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審決分類 審判 査定不服 (159条1項、163条1項、174条1項で準用) 特許、登録しない。 C08L
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 C08L
管理番号 1335702
審判番号 不服2016-9907  
総通号数 218 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2018-02-23 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2016-07-01 
確定日 2017-12-20 
事件の表示 特願2012-543971「シェービングのためのポリエチレングリコール含有組成物」拒絶査定不服審判事件〔平成23年 6月23日国際公開、WO2011/073906、平成25年 4月25日国内公表、特表2013-514424〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 主な手続の経緯

本願は、2010年(平成22年)12月14日(パリ条約による優先権主張外国庁受理2009年12月18日、欧州)を国際出願日とする特許出願であって、平成24年6月19日に特許請求の範囲が補正され、平成27年1月9日付けで拒絶理由が通知され、同年3月17日に意見書が提出され、明細書が誤訳訂正されるとともに、特許請求の範囲及び明細書が補正され、平成27年8月24日付けで拒絶理由が通知され、同年10月15日に意見書が提出されるとともに特許請求の範囲が補正され、平成28年2月26日付けで拒絶査定がされたところ、これに対して、同年7月1日に拒絶査定不服審判が請求されると同時に特許請求の範囲が補正されたので、特許法162条所定の審査がされた結果、同年8月2日付けで同法164条3項の規定による報告がされたものである。

第2 補正却下の決定

[結論]
平成28年7月1日付けの手続補正を却下する。

[理由]
1.平成28年7月1日付けの手続補正の内容
平成28年7月1日付けの手続補正(以下、「本件補正」という。)は、特許請求の範囲について、以下のとおりに変更するものである。

<補正前>
【請求項1】
1以上の低分子量ポリエチレングリコール(LMW-PEG)と1以上の高分子量ポリエチレングリコール(HMW-PEG)を含む組成物であり、前記1以上のLMW-PEGの分子量範囲が200から500ダルトンであり、さらに、前記1以上のHMW-PEGの分子量範囲が8000から45000ダルトンであり、前記1以上のLMW-PEGと前記1以上のHMW-PEGとの重量比が、2:1から8:1の範囲内にある、組成物を含むシェービングローション。
【請求項2】
請求項1に記載のシェービングローションであり、前記1以上のLMW-PEGの分子量範囲が200から400ダルトンである、シェービングローション。
【請求項3】
請求項1又は2に記載のシェービングローションであり、前記1以上のHMW-PEGの分子量範囲が30000から40000ダルトンである、シェービングローション。
【請求項4】
請求項1乃至3のいずれか1項に記載のシェービングローションであり、前記1以上のLMW-PEGと前記1以上のHMW-PEGとの重量比が、3:1から5:1の範囲内にあり、前記1以上のLMW-PEGの分子量範囲が200から400ダルトンであり、さらに、前記1以上のHMW-PEGの分子量範囲が30000から40000ダルトンである、シェービングローション。
【請求項5】
容器であり、前記容器が:
請求項1に記載のシェービングローションを含む容器容量、及び
前記容器容量から前記シェービングローションを分注するように構成されるディスペンサー、
を含む、容器。
【請求項6】
請求項5に記載の容器であり、前記1以上のLMW-PEGの分子量範囲が200から400ダルトンである、容器。
【請求項7】
請求項5又は6に記載の容器であり、前記1以上のHMW-PEGの分子量範囲が、30000から40000ダルトンである、容器。
【請求項8】
請求項5乃至7のいずれか1項に記載の容器であり、前記1以上のLMW-PEGと前記1以上のHMW-PEGとの重量比が、3:1から5:1の範囲内にあり、前記1以上のLMW-PEGの分子量範囲が200から400ダルトンであり、さらに、前記1以上のHMW-PEGの分子量範囲が30000から40000ダルトンである、容器。
【請求項9】
人毛シェービング装置であり、当該装置は:請求項5乃至8のいずれか1項に記載の容器を含み、当該装置と前記容器の前記ディスペンサーが、請求項1乃至4のいずれか1項に記載のシェービングローションを、当該人毛シェービング装置を用いてシェービングする際にユーザーの皮膚に与えるように構成される、人毛シェービング装置。
【請求項10】
請求項9に記載の人毛シェービング装置であり、電気シェービング装置である、人毛シェービング装置。
【請求項11】
請求項1乃至4のいずれか1項に記載のシェービングローションの摩擦低減シェービングローションとしての使用。
【請求項12】
請求項1乃至4のいずれか1項に記載のシェービングローションの、コンドーム潤滑剤としての使用。

<補正後>(下線は補正箇所。)
【請求項1】
1以上の低分子量ポリエチレングリコール(LMW-PEG)と1以上の高分子量ポリエチレングリコール(HMW-PEG)を含む組成物であり、前記1以上のLMW-PEGの分子量範囲が200から500ダルトンであり、さらに、前記1以上のHMW-PEGの分子量範囲が8000から45000ダルトンであり、前記1以上のLMW-PEGと前記1以上のHMW-PEGとの重量比が、2:1から8:1の範囲内にある、組成物。
【請求項2】
請求項1に記載の組成物であり、前記1以上のLMW-PEGの分子量範囲が200から400ダルトンである、組成物。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の組成物であり、前記1以上のHMW-PEGの分子量範囲が30000から40000ダルトンである、組成物。
【請求項4】
請求項1乃至3のいずれか1項に記載の組成物であり、前記1以上のLMW-PEGと前記1以上のHMW-PEGとの重量比が、3:1から5:1の範囲内にあり、前記1以上のLMW-PEGの分子量範囲が200から400ダルトンであり、さらに、前記1以上のHMW-PEGの分子量範囲が30000から40000ダルトンである、組成物。
【請求項5】
容器であり、前記容器が:
請求項1に記載の組成物を含む容器容量、及び
前記容器容量から前記組成物を分注するように構成されるディスペンサー、
を含む、容器。
【請求項6】
請求項5に記載の容器であり、前記1以上のLMW-PEGの分子量範囲が200から400ダルトンである、容器。
【請求項7】
請求項5又は6に記載の容器であり、前記1以上のHMW-PEGの分子量範囲が、30000から40000ダルトンである、容器。
【請求項8】
請求項5乃至7のいずれか1項に記載の容器であり、前記1以上のLMW-PEGと前記1以上のHMW-PEGとの重量比が、3:1から5:1の範囲内にあり、前記1以上のLMW-PEGの分子量範囲が200から400ダルトンであり、さらに、前記1以上のHMW-PEGの分子量範囲が30000から40000ダルトンである、容器。
【請求項9】
人毛シェービング装置であり、当該装置は:請求項5乃至8のいずれか1項に記載の容器を含み、当該装置と前記容器の前記ディスペンサーが、請求項1乃至4のいずれか1項に記載の組成物を、当該人毛シェービング装置を用いてシェービングする際にユーザーの皮膚に与えるように構成される、人毛シェービング装置。
【請求項10】
請求項9に記載の人毛シェービング装置であり、電気シェービング装置である、人毛シェービング装置。
【請求項11】
請求項1乃至4のいずれか1項に記載の組成物の摩擦低減シェービングローションに含まれる組成物としての使用。
【請求項12】
請求項1乃至4のいずれか1項に記載の組成物の、コンドーム潤滑剤としての使用。

2.本件補正の目的
本件補正の目的について検討する。
本件補正のうち請求項1についてする補正は、請求項1に記載した発明の対象を「組成物を含むシェービングローション」から「組成物」へと変更するものである。
すなわち、上記補正前の請求項1に係る発明は、ある特定の「組成物」を含む「シェービングローション」の発明であったのに対し、上記補正後の請求項1に係る発明は、その特定の「組成物」そのものの発明であり、「シェービングローション」のみならず、それ以外のあらゆる製品に含まれる場合を包含するものである。よって、上記補正は、請求項1に係る発明の範囲を拡張するものであり、特許法第17条の2第5項第2号所定の「特許請求の範囲の減縮」を目的とするものとはいえない。
また、平成27年8月24日付けの拒絶理由や平成28年2月26日付けの拒絶査定をみても、請求項1について「明りょうでない記載」があるとの指摘はないし、仮にあったとしても、上記のように発明の範囲を拡張する補正が、明りょうでない記載を釈明するためのものであるということはできない。よって、上記補正を、同項第4号所定の「明りょうでない記載の釈明」を目的とするものであるということはできない。
さらに、上記補正が、同項第1号又は第3号所定の「請求項の削除」又は「誤記の訂正」を目的とするものに該当しないことは明らかである。
よって、本件補正のうち請求項1についてする補正は、特許法第17条の2第5項各号のいずれの規定にも該当しない。

なお、審判請求人は、審判請求書において、「これらの補正は・・・明りょうでない記載の釈明を目的としております」と主張しているが、上記補正が「明りょうでない記載の釈明」を目的とするものといえないことは上述のとおりであるから、審判請求人の上記主張を採用できない。

3.まとめ
以上より、本件補正のうち請求項1についてする補正は、特許法第17条の2第5項の規定に違反するから、その他の請求項について検討するまでもなく、本件補正は、同法第159条第1項の規定において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。
よって、[結論]のとおり決定する。

第3 本願発明について
1.本願発明の認定
上記第2のとおり、本件補正は却下されたので、本願の請求項1?12に係る発明は、平成27年10月15日付けの手続補正書で補正された特許請求の範囲に記載された事項により特定されるとおりのものであると認められ、そのうち、請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)は、次のとおりである。

「1以上の低分子量ポリエチレングリコール(LMW-PEG)と1以上の高分子量ポリエチレングリコール(HMW-PEG)を含む組成物であり、前記1以上のLMW-PEGの分子量範囲が200から500ダルトンであり、さらに、前記1以上のHMW-PEGの分子量範囲が8000から45000ダルトンであり、前記1以上のLMW-PEGと前記1以上のHMW-PEGとの重量比が、2:1から8:1の範囲内にある、組成物を含むシェービングローション。」

2.原査定の拒絶の理由
原査定の拒絶の理由は、要するに、本願発明は本願の優先日前に頒布された刊行物である下記引用文献1に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法29条2項の規定により特許を受けることができない、という理由(理由2)を含むものである。

引用文献1:特開2005-281683号公報

3.合議体の認定・判断
(1)引用文献の記載事項
引用文献1には、以下の事項(1-1)?(1-8)が記載されている。(なお、下線は当審による。)

(1-1)「【請求項1】
温度を変化させた場合に、固体、固液共存状態及び液体の3つの状態を呈し、通常では流動点温度が固液共存状態域にあるポリエチレングリコール組成物であって、流動点温度を、前記液体と前記固液共存状態との境界温度より高くしたことを特徴とするポリエチレングリコール組成物。
【請求項2】
前記ポリエチレングリコール組成物を、前記液体状態の温度から前記固体状態の温度まで2℃/分以上の冷却速度で急冷することにより、前記流動点温度を、前記液体と前記固液共存状態との境界温度より高くしたことを特徴とする請求項1記載のポリエチレングリコール組成物。
【請求項3】
前記ポリエチレングリコール組成物は、分子量分布に於いて異なる重量平均分子量を有する2種類のポリエチレングリコールを混合することにより得られる請求項1又は2記載のポリエチレングリコール組成物。
【請求項4】
温度を変化させた場合に、固体、固液共存状態及び液体の3つの状態を呈するポリエチレングリコール組成物であって、通常の示差走査熱量分析に於ける吸熱ピークを増大させ及び/又は高温側に移動させたことを特徴とするポリエチレングリコール組成物。
【請求項5】
前記ポリエチレングリコール組成物を、前記液体状態の温度から前記固体状態の温度まで2℃/分以上の冷却速度で急冷することにより、通常の示差走査熱量分析に於ける吸熱ピークを増大させ及び/又は高温側に移動させたことを特徴とする請求項4記載のポリエチレングリコール組成物。
【請求項6】
前記ポリエチレングリコール組成物は、分子量分布に於いて異なる重量平均分子量を有する2種類のポリエチレングリコールを混合することにより得られる請求項4又は5記載のポリエチレングリコール組成物。」(特許請求の範囲参照)
(1-2)「【0002】
軟膏、ローション、錠剤バインダー、座薬ベース等の医薬品工業、クリーム、ローション、整髪、調髪剤等の香粧品工業、各種潤滑剤、繊維用サイズ剤など、多くの分野でポリエチレングリコールが使用されている。これらの用途のうち、医薬品工業や香粧品工業の分野では、ポリエチレングリコールは人体に直接使用されるので、その流動点が問題となることが多い。また、潤滑剤の分野に於いては、保存時の温度では固体状態を維持し、使用時に保存温度より高い温度に曝された後は液状となり、以後温度を下げても液状を維持するという性状が必要とされている。しかし、このような性状を十分に発揮する基剤は未だに見出されていないのが実情である・・・。
・・・
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
本発明は、上記従来技術の問題点を解決するために為されたものであり、本発明の目的は、通常では低い流動点温度を有するポリエチレングリコールを使用して、その流動点温度を高める処理を施したポリエチレングリコール、その製造方法及びその製造装置を提供することである。」
(1-3)「【0007】
ポリエチレングリコールの流動点温度を液体と固液共存状態との境界温度より高くすることにより、保存時の温度では固体状態を維持し、保存時の温度より高い温度で液状となって、以後温度を保存時の温度より下げても液状を維持するという性状が発現される。
【0008】
このような性状は、前記ポリエチレングリコール組成物を、前記液体状態の温度から前記固体状態の温度まで2℃/分以上、好ましくは2.5℃/分以上、更に好ましくは4℃/分以上の冷却速度で急冷することにより得ることができる。また、このような性状のポリエチレングリコール組成物は、分子量分布に於いて異なる重量平均分子量を有する2種類のポリエチレングリコールを混合することにより得られる。
・・・
【0010】
また、本発明のポリエチレングリコールは、温度を変化させた場合に、固体、固液共存状態及び液体の3つの状態を呈するポリエチレングリコール組成物であって、通常の示差走査熱量分析に於ける吸熱ピークを増大させ及び/又は高温側に移動させたことを特徴とする。
【0011】
このように、示差走査熱量分析に於ける吸熱ピークを増大させ及び/又は高温側に移動させることにより、保存時の温度では固体状態を維持し、保存時の温度より高い温度で液状となって、以後温度を保存時の温度より下げても液状を維持するという性状が発現される。
【0012】
このような性状は、前記ポリエチレングリコール組成物を、前記液体状態の温度から前記固体状態の温度まで2℃/分以上、好ましくは2.5℃/分以上、更に好ましくは4℃/分以上の冷却速度で急冷することにより得ることができる。また、このような性状のポリエチレングリコール組成物は、分子量分布に於いて異なる重量平均分子量を有する2種類のポリエチレングリコールを混合することにより得られる。」
(1-4)「【発明の効果】
【0018】
本発明のポリエチレングリコールは、液体と固液共存状態との境界温度より高い流動点温度を有し、示差走査熱量分析に於ける吸熱ピークを増大させ若しくは高温側に移動させ、又は赤外吸収スペクトルに於ける1344cm^(-1)近傍、1281cm^(-1)近傍及び/又は843cm^(-1)近傍の吸収ピークを増大及び/又はシフトさせたので、保存時の温度では固体状態を維持し、保存時の温度より高い温度で液状となって、以後温度を保存時の温度より下げても液状を維持するという性状が発現される。従って、本発明のポリエチレングリコールは、潤滑剤等の用途に有用である。」
(1-5)「【0019】
図1は、重量平均分子量4000のポリエチレングリコール(以下では、このような重量平均分子量を有するポリエチレングリコールを「PEG4000」のように略称する。)と重量平均分子量400のPEG400との混合組成物について、様々な混合比率に於ける相図を模式的に表したものである。・・・」
(1-6)「【実施例】
【0029】
(流動点の測定)
表1は、種々のポリエチレングリコール組成比を有する組成物について、冷却速度を4.0℃/分?0.5℃/分の間で変化させた場合について測定した流動点温度を示している。流動点の温度は、前述のJIS K2269に準拠した方法により測定した。
【0030】
【表1】


(1-7)「【0035】
図2はPEG400/PEG4000=90/10、図3はPEG200/PEG4000=90/10、図4はPEG200/PEG4000=80/20、図5はPEG400/PEG4000=80/20、図6はPEG400/PEG4000=70/30、図7はPEG600/PEG4000=80/20のポリエチレングリコール組成物について、それぞれ異なる冷却速度で急冷処理した後に測定した示差走査熱量分析の結果を表している。何れの場合にも、冷却速度の大きい試料の吸熱ピークが増大又は高温側に移動しており、急冷後に於けるポリエチレングリコールの混合状態に変化が生じていることが分かる。」
(1-8)「【0037】
本発明のポリエチレングリコール組成物を用いれば、ハンドリング性の良いものが得られるので、軟膏、ローション、錠剤バインダー、座薬ベース等の医薬品工業、クリーム、ローション、整髪、調髪剤等の香粧品工業、各種潤滑剤、繊維用サイズ剤など、多くの分野で利用可能である。」

(2)引用発明の認定
特に上記記載事項(1-6)に係る記載から、引用文献1には、次の発明
(以下、まとめて「引用発明」という。)が記載されているものと認められる。

・「PEG200とPEG10000の重量比が95/05である、PEG200及びPEG10000を含む組成物」
・「PEG400とPEG10000の重量比が95/05である、PEG400及びPEG10000を含む組成物」

(3)対比
本願発明と引用発明とを対比すると、後者における「PEG200」又は「PEG400」はそれぞれ、重量平均分子量が200又は400のポリエチレングリコールを意味するから(記載事項(1-5)参照)、これらは前者における「分子量範囲が200から500ダルトンであ」るとされる「1以上の低分子量ポリエチレングリコール(LMW-PEG)」に相当する。同様に、後者における「PEG10000」は、前者における「分子量範囲が8000から45000ダルトンであ」るとされる「1以上の高分子量ポリエチレングリコール(HMW-PEG)」に相当する。
そうすると、両者は次の点で一致し、次の点で相違すると認められる。

<一致点>
「1以上の低分子量ポリエチレングリコール(LMW-PEG)と1以上の高分子量ポリエチレングリコール(HMW-PEG)を含む組成物であり、前記1以上のLMW-PEGの分子量範囲が200から500ダルトンであり、さらに、前記1以上のHMW-PEGの分子量範囲が8000から45000ダルトンである、組成物。」

<相違点>
相違点1:
「1以上のLMW-PEG」と「1以上のHMW-PEG」との重量比(以下、単に「重量比」という。)について、本願発明では「2:1から8:1の範囲内にある」ことが特定されているのに対し、引用発明では「95/05」(19:1)である点。
相違点2:
本願発明は、所定の組成物を含む「シェービングローション」の発明であるのに対し、引用発明は「組成物」の発明である点。

(4)相違点についての判断
ア.相違点1について
引用文献1には、PEG200/PEG10000及びPEG400/PEG10000については重量比95/05(19:1)の具体例しか記載されていないが、PEG200/PEG4000については重量比90/10(9:1)及び80/20(4:1)の具体例が、PEG400/PEG4000については重量比90/10(9:1)、80/20(4:1)及び70/30(約2.3:1)の具体例が、それぞれ記載されている(記載事項(1-7)参照)。
ここで、引用発明の解決しようとする課題は、「保存時の温度では固体状態を維持し、使用時に保存温度より高い温度に曝された後は液状となり、以後温度を下げても液状を維持するという性状」を有する組成物を提供することにあると認められるところ(記載事項(1-2)参照)、引用文献1には、当該課題を解決するために、異なる平均重量分子量を有する2種類のPEGを混合し、急冷することにより、組成物の流動点温度を高くしたり、吸熱ピークを増大又は高温側に移動させたりすることが記載されている(記載事項(1-1)、(1-3)及び(1-4)参照)。
さらに、この点に関し、引用文献1には、上述したPEG200/PEG4000やPEG400/PEG4000の具体例について、いずれの具体例においても、冷却速度の大きい試料の吸熱ピークが増大又は高温側に移動していることが示されている(記載事項(1-7)参照)。
そうすると、引用文献1には、PEG200/PEG4000については重量比9:1及び4:1のいずれであっても上記課題を解決でき、また、PEG400/PEG4000については重量比9:1、4:1及び約2.3:1のいずれであっても上記課題を解決できることが記載されているといえる。よって、重量比19:1の具体例しか示されていないPEG200/PEG10000やPEG400/PEG10000においても、上記課題が解決されることを期待しつつ、4:1や約2.3:1等の重量比を採用してみること、すなわち、引用発明において、重量比を「2:1から8:1の範囲内」に調整することは、当業者が容易に想到し得た事項であると認められる。

イ.相違点2について
引用文献1には、引用発明の組成物が、ローションや潤滑剤の用途に有用であることが記載されている(記載事項(1-4)、(1-8)参照)。そして、シェービングローションはローションの一種であり、また、シェービングローションに潤滑剤を配合し得ることは、文献を示すまでもなく周知の事項である。
したがって、引用発明の組成物をシェービングローションに配合し、これを含むシェービングローションの発明とすることは、当業者が容易に想到し得た事項である。

(5)効果について
審判請求人は審判請求書において、実験データを添付資料として提出しつつ、「LMW-PEGの分子量が200ダルトンであり、さらに、HMW-PEGの分子量が35000ダルトンであり、LMW-PEGとHMW-PEGとの重量比が4:1である溶液名7は、HS800等の市販の組成物と比較してはるかに少ない量で同程度の摩擦効果を得ることができ、これは、当業者の予測を超える格別顕著な効果を奏していると確信致します。」と主張している。
以下、上記主張について検討する。
まず、提出された上記実験データをみると、溶液名4、5、7については、いずれもほぼ同等の摩擦測定値を有することが示されているところ、溶液名5(重量比8:1)及び7(重量比4:1)の重量比は本願発明で特定する条件を満たすものの、溶液名4(重量比9:1)の重量比はその条件を満足しない。そして、これらが同等の摩擦測定値を有していることからすれば、本願発明における「2:1から8:1の範囲内である」との特定における「2:1」や「8:1」という数値に臨界的意義が存在すると理解することはできず、上記範囲内の重量比を有する組成物が、その範囲外の組成物よりも優れた摩擦低減効果を有すると認めることはできない。
これを踏まえて、審判請求人が主張する「HS800等の市販の組成物と比較してはるかに少ない量で同程度の摩擦効果を得ることができ」るとの効果について検討すると、上記実験データによれば、PEG200のみの溶液(溶液名1)や、PEG6000とPEG200を併用した溶液(溶液名2、3)に比べて、PEG35000とPEG200を併用した溶液(溶液名4、5、7)が優れた摩擦減少効果を有していること、及び、これらがHS800と同等の効果を有していることが理解できる。しかしながら、上述のとおり、重量比を特定の範囲に設定することによって摩擦低減効果が増加するとは認められないのであるから、これらの効果は、本願発明において特定される「分子量範囲が200から500ダルトン」のLMW-PEGと、「分子量範囲が8000から45000ダルトン」のHMW-PEGを併用することによって奏される効果であると解される。
そうすると、引用発明においても、分子量200又は400のLMW-PEG及び分子量10000のHMW-PEGが用いられているのであるから、本願発明と同等の摩擦低減効果が奏されているものと推認され、本願発明が、引用発明と比較して格別顕著な摩擦低減効果を奏するものであると認めることはできない。
よって、審判請求人の上記主張を採用できない。

(6)小括
上記のとおり、本願発明は、引用文献1に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものである。

第4 むすび
以上のとおり、本願発明は、本願の優先日前に頒布された刊行物である引用文献1に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法29条2項の規定により特許を受けることができない。
そうすると、本願の他の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2017-07-11 
結審通知日 2017-07-18 
審決日 2017-08-03 
出願番号 特願2012-543971(P2012-543971)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (C08L)
P 1 8・ 56- Z (C08L)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 松本 直子  
特許庁審判長 須藤 康洋
特許庁審判官 関 美祝
安川 聡
発明の名称 シェービングのためのポリエチレングリコール含有組成物  
代理人 大貫 進介  
代理人 伊東 忠彦  
代理人 伊東 忠重  

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