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審決分類 審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 G02B
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 G02B
管理番号 1335713
審判番号 不服2016-17911  
総通号数 218 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2018-02-23 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2016-11-30 
確定日 2017-12-18 
事件の表示 特願2012-239936「光制御シート及び光制御シート付き光入射部」拒絶査定不服審判事件〔平成26年 5月15日出願公開、特開2014- 89376〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、平成24年10月31日の出願であって、平成28年6月2日付けで拒絶の理由が通知され、同年8月5日付けで意見書が提出され、 同年8月24日付けで拒絶査定(以下「原査定」という。)がなされ、これに対して、同年11月30日付けで拒絶査定不服審判が請求されると同時に手続補正がなされたものである。
なお、審判請求人は、平成29年3月1日に、平成28年12月14日作成の特許法第164条第3項の規定に基づく報告(前置報告)に対する意見を記載した上申書(以下単に「上申書」という。)を提出している。

第2 平成28年11月30日付け手続補正についての補正の却下の決定
〔補正の却下の決定の結論〕
平成28年11月30日付け手続補正を却下する。

〔理由〕
1 本件補正の内容
(1)平成28年11月30日付け手続補正(以下「本件補正」という。)は、特許請求の範囲についてするものであって、平成28年6月2日付け手続補正によって補正された本件補正前の特許請求の範囲に、
「【請求項1】
光が入射する光入射部に取り付けられる光制御シートにおいて、
前記光を制御する複数の光制御部と、少なくとも前記光制御部の間に設けられて前記光を透過する光透過部と、を有する光制御層と、
前記光制御層の後面側に設けられた保護フィルムと、を備え、
前記光制御部は、前記光制御シートの面内で所定方向に沿って設けられ、
前記保護フィルムは、前記所定方向を示すためのマークを有することを特徴とする光制御シート。」
「【請求項12】
光が入射する光入射部に取り付けられる光制御シートにおいて、
前記光を制御する複数の光制御部と、少なくとも前記光制御部の間に設けられて前記光を透過する光透過部と、を有する光制御層と、
前記光制御層の前面側に設けられた粘着層と、
前記粘着層の前面側に設けられた剥離フィルムと、を備え、
前記光制御部は、前記光制御シートの面内で所定方向に沿って設けられ、
前記剥離フィルムは、前記所定方向を示すためのマークを有することを特徴とする光制御シート。」とそれぞれあったものを、

「【請求項1】
光が入射する光入射部に取り付けられる光制御シートにおいて、
前記光を制御する複数の光制御部と、少なくとも前記光制御部の間に設けられて前記光を透過する光透過部と、を有する光制御層と、
前記光制御層の後面側に剥離可能に設けられた保護フィルムと、を備え、
前記光制御部は、前記光制御シートの面内で所定方向に沿って設けられ、
前記保護フィルムは、前記所定方向を示すためのマークを有することを特徴とする光制御シート。」
「【請求項12】
光が入射する光入射部に取り付けられる光制御シートにおいて、
前記光を制御する複数の光制御部と、少なくとも前記光制御部の間に設けられて前記光を透過する光透過部と、を有する光制御層と、
前記光制御層の前面側に設けられた粘着層と、
前記粘着層の前面側に剥離可能に設けられた剥離フィルムと、を備え、
前記光制御部は、前記光制御シートの面内で所定方向に沿って設けられ、
前記剥離フィルムは、前記所定方向を示すためのマークを有することを特徴とする光制御シート。」とする補正を含むものである(下線は当審で付した。以下同様。)。

(2)本件補正後の請求項1及び12に係る上記(1)の補正は、本件補正前の請求項1及び12に係る発明をそれぞれ特定するために必要な事項である「保護フィルム」及び「剥離フィルム」が「剥離可能」であるものとするものである。

2 本件補正の目的
上記1の補正は、本件補正前の請求項1及び12においてそれぞれ記載されていた「保護フィルム」及び「剥離フィルム」を、当初明細書の【0084】、【0102】、【0106】、【0110】ないし【0112】の記載に基づいて、「剥離可能」であることに限定するものである。
そうすると、本件補正後の請求項1及び12は、特許法第17条の2第3項に規定する要件を満たす。また、本件補正は、本件補正前の請求項1及び12に係る発明を特定するために必要な事項を限定するものであって、産業上の利用分野及び解決しようとする課題が補正の前後において同一であるから、特許法第17条の2第5項第2号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
そこで、本件補正後の請求項1及び12に係る発明(以下それぞれ「本願補正発明1」、「本願補正発明12」という。)が、特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか(特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項の規定に適合するか。以下「独立特許要件」という。)について以下検討する。

3 引用例
(1)原査定の拒絶の理由に引用文献1として引用され、本願の出願前に頒布された刊行物である特開2010-259406号公報(以下「引用例1」という。)には、次の事項が図とともに記載されている。
ア 「【技術分野】
【0001】
本発明は、太陽光を建物内に、主には温室内に、取り入れる光取り入れ部に用いられる太陽光取り入れ制御用の光制御シートと、該光制御シートを配している建物に関する。」
イ 「【背景技術】
【0002】
建物の窓ガラスにおいて、夏季は室内への太陽光の赤外線の取り込みを遮断し、冬季は採光状態にする方法として、夏至の太陽の南中高度がθS である場所に使用される窓ガラスで、内部に回折格子を形成した窓ガラスを用いる方法が国際公開WO2006/134983号公報に開示されている。
ここに記載のものは、ガラス板内部に回折格子が形成されており、その回折格子の格子面とガラス板の面の垂線とのなす角度が、窓ガラスの屈折率をnとして、[sin^(-1)(sinθ_(S) /n)+sin^(-1)(1/n)]/2以上、[sin^(-1)(sinθ_(S) /n)+90°+sin^(-1)(1/n)]/2以下である窓ガラスを用いることにより、回折格子の回折波長域が赤外線の範囲にある場合において、夏季には室温上昇の原因となる赤外線を有効に遮断し、冬季には赤外線を室内に有効に取り込むことを可能にするものである。
また、特開平3-197741号公報には、天窓に使用して太陽光線の入射角により、夏季は太陽光を遮光する状態とし、冬季は太陽光を採光する状態とする建築物用透明板材が開示されている。
この建築物用透明板材は、太陽光を遮断する遮光部と透過させる透過部とを交互に設けたパターンを透明板の上面、下面に配置し、且つ、上面と下面のパターン配置をずらし、入射する太陽光の量を調節するものである。
【0003】
しかし、国際公開WO2006/134983号公報に開示されているガラス窓の格子の形成は、レーザ露光により行うもので、生産性や製造費用の面で問題があり、また、特開平3-197741号公報に開示されている建築物用透明板材は、天窓用途で、建物の側面には効果的に適用できず、表裏パターンの位置精度の面からも、量産しにくいものである。」
ウ 「【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記のように、夏季は室内への太陽光の赤外線の取り込みを遮断し、冬季は採光状態にする方法として、ガラス内部に格子を形成したガラス窓が知られているが、生産性や製造費用の面で問題があり、また、天窓用途には有効である建築物用透明板材が知られているが、建物の側面には効果的に適用できず、表裏パターンの位置精度の面からも、量産しにくいものであり、これらの対応が求められていた。
本発明はこれらに対応するもので、具体的には、太陽光を建物内に、主には温室内に、取り入れる光取り入れ部に配置される太陽光取り入れ制御用の光制御シートであって、夏季は室内への太陽光の取り込みを遮断し、冬季は太陽光の取り込みを可能とする、建物の側面、天窓用に適用でき、且つ、生産性がよく、製造費用の面でも問題がない、光制御シートを提供しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
請求項1に係る光制御シートは、太陽光を建物内に取り入れる光取り入れ部に配置される太陽光取り入れ制御用の光制御シートであって、該シート全体が、太陽光を透過する光透過性材料からなる光透過性部と、太陽光を吸収する光吸収材料からなる遮光部群とからなり、且つ、前記遮光部群は、シート内の一方向に、所定ピッチで、光吸収材料からなる遮光部を複数、配列させているものであることを特徴とするものである。
そして、請求項2に係る発明は、請求項1の光制御シートであって、前記一方向に直交する方向に一次元に形成され、且つ、前記一方向における断面において、上底辺、下底辺をシート面に平行にする台形である単位の光透過性部を、複数、隣接して所定のピッチで配列するとともに、隣り合う前記台形の光透過部間の楔形部に前記光吸収材料が充填されているもので、該楔形部は、一面側に向けて先端を有するとともに、他面側に底面を有していることを特徴とするものである。
尚、ここでの、「一次元に形成され、」は、断面形状が同じで直線状に形成されていることを意味する。
そしてまた、請求項3に係る発明は、請求項2の光制御シートであって、前記台形は等脚台形で、前記楔形部は二等辺三角形であることを特徴とするものである。
また、請求項4に係る発明は、請求項2ないし3のいずれか1項に記載の光制御シートであって、夏至の南中高度がθ_(1) で、春分の日、秋分の日の南中高度がθ_(2) である、建物の南側側面に配されるもので、前記光制御シートの楔形部の高さ、ピッチ、底辺の幅を、それぞれ、Ta、Pa、Wa、とし、また、空気の屈折率をn_(1) 、前記光透過性部の屈折率をn_(2) とし、且つ、前記夏至の南中高度θ_(1 )、前記春分の日、秋分の日の南中高度θ_(2) において、前記光透過性部に太陽光が入射された際の屈折角を、それぞれ、θ_(10)、θ_(20)とした場合、スネルの法則より、
n_(1) sinθ_(1) =n_(2) sinθ_(10)
n_(1) sinθ_(2) =n_(2) sinθ_(20)
であり、
θ_(20)≦tan^(-1)((Pa-(Wa/2))/Ta)<θ_(10)
であることを特徴とするものである。
【0007】
また、請求項5に係る発明は、請求項1に記載の光制御シートであって、前記一方向における断面において、シート面に所定の角度を有する直線状の単位の遮光部を、複数、所定のピッチで配列させているものであることを特徴とするものである。
また、請求項6に係る発明は、請求項5に記載の光制御シートであって、冬至の南中高度をθ_(3) である、建物の天窓に配されるもので、前記光制御シートの単位の遮光部の高さ、幅を、それぞれ、Tb、Wbとし、また、空気の屈折率をn_(1) 、前記光透過性部の屈折率をn_(3) とし、且つ、前記冬至の南中高度θ_(3) において、前記光透過性部に太陽光が入射された際の屈折角をθ_(30)とした場合、スネルの法則より、
n_(1) sin(90°- θ_(3) )=n_(3) sinθ_(30)
であり、
tan^(-1)(Tb/Wb)=θ_(30)
であることを特徴とするものである。
【0008】
また、請求項7に係る発明は、請求項1ないし6のいずれか1項に記載の光制御シートであって、一方の面あるいは両方の面に、透明なシートを配していることを特徴とするものである。
また、請求項8に係る発明は、請求項1ないし7のいずれか1項に記載の光制御シートであって、前記光透過性部の屈折率は、前記遮光部の屈折率と同じ、もしくは、それよりも高いことを特徴とするものである。
尚、ここでは角度の単位を度(°と表示する)で表している。
【0009】
請求項9に係る建物は、請求項1ないし7のいずれか1項に記載の光制御シートを配していることを特徴とするものである。
請求項10に係る建物は、請求項9に記載の建物であって、温室用であることを特徴とするものである。
【0010】
(作用)
本発明の光制御シートは、このような構成とすることにより、太陽光を建物内に、主には温室内に、取り入れる光取り入れ部に配置される太陽光取り入れ制御用の光制御シートであって、夏季は室内への太陽光の取り込みを遮断し、冬季は太陽光の取り込みを可能とする、建物の側面、天窓用に適用でき、且つ、生産性がよく、製造費用の面でも問題がない、光制御シートの提供を可能とするものである。
詳しくは、シート全体が、太陽光を透過する光透過性材料からなる光透過性部と、太陽光を吸収する光吸収材料からなる遮光部群とからなり、且つ、前記遮光部群は、シート内の一方向に、所定ピッチで、光吸収材料からなる遮光部を複数、配列させているものであることことにより、該シートへ照射される太陽光を、その照射する角度に対応して通過する太陽光の量を制御することを可能としている。
具体的には、第1の形態としては、請求項1に記載の光制御シートにおいて、前記一方向に直交する方向に一次元に形成され、且つ、前記シート内の一方向における断面において、上底辺、下底辺をシート面に平行にする台形である単位の光透過性部を、複数、隣接して所定のピッチで配列するとともに、隣り合う前記台形の光透過部間の楔形部に前記光吸収材料が充填されているもので、該楔形部は、一面側に向けて先端を有するとともに、他面側に底面を有しているものが挙げられ、この形態としては、前記台形は等脚台形で、前記楔形部は二等辺三角形であるものが挙げられる。
また、第2の形態としては、請求項1に記載の光制御シートにおいて、前記一方向における断面において、シート面に所定の角度を有する直線状の単位の遮光部を、複数、所定のピッチで配列させているものが挙げられる。
【0011】
前記第1の形態においては、夏至の南中高度がθ_(1) で、春分の日、秋分の日の南中高度がθ_(2) である、建物の南側側面に配されるもので、前記光制御シートの楔形部の高さ、ピッチ、底辺の幅を、それぞれ、Ta、Pa、Wa、とし、また、空気の屈折率をn_(1) 、前記光透過性部の屈折率をn_(2) とし、且つ、前記夏至の南中高度θ_(1) 、前記秋分の日の南中高度θ_(2) において、前記光透過性部に太陽光が入射された際の屈折角を、それぞれ、θ_(10)、θ_(20)とした場合、スネルの法則より、
n_(1) sinθ_(1) =n_(2) sinθ_(10)
n_(1) sinθ_(2) =n_(2) sinθ_(20)
であり、
θ_(20)≦tan^(-1)((Pa-(Wa/2))/Ta)<θ_(10)
であることにより、光透過部と遮光部の境において反射が起こらない場合には、夏至の太陽光を100%を遮断し、春分の日?夏至?秋分の日の期間以外の期間においては、照射される太陽光の該シートへの入射の角度θに応じた量で、太陽光を採光できるものとしている。
光透過部と遮光部との屈折率を選択して、光透過部と遮光部の境における反射を抑制することにより、光透過部と遮光部の境においての反射を抑制でき、実質的に、夏至の太陽光を100%を遮断する太陽光制御機能を奏することが可能である。
夏至において、光透過性部に入射された太陽光の、遮光部との境界における反射を少なくするという面からは、光透過性部の屈折率が、遮光部の屈折率と同じ、もしくは、遮光部の屈折率よりも低いことが好ましい。
また、前記第2の形態においては、冬至の南中高度をθ_(3) である、建物の天窓に配されるもので、前記光制御シートの単位の遮光部の高さ、幅を、それぞれ、Tb、Wbとし、また、空気の屈折率をn_(1) 、前記光透過性部の屈折率をn_(3) とし、且つ、前記冬至の南中高度θ_(3) において、前記光透過性部に太陽光が入射された際の屈折角をθ_(30)とした場合、スネルの法則より、
n_(1) sin(90°- θ_(3) )=n_(3) sinθ_(30)
であり、
tan^(-1)(Tb/Wb)=θ_(30)
であることにより、冬至において、100%近く太陽光を採光できるものとしている。
冬至において、光透過性部に入射された太陽光の、遮光部との境界における反射を多くするという面からは、光透過性部の屈折率が、遮光部の屈折率と同じ、もしくは、遮光部の屈折率よりも高いことが好ましい。
特に、光透過性部の屈折率が、遮光部の屈折率と同じ場合が最も好ましい。
【0012】
また、一方の面あるいは両方の面に、透明なシートを配していることにより、内側を保護し、構造的に強固とし、また、窓ガラスへの固着のための粘着剤等の配設を容易にできるものとしている。
【0013】
本発明の建物は、このような構成とすることにより、夏季は室内への太陽光の取り込みを遮断し、冬季は太陽光の取り込みを可能とする建物の提供を可能とするものである。
【発明の効果】
【0014】
本発明は、上記のように、太陽光を建物内に、主には温室内に、取り入れる光取り入れ部に配置される太陽光取り入れ制御用の光制御シートであって、夏季は室内への太陽光の取り込みを遮断し、冬季は太陽光の取り込みを可能とする、建物の側面、天窓用に適用でき、且つ、生産性がよく、製造費用の面でも問題がない、光制御シートの提供を可能とした。」
エ 「【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明の実施の形態を図に基づいて説明する。
図1(a)は本発明の光制御シートの実施の形態の第1の例と太陽光の照射光の制御を説明するための概略断面図で、図1(b)は図1(a)に示す第1の例の光制御シートを太陽光入射側からみた平面図で、図1(c)は図1(a)に示す第1の例の光制御シートの使用形態を示した図で、図2は本発明の光制御シートの実施の形態の第2の例と太陽光の照射光の制御を説明するための概略断面図で、図2(b)は図2(a)に示す第2の例の光制御シートの使用形態を示した図で、図3は図1に示す光制御シートにおける太陽光の制御を説明するための図で、図4は図2に示す光制御シートにおける太陽光の制御を説明するための図で、図5(a)は本発明の光制御シートの実施の形態の第3の例の概略断面図で、図5(b)は本発明の光制御シートの実施の形態の第4の例の概略断面図で、図5(c)は本発明の光制御シートの実施の形態の第5の例の概略断面図で、図5(d)は本発明の光制御シートの実施の形態の第6の例の概略断面図で、図5(e)は本発明の光制御シートの実施の形態の第7の例の概略断面図で、図6(a)は本発明の光制御シートの実施の形態の第8の例の概略断面図で、図6(b)は本発明の光制御シートの実施の形態の第9の例の概略断面図で、図7(a)、図7(b)は第1の例の光制御シートの作製方法を説明するための図で、図8は第8の例の光制御シートの作製方法を説明するための図で、図9は第2の例の光制御シートの作製方法を説明するための図である。
図1、図2においては、太い点線矢印は太陽光の進行方向を示し、該方向と水平方向とのなす角度をθとしている。
また、図8、図9中の太い破線は、切断位置を表す。
図1?図9中、10、10a?10gは光制御シート(単にシートとも言う)、10Sはシート面、11は光透過性部、11Aは光透過性シート、11aは台形部、12は遮光部(単位の遮光部とも言う)、12Aは楔形部、12Sは底面、15は太陽光の照射光、20、20aは建物、21は側壁、22は窓部、30は光制御シート、30Sはシート面、31は光透過性部、32は遮光部(単位の遮光部とも言う)、41、42は透明シート、50、50aは積層構造体、51は光透過性部、52は遮光部である。
【0017】
先ず、本発明の光制御シートの実施の形態の第1の例を、図1に基づいて説明する。
第1の例の光制御シート10は、太陽光を建物20内に取り入れる建物20の南側側面(側壁21とも言う)の窓部22に用いられる太陽光取り入れ制御用の光制御シートである。
そして、シート全体が、太陽光を透過する光透過性材料からなる光透過性部11と、太陽光を吸収する光吸収材料からなる遮光部群とからなり、且つ、前記遮光部群は、シート10内の一方向に、所定ピッチで、光吸収材料からなる単位の遮光部12を複数、配列させているものである。
本例では、前記一方向に直交する方向に一次元に形成され、且つ、前記一方向における断面において、上底辺、下底辺をシート面に平行にする台形である単位の光透過性部11aを、複数、隣接して所定のピッチで配列するとともに、隣り合う前記台形の光透過部11a間の楔形部に前記光吸収材料が充填されて、単位の遮光部12を形成している。
尚、ここでの、「一次元に形成され、」は、先にも述べたように、断面形状が同じで直線状に形成されていることを意味する。
第1の例では、シート10の太陽光入射側に沿い底面12Sを有し、他面側に向けて先端を有しており、図1(a)に示す断面において、シート10内に、シート面10Sに沿い、所定の高さTa、ピッチPaに、光吸収材料からなる単位の遮光部12を複数、配列させている。
【0018】
光透過性部11は、太陽光が透過できる材料からなり、通常、電離放射線硬化性を有するエポキシアクリレートなどの材料にて構成されている。
遮光部12は、太陽光を吸収して遮光できる光吸収材料からなり、該光吸収材料としては、通常、市販の着色樹脂微粒子等の光吸収粒子を含むものを使用する。
尚、ここでは、「太陽光を吸収して遮光できる」とは、遮光部12の表面へ向かう太陽光は遮光部12にて吸収され、遮光部12の表面にて反射が起こらない、あるいは、実用レベルで反射光量が無視できる程度であることを意味している。
【0019】
次に、図1(c)に示すように光制御シート10が、建物20の南側の側壁21に沿い、窓22の外側に配された場合の、第1の例の光制御シートにおける太陽光の制御について、図3に基づいて、簡単に説明する。
ここでは、太陽光15の進行方向と水平方向とのなす角度をθとし、光制御シート10の光透過性部11に入射された際の屈折角をθ_(01)としている。
また、光制御シート10の楔形部12Aの高さ、ピッチ、底辺の幅を、それぞれ、Ta、Pa、Waとしている。
この場合、空気の屈折率をn_(1) 、前記光透過性部の屈折率をn_(2) とすると、スネルの法則より、
n_(1) sinθ=n_(2) sinθ_(01)
となる。
そして、
θa=tan^(-1)((Pa-(Wa/2))/Ta)とした場合、θaがθ_(01)よりも小さい場合には、全ての光透過性部11に入射された屈折光は遮光部12に当たり遮蔽されることとなる。
また、θaがθ_(01)より大きい場合、θ_(01)の大きさに対応して建物内に太陽光が取り入れられることとなる。
このように、θaとθ_(01)との大小関係に対応して、太陽光の建物内へ取り入れ量が制御される。
【0020】
したがって、図1(c)に示すように光制御シート10が、建物20の南側の側壁21に沿い、窓22の外側に配された場合、図1(a)に示すように、光制御シート10の楔形部12Aの高さ、ピッチ、底辺の幅を、それぞれ、Ta、Pa、Waとし、また、空気の屈折率をn_(1 )、前記光透過性部の屈折率をn_(2) とし、且つ、前記夏至の南中高度θ_(1) 、前記秋分の日の南中高度θ_(2) において、前記光透過性部に太陽光が入射された際の屈折角を、それぞれ、θ_(10)、θ_(20)とした場合、スネルの法則より、
n_(1) sinθ_(1) =n_(2) sinθ_(10)
n_(1) sinθ_(2) =n_(2) sinθ_(20)
であり、
θ_(20)≦tan^(-1)((Pa-(Wa/2))/Ta)<θ_(10)
であることにより、光透過部と遮光部の境において反射が起こらない場合には、夏至の太陽光を100%を遮断し、春分の日?夏至?秋分の日の期間以外の期間においては、照射される太陽光の該シートへの入射の角度θに応じた量で、太陽光を採光できるものとしている。
光透過部11と遮光部12との屈折率を選択して、光透過部11と遮光部12の境における反射を抑制することにより、光透過部11と遮光部12の境においての反射を抑制でき、実質的に、夏至の太陽光を100%を遮断する太陽光制御機能を奏することが可能である。
夏至において、光透過性部に入射された太陽光の、遮光部との境界における反射を少なくするという面からは、光透過性部の屈折率が、遮光部の屈折率と同じ、もしくは、遮光部の屈折率よりも低いことが好ましい。
【0021】
次に、本発明の光制御シートの実施の形態の第2の例を、図2に基づいて説明する。
第2の例の光制御シート30は、図2(b)に示すように、建物20aの天側の窓部22に用いられる太陽光取り入れ制御用の光制御シートである。
第2の例も、第1の例と同様シート全体が、太陽光を透過する光透過性材料からなる光透過性部31と、太陽光を吸収する光吸収材料からなる遮光部群とからなり、且つ、前記遮光部群は、シート内に、断面形状で、シート面に沿い、所定の高さ、ピッチに、光吸収材料からなる単位の遮光部を複数、配列させているもので、本例では、前記断面形状は、シート面に所定の角度θbを有する直線状の単位の遮光部32を配列させている。
光透過性部31、遮光部32の材質としては、第1の例と同様のものが適用できる。
【0022】
次に、図2(b)に示すように光制御シート30が、建物20aの天側の窓22の外側に配された場合の、第2の例の光制御シートにおける太陽光の制御について、図4に基づいて、簡単に説明する。
ここでも、太陽光15の進行方向と水平方向とのなす角度をθとし、光制御シート30の光透過性部31に入射された際の屈折角をθ_(02)としている。
また、光制御シート30の単位の遮光部32の高さ、幅を、それぞれ、Tb、Wbとしている。
この場合、空気の屈折率をn_(1) 、前記光透過性部の屈折率をn_(3) とすると、スネルの法則より、
n_(1) sin(90°- θ)=n_(3) sinθ_(02)
となる。
そして、θb=tan^(-1)(Tb/Wb)とした場合、θbがθ_(02)と同じ大きさである場合には、100%近く太陽光を建物内に取り入れることができるものとしている。
そしてまた、遮光部32の配列のピッチPbを遮光部32の幅Wbよりも小とすることにより、θ_(02)がθbよりも大きい場合において、遮光性の良いものとできる。
【0023】
第2の例の光制御シート30は、特に、冬至の南中高度をθ_(3) である、建物の天窓に配されるもので、光制御シート30の単位の遮光部32の高さ、幅を、それぞれ、Tb、Wbとし、また、空気の屈折率をn_(1) 、前記光透過性部の屈折率をn_(3) とし、且つ、前記冬至の南中高度θ_(3) において、前記光透過性部に太陽光が入射された際の屈折角をθ_(30)とした場合、スネルの法則より、
n_(1) sin(90°- θ_(3) )=n_(3) sinθ_(30)
であり、ここでは、
tan^(-1)(Tb/Wb)=θ_(30)
としており、冬至において、100%近く太陽光を採光できるものとしている。
尚、単位の遮光部32のピッチPbは、冬至以外の時期の採光の必要性に応じて、適宜決めることが好ましい。
第2の例の場合、冬至において、光透過性部に入射された太陽光の、遮光部との境界における反射を少なくするという面からは、光透過性部の屈折率が、遮光部の屈折率と同じ、もしくは、遮光部の屈折率よりも高いことが好ましい。
特に、遮光部の屈折率と同じの場合が最も好ましい。
また、一方の面あるいは両方の面に、透明なシートを配していることにより、内側を保護し、構造的に強固とし、また、窓ガラスへの固着のための粘着剤等の配設を容易にできる。
【0024】
本発明の光制御シートの実施の形態の第3の例?第7の例を、図5に基づいて、また、第8の例、第9の例を図6に基づいて説明する。
図5(a)は、本発明の光制御シートの実施の形態の第3の例の断面を示すものであるが、第3の例の光制御シート10aは、第1の例の光制御シート10の両面に、太陽光透過性の透明シート41、42を保護層あるいはベース基材として配したものです。
この形態の変形例としては、光制御シート10と透明シート41ないし42との間に粘着層を配して、透明シート41ないし42を剥がして光制御シート10側を窓部に貼り付けて使用する形態も挙げられる。
光制御シート10a、変形例も、第1の例と同様に、建物の南側側面の窓部の外側に配して、太陽光の採り入れ量を制御することができる。
【0025】
図5(b)に示す実施の形態の第4の例は、第1の例において、遮光部の断面形状を台形としたもので、それ以外は第1の例と同じである。
図5(c)に示す実施の形態の第5の例は、第1の例において、遮光部の断面形状を釘型としたもので、それ以外は第1の例と同じである。
図5(d)に示す実施の形態の第6の例、図5(e)に示す第7の例は、それぞれ、第4の例、第5の例の光制御シートの両面に、太陽光透過性の透明シート41、42を保護層あるいはベース基材として配したものです。
第6の例、第7の例の変形例としては、光制御シート10と透明シート41ないし42との間に粘着層を配して、透明シート41ないし42を剥がして光制御シート10側を窓部に貼り付けて使用する形態も挙げられる。
【0026】
図6(a)は、本発明の光制御シートの実施の形態の第8の例の断面を示すものであるが、第8の例の光制御シート10fは、第1の例において、楔形の単位の遮光部12を、両面に達する断面矩形(線状でも良い)の単位の遮光部12に代えたものです。
第8の例の場合も、遮光部12の高さ、幅、ピッチを、それぞれ、Tc、Wc、Pcとし、また、空気の屈折率をn_(1) 、前記光透過性部の屈折率をn_(2) とし、且つ、前記夏至の南中高度θ_(1) 、前記秋分の日の南中高度θ_(2) において、前記光透過性部に太陽光が入射された際の屈折角を、それぞれ、θ_(10)、θ_(20)とした場合、スネルの法則より、
n_(1) sinθ_(1) =n_(2) sinθ_(10)
n_(1) sinθ_(2) =n_(2) sinθ_(20)
であり、
θ_(20)≦tan^(-1)((Pc-Wc)/Tc)<θ_(10)
とすることにより、光透過部と遮光部の境において反射が起こらない場合には、夏至の太陽光を100%を遮断する。
第8の例においても、第1の例と同様、光透過部と遮光部との屈折率を選択して、光透過部と遮光部の境における反射を抑制することにより、実質的には、これに近い太陽光制御機能を奏することが可能である。
光透過性部に入射された太陽光の、遮光部との境界における反射を少なくするという面からは、光透過性部の屈折率が、遮光部の屈折率と同じ、もしくは、遮光部の屈折率よりも高いことが好ましい。
特に、遮光部の屈折率と同じの場合が最も好ましい。
また、春分の日?夏至?秋分の日の期間以外の期間においては、照射される太陽光の該シートへの入射の角度θに応じて、太陽光を採光できる。
図6(b)は、本発明の光制御シートの実施の形態の第9の例の断面を示すものであるが、第9の例の光制御シート10gは、第8の例の光制御シート10fの両面に、太陽光透過性の透明シート41、42を保護層あるいはベース基材として配したものです。
この形態の変形例としては、光制御シート10fと透明シート41ないし42との間に粘着層を配して、透明シート41ないし42を剥がして光制御シート10b側を窓部に貼り付けて使用する形態も挙げられる。
光制御シート10g、その変形例も、第1の例と同様に、建物の南側側面の窓部の外側に配して、太陽光の採りいれ量を制御することができる。
【0027】
次に、第1の例、第3の例?第7の例の光制御シートの作製方法の1例を、図8に基づいて簡単に説明する。
はじめに、図1に示す第1の例、図5(a)に示す第3の例の光制御シートの作製方法の1例を、図7に基づいて簡単に説明する。
先ず、電離放射線硬化性を有するエポキシアクリレートなどの材料を押し出しロールから型付けして押し出し、硬化させて、図7(a)に示す楔形に凹んだ楔形部(凹部とも言う)を有するシートを作製する。
必要に応じて、熱、圧力をかけ押し出し、また電離放射線を照射して硬化させる。
次いで、該シートをロールに沿わせながら搬送し、太陽光を吸収して遮光できる光吸収材料を埋め込み、スキージ等にて余分の光吸収材料を除去して、図7(b)に示す第1の例の光制御シート10を得る。
このようにして、第1の例の光制御シート10は作製される。
第3の例の光制御シート10aは、上記のようにして作製された第1の例の光制御シート10の両面に透明シート41、42を積層して作製する。
図5(b)に示す第4の例の光制御シート10b、図5(c)に示す第5の例の光制御シート10cの作製も、基本的には、第1の例の光制御シート10の作製と同じ方法が適用できる。
図7(a)において、楔形の凹部(楔形部12A)に代えて、作製する遮光部の形状に対応する断面形状の凹部を形成しておき、該凹部に光吸収材料を埋め込み、スキージ等にて余分の光吸収材料を除去して作製する。
このようにして、第4の例、第5の例の光制御シート10は作製される。
図5(d)に示す第6の例の光制御シート10d、図5(e)に示す第7の例の光制御シート10eは、それぞれ、上記のようにして作製された第4の例、第5の例の光制御シートの両面に透明シート41、42を積層して作製する。
【0028】
次いで、図2に示す第2の例、図6(a)に示す第8の例、図6(b)に示す第9の例の光制御シートの作製方法の1例を、図8、図9に基づいて簡単に説明する。
第2の例の光制御シート30の場合は、先ず、図9にその断面を示す透過性部51からなる層、遮光部52からなる層を、それぞれ所定の厚さにして、積層した積層構造体50aを得る。
必要に応じて、熱、圧力をかけて積層する。
次いで、図9の太い破線の位置を切断して、第2の例の光制御シート30を得る。
このようにして、第2の例の光制御シート30は作製される。
また、第8の例の光制御シート10fの場合は、第2の例と同様に、先ず、図8にその断面を示す透過性部51からなる層、遮光部52からなる層を、それぞれ所定の厚さにして、必要に応じて、熱、圧力をかけて、積層した積層構造体50を得る。
次いで、図8の太い破線の位置を切断して、第8の例の光制御シート10fを得る。
このようにして、第8の例の光制御シート10fは作製される。
そしてまた、第9の例の光制御シート10gは、第8の例の光制御シート10fの両側に透明シート41、42を積層して作製する。
【0029】
尚、本発明は、上記第1の例?第9の例の光制御シートには限定はされない。
上記各例以外でも、基本的構成を同じくし、同様の機能(作用効果)を奏する光制御シートであれば良い。
遮光部の断面形状も、第1の例?第9の例の光制御シートの断面形状でないものでも同様の機能を奏するものであれば良い。
第1の例の遮光部の楔形の断面形状、第4の例の遮光部の台形形状の細い側である先端部が丸みをおびた形状でもよい。
【0030】
また、第1の例の光制御シート10の場合、図1(c)に示すように建物南側面に配する場合、図1(a)に示すように、シート10の、楔形部12Aの底面12S側から太陽光を採り入れるに代えて、これと反対面側を太陽光を採り入れる側として、配しても良い。
特に、夏至において、光透過性部に入射された太陽光の、遮光部との境界における反射を少なくするという面からは、このように配した方が好ましい。
【0031】
また、本発明の光制御シートのとして、最表面を撥水加工した形態が挙げられる。
この形態の光制御シートは、建物の外側に配置する場合において、撥水加工した面が特に雨対策として有効である。
【0032】
また、本発明の光制御シートとして、太陽エネルギーを吸収する蓄熱材料層を配置した形態も挙げられる。
例えば、可視光(好ましくは400nm?780nm)を透過して、赤外線の波長を吸収するような透明な蓄熱材料層を冬季に温室用に用いた場合、冬季に、多くの太陽エネルギーを吸収することができる。
【0033】
また、本発明の光制御シートの他の形態として、光透過部の黄変を防止するために、上述した本発明の光制御シートにおいて、用いられた際に建物の光取入れ部の外側になる側の面にUV吸収フィルムを積層した形態のものも挙げられる。
例えば、建物の光取入れ部が窓ガラスで、窓ガラスの外側に配置する場合には、建物外側より、UV吸収フィルム、上記第1?第9の例の各形態の光制御シート、粘着剤層の層構成で、粘着剤層により窓ガラスに貼り合わせる。
また、例えば、建物の光取入れ部が窓ガラスで、窓ガラスの内側に配置する場合には、建物外側より、粘着剤層、上記第1?第9の例の各形態の光制御シート、UV吸収フィルムの層構成で、粘着剤層により窓ガラスに貼り合わせる。」
オ 「【図1】

・・・略・・・
【図5】


カ 上記アないしオからみて、引用例1には、第1の例と同様に建物の南側側面の窓部の外側に配した、第3の例(図5(a))として、次の発明が記載されている。
「太陽光を建物20内に取り入れる建物20の南側側面の窓部22に用いられる太陽光取り入れ制御用の光制御シート10aであって、
シート全体が、太陽光を透過する光透過性材料からなる光透過性部11と、太陽光を吸収する光吸収材料からなる遮光部群とからなり、且つ、前記遮光部群は、シート10内の一方向に、所定ピッチで、光吸収材料からなる単位の遮光部12を複数、配列させているものであり、
前記一方向に直交する方向に断面形状が同じで直線状に形成され、且つ、前記一方向における断面において、上底辺、下底辺をシート面に平行にする台形である単位の光透過性部11aを、複数、隣接して所定のピッチで配列するとともに、隣り合う前記台形の光透過部11a間の楔形部に前記光吸収材料が充填されて、単位の遮光部12を形成し、
シート10の両面に、太陽光透過性の透明シート41、42を保護層あるいはベース基材として配し、シート10と透明シート41ないし42との間に粘着層を配して、透明シート41ないし42を剥がして光制御シート10側を窓部に貼り付けて使用する、
光制御シート10a。」(以下「引用発明」という。)

(2)原査定の拒絶の理由に引用文献2として引用され、本願の出願前に頒布された刊行物である実願昭55-36669号(実開昭56-139543号)のマイクロフィルム(以下「引用例2」という。)には、次の事項が図とともに記載されている。
ア 「2.実用新案登録請求の範囲
少なくともプラスチツクフイルムと光線調整のための層とを備えた積層シートであつて、少なくとも片面側の一側縁部に耳マークが施こされていることを特徴とする、光線調整積層シート。」(1頁4行ないし8行)
イ 「3.考案の詳細な説明
この考案は窓ガラス等に貼り付けて光線を調整するための積層シートに係るものである。
従来からこのような用途には種々構成の積層シートが、省エネルギーやフアツシヨン、デザイン面から使用されてきているが、これには次のような欠点があった。
すなわち、これら光線調整のためのシートは表裏の判別が容易につけ難く、貼り付け時に表裏を誤つて貼ることが多い。このような場合、耐候性に問題があるばかりでなく、複数枚のガラスに表裏の区別なく貼ると、プラスチツクフイルム側と半透明の金属蒸着層や透明着色層等による光線調整のための層側とでは光沢差があるため外観的に見苦しく、施行のやりなおしをしなければならなかつた。
また、ガラスの面積が大きいときは、積層シート複数枚を側縁部を継いで貼り付けているが、従来の光線調整のためのシートは左右の側縁部の判別がつけ難く、右側縁部と左側縁部とで継ぎを行うことがあつた。この場合右側縁部と左側縁部とで継ぎを行うと、半透明の金属蒸着層や透明着色層等による光線調整のための層が、現実の問題として長尺な積層シートの巾方向に微妙な濃度差を有しているため、継ぎ目が目立ち見苦しくやはり施行(審決注:「施工」の誤記である。)のやりなおしをしなければならなかつた。
この考案は上記の欠点を除去し、表裏の判別並びに左右側縁部の判別をきわめて容易にして貼り付け作業を容易、正確に行うことができるようにした光線調整積層シート材料である。
以下図面を参照しつつ説明する。
この考案は、少なくともプラスチツクフイルムと光線調整のための層とを備えた積層シート1であつて、少なくとも片面側の一側縁部に耳マーク2が施こされていることを特徴とする、光線調整積層シートである。第1図はこの考案の一実施例を示す一部平面図、第2図は第1図におけるA-A線断面図である。
この考案の積層シート1は、少なくともプラスチツクフイルムと光線調整のための層とを備えているものである。プラスチツクフイルムは、ポリエステル、ポリプロピレン、その他各種のプラスチツクフイルムが使用できる。プラスチツクフイルムは通常透明又は半透明のものを使用するが必ずしもこれに限らない。またマット加工その他により表面に凹凸をつけたものであつてもよい。
光線調整のための層とは半透明の金属層(例えば透視可能な膜厚のAl蒸着層)、透明着色層(例えば染料により着色した透明樹脂層)、透明な金属酸化物層(例えば酸化インジウム薄膜、酸化アルミニウム薄膜)など、光線の反射、吸収、透過などに影響を及ぼして光線を調整することができる層である。
この考案の積層シート1は最も単純な形態においては、プラスチツクフイルムとその片面に直接形成された光線調整のための層とからなる。しかしこの他に、適宜着色コーティングや保護層を設けたもの、任意の印刷模様を適宜箇所に設けたもの、接着層や粘着層を適宜設けたもの、離型紙を貼り合わせたもの、あるいはこれらを併用したもの等プラスチツクフイルムと光線調整のための層とを備えているものである限り、この考案の積層シート1に含まれる。なお、プラスチツクフイルムと光線調整のための層とは必ずしも接している必要がないのは当然である。
耳マーク2は、積層シート1の表裏並びに左右側縁部の判別をするためのものである。従つて積層シートへの貼り付け面又はその反対面のうち少なくとも片面側に施こす。また、側縁部は左右両方あるが少なくともその一側縁部に施こす。耳マーク2はそれにより表裏並びに左右側縁部の判別ができるものであれば、線状、文字状、模様状等種々のマークを施こすことができる。なお耳マーク2は印刷などにより施こしてもよいがプラスチツクフイルム製造時に油性サインペンなどで筋をつけてもよい。
この考案は耳マークにより光線調整積層シートの表裏並びに左右側縁部の判別を極めて容易にしたことにより、貼り付け面を常に統一して施行することができる。また、側縁部の継ぎも右側縁部同士又は左側縁部同土間違うことなく行えるものである。このため貼り付け作業全体を容易かつ正確に行うことができる。」(1頁9行ないし5頁17行)
ウ 「


エ 上記アないしウからみて、引用例2には、次の事項が記載されている。
「少なくともプラスチツクフイルムと光線調整のための層とを備えた積層シートであつて、
従来の積層シートは、表裏の判別が容易につけ難く、貼り付け時に表裏を誤つて貼ることが多く、また、積層シート複数枚を側縁部を継いで貼り付けているが、左右の側縁部の判別がつけ難く、右側縁部と左側縁部とで継ぎを行うと、半透明の金属蒸着層や透明着色層等による光線調整のための層が、現実の問題として長尺な積層シートの巾方向に微妙な濃度差を有しているため、継ぎ目が目立ち見苦しくやはり施工のやりなおしをしなければならなかつたという課題があったところ、
当該課題を解決するために、
少なくとも片面側の一側縁部に耳マークが施すことにより、
表裏の判別並びに左右側縁部の判別をきわめて容易にして貼り付け作業を容易、正確に行うことができるようにした、
光線調整積層シート。」(以下「引用例2の記載事項」という。)

4 対比・判断
(1)対比
本願補正発明1と引用発明とを対比する。
ア 引用発明は、太陽光を建物20内に取り入れる建物20の南側側面の窓部22に用いられる太陽光取り入れ制御用の光制御シート10aであり、「窓部22」は、本願補正発明1の「光が入射する入射部」に相当するといえ、「窓部22」に「光制御シート10a」が貼り付けられているのであるから、引用発明は、本願補正発明1の「光が入射する光入射部に取り付けられる光制御シート」との構成を備える。
イ 引用発明の「遮光部12」は、光吸収材料からなり、シート10内の一方向に、所定ピッチで複数、配列され、光を制御しているといえるものであるから、本願補正発明1の「前記光を制御する複数の光制御部」に相当する。また、引用発明において、「台形である単位の光透過性部11a」は、複数、隣接して所定のピッチで配列するとともに、隣り合う「台形の光透過部11a」間の楔形部に前記光吸収材料が充填されて、単位の「遮光部12」(本願補正発明1の「光制御部」に相当。以下、「」に続く()内の用語は対応する本願補正発明1の用語を表す。)を形成しているものである。そうすると、引用発明において、「遮光部12」(光制御部)の間に「光透過性部11a」が設けられているといえるから、引用発明の「台形である単位の光透過性部11a」は、本願補正発明1の「少なくとも前記光制御部の間に設けられて前記光を透過する光透過部」に相当する。また、引用発明において、「台形の光透過部11a」(光透過部)間に「遮光部12」(光制御部)が形成され、「台形の光透過部11a」(光透過部)と「遮光部12」(光制御部)とで光を制御する層をなしているといえるから、引用発明は、本願補正発明1の「前記光を制御する複数の光制御部と、少なくとも前記光制御部の間に設けられて前記光を透過する光透過部と、を有する光制御層」を備えるといえる。
ウ 引用発明の「透明シート41、42」は、シート10の両面に保護層として配されるものであるから、本願補正発明1の「保護フィルム」に相当する。
また、本願明細書には、【0040】の「本願において、「前面」とは、光制御シート100が光入射部200に貼り付けられた際に、光入射部200側に位置する面のことを意味し、「後面」とは、当該「前面」と逆側の面のことを意味する(図1参照)。」と記載されている。そして、引用発明において、シート10と「透明シート41ないし42」(保護フィルム)との間に粘着層を配して、「透明シート41ないし42」を剥がしてシート10側を「窓部」(光入射部)に貼り付けて使用するものであり、「透明シート41ないし42」(保護フィルム)のうち、「窓部」(光入射部)に貼り付けられる側が「前面側」で、その逆側が「後面側」であるから、引用発明は、本願補正発明1の「前記光制御層の後面側に剥離可能に設けられた保護フィルム」を備える。
エ 引用発明において、「遮光部」(光制御部)群は、シート10内の一方向に、所定ピッチで、光吸収材料からなり、前記一方向に直交する方向に一次元に形成された、単位の「遮光部12」(光制御部)を複数、配列させているものであるから、前記「遮光部12」(光制御部)は、シート10の面内で所定方向に沿って設けられているといえる。そうすると、引用発明は、本願補正発明1の「前記光制御部は、前記光制御シートの面内で所定方向に沿って設けられた」との構成を備える。
オ 上記アないしエからみて、本願補正発明1と引用発明とは、
「光が入射する光入射部に取り付けられる光制御シートにおいて、
前記光を制御する複数の光制御部と、少なくとも前記光制御部の間に設けられて前記光を透過する光透過部と、を有する光制御層と、
前記光制御層の後面側に剥離可能に設けられた保護フィルムと、を備え、
前記光制御部は、前記光制御シートの面内で所定方向に沿って設けられた、
光制御シート。」である点で一致し、次の点で相違する。

・相違点
本願補正発明1では、「前記保護フィルムは、前記所定方向を示すためのマークを有する」のに対し、
引用発明では、透明シート41、42(保護フィルム)はマークを有さない点。

(2)判断
上記相違点について検討する。
ア 引用例2の記載事項(上記3(2)エ)は、光線調整積層シート複数枚をその側縁部を継いで貼り付ける際に、左右の側縁部を誤って継いで貼り付けないよう、左右側縁部のそれぞれの判別が容易とするために、一側縁部に耳マークを施したものであり、前記耳マークにより左右方向あるいは水平方向を把握することができるものといえる。
イ 例えば光学シートのようなシートについては、当該シートに注意喚起のための表示をして、該シートを使用する者が誤った向きで使用しないようにすることは周知の課題(例.上記引用例2の記載事項、原査定で引用文献4として引用された特開平10-300933号公報(【0017】ないし【0023】参照。)、特開平8-248210号公報(特許請求の範囲、図4、図7ないし12参照。)、特開昭56-104308公報(特許請求の範囲、第2ないし4図参照。))である。
ウ 引用発明の光制御シートは、太陽光を建物20内に取り入れるため、該建物20の南側側面の窓部22に用いられるものであり、直線状の遮光部がその長手方向を水平方向に配置されることを前提とするものである。直線状の遮光部がその長手方向を水平方向以外の垂直方向等に配置される態様では、引用例1の【0005】に記載された「夏季は室内への太陽光の取り込みを遮断し、冬季は太陽光の取り込みを可能とする」(上記3(1)ウ)という課題を解決できないものとなる。そうすると、引用発明の光制御シートを窓部に貼り付ける作業者は、遮光部を水平方向以外の方向に配置しないように注意することが必要となる。
エ 上記イで示した周知の課題は、方向性を有するシートを使用する当業者であれば当然認識しているものであるところ、上記ウのとおり、引用発明の光制御シートを作業者が誤った方向に窓部に貼り付けない利便性に配慮すれば、該光制御シートに、方向が把握できるマークを付すこと、具体的に引用例2の記載事項の手段を採用することは当業者が適宜なし得たことである。
オ 以上のとおりであるから、引用発明において、上記相違点に係る本願補正発明1の構成となすことは当業者が引用例2の記載事項に基づいて容易に想到し得たことである。

(3)本件発明12について
本願補正発明12と引用発明とを対比すると、引用発明は、シート10と「透明シート41ないし42」との間に粘着層を配して、「透明シート41ないし42」を剥がしてシート10側を「窓部」(光入射部)に貼り付けて使用するものであり、「透明シート41ないし42」のうち、「窓部」(光入射部)に貼り付けられる側が「前面側」で、本願補正発明12の「剥離フィルム」に相当する。
そうすると、上記(1)を併せて考慮すれば、本願補正発明12と引用発明とは、上記相違点と同様な相違点で相違し、その余の点で一致する。
してみると、引用発明において、当該相違点に係る本願補正発明12の構成となすことについては、上記(2)で示したとおり、当業者が容易に想到し得たものといえる。

(4)審判請求人の主張について
ア 請求人は、審判請求書及び上申書において、概略、引用文献1(引用例1)には、マークについて言及がなく、引用文献2(引用例2)には、繋いで使用する際の指標を示しているにすぎず、所定方向に沿って設けられた光制御部が存在しないことから、光線調整積層シートに光制御部の延在方向たる「所定方向」が存在せず、「所定方向」を示すマークに想到するための示唆や動機付けも全く含んでいないと主張している。また、前置報告で新たに引用された特開平8-248210号公報でも、シート自体の上下/左右を識別する手段が設けられているだけで、光制御部が設けられている所定方向を示すためのマークは言及されておらず、特開昭56-104308号公報は、引用文献2,4,5と同様に、所定方向に沿って設けられた光制御部が存在しないことから、光制御部の延在方向である所定方向すら存在しないことを主張している。さらに、特開平8-248210号公報および特開昭56-104308号公報は、前置報告ではじめて言及された文献であるから、これらの文献に基づき、本願発明の特許性は否定する判断をする場合には、拒絶理由通知書を通知し応答の機会を与えるべきことを主張している。
イ しかしながら、上記(2)で示したとおり、引用文献1には、マークについての言及がないとしても、技術常識からみて、誤った方向に光制御シートを貼り付けないようにすることは潜在的な課題である。また、引用文献2には、光線調整積層シートに方向性が存在することが明示され、「所定方向」を示すマークに想到するための示唆や動機付けを含んでいると認められる。さらに、前置報告で新たに引用された特開平8-248210号公報および特開昭56-104308号公報については、単に周知の課題あるいは技術常識を裏付ける例にすぎず、これらの文献について、敢えて応答の機会を与えるまでもないものである。

(5)独立特許要件のむすび
以上のとおりであるから、本願補正発明1及び12は、当業者が引用例1に記載された発明及び引用例2の記載事項に基づいて容易に発明をすることができたものである。
よって、本願補正発明1及び12は、特許法第29条第2項の規定により特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。

5 小括
以上のとおり、本願補正発明1及び12は、特許出願の際独立して特許を受けることができないものであるから、本件補正は、特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項の規定に違反するものである。
したがって、本件補正は、同法第126条第7項の規定に違反するので、同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。

第3 本願発明について
1 本願発明
本件補正は上記第2のとおり却下されたので、本願の請求項1及び12に係る発明は、平成28年8月5日付け手続補正によって補正された特許請求の範囲の請求項1及び12に記載された事項によって特定されるものであるところ、請求項1及び12に係る発明(以下それぞれ「本願発明1」、「本願発明12」という。)は、上記第2〔理由〕1(1)に本件補正前の請求項1及び12として記載したとおりのものである。

2 原査定の理由の概略
この出願の平成28年8月5日付け手続補正によって補正された特許請求の範囲における請求項1ないし25に係る発明は、その出願前に日本国内又は外国において、頒布された下記の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。


引用文献1.特開2010-259406号公報
引用文献2.実願昭55-36669号(実開昭56-139543号)のマイクロフィルム
引用文献3.特開2008-40025号公報
引用文献4.特開平10-300933号公報
引用文献5.特開昭63-74680号公報

・特に請求項1に係る発明について
シート状の物品について、使用者が誤った向きで当該物品を使用しないように、当該物品に何らかの表示をすべきであることは一般的に認識されている課題であるから、引用文献1に記載された発明において、引用文献2に記載された技術手段を採用して、請求項1に係る発明の如く構成することは、当業者が容易に想到し得ることである。

3 引用例
引用例1及び引用例2の記載事項は、上記第2〔理由〕3(1)及び(2)に記載したとおりである。

4 対比・判断
本願補正発明1及び12は、上記「第2〔理由〕1(2)」のとおり、本願発明1及び12をそれぞれ特定するために必要な事項を限定したものである。
そうすると、本願発明1及び12の構成要件をすべて含み、さらに限定を付加したものに相当する本願補正発明1及び12が、上記「第2〔理由〕4」に記載したとおり、当業者が引用例1に記載された発明及び引用例2の記載事項に基づいて容易に発明をすることができたものであるから、本願発明1及び12も同様の理由により、当業者が引用例1に記載された発明及び引用例2の記載事項に基づいて容易に発明をすることができたものである。

5 むすび
本願発明1及び12は、以上のとおり、当業者が引用例1に記載された発明及び引用例2の記載事項に基づいて容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
したがって、本願は、他の請求項について検討するまでもなく、拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2017-10-20 
結審通知日 2017-10-24 
審決日 2017-11-07 
出願番号 特願2012-239936(P2012-239936)
審決分類 P 1 8・ 575- Z (G02B)
P 1 8・ 121- Z (G02B)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 植野 孝郎  
特許庁審判長 樋口 信宏
特許庁審判官 鉄 豊郎
宮澤 浩
発明の名称 光制御シート及び光制御シート付き光入射部  
代理人 永井 浩之  
代理人 佐藤 泰和  
代理人 朝倉 悟  
代理人 中村 行孝  
代理人 堀田 幸裕  

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