互に形成された複数の第二非吐出溝とを有する」のに対し、引用発明1は、非吐出溝を有するものではない点。
(相違点2)
本願発明1では、「第一吐出溝および第二吐出溝の排出経路が共通化されている」のに対し、引用発明1では、排出経路(インク導出路49)が共通化されているか否かが明確ではない点。

上記の相違点について検討する。
(1)相違点1について
引用例2には、「圧電プレートの複数の細長い溝は深い深溝と浅い浅溝が交互に隣接して基準方向に配列し、」「前記深溝と前記ノズルが連通し、」「浅溝5b、5dには液体が侵入しないように構成して」「導電性の液体を使用した場合でも、浅溝5bの電極16bと深溝5cの電極16cの間や浅溝5b内の複数の駆動電極16bの間が電気的に短絡することがない。そのために導電性の液体を使用することが可能となり、かつ深溝5aと深溝5cから互いに独立して同時に液滴を噴射させることができる」液体噴射ヘッドに係る発明が記載されている(段落【0016】、【0039】、【0045】参照。)。
上記の「(ノズルが連通する)深溝」は本願発明1の「吐出溝」に相当し、同様に「(液体が侵入しない)浅溝」は「非吐出溝」に相当するから、引用例2に記載された発明(以下「引用発明2」という。)は、上記相違点1に係る本願発明1の発明特定事項を開示しているといえる。しかも、引用発明1において、導電性の液体(インク)の使用を可能にすることの優位性は明らかである。
してみれば、引用発明1において、引用発明2を採用することにより、上記相違点1に係る本願発明1の発明特定事項とすることは、当業者であれば容易に想到しうる程度の事項といえる。
(2)相違点2について
引用例2には、独立して制御される2つのノズル(3a、3b)を備える深溝5a(吐出溝)が示されている図4に関して、「深溝5aの両端部から液体を供給し、中央部から排出」(段落【0061】)という記載がある。この記載は、上記相違点2に係る本願発明1の発明特定事項を示唆したものといえる。そして、引用発明1と引用発明2とは、基本的な構造と機能において共通性が認められるし、排出された液体は合流して循環するから、引用発明1において、引用発明2を採用することにより、上記相違点2に係る本願発明1の発明特定事項とすることは、当業者であれば容易に想到しうる程度の事項といえる。
(3)本願発明1の発明特定事項の全体によって奏される効果も、引用発明1、2から当業者が予測し得る範囲内のものである。
よって、本願発明1は、引用発明1、2に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

・本願請求項2ないし8の発明(以下「本願発明2ないし8」という。)について
(1)本願発明2は「前記第一ノズル列と前記第二ノズル列の配列方向と、前記第一吐出溝と前記第二吐出溝の長手方向が直交していること」を発明特定事項とし、本願発明3は、「前記第一ノズル列と前記第二ノズル列の配列方向に対し、前記第一吐出溝と前記第二吐出溝の長手方向が所定角度傾斜していること」を発明特定事項とするものであるが、引用例1の段落【0049】、【0052】の記載と図4、5には、上記のいずれの発明特定事項も開示されており、引用発明1はこれらの発明特定事項を包含するものといえる。
(2)本願発明4は「前記第一吐出溝と前記第二非吐出溝および前記第二吐出溝と前記第一非吐出溝は、前記隔壁を介して隣り合うこと」を発明特定事項とするものである。これに対し、引用例1には、「仕切壁63の両側に交互に位置をずらしてインク加圧室Aが形成されている」(段落【0049】)との記載、及び図4が示されており、上記の「仕切壁63」は本願発明4の「隔壁」に相当し、同様に「インク加圧室A」は「吐出溝」に相当するものであるから、引用例1の上記記載、及び図4は本願発明4に係る発明特定事項を示唆するものといえる。
(3)本願発明5は、「前記第一吐出溝と前記第二吐出溝および前記第一非吐出溝と前記第二非吐出溝は、前記隔壁を介して隣り合うこと」を発明特定事項とするものである。一方、引用例1の段落【0004】?【0006】及び図7には溝(吐出溝)5同士が仕切壁(隔壁)7を介して隣り合う構成を従来技術として示す記載があり、引用例1の当該記載は上記発明特定事項を示唆するものといえる。
(4)本願発明6は、「前記複数のノズルは、ノズルの配列方向において前記第一ノズル列のノズルが前記第二ノズル列のノズル間に位置する千鳥配列であること」を発明特定事項とするものである。一方、引用例1には、「このインクジェットヘッドでは、隔壁61が仕切壁63の両側に千鳥状に形成されている。」「第2基板65には、インク加圧室Aに対応してガイド孔67の形成位置がずれて形成されている。」との記載(段落【0049】)と共に、これに関連して図4が示されており、上記の「ガイド孔67」とノズル孔(ノズル)の形成位置は対応しているから、引用例1の上記記載、及び図4は本願発明6に係る発明特定事項を開示しているといえる。
(5)本願発明7は「前記第一吐出溝に連通し前記第一吐出溝に液体を供給する第一供給インク室、前記第一吐出溝から液体を排出する第一排出インク室、前記第二吐出溝に連通し前記第二吐出溝に液体を供給する第二供給インク室および前記第二吐出溝から液体を排出する第二排出インク室を有するカバープレートを備えたこと」を発明特定事項とするものである。
これに対し、引用例1には「第2基板39には、ノズル孔41に連結するガイド孔45と、インク加圧室Aにインクを導入するインク導入路47、インク加圧室Aからインクを導出するインク導出路49が形成されている。」(段落【0028】)との記載と共に図1、2が示されている。そして、図2は、仕切壁37を挟んで対向する2つのインク加圧室Aのそれぞれに対応して、「インク導入路47」と「インク導出路49」とが形成されることを示しているから、上記の「インク加圧室Aにインクを導入するインク導入路47、インク加圧室Aからインクを導出するインク導出路49」は、本願発明7の「第一吐出溝に連通し第一吐出溝に液体を供給する第一供給インク室、第一吐出溝から液体を排出する第一排出インク室、第二吐出溝に連通し第二吐出溝に液体を供給する第二供給インク室および第二吐出溝から液体を排出する第二排出インク室」に相当しており、引用文献1記載の「第2基板39」は本願発明7の「カバープレート」に相当する。したがって、引用発明1は本願発明7に係る発明特定事項を包含するものといえる。
(6)本願発明8は「前記第一供給インク室と前記第二供給インク室へ液体を供給する供給ポートおよび前記第一排出インク室と前記第二排出インク室から液体を排出する排出ポートを有する流路部材を備えたこと」を発明特定事項とするものである。
一方、引用例2には「液体噴射ヘッド1はノズルプレート2と圧電プレート4とカバープレート8と流路部材11の積層構造を備えている・・・流路部材11は、カバープレート8側の他方面に開口する凹部からなる液体供給室12及び液体排出室13を備え、カバープレート8とは反対側の一方面には液体供給室12及び液体排出室13にそれぞれ連通する供給用継手14及び排出用継手15を備えている。」(【0063】?【0064】参照。)という記載があって、上記の「液体供給室、液体排出室」は、本願発明8の「供給インク室、排出インク室」に相当し、同様に「供給用継手、排出用継手」は「供給ポート、排出ポート」に相当する。
引用発明1と引用発明2との間には、基本的な構造と機能において共通するところが認められ、2つのインク加圧室Aのそれぞれに対応して「インク導入路(供給インク室)」と「インク導出路(排出インク室)」とが形成される引用発明1において、引用発明2と同様の積層構造と流路部材に係る構成を採用して、本願発明8の発明特定事項とすることに格別の困難性は認められない。
(7)よって、本願発明2ないし8は、引用発明1、2に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

・請求項9、10
・引用文献等 引用例1、2、3
・備考
引用例1、2(特に、上記の指摘個所を参照。)
引用例3(特に、段落【0012】、【0013】、【0019】?【0026】、及び図1ないし5を参照。)

・本願請求項9、10に係る発明(以下「本願発明9、10」という。)について
(1)本願発明9は「前記ノズルプレートと前記圧電プレートの間に接合された補強板を有し、前記補強板は前記複数のノズルと前記第一吐出溝および前記第二吐出溝とをそれぞれ連通する複数の貫通穴を有すること」を発明特定事項とするものである。
一方、引用例3には、「インクジェットヘッド11は、圧電部材15、基板12、ノズルプレート6、補強部材7、枠部材16で構成されている。」(段落【0013】)、「圧電部材15の上には補強部材7とノズルプレート6が接着されている。ノズルプレート6にはノズル4が圧力室9の長手方向において中央部に形成され、補強部材7には各々の圧力室9とノズル4を流体的に連通する開口部5が形成されている。」(段落【0019】)との記載がある。
上記の「補強部材7」及び「開口部5」は、本願発明9の「補強板」及び「貫通穴」に相当するもので、引用例3には、本願発明9に係る上記の発明特定事項と同様の技術事項が開示されている。
引用発明1においても、必要に応じて、引用例3に係る上記の技術事項を採用して、本願発明9の発明特定事項とすることは、当業者であれば容易に想到しうる程度の事項といえる。
(2)本願発明10は「請求項1乃至9のいずれか一項に記載の液体噴射ヘッドを有する液体噴射装置。」を発明特定事項とするものであるが、引用例1ないし3にも、液体噴射装置あるいはそれに相当するものが実質的に開示されていると認められる。
(3)よって、本願発明9、10は、引用発明1、2、または引用発明1、2、及び引用例3に記載された周知の技術事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

第4 本願発明
本願の請求項1ないし9に係る発明(以下「本願発明1」ないし「本願発明9」という。)は、平成29年10月26日付けの手続補正書で補正された特許請求の範囲の請求項1ないし9に記載された事項により特定される次のとおりのものである。(上記の補正によって、補正前の請求項7は削除されて、請求項の数は9となった。)
「【請求項1】
複数のノズルからなる第一ノズル列と第二ノズル列を有するノズルプレートを備えた液体噴射ヘッドにおいて、
前記第一ノズル列の前記複数のノズルに連通する複数の第一吐出溝と、前記第二ノズル列の前記複数のノズルに連通する複数の第二吐出溝とを有する圧電プレートを備え、
前記第一吐出溝と前記第二吐出溝は、前記第一吐出溝と前記第二吐出溝の間に位置する隔壁によって分離されており、
前記第一ノズル列の配列方向において前記第一吐出溝と交互に形成された複数の第一非吐出溝と、前記第二ノズル列の配列方向において前記第二吐出溝と交互に形成された複数の第二非吐出溝とを有し、
前記第一吐出溝および前記第二吐出溝の排出経路が共通化されている、
液体噴射ヘッドであって、
前記第一吐出溝に連通し前記第一吐出溝に液体を供給する第一供給インク室、前記第一吐出溝から液体を排出する第一排出インク室、前記第二吐出溝に連通し前記第二吐出溝に液体を供給する第二供給インク室および前記第二吐出溝から液体を排出する第二排出インク室を有するカバープレートを備え、かつ
前記第一排出インク室と前記第二排出インク室からの排出経路を内部で共通化する、前記カバープレートに付設された流路部材を備えることを特徴とする液体噴射ヘッド。
【請求項2】
前記第一ノズル列と前記第二ノズル列の配列方向と、前記第一吐出溝と前記第二吐出溝の長手方向が直交していることを特徴とする請求項1に記載の液体噴射ヘッド。
【請求項3】
前記第一ノズル列と前記第二ノズル列の配列方向に対し、前記第一吐出溝と前記第二吐出溝の長手方向が所定角度傾斜していることを特徴とする請求項1に記載の液体噴射ヘッド。
【請求項4】
前記第一吐出溝と前記第二非吐出溝および前記第二吐出溝と前記第一非吐出溝は、前記隔壁を介して隣り合うことを特徴とする請求項1?3のいずれか一項に記載の液体噴射ヘッド。
【請求項5】
前記第一吐出溝と前記第二吐出溝および前記第一非吐出溝と前記第二非吐出溝は、前記隔壁を介して隣り合うことを特徴とする請求項1?3のいずれか一項に記載の液体噴射ヘッド。
【請求項6】
前記複数のノズルは、ノズルの配列方向において前記第一ノズル列のノズルが前記第二ノズル列のノズル間に位置する千鳥配列であることを特徴とする請求項1?5のいずれか一項に記載の液体噴射ヘッド。
【請求項7】
前記流路部材は、前記第一供給インク室と前記第二供給インク室へ液体を供給する供給ポートおよび前記第一排出インク室と前記第二排出インク室から液体を排出する排出ポートを有することを特徴とする請求項1?6のいずれか一項に記載の液体噴射ヘッド。
【請求項8】
前記ノズルプレートと前記圧電プレートの間に接合された補強板を有し、前記補強板は前記複数のノズルと前記第一吐出溝および前記第二吐出溝とをそれぞれ連通する複数の貫通穴を有することを特徴とする請求項1?7のいずれか一項に記載の液体噴射ヘッド。
【請求項9】
請求項1乃至8のいずれか一項に記載の液体噴射ヘッドを有する液体噴射装置。」

第5 引用例の記載事項(以下の下線は、いずれも審決で付した。)
1.引用例1
引用例1には、図面と共に次の事項が記載されている。
「【0026】
【発明の実施の形態】図1は、本発明のインクジェットヘッドの一部を示す斜視図であり、図2は溝の長手方向の断面図、つまり図1のa-a線に沿った断面図である。
【0027】本発明のインクジェットヘッドは、第1基板31に圧電材料からなる複数条の隔壁33が一体に形成され、これらの隔壁33間の溝35が、各インク加圧室Aを形成するための仕切壁37により仕切られている。この仕切壁37も基板31に一体に形成され、隔壁33と仕切壁37は一体となっている。各インク加圧室Aに面する隔壁33の上半分の両面には、駆動電界印加用の電極38が形成され、隔壁33を挟持している。
【0028】隔壁33および仕切壁37の頂部には第2基板39が接合され、この第2基板39の上面にはノズル孔41を有するノズル板43が接合されている。ノズル孔41はノズル板43に溝35(インク加圧室A)と対応して穿設されている。第2基板39には、ノズル孔41に連結するガイド孔45と、インク加圧室Aにインクを導入するインク導入路47、インク加圧室Aからインクを導出するインク導出路49が形成されている。ノズル板43のノズル孔41と、第2基板39のガイド孔45は連通している。
【0029】そして、本発明のインクジェットヘッドでは、第1基板31に隔壁33と仕切壁37とが一体に形成されている。」
「【0049】図4は、本発明の他の例を示すもので、このインクジェットヘッドでは、隔壁61が、仕切壁63の両側に千鳥状に形成されている。即ち、仕切壁63を中心にして考えると、仕切壁63の両側に交互に位置をずらして隔壁61が形成されている。言い換えれば、仕切壁63の両側に交互に位置をずらしてインク加圧室Aが形成されている。第2基板65には、インク加圧室Aに対応してガイド孔67の形成位置がずれて形成されている。これにより、ガイド孔67群の配列方向と直交する軸の位置が、仕切壁63の両側ではh1ピッチとなる。
【0050】このようなインクジェットヘッドでは、例えば、溝幅と同一厚みを有する円盤状の切削工具を、回転軸に隔壁の厚み(インク加圧室の間隔)と同じ間隔を置いて固定し、これを用いて、仕切壁63の一方側の隔壁61群を形成し、この後、回転軸を軸方向にずらして、仕切壁63の他方側の隔壁61群を形成することにより作製できる。尚、製造方法については、上記した成形型を用いて作製しても良いことは勿論である。
【0051】以上のように構成されたインクジェットヘッドでは、仕切壁63の一方側のガイド孔67群の配列方向と直交する軸と、他方側のガイド孔67群の配列方向と直交する軸のピッチがh1となり、一方側のガイド孔67群のピッチxよりも小さくなるため、ドット密度を高くでき、高解像度の印字、画像を得ることができる。」
「【0052】また、図5に示すように、隔壁71を、仕切壁73の両側に千鳥状に形成するとともに、隔壁71を、第2基板75のガイド孔77群の配列方向と直交する軸に対して、隔壁71の形成方向が傾斜されている。
【0053】このようなインクジェットヘッドでは、仕切壁73の一方側のガイド孔77群の配列方向と直交する軸と、他方側のガイド孔77群の配列方向と直交する軸のピッチがh2となり、一方側のガイド孔77群のピッチxよりもかなり小さくなるため、ドット密度を高くでき、高解像度の印字、画像を得ることができる。」
また、以下のとおり、段落【0027】、【0028】、及び図1ないし3から次の事項が示されているといえる。
「本発明のインクジェットヘッドは、第1基板31に圧電材料からなる複数条の隔壁33が一体に形成され、これらの隔壁33間の溝35が、各インク加圧室Aを形成するための仕切壁37により仕切られている」(段落【0027】)、「ノズル孔41はノズル板43に溝35(インク加圧室A)と対応して穿設されている」(段落【0028】)との記載も参酌すると、図1ないし3から、インク加圧室Aは仕切壁37を挟むように、仕切壁37の両側に並んで形成されて、ノズル板43に穿設されたノズル孔41は、仕切壁37の両側に「複数のノズルからなる第一ノズル列と第二ノズル列」を形成していることが示されているといえる。
更に、図1及び2から、第2基板39には、「インク導入路47」と「インク導出路49」と共に、それぞれの各インク加圧室Aごとにインク導入路47からインクを導入するための連通孔と、インク加圧室Aからインク導出路49へインクを導出するための連通孔とが形成されていることが示されているといえる。

上記の記載事項を総合すると、引用例1には、次の発明(以下「引用発明1」という。)が記載されていると認定できる。
「第1基板31に圧電材料からなる複数条の隔壁33が一体に形成され、これらの隔壁33間の溝35が、各インク加圧室Aを形成するための仕切壁37により仕切られているインクジェットヘッドであって、
隔壁33および仕切壁37の頂部には第2基板39が接合され、第2基板39の上面にはノズル孔41を有するノズル板43が接合されていて、
ノズル板43に穿設されたノズル孔41は、複数のノズルからなる第一ノズル列と第二ノズル列を形成しており、
第2基板39には、ノズル孔41に連結するガイド孔45と、インク加圧室Aにインクを導入するインク導入路47と、インク加圧室Aからインクを導出するインク導出路49と共に、それぞれの各インク加圧室Aごとにインク導入路47からインクを導入するための連通孔と、インク加圧室Aからインクをインク導出路49へ導出するための連通孔とが形成されている、
インクジェットヘッド。」

2.引用例2
引用例2には、図面と共に次の事項が記載されている。
「【0016】
本発明による液体噴射ヘッドは、被記録媒体に液体を噴射する複数のノズルが基準方向に配列するノズルプレートと、一方面に複数の細長い溝がその長手方向に直交する基準方向に配列し、他方面に前記ノズルプレートを接合する圧電プレートと、前記溝に前記液体を供給する液体供給孔と前記溝から前記液体を排出する液体排出孔を有し、前記圧電プレートに前記圧電プレートの溝を覆うように設置したカバープレートとを備え、前記圧電プレートの複数の細長い溝は深い深溝と浅い浅溝が交互に隣接して基準方向に配列し、前記深溝の長手方向であり且つ深さ方向の断面が深さ方向に凸状を有し、前記凸状の頂部において前記深溝と前記ノズルが連通し、前記カバープレートは、前記圧電プレートの一方面に開口する前記浅溝の開口部を閉塞し、前記圧電プレートの一方面に開口する前記深溝と前記液体供給孔及び前記液体排出孔とを連通するように覆うこととした。」
「【0037】
(第一実施形態)
図1は、本発明の第一実施形態である液体噴射ヘッド1の模式的な分解斜視図であり、図2(a)は部分AAの模式的な縦断面図であり、図2(b)は部分BBの模式的な縦断面図であり、図2(c)は部分CCの模式的な縦断面図である。
【0038】
液体噴射ヘッド1は、ノズルプレート2、圧電プレート4、カバープレート8、及び流路部材11が積層した構造を備えている。・・・圧電プレート4は一方面7に複数の細長い溝5(5a、・・・5d)を有している。各溝5a、・・・5dは、長手方向をx方向とし、これに直交する基準方向であるy方向に配列している。各溝5a、・・・5dは側壁6a、6b、6c、6dにより仕切られている。・・・図1に示す圧電プレート4の手前側の側面は、溝5aの長手方向であり且つ深さ方向の断面を示している。・・・ここで、溝5a、5cは深さが深い深溝であり、溝5b、5cは深さが浅い浅溝である。(以下、深溝5a、5c、浅溝5b、5dという。)深溝5a、5cはその底辺が浅溝5b、5dより深い。
【0039】
圧電プレート4の一方面7にカバープレート8を貼り合せて接合する。カバープレート8として圧電プレート4と同じ材料を使用することができる。・・・カバープレート8は、その一方面から他方面にかけて貫通する液体供給孔9と液体排出孔10を備えている。液体供給孔9は浅溝5b、5dを閉塞する供給孔閉塞部9x、9yを備えている。同様に、液体排出孔10は浅溝5b、5dを閉塞するための排出孔閉塞部10x、10yを備えている。このように、浅溝5b、5dには液体が侵入しないように構成している。」
「【0056】
(第三実施形態)
図4は、本発明の第三実施形態である液体噴射ヘッド1の模式的な縦断面図である。本第三実施形態は、ノズルプレート2が1つの深溝5aに対応する2つのノズル3a、3bを備え、カバープレート8が1つの液体供給孔9と2つの液体排出孔10a、10bを備えている点が第一実施形態と異なり、その他の点については第一実施形態と同様である。以下、主に第一実施形態と異なる部分について説明する。
【0057】
図4に示すように、液体噴射ヘッド1はノズルプレート2、圧電プレート4、カバープレート8、流路部材11の順に積層構造を備えている。圧電プレート4はその一方面に細長い深溝5aと、これに隣接し、細長い方向に直交して配列する浅溝5bを備えている。深溝5aの長手方向及び深さ方向の断面は深さ方向に凸形状を有している。カバープレート8は、深溝5aの長手方向の中央開口部に対応する液体供給孔9と、深溝5aの長手方向の両端の開口部に対応する2つの液体排出孔10a、10bを備えている。
【0058】
流路部材11は、カバープレート8の液体供給孔9に対応する液体供給室12と、2つの液体排出孔10a、10bのそれぞれ対応する液体排出室12a、12bを備えている。液体供給室12は、カバープレート8とは反対側の一方面に開口し、その開口部に設けた供給用継手14から液体を供給する。液体排出室13a、13bのそれぞれは、カバープレート8の一方面に開口し、その開口部に設けた排出用継手15a、15bから液体を排出する。深溝5aは深さ方向に凸形状を有し、ノズルプレート2の2つのノズル3a、3bはその頂部において深溝5aと連通する。ノズル3aは液体供給孔9と液体排出孔10aの間に、ノズル3bは液体供給孔9と液体排出孔10bの間に位置する。」
「【0060】
深溝5aを仕切る側壁を変形させるための側壁面に設けた図示しない駆動電極は、深溝5a及び浅溝5bの長手方向中央部において電気的に分離している。ノズル3aから液体を噴射させる場合は、ノズル3a側の駆動電極に駆動電圧を与えてノズル3a側の側壁を変形させ、ノズル3bから液体を噴射させる場合は、ノズル3b側の駆動電極に駆動電圧を与えてノズル3b側の側壁を変形させる。・・・」
【0061】
なお、上記第三実施形態では深溝5aの中央部から液体を供給し両端部から液体を排出したがこれに限定されない。例えば、深溝5aの両端部から液体を供給し、中央部から排出してもよいし、液体排出孔10又は液体供給孔9を更に増やしてもよい。」

上記の記載事項を総合すると、引用例2には、次の発明(以下「引用発明2」という。)が記載されていると認定できる。
「被記録媒体に液体を噴射する複数のノズルが基準方向に配列するノズルプレート2と、一方面に複数の細長い溝がその長手方向に直交する基準方向に配列し、他方面に前記ノズルプレートを接合する圧電プレート4と、前記溝に前記液体を供給する液体供給孔と前記溝から前記液体を排出する液体排出孔を有し、前記圧電プレートに前記圧電プレートの溝を覆うように設置したカバープレート8、及び流路部材11を、ノズルプレート2、圧電プレート4、カバープレート8、流路部材11の順に積層した構造を備える液体噴射ヘッド1であって、
前記圧電プレートの複数の細長い溝は深い深溝と浅い浅溝が交互に隣接して基準方向に配列し、前記深溝と前記ノズルが連通し、前記カバープレートは、前記圧電プレートの一方面に開口する前記浅溝の開口部を閉塞し、前記圧電プレートの一方面に開口する前記深溝と前記液体供給孔及び前記液体排出孔とを連通するように覆っており、
流路部材11は、カバープレート8の液体供給孔9に対応する液体供給室12と、2つの液体排出孔10a、10bのそれぞれ対応する液体排出室12a、12bを備え、
ノズルプレート2が1つの深溝5aに対応する2つのノズル3a、3bを備え、深溝5aの両端部から液体を供給し、中央部から排出する、
液体噴射ヘッド。」

3.引用例3
引用例3には、図面と共に次の事項が記載されている。
「【0013】
インクジェットヘッド11は、圧電部材15、基板12、ノズルプレート6、補強部材7、枠部材16で構成されている。基板12、圧電部材15と補強部材7で囲まれた図1の中央部の空間はインク供給路22を形成している。インク供給路22を通して圧力室9へインクが供給される。基板12、圧電部材15、枠部材16と補強部材7で囲まれた空間はインク排出路23を形成している。・・・」
「【0019】
圧電部材15の上には補強部材7とノズルプレート6が接着されている。ノズルプレート6にはノズル4が圧力室9の長手方向において中央部に形成され、補強部材7には各々の圧力室9とノズル4を流体的に連通する開口部5が形成されている。」
「【0023】
補強部材7は厚さ30μmのニッケル板を用いている。開口部5の側面の角度θ1は10度、θ2は60度となるように形成した。・・・」
また、図1、及び上記の「圧電部材15の上には補強部材7とノズルプレート6が接着されている。」(段落【0019】)の記載から、「ノズルプレートと圧電部材との間に、板状の補強部材を接合している」といえる。

上記の記載事項を総合すると、引用例3には、「インクジェットヘッドにおいて、ノズルプレートと圧電部材との間に、板状の補強部材を接合して、補強部材には圧力室とノズルを流体的に連通する開口部を形成する」という技術的事項(以下「引用例3に記載の技術事項」という。)が記載されていると認められる。

第6 当審で通知した拒絶理由についての当審の判断
1.本願発明1について
(1)対比
本願発明1と引用発明1とを対比する。
後者の「インクジェットヘッド」は、その構造及び機能からみて、前者の「液体噴射ヘッド」に相当しており、以下同様に、「第1基板31」は「圧電プレート」に、「仕切壁37」は「隔壁」に、「仕切壁37により仕切られている(仕切壁37を挟むように両側に並んで形成された)各インク加圧室A」は「第一吐出溝と第二吐出溝の間に位置する隔壁によって分離されている第一吐出溝と第二吐出溝」に、「複数のノズルからなる第一ノズル列と第二ノズル列を形成しているノズル孔41が穿設されているノズル板43」は、「複数のノズルからなる第一ノズル列と第二ノズル列を有するノズルプレート」に、「第2基板39」は「カバープレート」に、それぞれ相当している。
そして、後者の「仕切壁37により仕切られている(仕切壁37を挟むように両側に並んで形成された)各インク加圧室A」は、第2基板39に形成されたガイド孔45を介してノズル孔41と連通しているところから、前者の「第一ノズル列の複数のノズルに連通する複数の第一吐出溝と、第二ノズル列の前記複数のノズルに連通する複数の第二吐出溝」に相当するものといえる。
また、後者において、第2基板39に形成された「それぞれの各インク加圧室Aごとにインク導入路47からインクを導入するための連通孔と、インク加圧室Aからインクをインク導出路49へ導出するための連通孔」は、前者における「第一吐出溝に連通し前記第一吐出溝に液体を供給する第一供給インク室、前記第一吐出溝から液体を排出する第一排出インク室、第二吐出溝に連通し前記第二吐出溝に液体を供給する第二供給インク室および前記第二吐出溝から液体を排出する第二排出インク室」に相当する。

したがって、両者は、
「複数のノズルからなる第一ノズル列と第二ノズル列を有するノズルプレートを備えた液体噴射ヘッドにおいて、
前記第一ノズル列の前記複数のノズルに連通する複数の第一吐出溝と、前記第二ノズル列の前記複数のノズルに連通する複数の第二吐出溝とを有する圧電プレートを備え、
前記第一吐出溝と前記第二吐出溝は、前記第一吐出溝と前記第二吐出溝の間に位置する隔壁によって分離されている、
液体噴射ヘッドであって、
前記第一吐出溝に連通し前記第一吐出溝に液体を供給する第一供給インク室、前記第一吐出溝から液体を排出する第一排出インク室、前記第二吐出溝に連通し前記第二吐出溝に液体を供給する第二供給インク室および前記第二吐出溝から液体を排出する第二排出インク室を有するカバープレートを備える、液体噴射ヘッド。」
の点で一致し、以下の点で相違している。

[相違点1]
本願発明1は「第一ノズル列の配列方向において第一吐出溝と交互に形成された複数の第一非吐出溝と、第二ノズル列の配列方向において第二吐出溝と交互に形成された複数の第二非吐出溝とを有する」のに対し、引用発明1は、非吐出溝を有するものではない点。
[相違点2]
本願発明1では、「第一吐出溝および第二吐出溝の排出経路が共通化されている」のに対し、引用発明1では、排出経路(インク導出路49)が共通化されているか否かが明確ではない点。
[相違点3]
本願発明1は「第一排出インク室と前記第二排出インク室からの排出経路を内部で共通化する、前記カバープレートに付設された流路部材」を備えるのに対し、引用発明1は、そのようなものではない点。

(2)判断
まず、上記の相違点3について検討する。
ここで引用発明2についてみると、引用発明2における、「(カバープレート8に積層された)流路部材11」は、本願発明1の「カバープレートに付設された流路部材」に相当するものといえる。
しかし、引用発明2に係る液体噴射ヘッドは、「2つのノズル3a、3bを備え、深溝5aの両端部から液体を供給し、中央部から排出する」ものであっても、液体の排出経路は1つしかないから(引用例2の図4参照。)、流路部材11は、「第一排出インク室と前記第二排出インク室からの排出経路を内部で共通化する」ものではない。
また、引用発明1の「第2基板39(カバープレート)」は、第1基板31に形成されている「隔壁33および仕切壁37の頂部」に接合され、「第2基板39の上面にはノズル孔41を有するノズル板43が接合されて」いるから、引用発明2に係る流路部材、あるいはこれに相当するものを付設する余地がなく、引用発明1に引用発明2を適用することができない。
また、上記相違点3に係る本願発明1の発明特定事項が、当業者にとって設計事項であるとする根拠もない。
なお、引用例3に記載の技術事項にも、上記相違点3に係る本願発明1の発明特定事項は示されていない。
してみると、他の相違点について判断するまでもなく、本願発明1は、引用発明1及び2に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。

2.本願発明2ないし9について
本願発明2ないし9は、本願発明1を引用する発明であり、本願発明1と同様の理由により、本願発明2ないし9も、引用発明1及び2に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。

第7 原査定についての判断
1.引用文献B、Cの記載事項
引用文献A(引用例1)、引用文献D(引用例2)、引用文献E(引用例3)の記載事項等については、上記「第5 引用例の記載事項」で指摘したとおりである。
そして、引用文献B(特開平4-241949号公報)には、図面と共に次の事項が記載されている。
「【0001】
【産業上の利用分野】本発明は、ドロップ・オン・デマンド(DOD)型のインクジェットヘッドに関するものである。」
「【0009】
【実施例】以下本発明による実施例を図面に基づいて説明する。図1は従来例の図8に対応する本発明によるインクジェットヘッドの構成の第1の実施例であり、絶縁性基板1上に圧電性素材の隔壁5が等間隔かつ平行に接着され、インク室兼インク流路の細長い溝2が形成される。そして、これらの溝は一方の端で共通のインクだめ7により連通し、他方の端では側板9により塞がれる。更に、本発明に関わる構成として、ノズル穴3を有する上板8が前記溝及びインクだめを覆うように取り付けられるものである。この上板はノズル穴を有する部分とインクだめ側の蓋として機能する部分とを別々に作成して、それぞれを別個に取り付けて、結果として溝部及びインクだめを覆っても良い。インクはインク供給口6より導入され、共通のインクだめ7を通して各溝5に供給される。そして図9において述べたごとく隔壁5を駆動することで、インク滴4が本図においては上方に向かって吐出される。」
「【0013】図3は本発明の第2の実施例である。ここでは、図1における絶縁性基板1と隔壁5とを一体に形成した圧電性素材の基板31を用いる。・・・この様な一体での形成を行う場合、インク室兼インク流路の溝2は通常ダイシングソーによる切削加工を行う。従って図3においては、基板31の元となる圧電性素材の板に、一方の端部より溝の切削加工を開始し、他方の端部の直前でその加工を止めるという手順を繰り返す。このようにすることで、該他方の端部を図1での側板9の代用と成すことができる。また、切削加工を開始した方の側では、一部を段加工して浅い溝32を形成し、該浅い溝内に形成した電極と隔壁35の側面の電極とを導通すべく形成することで、該浅い溝を外部電極との接続部とするものである。そして、段加工した側には封止板30を取り付けてインクの流出を防止する。・・・」
「【0016】図7は本発明による第5の実施例で、図3のヘッド2個を一体化したことに相当する。この場合きわめて重要なことは、ノズル穴3の配列を見たときに、図3と同じピッチのノズル穴が2列に並ぶので、実効的に2倍の印刷密度が得られることである。これは、本発明のノズル穴配置をとったときに初めて可能になるもので、2方向から集まる溝を有効に利用できるのである。・・・」
図7から、2列のノズル穴列3が上板8に形成されており、圧電性素材の基板に形成された溝2(インク室兼インク流路)はそれぞれノズル穴列に通じると共に、2つのノズル穴列の中間部に対応する位置で、圧電性素材の基板内の隔壁部によって区分されていることが看取できる。

上記の記載事項を総合すると、引用文献Bには、次の発明(以下「引用文献B記載の発明」という。)が記載されていると認定できる。
「2列のノズル穴列3が形成された上板8が、圧電性素材の基板に形成されたインク室兼インク流路である溝2を覆うように取り付けられ、圧電性素材の基板に形成された溝2はそれぞれ対応するノズル穴に通じると共に、2つのノズル穴列の中間部に対応する位置で、圧電性素材の基板内の隔壁部によって区分されているインクジェットヘッド。」

また、引用文献C(特開2008-143167号公報)には、図面と共に次の事項が記載されている。
「【0001】
本発明はインクジェットヘッドに関し、詳しくは、インクを吐出するインクチャネルとインクを吐出しない空気チャネルとが交互に並設された複数のチャネル列を有するヘッドチップの駆動電極と駆動回路との間の電気的接続を容易に行い得るようにしたインクジェットヘッドに関する。」
「【0032】
以下、本発明の実施の形態について図面を用いて説明する。
【0033】
図1は、本発明に係るインクジェットヘッドのヘッドチップ部分を後面側から見た分解斜視図・・・である。
【0034】
図中、1はヘッドチップ、2はヘッドチップ1の前面に接合されたノズルプレートである。
・・・
【0036】
ヘッドチップ1には、圧電素子からなる駆動壁11とチャネル12、13とが交互に並設されたチャネル列が、図示上下に2列に並設されている。ここでは各チャネル列はそれぞれ9つのチャネル12、13を有するものを例示しているが、各チャネル列のチャネル数は何ら限定されない。
【0037】
ここでは、図示下側に位置するチャネル列をA列、上側に位置するチャネル列をB列とする。
【0038】
このヘッドチップ1は、各チャネル列が、チャネル一つおきにインクを吐出するインクチャネル12とインクを吐出しない空気チャネル13とが並設されることにより構成された独立チャネルタイプのヘッドチップである。各チャネル12、13の形状は、両側壁がヘッドチップ1の上面及び下面に対してほぼ垂直方向に延びており、そして互いに平行である。
・・・
【0040】
また、A列とB列とは、各インクチャネル12と各空気チャネル13とが1ピッチずれて形成されている。すなわち・・・A列のインクチャネル12とB列の空気チャネル13が同一線上に配置され、A列の空気チャネル13とB列のインクチャネル12が同一線上に配置される関係となっている。」

上記の記載事項を総合すると、引用文献Cには、次の発明(以下「引用文献C記載の発明」という。)が記載されていると認定できる。
「ヘッドチップ1と、ヘッドチップ1の前面に接合されたノズルプレート2とを備えるインクジェットヘッドであって、
ヘッドチップ1には、圧電素子からなる駆動壁11とチャネル12、13とが交互に並設されたチャネル列が、上下に2列(下側に位置するチャネル列をA列、上側に位置するチャネル列をB列とする)並設され、各チャネル列は、チャネル一つおきにインクを吐出するインクチャネル12とインクを吐出しない空気チャネル13とが並設されるものであり、
A列とB列とは、各インクチャネル12と各空気チャネル13とが1ピッチずれて形成されているインクジェットヘッド。」

2.対比と判断
本願発明1と引用文献A記載の発明(引用発明1)とを対比すると、上記「第6 1.(1)」での検討を踏まえるに、両者は上記相違点1ないし3の点で相違し、他に相違する点はない。
上記相違点3について検討すると、引用文献B記載の発明に係る「インクジェットヘッド」と引用文献C記載の発明に係る「インクジェットヘッド」は、いずれも本願発明1における「液体噴射ヘッド」に相当するものといえるが、いずれのインクジェットヘッドも、上記相違点3に係る「流路部材」を備えるものではない。
してみると、引用文献B記載の発明と、引用文献C記載の発明とは、いずれも上記相違点3に係る本願発明1の発明特定事項を開示するものではないし、示唆するものでもない。
また、上記相違点3に係る本願発明1の発明特定事項が、当業者にとって設計事項であるとする根拠もない。
したがって、本願発明1は、引用文献AないしEに記載された発明あるいは周知の技術事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。
また、本願発明2ないし9は、本願発明1を引用する発明であり、本願発明1と同様の理由により、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。
よって、原査定を維持することはできない。

第8 むすび
以上のとおり、原査定の理由によって、本願を拒絶することはできない。 また、他に本願を拒絶すべき理由を発見しない。

よって、結論のとおり審決する。
 
審決日 2017-12-18 
出願番号 特願2012-209886(P2012-209886)
審決分類 P 1 8・ 121- WY (B41J)
最終処分 成立  
前審関与審査官 有家 秀郎  
特許庁審判長 森次 顕
特許庁審判官 黒瀬 雅一
藤本 義仁
発明の名称 液体噴射ヘッドおよび液体噴射装置  
代理人 内野 則彰  
代理人 篠田 拓也  
代理人 谷川 徹  

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